Q4 精神障害のある社員に無理をさせてはいけないと一般には聞きます。どのようなことに気をつけながら仕事を決め、また、どのようにして作業負担への配慮を行えばよいでしょうか。 ポイント  仕事への配置の決定に関する工夫・配慮として「アンケート調査」によれば、 @「本人の希望や障害状況を勘案して仕事に配置する」(89.2%) A「納期やスケジュール上のプレッシャーが比較的少ない仕事に配置する」(83.0%) B「作業量の急な増減が少ない仕事に配置する」(81.4%)  C「グループやペアで仕事を行う」(53.6%)  勤務時間の設定に関する工夫・配慮として「アンケート調査」によれば、 D「障害状況に合わせた勤務時間を設定する」(59.8%) E「採用当初は短時間勤務から始める」(54.6%) 要旨  精神障害のある人はストレスに弱く、また疲れやすい面があることなどから、仕事内容や作業量で過度なストレスがかからないように配慮することが必要です。  作業量を調整するという観点から具体的に多くの企業で採られている方法としては、勤務時間を本人の障害状況に合わせて検討するこということがあります。 仕事への配置の決定に関する工夫・配慮 ポイント@  本人の希望や障害状況を勘案するのであれば、もとより本人が自身の症状や現在の状態をきちんと理解していることが前提となりますが、全ての精神障害のある人が自身の疾患を理解しているとは限りません。従って、こうしたことの確認は採用に当たってのポイントと言えます。しかしながら、面接時に、緊張やコミュニケーションに課題を抱えることなどから本人がうまく自分自身のことを説明できない場合もあります。その際は、本人をサポートしている支援機関があれば、本人の同意を得つつ、そこから情報の提供を受けて本人の希望や障害状況を確認することも有効な手段です。 ポイントAB  企業の中には、その作業の期限が比較的厳しくなく作業量の変化が少ない仕事を様々な部署の仕事の中から切り出しひとまとめにして、精神障害のある社員のための職務を創出している例もあります。 ポイントC  作業体制を工夫することでストレスの問題に対処するという方法もあります。グループやペアによる仕事の遂行は、お互いに悩みを相談しやすくなるというメリットや、精神障害のある社員が欠勤せざるを得ない場合のフォローになるため本人に安心感を与えられるなど、過度なストレスをかけないための効果が期待されます。一方で、グループ内で本人の緊張が解けないなどのリスクもあり得るため、指導体制や仕事内容への留意とともに一緒に働く従業員の個性や相性などを勘案する必要があります。 他の工夫  そのほか、「アンケート調査」では「複数の仕事を体験させ本人に適した仕事を検討する」という回答も42.8%見られました。精神障害のある社員にどのような仕事をさせるのか決まっていないという場合に限らず、本人の希望と企業として用意できる仕事内容とのマッチングをより多くの面から検討するためにも有効ではないでしょうか。 勤務時間の設定に関する工夫・配慮 ポイントD  「アンケート調査」の別の質問事項で「新規雇用した精神障害者で、心身が不調になり仕事に困難をきたした」場合の対応として「勤務時間を調整した」が比較的多く選択されたことなどからも、本人の希望やコンディションを踏まえて雇用後も柔軟に勤務時間を調整している企業の様子がうかがわれます。  なお、勤務時間の変更については、必要に応じて支援機関を交えつつ、本人とよく相談しながら進めると良いでしょう。 ポイントE  採用当初は短時間勤務から始めて、本人の状況を見ながら徐々に勤務時間の延長を目指すと回答した企業も半数以上あります。ただし、全ての精神障害のある社員が短時間勤務から始めているわけではなく、最初からフルタイム就労が可能と判断した社員に対してはフルタイムで開始するなど、必ずしも短時間勤務にこだわることなく採用当初の勤務時間を設定している企業の様子も「アンケート調査」からうかがわれます。 【事例2】 支援機関から有効な情報を得つつ採用を決め、雇用を継続している例  情報通信業のN社では、ハローワークの紹介により精神障害のあるOさんを採用して以来、平成25年12月現在で4年目を迎えます。  Oさんは、N社にとって初めて新規に雇用した精神障害のある社員ですが、Oさんを迎えるに当たり、産業医のアドバイスやOさんが利用している支援機関からの情報を参考にし、さらには総務部長自らが精神障害に関して色々と勉強をするなど、N社は準備を整えました。  初日は、配属部署の社員あてに本人が自己紹介を行いました。温和な性格もあり、職場からは当初から好意的に迎えられました。  Oさんの業務内容はプログラマー補助であり、作業は数名のチームで行っています。Oさんとの相性を考えてチーム員を配置するなどの配慮をしています。 N社では技術者の派遣も行っていますが、Oさんは内勤のみとするとともに、総務部長が配属部署と連携し、雇用管理を行っています。残業は基本的に行わないように配慮しています。  また、Oさんは採用当初から正社員として働いていますが、月に1回、平日に通院するための時間を確保する必要がありました。このため、N社では本人の希望を踏まえて、休暇を柔軟に取得できるよう配慮することとしました。  目標管理については、作業スケジュールの作成を中長期ではなく1〜2週間程度としていますが、基本的には他の社員と同じように実施しています。また、日進月歩であるプログラムの仕事では、日頃からの学習が大切ですが、N社の実施する集合研修にもOさんは参加しています。  これまで順調に雇用継続が進められていますが、キーポイントのひとつとして、採用検討時に本人の障害特性や能力を適切に確認、判断できた、ということがあるようです。面接では同行者はなくOさん一人と行い、他の応募者同様、能力等を見るためのテストを行い、その結果、総じて優秀だとN社は評価しました。しかしながら、精神障害のあるOさんにどう対応したらよいのか、全体像をはっきり認識できずにいた中、Oさんを支援している就労支援機関からN社あてに連絡があり、その後、精神障害の特性やOさんに関する詳細な情報を得ることができました。このことを通じて採用を決断できたとN社は言います。「精神障害者と言っても、企業側としては、通常、具体的な情報がなく本人が見えない。精神障害というだけでは二の足を踏んでしまうこともあるのではないか。このため、支援機関から情報をいただくことができるというのは大きいと思う。」とN社はコメントしています。 Q5 精神障害のある社員とのコミュニケーションに不安があります。仕事上では、どのようなことに気をつける必要がありますか。 ポイント 「アンケート調査」によれば・・・ @「本人が上司や同僚に相談しやすい雰囲気を作るため、積極的に声かけをする」(86.6%) A「職場を和やかな雰囲気に醸成するため、あいさつを含めた社員間のコミュニケーションを活発化する」(84.0%) B「定期的に上司が相談にのる」(64.4%) 要旨 Q3で触れましたが、精神障害のある人は、緊張しやすい、不安になりやすいなどの傾向があり、障害があることで自分に自信を失っている人も多く見られます。このため、職場でのコミュニケーションに関しても、まずは、このような傾向を踏まえておく必要があります。 その上で、コミュニケーションにおける工夫・配慮を考えた場合、ごく当たり前のことのように思われますが、やはり職場全体の雰囲気を和やかでかつ風通しを良くするよう心掛けることが大切です。このことは、精神障害のある社員に限らず社員全体にとっても好ましいことです。さらに、何か困ったことがあるときなどに相談しやすい雰囲気を作るため、日頃の声かけや定期的な面談の機会の設定などが有効です。 ポイント@  上司や同僚に相談しやすい雰囲気を作るということは、精神障害のある社員の場合、自分から相談を申し出るのが不得手だという場合も考えられるため、重要な意味合いがあります。 ポイントA  職場の和やかな雰囲気の重要性に関しては、例えば、職場で誰かが叱責されているのを聞いた際に、自分のことでなくても大変不安になり強いストレスを感じるなど、人間関係に非常に敏感な場合があるということからも理解しておく必要があります。 ポイントB  精神障害のある社員との定期的な相談の機会の設定は、その健康管理面にメリットがあるのみならず、さらに、精神障害のある社員本人が悩み等を切り出しやすい機会を確保するという面から、有効な取組と考えられます。 他の工夫  このほか、「アンケート調査」では、「上司や指導担当者が異動する際には、前任者と後任者間で引き継ぎを実施し、本人を含めて相談を行う」と回答した企業が49.5%ありました。こうした雇用管理上の工夫・配慮も、上司の異動に伴い本人に生じるかもしれない緊張や不安の軽減につながり、精神障害のある社員を継続して雇用していくための重要なポイントと言えます。