平成16年度 障害者雇用職場改善好事例 [視覚障害者]入賞事例集 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています。 ●発 行 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 〒105-0022 東京都港区海岸1-11-1 ニューピア竹芝ノースタワー内 TEL.03(5400)1625 FAX.03(5400)1608 URL.https://www.jeed.go.jp/ 平成17年3月 p.1 はじめに  独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構では、平成3年度から「障害者雇用促進のための職場改善コンテスト」を行ってまいりましたが、その内容充実を図るため、平成14年度には「障害者雇用職場改善好事例募集」と現在の事業名称に改め、テーマを絞った募集を行うこととなりました。  そして、平成16年度、「視覚障害者にとって働きやすい職場にするための創意工夫を図った好事例」をテーマとし募集しましたところ、全国の事業主の皆様から多数のご応募を頂き、審査員の方々による厳正なる審査の結果、10事業所の入賞を決定いたしました。ご応募頂きました事業主の皆様、そして、ご支援頂いた関係機関・団体等の皆様方には改めて感謝申し上げます。  このたび、これらの入賞事業所の事例等を「平成16年度障害者雇用職場改善好事例(視覚障害者)入賞事例集」としてとりまとめましたので、視覚障害者の雇用の促進及び職域拡大のためにご活用頂ければ幸いです。 平成17年3月 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 p.2-3 目 次 平成16年度 障害者雇用職場改善好事例[視覚障害者]入賞事例集 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 ◆はじめに p.1 ◆入賞事例 最優秀賞 有限会社 化成フロンティアサービス p.4 障害のある人もない人も皆が活き活きと働ける職場づくりを目指して 優秀賞 株式会社シー・エス・イー p.14 就労支援機器の活用と専任介助者の配置により、コンピュータ技術者を育成 株式会社テプコシステムズ p.20 ヘルスキーパー制度導入のノウハウを他社にも積極的に提供 株式会社アンウィーブ p.26 自社開発した「在宅就労システム」で在宅雇用を実現 社会福祉法人 瑠璃光会 p.32 重度の障害を乗り越えケアマネージャー業務を積極的に遂行 熊本県商工会連合会 p.38 自立支援の体制づくりで職場復帰を実現 奨励賞 鍼・灸・マッサージ治療院 楽腰館 p.44 中高年の中途失明者、重度視覚障害者の社会復帰・社会参画を目指す 株式会社リクルートプラシス p.50 経営管理的視点を導入し経済的自立を実感できる職場づくりを推進 森ビル株式会社 p.56 視覚障害者だけですべてを運営できる自立したマッサージ室 アイシン精機株式会社 p.62 サポート体制を整備し、ヘルスキーパー制度での雇用拡大を図る ◆その他の応募事業所 p.68 ◆応募事業所の概要 p.91 ◆応募要項 p.92 ◆関係機関一覧 p.94 p.4-13 最優秀賞 有限会社 化成フロンティアサービス 障害のある人もない人も皆が活き活きと働ける職場づくりを目指して ◆企業プロフィール  有限会社化成フロンティアサービス  代表者:代表取締役社長 大平教義  〒806-0004 北九州市八幡西区黒崎城石1-1  TEL093-643-4390  FAX093-643-4393 ●業種および主な事業内容  サービス業  OAセンター、メール・写真センター、パーソネルサービスセンター、アグリカルチャープロジェクト(例:自然農法による野菜づくり)ほか ●従業員数  109名(平成17年3月現在)うち障害者数64名  <内訳>  視覚障害者3名(うち重度3名、重複1名)、聴覚障害者9名(うち重度5名、重複2名)、肢体不自由者39名(うち重度30名、重複1名)、内部障害者8名(うち重度5名)、知的障害者4名(うち重度2名)、精神障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  平成5年3月、障害者の雇用促進を図り、企業の社会的責任を果たすために、三菱化学株式会社(当時はその前身・三菱化成)の特例子会社として現在地に設立、同年12月の事業開始時の従業員数29名のうち障害者は18名(うち重度13名)であった。  視覚障害者については、視覚障害者のための専門学科をもつ筑波技術短期大学より企業実習を受け入れ後、平成11年と14年に全盲の卒業生を各1名採用し、現在3名の視覚障害者を雇用している(うち1名は重複障害で、視覚障害については視野狭窄および弱視で一般業務上の支障は特にない)。 三菱化成発祥の地に誕生したノーマライゼーションを目指す障害者のための特例子会社 設備改善 職域・能力開発 ▼三菱化学グループがバックアップするオフィスサービス業  有限会社化成フロンティアサービスがある三菱化学黒崎事業所は、三菱化学の前身である三菱化成の発祥の地。東西2キロ、南北1キロ、約60万坪の敷地内には関連会社を含めて約3,000名の従業員が三菱化学を中心にさまざまな業務を行っている。  三菱化学にとって歴史と伝統のあるこの地は、同時に人脈も仕事も豊富な場所でもある。黒崎事業所に「障害者の雇用促進を図り、企業の社会的責任を果たす」ために、三菱化学の特例子会社として化成フロンティアサービスが誕生した理由は、三菱化学グループとしてバックアップしやすい条件が揃っていたからである。社名に化成が付くのもそのためだ。  ここには、情報社会を支えるCD基板の材料、プリンターのインクから自動車用タイヤのカーボンブラックなど、多種多様な化学製品を製造している三菱化学をキーステーションに、工場のメンテナンスを行う企業、その原材料や製品の搬出入を行う企業、IT関連企業など、さながら化学工業のデパートのような企業集団が形成されている。  三菱化成(後の三菱化学)が100%出資の有限会社特例子会社として、平成5年3月に、障害者雇用促進のために設立した同社は、これらの事業所のオフィスサービスを中心に各種のビジネスサービスを受託する企業としてスタートすることになった。 ▼すべての従業員にとって働きやすい職場環境をつくる  前述したように、事業を開始した平成5年当時には従業員29名のうち障害者が18名であったが、現在は109名の従業員のうち障害者は64名(うち重度障害者数45名)を占める。  そのうち、視覚障害者は3名、聴覚障害者は9名、肢体不自由者が最も多く39名である。また、内部障害者はペースメーカーを使用する心臓疾患者や人工透析を行っている者などが8名いる。そのほか知的障害者4名と精神障害者(てんかん)が1名いる。  このように、多数の障害者を雇用している同社では、安全・健康と仕事を両輪として掲げ、特に障害者の安全と健康に配慮した企業経営を続けている。  障害者が6割を占める企業のため、8時半〜17時15分の勤務時間中にケガをしたりしないように、何よりも安全面と健康面に配慮している。その結果、平成15年11月に無災害90万時間で表彰されたほど。現在も無災害記録を更新し続けている。 ▼ソフト面でもバリアフリー化が図れるように工夫  安全面で配慮するといっても、基本的な考え方は、さまざまな障害者および健常者を含むすべての従業員にとって働きやすい職場となる「ノーマライゼーション」を目指すことである。したがって、職場改善についても、特に視覚障害者を意識したものではなく、皆が普通に働きやすくするという観点から取り組んでいる。  ソフト面では、挨拶・声かけをすることを基本に、お互いの体調管理をしながら明るい職場づくりを目指していくことに重点を置いており、聴覚障害者を講師として手話の勉強会を各職場で続けている。また、職業コンサルタントや生活相談員を配置し、仕事や生活面で必要に応じたサポートを行うようにしている。このような対策や活動を通じて、すべての従業員が相互理解を深め、ソフト面でのバリアフリー化が図れるように努めている。 ▼ハード面での職場改善はさまざまな障害を考慮して  ハード面では、安全対策でのバリアフリーが主体となる。しかし、場合によっては難しい問題もある。  例えば、視覚障害者のための点字ブロックは車椅子利用者にとっては、突起物として段差障害になる。逆に、車椅子利用者のための歩道と車道のバリアフリーは、視覚障害者にとっては歩道と車道の区別がなくなり、かえって危険になる。  このように障害の種類によって一方のメリットが他方のデメリットになることもあり、ケース・バイ・ケースで全体的に有効となるような対応が重要になってくる。  同社では、常にそのような観点からさまざまな障害者のことを考慮しながら、1.5m幅の通路を確保、要所はすべり止めの材質を使用、扉は基本的に自動扉、休憩室には簡易ベッドの設置など、ハード面での職場改善についてもきめ細かく取り組んでいる。  さらに現在、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者各1名の計3名が住む三菱化学の単身赴任者寮(一般従業員30〜40名と同居)では、警備会社と契約、万一の場合の安全対策を講じている。 ▼頼れる「ビジネス・コンビニ」に  組織的には、まず一番大きいOAセンターではデータ入力・出力処理、印刷用版下作成、名刺・はがきなど印刷物全般、書籍類出版、ホームページ制作、CAD、プログラミング、ビデオ制作、事務代行など、OAから編集・印刷関連の総合窓口となっている。  メール・写真センターは、メール部門と写真部門から構成され、それぞれ次のような業務を行っている。メール部門は、三菱化学グループ黒崎事業所内約110ヵ所の集配と、東京、大阪、北海道など各場所間の集配業務を行う社内集配便、社内報などの袋詰め・仕分け・発送業務、宅配便受付、切手・はがきなどの販売業務、切手管理・切手貼り代行業務、およびパスポート申請書の作成などを行っている。写真部門は、各種写真撮影、入門証作成、デジタルカメラ対応のDPE受付、フィルム、インスタントカメラの販売などを行っている。  パーソネルサービスセンターは、給与・年金・健康保険など人事関連事務や健康診断の業務を行っている。この部門はもともと三菱化学の人事関係のメンバーが仕事と一緒に移籍したもので、現在はすべて健常者が業務を行っているが、将来的には障害者を配属したいと考えている。  アグリカルチャープロジェクトは、自然農法での野菜づくりや木炭づくり、椎茸栽培、洋ラン栽培などを実験的に行っている。健常者2名、肢体不自由者1名、知的障害者2名のまだ小さな組織である。  このほか、三菱化学四日市事業所内に4名が所属する四日市営業所が活動しており、これらが総力を挙げて、「頼れるビジネス・コンビニ」をスローガンに、業務を遂行している。現在、年間売上高約7億円でグループ内の仕事が大半だが、営業努力により約4%ほどグループ外からの受注となっており、わずかながらも利益を計上し、健闘を続けている。 改善のポイント1 OAセンターの職場改善で2名の視覚障害者の自立を支援 ▼専門知識を活かしてパソコンを扱う業務に専念  化成フロンティアサービスに最初に重度(障害1級)の視覚障害者が雇用されたのは平成11年4月のことである。筑波技術短期大学の情報処理学科を卒業した中村忠能さん(障害1級)が入社し、OAセンターに配属された。その後、14年4月に同じく筑波技術短大情報処理学科卒の中村真規さん(障害1級)が入社、やはりOAセンターに配属されるが、同社の視覚障害者への本格的な対応は、この11年4月に始まる。  なお、視野狭窄および弱視の障害者(1名)については、書類(図面)保管庫の管理と同データベースのパソコン入力によるメンテナンス業務を別館で行っているが、作業上の支障がないため、特に対策は取っていない。  現在、中村忠能さん、中村真規さん2人が日常的に行っている業務を整理すると次のようになる。 @テープライター:録音された会議や講演会などの内容を聞き、パソコンでワープロ文書として入力する(テープ起こしをする)。 Aインターネットホームページの作成:他社からの依頼を受け、ホームページに視覚障害者がアクセスできるように作成・改善する。自社のホームページの作成から着手中。 B各種点字資料の作成:点字名刺、点字図書、点字議事録など。 Cインターネットを検索しての各種情報収集業務。 2人がこれらの作業をするに至るまでに、同社では以下のようなきめ細かな対応策を講じている。 ▼事務所の配置・動線、設備機器など視覚障害者用に職場環境を整える  下の図の「執務室レイアウト」にあるように、2人が日常的に作業するOAセンターの事務所は、入口近くに席を設けるとともに、隣りにチームリーダーを、すぐ後ろの受付の近くに職業コンサルタントを配置している。  また、トイレ、更衣室、手洗い、給茶機(台所の前)、エレベーターなどへの移動がなるべく直線的になるように、他の机の配置や設備の配置を考慮した。通路幅は、前に述べたように車椅子使用者への配慮からも1.5m幅を確保し、当然のことながら通路上に障害物を置いていない。  設備機器については、まずパソコンの環境を、視覚障害者向けに設定したことが挙げられる。パソコン本体は通常のものを使用しており、特殊ではないが、PCトーカーやXPリーダーなどの画面読み上げソフトを搭載するとともに、高性能ヘッドホンを装備している(導入費用は約15万円)。また、作業のための専用設備として、パソコンから点字印字を行う点字プリンターを設置し、点字名刺作成のために点字名刺印刷機を設置した(導入費用は2つで約100万円)。  その他、行動予定表やトイレ、エレベーター、給茶機、会議室などの要所要所に適宜点字表示を行っている。 改善のポイント2 通勤・住居対策、コミュニケーション対策など ▼全額公費で2ヵ所の交差点に音声対応装置と点字ブロックを設置  中村忠能さんは、前述した三菱化学の単身赴任者寮に住んでいるが、防災対策として警備会社に依頼して、室内の火災警報センサーと非常連絡設備、首にかけて携帯できる押しボタン式非常通報装置を会社負担で設置している(設備のリース料込みで月額10,000円)。また、建物の入口部分にある階段に手すりを取り付けた。  また、中村真規さんはバスとJRを乗り継いで片道約1時間半かけて通勤しており、全従業員の中でも最も遠距離の通勤者である。通勤時間帯がラッシュ時のため、安全・健康への配慮から混雑しない車両への乗車が可能な特急列車での通勤定期券を通勤手当として支給している(通勤定期の増加分月額15,000円)。  通勤途中に信号機のある交差点を横断するため、2人が横断する黒崎駅北口近くの交差点と中村忠能さんが横断する単身赴任者寮近くの交差点の2ヵ所に、音声対応装置と点字ブロックを設置することを所轄警察署に陳情。全額公費負担での設置が実現した。 ▼従業員全員とのコミュニケーションを重視したソフト面での配慮  挨拶・声かけは、障害者全員への配慮として実行しているが、特に視覚障害者に対しては会話の前に必ず名前を名乗るように心がけている。  また、職業コンサルタントと障害者職業生活相談員は、障害者の仕事や生活面でのサポートを必要に応じて行っているが、特に、視覚障害者については入社直後は通勤に不安があったため、寮や駅からの送迎を行っていた。現在は単独での徒歩通勤が可能になったが、大雨や積雪時などには必要に応じて車(タクシーなど)の利用を認めている。さらに、本人が希望すれば、通院や買い物などに職業コンサルタントが同行するようにしている。  メールを使ったコミュニケーションが画面読み上げソフト付きのパソコンで可能なため、聴覚障害者を含む社員全員とのコミュニケーションが円滑になった。同社では、今後ともこのような意思疎通を積極的に図っていくように心がけていくことにしている。  そのほか、健常者では分かりにくい、障害者の心のバリアをどうしたら排除できるかをテーマに、チームリーダー以上の従業員25名が月2回勉強会を開催(1〜2時間)し、カウンセリングに関する本などを教材にして話し合いを行っている。さらに、年2〜3回ほど講師を招いた勉強会も行っている。  このように、ハード面、ソフト面でさまざまな手厚い配慮をしているが、同社の基本的な考え方は、視覚障害者もそのほかの障害者もそれ以上の特別扱いはせず、「自分のできることは自分でやる」という、あくまで自立を前提に対応することにしていることだ。そして、健常者を含めてすべての従業員が支え合って健康で働きやすい環境=ノーマライゼーションを実現することを目指している。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  ハード面での職場改善については、障害の種類によって、一方のメリットが他方のデメリットになることもあった。 すべての障害種類、特に車椅子使用者と視覚障害者の職場内での通行の安全を確保するため、1.5m幅の通路の確保、要所へのすべり止めの材質の使用および自動扉の設置を行った。  視覚障害者にとって、事務所内の配置の理解にオリエンテーションが必要であった。 職業コンサルタントやチームリーダーのサポートにより、現在では事務所の構造・配置を熟知。社内では歩行杖を使用していない。通常は他の従業員が2人を視覚障害者と意識しないほど。  視覚障害者のためにパソコン操作の環境設定が必要となった。 画面読み上げソフト、高性能ヘッドホンおよび点字プリンターを設置することにより、視覚障害者のためのパソコン操作の環境を整えた。  視覚障害者と他の従業員との日常的なコミュニケーションがうまくいかない。 日常的な声かけのほか、視覚障害者には話しかける前に必ず名前を名乗るようにした。また、業務上の連絡は頻繁に視覚障害者に話しかけるだけでなく、画面読み上げソフトの導入により、メールを通じて相互に情報交換できるようになった。  社内回覧文書や給与明細など個人情報もチームリーダーや障害者職業生活相談員が代読していた。 これらの個人情報をデータ化し、パソコンの画面読み上げソフトと高性能ヘッドホンを使うことで、他人に知られたくない情報を含めて自分で入手できるようになった。  視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者が住む単身赴任者寮での安全対策が必要であった。 警備会社と契約することで、万一の場合に備え、安全対策を講じている。  視覚障害者のうち1名については、通勤時間帯がラッシュ時になり、かつ遠距離通勤のため、安全・健康面への配慮が必要となった。 特急列車の通勤定期券を認めたことにより、乗車の機会が増え、また、混雑しない車両への乗車が可能となった。これにより、安全・健康面の問題はほとんどなくなった。  視覚障害者の通勤途中にある交差点の通行の安全が確保されていない。  所轄警察署に陳情し、通勤途中の信号機のある交差点に、音声対応装置と点字ブロックを設置してもらうことにより、交差点の通行の安全が確保された。  視覚障害者の職務遂行の能力の向上に伴い、視覚障害者ならではの職務の創出が課題となった。 ホームページのアクセシビリティについて、自ら悩み解決してきた課題が、教育用テキストの制作依頼となって実り、さらに他社のホームページの検証・アドバイスや制作などにつながり、新しい分野が拓けつつある。 障害者ならではの仕事ができて満足しています OAセンターの中村忠能さん(27歳) ●高校時代からパソコンに興味を持つ  生まれつき視力が弱く、全盲に近かったため、高校まで佐賀の盲学校に通学していました。普通はそこから鍼灸の資格を取るのですが、パソコンが好きだったので、あえて筑波技術短期大学の情報処理学科に進みました。まだWindowsの時代ではありませんでしたが、基礎的なプログラミングを勉強しました。  卒業のころはもうWindowsの時代になっており、プログラミングや情報関係で全盲の障害者が就職するのはなかなか厳しかったですね。結局、短大の先生の紹介で化成フロンティアに就職できたときは本当にうれしかったです。  就職したときの気持ちとしては、できれば障害者の特性を活かした仕事をしたいと思っていました。入社当時は会社も私もどのような仕事ができるのか模索中で、スキャナーで読み込んで入力するような仕事をしていた程度です。後は点字印刷関係、会社案内の点字版などをつくりました。 ●今後も意義のある仕事を続けていきたい  しばらくして、ホームページの制作に興味をもち、アクセシビリティの問題についても個人的に勉強するようになりました。そして、会社のホームページについて視覚障害者の立場からどうしたらアクセスしやすいか、意見を言うようになりました。また、月1回日曜日に開かれるパソコン・ボランティアという障害者のためのパソコン相談会に相談員として参加していましたが、その縁で、ある学校法人からの依頼でホームページ制作者を対象とした150ページを超える教育用テキストを制作することになり、もう完成間近です。大変意義のある仕事をしていて毎日が充実しています。  今後、公共関係、特に福祉関係の団体などから高齢者や障害者のアクセスしやすいホームページづくりの依頼があることを期待しています。また、パソコン・ボランティアでやっているような、障害者や高齢者を対象にした上手なパソコンの使い方などの教室やテキスト制作など、教育に関わる仕事をやってみたいとも思っています。  普通の仕事をしていては、どうしても目の見える人にかないませんので、障害者だからこそできる、このような仕事をぜひやっていきたいと考えています。 使いやすいホームページの企画・制作を提案する仕事に挑戦したい OAセンターの中村真規さん(24歳)  高校時代から急速に視力が衰退したため、筑波技術短期大学情報処理学科に進み、障害者としての技術を活かしたいと考えるようになりました。  入社したのは中村忠能さんより3年後で、同じOAセンターに所属し、現在は一緒にホームページ制作者向けの教育用テキストを制作しています。完成後は、あらゆるホームページ制作者にとって使いやすいテキストとして活かされ、その結果、多くの障害者や高齢者がアクセスしやすいホームページが普及するようになれば、本当にうれしいですね。  そのほかには、点字名刺印刷や会社案内パンフレットの仕事などを行っています。  今後は、教育用テキスト制作の実績を活かして、よりウェブアクセシビリティのニーズが高い個人向けや鍼灸院・交通事業者向けに、誰もが利用しやすいホームページの企画・制作を提案するような仕事をしたいと考えています。  また、ホームページの制作(正しいHTMLやCSSの活用によるホームページづくりなど)やコンピュータ操作の基礎、点字などのテーマを中心に、大人数向けの講義、少人数指導、個人指導などを行う教育・研修の分野の仕事をしたいと強く希望しています。できれば数ヵ月間、講師の卵として講習会に参加するなどの準備をしたいと考えています。  さらに、もともとの専門である交通学(交通バリアフリー)の分野に仕事の範囲を広げられないかとの夢も持っています。 ◆今後の課題&挑戦 視覚障害者ならではのウェブアクセシビリティの仕事を積極的に開拓する ▼専門知識を活かしてパソコンを扱う業務に専念  パソコンをはじめIT関連の技術の普及は、障害者にとって努力次第で雇用の機会が拡大するという効用をもたらしている。車椅子の障害者でも聴覚障害者でも健常者とほとんど変わりなく作業することができるし、難関であった視覚障害者にとっても画面読み上げソフトなどの活用で健常者に劣らない仕事の遂行が可能となりつつある。  したがって、今後障害者雇用を拡大していくうえで、パソコン関連の仕事をより積極的に拡大していくことが必要と考えている。実際、三菱化学が社内で行っている、あるいは外部に発注しているパソコン関連の作業がまだまだあるはず。当面、これらを重点に同社で受注するよう積極的に働きかけていく。パソコン関連機器の購入費やLANの維持費にしてもそれほど大きなものでなく、十分採算が合うと同社では考えている。  特に、これまで必ずしもうまくいっていなかった視覚障害者と聴覚障害者のコミュニケーションが、画面読み上げソフトの導入により改善されてきた。今後は、テープ起こしで視覚障害者がテープを聞き入力した原稿を聴覚障害者がチェックし、編集して仕上げるという両者のチームワークが実現することを期待している。 ▼ウェブアクセシビリティの分野に新たな可能性を求めて  ウェブアクセシビリティとは、障害の有無や種類、性別、年齢さらには閲覧環境に関係なくどのような人でも支障なく閲覧し、活用できることを意味する。昨年、このウェブアクセシビリティについて、ホームページのバリアフリーのJIS規格ができて、ようやくこのような考え方がインターネットの世界でも普及しつつある。だが、ウェブサイトの現状は障害者や高齢者にまだまだ敷居が高く、とても閲覧しやすいとは言い難い。  同社では、先述したように、中村忠能さん、中村真規さんの2人を中心に、まず自社のホームページを視覚障害者がアクセスできるように改善中である。さらに、中村忠能さんは仕事以外の場面で、ボランティアとして外部のホームページのアクセシビリティを手がけてきた。  そのような縁からようやく仕事として、ウェブデザイナー(サイト制作者)対象のウェブアクセシビリティに関する講座で使う、教育用テキストの作成を依頼され、現在、完成間近な状況になっている。まさに、中村忠能さんのウェブアクセシビリティに関する経験が評価された結果といえる。 ▼視覚障害者の長所を活かした仕事の開拓  この教育用テキストの完成後、同社では他社のホームページが高齢者や障害者にとって本当に閲覧しやすいかを検証して、よりよいホームページをつくる提案を積極的に行おうとしている。すでに、ある会社からホームページの制作の依頼を受けており、今後ホームページの制作はもとより、アクセシビリティの検証とアドバイスについては、仕事になり得る可能性がある。  また、中途で視覚障害者になった人や高齢で弱視になった人から、パソコンを習いたい、画面読み上げソフトの使い方が分からない、パソコンの操作法を教える所はないのかなどの声がある。これはまだ構想の段階だが、これらを教える教室や教育用テキストの制作なども仕事になり得ると思われる。  視覚障害者を対象としたパソコン操作に関する仕事では、担当者が視覚障害者であることがむしろメリットであり、しかもアクセシビリティに詳しい制作者を擁することは貴重な武器である。今後、同社では熟練の技術を持った視覚障害者を全面的にバックアップすることで、大きく飛躍していくことを目指している。 職場責任者が語る 視覚障害者の能力を活かした仕事をやってもらいたい 常務取締役 森川清照さん ●未開拓だった視覚障害者の業務  視覚障害者を職場に迎えるにあたっては、これまで多くの障害者を雇用してきましたので、その経験上からも特別扱いはしないことを基本にしてきました。  ただ、彼らにできないことはカバーするのは当然ですから、職場レイアウトを工夫したり、要所に点字表示をしたり、交差点の音声対応装置の取り付けや、点字ブロックの設置などの手配をしたりしました。  そのうえで視覚障害者にできることは何かを考えました。正直言って、マッサージ師や芸術家など特殊な職業を除いて、視覚障害者の社会での仕事はまだまだ未開拓だと思います。彼ら2人は筑波技術短期大学出身で、パソコンをはじめ情報関係では専門知識も技術もありましたので、まずはパソコンを活用する仕事をしてもらおうと考えました。それに点字印刷関係やテープ起こしなども考えつきました。  パソコンは画面読み上げソフトと高性能ヘッドホンを装備しただけで、彼らは普通の健常者以上に見事に仕事をこなしてくれます。点字印刷も点字プリンターや点字名刺印刷機を設置することでやはり見事に対応してくれました。さらにテープ起こしについてはびっくりしました。視覚障害者の聞き取りの力が優れていることは聞いてはいましたが、2人は健常者の数倍の速さで正確に早送りのテープを聞き取り、データ入力する力を持っているのです。どの視覚障害者も彼らほどの能力があるとは思いませんが、それにしても驚きました。 ●勉強家の2人には新たな挑戦をしてもらいたい  今後の会社の発展のためには、三菱化学グループ内からだけでなく、もっとグループ外に仕事を広げていく必要があります。特に点字印刷などは今後増えていきそうにも思えますが、もともとこの分野はボランティアが活躍しており、商売として参入しにくいところなのです。  そんな中で、ホームページのアクセシビリティ関連の仕事は、まさに視覚障害者ならではの能力を活かしたものであり、今後、グループ外からの受注が大きく発展する可能性を秘めたものですので、大いに期待しています。  それにしても、中村君たちは2人とも仕事熱心で真面目なだけでなく、勉強家なのには感心しています。アクセシビリティの作業がボランティアから仕事に発展してきたのも、彼らの人脈があったからであり、日ごろからの問題意識と努力があったからです。その意味では他の従業員にいい刺激を与えてくれたと感謝しています。 お互いに相談し合って、いい仕事をしていきたいですね 仕事面で相談相手のOAセンタープロデューサーの木下雅子さん  2人とも勉強家で積極的なのには感心しています。健常者が気がつかないことを教えられることも多いのです。例えば、社内LANの掲示板に強調の色を付けたり、下線を引いたり、中には絵文字を入れたりする人がいますが、視覚障害者にはそれは通じないんですね。そんなときは必ず注意されます。このようなちょっとしたことがアクセシビリティのような仕事をするときには大切なんですね。  今後も中村さんたちの能力を発揮できる仕事の幅を広げていかなくてはなりません。それには彼らの希望も聞きながらやっていく必要があります。実際、こちらが可能だと思っても本人たちができないということもありますし、逆にこちらが無理だと思っていることでも本人たちはできるということもあるのです。  ですから、相互に十分打ち合わせをして、今後もいい仕事をしていきたいと考えています。 最近ではすっかり自立して、相談を受けることもなくなりました 職業コンサルタントの中村博子さん  会社としては、障害者のみなさんからの相談に一応誰でもいつでも乗れる体制を整えています。しかし、日常はそれぞれ自分の仕事に追われていますので、いつでも気軽に悩みを聞いたり、相談に乗ったり、ちょっとしたお手伝いをするために職業コンサルタントを置いています。  実際、大きなことから小さなことまで、上司に相談する前に、職業コンサルタントを通して相談することで解決した問題は多いのです。  視覚障害者のうち、中村忠能さんは唐津出身のため土地勘がなかったこともあり、入社当時何度か買い物に一緒に行ったこともありました。最近はすっかり自立してそのようなこともなくなりましたね。ちょっとしたことは仲間同士で助け合うようになったからかもしれません。いろいろな意味で自信がついてきたのでしょうね。 〈キャプション〉 化成フロンティアサービスは、三菱化学黒崎事業所内の広大な敷地の中に所在する。 化成フロンティアサービスでは、さまざまな障害者が働いている。通路幅はゆったりした職場レイアウトになっている。 OAセンターのオフィス。視覚障害者2名、中村忠能さんと中村真規さんの席は入口左側に設けてある。 点字プリンター。点字印字の際、かなり穿孔音がうるさいため、点字プリンターは厳重な防音箱の中に設置され、印刷中も蓋が閉まっている。 点字名刺印刷機で名刺に点字を入れる。 画面読み上げソフトを使ってデータ入力中の中村真規さん(手前)と中村忠能さん(左奥)。 行動予定表の点字表示 OAセンターレイアウト 給茶機の点字表示 エレベーターの点字表示 首にかけているのは押しボタン式の非常通報装置。このボタンを押すと、警備会社へ通報され、異常連絡をすることができる。 社宅はアパートの1階部分にあるが、玄関入口まで階段があるため、手すりを設置した。 所轄警察署に陳情し、通勤途中の信号機のある交差点に、音声対応装置と点字ブロックを設置してもらった。 ウェブアクセシビリティの作業中の中村忠能さん。ヘッドホンの位置をずらすことにより、業務上の指示にいつでも対応できるようにしている。 教育用テキストの資料 p.14-19 優秀賞 株式会社シー・エス・イー 就労支援機器の活用と専任介助者の配置により、コンピュータ技術者を育成 ◆企業プロフィール  株式会社シー・エス・イー  代表者:代表取締役社長 関 好行  〒150-0044 東京都渋谷区円山町23-2 アレトゥーサ渋谷ビル TEL03-3463-5632 FAX03-3463-5907 ●業種および主な事業内容  各種コンサルティングサービス、SI(システムインテグレーション)ソリューション、システム運用サービス、セキュリティ&パッケージソリューション ●従業員数 910名(平成16年12月現在)うち障害者数9名  <内訳>  視覚障害者2名(うち重度2名)、肢体不自由者2名、 内部障害者5名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  独立系のソフトハウスとして、昭和46年8月に神奈川県海老名市で設立。コンピュータのシステム開発、運用管理を手がけ、確実に発展を遂げてきた。近年は、コンサルティングサービス、セキュリティソリューションなどにも事業領域を広げている。  従業員の大半をSE、プログラマーなどのコンピュータ技術者が占めている。  視覚障害者の採用は、平成2年にコンピュータ技術者として2名を採用したのが始まり。うち1名は10年間の勤務後、独立。平成16年4月には、新たに1名の視覚障害者を採用している。 視覚障害者を採用してはみたもののノウハウは一切なく、試行錯誤の期間が2〜3年続いた 支援機器導入 介助者 ▼コンピュータ技術者としての視覚障害者の可能性に驚く  1981年の「世界障害者年」から10年目を迎え、企業各社の障害者雇用に対する取り組みが高まりつつあった平成2年(1990年)、株式会社シー・エス・イーの障害者雇用率は0.4%程度にとどまっており、ハローワークからも障害者雇用を促進するよう指導を受けていた。  コンピュータのシステム開発や運用管理サービスを主に手がける同社のオフィスは、賃貸ビルの中にあったため、車椅子の利用者など肢体不自由者などの障害者の受け入れのための自社ビルや自社工場と同じように行うことはできない。しかし、視覚障害者であれば、そうした改善はほとんど必要ない。視覚障害者ならコンピュータ技術者にも向いているのではないか。ハローワークからもそうしたアドバイスを受け、当時、人事部長だった小野光昭氏がさっそく動いた。  視覚障害者に、コンピュータ技術者としての可能性がどの程度あるのか、埼玉県所沢市にある国立職業リハビリテーションセンターに見学に行ったのである。  そこで、小野部長は、視覚障害者に対するそれまでの認識を一変させることとなった。「こんなことまでできるのか」―それは“感動”にさえ近いものだったという。 ▼社内の受け入れ体制が十分でない中重度の視覚障害者を2名採用  そのとき出会ったのが、川村和利さんと稲垣誠さんである。川村さんは、国立職業リハビリテーションセンターでの訓練終了を間近に控えていた。また、稲垣さんには、ハローワーク主催の合同面接会に応募してきたところで出会った。共にコンピュータ技術の基礎知識をしっかりと身につけており、採用を内定した。だが、採用は決まったものの、入社までの時間の余裕はなく、社内の受け入れの準備がまったくできていない状況であった。  こうして、平成2年3月に稲垣さんが、同年4月に川村さんが相次いで入社した。いずれも1級の視覚障害者である。  当時、川村さんの直属の上司だった岡野雄次さん(現在は営業推進本部営業統括部長)は、「しばらくは、彼らにどんなことができるのか、何をやらせればよいのかを探るのが精一杯でした」と、その頃のことを振り返る。  半年、1年…、仕事らしい仕事をさせることもできないまま、ただ時間だけが過ぎていった。 改善のポイント1 介助者を入れ、さまざまな面でサポート ▼視覚障害者雇用の1年後に最良の介助者を採用  2名の視覚障害者の雇用から1年、仕事らしい仕事もなく、川村さんたちの欲求不満は募る一方であり、一般社員にとっても障害者雇用の意味が見出せないままであった。「このままではだめだ」  ―危機感を抱いた小野部長は、ハローワークにも相談のうえ、介助者を入れることにしたのである。  山口好彦さん(当時、60歳)は、コボルなどのコンピュータ言語を勉強しており、基礎知識は十分に持っていた。また、自身が内部障害1級であり、障害者に関連する仕事にも数年間関わった経験も持っていた。  「コンピュータのことがわかっているので、一般技術者たちとの仲介もできますし、障害者の気持ちも十分に理解しているので、まさに最適の介助者に巡り会ったと思いました」と、岡野部長は当時を振り返る。こうして、川村さんたちが入社したちょうど1年後、平成3年3月に山口さんが入社。ここから、同社の障害者雇用がようやく機能し始めるのである。 ▼点訳ボランティアと交渉し専門資料の整備を進める  川村さんたちの教育、専門知識の吸収にあたっては、教材や専門書を読み聞かせるか、点訳する必要がある。一部は山口さんが読んで聞かせていたが、当然、1人でできる量には限度がある。そこで山口さんは、以前から知っていた東京都武蔵野市の武蔵野市中央図書館の点訳ボランティア「むつみ会」に相談を持ちかけた。むつみ会がコンピュータ専門書の点訳にも実績がある、との情報を得ていたからだ。相談の結果、むつみ会ではさらに勉強会を重ね、より専門性の高い点訳に挑戦してくれることになった。こうして、次第に、専門書などの教材や仕事の資料も整備されるようになった。 ▼親のような立場から社会生活のマナーなども指導  山口さんと川村さんたちの年齢差は40歳ほどもあり、まるで親子というような関係である。技術的な情報の伝達だけでなく、日々の生活を通じて、社会人としてのマナーや言葉遣いなどの教育も山口さんが担ったが、年齢差があるため、川村さんたちも素直に受け入れることができた。 改善のポイント2 技術の向上に合わせて、専用機器を導入 ▼情報伝達に威力を発揮する音声合成装置  視覚障害者に、仕事に必要な情報を伝達するには、音声で伝えるか、点字にして渡すか、2つの方法がある。とりあえず手っ取り早いのは、音声で伝える方法だ。介助者の山口さんが仲介して伝えたり、「むつみ会」など社外のボランティアに依頼してテープ録音をしてもらったりしていたが、それだけでは限界がある。そこで検討されたのが、音声合成装置の導入である。  音声合成装置は、テキストデータを音声合成で発声するという機器。音声スピードは2段階の切り替えができ、使用者の都合によって使い分けることができる。装置の導入によって、川村さんたちの仕事の効率は格段にアップした。  現在、川村さんはスピーカーから出る音を聞いて作業をしているが、今年入社した岩本さんはヘッドホンで聞くほうが集中できるということで、ヘッドホンを利用している。 ▼点字ディスプレイで入力内容の確認も可能に  入力した内容を、一般の人は画面で確認するが、視覚障害者にはそれができない。そこで同社では、さらに川村さんたちの業務の効率化を図るために、点字ディスプレイも導入することにした。  点字ディスプレイとは、パソコンに接続して、画面の情報、テキストデータなどをリアルタイムに点字として表示する装置。1行40文字程度を表示できるので、画面の中の読みたい部分を表示させて利用する。ノートパソコンとの接続も可能なため、場合によっては、顧客先で使用することも可能である。 ▼必要な書類や資料の配布には点字プリンターを利用  さらに、視覚障害者用として導入したものに、点字プリンターがある。これは、点訳したデータを点字用紙に出力するための装置で、同社では連続紙プリンターと単票プリンターの2種類を用意。必要に応じて、川村さんたちに点字資料や書類を配布している。  こうした視覚障害者用の専用機器を導入するにあたっては、川村さんの技術の向上を見ながら、本人たちの意見も聞きながら決めてきた。また、こうした専用機器の購入には障害者雇用納付金制度に基づく助成金が支給されるため、同社ではその制度を活用した。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  視覚障害者への仕事上の紙ベースでの情報伝達がうまくいかない。 コンピュータの基礎的知識を持った、専任の介助者を採用。介助者が情報のやり取りを仲介することで、コミュニケーションの効率がぐんと高まり、業務の進行もスムーズになった。  視覚障害者が、専門知識を身につけるための教材や専門書がない。 自身が持っている視覚障害者のネットワークを生かし、教材・専門書などの点訳やテープ録音をやってくれるボランティアを開拓。仕事や教育の効率がアップした。  視覚障害者にとって、通常のパソコンや機器の使用は難しい。 助成金制度を利用しながら、視覚障害者の技術レベルの向上に合わせて必要な機器とソフトウェアを導入。音声合成装置、点字ディスプレイ等の活用で、業務の進行もスムーズになった。  打ち合わせや会議等に際して、事前に必要な情報を伝達しにくい。 音声合成装置を導入したことにより解決した。事前に打ち合わせや会議用の資料としてテキストデータを配布。それを音声合成装置で事前に聞いておけば、困ることはなくなった。  Windowsの登場以降、視覚的な処理が増えている。 マウスなどを使った視覚的な作業と、バックグラウンド作業とを切り分けて分担。視覚障害者が後者を担当することで対応を可能にした。しかし、視覚的な処理の増加は、今後も引き続き大きな課題である。  視覚障害者が担当することを、顧客に拒否される。 視覚障害者にどれだけのことができるか、実際に見てもらったり、顧客を繰り返し啓発したりすることで、視覚障害者の能力をアピールし、次第に理解が得られた。  人事考課など、処遇をどうしてよいか、わからなかった。 視覚障害者がコンピュータ技術者として十分に活躍できることが確信できたので、一般社員と全く区別せず、同じ処遇で扱っている。そのため、仕事に対する彼らの意欲も高い。 ◆今後の課題&挑戦 GUI(視覚的操作)中心の時代にどう対処していくか模索中  コンピュータのシステム開発・プログラミングが、C言語やコボルなどを中心に行われていた時代には、その知識を身につけさえすれば、視覚障害者でも遜色なく仕事ができた。しかし、Windowsが登場し、一般に普及したことで、マウスなどによる視覚的な操作(GUI=グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)が中心となったため、現在は、視覚障害を持つコンピュータ技術者には厳しい状況となっている。  同社では、GUIを一般社員が、バックグランドの作業を視覚障害者が、それぞれ分担する形をとってはいるが、労力がかかるなど、今後、解決すべき課題も多い。 視覚障害者が中心となって新商品を開発  視覚障害者ならではの能力や感性を生かして、何か新しい仕事ができないかということも模索してきたが、ついに新商品の開発・受注にこぎつけた。それは、ホテルの部屋などに置かれている案内書の点字版をつくること。今後も、こうした独自のプロジェクトにも挑戦していく予定だ。 人事担当者が語る 視覚障害者雇用の基本姿勢と成果 採用と教育を担当する管理本部人事部人事課の高野文明課長 ●できるだけ特別扱いをしない  障害者というと、勝手にイメージをつくってしまいがちですが、それが間違っていることがよくわかりました。視覚障害者の雇用にあたって、当初は手さぐりの状態でしたが、仕事上、介助者と支援機器があれば問題なくできることがわかり、それ以外にも、際立って大きな支障はないため、人事考課など、全く区別はしていません。  今年4月に入社した岩本君に対しても、必要以上介助をせずに、他の新入社員の中に入れて同じように研修を受けさせようという方針で臨みました。それが功を奏していたようで、他の社員と打ち解けるのも早かったと思います。必要なことは周りが自然にサポートしますが、それ以上に特別なことは一切しないつもりです。実際に、障害があるからどうのと、誰も特に意識していない感じがします。 ●視覚障害者の能力に一般社員も触発される  コンピュータ技術者というと、おとなしいタイプが多いのですが、川村君は非常に積極的なタイプで、東京都盲人福祉協会の理事をやったり、スポーツも万能で、サッカーやバレーボールの大会でも活躍するなど、一般社員も大いに刺激を受けています。階段なんか、2段跳びで上ってしまいますから、びっくりです。  記憶力に優れている点も見逃せません。数年前の仕事の手順などを覚えているので、過去のことを振り返らなければならないときには、大いに助かっています。また、川村君には、新入社員にC言語の研修を行うときの講師もやってもらっています。戦力として計算できるので、これからも、視覚障害者に限らず、障害者の活用を研究していきたいと考えているところです。 〈キャプション〉 本社があるアレトゥーサ渋谷ビル(東京都渋谷区)。視覚障害者2名はここに勤務している。 最初に川村さんたちの上司として、視覚障害者の能力開発に尽力した岡野雄次さん。現在は営業推進本部営業統括部長を務める。 平成2年4月に入社した川村和利さん。最初の2年間は仕事らしい仕事もなく、あと1年同じような状態が続いていたら、やめるつもりだったと当時を笑って振り返る。 介助者の山口好彦さん。自身も内部障害1級のため、若い視覚障害者2名のさまざまな相談にも乗ってあげる良きアドバイザーでもある。 平成16年4月に入社した岩本謙司さん 現在、岩本謙司さんの介助者を務める管理本部人事部主事の山口隆雄さん 音声合成装置 音声合成装置の声をヘッドホンで聞きながら仕事をする岩本さん 点字ディスプレイを使って仕事をする川村さん 点字ディスプレイ ノートパソコンと点字ディスプレイを組み合わせて使用することも可能 連続紙用の点字プリンター 単票紙用の点字プリンター エレベーターに点字シールを貼った以外に、特に社内設備を改善する必要はなかった。 川村さんはスポーツ万能。バレーボール大会での金メダルなど、数々の輝かしい戦績を誇る。次の目標は北京パラリンピックにサッカーで出場すること。 p.20-25 優秀賞 株式会社テプコシステムズ ヘルスキーパー制度導入のノウハウを他社にも積極的に提供 ◆企業プロフィール  株式会社テプコシステムズ  代表者:代表取締役社長 小口俊夫  〒135-0034 東京都江東区永代2-37-28 澁澤シティプレイス永代  TEL03-4586-1118 FAX03-4586-1176 ●業種および主な事業内容  システムインテグレーションサービス、アウトソーシングサービス、ソフトウェア開発、ソフトウェアプロダクツ開発・販売、ネットワークサービス、情報処理、ハードウェア関連ほか ●従業員数 2,030名(平成17年1月現在)うち障害者数18名  <内訳>  視覚障害者3名(うち重度2名)、聴覚障害者2名(うち重度2名)、 肢体不自由者8名(うち重度4名)、内部障害者5名(うち重度4名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  東京電力株式会社の100%出資により1977年7月に東京計算サービス株式会社として設立、2001年10月に株式会社テプコシステムズに社名を改称。  東京電力の大規模システム開発で培った技術力を生かし、東京電力をはじめ、製造、物流、保険業界などの大手・中堅企業、学校、病院、官公庁などに対するシステムコンサルティング、システム設計・開発・保守・運用を行っている。  情報サービス産業業界の一員としてデータ入力や事務職、さらにはSEなどの分野で聴覚障害者や肢体不自由者などの身体障害者を積極的に受け入れてきたが、視覚障害者の職域拡大はなかなか進まなかった。一方、情報サービス産業の職場は、顧客対応や情報機器の操作から疲労やストレスが蓄積しやすい環境にある。このような状況を改善する方策として、ヘルスキーパー(企業内理療師)制度を平成11年から導入し、視覚障害者への道を開いたのをはじめプログラマー、研修部門で視覚障害者の雇用を実現している。 情報サービス分野での視覚障害者の雇用拡大の可能性を探る 設備改善 障害者雇用の推進に尽力 ▼障害者雇用率のアップ社員のリフレッシュ対策が緊急課題に  情報サービス業界では、バブル崩壊後も進展する経済社会の情報化の恩恵を受け、多くの企業が成長を続けている。株式会社テプコシステムズでも事業拡大が続く中、社員数も増加する傾向にあったことから、障害者雇用率がなかなか改善しない状況にあった。  これまでも聴覚障害者や肢体不自由者の雇用には努力してきたが、それでは雇用率の改善が進まないため、視覚障害者をはじめ、新たに障害者の雇用を検討することが求められていた。  一方、情報サービス業界に働く一般社員は残業・ 徹夜などで日常的な過密作業から疲労やストレスがたまりやすい実態にある。そのため、社員のリフレッシュ対策も重要な課題として浮上していた。  これらの課題を改善するべく考え出されたのが視覚障害者のヘルスキーパー(企業内理療師)を雇用して、マッサージ室を常設することである。 ▼問題解決の決め手としてヘルスキーパー制度を導入  ヘルスキーパー制度の導入を決意した平成10年には、全国で250社ほどがヘルスキーパー制度を導入していた。  当時総務部次長だった清水俊勝氏(後に部長、平成16年に定年退職、退職後は(独)高齢・障害者雇用支援機構の専門委員として活躍中)はこれらの企業をはじめ、すでに導入していた親会社の東京電力とグループ会社数社を訪ね、まず詳しく実態を調査することから開始した。  さらに、平成11年1月〜3月に国立身体障害者リハビリテーションセンターの理療教育部理療指導室の協力を得て、マッサージ室の具体的な運営、設備、備品、広さ、ヘルスキーパーの雇用条件などについての検討に入った。  同時に国立身体障害者リハビリテーションセンター、国立職業リハビリテーションセンター、筑波技術短期大学に求人募集のために訪問した結果、ヘルスキーパーとして国立身体障害者リハビリテーションセンター出身の大石孝さん(視覚障害1級)を採用するに至った(1年間は嘱託、2年目から正社員)。  ヘルスキーパーであることを考慮し、採用にあたっては単にマッサージ技術だけでなく、人物、特に人生経験を重視することにした。実際に多くの面接者の中から採用された大石さんは、あん摩マッサージ指圧師・鍼師・灸師の資格を取得する前は、20年近く調理師や喫茶店長として勤務しており、社会経験が豊富なうえ、技量も確かで人格も円満、格好な人材であった。  さらに、国立職業リハビリテーションセンターからプログラマーとして由木貴章さん(障害2級)、一般大卒で研修担当として中野佐知子さん(障害3級)を採用している。  なお、由木さんと同時に筑波技術短期大学からプログラマーとして1名(障害2級)を採用したが、理療資格取得のため平成15年7月31日に退職している。 改善のポイント1 通勤時の万全な安全対策を各所に要請して実現させる ▼職場環境を整え、マッサージ室をオープン  平成11年4月に大石さんを採用。保健所への届け出、視覚障害者用支援機器や各種備品の購入、運営規定の作成、ホームページでの社内広報などマッサージ室の準備を具体化し、5月のオープンにこぎつけた。同時に大石さんの埼玉県大宮市(現在のさいたま市)からの通勤時の安全対策として、地下鉄最寄駅から虎ノ門の本社建物(当時)までの誘導点字ブロックの敷設や、交差点の音声化装置の設置を国道工事務所や警視庁に要請、実現した。  なお、同社は、平成16年5月に現在の新社屋に移転したが、清水部長はその設計段階から障害者雇用に細かく配慮した「ノーマライゼーションを踏まえた新社屋の設計依頼」を提出したほか、マッサージ室についても施術場所の面積(6.6u以上)、待合室の面積(3.3u以上)、トイレの近くに設置するなど具体的で詳細な要望を提出し、実現を図っている。同時に門前仲町から新社屋までの永代通りの歩道部分の誘導点字ブロックや、歩道橋上がり口の手すりの設置を東京都第五建設事務所に要請し、実現した。 テプコシステム社のヘルスキーパー制度の運用状況 @マッサージ時間 1人当たり60分(事務処理時間を含む)、休憩10分 A時間帯 午前 9:40〜10:40 10:50〜11:50 昼休み 12:00〜13:00 午後 13:00〜14:00 14:10〜15:10 15:20〜16:20 16:30〜17:30 B利用料金 1回当たり500円 C施術内容 マッサージのみ ▼VDT障害、腰痛、メンタルヘルスなどの予防効果から利用者が定着  こうした準備の後、マッサージ室はオープンした。しかし、スムーズに同社のヘルスキーパー制度がスタートしたわけではない。  「来る日も来る日も利用者はゼロ。毎日イライラしながら待機していました」と大石さんが語るように、当初の稼働率は極端に悪かった。当時は職場が分散していたため、本社にしかないマッサージ室をあえて熱心にPRしなかったこともあったのだろう。それに大石さんも大宮市以外で働くのが初めてなうえ、通勤時間が1時間半もかかったため、神経を使うことが多かった。  そのうち、口コミでマッサージ室利用の反響が社内に広まるにつれて利用者も増え、現在では常時60%の稼働率を維持するほどになっている。  マッサージの効果の点から、「週1回」という利用制限を設けているが、リピーターが非常に多く、大石ファンは着実に社内に増大しているようだ。特に、情報サービス業界特有のパソコンに向かう時間が長すぎることから起こるVDT障害や肩こり・腰痛などの面での効果を指摘する声は多く、また、マッサージを受けながら大石さんと会話することで「精神的に癒される」とメンタルヘルス面での効果を挙げる人も多い。  もちろんマッサージの治療効果といっても、従業員の疾病率の改善や、生産性の向上などの明確な数字があるわけではない。したがって、指摘したような効果はあくまで予防的なものと同社では考えている。 改善のポイント2 ヘルスキーパー制度導入のノウハウを他社に提供、制度導入を積極的に支援 ▼国立身体障害者リハビリテーションセンターからの要請  テプコシステムズの取り組みのユニークな点は、ヘルスキーパー制度導入に真剣に取り組んでいるだけでなく、これまで苦労して練り上げてきたノウハウの外部への提供を熱心に行っていることだ。  清水部長は、情報サービス産業協会の障害者雇用部会長として、情報サービス産業における障害者雇用マニュアルを作成・配布し、障害者雇用の啓発活動に取り組んできた。平成11年のヘルスキーパー制度の導入に際し、この問題に中心的に取り組んできた清水部長はこの間に得たさまざまなノウハウをすでに整理して、制度導入を検討している企業の要請があれば提供できる準備を進めていた。  その後、平成12年10月に国立身体障害者リハビリテーションセンターから「視覚障害者の職場開拓検討タスクチーム」への参加要請を受けた。早速これまでまとめてきた資料をもとに、制度導入を計画している企業の人事・総務担当者のための支援策として、1冊のマニュアル本にまとめ、同時にホームページを開設した。  具体的には、同社がヘルスキーパー制度を導入した際の企画(企画書の立案、検討事項の洗い出し、場所の選定、施術室の設置、備品・消耗品の洗い出し、利用料金の検討)、実施(あん摩マッサージ法の調査、保健所への届出、ヘルスキーパーの採用)、管理・運営(受付、問診票、カルテ管理、集約・分析表)などの全過程で工夫・努力したことを、外部向けにわかりやすく整理したものである。 ▼視覚障害者の雇用拡大を積極支援  テプコシステムズのこれらの活動は、同様の悩みを抱えヘルスキーパー制度導入を真剣に検討している企業を支援することで、ヘルスキーパー制度の安定化と視覚障害者の雇用拡大を願ってのものである。しかも、同社のユニークな社外支援活動はこれだけではない。  それは、清水部長が筑波技術短期大学で平成12年から5年間(退職後も引き続き実施)、毎年2月に電子情報学科、鍼灸学科の学生20名を対象に1日講師を引き受けていることである。午前中は“甘えるな”を基本に、企業で働く意義、意識づけ、履歴書の書き方、面接の受け方を90分にわたって、みっちり講義する。さらに13時〜18時までは面接の演習で、情報学科で一般事務、プログラマー・システムエンジニアとして働きたい学生、鍼灸学科でヘルスキーパーや病院・治療院で理療師として働きたい学生のニーズに応えて、面接官になり個別指導を行っている。  同社は、ヘルスキーパー制度の導入をはじめとする自社の視覚障害者雇用を進めるだけでなく、他の企業支援や視覚障害の学生の就職支援を通じて、一般の視覚障害者雇用拡大という社会貢献にも熱心に取り組んでいる。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  障害者の法定雇用率の達成が課題となっていた。 これまで取り組んできた聴覚障害者や肢体不自由者の雇用だけでなく、視覚障害者の雇用にも目を向けた。具体的には、社内にマッサージ室を設け、社員の健康維持・増進を図るべく、視覚障害者をヘルスキーパーとして採用した。  マッサージ室開設に関する具体的な情報がなかった。 解決策としては、@ヘルスキーパーを既に採用している企業の訪問調査を行ったこと、A国立身体障害者リハビリテーションセンターから、マッサージ室の運営やヘルスキーパーの雇用条件などについてアドバイスを得たこと、B視覚障害者を受け入れる訓練機関や教育機関を訪問して求人募集を行ったことが挙げられる。@ABにより、マッサージ室開設に関する具体的な情報を得ることができた。  通勤経路の安全が確保されていなかった。 駅から本社までの誘導用点字ブロックの敷設、歩道橋の手すり、交差点の音声化装置の設置などを行い、安全が確保された。  マッサージ室開設当初、利用者が極端に少なく、開店休業状態であった。 社内でのPRと利用者の口コミ、マッサージによる効果から、マッサージ室の評価が高くなり、現在では常時60%の稼働率となった。 研修担当やプログラマーとして働く2人の視覚障害者 仕事を通じ、自分にできることを1つでも多く見つけたいと願っています 人材開発センター研修担当の中野佐知子さん(26歳)  現在、社内研修の運営や事務局などの運営業務、資格取得者に対する表彰などの管理業務をしています。  仕事をしながら常々心がけていることは、自分にできることを1つでも多く見つけることです。今後は、社会保険労務士の資格をぜひ取得したいと考えています。これまでもそうでしたが、今後もさまざまなことに挑戦する機会を与えてほしいと願っています。 技術の習得が大変ですが、やりがいを感じています ビジネスシステム第1部システムエンジニアの由木貴章さん(25歳)  現在、データベース管理者としてデーターベースの設計・構築・運用の仕事を担当しています。常に技術を習得していくのは大変ですが、それだけにやりがいを感じて満足しています。  今後は、さらに上流工程の開発業務に挑戦していくよう努力するとともに、資格の取得にも挑戦したいと思っています。今後も開発系技術職として仕事を続けたいと思っています。 ◆今後の課題&挑戦 リハビリ治療にも力を入れ、幅広く利用してもらえるように心がける  マッサージ室については、稼働率をもう少し上げるために、リピーター以外の利用者にも幅広く利用してもらえるようにしたいと考えている。そのためには、本社以外の職場や、時間内にマッサージ治療を受けにくい職場に重点を置いて、利用を呼びかけていく必要がある。  治療面では、最近、靱帯を切断した人など、3例ほどのリハビリ治療を行ったが、今後は単なるマッサージ治療だけでなく、骨折後や捻挫後のリハビリにマッサージ室を利用してもらえるよう、整形外科的な治療にも力を入れていきたいと考えている。四十肩・五十肩の治療も徐々に増えてきているが、まだ外部の医療機関に行く人が多い。リハビリ治療を含め、社内のマッサージ室でも十分対応でき、便利である点を積極的にPRしていきたい。  また、障害者雇用全体について、現在雇用率が1.6%なので、視覚障害者に限らず障害者雇用の促進を目指してハローワークのセミナーにも積極的に参加し、何としても法定雇用率の達成を図っていくことを当面の課題としている。 ヘルスキーパー・大石孝さんが語る 技術を磨き、期待に応えたい ヘルスキーパーの大石孝さん(49歳)  調理師として長く勤めてきましたが、視野の狭窄が進んだため、国立身体障害者リハビリテーションセンターで三療の国家資格を取得しました。マッサージ業を開業するより、どこか企業に勤務したいと考えておりましたので、テプコシステムズに採用されたときは本当にうれしかったです。  社会経験豊富といっても、大きな会社に入ったことはありませんでしたし、企業内のヘルスキーパーとしてうまくいくかと不安でした。また、大宮以外で働いたこともありませんでしたので、通勤が一番神経が疲れました。もちろん、マッサージ技術の向上にも気を遣いました。  ただ、会社からさまざまな点で心を配ってもらいましたので、スムーズに溶け込むことができました。また、肩・腰の痛みやコリを訴えていた人が「本当に楽になった」と喜んでくれると、この仕事をしてよかったと思います。  今後はさらに三療の技術を磨き、皆さんに満足してもらえるように努力し、より親しまれるヘルスキーパーになれるよう頑張っていくつもりです。 人事担当者が語る 明るい人柄と研究熱心さが人気の秘密 総務部課長(採用・企業倫理担当) 能登谷 暁さん  マッサージ室に関しては、大石さんの人柄がよかったことが一番だと思います。  マッサージ室で大石さんと何となく会話して、マッサージを受けることが最高のリフレッシュになるという利用者の声が圧倒的です。これこそ、ヘルスキーパーが外部のマッサージ治療と決定的に異なる点だと思いますね。もちろん、利用料金が60分で500円と格段に安い点もありますが、それだけでない良さを十分利用者は感じているはずです。  それにマッサージ技術に関しても、大石さんの技術は高く、しかも研究熱心で外部の研究サークルに参加して積極的に新しい技術を取り入れており、スキルアップに熱心な点でも感謝しています。  また、明るい性格で社内に溶け込もうと努力している点も感心しています。そのため、他の職場の飲み会やカラオケなどに声がかかるらしいんですね。ご本人も楽しんで参加しているようですから、大変結構なことと思っています。  また、当社には大石さん以外にも由木貴章さん、中野佐知子さんの2人の視覚障害者が働いています。2人ともSEや研修担当の仕事を通じて、それぞれハンディに負けず、健常者と同様に仕事に取り組んでいます。彼らにも、ますます意欲的に仕事に挑戦していってほしいと願っています。 〈キャプション〉 テプコシステムズが入っている澁澤シティプレイス永代 左側の部屋が大石さんの働いているマッサージ室。その右隣には、産業医がいる健康相談室がある。 マッサージ中の大石さん 歩道橋の階段に鉄板が出ており、歩行中に危険なため手すりを設置してもらった(永代通り永代2丁目交差点歩道橋)。 地下鉄門前仲町駅の上がり口の歩道部分の点字ブロック 音声リーダーソフト(ウインドウズ音声化ソフト)の付いたパソコンで、入力した文字を確認しながらカルテや問診票に記入する。熟練しているせいか、健常者とほとんど変わらないスピードである。 ウインドウズの画面拡大ソフト(NEC Zoom Text Xtra)を使って、回覧書類や入力した文字の確認をする。 ヘルスキーパー制度導入のノウハウ提供の意義を語る能登谷総務部課長(右)と大石さん(左)。能登谷課長は総務部人事グループに所属し、採用および企業倫理を担当している。 テプコシステムズでは、ホームページで「ヘルスキーパー制度導入のための手引書」など、ヘルスキーパー制度に関するさまざまなノウハウを公開している。 遠赤外線の照射を受けながらマッサージ治療を受ける利用者 飲み物の自動販売機にも、点字表示をしている。 エレベーターには点字シールを貼っている。 p.26-31 優秀賞 株式会社アンウィーブ 自社開発した「在宅就労システム」で在宅雇用を実現 ◆企業プロフィール  株式会社アンウィーブ  代表者:代表取締役 牧 文彦 (平成17年4月までの所在地)  〒550-0004 大阪府大阪市西区靭本町1-4-12 本町富士ビルB棟9F (平成17年5月からの所在地)  〒550-0004 大阪府大阪市西区靭本町2-2-17 RE006 401  TEL06-6479-1303  FAX06-6479-1301 ●業種および主な事業内容  在宅就労システム「アンウィーブシステム」を中心としたIT化事業 ●従業員数 2名(平成17年2月1日現在)うち障害者数1名  <内訳>視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  従来の固定概念や先入観をなくし、解きほぐされたビジョンで、高齢者や障害者・育児中の女性などが高度情報化社会を生きるためのビジネスモデルを提供し、自立支援することを目的として設立された。2004年の「関西IT活用企業百撰」にも選出されている。  コンピュータに関する技術と能力を持つ視覚障害者の東秀樹氏の能力を生かすため、視覚障害者による視覚障害者のための検索エンジン「EYELINK」と在宅就労を支援する「アンウィーブシステム」を開発。現在、東氏は「アンウィーブシステム」を利用し、「EYELINK」の管理・運営者として在宅就労している。  アンウィーブでは、在宅就労システム「アンウィーブシステム」を自社での東氏の在宅雇用だけではなく、この普及を通じて、他社での在宅雇用を支援する事業に取り組んでいる。 就職に苦労していた全盲の視覚障害者を雇用するためのプロジェクトをスタートさせる 職域・能力開発 障害者雇用の推進に尽力 ▼インターネットを利用したSOHOによる在宅就労システム  人と人との出会いは不思議である。ときには人生を大きく変え、ときには新たなビジネスを生んだりもする。デザインやインターネット事業を展開する株式会社イノセンスの牧文彦社長と、全盲の東秀樹さんの出会いもまさにそうだった。  東さんは2002年4月に大阪障害者職業能力開発校OAビジネス科に入校。2003年3月の卒業に向けて、パソコンの技能を生かした仕事に就こうと20数社にも及ぶ就職面接に足を運ぶが、ことごとく不採用となった。視覚障害者に何ができるのかを理解してもらえず、実際に就職するのは難しいという現実を目の当たりにする。  そこで自立の手段として、自らオンラインショップの開設・運営ができないかと思い悩んでいるときに、大阪障害者職業能力開発校の講師でもある牧社長を紹介され、相談することになった。2002年8月のことだった。  牧社長は、視覚障害者には商品の色の判別や検品が難しいことからオンラインショップは無理と判断。10年前から考えていたインターネットを利用したSOHOによる在宅就労システムを東さんに提案した。  「10年前と比べて、パソコンやインターネットの使用料金などが安くなった今なら、十分に可能だと思ったのです」 ▼検索エンジン「EYELINK」の開発に二人三脚で取り組む  ここから、視覚障害者による視覚障害者のための検索エンジン「EYELINK」の開発に向けて、牧社長と東さんの二人三脚が始まった。牧社長には検索エンジンに関するノウハウはあっても、それを視覚障害者が使う場合、どこが使いにくいのか、どうすれば使いやすくなるのかがわからない。東さんの意見を繰り返し繰り返し聞くことになった。  「EYELINK」の管理・運営は在宅就労で行うことを前提とした。視覚障害者にとって毎日の通勤は、健常者に比べて危険や負担が大きいからだ。そのため、勤怠管理もできる機能を組み込むなど、在宅就労システム「アンウィーブシステム」と、それを利用した検索エンジン「EYELINK」の開発は着々と進行していった。 成功のポイント1 在宅雇用の土台となる会社を出資者を募って設立する ▼事業認定を受けるため3ヵ年の事業計画を作成  この取り組みを次につなげるために、まず、大阪府中小企業支援センター・財団法人大阪産業振興機構の事業認定を受ける準備をした。当初は東さんを社長として「EYELINK」事業を展開することを考えたが、「前例がなく難しいのではないか。牧社長が第二創業という形で申請したほうが認定される可能性が高い」とのアドバイスを受け、牧社長が第二創業で新会社を興し、東さんが在宅就労で管理・運営するということにして、3ヵ年の事業計画を提出した。  2002年12月12日、事業認定の審査のための公開プレゼンテーションを行った結果、「EYELINK」が大阪府中小企業支援センター・財団法人大阪産業振興機構の認定事業に決定、事業資金が支給された。しかし、「EYELINK」を実際に稼働させ、東さんを在宅雇用するためには土台となる会社を設立する必要があり、まだまだ資金が不足していた。 ▼従来の固定概念や先入観を解きほぐしたい  そこで、この事業に共鳴し、かつ信頼できる人たちにプレゼンテーションを行い、「誇りを持って働きたい方を支援する、アンウィーブ」への出資者を募った。専門家により審査され、認定を受けている事業であることが、より理解の輪を広げていった。こうして1,500万円の資金が集まり、2003年2月に株式会社アンウィーブを設立。アンウィーブとは、「解きほぐす(unweave)」という意味である。従来の固定概念や先入観をなくし、解きほぐされた新しいビジョンで高齢者や障害者・育児中の女性などに、高度情報社会を生きるためのビジネスモデルを提供していこうという思いが込められている。  そして、2003年5月に東さんが入社。6月から「EYELINK」の運営をスタートさせた。  「東君が卒業するまでに会社を設立したかったので、認定事業に決まってから会社設立までの間は、資金集めや会社の設立登記の準備、雇用保険等の取得などで本当に大変でした。もう、これにかかりっきりで、仕事どころじゃなかった。会社がつぶれるかと思いました」と、笑いながら当時を振り返る牧社長。こうして東さんの在宅雇用が実現したのである。 成功のポイント2 「アンウィーブシステム」で他社の在宅雇用を支援 ▼東さんのほかにも11例の在宅雇用を実現  現在、多くの企業でコンピュータのシステム管理やホームページの運営・管理などができる人材を必要としているが、それが障害者にできるという発想は、残念ながらまだまだ少ない。その固定概念を解きほぐすべく、アンウィーブは、自社での東さんの雇用にとどまらず、東さんの在宅雇用を実現させた「アンウィーブシステム」を使って、他社における障害者の在宅雇用を支援する事業を行っている。  アンウィーブでは、企業と人材のマッチングにあたってさまざまなアドバイスはするが、この費用は無料である。採用が決まり、在宅就労するために必要となるシステムの構築と運営・管理などの業務を受注するというビジネスモデルである。  障害者でも簡単に操作できるようにするシステム構築はもとより、出退勤の管理や日報等のやり取りなど、企業側の面倒な管理を必要としない便利なシステムをすべて提供するため、採用企業からの評判も上々だ。これまでに、東さんを含めて12例の障害者の在宅雇用を実現させてきている。 ▼開発部隊としての役割を果たす東さん  東さん以外の11例の在宅雇用にあたっては、東さんが実際に「EYELINK」を運営・管理しながら気づいたことが役立ち、システムにどんどん改良が加えられてきている。いわば、東さんは開発部隊としての役割を果たしているのである。  東さんの勤務時間は、月〜金の9:30から18:30まで。時間になると、まずパソコンを立ち上げ、出勤ボタンを押すことから始まる。このほか、外出、休憩などもすべてパソコン上でクリックするだけ。それが会社側ですべて把握できる仕組みだ。  現在、「EYELINK」には視覚障害者向けのサイトが1,346件(2005年1月末現在)登録されている。これらの管理や追加作業、問い合わせメールへの対応、また視覚障害者を含む約1,100人が登録しているメールマガジンの週1回の配信などを、東さんがすべて1人で行っているのである。 ◆取り組みの実例 1.「EYELINK」の事業化に向けた取り組み 問題点・課題 方策と効果  健常者用の既存システムは、視覚障害者にとって使用は難しい。 まず、マウス操作をすべてワンクリックで行えるようにした。次に、すべてのソフトを統合して1画面で管理・運営できるようなインターフェースにし、すべてのページを音声ブラウザに対応できるように改良した。 また、在宅雇用のために生ずるコミュニケーション不足の解消のために、多数のコミュニケーションツールを開発した。BBS(電子掲示板システム)はもちろん、会議室機能や社内メール・掲示板形式で視覚障害者に講義を行えるような教育システムなど、さまざまな機能も追加。在宅就労規定もホームページ上から音声ブラウザでいつでも確認できるようにした。 これらの改良・改善によって、東さんの在宅雇用が可能となった。  在宅で勤務する社員の勤務状況などをどのように管理するかが課題となった。 勤怠管理システムにより、在宅で働く障害者がパソコン上をクリックするだけで、出勤・外出・休憩・就業などの時間がすべて会社側でわかる仕組みにした。緊急の場合などにも、すぐに会社と連絡が取れるように「非常救援メール」の項目を設置している。 また、外出している場合には、音声読み上げ機能の付いた携帯電話と組み合わせることで、いつでも連絡が取れるようにした。 こうした勤怠管理以外にも、グループウェア機能のようなものを使って、雇用者と視覚障害者とがマンツーマンでコミュニケーションを取ることができるようにした。通常業務で必要なことはすべてコンピュータで管理が可能となっている。  障害者の情報処理能力について、採用側の認識が十分にない。 在宅就労システムについて問い合わせがあった場合には、出かけていって、これまでの事例や障害者在宅雇用のメリットなどを説明する。 また、訓練校などを見学し、障害者がパソコンを操作するところを実際に見てもらう。これが一番効果的で、たいていは「目からウロコ」で、障害者のパソコン能力の高さを認識してもらえる。  障害者などの在宅就労システムを構築し、事業化したいが、そのための協力が必要であった。 大阪府中小企業支援センター・財団法人大阪産業振興機構の事業認定を受けるべく、「EYELINK」の事業計画をまとめ、申請を行ったところ、2002年12月、認定事業に決定し、事業化に向けた協力を得ることができた。 さらに、東さんを在宅雇用するためには土台となる会社を設立する必要があったため、信頼できる人たちからの協力を募った結果、会社設立に至ることができた。 2.人材育成に向けた取り組み 課 題 方策と効果  Webの仕事ができる障害者を育成していかなければならない。 大阪障害者職業能力開発校に、2004年4月からWebデザイン科が新たに開設された。そのときにカリキュラムなどのアドバイスや講師の派遣などを行った。人材を育成し供給する側の体制整備にも貢献している。 ◆今後の課題&挑戦 広告掲載などで新たな収入が見込める段階に  「EYELINK」の運営を開始してから2年近くが経ち、メディアとしてもかなり浸透してきた。今後はメールマガジンに広告を入れたり、月に1回特集を組んで、そこにバナーを貼ったりして、新たな収入源にすることも検討していく予定だ。  「『EYELINK』がメディアとしても育ち、ようやく広告も入れられるような段階にきたというわけです。そうした収入が増えれば、東君の給料を上げていくことも可能になります」(牧社長) 今後は「アンウィーブシステム」の営業活動にも力を注ぐ  在宅就労システム「アンウィーブシステム」の販売も、これまではまだ手探り状態であったため、月に1件対応するのがやっとという状態だったが、実績を積み、ノウハウも蓄積されてきたため、今後は本格的な営業活動を展開することにしている。  まず、中小企業の支援を行っている大阪のNPO法人「オービット関西」を通じて、「アンウィーブシステム」を紹介してもらうことにした。今後、「アンウィーブシステム」を活用した障害者等の在宅就労がさらに広がっていくことだろう。 社長が語る 誰もが誇りを持って働けるノーマライゼーション社会を実現したい 牧 文彦社長 ●採用する側の意識の転換こそが必要  IT技術の進歩・普及により、障害者がシステム管理やホームページの運営・管理などに能力を発揮できる環境が整ってきました。視覚障害者についても、点字キーボードや音声変換ソフトなど、ハード・ソフトともに開発が進み、健常者と同様に、あるいはそれ以上に、コンピュータを操作できるようになっています。  ところが、採用する側の認識があまりにもなさすぎます。視覚障害者を含め障害者にパソコンが操作できるわけがない、という先入観を持っている。そうではないことを、当社の東君はじめ、多くの障害者たちが実証しています。能力と適性があれば、パソコン操作に障害の有無は関係ない技術環境が整ってきていることを、多くの方々に理解していただきたいと思います。 ●障害者の仕事に対する情熱には 素晴らしいものがある  通勤に危険や負担を伴う障害者にこそ、在宅就労は最適です。パソコンの操作能力の面でも、そして仕事に対する情熱の面でも、健常者に勝っている人たちがたくさんいます。ぜひ一度、障害者がパソコン操作するところを実際に見てください。法定雇用率を達成するための採用というのではなく、「実際に役に立つ、戦力になる」ということがわかるはずです。今後も当社は、「アンウィーブシステム」の普及を通じて、誰もが誇りを持って働ける、ノーマライゼーション社会の実現を目指していきたいと考えています。 〈キャプション〉 アンウィーブのオフィスの入り口に立つ東秀樹さん(左)と牧文彦社長(右) 東秀樹さんは21歳のときに失明。いったん鍼灸マッサージの道に進んだが、その後、パソコン技能を生かす道を目指した。 牧社長と東さんの打ち合わせ。東さんは必要に応じて月に1〜2回、打ち合わせなどのために会社を訪れる。 打ち合わせのときには、点字の電子手帳を持ち歩き、メモを取る。 株式会社イノセンスのオフィス。「アンウィーブシステム」の開発は、アンウィーブがイノセンスに業務委託している。 携帯電話にも音声読み上げ機能が付いているので、いつでも会社とやり取りが可能。 「EYELINK」のシステム管理の画面。すべての管理が簡単にできるようになっている。 自宅の2階にある、東さんの部屋兼仕事場 仕事ではノートパソコンを使用 ときには点字ディスプレイを使用することもある。 「EYELINK」に登録されているサイトを25のカテゴリーに分類して管理している。 電話器は点字シールを貼って使用 業務で活用している点字プリンター 将来、アンウィーブ用のオフィスにすることも検討しているコーナー 「アンウィーブシステム」で1人でも多くの障害者の在宅就労を実現するのが、牧社長と東さんの願いである。 p.32-37 優秀賞 社会福祉法人 瑠璃光会 重度の障害を乗り越えケアマネージャー業務を積極的に遂行 ◆企業・法人プロフィール  社会福祉法人瑠璃光会  代表者:理事長 生田忠照  〒855-0068 長崎県島原市杉山町甲673―1 TEL・FAX 0957-64-5608 ●業種および主な事業内容  居宅・通所介護および生きがい活動支援通所事業。  通所介護のデイサービスセンター「宝生園」の運営。  居宅介護支援事業「社会福祉法人 瑠璃光会」の運営。  ケアマネージャーによる介護のアドバイス、介護サービス計画の作成、住宅改修や介護用品・福祉用具の提案。デイサービスなどを組み合わせた利用者や家族にとって生活しやすい環境づくりの提案。 ●従業員数 16名(平成16年7月7日現在)うち障害者1名 <内訳>視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成5年に地域福祉の向上を目的に社会福祉法人を設立。同6年に老人の在宅福祉を支える施設として、デイサービスセンター「宝生園」を開園した。 その後、介護保険法のもと平成12年4月から介護保険事業所として長崎県の指定認可を受け、居宅・通所介護・生きがい活動支援通所事業を行っている。 宝生園にボランティアとして、1年ほど利用者の按摩・マッサージを行っていた視覚障害者から、介護保険制度の開始に伴って、ケアマネージャーの資格を取りたいが、資格取得の場合に雇用してもらえるかとの相談を受ける。 福祉事業を行う立場として、意欲ある障害者の雇用にも前向きに取り組むべきとの考えから、採用に踏み切った。 重度障害者が中核的な役割を担う介護支援組織の誕生 社員への受け入れ教育 介助者 ▼ボランティアでお年寄りの世話を する視覚障害の青年 平成6年ごろから、瑠璃光会が運営する老人デイサービスセンター「宝生園」に視覚障害のある青年が現れ、マッサージなどボランティアで利用者の面倒を見てくれるようになった。明るい性格でやさしく、評判は上々で、いつしか園内の人気者になっていた。当初は年1回の創立記念の行事に手伝いで参加してくれていたが、平成10年の秋からは毎日来てくれるようになっていた。 このボランティアの青年こそ、現在の上田憲三ケアマネージャー(34歳)である。上田さんが「宝生園」のボランティアとして関わるようになったのは、当時参加していた知的障害者支援のボランティアグループを通じて「宝生園」職員の中尾明稔さん(生活相談員)と知り合ったことがきっかけで、その後、鍼灸マッサージ師として勤めていた老人保健施設を退職した後、毎日来園するようになった。 その上田さんが、何と11年の春から中尾さんと一緒にケアマネージャーの資格を取ると言い出して猛烈に勉強を始めたのである。 「合格したら職員として採用してもらえないか」と上田さんから相談を受けた生田忠照理事長は、ただでさえ難関の介護支援専門員試験に視覚障害者が挑戦する意気込みにすっかり感動した。 そして、せっかく難関を突破しても、働く場がないのでは残念だろうと、本人の励みになるとの気持ちから快諾の返事をした。もちろん、福祉事業の一端を担う立場から障害者雇用の門戸を閉ざしてはいけないという自覚があったことも確かである。 ▼視覚障害1級のケアマネージャーの誕生 施設側からの温かい支援はあったものの、受験勉強が困難な現実は一向に変わらない。実際、試験用テキストブックは、点字にも翻訳されているが、同じ内容のものが電話帳ほどの厚さで20数冊になってしまう。音訳テープも市販されていたが、テープでの勉学が苦手な上田さんは、膨大なテキストを読破して内容を理解しなくてはならない。もちろん、必死で頑張ったが、中尾さんとの連携プレイの効果も大きかったのだろう。 11年9月には見事合格。鍼灸マッサージ師の資格を取得していたため、11年10月から、まずは機能訓練指導員として採用される。そして実務研修を経て翌年1月に視覚障害1級のケアマネージャーが誕生することとなったのである。 そして、12年3月社会福祉法人瑠璃光会の居宅介護支援事業の開始とともに、要介護認定申請の手続き、介護のアドバイスや介護サービス計画(ケアプラン)の作成など、ケアマネージャーとしての業務がいよいよスタートすることになった。 現在も機能訓練指導員として1日2時間ほどデイサービスセンター「宝生園」で利用者へのマッサージなどを行い、残る大半の時間をケアマネージャーとしてケアプランの作成などに携わっている。 当時、視覚障害者のケアマネージャーとしては、上田さんが九州では第1号であった。現在でも同資格を持つ視覚障害者は全国に200〜300名ほど存在するようだが、実際にケアマネージャーとして実務を行っている人はほんの数名しかいないといわれている。 改善のポイント1 職場介助者が対外業務などをバックアップ ▼ケアマネージャーの業務に関しては専門の職場介助者が補助作業を担当 ケアマネージャーの業務は、主に次のようなものである。 @要支援・要介護者およびその家族などに対する面接調査 A介護サービス部門の担当者会議 B介護計画(ケアプラン)の作成 C介護計画の見直し、再検討 D介護保険関係機関との連絡・調整 E介護保険関係機関への提出書類の作成 F電話による相談連絡業務 これらケアマネージャーの業務のうち、介護計画(ケアプラン)の作成・見直しや関係機関への提出書類などの文書の作成については、上田さんは点字はもとよりパソコンの経験も豊富で音声化ソフトを使いながらスムーズに行うことができる。また、通常の電話による相談連絡業務も点字メモを使いながら問題なくこなすことができる。 ▼弱点は介助者がきめ細かくフォロー だが、要介護者やその家族などとの面接調査では質問や相談は本人が行うが、相手の表情や動作などについては、後で状況を説明する介助が必要である。この時の記録は本人も点字メモで行うが、記録補助が必要である。 そのほか、本人が作成した文書の確認作業やデータ化されていない文書・資料の読み上げ作業、関係書類の取り出し作業などで介助が必要だ。   さらに、要介護者の自宅を訪問する際、あるいは介護保険関係機関との連絡・調整や書類提出のための外出には、付き添い補助が必要である。 このように、ケアマネージャーの業務のうち、書類の作成や通常の電話による相談・連絡業務を除く業務については何らかの補助が必要なことがわかる。 そこで、瑠璃光会は、上田ケアマネージャーの職場介助者(看護業務との兼任)として堀田久美子さんを選任して、バックアップする体制を築いた。 改善のポイント2 職場全体で相互に支え合う日常的な環境づくりが大切 ▼障害者の業務遂行をさまざまな形でバックアップ もちろん、バックアップ体制は職場介助者だけに任せているわけではない。 要介護者など外部の人間との面接に際しては、表情などが認知できないことによるトラブルを避けるためにも、極力即答を控え、上司と相談のうえで回答するようにし、場合によっては理事長を通して回答する体制をとっている。 言葉の表面だけでない言外の意図や機微を理解するのは、相手の顔色や目つきがわからない視覚障害者の弱点でもあり、こうした社会生活上の常識を丁寧に説明することも重要なことである。 また、本人への緊急の連絡事項などについては口頭で確実に伝えるように職場の全員が心がけている。 さらに、往復の通勤については安全面を考慮して、近くに住む、中尾ケアマネージャーの車で送迎を行っている。中尾さんの都合が付かないときには、上田さんの家族が送迎を代行している。 全国でも極めて少ない、重度の視覚障害者のケアマネージャーの業務を成功させるためには、本人の能力アップはもとより、職場の理解と協力は不可欠である。そのために業務以外でも懇親会や食事会などコミュニケーションの場を設けて、相互理解に努めている。 その結果、上田さん本人の高い能力や人柄の良さも手伝って、障害者の雇用の維持・拡大にとって上田さんが重要な役割を担っているとの自覚と責任感が、職場全体に浸透しつつある。特に、まだ雇用事例の少ない福祉事業で先導的な役割を果たしている意義についても理解が深まってきている。 ▼職場環境に特別な配慮はせず 以上のようなきめ細かなバックアップ体制がある一方で、上田さんを実際に雇い入れるにあたって、瑠璃光会では職場環境を整えるなどの配慮はほとんどしていない。もっとも職場そのものがデイサービスセンターであり、出入口のバリアフリー、階段やトイレの手すりなどお年寄りを対象にした配慮はすでに行き届いていたから、特に必要がなかった面もあるが、それだけではない。 基本的に健常者の職員を雇い入れるのと同様で、全く遠慮せずに同じように仕事をしてもらうつもりで対処している。人一倍負けず嫌いの上田さんももちろんこのような扱いを望んだはずだ。実際に通常の立ち居振る舞いでは健常者と全く変わらないほど勘がいいことも事実である。 しかし、基本姿勢は健常者と全く同じであっても、障害者としてできないことはお互いにはっきり認め合い、できる範囲の仕事を徹底してやってもらうことにしている。 上田さんはこれまでも機能訓練指導員として、障害者の視点から優しくお年寄りに接して高い評価を得ている。ケアマネージャーとしてもより要介護者の立場に立った提案ができるはずだ。その点で、福祉事業に障害者の職員が存在する意味はより大きいといえるであろう。 確かに、視覚障害者の雇用は職場全員の理解と協力が必要である。職員全員が日常業務の中で気負わず当たり前のこととして視覚障害者をバックアップし、視覚障害者も介助されながらできることをするだけでなく、障害者ならではの視点=強味を発揮することで、ともに助け合う環境づくりが大切だ。瑠璃光会は、そのような高い目標に向けて着実に前進しようとしている。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果 要介護者や家族との面接調査、外出が1人では困難である。 重度障害者介助等助成金を申請、職場介助者を選任することで、面接時の相手の表情を伝えること、記録の補助、外出時の付き添い・運転などの作業をバックアップすることで可能となった。 介護計画や申請書類の作成が難しい。 点字文書の作成や音声読み上げソフトを導入したパソコンの活用で、作業に支障はなくなった。ただ、作成文書の確認には介助者の補助が必要である。 電話相談はできるものの、微妙なニュアンスなどに誤解が生じやすい。 できるだけ即答は避けて、微妙な問題については、上司と相談したり、場合によっては理事長を通して、回答するようにしている。また、言外にあるニュアンスや社会人としての常識などの教育は、理事長が行い、トラブルを未然に防いでいる。 視覚障害者ならではの仕事はできないか。 障害者の立場から、高齢者や障害者などハンディキャップのある人の相談に理解をもって接するため、ケアマネージャーとしての評価は高い。今後、介護保険だけでなく障害福祉を含めた新たな仕事を追求していくことにしている。 あらゆる面でスキルアップし、社会福祉士の資格に挑戦したい 視覚障害1級のケアマネージャーの上田憲三さん(34歳) パソコンでデータ化された資料は一般には音声化できるので助かるのですが、まだデータ化されていない資料も多く、それらは介助者に読んでもらわなくてはなりません。 それにデータ化されているものでも、PDFファイルにされているものは音声化できないものが多く、画像をスキャナーに読み込んでPDF化したものは、音声化できない状況です。 ケアマネージャーとして一番の弱点だと思うのは、介助者なしで外部に出かけることができないことです。居宅介護でもデイサービスを利用される方はこちらに来られたときに努めてお話を伺うようにはしていますが、訪問回数がどうしても少なくなってしまいます。 それに要介護者や家族と面接するときに、細かく介助者に説明してもらうことになっていますが、やはり実際に表情や動きが見えないのは弱点だと思います。 今後は、これらの弱点をカバーするためにもあらゆる面でのスキルアップに努力し、できれば、社会福祉士の資格を取得したいと考えています。 現在の仕事をして何よりの喜びは、社会の一員として自分のできることでお金を稼いでいることです。その点では周りのみなさんの支えに心から感謝しています。 ◆今後の課題&挑戦 視覚障害者の弱点を逆手に取ってむしろ長所に転ずる 視覚障害者の長所は、特に視覚に弱点のある人の悩みを一番理解できることだ。ケアマネージャーをやっていて痛感するのは、介護保険がどちらかというと、視覚障害者や聴覚障害者よりも、肢体不自由者に重点を置いているように思われる点である。 例えば、眼が見えないことや耳が聞こえないことに関する質問項目はそれぞれ1つしかない。眼が見えないことで具体的にどこが不自由かを聞く項目がない。実際、両足は健全で歩けるのに、見えないから歩けないということを考慮していない。 そして、バリアフリーといえば、段差をなくすことと短絡に考えがちだが、視覚障害者にとっては歩道と車道の段差をなくすと、知らないうちに車道を歩かされることになり、かえって危険なのだ。また、玄関の段差も視覚障害者にとっては家の内外を区別するために必要なものだ。 障害者の立場に立ってきめ細かな支援事業を展開する このように、ケアマネージャーとして視覚障害者の立場に立った介護支援ができるはずだ。 健常のケアマネージャーの場合、障害者の福祉制度の利用について、自分の問題として考えることは難しいかもしれない。上田さんの場合はケアマネージャーである前に、1人の1級の視覚障害者である。このため、上田さんにとって、介護保険制度や障害者の福祉制度の利用法について、視覚障害者の視座から要介護者にアドバイスできる点は、強みといえるであろう。 つまり、要介護者の立場に立ったより適切な方法を考えられるはずだ。障害者のケアマネージャーならではの、そんなきめ細かな支援サービスのあり方を追求していくことにしている。 理事長が語る 障害者のリーダーとして新しい事業の立案をしてほしい 社会福祉法人瑠璃光会 生田忠照理事長 ●雇用したのは仕事ができるから ざっくばらんな話、上田君を雇用したのは、仕事ができると思ったからです。もちろん、彼の人並み以上の努力と情熱に敬服したことも事実です。また、福祉事業の一端を担っている立場からそのような情熱を持った積極的な青年を支援すべきとの責任感がそれなりにあったことも確かです。 しかしながら、小なりといえども事業をやっている以上、障害の有無に関わらず能力のない人間を雇用することはできません。彼にも採用するにあたって、「期待どおりの仕事ができなかったり、人間関係がうまくいかなかったらやめてもらうよ」と言いました。 彼の能力や人柄については、1年間ボランティアをやっていましたから、こちらの期待を裏切らないことは十分承知していましたが……。実際、健常者以上に自己管理には厳しいですし、できるだけ人に迷惑をかけないようにするとともに、できることは人以上にやるという姿勢は徹底しています。その辺は立派だと思いますよ。 ●障害者の雇用拡大に結びつく新事業を起こしてほしい 上田君は健常者なみに期待どおりの仕事をしているので、健常者と同じ待遇をしています。もちろん、ケアマネージャーとしてもっと彼の能力を発揮してもらいたいのは事実ですが、今後に期待しているのはそれ以上のことなのです。 それは、健常者並みの仕事ができるような環境をつくり、他の障害者のために雇用の場を広げる仕事を彼にやってほしいということです。彼は障害者であるために、健常者以上に聴覚障害、肢体不自由など他の障害者の気持ちがよく理解できるはずです。 そこで考えているのは、彼をリーダーにしてさまざまな障害者を組織し、弱点をカバーしながら運営する事業、また通勤がしやすい、住居を隣接した事業を瑠璃光会として立ち上げてほしいと考えています。 当然、事業ですから一定の利益を上げなくてはなりません。そんな構想について、彼とも話し合っている段階ですが、彼の構想力や実行力、リーダーシップをもってすれば必ず実現するものと期待しています。 〈キャプション〉 社会福祉法人瑠璃光会が運営するデイサービスセンター「宝生園」 生きている時間こそが大切な宝物なのです!という運営理念から命名された。 1日2時間ほどは機能訓練指導員として「宝生園」の利用者と談笑しながらマッサージをする上田憲三さん 点字メモ帳をもって堀田さんの運転で要介護者宅に外出する。 電話相談を受けながら、点字メモを取る。 音声読み上げソフト(PCトーカー)付きのパソコンによるデータ入力。要介護者個人の来月の予定表を作る。 施設内で要介護者の相談に乗る。堀田さんが記録補助者として介助する。 上田さんには、ケアマネージャーとしてだけではなく、他の障害者のために雇用の場を広げる仕事をやってほしいとの期待がかけられている。 p.38-43 優秀賞 熊本県商工会連合会 自立支援の体制づくりで職場復帰を実現 ◆企業・法人プロフィール  熊本県商工会連合会  代表者:伊東昭正  〒860-0801 熊本県熊本市安政町3-13 TEL096-325-5161 FAX096-325-7640 ●業種および主な事業内容  主として町村の商工業の活性化を図るとともに、社会一般の福祉の増進に資することを目的に、商工会法に基づき設立された特殊認可法人。地域の事業者が業種にかかわりなく会員となり、事業の発展や地域の発展のために活動する総合的な経済団体。  国や県の小規模企業施策(経営改善普及事業)の実施機関でもあり、小規模事業者を支援するために経営相談・指導のほか、さまざまな事業を行っている。 ●職員数 35名(平成16年4月現在)うち障害者数1名  <内訳>  視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  熊本県には86の商工会があり、連合会では商工会の事業運営や広域的な問題、業種特有の問題など、より専門的な問題について支援している。  連合会にとって障害者雇用は今回が初めてのケースであり、中途視覚障害者となった職員が、休職後、本人の職場復帰への意志・努力と連合会での受入体制の整備により、本人の経験・能力を極力生かした形での職場復帰を実現した。 突然の視覚障害を乗り越え長年の経験を生かした業務で職場への復帰を果たす 支援機器導入 職域・能力開発 ▼ベテラン職員の突然の視力低下 平成13年4月、熊本市託麻商工会の経営指導員であった甲斐幸二さんは、急激に視力が低下し、日常業務に差し支えるほどになった。甲斐さんは、熊本県商工会連合会傘下の商工会数カ所を計21年にわたって勤務していたベテラン職員(当時47歳)。県下で会員数が最大の同商工会の実質事務局長ともいえる責任ある立場で、自前の会館の建設中ということもあり、連日過密な仕事をこなしていた。ある日突然の視力の低下に衝撃を受ける。 さっそく専門医の治療を受けるが、思わしくなく、休職して同年7月から熊本大学病院に入院する。原因ははっきりしないが、夜中までパソコンを扱うなど眼を酷使していたことは事実である。両眼とも網膜の神経萎縮による視力の低下で、最新のステロイド治療を試みたが、視力は一向に回復しなかった(障害2級)。 休職期間中も甲斐さんの職場復帰の意志は固く、熊本大学病院の神経内科の紹介で福岡県柳川リハビリテーション病院に入院、復職に向け、画面拡大ソフトやスキャナーを利用した活字音訳システムを使用したパソコン講習を受講。その結果、トレーニング次第では事務的作業の可能性は高いとの評価を受け、熊本県商工会連合会では復帰できる職域の検討に入った。 そのうえで、職場復帰に向けて日常生活訓練とより高度なOA訓練を受けるために、平成14年8月から15年3月まで大阪市の日本ライトハウス視覚障害者リハビリテーションセンターに入所することになった。 ▼熊本市託麻商工会から連合会への移籍による職場復帰を実現 これらの訓練を経て甲斐さんの自信は高まり、職場復帰の意欲もより確かなものになった。熊本県商工会連合会としては中途障害者の職場復帰の取り組みは初めてのケースであったが、本人の強い希望とこれまでの実績を評価し、受け入れる具体的な職場を検討することになった。 そして、元の職場である熊本市託麻商工会では、直接事業所を訪問するなど外出する機会が多く本人の負担が大きいため、移動の少ない事務所内での業務が主体の連合会に移籍したほうがよいという結論に至った。早速、甲斐さんの意向を確認し、平成15年4月、熊本市託麻商工会から熊本県商工会連合会へ移籍したうえで、連合会の職場に復帰することになったのである。 改善のポイント1 就労支援機器を導入、他の職員とのコミュニケーションを図る ▼本人の意向を尊重、助成金を活用し就労支援機器を整備  周辺視野は残っているが、視点の中心が見えないため、少し離れた場所の様子、文書の全体像(レイアウト・構成・図形)や色彩の判別が困難である。だが、文書は拡大読書器やパソコンによる文字の拡大、スキャナーによる音声変換で判読できる。インターネット、ワード、エクセルなど情報機器に関する習熟度は高い。もちろん、電話や面談による会話については、健常者同様に可能である。  甲斐さんの視覚障害の状況を客観的に判断、本人の積極的な提案を受け入れながら、職務遂行上必要となる就労支援機器の導入の具体的な検討に入った。  そして、実際に使用する機器については、熊本県障害者雇用促進協会に障害者雇用継続援助事業に基づく助成金(中途障害者作業施設設置等助成金)を申請、別表一覧表にある機器を設置することに決定した。 助成金を活用し設置した就労支援機器の一覧 ・ノート型パソコン(富士通FMV−718 NU4/B) ・スキャナー(エプソンGT−9800F) ・拡大読書器(ベスマックス タイプL) ・音声変換ソフト・ヨメール(アメディア Ver.5)・デジタルルーペ(ベスマックス V Reader) ノート型パソコンは音声リーダーソフト付きで事務所内でも外出先でも使用可能である。外出先へはデジタルルーペを持参し、パソコンと連動させて文字を画面に拡大して使用する。スキャナーは、音声変換ソフト・ヨメールとセットで使用することで、文書などを拡大するだけでなく音声に変換して読み取ることができる。拡大読書器は、液晶モニターと一体型でオートフォーカスで文字を拡大して判読する。 ▼職員とのコミュニケーションでは極力、自然な交流を目指す  障害者を受け入れるといっても、「障害者だからできない」というような先入観は、なるべく持たないようにしている。介助者も設けず、職場環境を含めて特別の配慮はしていない。この点は本人の希望でもあり、甲斐さん自身周囲と極力普通に接するように心がけている。実際に本人の勘がいいこともあり、事務所内での移動ではそれほどの困難はないようだ。  通勤についても、独力で約4キロのバス通勤を行っている。自宅からバス停まで近いこと、バス停から事務所までには大きな交差点があるが、音声付き信号で問題が少ないことから特別の配慮はしていない。  もちろん相応の気配りも必要で、室外を歩くときや困っている場合には、周囲の職員が自然に気遣うように心がけている。  実際に甲斐さん自身も職場内の懇親会や親睦会にも積極的に参加しており、他の職員とのコミュニケーションは十分図られている。 改善のポイント2 各種業務を新たに経験することで具体的に支援体制づくりを探る ▼新たな発想で3ヵ月ごとに各職場を経験  20数年のキャリアがあるとはいっても、視覚障害になった現在、その経験がそのまま生かせるわけではない。また、2年間休職している間に新たに学ばなくてはならない業務知識も当然増えているはずだ。  甲斐さんの過去の経験を生かして具体的に何ができるかを考えるには、全く新しい発想に立って各職場を経験し直すのが一番よい方法だと考えた。具体的には、商工会指導員として、商工会運営指導に関する業務を担当する各課を3ヵ月ごとに経験してもらうことにした。  まず、広域振興課では、広域的なテーマとしてエキスパート派遣事業、経営革新、創業、倒産防止特別相談などの業務を担当してもらった。次の指導課では、青年部・女性部活動、消費税円滑化対策、補助金の申請・執行に関する相談指導などの業務を担当してもらった。最後の業務情報課では、小規模企業共済・商工貯蓄共済制度の普及、商工会の財源確保に関する相談指導、中小企業向け融資制度の新設に関する企画および調整の業務などを担当してもらった。 ▼業務情報課に新しい可能性を見出す  各種業務の経験にあたっては特に介助者を用意せず、できるだけ先入観を持たずに可能性を摘むことのないように配慮して、各種業務を本人の意欲に任せて自由に経験してもらうことにした。その結果、これまでの経験を生かしながらハンデを克服しつつ、かなりの業務を遂行できることが判明した。  広域振興課では、倒産防止特別相談などの個別相談指導を、商工調停士など専門家と現地指導に出向いて的確に行った。また、指導課での商工会からの事業運営などの相談では、積極的に電話に出て随時指導するとともに、即答できない事項については調査・確認のうえ改めて回答するなど適切に対処できた。同じく指導課での商工会の適正化指導では、現地指導でデジタルルーペなどを駆使し文書を精査しつつ改善策を指導するなど、的確に業務をこなした。  さらに業務情報課では、小規模企業共済、商工貯蓄共済制度の普及のための説明会の開催や加入推進のための企画立案業務をこなすとともに、中小企業向け融資制度の新設に伴う銀行などとの折衝や企画調整では、十分に能力を発揮することができた。  その結果、職場復帰先としては、業務情報課が最も適していると判断し、同課の業務を遂行しながら、さらに新たな可能性を追求することになったのである。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  視覚障害者にとって、通常のパソコンや機器の使用は難しい。 本人が職場復帰のための訓練を積み、技量が十分向上したため、助成金制度を利用しながら拡大読書器、スキャナー、音声変換ソフト、デジタルルーペを揃えて、業務をスムーズに進行するようにした。  休職中に、新たに必要な業務知識は増えており、簡単に職場復帰できるのか。 過去の実績にこだわらず、新たな発想で3つの職場を経験し直してもらった。どこの職場で最も力を発揮できるか、冷静に分析した結果、業務情報課が最適と判断し、職場復帰が実現した。予想どおり十分に能力を発揮している。  他の職員とのコミュニケーションはどのように図ればよいか。 甲斐さんの過去の実績にもこだわらず、障害者という特別扱いもせず、極力普通に接するようにしている。ただ、職場内で困っているようなときには、手助けをするなどの気配りは周囲の者が自然にするようにしている。本人も懇親会や親睦会などにも積極的に参加、職員とのコミュニケーションも図られている。 より専門性が要求される質の高い業務に挑戦したい 商工会指導員の甲斐幸二さん(51歳)  もともと1.5と1.0であった視力が急速に低下、周辺部にわずかな視力が残るほどになったときには、確かにショックでした。ただ、すぐに何とかして職場復帰したいと思い、柳川リハビリテーション病院や日本ライトハウスリハビリテーションセンターでの訓練には真剣に臨んだつもりです。  どうしても職場復帰したかった理由は、もちろん経済的な事情もありますが、やはり何としても自力で社会の歯車の1つであり続け、歯車の1つとしての達成感を持ち続けたいとの思いが強かったからでしょうか。  その点、休職中は本当にむなしく、せめて社会復帰に向けてリハビリに情熱を燃やすしかなかったからでもあります。  社会復帰といっても他の職業につくことは、今さら難しく、やはりこれまで何十年もやってきた職業にするのが一番と、職場復帰することを願ったのです。そうはいっても、現実的に地域の商工会のような小さな単位の職場に復帰するのは困難であり、より専門性が要求される連合会に復帰せざるを得ませんでした。その点では、さらなる能力が要求されるのは当然のことであり、周囲のみなさんの期待を裏切らないように、一層精進したいと考えています。  だが、職場のみなさんの支えがないと十分な仕事ができないのが現実であり、感謝の気持ちで一杯です。このように、健常者だったときにはなかった謙虚さが身についてきたように思います。このプラス面を今後商工会の指導面で発揮できればと願っています。  突然、障害者になる可能性は誰にでもあるものです。後から続く障害者のために悪い例にはなりたくないと思い、努力している毎日です。 ◆今後の課題&挑戦 出張業務など、さらにレベルアップした仕事に積極的に挑戦してもらう  現段階で通常業務に関する限り、職務遂行能力に問題がないことが判明したわけだが、今後は本人と十分協議しながらさらにその適応能力を伸ばしてもらいたいと考えている。  具体的には、時々現地指導などに出かけることを除けば、概して内部事務中心になりがちな現状について分析しながら、より質の高い業務を遂行するために、さらに積極的に外部に出かけるなど、業務の範囲を広げていくことを検討したい。  つまり、連合会の指導先である商工会への現地指導については、もっと頻繁にある程度自力でできるようにするとともに、出張を含む業務も安全面に配慮しつつ徐々に増やしていきたいと考えている。  また、内部事務についても情報機器についてトラブルが生じた場合、専門の職員が連合会内部にいてほとんど処理できる体制が整っている。通常の職員は専門家に任せればいいのだが、甲斐さんは非常に意欲的で、システムアドミニストレーターの資格を取得して自力で対応できるだけでなく、他人のトラブルも処理できるようになりたいという目標を持っている。内部事務でもさらに高い目標に到達したいとの本人の意欲を尊重したいとも考えている。 人事担当者が語る 人間の能力・評価を改めて見直す機会を与えてくれた 総務部総務課古嶋 徹課長 ●甲斐さんの存在が職員の士気の高まりに好影響  甲斐さんの職場復帰は、ご本人にとっても大変な経験だったのでしょうが、我々迎え入れる側の人間にとっても、貴重な経験をさせてもらったと考えています。  障害ということを除いたら、甲斐さんと私を比較して実際にどちらが能力があるのか判断しづらいと思うのです。そもそもそのような甲斐さんを視覚障害があるからといってどう評価したらいいのか、これは難しい問題です。  甲斐さんは1年間、職場をいろいろ経験する中で、確かに一定のハンディがありながら、これまでの実績を生かしつつ十分な能力を発揮できることを見事に立証してくれました。  彼は51歳ですが、このくらいの年齢になるとかかってくる電話に率先して出ることは少なくなると思うのですが、年齢やハンディを意識せず真っ先に電話を取ろうとするのです。  できることは何でもやろうとする姿勢は、周囲によい影響を与えていますね。  ざっくばらんな話、甲斐さんより経験の浅い職員もおりますので、彼の頑張りぶりは他の職員にいい意味での刺激になっているはずです。それに、途中で障害者になっても、本人の意欲と能力があれば、このように職場復帰のための体制づくりをすることで、復帰できることが明らかになったわけです。少なくとも甲斐さんの職場復帰は、職員の士気によい影響を与えていることは確かです。 〈キャプション〉 熊本県商工会連合会は、熊本県商工会館8階にある。 業務に励む甲斐さん(左)。平成15年4月、熊本市託麻商工会から熊本県商工会連合会へ移籍した。 視力が低下し始めた当時の見え方を、手ぶりを交えて説明する甲斐幸二さん ノート型パソコンを使い、データを入力している甲斐さん(情報量の多い文書を読み取るときにも使う)。 スキャナーに文書を置いて文字を読み取り、音声変換ソフトを使って確認する。 打ち込んだデータを拡大読書器で拡大して確認する。 外出先などでは、デジタルルーペを使って文字をノート型パソコン上に拡大して読む。 電話にも積極的に出て応対する甲斐さん。即答できない場合は、文書を見たり同僚に確認したりして、速やかに返答するように心がけている。 読めない書類を近くの職員に確認する。 説明会で司会を務める甲斐さん 真剣な表情で業務に取り組む甲斐さん。今後は、より専門性が高い業務に挑戦したい、という。 p.44-49 奨励賞 鍼・灸・マッサージ治療院 楽腰館 中高年の中途失明者、重度視覚障害者の社会復帰・社会参画を目指す ◆企業プロフィール  鍼・灸・マッサージ治療院 楽腰館  代表者:石川也寸志  〒311-4152 茨城県水戸市河和田2-1710 TEL&FAX 029-309-4976 ●業種および主な事業内容  鍼、灸、あん摩、マッサージ、指圧、機能訓練などの施術業務 ●従業員数  19名うち障害者数17名  <内訳>  視覚障害者17名(うち重度15名)(うち重複1名)  内部障害者1名(うち重度1名)(うち重複1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  平成13年5月に水戸市河和田に視覚障害者4名がベッド数4台の鍼・灸・マッサージ治療院「楽腰館」を設立。中高年の中途失明者、重度視覚障害者の社会復帰・社会参画の場を提供するために事業を開始。14年11月に同市酒門町にベッド数6台の下市診療所、16年4月にひたちなか市共栄町にベッド数5台のひたちなか診療所を開院し、スタッフ19名(うち視覚障害者17名)の体制となり、順調に重度視覚障害者の雇用を拡大、社会参画の場を提供している。  平成16年9月、これらの治療院の事業をサポートするために、特定非営利活動法人ペインレス・メディカル茨城を設立、平成17年半ばまでに新法人の事務局を兼ねた診療所を水戸市内に開設する予定。 中高年の中途失明者、重度視覚障害者に雇用の場を提供 本人への教育研修 設備改善 ▼盲学校在校中から厳しい現実を知らされる 現在、楽腰館の院長で特定非営利活動法人ペインレス・メディカル茨城の理事長の石川也寸志さんは、子どものときから1型糖尿病(生まれつきインスリンが出ない)で、インスリンを注射しながらも一般企業に就職していたが、平成7年についに失明。茨城県立盲学校に入学し、鍼・灸・マッサージ・指圧師の資格を取得する。現在40歳の石川さんが30代になってからの転身であった。 盲学校に入学して、盲学校の同級生の中に石川さんのような中途での失明者(それも40〜50代の人)が思いのほか多いことに気がつく。 ところが、これら中高年の中途失明者はせっかく努力して三療の資格を取得しても、なかなか就職先が見つからないという現実に愕然とする。それを知った在校生の中には意欲を失い、退学する者も実に多いのである。 働き盛りで中途失明した中高年者の多くは、失明とともに仕事を失って、一時は生きる意欲まで失いかける人も少なくない。妻子を抱えて、何とか立ち直り、新しい生きる道を求めて盲学校に入学したとしても、追い打ちをかけるように厳しい現実を思い知らされるのだ。 ▼4人の同志が事業を開始 石川さんは在校生時代からこうした状況を何とかならないかと真剣に考えるようになった。しかし、明確な構想が固まらないうちに盲学校を卒業、取りあえず1年間だけは自宅の市営住宅の1室で開業する。 平成13年、石川さんはついに盲学校時代の同級生を中心に同志を募り、まずは自分たちの力でマッサージ治療院を開業することにする。その結果、視覚障害者の社会参画を何とかしたいとの思いを同じくする4人の同志が集結。水戸市河和田にベッド数4台の楽腰館がスタートする(4人のうち中途失明者は石川さんを含めて3人)。 いずれにせよ、全員重度視覚障害者による社会復帰・社会参画ためのユニークな事業がこうして始まったのである。 改善のポイント1 社宅の借り上げ、教育指導など、雇用管理面でさまざまに工夫 ▼採用は就職困難な重度障害者、特に中高年の中途失明者を中心に 4人でスタートした楽腰館も、翌年には水戸市内の酒門町にベッド数6台の下市診療所を開設するが、既にこの段階で本格的な視覚障害者の雇用の問題に直面する。同館設立の趣旨からいっても、最も就職が困難な重度の視覚障害者それも中高年の失明者を中心に採用したいと考えた。そこで、ハローワークを通じて採用活動を行うとともに、新卒者に対しては都道府県の各盲学校や国立塩原視力障害センターあてに同館の案内を送った。 その結果、一定の人員は確保できたが、これら障害者の採用後、通勤手段の確保という最大の問題に直面した。 そこで自宅から通勤可能な者を除き、診療所近くに借上社宅を確保、診療所ごとに1台ずつワゴン車を配置して、安全な通勤を可能とした。なお、社宅も通勤も全額同館負担である(重度障害者等通勤対策助成金を活用しているため、実質負担は3分の1程度)。 現在は借上社宅は13戸に増加、3台のワゴン車を保有して、社宅・通勤管理を行っている。ワゴン車の運転は、元タクシーの運転手だった有償ボランティア2人と職員で行っている。 ▼マナーなどの人材育成、技術・知識などのキャリアアップにも注力 人生経験の豊富な中高年の中途失明者を別にすれば、視覚障害者の多くは幼少のころから盲学校の長期寮生活など、少人数あるいは特定の人との付き合いしかない経歴・環境に育っている。そのため、社会人としての教育が必要な者もいる。 そこで、社会人としての自覚を持ってもらうまで、従業員としての一定の教育・訓練、人材育成がどうしても必要である。そのため、電話の応対の仕方、問診の仕方、職務上の申し送りの仕方などの職務上の対応マニュアルだけでなく、患者さん、上司や目上の人に対する接客・対応マニュアルを活用した教育・訓練にも力を入れている。 また、職業人としてのキャリアアップの面では、まず、初任者や未経験者の場合には、3ヵ月の研修期間を設け、その間、1日最低1時間以上、上司や先輩による技術指導を行っている。また、年間に24回(第1・第3木曜日)に学術向上を目指して、内部の研修会を行っている。 さらに、有資格者については、各人の技術向上のために全日本鍼灸マッサージ師会、日本東洋医学会、日本経絡治療学会などの各種学会や研究会への出席も、各自の意思を尊重して自由にできるようにしている。 ▼診療所の改装、職場内バリアフリーなど、安全対策も十分配慮 職場内の環境認知にも時間がかかる重度の視覚障害者が多数働く診療所では、衝突や転倒などの事故を未然に防止するための安全対策にも十分な配慮が必要なことはいうまでもない。また、中高年者が多いことからも健康の保持・管理にも神経を使う必要がある。 まず、環境を十分認識してもらうためには、入社後1週間をかけて環境認知・安全確保のためのオリエンテーションを行い、職場内で介助がなくても自立歩行できるように訓練する。 安全対策としては、職場内のバリアフリー化を図り、段差をなくすためのフラット化やスロープ化、伝わり歩きのための手すり(壁、トイレ、玄関など)や要所要所の点字シール貼付、衝突防止のための引き戸への改装とグリップの装着、万一に備えて非常口の設置などを行っている。 改善のポイント2 各種の就労支援機器を活用、コミュニケーション方法も工夫 ▼パソコンにはすべて音声化装置を装着 健常者、弱視者、全盲者など障害状況が異なる従業員が同時に就労しているため、予約表・カルテ・顧客管理・伝票処理・郵便物の管理などの事務処理について統一化するのは難しく、適切に処理されない恐れがある。例えば、同じ弱視者でも見え方が一様でないため、統一化するには、すべての仕事を見えない前提で、音声化せざる得ない。また、照明についても、弱視者1人1人によって適切なライトの種類・明るさなどが異なるという問題がある。必要な治療器具の取り扱いについても同様な問題がある。 そこで、パソコンについては、各診療所に1台導入し、すべて音声対応にしている。また、患者予約・管理ソフトについては同社が自社開発した。 照明については、蛍光灯、白熱球、ブルーライトなど各種可動式電気スタンドを設置、明るさを調節できるようにしている。さらに、ひたちなか診療所では天井の照明をシーリングライト(リモコンで明るさを調節できるもの)に改装した。 音声体重計、音声血圧計、音声体温計、超音波治療機、干渉波治療機、低周波治療機、音声タイマーなど、治療に直接必要な治療機器だけでなく、音声電卓、音声電話器・ファクスなど、できる限り、音と声の出るものを使用している。 ▼すべて言葉で表現するように指導 視覚障害者は通常会話により、人との情報伝達・コミュニケーションを行う。しかし、会話でも「あっち」「こっち」「あれ」「これ」などの言葉は理解に苦しむ。また、同じ視覚障害者でも、全盲者全員が点字の読み書きができるわけではない。 点字を読めるが書けない人、書けるが読めない人、中途失明者の中には点字自体が全くわからない人もおり、さまざまである。一般の活字を用いる弱視者でも、文字の拡大度や色の濃さ、色合いによって作業のしやすさには大きな差がある。それだけに視覚障害者との情報伝達・コミュニケーションにはきめ細かな対応が必要だ。 楽腰館では全従業員に対して、入社時や研修時に、考え方や意見、個人の思いなどは、すべて言葉で表現するように厳しく指導している。特に健常者(従業員、患者さん、関係者など)に対しては、少しでも理解が得られるように、積極的に話しかけて意思の疎通を図ることを求めている。 また、仕事上の連絡では、メモの代わりにICレコーダや音声パソコンを使い、文字の読み書きはできるだけしないようにしている。 弱視者のためのルーペ、単眼鏡、拡大読書機、スキャナーなども使用している。読み書きについては、初心者に対してはていねいに指導し、全員が音声パソコンを使用できるようにしている。 さらに、毎朝、健常者が中心になって、仕事上の申し送りに漏れがないように、ミーティングで確認することも忘れていない。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果 中高年の中途障害者の応募者がいなかった。 ハローワークを通じての相談だけでなく、全国の盲学校や国立塩原視力障害センターに楽腰館の案内を郵送するなど、積極的な採用活動を展開した。県外からの求職者の相談にも応じた結果、現在40歳以上の中高年者が14名となっている。 視覚障害者の通勤手段の確保が課題となった。 重度障害者等通勤対策助成金を利用して、診療所近くに借上住宅を確保し、また、各診療所にワゴン車を配置することにより、安全な通勤が可能となった。 多数の重度視覚障害者の雇い入れに伴い、衝突や転倒などへの事故防止対策が不可欠となった。 ・新入社員に対しては、入社後1週間かけて環境認知・安全確保のためのオリエンテーションを行うことにより、職場内の自立歩行が可能となった。 ・物理的な環境の改善については、段差解消のためのフラット化やスロープ化、手すりの設置、要所への点字シール貼付、引き戸への改装、非常口の設置などにより、バリアフリー化を図った。 視覚障害者はそれぞれ視覚障害の状況が異なるため、個々の障害状況に合ったパソコン操作環境、照明、および治療機器の条件が必要となった。 ・パソコン操作環境については、各診療所のパソコンをすべて音声対応にした。 ・照明については、蛍光灯、白熱灯、ブルーライトなど各種可動式電気スタンドを設置するなどした。 ・治療機器はすべて音声対応にした。 ・これらの改善により、視覚障害者全員が、パソコン、照明、治療機器などを支障なく使える環境が整った。 視覚障害者とのコミュニケーションでは、見え方に応じた情報の伝達手段が必要となるため、きめ細かな対応が必要である。 ・入社時や研修時に、自分の考えは言葉で表現するように指導している。 ・仕事上の連絡では、ICレコーダーや音声パソコンを使用している。 ・弱視者のために、単眼鏡、拡大読書器、スキャナーなどを使用している。 社会人としての教育訓練が必要な視覚障害者もいる。 接客対応マニュアルなどを活用して、社会通念上のマナー、エチケットなどを教育した結果、社会の一員としての自覚やマナーを身につけるようになった。 特定非営利活動法人ペインレス・メディカル茨城事務局の松川順悦副理事長(57歳) ビール会社に30年勤務後に網膜色素変性症で視力が衰えたため、早期退職に応じる。国立塩原視力障害センターで資格取得後、平成14年に楽腰館に入社。障害2級。現在は、障害を気にせず、有意義な活動ができる仕事や生活に満足している。将来は仙台にNPO法人の宮城支部を創設して、活動を拡大していきたいとのこと。 吉田里江さん(28歳) 先天性の視覚障害者(1級)。資格取得後、整形外科の病院に勤務したが、病院勤務では治療技術が身につかないなどの点で、悩んでいたところ、院長と知り合い、人柄と考え方に引かれて、開業メンバーの1人となる。楽腰館に来てからは勉強することが多くて、充実しており、何よりもうれしいのはハンディがあることがマイナスにならないことだという。 軍司有通さん(56歳) 医療機械開発の技術者だった平成2年にベーチェット病になり緊急入院。命は助かるが失明して眼球摘出となる。入院中には何度か自殺を試みたほど。平成6年盲学校卒業後、資格を取得するが、就職先がなくていったん開業。 その後、マッサージ師以外にもパソコンの技術を取得して再就職するなど、視覚障害者の生きる道をアドバイスする障害者支援相談センターの相談員を引き受ける。中途失明者の再就職問題で院長の考えに同感し、平成16年に入社。 今後、勉強会などでお互いにスキルアップを図り、視覚障害者がもっと多方面で活躍できるようにしていきたいとのこと。 原沢美智子さん(64歳) 子どものころから弱視だったが、年とともに加齢性黄班変性になり中心の視力がない。もともとあん摩マッサージ指圧師の資格を持っていたが、主婦で資格は活用したことがなかった。平成13年に楽腰館に入社、患者さんに楽になったといわれるのが何よりの励みとか。 ◆今後の課題&挑戦 自由診療では限界、健康保険診療にもっと力を入れる 楽腰館のようなマッサージ診療所は、人口5万人規模で1ヵ所が適正な配置といわれる。今年の6月に事務局兼診療所が開設すると4ヵ所目。人口25万人弱の水戸市とその周辺という規模では、とりあえずこれで拡大は一段落と同館では考えている。 今後は従業員の学術向上などスキルアップのために、もっと予算を割いていく予定だ。そのうえで、現在のような健康保険外の自由診療主体の経営では限界があるため、鍼・灸・マッサージ指圧を医師の同意を得て保険申請すること、つまり健康保険診療にもっと力を入れていくとともに、自賠責保険分野の診療にも取り組んでいく。その勉強会を現在続けており、保険診療などではすでにかなり実績を上げてきている。 可能性を多角的に追求し将来の夢は社会福祉法人化 現在、すでに自由診療と健康保険診療が2本柱になろうとしているが、将来はさらに居宅介護サービス事業所として介護保険分野にまで進出したいと考えている。 現在、具体的にどのようなことができるか研究中だが、ケアマネージャーの資格取得を目指している従業員も2人ほどおり、近いうちに介護保険の居宅介護支援サービス事業所としてスタートすることになる。 すでに平成16年9月に特定非営利活動法人ペインレス・メディカル茨城を設立、その事業内容には鍼・灸・あん摩・マッサージ・柔道整復術・機能回復訓練などの在宅施術(往療)、外来診療、有償ボランティアによる介護サービス(身体介護・家事援助など)の生活支援を行うことをうたっており、受入体制は整っている。 そうなれば、同館の事業の柱は、自由診療、健康保険診療、居宅介護支援サービス事業の3本になる。ただ、石川院長の将来の夢としては、視覚障害者にできる可能性を多角的に追求しながら、遊べる老人ホームなどをつくり、できれば社会福祉法人にしたいということである。 こうした大きな夢を抱きながら、楽腰館はさらに羽ばたこうとしている。 院長が語る 障害者だからできる社会貢献を追求していきたい 鍼・灸・マッサージ治療院 楽腰館院長 特定非営利活動法人ペインレス・メディカル茨城理事長の石川也寸志さん 盲学校で苦労してせっかく資格を取得しても就職する場がない中高年の中途失明者や全盲の視覚障害者に社会復帰、社会参画の場所を提供したい。 私たちが事業をスタートした目的はここにあります。現在、20名近い視覚障害者の参加を得て、私たちができるマッサージ技術で社会復帰、社会参画を果たしながら、それなりの雇用を確保しています。そして、学術向上などスキルアップに取り組みながら、さらに機能回復訓練などを中心に介護サービスの分野にも進もうとしています。私たちが単に社会復帰・社会参画の一定の目標を達成しただけで満足しないのは、視覚障害者の可能性をもっと追求したいからにほかなりません。 昨年の中越地震のとき、体育館で寝ていて関節痛がひどくなった人、自動車の中で寝起きしていてエコノミー症候群から亡くなった人などの話を聞き、居ても立ってもいられなくなりました。 NPO法人を立ち上げたばかりでしたので、NPOとして私たち視覚障害者にできることはないか、被災地に問い合わせ、従業員の有志を募って川口町に駆けつけました。結果的に、11月5日から30日まで、全会員延べ117人がボランティアで参加、2,000人以上の被災者に無料でマッサージなどの手技療法を提供することができました。 もちろん、視覚障害者がボランティアで被災地に出かけるわけですから、運転などの面で健常者の手助けが必要でした。また、かえって足手まといになるのではという周囲や自分自身の壁もありました。しかし、そのような壁を乗り越えて、たとえ視覚障害者であってもこのような災害に遭った方々に対してお手伝いすることができることを、全従業員が身をもって実体験できたことが何より素晴らしかったと思っています。 このような貴重な実体験を財産にして、私たちは、私たちのできることでさらに社会に貢献したいと願っています。 〈キャプション〉 楽腰館は現在3ヵ所にある。そのうちの1つ、下市診療所(水戸市酒門町) 石川院長(左)と松川さん(右) 壁に手すりを付け、通路もゆったりとしている院内 楽腰館は、視覚障害者の社会参画を何とかしたいとの思いから設立された。 通勤に使用してるワゴン車。そのうち1台は往診用にも使用している。 レジにも点字シールを貼って使用している。 履き替えに便利な玄関の手すり 非常口も新たに設置 酒門診療所に設置された音声パソコンでデータ入力する軍司さん 音声温度調節器 低周波治療器 干渉波治療器 音声血圧計 さらに従業員のスキルアップを目指す。 p.50-55 奨励賞 株式会社リクルートプラシス 経営管理的視点を導入し経済的自立を実感できる職場づくりを推進 ◆企業プロフィール  株式会社リクルートプラシス  代表者:代表取締役 島 宏一  〒104-0054 東京都中央区勝どき2-11-9 TEL03-5560-2151(代表) FAX03-5560-2181 ●業種および主な事業内容  株式会社リクルートおよびリクルートグループ各社のビジネスサポートサービス(1.社内印刷物の印刷・製本・コピー業務 2.DTPによる名刺作成業務 3.データ入力・集計業務 4.経理・販売管理業務 5.総務サービスの代行 6.鍼・灸・マッサージサービスの提供) ●従業員数 138名(平成16年12月1日現在)うち障害者数78名  <内訳>  視覚障害者4名(うち重度4名)、聴覚障害者9名(うち重度8名)、肢体不自由者49名(うち重度32名)、内部障害者11名(うち重度8名)、知的障害者4名(うち重度4名)、その他の障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  株式会社リクルートの特例子会社として平成2年2月に設立。「私たちはあらゆる人が能力・意欲の発揮できる機会を創造し、成果を高めることにより、豊かで人に優しい社会の実現をめざします」を企業理念に掲げ、「個の尊重」「可能性の追求」「社会への貢献」を経営の三原則としている。多種多様の障害者それぞれの成長を促す組織づくりが注目されている。視覚障害者の採用は平成4年から。4名(うち施術師は3名)を採用し、「リフレッシュルーム」の名称で鍼・灸・マッサージサービスを開始した。 リクルートの従業員の福利厚生と視覚障害者の雇用を兼ねた「リフレッシュルーム」 支援機器導入 意欲・意識改善 ▼施術師3名、弱視の受付1名で上々のスタートを切る リクルートプラシスは、リクルートが障害者雇用のための特例子会社として平成2年に設立した会社である。設立から2年後の平成4年、視覚障害者を鍼・灸・マッサージの施術師として採用し、リクルートの従業員を対象にしたリフレッシュルーム(企業内理療)を開始した。 当初は、施術師が3名、弱視の受付担当者1名の計4名でスタート。場所は、リクルート本社ビルの向かいにあり、関連会社も入っていたテナントビルのワンフロアで、ちょうどスペース的にも手ごろな広さであった。 リクルートは、サークルのような若々しい風土を持った会社で、コミュニケーションが活発に図られる文化が根づいている。このリフレッシュルームの開設も、すぐに口コミで広がり、当初から多くの利用者が集まったという。もともとリクルートは働き方の自由度が高く、就業時間中の使用について、従業員の間では比較的、抵抗感は少なかったようだ。また、役員も普通に利用している。 ▼自立型組織運営を目指す取り組みが移転を契機に本格化 しかし問題は、リフレッシュルームに限らず、リクルートプラシスの事業全体が厳しい収支状況だったことだ。障害者雇用のために設立した会社であり、採算についてはある程度考慮される部分はあるものの、次第に経営改善を目指す気運が高まっていった。 設立から5年後には、収支改善にも本腰を入れよう、という声が出始める。そして10年後、経営健全化の長期プランが検討されるようになった。リフレッシュルームについては、それほど問題視されてはいなかったが、マネジャーと現場が一体となって、自立型組織運営を目指す取り組みをスタートさせることになった。 そんな時期に、長年親しんだビルから移転することになる。当初、いくつかの候補が挙がったが、利用のしやすさや通勤経路の安全性などの観点から、現在の銀座7丁目ビルの2Fに入ることになった。 自立型組織運営への挑戦とリフレッシュルームの移転。この2つによって、新たなリフレッシュルームがスタートを切ることになった。 改善のポイント1 経営者感覚を取り入れバランスのよい運営を目指す ▼売上・利益の目標を設定達成状況についても情報を共有する リフレッシュルームは、リクルートの従業員には評判はよかったが、経営的にみると現状でよいとは思えなかった。さらにもう一歩進めることはできないか。「利用者がそれほど来なくても給料がもらえる」という組織ではなく、「自立的に利用者を増やす努力をし、その成果によって報酬を得ていると実感できる」、そんな組織づくりに挑戦してみようと考えたのである。 そこで、「バランス・スコア・カード」という経営手法を参考に、@財務、A顧客、B内部のしくみ、C組織活性、D障害者雇用、という5つの視点でバランスのよい運営を目指すことにした。 まず、「財務の視点」としては、売上・利益の情報をオープンにし、自分たちの仕事の結果がどうなっているのかをわかるようにした。年度初めには目標をメンバーに伝え、達成状況については、1ヵ月ごと、半期ごとに情報を共有し、その後の励みにしている。 ▼継続的に目標達成ができる強い組織体質づくりにも取り組む 目標達成のためには、利用者のニーズを的確につかみ、リフレッシュルームの稼働率を上げていかなければならない。そこで、「顧客の視点」として、毎年1回、2月に料金・接客応対・施術スキル・室内環境などについて、利用者の満足度を測るアンケートを実施し、利用者のニーズを把握することにした。その際、アンケートの対象として、直近3ヵ月に利用した人たちと、今期利用はあったものの直近3ヵ月は利用していない人たちの両方を選んで、その理由を分析している。今年でアンケート調査は2回目、3月には結果をまとめ、その分析と対応に取り組むことになる。 また、単年度の目標達成だけではなく、継続的に目標達成ができる強い組織体質をつくるためには、仕事のやり方やしくみそのものを見直していく必要がある。そこで、「内部のしくみの視点」として、「顧客資産拡大」(銀座7丁目ビルを中心とした新橋周辺拠点への広報活動、既存の利用者へのフォロー方法の検討などを行い、利用者の拡大とロイヤリティアップを目指す)、「サービスメニュー見直し」(サービスメニューとルーム環境の継続的改善により、利用者の満足度向上を目指す)、「自社サービスレベルの把握と向上」(他社見学なども行いながら、受付担当の応対スキル、施術技術・施術応対スキルの向上を目指す)の3点を掲げて取り組んでいる。 当然、しくみを生かすためには人材教育が不可欠である。そこで、「組織活性の視点」としては、年1回の組織活性度調査を行い、その結果を基に組織風土をよくするための課題を毎年1つ決めて全員で取り組んだり、毎週1回の「カンファレンス」(施術技術や施術応対スキル習得のための研修)や、評判の店で施術を体験してレポートを提出することを半期に1回以上実施したりするなど、人材育成・組織活性化のための取り組みをいくつも実行している。 改善のポイント2 コストではなく、業績支援策と考え障害ハンディ軽減の措置を推進 ▼各種機器の導入や配慮が 生産性の向上に結びつく 視覚障害者の能力を生かし、継続的に雇用していくためには、障害のハンディを軽減するための配慮や機器の導入がどうしても必要となる。リクルートプラシスでは、これをコストとは考えていない。 「リフレッシュルーム設立の第一の目的は障害者の雇用ですから、その雇用を継続させていくために必要な障害ハンディ軽減措置は、業績支援策だと考え、積極的に取り組んできました」(近藤グループマネジャー) こうした各種の配慮は、職場での視覚障害者の働きやすさ・生産性を上げることに直接結びついているのである。 ▼ハード面の整備だけでなくコミュニケーションにも気を配る 視覚障害者のハンディの軽減化を図るために、ハード面で施した主な改善点・工夫は次のとおりである。 ・点字ブロックの敷設…障害者雇用納付金制度に基づく助成金を使って、会社のビル内・避難路に点字誘導ブロックを敷設。また、最寄駅から会社までは、行政と交渉して敷設してもらった。 ・1人1台のパソコンとメール環境を設定し、情報共有をサポート。 ・音声読み上げソフトを導入…視覚障害者の情報収集・確認を支援。 ・拡大ソフト・拡大読書器を導入…弱視者の情報収集・確認を支援。 ・紙カルテを電子カルテに切り替え、業務効率を大幅に向上させた。 ・音声チャイムの設置…一定時間ごとにチャイムが鳴る時計を置き、視覚障害者の施術時間の管理に活用。 ・ドアチャイムの設置…視覚障害者に来客を知らせる。 ・室内音響を施術室側だけでなく、事務処理を行うデスク側にも流し、視覚障害者の事務ワークのストレス緩和に役立てた。 また、ハード面だけでなく、職場のコミュニケーション向上のための次のような配慮も行っている。 ・受付専任者(下肢障害者)を置くことで、施術者の事務作業の軽減を図るとともに、障害ハンディを補い合って働く風土を創出している。 ・相手を指名できる面談を実施…直属上長には相談しにくい悩みをフォロー。 ・半期ごとに目標達成していれば達成会を実施…一緒に飲んで親睦を深める。 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  リフレッシュルームは障害者雇用が目的とはいえ、採算を重要視しないままでは、障害者の自立的就労にならないのではないか。 経営者感覚を取り入れ、@財務、A顧客、B内部のしくみ、C組織活性、D障害者雇用、の5つの視点から、バランスよく運営することで、「障害者自身がサービスの対価を得て経済的自立を実現している」と実感できるような組織づくりを目指すことにした。 売上・利益の目標や達成状況、稼働率などが情報として提供されるため、自分たちの置かれた状況がきちんと把握でき、「どこまで頑張ればよいのか」も明確になった。個々人の仕事に対するモチベーションの向上にもつながっている。  施術師が、独立等で退社して入れ替わると、顧客離れが起こり、売り上げが減少した。 週1回の「カンファレンス」で新しい施術師の施術技能・知識・対応の向上を図るとともに、リフレッシュルームがあるG7ビル近隣のリクルート拠点への広報活動や、既存の利用者へのフォロー方法の研究などを実施し、新規利用者およびリピーターの増加を図った。  当初は受付がいたが、後に施術も行う弱視者が受付を兼ねるようになったため、受付を兼務する施術師への負担が大きく、現金管理や安全衛生面などの不安があった。 平成15年11月から晴眼の受付専任者(下肢障害者)を配置し、施術師3名は施術への特化が可能となった。また、このことにより、障害者同士がお互いの能力を補い合いながら仕事を進める企業風土をいっそう浸透させることができた。  点字カルテ(全盲用)・普通文字カルテ(弱視用)の二重管理になっていたので、検索・記入・点字変換などの負担が大きく、業務効率を落としていた。 紙カルテからシンプルな電子カルテシステムに切り替えた。拡大ソフトや音声読み上げソフトを使用することで、カルテの内容確認・記入も不自由なく行えるようになり、業務効率が大幅に向上した。さらにラック1本分の紙カルテが不要になり、スペースの有効活用にも貢献した。  リフレッシュルームに直属上司が常駐しない状態である。 1人1台のパソコンとメールが使える環境を設定し、上司が別のビルにいてリフレッシュルームには常駐していなくても、情報共有が可能になるようにした。マネジャー会議の報告資料もメール配信により、タイムリーに情報伝達している。また、社内報もかつては点字で配布されていたが、現在はテキストデータをメールで送るようにした。  利用者のニーズを的確につかめておらず、また、そういう意識も希薄であった。 料金・接客応対・施術スキル・室内環境などについて利用者のニーズを引き出すために、年に1回、利用者の満足度を測るアンケートを実施することにした。昨年2月の調査結果に基づいて行った環境改善により、照明・絵画・香り・待合スペースなどが充実し、利用者の評判も上々である。マーケティングの考え方の基本を学ぶ経験にもなっている。何よりも「利用者(顧客)に喜ばれることの喜び」を実感できるようになったことが大きい。 ◆今後の課題&挑戦 当面は、稼働率80%台の後半を維持することを目指す  リフレッシュルームの稼働率の現状は、年平均80%程度である。昨年末は、リフレッシュルームのある銀座7丁目ビルから大きな部署が出ていったという事情もあって、一時的に60%台にまで低下した時期もあった。今後の目標としては、80%台後半の稼働率を維持していくことを掲げている。そのためには、いっそう満足度の高い施術サービスを提供し、リピーターを増やしていくことが不可欠である。 将来は「市場価格で運営すれば、収支トントン」を目標に  現在、リフレッシュルームの施術料は、市場価格よりは低く設定されている。運営にあたってはリクルートから委託料をもらっているが、この委託料と社内割引分がイコールになる、つまり、「市場価格で運営すれば委託料なしでも収支トントンになる」レベルを将来の目標としている。  そのためには、一般優良店舗で実施されているように、1人の施術師が、複数の顧客に対して同時にそれぞれ違った施術法で施術できるようになることも必要であり、今後の研究課題となっている。 グループマネジャーが語る どこへ行っても通用する、そんな力を身につける「場」を提供し続けたい カスタマーサービスユニットグループマネジャー兼社外広報担当の近藤康昭氏。リフレッシュルームを統括している。 ●障害者の真の自立を目指して  企業内のマッサージルームは、視覚障害者の職場の代表例といえるでしょう。当社に限らず、多くの企業がこの制度を取り入れ、彼らのスキルを生かすとともに、法定雇用率達成の一助になっていることは確かです。  パソコンなどVDT機器を使っての仕事が増え、社員の疲労・ストレスも増大している時代だけに、当社のリフレッシュルームは福利厚生としてのメリットも大きなものがあります。しかし、福利厚生だからそれでいいというのではなく、障害者が真の自立と社会参加を目指す姿に、より近づけていきたいというのが当社の考え方です。 ●前向きな生き方をバックアップしたい  施術師は、何らかの理由で退社することもあり、当社でも、リフレッシュルーム開設からこれまでの13年間に、何人もの入れ替わりがありました。しかし、退職をポジティブにとらえることができるケースもあります。視覚障害者が当社で理療の実力をつけて独立・開業した場合、本人にとっては前向きな生き方の選択肢の1つであり、その過程を当社が支援していると考えれば、それは世の中に新たな障害者雇用の機会を生み出しているともいえるのではないかと思います。  会社と個人がフラットになっていく時代の流れのなかで、当社は「障害者がどこへ行っても通用する、生きていける」力を身につける「場」を、今後も提供し続けていきたいと考えています。 〈キャプション〉 リクルートプラシスの「リフレッシュルーム」は、リクルートの銀座7丁目ビル(G7ビル)の2階にある。 現在、施術師は3名。それぞれに自分の施術コーナーを持っている。うち1名は、リフレッシュルームの開設当時から在籍しているベテランだ。 リフレッシュルームの入口 入口の脇には、広報用の「診療のご案内」カードが置かれている。何枚も持ち帰って、周囲に配る社員も多いという。 予約制だが、ときには少し待つことも。そのときの席にも“癒し”の空間らしい演出が施されている。 毎週火曜日には「チーム会」が開催され、マネジャー会議の報告や、先週までの各施術者の稼働率などが報告され、情報を共有する。左から、近藤康昭グループマネジャー、五味嘉信さん、福原良英さん、鳥海千加子さん、魚住晴美さん。 受付の魚住さん(下肢障害)。受付専任者が入ったことで、施術師たちは施術に専念できるようになった。左のパソコンは、初診の方が問診票を記入するためのもの。 全盲の福原さんは、カルテや日誌の記入を音声変換ソフトで確認しながら行う。 五味さんは弱視。拡大読書器で資料を読む。 施術室だけでなく、事務スペースにも室内音響を流し、プライバシー保護や施術師のストレス緩和にも役立てている。 会社内には、助成金制度を利用して点字ブロックを敷設した。 リフレッシュルーム開設時から勤務する福原さん。他のメンバーにアドバイスする機会も多い。アテネ・パラリンピックのマラソンで第4位に入賞したアスリートでもある。 マッサージ中の五味さん(左)と、事務作業中の鳥海(ちょうかい)さん(右)。ともに入社2年目で、今後一層のリピーター獲得に期待がかかる。 p.56-61 奨励賞 森ビル株式会社 視覚障害者だけですべてを運営できる自立したマッサージ室 ◆企業プロフィール  森ビル株式会社  代表者:代表取締役社長 森 稔  〒106-6155 東京都港区六本木6-10-1 TEL03-6406-6615 FAX03-6406-9315(人事部) ●業種および主な事業内容  総合ディベロッパー(1.市街地再開発事業 2.オフィスビル・住宅・商業施設・ホテルなどの企画・開発・設計監理・営業・運営管理など) ●従業員数 1,096名(平成16年4月1日現在)うち障害者13名  <内訳>  視覚障害者2名(うち重度2名)、聴覚障害者7名(うち重度4名)、 肢体不自由者4名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 総合ディベロッパーとして、都心部の再開発事業を中心に業務を展開中。平成15年4月、自ら開発を手がけた「六本木ヒルズ」に本社機能を集約移転した。  障害者雇用に関しては、平成14年秋から本格的な取り組みを開始したが、実際の受け入れは身障者用トイレ・音声案内エレベーターなど各種設備の整っている現事業所に移転してから。計画的に採用人数を増加させ、マッサージ室開業に伴う視覚障害者2名の採用を決めた平成16年4月をもって、法定雇用率を達成。  現在は、雇用率という量的目標から、雇用した障害者の職場定着という質的目標へ転換しつつある。 1部署1名で障害者雇用を促進していくものの、事務職だけの採用に限界を感じた 支援機器導入 意欲・意識改善 ▼当初は「量的目標」であり1部署1名の障害者雇用を促進  平成15年3月、オフィスや住宅、美術館、ショップ、レストランなどを有する大型複合施設「六本木ヒルズ」を開業させた森ビル株式会社。わずか半年間で2,500万人もの来場者を記録し、日本経済や都市開発の舞台にその存在を知らしめた。  その森ビルが障害者雇用に力を入れ始めたのは、障害者の法定雇用率の引き上げから4年経過した平成14年秋のことだった。 その当時は、まず数字ありきの雇用を促進していた。人事部参事の椎橋政美さんはそう振り返る。 平成14年の秋に障害者雇用を推進するようハローワークから指導を受け、対応を開始する。役員会で障害者雇用推進の旨を説明し、承認を得たあとは、ハローワークなどと何度も意見交換を行った。 最初に打ち出したのは、「1部署1名」という、わかりやすい構図だった。聴覚障害者であれば、あの部署の仕事ができるのではないか、肢体不自由者であれば、あの事務がこなせるのではないか……。まずは実際の受け入れ部署から、どのような仕事であれば障害者を雇用できるかヒアリングし、そのうえでハローワークなどの面接会にも参加し、人材を探した。そして可能性のある者と出会えれば、実際の部署で面接してもらい、最終調整を図った。 ▼事務職雇用の限界からヘルスキーパーに着目 だがあるとき、受け入れ部署の理解・態勢が整っていないうちに、事務職だけを1部署1名採用することには無理がある、採用した障害者にとっても働き甲斐がないことになっては本末転倒だと考えるようになった、と椎橋さんは語る。 「“働く”とはどういうことか? と、新卒ではそこからスタートする人も多い。最初から就業意欲の高い人を集めているのですが、社内の受け入れ態勢が整わない中であまり無理に採用はできないし、急ぎすぎないほうがいいかなと思いました」 そこで注目したのが、視覚障害者によるヘルスキーパー制度だった。既にヘルスキーパー制度を実施している企業を訪問し、盲学校の進路指導の担当者と相談して、知識を得ていく。 当初は疑問もあった。制度を導入することの意義は理解できるが、一方で、一部の社員から「昼間から会社でマッサージなんて」と否定的な声があることもわかっていたからだ。 そこで一計を案じ、平成15年7月に雇用予定者の職場実習という形で、2週間にわたるデモンストレーションを実行した。男女比や年齢などから全社員のサンプルとなるモニターを抽出し、計48名に受診してもらったところ、予想以上の反響があった。その結果、懐疑的な意見もなくなり、社内のオーソライズを経て平成16年4月15日にマッサージ室は開業、同年7月1日に本格運営を果たすこととなった。 改善のポイント1 責任と誇りを持たせ自立したマッサージ室に ▼一定の試営業期間を設け徐々に管理権限を委譲 森ビルのマッサージ室が他企業の形態と比べて特に優れているのが、「雇用した視覚障害者だけですべての運営を完結できる自立したマッサージ室」を準備当初から目指し、実現したことだった。 その高い目標を実現すべく、職員の決定から開業に至るまでの数ヵ月間、人事・採用予定の視覚障害者・盲学校の三者間で幾度となく綿密なミーティングを行った。その結果、予約システムの開発・料金収受の運用、営業時間の設定、使用施設・設備の決定、目標の共有化の4点が重要課題であることを知る。決してやさしいものではなかったが、業務の性質上、内装部や情報システム部など広範囲にわたる専門部署に協力を仰いで、これらの課題をクリアしていった。 平成16年4月に開業を果たすと、一定の試営業期間を設けた後、徐々に運用システムの管理権限を委譲していった。 「便宜上、人事部と隣接した場所にマッサージ室を置いていますが、我々も常にサポートすることはできません。ですから、すべて2人でやってもらう必要がありました。現在ではシステム外の当日予約やキャンセルなども、すべてこの職員2人で対応しています。これまで大きなトラブルもなく順調に運営できていますよ」と椎橋さんは語る。 ▼マッサージの有料化など雇用者のプロ意識を維持・向上 視覚障害者による完全自立のマッサージ室が成立するためには、いくつかのポイントがあった。 第1に、準備段階のミーティングから視覚障害者にも同席してもらい、彼らの要望を取り入れる一方で、積極的に発案してもらい、自ら企画したという誇りを養ってもらったことが挙げられる。 第2に、料金を有料化したことが挙げられる。利用者を偏らせない目的もあったが、現金を徴収すれば、それだけマッサージという仕事にプロとしての責任と自負を生み出すことができる。しかもこの発案は、当人からのものだった。 企業の福利厚生施設ではあるが、一番の目的は「無料・安い」ではなく、「会社のマッサージ室が一番よい」と全社員に言わしめること。ヘルスキーパーのモチベーションが高まれば施術内容も向上し、稼働率も上げられる。有料化の意見を取り入れることは、彼らをプロのヘルスキーパーとして評価することでもあったのだ。 「プロ意識が高いから、施術中に会話を求めてくればするし、なければしない。また会社が今どのような状況なのか、受診にきた人はどのような仕事をして、どんな人柄なのか、ホームページや雑談の中からずいぶんと勉強しているようです。彼らの楽しそうな顔を見れば、充実ぶりが窺えますね」と椎橋さんはいう。 改善のポイント2 グループウェアに予約システムを構築 ▼多彩な専門部署に助力を請う 障害者雇用を考える際、まず一番に脳裏をよぎるのが使用施設や設備の問題だ。これまで障害者への積極的な対応をしてこなかった企業には、未知の課題となる。 もちろん森ビルとて例外ではなく、障害者雇用を推進し始めた平成14年秋から、さまざまな問題が提起された。しかし森ビルにとって幸いだったのが、総合ディベロッパーとして実に多岐にわたる部署が社内に存在していたことだった。これはマッサージ室開設に当たっても、大きなプラスとなった。 準備段階のミーティングによって「自立したマッサージ室」をつくることが決定され、予約システムの開発・料金収受や、使用施設・設備も重要課題に挙げられた。椎橋さんは他部署に掛け合い、どのように解決できるのか協議を図ることになった。 使用施設に関しては内装部に依頼し、会議室として使っていたスペースを改修し、簡易な間仕切りを用意したり、照明器具の調整をしたりして解決したが、成功の鍵を握るのは予約システムだった。 ▼グループウェアを活用し専用の予約システムを構築 運営に際して最大のポイントとなるのが、予約システムだ。 森ビルでは、ここ数年で新たなシステムが構築され、紙ベースの資料をグループウェア「Notes」を使ってデータベース化していた。人事部も以前から前向きに取り組んでおり、福利厚生として映画チケット販売などでシステムを利用していた。マッサージ室の予約システムも同様のものを基礎とし、情報システム部と連携して開発することに成功。全社員が気軽に予約を入れ、ヘルスキーパーの2人もすぐに確認・判断できる形を確保した。 また、時間になっても来診に現れない者がいた場合、「Notes」の社員照会用のデータベースとリンクして、即座に連絡を入れることも可能だ。 なお、当日の予約やキャンセルに関しては施術の忙しさを考え、直接の電話やメールで行うようにしている。 問題は開発よりも、仕組みの理解だったと椎橋さんはいう。 「Notesは『タンスの引き出しに入れたデータを必要なときに出す』といった具合なのですが、全盲の社員がその概念を理解できるまでは、広い海に浮かんだ一艘の船を探すようなものだったと思います。ヘルプデスクなどのサポートを得て、ヘルスキーパー自身がこの問題を克服し、今では完璧に使いこなすことができるようになりました」 ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  ヘルスキーパーへの認知度を高めたい。 実際の運用に先駆けて、2週間のデモンストレーションを行った。全社員の男女比や年齢層をもとに体験する社員を無作為抽出し、モニタリングを実施した結果、ヘルスキーパー導入に対する満足の声が多数を占めた。これにより、ヘルスキーパーに対する認知度も高まり、マッサージ室開設への大きな足がかりとなった。  障害者自らで完結する予約のシステムを構築したい。 数年前から活用している全社のグループウェア「Notes」のデータベースを生かし、新たにマッサージ室専用の予約システムを開発した。当初、開発したシステムと画面読み上げソフトがうまくかみ合わない問題も発生したが、自社の情報システム部のサポートにより無事解消された。  予約時間になっても来室しないなどの問題に対応したい。 予約システムを開発した「Notes」上には、全社員の名前・所属部署・直通電話番号・メールアドレスなどが検索できる「社員照会」データベースもあり、これを連動させることで迅速に連絡を入れることができるようにした。  どのような設備や知識が必要なのかわからない。 盲学校の進路指導の担当者や採用予定の視覚障害者と何度もミーティングを重ね、最初は必要最低限の設備を導入することから始めた。また、すでにヘルスキーパー制度を実施している企業を見学し、意見交流を積極的に図った。現在では森ビルのマッサージ室を見学に来る企業も増えている。  リラクゼーションを感じられる設備を確保しづらい。 もともと会議室仕様の空間であったため、照明位置によって受診者が施術中にまぶしさを感じる問題などがあったが、照明器具を変えたり、社内の内装部に協力を仰いだりして、レイアウトの変更を施した。また室内は、将来的な拡張を想定して、可変的でシンプルな構造を採用した。  雇用した視覚障害者のプロとしてのモチベーションを高めたい。 「自立したマッサージ室」を根幹のテーマとし、予約・受付を本人たちだけで行えるシステムを導入して部外者の介入する範囲を極力なくし、施術に対する対価(40分1,000円)を得ることで、プロとしての自負を獲得できる環境を築いた。質の向上と介助業務の軽減のためにも、モチベーションを維持することは不可欠だった。  視覚障害者が就労しやすい通勤経路になっていない。 定期的に本人からの要望を聞き取り、六本木ヒルズの障害者対応を担当している管理部や設計部と協力して改善に努めている。具体的には、スムーズにビル内へ誘導できるよう広場のゴミ箱を移動するなどの改善を行った。 ◆今後の課題&挑戦 認知度の向上とそれに伴う情報発信を  マッサージ室の運営を始めてから約1年、施術効果の高さや予約のしやすさなどから、社内の認知度は飛躍的に向上しつつある。最近では稼働率80%に達し、利用者も着実に増えつつあるようだ。しかし、それでもマッサージ室未体験者は半分近くを占めているという。  そのため、より多くの人にマッサージ室を利用してもらうべく、マッサージ室からの情報発信を積極的に行っていく予定だ。また昨年途中から、誕生日月の1回だけは料金を無料にするサービスも始めた。受け身でやっているのではなく、通常店舗と同等レベルの情報発信やサービスを自ら行う姿勢を見せている。  一方で、椎橋さんいわく「他企業などへの視察や勉強会の結果から、社員300人から400人に、ヘルスキーパー1人の割合が適正のようです」とのことで、現状ではヘルスキーパーが不足していることになる。どのように運営していけるのか結果のわからなかった昨年の段階で、一挙に3人もの障害者を雇用することには大きな不安があったのだ。今後、予約が入りすぎてなかなか受診できないという状況が訪れたら、人数を増やす考えだという。 六本木・麻布十番地区でNo.1のマッサージ室を目指す  人事部のサポートなしでも通常営業が滞りなく行える体制にメドがついてきたため、今後は2つ目の目標である「専門店舗にも負けない質の追求」を徐々に進めていく。  専門のマッサージの店舗は六本木ヒルズ内にも2店舗、周辺を入れると無数に存在する激戦区だが、すべての社員が自社のマッサージ室を選んでくれるようなレベルまで引き上げ、もちろん価格や利用対象は異なるが、利用者満足度の点で通常店舗をライバルとしてとらえ、六本木・麻布十番地区でNo.1のマッサージ室に育てていきたいという。 人事担当者が語る 人事部 椎橋政美参事 ●お互いに社会人として接する  利用者数、そしてヘルスキーパーである2人が笑顔で働く姿を見ていると、成功したのだなと実感します。それも、盲学校の進路指導の担当者にご尽力いただいたことや、何よりヘルスキーパーの2人が高いプロ意識と就労意欲を持ち合わせていたことが大きかったと思います。ミーティングでのすり合わせは大変でしたが、実際に始めてみると、彼らはレポートを届けてくれたり、カルテを作成してくれたりと自発的に動いてくれます。「自立したマッサージ室」という目標を立て、彼らのモチベーションを高い位置で維持することが重要でしたが、お互いの立場や考えを尊重し、取り決めたのは基本的な枠組みのみ。彼らの決定権や裁量の範囲を広く設定したことが、よかったのだと思います。 人事部 瀬倉真由子副主務 ●いざ踏み出せば悩むことはない  椎橋とともに障害者の採用を担当しており、1部署1名と社内に働きかけておりましたので、まずは自分たち人事部で聴覚障害の社員を採用しました。その社員は今も私の席の隣で一緒に仕事をしていますが、これをきっかけに私も手話の勉強を始めました。  直接接した経験がないと相手が障害者ということで、最初は戸惑ってしまいますよね。私も初めはそうでした。でも、実際に一緒に働いてみないとわからないことがほとんどです。確かに大変なこともありますが、だからといって悩むほどのことでもない。その最初の一歩を踏み出せるか否かが大切なことではないかと感じています。  私自身も時々マッサージ室を利用しますが、施術のこと以外にも障害者にとって使いやすい施設のあり方など、教えてもらうことが多い今日この頃です。 〈キャプション〉 予約の調整、料金収受もすべて自分たちで行い、自立したマッサージ室を目指す。 マッサージ室は、人事部や保健室と隣接した位置にある。以前は会議室として利用されていたスペースを転用している。 簡易なパーテーションで間仕切りして待合室も設置。今後のマッサージ室拡張を考慮して、室内はレイアウトの変更がいつでもできるような構造になっている。 現在、11時から18時40分まで1回40分、昼休みを挟んで1日7回のマッサージを行っている。1回の料金は40分1,000円で、近辺の店舗と比べて約1/4の設定。 施術に訪れる聴覚障害者と意思疎通を図るため、田畑さんが手づくりしたというコミュニケーションカード。文字と点字からなる100を超える会話集だ。 人事部が用意した営業中・休業中の案内ボードには、田畑さん自ら点字を貼り付けて、自分で案内ボードを設置できるようにしたという。 田畑富立さんは当初、ヘルスキーパー制度は会社からお情けで給料をもらうものではないかと誤解を持っていたという。しかし、森ビルに勤務してから考えが180度変わり、今では仕事の緊張感を楽しんでいる。もっと多くの人に来診してもらえるよう、頑張っていきたいと話す。 鍼灸のアルバイト経験もある伴田弘さん。他の店舗と森ビルでのマッサージ室では、来診する人の求めることも違い、さまざまなことが勉強になると話す。今後、よりマッサージ室の有効性が社内に浸透し、ニーズが高まっていけば、それに合わせて施術内容も充実させていきたいという。 予約は2週間先まで可能で、画面には時間単位で状況が確認できる。社員はどのパソコンからもアクセス可能で、空いている枠に予約を入れる先着制。 伴田さんは視野狭窄の障害。画面拡大ツールを活用して、画面から予約状況を確認。なお、料金の収受は伴田さんが行っている。 全盲である田畑さんは、画面読み上げソフトを組み込んだパソコンを使用。ヘッドフォンからパソコンの文章を聞き取る。 広々としたマッサージ室は、待合室と施術室をパーテーションで区切り、2台の診察台はカーテンで仕切る形。過度の密閉感もなく、受診者はリラックスした状態でマッサージを受けることができる。 もちろんマッサージの腕前は一級品。専門店舗にも負けないクオリティを目指す。 P.62-67 奨励賞 アイシン精機株式会社 サポート体制を整備し、ヘルスキーパー制度での雇用拡大を図る ◆企業プロフィール アイシン精機株式会社  代表者:取締役社長 豊田幹司郎  〒448-8650 愛知県刈谷市朝日町2-1  TEL0566-24-8064  FAX0566-24-8844 ●業種および主な事業内容  輸送用機器の製造を主に、住生活関連商品、エネルギー関連商品、福祉関連商品などの開発・製造・販売 ●従業員数  12,424名(平成16年6月現在)  うち障害者数165名(重度障害者数91名・重複障害者数5名)  <内訳>  視覚障害者11名(うち重度5名)、聴覚障害者62名(うち重度54名)、肢体不自由者59名(うち重度20名)、内部障害者25名(うち重度13名)、知的障害者6名、その他の障害者2名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯  昭和24年設立の愛知工業株式会社が昭和40年に新川工業株式会社と合併、社名をアイシン精機株式会社に変更。  自動車の走行系・駆動系・機関系・車体系の部品を主に、トヨタベッド、シャワートイレなどの住生活関連商品、ガスヒートポンプエアコンなどのエネルギー関連商品、電動車いすや介護ベッドなどの福祉関連商品などの開発・製造・販売を行っている。  障害者雇用は、当初主に聴覚障害者を雇用していたが、平成7年に下肢障害者、平成9年に知的障害者の雇用を開始した。平成11年には弱視の障害者を、平成12年に全盲の障害者をヘルスキーパーとして雇用するなど、障害者の雇用拡大、職域拡大に取り組んでいる。 「障害者緊急雇用安定プロジェクト」を契機に視覚障害者雇用を具体化 設備改善 支援機器導入 ▼30年以上の実績がある障害者雇用  アイシン精機が障害者雇用を開始したのは、30〜40年も以前のことである。製造業の企業として現場作業に比較的受け入れやすい聴覚障害者から雇用を開始した。その後、下肢障害者や知的障害者、さらに内臓疾患により障害者に認定され職場復帰した内部障害者、糖尿病や緑内障・白内障により障害者に認定され職場復帰した視覚障害者などを雇用してきた。  このようにさまざまな障害者の雇用に関し豊富な実績がありながら、平成11年までは職場復帰者以外の外部の視覚障害者については雇用経験がないまま経過していた。  平成10年、国の緊急経済対策の一環として、「雇用活性化総合プラン」が策定され、その中の「障害者緊急雇用安定プロジェクト」が11年2月から実施されることになった。このプロジェクトには職場実習とトライアル雇用という、障害者雇用を模索している事業主にとって有効な施策が提供された。これらの施策は新たな視覚障害者雇用を検討していた同社にとって1つの転機となった。  一方、社内の健康診断の問診で、腰痛や、OA機器の普及による目の疲れ・肩こりを訴えるものが多くなっており、業務の効率向上のためにもその対策が大きな課題となろうとしていた。 ▼社員の健康維持と障害者雇用を目的にマッサージルームを設置  そこで考え出されたのが、「障害者緊急雇用安定プロジェクト」のトライアル雇用を活用しつつ、社員の健康状態の悪化を防止する方策である。  具体的には、@社員の健康の維持・増進と業務効率の向上、およびA障害者の雇用拡大と社会への貢献を目的に、あん摩マッサージ指圧師の資格を持った視覚障害者をトライアル雇用を使って実習生として受け入れ、マッサージルームを社内に設置することである。  まず、平成11年7月〜12年1月までを試行期間とし、中途障害の弱視で、名古屋盲学校卒業後4年の実務経験のある小島邦靖さんをトライアル雇用を使い、実習生として受け入れるとともに、マッサージに必要な器具・備品をリースして、マッサージルームを開設、利用した社員の声を聞くことにした。  その結果、「腰や肩の調子がよくなった」「肩こりが減った」などの声が多く、マッサージの効果が確認できたので、11年12月に正式にマッサージルームの設置が決定された。 改善のポイント1 マッサージルーム用器具・備品、視覚障害者用OA機器を装備 ▼利用予約と利用料回収のシステム化を図る  マッサージルームの設置の決定を受け、直ちに小島さんをヘルスキーパーとして正式採用するとともに、平成12年2月のマッサージルームの開設に向けて、必要な器具・備品類を改めて購入するとともにマッサージルームの改修工事に入った。  そして、ヘルスキーパーの事務的負担をできるだけ軽減するため、利用予約は社内のパソコンLAN上で予約できるようにするとともに、利用料の支払いも同じくLANを活用、月々の給料から自動天引きできるように工夫した。ただし、受付処理からカルテ作成までの事務処理については拡大文字変換ソフトや画面読み上げソフトをパソコンに装備することでヘルスキーパーが自ら行うこととした。 ▼利用者の増加を見込み、全盲の障害者を新規採用  試行期間における反響の高さからもマッサージルームが正規に開設された場合、利用者が増加することが十分予想された。そこで、同社ではヘルスキーパーを増員することにし、12年3月に名古屋盲学校卒業予定の全盲の櫛田いずみさんを採用、4月からヘルスキーパー2人体制となった。  櫛田さんの採用に伴い、弱視の小島さんにはあまり必要がなかった、職場や通勤上の安全対策がより重要な問題となった。当初、櫛田さんは職場近くの会社の単身者寮から徒歩で通勤することになり(現在は愛知県江南市から電車通勤)、職場までの歩行経路の要所に点字ブロックを敷設するとともに、途中の交差点に音響式信号機を設置することになった。  マッサージルーム開設にあたっては、下の表のように総額1,000万円を超える費用を要することになったが、その一部を障害者雇用納付金制度に基づく助成金の活用で経済的負担の軽減に努めながら、整備を図ることになった。 マッサージルーム開設に要した費用 マッサージ室の改修費用 537万円 点字ブロック敷設88万円 音響式信号機設置 114万円 マッサージベッド(2基) 52万円 パソコン関係(ソフトを含む) 91万円 マッサージルーム器具・備品類ほか 242万円 合計 1,124万円 改善のポイント2 職場環境の整備を進め、支援体制をさらに強化 ▼要望に応え刈谷地区以外にもマッサージルームを拡大  アイシン精機の事業所・工場は本社のある刈谷地区が中心であるが、それ以外に愛知県内の安城、西尾、碧南、半田、豊田の各市に分散している。マッサージルームは、刈谷地区からスタートしたが、当然のことながら他の地区からもマッサージルーム設置の要望がある。このような要望に応えるため、平成14年から最も要望が多い西尾地区で週1日だけマッサージルームを開設している。  マッサージルームの利用時間は、午前10時から午後7時までだが、一般組合員については昼休み(12時から1時半)と午後5時以降と時間制限があり、その他の時間も利用できるのは管理職とフレックスタイム勤務者だけである。そのため、どうしても昼休みと午後5時以降の時間に集中しがちとなり、この時間帯の稼働率は90%以上となっている。その点を除けば、現在稼働率は、平均60%前後を維持しており、かなりうまく機能していると考えられる。ただ、実際にはリピーターがかなり多いため、もっと利用者の実数を増やすことも今後の課題の1つであろう。 ▼サポート体制を整備、さらにマッサージサービスを向上  アイシン精機では、視覚障害者のヘルスキーパーが1人で通勤、作業ができるように、職場内外の環境整備や一連のマッサージ治療に至るまでさまざまな改善・支援体制をとってきた。さらに、平成16年5月、マッサージルームが新築の工場事務棟に移転したのを契機に、工場事務棟内の要所に点字びょうブロックの敷設、点字誘導シールの貼付など、職場環境を一層整備して、自立してマッサージ治療に専念できるように支援体制を強化している。  また、聴覚障害の利用者ともスムーズにコミュニケーションできるように、あらかじめ決められた言葉をカードに文字と点字の両方で記入しておき、そのカードを選択・提示することで、双方のコミュニケーションが図れるように工夫した。  マッサージ治療にかかる前には、利用者の過去の利用状況や身体の状況を確認し、利用者に合った適切な治療方法をとるようにしている。こうした利用者ごとにマッチした、よりきめ細かなマッサージ治療を施すように、社内のマッサージルームらしい一層のサービスの向上を図っていくようにしている。 マッサージルームの最近の利用状況(平成16年2〜4月)      2月        3月      4月 刈谷地区 205名/(324名) 230名/(378名) 178名/(261名) 西尾地区 15名/(24名)   14名/(24名)  16名/(24名) ( )内はフル稼働した場合の人数 マッサージルームの利用料  20分コース400円、40分コース800円 タオルのクリーニング代込み ◆改善・取り組みの実例 問題点・課題 改善策と効果  全盲の障害者の通勤が困難だった。 職場までの歩行経路上の要所に点字ブロックを敷設、途中の交差点に音響式信号機を設置。通勤しやすくする改善措置を行った。  視覚障害者にとって、通常のパソコンの使用は難しい。 弱視の障害者には拡大文字変換ソフトなど、全盲の障害者には画面読み上げソフトなどを購入、パソコンに装備することで、受付処理からカルテ作成までスムーズにできるようになった。  利用料の支払いや利用予約などの事務処理は視覚障害者には負担が大きい。 社内LANを活用することで、利用予約をできるようにするとともに、利用料の支払いもこのシステムを使い、利用者の給与から自動天引きできるように工夫したので、ヘルスキーパーの負担にはならない。  聴覚障害者とのコミュニケーションが困難だった。 必要とされる言葉をあらかじめ文字と点字で記入したカードを用意して、それを選択・提示することで、相互のコミュニケーションが図れるようになった。  腰痛、目の疲れ、肩こりを訴える従業員が増えていた。 マッサージルームの開設によって、「腰や肩の調子がよくなった。肩こりが減った」などの声が多く、マッサージの効果が確認できるようになった。 さわやかふれあいセンター 福祉支援グループ 障がい者支援チーム ヘルスキーパー   小島邦靖さん(45歳)  大学卒業後、企業に就職したが、勤務中に弱視となり、マッサージの資格を取るため、名古屋盲学校に入学。資格取得後、4年間実務を経験。平成11年にアイシン精機のヘルスキーパーに応募、トライアル雇用を経て、平成12年に正式採用される。ヘルスキーパーの仕事は働きがいがあり、大変満足しているとのこと。 さわやかふれあいセンター 福祉支援グループ 障がい者支援チーム ヘルスキーパー 櫛田いずみさん(29歳)  平成12年名古屋盲学校卒業後、アイシン精機のヘルスキーパーに正式採用。現在、結婚し、愛知県江南市から電車通勤。 ◆今後の課題&挑戦 新しい利用者をいかに増やすか  現在、1ヵ月当たりのマッサージルームの利用者の延べ人数は300人未満にとどまっており、社員の絶対数からすると、まだまだ少数といえる。利用者はリピーターが多く、それだけ固定ファンが付いているともいえるが、逆にいえば、新しい利用者を開拓することが今後の課題となる。  そこで、社内LANや社内報などを使って、今まで以上に、マッサージルームの利用を広く呼びかけていく方針だ。 利用状況や要望によっては、マッサージルームの拡大も検討  そうした広報活動の結果、稼働率がもっと向上したり、あるいは現在マッサージルームが設置されている刈谷や西尾以外の地区から開設要望が増えたりした場合には、ヘルスキーパーの増員や他地区への拡大も前向きに検討することにしている。  利用者の拡大には、やはり口コミが一番ものをいう。40分コースで800円(20分コース400円)という利用料金は、外部のマッサージ治療院を利用する場合に比べて格安なだけに、利用者は今後、確実に増加していくに違いない。マッサージルームの拡大は、おそらくそう遠い先のことではないであろう。 グループマネージャーが語る 社員の健康維持・向上にマッサージルームは確実に貢献しています さわやかふれあいセンター 福祉支援グループ グループマネージャー柴田正彦さん ●社員の健康状態の改善を実感  腰痛や目の疲れ、肩こりを訴える社員が増えましたが、マッサージルームを開設したことによって、これらの問題は確実に改善してきていると思います。社員の疾病率が改善されたり、作業効率が高まったりといった具体的な数値が出ているわけではありませんが、「肩こりが減った」「腰や肩の調子がよくなった」といった利用者の声が多く、このことから、社員の健康維持・向上にマッサージルームが貢献しているのは間違いないといってよいでしょう。 ●利用者の身体状況に合わせたきめ細かな治療が評判を呼ぶ  視覚障害者がマッサージ治療に専念できるように、さまざまなサポートをしてきましたが、そうした会社の支援体制もさることながら、彼ら自身の努力も見逃せません。マッサージにあたっては、利用者のカルテから利用者の身体の状況をよく見て、その人に合ったきめ細かい治療を徹底して行っています。外部のマッサージ治療院ではそこまでやってくれないでしょうから、やはり評判がよいのだと思います。その意味で、社内にマッサージルームを設置して本当によかったと思っています。 〈キャプション〉 アイシン精機は愛知県刈谷市にある。 マッサージ中の小島邦靖さん。「腰や肩の調子がよくなった」「肩こりが減った」など、評判も上々だ。 音声変換ソフト付きのパソコンを使い、データを入力、受付処理をする(左は文字拡大器)。 拡大読書器を使って利用状況などデータを確認する小島さん 寮から職場までの歩行経路に敷設した点字ブロック 交差点に設置した音響式信号機 点字誘導シールが貼付されたエレベーター(工場事務棟内) エレベーター内にはガラス張りで車椅子利用者が乗ったままの位置で降りる階を確認できるように工夫されている(工場事務棟内)。 エレベーター前の階段にも点字誘導シールが貼付されている。 工場事務棟内の点字びょうブロック マッサージルームの利用者には、リピーターが多い。施術効果や低料金が好評だからだ。今後の課題は、新しい利用者を開拓すること。小島さんたちの一層の頑張りに期待がかかる。 p.68-90 その他の応募事業所  平成16年度は「視覚障害者にとって働きやすい職場」をテーマに、視覚障害者を雇用する企業の職場改善好事例を募集いたしましたところ、全国55の事業所からご応募をいただきました。  残念ながら入賞に至らなかった45事業所の職場改善の取り組みにも、今後の視覚障害者雇用の参考になる事例が多々、見られます。そこで、各事業所の改善・取り組みのポイントをまとめてみました。 株式会社エスイーシー 代表者:代表取締役 沼崎弥太郎 〒040-8632 北海道函館市末広町22-1 TEL 0138-22-7188 ●業種および主な事業内容 情報処理サービス業 ソフトウェアの設計開発、アウトソーシング、ネットシステム、SIシステム販売、半導体・移動体通信分野におけるソフトウェア・ハードウェアの設計開発 ●従業員数 555名(平成16年7月1日現在)うち障害者数6名 <内訳>視覚障害者1名(うち重度1名)、肢体不自由者1名、内部障害者4名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和44年10月、株式会社南北海道電子計算センターを設立し、昭和51年2月には本社を現在地に移転する。同年4月には資本金を4,000万円とする。昭和55年に肢体不自由者を初めて雇用。平成9年には、トップダウンにより積極的雇用を開始した。平成15年には、マッサージ室開設に伴い三療の免許を持つ視覚障害者を雇用する。 ●改善テーマ 従業員の健康管理のため、ヘルスキーパー職を設けて新たに視覚障害者を雇用し、職域拡大を図る。 ●改善・取り組みのポイント 平成14年5月に新社屋(システムビル)設計に伴い、従業員の健康管理の一環で、マッサージ室開設に向けたプロジェクトがスタートした。 人材確保においては、当初札幌圏からの採用を検討していたが、応募がなかなかなく、結局は地元での採用に踏み切った。マッサージ室の選定については、「稼働率確保のための利便性」と「視覚障害者雇用に対する社員の理解」の両面を充実させる場所の確保を念頭に置いた。 また、雇用された人の通勤への利便性を確保するため、重度障害者等通勤対策助成金の活用により、市電で20分程度のところに住宅を確保し、交通機関を利用した単独での通勤を可能にした。 4月から6月までの利用可能枠数588のうち、利用者は319名(稼働率54%)であった。マッサージを受けることでリラックスして帰る者が多く、従業員の健康管理という点では一定の目的に達していると思われる。 デイサービスセンター 和み 代表者:理事長 島村美由紀 〒038-3123 青森県西津軽郡木造町字藤田44-5 TEL 0173-49-2250 FAX 0173-42-6268 ●業種および主な事業内容 社会福祉 ●従業員数 58名(平成16年7月1日現在)うち障害者数2名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、知的障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 ケアハウスを母体に、デイサービス2ヵ所、居宅介護支援事業所2ヵ所、ホームヘルパー事業所2ヵ所、訪問入浴サービス・グループホーム2ユニットを実施している。 障害者の自律を促進するためと、人と人のふれあいを大切にするために、障害者を雇用した。 ●改善テーマ 就労支援機器の活用による雇用環境の改善 ●改善・取り組みのポイント デイサービスに、視力障害のあるマッサージ師が機能訓練指導員として就労していた。しかし、マッサージ台の高さが固定されており、利用者である高齢者のマッサージ台への移動をほかの職員が行っていたため、マッサージ師は、ほかの職員に負担がかかることに悩んでいた。 そこで、高さをペダル1つで調整できる、昇降式マッサージ台を購入することにした。 それにより、利用者が安全に移動できる高さにすることができ、マッサージ師もほかの職員への遠慮がなくなった。さらに、高齢者に疼痛緩和や機能訓練を実施できるようにもなった。 当デイサービスセンターは、農業地帯に新規開設した事業所だが、昔からの湯治場だった温泉の効能とマッサージが好評。疼痛緩和が評判になり、マッサージ師は、頼りにされる機能訓練指導員として頑張っている。 社会福祉法人 岩手県社会福祉事業団 代表者:理事長 小笠原佑一 〒020-0114 岩手県盛岡市高松3-7-33 TEL 019-662-6851 FAX 019-662-8044 ●業種および主な事業内容 社会福祉事業 県立社会福祉施設等の受託経営 ●従業員数 554名(平成16年6月1日現在)うち障害者数8名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度1名)、聴覚障害者2名、 肢体不自由者3名、内部障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 県立の養護老人ホーム・救護施設・知的障害児施設などの社会福祉施設および県立社会福祉研修所などの福祉関連施設の管理運営を県から受託し、経営を行っている。 利用者へのサービス向上と障害者の法定雇用率の確保のため、福祉に関する知識・技能などを持っている障害者で、福祉施設などで業務を遂行できる人を雇用した。 ●改善テーマ 視覚障害者の情報収集力の向上と相談業務の充実 ●改善・取り組みのポイント 障害者は、昭和57年4月に点字校正指導員という専門技術職員として採用され、17年間非常勤として勤務する。しかし、点字図書館業務の充実を目指し、平成11年4月から正職員として採用され、現在に至っている。正規職員になってからは、利用者からの各種相談(生活全般からIT相談)や事務分担が増え、 情報の共有化や最新の情報を迅速に収集することが求められるようになった。 情報の共有化については、文書読み取り装置スキャナーソフト「ヨメール」を購入し、1人でも概要をつかむことができるよう環境を整備した。その結果、各種墨字文書が1人でも読めるようになり、気がねなく情報の収集ができ、全体として業務の効率化が図れた。さらに、情報の共有化や業務の効率化により、本人の意欲が向上し、ほかの視覚障害者にも機器の生の情報を伝えることができ、情報伝達の格差の減少を図ることができた。 ジャパンツーリストサービス株式会社 代表者:代表取締役 高橋義典 〒024-0063 岩手県北上市九年橋3-18-5 TEL 0197-64-7011 FAX 0197-64-7051 ●業種および主な事業内容 旅行業 ●従業員数 5名(平成16年7月1日現在)うち障害者数1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成2年12月26日、資本金1,155万円にて設立。小学校・幼稚園・保育園・官庁・一般企業などの団体をはじめ、個人客の国内・海外旅行の多様なニーズに応えている。平成5年、業務のコンピュータシステム化を検討していた際、被雇用者がプログラマーとして求職活動をしているのを知った。雇用主は「障害者とともに働ける職場環境を構築したい」と起業当時から考えており、採用を決定した。 ●改善テーマ 視覚障害者(全盲)のためのプログラム開発環境整備 ●改善・取り組みのポイント 旅行予約システムおよび経理システムのプログラム開発に取り組んだ。 視覚障害者にも利用できるプログラム開発環境が必要なため、ハード・ソフトウェアの導入に際しては本人と相談し、十分な開発環境を整備した。 具体的には、スクリーンリーダーと点字ディスプレイを導入し、入力作業とソース確認ができるようにした。入力画面の設計も本人が行い、他従業員に指示を出して実際の作成を行った。 また、仕様書や出力結果、パソコンやプログラム言語のマニュアルなど、印刷物を参照する場合は、必要に応じて他従業員が読み上げたり、点字電子手帳を利用するなどして改善した。 いずれの取り組みも、他の従業員による協力が不可欠であった。そのため、本人には会社組織における協調性の大切さを説き、他の従業員にも円滑なコミュニケーションを心がけるよう協力と理解を促した。 株式会社ステージライン 代表者:代表取締役 難波 優 〒980-0803 宮城県仙台市青葉区国分町2-2-5柴崎ビル4F TEL 022-212-4711 FAX 022-212-4712 ●業種および主な事業内容 語学スクール ●従業員数 20名(平成16年7月8日現在)うち障害者数1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 1989年、語学スクールとして創業。1999年には2校目の仙台駅前校を開校。2002年10月には仙台駅前校の生徒増加に伴い拡張移転、フロアの使いやすさなども充実する。 2003年3月、初めて視覚障害者を採用。短時間勤務での採用であったが、試行錯誤しながらも働きやすい職場環境づくりに努め、現在は一般社員として専門職(英語講師)に就いている。 ●改善テーマ ・専用パソコンを導入し、業務効率向上を図る ・設備の配置や備品に工夫を加え、利便性向上を図る ・社員間の相互協力により働きやすい環境を維持する ●改善・取り組みのポイント 不便な点や改善要望を本人、スタッフ、生徒がいつでも相談できる体制を構築、そこに寄せられた相談をもとに具体的な改善に取り組んだ。 まず、点訳ソフトをインストールした専用パソコンを導入し、通勤時のパソコンの持ち運びをなくした。宿題添削は、他スタッフと口頭での確認、もしくは電子文書に作成し直して行えるようにした。 授業運営においては、黒板に極細ビニールテープを貼って行を作成し、字を書く際に曲がらない工夫を施した。また、教室内のレイアウトを変更し、盲導犬の居場所を確保。生徒に気を遣わせずに済むよう配慮した。授業後の教室清掃も他スタッフが協力して行うこととした。 問題の大半は話し合いで解決でき、経費を要する場合も、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を利用して解決できる。障害者だからと特別扱いせずに、同僚としてお互いに協力し合う姿勢を大切にしている。 バイスリープロジェクツ株式会社 代表者:代表取締役 菅野 直 〒981-3212 宮城県仙台市泉区長命ヶ丘4-15-22 TEL 022-342-7077 FAX 022-342-7079 ●業種および主な事業内容 情報処理業、ソフトウェアの受託開発 ●従業員数 26名(平成16年7月9日現在)うち障害者数1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和62年3月設立。主な事業としてコンピュータソフトウェアの開発・設計、計測システムの開発・設計、マイコン組み込み機器の開発を行う。 平成9年7月、視覚障害者向け情報機器の販売・サービスを開始。ユーザーの立場に立ったサービス、充実したサポートを実現するために視覚障害者を雇用した。 ●改善テーマ パソコンを利用した情報の共有化 情報機器を活用した作業の効率化 ●改善・取り組みのポイント 視覚障害による「文字情報を目で確認できない」ことが、改善すべきポイントだった。 まず、音声化ソフト「スクリーンリーダー」を利用し、パソコンで扱う情報をすべて音声で確認できるようにした。併せて社内の共有情報データは、音声による確認がしやすいデータ形式に変更した。また、ポータブルレコーダーを電話応対時のメモ代わりに利用し、本人がその情報をパソコンで管理・伝達までできるようにした。同時に、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を利用して点字ディスプレイ、点字ラベラー、点字電子手帳を導入し、お客様の名刺をはじめとした各種情報を点字化できる環境を整備した。 これらの取り組みの結果、インターネットでの情報収集はもちろん、業務に必要な情報の管理・活用を独力で行えるようになった。情報の音声化と点字化を推進したことで、確実に内容を把握し、必要であれば何度でも内容を確認できる体制を実現できた。 医療法人宏友会 介護老人保健施設うらら 代表者:理事長 矢島恭一 〒999-8134 山形県酒田市大字本楯字前田127-2 TEL 0234-28-3131 FAX 0234-28-3232 ●業種および主な事業内容 老人福祉 ●従業員数 113名(平成16年7月1日現在)うち障害者数4名 <内訳> 視覚障害者2名、知的障害者2名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成8年4月開設。施設の入所利用者定員は100名、通所サービスは定員60名。その他介護保険下において訪問リハビリ、訪問介護、痴呆性高齢者グループホーム事業を、施設周辺地域を基盤に展開。職員数が100名を超えた平成13年、ハローワーク主催の障害者雇用面接会に参加し、知的障害者・視覚障害者を各1名採用。これまで、現職員も含めて6名の職場適応訓練を実施。 ●改善テーマ される側からサービスをする側へ 〜マッサージ師の資格を生かして高齢者に満足を〜 ●改善・取り組みのポイント 主に通所リハビリテーションサービスを利用している方に、マッサージを施術している。宏友会の診療所で指導を受け、技術向上に取り組んでいる。 一方で、利用者との会話やホスピタリティ面では課題が多い。職業人に不可欠なコミュニケーション能力を養うためにも、職場適応訓練中はその指導に重点を置いている。また、職場内の情報共有を実現するために専用パソコンを導入し、メール利用のほか、独力での利用者カルテ作成・保管・管理に試行錯誤しながらも取り組んでいる。 マッサージは介護保険報酬に結びつかないため、無収入である。利用者の満足度向上のためにも、本人のモチベーションを高める工夫が必要である。 職場では、他職員が歩行介助を学ぶなどし、本人に対する援助はスムーズに行われている。また施設内の点字表示をすべく障害者雇用納付金制度に基づく助成金を申請している。 医療法人 三愛会 代表者:理事長 池田隆史 〒962-0848 福島県須賀川市弘法坦53-2 TEL 0248-75-2165 FAX 0248-76-4324 ●業種および主な事業内容 医療業 ●従業員数 173名(平成16年6月1日現在)うち障害者数12名 <内訳> 視覚障害者8名(うち重度5名)、肢体不自由者3名(うち重度1名)、内部障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 リハビリ治療を主体として、温泉療法を用いた病院を持ち、診療にあたっている。 体の不自由な人にも職場を提供したいという理事長自身の強い考えに基づいた方針のもと、現在に至る。 ●改善テーマ 障害のある職員の安全な通勤体制を目指して (最寄り駅間の送迎を実施) ●改善・取り組みのポイント 多くの身体障害者にとって歩行や外出の際に不安はつきものであり、外出して勤務することに抵抗を感じることもある。 この状況を改善するため、障害のある職員1人1人に対し、当院の最寄駅までの送迎を行い、通勤に対する身体障害者の負担や不安を解消し、職場の提供を図った。乗り降りに注意を配り、電車到着時間に合わせた送迎を実施して通勤に不便を来さぬよう配慮している。 さらに、トイレも障害のある職員が利用しやすいように手すりのついた洋式に改修し、職場近くに設置するなど、職員が働きやすい環境を作り、提供している。 有限会社 健佑 代表者:代表取締役 坂本ヨシ 〒320-0861 栃木県宇都宮市西1-4-13 ナイス・ザ・プレジデントステージ宇都宮108 TEL 028-633-7277 FAX 028-633-7837 ●業種および主な事業内容 マッサージ業 ●従業員数 38名(平成16年6月30日現在)うち障害者数27名 <内訳> 視覚障害者27名(うち重度22名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成5年にマッサージ専門治療院として開業。現在、県内に4店舗を構え、利用者に最大・最高のサービスを提供することを目標に、事業を行っている。 徹底した社員教育と充実して働ける職場環境づくりをモットーに、社員にはいつも安心して伸び伸びと働いてほしいと願いながら、日々職場改善に努めている。また、マッサージ有資格者を広く全国に募集し、視覚障害者の雇用の場の提供を図っている。 ●改善テーマ 働きがいのある職場づくり ●改善・取り組みのポイント 社員の7割以上が視覚障害者であり、歩行上の危険ならびに職域・生活域の制限などの問題に全社的に取り組む。健常者による誘導、読み上げによる確認、連絡事項の点字化、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を利用した援助者の外部委託などにより、コミュニケーションが十分に取れるようになった。職場のバリアフリー化を図り、職員が誰でも働きやすい環境を整えた。職場近くに点字ブロックが利用できる宿舎を用意するなど通勤経路にも配慮している。 大型店に出店した際は受け入れ先の理解・配慮と協力を得て、盲導犬を退社時まで控室で待機させる許可を得た。 さらにパソコンを活用し、重度障害者でもインターネットや音声ソフトの利用によって、健常者の手助けなしに必要な情報を得られるようになるなど、職域・生活域ともに広がり、ストレス解消にも役立っている。また、改善を進める過程では社員同士の強い信頼関係も築かれた。 株式会社 西友サービス 代表者:代表取締役社長 柳 健 〒350-0838 埼玉県川越市宮元町23-1 TEL 049-227-1450 FAX 049-229-4130 ●業種および主な事業内容 クリーニング・印刷・メール便の仕分け作業 ●従業員数 79名(平成16年7月1日現在)うち障害者数47名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度1名)、聴覚障害者5名(うち重度3名)、肢体不自由者9名(うち重度8名)、内部障害者6名(うち重度6名)、知的障害者24名(うち重度11名)、その他の障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 障害者の職業的・社会的自立と会社としての自立を経営理念とし、株式会社西友フーズの子会社として設立。さらなる障害者の雇用促進を図り、クリーニング・印刷・メール便の仕分け作業の事業拡大を行う。その後親会社統合による特例子会社化で事務代行、文書センターの業務が増加し、メール便の作業も大幅に拡大。多様な業種に職域拡大を図り、さまざまな障害を持つ従業員を雇用している。 ●改善テーマ 視覚障害者のための仕事の確保と職場改善 ●改善・取り組みのポイント 職場の拡張と業務の増加に伴い、職員が安全に働けるよう増員および配置換えを行った。さらに、色分けによる識別や大きく分かりやすい表示、業務内容の整理・区分、声だし確認の徹底など、視覚に障害のある職員に注意を促す工夫をした。 こうした改善の取り組みにより視覚障害者の職域の開発がなされ、自分1人でも自信を持ち前向きに仕事に取り組めるようになった。さらに仕事上の判断もしやすくなり、ミスも大幅に減少した。結果的に、健常者と障害者が共に安心して働ける職場となった。 また、視覚障害者のうち1名はヘルスキーパーであり、掲示板を利用した健康に関するアドバイスを発信している。 社会福祉法人あかね 代表者:理事長 阿部貞信 〒273-0035 千葉県船橋市本中山3-21-5 TEL 047-336-5112 FAX 047-336-5114 ●業種および主な事業内容 テープ録音速記、データ入力、印刷・製本・発送、点字印刷、テープ雑誌作成・発送管理、PC教室、コミュニケーション訓練 ●従業員数 26名(平成16年6月30日現在)うち障害者数21名 <内訳> 視覚障害者14名(うち重度12名)、聴覚障害者1名、肢体不自由者6名(うち重度4名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 利用者個人の意向を尊重した多様な福祉サービスの提供に創意工夫し、地域社会における自立した生活を営むための支援を目的として、身体障害者小規模通所授産施設(福祉情報センター ワークアイ・船橋)ならびに、身体障害者デイサービス事業(ITサポートセンター)の経営を行っている。 施設職員に視覚障害者を配置することで、体験を通した指導が可能となるなど成果をあげている。 ●改善テーマ パソコンを活用し、重度視覚障害者を中心とした就労の場の提供 ●改善・取り組みのポイント 重度視覚障害者の職員が担う情報処理業務を業務面から生活面までさまざまな支援を行う。施設内LANのネットワーク化による情報共有化、利用可能なすべてのパソコンの音声化ならびに専門スタッフによるパソコン技術指導、日常業務支援ボランティアの配置、録音速記文書の外部校正者およびパソコン支援ボランティアの組織化などに工夫し、改善を図った。 さらに業務の拡大を図るため、パソコンの活用と併せ、重度障害を持つ職員自ら積極的な営業を行い、新規業務確立と受注拡大に努めている。 さらに、パソコンの上級コースとしてWebクリエーター講習会を開催し、視覚障害者が日常生活に技術を活用し、今後の仕事にも発展できるような取り組みを行っている。また、新しい業務である点字名刺の製作は、健常者と視覚障害者の共同作業によって製品化され、受注量も増加している。 株式会社 伊勢丹 代表者:代表取締役 社長執行役員 武藤信一 〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1 TEL 03-3225-2413 FAX 03-3225-3289 ●業種および主な事業内容 百貨店 ●従業員数 7,159名(常用雇用者数)(平成16年6月1日現在) うち障害者数84名 <内訳> 視覚障害者10名(うち重度7名)、聴覚障害者18名(うち重度11名)、肢体不自由者38名(うち重度12名)(うち重複2名)、内部障害者12名(うち重度5名)、知的障害者6名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 障害者の雇用率は1999年まで1.8%を下回っていたが、その後1.94%と大幅に伸ばした。しかし、2004年6月時点では社内の組織変更や業務改革などにより障害者が担う業務が少なくなり、4年ぶりに障害者雇用率が1.8%を下回った。現在は、特例子会社設立に向けて準備を進めている。(2005年4月業務開始予定) ●改善テーマ 視覚障害者の雇用および職場定着 ●改善・取り組みのポイント 2000年から、社会的貢献を目指す一企業として障害者雇用の推進活動を充実。視覚障害者については「ヘルスキーパー」として雇用を進め、従業員の健康維持・増進に向けたマッサージを中心とした業務に携わっている。 従業員の要望が複雑化する中で、質的向上を図ることを目的として、知識・技術の習得のために研修会へ参加を認めた。また、研修目的を「本人の知識・技術の向上」と「業務の充実」と位置づけ、費用や日程の面でも援助を行った。 設備の不備についても指摘があったため、施設台などの配置を簡略化した。さらに、配置を変更する際には事前に知らせることを徹底し、何がどこにあるかを明確にした。社内放送の音量を常時一定以上にする配慮もしている。 こうした取り組みにより、業務に対する質的向上が図られ、従業員の評判もよくなった。 NECインフロンティア株式会社 代表者:代表取締役社長 齊藤紀雄 〒101-8532 東京都千代田区神田司町2-3 TEL 03-5282-5803 FAX 03-5282-5903 ●業種および主な事業内容 ネットワーク系システムや情報端末機器の開発、製造、販売、設置、アフターサービス ●従業員数 1,241名(平成16年4月1日現在)うち障害者数14名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度2名)、肢体不自由者7名(うち重度2名)、内部障害者2名(うち重度2名)、知的障害者3名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 国内外にわたる関連会社のグループで、開発・製造から販売、設置、アフターサービスまでトータルなサービスを提供している。従業員は日頃からパソコンを使った業務が多いため、リフレッシュを目的とした「ヘルスケアルーム」を、営業部門、スタッフ部門、技術開発部門の約650名が勤務する本社ビルに開設し、盲学校卒業であん摩マッサージ指圧師の資格保持者をヘルスキーパーとして採用した。 ●改善テーマ ヘルスケアルームの開設により、@視覚障害者の雇用とその職場定着を図る、A社員の健康維持、増進を図る、B障害者雇用率の向上により法定雇用率達成に向け努める。 ●改善・取り組みのポイント オフィスの一角をヘルスルームとして改造することから始めた。ヘルスキーパーの意向を聞きながら備品を揃え、保健所の指導も受けて設備の導入を進めていった。同時にWebによる「ヘルスケアルーム予約管理システム」を社内で開発。ヘルスキーパーにはパソコンを1人1台用意し、障害状況に合ったソフトを購入した。 そのほか、エレベータに音声案内を導入したり、エレベータのボタンや分別ゴミ箱6種に点字シールを貼付するなどの改善も行った。 ヘルスキーパー自身が率先して、ヘルスケアルームの充実に向け積極的に取り組んでおり、ミーティングや、マッサージ施術の際のコミュニケーションも良好。これまで障害者と接する機会の少なかった社員も、気兼ねなく話をしたり助け合ったりする姿が見られるようになった。 身体障害者雇用促進研究所株式会社 代表者:代表取締役 篠原欣子 〒164-0013 東京都中野区弥生町2-3-13川本ビル TEL 03-3373-8281 FAX 03-3373-2589 ●業種および主な事業内容 事務請負、発送業務、PC教室、名刺作成、有料紹介業 ●従業員数 34名(平成16年6月1日現在)うち障害者数31名 <内訳> 視覚障害者4名(うち重度2名)、聴覚障害者4名(うち重度1名)、肢体不自由者9名(うち重度4名)、内部障害者8名(うち重度5名)、知的障害者6名(うち重度1名)(うち重複1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 人材派遣会社テンプスタッフの出資で設立された障害者雇用促進のための特例子会社。「雇用創造」「人々の成長」「社会貢献」を企業理念に雇用を行う。 業務は、事務請負部門(パソコンを使った事務)、サプライ部門(封入・梱包発送請負)、名刺作成部門、筆耕請負部門、パソコン教室(障害者、高齢者、小学校低学年向け)、障害者雇用支援部門(人材紹介、職業紹介、研修・トレーニングサービス)、保険部門に分かれる。 ●改善テーマ @就労支援機器・ソフトの活用 A情報伝達、コミュニケーション方法の工夫 ●改善・取り組みのポイント @視覚障害者が企業で働く際には、パソコンを使用するための音声入力、読み上げソフトなどの支援機器・ソフトが必要となる。それらを有効に活用して行える、次のような業務を推進した。 ・各種企画書・報告書作成業務 ・インターネットでの情報収集、社内報やメールマガジン、ホームページのコンテンツ作成 ・各種事務作業(データ管理業務など) ・視覚障害者向けIT講習会の企画・運用 A視覚障害者に対して有効な人的サポートを強化した。 ・事務作業における紙ベースの書類処理 ・企画書等の書類作成(レイアウト) ・情報収集などの協力 住友林業株式会社 代表者:代表取締役執行役員社長 矢野 龍 〒160-8360 東京都新宿区西新宿6-14-1 TEL 03-3349-7511 FAX 03-5322-6751 ●業種および主な事業内容 住宅新築事業、木材・建材流通事業 ●従業員数 4,759名(平成16年6月1日現在)うち障害者数57名 <内訳> 視覚障害者6名(うち重度2名)、聴覚障害者13名(うち重度9名)、肢体不自由者27名(うち重度6名)、内部障害者11名(うち重度3名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 1691年創業。1955年に住友林業株式会社として全国的な国内木材集荷販売体制を確立し、現在では木と住まいに関わる事業を幅広く行っている。 対外的な業務がほとんどであることもあり、障害者雇用はなかなか進まなかったが、企業の社会的責任を再認識し、障害者雇用の拡大に取り組んできた。 現在は、今期中の法定雇用率達成を目標に、採用活動、社内啓蒙および定着率アップのためのフォロー体制の確立に向けて取り組んでいる。 ●改善テーマ 重度視覚障害者の採用および受け入れ態勢の整備 ●改善・取り組みのポイント @機材等の設備面の改善 幅広い業務を行うため、拡大読書機やパソコンの読み上げソフトを購入した。社内メールや会計システムなど独自のシステムには対応しないため、個別にシステム改善を検討している。 A現場での障害への理解促進およびコミュニケーションなどの受け入れ態勢 障害状況(見え方、お願いしたいこと、生じやすい誤解など)を詳しく書いた資料を配布し、周囲に理解を求めた。また、業務の依頼や手助けは本人に確認を取りながら進めていく体制とした。そのほか、部内では通路に物を置かないよう気をつけたり、懇親会などには必ず声をかけ、参加しやすい環境をつくった。 B障害者のキャリアアップを考慮した業務指導 本人との相談により、業務内容を広げて正社員登用に向けたスキルアップを図った。 株式会社セガ 代表者:人事本部長 川嶌鋼一 〒144-8531 東京都大田区羽田1-2-12 TEL 03-5736-7100 FAX 03-5736-7115 ●業種および主な事業内容 ゲーム機器・ゲームソフトの開発販売、アミューズメント施設の運営 ●従業員数 825名(平成16年6月1日現在)うち障害者数7名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度1名)、肢体不自由者3名(うち重度2名)、内部障害者1名(うち重度1名)、知的障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 同社は、家庭用および業務用ゲーム機器の製造販売、アミューズメント施設の運営を主な事業としている。 障害者雇用においては、かねてから障害者の職域開発による雇用拡大を検討していたが、その具体策として平成14年にマッサージルーム(社内名リラクゼーションルーム)を設置、翌年には2ヵ所目のリラクゼーションルームを設置した。 ●改善テーマ マッサージルームの開設による視覚障害者の雇用環境創出、視覚障害者に配慮した運用システムの構築 ●改善・取り組みのポイント 同社は、テレビゲーム制作という業務柄、常時パソコンの前で作業する社員が多く、体のハリやコリなどの筋肉疲労を自覚する者も多かった。 また、かねてから障害者雇用を拡大するための職域開発を検討していた。 そこで、こうした状況に対応できる有用な手段として、社内にマッサージルームを設け、視覚障害者をヘルスキーパーとして雇用することにした。その際、 ヘルスキーパーが予約応対をしなくて済むよう、社内情報システム部門に、イントラネット上での予約システムを開発してもらった。 社内の反響は大きく、開設後数ヵ月間は1週間先まで予約が埋まる状況が続いた。また、ヘルスキーパーと社員との間のコミュニケーションをとおして、社内における視覚障害者への理解が進んだ。 ペンタックス株式会社(本社) 代表者:取締役社長 浦野文男 〒174-8639 東京都板橋区前野町2-36-9 TEL 03-3960-4544 FAX 03-3960-2416 ●業種および主な事業内容 カメラ、医療用機器、OA・情報機器、ニューセラミックス製品、他各種光学製品の開発・製造・販売 ●従業員数 1,167名(平成16年3月31日現在)うち障害者数11名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、聴覚障害者3名(うち重度3名)、肢体不自由者4名、内部障害者3名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 同本社は東京板橋にあり、研究開発、開発設計および管理部門が配置されている。平成15年4月入社の、障害者として初めて採用された視覚障害者は、同年2月にハローワークが主催した「障害者就職面接会(全都)」で応募があり、情報システム部に配属された。 ●改善テーマ 誰もが充実した環境で働ける職場づくり 障害者のハンディーを越えた職場づくり ●改善・取り組みのポイント 採用に際しては、同社が障害者に対して必要な指導や指示ができるかなどいくつかの問題点があったが、その後の対策により改善することができた。 採用した視覚障害者は、目が不自由になる前にパソコン設定や指導を行っていたため、ハイスペックのパソコンや拡大ソフト、拡大機を購入し、インフラ面を整備した。そのほか、お互いに挨拶を交わす、社内では杖を持って歩いてもらう、食堂へは当番を決めて一緒に食べに行くなどの工夫・改善も行っている。 取り組みの効果としては、職場や会社からの連絡事項や回覧、お知らせなどはほとんどメールやホームページでも見られるようになり、視覚障害者でも不自由なく確認が取れる環境になった。 同部でも他部署でも、障害者を受け入れるための環境づくりについては、想像しにくい部分がある。今後は、会社としてさらに方針を立て、各部署が何をするべきかを考えて、改善に取り組んでいく方向である。 株式会社ワークスアプリケーションズ 代表者:代表取締役CEO 牧野正幸 〒107-6019 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル19F TEL 03-6229-1202 FAX 03-6229-1201 ●業種および主な事業内容 パッケージソフトウェアの開発・販売・保守 ●従業員数 471名(平成16年6月30日現在)うち障害者数1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 同社は、日本で唯一、大企業を対象とした人事給与のパッケージソフトウェア開発を行っている。非常にストレスのたまりやすい環境の中、専門業者のマッサージサービスを取り入れていたが、使用する部屋が週に3日間空くことになるため、そこにヘルスキーパーとして、視覚障害者を雇用することにした。 採用された視覚障害者については、面接において、高いパソコンスキルと熱意が採用の決定因となった。 ●改善テーマ マッサージ施術時間への配慮、見づらい電子データの改善、エクセルの見方のサポート、開発ミーティング議事録作成など ●改善・取り組みのポイント 主たる業務は、マッサージ施術とソフトウェア開発部のミーティング議事録作成の二本立てになった。そこで、マッサージ施術と重ならないよう、同僚の理解を得て、人事総務内で行っているミーティングの時間を調整した。ヘルスキーパーの時間が空いたときは、同僚が目を配り、採用関連の事務作業(書類の部数集計、テクセルや就職サイトを使用しての作業など)を指示し、意欲を高めるようにした。 今年1月から、ヘルスキーパーを含む採用関連者3名で、障害者採用プロジェクトをスタートさせた。ヘルスキーパーには、採用に関する全般的なことに関わってもらっているが、主に当事者として窓口に立ってもらっている。ヘルスキーパーは、自身の就職活動や事務分野での業務内容が注目され、取材や講演依頼を受けるようになった。 こうした活動は、就職で困難に直面している重度障害者に向け、自身の経験を伝える活動として注目を浴びている。 社会福祉法人 光友会 代表者:理事長 五十嵐光雄 〒252-0825 神奈川県藤沢市獺郷1008 TEL 0466-48-1500 FAX 0466-48-5113 ●業種および主な事業内容 知的障害児・者、身体障害児・者への各種福祉事業 ●従業員数 182名(平成16年6月1日現在)うち障害者数9名 <内訳> 視覚障害者3名(うち重度2名)、聴覚障害者1名、肢体不自由者4名(うち重度1名)、知的障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 同法人(事業所)は、各種障害者にさまざまなサービスを行う法人で、職員の総数は180名余であり来年度の採用を含めると200名を超える(非常勤含む)。障害者の雇用率は20%を超えていて、職員の採用に当たっては、常に障害者・高齢者の採用を意識している。そうした実績が評価され、さまざまな団体から表彰を受けている。 ●改善テーマ 企業の中で視覚障害者が働きやすい環境づくり ●改善・取り組みのポイント 視覚障害者の場合、文字情報が多く使われる職場等では情報が取りにくかったり、歩行時において他人との接触や物との衝突などの問題がある。さらに、通勤途上における安全確保、職場のイベントなどへの参加の仕方、職場内における人間関係もテーマであった。 会議では、ブレイルメモを購入しデータの確保をしながら、会議メモも取りやすいようにしている。敷地内の各所には点字ブロック、入口には音声誘導装置などを設置するなど、さまざまな対策を講じた。 現在、視覚障害者の職員は何の不自由もなく他の職員と変わらず執務しており、また、仕事時間外の交流も行っている。職員の名刺は、当然ながら点字印刷がされていて、視覚障害者以外の職員も日頃から点字に親しむ習慣ができている。 神奈川県総合リハビリテーション事業団 七沢ライトホーム 代表者:所長 菅原安英 〒243-0121 神奈川県厚木市七沢516番地 TEL 046-249-2403 FAX 046-249-2411 ●業種および主な事業内容 社会福祉施設および病院の受託運営 ●従業員数 993名(平成16年7月1日現在)うち障害者数23名 <内訳> 視覚障害者13名(うち重度5名)、肢体不自由者10名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 当事業団は、心身に障害のある方々に対し、医学、教育、社会等各専門分野の英知を結集し、残存機能の回復、潜在能力の開発・助長、社会生活力の獲得等、社会復帰へのあらゆる可能性を1人1人について明らかにするため、診断、治療、総合評価、看護、リハビリテーション訓練、生活支援などを一貫して行い、早期社会復帰を図ることを目的としている。 ●改善テーマ 視覚障害者の方々に対して、生活自立と社会参加に向けたリハビリテーション訓練を提供 ●改善・取り組みのポイント 視覚障害による文字情報の処理が困難な点を、改善のポイントとして取り組んだ。 まず、事務処理面の改善策として、専用パソコンと音声化ソフトをリース契約し、併せて文字読取装置(OCR)を導入して、資料などの音声読み取りを可能にした。回覧文書や書類などは、他職員が輪番で代読援助し、給与明細や辞令などの個人情報に関わる重要書類は点字化し、本人に手渡している。 職場環境では、設置物などの場所を周知徹底するとともに、必要に応じて環境オリエンテーションを行っている。また、社会見学などの外出時にはボランティアや他職員が随行し、移動面での危険回避に配慮している。 職場のバリアフリーおよびユニバーサル意識の向上は、職員や利用者に好影響をもたらしている。何より、利用者自身の人望が厚いことが、リハビリテーション効果に好影響を与えている。 株式会社 富士通アドバンストソリューションズ 代表者:代表取締役社長 広西光一 〒221-0013 神奈川県横浜市神奈川区新子安1-2-4 オルトヨコハマビジネスセンター7階 TEL 045-438-2002 FAX 045-438-2301 ●業種および主な事業内容 情報サービス業(システムインテグレーション事業・パッケージソフト事業など) ●従業員数 1,320名(平成16年6月10日現在)うち障害者数8名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度2名)、聴覚障害者1名(うち重度1名)、肢体不自由者4名(うち重度2名)、知的障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 官公庁および金融業界に特化したシステム開発を担い、従業員の約90%がシステムエンジニアで構成。事務所は全国に5ヵ所あり、本社である横浜事務所が最大規模で、社員在籍率の約80%を占める。 当社のビジネススタイルとして、パソコン利用率の高さ、出張による移動時間の多さなどの特徴があり、社員の健康管理や疲労回復を目的とした福利厚生の一環として「ヘルスキーパーの導入」を決定した。 ●改善テーマ 採用および配置 視覚障害者雇用に対する従業員の啓発 情報伝達、コミュニケーション方法の工夫 ●改善・取り組みのポイント ヘルスキーパーとしての視覚障害者雇用にあたっては、「雇用後の定着」を実現するために、準備と導入後の運用について、事前に十分な対策を練った。 まず、社内需要を調査し、一定の需要を見込めたことで運用方法の検討と環境整備を行った。また、社内向けHPで施術所開設を社員に広く知らせた。開設後は、事前調査どおりに利用ニーズが高く、現在も稼働率を常に80〜90%で維持し、安定した雇用を実現できている。 施術技術については実習期間を設け、利用者へのアンケートなどで確認した。同時に、利用者への対応と面接で、会社組織への順応性・適性を判断した。 障害者雇用は、一般従業員と同様に安定して長く勤められるよう、「働きやすくかつ自立できる環境をつくる」点に重点を置く必要がある。今回の取り組みにより、従業員・会社・ヘルスキーパーの三者がメリットを得ることができた。 中村マッサージルーム 代表者:中村秀二郎 〒950-0841 新潟県新潟市中野山1丁目2-12 TEL 025-277-3110 FAX 050-2003-2002 ●業種および主な事業内容 鍼灸、マッサージの施術(施術所および訪問) ●従業員数 9名(平成16年7月7日現在)うち障害者数6名 <内訳> 視覚障害者6名(うち重度5名)(うち重複1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 事業者自身が中途失明し、重度の視覚障害者。昭和58年に施術所を開設して以来、新潟・高田両盲学校からの卒業生の就職採用依頼があれば受け入れ、教育訓練・育成し、施術所内での治療または訪問による治療が行えるよう指導に努める。 平成15年で20周年を迎え、この間に独立開業した者が9名、現在も順調に社会生活を営んでいる。 ●改善テーマ 視覚障害者を雇用・継続するための創意工夫 ●改善・取り組みのポイント 県内全域から広く人材を確保するため、施術所に隣接する土地に6所帯分の2LDKアパートを建てたほか、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を利用して徒歩通勤可能な場所に住宅を用意するなど、自立生活を後押しする。 また、自ら料理することができない視覚障害者のために、朝・夕食は施術所食堂で食事を用意、昼食も配達弁当を用意するなど、安心して働ける環境づくりに努めている。 技術訓練・指導においては、患者の疾病ごとの施術などの知識や技術を十分に習得するまでは、対応させないこととしている。 さらに、レクリエーションイベントを年に数回実施。話題提供力をつけ、接客技術向上につながるよう期待している。社会人としての振る舞い・会話・常識の教育に積極的に取り組み、視覚障害者であっても社会の一員であるという自覚・誇りを持てるよう、育成に努めている。 有限会社 重松 代表者:代表取締役 本元幸俊 〒937-0066 富山県魚津市北鬼江2272-1 TEL 0765-22-2352 FAX 0765-24-7456 ●業種および主な事業内容 介護用品クリーニング、リース、販売 ●従業員数 37名(平成16年6月20日現在)うち障害者数20名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度2名)、肢体不自由者2名(うち重度1名)、知的障害者16名(うち重度12名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和20年8月29日、有限会社重松ベビーセンターとして設立。平成3年2月14日、有限会社重松に名称変更。紙おむつ、おしぼり、肌着、寝間着、おむつカバーなどの介護用品洗濯およびリース、販売を行う。 障害者雇用については、昭和55年に重度知的障害者1名を雇用したのを契機に、現在では障害者20名を雇用している。身体障害者4名、知的障害者16名が業務に従事している。 ●改善テーマ 視覚障害者が働きやすい職場づくりの工夫 ●改善・取り組みのポイント 製品のナイロン包装作業部署に必ず健常者を配置し、作業の正確性を確保するようにした。 まず、常に健常者が見本を作り、障害者と一緒に製品のナイロン包装を行うよう作業方法を改善した。また、製品種類ごとに色を変えたナイロン袋を採用するとともに、曜日ごとに違う色のカードを台車に掛けて、色分けによる出荷ミス防止・作業効率向上に取り組み、成果をあげている。健常者による確認も徹底している。 健常者が障害者と共同作業しながら適宜障害者を支援することで、仕事に対する質問や問題点を自分から発せられるなどの変化を障害者から引き出すことに成功した。また、職場における自分の存在価値を見出し、積極性・意欲も向上した。障害者各人の能力を引き出す改善に取り組むことで、従業員全員の作業レベルを上げられるよう、努めている。 三谷産業株式会社 代表者:取締役社長 三谷 充 〒920-8685 石川県金沢市玉川町1-5 TEL 03-3555-8701 FAX 03-3555-7585 ●業種および主な事業内容 情報システム、樹脂・エレクトロニクス製品、化学品、住宅機器の販売ならびに空調設備工事、オリジナル造作家具の設計施工 ●従業員数 562名(平成16年6月30日現在)うち障害者数7名 <内訳> 視覚障害者4名(うち重度3名)、肢体不自由者2名(うち重度1名)、内部障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和3年の創業以来、化学品関連のほか建設、IT関連と多岐にわたる事業を展開し、企業向けパッケージソフト「POWER EGG」を開発。近年、身体疲労を訴える社員のためのマッサージルームを常設し、平成15年1月、金沢と東京にそれぞれ1名ずつの視覚障害者をヘルスキーパーとして採用した。同年4月には増員し、現在は合計4名が社員の健康管理と生産性向上に配慮し、業務に従事している。 ●改善テーマ ヘルスキーパー導入におけるその取り組みと効果 ●改善・取り組みのポイント 職場の提供のために環境を整えるだけではなく、マッサージルームの運営に関する改善や工夫が常に必要と考えている。さらに他の社員と同様の待遇のもとで各種研修にも参加させ、責任感ややる気を持たせることや稼働率向上にもつなげることができた。 受け入れ側としては通勤の練習や、エレベーターに点字案内の設置をし、一般社員と同様のスキルを要求される業務では大画面モニター、音声ソフト、拡大ソフト、拡大読書器などの支援機器を導入。社内情報はすべて電子化され、視覚障害者でも補助を必要とせず利用できる。また、自己啓発の時間を設け、OAスキルを磨き、アロマテラピーを勉強するなど、業務やサービスの向上にも役立てている。 さらに、各支店に向けてマッサージの出張サービスを行い、ヘルスキーパーの活躍の場を広げている。 日晴有斐株式会社 代表者:代表取締役 船坂悦司 〒506-0058 岐阜県高山市新宮町4258-43 TEL 0577-34-5321 FAX 0577-33-8868 ●業種および主な事業内容 リネンクリーニング ●従業員数 37名(平成16年6月1日現在)うち障害者数8名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、内部障害者1名、知的障害者6名、(うち重度4名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和62年4月に創業。飛騨一円の旅館・ホテルのリネンクリーニング業を行う。創業当初から県立養護学校の依頼を受け、生徒の研修を受け入れている。その後、県立養護学校ならびに生徒の保護者、生徒本人の強い希望により雇用を実施、現在に至る。 ●改善テーマ 視覚障害者が働きやすい職場で充実した日々を送るために ●改善・取り組みのポイント 正確さだけでなく迅速さが要求されるため、作業の流れを目視し進行状況の表示を正確に読み取ることが必要。この作業上の段階の表示を大きく、はっきり、見やすくさせることで、視覚障害者は自分で読み取ることが可能になり、作業中の他社員の手を止めて補助を依頼することもなくなり、ミスや作業の中断が大幅に減った。これにより、視覚障害者本人の仕事に対する自覚や積極性も生まれ、余裕を持って仕事に励むことができるようになった。 また、班長は常に配慮し、声かけ指導に努めている。障害者を特別扱いしないことで相互の信頼関係も築け、作業もスムーズに進行させている。常によい環境で仕事に向かえるように、休憩時などの会話の中で悩みを聞くことも心がけている。 社会福祉法人 正生会 特別養護老人ホームつばさ 代表者:理事長 石井紀子 〒425-0051 静岡県焼津市田尻北792-1 TEL 054-656-0656 FAX 054-656-2703 ●業種および主な事業内容 特別養護老人ホーム ●従業員数 68名(平成16年6月1日現在)うち障害者数2名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、知的障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成13年7月に開設。短期入所生活介護・通所介護・訪問介護・居宅介護支援事業所、在介支援センターを併設している。 入所者ならびに短期利用者の身体機能の維持と向上を図り、より良い生活を送るための支援を行う。老人ホームという福祉施設の業種の特別性に機能訓練指導員として視覚障害者が加わり、ソフト面での充実を目指している。 ●改善テーマ 作業を効率的に行えるよう支援するにはどうしたらよいか お客様へのサービスにつなげるには何が必要か ●改善・取り組みのポイント もともと福祉施設のため、設備に関する整備はほとんど必要がなく、受け入れ側としてのソフト面での充実を図った。視覚障害者本人から困ったことや改善してほしい点などを随時挙げてもらい、その都度対応。間接的な表現(こっち、あそこなど)や指差しでの指示は分かりにくいため具体的な表現に努め、ロッカーなどは分かりやすい位置に配置するようにした。現在、負担を軽減し効率化を図るための視覚障害者用PC読み上げソフトならびに点字入力ソフトの導入を検討している。 こうした相互の協力の中、障害者本人の仕事に対する前向きな姿勢が見られ、工夫や意見を積極的に提案するなどサービス向上にもつながった。 利用者を看護・介護という人間関係を協働作業で支える当施設で、障害を持った機能訓練士は意義のある重要な役割を果たしている。 矢崎総業株式会社 Y-CITY 代表者:代表取締役社長 矢崎信二 〒410-1194 静岡県裾野市御宿1500 TEL 055-965-3355 FAX 055-965-0477 ●業種および主な事業内容 自動車部品や生活環境機器(電線、ガスメーター、ビル用空調機器等)の製造・販売 ●従業員数 1,868名(平成16年6月21日現在)うち障害者数21名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、聴覚障害者3名(うち重度2名)、肢体不自由者7名(うち重度3名)、内部障害者6名(うち重度3名)、その他の障害者4名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 Y-CITYは、自動車部品を主体に生活環境機器の製造・販売を行う矢崎グループが業務の効率化を図るため、管理部門と研究開発部門を静岡県裾野市に集約して設立した。 障害者雇用が広く求められるより以前から、県の福祉工場へ仕事を依頼するとともに指導員を派遣して作業指導を行い、障害者の自立支援を行っている。 ●改善テーマ 視覚障害(弱視)を持った技術者を中心とした視覚障害者向け情報機器(メモ帳)の開発 ●改善・取り組みのポイント 製品化を前提とした開発の実施にあたって弱視者自身が視覚障害者の実情調査を行った際、成人の中途失明者の場合、点字の習得が極めて困難であることに着目。点字入力後に音声出力のできる情報機器(メモ帳)の開発に着手した。 試作機を展示した際には盲学校関係者や視覚障害者から賛同を得られ、意見やアドバイスを反映させながら開発を進めた。現在は将来性も含め、機能の検討を進めている。 機器の開発・製作にあたり、パソコンの画面表示を大きく見やすくし、目に及ぼす影響を考え液晶ディスプレイを使用。基盤のチェックなどには拡大読書機にて対応した。 他にも聴覚障害者自身による高齢の難聴者向け製品の開発に向けた研究など、障害者自身が日常生活で感じている不便の解消を目的とした研究・開発を進め、製品化へとつなげる努力をしている。 名古屋盲人情報文化センター 代表者:所長 近藤豊彦 〒455-0013 愛知県名古屋市港区港陽1-1-65 TEL 052-654-4521 FAX 052-654-4481 ●業種および主な事業内容 視覚障害者向け各種情報提供施設 ●従業員数 21名(平成16年7月1日現在)うち障害者数6名 <内訳> 視覚障害者5名、肢体不自由者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和38年に「あけの星 声の図書館」として発足以来、点字図書館機能のほか、文化事業、点字出版物の作成、盲人用具の取り扱いなど幅広く事業を広げ、視覚障害者の読書環境を整備・充実したり、生活文化の向上に努めている。さらに視覚障害者向けパソコン教室の開催などIT分野にも積極的に取り組んでいる。 ●改善テーマ 施設の主要業務である点字図書製作や点字出版の現場において、視覚障害者の参画と業務遂行のバリアフリー化を追求する。 ●改善・取り組みのポイント 視覚障害者への情報提供施設という性格から、積極的に雇用に取り組み、模範的な就労環境を実現することが求められている。しかし、視覚障害者の立場から視覚障害者向け情報誌の企画・制作・校正などの業務に従事する場合、意思疎通や業務連携には制限が多く難しいものだった。 そこで視覚障害者用パソコンシステムを導入し、音声または触読でのパソコン利用を可能にした。活字文書の作成や、点字データの編集・校正および点字のプリントアウトが容易になり、作業や意思疎通の制限が解消された。作業者の負担を軽減できるため、大いに役立っている。 社団法人 京都保健会 代表者:理事長 鈴木憲治 〒604-8474 京都府京都市中京区西ノ京塚本町11 TEL 075-813-5901 FAX 075-813-1721 ●業種および主な事業内容 医療(病院、診療所、看護学校、介護事務所) ●従業員数 1,050名(平成16年6月1日現在)うち障害者数27名 <内訳> 視覚障害者14名(うち重度9名)、肢体不自由者10名、内部障害者3名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 1956年に認可を受け、現在では4病院、15診療所、1看護学校をはじめとする41事業所を有している。設立当初から視覚障害を持つ鍼灸マッサージ師を雇用していたが、1974年から大幅に雇用人数を増やし、現在に至っている。 ●改善テーマ ・事務作業を中心とした助手職員の配置 ・点字や音声による、書類や各種情報の提供 ●改善・取り組みのポイント ここ十数年、理学療法、リハビリテーションを担うスタッフを理学療法士(PT)、作業療法士(OT)に変えざるを得ない状況で、鍼灸マッサージ師の雇用を維持することはかなり困難になっている。そこで鍼灸マッサージの施術所を設置するなどの工夫をして、可能な限り雇用を維持するとともに、業務環境の改善に努めている。 社会福祉法人 京都ライトハウス 代表者:理事長 山口英太郎 〒603-8302 京都府京都市北区紫野花ノ坊町11 TEL 075-462-4400 FAX 075-462-4402 ●業種および主な事業内容 視覚障害者福祉施設 ●従業員数 103名(平成16年4月1日現在)うち障害者数11名 <内訳> 視覚障害者10名(うち重度10名)、肢体不自由者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 1961年に点字図書館、点字出版部、盲人ホームを事業主体として創設。以来、中途視覚障害者更正援護施設、児童デイサービス、盲養護老人ホームを併設し、2004年4月からは身体障害者のデイサービスや通所授産施設も開設。総合福祉施設として運営している。館内LAN構築を進めWeb型音声対応システムを導入することにより視覚障害者の事務処理がより効率化されたため、視覚障害者職員を2名増員した。 ●改善テーマ 視覚障害者支援機器・ソフトの活用による就労の効率化 ●改善・取り組みのポイント グループウェアの開発により業務効率を向上させた。 @音声認識機能を選択可能に キーボード入力を基本とするが、不慣れな場合は音声認識と読み上げ機能を併用できる。 AWeb型グループウェアの使用 ブラウザ形式なので音声認識ソフト以外は不要。 B職場内グループの情報窓口を一本化 基幹業務も情報系業務も、同じグループウェアの画面から操作することができる。 C独自にカスタマイズができる 各職場の事情に合った仕様に変更が可能。 Dバリアフリーなセキュリティーシステム 個別に与えられたハードウェアを差し込むだけで、ユーザーIDなどを入力しないで利用できる。 E遠隔操作が可能に インターネットを利用することにより、敷地外の施設など遠隔地間での共同作業が可能になった。 イズミヤ株式会社 代表者:代表取締役社長 林 紀男 〒557-0015 大阪府大阪市西成区花園南1-4-4 TEL 06-6657-3320 FAX 06-6656-5838 ●業種および主な事業内容 総合小売業 ●従業員数 4,254名(平成16年6月1日現在)うち障害者数56名 <内訳> 視覚障害者4名(うち重度1名)、聴覚障害者2名(うち重度1名)(うち重複1名)、肢体不自由者30名(うち重度14名)(うち重複12名)、内部障害者4名(うち重度3名)、知的障害者16名(うち重度3名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 衣食住を中心とした総合小売業。 1998年に独自の「障害者雇用3ヵ年計画」に基づいて雇用の拡充、店舗への配属を行い、現在に至っている。 ●改善テーマ 視覚障害者のための職場環境づくりとコミュニケーションの活性化 ●改善・取り組みのポイント 業務面では、スピードを要求せず自分のペースでできるよう業務範囲の見直しを行った。さらに、その日の行動予定表を作成し、時間の意識を持ってもらうように工夫した。その結果、計画通りに落ち着いて仕事ができるようになり、ミスも少なくなった。また、余裕ができたことで徐々に業務量を増やしていくこともでき、モチベーションの向上、仕事への自信につながっていった。 職場の体制上マンツーマンの指導ができないため、困っている様子に気付いた人がその都度フォローして、説明・指導するよう徹底した。その際、単に説明・指導をするだけで終わらず、問題点や指導内容を他の従業員にも伝えて情報の共有化に努めた。この方法は、職場内のコミュニケーションの活性化、円滑化につながった。 株式会社かんでんエルハート 代表者:代表取締役 中井志郎 〒559-0023 大阪府大阪市住之江区泉1-1-110-58 TEL 06-6686-6874 FAX 06-6684-2132 ●業種および主な事業内容 産業マッサージ・セルフケア講習会、園芸、印刷、商事、社内文書の発・受信サービス、他 ●従業員数 130名(平成16年7月1日現在)うち障害者87名 <内訳> 視覚障害者8名(うち重度8名)、聴覚障害者6名(うち重度6名)、肢体不自由者21名(うち重度20名)、内部障害者3名(うち重度3名)、知的障害者49名(うち重度6名)(うち重複2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成5年12月、関西電力、大阪府、大阪市の共同出資による第三セクター方式で設立した特例子会社。重度身体障害者と知的障害者を多数雇用する目的で、多様な業務を行っている。 ・視覚障害者(ヘルスキーパーほか) ・聴覚障害者(印刷、製本ほか) ・肢体不自由者(デザイン、HTML編集ほか) ・知的障害者(園芸、商品包装・箱詰めほか) ●改善テーマ 視覚障害者のデジタルデバイドの解消による能力開発と職域拡大 ●改善・取り組みのポイント 視覚障害による情報共有不足・遅れの解消を、主な改善ポイントとした。まず、電子メールやイントラネットを活用し、社内やカルテなどの業務情報をデータとして共有できる環境を整備した。また、社内報を音声変換ソフトで読み取れるテキストデータに変換し、社内コミュニケーションを改善した。 IT機器の積極活用により「情報のバリアフリー化」を実現し、サービス品質の向上、業務効率の向上、ペーパーレス化を実現した。また、他従業員の意識改善にも成功した。 ソフト面の取り組みでは、各施術所の代表者が毎月集まり、具体的な情報交換を行う「ヘルスケア会議」や研修・教育を実施。また、ヘルスキーパーによる講習会「セルフケア講習会」をお客様のもとへ出向いて開催している。行動範囲が拡大しただけでなく、人と接することでコミュニケーション能力が向上し、マッサージ業務にも好影響を与えている。 社会福祉法人ならのは 代表者:施設長 大谷秀之 〒631-0804 奈良県奈良市神功4丁目25-9 TEL 0742-70-3100 FAX 0742-70-3101 ●業種および主な事業内容 第二種社会福祉事業(高齢者施設) ●従業員数 65名(平成16年6月30日現在)うち障害者1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 高齢者のデイサービス事業、痴呆性老人対応型グループホーム、地域生活支援センター、配食サービスを第二種社会福祉事業として行っている。 平成16年4月より、既存のレストランと美容室に加えて新たにマッサージルームを開設し、「障害者自立支援事業」として公益事業を立ち上げた。 ●改善テーマ 高齢者施設内にマッサージルームを開設 ●改善・取り組みのポイント 本人の希望もあり、大げさな配慮・改善は行わず、業務遂行上の必要最低限の改善にとどめた。 マッサージルームを担当するにあたり「現金のやりとり」「施術用機器やレジの取り扱い」「防犯上の注意」が事前の問題点として考えられた。 まず、現金のやり取りを極力なくすために、当施設利用者に関しては利用料を口座引き落とし請求方式にした。現金利用の一般のお客様については、他職員がサポートしている。 機器の取り扱いは、ダイヤルやボタンにシールなどで目印を付け、使いやすいよう工夫を施した。また音声ソフトをインストールした専用パソコンを導入し、売上管理、予約管理、勤務管理を自身で行えるよう環境を整備した。 防犯管理は、現金管理は他職員が行うが、戸締りなどについては点字チェックシートを作成し、自ら行うようにしている。 ハウス食品株式会社 奈良工場 代表者:奈良工場長 岡田幹雄 〒639-1032 奈良県大和郡山市池沢町337 TEL 0743-56-0661 FAX 0743-59-1194 ●業種および主な事業内容 食品製造業 ●従業員数 380名(平成16年5月31日現在)うち障害者6名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、肢体不自由者1名(うち重度1名)、その他の障害者4名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和41年にハウス食品の2番目の工場として操業開始。障害者雇用については、社員の失明が大きな転機となり、重度の視覚障害者が健常者と共生できる職場づくりを模索。社員の健康管理をサポートするヘルスキーパー室を設けることとした。現在では、奈良工場の成功例をもとに、社内の他工場でもヘルスキーパーを運用する工場が出てきている。 ●改善テーマ 社員の健康をサポートする「企業内ヘルスキーパー」導入の取り組み ●改善・取り組みのポイント 安全で働きやすい職場環境を整備するため、工場内の施設・ルールの改善に重点的に取り組んだ。 まず、工場内に点字ブロックを設置し、歩行時の安全を確保。点字ブロックが設置された通路に面するドアは、すべて室内側に開くようにし、ドアとの衝突事故を防ぐよう改善した。また、衝突・つまずきによる事故を防止するため、通路での立ち話や物品の放置を禁止するよう社内ルールを整備した。ヘルスキーパー室は食堂やトイレ、事務所がある管理棟内に設置し、より高い安全性と利便性を確保した。 業務面では、ヘルスキーパーを産業医、看護士、栄養士と同様の産業衛生スタッフと位置付け、社員が無料で利用できるようにした。 社内情報・業務連絡の共有については、健常者とともに朝終礼に出席することにしている。また、カルテ管理などについては画面読み上げソフトの入ったパソコンを導入し、自ら行っている。 株式会社 堀治療院 代表者:代表取締役 堀 昌弘 〒640-8319 和歌山県和歌山市手平3丁目12-19 TEL 073-424-1212 FAX 073-426-0066 ●業種および主な事業内容 鍼灸マッサージに関わる施術業務 ●従業員数 39名(平成16年7月1日現在)うち障害者36名 <内訳> 視覚障害者32名(うち重度27名)、肢体不自由者3名(うち重度1名)、内部障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和42年5月開業。昭和46年、会社組織に改め、盲学校卒業生を中心に毎年採用を続ける。昭和57年5月、視覚障害者の職場確保と雇用推進により、重度障害者雇用モデル事業所として労働省より認定を受け、同時に新社屋を建設オープン。平成3年10月、鍼灸・整骨院を支店として開業設立。 ●改善テーマ 視覚障害者にとって働きやすい職場(音声認識による行動範囲の選択) バリアフリーへの取り組み(職場内を安全歩行できるために) ●改善・取り組みのポイント 音声による判断をスムーズに行えるよう、マッサージ室への通路(階段口)にセンサーを設置。利用者が通路を通過するとセンサーが感知し、音を鳴らして利用者の来訪を伝えるようにした。また、通路を男性用・女性用に分け、センサー音を変えることで、男性・女性の区別も判断できるようにした。 施設内の安全を確保するための取り組みとしては、治療機器の配線を、床配線から天井レールを利用した回転コード式のものに改善した。これにより、歩行時に配線に引っかかり転倒する危険がなくなった。 また、階段などの位置を示す点字ブロックを凸が低く、弾力性があるラバーシート製に変えた。従来の点字ブロックは凸部分が厚く、つま先を引っかける危険があったが、歩行に神経を使わずともスムーズに職場内を移動できるため、作業効率の向上を図ることができた。 医療法人 豊医会 代表者:理事長 原 太久茂 〒707-0015 岡山県英田郡美作町豊国原363-2 TEL 0868-72-8100 FAX 0868-72-8358 ●業種および主な事業内容 医療業 ●従業員数 80名(平成16年7月1日現在)うち障害者数9名 <内訳> 視覚障害者9名(うち重度4名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 診療所のほかに介護老人保健施設、リハビリテーションホーム、通所介護施設を併設。IT技術の進展に伴い、職場におけるストレスや身体的疲労を訴える人が増加しているが、これらを解消する施設が少ない当地域において、視覚障害者のマッサージなどの資格を生かし、地域のニーズに対応する。 ●改善テーマ 視覚障害のある職員の位置付け ●改善・取り組みのポイント @ノーマライゼーションの精神で ハード面での改善はするが、障害者を特別扱いせず、待遇等も他の職員と同等に扱う。そうしたノーマライゼーションの精神を職場全体に浸透させている。 A日常生活についてもアドバイスを 20代から60代まで幅広い年齢層の職員が活躍している。年配の社員は若い職員の教育的な存在として、日常生活や社会常識の面でもアドバイスを行い、若い職員は将来の展望を持って勉強に励んでいる。 B住宅や通勤の支援 遠方からの就職で1人暮らしを余儀なくされる場合は、職員の知人などに住まいの世話をお願いし、1週間程度は職員が同伴で通勤指導を行っている。 C積極的に余暇活動を 毎月1回誕生日会を開催して親睦を図ったり、週1回リハビリミーティングを行ったりしている。 身体障害者療護施設ときわ台ホーム 代表者:所長 三澤昭文 〒739-0151 広島県東広島市八本松町原5946-7 TEL 082-420-9200 FAX 082-420-9202 ●業種および主な事業内容 身体障害者療護施設 ●従業員数 91名(平成16年7月1日現在)うち障害者数3名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、肢体不自由者2名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和48年4月、重度の身体障害があり常時の介護を必要とし、在宅介護が困難な方のために、個人の能力に応じた自立した日常生活の支援を目的として設立。デイサービスおよび通所介護施設を併設。利用者の自立に向けた心の通う支援を心がけており、また職員の採用にあたっては、相手の気持ちが理解できる障害者の雇用を心がけている。 ●改善テーマ パソコン就労支援機器導入による視覚障害者の業務環境改善と情報伝達・コミュニケーションの強化 ●改善・取り組みのポイント 施設での日々の記録管理や文書作成などは、従来では視覚障害者も一般職員と同様に主に手書き処理をしていた。しかし、記録や情報量の増加に伴って通常の文字の大きさでは読みづらいケースがでてしまい、誤読などにもつながっていた。 そこで、パソコン機器およびソフトの整備を計画し、業務環境改善と情報伝達・コミュニケーションの強化を図った。導入したものは、容量の大きいパソコン、18インチの大型液晶ディスプレイ、拡大印刷が可能なカラープリンタ、パソコン接続用拡大読書器、画面読み上げソフト、音声読書ソフト、ソフトに対応するイメージスキャナー、および音声を聞き取りやすくする外付けスピーカーである。 機器の選定にあたっては対象職員の意向を優先し、使用者が実際に体験したうえで選定した。 導入の結果、事務処理のスピードアップ、正確性の向上、疲労・ストレスの軽減などが図られた。 トヨタカローラ山口株式会社 代表者:代表取締役 卜部博文 〒745-0861 山口県周南市新地1-6-1 TEL 0834-22-2000 FAX 0834-22-2005 ●業種および主な事業内容 自動車修理販売業 ●従業員数 571名(平成16年6月30日現在)うち障害者数5名 <内訳> 視覚障害者2名、肢体不自由者2名、内部障害者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 トヨタ自動車の新車および全メーカーの中古車の販売と、自動車点検・車検、修理および保険業務が主体の当社山口店に入社し、サービスマネージャーとして優秀な成績をあげた事例発表者は、平成元年頃から視力が低下し、障害者手帳の交付を受けた後、テクノセンターへ配置転換をした。テクノセンターでは全店舗の新車の納車点検および付帯部品取り付けと自動車板金塗装の2部門を行っている。 ●改善テーマ 障害者自身にとって最も適した職場に配置し、能力の発揮を図る。 ●改善・取り組みのポイント 通勤にはバス停まで家族が送迎し、バスを利用。視力の低下によって夜になると周りが全く見えなくなるため、特に冬などは日没時間に合わせて退社できるように配慮した。配置の転換に際しては、本人の経験や能力を考慮し、継続的な勤務が可能な職場を提供できるようにした。本人は、障害を持つ以前の職場と異なるパソコンの操作でも手指の感覚で徐々に覚え、日常生活や業務はなるべく自分でできるように努力を続け、他の社員は書類や備品の配置や文章の音読などで協力を心がけている。同僚のサポートを得ながら、障害者本人も積極的に同僚の手伝いをするなど社員間でのコミュニケーションが図られ、信頼関係が築かれている。 社会福祉法人 香南会 代表者:理事長 樫谷成夫 〒781-5310 高知県香美郡赤岡町1160-1 TEL 0877-55-2888 FAX 0887-55-5655 ●業種および主な事業内容 老人福祉事業、身体障害者福祉事業、その他の社会福祉事業 ●従業員数 200名(平成16年6月30日現在)うち障害者数2名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、在宅介護支援センター、老人保護施設、ケアハウス、訪問看護施設、身体障害者療護施設、グループホームなどの総合福祉サービスを提供。現在、身体の痛みや凝りを訴える利用者のニーズを満たしサービスの充実を図るために、あん摩マッサージ指圧師の資格を持つ視覚障害者2名が機能訓練指導員として勤務している。 ●改善テーマ 職場定着を図るための安全確保と環境整備、情報保障と人的支援体制の整備など、小さな工夫の積み重ねによる働きやすい職場づくり ●改善・取り組みのポイント 施設は従来からバリアフリー設計であったが、駐車場の側溝にふたをしたり、通路に障害物を置かないように心がけることで安全面での充実を図った。雇用当初は誘導のために手すりにシールを貼った。さらに通勤時の安全を確保するため、施設からバス停までの街灯の設置を依頼中。 障害者本人が参加する会議では、他の社員が書類を読み上げ、報告なども要約し説明する。実際の治療に使用する器具や治療内容・記録の明細作成なども、周囲の協力を得ながら障害者自身が行えるようにしている。施設の利用者が室内にいる場合はなるべく障害のない社員と同室で行動することで、利用者の安全を確保するとともに障害者の精神的負担も軽減している。取り組みにあたり、小さな工夫の積み重ねなどの受け入れ側のソフト面の整備が大切であることが理解できた。 有限会社 岸川興産 代表者:代表取締役 岸川美好 〒843-0301 佐賀県藤津郡嬉野町大字下宿乙408番地1 TEL 0954-42-1017 FAX 0954-42-1018 ●業種および主な事業内容 鍼、灸、マッサージ、指圧、あん摩、医療業。院内治療および出張治療 ●従業員数 23名(平成16年6月30日現在)うち障害者数19名 <内訳> 視覚障害者18名、肢体不自由者1名 ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和3年開院、三代にわたって営む県内で最も古い鍼灸院。現社長が院を改築したころから徐々に顧客が増加し、それを機に障害者を雇用するようになった。勤務意欲のある障害者であれば、障害の種類に関わらず雇用している。60歳を過ぎた障害者も勤労意欲があれば雇用し、65歳の定年後も継続雇用する例がある。現時点では77歳で現役の人もいる。 ●改善テーマ 「アイデアの創出がピンチを救う」 三代76年間、鍼灸マッサージ業を営むうえで幾度となく困難な時期があった。その都度原因を分析し、状況に即した企画を考案し、実行したことが克服につながった。 ●改善・取り組みのポイント @旅館・ホテルへの依存からの脱却 旅行代理店の協力を得て、マッサージがメインのセット旅行「嬉野温泉健康増進の旅」を開発した。また、理解を示してくれた一部の旅館・ホテルへは、負担をかけないように直通電話の料金がかからないようにしたり、マッサージ師に無線機を携行させるなどの措置をとった。従業員も街頭でチラシ配りをするなど、活性化に協力した。 A定着対策と独立の支援 通勤困難者をなくすため、世帯用・独身者用の宿舎を建設して従業員の定着を図った。これにより、従業員採用も容易になった。また、世帯を持った従業員などが独立を希望した場合には、それまでの貢献に応えて開業のための支援を行うことにしている。 大福堂整骨・鍼灸院 代表者:院長 浦山丈夫 〒856-0811 長崎県大村市原口町657-13 TEL 0957-55-6808 ●業種および主な事業内容 整骨・鍼灸院 ●従業員数 5名(平成16年7月1日現在)うち障害者数2名 <内訳> 視覚障害者2名(うち重度2名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 開業以来30年以上にわたり、整骨、鍼灸治療を業務としている。整骨では骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷などの治療およびリハビリテーションを、鍼灸においては各種疾病および負傷に対する治療を、地域住民の方々の要望に応えて行ってきた。鍼灸治療では視覚障害者(資格取得者)が主力となって治療を実施。障害者雇用は平成元年度から実績があり、患者さんからは信頼や好意、感謝を寄せられている。 ●改善テーマ 視覚障害者の雇用に係る改善工夫 ●改善・取り組みのポイント @送迎時のコミュニケーション 障害者入寮所には2名が生活しており、鍼灸院まで約5kmあるため毎日送迎している。そこで、行きの車内では、その日の仕事等の打ち合わせや治療法についての指導などを行い、帰りの車内では、1日の反省と治療の効果と反応などの確認、その他仕事についての質問の時間をとっている。 A事務作業の際の介助 カルテの記録や市への申請などの事務処理は、鍼灸師自身が実施するようになっている。視覚障害者の鍼灸師の場合には介助が必要で経済的な負担がかかるが、障害者の特性に配慮した適切な雇用の場の確保を重要視して事務作業の介助者を付けている。 巴企画 代表者:代表 遠藤武久 〒880-2116 宮崎県宮崎市大字細江4039-69 TEL・FAX 0985-48-2899 ●業種および主な事業内容 各施設におけるマッサージ業務 ●従業員数 15名(平成16年6月30日現在)うち障害者数11名 <内訳> 視覚障害者11名(うち重度11名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 フェニックスリゾート株式会社(シェラトン・グランデ・オーシャン)をメインにマッサージ部門を担当。さまざまな弊害や諸問題を地道な活動により乗り越え、視覚障害者が中心となってホテル内でのマッサージ業務を行ってきた。障害者として特別扱いをせず、マッサージ師としての責任と自覚を持ち、それぞれの技術をさらに向上させて、生活の安定と明るい職場づくりに全員が取り組むよう努力してきた。その結果、現在では理想的な職場が構築された。 ●改善テーマ 「より豊かな人生設計を求めて」 心の持ちようによっては、障害があっても理想的な人生観が生まれるもの。企業は単に職場を提供するだけでなく、個々の生きがいを手助けするのが目的 ●改善・取り組みのポイント @通勤専用バスの導入 障害者専用のバスを導入した。音声付き自動ドアを設置したり、車内に手すりを付けたり、プライバシーガラスを装着するなどの配慮をしている。 A技術向上のための指導育成 あん摩マッサージ指圧師の基本的な技術は盲学校などで習得し、国家資格を持っているが、その後は個々の実践の中で技術を向上させるしかなく、技術に個人差が出る。それを補足してより高度な技術を得るため、定例会の中でそれぞれが意見を出し合って実践に生かしている。 B接客マナーや会話の研修 ホテルの宿泊者などを対象としたマッサージ業務では、接客マナーも大切な要素である。会話や質問への受け答えなどの知識習得のため、送迎バスの中でミーティングを行っている。 あしもと接骨院 代表者:院長 木之下孝一 〒890-0056 鹿児島県鹿児島市下荒田2-35-1木之下ビル2F TEL・FAX 099-254-2072 ●業種および主な事業内容 接骨院 ●従業員数 1名(平成16年6月30日現在)うち障害者数1名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 平成10年7月に開院し、平成12年4月よりマッサージ業務を中心に雇用することとした。知人の盲学校教諭から整骨院就職希望者がいるとの紹介を受け、雇用することになった。 ●改善テーマ 整骨院における視覚障害者の業務の可能性について ●改善・取り組みのポイント 採用予定者が弱視であったため、機械の操作がしやすいように明るい色で識別した。 また、スポーツテーピングができるように取り組みを行った。ホワイトテープの側面を見やすい色でペイントして貼る位置を分かりやすくする工夫をしたうえで、巻き方が理解できるまで仕事終了後に練習を繰り返した。その結果、満足のいくテーピングができるようになり、時間短縮にも成功した。今ではスポーツチームや学校でのテーピング講習会の講師として活躍するまでになっている。 株式会社 鹿児島ドライ 代表者:代表取締役 古木秀典 〒890-0081 鹿児島県鹿児島市唐湊4-17-2 TEL 099-255-4151 FAX 099-253-1237 ●業種および主な事業内容 ホテル・旅館向けリネンサプライ ●従業員数 87名(平成16年7月1日現在)うち障害者数28名 <内訳> 視覚障害者1名(うち重度1名)、聴覚障害者1名(うち重度1名)、肢体不自由者6名(うち重度2名)、 知的障害者20名(うち重度9名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和46年12月設立。翌年7月には、事業拡大に対応するため、本社を現在地に移転する。昭和56年9月、 重度心身障害者多数雇用モデル工場として、最新の設備を備えた本社工場を建設する。平成9年9月には、 サービス網の拡充と技術力の向上を目指して、ホテルリネン工場を落成した。 ●改善テーマ パソコンの画面上の文字拡大 ●改善・取り組みのポイント 心身障害者多数雇用モデル工場での障害者は、すべて製造工程に従事していた。しかし、本当の意味でのモデル工場になるために、平成元年11月に視覚障害2級の障害者を事務職として採用した。指導を模索している中で、パソコンの画面拡大ソフトを購入することで、職域拡大が図られることになった。 改善のポイントは、実務上、一般の人といかに同じように職務遂行ができるかという点だった。そのために、パソコンの画面上にどの程度文字を拡大すればハンディがなくなるかということに技術革新の関心が注がれた。メーカーも障害者の雇用拡大につながるものと考え、採算面でも好意的に対処した。 文字を拡大したことで、障害者本人も働く喜びを感じている。現在では、機種も3台目となり、技術的な注文も出しながら、毎日の業務に従事している。 沖縄ハム総合食品株式会社 代表者:代表取締役 長濱徳勝 〒904-0301 沖縄県中頭郡読谷村字座喜味2822-3 TEL 098-958-0141 FAX 098-958-4333 ●業種および主な事業内容 食品製品製造業 ●従業員数 340名(平成16年6月25日現在)うち障害者数12名 <内訳> 視覚障害者1名、肢体不自由者2名(うち重度1名)、内部障害者1名(うち重度1名)、知的障害者8名(うち重度1名) ●事業所の概要と障害者雇用の経緯 昭和52年2月、沖縄県名護市で食品加工のハム工場として沖縄ハム株式会社を創業。昭和56年11月には、読谷村に読谷工場を設置し、レトルトパウチ食品の製造販売を開始する。平成4年11月には、名護市にあるハム工場を読谷村に移設し、本社機能も同時に移転した。その当時、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の利用から障害者の雇用が始まり、現在に至っている。 ●改善テーマ 視覚障害者の自立支援と職場における人間関係の構築 ●改善・取り組みのポイント 視覚障害者が平成7年に入社した当時、そのことを知っていたのは、工場長や部課長のみであった。そのほかの人には知らせていないまま、視覚障害者に仕事上の配慮をしたため、特定の者に固定した仕事をさせることについて、工場内で議論があった。 そこで、皆に視覚障害者(弱視)であることと配慮事項を周知させ、作業を固定することの必要性を説いた。例えば、朝礼、昼礼、部課長ミーティングなどで、重度障害者多数雇用事業所であることを周知し、障害者雇用の理解を高めた。また、工場内の加工作業の臨機応変さにはどうしてもついていけないため、無理な業務ローテーションは避けるよう、直属の上司から周りのスタッフに説明してもらい、理解と協力を求めた。