高次脳機能障害者と働く2020
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解 説解 説高次脳機能障害における障害の自己認識について解 説~よりご理解いただくために~他者からだけでなく本人からも「見えない障害」 高次脳機能障害は、これまで障害のない生活を送ってきた人が、脳血管障害や不慮の事故等により負ってしまう障害、いわゆる中途障害です。高次脳機能障害という認知機能の障害により、自分の現状を適切かつ客観的に認識することが困難な状況になると、周囲から「高次脳機能障害がある」「記憶に障害がある」などと言われても、受障前の自分と比較して何ができなくなってしまったのか具体的にわからなかったり、「障害がある」と言われることに納得できない状況が生じてしまいがちです。 第1章で高次脳機能障害は「見えない障害」とありましたが、それは他者から見てというだけではなく高次脳機能障害がある本人自身も同様と言えます。 障害の認識がなければ、障害により「できなくなったこと、できにくくなったこと」を的確に認識することができず、さらには「できにくくなったこと」を回復する取組や、「できなくなったこと」に対する対応手段の必要性も認識できない場合があります。「できること・できないこと」を  実感する体験の積み重ねが重要 リハビリテーションや訓練場面では、本人の障害に対する自己認識をできるだけ深めるため、様々な取組が行われていますが、これらはいわば仮想場面ということもあり、本人が「実際の場面ではできる」と認識してしまうなど、納得するまでには至らないこともあります。障害の自己認識を高めるためには、本人が実際の就労場面、日常生活場面を通じて、できること・できないことを実感する体験を積み重ねていくことがどうしても必要になります。本人の気持ちに配慮したフィードバックを 以上を踏まえ、事業所においては、「障害の認識がないから就労は難しい」とするのではなく、「ミスをしたこと、抜けが生じたこと」を明確に伝えて、本人の「できなくなったこと、できにくくなったこと」に対する認識を高めていくことが望まれ、さらにはミスや抜けに対する対応策を実践していく中で、改善が図られた場合はそれについてもフィードバックすることが、高次脳機能障害のある方の職場適応を図るためには重要なことと言えます。   なお、フィードバックの際には、本人のプライドを傷つけないように配慮し、「本人自身を評価しているのではなく、本人の行動についての評価であること」を強調してください。高次脳機能障害のある方の中には、このことが理解しにくく、自分自身のことを評価されたかのように誤解してしまうこともあるので留意しておくことが必要です。61

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