クローズアップ 障害のある人とスポーツ 第3回 〜パラアスリートを支える装具〜  「東京2020パラリンピック競技大会」を契機に、注目を浴びているパラスポーツ。第3回は、パラアスリートの活躍を支える義肢、車いすなど各種装具の開発・製造に取り組む団体や企業を取材。公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンターと、株式会社オーエックスエンジニアリングにお話をうかがいました。 取材協力 公益財団法人鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター 〒116-0003 東京都荒川区南千住4-3-3 TEL 03-5615-3313 https://www.kousaikai.or.jp  1969(昭和44)年5月に「東京身体障害者福祉センター」として発足。義肢装具の製作から装着訓練に至るまで、一貫した諸サービスを提供する総合的なリハビリテーション施設。義肢製作前の診療も同施設内で対応し、医療・製作チームが連携して利用者のサポートを行っている。 義肢装具研究室長 義肢装具士 臼井(うすい)二美男(ふみお)さん 1 つくるだけで終わらせない義肢製作 公益財団法人鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター パラアスリートを支えるスポーツ用義足  「義肢」とは、病気やけがで手足を失った人が使用する義手や義足のことです。足に装着する義足は、生活用とスポーツ用で仕様やつくり方が異なります。  生活用義足が日常の歩行をスムーズに行えるように設計されているのに対し、スポーツ用義足は、着地面との反発を利用して前進する構造になっており、走ることを目的としてつくられています。着地面にカーボンファイバー製の「板バネ」と呼ばれる部品を使用し、ふみ込む力の強さによってその厚みを変え、強度を調節しています。競技種目や練習によって変化する筋肉量を推測しながら義足を製作、調整を重ねていきます。 世界に通用する丈夫な素材、テストをくり返し実用化へ  最近のパラスポーツの大会ではさまざまな装具の進化を目にしますが、日本でスポーツ用義足第1号が製作されたのは2000(平成12)年のこと。海外ではすでにカーボン素材を使用したスポーツ用義足が使用されていましたが、当時の日本にはその素材がなかなか入ってきていませんでした。入手できたとしても高額であったため、利用者の負担で何度も試作することはできません。  「公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター」(以下、「義肢装具サポートセンター」)では、施設の研究費でこうした素材を購入、試作・フィールドテストをくり返しながら、スポーツ用義足の開発・製作を進めてきたそうです。 利用者の声を技術開発へ活かす取組み  パラアスリートには、もともとスポーツをしていた人、運動神経のよい人もたくさんいますが、手足を失って落ちこんだ気持ちを乗り越えて元気になってほしいという周囲の励ましからパラスポーツを始め、パラアスリートとして第二の人生を歩む方も多いそうです。  義肢装具サポートセンターでは、施設の利用者からスポーツ用義足のレンタル希望者を募ったり、同センター義肢装具研究室長の臼井(うすい)二美男(ふみお)さんが代表を務める義足ユーザーコミュニティ「スタートラインTokyo」が月に1回開催する、だれでも参加できる義足ランニングの練習会へ参加を呼びかけたりしています。  こうして、より多くの人に義足に親しんでもらい、実際に義足を使う利用者の目線から開発・改善のヒントを得るという活動も行っています。 走ることの楽しさが義足の進化・未来をつくる  義肢装具サポートセンターでは、約30人の義肢装具士によって、年間約7千件もの義肢装具が製作されています。臼井さんのもとには、全国から「義足をつくってほしい」という方たちからの電話がたくさんかかってきます。  「この30年で、日本国内における義足製作は大きく発展しました。素材も木製やアルミ合金が主流だったころに比べ、現在ではチタン合金やカーボンファイバーといった軽くて丈夫な素材が用いられるようになりました。インターフェース(断端(だんたん)と義足の接合面)の素材も、バンドでぶら下げていたものから、シリコンライナーが使用されるようになり、体と義足の接合がスムーズになったばかりでなく、肌にもやさしく、使用者の皮膚トラブルも少なくなりました。  また、さらによい義足にするためには、使用者のリハビリテーションも大切です。その人の体の動きになじませるまでが、“義肢をつくる”ということなのです」と臼井さんは話してくれました。 取材協力 株式会社 オーエックスエンジニアリング 〒265-0043 千葉県千葉市若葉区中田町2186-1 TEL 043-228-0777(代表) FAX 043-228-3334 https://www.oxgroup.co.jp  オートバイの販売業から業種転換した車いすメーカー。それまでレース用部品の製造・販売、レース活動などを行っていた実績から、モーターサイクル・レーシング・テクノロジーを車いすの開発・製造に応用し、多くのパラアスリートの活躍に貢献している。 2 「こだわり」を大切にする車いす製作 株式会社 オーエックスエンジニアリング スポーツ用軽量車いす既製品では完成しない設計  パラアスリートを支える装具として、スポーツ用軽量車いすの進化も注目されています。車いすメーカーの株式会社オーエックスエンジニアリングが製作する車いすは、競技種目によってその形状は異なり、車輪の角度や座面の高さ、操作性に至るまで、使用者の体に合わせて細かく計算されてつくられているそうです。選手によっては体を固定するためのベルト位置や締めつけの強度にまで細かくこだわって、調整を重ねる場合もあるといいます。  また、同社広報室の櫻田(さくらだ)太郎(たろう)さんは「一人の選手のご要望がほかの選手の車いす製作に活きることもあり、製作現場における選手とのやり取りは開発に欠かせない重要なコミュニケーションの場となっています」と、話してくれました。 写真のキャプション 板バネを使用したスポーツ用義足 大西(おおにし)瞳(ひとみ)選手(左)の義足を調整する臼井二美男さん(右)(写真提供:臼井二美男) 本社(写真提供:株式会社オーエックスエンジニアリング) スポーツ用軽量車いすの「CARBON(カーボン) GPX(ジーピーエックス)」(写真提供:株式会社オーエックスエンジニアリング)