Q8 精神障害のある社員のモチベーションを保つことやキャリア形成を考えたいのですが、実施方法や留意すべきこととしてどのようなことがありますか。 ポイント  目標管理として「アンケート調査」によれば、 「本人と話し合い、仕事上の目標を個別に設定する」(50.0%) 要旨  Q4では、精神障害のある人はストレスに弱く、また疲れやすい面があることなどから、仕事内容や作業量で過度なストレスがかからないように配慮することが必要であると説明しましたが、その一方で、担当業務が固定化しており、また、指導担当者などからの仕事ぶりに対するフィードバックがない場合、日々の仕事に慣れるとともに、単調に感じられたり、目標をはっきりさせられずに本人の意欲が低下してしまうケースも起こり得ます。 目標管理 ポイント(他の工夫)  仕事の意欲を維持もしくは高めるためには、仕事上の目標の設定に加えて、日々の仕事ぶりに対するフィードバック(※6)が重要なことは誰にとっても同様です。「アンケート調査」においても、「本人と話し合い設定した仕事上の目標について、評価・フィードバックする」と回答した企業は42.3%ありました。  フィードバックの実施方法としてはPDCAサイクルが一般に知られています。すなわちPlan(目標を設定する)、Do(目標に従って業務を行う)、Check(業務の実施が目標に沿っているか点検、確認の上、評価する)及びAct(目標に沿っていない部分があれば改善等を行う)から成る一連のサイクルです。上司等との定期的な話合いによる目標設定と評価のフィードバックは、精神障害のある社員にとって「他の社員と同様に対応されている」、「きちんと関わってくれている」という安心感をもたらすとともに、会社への帰属意識を醸成することにもつながります。  一方で、評価に当たり、会社側と本人との間でギャップが生じることもあります。様々な客観的理由を基にして話をしてもギャップが大きい場合は、支援機関に相談することも考えられます。  なお、「アンケート調査」で精神障害のある社員に「いろいろな仕事を体験させる」と回答した企業は29.9%ありましたが、こうした工夫・配慮は、能力開発・キャリア形成につながるとともに、仕事上のモチベーションを保つことにも役立つものと考えられます。 研修の機会の確保 他の工夫  教育訓練等の機会の提供に関しては、「指導者を決めて計画的にOJTを行う」(回答企業44.8%)、「社内の集合研修を受講させる」(回答企業39.7%)などの工夫・配慮が精神障害のある社員に対してなされていました。  なお、中小企業にあっては、OFF-JTや計画的なOJTの実施そのものが比較的進んでいない傾向にあるため(※7)、実施率が多少低めになるのは、精神障害のある社員に対する処遇にとどまらず社員全体に対する状況でもある可能性があります。  しかしながら、例えば、「業務に必要な資格を取得させる」と回答した企業は10.8%にとどまるものの、未実施だが今後実施したいと回答した企業が14.4%あるなど、前向きな企業の姿もうかがわれます。 ※6 「フィードバック」について、本報告書(Q&A集)では「評価結果を伝えるだけではなく、実際の行動や事実のほか、課題点やほめられるべき内容等について、改めてじっくりと話し合ったり、動機づけたりしながら、今後の成長につながるアドバイスを与えること」という意味で使用しています。 ※7 平成27年度「能力開発基本調査(厚生労働省)」によれば、企業規模別にみると規模が大きくなるほど計画的なOJT及びOFF-JTの実施率は高くなる傾向にあります。 Q9 支援機関の利用に関する情報やアドバイスはありますか。 要旨  精神障害者の雇用継続に当たっては、雇用管理体制を整えておくことが望まれます。そのためには、支援機関を有効に利用していくことをお勧めします。  「アンケート調査」によると、支援機関(Q2※2参照)の利用経験がある企業における平均利用数は4.4機関であり、このうち、時々もしくは大いに活用している機関の平均利用数は2.3機関でした。 その一方で、支援機関の利用経験が全くない企業が15.5%あり、これに利用経験がハローワークのみと回答した企業を加えると24.7%となりました。 支援機関の利用のメリット   精神障害者の雇用管理に当たっては、ともすれば好不調の波が生じがちであることや、時として障害者の医療面や生活面の支援が必要になることなどから、あらかじめ雇用管理体制を整えておくことが望まれます。しかしながら、企業のみで全てを行おうとする場合対応が難しくなることがあります。そのため、上記の「要旨」やQ2の回答にも記載しましたが、支援機関を有効に利用することをお勧めします。  実際には、支援機関による支援を受けなくても雇用管理に問題を来さないケースもあり得ます。しかしながら、少なくとも「とにかくやってみる」「実際に問題が生じたら相談する」という進め方は、後に問題が生じた場合、その状況の改善に手間取ることになるのも事実です。  また、支援機関には、企業のみならず家族等に対しても、より良い雇用管理に役立つアドバイスをしてもらうなどの活動も期待できるなど、その利用には大きなメリットがあります。 支援機関の利用のポイント  支援機関の利用開始は、採用を検討する段階からであれば、精神障害者の雇用をよりスムーズに進めることができ、また、その後の雇用継続に向けた雇用管理体制を整えることにもつながります。 「アンケート調査」では、採用検討時もしくは採用時からの利用が少なくとも50%前後確認された支援機関が複数見られました(※8)。  また、継続して雇用している社員にあっては、不調に伴って問題が発生する前から支援機関との関係を築いておくと、不調を来す前段階での不安やストレスの軽減につながったり、不調を来してしまった場合でも即時に適切な関わりができることで、結果として本人、企業の双方に安心感をもたらすことにもなります。 「アンケート調査」から、企業が受けたと回答した様々な支援の中で、特に効果があったとの回答割合が高かったのは、「雇用に関する支援制度についての情報提供」、「精神障害のある個人に関する雇用管理上の助言を内容とした支援」、「採用後の職場訪問による支援」などで、いずれも70%以上でした。また、「ジョブコーチ支援」に関しても70%に近い水準でした。  ちなみに、支援機関にはそれぞれカバーする事業の範囲があり、自らが窓口となり取り扱っている支援制度も多くあります。このため、企業側に生じる様々な課題に応じて相談できる機関が複数あると雇用継続のための大きなメリットとなります。  一方、企業と精神障害のある社員の双方ともこれまでどの支援機関とも接点がない場合には、本人の意向を尊重しつつ、まずは地元のハローワークや各都道府県にある地域障害者職業センター、概ね障害保健福祉圏域ごとにある障害者就業・生活支援センターに相談し、必要に応じて、順次そのほかの支援機関との関係作りも進めていくことをお勧めします。 ※8 障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業者・就労継続(A型、B型)支援事業者、地域障害者職業センターなど。なお、ハローワークは約80%。 【コラム】 企業と支援機関の関係について  企業と支援機関の間には、精神障害者の雇用や職場定着等への課題をそれぞれの立場から捉えることにより、その考え方に相違が生じ得るということに考慮しておく必要があると思われます。高齢・障害・求職者雇用支援機構の研究報告書(※9)では、支援機関からみた障害者雇用の課題や定着要因について、企業調査で得られた結果と対比させつつ検討した結果、支援機関と中小企業とで認識に様々なギャップがあることが明らかになったとしています(※10)。  このようなことから、お互いに十分な意思疎通を行うことが必要と思われます。  企業側としては、障害者に対し、生産性に一定の水準を求めつつも、障害特性をより良く理解しようとする努力が同時に求められるケースもあるでしょう。  一方、支援機関側としても、企業経営に深い理解があり、企業目線で一層問題を見ることができれば、支援もより懐が深いものとなり、企業側も一層の信頼を置くものと考えられます(※11)。 このような観点から、現在、厚生労働省は、就労支援機関を対象とした企業就労理解促進のための事業を各都道府県労働局で実施しているところです。 ※9 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター:調査研究報告書No.114「中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究」 (2013年) ※10 例えば、中小企業側が最も多く掲げた障害者雇用の課題は「障害状況に応じた作業内容や作業手順の改善が難しい」である一方、支援機関側が最も多く掲げた中小企業における障害者雇用の課題としては、「現場の従業員が障害者雇用について理解していない」であり、次いで「障害者に対して求める作業遂行能力の水準が高すぎる」などという結果が報告されています。 ※11 厚生労働省開催による「地域の就労支援のあり方に関する研究会」の報告書(2012年)では、就労支援を行う人材の育成に関し、「支援者は、企業と障害者双方の立場に立って支援を行うことが重要である。このため、企業の立場を理解しつつ、企業が求める支援を行う人材の育成が図られるよう、福祉施設等の職員の企業実習を支援することが必要である。」との指摘がなされています。