研究開発レポート 第31回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part2 パネルディスカッション T「情報通信技術の活用の進展を踏まえた障害者雇用のあり方について」 U「アセスメントを活用した就労支援の今後のあり方について」  当機構(JEED)では、毎年、職業リハビリテーションに関する研究成果を周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を生み出すための機会として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。2023(令和5)年度は、「会場参加」と、会場での発表内容などをリアルタイムで視聴できる「ライブ配信」を組み合わせた「ハイブリッド方式」で実施するとともに、新型コロナウイルス感染症の流行により中止していた「ポスター発表」を4年ぶりに再開しました。また、その内容を広く発信するために、2022年度に引き続き、障害者職業総合センター(NIVR)ホームページへの動画掲載も行っています。ここでは、パネルディスカッションT・Uの様子をダイジェストでお伝えします。  パネルディスカッションT 情報通信技術の活用の進展を踏まえた障害者雇用のあり方について  AIなどの情報通信技術の進展は、産業構造の転換をうながし、働き方や雇用に大きな影響を与えることが予想されます。障害者雇用においても、良質な雇用機会をどのように確保していくかが大きな課題となっています。パネルディスカッションTでは、障害者職業総合センター主任研究員の秋場(あきば)美紀子(みきこ)氏をコーディネーターとして、総合メディカルグループ株式会社管理本部総務部業務支援グループシニアマネージャーの松尾(まつお)謙師(けんじ)氏、大東コーポレートサービス株式会社RPA推進事業部次長の西岡(にしおか)幸智(ゆきとも)氏、国立吉備高原職業リハビリテーションセンター上席職業訓練指導員の相良(さがら)佳孝(よしたか)氏をパネリストに迎え、情報通信技術の進展が障害者の職域にどのような影響を与えているかについて確認するとともに、今後の見通しについても意見交換を行いました。  はじめに、秋場氏からは、本ディスカッションの背景として、「AI等の技術進展に伴う障害者の職域変化等に関する調査研究」(2021〜2023年度)の結果などが紹介されました。それによると、「一般企業の約7割、特例子会社の約8割で、デジタル関連業務に障害者が従事」しており、「データ処理やシステム開発などの業務や、情報処理に加えて判断等を伴う業務」に従事している障害者がいる企業は、「業務の効率化」や「テレワーク化」など、デジタル化の影響をプラスにとらえている傾向があることが確認されました。一方で、「デジタル関連の職域の開発は、企業の支援負担を増やしている」ことなども報告されました。  次に、各パネリストから、それぞれの取組事例などが紹介されました。総合メディカルグループ株式会社の松尾氏からは、2012(平成24)年に、精神・発達障害者の雇用に力を入れるようになったことをきっかけに、パソコン関連業務を拡大し、「パソコンを使った事務業務」、「知的障害者による入力業務」、「SE経験者などによる業務効率化システムの構築支援」、「DTP・動画作成などのクリエイティブ領域」などに業務を拡大してきた事例が紹介されました。また、それを支える「企業在籍型ジョブコーチのサポート体制」や「職場実習を基本とした人材採用のプロセス」などについても言及されました。  大東建託株式会社の特例子会社である大東コーポレートサービス株式会社の西岡氏からは、「RPA(※)の開発事業」として、精神・発達障害者を中心に、入社後にRPAプログラム開発の教育を行い、専任部隊を構築してRPAを開発することで、年間5万4000時間を超える親会社の業務削減効果が得られている事例が紹介されました。  国立吉備高原職業リハビリテーションセンターの相良氏からは、同センターでは、「情報通信技術を活用した職業訓練」として、GoogleWorkspaceなどのオンラインツールを活用して、基礎的な内容から、在宅就労を想定した訓練を提供していることなどが紹介されました。  後半のディスカッションでは、「本人の得意なことに着目し、その仕事に意欲を持てるかを大切に職域を開発している」、「実務に使えるトレーニングが求められるが、IT領域に対応できる支援機関はまだまだ少ない」などの意見が出され、活発な議論がなされました。 パネルディスカッションU アセスメントを活用した就労支援の今後のあり方について  障害者本人の支援ニーズや就労能力の現状などを把握して適切な支援につなげていくための「アセスメント」の活用が課題となっています。今般の法改正により、当事者の希望、就労能力や適性などに合った選択を支援する新たなサービス(就労選択支援)が創設されることをふまえて、パネルディスカッションUでは、障害者職業総合センター上席研究員の武澤(たけざわ)友広(ともひろ)氏をコーディネーターとして、秋田大学教育文化学部教授の前原(まえはら)和明(かずあき)氏、社会福祉法人桑友(そうゆう)理事長の青山(あおやま)貴彦(たかひこ)氏、新宿公共職業安定所専門援助第二部門統括職業指導官の吉田(よしだ)あおき氏、障害者職業総合センター職業センター主任障害者職業カウンセラーの古野(ふるの)素子(もとこ)氏をパネリストとして迎え、就労支援のためのアセスメントの目的や視点を確認したうえで、アセスメントを介した今後の就労支援のあり方について意見交換を行いました。  はじめに武澤氏から本ディスカッションの背景にある問題意識として、アセスメントが属人化しないような「共通の枠組み」が求められていることが示唆されました。また、障害者職業総合センターが公開している「就労支援のためのアセスメントシート」の紹介や、今後の導入が決まっている新たな支援サービス「就労選択支援(アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する)」について言及されました。  次に各パネリストから、話題提供がなされました。前原氏からは、アセスメントにおいて個々の支援者に求められる知識や技能のキーワードとして、「本人の希望/意向/ニーズの把握」、「就労能力/適性/強み/課題の把握」、「配慮の整理」、「ケース会議の運営」などがあると提示され、それらを学べる研修プログラムが作成されていることなどが紹介されました。  青山氏からは、多機関連携を軸とした就労アセスメントの仕組みづくりのための試行的な取組みとして、「就労アセスメントワーキングチーム」をつくり、チームで協業してアセスメントを実施している島根県松江市の事例が紹介されました。  吉田氏からは、障害者雇用における求職者の多くが、精神・発達障害者になっていることをふまえ、ハローワークにもアセスメントの強化が求められるようになっている一方で、現在提供されている支援はすべて窓口職員の個人の経験や知識に委ねられている実態があり、個々人のスキルアップが求められていることなどが強調されました。  古野氏からは、「自己決定を支え、自己理解を深めるアセスメント」に取り組むために、本人主導で目標設定をすることの重要性が強調されたうえで、「アセスメントツールの活用」、「グループワークの活用」、本人が気づきを書き留める「ナビゲーションブック」、「自分のことを伝えるワーク」など、障害者職業カウンセラーとして具体的に工夫をしていることが紹介されました。  後半のディスカッションでは「本人主導で目標設定をし、それに向かって情報提供をすることが大切」、「どのアセスメントツールを使ってよいのかがわかりにくいので、主旨や目的などをわかりやすく伝える仕組みが必要」などの意見が出され、活発な議論がなされました。 ※Robotic Process Automation。従来は人の手で行っていた定型業務をロボットにより自動処理してもらう仕組み (注)コーディネーターおよびパネリストの方々の所属先・役職は開催日時点のものです ★右記ホームページにて、パネルディスカッションの動画や発表資料等をご覧いただけます。https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/31kaisai.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 写真のキャプション 西岡幸智氏 秋場美紀子氏 相良佳孝氏 松尾謙師氏 青山貴彦氏 武澤友広氏 古野素子氏 吉田あおき氏 前原和明氏