Q2 精神障害者と言っても疾患や症状は様々であると聞いています。継続雇用するための雇用管理として、何ができるか不安です。  精神障害者の雇用管理は、個人の状況を的確に把握した上での個別対応が基本ですが、まずは精神障害者に共通する雇用管理上の配慮事項を理解することをお勧めします。また、就労支援機関はもとより、課題に応じた医療、福祉等さまざまな支援機関(※2)をぜひ積極的に活用してください。 精神障害者に共通する雇用管理上の配慮事項を理解する 精神障害には統合失調症やうつ・そううつ病など、様々な疾患があるとともに、ひとりひとり障害特性も異なります。また、精神障害者の中には、てんかんとうつ・そううつ病や、統合失調症と発達障害など複数の診断を受けている人もおります。さらには、性格や能力・経験などによる違いもあり、このため、実際の雇用管理は、きわめて個別的なものとなります。 しかしながら、疾患があるがゆえに健康管理面での配慮が必要なことや、ストレスに弱い、疲れやすい、認知面に障害がある場合があるなど、共通項も考えられます。(※3)  こうした精神障害者に見られる共通項への対応については、健康管理、風通しの良い職場風土作り、コミュニケーション上の配慮、仕事のマニュアル化、仕事量への配慮などがあげられますが、これらの中には精神障害のある社員に限らずあらゆる社員にとって望ましいものもあります。まずは、このような観点から精神障害のある社員の雇用管理を認識してみてはいかがでしょうか。本Q&Aでご紹介する雇用管理のあり方は、以上のような観点に基づくものですが、これらは同時に誰でも無理なく働ける職場作りにつながるという面があるとも言えます。 支援機関を有効に活用する   もちろん精神障害者を継続雇用していくためには、健常者の雇用に比べて相応の対応が時には求められます。個別的な対応が必要であることは先に述べたとおりですが、時として医療面や生活面からの支援が必要になるなど、企業のみで全てを行おうとする場合は対応が難しくなることがあります。ただし、場面に応じてさまざまな支援機関を有効に活用していけば企業の負担も軽減されるとともに、企業が対応しにくい課題の改善も図られますので、このことは是非踏まえておくべきです(Q9参照)。 ※2 支援機関としては、「ハローワーク」「地域障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」「自治体設置の就労支援センター」「就労移行支援事業者、就労継続(A型、B型)支援事業者」「地域活動支援センター、地域生活支援センター」「職業訓練を実施している機関や教育機関」「保健所や精神保健福祉センター」「医療機関」があります。なお、各支援機関の概要は巻末の【参考3】をご参照ください。 ※3 てんかんや高次脳機能障害のある人の場合、健康管理や自信の喪失、認知障害への対応で、また、発達障害のある人の場合、認知障害への対応などで共通するところがあると考えられますが、これらの障害に関する雇用管理上の留意事項等については、障害者雇用マニュアルコミック版「高次脳機能障害者と働く」(http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic06.html)「発達障害者と働く」(http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic05.html)、精神障害者雇用管理ガイドブック(http://www.nivr.jeed.or.jp/research/kyouzai/38_seishin.html)(以上、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構作成・発行)などを参考にすることをお勧めします。 Q3 精神障害のある社員に対して、仕事のやり方を伝えたり、指導することへの難しさはないでしょうか。 ポイント 「新規雇用後の雇用管理についての中小企業向けアンケート調査」(以下、「アンケート調査」という。)によれば、 @「根気よくわかりやすい指導を心がける」(90.2%) A「指示を出した後の(本当にわかったか、不安はないかなど)本人の様子に注意する」(90.2%) B「指示を出すときには具体的に出す」(87.1%) C「できたときはきちんと認めてほめ、ミスに対しては解決策を一緒に考えるなどの対応を心がける」(84.5%) D「特定の指導者を配置する」(73.7%) E「仕事の手順を簡素化・構造化する(※4)」(71.6%) F「誰でも同じように作業が理解できるよう、仕事の手順を『標準化』するために、作業マニュアルやチェック表を作成し、業務遂行に役立てる」(51.5%) 要旨  精神障害のある人は、緊張しやすい、不安になりやすいなどの傾向があり、中には認知機能に障害がある場合もあります。このため、作業を理解するのに時間がかかったり、ミスを繰り返す、段取りがつけられずに次の行動になかなか移れないといった人も見られます。また、障害があることで自分に自信を失っている人も多く見られます。以上から、仕事の進め方に関する指導などに当たっては、緊張や不安をできるだけ生じさせないことや、わかりやすい指導を心がけるなどの配慮が望まれます。 ポイント@  精神障害のある人は、緊張や不安を生じやすいことなどから、仕事に慣れるのに普通の社員よりも時間がかかることがあります。また、認知機能に障害がある人(例えば、計算が苦手、仕事の手順が覚えられない、物を覚えることが苦手など)もおり、このため、根気強く、わかりやすく指導することが時には求められます。一方、指導に当たっては、逆に指導する人自身が過剰なストレスを抱えることがないように配慮することも重要なポイントです。指導する人に悩みが生じた際には、上司が常に相談に乗れる体制を整えたり、雇用管理上の負担を特定の部署や特定の社員のみにかけないように企業全体で調整している例もあります。 ポイントABC  指示の仕方としては、例えば「どちらでもよい」、「きちんと」、「きれいに」などのような曖昧だったり抽象的な指示出しはせずに、具体的に必要な指示のみをピンポイントで、タイミング良く行うと効果的です。その際、何を指示しても「できます」と答えてしまう人もいるので、指示を出した後に、指示内容を本人に確認することは、重要なポイントです。 また、精神障害のある人は、不安になりがちで自信を持てない場合が多く「自分は指示どおり作業ができているのか」、「周りは自分のことをどう評価しているのか」などと不安感を一層強めてしまうことが少なくありません。このため、できていることに対してもきちんと認めていくこと、そしてミスが生じた際に頭ごなしの叱責をしないようにすることはとても重要です。生じたミスに対し、何が原因だったのか、具体的な解決策は何なのかを一緒に考えていくなどの姿勢は大変有効なフォローになると考えられます。 ポイントD  指示を出す人を決めておくという工夫・配慮も良い効果が期待されます。色々な人から指示を出すことで生じる混乱や緊張を避けるために、「特定の指導者を配置している」と回答した企業は高い割合でした。なお、これと同時に、特定の人のみに負担がかからないような工夫・配慮が重要なポイントであることは、ポイント@の解説欄で記載したとおりです。 ポイントEF  ミスが生じた際の対応としてはポイントCがありますが、一方で、作業手順の簡素化・構造化や、作業マニュアルや作業の進捗状況を管理するチェック表の作成は、精神障害のある社員が仕事を理解することを容易にするとともに、ミスの軽減やミスをしやすい工程のチェックなどにも役立つというメリットがあります。実施に当たっては、作業マニュアル等の作成ノウハウがあれば自社で検討しつつ、必要に応じ、疾患に応じた対応に関して、就労支援機関に相談すると良いでしょう。 他の工夫  仕事に慣れるに従って、意欲が減じ、作業への集中力が低下しないように工夫・配慮を行っている企業もあります。「アンケート調査」では、「注意力や作業意欲が低下しないように、ジョブローテーションを実施している」との回答が31.4%ありました。 ※4 構造化とは、一連の作業について「方法、場所、担当者、使用する道具、時間、処理量などを整理するとともに、それらの手順と関連性についても明確にすること」と定義できます。  具体的には、いつ、どこで、誰が、何のために、何をするのか、そしてどのようにするのか(作業工程)について一つ一つの行動レベルまで細分化して手順を明確にすることをいいます。  なお、構造化することの効果として、以下のことが挙げられます。 @誰もが同じ基準で作業を捉えられるようになり、いわゆる作業の標準化が図られるため、やり方が異なる・工程が抜ける・工程が前後することによるミスが少なくなります。 A工程が細分化されることで一つ一つの工程が理解しやすくなります。 B当該作業の指導者が誰であっても、統一した指導がしやすくなります。 Cどの工程でミスしやすいのか、どこでつまずきやすいのかをチェック、発見しやすくなり、適切な改善の方策が導きやすくなります。 D更に踏み込んだ活用として、作業する者が手順を踏まえて作業を行う際のセルフチェックリストとすることにより、ミスの軽減を図りやすくなります。 【事例1】 仕事内容とその進め方に試行錯誤しながらも本人の自信に結びつけた例  福祉・介護サービスを行うZ園では、初めて雇用した精神障害のある社員のWさんに対して、当初は単純作業が良いと考え、作業時間を区切りつつ清掃や各部屋のシーツ交換を行う仕事を用意しました。しかしながら、清掃では、パートナーの職員がやり直すのを目の当たりにしたことや、またシーツ交換では、時間を区切ることでのプレッシャーも加わったためか、作業スピードが思うように上がらず、ある日、同じ作業をしている別の職員から遅いことをとがめられたことから、Wさんはすっかり萎縮してしまいました。  そこでZ園では、本人への適性を考え、再度仕事を見直すこととしました。掃除については、単純作業のみではなく加湿器の手入れなどを加えるとともに、節句などの園内行事の準備も新たな仕事としました。その際、時間を細かく区切っていた、これまでの作業方法も日単位に改めることとしました。また、園内の各セクションにまたがる作業となるため、作業順序の決定や社員が困った時の対応などを総務課の職員が行うようにしました。  各作業では、他の職員がフォローしていましたが、次第にWさん一人で作業ができるようになっていきました。Wさんは50台近くある加湿器の洗浄を行うとともに、その物品がどこにあるのかなども全て覚えており、今では物品管理なども一人でこなしています。さらには、車いすのタイヤのパンク修理なども得意で、次第に園内の他の職員たちから感謝されるようにもなり、Wさんは自信を取り戻すとともにやりがいを感じるようになっていきました。  一方で、Wさんは仕事を選ぶようになり、嫌いな仕事は行いたくない、と主張するようになりました。本人に対して、どのように接していけば良いか判断しかねた総務課の職員は、Wさんが登録し、日頃よりお世話になっている支援機関に相談しました。 その結果、Wさんは、支援機関から、仕事とは本来どう取り組むべきものかについてメリハリのある言葉で注意を受けることによって、自身を反省し、以前のような態度は取らないようになりました。  Z園は、支援機関について、「障害のある本人のことを良く知っているため、時にはどのようにしたらよいかわからない時などに相談に乗ってもらえる。何かあったときに頼れる存在。」と評価しています。