Q6 精神障害のある社員の健康管理には、どのようなことに気をつけなければならないでしょうか。また、心身が不調になって仕事が手につかない状態の場合、どのような対応をとったらよいでしょうか。 ポイント  日頃における心身の状態の把握方法として「アンケート調査」によれば、 @「本人の体調について注意し必要に応じて相談にのる」(96.4%) A「定期的に上司が相談にのる」(64.4%) B「支援機関の職員が本人と相談を行っている」(51.0%) C「人事部署が配属部署と連携し体調面の把握や定期面談を行っている」(50.0%) 通常時の治療に配慮した雇用管理として「アンケート調査」によれば、 D「通院時間を確保する」(75.8%)  心身不調になった場合の対応として「アンケート調査」によれば、 E「不調時には、職務軽減をしたり、一時的に休養をとらせる等の対応をする」(86.6%) 要旨  健康管理は、精神障害のある社員による自己管理が基本です。  ただし、体調に波があるという障害特性を踏まえ、通院時間を確保することや普段から本人の体調に気を配ることなどは雇用管理をする側として必要です。  また、本人の病状や生活面の状況を勘案して対応しなければならない場合も生じることから、医療機関や生活面を支援する機関から具体的な支援を受けることが必要になる場合もあります。 日頃における心身の状態の把握 ポイント@  企業の多くが、普段から本人の様子に気をつけるとともに、早めに体調の変化を把握し、本人に確認・相談することを雇用管理の基本としています。 ポイントABC  体調変化の把握の方法ですが、上司による定期的な相談や、さらには、人事部署も加わって定期面談を行っている企業なども見受けられます。こうした人事部門の関与は、配属部署にかかる負担を軽減することにもつながります。また、支援機関の職員に本人との相談にのってもらうことは、企業にとって雇用管理上の大きな助けとなり、このような支援を受けているとの回答割合が約50%あることもポイントと言えます。 他の工夫  このほか、産業医や保健師など産業保健スタッフの活用も有効性が期待され、2割程度が実施していました。 通常時の治療に配慮した雇用管理  ポイントD  通院に関しては、有給休暇の扱いにするケースが多いようですが、時間有給制度を整備し、時間単位の休暇も可能にしているケースなども見られます。 他の工夫  このほか、通常時の治療に対する配慮として、「服薬状況を確認する」(回答割合34.5%)なども見受けられます。体調が良い時や仕事でイレギュラーなことが生じた時など、薬をうっかり飲み忘れるなどというケースが起こりうるため、行き届いた配慮であると言えます。 心身不調になって仕事が手につかない場合の対応  ポイントE  「アンケート調査」では、ポイントEの結果のみならず、実際に心身が不調になり仕事に困難を来した場合の、より具体的な対応についてもたずねています。回答内容をみると、どのような心身不調の状態(※5)であるとしても、本人や周囲からの状況確認に努めている様子がうかがわれます。また、勤務時間の変更による職務軽減についても、心身不調の状態別で見てもばらつきが少ない回答割合となっています。  心身不調の状態別に、もう少し詳しく見ると、「生活(リズム)の乱れ」「自信の喪失」「対人関係トラブル」が生じた場合には、就労支援機関との連携を行う割合が、他の心身不調の場合に比べて高くなっています。また、「生活(リズム)の乱れ」が生じた場合には、家族との連携を行う割合もより高くなっています。  精神障害のある社員の体調や病気の状況等の状態を把握し、どのような対応が適切かを判断するためには、本人に関する医療面や生活面などの情報を職場外から収集したり、専門的な見地からのアドバイスをもらうことが時として必要になります。このため、支援機関と連携した対応が重要であり、望まれます。 ※5 「アンケート調査」では心身不調の状態として「身体的疲労の訴え」「遅刻・欠勤の増加」「職場内の対人関係トラブル」「生活(リズム)の乱れ」「自身、意欲の喪失」「病状悪化、再発」「その他」を設定しています。 【事例3】 体調チェック表を活用した健康管理  今回の「アンケート調査」では「チェックシート等を作成し、健康管理に役立てる」と回答した企業が13.9%ありました。  製造業であるA社では、工場や事務所、社宅敷地などの環境美化・整備に従事する精神障害のある社員の体調管理のために、下のような「体調チェック表」を本人に毎日の出勤時と退社時に記入してもらうこととしています。チェック表の記入は、本人にとって自身による毎日の体調管理につながり、会社側にとっては、体調に配慮した的確な作業指示が行えるようになることにつながるとA社では評価しています。さらに、施設ごとの環境美化・整備という業務内容上、障害のある社員に対して複数の部署や社員が作業指示を出していますが、総務部に指導管理者を置き、毎日の出勤時と退社時には必ず総務部の職員が同席しその日の予定や体調について確認を行っており、障害のある社員がとまどうことがないように雇用管理体制を整えています。 (体調管理チェック表の例) ○月○日(○曜日) 今日の気分:良or悪 今日の体調:良or悪  食事:食べたor食べていない 服薬:飲めているor飲めていない 風呂等:入ったor入っていない 睡眠:十分or不十分 仕事の満足度:良or悪  疲れ具合:良or悪 <振り返り自由記述> Q7 精神障害のある人を雇用することについて、社内の理解と協力を進めるために、どのようにしたらよいでしょうか。 ポイント 「アンケート調査」によれば、 @「個別的な配慮事項や本人の対応の仕方を社員に説明する」(73.7%) A「社員が精神障害者雇用に関連し不安や悩み事がないか把握し、あれば何らかの対応をする」(63.9%) B「精神障害者の雇用管理について管理者の役割を明確にする」(61.9%) C「精神障害者雇用に関する会社の採用方針等について社員に説明する」(55.2%) 要旨  精神障害者の雇用に関し、周囲の社員の理解と協力を十分に得るためには、社員が抱く不安や生じる悩み等を軽減する取組が必要です。また、精神障害者雇用を進めていくという企業の意志を具体的な方針ともども社員にはっきりと伝えることなども良いと考えられます。 前提  周囲の社員の協力を得るためには、本人の同意を得た上で、本人の精神障害について社員に伝えることが前提となります。しかしながら、本人が障害をオープンにすることについて抵抗や不安を感じる場合には、その理由を十分受け止めつつ、「目的は周囲の理解と協力を得るためであること」、「説明内容や説明のタイミング、伝える社員の範囲などは話合いの上で決めたいこと」などを丁寧に説明していくことが必要となります。その上で、改めて本人の意思を確認し、その意思を十分尊重した上で対応してください。精神障害のある社員が利用している支援機関があれば相談してみることもお勧めします。 ポイント@  精神障害のある社員を前にしてどのように接したらよいのかわからない場合には、誰でも不安になります。本人の簡単な自己紹介にとどまらず、障害特性を踏まえた具体的な仕事上の配慮等を社員に説明することは、一緒に働く社員の不安の軽減とともに、その後の理解と協力にもつながります。一方で、個人に関する情報ですので、オープンにする内容や伝える範囲等には上記の「前提」で記載したとおり、十分な注意が必要です。 ポイントABC  精神障害者の雇用に対する社員の不安は、実際には、企業側から精神障害者の採用の方針を伝えられた時から起こりうるものです。このため、その際に精神障害者雇用に関する基礎的な情報を併せて伝えることで、社員の不安を和らげるという方法があります。実施に当たっては、地域障害者職業センター等の就労支援機関に社内研修の講師を依頼することもお勧めします。「アンケート調査」では「社員に対して、精神障害者に対する理解促進のための研修を実施する」と回答した企業は21.1%であったものの、「未実施だが今後実施したい」という取組に対して前向きな姿勢を示す回答が15.5%あり、こうした工夫・配慮が今後一層進められることが期待されます。  また、採用方針等の説明に当たっては、具体的な説明とともに、その実現に向けた企業側の意志を社員にはっきりと伝えることも良いと考えられます。すでに障害者雇用を進めている企業からは、障害者雇用には企業の「やる気」が重要であるとの声があります。中でも管理者は、このような方針を進める役割を担っており、「アンケート調査」でも、「精神障害のある社員の雇用管理に関する管理者の役割を明確にしている」旨の回答が約60%ありました。  一方で、社員の不安や悩みは、日々の作業の中でどうしても生じることがあります。この場合の対応として、人事部署などによる雇用管理面のサポートは、社員の精神面へのフォローとしても重要な意味合いがあると言えます。受入部署の社員にかかる負担の軽減とともに安心感を与えることにつながるからです。また、人事部署の社員自らが精神障害のある社員へ積極的に声をかけることなども、他の社員に精神障害のある社員への接し方についての理解を広げ、とまどいや不安を軽減するための有効な方法になり得るのではないでしょうか。 注意事項  ポイントにある工夫・配慮の多くは、採用を検討している段階から取り組むことが望ましいものですが、一方で、本人の当初の希望により、これまで上司等を除き障害を伏せてきたものの、改めて障害についてより広い範囲にオープンにし、周囲の理解と協力を得るようにしたいという希望が本人もしくは企業から出るといったケースもあります。このような場合は、その進め方について支援機関に相談するなど慎重に行うことが求められます。いずれにしても「なぜ、あの人ばかりが気遣われるのか」といったような不満の声が出るなど、職場でトラブルが起こる前に検討を始めることが望まれます。