第1章「きこえない・きこえにくい」とは Column声をはっきりと聞き取るための医療機器で、きこえにくい人の多くが装用しています。• 補聴器は完全なものではない 補聴器を装用している人の多くは、自分の聴力レベルに合わせた補聴器を使用していますが、きこえる人が思っているほど補聴器は完全なものではありません。特に感音性・混合性難聴では、ある程度までの音質調整の助けにしかならず、聴覚障害の等級によっては音の有無を感じられるだけの場合もあります。• 補聴器は「音をひろうだけ」のもの 基本的に、補聴器は「音をひろうだけ」のものと考えてください。補聴器はマイクでひろった音を増幅し、大きな音として聞き取れるようにしますが、人間の聴覚は雑音の中から聞きたい音を抽出したり、複数の話し声の中からある特定の人の話し声を聞き取ったりと、補聴器では実現できないような高度な情報処理を行っています。しかし、聴覚に障害があると、このような聴覚の機能も損なわれてしまいます。補聴器でただ音を大きくしただけでは「言葉」として知覚できないことがあります。音の大きさについても、聞き取ることができる範囲が狭くなり、かなり大きな音でないと聞き取ることができないことがあります。また逆に、聞き取り可能な音より大きくなると、騒々しく聞こえたり、音が歪んでいるように感じる場合があります。快適に聞くことができる音の大きさの範囲が狭いので、単に大きな声で話せばよいわけではなく、音の大きさへの配慮も必要です。• 補聴器のいろいろな種類 補聴器の形態で分けると、耳あな型、耳かけ型、 ポケット型(箱型)、メガネ型などがあります。 増幅と調整の処理方法で分けると、アナログ、プログラマブル、デジタル補聴器があります。デジタル補聴器が最も高性能といえますが、再生される音質の好みは人それぞれです。 音の伝わり方で分けると、気導式補聴器(耳あな型、耳かけ型、ポケット型(箱型)など)と骨伝導補聴器(メガネ型など)があります。気導式補聴器は、外耳道から空気の振動で音を伝えるものです。骨伝導補聴器は、側頭骨から骨の振動で内耳に音を伝えるもので、特に伝音性難聴に対して効果が大きいとされています。 そのほか、講義形式の集まりなどで話し手がワイヤレスマイクをつけて装用者がFM補聴器で聞き取る方法や、テレコイル対応の補聴器などに音声を磁気誘導で伝達し増幅して聞くことができる磁気誘導ループといった集団補聴システムの設置・活用が進められてきました。また、デジタル補聴援助システムを使うことで、補聴器や人工内耳だけでは言葉の聞き取りが難しい環境聞こえを補う~補聴器と人工内耳~◉ 補聴器について 補聴器は通常の音声での会話が聞き取りにくい人が、音◉ 人工内耳について 補聴器と同様、音をはっきり聞き取るための医療機器で◉ 補聴器・人工内耳について理解いただきたいことにおいても、よりクリアな音を届けることができます。 さらに、近年は様々な技術や機器が開発されており、スマートフォンや携帯電話、パソコンなどの電子機器と使用している補聴器がBluetoothに対応している場合は、デジタル信号の直接送受信が可能となるため、周囲の雑音の影響が抑えられた状態で音声を聞くことができるようになっています。• 補聴器は声や会話を聞くためだけではない 補聴器を使うことは、声や会話を聞くためだけでなく、クラクションなどの環境音の存在を知ることにつながります。このため、交通事故や労働災害から身を守るために装用している人もいます。また、自分が発する声や、物を扱うときの音にも自然に気をつけるようになるという人もいます。これらは人工内耳も同様です。す。仕組みとしては、手術により耳の奥(蝸牛)に埋め込んだ装置(体内部)と、音をマイクでひろって電気信号に変換し、埋め込んだ部分に送信する装置(体外部)からなります。体外部は耳かけ型の補聴器に似たものが主です。 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページによると、人工内耳の有効性には個人差があるとしつつも、人工内耳を用いた聴覚活用の有効性が認知され、新生児聴覚スクリーニングの導入などにより難聴の早期発見・診断も可能となったこともあり、7歳未満の小児の手術件数が増加していることが紹介されています。 聞こえにくさには個人差があり、補聴器も人工内耳も個人に応じた調整が必要です。また、一度調整した後も、医療機関や専門家による継続的なモニタリングや調整が必要です。 また、補聴器や人工内耳の機能には限界もあり、きこえる人と同じようには聞こえないこともあります。しかし、周りの人からは、「補聴器をつけているのだから、きこえる人と同じように聞こえるのだろう」と思われることもあります。 本マニュアルの作成にあたりインタビューした人からは、そうしたギャップに悩んでいるとの声が複数聞かれました。特に明瞭な発声ができる人の場合には、周りの人から聞こえるように思われてしまい、必要な配慮が得られないときがあるとの声がありました。 補聴器や人工内耳は、聞こえを補う有効な機器であるものの限界があり、個人に応じた対応(補助的手段の活用など)や周囲の人の理解・配慮が必要です。17
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