はじめに  昭和35年7月に身体障害者雇用促進法が制定されて以降、昭和51年には身体障害者雇用の努力義務から義務化及び雇用納付金制度の創設が行われ、また昭和62年には、法適用対象の拡大や、職業リハビリテーション体制の充実・強化が図られ、法律名も「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「法」という。)と改められました。その後も雇用分野での障害者差別禁止・合理的配慮の提供の義務化、法定雇用率の算定基礎への精神障害者の追加等数次の法改正が重ねられてきました。さらに直近の法改正において、障害者の多様な就労ニーズを踏まえた働き方を推進するために、特に短い労働時間で働く重度身体・知的・精神障害者の実雇用率への算定特例を設けるとともに、障害者の職業能力の開発及び向上の事業主の責務としての明確化により障害者の雇用の質の向上を図っているところです。法定雇用率も、令和6年4月から2.5%、令和8年7月からは2.7%と段階的に引き上げられるところであり、こうした障害者雇用に関する各種制度の充実、強化が図られる中で、民間企業の令和5年6月1日現在の障害者の実雇用率は2.33%と報告時点の法定雇用率を上回り、雇用障害者数は642,178.0人と過去最高を更新しました。  一方で、障害者の雇用に当たっては、職業能力の把握、障害特性に応じた職域の確保・開発、作業施設の改善等の雇用管理上配慮すべき点があり、障害者を直接雇用する場を提供する事業主の方の中にはこれらについての疑問や不安などをもたれる方がいることと思います。  本書は、障害者職業生活相談員(法に基づき、5人以上の障害者を雇用する事業所では、障害者の職業生活全般についての相談、指導を行うために選任が義務づけられています。)を対象とする資格認定講習のテキストであり、事業主の方の疑問や不安などに応えることができるよう、障害者雇用に関する理念、障害者の雇用管理、障害の特性、各種支援施策等の幅広い内容について、障害者を取り巻く問題に携わる専門家、学識経験者等のご協力を得ながら編集しています。企業において雇用管理の実務に携わる方々にとって、障害者雇用に関する必要な知識やノウハウ等の情報を得るための入門書としても広く活用していただき、障害者の雇用の促進とその職業の安定の一助となれば幸いです。  令和6年5月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 本テキスト中に、○×で答えられる問題を18問設けています。 各節の内容を理解するためにご活用ください。 問題及び解答・解説は、下記ホームページからもご覧いただけます。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/guidebook/koshu_text.html 障害者職業生活相談員について  これから障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)として活動される皆様方の中には、職場で何をすればいいのかと不安を抱かれている方もいると思います。ここでは、まず相談員の概要等についてご説明します。 (1)趣旨  障害者の雇用の促進等に関する法律では、障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない(第4条)、すべて事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない(第5条)と定められています。  すなわち障害者の雇用を進めるためには、採用することだけではなく、雇用関係を結んだ後も障害者の職業生活の充実を図ることが重要です。  そこで、相談員は、障害者の採用後の職業生活の充実を図り、職業生活を通じて障害者が社会参加できるよう手助けすることを目的として活動します。 (2)相談員の役割  事業主は厚生労働省令で定める数(5人)以上の障害者を雇用する事業所において、相談員を選任し、その者に障害者の職業生活に関する相談、指導を行わせなければならないとされており、これにより相談員は障害者の職場適応の向上を図り、その有する能力を最大限に発揮させるよう障害者の特性に十分配慮した雇用管理を期することとされています。  相談員の役割は、概ね次のような事項について障害者から相談を受け、またはこれを指導することです。  @ 障害者の適性・能力に応じた職務の選定等に関すること。  A 障害者の希望に応じた研修の実施等、障害者の職業能力の向上等に関すること。  B 障害者の障害に応じた施設設備の改善等作業環境の整備に関すること。  C 労働条件や職場の人間関係等障害者の職場生活に関すること。  D 障害者の余暇活動に関すること。  E その他障害者の職場適応の向上に関すること。  相談・指導内容は多岐にわたり、相談員のみで解決することが難しいこともあるでしょう。その場合は、採用・人事担当者や配属先の上長、その他職場での関係者によるチーム(本項(6)参照)などと組織的に問題解決に向け検討していくことが必要です。  また、公共職業安定所(以下「ハローワーク」という。)や地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等の支援機関へ相談する、支援制度をうまく利用するといった方法も有効でしょう。 (3)相談員の選任  事業主は、5人以上の身体障害者、知的障害者及び精神障害者を雇用する事業所においては、相談員を選任すべき事由が発生した日から3ヶ月以内に、その雇用する労働者であって相談員の資格を有するもののうちから相談員を選任しなければならないとされています(障害者の雇用の促進等に関する法律第79条第2項等)。  また、事業主は、相談員を選任したときは、遅滞なく、次の事項を記載した届書を当該事業所の所在地を管轄するハローワーク所長に提出しなければならないとされています。 @ 相談員の氏名 A 相談員として選任するために必要な資格を有することを明らかにする事実 B 当該事業所の労働者の総数並びに当該労働者のうちの法第79条第1項に規定する障害者の数  なお、法的義務は相談員を1名選任することで達成されるものですが、相談員制度の趣旨にかんがみ、当該事業所の規模、障害者の数、障害の種類等に応じ複数の相談員の選任を行うことが望ましいでしょう。 (4)相談員の資格  相談員の資格を有する者は、次のいずれかに該当する者です。 @ 職業能力開発総合大学校の長期課程の指導員訓練(福祉工学科に係るものに限る。)の修了者等 A 大学若しくは高等専門学校(旧専門学校を含む。)の卒業者又は職業能力開発総合大学校の長期課程の指導員訓練(福祉工学科に係るものを除く。)、特定専門課程若しくは特定応用課程の高度職業訓練、職業能力開発大学校若しくは職業能力開発短期大学校の専門課程の高度職業訓練若しくは職業能力開発大学校の応用課程の高度職業訓練の修了者等で、その後1年以上障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導の実務経験を有する者 B 高等学校等の卒業者(学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第150条に規定する者又はこれと同等以上の学力を有すると認められる者を含む。)で、その後2年以上障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導の実務経験を有する者 C その他の者で、3年以上障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導の実務経験を有する者 D 上記に掲げる者に準ずる者 E 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施する障害者職業生活相談員資格認定講習(以下「資格認定講習」という。)の修了者 (5)相談員とハローワークとの連携  相談員は、ハローワークと次のような事項について連絡をとり、適宜、適切な指導、助言を求め、障害者の職場適応の向上に努めなければなりません。 @ 障害者の職場適応の状況 A 作業環境の整備状況 B 相談員が障害者から受けた相談の状況及びそれに対して講じた措置の状況 (6)障害者の職場定着のための組織的な対応  相談員を選任した事業所では、障害者の職場適応、能力の開発向上や職場での人間関係等職業生活全般について、障害者からの相談や指導に相談員が主として当たることになっていますが、問題の内容によっては、組織的に検討し、対策を講じていくことも必要です。  このような組織的な対応として職場での関係者によるチーム(障害者職場定着推進チーム)を設置する方法があります。これは、事業所の代表者をはじめ、人事担当部課長や障害者の配属職場の長等に相談員も加わり、組織的に障害者の職場適応に関する事項を協議し、改善していくものですが、新たな組織をつくる方法の他、障害者も含めた従業員の職場適応の向上を図るための既存の組織(幹部会議、〇〇委員会等)があれば、その運営、活動を当該チームとみなしてもよいでしょう。もちろん職場内だけでなく、障害者就業・生活支援センターと連携しつつ生活面も含めた相談支援を図ることや職場適応援助者(ジョブコーチ)を活用すること等の支援機関との連携も含めて障害者の職場適応を図り、職場定着を推進していくことも有効な手法です。 目   次 はじめに 1  障害者職業生活相談員について 3 第1章 障害者雇用の理念と現状  第1節 障害者雇用の理念と障害者雇用対策の動向 14    1 障害者雇用の理念 14    2 障害者雇用対策の動向 15  第2節 障害のとらえ方 18    1 働くことの意義と職業リハビリテーション 18    2 生活機能と障害の関係 18    3 ニーズと障害の自己理解 20    4 職業リハビリテーション活動のとらえ方 21    5 個人特性と環境要件のとらえ方 22    6 雇用主の対応と支援体制 25    7 キャリア発達と地域ネットワーク 26  第3節 企業経営と障害者雇用 28    1 コンプライアンスと企業の社会的責任(CSR) 28    2 企業の社会的責任・雇用管理に求められるあらたな視点 30 第2章 障害者の雇用管理上の留意点  第1節 障害者の力を活かせる組織・職場づくり 36    1 障害者雇用の取り組みは重要な経営課題の一つ 36    2 障害者職業生活相談員の役割 37    3 職場環境・条件の整備 39  第2節 受け入れ態勢の準備 41    1 障害及び障害者についての職場全体での理解の促進 41  第3節 採用計画の作成と受け入れ部署の準備 46    1 障害者の採用方針・採用計画 46    2 多様化する雇用形態と就業組織形態 47    3 職務創出 52    4 人事評価制度の検討 54    5 賃金・労働時間等の条件 56    6 障害者の安全・健康の確保 61    7 障害者のための職場環境 67  第4節 障害者の募集・採用及び配置 79    1 募集活動の時期と方法 79    2 選考・採用面接 80    3 職場実習への協力 83    4 障害者の配置 84    5 障害者の職業訓練 85  第5節 職場適応、職場定着の推進 95    1 職場適応を高めるための対策 95    2 障害者の職場定着のための組織的な対応 96    3 外部の支援機関の活用 98    4 障害者雇用に係る就労支援機器の活用 105    5 障害者に対するカウンセリング(相談) 108    6 障害者の人権の擁護、使用者による障害者への虐待防止 120    7 中途障害者の雇用継続、長期に雇用する障害者への対応 122    8 退   職 125 第3章 障害別にみた特徴と雇用上の配慮  第1節 肢体不自由者 130    1 肢体不自由の種類と特徴 130    2 雇用上の配慮 131    3 義肢・装具・車いす 132  第2節 視覚障害者 136    1 視覚障害とは 136    2 全盲・ロービジョン(弱視)者の利用する情報形態とPCの利用 139    3 重度視覚障害者の雇用のポイント 141    4 継続雇用・職場適応援助者(ジョブコーチ) 143    5 就労支援機器・ソフト 144  第3節 聴覚・言語障害者 146    1 聴覚・言語障害の理解 146    2 聞こえに障害があると… 147    3 さまざまなコミュニケーション方法がある 148    4 聴覚障害者の職業適性 150    5 雇用上の配慮 151    6 コミュニケーションあふれる豊かな職場を 153  第4節 内部障害者 155    1 内部障害の定義と種類 155    2 内部障害の統計 155    3 心臓機能障害 156    4 腎臓機能障害 157    5 呼吸器機能障害 158    6 ぼうこう又は直腸の機能障害 160    7 小腸機能障害 161    8 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害 163    9 肝臓機能障害 165  第5節 知的障害者 168    1 知的障害者とは 168    2 知的障害者の雇用の現状 169    3 知的障害者の雇用のポイント 169    4 知的障害者雇用の課題と取り組み 171  第6節 精神障害者 173    1 精神障害とは 173    2 精神障害者に対する雇用上の配慮 178    3 長期休業後の職場復帰における配慮 181  第7節 発達障害者 183    1 発達障害とは 183    2 発達障害の障害特性 185    3 相談の際の留意事項 188    4 就職・定着促進のための配慮事項、支援策 189    5 就労支援利用状況からみた事例(広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害を中心に) 191  第8節 その他の障害者 193    1 難病等による障害 193    2 高次脳機能障害 201    3 若年性認知症 207 第4章 障害者の雇用促進施策の体系  第1節 障害者雇用対策の現状 216    1 障害者雇用対策の体系 216    2 障害者雇用対策の現状 216  第2節 障害者の雇用の促進等に関する法律の体系 223    1 総   則 223    2 職業リハビリテーションの推進 223    3 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 223    4 障害者雇用率制度 223    5 障害者雇用納付金制度 223    6 障害者の雇用の安定のための措置 223  第3節 障害者の範囲等 224    1 障害者の範囲 224    2 身体障害者の範囲等 224    3 知的障害者の範囲等 225    4 精神障害者の範囲等 225    5 身体障害者、知的障害者及び精神障害者以外の障害者の範囲等 226  第4節 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 228    1 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 228    2 障害者に対する差別の禁止 228    3 障害者に対する合理的配慮の提供義務 229    4 紛争の解決 230  第5節 障害者雇用率制度の概要 231    1 障害者雇用率制度 231    2 障害者雇用率の適用と算定 232    3 障害者の雇用状況の報告 237    4 一般事業主の障害者の雇入れに関する計画 238    5 雇入れ計画の変更の勧告及び適正実施の勧告 238    6 公   表 239  第6節 障害者雇用納付金制度の概要 240    1 趣   旨 240    2 納付金関係業務の概要 241  第7節 障害者の雇用の安定のための措置等 243    1 障害者雇用推進者 243    2 解雇等の届出 243 第5章 関係機関・施設等の概要  第1節 関係施設とサービスの概要 246    1 ハローワーク(公共職業安定所) 246    2 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 247    3 障害者就業・生活支援センター 250    4 障害者職業能力開発校 250    5 発達障害者支援センター 250    6 難病相談支援センター 250    7 労 災 病 院 251    8 福祉事務所等 251    9 身体障害者更生相談所 251    10 知的障害者更生相談所 251    11 精神保健福祉センター 251    12 特別支援学校・特別支援学級・通級による指導 252    13 そ の 他 252  第2節 障害者総合支援法による障害者福祉サービスの概要 253 第6章 障害者雇用に関する各種援助  第1節 援助メニュー一覧 258  第2節 事業主に対する援助制度 263    1 障害者の方を新たに雇い入れる場合の助成金 263    2 障害者雇用に当たって雇用管理の改善や職場環境の整備に取り組む場合の助成金 263    3 税制上の優遇措置 265    4 障害者の雇入れに当たっての各種支援 266    5 地域障害者職業センターによる障害者の職場定着、職場復帰に向けた各種支援 267  第3節 障害者に対する援助制度 268    1 就職に向けた準備、支援 268    2 障害者総合支援法関連の支援 269 資 料 編  第1節 障害者雇用関係統計資料 272    1 概況 272    2 障害者雇用率の状況 274    3 障害者の求職・就職状況 275    4 障害者の雇用状況 276  第2節 障害者基本計画(第5次)(抄) 277  第3節 障害者雇用対策基本方針 277  第4節 障害者差別禁止指針  障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、       事業主が適切に対処するための指針 277  第5節 合理的配慮指針  雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは       待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている       事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針 277  第6節 プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン 278  第7節 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン 278  第8節 関係機関・施設一覧 279    (1) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 279     @ 障害者職業総合センター 279     A 広域障害者職業センター 279     B 地域障害者職業センター 279     C 都道府県支部高齢・障害者業務課等 279     D 中央障害者雇用情報センター 279    (2) 障害者就業・生活支援センター 279    (3) 障害者職業能力開発校 280    (4) 発達障害者支援センター 283    (5) 難病相談支援センター 283    (6) 身体障害者更生相談所 283    (7) 知的障害者更生相談所 284    (8) 精神保健福祉センター 288    (9) 厚生労働大臣が登録している在宅就業支援団体 288 Q&A【問】の解答と解説 289 索   引 292 第1章 障害者雇用の理念と現状 第1節 障害者雇用の理念と障害者雇用対策の動向 第2節 障害のとらえ方 第3節 企業経営と障害者雇用 第1節 障害者雇用の理念と障害者雇用対策の動向 1 障害者雇用の理念  身体障害者の雇用保護に国が取り組むようになったのは、各国とも比較的新しく第一次世界大戦後のことです。すなわち、第一次世界大戦による多数の傷痍軍人を対象として雇用の場を確保するための施策がとられ、それが次第に一般の障害者にも拡大されていきました。  我が国においても、ほぼ同様の経過をたどり、第一次世界大戦後の傷痍軍人対策から始まりましたが、昭和21年に制定された日本国憲法では、その第27条において国民の勤労の権利を宣言するに至りました。この権利が障害者にも保障されるべきことは当然のことです。しかし、障害者が労働の意思と能力を有していても障害者に対する社会の理解が十分でなく、また、社会的条件整備も不十分であったため、障害者の雇用の場が十分に確保されたとは言い難い状況にありました。そこで、国は、昭和35年に、身体障害者雇用促進法を制定し、同51年には同法を抜本的に改正し、一定割合以上の身体障害者の雇用を義務づけ、納付金制度により雇用に伴う企業間の経済的負担のアンバランスを調整するとともに、各種の助成金を支給して障害者雇用を促進することとしました。さらに、昭和62年には、法の対象をすべての障害者に拡大し、雇用率制度及び納付金制度上の知的障害者の取扱いを改めるとともに、職業リハビリテーション対策の推進を図ることを内容とする身体障害者雇用促進法の改正を行いました(この時の改正により、身体障害者雇用促進法は、その名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「法」という。)」に変更)。その後も同法は数次の改正を重ね、平成9年には、知的障害者を含めた障害者雇用率の設定、平成14年には、障害者就業・生活支援センター事業及びジョブコーチ事業の創設等制度の充実強化等、平成17年には、精神障害者の雇用対策の強化、在宅就業者に対する支援等を図る改正法が成立しました。また、平成18年には、障害者の地域における自立と就労の支援を強化するための障害者自立支援法(平成25年4月1日から、障害者の日常生活及び社会生活を統合的に支援するための法律(総合支援法))が施行されました。さらに、平成20年12月には、中小企業における障害者雇用の促進、短時間労働に対応した障害者雇用率制度の見直し等を内容とする改正法が成立し、平成21年4月から段階的に施行されることになりました。平成25年4月には、障害者雇用の進展を受け、15年ぶりに障害者雇用率が引き上げられました。また、同年6月には、雇用分野における障害者に対する差別の禁止、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置及び精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を内容とする改正法が成立し、令和元年6月には、障害者の活躍の場の拡大に関する措置、国及び地方公共団体における障害者の雇用状況の的確な把握等に関する措置を内容とする改正法が成立しました。そして、令和4年12月には、障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進等を内容とする改正法が成立しました。  今日までの障害者の雇用の促進に係る法制度も含め、我が国における障害者施策の整備の背景には、共生社会の理念があり、国の障害者施策の基本的な方向について定められた障害者基本計画(第5次・令和5年度〜9年度)の中でも「障害者施策は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるという理念にのっとり、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して講じられる必要がある。」と記されています。  いま、障害の有無に関係なく誰もがその能力と適性を活かしながら、働くことを通じて自己実現を果たし、社会に貢献していくことが求められています。  また、働くことによって収入を得ることで、毎日の生活を支え人生を豊かにしていくことにもつながります。共生社会の理念を踏まえ、一人でも多くの障害者が社会参加を達成し、働くことを通じて自立した生活を送ることができるようにするためには、個々の障害者の特性やライフステージ、置かれた状況等を考慮しつつ、社会全体として障害者の雇用促進及び安定に向けた支援に取り組んでいくことが必要です。  近年、共生社会の理念が社会に浸透している中で、企業においては、「CSR」(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)や「コンプライアンス」(Compliance/法令遵守)、「ダイバーシティ」(Diversity/多様性)等への関心の高まりを背景に、障害者雇用に積極的に取り組む企業が増えており、障害者雇用は着実に進展してきています。大企業等においてはCSRやコンプライアンスに基づく企業価値を高めるための取組みとして、特例子会社を設立するなど障害者の雇用拡大を経営課題としている企業がみられます。その一方で、障害者を雇用するために役立つ各種制度の周知やノウハウの共有等が不十分であるなどの理由から、中小企業等を中心に障害者雇用について採用や募集、受入れに踏み切れていない企業もあります。また、障害者の就労意欲は高まってきているものの、働くことを希望しながら就職の実現が困難な精神障害者や発達障害者、重度障害者等の障害者もまだまだ多数おられます。  障害者雇用の問題は、単に障害者自身の問題であるだけではなく、障害のある人も障害のない人も含めた社会全体の問題です。われわれは、このことを認識しつつ、共生社会の実現に向けて、障害者雇用の取組みを推進していかなければなりません。今後、障害者雇用の取組みが十分に進んでいない事業主に対する障害者の雇用を促進し職域の拡大を図るための取組み、就職の実現が困難な障害者に対する職業的自立を積極的に推進するための取組み等に係る課題に対応し、そうした課題の1つひとつを克服していくことが、われわれに与えられた責務であるといえます。  最後に、「すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有」を目指す障害者の権利に関する条約が平成18年に国連で採択され、労働及び雇用の分野に関しては、あらゆる形態の雇用に係るすべての事項に関する障害を理由とする差別の禁止や職場における合理的配慮の提供の確保等のための適当な措置をとるべきものと規定されています。我が国においては、平成19年9月に署名をしており雇用分野における障害者権利条約への対応を図るため「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が平成25年6月に成立しました。  また、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の成立など国内法の整備がなされたことを踏まえ、国会において障害者権利条約の締結が承認されました。これを受けて平成26年1月に同条約の批准を行いました。 2 障害者雇用対策の動向  最近の法改正の経緯を振り返り、障害者雇用対策の動向を見てみましょう。 (除外率制度の廃止・縮小及び関係子会社特例)  平成14年改正では、除外職員制度及び除外率制度はノーマライゼーションの理念から見て適切ではなくなってきたという観点から廃止することとされ、経過措置として、当分の間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することとされました。また、特例子会社を持つ親会社が、その他子会社も含めて障害者雇用を進める場合に、関係する子会社も含め、企業グループ全体で雇用率制度を適用することが可能とされました。 (精神障害者の雇用対策の強化)  平成17年改正では、精神障害者に対する雇用促進に関する要請の高まりを背景とし、精神障害者保健福祉手帳を所持する精神障害者について、実雇用率にカウントできることとされました。 (納付金制度の対象拡大)  平成20年改正では、中小企業における障害者雇用を促進するという観点から、障害者雇用納付金制度の適用対象の範囲を拡大することとされ、平成22年7月からは従業員数が200人を超える企業が、平成27年4月からは従業員数が100人を超える企業が対象となることとされました。 (障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応及び法定雇用率の算定基礎の見直し)  平成25年改正では、雇用分野における障害者差別の禁止及び合理的配慮の提供義務並びに精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等の改正が行われました。  まず雇用分野における障害者差別の禁止及び合理的配慮の提供義務についてです。平成25年改正により新設された障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務については、厚生労働大臣が指針を定めることとされており、平成27年3月に「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(障害者差別禁止指針)」及び「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針(合理的配慮指針)」が公布されました。「障害者差別禁止指針」では、すべての事業主を対象に、募集・採用時や採用後において、障害者であることを理由とする差別を禁止することなどを定めています。また、「合理的配慮指針」では、すべての事業主を対象に、募集・採用時や採用後において、過度な負担にならない範囲で合理的配慮を提供しなければならないことなどを定めています。この雇用分野における障害者差別の禁止及び合理的配慮の提供義務は、平成28年4月から施行されました(Q&A【問1】(P17)にチャレンジ)。(指針は第4章第4節及び第5節参照)  また、前述の通り、平成25年改正において、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えることとなりました。これにより、平成30年4月から、一般事業主、国、地方公共団体等の法定雇用率がそれぞれ0.2ポイントずつ引き上げられました。さらに、令和3年3月1日からはそれぞれ0.1ポイントずつ引き上げられ、一般事業主の法定雇用率は2.3%になりました。  なお、令和5年度より一般事業主の法定雇用率は2.7%となっています(ただし、令和6年4月から2.5%、令和8年7月から2.7%と段階的に引き上げることとしています)。 (障害者の活躍の場の拡大及び国及び地方公共団体における障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置) 障害者雇用は着実に進展している一方、多様な特性に対応した職場定着支援や就労環境の整備等がより一層重要な課題であることから、「働き方改革実行計画」を踏まえ、平成29年9月から「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」が開催され、平成30年7月末に報告書がまとめられました。 また、平成30年8月、公務部門において障害者雇用率制度の対象となる障害者の不適切計上があり、法定雇用率が達成していない状態が継続していたことが明らかとなりました。 こうした経緯を踏まえ、労働政策審議会での議論を経て、障害者の雇用を一層促進することを目的として、@障害者の活躍の場の拡大に関する措置、A国及び地方公共団体における障害者の雇用状況の的確な把握等に関する措置を内容とする法案が国会に提出され、令和元年6月に「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律第36号)が成立・公布されるとともに、公務部門に対する報告徴収等の一部の規定について同日施行されました。 本改正は段階的に施行されることとなり、公務部門における障害者雇用推進者や障害者職業生活相談員の選任等の規定について、令和元年9月より施行されました。 また、本改正のうち、国及び地方公共団体に対する障害者活躍推進計画の作成・公表義務や厚生労働大臣に通報した障害者の任免状況の公表義務については、令和2年4月に施行され、国及び地方公共団体が障害者活躍推進計画を作成する際に参考とするための障害者活躍推進計画作成指針について、労働政策審議会において検討し、令和元年12月に告示されました。 あわせて、本改正のうち、民間の事業主に対する措置としては、@短時間労働者のうち週所定労働時間が20時間未満の障害者を雇用する事業主に対して、障害者雇用納付金を財源とする特例給付金を事業主に支給する仕組みの新設、A中小事業主における障害者雇用の課題に対応し、障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度の新設が規定され、いずれも令和2年4月1日に施行されました。 (障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進) 障害のある方の雇用の機会の確保を更に進めていくことに加え、雇用の質の向上に向けた施策の充実を図っていくことが重要です。こうした観点等から、令和4年12月には、障害者雇用促進法の改正を含む「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が成立・公布されました。 障害者雇用促進法の主な改正内容は、事業主の責務として、障害者の職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことを明確化すること、特に短い労働時間(週所定労働時間10時間以上20時間未満)で働く重度の障害者及び精神障害者に対し、就労機会の拡大のため、特例的に実雇用率において算定できるようにすること、障害者雇用調整金等の支給方法を見直し、企業が実施する職場定着等の取組みに対する助成措置を強化すること等であり、適正かつ円滑な施行に向けた取組みを進めていくこととなっております。 また、社会全体が高齢化していく中で、企業から中高年齢者である障害者を継続して雇用する中で生じる課題について相談できる窓口を求める声があることを受け、令和4年6月に労働政策審議会において、「障害者就業・生活支援センターについて、関係機関との連携を強化し、地域の実情や個々の事業主の状況に応じて中高年齢者である障害者を継続して雇用するための課題に関する相談機能を強化することが適当である。」と結論づけられました。そこで、令和6年4月より、障害者就業・生活支援センターにて、企業が雇用する障害者の加齢に伴い生じる様々な課題等に対応することとなりました。 このように法律制定以降、幾度かの改正を経て、障害者雇用促進法は現在の形となっています。これらの改正の趣旨を踏まえ、障害者が職業生活において自立することが促進され、職業の安定が図られるよう、関係者が一体となって取り組んでいくことが求められます。 Q&A【問1】合理的配慮指針では、すべての事業主を対象に、募集・採用時や採用後において、過度な負担にならない範囲で合理的配慮を提供しなければならないことなどを定めている。(解答と解説はP289に記載しています) 第2節 障害のとらえ方 障害者の自立と社会参加について示した「障害者基本計画」(内閣府)には、障害があるか否かにかかわらず、すべての人が共に生きる共生社会の実現を目指すことを明記しています。 そのための支援については、当事者本位かつ施策横断的な立場に立って「障害者が多様なライフステージに対応した適切な支援を受けられるよう、教育、文化芸術、スポーツ、福祉、医療、雇用等の各分野の有機的な連携の下、施策を総合的に展開し、切れ目のない支援を行う」こと、また障害特性等への配慮として「障害者施策は、障害特性、障害の状態、生活実態等に応じた障害者の個別的な支援の必要性を踏まえて策定及び実施する」ことが掲げられています。 こうした視点に絡んで、利用者の個別性に合わせた就労支援を推進するための要点として、@働くことの意義、A生活機能と障害の関係、Bニーズと障害の自己理解、C職業リハビリテーション活動の概念、D個人特性と環境要件のとらえ方、E雇用主の対応と支援体制について解説します。その上で、最後に、ライフサイクルの全段階を通じた総合的な支援を考える上で大切な、キャリア発達と地域ネットワークについて触れます。 1 働くことの意義と職業リハビリテーション 「働くこと」は、一般的には、社会的な視点と個人的な視点の両面から見ることができます。「社会的な視点」は、企業という生産的な場面から見た場合です。これは、職業を、社会の存続や発展に必要な活動を個人に分割して割り当てたものであり、それに継続的に従事することで賃金などの報酬が分配される活動とされます。他方で、「個人的な視点」は、収入を得る手段のみならず、むしろ、自分の能力や興味を発揮して、様々な心理的な満足を得る源泉であることに注目します。 この視点は、障害の有無にかかわらず、すべての人にいえることです。ですから、障害があっても、仕事に就いて職業的に自立する中で、生涯にわたる「生活の質(Quality of Life:QOL)」の向上を目指すことは重要です。 「職業リハビリテーション」はそれを支援する活動です。その定義は、「障害者が適当な職業に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することができるようにすること、ならびに、それにより障害者の社会への統合又は再統合を促進すること」(ILO(国際労働機関)第159号条約、1983年)とされます。その焦点は、職業リハビリテーションを、@障害者の社会への統合の手段として位置付け、A適当な雇用の継続と、Bその向上を支援することにあります。 2 生活機能と障害の関係 (1) 障害の分類と定義 「障害」という言葉には、一般的には、次の二つの視点があります。その一方は、狭義の場合です。これは、例えば、身体障害や知的障害などの障害名や障害の種類と程度というように、身体や精神機能の低下や喪失に対して用いられます。これに対して、広義には、こうした意味を含みつつ、そのことが原因となって派生する生活上の困難や不自由や不利益などを包括した概念です。 リハビリテーション分野では、この広義の「障害」を的確に表すために、WHO(世界保健機関)が1980年に「国際障害分類(ICIDH)」の試案を提唱しました。この分類では、障害を、@生物学的なレベルでとらえた「機能・形態障害(impairment)」、A総体としての個人的なレベルでとらえた「能力低下(disability)」、及び、B社会的存在としての人間的なレベルでとらえた「社会的不利(handicap)」の三つの水準に区分しています。これは、障害を「病気(疾病)が治癒した後の固定的あるいは永続的な後遺症」ではなくて、「生活への影響」に焦点を当てることで、病気からもたらされる様々な問題を包括して把握しようとするものです。 この障害分類の試案は、次のような実践的な意義があります。 第一は、障害を総合的に把握する視点を与えたことです。障害は、心身の「機能・形態障害」としてばかりでなく、個人的なレベルとしての「能力低下」や社会的レベルとしての「社会的不利」も含めて、多面的にとらえるべきであることを明らかにしました。 第二に、障害の各水準は、独立した側面のあることを明確にしたことです。「能力低下」は「機能・形態障害」を、また、「社会的不利」は「能力低下」と「機能・形態障害」を契機として発生する、という因果的な関係が成り立つことは確かです。ですが同時に、能力低下は必ずしも機能・形態障害によって、また、社会的不利も能力低下や機能・形態障害によって、完全に規定されるわけではありません。 第三に、障害の各水準と直接的に対応した異なるアプローチが必要であることを示しています。独立した側面があるがゆえに、機能・形態障害に対しては治療的な手法で、能力低下に対しては対処行動の開発で、社会的不利に対しては環境の改善によって、障害の軽減や除去は可能であることを明らかにしました。 第四は、異なる視点をもつ職種や専門職あるいは立場の違いを超えて、障害の多面性についての共通した言語や理解をもたらしたことです。 (2) 生活機能の分類 最初の試案(ICIDH)は、1990年以降になって、数多くの構造モデルの提唱と議論がなされました。そうした経過を踏まえて、2001年に「国際生活機能分類(ICF)」として改訂され、図1のモデルが提唱されています。 これは、従来のような障害の状態を分類するのではなくて、障害のない人も含めたすべての人を対象とした「健康状態」そのものに焦点を当てています。そうした状態のあり方が、心身の「機能や構造」、個人レベルでの「活動」、社会レベルでの「参加」のそれぞれで異なることを示しています。しかも、その違いは、「個人因子」や「環境因子」といった「背景因子」の影響下にあることを強調しています。 障害は、こうした健康状態の変調であることから、すべての人に起こり得ることとされます。ですから、最初の試案(ICIDH)で示された「機能・形態障害」「能力低下」「社会的不利」などは、それぞれ、「機能や構造の変調」「活動の制限」「参加の制約」として現れること、しかもそれらは、年齢や性別、価値観などの「個人因子」や、物理的あるいは社会的態度や法制度などの社会的な環境を含む「環境因子」によって異なることを示しています。 図1 国際生活機能分類(2001年) (3) わが国の障害者の定義 障害者対策の基本的な理念を示した「障害者基本法」では、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、その他の心身の機能の障害」とし、また、てんかん・自閉症・障害を伴う難病などは附帯決議で補足しています。しかし、実際に行われる施策では、同法の理念を踏まえて作成された各種の法律や制度によって定義や範囲が少しずつ異なります。 例えば、18歳以上の身体障害者、知的障害者は、身体障害者福祉法にある「身体障害程度等級表」による身体障害者手帳の所持者や、知的障害者福祉法に基づく療育手帳の所持者です。これらの人は、手帳の有無と記載された等級に応じて、法に明記されている各種の行政サービスの対象者となります。また、精神障害者は精神障害者保健福祉手帳の交付などで、その範囲が規定されています。さらに、学校教育の分野では、特別支援学校の入学基準として、障害の種類ごとに「心身の故障の程度」が定められています。 また、「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」としたうえで、同法の運用では、身体障害者を身体障害者福祉法の別表で、知的障害者や精神障害者等は、厚生労働省令によって別に定めています。なお、労働者災害補償保険法でも障害の程度を定めています。 3 ニーズと障害の自己理解 (1) ニーズのとらえ方 最初に述べた「働くことの二面性」は、「ニーズ」の違いを示しています。つまり、ニーズは個人の側ばかりでなく、組織や集団それ自体にもあります。集団のニーズは、家族、職場、学校あるいは地域社会などの様々な社会集団そのものが、その存続のために集団を構成する個々人に働きかけます。個人はそれに応えることで、集団の中に自己の位置を確立して様々な満足感を得ます。しかしながら、集団のニーズは、時には障害のある人の社会参加を排除するということにもなりかねません。それゆえ、個人のニーズを集団がどのように満たすかという視点のほうが重要です。 個人のニーズはいろいろな視点から見ることができます。先ほどの障害分類で示した、「機能や構造の変調」「活動の制限」「参加の制約」のそれぞれの側面に応じてニーズをとらえることもできます。ここでは、マスロー(Maslow)の「欲求の階層構造」をもとに考えてみます。これは、次の五段階から構成されています。 @ 生理的欲求:生命を維持するための基本的な欲求とされます。いわゆる、衣・食・住そして性に対する欲求です。 A 安全欲求:自分の身に危険が及ぶこと、あるいは、生理的な欲求が邪魔されることなどから逃れたい欲求です。また、直面している様々な現実に対して自分を守ったり、将来を心配することも含まれます。 B 連帯欲求:様々な社会集団に所属して、その集団に受け入れてもらいたいという欲求です。他の人たちと意味のある人間的な関係を保ちたいという願いでもあります。 C 自尊欲求:他の人に自分の価値を認めてもらいたいという欲求です。様々な集団の中にあって、他の人から認められて尊敬を受けたいという願いであり、自分自身に対して高い自己評価をして自負心を満足させたいという欲求でもあります。 D 自己実現欲求:自分の可能性をできるだけ伸ばしたいという欲求です。自分が「こうありたい」と思う方向に努力して、それを実現したいという願いでもあります。 これらのキーワードのそれぞれに対応して個人のニーズを分析すると、より的確にその全体像をとらえることができるでしょう。例えば、働いている知的障害の人の場合には、次のとおりです。まず、衣食住に対する「生理的欲求」は、自分でそれらを手に入れたいという願いです。したがって、自分のお給料で好きな物を買うことの喜びにつながります。「働いて、お給料を稼いで、それで好きな物を買う」といった一連の流れを自分で経験することで、働くことの意味も十分に理解することになります。また、知的障害があるから「安全の欲求」がないとは考えられません。 「連帯欲求」や「自尊欲求」もそうです。一般に、知的障害が軽度の人のほうが、職場の定着率が低いといわれます。いろいろな原因があるとしても、その一つに、自分では仕事を一人前にしていると自負していても、職場の上司や同僚がそれを認めなかったり、仲間として受け入れてくれないことに対する不満が原因となっている場合もあります。 「自己実現欲求」は、自分の将来像を実現したいという希望であり、その中身が問題になるのではありません。したがって、喫茶店のホール係として働いている知的障害の人が、やがてはレジ係になりたいと思うのも、自己実現への顕れです。 (2) 中途障害の理解 人生の中途で病気や事故などで障害者となった人は、それまでの発達の過程で獲得されてきた、個性や対人関係や課題遂行などの「特性や技能」、身体感覚や価値観や自己有用感などの「自己イメージ」、職業的な面を含む人生の様々な「目標」などが破壊されることになります。受障は、直接的には「特性と技能」の低下を招き、それが「自己イメージ」や「目標」の変更を余儀なくします。 ですから、中途障害から回復する過程では、@受障で無力化した特性と技能を「復旧」したり「置換」し、A自己イメージを「再統合化」し、B達成困難となった目標を「再組織化」するとともに、C実際の物理的及び社会的な環境を「再構造化」することが必要です。 特に、「自己イメージ」の回復が高いほど、より深刻な「特性と技能」の損失に耐えて人生の「目標」を立て直すことができるでしょう。その再統合化の過程は、一般的には、次の過程をたどるとされます。 @ ショック:受障を信じないで無関心や離人症的な状態に陥る段階です。 A 否認や混乱:障害を否認したり、怒りやうらみ、あるいは悲嘆して絶望する段階です。 B 現実的認知と容認:あきらめや開き直りを経て、障害があっても何かできるはずだと考える段階です。 C 適応努力:自分の責任や役割を自覚して、依存から脱却して価値の転換を図ろうとする段階です。 D 再適応と受容:人生の新たな目標に向かって積極的に生きる段階です。 この経過は必ずしも直線的に進むとは限らず、障害に対する現実認知や容認のできないままに、適応への努力を重ねることも多くみられます。ですから、相互に密接に関連する「特性や技能」「自己イメージ」「目標」の領域を、一体的に支援することが必要となります。 4 職業リハビリテーション活動のとらえ方 これまでに記述してきたことを踏まえ、職業リハビリテーションサービスの全体的な概念を描くと、図2のようになります。これは専門家ばかりでなく、障害者を雇用してその維持を図ろうとする事業主の方々も共通して理解しておくことが望ましいでしょう。 (1) ニ ー ズ ここでは、ニーズが個人の側と社会集団の双方で生じることを示しています。個人のニーズは、前述のマスローの欲求構造をキーワードにしています。これに対して、職場や地域や家庭などの、それぞれの社会集団にもニーズのあることを示しています。 (2) 役   割 仕事に就くには、生産活動を目標とする職場の様々な環境条件から要請されるニーズに応えることが求められます。個人のニーズは、そうした環境や集団のニーズが反映された「役割」を果たすことで達成されるでしょう。 こうした「役割」を媒介として二つのニーズが達成されることを、「充足」と「満足」という言葉で表しています。「充足」は、生産活動をする集団や環境のニーズに個人が応えることを、また、「満足」は、個人のニーズにその集団が応えることを意味しています。それはまた、「社会的な視点」から見た働くことの意義が「充足」をもたらし、「個人的な視点」から見た働くことの意義が「満足」をもたらすことを意味しています。 (3) 適応とその向上 こうした双方のニーズを達成していく過程が、「対処行動」です。これは、環境や集団のニーズとして現れる具体的な課題を、個人が積極的に反応してそれに応えようとする活動です。対処の仕方は、すべての人が同じ方法である必要はなく、どんな方法であろうとも、与えられた課題に結果として応えることができればよいのです。 「適応」とは、こうした対処行動を通して、「満足」と「充足」の双方を高めていく過程です。その定義は、「生活体が、ある特定の生活環境のもとでその機能を円滑に維持し続けている状態」です。したがって、良い適応状態とは、個人の行動が社会の規範に合致し、しかも、それによって個人の感情が安定している状態です。 こうした適応に至る道は、短期間で終了するのではなく、生涯にわたって続き、職業生活の全体を通して向上させていくことになります。これはまた、キャリアを形成してゆくことでもあります。つまり、図2の「QOL(生活の質)」の向上は、そうした適応の過程すなわち、キャリア発達を通して得られるとみなしています。 図2 職業リハビリテーション活動の概念 (4) サービスや支援の戦略 適応性を向上させてQOLの充実に向かうには、個人と環境や集団の双方に対する、併行した支援が必要です。図2の下方にある「介入と支援」の矢印の方向は、このことを示しています。双方の側からサービスや支援をすることで、個人の「満足」と環境や集団の「充足」が、らせん階段のように上昇して適応の向上に至ると考えています。このように、サービスや支援は、個人の側に向けて「機能の発達」を促す方向と、集団や環境の側に向けて「資源の開発」を促す方向の、二つの戦略があります。 @ 機能の発達 個人の側に向けた支援である「機能の発達」は、いいかえると、能力開発です。これはさらに、「技能の発達」と「技能の活用」に分けられます。「技能の発達」は、まだ習得できていない個人的な機能を、教育や訓練で新たに学習して発達させることです。また、「技能の活用」は、既に習得した機能的な特性を、実際の環境の中で十分に活用できるように訓練することをいいます。 例えば、初めてワープロを使う人は、その使用ソフトを習得するのにゼロから一生懸命に学習します。それが「技能の発達」に相当します。これに対して、既にワープロを打てる人でも、就職先の事業所で使っているソフトが自分の学んだものと違う場合には、改めて学習し直します。けれどもそれは、初めてワープロを学ぶときよりもずっと楽に学習できて習得も早いものです。これが「技能の活用」に相当します。 A 資源の開発 他方で、環境や集団の側に向けた支援である「資源の開発」は、既存の企業や組織や機関、さらには制度などの様々な社会資源を「調整」したり「修正」することをいいます。「資源の調整」は、社会資源を選択したり、活用の仕方の調整や援助によって、個人の特性に応じて活用できる資源を結び付ける支援です。また、「資源の修正」は、個人の価値観や必要性に応じて、既存の社会資源そのものを改善していくことをいいます。 例えば、働きたいという人がいれば、その能力や興味や価値観などに応じて、地域の生活支援の機関を含む様々な関係機関と調整することが必要になるでしょう。また、ある事業所に就職することを目指しても、その作業環境や仕事そのものが本人の能力に見合う内容でない場合には、作業場の改善や職務の再設計、あるいは新しく仕事をつくり出すといった修正をすることも考えなければならないでしょう。 (5) 役割の代替 こうした戦略の中で、特に、職場の集団や環境に対する「資源の開発」は重要です。なぜなら、それは、「役割」そのものを変える働きをするからです。「役割」の内容を変えることで、障害のある人の職業生活への参加を保障するとともに、個人のニーズが達成されて「満足」を得る機会も増大します。前述した障害分類の思想は、こうした職場の集団や環境などの「環境因子」の関与こそが、社会参加の道が開かれることを主張しているのです。 5 個人特性と環境要件のとらえ方 このように、職業的な自立に向けた支援を進めるには、個人特性と環境要件の双方を的確にとらえることが必要になります。 (1) 個人特性の把握 仕事に従事するのに必要な個人特性は、「ワークパーソナリティ」といわれます。これは、特定の職業や職場に限定されない、職業生活の全体を通して形成される職業人としての基本的な特性です。発達の過程を通して形成され、仕事を効果的に行うのに必要な適性や行動や価値観や能力などの側面が含まれ、仕事を探したり、それに従事して適応する過程で大きな影響を及ぼします。その具体的な条件を示したのが、図3です。 ここでは、個人特性を「社会生活の遂行」「職業準備行動」「職務との適合」から構成される階層構造とみなしています。それぞれの内容は、次のとおりです。 @ 社会生活の遂行:地域社会の中にあって役割を果たして日常生活を行うのに必要とされる、最小限度の個人的な条件を網羅したものです。 A 職業準備行動:どのような仕事に就いても共通して要請される、職業人としての役割を遂行するのに必要な条件です。 B 職務との適合:ある職業群や職務に就いてそれを維持する可能性を明らかにするのに必要な情報です。ある職務を遂行するうえでの必要条件でもあります。 こうした視点は、働きたいという障害者を観察してそれを支援する場合に重要です。障害のない人の多くは、「職務との適合」の領域に限定した評価で済むことが多いのですが、障害のある人、特に、知的障害や精神障害のある人たちの場合には、「職業準備行動」と「社会生活の遂行」の領域で問題となることが多く、それに対する支援が必要だからです。 このことは、職場で不適応となって退職する原因の多くは、職務の適合にかかわる能力よりも、職業人としての基本的な要件が未熟なことからも明らかです。それゆえ、「職業準備行動」や「社会生活の遂行」にかかわる条件は、学校教育での職業指導や進路学習を通して、仕事に就く前に企業以外の場で確立されていることが望まれます。そうした、学校から職場への円滑な「移行」を進めることが重要でしょう。 また、仕事に就いた後もこれらが十分でない場合には、初期訓練の重要な課題となったり、職場に適応するための支援の内容ともなります。それゆえ、図4に示すように、社会生活や地域生活の維持を支える支援と、職場での生産活動を支える支援が一体的にまた継続的に行われることが非常に大切になります。 (2) 環境特性の把握 前述の概念モデルで指摘したように、職場の集団や環境に対する「資源の開発」は、障害のある人の雇用を進めるうえで、重要な課題です。そうした環境要件は、「職場の環境」と「地域生活や職業生活に関する環境」の二つの側面からとらえることができます。 職場は、一般的には、表1にある様々な環境で構成されています。こうした広い視点でとらえることによって、個人の特性を考慮した環境の調整や修正が可能になります。 また、仕事に就いてそれを継続するには、職場を離れた地域生活の維持が必要です。そうした職場以外の環境には、表2のものが含まれます。特に、地域生活に関する要件は、職場で働き続けることへの影響が大きいといえます。ですから、障害者を雇用する場合には、個人の生活状況についての周辺情報として知っておくことが必要でしょう。 図3 個人特性の階層構造 図4 生活支援と就労支援の一体化 表1 職場の環境に関する条件 表2 地域生活と職業生活環境に関する条件 6 雇用主の対応と支援体制 (1) 雇用主の不安と対処 障害者を採用する意思はあるものの、実際に受け入れるには様々な不安があって、どうしても一歩を踏み出せない場合があります。一般的に指摘される事業主の不安は、例えば、@生産性が低下して能率を維持することが困難、A労務管理のノウハウがない、B向いた仕事がない、C不測の事態が起きたりその危険がある、D経済的負担が増大する、E標準的な作業方法を適用できない、F人間関係の維持が難しい、といったことです。 こうした不安は、客観的な根拠のないままに否定的で非好意的な態度をとる「偏見」や、過去に経験した少数の障害者からのイメージですべての障害者を見る「ステレオタイプ(絞切り型)」な評価に起因することがあります。そうした偏見やステレオタイプの根拠は、障害のある人に対する断片的で偏った情報を基にしている場合が多いでしょう。 では、実際に障害のある人を採用した事業主の方々は、どのような人でしょうか。図5は、二次元の軸上で四つのタイプに事業主を分類した結果です。このX軸は「雇用した後の対応」を示し、指導や環境の整備を重視するのか、それとも採用後は放置するのかによって分けています。またY軸は「雇用の過程での志向性」を示し、人間的な温かさから受け入れるのか、それとも労働力を重視するのかで分けています。 このタイプ1と4は、採用の余地さえあれば、教師や親、ハローワークなどの関係者の依頼に基づいて、希望者をできるだけ受け入れようとする場合です。タイプ2と3は、本人の生産性に強い関心を持ち、事前に各種の検査等で労働力としての将来性を慎重に見極めたうえで採用に踏み切る場合です。また、タイプ1と2は、雇用した後の指導や訓練を重視し、作業環境を整備する努力を継続して実行する場合であり、タイプ3と4は、採用のときに期待したとおりの働きがあるとの前提に立ってそうした対処を考えず、教育や訓練に特別の配慮をしない場合です。 障害者を雇用する事業主の方々は、タイプ1や2の態度、中でも、タイプ1が望ましいとされます。つまり、就職後の訓練と雇用管理を前提とした採用です。これは前述したように、「障害」のあり方は個人特性と環境要因との相互作用によって決まることを踏まえた結果ですし、実際にも、これらのタイプの事業主の下では、たとえ知的障害の人であっても継続的に雇用されることが多い傾向にあります。 (2) 雇用管理面の配慮 このように、指導方法を工夫したり環境を整備することは、一般的には「職務の適正化」といわれます。これは、単に、本人に合う適切な職務を見出すことではなくて、その能力に合わせて職務そのものを改善したり、作業を容易にするための治工具や機器を改善したりすることも含まれます。また、能力向上のための教育訓練や、その他の様々な雇用管理面からの対処も含まれます。 知的障害の人は、それらの中でも、「教育訓練」が最も大切な課題となります。また、身体障害の人は、物理的な環境や技術的な環境の整備を含む「職務の再設計」も必要です。これは、一般的には、残存能力を生かすように作業の配置転換を行ったり、治工具を考案したり、機器を改良して作業を容易にし、能力に合わせて職務や作業の内容を再編成するものです。その他にも、「人間関係の改善」「職場の安全」「健康管理」「労働時間」「賃金」などの、様々な雇用管理面に対する配慮を必要とします。 (3) 企業への支援体制 雇用率制度を基にした障害者の雇用は、企業側の努力に依存している部分が多いといえるでしょう。それだけに、障害者雇用に対する社員の啓発、職場実習の受入れ、職務の調整を踏まえた採用、就職後の職場適応の向上、企業内外での能力開発や再訓練、昇進や昇格などのステップアップ、職場や職業生活に対する不適応への対処、高齢化に伴う職業能力の低下への対処などの様々な課題に対して、事業所が安心して相談できるとともに、実際的な協力も得られるような支援体制を整えることが重要になります。 図5 事業主のタイプ ・タイプ1 人間志向、指導・環境整備型 ・タイプ2 労働志向、指導・環境整備型 ・タイプ3 労働志向、放置型 ・タイプ4 人間志向、放置型 7 キャリア発達と地域ネットワーク (1) キャリア発達に即した支援 先に示したように、共生社会の実現に向けた支援では、障害者の各ライフステージを通じて、教育、福祉、雇用等、各分野の有機的な連携の下、総合的かつ切れ目のない支援を行うことが求められています。そのためには、学齢期の職業自立に向けた準備、学校から仕事への移行、就職後の職場や地域での安定した生活の維持、職場内でのキャリアアップや離転職、地域生活の継続、退職後の生活の場の確保などの、生涯のライフステージに応じた長期的な展望に立った支援を、常に考えておくことが必要でしょう。そればかりか、私たちの人生は、その生涯において、いつかは遭遇して乗り越えねばならない様々な出来事(例えば、進学、就職、結婚、離転職、退職など)が次から次へと押し寄せてきます。こうした人生の様々な課題を乗り越えて円滑に「移行」することで、「生活の質(QOL)」の向上が保たれるといえるでしょう。ですから、個々人の状況に応じて、そうした出来事に遭遇する可能性を見越したうえで、事前にそれを乗り越えるための準備や支援をするという視点が大切になってきます。 働く生活の維持に限定しても、発達的な視点を踏まえると、数多くの課題があります。 例えば、就職する前後の時期では、職務を遂行できる能力を育成しつつ、職務内容の調整を併行しながら、双方の結合に焦点を当てることになります。また、前述の図4に示した、社会生活の遂行能力や職業準備行動などの育成は、学校や訓練機関の課題となります。 就職した後、職業生活を継続する期間では、職場に適応できるように支援し、ステップアップや再訓練の機会を提供し、不適応の兆候が出た場合には迅速に対応し、離転職をせざるを得ない場合には適切な訓練機会を提供し、就職先に円滑に移行できるように支援することが求められます。また、事業主が障害者の採用や就職後の職場適応に際して、安心して相談や支援を受けられる体制も必要でしょう。さらに、生活の場の確保、通勤対策、日常生活の相談と支援、余暇活動などといった、事業所の対応では限界のある課題に対する支援や、本人の預金管理などのように、事業所では対応すべきでないことへの支援なども含まれます。 雇用や福祉的就労などの働く場面からの引退を支援する期間では、特に、加齢に伴う職務の遂行能力が低下した場合の対処の仕方と、生活基盤をどのように確保し維持するかということが重要となります。特に、企業で働き続けることが困難になった場合に、福祉的就労に円滑に移行できるよう支援することが重要な課題となります。 (2) 地域ネットワークの育成 こうした就労の継続、あるいは、人生の様々な出来事を乗り越えさせるための支援は、単独の組織や機関の提供する機能だけで応えることは、実際には、非常に困難なことでしょう。それゆえ、障害のある本人や家族ばかりでなく、事業所も安心して種々の相談や実際的な協力の得られる支援体制を整えることが重要です。特に、事業所の努力限界を超える課題に対しては、労働関係の機関に限らず、特別支援教育や保健福祉関係の諸機関や施設を含む地域の様々な社会資源が総合的に対応する、地域支援ネットワークによる支援体制の構築が必要となります。支援機関や担当者は、自組織や機関の提供する機能の限界を知り、その分、地域の社会資源や地域ネットワークと協働することによって、そうした限界を乗り越えることが求められています。 また、最近では就労支援に向けた支援ネットワークは、福祉・保健・医療・教育などの分野と雇用・就労支援機関が連携した体制が、各地でつくられつつあります。さらに、労働組合・経営者団体・特例子会社等の事業主、企業の人事労務担当者、障害者の就業支援機関の職員、福祉や教育現場の就労担当者、行政関係者など、幅広い領域のメンバーが参加した、地域の社会資源の全体を巻き込んだ地域ネットワークの形成も進みつつあります。 共生社会の実現に向けた支援は、障害者個人のニーズに対応したライフステージの全段階を通じて総合的にかつ適切な支援が求められています。それゆえ、生涯のライフステージに応じた長期的な展望に立った支援と、それを維持するための、地域における雇用支援のためのネットワークが、これからも、ますます大切になってゆくことでしょう。 (松為 信雄) 第3節 企業経営と障害者雇用 1 コンプライアンスと企業の社会的責任(CSR) コンプライアンス(法令等の遵守)についてわが国で関心が高まったのは、1990年代以降の度重なる企業の不祥事の発生にあります。粉飾決算やインサイダー取引、リコール隠し、違法カルテル、耐震偽装、食品偽装など枚挙にいとまがありません。経済のグローバル化にともない、国境を越えてビジネスをしていくとき、現地の法令や文化的背景を学びその国の法令を遵守することが必須となります。当初は税務や財務、取引慣行や販売戦略等を中心に進められ、雇用管理の場面においては、労働時間の適正化などが特に重要な対象として捉えられてきました。1) 今日では、IT技術の進展から個人が簡単にWeb上にリアルタイムに画像や映像等の情報を提示できる環境になり、組織内部で仕事をする個人レベルでのコンプライアンスが意識されるようになっています。そしてコンプライアンスが重視される領域は企業活動全体に拡大する傾向にあり、企業の社会的責任と重複する概念となってきています。「企業も社会の良き市民たれ」は、米国の企業の多くで共有される理念といわれますが、そのように考えますと単に法令に触れないように「マニュアル」などを整備するような予防的な姿勢ではなく、自らが積極的に責任を果たしていく姿勢が企業に求められているのではないでしょうか。 企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility(以下「CSR」という。)2)は、法令遵守を前提として、それを超えた範囲と水準に広がる企業の自主的な規範形成への営みです。後述するように、各国で推進する組織、方法は異なります。それぞれ企業の行動を規定する法制度が違い、雇用慣行と労使関係も異なるからです。そしてCSRは、社会の企業観や文化とも密接に関係します。「自主的」な取り組みですから、唯一の定義、方法があるわけではありません。 CSRの議論の源流は1960年代から70年代にあります。1976年にOECD「多国籍企業行動指針」、1977年にILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」が示されました。わが国においてもこの時期に、公害問題で企業の社会的責任が厳しく問われ、1967年に公害基本対策法が公布、施行され、1971年には環境庁が設置された経緯があります。 さらに1990年代、国際的な規制緩和の進展により海外直接投資が増加し、経済がグローバル化するとともに市場競争も激しさを増しました。地球規模での環境破壊、鉱物資源や生物資源の獲得競争の激化、児童労働のような人権問題と労働問題、アンフェアな商慣行の強要などについて、グローバル化を推し進める多国籍企業に対して、投資家や消費者、市民活動団体などが、その行動に注目するようになったのです。そして、このようなグローバル化の進展により生じた諸課題への対応について、国際的な合意の形成がなされることになります。 1998年のILO「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(新宣言)」や2000年の「国連グローバル・コンパクト」、OECD「多国籍企業行動指針(改訂版)」などです。これらの政府系国際機関の活動と国際的なNGOの活動、例えば国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)がCSRの議論を進める原動力となりました。欧州においては、域内各国での差異はありますが、CSRが政府主導でなされていることが特徴です。政府機関である欧州委員会は2001年に「グリーン・ペーパー」、2002年「通達」、2004年の欧州CSRマルチステークホルダー・フォーラム「最終結論と勧告」、2006年「通達」によりCSRに関する欧州委員会としての方針を示しています。近年では2019年12月にEUからの温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする欧州グリーンディールを打ち出し、気候中立な社会、経済の実現に向けて官民あげて取り組むとしています。 一方アメリカでは、企業による社会貢献は、かねてよりフィランソロピー(Philanthropy)が盛んでしたが、現在においては株主だけでなく、広くステークホルダーの利害に対する責任ある企業行動であると意識され、多くの企業が関心をもっているとされています。例えば、「顧客・従業員・地域社会・株主」の4つのステークホルダーに対する責任を具体的に明示する企業もみられます。一方でアメリカの企業経営に対する考え方は「株主至上主義」が強いと言われてきました。しかし2019年8月には、日本の経団連のような経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BR)が幅広いステークホルダーに配慮した経営をすることを推奨すると声明を出したことからもアメリカの企業もCSRについてさらに重きを置くことになりそうです。欧州と異なりアメリカでは、政府機関による積極的な関与や法規制は好まれませんが、市民個々人の社会的関心の高さ、例えば人権運動や、1960年代のベトナム反戦運動など自由を尊ぶからこそ公正を追求する国民の倫理観が、CSRを推進する主体となっており、多くのNPOやNGOがこれに関わる活動をしています。 日本においては、前述のような公害問題や当時の利潤を優先する風土の中での相次ぐ企業不祥事の発生から、企業経営者が自ら危機感を共有し、そのことが日本におけるCSRの議論の進展に寄与したと考えられます。日本経団連が「経団連企業行動憲章」を制定したのは1991年、バブル経済が崩壊した年でした。その後、1996年12月17日改定、 2002年10月15日には「企業行動憲章」に改定し、2004年5月18日の改定を経て、2010年9月14日に4回目、2017年11月は5回目の改定が行われてきました。そして2022年12月には、「序文」と「企業行動憲章 実行の手引き」3)4)が改訂されています。この過程で1996年改定は、消費者・ユーザー、株主、地域社会、従業員、取引先など広くステークホルダーとの関係も含め10か条の「経団連企業行動憲章」となり、またこれに関する「実行の手引き」も作成されました。 2004年改定5)は、前文で社会のCSRの取り組みに対する注目の高まりに言及し、「ステークホルダーとの対話を重ねつつ社会的責任を果たすことにより、社会における存在意義を高めていかねばならない。」とし、それらの取り組みについては「情報発信、コミュニケーション手法などを含め、企業の主体性が最大限に発揮される必要があり、自主的かつ多様な取り組みによって進められるべきである。その際、法令遵守が社会的責任の基本であることを再認識する必要がある。」とあり、CSRを強く意識した改定が行われています。またこのとき「実行の手引き(第4版)」6)7)も改訂されています。 2010年改定8)では、ISO 26000(社会的責任に関する国際規格)の観点から改定が行われています。また企業だけが社会的責任を負うということではなく、あらゆる組織が自らの社会的責任を認識し、その責任を果たす(SR: Social Responsibility)の考え方について言及し、前文では「とりわけ企業は、所得や雇用の創出など、経済社会の発展になくてはならない存在であるとともに、社会や環境に与える影響が大きいことを認識し、「企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)」を率先して果たす必要がある。」としています。 2017年の改定では、2015年に国連で、持続可能な社会の実現に向けた国際統一目標である「SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」9)が採択され、その達成に向けて民間セクターの創造性とイノベーションの発揮が求められている中で経済成長と健康・医療、農業・食料、環境・気候変動、エネルギー、安全・防災、人やジェンダーの平等などの社会的課題の解決とが両立し、1人ひとりが快適で活力に満ちた生活ができる社会の実現を目指すことは国連で掲げられたSDGsの理念に合致するとして、SDGsの達成を柱とした考え方が盛り込まれています。また第4条「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」が新設されています。2022年は、企業行動憲章は改定されませんが「序文」に持続可能な社会の実現が企業の発展の基盤であることを認識し、「サステイナブルな資本主義」への転換を加速するために行動していくこと等が追記されています。また、「企業行動憲章 実行の手引き」が全面的に改訂され、第9版として公表されています。 経済同友会が「第15回企業白書 『市場の進化』と社会的責任」10)を公表したのは2003年であり、この年は日本のCSR元年と称されています。CSRについて経済同友会は「企業と社会の相乗発展のメカニズムを築くことによって、企業の持続的な価値創造とより良い社会の実現をめざす取り組み」としています。そして「持続可能性(sustainability)」をキーワードとして掲げ、「経済・環境・社会のトリプルボトムラインにおいて企業は結果を求められる時代になってきている」として、CSRは、「企業と社会の持続的な相乗効果に資する」、「事業の中核に位置づけるべき“投資”」であり、「コンプライアンス(法令・倫理等遵守)以上の自主的な取り組みである」と記しています。CSRを企業の「経済的」責任とする考え方や「コスト」「フィランソロピー」との考え、「義務的」「法令遵守」とする考えを越えた取り組みを企業自ら目指し、社会に対する責任ある行動を希求し、積極的に取り組んでいることが見て取れます。 2015年9月の国連サミットで、国連加盟193か国により採択され、加盟国が2016年〜2030年の15年間で達成するために掲げた目標であるSDGsも、図にある17の「ゴール」と各ゴールのもとに169の「ターゲット」が示され、それらを244の指標で測ることになっています。 SDGsは、企業の役割・責任について、2030アジェンダ第67条で「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。我々は、小企業から協同組合、多国籍企業までを包含する民間セクターの多様性を認める。我々は、こうした民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。『ビジネスと人権に関する指導原則と国際労働機関が定める労働基準』、『子どもの権利条約』及び主要な多国間環境関連協定等の締約国において、これらの取り決めに従い労働者の権利や環境、保健基準を遵守しつつ、ダイナミックかつ十分に機能する民間セクターの活動を促進する。」また、「ターゲット12.6」では「特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。」としています。 「世界経済フォーラム」の2020年年次総会(ダボス会議)は、パリ協定と持続可能な開発目標 (SDGs)の進捗状況を監視している各国政府と国際機関に支援を提供することが目的の一つでしたが、中でも気候変動が最大の焦点となりました。また、第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)の場では「持続可能な開発目標(SDGs)」の重要性や、新たな資本主義の目指す方向性について盛んに議論されました。持続可能な社会の実現のために具体的行動が求められています。 2 企業の社会的責任・雇用管理に求められるあらたな視点 2004年6月25日に発表された厚生労働省の「労働におけるCSRのあり方に関する研究会中間報告書」11)(座長:谷本寛治一橋大学大学院商学研究科教授)は、従業員、求職者というステークホルダーとの関わりにおいて、企業が考慮することが望まれる事項について@「人」の能力発揮のための取組み、A海外展開の進展に対応した取組み、B人権への配慮をあげ、人権への配慮については、「今日でも社会的身分、門地、人種、民族、信条、性別、障害等による不当な差別その他の人権侵害はなお存在している。企業においても、差別の禁止やセクシュアルハラスメントの防止等について、社内研修など従業員の人権に配慮するような取組みをしていくことが重要である。」としています。 CSRと雇用管理について考える際に、2010年11月1日に国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)により発行されたISO2600012)について触れる必要があるでしょう。ISO26000は、国際規格「Guidance on social responsibility(社会的責任に関する手引き)」です。これは企業にとどまらず、政府・学校・NGO等、多様な組織を対象としています。ISO26000は、7つの原則として「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」を挙げ、これらを行動規範として尊重することを組織に求めています。そして7つの中核主題「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」と関連する課題や具体的なアクションプランを挙げています。 ISOと言えば、ISO14001(環境マネジメントシステム)やISO9001(品質マネジメントシステム)等のマネジメントの認証システムが有名です。しかしISO26000は、認証を目的とした規格ではありません。多様な組織を対象としており、それぞれに文化的・歴史的な背景を持つため、画一的な基準で「社会的責任」を定義することをしていません。そのためISO26000は、各組織が主体性を持って社会的責任を定義し推進するための、基本となる「ガイダンス」として発行されました。 CSRと雇用管理の関係に関わるのは、第6章「社会的責任に関する中核主題:組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティ参画及び開発」になります。「6.3 人権」では、人権の概要(組織と人権、人権と社会的責任)が述べられています。ここでは、@人権とは、人であるがゆえにすべての人に与えられた基本的権利であること、A人権には大きく分けて2種類(市民的および政治的権利、経済的・社会的および文化的権利)あること、B組織は、その影響力の範囲も含めて人権を尊重する責任を負うこと、とされています。 「6.4 労働慣行」では、労働慣行の概要(組織と労働慣行、労働慣行と社会的責任)が述べられています。ここでは、@組織の労働慣行には、組織内で、組織によって、または下請労働を含め組織の代理で行われる労働に関連するすべての方針および慣行が含まれる、A労働慣行には、労働者の採用および昇進、苦情対応制度、労働者の異動および配置転換、雇用の終了、訓練およびスキル開発、安全衛生、労働者組織の承認、団体交渉、社会対話などが含まれる、B社会的に責任のある労働慣行は、社会の正義と安定に必要不可欠である、と示されています。 近年は企業活動における人権侵害に関わるリスク把握と発生の予防や軽減を図る人権デューデリジェンス(Due Diligence)が以前に増して求められるようになってきています(Q&A【問2】(P31)にチャレンジ)。2020年10月に、外務省(総合外交政策局人権人道課)からビジネスと人権に関する行動計画が公表されています。これは国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)に基いたビジネスと人権NAP(National Action Plan)であり、経営活動における人権尊重について企業に対しデファクトスタンダード (de facto standard )を明示することにより企業の取組みへの方向性を示唆していると考えられます。こうした状況を踏まえて経団連は2021年12月に企業行動憲章 実行の手引き「第4章 人権の尊重」(手引き)を改訂し、「人権を尊重する経営のためのハンドブック」(ハンドブック)を作成しています。 人権デューデリジェンスは当該企業にとどまらず、グローバルな企業のサプライチェーン(供給網)も含まれるとされています。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)に記されている内容を把握して対応を検討していく必要があるでしょう。 雇用管理の面で注目される考え方であるダイバーシティ(diversity)は、一律ではないのですが、米国の雇用機会均等法委員会の「ジェンダー、人種、民族、年齢における違いのことをさす」とされています。そしてこうしたダイバーシティマネジメントの核心は Singh,V.及びPoint, S.(2004)13)によれば「多様な人材を組織に組み込み、パワーバランスを変革し、戦略的に組織変革を行うことである」とされています。また、ダイバーシティマネジメントの第一の目的は「組織のパフォーマンスを向上させることにある」とされています。 近年はこのダイバーシティマネジメントについて、ダイバーシティ(Diversity)そしてエクイティ(Equity)とインクルージョン(Inclusion)の3つの視点(DEI)が重視されています。特にエクイティ(Equity)は、誰にでも同量のリソースを配分する、平等の意味であるエクオリティ(Equality)とは異なります。ダイバーシティマネジメントにおいてエクイティ(Equity)は、多様な背景がある個人や集団の公平性を担保するために必要な調整を行い、個人やグループの状況に合致した環境を整えることで、それぞれがパフォーマンスを発揮できると考えます。このような考え方は、障害者雇用における合理的配慮(Reasonable accommodation)にも繋がる視点と言えましょう。そしてインクルージョン(Inclusion)は、それぞれの多様性が尊重された上で、多様な背景があるメンバーが組織に参加し、それぞれが所属する組織に貢献できる状況にあることを意味しています。 世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)は、2023年12月にインサイトレポート14)を発表し、世界各国のダイバーシティ(Diversity)そしてエクイティ(Equity)とインクルージョン(Inclusion)の3つの視点(DEI)を重視した先進的な取り組みを行っている組織の実践事例を紹介しています。日本企業では、1社の事例が紹介されています。そして、DEI を成功に導くために共通する5つの要因は、1丁寧な根本的課題の理解、2成功のための目標の定義、3経営幹部のバックアップ(責任の担保と十分な資源の配分)、4臨機応変な設計と資源配分、5厳格な進捗管理と軌道修正だとしています。ただ、残念なことに障害についての記述は多くありませんが、アメリカやドイツ、香港の企業の事例で触れられていました。このレポートのために、世界の60の組織がコンソーシアムメンバーとなっています。日本からは複数の企業が参加しています。 障害者雇用に関しては、日本においても「障害者の権利に関する条約」の批准に際し、障害者基本法の改正とその基本理念を具現化するための「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を2013年6月に制定、労働の分野については、障害者雇用促進法が同じく6月に改正され米国においてダイバーシティの原点となった「公民権法Civil Rights Act of 1964」や「障害をもつアメリカ人法 Americans with Disabilities Act」の概念である「合理的配慮」の考え方が雇用管理の現場に導入され、厚生労働大臣が差別禁止と合理的配慮の提供に関わる具体的内容について指針15)16)を定めています。2022年9月に公表された国連の障害者権利委員会の総括所見において、障害者雇用促進法の改正によって、精神障害者保健福祉手帳所持者の雇用の義務化や差別の禁止と合理的配慮の提供が義務化された点はPositive aspectsであると評価されています。一方で、2023年7月24日〜8月4日にかけて行われた国連ビジネスと人権の作業部会による訪日調査の終了にあたって公表された声明では、障害のある人の労働市場への包摂が課題である点と個別支援や合理的配慮提供を通じた職場への適応促進や研修の実施について国連障害者の権利委員会の提言にそって進めることを求めています。 障害者雇用の現場において、法制度に基づく対応をコンプライアンスとして捉えるのか、前述のダイバーシティマネジメントの考え方に立ち、より積極的に企業戦略として進めていくのか、今後この課題への対応が注視されることとなるでしょう。 (眞保 智子) 【参考文献】 1)稲上毅:「労働CSR 労使コミュニケーションの現状と課題」,連合総合生活開発研究所編(2007) 2)独立行政法人労働政策研究・研修機構:企業の社会的責任(CSR)「Business Labor Trend」,独立行政法人労働政策研究・研修機構(2006) 3)日本経団連:「企業行動憲章 序文」,日本経団連(2022a)  https://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter 2022.html 4)日本経団連:「企業行動憲章 実行の手引き(第9版)」,日本経団連(2022b)  https://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/tebiki9.html 5)日本経団連:「企業行動憲章」,日本経団連(2004a) 6)日本経団連:「企業行動憲章 実行の手引き(第4版)」,日本経団連(2004b) 7)日本経団連:「CSR推進ツール」,日本経団連(2005) 8)日本経団連:「企業行動憲章」,日本経団連(2010) 9)国連広報センター:2030アジェンダ  https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/(閲覧日2021.12.23) 10)経済同友会:「第15回企業白書 『市場の進化』と社会的責任経営」,経済同友会(2003) 11)厚生労働省:「労働におけるCSRのあり方に関する研究会中間報告書」,厚生労働省(2004) 12)国際標準化機構(ISO):SOCIAL RESPONSIBILITY - DISCOVERING ISO 26000,国際標準化機構(ISO)(2010) 13)Singh V & Point S(2004)Promoting diversity management: new challenges and new responses by top companies across Europe, Management focus (Spring). 14)World Economic Forum(2023)Diversity, Equity and Inclusion Lighthouses 2024. 15)厚生労働省:「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(障害者差別禁止指針),厚生労働省(2015)  https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000078980.html(閲覧日2020.12.20) 16)厚生労働省:「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(合理的配慮指針),厚生労働省(2015)  https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000078980.html(閲覧日2020.12.20)   図 SDGsロゴイメージ出典:国連広報センター 1 貧困をなくそう 2 飢餓をゼロに 3 すべての人に健康と福祉を 4 質の高い教育をみんなに 5 ジェンダー平等を実現しよう 6 安全な水とトイレを世界中に 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに  8 働きがいも経済成長も 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 10 人や国の不平等をなくそう 11 住み続けられるまちづくりを 12 つくる責任 つかう責任 13 気象変動に具体的な対策を 14 海の豊かさを守ろう 15 陸の豊かさも守ろう 16 平和と公正をすべての人に 17 パートナーシップで目標を達成しよう Q&A【問2】人権デューデリジェンス(Due Diligence)は、企業活動における人権侵害のことである。(解答と解説はP289に記載しています) 第2章 障害者の雇用管理上の留意点 第1節 障害者の力を活かせる組織・職場づくり 第2節 受け入れ態勢の準備 第3節 採用計画の作成と受け入れ部署の準備 第4節 障害者の募集・採用及び配置 第5節 職場適応、職場定着の推進 第1節 障害者の力を活かせる組織・職場づくり 1 障害者雇用の取り組みは重要な経営課題の一つ 従業員の雇用管理は、それぞれの企業が自らの判断と責任のもとで行うべきものですが、一方、企業は社会的な存在であり、その社会のルールである法を遵守する義務があります。障害者の雇用の促進等に関する法律では第5条で事業主の責務が定められ、障害者が職業を通じての社会参加を進めていけるように、社会連帯の理念に基づき、障害者が職業を通じて自立できるように協力する責務を有し、適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を講じて雇用の安定を図るように努めなければならないとされています。障害者の法定雇用率制度を遵守し、従業員40人以上の企業にとっては、法定雇用率(2.5%)を達成することに留まらずに、障害者がその希望や障害特性に応じ、その能力や適性を十分発揮でき、生きがいを持って働けるように「雇用の質の向上」に努めることが求められています。事業主にとって、これらの取り組みを実行することは重要な経営課題の一つといえます。 障害者雇用の拡大は大きな社会的課題です。障害者のことは「福祉の問題」であり企業が行う人事労務管理とは関係がない、法定雇用率制度への対応も未達成部分について納付金を納める方法を選択すればそれでよい、という発想は既に通用しなくなっています。 最近では、SDGsに取り組むことが企業の社会的責務になっている中で、人事労務管理における考え方として「ダイバーシティマネジメント」が注目されており、女性や高齢者、外国人などと並んで障害者もその対象となってきています。 グローバル化や技術革新の進展、従業員の価値観の多様化など、経営環境が変化する中で、人事労務管理についても、従業員個々人の能力や価値観の多様化をこれまで以上に重視したマネジメントへの改革・転換が求められています。各企業がESG1を意識した取り組みを強化する中で、従業員エンゲージメントを高めていくことが重要視されていますが、障害者が働きやすい職場は従業員誰もが働きやすい職場づくりに応用できますし、障害者を支援することを通じて、上司や周囲の従業員のマネジメント能力の向上や職務役割に対する満足感を高めていくことにつなげていくことができ、職場のチームワークが強化された、職場の生産性の向上を図ることができたという事例も報告されています。これらを踏まえて、現在は障害者も組み込んだ新しい人事労務管理のシステムをつくるよいチャンスだともいえます。 本章では、企業が行う人事労務管理の中で基本となる雇用管理について取り上げます。「障害者の雇用管理」といった場合、障害のない人とは別の独自の体系を作ることは、インクルージョンの理念からそれた対応になりかねません。障害者も従業員である以上、一般の雇用管理の対象となります。ただし、障害があることによる不利な部分をできる限り軽減し、能力発揮を促進するために、事業主は雇用管理上の配慮を最大限提供することが求められます。このような点を指して、ここでは「障害者の雇用管理」と呼んでいます。 本章では、障害者雇用の質を高めていくために留意すべき事項を説明していきますが、これは、令和5年3月31日に定められた「障害者雇用対策基本方針」の事業主が行うべき雇用管理に関しての指針に基づき、事業主が取り組む必要のある各事項を基にしています。 具体的には、「(1)採用及び配置」「(2)教育訓練の実施」「(3)待遇」「(4)安全・健康の確保」「(5)職場定着の推進」「(6)障害及び障害者についての職場全体での理解の促進」及び「(7)障害者の人権の擁護、障害者差別禁止及び合理的配慮の提供」の各事項となります。 これらについて、第2節以降で障害者雇用の時系列に沿った形で、「受け入れ態勢の整備(理念と基本方針づくり)」「採用計画の作成と受け入れ部署の準備(受け入れの準備)」「募集・採用及び配置(採用手続きから配置までの対応)」「職場適応、職場定着の推進(入職後の雇用管理)」の順で解説します。 本節では、障害者の雇用管理全般にかかわるテーマについて述べます。1つ目は障害の的確な理解及び障害者の雇用を進めていく中での障害者職業生活相談員の役割、2つ目は障害者が持ちうる能力や適性を十分発揮でき、生きがいを持って働くことができる職場環境・条件の整備・改善の考え方についてです。 1 ESG:企業を発展させ、推進力を生み出すために、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3側面に留意し企業内に意識を浸透させる取り組み。社会的な側面の中に従業員の働きやすい職場づくり、多様性に応じた職場環境の整備が含まれ、障害者雇用については社会的な取り組みとコンプライアンスの両面で取り組むことが求められている。 2 障害者職業生活相談員の役割 職業を通じて障害者の社会参加と自立を進めるためには、各企業は積極的に雇用の機会・就労の場を提供するとともに、雇用関係になった後も障害者の職業生活の充実を図る体制づくりを行うことが大変重要です。 そこで、障害者職業生活相談員は、障害者の採用後の職業生活の充実を図り、職業生活を通じて障害者が社会参加できるように手助けすることを目的として活動します(図1)。 そのために、必要な事項は障害者の特性を理解し、ご本人に適した教育訓練が施されているか、職場での悩みを抱えていないか、相談しやすい雰囲気と感じているかなど本人の状況や周辺事情を理解することが大切です。それとともに、職業生活を安定できるように上司や同僚が障害者の成長に協力し持ちうる能力を発揮できる態勢を構築しているか、周囲の上司や同僚との人間関係の状況を理解することが大切です。一方で、障害者が担当する職務内容や仕事量、仕事に対する満足度など、就いている仕事が的確なものとして提供されているかどうか、質量両面での仕事内容や環境、次のステップへの展開等の企業側の諸態勢を分析し、職場に受け入れていくことになります。そして、職場での様子や障害者・周囲のスタッフの思いなどを的確に把握できるように障害者の職場適応の状況を確認し、「共働共汗」の態勢で支え、将来の職場定着に繋げていくことが求められます。 図1 障害者職業生活相談員の役割 「人を理解する」「仕事を分析する」ことで職場に受け入れられていく。 そして、「共働共汗」の態勢で支え、「定着」に繋げていく。 これらの取り組みの的確な実施には、「情報の共有化」と「支援機関との連携」も大切。 そのためには、障害者が職場で安定して働き続けるために3方向のバランス(障害者への支援、事務所内の支援、外部支援体制との連携)を整えることが大切。 これらの取り組みや指導の内容は多岐にわたるので、相談員のみで対処し解決することが難しい場合も多く、時には、職場外の状況把握や対応も発生することがあります。また、障害者職業生活相談員自ら対応するだけではなく、職場内外で様々な協力者や同僚の助けも必要になります。 さらに、障害者職業生活相談員は、障害者への働きかけだけに留まらず、社内においては、受け入れる職場の人間関係や環境、指導ノウハウの整備が必要ですし、会社全体が心のバリアフリーを達成できるように旗振り役として取り組んでいただきたいところです。 また、職場での業務遂行を安定させたり、職場内の取り組みを的確に実施していくためには、連動することも多い社会生活面での支えの体制との連携も大切です。社外においては、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等の支援機関と適時的、かつ的確に連携することをはじめ、障害者が職業生活に充実感を味わえるように余暇活動等、社会資源を活用しつつ、職業生活全般を支えていく体制を構築することが大切です。 この障害者への支援、事業所内の支援、外部支援体制との連携の3方向の支援については、どこかの領域だけに無理がかからないようにバランスを整えて必要に応じて、「障害者の雇用や職場適応を検討するための打ち合わせ機会(ケース検討会議)」などを設定して情報の共有を図ったり、社内の協力体制や外部の支援機関の協力を得ていくことが肝要です。 【日々の留意点の例】 <仕事面での確認> *就労意欲、仕事への集中力、持続力 *習熟度、作業スピード、聞く姿勢、理解度、作業工夫 *仕事の安定性、自分の仕事の管理力(見通し力) *報連相、質問の内容と状況 *仕事の満足度(好き嫌い)、目標 *後片づけ、掃除、職場のルールの理解・遵守等 <対人面での確認> *挨拶、返事、言葉遣い等 *出退勤の安定性、休暇の取得 *人間関係、同僚との距離感 *上司や同僚からの声掛けの状況、支援のタイミング *休憩時間の過ごし方、時間外の交流 *生活支援機関や就労支援機関との利用状況 <日常生活面の確認> *健康管理(体調不良時の報告、通院や服薬の管理ができているか等) *生活のリズム(就寝や起床時間の乱れ、食事時間や食欲、出社・帰宅等勤怠の様子) *身だしなみ(清潔感のある服装、化粧・髭剃り、入浴等の日常生活習慣)の変化 *金銭管理(計画的な購入、むだ遣いの有無) *時間外の行動(余暇活動、通勤、生活リズム等) *医療ケアの継続、服薬管理・体調管理の状況 【相談員の役割】 @入社前:職場の受け入れ態勢を構築すること、ハローワークや障害者就業・生活支援センター等と連携し、職場実習を通じて本人の得意、不得意、配慮事項の把握に努めること A入社後:職場における業務指導や社会生活能力の育成のため、地域障害者職業センター等への支援要請を検討すること、職場内の態勢づくり、安定した職務遂行のためのサポートを行うこと B日常生活指導や余暇支援:障害者就業・生活支援センター等の協力を得て、日常生活に関する支援に活用できる社会資源の情報を得ること 等の役割があります。 このように相談員の役割には、自らが障害者の良き理解者、職業生活の良き支援者であることに加え、関係機関の協力を求められること、どこに相談すると良いかを助言できること、そのうえで社内・社外を含めたチーム支援を進めていく役割を担うことが期待されます。 障害を起因とする職業上の困難さを軽減し、得意なことを伸ばし、そしてできる可能性を引き出して、企業で働く仲間としての成長を支援してください。 ◇◆◇障害者職業生活相談員の活躍事例◇◆◇ 〜「(精神障害)ともに働く職場へ 〜事例から学ぶ 精神障害者雇用のポイント」(動画)から〜 企業実習を経て採用した3名の精神障害者が在籍しており、今後の障害者の雇用の拡大にあたり、まず、障害者が働くそれぞれの受入れ部署に障害者職業生活相談員を配置することにした。受入れ部署ごとにそれぞれの障害者職業生活相談員が丁寧に情報収集を図ることにより、速やかに対応できる体制を整備した。このことは、会社が障害者雇用に前向きに取り組んでいるという姿勢が社員に伝わるメリットにもつながっている。さらに、障害者職業生活相談員の一人が企業在籍型ジョブコーチの資格を取得し、指導方法についてより専門的な見地から障害のある社員への支援を行い、さらなる能力アップや職域の拡大を図っている。 また、全社的な取組として該当メンバー会議を定期的に開催し、障害者職業生活相談員、ジョブコーチを中心に、社長も含めた担当者が参加している。この会議で、障害のある社員の仕事への取組状況を報告し、課題がある場合には意見交換を行い、改善方法を検討し、部署全体へ対応方針を発信することにより、全社的な障害者の雇用の安定につながった。 3 職場環境・条件の整備 障害者の雇用管理、いわゆる障害に配慮した雇用管理の基本は、職業的自立を目指す障害のある従業員に対して、能力の開発・向上や、能力を発揮しやすい職場環境・条件の整備を通じて支援することです。「障害」については、個々人の機能障害だけに着目するのではなく、環境や経験・周囲のサポート体制などの条件の違いによって、その能力を発揮できる度合いや発生する困難度の大きさが異なってくると捉えることが一般的な考え方です。すなわち、障害等級が重ければ、生きていく上で、また働いていく上で困難度が高くなるという一方向で捉えるのではなく、その人のWell Beingを考えたときにどのような環境があれば障害が軽減されるのか、どのような教育・訓練により困難を乗り越えていけるのか、どのようなサポート体制があれば力を発揮しやすいのかといった視点で障害者とともに考え、「心のバリアフリー」の態勢を構築して一緒に取り組んでいくという姿勢が望まれます。 また、平成28年4月より障害者に対する合理的配慮の提供が義務化されていることも踏まえる必要があります(詳細は第4章第4節参照)。 障害者の職場環境・条件の整備は、ハードとソフトの両面から考えることができます。ハードの面では、建物や設備、工程、工具などの物理的職場環境の改善・整備、障害がある個々人の能力発揮を容易にする支援技術の積極的活用などがあります。ソフト面での対応では、短時間労働やテレワーク等多様な雇用・勤務形態の導入、職務配置や職務設計の工夫、教育訓練や能力開発での配慮、コミュニケーションや人間関係での配慮、賃金や労働時間など労働条件の柔軟化などがあります。また、職場における支援者の配置など、人的支援サービスの確保・管理、さらに、職場だけでなく福利厚生施設の改善、通勤や住宅に対する支援も含みます。例えば、通勤による事業所での勤務のほか、在宅勤務、サテライトオフィス勤務等があります。ICT等の活用によって障害者の在宅勤務が広がることは、通勤が困難な障害者、感覚過敏等により通常の職場での勤務が困難な障害者、地方在住の障害者等の雇用機会の拡大につながるとともに、企業にとっても人材確保の可能性を高めます。 雇用保険の被保険者として取り扱われる在宅勤務者に該当するか否かは、次の点から判断されます。 (1) 業務遂行状況が直接掌握可能な事務所に所属している (2) 他の労働者と同一の就業規則が適用されている、又は在宅勤務者用の就業規則がある (3) 所定労働日、休日、始・終業時刻が、就業規則にあらかじめ記載されている (4) 事業主による勤務管理が行われ、ハローワークにおいて事後確認が可能である (5) 報酬の中に、勤務した期間又は時間により計算される部分がある (6) 請負・委任的色彩がない 在宅勤務の実施に当たっては、テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインをご参照ください(資料編第7節参照)。 なお、障害者が在宅勤務するに当たって、各種助成金の対象となる場合もありますので、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構各都道府県支部高齢・障害者業務課または各都道府県労働局にご相談ください。 これらのハード、ソフト面の対応をどういうスタンスで捉えるかという点は、「障害者が持ちうる力を最大限発揮し、職場に受け入れられ、のびのびと働いていけるように配慮を行うこと」を目指していくことと言えます。目指すところを考えると労使は同じ方向を向いているはずですから、労使間でしっかりとコミュニケーションを図り、労働者として会社に最大限の貢献をしてもらえる物的・人的・構造的な環境整備を労使で一緒に構築していくことが必要不可欠です。すなわち、これが、障害者に対する合理的配慮が行われている状態であるということになるのです。 障害者の職場環境・条件の整備というと、ハード面の整備にコストがかかるというイメージをもたれがちですが、制度の運用を含むソフト面の改善や、配置されている現場での「ちょっとした工夫」など、費用をかけずに取り組めることは数多くあります。また、合理的配慮に係る設備の改造や就労支援機器の整備については助成金が活用できる場合もあります。職場環境・条件の整備に当たっては障害種類や程度を配慮したきめ細かい対応が必要となります。したがって、そこでは障害者自身のニーズや発言を重視しながら、配置されている現場のアイデアや知恵を活かすことが特に重要となります。人事労務管理部門・担当者としては、そうした現場でアイデアや知恵が発揮でき、運用がしやすいような社内風土を形成し、制度などの仕組みづくりをすることが重要な役割となります(Q&A【問3】(P40)にチャレンジ)。 Q&A【問3】障害のある社員の職場環境・条件の整備は、例えばスロープや手すりの設置等ハード面の対応が主である。(解答と解説はP289に記載しています) 第2節 受け入れ態勢の準備 1 障害及び障害者についての職場全体での理解の促進 (1) 障害者雇用の位置づけ 企業は社会の一構成員として経済活動をしています。以前は、民間企業の事業目的は配当や株価の上昇などを通じた株主への利益還元や商品、サービスを通じての顧客満足度など経済活動が主とされ、フィランソロピーなど社会貢献や社員のWell Beingを意識した取り組みはあくまで企業の自主的活動とされていました。しかし、昨今はSDGsに代表されるように、社会全体においてサステナビリティ(環境、社会、経済の持続可能性)が求められるようになり、企業もまた、社会の一構成員として経済活動以外に、環境対策、人権の尊重、従業員エンゲージメントの向上、女性や障害者などマイノリティの活躍の推進など従業員の多様性(ダイバーシティ)や、多様な人材1人ひとりが職場のメンバーとして受け容れられ、尊重された状態を実現すること(インクルージョン)を考慮した職場環境整備を図っていくことも経営課題として重要視することが求められています。つまり、労働者のダイバーシティの取り組みの一環として障害者をあたりまえに組織に受け入れて企業ブランドを高め、ESG評価に的確に対応するとともに、さらに障害者と健常者の協働共生によるシナジー効果を企業力へと進化させ得る企業こそが、先進企業として社会から注目されるようになっているということです。それらの企業では、多様な価値観を持った障害者を採用・育成し、本業での活躍を通じて企業価値全体の向上を図るという取り組みを行っています。これら企業は障害者雇用を経営戦略の一部と位置づけているのです(第1章第3節参照)。 以下の「A社」の事例は、障害者雇用は経営戦略であるという視点から、障害者支援の仕組みづくりに取り組んだケースです。 【ケース1】 A社は「コンプライアンスの強化、法令遵守」を経営戦略の一つと位置づけて障害者雇用施策を推進していました。しかし、実際の取り組みとしては障害者雇用の方針を立案する本社人事部では社員研修の一環で形式的に障害者雇用に係る基礎知識や他社の取り組み状況の情報提供を行うに留まり、法定雇用率を達成することのみを目標に掲げている状況でした。具体的には、法定雇用率を達成することが強く唱えられ、実際の採用活動や雇用管理を現場任せにしていたため、各部署間での温度差が発生していました。この結果、社内の障害者雇用の理念や障害者の受け入れ風土が形成されず、障害者の雇用の質が高い企業とは言えない状況になっていました。 この状況では障害者の働く意欲を喚起できず、長期就労に繋がらずに離転職が発生しやすい状況でした。また、働き方改革の一環で、従業員の多様化に対応していくために、「ダイバーシティ&インクルージョン」を経営戦略として打ち出すことになり、人事部の体制変更が行われました。ダイバーシティへの対応を担当する新たな担当者が配置され、障害者雇用についてもこれまでの取り組みの見直しを実施しました。そして、障害者雇用の推進のため、対策の強化が図られることになりました。 この取り組みでは、まず、@会社として障害者雇用を推進していくのは本社人事部であることを明確にし、障害者雇用5か年計画を作成することとなりました。Aこの検討に当たっては、社内全体の受け入れ風土を変えたり、職務の提供を円滑に受けていくことが必要なため、各部署から委員を推薦してもらいプロジェクトが組織されました。さらに、B各現場からの様々な相談を受け付ける窓口を設置し、精神保健福祉士の資格を持つ社員を専任として配置しました。そして、この担当者によって、社内の事例の蓄積を図ることとしました。C従前から実施していた社員研修を見直し、基礎知識を付与する研修に加え、社内の様々な支社、部署での取り組み事例を元にした経験交流や意見交換を組み入れた研修を実施しました。また、受け入れた障害者への指導ノウハウを浸透するために企業在籍型ジョブコーチ1から解説する時間を設けるなど実践的な講座も組み入れられました。Dダイバーシティの取り組み事例についてグループ各社との連携により表彰する制度を創設し、この一環として「障害者雇用の好事例」をグループ内に周知することにつなげました。Eこれらの取り組みについて経営トップの理解も格段に進み、社内報にトップのメッセージとして、「誰もがやりがいを感じられる職場づくりの推進」を紹介するに至りました。トップの考えが伝わると、各職場での好事例を掲載する等の取り組みも積極的になり、障害者雇用が様々な部署で推進され、新たな支援ノウハウや経験交流が草の根レベルで展開していきました。 これらの複合的な対策によって、「障害の有無に関係なく、各社員が持ちうる力を発揮できる職場を作っていくことは、自分自身を含めて社内の誰もが働きやすい職場となっていくのだ」という意識が社内に浸透し、社員間でもちょっとした気遣いが自然に行われるようになりました。この結果、明るく、健康的で、従業員エンゲージメントの高い職場づくりに繋がっていったのだと考えられます。 A社では、障害者雇用を推進する中で、課題が発生したときにも職場で知恵を出し合い、一緒に対応策を考える一体感も形成されましたが、その結果、生産性の向上を図ることに繋げられたり、明るく、働きがいのある職場であるという企業風土がステークホルダーにも伝わり、先進企業として社会から高い評価を得ることができたという事例です。 1 企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ):企業在籍型職場適応援助者として支援を行うためには、企業在籍型職場適応援助者養成研修を受講し修了する必要があります。   職場適応援助者養成研修については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のほか、厚生労働大臣が定める研修を行う民間の研修機関において実施されています。研修では、講義中心の座学研修と演習やケーススタディを中心とした実技研修を行います。研修カリキュラムには、ジョブコーチの役割、作業の方法、障害特性と職業上の課題、支援計画に関する理解、ケーススタディ、職場実習などがあります。 (2) 現場主義の仕組み作り 経営理念の浸透や人事制度の改革は、通常は本社の経営企画部門や人事部門を中心とした本社主導で行われます。しかし、障害者雇用の拡大は、それら本社部門の主導、単独の取り組みだけではなかなか進みません。それは、実際に障害者を配置する(している)部門の理解がないとすぐに限界がくるからです。 前段にあるケース1のA社では、上記の取り組みの延長線上で、現場からの相談の窓口として多くの事例の蓄積をしてきた精神保健福祉士が障害者雇用施策の企画についても関わることになりました。この一環で、社員研修を企画実施し、雇用現場のマネージャーが、「採用活動をどの程度現場の考えで推進して良いか」や「労務条件の見直しを現場の考えで柔軟に対応することが可能か」といった日頃の悩みや疑問を知識として習得することに繋げられるとともに、他部署でも同じように悩んでいることを知り、相互の情報交換を図りやすい体制づくりにつなげることができました。さらに、現場サイドの質問や疑問をQ&A集にとりまとめ、雇用現場で活用できるように社内システムの掲示板に共有しました。 また、相談窓口担当の精神保健福祉士はダイレクトに具体的な事例に触れることで、社内で起こっている様々な課題をリアルタイムに把握できるため、障害者雇用の対策を検討するプロジェクトの中でもより現実的な情報提供を行うことができ、障害者雇用施策にも反映されるようになっていきました。 これらの取り組みの中で、本社の人事部門と現場との距離感も縮まり、本社部門と雇用現場間で情報が円滑に伝わるようになると、課題を迅速に把握でき、その対応について社内の多くの人の知恵を活かすことに繋がります。 社内で障害者雇用を拡大するに当たっては、これまでの狭い経験や限られた情報に基づく偏った障害者イメージからの検討はできるだけ避け、障害者が配置される雇用現場のマネージャーや従業員の創意・工夫を引き出す仕組みをつくり、それを人事労務など本社部門がサポートしていくという組織体制を作ることがきわめて重要です。 障害と一口にいっても、その内容は一人ひとり大きく異なり、また、配置される雇用現場の仕事の内容も多種多様で、さらに周囲のメンバーとの関係性も様々な状況ですから、これらの組み合わせは無数にあり、どの方策がよいかは事前になかなか予測できないものです。障害特性や基礎能力などによっては、職務への習熟スピードなどが異なることも多々あります。ましてや職場の環境・条件の改善によっては、職務遂行上の障害は軽減する可能性もあるのですから、こうした点を考慮すると、仕事に精通している職場部門のメンバーが障害者を交えて様々な角度から意見を出し、皆で一緒に話し合いながら、十分に考えて持ちうる能力を最大限に発揮できる態勢を整え、障害者雇用を拡大していく機会や仕組みづくりを行っていくことがより理想的だといえます。障害者の支援については百点満点の支援はありません。「今よりも少しでも良くするにはどうしたらよいか」、「以前の同じ障害の人に有効でも今回の障害者にはアレンジが必要かも」という視点で絶えず見直しをしながらよりよい対応を図っていくことが望まれます。 【ケース2】 B社で、製造現場を長年経験した社員が障害者雇用の担当者として異動してきたことが強みとなったという事例です。 当該社員は障害者雇用について一から学びなおし、事例を元に様々な障害者の状況を理解できました。このため、障害の特性を熟知した上で現場の業 務内容を調整していくことが有効だと考え、これまで切り出していた職務だけに留まらず、新たな業務開発を行っていくことにして、現場の各スタッフと交渉を始めました。さらには、精神障害者の雇用を進めていく必要性を感じたため、障害者の心理的な安全を考慮した職場環境作りに留意したところ、新たに雇用した精神障害者の雇用の安定かつ長期の就労に繋がりました。これを受けて障害者雇用促進施策の検討に際し、会社として精神障害者の採用を積極的に推進することを目指しマスタープランを策定するに至りました。 このプランには、@精神障害者雇用を強みとした雇用施策を実施する、A安定的で長期的な就労を目指す、B現場をバックアップする組織を本社に整備する、C各現場に障害者職業生活相談員の有資格者を配置し、D企業在籍型ジョブコーチなどの専門資格の取得した社員を配属することをめざす等、現場の意見を反映した具体的かつ効果的な内容を盛り込むことにしました。 さらに、当該障害者雇用担当者が、この計画を実行するためには、より広範な分野に及ぶ専門的な知見が必要であると考え、専門的なスキルを持った社員で構成する「課題発掘チーム」を本社に組織し、直接・間接的に精神障害者の雇用促進・定着に取り組む体制を構築することを提案しました。 課題発掘チーム(例) メンバー 役割 産業医 健康管理・安全衛生等 精神保健福祉士 各部署からの相談案件の情報共有 専門家との連携 障害者のサポート、指導員、相談員のフォロー 企業在籍型ジョブコーチ 業務遂行支援、会社への助言 職業生活相談員 職業生活全般の相談など 産業カウンセラー 障害者、管理者へのカウンセリング 顧問の社会保険労務士 労働条件等の管理 ※課題に対して「事後対応型」から「予測対応型」へと切り替えることができ、障害者とも話し合う機会が増え、長期就労を目指せる環境が整った。 (3) 受け入れ環境の整備 前段のケース2のB社では、これらの取組の結果、雇用率が向上し、プランに掲げた目的を達成することができました。さらに、職場の雰囲気が良くなり、精神障害者が長期就労するという事例が次々と発生していきました。その要因は、法定雇用率達成に的を絞らず、障害者雇用を「自社の新しい価値を創造するための経営戦略」として位置づけることで、全社的かつ継続的なバックアップ体制につなげたことだと言えます。経営戦略としたため、具体的な施策に落とし込んだマスタープランが通常の事業計画同様に策定され、各施策の達成に向けて優先的にPDCAサイクルを回し続けることになり、計画途上で生じた課題や問題に対して、会社全体から必要に応じて資源や人材のバックアップが受けられる体制が整備されました。 B社の「課題発掘チーム」のような、従来の組織を超え専門性の高いチームを編成することが難しいとしても、障害者雇用に関心があり協力的な人々を支援グループ(サポーター)として障害者雇用に結びつけておくことはとても効果的です。 また、B社のように、各職場に障害者雇用担当を置き、定期的に研修などスキルアップを行い、相互の情報交換や経験交流の機会を設定すると、障害者雇用の現状と取組を共有化することができ、障害者の雇用管理の不安を軽減したり、継続的に障害者雇用に関心を持ってもらうことができます。また、積極的に取り組んでいる部署の情報を社内報などで発信したり、障害者を受け入れていない部署に受け入れている部署の見学や意見交換を行うことで、障害者雇用に対する抵抗感を軽減したり、障害者雇用に係る関心を高めてもらえるなど、組織的かつ継続的な活動ができます。また、支援グループ内の意見を吸い上げることで、見逃していた課題を見いだせると共に、新たな解決方法も見つかるかもしれません。さらに、障害者雇用を支える人材を社内から発掘することにもつながります。これらの取り組みの結果、障害者雇用に関わる人材が増えることになり、それら人材の経験や専門スキルが社内で共有されてよりよい支援に活かされ、当人のキャリアビジョン構築にも役立つなどの多くの利点があります。 (4) 社内周知活動の具体例 障害者雇用を進めていくためには、経営者層、採用担当者、障害者受入れ部門はもとより、全社員が障害者雇用に関心や理解を持つことが大切です。しかし現場では「社内全体を見渡してみると現場スタッフには障害者雇用への関心が薄いように感じます。社内の関心を高めるにはどのようにすればよいでしょうか?」と担当者が悩んでいることが多いのも事実です。そこで、社員に障害者雇用の必要性を浸透させ、障害者を受け入れる環境の整備と社内コンセンサス形成を図るための主な取り組み事例を以下にあげてみます。 @ 社内(経営)会議などで周知・検討 社内(経営)会議などにおいて、障害者雇用の必要性を周知するとともに、取り組みを推進していくことを提案し社内の合意形成を図っていきます。この場合、雇用率の充足状況など、数値化したデータにより課題を具体的に示します。また、支援機関や支援制度の内容にも触れた採用計画を提案すると不安感の軽減につながると思います。 また、経営陣に障害者雇用に係る理解を促進していくためには、障害者雇用が企業に及ぼす効果、社会からの評価、障害者雇用のメリットなどをしっかりと伝え、世界標準、同業種の他社の取り組みや地域の同規模の会社の取り組み等の比較の中での自社の取り組みポイントについて、利点と課題点を整理して情報提供していくことが有効です。先行的に取り組む企業の情報や成功事例などを解説するとともに、リスク面についても丁寧に説明し、リスクを回避する方策について情報提供する機会を持つことも有効です。この際、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の実施している障害者雇用支援人材ネットワーク事業1を活用し、障害者雇用管理サポーター2の派遣による管理者研修や雇用管理相談を利用することができます。 A 社員研修の実施 社員向けの障害者雇用に関する研修会については、対象社員ごとに内容や実施方法を整理することも必要です。障害者の受け入れ経験の有無や知識のレベル、障害者への対応の立場の違い、障害者雇用に携わる時期などによって、基礎的な知識の付与、体験的なプログラムを含む障害の内容や配慮事項の理解、障害者が実際に取り組む場面の見学、指導方法や支援ノウハウの情報提供、実践的な取り組みに係る意見交換・経験交流やケーススタディなどテーマの選択を行い、内容ごとに講師の検討を行ったり、実施方法の調整を図ることが望まれます。これらの研修の企画や講師派遣については、地域障害者職業センターや中央障害者雇用情報センターに相談すれば、助言や協力を得ることも可能です。 社員に障害者雇用のイメージを持ってもらうには、働く障害者の動画をDVDで見せたり、分かりやすいマニュアルや事例集を閲覧いただくのも有効です。なお、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障害者雇用に関する啓発DVDを無料で貸し出したり、障害者雇用に係る関係資料を提供しています。 また、社内報などに障害者雇用に関するコーナー欄を作成し、継続的に全社員に周知している企業もあります。 B 職場実習の受け入れ等 いざ障害者を職場に受け入れるとなると、不安や知識不足から心理的抵抗感が生じることもあるでしょう。また、過剰に意識して良かれと思って手を差し伸べすぎて、障害者が「お客さんのように扱われている」と感じて疎外感を味わう場面もあります。 このような場合には、障害者を短期インターンシップで受け入れてみましょう。実際に障害者と働くことにより具体的イメージを持つことができます。また、一緒に働いてみると抱いていた不安も薄れ、また、想像していたよりも色々なことができるということを発見し、受け入れの抵抗感も少なくなります。まさに「百聞は一見に如かず」です。 地域の特別支援学校や就労移行支援事業所などでは、就労訓練の一環としてカリキュラムに職場体験実習を組み込んでいるため、職場実習先を探している場合があります。管轄のハローワークに相談すると関係機関に働きかけてもらうことができます。 (5) スモールステップで取り組み開始 障害者雇用支援の仕組みは、各社それぞれ事情が異なりますのでこれが定番というものはありません。上記を参考にして、自社でこれならば取り組めるという手近なところから始めてみてください。まずは実行あるのみ。「案ずるより産むが易し」です。そして継続が大切ですので、スモールステップで少しずつ実績を積み重ねていくと、いろいろな試行錯誤の中から、必ずや自社に合った障害者雇用支援の仕組みが見えてくるはずです。 また、壁にぶつかったとき、情報やヒントが欲しいと感じたとき、また、はじめての対応に取り組もうとするときには社内だけで悩まず、外部資源の活用を是非思い出してください。 1 障害者雇用支援人材ネットワーク事業:(P.266参照) 2 障害者雇用管理サポーター:障害者雇用に関し、労務管理、医療、建築など様々な分野の専門家を「障害者雇用管理サポーター」として登録しています。障害者の採用計画を検討したい、障害者の処遇や人事制度を検討したい、社員研修を実施したい、特例子会社の設立ノウハウが知りたい、通院等への配慮も含めた健康管理について確認したい、事業所内の設備改修について相談したいなど、障害者雇用に関する様々な疑問に応えたり、検討のお手伝いを行います。 第3節 採用計画の作成と受け入れ部署の準備 1 障害者の採用方針・採用計画 障害者の採用方針・採用計画を作成する場合には、まず、企業全体の中期採用計画(3〜5年の採用計画)を策定し、その枠組みの中で障害者の雇用についても考慮しておくことが望まれます。現状で欠員になっている職務に障害者を配置するという考え方で障害者雇用を進めていこうとする場合には、採用した障害者に応じて適切な配慮ができるかどうか、周囲の指導体制や受け入れ環境が整備できているかどうかなどを検討し、事前準備を進め、(物的・人的な)執務環境を整えることが必要です。なお、この取り組みでは大幅に障害者を増やしていくという計画には対応しきれないことが多いものです。 特に、法定雇用率未達成企業の場合など、現有の社員体制に加えて新たにまとまった人数の障害者の増員を検討する必要がある事業主や数十人規模の社員の増員を計画しているため、それに見合った障害者の新規雇用を考えている事業主については、中期採用計画と必ずリンクさせておくことが必要です。 また、障害者雇用について、ハローワークより「雇入れ計画の作成命令」を受けている法定雇用率未達成企業については、「計画の始期及び終期」及び「雇入れ人数」等を踏まえた採用計画を立てる必要があります。 現状の体制に加えて障害者雇用を進めていく場合には、障害者は、徐々に職務に慣れ、将来的には職務遂行が向上していくことも加味した上で、障害の特性に応じた職務の創出や職場の選定、指導体制の整備を行い、配員を考える必要があります。特に、これから障害者雇用を拡充しようとする企業においては、年度毎にどの部署に何人採用しようというおおよその計画を立てることが望ましいと思います。障害者自身はもとより障害者を受け入れる部署の指導者や同僚にとって、「障害者を受け入れたものの担当してもらえる仕事がない」「毎日会社に来てくれることが仕事で、何もやってもらわなくてもよい」という職場では、働いている者が意欲を持ちづらく、自分の存在感を感じられず、安心して働く環境にないため、障害者雇用を進めていく上で適切な状況の職場であるとはいえません。障害者にとって、仕事の内容や量が適切で、やりがいを感じられる職場を用意して初めて障害者の採用ができるという点を抑えて準備しておくことが重要です。 そのためには、障害者に担当してもらう職務の切り出し、工程の再設計、分かりやすいマニュアルの整備、障害者の受け入れ態勢・指導体制の構築等の採用の準備が完了していることが前提となります。従って、採用計画は職務の創出と表裏の関係となります。 採用計画を策定するにあたり考慮しなければならない点は次のとおりです。 @ どんな職務を障害者に担当させるか(職種毎に受け入れる人数をどの程度にするか)。 A 正規社員で雇用するか、契約社員などの柔軟な雇用形態で雇用するか。 B フルタイムで雇用するか、短時間勤務または在宅勤務で雇用するか。 C 新卒採用か経験者採用か。 D 障害者の受け入れ態勢や障害特性の理解、指導上の留意事項の理解などが準備できているか。 E 障害者が成長し、担当する業務を拡充したり幅を広げられる職務を用意できているか。 F 採用当初仕事が完了しない場合の応援体制が整っているか。 さらに、採用計画を的確に実行していくためには、就労支援機関との連携も必要です。特に障害者の採用活動の経験が浅い企業の場合には、採用のプロセスでどのような制度を活用したらよいのか、どのような外部機関の支援者がどういう形でサポートしてくれるのかという点について十分に情報収集しないまま、障害者を採用することに意識が集中してしまうという事例も散見されます。障害者雇用については受け入れ態勢を作り、確実な準備をしてから採用の取り組みを実行していくことが大切ですし、その際に、社外の有効な支援を受けられるように情報収集しておきましょう。 そこで、障害者の雇用計画を検討するときには、ハローワークをはじめ、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター等の障害者雇用の専門機関に相談し、採用活動に入る前の段階で、諸制度を的確に活用して、企業にとって負担感が少なく、受け入れに無理がかからない形で障害者雇用に着手できるように事前準備を行うことが望まれます。 2 多様化する雇用形態と就業組織形態 (1) 雇用形態 事業主が障害者を採用して実雇用率にカウントする場合には、障害者を常用労働者として雇い入れることが条件となります。常用労働者とは、雇用期間の定めがない労働者の他、期間を定めて雇用される労働者であっても雇用期間が1年以上見込まれている契約社員や嘱託社員等がこれに該当します。 障害者である労働者のカウント方法は表1のとおりです。 @ 短時間労働者:1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者をいいます。フルタイム勤務が困難な障害者であっても、短時間勤務であれば就労可能なケースが多くあります。特に、精神障害者には、体力や気力の面で長時間働くことが困難なケースがあるため、最初からフルタイムで働くのではなく、最初の2〜3ヶ月は短時間の勤務から始め、体力の回復状況を見ながら徐々に勤務時間を延長することによってうまく定着できることがあります。 また、例えば、重度のじん臓機能障害者で人工透析を必要とする場合には、通院時間を確保するために短時間労働者として採用したり、重度の視覚障害者を採用する際には通勤時の混雑を避けるため出勤時間を遅くする、といったことも考えられます。 なお、精神障害者である短時間労働者については、令和5年4月1日からの精神障害者の算定特例の延長に伴い、当分の間、雇入れからの期間等に関係なく、1人をもって(0.5人ではなく)1人とみなすこととされています。 A 特定短時間労働者:令和6年度から、障害特性により長時間の勤務が困難な障害者の雇用機会の拡大を図る観点から、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者を雇用した場合、特例的な取扱いとして、実雇用率上、1人をもって0.5人と算定します。 ※週10時間以上20時間未満で働く障害者を雇用する事業主に対して支給していた特例給付金は、令和6年4月1日をもって廃止となります。 B 在宅勤務者:通勤が困難な障害者、感覚過敏等により通常の職場での勤務が困難な障害者、地方在住の障害者等が自宅で業務を行うケースもあります。在宅勤務をしている障害者について、実雇用率の算定対象とするためには、常用雇用労働者であって雇用保険の被保険者である等の要件を満たす必要があります。 C 障害者トライアル雇用:ハローワークが紹介する障害者で、職業経験・技能・知識等から、就職が困難な障害者について、一定期間試行雇用(原則として3ヶ月。精神障害については3ヶ月以上12ヶ月以内)することにより、事業主と対象障害者とで仕事をするに当たっての適性や能力等を見極め、お互いに理解を深めて、その後の常用雇用への移行や本採用のきっかけづくりを図ることを目的に創設された事業です。事業主には、トライアル雇用期間に助成金として月額4万円、精神障害者を雇用する場合は3ヶ月間は月額最大8万円、4ヶ月目から6ヶ月目までは月額最大4万円が支給され、雇入れにかかる一定の負担が軽減されることもあります。対象障害者にとっては、企業の求める適性や能力・技術を実際に把握することができ、また、トライアル雇用中に努力することで、その後の本採用への道が開かれます。常用雇用に移行した場合は、雇用率計算上は遡って算入できます。 表1 障害者である労働者のカウント方法 週所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満 (短時間労働者) 10時間以上20時間未満 (特定短時間労働者) 身体障害者 1 0.5 − 重度 2 1 0.5 知的障害者 1 0.5 − 重度 2 1 0.5 精神障害者 1 1 0.5 (2) 障害者の障害特性を活かしやすい就業組織形態 障害者が働きやすさを感じることができたり、障害特性に応じた雇用が容易になるよう、様々な組織形態が制度化されています。 @ 特例子会社:事業主が障害者雇用に特別な配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件のもとに子会社の従業員を親会社に雇用されたものとみなして、親会社の雇用率に計算できる制度です。 特例子会社のメリットとして次の点があげられます。 ○会社としてのメリット ・社内外に障害者雇用の取組みを周知させることができる。 ・障害者雇用のノウハウを蓄積できるので、親会社やグループ各社の障害者雇用に係る課題に助言・援助できる。 ・就労支援機関との継続的な連携により障害者の定期採用、採用後の職場適応の援助等が受けやすくなる。 ・親会社から独立しているため、より障害に配慮した臨機応変な意思決定を行うことができる。 ・障害者の職場定着に資する独自の運営を行うことができる(就業規則、人事評価制度、賃金規定等)。 ・障害者に配慮した施策をとりやすくなる(精神保健福祉士等相談支援担当の相談員の配置、企業在籍型ジョブコーチの配置等)。 ○障害者としてのメリット ・入社前の段階で一定レベルの合理的配慮がなされている。 ・障害者同士の仲間意識の醸成を図れる。 ・障害のカミングアウトがしやすく伸び伸び働くことができる。 ・職務が細分化されているケースが多く、自身の習得状況に応じて職務内容を柔軟に設定してもらいやすい。 特例子会社については、雇用率制度のグループ適用が認められています。つまり、特例子会社を設立する親会社が特例子会社以外のその他の子会社(以下「関係会社」という。)を含めて障害者雇用を進める場合には、一定の要件のもとに関係会社に雇用されている従業員も親会社に雇用されている者とみなし、実雇用率を通算できます。 一方で特例子会社については、一度設置したら原則として廃止できないこと、グループ適用された子会社を原則として外すことができないこと、地域貢献に係る社会的な役割を求められるケースも多いことから毎年定期採用していくことを就労支援機関や特別支援学校などから期待される場合も多いこと(それに応じて業務の内容や業務量を拡充する必要があること)等もありますので、設置の検討は慎重に行うことが重要です。 A 重度障害者多数雇用事業所:重度障害者(重度身体障害者、知的障害者又は精神障害者を含む)を10人以上雇用しており、その重度障害者数の全従業員に占める割合が20%以上である等の要件を満たし、税制上の優遇措置や、施設・設備改善のための助成金を利用している事業所もあります。重度障害者多数雇用事業所は、重度の身体障害者、知的障害者及び精神障害者の雇用拡大のうえで大きな成果をあげています。 B 短時間就労 障害特性の側面を考慮し短時間就労(週20時間以上30時間未満)を志向する障害者は年々増加しています。令和4年度の民間企業における短時間労働者は全国で7万3千人を超えており、企業では、今後短時間労働者の増加に応じて業務量と仕事のやりがいを兼ね備えた職務創出、ワークシェアなどを進めていくことが期待されます。 さらに、令和4年12月の障害者雇用促進法の改正により、一般就労を希望する障害者のうち、障害特性により長時間の勤務が困難な重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者の就労機会を拡大するため、令和6年4月1日から特定短時間労働者(週10時間以上20時間未満)について、特例的な取扱いとして、実雇用率にカウント(0.5ポイント)できるように改正されました。 C 企業内障害者センター:特例子会社を作ることなく企業内の業務の中で障害者に可能な業務を担当部(例えば人事部)の中に集中配置し組織化するものです。これは担当部が直轄で運営する効率的な方法といえます。ただし、担当部内に限られた取組みとなることが多く、社内に障害者雇用を拡げにくいことから職域の拡大には担当部の努力・工夫が必要になってきます。 (3) 中小企業における障害者雇用の促進 @ 中小企業における障害者の雇用状況 厚生労働省がとりまとめた障害者雇用状況報告の結果1から令和5年6月1日現在の状況をみると、常用労働者数43.5人以上の民間企業は、全国で108,202社、法定雇用率の算定基礎となる従業者数は約2,752万人、障害者数は約64万人で障害者の実雇用率は2.33%でした。このうち、常用労働者数43.5人以上300人未満の中小企業は、全国で92,855社、法定雇用率の算定基礎となる従業者数は約930万人、障害者数は約19万人で、障害者の実雇用率は2.07%でした。 障害者雇用率制度の創設時(昭和52年)との比較でみてみると、昭和52年の企業全体の実雇用率は1.09%であったのに対し、令和5年には2.33%になっており、今日までに障害者の雇用状況は着実に進展しています。しかしながら、300人未満規模の中小企業における障害者の雇用状況は、昭和52年は、56人〜99人以下規模の企業で1.71%、100人〜299人規模の企業で1.48%と、企業全体の実雇用率1.09%を大きく上回る水準でした。平成5年は、56人〜99人以下規模の企業で2.11%、100人〜299人規模の企業で1.52%となり、企業全体の実雇用率1.41%を上回る過去最高の水準となりました。しかし、その後は低下傾向が続いており、令和5年は、43.5人〜100人未満規模の企業で1.95%、100人〜300人未満規模の企業では2.15%、300〜500人未満規模の企業では2.18%と、企業全体の実雇用率2.33%を下回っています。 A 初めての障害者雇用の課題と対応 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施した「中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査」2では、アンケート調査とヒアリング調査を通じて、中小企業が初めて障害者を雇用するに当たってどのような課題が生じるのかを把握するとともに、障害者雇用のポイント、必要な支援をとりまとめています。概要は次のとおりです。 ア アンケート調査の結果 以前に障害者を雇用しなかった理由(複数回答)としては、「障害の状況に応じた職務の設定や作業内容、作業手順の改善が難しかった」を5割強、「採用・選考に関するノウハウが乏しかった」、「支援者・指導者の配置等、人的支援の体制の整備が困難だった」、「障害の状況に応じた労働条件の設定が困難だった」を3割程度の企業が選択していました。 初めて障害者を雇用するに当たって困ったこととしては、「従事作業の設定、作業内容や作業手順の改善」を5割強、「障害の状況を踏まえた労働条件の設定」、「支援者や指導者の配置」を3割程度、「採用基準や選考方法」、「人材の確保」、「現場の社員の理解を得ること」を2割程度、「施設・設備の整備」、「何から手をつければいいか分からなかった」を1割程度の企業が選択していました。また、困ったことへの対応策としては「採用基準や選考方法」及び「何から手をつければいいか分からなかった」の項目では「外部機関の支援の利用」が最も多く、それ以外の項目ではいずれも「自社による工夫・改善を実施」が最も多くなっていました。 初めての障害者雇用に当たっての支援機関等の利用については、いずれかの支援機関を利用した企業は80社(72.7%)でした。具体的には「ハローワーク」を利用した企業が6割強、「特別支援学校」と「障害者就業・生活支援センター」が2割程度でした。 支援制度の活用状況としては、「特定求職者雇用開発助成金」の活用が4割強と最も多く、次いで「障害者試行雇用(トライアル雇用)奨励金」が3割強程度でした。 障害者を雇用した後の考え方の変化として、「一口に障害と言っても個人差が大きいことがわかった」を選択した企業は6割強で最も多く、次いで「職務内容や施設・整備、人的支援等の環境を整備すれば、障害があっても能力を発揮して働けることがわかった」が4割、「大規模なハード面の改善が無くても、工夫すれば受入れが可能であることがわかった」が3割強程度でした。 今後の障害者雇用への方針としては、「現在の状態が維持できればよい」を選択した企業が3割強と最も多く、次いで「雇用する障害者をさらに増やしたい」、「障害者の従事する職域をさらに拡大したい」も3割程度ありました。 障害者の職場定着や新たな雇用に当たって必要な支援としては、「採用経路、求職者についての情報の提供」を選択した企業が3割強で最も多く、次いで「職場定着、さらにその後の職業生活の持続の段階における外部の支援機関等からの支援」、「障害者雇用に関する法律・制度等についての詳細な情報の提供」、「雇用形態や労働条件の設定、受入体制の整備等に関する助言」が3割弱でした。 イ ヒアリング調査の結果 障害者を以前に雇用しなかった理由について、対人業務や専門技術を要するため障害者には難しい、馴染まないと考えている企業のほか、障害者の指導や雇用管理を行うための人員配置が難しいとする企業や、そもそも障害者雇用の義務があることを知らなかったとする企業もみられました。 障害者雇用に当たっての課題と対応については、作業内容の設定は自社で取り組む企業が多く、事前に各部署の関係者を集めた会議を開催して検討したり、作業マニュアルを整備したりする企業もみられました。また、初めての障害者雇用が知的障害者や精神障害者である場合には、外部機関の支援を受けている企業が一定程度ありました。 指導者の配置に関しては、特別な管理体制を構築している企業は少なく従来からの管理体制で業務の指導を行っている企業が多い状況でした。また、障害者が登録している支援機関に定期的なフォローアップをしてもらっている企業もみられました。 このほか、現場の社員の理解を得るため、事前に社内研修等を行ったり、現場従業員の不安の解消のために話し合いの場を設定したりしている企業もありました。 障害者を雇用した後の考え方の変化については、知的障害者や精神障害者を職場実習で受け入れることによって、障害者雇用は身体障害者が対象であるとの固定観念が変わったという企業や、障害特性を理解することにより障害者を見る目が変わったという企業がありました。さらには、作業手順を確実にこなす知的障害者の特性が活かされて品質向上につながったという企業もありました。 ウ 障害者雇用の課題 アンケート調査とヒアリング調査を通じて、中小企業が初めて障害者を雇用するに当たっての課題と対応としては次のことが考えられます。  (ア) 作業内容の設定、作業内容や作業手順の改善については、自社による取組みで乗り切れる場合もあるものの、障害者を受け入れる前に必要に応じて支援機関からその職務内容や雇用管理の仕方等に関する支援を受けることが有効な場合もあると考えられます。 支援者や指導者の配置に関しては、配属部署の管理体制を大幅に変更する必要はないですが、総務・人事部門が障害者の管理に対して関わったり、支援機関を有効に活用したりすることで障害者の雇用管理の負担が配属部署に偏らないように工夫して進めていくことが重要と考えられます。 このほか、雇用の検討の初期段階からどのように進めたらよいのか分からない場合、障害者を雇用している企業に出向き、先進事例に学ぶという対応も有効な手段と思われます。  (イ) 障害者の雇用経験のない中小企業にあっては支援制度そのものを知らない企業が少なからずみられたこともあり、各支援機関や各種支援制度の情報をできる限り収集することが望まれます。  (ウ) アンケートによれば、初めて障害者を雇用した企業のうち半数を超える企業が、障害者を雇用した後に考え方の変化がみられました。障害者を未だ雇用していない企業の場合、障害者雇用への不安や負担感を軽減すること、障害特性や能力についての適切な理解を促進していくことが求められます。あわせて、障害者雇用がもたらすメリットや社会におけるコンプライアンス重視の意識の進展を十分認識、理解をした上で、障害者雇用を進めていくことが望まれます。  (エ) 人材確保は、企業側が最も重要視することです。支援機関と接点がない企業も、まずハローワークを訪れるとともに、地元の各支援機関で求職者に関する情報収集を積極的に行っていくことが望まれます。 エ 必要な取組 最後に、本調査では、中小企業が次のような取組を行うことを提案しています。  (ア) 初めての障害者雇用に躊躇している中小企業にあっては、雇用に向けた第一歩として、障害者の特性や能力に関して適切に理解するために、職場実習を受け入れることや、支援機関に対して雇用を躊躇する理由を具体的に相談してみること。  (イ) 実際に障害者雇用に向けた取組を進めようとするものの、何から手を付けていくべきか悩む企業にあっては、企業見学等を行いつつ先進企業の取組に学んでみること。また、見学先の選定に当たり迷うことがあれば、支援機関に相談してみること。  (ウ) 初めて障害者を雇用する方針を固めようとする企業にあっては、職場実習など試行的な受入れに先だって、支援機関にも相談しつつ、障害者の職務等についてあらかじめ社内で検討してみること。  (エ) 障害者雇用の検討に当たっては、コストがいくらかかるかということだけでなく、障害者雇用が社員に与える意識の変化などのメリット、障害者優先調達推進法等企業の経営面からみたメリット、積極的な障害者雇用がもたらす企業の社会的評価の向上、社会貢献といったメリットや意義があることについても理解した上で検討すること。  (オ) 求職者に関する情報は、企業自らもハローワークをはじめとした各支援機関に相談するなど、その収集に積極的に当たってみること。  (カ) 障害者を採用する際には、複数の部署から構成される組織をもった企業の場合、障害者の配属部署だけではなく総務・人事部門など複数の部署が直接的・間接的に関わること。また、必要に応じて支援機関に相談してみること。  (キ) ジョブコーチによる支援について、とりわけ精神障害者や知的障害者を雇用する場合にあっては積極的に受けてみること。 B 障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)の創設 中小事業主については、障害者の雇用義務が課せられているにもかかわらず依然として障害者を全く雇用していない企業(障害者雇用ゼロ企業)も多く残されている等、障害者雇用の取組が停滞している状況にあります。 中小事業主における障害者雇用を進めていくためには、従来の制度的枠組みだけでなく、個々の中小事業主における障害者雇用の進展に対する社会的な関心を喚起し、経営者の障害者雇用に対する理解を深めていくとともに、こうした積極的な取組を進めている事業主が、社会的に様々なメリットを受けられるようにしていくことが必要です。 このため、障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組に関し、その実施状況が優良なものであること等の基準に適合するものである旨の認定を行い、認定された事業主について、その商品等に厚生労働大臣の定める表示(もにす認定マーク)を付すことができる中小事業主に対する認定制度が創設されました。 この認定制度を通じて、企業の社会的認知度を高めることができるとともに、地域で認定を受けた事業主が障害者雇用の身近なロールモデルとして認知され、地域全体の障害者雇用の取組が一層推進されることが期待できます。また、本制度を通じて、障害者雇用の促進と雇用の安定を図ることで、組織における多様性が促進され、女性や高齢者、外国人など、誰もが活躍できる職場づくりにつながることが期待されます。 C 納付金制度ほか ところで、中小企業の中でも、障害者雇用に積極的な企業が一定の割合を占めることから、今後、中小企業における障害者雇用を着実に進めていくためには、法定雇用率を超えて障害者を雇用している中小企業と法定雇用率を達成していない中小企業との間の経済的負担の不均衡を調整していくことが必要です。 こうした考え方等を背景として、障害者雇用納付金制度が適用される対象範囲は徐々に拡大され、平成27年4月からは、障害者雇用納付金制度の適用範囲が常用雇用労働者数100人を超える事業主にまで拡大されています。 中小企業は地域における障害者雇用の受け皿として、その重要性はますます高まっていくものと期待され、これまで障害者雇用の経験のない中小企業を視野に置きながら、中小企業における障害者雇用の促進を図るための雇用支援策をより一層充実させていくことが求められています。 1 厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」 2 本節で紹介した調査結果の詳細については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 平成24年度障害者職域拡大等調査報告書No.2『中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査』を参照。 3 職務創出 (1) 業務内容と職務の再設計 採用に躊躇する企業に理由を聞くと多くの企業から「障害者に合った仕事がない」と答えが返ってきます。通常は「職務(仕事)に人を合わせる」方法をとりますが、障害者の業務を決める場合、障害の特性と程度を考慮し「人に職務(仕事)を合わせる」方法も併せて考慮することが有効と考えることが必要です。 障害者が担当する仕事を具体的に創出していくときに、「障害者に合う仕事とはどんなものでしょうか?」と質問される企業が多くあります。これについては、「健常者に合う仕事とは何か」と聞かれても答えることができないように、障害者に合う仕事、この仕事は障害者用という決めつけを行うことは適当ではありません。障害者一人ひとりの個性と興味関心、経験や諸能力によってマッチングしていくというのが基本の考え方です。 最近の研究では、@職務切り出しモデル、A積み上げモデル、B特化モデルの3つを組み合わせて職務創出していくことが有効とされています。この際、担当する職務を作業要素レベルまで細分化し、スモールステップでできる作業要素を増やしていくことや障害によりできない要素のみを取り除く、他者の助けや仕事の流れを変えることで障害者が作業をできるように再編整備していくことが肝要です(図1)。 例えば、製品の箱詰め(業務)について、包装の歪みのチェック、製品の箱詰め、商品説明書の挿入、消費期限の印字、完成品の並べ作業、製品仕上がり数の数えと報告という一連の作業の流れがあったとします。このときに、障害により「包装の歪みのチェックだけができない」、「仕上がり数の数えだけができない」といった一部の作業ができない方について「箱詰め業務ができない」として一連の業務を担当させることが困難と判断することは避けるべきです。できる作業要素とできない作業要素を整理区分し、できない作業要素について積み上げモデルによるステップアップ方法が良いのか、特化モデルにより部分的に作業要素を外し、残りの部分を確実に仕上げるといったワークシェアを行うことが良いのか、細分化しても対応することができないのか等を障害者本人も交えて多角的に検討し、整理していくことが望まれます。 障害者の職務創出については、一般に各職場に新入社員を受け入れるときや担当業務について経験のない社員が転入してくるときの担当職務の設定を応用していただくことが適当です。一般に職場の作業環境や仕事の手順は、障害のある人が働くことを想定しないでつくられていることが多く、いろいろな障害や個性がある障害者をそのまま職務配置した場合、低能率・作業ミス・疲労といった生産管理上のさまざまな問題が発生することもあります。このため、個々の障害者の状況を加味して、障害者が最も力を発揮でき、企業側と整理できる折り合い点を探して必要な配慮を提供していくことがよりよい対応となります。ここで3つの職務創出モデルについて補足して説明します。職務の再構築を行うときには、まず、図1の左の「職務の切り出し・再構成モデル」にあるとおり、他者に手伝ってもらうことができる仕事やアシスタント的な業務を分析し、これを職場内で集めて一人分の業務を切り出します。これにより各スタッフは専門業務に集中できたり、残業時間を短縮できるというものです。忙しいときに応援のスタッフをお願いするときの仕事の切り出しの仕方と同じような取り組みになります。 「特化モデル」は発達障害などのように、どうしても苦手な領域があったり、その1工程があるためにパフォーマンスが上がらないという障害者に対して、一部の工程を外して最大限のパフォーマンスを発揮することができるように設定し、当面は他者の協力を得たり、苦手な部分を別のスケジュールでトレーニングする等の対応を図る方策です。 「積み上げモデル」については、精神障害や知的障害などのように、自信を持ちにくいタイプや時間をかけてスモールステップで取り組むことが適当な障害者に有効な方法で、少しずつできることを増やしていき、最後には全工程を処理できるように仕事を増やしていくという取り組みです。どこの職場でも新規採用者に取り入れているものと同様だと思います。 この3つのタイプを上手に組み合わせ、障害者ごとにご本人の特性や経験、諸能力を勘案しながら職務創出していくことが大切だと考えられています。 そして、職務の創出に当たっては、仕事の流れ、仕事をするときの課題点、職場環境の整備、疲労の状況という仕事面を確実に分析していくことが必要となります(図2)。なお、このときに気を付けたい点は、障害者の能力を過小評価したり、評価者側だけの視点で決めつけて能力開発に繋がらないという結果にならないように、「どうしたらできるようになるのか」「どんな支援があれば楽にできるのか」を障害者とともに、周囲の同僚のアイデアなども参考にして可能性を広げていくというスタンスが大切であるということです。 また、これらの取り組みの結果、最終的に業務から外さざるを得ないと判断する際には、別の職務でトライし少なくとも2〜3以上の作業で適応の可能性を検討することが必要です。この場合、まさしく新人教育と同様に「失敗」は「経験」と考えた方がよいでしょう。すぐにあきらめないで粘り強く指導する「忍耐」も必要となります。 図1 職務創出の3つのモデルパターン @職務切り出しモデル 障害者の担当業務=従業員Aさんの職務のうちの作業1+従業員Bさんの職務のうちの作業2+従業員Cさんの職務のうちの作業3 A積み上げモデル 雇用開始時点での担当職務から目標(将来の担当職務)に向かって徐々に作業を積み上げていく B特化モデル 強みをいかした職務を選定することで、不得手な作業等の担当を見直したり、支援を行う。 特化した目標とする担当職務。  図2 職務の創出に当たって分析調整が必要な事項 職務創出と職場環境の調整のポイント ・日々の業務の流れや実施時間を把握し、調整する。 ・各業務の課題を把握する(行動分析し、課題部分を工夫する) ・働く環境を整備する(時間の構造化、場所の構造化、方法の構造化、手順の構造化等) ・疲れのコントロールに留意する(勤務日数、勤務時間、仕事内容の調整) (2) 集中配置と分散配置 障害者を職場に配置する際、障害者に向く職務(作業)を特定してそこに集中的に配置する場合と、広い範囲で職務(作業)の枠決めをし、本人の能力・適性に応じて通常の各部署に障害者を分散して配置するケースがあります。どちらの方法によるか、両者をどのように組み合わせるのかについては、事業主、現場責任者等の考え方によって異なります。 分散配置の職場については、業種や作業工程なども関係してきますが、日常のコミュニケーションを通じて相互理解を深めるのに役立つと同時に、障害のため困難な作業を周囲の者がカバーするなど、組合せによる職業能力の有効発揮が図られています。反面で、部署間で対応に差が生じたり、各部署に障害の理解促進や支援ノウハウの提供を行うこと等同僚社員への研修機会を強化したり、障害者雇用の責任部署や障害者職業生活相談員がサポートできる体制を強化しないと社内の障害者雇用の態勢が弱体化してしまう等の課題も発生しやすい面もあります。 集中配置は発展すると企業内障害者センターや特例子会社のように専任の指導者の下で障害特性に配慮しながら環境整備を図ることができる等のメリットもあります。設備改善のための投資を効率的に実施できること、また障害者に対する雇用管理のノウハウを効率的に蓄積できるなどのメリットがあります。反面で、障害者に接する機会が少ない他の部署にしてみると、障害者雇用を自部署の取り組みと受け止められず、職務の提供が消極的になったり、障害者との関わりが薄くなってしまうというケースもあります。このため、障害者を特別扱い、あるいは差別扱いをすることにならないような配慮が必要です。障害のない人も障害者も一緒の職場で同じ作業をすることによって、お互いが理解し合い、教え合って自立し、成長していくことが大切です。 最近では、両者を的確に組み合わせ、障害者雇用の責任部署を中心に社内全体のプロジェクトを設置して、従業員エンゲージメントを高める取り組みに繋げているという企業が増えています。これらの企業では、集中配置で支援ノウハウを高めたり、障害者に自信を持っていただいたた上で、社内の各部署に対しては障害者を出向かせて、相互の理解促進を図ることや自然な形で障害者の支えの形を構築しています。これらの取り組みが円滑に進むと、各部署で障害者雇用を応援する社員が増えていきますし、社内に心のバリアフリーが構築され、障害者雇用の質も向上していきます。 4 人事評価制度の検討 (1) 目標設定と評価 ジョブ型雇用が進展する一環で正社員への目標管理と人事評価を取り入れる企業が増加しています。この流れの中で、障害者が職場に定着し、無期労働契約に切り替わる際に、身分が正社員に切り替わったり、正社員と同様に人事評価制度の対象になるという事例も増加している状況です。 仕事を進めるに当たっては、障害者についても、個人の育成を図り会社業績への貢献や能力の高さを処遇に反映させる必要があることはいうまでもありません。しかし、人事評価を取り入れる企業では、全社的に活用している人事評価制度を障害者に適用すると毎回低い評価になってしまい、モチベーションを維持向上させるために人事評価を取り入れているのに逆効果になってしまう等の悩みを抱える場合が少なくありません。だからといって、人事評価を行う際に、「障害者だけを外す」「障害者用の指標を作る」ということは障害者差別になる恐れがあったり、障害程度によっては不利な評価を強いられるというケースもあり、どうしたらよいのかと各企業が悩んでいます。 平成28年4月から雇用分野における障害を理由とする差別的取扱いが禁止されていることも念頭に置き、可能な限り通常の労働者と同じ方法を採りつつ、障害によって制約がある点について何らかの合理的配慮を行うことで改善ができることがないのかについて、障害者、上司、その他の職場の関係者が十分に検討する必要があります。 一般の労働者に人事評価を導入する目的を整理すると、社員の選抜を行うためという考えよりも、労働者のモチベーションを高めるために人事評価を適用すると考えている事業主が多い状況です。そこで、従業員エンゲージメントの向上に繋げられる制度を導入できると、労働者側も「やらされ感」が少ない、よりよい評価制度になると考えられます。 すなわち、労働者が、自身が担当した職務遂行結果を適正に評価され、フィードバックされ、それに見合った形で事業主から有形、無形の報酬が与えられると労働者は「満足」できますし、労働者が持ちうるパフォーマンスを最大限に発揮して与えられた仕事を的確に遂行していけるでしょう。その結果、与えられた職務に対して要求水準に適った成果を上げられ、職場に貢献していけると事業主は要求したことを「充足」できます。この満足と充足のループが相互に絡みあい、正のスパイラル(螺旋)を描いて昇華していき、この関係が継続されていくことによって労使双方が成長していくことになります。その結果として、生活の質(Well Being)の向上とキャリアアップにつながります。このスパイラルループを的確に維持していくためには、適時的に人事評価を行い、的確なフィードバックと次のステップの目標建てを行うことが必要です。 国の機関では、人事評価に当たって、職務や職位ごとに定められた客観的な評価基準に照らし発揮した能力を評価する「能力評価」と個々に設定された目標に照らして上げた業績を評価する「業績評価」から構成されています。事業主が人事評価を行うに当たって、個々に目標を設定し、目標を意識して日常業務を進めることは、障害者にとっても、本人の励みになり、モチベーションを引き出すのに有効です。 モチベーションを維持向上させるためには、職務面の結果だけを評価するのではなく、職務遂行のプロセスや取り組み姿勢といった社内での行動全般を評価することや加算方式で評価する方法を取り入れること等人事評価制度を工夫することも望まれます。 具体的な人事評価の指標について図3に一例を紹介します。 図3 人事評価に当たっての留意事項 この考え方では、人事評価の指標について3つ用意します @ 能力評価の指標:仕事に向き合う姿勢、職務態度や出勤の安定性など職務遂行のプロセスなどの情意効果の側面を評価するとともに、他の従業員に与える影響などを含めて全人的に評価いただくことが望まれます A 年功評価の指標:職務を担当している期間、キャリアや経験年数等の属性的な側面に加え、労使で共有して設定した年次の目標の達成状況などの経験値を評価していただくことが望まれます B 職務評価の指標:社員に課した職務や役割の遂行状況を評価することになりますが、これについては、さらに下位の3軸を設けて職務遂行の量的な側面に加え、担当職務の質的な側面を加味した評価をすることが望まれます ア 職能・技術軸 難易度の同じ職務や同じ地位に求められる業務をどれだけ多く実行できるようになっているかという横方向の評価を行う軸 イ 地位・階層軸 職務のスキルアップ、職責の上昇、役割の付加などに対応できるかという縦方向の評価を行う軸 ウ 部内化・中心性軸 地位や部門は同じでも組織の中心的な作業や決定に関わる職務、情報(機密情報、守秘等)を扱う職務など組織に対する自己の業務の重要性が増大することについて評価する軸(組織にとってより重要で中心的なステータスを与えられるかを評価する軸)(※) (※)部内化・中心性軸の例 例えば、顧客情報のデータ入力の仕事に就いている方がいるとします。一般レベルでは既存の複数の名簿から、顧客の氏名、住所、生年月日、会員番号等のデータを入力します。 一段階重要度が増したレベルの作業では、複数回購入実績がある「お得意様情報」のデータ入力作業を担当します。このデータ入力作業では入力項目は同じで業務の難易度は同レベルですが、取り扱うデータの重要性や会社にとっての大切さが増すことになります。 さらにレベルが上がると、「重要なお得意様情報」の入力となり、データの保存管理に当たりパスワードを付加したり、アクセスできる者を制限した保存場所にデータを保存して修正を行うなどセキュリティの高さが異なる作業になります。この段階でのデータ入力作業でも入力する項目自体は同じなのですが、データの取り扱いを制限し、それを扱える者を限定するなどステータスを高い設定にします。 このように担当する作業内容自体は同じでも業務の重要性やセキュリティなどに差異をつけてグレードを区分することで評価をしていくと本人のやりがいを高められるという仕組みです。 これらの指標、職務遂行の軸について加算方式を原則として評価をしていくことで多面的、全人的な評価の実施に繋がりやすく、評価結果がマイナスになりにくいことや次期の目標立てをしやすい課題整理が可能になる評価指標と考えられます。 また、評価に当たっては、「自己申告」等の方法により本人も評価に加わり、課題点について上司の評価と比較しながら、対話による事実確認を行うことが望まれます。これにより本人の受け止め方や課題と感じているポイントを労使で確認することができ、評価の客観性と透明性を確保することに繋がります。この点は一般労働者も同じです。 意欲も能力もある障害者は、業績に貢献して、ますます自立への自信をつけ、障害のない人を超える能力を発揮する事例も出ています。多様性を認め、「個」を活かすためには、個人の得手「取り柄」を見つけ、独特の味わい「持ち味」とともに生かしきることが必要であり、これが自己実現につながります。 ある部位(機能)や能力に障害があり、できないことがあっても、職場全体で支える態勢があり、障害者の能力を必要としていることを障害者自身も感じられる環境を用意できると、安心感が形成されて意欲が増進し「できなかったことができるように」なったり、他の面で「驚くほどの能力を発揮する」こともよくあることです。 本人の特性(職務遂行上得意な点)を伸ばす中で、障害も包み込まれていきます。 一方、障害者への配慮には、根底に「何が障害者にとって幸せか」という視点が必要です。適切な配慮により個人の人格と自律性を尊重し、障害の種類と程度に応じた職場環境改善を行うよう注意が必要です。 基本的な考え方をしっかり押さえ、バランスのとれた、自社に合ったルールを取り入れましょう。 5 賃金・労働時間等の条件  障害者を雇用するうえで、労働条件をどう設定し、働きやすい環境とするかは重要な問題です。多様な勤務形態の中から、それぞれ本人の障害の特性と程度に合った労働条件を選択します。 (1) 労働契約 @ 労働条件の明示義務と法令等の周知義務 ア 労働条件の文書による明示 障害者との労働契約は、基本的に通常の労働者の場合と同様です。ただし、障害を考慮して通常の労働者と異なる環境、条件を取り決めた場合は、本人にそのことを十分説明し、個別契約としておくことが必要です。この場合、その合意の内容が労働条件となります。また、それは就業規則を下回ることはできません。また、障害者用の就業規則を作成しようとされる場合もありますが、これについては障害者の差別につながり、障害者雇用促進法に抵触する可能性があることに気を付ける必要があります。 契約の当事者は、あくまでも労働者本人と事業主(使用者)です。内容が理解しにくい知的障害者には、やさしい文章とし、フリガナをつける等工夫した文書を作成し添付するとよいでしょう。また、保護者にも内容を確認していただき、副署名を求めておくことをお勧めします。 労働条件の明示は、労働条件のうち、次の特定の事項(昇給は除く)については、書面の交付による明示が必要です(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条)。 (ア) 労働契約の期間 (イ) 有期労働契約を更新する場合の基準 (ウ) 就業の場所及び従事すべき業務 (エ) 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等 (オ) 賃金、昇給 (カ) 退職 さらに、令和6年4月から「労働基準法施行規則」、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正に伴い、以下の労働条件の明示事項等が変更されることとなりました。 (キ) 就業場所と業務の変更の範囲(有期労働契約者を含むすべての労働者) (ク) 更新上限の有無と内容及び更新上限を新設・短縮する場合はその理由(有期労働契約者) (ケ) 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件(有期労働契約者) また、短時間労働者(パートタイム労働者)を雇い入れる事業場は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第6条の規定により、「労使協定に基づく賃金支払時の控除の有無」、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書の交付等により明示することも義務になっています。 イ 法令等の周知義務 「労働基準法」と「関係法令」の要旨、「就業規則」のほか、「労使協定」並びに「労使委員会の決議」を、次の方法により労働者に周知しなければなりません。内容が理解しにくい障害者に対しては、わかりやすく表現する等の配慮をするとよいでしょう。 (ア) 常時、各作業場の見やすい場所に掲示または備え付けること (イ) 書面により交付すること (ウ) 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置したり、社内ポータルに掲示する等整備すること A 雇用・勤務形態の多様化と障害者雇用 障害者の雇用も基本的には通常の雇用と同じと考えてよいのですが、障害の種類、程度により、同一場所、一斉就業、一斉休憩、フルタイム勤務等にこだわらず、本人とよく相談し、本人に合った雇用・勤務形態からスタートします。時には、よかれと考えて決めた、期間の定めのない正社員という条件が重荷になることもあります。移動障害のある障害者や公共交通機関を利用しての通勤が困難な障害者については、在宅勤務の可能性も検討します。また、精神障害者、重度障害者、就労経験のない障害者等を雇い入れる場合等、適応が難しいと予想される場合は、ハローワークに相談し、障害者トライアル雇用制度を活用することもできます。 担当業務と作業環境、人間関係も考慮して、定着へ近づけます。 本節の2もあわせてご参照ください。 (2) 賃金の管理 @ 賃金体系と最低賃金 賃金体系は、企業ごとに定められるものであり、一概にどの体系がよいとは言えませんが、例えば職務評価に基づく職務給を導入する場合も本人の年齢や勤続年数等を考慮した本人給と併用した形の給与(賃金)体系が考えられます。 ただし、職務給は知識、熟練、努力、責任等その職務の困難度や重要度を評価要素として、職務の相対的価値を評価し、その価値に応じて定められる賃金であるため、職務が変わらない場合の昇給については、本人給部分で行うことになると考えられます。障害者雇用促進法では、雇用する障害者に対する障害を理由とする差別や権利・利益を侵害する行為が禁止されています。すなわち、障害のあるなしで異なる賃金体系を作ることは認められません。ただし、一方で職務の内容や職位で賃金が異なることは認められています。 最低賃金には地域別最低賃金と産業別最低賃金があります。一人の労働者について二つ以上の最低賃金がある場合は、高いものが適用されます。 産業別最低賃金が適用される労働者に地域別最低賃金を下回る賃金を支払った場合は、違反となり50万円以下の罰金が、産業別最低賃金を下回る賃金を支払った場合には、30万円以下の罰金を科せられることとなりますのでご注意下さい。 なお、最低賃金は時間額で定められていますので、日給や月給の場合は所定労働時間で除して比較してください。 また、一部の例外を除き、どんな職務であろうとも、最低賃金額を下回らないようにすることが必要です。 A 賃金支払いの原則  障害者に対する賃金の支払いの原則は、労働基準法に定められているとおり、@通貨で、A全額を、B毎月1回以上、C一定期日に、D直接本人に支払う、この5原則は守らなくてはなりません。 知的障害者の場合、親など保護者が本人に代わって受取りに来ることがあるようですが、代理人に支払うことはできません。あくまで本人に支払わなければなりません。 勤務先預金として会社が預かっている場合も、本人以外へ払い出すことはできません(Q&A【問4】(P60)にチャレンジ)。 B 最低賃金の減額の特例許可申請 障害者、試用期間中の者等一般の労働者と労働能力等が異なるため、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭める可能性がある労働者については、最低賃金の減額の特例が認められます。減額の特例許可を必要とする理由、障害についての障害者手帳等客観的な資料、支払おうとする賃金(特例許可を受けようとする減額率)等を記載した申請書を事業所を管轄する労働基準監督署経由で都道府県労働局長へ提出して許可を得るという制度もあります。 C 就業しなかった時間と賃金 傷病のチェックや人工透析等で通院するための遅刻・早退、就業中の外出の場合の取扱いは、一般ルールとして「就業規則」で定めておくことが望ましいでしょう。 全労働者が同じ取扱いとなるのが公平な考え方です。例えば、ノーワーク・ノーペイを原則とするならば、全従業員を同じ取扱いとします。 障害者への配慮は、一般労働者とのバランスを考えて決めてください。 D 休暇と賃金 就業規則等で休暇を定め、それぞれの休暇について有給か無給かを定めなければなりません。 なお、産前産後の休暇や、私傷病の休業が無給の場合、それぞれ健康保険の「出産手当金」や「傷病手当金」の給付を請求することができます。また、支給される賃金が「出産手当金」や「傷病手当金」に満たない場合は、差額が支給されますので請求することができます。 (3) 労働時間 @ 労働時間の原則 労働時間、休日、時間外労働等については、その扱いは障害者も一般の労働者と全く同一で、労働基準法が適用されます。同一の就業規則で運用するのが大原則です。 A 労働時間の柔軟化 労働時間の柔軟化には、いろいろな形があります。その中から個々の障害者に合った形を選択することができます。 @ 短時間労働者(パートタイム労働者) 通常の労働者の所定労働時間に比べ労働時間の短い労働者を短時間労働者といいます。パートタイム労働法により、職務の内容、人材活用の仕組みや運用が同じであれば、賃金・教育訓練・福利厚生について差別的取扱いが禁止されています。 短時間労働者に対する年次有給休暇は通常の労働者に比例した日数を付与することが必要です。 このほか、柔軟な労働時間の設定については、フレックスタイム制、変形労働時間制、みなし労働時間制などの制度もあります。これらについて障害者に適用する際には障害の特性、諸能力に配慮することが肝要です。 (4) 障害者の所得保障 企業において雇用する障害者から年金の相談を受けるときに予想されるケースは、単に申請方法がわからない場合や相談者が自分の年金を受けることができるかどうか分からない場合、さらには働き始めて給与所得が生じることにより年金額との調整が発生するかどうかなど、多岐に渡ることが予想されます。年金は一人ひとりの状況が異なります。また、本人の思い違いということもあり、話の内容と現実が異なっており受給できない場合もありますので、年金の専門家でない障害者職業生活相談員が「年金をもらえます・もらえません」など断定的な判断をすることは避けなければなりません。年金の相談は日本年金機構の年金事務所・街角の年金相談センターが受け付けていますので、まずは「ねんきんダイヤル」で相談するようご案内することをお勧めします。また、以下に「障害年金制度の概略」を記載しますので相談を受けた際のご参考にしてください。 @ 障害年金 障害者に対して公的年金制度により支給される給付には、次の3種類があります。 ア 障害基礎年金 イ 障害厚生年金 ウ 障害手当金(一時金) 障害認定日は、初診日(障害の原因となる傷病について初めて医師等の診療を受けた日)から1年6ヶ月経った日ですが、症状が固定されていればそれ以前でも障害認定日となります。また、障害認定日に症状が軽い場合であっても、その後に症状が重症化し、障害等級に該当した場合は、65歳に達する日の前日までに本人の請求があればその翌月から障害年金を受給できます。認定の基準は障害者手帳による基準ではなく、国民年金法及び厚生年金保険法による基準です。従って、障害者手帳1級だからといって障害等級上1級とは限りません。 ア 障害基礎年金   1級と2級に分かれており、その額は次のとおりです。(令和6年度)1   1級 1,020,000円…2級の1.25倍   2級 816,000円   生計を維持している子(18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子または20歳未満で障害等級1級または2級の障害の状態にある子)がいれば、人数により子の加算がつきます。(次頁図1参照)   また、20歳に達するまでに初診日がある場合も20歳(障害認定日が20歳以降のときは、障害認定日)から障害基礎年金は支給されますが、所得制限の要件があります。(表1) イ 障害厚生年金   厚生年金加入期間中(つまり入社後)に初診日がある障害で1級または2級に認定された場合、障害基礎年金に加算して支給されるものです。3級の障害年金は、厚生年金独自の給付です。支給額は、障害認定日までの被保険者期間に基づく報酬比例年金額として計算されますが、加入期間が300月(25年)未満の場合は300月とみなして計算されます。1級の場合の年金額は、2級の場合の1.25倍となります。3級は2級と同額ですが、最低保障があります。   また、1級と2級で生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合(年収制限あり)、加給年金が加算されます。(次頁図1参照) ウ 障害手当金(一時金)   障害厚生年金では3級より軽いと認定され、障害手当金の支給要件に該当する場合、障害手当金が一時金として支給されます。その額は報酬比例年金額(2級)の2年分ですが、最低保障があります。 エ 業務上傷病(通勤災害を含む)により障害者になったとき・・・労働者災害補償保険により障害(補償)等給付が給付されますが、障害厚生年金が全額支給されるのに対して、障害厚生年金を受け取っている人が障害(補償)年金も受け取る場合、障害(補償)年金は一部がカットされます。 オ 特別障害給付金(平成17年4月創設)   平成3年3月以前の国民年金任意加入対象者であった学生や、昭和61年3月以前に国民年金任意加入対象者であった被用者の配偶者のうち、任意加入していなかった期間内に初診日があり、現在、障害基礎年金1級、2級相当の障害に該当する場合、特別障害給付金を受給することができます。1  なお、障害基礎年金や障害厚生年金、障害共済年金などを受給することができる場合は対象になりません。(請求の窓口は住所地の市区町村) A 特別障害者手当 特別障害者手当は、精神又は身体に著しい重度の障害があるために、日常生活において常時特別の介護が必要な20歳以上の在宅障害者に支給される手当です。2ただし、所得制限があります。(請求の窓口は住所地の市区町村) B 所得保障と賃金管理 20歳に達するまでに障害が生じた障害者に支給される障害基礎年金については、所得制限があり、制限額を超えると半額又は全額支給停止となります。従って、賃金が制限額を超えると家計収入的に見れば所得ダウンということになりますが、本人のレベルが向上した証左ですので激励してあげましょう。入社後に障害が生じた場合は、所得制限はありません。 障害者は障害年金をもらっているのだから賃金を調整してもいい(総収入で考える)との考えは間違いです。年金と賃金は全く別物であり、賃金は労働に対する正当な対価です。労働意欲の向上が図れるような制度を構築しましょう。 表1 障害基礎年金の所得制限・限度額表 図1 障害基礎年金・障害厚生年金(令和6年度) 1 令和6年度は「昭和31年4月2日以後生まれの方」と「昭和31年4月1日以前生まれの方」で年金額が異なります。本項で記載している年金額は昭和31年4月2日以後生まれの方の年金額であり、以下本項記載の他の年金額についても同様です。 Q&A【問4】出勤しなくなった障害のある社員の知人から賃金の代理受領の申出があったので、応じるつもりである。(解答と解説はP289に記載しています) 6 障害者の安全・健康の確保 (1) 基本的な考え方 障害者の就業とその継続には、健康と安全の確保がきわめて大切です。障害者がその持てる能力を十分に発揮し、障害のない人とともに同じ職場で働けるようにすることは、ノーマライゼーションが目指す成熟した社会の証です。しかし、障害者の就業に際しては、障害が進行したり、原疾患が悪化したり再発したりするかもしれないという不安が付きまといます。そのため、障害者を新たに雇用するときや、新たに障害を負った職員が復職するときには、雇用後の生活全般において、障害者の健康と安全をどのように確保し、それを維持していけばよいかが大きな問題となります。 労働と健康を両立させるためには、「健康管理」「作業管理」および「作業環境管理」からなる「労働衛生3管理」が重要です。これに「総括管理」と「労働衛生教育」を加えて、労働衛生の5管理とすることもあります。これらは、障害のある人にもない人にも同じように重要な基本的事項です。 このうち健康管理とは、労働者ひとりひとりの健康状態を、法に定められた定期健康診断などによって直接チェックし、異常を早期に発見したり、その進行や悪化を防止したり、さらには、健康を回復するための医学的および労務管理的な措置を講じることです。障害者の健康管理においては、すでにある障害の特性や程度をよく把握した上で、障害の原因となった疾患の管理や二次障害の予防に努めなくてはなりません。 一方、作業管理とは、環境の汚染や有害要因のばく露を防止するとともに、作業負荷をできるだけ軽減するような作業方法を定めて、それが適切に実施されるように管理することです。とくに、障害のない人には適切な作業方法であっても、障害者にとっては有害であったり負荷が過剰になったりすることがあるので、作業管理にはより一層注意を払わなくてはなりません。 作業環境管理とは、作業環境測定などによって、作業環境中の有害な因子を把握して、できるかぎり良好な状態を保つよう管理することです。障害者にとって好ましい作業環境は、障害のない人にとっても良い環境となります。障害の有無にかかわらず、すべての労働者がよりよい作業環境のもとで働けるようにすることが求められています。 以上の労働衛生3管理に加えて、総合的な労働衛生対策を効果的に進めるためには、産業医や衛生管理者等が連携するとともに、安全管理さらには生産管理と一体となって行われる必要があり、そのために総括管理があります。さらに、労働衛生教育によって、労働衛生管理体制や労働衛生3管理についての、労働者の理解を深めることが大切です。 以上の労働衛生3管理ないし5管理に加えて、障害者自身による自己管理が求められます。障害者は、医療機関や職業訓練機関等において、自身の障害について理解し、健康の自己管理ができるよう、さまざまな教育や指導を受けています。事業場は障害者の自己管理を尊重し支援するとともに、相互に協力して健康と安全を組み立てます。また、十分に自己管理できない障害者には、適切な指導や見守りを行って、健康管理に努めます。 なお、健康や障害に関する個人情報に接する職員は、業務を通じて知り得た秘密を守らなくてはなりません。また、病歴や障害に関する情報は要配慮個人情報に該当するので、事業場が、個人情報保護法に則って責任を持って厳重に管理しなくてはなりません(Q&A【問5】(P67)にチャレンジ)。 (2) さまざまな健康管理体制のなかでの取り組み 事業場の健康管理体制は労働安全衛生法によって定められており、事業場の規模や業種によって若干の違いがあります。一定の業種の一定規模以上の事業場では、事業を実質的に統括管理する者を総括安全衛生管理者として選任し、その者に安全管理者、衛生管理者を指揮させるとともに、産業医を選任し、専門家として労働者の健康管理等にあたらせることとなっています。安全管理者や衛生管理者の選任が義務づけられていない中小規模の事業場では、安全衛生推進者または衛生推進者を選任し、労働者の安全や健康、衛生に係る業務などを担当させることになっています。 産業医の選任が義務づけられている規模の企業では、労働者の健康と安全に関しては、産業医から医学的立場や産業保健活動の立場からの専門的支援を受けることができます。一方、産業医の選任を義務づけられていない小規模な事業場では、保健師や看護師、人事労務担当者が中心となって、外部の医師や地域産業保健センター(地さんぽ)などと適宜連携しながら、労働者の健康と安全の確保に努めなくてはなりません。産業医がいる事業場でも、特別な医学的配慮を要する障害者を雇用する場合には、外部の専門医と連絡を密にして対応する必要があります。 (3) 障害者の健康と安全を守るために @ 障害の状態や健康状況を知ること ア 雇用前、または復職前の状況の把握 雇用時または復職時には、事前に医学的情報や障害に関する情報を得ておくと、障害に関する理解を深め、就業後の健康管理に役立てることができます。情報の入手先としては、主治医、専門医、以前の事業場の健康管理室、障害者職業能力開発校などがありますが、本人の承諾を得ておくことはもちろん、個人情報の管理を徹底する必要があります。 障害を有するに至った経緯や現病歴、現症、作業能力、就業可能時間、服薬状況、発作の予防法や対処法、その他の注意事項などが参考になります。これらの情報は、産業医か健康管理担当者が管理します。雇用後や復職後にも、外部の主治医や専門医と連絡を取りやすくしておくことは、障害の種類に関わらず役に立ちます。 イ 健康診断による健康の情報 雇入れ時健康診断や定期健康診断では健康状態の総合的評価が行われるので、障害者の健康管理の注意点をさらに確認できます。 ウ 本人からの情報 大半の障害者は、自己の障害や体調を誰よりもよく理解し、しっかりした自己管理を行っています。したがって、何よりも本人からの情報を十分に得ておくことが、異常の際に適切な対処や支援を行うために不可欠です。 A 雇用後に障害を悪化させないために ア 医師等の指導 産業医に障害者の健康管理や就労の耐久性などについて相談し指導を受けます。また、障害者雇用助成金を利用して職場支援員を配置し、障害者の業務遂行に必要な援助や指導を受けることもできます。 イ 障害者自身による主治医や専門医の受診 障害者自身が主治医や専門医を定期的にまたは必要に応じて受診し、必要な治療や経過観察を受けることは、就業の継続や健康管理のために有効です。無理なく通院できるように勤務時間等に配慮し、また、主治医から特別な指示があればそれに従うようにします。 ウ 症状の発現や合併症の発生についての理解 てんかんのように発作を繰り返す障害や、褥瘡や関節変形などの二次的合併症を生じやすい障害の場合には、健康管理の方法や、発作時の処置法、さらに予防法や注意点などについて、本人の承諾のもとに、産業医や主治医、専門医からの助言を得るようにします。 B メンタルヘルスケア 近年、職場におけるメンタルヘルスケアの重要性が強調されるようになっています。一般に障害者は、作業能率、仕事の理解力、復職後の仕事量の減少、対人関係などについて、障害のない人よりもはるかに強い精神的・心理的ストレスを感じています。こうしたストレスは健康管理にも就業継続にも影響するので特に注意が必要であり、メンタルヘルスケアによって障害者の職場適応を促進するように努めます。 具体的には、産業医、保健師、看護師、健康管理者、カウンセラーなどが医学的あるいは心理学的立場から対応することになりますが、上司や指導者、同僚などによる支援が有効なこともあります。逆に、上司や同僚がストレスの原因になっている場合もあるので、本人の訴えによく耳を傾けるとともに、職場環境や人間関係をよく観察する必要があります。また、労働安全衛生法に基づくストレスチェックを適切に実施すべきことは申すまでもありません。 2020年に始まったコロナ禍において、情報通信技術(ICT)を活用したテレワークが一挙に普及しました。テレワークには在宅勤務・モバイルワーク・施設利用型勤務などの類型がありますが、このうち在宅勤務は通勤の負担が減ることや本人に最適化された環境で本人のペースで仕事ができることなど、障害者にとって大きなメリットがあるといえます。その一方で在宅勤務は、ただでさえ孤立しやすい障害者を一層孤立させたり、本人が一人で頑張りすぎてしまったり、逆に運動不足になったりすることから、メンタルヘルスや生活習慣病などへ悪影響を及ぼすことが懸念されます。特にメンタルヘルスは重要であり、WEB会議システムを活用して常にコミュニケーションを良好に保つなどの配慮が求められます。 C 保健指導 ア 生活習慣病に対する注意 障害者の多くは運動不足気味で精神的ストレスが多いために、生活習慣病の重要な予備軍となっています。たとえば、脊髄損傷者では損傷部位以下の筋肉によるエネルギー消費が著しく減少するために、受傷以前と同じ食生活をしているとほぼ確実にメタボリックシンドロームとなります。また、脳卒中による障害者の場合には、ほとんどの場合、発症以前から高血圧や糖尿病などを有しています。したがって、障害者においては、栄養指導や衛生管理、運動指導などが、障害のない人にも増して重要です。1人ひとりの障害者が健康の自己管理をしっかり出来るように、啓発や支援に努めます。 イ 生活習慣病検査の際の注意 医療機関で行われる検査の中には身体的負荷があるものがあります。たとえば、MRIなどの画像検査では一定時間同じ姿勢を保たなくてはならないため、障害の種類によっては大きな負担となります。また、MRIは体内に金属や心臓ペースメーカーなどが埋め込まれている場合には禁忌です。上部消化管X線造影検査(胃透視)を障害者に実施することは、透視台からの転落や造影剤排泄遅延などの危険を伴うために、望ましくありません。 D 障害の特性の認識と理解 それぞれの障害の特性をよく認識し、どのような健康管理が必要かを理解していれば、不安や恐れを感じることなく積極的に障害者を受け入れることができます。就労を目指す障害者の多くは、健康の自己管理を学んでおり、普段の生活においては障害のない人と大きく異なることはありません。 障害別にみた特徴と雇用上必要な配慮についての詳細は第3章を参照してください。とくに、改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」(資料編第4節参照)と「合理的配慮指針」(資料編第5節参照)をよく理解し、遵守することが求められます。以下に、日常の健康管理業務のなかでの指導や処置、配慮など、参考となることの概略を述べます。 (4) 各障害別の健康と安全の留意点 @ 肢体不自由者の健康と安全(第3章第1節参照) ア 脊髄損傷、二分脊椎 脊髄の損傷による障害は損傷部位(脊髄高位)によって大きく異なります。損傷部位以下の脊髄と脳との連絡が絶たれることによって、両側性の運動麻痺や感覚障害、自律神経障害をきたします。頸髄損傷では、両手両足と体幹の運動麻痺と感覚障害(四肢麻痺)をきたします。胸髄損傷の場合には両下肢の麻痺(対麻痺)をきたします。いずれの場合も麻痺の程度は完全なもの(完全麻痺)から不完全なもの(不全麻痺)までさまざまですが、ほとんどの場合、日常生活には車椅子を必要とします。 脊髄損傷者で特に注意しなくてはならないのは自律神経の障害です。運動麻痺は一目瞭然ですが、自律神経の障害は外見からはわからないので理解され難いという問題があります。自律神経は、血圧や脈拍、体温などの調節や、排尿排便に関わる膀胱や直腸の運動など、生命の維持に不可欠な重要な機能を担っています。そのため、最も重度の頸髄損傷の場合には、車椅子に座っているだけで血圧が低下して失神してしまったり、夏期にはうつ熱状態になって意識朦朧となったりします。作業場の室温など環境調整に注意を払う必要があります。 車椅子を常用している場合に最も生じやすい合併症は臀部などの褥瘡です。運動麻痺のために長時間同じ姿勢でいるために特定の部位に圧力が集中することによって生じる循環障害に加えて、自律神経障害による血流調節の障害のため、運動麻痺だけの場合よりもさらに褥瘡ができやすい状態であることをご理解ください。脊髄損傷者に生じた褥瘡はきわめて難治性で、しばしば入院や手術を必要とするため、長期欠勤の原因になります。臀部の褥瘡の予防のためには、一定時間毎に両上肢で車椅子の肘掛けを押して体幹を持ち上げ、臀部にかかる圧力を減らして血流を促すことが必要です。これをプッシュ・アップと言いますが、作業に集中しすぎてこれを忘れることが無いように、「プッシュ・アップしていますか。」などと声掛けする配慮が求められます。そのほか、褥瘡の予防には、適切なクッションの使用や皮膚の清潔保持も大切です。 褥瘡に続いて多いのが尿路感染です。神経因性膀胱とよばれる膀胱機能の障害のために、尿道カテーテルを留置したり、間歇自己導尿を行ったり、膀胱瘻を造設したりする必要があります。膀胱炎や腎盂炎から敗血症になったり、腎臓機能が低下したり、尿路結石を生じたりします。定期的な尿検査や泌尿器科医の受診が必要です。 二分脊椎では、脊髄損傷の場合と同じように対麻痺と膀胱直腸障害をきたしますが、そのほかに水頭症などの脳の障害を伴うこともあります。 イ 脳性麻痺 脳性麻痺は、受胎から新生児期(生後4週以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常であると定義されています。単一の病名で呼ばれていますが、痙縮型やアテトーゼ型などのさまざまな病型があり、実際の運動機能もほぼ寝たきり状態から走ることができるものまで幅が広く、さらに知的障害やてんかんなど肢体不自由以外の障害を伴うこともあります。そのため、単に脳性麻痺という診断名を確認するだけで無く、実際にその人が有している障害の全体像を把握することが大切です。 脳性麻痺の人は、就労可能な人であっても、精神的緊張が高まると、不随意運動や筋緊張が高まって、作業が円滑にできなくなることがあります。とくに就労初期には、心理的・精神的ストレスが高じやすいので、リラックスさせるように心がけます。子どもの頃から長い間不自然な姿勢を続けたり無理な運動を行ったりするために、腰痛や膝関節痛などを障害のない人よりも早くきたす傾向があります。また、加齢とともに脊柱の変形が進行して、子どものころには歩けていた人が中年期には歩けなくなるといった二次性障害も大きな問題です。てんかんの服薬管理や、開口障害のある人の歯科受診などにも配慮が必要です。 ウ 片 麻 痺 脳卒中や頭部外傷などによる大脳の片側の損傷によって反対側の半身(上下肢)に生じた運動麻痺を片麻痺(へんまひ)と呼びます。多くの場合、運動麻痺と同じ範囲の感覚障害も伴います。 脳卒中者の多くは、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの危険因子を脳卒中発症以前から有しています。就業中の再発予防のためには、これらの危険因子の管理が最も重要です。ライフスタイルの改善や定期的な内科受診などを促します。また、原因の如何に関わらず、大脳皮質に損傷がある場合には、しばしば二次性のてんかんを生じます。抗てんかん薬の服薬状況を確認したり、発作の誘因となる睡眠不足などを避けるように指導したりします。また、てんかんのある人には、機械運転や高所作業など危険を伴う作業は勧められません。 片麻痺を有する人の多くは、麻痺以外の障害を伴っています。最も代表的なものは失語症ですが、そのほかに、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などからなる高次脳機能障害があります。とくに、運動麻痺や言語障害はあまり目立たないのに、発病前と比べて仕事の能率が著しく低下したり情緒が不安定になったりして、人間関係や社会生活に困難をきたしている場合には、高次脳機能障害を疑う必要があります。そのようなときには、全国に設置されている、高次脳機能障害支援拠点機関に相談するとよいでしょう。 片麻痺を有する人の多くは、発病前と比較し現在の自分の能力を悲観して、焦りやストレスを感じています。復職後には、職務内容の変更などの検討や、メンタルヘルスケアが必要になることがあります。 エ 切   断 切断の原因には、労働災害や交通事故などによる外傷と、糖尿病性壊疽や閉塞性動脈硬化症などの疾病とがあります。近年は労働者の高齢化や糖尿病の増加などにより、疾病による切断が増える傾向にあります。疾病による切断の場合には、主治医による基礎疾患の継続的な医学的管理が必要です。食事や運動などの生活習慣の改善も重要です。特に体重増加は義足への負担となるので注意が必要です。 切断者の多くは義肢(義手、義足)を使用していますが、義肢と接触する切断端にはさまざまなトラブルが発生します。義肢の取り扱いや切断端の処置については、本人が主治医や義肢装具士などから指導教育を受けているので、自己管理に任せてください。 A 視覚障害者の健康と安全(第3章第2節参照) 視覚障害には、まったく視力がない全盲の状態と、視機能が低下して日常生活に支障をきたしているロービジョン(弱視)とがあります。ロービジョンには視野狭窄、中心暗点、羞明、色覚異常、夜盲症、複視などさまざまな症状があり、一人ひとり見え方が異なります。 視覚障害の原因には、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など多くの疾患が含まれます。近年、特に増加しているのは糖尿病性網膜症による中途失明です。糖尿病の場合には、主治医による十分な管理のもとで、食事管理や服薬、インスリン注射などが規則正しく行われるよう配慮が必要です。 視覚障害者は衝突や転落の危険を回避することが困難なので、職場内外の物理的環境の整備は特に重要です。また、ロービジョンの人については、特有の見えにくさに応じて、職場内の表示や照明を最適化するように努めます。その他、見えないことによる職場内での疎外感やストレスに注意を払い、必要に応じて健康管理室などと連携しながらメンタルヘルスケアを受けられるようにします。 B 聴覚障害者の健康と安全(第3章第3節参照) 聴覚のみに障害を有する者は、体力などの面では就労上の問題はほとんどありません。最も重要な問題は、上司や同僚との間のコミュニケーションがとりにくいことから、心理的なストレスを生じやすいことです。業務に直接関係のある意思伝達に困難があるだけでなく、休憩時間中の同僚との日常会話などにも加わり難いことがあるので、職場内で孤立感を味わうことになるのです。また、本人からは見えないところから声を掛けられてもそれに気付くことができないために、相手を故意に無視しているかのように誤解されることがあり、それが心理的圧迫となります。 本人が抱えているストレスを早期に察知し、健康管理室などと協力してメンタルヘルスケアに努めるとともに、良好な職場の雰囲気を作るように助言します。手話を使う聴覚障害者のいる職場では、職員が「おはよう」「ご苦労様」「ありがとう」などの簡単な手話を覚えて、気軽に接触するようにします。また、相手の口唇の動きで言語を読み取る口話(読唇話)を行う人に対しては、口がよく見えるところで話すよう心がけます。 C 内部障害者の健康と安全(第3章第4節参照) ア 共通事項 内部障害は非常に幅広く、その種類と程度によって、作業能力や仕事量、就労可能時間、その他注意事項は大きく異なります。雇用時や復職時に、その後も随時必要に応じて、本人、主治医および専門医等から、就業上配慮すべきことがらについての情報を入手します。疾病や障害に関する情報は最も重要なプライバシーのひとつですので、情報入手にあたっては必ず本人の承諾を得ておくことと、その管理を徹底すべきことは言うまでもありません。 体力や耐久力が低下して過労状態に陥りやすいので、疲労が蓄積しないように就業時間や作業負荷量には特に配慮します。食事や睡眠など規則正しい生活を確保できるよう通勤距離や時間にも注意し、さらに定期的に主治医を受診できるように時間的な配慮をします。 イ 心臓機能障害 身体障害者福祉法による身体障害者手帳の交付基準は「日常生活活動が著しく制限されるもの」とされており、通常、心臓機能障害を有する人は、主治医から活動の許容量が指示されています。主治医からできるだけ具体的な情報を得て、事業場においても作業負荷量が許容限度を超えないように配慮します。また、心不全や不整脈の徴候や狭心痛などの出現に注意し、異常が認められた場合の対応方法について、あらかじめ主治医の指示を得ておくことが望まれます。 なお、平成26年3月までに身体障害者手帳を取得した人で、心臓ペースメーカー植え込みにより1級を取得した人の中には、日常生活活動にはほとんど制限のない人が含まれています。その場合にも、電池交換などのペースメーカーのメンテナンスが適切に行われることや、ペースメーカー誤作動の原因となる強い電磁波を生じる場所には近づかないことなどに注意します。 ウ 腎臓機能障害 腎臓機能障害は、腎臓機能の低下が進行しているがまだ透析は受けていない状態、人工透析を続けている状態、腎移植を受けた後の状態の3つに分けることができます。それぞれの状態によって注意すべき事柄が異なりますので、主治医からの指示を本人が遵守できるよう、就業時間などに配慮します。また、いずれの状態においても、感染症は状態悪化の重要な原因となるので、感染症の予防と早期治療を促します。 エ 呼吸器機能障害 呼吸器の機能の障害による息切れなどにより、日常生活活動が著しく制限されます。活動の許容量は主治医から指示されるので、それを本人が遵守できるよう配慮します。在宅酸素療法(HOT)により就業が可能となっている人には、機器がトラブル無く使用できるよう配慮します。肺炎などの感染症は呼吸器機能の急激な悪化を招くので、感染予防と早期治療を促します。 オ ぼうこう又は直腸の機能障害 さまざまな疾患や外傷などにより、ぼうこうや直腸の機能が失われ、排せつのために腹部に開けた孔をストマと呼びます。ストマを有する人をオストメイト、または人工ぼうこう保有者、人工肛門保有者と呼びます。ストマには蓄尿袋や蓄便袋を貼り付けてその中に排せつするので、定期的に袋を交換する必要があります。そのため、袋交換に要する時間と場所(オストメイト対応トイレ)の確保が求められます。もちろんストマを造る原因となった疾患の治療や管理のために主治医受診が必要です。 カ 小腸機能障害 さまざまな原因により小腸の機能が障害され栄養の維持が困難になると日常生活が著しく制限されます。クローン病や腸管型ベーチェット病は病勢が動揺しやすく、過労やストレスにも気をつける必要があります。 キ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染により長い潜伏期を経て免疫機能が障害されエイズを発症します。今のところいったん感染したHIVを完全に除去する方法はありませんが、さまざまな抗HIV薬を組み合わせて服用することにより、長期に渡り就労し続けることができるようになっています。職場などでの日常的な接触では人から人への感染の心配はなく、むしろ過剰な対策によりHIV陽性者の人権やプライバシーを侵害しないよう注意が必要です。本人に対しては、服薬と通院が確実に続けられるよう支援します。 ク 肝臓機能障害 肝臓の機能障害の原因は、B型・C型ウィルス性肝炎、自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎などさまざまです。進行すると慢性肝炎から肝硬変に移行し、肝がんを発症することもあります。常に主治医による厳重な管理が必要であり、その指示に従います。代償期には過労などに注意すれば就業が可能です。ウィルス性肝炎が職場の日常的な接触で人から人へ感染することはありません。 D 知的障害者の健康と安全(第3章第5節参照) 知的障害にもさまざまな原因がありますが、多くの場合、肉体的には健康であり、8時間労働に十分耐えうる体力を有しています。何らかの身体疾患を合併している場合には、主治医とよく連絡をとって、その指示に従って必要な配慮を行います。職場では安全の確保が特に重要です。知的障害者は危険を察知して回避する能力が不足していることがあるので、職場の安全環境の整備に努めるとともに、十分な見守りや監督ができる体制を整えます。また、自身の身体の不調を適切に伝えることができない可能性があるので、表情や態度の変化などに注意して観察する必要があります。さらに、知的障害があっても鋭い感性を有しているために、かえって人間関係に傷つきやすいとも言われていますので、上司や同僚の配置にも気を配ります。 E 精神障害者の健康と安全(第3章第6節参照) 統合失調症やそううつ病などの精神疾患により、日常生活もしくは社会生活に著しい制限を受ける人が精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっています。身体疾患の合併がなければ、ほとんどの場合、就労に必要な体力は十分に有していますが、労働による緊張が病状を悪化させることが少なくないので、就業時間を短縮するなどの配慮を行います。また、服薬継続はきわめて重要であり、定期的な主治医受診を促します。一方、服薬により注意力が低下する可能性があるので、危険を伴う作業に従事することは勧められません。 てんかんも精神障害者保健福祉手帳の交付対象になっています。てんかんにはさまざまな原因と多くの発作型がありますが、ほとんどの場合、抗てんかん薬の服用によって発作をコントロールすることができます。一番大きな問題は、いまだにてんかんに対する偏見が根強いために、本人がてんかんであることを隠そうとして、通院や服薬を怠ってしまうことです。職場では、てんかんに対する偏見を無くして、本人が堂々と服薬できる雰囲気をつくる必要があります。 職場でてんかん発作を起こすこともありますが、通常の発作は数分以内に自然に収まるので、周囲の安全に気を配ること以外には、特別な処置は必要ありません。けいれんが収まったあとしばらくもうろう状態が続いたり寝込んだりすることがあるので、完全に覚醒するまで静かな場所で静養させます。まれに、発作が10分以上続いたり意識が戻る前に次の発作が起こったりすることがありますが(てんかん重積状態)、その時だけは直ちに受診させる必要があります。それ以外の通常の発作のみであれば、後日、本人から主治医に報告させるだけで構いません。 F 発達障害者の健康と安全(第3章第7節参照) 発達障害者支援法では、「発達障害」を、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものと定義し、さらに「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいうとしています。 職場での健康と安全上の課題としては、自信や意欲の低下、孤立などがあり、家族や主治医、カウンセラーなどと連携しながら対応します。全国に設置されている発達障害者支援センターに相談することも出来ます。 G 難病のある人の健康と安全(第3章第8節参照) 難病とは、発病の機構か゛明らかて゛なく治療方法か゛確立していない希少な疾病て゛あって長期の療養を必要とするものとされています。「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に基づく医療費助成の対象となる指定難病は、令和6年4月現在で341疾病あります。一方、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」では、発病の機構が不明であることと希少であることを難病の要件から除外し、369疾病を支援の対象としています。 このように難病とされる疾患は非常に多岐にわたるので、当然、職場での健康と安全に関わる課題は、疾患によってさまざまです。難病と言うと治療が難しい重篤な病気というイメージが先に立ちますが、難病の中にも、根本的な治療は難しいものの適切な医学的管理によって就労が可能となる疾患が多く含まれています。 難病のある人で就労を希望する人は、主治医から自己管理についての指導を受け、就労についての許可も得ています。事業者側としてはあくまでも「慢性疾患のある働く人」として認識し、「労働衛生3管理(健康管理、作業管理、作業環境管理)」を円滑に実行し、健康と安全に配慮しながら受け入れればよいのです。その場合、難病は稀な疾患なので、事業者側としてもその疾患の特性の理解に努め、必要に応じて主治医や産業医、保健師、本人を交えて十分な協議を行い、作業内容や作業環境を検討する必要があります。主治医とは連絡を密にとって適切な治療管理を行うことにより、就労が継続できるように配慮します。難病のある人の多くは、体力や耐性が低下しているため、休憩の取り方などにも工夫が必要です。難病のある人は、他の障害者と同じように職場での心理的ストレスを感じるばかりでなく、常に疾患の増悪に対する不安も抱えているので、メンタルヘルスケアは欠かせません。 難病は長期におよぶ治療や経過観察が必要なので、定期的に専門医を受診できるように時間的配慮が必要です。公益財団法人難病医学研究財団のホームページや全国に設置されている難病相談支援センターなどを利用して、正しい知識を得るように努めます。 (飯島 節) 7 障害者のための職場環境 (1) はじめに 近年は、さまざまな障害のある人が企業で働くようになりました。また障害認定を受けていなくても、高齢の従業員や職場を訪れる障害のある一般利用客の利便性を考えれば、多様な人々に配慮した『だれもが利用できる』ユニバーサルデザインを目指すべきでしょう。これは事業所にとって、多様な人々が生きる社会環境をつくりだすための社会的役割を担うとも考えられます。 しかし現実には、利用者が多様化すればするだけ技 術的な対応は難しくなり、またより広範囲の重度障害 者を想定して、改善計画を行うとなると大きな建築ス ペースと経済的負担が必要になります。 本節では、必ずしもすべての人が使用できるデザインではないものの、多くの人に対応でき、しかも比較的容易に改善できるものを中心にその方法を解説します。 (2) バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)と技術的基準 @ 基本事項 一般企業の事務所を含む、公共的な性格をもつ一定規模以上の建築物にはバリアフリー化が義務とされています。都市部では付加条例により、対象となる建築物の種類や規模が拡大されていることがあります。 以下の施設整備は、規模や用途、雇用している障害者の種類にかかわらず、事業所において配慮してほしいと考える、バリアフリー法の「標準設計」を用いて解説します。 A 二つの技術的基準 同法では、不特定多数の人が利用する、または主として高齢者・障害者が利用する建築物を「特別特定建築物」と定義しています。一定規模以上の「特別特定建築物」を建築するときは、建築物の構造や配置に関して、最低限の満たすべき基準「建築物移動等円滑化基準」に適合させることが義務付けられています。 また、より望ましいレベルとして「誘導基準」があり、この基準を満たして、所管行政庁の認定を受けると、支援措置を受けることができます。 Q&A【問5】病歴や障害に関する情報は、要配慮個人情報に該当する。(解答と解説はP289に記載しています) 表1 バリアフリー法による建築物各所の技術的指針 <最低基準> 最低限の基準 <誘導基準> 望ましい基準 玄関出入り口の幅 80cm 120cm 居室などの出入口の幅 80cm 90cm 廊下幅 120cm 180cm スロープ手すりの設置 片側でも可 両側 スロープ幅 120cm 150cm スロープ勾配 1/12以下 1/12以下、屋外1/15以下 車椅子使用者用便房の数 建物に1つ以上 各階原則2% 以上 オストメイト対応便房の数 建物に1つ以上 各階1つ以上 低リップ小便器等の数 建物に1つ以上 各階1つ以上 車椅子使用者用駐車施設の数 1つ以上 原則2%以上 車椅子使用者用駐車施設の幅 (一般は250cm以上) 350cm以上 350cm以上 道等から案内板や案内所に至る経路 視覚障害者誘導用ブロックを設置するか音声による誘導装置を設ける 視覚障害者誘導用ブロックを設置するか音声による誘導装置を設ける (3) 車椅子使用者、歩行困難者等身体障害者への配慮 @ 段差 可能なら段差はなくす 車椅子使用者は、わずかでも段差があると移動が困難となります。段差は最大でも5cm以下とされていますが、前輪(キャスター)の大きさを考えると2cm以下が望ましいです。 ところが、歩行困難者(高齢者や杖使用者)は、数センチメールの段差よりも、こうした数ミリメートル程度の段差において転倒する例が多くあります。段差はできるだけなくすか、なくせない場合は、注意喚起のためにも手すりを取り付ける必要があります。 A 屋内の通路の有効幅員(基本)(図1) 基本的な通路幅は、車椅子使用者の通行を考えれば、最低90cm、歩行する人とすれ違うなら120cm以上は最低限確保すべきです。 図1 出入り口、廊下等の通路幅の考え方(  )内は最低基準 B スロープ(傾斜路) 建築基準法に定められたスロープ勾配の上限は1/8(平面で8m走行して、1m上がる勾配)です。しかし、このような急なスロープは上肢・体幹に障害がない、若い車椅子使用者でも昇ることはできません。 表1のように最低でも1/12、できれば1/15、屋外では1/20程度が必要です。もう一つ重要なことは、スロープの始まりと終わりの部分に、必ず水平部分を設置することです。スロープを降りてから、すぐに道路に出るような位置に設定することはたいへん危険です。 C 車椅子使用者用便房(図2) ア 一般的な車椅子使用者用便房(内法200cm×200cm) 車椅子トイレとよくいわれます。子ども連れ、ストーマ使用者やその他一般トイレでは不便を感じる人々全般のためのトイレという役割があることから国土交通省では「多機能トイレ」と呼称していましたが、著しく利用頻度が上がったため、なるべく一般トイレを使用するよう令和3年4月から適正な利用を呼びかけ、名称も「バリアフリートイレ」と改めました。最近では、便器に向かって右側に壁がくるような配置が主流になりましたが、複数のバリアフリートイレを設置する場合は、身体の右側にマヒのある人にも使いやすいよう、半数は左側に壁がくるような反転したプランを用意するとよいでしょう。 図2 車椅子使用者用便房 イ 操作ボタン位置の配置(図3) JIS(日本産業規格)では、トイレットペーパー、便器洗浄ボタン、非常呼び出しボタンの設置位置を規格として定めました。これは視覚障害者が便房に入ったときに、迷わず便器洗浄ボタンを見つけられ、非常呼び出しボタンを誤って押すことがないように配慮したためです。さらに、子どもや知的障害者等にとっても、位置のルールが決まっていると間違いにくいといった利点があります。 図3 便房における洗浄ボタン、呼び出しボタン(緊急用)設置位置 ウ 車椅子使用者用簡易型便房(図4) 小さな簡易型バリアフリートイレも提案されています。車椅子使用者のうち、この程度の大きさでも利用できる人々もいます。最近では、高齢者の利用、子ども連れの利用など、バリアフリートイレが多く使われることから、必ずしも図2に示す大型のものでなくてもよい人は、そちらを使用するように誘導する目的もあります。 エ 事業所ビルにおける簡便なトイレ改造(図5) バリアフリートイレがないビルに、バリアフリートイレに準ずるものを新設することは困難な場合があります。簡便な方法として、便器排水管の位置を変えないで、仕切り(パーティション)、手すり等を取り付けるだけの改造にとどめることもあります。 図5−1は、ビル内によく見られるトイレ(男子用)です。これを図5−2のように2つの便房を1つにして、仕切りを撤去します。この際、残しておくほうの便器の配管などはそのまま利用し、撤去した側の便器位置の排水口は蓋をします。賃貸ビルの場合も、後日、現状復帰が容易です。 しかし、車椅子使用者の使用を考えるとやや狭いため、さらに図5−3のように、間仕切りをさらに移動、拡張して広い便房にします。この場合、一部の小便器の前が狭くなりますが、小便器の利用に支障がない程度に狭めます。 D 肢体不自由者等の避難(図6) 火災、大規模地震時等では、エレベーターを使うことができません。車椅子使用者等も避難のために階段を使うことになります。その際、建築基準法で定められた「避難階段」があれば、階段室自体は避難場所(シェルター)として利用できます。煙や火炎は入ってこないため、消防隊の進入経路としても使用されます。 したがって避難階段までたどり着けば、そこに待機して救助を待つことは、群衆の中を介助をうけながら避難するより安全です。最近のビルではこうしたことを想定して、避難階段の平面を広くとって、避難エリアとして明示している例もあります(図6写真)。 E カウンター、記載台、テーブルの基本寸法(図7) 車椅子使用者が使用する記載台、オフィス用テーブルにおいて重要なことは、車椅子使用者の膝、できればアームレストがテーブル(机)下に入る必要があります。床からテーブルまでの高さは最低でも60cm、できれば65cmの空き(クリアランス)を確保します。確保できないと、テーブルに車椅子使用者の体幹を十分に近づけることができないため、使いづらいものになります。そのためにテーブル天板はできるだけ薄く、天板下に引き出しが付いていないものを選びます。 F 駐車施設(図8) 車椅子使用者が駐車場を使用する際には、次の点に留意します。 ・乗降にあたって、車椅子の出し入れを伴うので、運転席側ドア横には少なくとも100cmの余裕を確保します。 ・余裕スペースに、後から他の車が進入しないように、図8左図のように進入禁止エリアを表示します。 ・降雨時のために、屋根のある駐車スペースが望ましいのですが、運転席側にのみ屋根が取り付けてあるだけでもよいでしょう。車椅子の出し入れなど、乗降に時間がかかるためです。 ・車を降りたあとは、玄関入口まで危険のないように、歩行者等の専用通路を設けることが必要です。このエリアには、車両が進入しないように駐車スペース内に車止め等を設けます(図8左図)。 ・配慮したスペースに、対象者以外が入らないように、マークや表示をつけておきます。 図4 車椅子使用者用簡易型便房 図5 事業所ビルにおける簡便なトイレ改造 図6 耐火構造物避難階段における車椅子使用者等の避難に関する配慮 図7 カウンター、記載台、テーブルの基本寸法 図8 車椅子使用者用駐車施設 (4) 環境に配慮が必要な人への配慮 以下にあげた空間設計に関する知見は、既往文献や当事者、その支援者等の意見を参考にしていますが、直接的な効果はまだ検証されていないことを了承ください。 @ どのような人たちか 近年、ユニバーサルデザイン分野においても発達障害者への環境配慮の必要性について関心がもたれるようになりました。国土交通省では文献1)2)に示すように、知的障害、精神障害、発達障害のある方への環境配慮のための大規模な聞き取り調査等をもとに、配慮指針を作成しています。また、こうした人々が安全に、落ち着いて暮らせる住宅に関する研究も進んでいます(文献3)。 表2は、こうした環境上の配慮が必要な人たちが働くうえでの嫌悪感、困りごとや苦悩を一つの特性と捉え、不便や苦悩別に可能な環境配慮を表したものです。ここでは環境的な配慮が可能と考えられる項目のみ取り上げています。 表2 環境に配慮が必要な人への配慮例 表2−1 不注意、多動性・衝動性への配慮例 特性(本人の働くうえでの嫌悪感や困りごとや苦悩) 環境配慮事項 気が散りやすい 好きなことをやっていても多動 ・落ち着いて就労できる場の提供 ・席を簡易間仕切りなどで仕切る ・周囲の音や光、臭いなどの刺激を少なくする ・その一方で、人的サポートを受けやすい環境設定 ・転倒などによって、建築物や室内什器、設備、機器などにぶつけてけが、触れてやけどをしないようにプロテクターなどをつける 活動の切り替えが苦手、活動途中でなにかを始めてしまう 物事が中途半端、活動が一つひとつか完結せずに作業がやりっぱなし 環境によって多動になりやすい ・対象者の得意なもの、手順がきまっているものなどをやっているときは比較的落ち着く、仕事を限定してまかせる ・対象者が自由な環境を与えられると落ち着かない、席を決める、行動範囲を決める、物を管理する範囲を決める 表2−2 対人関係やコミュニケーションへの配慮例 特性(本人の働くうえでの嫌悪感や困りごとや苦悩) 環境配慮事項 対人関係が苦手(もしくは過剰適応) ・席を簡易間仕切りなどで仕切る ・コミュニケーションをパソコン等を使用して口頭以外でする ・かかわる従業員を限定する こだわりが強い ・むやみに席を変えない ・対象者の仕事のエリアを限定する ・対象者の仕事のエリアを他の従業員に示しておく ・仕事の内容は定型化する 非言語的コミュニケーションができない ・文字、会話など得意な方法で 視覚情報の特異な興味を持つ(ただし、文字やその理解ができるとは限らない) ・指示や報告、その他コミュニケーションをパソコンチャットやメールなどで行う 変化を嫌う ・むやみに席を変えない ・仕事の内容は定型化する 表2−3 認知における困りごと 困りごと 環境配慮事項 認知 作業に集中しているときに、別のものに視線を移動させると、元の作業時に見ていたものを探すのに時間がかかる。もしくは元やっていた作業内容を忘れてしまう。 ・一連の作業は、なるべく視線を移動させなくてもできるように、一箇所にまとめたり、直線上に配置するなどする。 表2−4 感覚の過敏さへの配慮例 嫌悪感や困りごと、発生源 環境配慮事項 聴覚過敏 大きな音 反響音の大きな空間 さほど大きくなくても突然の音 さほど大きくなくても継続して鳴っている音(視覚障害者用誘導チャイム、機械音等) 生活の中の日常的な音(換気音、時計秒針、冷蔵庫)、高い音などの特定の周波数の音 ある音色をもつ特定の楽器、チャイム、通知音、警報音、突然の背後からの話しかけ 騒々しい場所で集中できない(必要な音や声を選択できない) 音が反射する場所が不安(階段室など) 全く音が聞こえないと不安になる、実際にはない音が聞こえるような気がする ・耳栓、イヤマフの装着 ・ノイズキャンセングリヘッドホンの使用を認める ・イヤホンで音楽を聴いて気をそらせることを認める ・空気清浄機など音の発生するものを近くに置いて、気を紛らわせる ・音の発生源から離れる(室内における移動、別室への移動) ・音の発生源からの音を低減する(室内吸音材)(防音・吸音衝立) ・席の背後に通路を配置しない、人が近づいてきたら見えるような位置に席を配置する ・あらかじめ大きな音や非日常的音が発生することを予告する(避難訓練) 視覚過敏 強い光 ふつうの明るさでもまぶしく感じる 点滅、回転する光(色や点滅周期にもよる)、テレビやパソコンのディスプレイの光刺激 色の組み合わせによって、不快感が大きくなる、物体の一部が拡大して見えてしまう(不快感大)人などがたくさん動いていると疲れる(音刺激と合わせてより大きな刺激を受ける) ・サングラスの着用 ・照明を明るすぎないものにする 対象者の近くの照明器具にシェードを付けて照度を下げる ・外部からの光の影響を受けにくい場所に移動、もしくは窓に遮光シートをする ・適切な色温度、照度になるように、個別照明、照明スタンド等を配置する ・テレビやパソコンのディスプレイの輝度を下げる ・掲示物などをできるだけ減らして周囲の壁をシンプルにする ・職場内で人が集まっているところに行かなくてもよいようにするか、衝立などで仕切る ・外出時には静かな場所に迂回するようアドバイス ・聴覚障害者用警報装置の赤色回転等は、緑色など刺激の少ないもの、回転ではなく緩やかな点滅表示にする 嗅覚過敏 化粧、制汗剤、柔軟剤、または人自体がもつ体臭等他人の身体から発生する臭い たばこ、消臭剤、芳香剤等、人工的に発散される臭い カーペット、建材、家具などから出る微量の化学物質 他人の食べ物の匂い、特定の食べ物の匂い 他人が所持する私物の中にあるわずかな臭いを発するもの 他の人がほとんど気にならないものの臭いであっても、特定のものの臭い 臭いに強い関心を示し、なんでも臭いを嗅いで確かめる ・臭いの発生源を発生しないようにする、発生源の人に香水等の使用を控えるなどをお願いする ・部屋の換気を積極的に行う(大部分は、通常の換気量が保てていればよい) ・とくに臭いの強い部屋からは席を移す、もしくは本人を間仕切りなどで囲む ・日常的なマスクの着用 ・臭いの発生源となる場所に空気清浄機などを置く ・本人の席の近くに空気清浄機などを置く(音に注意) ・安価なCO2測定器で、換気量を常に監視する 平衡感覚 過敏・鈍麻 めまいなどがおこる エレベーター、エスカレーターなど、動くものに乗ること 電車、バス、乗用車に乗ること ・転倒などによって、建築物や室内什器、設備、機器などにぶつけてけが、触れてやけどをしないようにプロテクターなどをつける ・なるべくエスカレーターは使わない ・エレベーターも短時間の使用にとどめ、数階の移動であれば階段を使用する 温度感覚、 痛覚等 過敏・鈍麻 暑い/寒いなどの温度感覚に敏感、もしくは鈍い 温感の微妙な変化に鋭敏となり気になる けがなどをしても痛みの感覚が鈍い ・安価な温湿度計測器で、適正な温湿度を常に把握する ・冷暖房吹き出し口付近から身体を遠ざける、もしくは近づける ・扇風機/冷風機の使用、冷風口から冷気を簡易ダクトによって席の近くへ引き込む(音に注意) ・補助局所暖房器具(補助電熱ヒーター)等を置くことによって寒冷感を軽減 ・建築物や室内什器、設備、機器などにぶつけてけが、触れてやけどをしないように器具にプロテクターなどをつける ・転んでもけがが少ないカーペット素材の床 皮膚感覚 過敏・鈍麻 他人から意識、無意識にかかわらず触られると不快感、もしくは過大な身体反応 気に入った手触り、肌触りのものについていつも触れていることにこだわりがある 実際に触っていなくても、触ると不快なことがわかっているものが近くにあると同様な反応 ・室内床、天井、壁などに、特定の感覚があるものについて、対象者の近傍だけでも張り替える(防火上できない場合もある) ・不快感のあるものを遠ざける ・不快感のない別の部屋へ席を移動する A カームダウン、クールダウンスペース(図9) 職場においてパニックになった、気分を落ち着かせたい、刺激の少ない空間にしばらく身を置きたいという人のために近年では一般の学校や公共施設においてもカームダウン、クールダウンスペースが設けられています。人にもよりますが、完全に仕切られ独立した部屋や空間よりも、高さ180cmくらいのパネルやパーティションを設置して、周囲の音や人の気配があったほうがよいという意見を聞きます。パーティションには吸音性能があるものも市販されており、その方が内部の静寂な効果が高まります。厚手の布(カーテン生地)を張ることも効果はあります。 図9 カームダウン、クールダウンスペースの考え方 B 環境的配慮が必要な人のオフィス内位置(図10) 後ろを人が通らない場所で、落ち着いて作業できるように、なるべく壁やオフィス家具を背にした位置に座席を設けます。 机の両側に人が座っていると落ち着かないので、通路側に近くなったとしても、端の席のほうがよいようです。他の人とは机を数センチメートル離すことも考えられますが、こうした距離をおく行為は必ずしも好まれません。 図10 事務空間における必要な寸法と環境的配慮が必要な人々への配慮の方法 C 落ち着いた環境のための、仕切りによるさまざまな対応パターン(図11、図12) 横の通路を通る人が気になる、前方や横隣りで仕事をしている人が気になる、もしくは職場の風景と人の動きが見えると気になるという場合は、机に仕切りを置いて視線を遮るとよいでしょう。その場合注意することは、極端に空間を囲ってしまって、極度に隔離しないようにします。後掲図11ではさまざまな仕切りのパターンを示しています。本人と相談し、仕切りの設置位置や高さを決めます。まず、段ボール板で簡易的に仕切り位置や高さを変えながら決定していくとよいでしょう。 パネルの高さにも考慮が必要です。完全に仕切った空間を作るよりも、本人から見てある程度人の動きがわかるほうがよいことも多くあります。前出図12に示すように、テーブルから45cm程度の高さでは、狭いテーブルでもさほどの閉塞感はありません。しかし、人によって、こうした人の動きが気になるような場合はこれを60cm程度の高さにすると、周囲の気配をかなり遮断することができます。また、テーブル上だけでなく、足下も含めて仕切ると周囲からの不安感が低減できることもあります。 図11 落ち着いた環境のための、仕切りによるさまざまな対応パターン 図12 仕切りパネルの高さに関する様々なパターン D 安心感、落ち着き感を得るための、対象者エリアの明確化(図13) 仕事をする(空間的)範囲を明確にすると、その空間に入ると、そこで仕事をする気持ちに切り替えやすくなります。また、「仕事エリア」の明確化によって、ふだんは気になる、周囲の人の動きや音などがある程度低減する人もいます。その一方で、こうした自身の領域の明確化は、他人の侵入に対してより多くの警戒感を抱くこともあります。図13右のように、小さな仕切りをつけ、人が通る可能性のあるエリアをわかりやすくしておくことで、自身の仕事エリアを明示しながらも、侵入されたと感じる度合を少なくできることもあります。 図13 仕切りパネルの高さに関する様々なパターン E テレワークに必要な自宅内環境整備 近年では障害者にかぎらず、テレワークによる自宅内就労がさかんになっています。 身体障害者を対象とした在宅勤務は1980年頃からありました。とはいえ大きな契機は2020年のコロナ禍以降、テレワークへの環境整備は社会的関心事となり、障害者のテレワークもそれによって大きく進展したと考えます。 厚生労働省は、令和3年3月に改定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、主に労働安全の視点から次のようなことが述べられています(概要)。 ・十分な就労スペース(一人あたり10立方メートルの気積)  自宅の天井高を2.4mとすると4平方メートル程度(おおむね3畳弱) ・適切な換気、温湿度環境 ・適切な照度の確保 ・身体の負担減のための机や椅子等 これらは障害者の就労環境にも当然あてはまりますが、それぞれがもつ障害特性によって必要な在宅勤務をする障害者の自宅環境整備については情報機器の整備に関することや一般的なバリアフリー環境以外、在宅勤務に特化した建築的環境配慮は十分に研究された知見がありません。 とはいえ最近では、テレワークのために独立した部屋をもたない人のために、簡易仕切り(段ボール製もあり)やテント、防音機能があるボックス様のユニット等、多様な商品が市販されています。障害特性によっては、本章図11、図12に示すようなデスクまわりの軽微な仕切り、図13のように狭くともワークスペースとして独立していれば、就労中はデスクまわり以外の自宅内の様子が視線から遮断され、作業に集中しやすいことや快適性にも効果があると考えます。 F まとめと今後について 個人のプライベートな空間を重視する傾向は、近年さらに高まっています。トイレでは、便房の仕切り壁を天井まできちんと仕切ることで、安心・安全な空間を提供しています。また男性用小便器も、隣接する小便器との間におたがいに顔が見えない程度の、従来より高めの仕切り板を設置して、利用者に安心感をもたらします。これは、発達障害などの当事者の意見によって、高速道路のサービスエリアの一部のトイレや、大学で実施されています。 最近では、一般のオフィス計画においても、情報系企業、外資系企業などを中心として、従業員一人ひとりの独立性を高めたパーティション(簡易間仕切り)によって、従業員の個人空間を作り出しているところが徐々に広がっています。また職場内感染予防の観点からも、従業員一人ひとりの作業空間を仕切ることも行われています。 このような社会背景から、今日では、従業員1人ひとりの作業環境の独立性の重視は促進される傾向にあり、障害がある人だけの特別な環境ではなくなってきています。 (八藤後 猛) 【参考文献】 1)国土交通省:「知的障害者、精神障害者、発達障害者に対応したバリアフリー化施策に係る調査研究報告書」(2008) 2)国土交通省:「知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント集」(2009) 3)横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課:「子どもといっしょに育てる住まい 知的・発達障害編」(2015) 4)本田秀夫:「発達障害 生きづらさを抱える少数派の『種族』たち」(SB新書),SBクリエイティブ(2018) 5)丹羽菜生,丹羽太一,秋山哲男,竹島恵子:認知症者や自閉スペクトラム症者などの外見から見えにくい障害がある人を含んだ円滑な移動の為の施設計画と人的支援の課題に関する基礎研究空港・航空機利用を中心とした公共交通機関利用の障害当事者ヒアリング調査、日本建築学会計画系論文、87巻802号、p.2396-2407(2022) 第4節 障害者の募集・採用及び配置 1 募集活動の時期と方法 (1) 障害者の募集時期による分類 〈4月の定期採用のための募集〉 障害者を新卒者の募集と同時期に採用するための取り組みです。4月採用の利点は、特別支援学校の新卒者などを採用することを考え、計画的に募集活動や職場実習の受け入れなどを設定しやすいことです。新規学校卒業者の場合、卒業から就職までの期間が短いため、生活リズムを崩すことがなく学生生活から職業生活に移行できるので円滑な受け入れに繋がりやすいことや学校からのフォローアップを受けやすい(採用後の課題発生時に迅速に対応できる)こと等があります。 新規学卒者を採用する際には、特別支援学校では、年間2〜3回職場実習を計画していることが多く、障害者側と企業側双方が将来の就職を見据えて課題等を確認した上で採用に結びつけることができます。また、普通高校に在籍する障害のある生徒についても、アルバイトを含め企業での就労経験がないケースが多いので、学校と調整して職場実習を協力することが望まれます。 大学や専門学校の新規卒業予定の障害のある学生については、障害のない学生の採用の流れに準じて対応し、障害による配慮の内容などを話し合って採用手続きを進めていくことが望まれます。 〈年度途中の経験者採用のための募集〉 年度の途中で募集を行う場合、求人申込書をハローワークに提出し、職業紹介を受けるのが一般的ですが、事業主の希望に応じて「個別面接会(管理選考)」を行うことができます。 また、ハローワーク等が開催する障害者合同面接会を利用して採用する企業も多いところです。合同面接会は、一度に多数が参加することから効率はよいのですが、面接時間に制約があったり、現場を見学していただく機会を設定できないなど1人ひとりに適したきめ細かな面談を行いにくいことから、改めて事業所での面接や職場見学などを設定することが望まれます。個別面接会や合同面接会については、管轄ハローワークに相談のうえ利用してください。 また、障害者職業能力開発施設や障害者への委託訓練を実施している機関は、年度途中で訓練を修了する障害者や企業の採用時期に合わせて修了を早める等の対応をするケースもあるので、年度途中で募集を行う場合はこれらの機関との連携も計画しておくとよいでしょう。この場合、各障害者職業能力開発施設や委託先の機関に直接相談をすることも可能です。これらの情報については、管轄するハローワークに相談し、情報収集した上で計画を策定することが望まれます。 地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、地方自治体が運営している就労支援センターなどは、自施設で支援している障害者のみならず管轄地域の就労移行支援事業所と連携し、求人情報の収集をしていることが多いです。企業が採用の計画を立てているという情報を入手すると、各就労支援機関でサポートを受けている障害者に求人情報を提供しマッチングを図ろうとしていたり、職場実習を受け入れる企業を探していることもあります。このため、採用する職務の内容や労働条件が整理された段階で、これらの機関に採用に向けての取り組み内容などを情報提供することも有効です。 (2) 募集方法による分類 〈ハローワークによる職業紹介サービス〉 ハローワークでは、就職を希望する障害者に対し、専門の職員・職業相談員が、ケースワーク方式により、障害の態様や適性、希望職種等に応じたきめ細かな職業相談、職業紹介、職場適応指導を行っています。 企業に対しては、雇用管理上の配慮等についての助言を行うほか、必要に応じて地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター等の専門機関の紹介や、助成金、障害者トライアル雇用、ジョブコーチ支援等の各種支援策の案内を行っています。また、ハローワークインターネットサービスで、求職者の情報を提供しています。 ハローワークの求人情報については原則として公開されることとされていますので、これらの情報を閲覧した障害者の就労支援機関から職場実習の協力要請が発生したり、支援中の障害者の情報提供が行われる場合もあります。 なお、事業主が特定求職者雇用開発助成金等を受給するには、ハローワーク等(要件を満たす民間職業紹介業者を含む)による職業紹介を受けることが条件となります。 〈民間職業紹介〉 厚生労働大臣の許可を受けた民間の職業紹介事業者に求人申込みをして、求職者を紹介してもらう方法もあります。職業紹介事業者が主催する就職面談会に参加する方法と個別に紹介を受ける方法があります。 〈文書・Webでの募集〉 新聞・雑誌・チラシ・貼紙等の媒体を用いて募集することをいいます。 障害者の募集に関しては管轄ハローワークへ求人申込みをするのが一般的ですが、文書募集は一度に多数の求職者の目に触れる方法であることから、民間で発行する求人・求職者情報雑誌や求人広告欄、インターネットを媒体とした求人情報を利用する企業が増えています。また、各企業のホームページに求人情報を掲載するケースも多くなっています。 これらの公開されている求人情報については、ハローワークの求人と同様に情報を閲覧した障害者の就労支援を行っている機関から職場実習の協力要請が発生したり、支援中の障害者の情報提供が行われる場合もあります。 2 選考・採用面接 (1) 採用試験実施に当たっての留意事項 採用試験を実施する際には、就職の機会均等などを応募する全ての人に保障し、応募者本人の適性と能力のみを採用基準にすることが必要です。「こんな質問をされたら、応募者が不快に思ったり、つらい思いをしないだろうか」「この質問で応募者が動揺してしまい、普段の実力が発揮できないことはないだろうか」と相手を思いやる心を持ち、自社の採用目的や選考基準を相手の立場から捉えなおしてみることが大切です。公正な採用選考のためには、@雇用条件、採用基準を予め明確にすること、A特定の人を排除しないことが必要です。さらに、採用基準として、B適正・能力のみによる公平な基準を明らかにすること、C応募者の基本的人権を尊重すること、D新規学卒者の選考は書類選考のみによることなく必ず面接を実施することが定められています。 採用選考について質問の内容等について疑問や不安を感じる場合には管轄のハローワークに相談し、公正採用に努めていただくことが大切です。 なお、募集・採用時においては、障害者からの申出に応じて、過重な負担にならない範囲で採用試験や面接の実施方法について合理的配慮を提供することが義務づけられていますので留意してください。 (2) 採用面接で確認する事項 障害者の採用にあたっては、障害者本人が働くうえでの制限事項、事業所の支援すべき事項、その他障害特性からみて配慮しておくべき事項を把握しておく必要があります。 また、本人の障害や疾病の内容について、社内の受け止め方や前例となる事例等も勘案しながら、社内で誰に、どのタイミングで、どのように説明するのか等についても、対策を講じておくことが望まれます。 このため、次のような内容について必要に応じて採用面接時に本人から詳しい情報を得ておくことが望まれます。 ○障害の状況(障害手帳の確認:障害の部位、障害の等級、障害の発症原因、歩行の状況・車いすの種類、使用する杖の種類、治療・服薬・通院の必要性と管理の適否、障害に係る配慮事項及び禁忌事項、障害者手帳更新手続の有無等) ○障害や疾病についての説明の仕方 (本項(4)障害(疾病)の伝え方と内容を参照) ○職務遂行関連(コミュニケーション手段、筆記速度、読解速度、巧緻性、計算能力、電話使用の可否、パソコン操作の可否、障害のための支援機器の使用経験、荷物の運搬、立ち作業、座り作業、工具や機械操作の可否、事務・作業の方法等) ○労働条件及び合理的配慮に関する事項(希望する労働時間、執務場所の物理的環境(レイアウト、執務スペース、動線、照明や音、臭い、温度・湿度、休憩場所等)、執務場所での人的環境(人員構成、人数、他部署との関わり、電話対応、支援者や業務遂行援助者の協力の必要性等)、指導体制、通勤方法・手段や通勤時間帯、通院・医療面の配慮事項等) ○職業に関連する日常生活、社会生活の関連事項(移動能力の確認(歩行バランス、階段・段差の昇降、移動の安全性、非常時の通勤経路の変更の可否、緊急時の電話連絡の可否等)、緊急時のサポートの必要性・避難誘導時の配慮事項、SNSの適切な利用の可否、生活リズムの確認(睡眠時間の安定、体調管理、余暇の過ごし方等)、その他の生活面の介助の状況等) (3) 採用面接で配慮する事項 採用面接の留意事項や確認事項についての基本的な考え方は「障害者だから特別に対応する」ということではありません。 ただし、採用のプロセスでの障害特性を踏まえた合理的配慮に留意が必要です。採用面接の日程調整までの段階で、ご本人から配慮を求める事項を必ず確認しておき、障害の種類や程度により採用試験や面接で不利な状況が発生しないようにすることが大切です。 面接での確認必須の事項では「この職場で働きたいという本人の就労意欲」は必要です。 また、障害についての質問の仕方と留意点は、例えば、「職務遂行上での障害を軽減し、職場での安全配慮を的確に実施していくために障害のことをお聞きしたいと思います。障害には詳しくないので、不躾で立ち入ったこともお伺いしますが差支えのない範囲でお答えいただけると幸いです」等の前置きをした上で障害の内容について聴取することが望まれます。 会社側は本人の障害については初めて知る内容ですから、率直な点を聞かせていただくことや他の障害者に対して行っている配慮を話して、すり合わせていくことも大切です。 同じ障害だから同じ配慮をすればよいというものではありませんが、本人が言い出しにくい場合などもあるため、同じタイプの障害者に対応している配慮事項などを例示するなど、労使が同じ方向で相談しながら障害の軽減に取り組む姿勢があることを示すことが肝要です。 なお、障害に関する情報は個人情報の中でも特に取り扱いに注意を要するセンシティブな情報になりますから、必要以上の質問は控えることが大切です。 本人から就労パスポートなどの資料を提示していただくことは問題ありませんが、企業から就労パスポートの作成や参考資料などの提出を必須とすること、また、就労パスポートの提供がなされないことで不利に取扱うことなどはあってはなりません。 ここでは、採用面接の際の配慮事項について、視覚障害者の事例をあげて説明します。 【視覚障害者の面接の例】 視覚障害者の面接に当たっては、音声によるコミュニケーションにはあまり問題はありませんが、初めての訪問では介助者をつける等の配慮が必要になることがあります。例えばエレベーターや面接会場までの案内が必要なケースや、全盲者の場合には面接室ではいすや机の位置、面接者の配置等の説明をする必要があります。 面接では、視力に障害があるということを過大に考えることなく能力を正しく評価し、何ができて、何ができないのか、見え方の確認(視力・視野の程度など)、どんな就労支援機器や支援があればよいのか等を具体的に聴いて、職場環境を整備することが大切です。 筆記試験をする場合には、試験用紙を拡大コピーするだけでよい人、拡大読書器や読み上げソフトを利用する人、点訳の試験問題が必要な人等、障害に即した対応が必要です。 点訳が必要な場合には、点字図書館等に相談してみるとよいでしょう(Q&A【問6】(P83)にチャレンジ)。 (4) 障害(疾病)の伝え方と内容 障害を伝えて、社内が障害特性などを的確に理解し、協力体制を構築することは、障害者の雇用の質の向上につながる大切な取り組みです。しかし、職場に障害を伝えることは、本人の障害や疾患に関する機微に関わるものですから、画一的に考えるものではなく、相手に応じて対策を講じながら慎重に対応していくことが求められます。 障害の多様化などにより、他の社員から見ると、採用した障害者がどのような障害があるのか分かりにくい事例があったり、最近では障害名や疾患名をSNS等で調べて重篤な事例や誤った情報を入手し、障害者に対して適切とはいえないような対応をしてしまうケースが発生することもあります。また、本人は人事担当者と職場の上司だけには障害のことを伝えたいが、その他の社員には障害を伏せて働きたいという方もいます。 そこで、障害者を職場実習で受け入れたり、採用しようとするときには、障害の内容や配慮すべき事項について誰に、どのように、どういうタイミングで誰から伝えていくことが良いのかを整理した上で、的確に説明していくことが不可欠です。この際に、障害者本人ともよく相談し、合意形成しておくことや障害を伝えた結果、どのような受け止め方をされるか、それに対して障害者自身もどのような反応することが予想されるかといった社内に発生するハレーションとその影響についても確認・検討することが肝要です。 障害を職場に伝える際の整理のポイントとしては、次の5W2Hを整理することが望まれます。 @ 誰に伝えるか:人事担当者に対して、直属の上司に対して、同じ職場の同僚に対して、他職場の人に対して、それぞれどのように伝えるのかを整理すること A いつ、どういうタイミングで伝えるか:実習の受け入れ時、採用決定時、問題が発生した時、職場に打ち解けて周囲との関係性が構築された段階で等により伝え方、内容を整理すること B 何を伝えるか:疾患名を伝えるか、障害種類に留めるか、通院していること等だけを伝えるか、困り感や注意してほしいこと(例:「ため息をつくことが多くなったら注意信号なので教えてください」等)だけを伝えるかなどを整理しておくこと C どういう場面で伝えるか:個別相談で、採用の検討をする会議で出席した人だけに、朝礼などで自己紹介する場で、障害についての研修会の場で等伝える際のシチュエーションを整理しておくこと D どうして伝えようとするのか:困ったときに手助けできる体制づくりのために、周囲の見守り体制づくりや配慮のアイディアを出してもらうために、通院休暇などを申請しやすくするために、自分の障害についてよく知ってもらうことでより深い人間関係を作りたいために等障害を伝える目的を整理すること(特に障害者との共有化を図っておくことが有効) E どういう形で説明するか(誰から):自分で説明資料に基づいて、人事担当者から関係社員に、外部の支援者から解説をしてもらいながらなど、誰からどのように説明するのかを整理すること F どのくらいの情報量(頻度や時間)で説明するか:資料の分量や説明時間などをどのように考えるか等を整理しておくこと なお、説明、周知を行う対象社員(職場の同僚等)に対しては、SNSなどで対象の障害者には発生していない障害状況や重篤な症状例のような不必要な情報や誤った情報を収集することは諫める必要があります。説明内容について分からないこと等や聞きたいことがあるときには、説明した者に相談することを徹底しておくことが大切です。 また、社内の受け止め方や障害を伝えた後の反応については、企業ごと、事業所ごとに様々な状況があります。例えば、既に多様な障害者の受け入れを積極的に進めている職場では初めて受け入れる障害や疾患についても自然に受け止められるという場合もあります。一方でこれまで単一の障害種類の障害者の雇用を進めてきた企業の場合や過去に受け入れた障害者についてのトラウマがある職場などはマイナスのイメージを持っていることもあります。同じ程度、同じ障害の方でも受け止める側の対応力によって障害の伝え方を変えることが肝要です。 さらに、障害を伝えた後に、社内の反応などの影響で、障害者によっては説明したことを後悔したり、「知ってもらった」という安心感から当初説明しないと決めていた状況(例えば重篤な症状が出ていた時の様子や前職での失敗など)について口を滑らせてしまい、社員の誤解に繋がる等の事態も発生することがあります。 障害を伝えることにより、障害者が働きやすい環境整備を図るために、企業の担当者は、障害者と障害者を支援する支援機関との情報共有を確実に実施し、慎重にかつ、的確に進めていくことが求められます。 (5) 障害者の採用面接について 選考・面接においては労働条件(労働時間、休日、賃金等)の確認が重要となります。採用後のトラブルを避けるため、必要に応じて支援機関の支援者、家族等の同席のうえで確認してください。 【聴覚障害者との採用面接時のコミュニケーション】 採用面接では、聴覚障害者に最も適したコミュニケーションの方法(筆談、口話、手話通訳等)を決めておくことが大切です。手話だけでコミュニケーションをとる人との面接を行う時には、手話通訳を同席させて採用面接を行うなどの配慮も望まれます。手話は聴覚障害者にとってなじみのある言語なので、リラックスして自己表現できる有効手段でもあります。手話通訳の席は面接者と並ぶ位置におき、手の動きが相手によく見えるようにします。 面接の時には口話でも会話ができることがありますし、聴覚障害者の中には手話を使わない人もいます。 口話で採用面接の会話をするときには、口の動きが相手によく見えるように顔を正面に向けて、ゆっくりと、口を大きくあけて話すことが大切です。しかし、口話だけではこちらの言葉が正しく伝わらないことや聴覚障害者が早とちりをして正確に受けとめていないこともあり、また補聴器をしていても相手の発音がよくわからないことも多いため、十分にコミュニケーションをとるためには慎重に対応することが望まれます。 【精神障害者の面接時の配慮等】 精神障害者の中には初めての場面では緊張が強く、自分を十分に表現しにくい人が多いようです。また、採用面接には慣れていて、一見緊張感を感じさせずに上手に対応できるものの、経歴や実績などでつじつまが合わないことや質問されることに的外れな答えをしてしまい、内面の緊張を伝えられずに能力を低く見られてしまうという方もいます。 したがって、事業主が精神障害者の採用面接を行う場合には、本人が支援を受けた地域障害者職業センターや、その精神障害者とかかわった福 祉・保健・医療機関、障害者就業・生活支援センター等のスタッフに同伴してもらうことが望まれます。そうすることで本人の気持ちがほぐれますし、自分自身で表現が不十分なところは同伴者が口添えできます。ただし、事業主が支援機関の同伴を面接時の必須要件としたり求人票に記載することはできません。 事業主が初めて精神障害者を雇用するような場合は、雇用主の不安感を少しでもなくすために、本採用になる前に障害者トライアル雇用(助成金の利用)制度があります。障害者トライアル雇用の実施に当たっては、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を依頼し、専門的な立場から作業の選択と勤務時間の組み合わせ、勤務時間の延長方法、職場の環境整備方法、本人が職場で必要とする生活面の支援方法(特に本人が自覚していない体調不良等に対する留意事項)及び家族や各支援機関との連携方法等についてアドバイスしてもらうことも可能です。 また、精神障害者を試行的に短時間勤務で雇用し、一定の期間をかけて、職場への適応状況をみながら、徐々に就業時間を伸ばし、週20時間以上働くことを目指していく障害者トライアル雇用助成金(障害者短時間トライアルコース)の活用も有効です。 障害者短時間トライアルを含めて、障害者トライアル雇用助成金の適用においては、管轄するハローワークに障害者トライアル雇用に係る求人申込みを行い、ハローワークに求職登録している精神障害者をハローワークの紹介により雇い入れ、事業主と対象労働者との間に有期雇用契約を締結する必要があります。 その他の留意事項としては、精神障害者保健福祉手帳は2年ごとの更新手続が必要となりますので、更新日の確認が大切です。 Q&A【問6】視覚障害者の採用試験では、試験用紙の拡大コピー、拡大読書器の利用、点訳などそれぞれの障害に即した配慮が必要である。(解答と解説はP289に記載しています) 3 職場実習への協力 面接だけでは本人の能力を把握しきれない精神障害者、発達障害者、知的障害者の応募、採用が年々増加しています。これらの障害者は、面談が苦手、コミュニケーション能力に障害があるという方も多く、自身の思いを上手に表明できなかったり、面接だけでは採用の可否を決めかねるというケースも多いものです。実際に障害者の採用を考えたときには、実際の職場での適応状況を把握することが望まれます。そのような際に大事なのは実習です。 特に、一般求職者と特別支援学校生徒の採用に向けての実習の流れについては、基本的には大きな違いはありませんが、支援学校の生徒の場合には教育の一環として複数回の実習を行った上で採用選考に繋げていくことが一般的です。 職場実習の実施に当たっての留意点としては、 ・ハローワークや支援機関としっかり事前調整を図っておくこと ・実習の内容は企業側で実際の業務内容に準じて用意すること ・期間は1〜2週間(支援学校の場合は1〜3週間)程度が一般的で、休日をはさむことが有効であること ・本人の就職の意向を確認したり、従業員から職場内での様子を確認すること が必要です。 【知的障害者の職場実習】 知的障害者は一般的に、抽象的な言葉や概念を理解したり、計算や読み書きに障害があるとされています。職務を遂行していく面では、自分で判断して行動すること等が苦手で、仕事を覚えるのが遅い人も多いといわれています。しかし、一度覚えた仕事は正確にこなし、こつこつと取り組めるまじめさがある方が多いともいわれます。マイナス面ばかりに目を向けず、1人ひとりの特徴を正しく理解して、能力を引き出せるように職場環境や態勢を整備すれば、職場の大きな戦力となります。 知的障害者を正しく理解し、態勢等を整備する 手段として、特別支援学校等の在校生を対象とする職場実習、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援、障害者を試行的・段階的に雇い入れる際の障害者トライアル雇用助成金の活用等があります。これらの制度の活用によって、知的障害者は職業や職場について理解することができ、事業主側は障害の程度や体力、作業能力、性格等を正しく評価でき、障害者が持ちうる能力を発揮できるような指示の出し方、指導方法や声掛けの仕方などを習得することができるのです。 【聴覚障害者の職場実習時のコミュニケーションの確認】 聴覚障害者のコミュニケーションの行き違いの状況については、面接だけではなく、実際の業務遂行場面で現れてくることも多いです。そのような時には筆談を交えてコミュニケーションをとるようにします。このために面接や職場実習などの受け入れ時には、筆談用の用紙や筆記具を必ず準備しておくことが必要です。また、最近ではIT技術の発展により、会話を文字で表示できる就労支援機器を活用することも聴覚障害者とのコミュニケーションを円滑にするために有効です。 なお、筆談を行う際には複雑な言い回しを避け、簡潔な文章で説明することを心がけ、面接者の言葉を相手に伝える筆記係を同席させたり、正確に伝わっているかどうか復唱してもらったり、実習場面での状況を確認するとよいでしょう。 4 障害者の配置 (1) 職務への配置 職務配置は、採用した従業員の能力の活用を図るための前提となるもので、雇用管理の出発点です。 障害者の個性、体力、職業能力等が担当職務に適合する場合には、当該障害者はその実力を遺憾なく発揮し、満足感・充足感をもって仕事にあたることができるでしょう。一方、配置が適切でない場合、「仕事が自分に合わない」「仕事の技能が足りない」「職場は障害者に理解がない」などの不満が生じることとなり、退職や転職の要因をつくり出す結果となります。さらに、知的障害、精神障害、発達障害などの認知面の障害のある方などについては、職場配置では音やにおい、気温や照明、レイアウト(執務場所)、電話対応の有無などの物理的な職場環境に加え、指導者のタイプや相性、指導方法の適合性、周囲の同僚の声掛けの仕方など人的環境の影響が大きい点を理解しておくことが必要です。 職務配置には「採用時配置」と「配置後の調整」がありますが、前者の採用時配置はおおよそ次のような観点で手続きを進めます。 @ 人には誰しも一定の個性があり障害も個性の1つである。個性は変化することも考えられることから、適合性についてはその人の能力開発の観点から把握する。 A 適合性の判断の重要な要素である体力や職業能力は、将来のその人の能力伸張を見込んで予測しておく。 B 適合性はその人の置かれた物理的、人的な環境や条件の変化によって可変的であることを理解し、引き続きその検討を行う。 C 職務に対する興味や仕事のやり甲斐との間には、ある種の相関関係が考えられることから、職務配置の適合性についてはその人の興味や性格への配慮を行う。 D 障害者の中には初期緊張が強く、入職時に持ちうる能力を発揮しきれない方も少なくない。職場への慣れ、担当業務の体得、周囲のメンバーとの連携を会得すると質量両面で大きく伸張する者も多いが、この成長のスピードはかなりの個人差がある点を理解し、過度のプレッシャーや過剰なサポートを行わないように留意し、個々の適性を見極めることが大切。 E 適合性をめざす職務配置はあくまでも予測に基づくものであるから、配置後の調整としての「配置転換」「昇進」及び「昇格」等についてその検討を行う。 (2) 配置後の職務の適正化 配置後しばらくたっても当該障害者が期待どおりの成果をあげることができなかったり、生産(事務・販売)工程や作業方法が大幅に変わってしまい作業に適合しなくなった場合には、次のような方法で職務の適正化を図る必要があります。 @ 本人の能力と職務(作業)が適合しているかどうかの把握を行う。 A 本人の能力に合わせて職務(作業)の内容を改善するための「職務の再設計」を行う。 B 本人の作業を容易にするための「工具、治工具、機器の改善」や「職場環境の改善」を行う。 C 本人の能力を向上させるための支援を行う。 D 本人の能力に向くと考えられる職務(作業)への「配置転換」を行う。 職務の適正化には「昇進」や「昇格」も含まれます。障害者が、障害のない人と同等又はそれ以上に職務遂行ができ、仕事の実績をあげている場合、現在の職位より高い職位へ配置変更することによって本人のモチベーションを高めることができます。 また、仕事の難易度が同じであってもより多くの種類の仕事をこなす力を有している障害者も多いです。職務遂行面の評価はより高いスキルへのチャレンジに加え、担当できる仕事の種類を増やし幅を広げていくこと、すなわち横方向の展開を適切に評価していくこともモチベーションの向上につながります。 さらに、同じ難易度、スキルの業務であっても企業の中核的な業務、ステータスの高い業務を担当することは労働者にとって、企業側から重要視されているという意識の高揚につながります。障害者の業務での具体例を次に示します。 例えば、顧客データを整理してパソコン入力する仕事をしている障害者がいるときに、初心者については、関連の個人データを参照し「氏名」「生年月日」「居住地」「取引履歴」を登録する作業を担当させています。ステータスの高い者に対してこの個人情報の入力作業を担当させるときに、入力するデータ内容は「氏名」「生年月日」「居住地」「取引履歴」と同様ですが『重要顧客』として閲覧できる社員を限定しているデータを担当させるという形などが考えられます。要するにセキュリティレベルや企業側にとっての重要度で仕事を細分化して段階付けし、より重要な情報、業務の根幹に関与する立場や中心業務に就くというステータスを用意し、この点を評価の軸に加えていくことで業務の難易度を上げなくてもモチベーションに繋げていくことができる段階付けが可能になります。 これらによって適切な評価を行うことにより、当該障害者が働いていた職務(職位)が空席となるため、新たに別の障害者を雇用することに繋がります。 ただし、認知面の障害のある方にとっては昇格することが過度の負担に繋がり、昇格することで自信を無くしたり、処理しきれなくなるケースもありますので、障害者本人の考え方や希望、昇格後の職務イメージやサポート体制などに十分に留意して無理がない形で対応していくことも肝要です。 5 障害者の職業訓練 (1) 障害者の職業能力開発の目標と課題 障害者の職業能力開発のためには、第一に企業が必要とする又は期待する知識・能力・態度を障害者自身が身に付けることと、第二に、障害者を取り巻く人的・物的環境、さらには企業風土を真に共生できるものに仕立て上げることが課題としてあります。この二つの課題が解決できたとき、障害者が職場で十分に能力を発揮し、それに応じた処遇がなされ、障害者を含めた全従業員が一体となって経営目標の達成に向かって努力する土台が構築できるでしょう。そして、これこそが障害者の雇用に関する企業の社会的責任を果たすことにつながります。 二つの課題は、職業能力開発に二つの領域があることを示唆します。一つは障害者に対する能力開発に関する領域です。もう一つは企業内の障害者と共生できる人的・物的環境づくりの一環としての従業員の能力開発の領域です。 つまり、障害に配慮した雇用管理として、企業の現場においては障害者の能力開発だけでなく、障害者の能力を発揮しやすい職場の環境調整の重要性も増しています。就労支援機器の積極的活用や物理的職場環境の改善・整備、また、教育訓練や能力開発での配慮及び職場における支援者の配置等の人的支援の確保など物的・人的両面からの環境調整を構築していくことが大切です(本章第1節3参照)。 企業風土というものは、一朝一夕に出来上がるものではありません。これまで、職業の世界はとかく障害者を避けてきたという事実があり、企業社会も障害者とともに働くという経験・知識をあまり多くもっていません。それだけに外観で判断したり、偏見や先入観に支配されてきました。そのため、障害のある人とない人が共生するという企業風土・従業員意識を永続性のあるものとして定着させることが何よりも必要なことです。 これを実現するには、従業員個々の永続的な変容が必要です。一時的な変容であれば、命令、指示、要望といった通常の管理アクションによって起こすことができます。しかし、永続的な変容ということになると、教育的な働きかけによる意識改革が必要となります。 ここでは、前者、すなわち障害者に対する能力開発に関する職業訓練領域について述べます。 ただし、後者、すなわち物的・人的両面からの環境調整と、障害のある人とない人が共生する企業風土・従業員意識を永続的に定着させるための教育を継続的に行わなければ、前者はうまく機能しないでしょう。そのことを第一に踏まえておくべきです。後者の必要性を前提にしているのだと記憶していただきたいと思います。 (2) 障害者に対する職業訓練の概要 @ 職業訓練をしたほうがいいの? 雇用現場では、企業が要請し期待すること(「こうあって欲しい」「こういう行動がとれなければならない」など)と障害者本人の行動・機能との間に差があったり、あるいは現状をそのまま放置しておくと差が生じる懸念があったりします。この企業の要請と障害者の行動・機能との間の差をギャップと呼ぶこととします。 一般的に、安定して仕事を継続できる状況というのは、「個人の現有機能」が「企業の要請」を満たしてギャップがない状態といえます。これは障害者であっても同じことです。障害者に適した仕事を準備し、安定した職場とするためには、ギャップを無くすように企業も障害者本人も、そして周囲の人も、それぞれの立場で皆が努力することが必要となります。 この努力の一つとして、障害者本人の能力を引き上げてギャップを埋める職業訓練があります。ただし、障害特性が原因で適応能力や職務に必要な能力が著しく不足しているケースでは、職業訓練だけで能力を引き上げるのには限界があります。そのため、企業は作業施設・設備を改善するなど、障害者本人を取り巻く環境を調整してギャップを埋める必要もあります。 また、障害者本人の努力以外の方法もあります。環境調整するだけでギャップが埋まったり、障害者本人の能力で可能な新しい職務や就労形態を創り出すことでギャップを埋められるケースもあります。 このように、ギャップを埋めるには幾つかの方法があり、職業訓練が必要かどうかはケースバイケースです。そこで、ギャップの原因がどこにあるのか着目して、必要かどうかを判断します。 もし、ギャップの原因が作業施設・設備の問題だとすると、環境を調整することによってギャップを埋められる可能性が高いです。この場合は、働く環境整備の問題と考えるべきです。また、ギャップの原因が心因的なもののときは、カウンセリングや周囲の人の接し方を変える環境調整でギャップを埋められる可能性が高いです。この場合は、職場での(障害者との共生を意識していない)コミュニケーションの問題と考えるべきです。 そして、ギャップの原因が能力不足や未熟さにあるときは、職業訓練によって補うことが必要となります。 職業訓練というと仕事に関係する技能の向上・開発だけが取り上げられがちですが、障害者の場合、それだけでは不十分です。直接仕事に関わる課題だけでなく、それ以外の課題もあります。障害者は、職場の中で人々と一緒に働くうえでの決まりごとや習慣などを体験することが少なく、経験したとしても極めて限定されたものとなる場合もあります。いわゆる企業で働くためのレディネス(準備態勢)の形成が障害のない人に比べると遅れている場合があるからです。 そこで、知識・技能・態度の3つの能力について職業訓練が必要かどうか判断することが大事です。なるべく客観的に判断できるようにアセスメントツールを活用すると良いでしょう。 また、職業訓練にはOJTとOFF-JTの2つの方法があります。どちらの方法を採用するのかは、後述するメリットを参考にしてください。 もちろん、ギャップの原因は1つとは限りません。ギャップを埋めた後にはもう一度ギャップを見直してください。新しいギャップの原因がみえるかもしれません。 図1 職業訓練の必要性の検討 A OJTによる職業訓練のメリット OJTとはOn the Job Trainingの頭文字をとったものです。「職場内訓練」といわれ、仕事をしながら学んでいく職業訓練を指します。一般的には、教育係と一緒に仕事をしながら仕事内容を学んでいきます。 例えば、職場の先輩が教育係となって新人と一緒に仕事をしながら教えているのもOJTです。この例では教育係も仕事をしていますが、障害者のOJTでは一緒に仕事はせずに支援員が教育係となって仕事を教えるという方法もあります。 いずれも、仕事をしながら学ぶので、仕事に必要な知識・技能だけを効率的に学び、現在担っている仕事を正しく、時間内にきちんと遂行する能力を身につけることができるメリットがあります。 これは障害者に限ったことではありませんが、障害者の中には原理・原則を学んでも実際の作業行動に応用することが苦手であったり、同様の作業であっても作業環境が少しでも変わると戸惑ってしまい作業ができなくなる人もいます。こうした人にはとりわけOJTによる指導が有効というメリットもあります。 また、OJTは管理・監督者それぞれにあるいは職場の先輩・同僚などと障害者とが、働く現場での日常の接触そのものを通じて行われるものです。従って、そのこと自体に大きな意義があり、職場内での共生を確実にするために願ってもない、よい方法といえましょう。 B OFF-JTによる職業訓練のメリット OFF-JTはOff the Job Trainingの頭文字をとったもので「職場外訓練」といわれます。仕事の場を離れての職業訓練で、主として集合訓練の形をとって行われます。 例えば、企業内に研修センターなどの訓練施設があり、そこに従業員を集めて研修を行うのもOFF-JTです。また、各地にある訓練施設で開催されている講習会を利用して専門知識・技能を習得するのもOFF-JTです。最近は、障害者の職業訓練に直接または間接的に関係する社会資源も豊富になってきました。例えば、障害者職業能力開発校では、在職者向けの職業訓練を実施している所もあります。 これらのOFF-JTは、仕事をしながらでは十分な対応ができない部分、例えば体系的な理論の習得や新しい技能の習得ができるというメリットがあります。特に新規分野、経験者が誰もいない仕事を学ぶときに効率的に学ぶことができます。 また、これから職場に導入される新たな機器の使い方などは、実際に機器に触れながら学んだほうが習得が早いです。OFF-JTだと、導入前であっても、新たな機器が整備されている訓練施設に出向いて学べるというメリットがあります。 さらに、施設で指導している講師は、その分野について幅広い知識を有しているだけでなく、教える技術についても長けています。よくいわれることですが、知っていることと教えることは違います。熟練技能者が優れた指導をできるとは限りません。教える技術に長けた先輩や支援員がいないときには、OFF-JTの方が効率よく短期間で知識・技能を学べるでしょう。 また、OFF-JTを実施している訓練施設での交流にも大きな意義があります。技術動向を知ったり、障害者に対する新たな制度や支援機器を知ったり、役立つ情報を得ることも多々あるでしょう。同じ講習の参加者から、他社ではどのような支援を行っているのかを知る機会を得ることもできます。 (3) 職業訓練の指導の流れ 職業訓練は、障害者個々の技能・知識・態度の習得状況に応じて具体的にかつ段階的に行うことが必要です。ここでは、多くの所で実践しており、仕事の教え方として実績のあるTWI(Training Within Industry)を基本として指導の流れを紹介します。職業訓練をOJTで実施するときの参考にしてください。 TWIの指導方法は、仕事を正確に、安全に、段階を追って効果的に習得させるものです。指導の流れを、「導入」「提示」「実習」「総括」の四段階に区分しています。ただし、TWIを基本にした指導方法は障害のない人を対象として開発された方法なので、各指導段階に応じて障害特性の配慮事項や注意点を盛り込んで指導することが大切です。 @ 第一段階 「導入」 「導入」は、訓練に入り習う準備をさせる段階です。「関心を集める」→「作業名を告げる」→「これまでのこととの関連を述べる」→「その作業の重要性を述べる」→「正しい位置につかせる」というステップで展開します。 【指導上の配慮】 障害者の中には、新たな課題に対して極度の緊張や不安感を抱く者がいます。このように新たな課題への対応には常に緊張や不安感が伴うことを考慮し、彼らの体験や価値観を尊重した対応が必要です。正確な作業を目標にしますが、まずは本人のペースでできることを確実に習得するように指導し、緊張や不安感を取り除くようにしましょう。また、全体の把握が苦手という者に対しては、これから行う作業の全体像をより具体的に示す必要があります。例えば、完成品の見本などを視覚的に提示することが効果的です。 A 第二段階「提示」 「提示」は、指導者が作業を説明し模範動作を示す段階です。「主な手順を1つずつ言って聞かせ、やってみせる」→「急所を強調する、理由も述べる」→「はっきりとぬかりなく、根気よく、理解する以上に強いない」というステップで展開します。 【指導上の配慮】 障害者に対する作業内容の説明や指示の出し方で注意すべきことは、その内容を理解しているかどうかを確認しておくことです。それは、曖昧な状況が苦手だったり、融通がきかず杓子定規であったりするなど、配慮した話し方で説明しないと理解が難しい障害特性の人もいるからです。もし、理解していないままに指導を続けると、場合によっては指導者に対する不信につながることもあります。従って、説明や指示は、具体的にはっきりと断定的に行い、理解する能力以上に強いないように心がけることが大切です。特に、配慮した話し方は一律ではないことに注意してください。障害者本人の障害特性にあわせて1人ひとり話し方を変えましょう。 B 第三段階「実習」 「実習」は、障害者に対して実際に作業をやらせてみる段階です。「やらせてみて、間違いを直す」→「やらせながら、作業を説明させる」→「もう一度やらせながら、ポイントを言わせる」というステップで展開します。 【指導上の配慮】 実習における指導上の基本は、マイナス面よりはプラス面を重視し、障害者本人のできる作業を確実に実行できるように得意分野を伸ばすことです。それは障害者の多くが、障害特性のために思うようにできないもどかしさを感じており、彼らの自信の回復や自発性の拡大が職業上の課題であるからです。従って、この段階では動作を確認しながら、その場で誤りを修正すると同時に少しの進歩でも褒め、内的な動機付けを高めることが必要になります。さらに、作業のミスについては、なぜ失敗したか、どこが悪かったかを一緒に考え、本人が納得するような対応策を見出していくことも必要です。 C 第四段階「総括」 「総括」は、訓練結果を検証して目標に達したか否かの確認をする段階です。「チェックポイントにしたがって、訓練結果を評価する」→「訓練のポイントを再度確認し、次の訓練課題に活かす」というステップで展開します。 【指導上の配慮】 障害者の中には環境適応が苦手な者が少なくありません。そのために、実際の作業を体験して慣れるという過程が必要であり、一課題ごとの評価が実態に沿わない場合もあります。そこで、短期間の評価に加えて環境適応という長期の変化をも見据えた視点から総合的に評価し、本人のできる作業を見出していくことが重要になってきます。いわば、長期間にわたった実習内容から適性を見出していくのです。小さな一歩を踏み出してみて、うまくいけばもっと頻繁にやる、うまくいかなければ、別の小さな一歩を試みるのです。こうした小さな成功の積み重ねによって、障害者のできる内容を見極めていくことが大切です。 (4) 職業訓練の指導のポイント 障害者に対して職業訓練を実施するときは、障害種別に関わらず指導全般で共通となるポイントがあります。1つ目が、指導する者と指導される者との「関係づくり」が大切なポイントになります。2つ目は、実際の仕事を教えるときの情報発信のしかたとして「指導上の指示・手がかり」がポイントになります。3つ目が、ミスの原因を追究し改善していく「フィードバック」がポイントになります。最後に、最も重要なポイントが、障害による制限を克服する手立てとしての「障害状況に応じた指導」です。以下、それぞれについて紹介します。 @ 関係作りのポイント 職業訓練には指導する側と指導される側との、いわば立場の異なる対人関係があります。また、障害者との関わりでは、障害特性から対人関係やコミュニケーションに課題を抱えていることもありますので、関係作りはとりわけ大切です。こうした関係をうまく成立させるには、相互の信頼関係を築くことが大前提になります。信頼関係は一朝一夕に築くことはできませんので、段階的に築いていくことが必要です。 第一段階は、誘い込みです。誘い込みとは、訓練への導入であり、訓練内容に興味を持つように障害者を引き込んで、その雰囲気を味わわせることです。この段階では、障害者とのコミュニケーションを重視し、特に障害者の話すことを徹底的に聞いて、安心感を与えます。 第二段階は、指導者に関心をもってもらうことです。そのために、まず、指導者は、障害者に呼びかけたり、障害者からの話しかけに応えたり、あるいは応えやすい話を向けるなど、障害者に関心があることを積極的に示す必要があります。その一方で、指導者は、障害者が指導者に関心を示すような僅かなサインを見逃さないように、常にアンテナを張っておく必要もあります。 第三段階は、指導者への関心をさらに深めてもらうことです。そのためには、声かけしながら近づくことを頻繁にしていきます。障害者が困っているような様子のとき、あるいはふだんと少し様子がちがうとき、あるいは必要がないようなときでも、できるだけ頻繁に、声かけしながら近づくことです。声かけを繰り返すことで、やがて向こうから呼び止めてやり方を聞いてくるようになります。 以上のような段階的な心積もりで関係作りをしていき、指導者は障害者の関心の深まり具合を確認しながら信頼関係を築いていくのです。 A 指導上の指示・手がかりのポイント 「人を見て法を説け」というとおり、障害者本人に合わせた指導法をとることが重要です。しかし、その方法にはいくつかのタイプが経験的にあるといえます。指導者が障害者本人に何らかの影響力をもたらす手段(媒体)からみると、次の6つの指示・手がかりの方法があります。 ア 言葉で示す方法 言葉で「……しなさい」と伝えて指導する方法です。ただし、指導者の話し言葉に曖昧な表現があったり、抽象的であったり、周囲に雑音があったりすることにより意図が伝わらないことがあります。障害特性上、一般的には伝わるレベルの言葉でも、ほとんど意図が伝わらないことがよくあるので、言葉を選んで話をする必要があります。 言葉で示す方法は、最も多くとられる方法なので、指導者は障害者1人ひとりにあわせた配慮した話し方を最優先で習得しましょう。 また、指導者の指示に従わなかったときに起こしがちな怒った顔や声の調子などはマイナスの影響を強く与えてしまいます。「こんなこともできないのか!」という見方や考え方は、指導の過程では指導者の頭の中から取り除くことが大切です。 イ ジェスチャーで示す方法 「ここを押す」「あちらを向く」など指導者が手で指示したり、身体全体で指示する方法です。その際、あいまいなジェスチャーを避ける、速すぎない、一度に多くのことを同時に示さないなどを心がけるのがポイントです。 ウ 見本を示す方法 訓練で行う作業の全部又は一部を実際にやってみせて、障害者がそれを見本にして作業させる方法です。障害のあるなしに関わらず、実際の作業をみせたほうが理解しやすいです。もし、障害者本人が、周囲の人の行動をマネするのが上手な場合は、特に効果的です。 エ 身体的に支える方法 正しく行動できるよう指導者が障害者本人の身体に直接触れながら物理的な手助けをする方法です。ただし、障害特性によっては、指導者がやわらかい力で触れても障害者本人が痛みを過敏に感じたり、身体を触れられることを嫌悪する人もいますので、細心の注意が必要です。また、このような障害特性がなくても、体に触れる前には必ず声を掛けることを心がけましょう。 オ 要点を強調する方法 教える要点を際だたせるために工夫する方法です。重要な部分は、大きく書いてみせる、声を大きくする、図で示しながら説明する、目印をつける、動画や実物を見せるなど注意を引きつけるように心がけましょう。 カ 教材・補助具を使用する方法 仕事や行動の見本を模型、道具、図版や表などを利用して理解しやすくする方法です。親近感をもたせ、注意力、正確さなどを伸ばすときに効果があります。障害者に合わせてオリジナルの教材を開発することもあります。 B フィードバックのポイント どのような仕事でも、正確さとスピードが要求されます。この要求を目標として訓練を繰り返しますが、1回で目標をクリアできる人はいません。ミスを繰り返しながら、徐々に目標に達していきます。 この時に大切なことは、ミスに対するフィードバックです。ミスの原因は何か、どうしたらミスを解消できるかという原因・対策を障害者自身が認識し、ミスを修正する行動が必要です。特に、障害特性によっては、自ら気づき修正していくことが苦手な人もいますので、フィードバックに対する指導がより重要となります。 フィードバックに対する指導のポイントは、@現状把握、A原因追及、B本質追究、C対策樹立、D目標設定という流れで行うことです。 @は自分の行動に対してどこが不十分かを気づかせます。気づかないときは、指導者がヒントを与えます。Aは不十分な行動別にその原因を考えます。しかし、障害の影響により自分で原因を見出すことが苦手な人が少なくありません。その時は指導者が一緒に考えて原因を導いていきます。Bは不十分な行動の中で何が一番の課題なのかを追究します。Cは不十分な行動別にどのような対策が有効なのかを考えます。この時も指導者が一緒になって考え、障害特性を考慮した最も良い対策を検討します。Dは対策のうちで重点項目を絞り、次の目標とします。 なお、ミスに対するフィードバックは、ただ考えるだけではなく、実際に作業を繰り返してみることが大切です。 C 障害状況に応じた指導のポイント 一般的に、技能や技術は教えられて覚えるのではなく、見よう見まねで覚えるものといわれています。一般論としてはそれでよいかもしれませんが、障害者の場合は一概にそうとも言えません。障害によっては、うまく見えない人もいるし、また、たとえ見えたとしても、麻痺などのためにまったくちがった身体(からだ)の動きになることもあります。しかも、自分の見え方や身体の動き方を感覚的に把握することに課題がある障害者は少なくありません。こうしたことから、障害者には見よう見まねの前の段階の指導、つまり、障害状況に応じた指導が必要なのです。 障害状況に応じた指導とは、障害による作業の制限を障害者本人の立場から見極めて、指導者が改善策を発見することです。そのためには、作業におけるさまざまな身体の動きを想像し、あたかも自分の身体の中で障害を乗り越える試行を繰り返しながら、障害者本人の状況に応じた改善策を創り出していく必要があります。こうした「障害者の立場になった作業シミュレーションの視点」について、そのポイントを姿勢、目線、タイミング、判断尺度からまとめます。 ア 姿勢 作業を正しく行うためには、まず、姿勢が基本となります。姿勢は作業における正否、安全、やりやすさという面から、最も適切な体の構えかたをする必要があります。したがって、仕事を始めるに当たっては、つねに姿勢を確認するのがポイントです。 例えば、障害による機能的な制限から猫背で正面をきちんと向けない場合を考えてみましょう。猫背は作業姿勢として無理な構えが多いために正確な動作ができず、疲労もかさみます。このような状態を回避するには、その人の状態に合わせた構えかたをシミュレーションしてみると、身体の重心のズレが判明します。そこで、この状態を調整する工夫として、例えばリュックサック等を装着して重心のズレを直すといったような改善策を創り出して行くのです。 イ 目線 姿勢の改善策が創り出せたら、次は目線の改善策です。 目線とは、作業時に手先の動きや作業の対象物のどこを見ているかです。作業内容によって全体を見ている場合もあれば、一点に集中している場合もあり、この目線が正否に大きく影響します。 とくに、障害によって見える範囲が限られる場合や、見えていない場合での把握が重要です。この見える範囲の確認は、医学的な情報を踏まえつつ、障害者の動作や作業結果をベテランの経験と鋭い観察眼によってシミュレーションしながら突き詰めていきます。 例えば、通常の見える範囲が狭まっていることを確認するために、ボールをいろいろな方向から転がして受け止められるかを観察します。その上で、見える位置や身体の姿勢などを変えて、作業上の制限の解消を図って改善策を創り出していくのです。 ウ タイミング タイミングとはカン・コツに通じるもので、一言で表現しにくいものです。いわば、作業を進める上で、手先の動きのちょうど良い頃合いというようなものです。この感覚は、言葉で伝達できる判断とは異なる感性的な側面があります。つまり、外からの刺激を身体全体で受け止める感覚であり、実際の経験に基づいて次第に習熟していきます。 しかし、障害者の場合は、身体的及び精神的機能の一部が損なわれているために、タイミングの感覚に微妙な狂いを生じます。そこで、指導者が自ら障害状況を思い浮かべて作業を再現し、障害者の動きの欠点を把握することが大切です。こうすることで、障害特性に応じたタイミングを引き出すことができます。 例えば、片手に障害があった場合、両手によるタッチタイピングをいかに片手だけで行うかを考えてみましょう。指導者は片手だけでタイピングのシミュレーションをし、ホームポジションやそれぞれの指の動作範囲と役割を変えて、片手障害に合ったタイミングを創り出していくのです。 エ 判断尺度 仕事の作業を進めていくときには、作業途中で出来映えの判断をしながら進めていきます。このとき、出来映えの判断要素は長さ、温度、色、形など作業内容によってさまざまです。一般的に、長さであれば物差し、温度であれば温度計といったように標準化された測定器がありますが、作業途中の判断尺度は標準化された測定器を使わないことが多いです。つまり、作業途中での判断は自分の身体を通した尺度を用いていることが多いのです。長さであれば掌や指の長さ、温度であれば色の変化や音を基準にして判断します。 ここで、障害による制限によっては、判断尺度自体を置き換える必要があります。例えば、知的能力の制限から数量の判断が苦手な場合は、製品を積み重ねた高さを尺度にして判断する方法に置き換えます。このように、障害者1人ひとりの特性に配慮した判断尺度を創り出していくのがポイントです。 (5) 職業訓練での話し方の工夫 @ 配慮した話し方 障害者とのコミュニケーションの多くは言葉で行います。「職業訓練の指導の流れ」や「職業訓練の指導のポイント」でも触れていますが、言葉は使用頻度が高く日常的に使いますから、指導者は障害者1人ひとりにあわせた配慮した話し方を最優先で習得したほうがよいです。 例えば、発達障害者とのコミュニケーションにおいて、こういうことが起きなかったでしょうか? 指導者「この書類は申請を行うのに必要な書類です。明日の申請に間に合うように忘れずに持ってきてください。」 本 人「わかりました。必ず持ってきます。」  《明日になって》 指導者「昨日言っていた申請書類を持ってきましたか?」 本 人「はい、ここにあります。どうぞ。」 指導者「何も記入していませんよ!どうして!」 本 人「え!!」  これは、障害者本人に「暗黙の了解(お互いに常識的にわかるので言葉から省略している部分)が読み取れない」という障害特性があるのを失念して、指導者が配慮した話し方をせずに指示を出したことでトラブルが発生しました。もし、配慮した話し方をしていたら防止できたトラブルです。 よくみると、指導者の指示では「申請に間に合うように持ってくる」としか喋っていません。書類の必要事項を記入することを伝えていません。なぜなら、常識的に「申請に間に合うように」から「必要事項を記入済みにする」という意図が伝わるので、喋らなくても相手に伝わるものと無意識に判断して、暗黙の了解にしてしまったのです。 しかし、暗黙の了解を読み取ることができない障害者本人には伝わりませんので、必要事項を記入しません。けれども、言葉として指示のあった「間に合うように持ってくる」は守っています。ですから、必要事項を記入していない障害者本人を責めるのは間違っています。指示通り行動しているからです。 暗黙の了解を読み取れないのは障害特性なので、簡単には改善しません。障害者本人に合わせた配慮した話し方を指導者がする必要があります。 また、コミュニケーションに課題のあることが多い発達障害以外であっても、配慮した話し方は必要となります。一般的には、視覚障害者であれば、「あれ」「それ」といった指示代名詞を使わずに具体的に示しながら話します。聴覚障害者であれば、音の情報から得る状況判断が困難なので、周囲の状況を含めた説明を含めながら話します。精神障害者であれば、プレッシャーや誤解を与えないように話します。発達障害者であれば、曖昧な表現や暗黙の了解を使わずに話します。 ただし、何に配慮して話すのかは、1人ひとり異なります。目の前の障害者本人をよく観察し、そしてどのような話し方だと意思疎通できるのかを話し合って、配慮した話し方を決めることが大切です。 A 理解しやすい話し方 障害のあるなしとは関係なく、指導者は以下の事を守って話す必要があります。これは理解しやすい話し方の基本中の基本です。 ・聞き取りやすい適切な速度で話す。 ・全員が聞き取れる声量で話す。 ・「えっと」や咳払いなど、話と無関係な感嘆符や音を抑えて話す。 ・板書しながら話さない。板書を終えた後に障害者本人を見て話す。 さらに理解しやすくする話し方のポイントを紹介します。 まず最初に、理解しやすい話し方をするためには、指導者は一方的に話し続けてはいけません。指導者は話の節々で障害者本人の反応を確認しながら、話を続けましょう。 この反応の確認方法は、障害者本人の観察で構いません。指導者は話にあわせてうなずいているかどうかを観察します。また、時々障害者本人に質問してみて、話を理解していたかどうかを確認するのもよいでしょう。もし、集合訓練で指導していて、指導者が理解しやすい話し方をしているのなら、多数の障害者がうなずいたり、指導者の方を向いて熱心に話を聞いているかどうかを判断基準にします(Q&A【問7】(P93)にチャレンジ)。 ところで、うなずいていなかったり首をかしげている障害者が多数を占めているときは、指導者は理解が難しい話し方をしている可能性が高いです。このような場合、障害特性による影響以外で考えられる原因には、次のようなものがあります。 ・指導者が障害者本人の知らない専門用語を使って話している。 ・指導者が話している状況や場面について、障害者本人は経験がなく想像できない。 ・話の前提となっている背景や状況について、障害者本人は理解していない。 ・指導者が話す順序が時系列に沿っていない。 すなわち、これらの原因を排除することで、指導者は理解しやすい話し方ができます。 まず、障害者本人が専門用語を知っているかどうかや、状況や場面の経験があるかどうかについては、障害者本人の持っている知識や経験から確認できます。日常のコミュニケーションで把握しましょう。 また、話の前提となっている背景や状況については、指導者が当たり前と感じているために、うっかり障害者本人に説明することを忘れてしまうことが多いです。指導者がベテランであればあるほど、無意識のうちに説明を省略してしまう傾向があるので、注意が必要です。そのため、意識的に基本的な部分の説明も話の内容に盛り込んでおきましょう。 ここで、理解しにくい話し方と理解しやすい話し方の例を紹介します。なお、障害者本人はインターネット技術を習得するために訓練を受講しているという設定です。ただし、訓練開始直後なので、障害者本人はインターネット技術の基礎的な知識は持っていません。 次の例は、障害者本人の知識の範囲内から大きく外れ、背景や状況の説明が省かれた、理解しにくい話し方になっています。おそらく、この本を読んでいる多くの方も理解が難しいでしょう。なお、網かけの部分が障害者本人の知識の範囲内から大きく外れた箇所です。 【理解しにくい話し方の例】 インターネットはTCP/IPによって接続されているから、これを知っておくことはとても重要です。例えば皆さんは、ネットワークに輻輳(ふくそう)が発生して困ってしまうことがよくありますよね。これは、セグメントの分け方に問題があるかもしれません。この授業で習った知識を用いて、快適なインターネット環境を構築しましょう。 もし、専門的な知識と経験を持っている人なら、この話は容易に理解できます。指導者は専門的な知識と経験を持っているので、無意識のうちに、前述のような話し方をしてしまったのです。 次の例は、前述の【理解しにくい話し方の例】とまったく同じ内容を話しています。ただし、障害者本人の知識の範囲を考慮して専門的な部分の言葉を変えています。さらに、説明を省いている背景や状況も追加しています。網かけの部分が言葉を変えたり、話を追加した箇所です。 【理解しやすい話し方の例】 インターネットは、全世界の各種機器が利用できるように、TCP/IPと呼ばれる統一された技術仕様とルールによって接続されているから、これを知っておくことはとても重要です。例えば皆さんは、ネットワークがとても重たくなって困ってしま うことがよくありますよね。頻繁に重たくなるときには、そもそもネットワークの設計に問題があるかもしれません。TCP/IPを知ることで、どのようにネットワークを設計したらよいのかがわかります。この授業で習った知識を用いて、快適なインターネット環境を構築しましょう。 この例のように、無意識のうちに障害者本人がまだ覚えていない専門用語を使ったり、背景や状況を省略することはよくあることです。そのため、専門知識や説明の省略をしても障害者本人が理解できるレベルはどこなのかを、指導者は常に把握する必要があります。そして、専門用語を別の簡易な言葉に置き換えたり、背景や状況の説明を追加したりしてください。もし、置き換えや追加説明が難しいのであれば、図や動画といった補助資料を事前に用意してもよいでしょう。 さらに気を付ける話し方としては、話す順序が時系列と沿っていないと、障害者本人が混乱をきたす恐れがあります。そのため、指導者は思いついた順番で話すのではなく、作業手順などを参考にしながら、時系列を意識して話しましょう。 もちろん、他の原因で指導者が障害者本人に理解しにくい話をしていることもあります。いずれにしても、指導者は障害者本人の反応から話を理解していたかどうかを察知して、理解していないようなら原因を探って改善することが大切です。 (6) テレワークにむけての職業訓練 これまでも、通勤が困難な障害者や、自宅やサテライトオフィスの方が能力を発揮できる障害者のために、在宅雇用で在宅勤務を行うことができました。ですが、環境面・制度面の整備や雇用管理等のハードルが高く、少しずつしか普及しませんでした。 しかし、新型コロナウィルス感染防止対策のひとつとして、情報通信技術を活用した在宅勤務(以下「テレワーク」という。)が注目されました。そして、テレワークに必要な技術が一気に進歩し、企業もテレワークに必要な制度や機器の整備を積極的に行いました。これにより障害者の在宅勤務も、テレワークならハードルも低くなり、障害者も企業もテレワークに前向きに考えるようになっています。 特に、テレワークで働いている障害者からは、通勤の負担軽減と体調に合わせて働けることにメリットを感じている人が多いです。障害のために通勤ができなかったり、体調が安定しなかったりすることで、求職活動を諦めている多くの障害者にとって、テレワークでの在宅勤務雇用は救いになるでしょう。 とはいえ、いままで職場で作業してきたことをテレワークに変更することで、働き方や仕事環境に大きな変化が生じます。この変化に障害者本人が対応できるように、何らかの職業訓練が必要になります。 ここでは、障害者のテレワークを導入するときの職業訓練について、いくつかのポイントを紹介します。 まず、テレワークではPCを使うので、PC操作に関する職業訓練が必要になります。 たとえ職場でPCを使って作業をしていたとしても、それは作業という一場面でしかPCを操作していません。テレワークだと、PCの起動、ネットワークの接続、作業の開始と終了、指示の受信や報告の送信、PCの終了といった一連の操作を障害者本人ができる必要があります。 また、PCトラブル等の発生時に備えて、状況に応じた判断、遠隔からの指示を受けながらのトラブル対応もできるとよいでしょう。テレワークを導入している企業では、メール、チャット、web会議システム、電話といった多様なコミュニケーションツールを活用しています。トラブル発生時に連絡手段がなくなるという事態を避けるとともに、これらのツールの操作を習得する職業訓練を実施します。 もちろん、テレワークと相性が悪い障害特性の人もいます。例えば、マウスやキーボードでの操作が難しかったり、長時間ディスプレイを見るのが困難だったり、状況に応じた判断が難しかったり、文字ベースでの指示理解が難しかったりするときは、テレワークよりも職場で勤務するほうが相性が良いでしょう。逆に、テレワークの方が相性が良くて作業効率が上がる人もいます。 そこで、PC操作に関する職業訓練を実施するときに、テレワークとの相性についても見極めるようにします。つまり、テレワークで働くかどうかの最終判断は、職業訓練後に決定することがポイントです。 また、職業訓練で利用する機器等は、テレワークで実際に使う機器と同じものに揃えることもポイントです。違う機器だと画面表示等が異なることがあり、その些細な違いによって、つまずく要因になることがあるからです。可能なら、テレワークする人は全員同じ機器に揃えたほうが、利用方法やトラブル対応を説明するときに楽になります。 次に、PC操作の習得後は、テレワークをトライアルすることがポイントです。障害者本人だけで作業する環境を再現するために、職場内の個室を自宅にみたてて、障害者本人は個室に1人で居て、コミュニケーションツールの指示だけで作業をしてもらいます。もし、障害者本人が職場に移動できず自宅でトライアルするときは、支援者が自宅近くで待機します。 これなら、もし障害者本人が対応できない事態が発生したとしても、すぐに支援者が駆けつけることができます。それに加えて、障害者本人はテレワーク時の孤立感について、支援者は障害者本人の体調判断について、どの程度なのか確認できます。そして、テレワークを本格的に開始する前に対策を立てることができます。 このように、いきなりテレワークを開始するのではなく、充分に訓練を積んでから開始することで定着しやすくなります。 もちろん、訓練以外にも、雇用管理や緊急時の連絡体制など事前に決めておくべきこともたくさんありますので、準備を怠らないよう気をつけてください。 (深江 裕忠) 【参考文献】 1)障害者職業総合センター調査研究報告書No.70:「精神障害者の職業訓練指導方法に関する研究」(2006) 2)田中萬年・大木栄一編著:「働く人の『学習』論」学文社(2007) 3)南雲直二監修:「重度障害者の職業リハビリテーション入門」荘道社(2010) 4)道脇正夫:「障害者の職業能力開発[改訂新版]」雇用問題研究会(2011) 5)新井吾朗,上田勇仁,小澤力,佐藤大介,谷口雄治,中村陽文,深江裕忠,湯浅幸敏:「12訂版 職業訓練における指導の理論と実際」職業訓練教材研究会(2022) 6)厚生労働省:「都市部と地方をつなぐ障害者テレワーク事例集」厚生労働省(2020) 7)障害者職業総合センター調査研究報告書No.171:「テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査」(2023) 第5節 職場適応、職場定着の推進 1 職場適応を高めるための対策 (1) 職場適応を高めるための方策 障害者の配置や配置転換、昇進や昇格によって職場にうまく適応しているかどうかについては、企業側と働いている障害者側の双方からみることが重要です。また、家族や支援者など社外の支援体制からの働きかけや友人、知人の関わりによっても左右されやすいといえます。 企業側が「うまく職場適応している」と判断していたとしても、障害者側からみると労働条件に不満をもっていたり、人間関係に悩んでいたりすることが案外多いものです。また、認知面で障害のある人にとっては、周囲の人的環境に左右されることも多く、指導者の変更や同僚の異動などによって影響を受けたり、家族や知人からマイナスイメージが伝えられると後ろ向きの発言が出たり、消極的な気持ちが出てしまうことも少なからず発生します。 職場適応がうまくいっている状態とは、企業側にとっては障害者が能力を十分に発揮して安定して働き、会社にとって戦力となって充足している状態であり、働く人にとっては仕事にやりがいがあり、職業生活が満足できるものである状態をいいます。この充足と満足の螺旋階段を継続的に登っていくことにより、職業生活は充実し、Well Beingに繋がり、会社にとってもなくてはならない人材になり、労使双方の成長に繋がっていきます。したがって、職場適応を高めるために企業に求められることは、障害者雇用の質を高めていくことであり、募集、採用、配置等のほか、人間関係、安全・衛生管理、その他雇用管理全般にわたって障害者の個性や特性を把握して、社外の支援機関と連携して、これらの諸要件に配慮した対応を積極的に進めていくことといえます。 令和4年12月に改正された障害者雇用促進法においては、適当な雇用の場の提供や適切な雇用管理等の実施に加え、雇用する障害者について職業能力の開発及び向上に関する措置を行うように努めなければならないことを追加し、キャリア形成の支援を含め、適正な雇用管理をより一層積極的に行うよう求めることが盛り込まれています。 障害者の職場適応をめぐる問題はさまざまですが、企業としてはまず、1人ひとりの障害者が何を考え、何を望んでいるか、職場においてどんな問題に直面しているか、社外の支援体制がどのような関わりをして障害者を支えているのかといった点を把握することが大切です。定期的な面談等を通じて、現在の状況のみならず、障害者の特性を踏まえ、今後どう働いていきたいのか等障害者本人の希望等を十分に聴取するとともに、職務遂行状況や習熟状況等を評価し、必要な業務の分担や配置の見直し、スキルアップや職域の拡大に向けた職業訓練機会の提供を計画的かつ積極的に行って下さい。 次頁の表1は職場適応を高めるための具体的な対策のポイントです。 (2) 受け入れ後の教育訓練の実施 障害者の活躍促進のためには、障害特性や職務の遂行状況、その能力等を踏まえながら、課題改善に取り組むため、教育訓練を実施することも望まれます。特に認知面での障害がある精神障害者や知的障害者等については、習得に時間を要するケースも多く、スモールステップで長い目で焦らずに教育訓練を行っていくことや職場環境や職務内容に慣れるまでに多くの時間を要することがある点に配慮して十分な教育訓練の期間を設けることも必要です。 さらに、技術革新等による職務内容の変化への対応や加齢等の影響から様々な課題が生じている障害者への対応など、受け入れた後も必要に応じた能力向上や能力再開発のための教育訓練、担当できる業務の幅を広げるための未経験領域の業務に係る教育訓練を行うことも必要です。 また、社内に統一的に実施している社員研修については受講の機会を設けることが不可欠です。ただし、この際に障害によっては研修資料や研修内容の理解に苦慮するケースもありますので、研修実施に当たっての合理的配慮について障害者本人とも相談して、的確に対応いただくことが必要です。 表1 職場適応を高めるための対策のポイント 対策のポイント 雇用管理面の配慮 @ 人間関係の改善 a)職場単位での障害特性等の事前啓発 b)上司との定期的情報交換による、問題解決の具体的方策の検討 c)個人やグループの話合いによる、仕事を通じた人間関係の深化 d)仕事以外の場面での話合いや懇談の促進 e)指導者の変更、同僚の異動による環境変化の確認 A 職場の安全管理 a)労働災害の防止 b)安全管理責任体制の確立 c)作業環境と施設設備の改善による作業の安全化 d)安全教育の徹底 e)非常事態の対策(災害発生時の避難・誘導を含む) B 健 康 管 理 a)障害特性や医学的な制約に即した健康管理 b)休憩や早退、年次有給休暇等を取りやすい雰囲気づくり C 労働時間管理 a)障害を進行させないための配慮 b)障害特性に応じた勤務時間や交替制の制限 D 賃金等の処遇 a)同一労働同一賃金の原則 b)職務(作業)の評価に裏付けされた賃金の支給 E 教 育 訓 練 a)長期的な人材育成の視点に基づく教育訓練 b)障害のない人と同一の研修受講への配慮 c)伝達と理解を促進する方法についての配慮 d)ノウハウの全社的な蓄積・共有と水平的な活用 e)障害特性に応じた個別的なOJT F 社外の支援体制   との連携状況 a)家族の支えの体制と連携状況 b)支援機関の支援体制と連携状況 c)社会生活の安定、余暇活動の状況 d)医療ケアの継続状況、医療機関との連携状況 e)日常生活面の課題 2 障害者の職場定着のための組織的な対応 障害者の職場適応等の課題については、特定の採用・人事担当者や配属先の上長だけが対応するのではなく、事業所が組織的に取り組むことが重要です。このためには、幹部会議、○○委員会等、社内の既存の組織を活用することが考えられますが、このほか職場での関係者によるチーム(障害者職場定着推進チーム)を設置する方法があります。 障害者職場定着推進チームのメンバーとして想定されるのは、事業主又は事業所の長、現場の作業指導員、人事担当の課長及び関係課長、障害者の代表、障害者職業生活相談員、その他職場の代表などです。可能であれば事業所の産業医や保健師にも参加してもらい、内部障害者や精神障害者等の通院治療やその他の医療的専門分野の助言、人間関係等のカウンセリング及び職場環境にかかわる安全・衛生面の指導をしてもらうと、なおよいでしょう。 チームの活動内容は次のとおりです。活動時期については定例的な会合を設けるのが一般的ですが、事業所の安全・衛生委員会等と併合して運営しても差し支えありません。 @ 職場における作業意欲・問題点の把握と援助、自信形成のための励まし A 職場内の人間関係等職場生活についての援助 B 障害者雇用についての事業所内啓発活動 C 労働環境の検討 D 職場配置、教育・訓練方法の検討 また、職場内で障害者が働きやすくなるように、職場全体を巻き込んで取り組んでいくことも有効なケースが多いものです。 職場で障害者がトラブルを起こしたり、仕事をうまく処理できないときなどに、一番よくない対応の仕方は「障害のせい」「障害者のせい」にしてしまい、本人をトレーニングすることしか考えなかったり、「仕方ない」とあきらめてしまうことで、そのような対処では課題の改善につながりません。個人を責めるのではなく、「仕組みを改善する」「周囲の人を巻き込んで皆で考える」という考え方で取り組むと活路を見出せることも多いものです。 障害者本人や指導担当の職業生活相談員などは「どうしていきたいか、やりたいことは何か」を話しあって共有化し、参加する周囲のスタッフが「障害者にもっと活躍してもらうためにどうしたらいいか、どうなったら障害者を含めて皆が働きやすいか」を全員で考えて、仕組みを変えることで障害者が働きやすい環境を整備することが望まれます。 この仕組みを改善するためには担当者1人で抱え込まず、関係者を増やすことが大切です。直接関わらない方を含めて様々な角度から検討したり、思いがけない提案から課題解決の糸口が見つかるというケースも多いものです。また、関係者が多くなると、責任を取るという感覚ではなく、思いつきで思いがけない意見でも挙げてよいという雰囲気を作りやすくなり、自由に提案しやすくもなります。 図1に示すような、『障害者が活躍できる職場の取り組みのアイディア会議』といった組織的な取り組みは、参加する周囲のスタッフも「障害者の雇用に協力できた」、「自分たちも役に立った」という気持ちが育ち、職場の活性化や一体感の形成を図ることができます。この職場の風土が「心のバリアフリー」ができ上がった状態ですし、個々の職員の従業員エンゲージメントの向上につながるものです。 さらに、障害のある方の安定した職業生活を支える企業在籍型職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)を企業内に配置する方法もあります。 企業在籍型職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)とは、企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者の職場適応に向けた支援を行う支援者です。 企業在籍型職場適応援助者ならではの支援の強みとして、同じ企業内で支援が行われることから、課題の早期把握とタイムリーで切れ目のない支援が可能であることや、障害者社員の受入準備から職場定着に至るまでの一貫した支援が可能であることなどが挙げられます。 図1 職場での課題解決のための有効な手法 (検討するときに留意すること)関係者を多くする、引き込む 関係者が少ないと当事者責任を追及しがち 逆に、関係者が多くなると参加者一人一人の責任が薄れ、多角的なアイデアが出やすいため、様々な自由な提案ができる すなわち、「人(関係者)を責めずに『仕組み』を見直す。」 組織的な取り組みとして「障害者が活躍できる職場の取り組みのアイディア会議」がある。 ◇◆◇企業在籍型職場適応援助者(企業在籍型ジョブコーチ)の活用事例◇◆◇ 〜企業在籍型ジョブコーチ活用好事例集から〜 本社に企業在籍型ジョブコーチを配置しているが、全国の各事業所で障害者を雇用しているため、各事業所に配置された障害者職業生活相談員が現地での相談等を行っている。ジョブコーチは、相談員からの問い合わせに応じて支援策を提案したり障害者社員との訪問面談を行うなど、相談員と協力して支援を行っている。また、ジョブコーチが相談員を対象とした研修会を開催し、支援に有効な情報(関係法令、障害特性、支援技法など)を伝えるほか、具体的なケースに関するディスカッションも行っている。これにより、相談員が過度に負担を感じることなく、社内のナチュラルサポートを形成することを目指した取組となっている。 3 外部の支援機関の活用 (1) 課題に応じて、外部の支援機関を活用する @ 自ら孤立しないようにする   雇用管理のコツの一つに「孤立させない、孤立しない」ということがあります。孤立させないとは障害のある従業員はもちろんですが、指導する担当者を孤立させないということです。孤立しないというのは会社自体が孤立しないということです。従業員が休みがちになる、作業のミスが目立つようになる等になった場合、その原因が職場にあることがはっきりしていれば職場で解決を図ることになりますが、原因がはっきりしなかったり、明らかに家庭に原因がある時には外部の支援機関を活用することで早く問題が解決したり、障害のある従業員、事業所側ともに解決への負担が少なくなったりします。 A 早めの対応が重要   早期発見、早期対応が重要なことは、職場定着にもいえます。しかし、何を基準に早期に対応すればいいのでしょうか。極端な変化でもあれば発見も容易ですが、徐々に変化したりまたは良くなったり悪くなったり波がある場合はどのように考えたらいいのでしょう。   そのような時、助けになるのが本人の特性をよく理解している外部の支援機関です。外部の支援機関からは、「何かあったら、いつでも連絡して下さい。」と言われることが多いですが、早期発見、早期対応につなげるために、具体的にどのような言動が見られた時に連絡すればいいのか確認しておくことをおすすめします。体調不良による休みが月に3回以上になった時、自分のミスを認めず人のせいにするような言動が見られた時等会社側から連絡する基準が予め分かっていれば迷わず早期に連絡できます(Q&A【問8】(P105)にチャレンジ)。 (2) 活用できる外部の支援機関と支援内容 図1 職業生活を支える構造と支援機関  図1右側のように職業生活は日常生活や医療的ケアに支えられています。病院等も含めて考えると、人によっては多数の支援機関が関わっている場合もあります。一見、職業生活が安定しているように見えても、日常生活の乱れや医療的ケアが不十分だといずれ職業生活にも支障が出ます。  しかし、支援機関と言っても障害者○○支援センター、○○障害者センター等似たような名称のものも多く、どこに連絡すればいいのか迷ってしまうことが多いようです。  ここでは、外部の支援機関を大きく@企業就労を直接支援する機関、A生活面を中心に支援する機関、B医療・保健機関、C障害別の専門機関に分けて説明します。  企業にとっては@が最も身近な存在ですが、支援機関が相互にネットワークを組んで常時密接に連携している地域では、基本的にはどこに連絡しても適切な支援機関につないでもらうことができます。  福祉施設は社会福祉法人が設置・運営することが多く(他にNPO法人、株式会社等が設置・運営する場合もあります)、国や自治体から事業を受託して当該事業費で運営されるのが一般的です。一つの事業しか受託していなければ、「○○就業・生活支援センター」等その事業名を施設名に冠することで分かりやすくなりますが、事業を複数受託している法人ですとそれも難しく、施設名とサービス内容が一致しないこと、また各法人で独自の名称(愛称)をつけていることもあります。 図2 複数の事業を受託している法人(イメージ) @ 企業就労を直接支援する機関(後掲表1参照) 図3は学校や職業能力開発校を卒業した人はaすぐに就職する場合とb企業就労準備を経て就職する場合に分かれることを示しています。aの場合、生徒が定着しやすいように出身の学校や職業能力開発校が相談に乗ってくれます。しかし、ずっと相談に乗れるわけではないので、企業就労を専門に支援する機関にバトンタッチすることが多いようです。 bのように卒業後すぐに就職することが難しい生徒の場合、一旦企業等で働くための準備(2年程度が多い)をした後に就職することがあります。このように「@企業就労を直接支援する機関」の中には、イ)出身の学校や職業能力開発校、ロ)企業就労を専門に支援する機関、ハ)障害福祉サービス事業所があります。 A 生活面を中心に支援する機関(後掲表2参照)  障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスで、障害のある方が自宅を出て共同生活を行う住居で、その方の必要に応じ、相談、入浴、食事その他の必要な日常生活上の援助を行う共同生活援助(グループホーム)、住居で単身生活などを送っている障害のある方に、定期的な巡回訪問や相談対応などにより、日常生活を営む上での問題を把握し、相談、助言、関係機関との連絡調整などの自立した日常生活を営むために必要な援助を行う自立生活援助(ホームヘルプサービス)を行う機関があります。また、生活面のさまざまな援助を提供する施設として地域活動支援センターがあります。 B 医療・保健機関(後掲表3参照)  当事者が定期的に通院している医療機関です。大学病院や総合病院の精神科、心療内科、国公私立精神科病院、診療所(○○クリニック等の名称)があります。また、産業医に相談したくても社内に設置されていない場合、近くの地域産業保健センターに相談することもできます。   図3 卒業後の就職までのルートと支援機関   C 障害別の専門機関(後掲表4参照)  特定の障害について、専門に支援する機関ですが、全国的に共通している機関として、発達障害者支援センター、難病・相談支援センター及び精神保健福祉センターがあります。その他にも地域によっては、高次脳機能障害者を専門に支援する機関もあります。 (3) 外部の支援機関にどのようにアプローチをしたらよいか @ 障害者本人との話し合い   外部の支援機関に相談する際に、障害者本人の了解は必須です。本人に了解を得る場合、本人の不適切な言動が問題との指摘のみに終始すると言われた本人はどうしても被害的・拒否的になりがちなので、会社として困っていることや外部の支援機関に相談する目的(原因が不明でどう対応していいか分からない、うまくいく方法を知りたい等)を伝え、外部の支援機関に相談することで雇用継続に向けた助言を得たいという意向について理解を求める必要があります。   そのためにも、日頃からコミュニケーションを密にとることが大切になります。 A 具体的な問い合わせの仕方   ア 出身校や以前利用していた施設が第一選択  障害者本人の出身校や以前利用していた施設が分かっている場合はそこに相談するのが第一選択となります。しかし、出身校が特別支援学校ではなく一般校の場合等第一選択で解決できなかった際にその問い合わせの仕方について以下に記載します。   イ 会社の所在地が外部の支援機関の管轄地域になっているか確認する  外部の支援機関には管轄区域(市町村内、福祉圏域内、都道府県内等)があるのが一般的です。自分の事業所が管轄地域になっているか問い合わせ時にまず確認します。   ウ 会社として最も困っていることを説明する  外部の支援機関によって相談できる内容が異なりますので、「主治医や家庭に連絡してもらえないか」、「もっと生産性が上がるようにしてもらえないか」等の具体的な要望を出す前に、「なぜ主治医に連絡したいのか」、「どのように生産性が上がっていないのか」など、事業所として何が一番困っていることなのか、どのような行動を望んでいるのかについて伝えることが大切になります。困り事を明確にし共有できれば、外部の支援機関は自機関で対応するのか、より適切な他機関を紹介するのか判断しやすくなります。  なお、企業就労を直接支援する機関以外の機関に初めて問い合わせる際は、企業就労を直接支援する機関を通じて問い合わせた方がスムーズに行くことが多いと思われます。  【問い合わせの際、予め準備しておくとよい情報】 必要な情報 あるといい情報 □どんなことで困っているのか □誰が困っているのか □どのような時に困ることが多いのか □どうなれば許容できるか B 定期的に連絡をとる  当初から本人を支援している機関があれば、特段変わったことがなくても定期的(数か月〜1年毎)に連絡をとることで、仮に支援機関で担当者が交代しても関係性が継続されるので、いざという時スムーズに連絡をとることができます。 ★文中の専門機関等については、資料編第8節の「関係機関・施設一覧」も参照ください。 図4 障害者就業・生活支援センターのネットワーク例 雇用と福祉のネットワーク 生活支援 就労移行支援事業所等、福祉事務所、保健所、医療機関 就労支援 ハローワーク、地域障害者職業センター、特別支援学校、職業能力開発施設、事業主 表1 企業就労を直接支援する機関 外部の支援機関名 支援内容(例) どんな時に活用すればいいか 問い合わせの際の留意事項 出身校 特別支援学校 学校在学中の経験をもとに対処法について助言してもらえる。 本校を卒業した従業員のことで相談したい時 卒業後数年のフォローアップ期間を設けている学校がほとんど。 障害者職業能力開発校 職業訓練施設。訓練期間中の経験をもとに対処法について助言してもらえる。 本校を修了した従業員のことで相談したい時 設置されていない県もある。 企業就労を専門に支援する機関 ハローワーク(公共職業安定所)・労働局 採用から職場における定着相談全般、また、必要な支援機関につないでくれる。ハローワーク・労働局が支給する助成金もある。 従業員を採用したい時、採用した従業員のことで相談したい時 ハローワークの障害者に対して専門に相談する部門(専門援助部門)若しくは事業主相談部門に連絡する。 障害者就業・生活支援センター 就業面だけでなく、生活面についても助言したり、地域の機関につないでくれる(地域機関情報が豊富)。 就業面の悩みの他、家庭の人間関係、服薬や睡眠の乱れ等生活面が原因で生産性が落ちた時など 原則として各福祉圏域に1か所あるので、管轄している支援センターを調べて連絡する。 地域障害者職業センター 原因の分析、対処法の検討(豊富な経験や事例に基づく分析が得意)してもらえる。ジョブコーチ支援もある。 原因が分からない時、どう対応すればいいか分からない時、また、他に相談する機関がない時 各都道府県に1か所(北海道、東京、愛知、大阪及び福岡は2か所)ある。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部(高齢・障害者業務課) 障害者雇用納付金制度に基づく助成金の申請受理をしている。障害者雇用に関する啓発事業を行っている。 助成金を活用できないか知りたい時 各都道府県に1か所ある。 企業就労に向けて支援する障害福祉サービス事業所* 在籍中の経験をもとに対処法について助言してもらえる。職場に直接出向いて相談してくれる場合もある。 本施設に在籍していた従業員のことで相談したい時 障害福祉サービス事業所は種類が複数あり、それぞれ支援できること、できないことが大きく分かれるので、はじめに確認するとよい。自所で対応が難しい場合、適当な施設を紹介してもらえる。 *障害者福祉サービス事業所は機能別に分かれていますが、企業就労に関連するものは次のとおりです。 障害者就労移行支援事業所…企業就労により近い訓練施設 障害者就労継続支援B型事業所…企業就労に向けて少し時間をかけて訓練する施設 障害者就労継続支援A型事業所…施設の従業員として雇用されながら企業就労に向けて時間をかけて訓練する施設 上記の事業所等が、就職後半年以上経過した終了者の就労定着支援を併せて行う場合があります(第6章第3節P269参照)。 表2 生活面を中心に支援する機関 外部の支援機関名 支援内容(例) どんな時に活用すればいいか 問い合わせの際の留意事項 グループホーム・福祉ホーム 共同生活を行う住居で、世話人が日常生活上の援助を提供するグループホームに対して、福祉ホームは住居を必要としている者に低料金で提供し、日常生活に必要な支援を行っている。 在籍者のホームでの様子を確認する必要がある時 当初は、企業就労を直接支援する機関を通じた方がスムーズにいくことが多い。 自立生活援助事業所 訪問により家事、金銭管理、体調等居室での自立した日常生活を営むための各問題について援助を行っている。 日常生活の乱れ等が職務遂行や 職場の人間関係に影響を及ぼし ていると思われる時 当初は、企業就労を直接支援する機関 を通じた方がスムーズにいくことが多 い。 統一名称はない。 地域活動支援センター 福祉サービス利用、余暇活動、金銭管理、権利擁護の相談を行う。 施設によって支援内容が異なる。 表3 医療・保健機関 外部の支援機関名 支援内容(例) どんな時に活用すればいいか 問い合わせの際の留意事項 本人が定期的に通院している医療機関(主治医) 医療的助言 服薬の調整をしていると聞いているが、急に生産性が落ちてきた時、症状が急変した時の対処法等主治医の医療的助言を求めたい時 本人を通して相談することが原則。難しい場合は、本人に了解を得て診察に同席する。または支援機関に同席を依頼する。 地域産業保健センター 労働者の健康管理(メンタルヘルスを含む)に係る相談 従業員がうつ病等のこころの病かもしれない、治療を受けていない等どう対応したらよいか分からない時 産業医等の産業保健スタッフがいない、労働者が50人未満の事業所の相談に乗ってもらえる。 表4 障害別の専門機関 外部の支援機関名 支援内容(例) どんな時に活用すればいいか 問い合わせの際の留意事項 発達障害者支援センター 発達障害者の相談支援機関。発達障害の特性についての情報提供や対処法について助言してくれる。 発達障害者の特性や対処について知りたい時 当初は、企業就労を直接支援する機関を通じた方がスムーズにいくことが多い。 難病相談・支援センター 難病者の相談支援機関。難病の特性についての情報提供や対処法について助言してくれる。 難病者の特性や対処について知りたい時 精神保健福祉センター 精神保健福祉の相談機関 精神障害者の特性や対処について、またメンタルヘルスについて情報を得たい時 高次脳機能障害者支援拠点機関(高次脳機能障害者支援センター等) 高次脳機能障害者の医療から就学・就労に関する総合相談窓口機関 高次脳機能障害の特性や対処について知りたい時 当初は、企業就労を直接支援する機関を通じた方がスムーズにいくことが多い。 リハビリテーション病院に設置されている場合が多く、研修会やセミナーを企画しているところもある。 (岩佐 純) ◆◇ 支援機関を活用し担当者に心のゆとりを ◇◆◇ ……障害者就業・生活支援センターの活用により関係修復が図れた事例…… 相談者 Aさん 株式会社○○ 障害のある方の現場での指導担当者 対象者 Bさん 30代女性 精神障害者保健福祉手帳2級 発達障害  Aさんより障害者就業・生活支援センター(以下センターという。)に相談がありました。共に働くBさんの対応に行き詰まり、このままでは雇用継続が難しいとの内容でした。「集中力を欠く」「出勤するとすぐに体調不良を訴え休憩を求める」という状況が続いていました。また、このような状況が続くことにより他の社員が不満を持ち、職場での人間関係も悪化していました。  会社がセンターから支援を受けることについてBさんに説明を行い、同意を得ることができたので支援を開始しました。センターの支援員が職場を訪問し、Aさん、Bさん双方より聴き取りを実施し状況を確認したところ、職場において、Bさんの発達障害に起因すると思われる行動の特性が十分共有されていないことが分かりました。そのことでBさんの行動の理由を周囲の方が理解できず、Bさんへの評価が下がっていることが考えられました。そこで、Bさんの特性に合った職場での指示の出し方や、周囲の対応の仕方などの改善を試みることを会社に提案しました。  センターの支援員は職場に1か月に1度訪問し、Bさんと定期的に面談を行いました。本人の困りごとに対して具体的な対応方法を本人に提案し、Aさんをはじめとする職場の方と共有しました。継続的な面談において、1か月間の取組みを振り返りつつ、トライ&エラーを繰り返しながら徐々にBさんの状態は安定していきました。このことに伴い、周囲のBさんに対する理解が深まり評価も良くなりました。それまでの追い詰められていた状況が改善したことにより、Aさんにもゆとりが生まれました。Aさんは余裕を持ってBさんに接することができるようになったことで、それまでは気づかなかったBさんの長所に気づくことができるようになり、好循環が生まれました。  生活面においては、好きなスポーツチームへの過度な肩入れにより、SNS上でトラブルに巻き込まれていることが分かりました。SNSにおけるトラブルについては、アカウントを整理する本人の取組をサポートし、改善を図りました。生活面での不安が減少することにより、Bさんの勤怠は大幅に改善されました。  支援スタート当初は契約更新が難しいと言われていたBさんですが、今では自信を持って業務にあたり、職場に欠かせない存在として活躍しています。   ◇◆◇障害者スタッフの生活面の支援について◇◆◇ …就労移行支援事業所・就労定着支援事業の活用事例… 相談者 Aさん 株式会社○○ 担当課長 対象者 Bさん 20代男性   軽度知的障害 自閉傾向あり Aさんより障害者就業・生活支援センター(以下センターという。)に障害者雇用に関する相談がありました。これまで特別支援学校から採用した経験はあるが、中途採用の経験が無く、どのように進めれば良いかとの相談でした。 まずはセンターのスタッフが職場訪問させていただき、業務内容や職場環境の確認を行いました。訪問により得た情報を地域の就労系福祉サービス事業所と共有することに同意をいただき、希望者を募りました。そのなかで、就労移行支援事業所からBさんの推薦を受けたため、Bさんと就労移行支援事業所の職員とで職場見学を実施しました。Bさんの住所は職場にも近く、また以前に力仕事をしていたため、今回の業務も十分に可能ではないかとの考察に至りました。本人も「働きたい」と意欲を示したため、職場実習を実施しました。実習に際しては、事前にBさんの紹介シートを作成して、実習先において共有してもらいました。 【紹介シートの内容】 〇Bさんの得意なこと、苦手なこと 〇Bさんの障害特性および必要な配慮事項(合理的配慮) 〇Bさんに対する具体的な対応方法 〇Bさんの人柄・趣味など シートを事前に共有することにより、共に働くスタッフの不安を解消することができました。また、実習期間も引き続き、就労移行支援事業所の職員がBさんのサポートを行ったため、スタッフがBさんとの関わり方で疑問に感じたことなどについて、適切に助言をもらうことができ、安心して雇用することができました。 就労後は、本人が通所していた就労移行支援事業所の「就労定着支援事業」を利用し、就労に伴う「生活面」の支援を受けることとなりました。就労定着支援事業は最長3年間利用することが可能な事業になります。職場での支援は、会社のスタッフに移行していきますが、就労後の生活支援については、就労定着支援事業所がマネジメントしてサポートします。 「お金の管理」「一人暮らしの希望」「人間関係に関する悩み」など、対象となるサポートは様々です。Bさんの場合には、SNSでの人間関係に悩み「業務に集中できない」「遅刻・欠勤」が増加するという状況になりました。就労定着支援事業所のスタッフが、地域の生活支援機関と連携しサポートにあたり、業務中の集中力低下や勤怠の不安定さは改善されました。就職後の3年間は、生活面の変化が特に大きくなります。この期間に支援機関のサポートを受けることにより、その後の安定した就労に繋がると言えるでしょう。 ◆◇ 医療機関への同行により状況説明をサポート ◇◆◇ ……医療機関との連携事例…… 相談者 Aさん 株式会社○○ 障害のある方の担当者 対象者 Bさん 30代女性 統合失調症  Aさんより障害者就業・生活支援センター(以下センターという。)に、雇用している障害者スタッフBさんの件で相談がありました。  2か月前に入社したBさんが、最近不安定になることが多いとのことでした。まずは事業所に訪問し状況を確認することが必要と判断しました。Aさんを通じてBさんにセンター支援員が訪問することについて同意を得たのち、聴き取りを実施しました。Bさんの様子としては疲れ易く、被害妄想的な発言が増えているということでした。就職して2か月ということもあり、環境の変化に伴い調子を崩したのではないかと推測しました。そこで、医療機関への相談を提案しました。Bさんは、ご自身の状況を主治医に伝えることが苦手な様子だったので、受診時に支援員が同行することについて提案し、同意いただきました。あわせて、受診に同行したい旨を医療機関に相談しました。  受診の際に、職場での様子等について主治医へ伝え、診療の参考にしてもらいました。主治医の説明から、就職直前に薬の処方の見直しに伴い、薬を減らしていたことがわかりました。環境の変化等のストレスが大きいとの判断になり、頓服薬が処方されました。職場で調子が悪い時に服用するよう指示が出て、現在試行中です。  Bさんご自身が、主治医に上手に自身の職場での様子を伝えることが難しかったことから、支援員が受診に同行し説明を行いました。その結果、主治医が職場でのご本人の状況を具体的に知ることができ、処方箋が見直され、本人の安定につながりました。   4 障害者雇用に係る就労支援機器の活用 就労支援機器とは、障害者が業務を行う上での作業を容易にし、効率的に業務を遂行するために必要な機能を備えた機器のことです。例えば、視覚障害者を対象とした拡大読書器、画面読み上げソフトや、聴覚障害者を対象とした補聴支援システム(集音システム)など、それぞれの障害特性に合わせた機器が多くあります。また、テクノロジーの進化とともに支援機器も進化し、就労の現場で役立つ場面が増えています。 (1) 障害特性に応じた就労支援機器 @ 視覚障害向け支援機器 視覚障害者が職場で使用する機器として、主に視覚的な文字情報を拡大したり、音声で読み上げて支援する機器があります。ハードウェアでは、印刷物や写真などを拡大したり背景と文字色のコントラストを高くしたりする拡大読書器、パソコン画面の情報を点字情報に変換して表示する点字ディスプレイなどがあります。ソフトウェアでは、パソコン画面の文字情報を音声で読み上げる画面読上げソフト、パソコン画面の情報を拡大する画面拡大ソフト、スキャナで印刷物などを読み込ませ文字情報を音声で読み上げたり、拡大読書器と同じように印刷物や写真を拡大するなどの機能を併せ持つ活字音訳・拡大読書ソフト(OCRソフト)などがあります。 その他にも、様々な機器等が開発されており、障害の状態及び従事する職務に応じて組み合わせて使うことができます。 携帯型拡大読書器 据置(卓上)型拡大読書器 点字ディスプレイ 画面読上げソフト Q&A【問8】障害のある社員の問題は全て自社内で解決すべきである。(解答と解説はP289に記載しています) A 聴覚障害向け支援機器 補聴器などを用いて音声によるコミュニケーションを図れる聴覚障害者を難聴者といい、障害を受けた部位によって「伝音性難聴」と「感音性難聴」及び両方が混じった「混合性難聴」とわけることがあります。「伝音性難聴」の場合は、音声を拡大する機器や補聴器を使用することで補聴効果が表れやすいですが、「感音性難聴」の場合は、聴神経に障害を受けるため明瞭に聞き分けることができないといわれています(第3章第3節1(1)参照)。 難聴者が職場で使用する機器として、主にコミュニケーションを支援する機器があります。例えば、電話でのコミュニケーションを支援する電話関連機器、テレコイル対応の補聴器、人工内耳などに音声を直接伝える補聴支援システム、音声により文字入力やアプリケーションを操作する音声認識ソフト、対話支援スピーカー、離れた場所でも業務上の連絡事項や緊急時の連絡などを光信号やバイブレーションで知らせる携帯型無線呼び出しシステムなどがあります。 また、上記の支援機器以外にも筆談支援機器やメールのような電子データでのやりとりなど、さまざまなコミュニケーション方法があります。活用場面や本人の意向に応じて柔軟に支援機器の活用を検討していくことが大切です。 補聴支援システム 対話支援スピーカー B 肢体不自由向け支援機器 肢体不自由者が職場で使用する機器として、主にパソコン操作を支援する機器があります。例えば、音声により文字入力やアプリケーションを操作する音声認識ソフト、キーボードやマウス操作を支援する補助具、ノートパソコンを楽な姿勢で操作できるよう傾斜などを調整できるパソコン周辺機器、キーボードやマウスを使いやすくするパソコンのアクセシビリティ機能などがあります。 また、職場内の設備への配慮として、受話器を使用しなくても電話の発信・受信ができるハンズフリー電話機、主に車いすを使用する方で作業にあわせて高さを調整できる上下昇降デスクなどがあります。 簡易卓上パーテーション ノイズキャンセリングヘッドホン C 知的障害・精神障害・発達障害向け支援機器 知的障害者・精神障害者・発達障害者が職場で使用する機器として、主に周囲の過剰な刺激を軽減し作業環境の改善する機器があります。例えば、視覚的な刺激を遮断し、作業に集中できる環境を作るパーテーション、ノイズなどの聴覚的な刺激を軽減するノイズキャンセラー、周囲の音を遮断するイヤーマフ(耳栓)などがあります。 その他にも、時刻を理解することが難しい方のための視覚的に残り時間が分かるように支援するタイムエイド、一日の作業スケジュールを自己管理できるよう支援するための作業スケジュール管理支援機器、発語や発声が困難な方のためのコミュニケーションエイドなどがあります。 D 高次脳機能障害向け支援機器 高次脳機能障害者が職場で使用する機器として、例えば携帯型情報端末(PDA)にスケジュール管理機能、手順支援機能、アラーム機能を持たせた作業スケジュール管理支援機器があります。携帯型情報端末(PDA)の中に、文字、画像、音声を組み合わせた作業手順を知識登録して操作方法や作業手順などを確認したり、1日のスケジュールを知識 登録して計画的に作業を進めたり、大切な時間をアラームで知らせてくれることにより忘れずに行えるようにするための機能を持つシステムです。「記憶」「注意」「遂行」をサポートし、正確かつ効率的に作業を進めることができるようになっています。 (2) 就労支援機器に関する相談・貸出し 就労支援機器の活用等について、中央障害者雇用情報センター1で専門のアドバイザーから支援機器の活用事例の紹介やデモンストレーション、機器体験、適切な機器の導入や選定に関する提案など、障害者就労に役立つ情報を得ることができます。なお、中央障害者雇用情報センターでの相談・貸出しは無料です。貸出しは、原則として6か月であり、必要に応じて1回のみ延長可能です。 (3) 就労支援機器の活用に関する助成制度(第6章第2節2参照) 障害者雇用納付金関係助成金2には、障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された拡大読書器等の作業設備や、作業施設、附帯施設の設置・整備を行う場合に支給する助成金(障害者作業施設設置等助成金等)があります。 障害者作業施設設置等助成金では、支給対象障害者の雇入れ日から6か月以内に認定申請を行うことが要件となっていますが、その期間内に就労支援機器等貸出申請書を提出している場合は、貸出期間の終了日まで同一・同種の機器について、助成金受給資格認定申請書の提出が可能です。 その他、支給にかかる要件や申請の期限等の詳細は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)3にお問い合わせください。 詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい。 1 【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】中央障害者雇用情報センターのごあんない   https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer05.html 2 【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】助成金   https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html 3 【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】都道府県支部一覧   https://www.jeed.go.jp/location/shibu/index.html    5 障害者に対するカウンセリング(相談) (1) はじめに 「カウンセリング(相談)」は、「入職時」「入職後数年経過時点」「生活上の大変化が発生などの転機」「退職」など障害者雇用管理におけるどのようなタイミングにおける支援でも、またそれぞれのタイミングにおける様々な目的(状況把握、情報提供、提案)でも、活用することのできる技術です。カウンセリングは汎用性のある重要な支援技術であると言えるでしょう。そこで、本節では相談活動を行う上での基本的な心がけ、具体的な相談技法、障害特性に配慮した相談の進め方について扱います。 なお、本節では相談活動については、文章の前後関係により「カウンセリング」あるいは「相談」、カウンセリングを実施する人を「相談員」、カウンセリングを自ら申し込んできたり、あるいは会社側から相談の対象としてすくい上げる人(障害のある従業員の場合が多いと思われますが、場合によっては他部署の障害のない人へ障害者との接し方に関する相談などを行う場合もあるかもしれません)を「クライエント」と呼ぶこととします。 (2) 相談員が意識しておくべき大前提 〜信頼関係の構築〜 カウンセリングの定義から考える まず、相談を行う上での相談員が意識しておくべき前提について挙げてみます。 相談開始(受理相談)時にクライエントは2つの不安を持っている)ということが言われます。それは、相談内容についての不安と、相談をすること自体への不安です(図1)。 この2つの不安のうち、前者については相談員とクライエントが一緒にこれから取り組んでいくことになりますので相談の進捗(相談を重ねていったり、教育・訓練を進めていったり、あるいは環境調整を行っていったりすること)により問題解決を図っていく中で軽減・解消していくものです。 この相談内容の本丸とも言える前者の不安を解消するための前提として、後者の相談すること自体への不安を軽減させていき、信頼関係を築いていくことが相談を始めるにあたって重要となります。特に、障害者職業生活相談員が相談を受ける対象には、自発的に相談を申し込んでくる人の場合だけでなく、当人は相談の必要を感じていないものの(呼び出すなどして)相談を行わざるを得ない人の場合もあることが考えられます。後者の場合、特に相談をすることへの不安、あるいは不満を感じていることがあります。 このような相談をすることへの不安・不満を解消していくためには、信頼関係の構築が重要となります。信頼関係を構築する具体的な方法としては、本項(4)で示す「物理的環境設定」「基本的関わり技法」、あるいは職場を定期的に巡回するなどしてクライエントと接する頻度を増やしてみる、相談の冒頭などに雑談を含めてみる等がありますが、ここではまずソーシャルワーク(社会福祉)分野において対人援助職が信頼関係を構築する上での原則となる、バイステックの示した7原則を提示しておきます(図2)。 この原則では、「2.クライエントの感情表現を大切にする」や「5.クライエントを一方的に非難しない」といった相談中の心がけが示されているほか、「6.自己決定の尊重」や「7.秘密保持の重要性」といったさらに支援を行う上で前提となる原則についても示されています。 また、老人ホームの生活相談員などの対人援助職の中には、相談室や事務所など自分の机に座っているだけでなく、施設内を1日1回など巡回・回遊し、入所者や様々な職員から情報を把握する「ラウンド」という活動を重視している場合があります。障害者雇用の現場でも同様に、相談員が職場内をラウンドすることは、クライエントやクライエントと日常的に接する同僚等を含む職場内の様々な人たちとの信頼関係の構築、また、ちょっとした変化などの情報収集に有効であると考えられます。 図1 相談開始(受理相談)時におけるクライエントの2つの不安 図2 バイステックの7原則 (3) その他の重要な心がけ @ 相談員とクライエントとの間で「意味」が共有されているか 國分康孝によると、カウンセリングとは「言語的および非言語的コミュニケーションを通して行動の変容を試みる人間関係」と定義されています。 この定義に含まれる「コミュニケーション」とは何でしょうか。「コミュニケーション」とは、原義的には「送り手と受け手の双方が同じ規則に基づく記号操作を行い、互いに意味を共有し了解しあうこと」を意味するとされています(図3) 。 図3 コミュニケーションの成立 つまり、言葉なりジェスチャーなりその他の方法でメッセージを伝えあうのがコミュニケーションですが、そのようなメッセージが何を意味するのかメッセージの送り手と受け手が共通に認識できることがコミュニケーションの成立には必要だということです。 この、相談員とクライエントとで意味が共有されるよう留意することは、特に知的障害・精神障害など認知的能力に制約のある人との相談では重要でしょう。相談員の発した言葉がクライエントに相談員の意図した意味で共有されているのかどうか、その都度留意する必要があります。 またこのような意味の共有の問題は、クライエントがその言葉を正確に理解している・していないということに限るものではありません。人は、辞書で定義されている内容以上の意味を込めて言葉を用いることがあります。 例えば、「おはようございます」という挨拶を取り上げてみます。通常「おはようございます」は朝の時間帯に交わす挨拶であり、「合言葉」のようにこの挨拶が交わされることもあるでしょう。しかしながら、単なる合言葉ではなく、この挨拶言葉を発する際に発話者は相手の身体・心理的状態(今日も元気だろうか?)を確認するという気持ちが含まれていたり、また、遅刻している相手に挨拶をする場合には「なぜ遅刻したの(非難)?」、昨晩の居酒屋のことを思い出して「昨日の飲み会はお疲れ様でした」、といった気持ちを込めることもあるでしょう。つまり、交わされる状況、コミュニケーションの参加者によって、言葉に意味が付加されることもあると言えます。同じ言葉であっても、状況(会話の行われる文脈)によって意味するところは違う可能性があるのです。相談ではこのような言外の意味にスポットを当てることや、言葉と言外の意味のギャップにスポットを当てることもあります。相談員は、クライエントの発する言葉がどのような意味でつかわれているのか、このようなことにも相談員は気を配る必要があります。 A 言語表現だけでなく非言語的表現にも着目する コミュニケーションの方法(媒体)について考えてみましょう。日々のコミュニケーションというと、会話や電話、メールなど「言語」によるやり取りがまず想起されるかもしれません。しかしながら、いわゆる「メラビアンの法則」 1で示されているように、コミュニケーションで大きな影響力を持っているのは、言語の内容以上に、言語的コミュニケーションに加えて、非言語的コミュニケーションの影響が大きいことが示されています。つまり、カウンセリングを行う上で相談員にとってもクライエントにとっても、言語的な内容に加え、表情や口調、さらには身振り・手振りといった身体的表現が重要な要素であることが指摘できるでしょう(Q&A【問9】(P118)にチャレンジ)。 1 心理学者メラビアンは、好意や反感を伝える実験において、言葉の内容、声の調子、身振りなどをメッセージの送り手に操作させ、どの程度メッセージの受け手に好意や反感が伝わるのかを検証しました。結果として、言葉の内容の影響力:7%、声の調子や話し方などの影響力:38%、身振りや表情などの影響力:55%でした(図4)。 B 相談員自身の思考・感情・行動の癖を把握しておく(自己覚知) 相談を行うにあたって、相談員自身の考え方や行動の癖についても、自覚していく必要があるでしょう。たとえば、「女性というものは・・・」「この位の年齢の人は・・・」「○○障害の人は・・・」といったステレオタイプ的な観念は持っていないでしょうか?また、自らのこれまでの人生上の経験から(例:自分の生まれ育った家族内での父親との葛藤)、類似した状況にある相手に対し、特に肩入れをしてしまったり、逆に反感を抱いてしまう、ということはないでしょうか。 もちろん、こうしたステレオタイプ的な観念や無意識から湧き上がる感情を完全になくすことは難しいでしょう。それでも、相談においてこのような観念を無自覚のまま抱いていることで、クライエントとの関係構築がうまくいかなくなる可能性があります。 自己覚知とは「援助者が自己の価値観や感情などについて理解しておくこと」であり、「援助者に共通して求められるもの」とされています。普段の自分の発言等行動などを振り返る、周囲の人からフィードバックを得るなどをして、自分自身の考え方や行動の傾向に自覚的であるようにしたいものです。 図4 各コミュニケーション方法の影響力(メラビアンの法則) (4) 具体的技術 それでは、具体的にはどのように相談をするとよいのでしょうか。相談には、相談室など相談専用のスペースで相談を行う場合と、たまたま会社内等で出会ったときに「最近どう?」などと会話を交わす中で相談的な内容に進む場合とがあります。ここでは前者の場合を想定して、その具体的な技術や留意点を示していきます。 @ 物理的環境設定 相談は人間と人間との関係性の中で行われるものですが、相談員がきちんと対応しさえすれば物理的な環境はどのようなものであってもよい、というわけではありません。まず、秘密が守られるとクライエントが感じられる場所である必要があります。相談専用の部屋があることが望ましいのですが、なかなかそのようなスペースがない場合、パーティションで部屋を区切る、人がいないような時間帯を選んで相談を受ける、といった工夫が必要になります。 また、相談の際の座り方を一考する必要があります。まず、相談員とクライエントの物理的な距離の問題です。特に何cm程度にしなければならないという決まりはありませんが、お互いが圧迫感を感ずるほど近すぎず、かといって遠すぎない距離が望ましいでしょう。 次にクライエントと相談員の座り方についても、考えてみましょう。テーブルなどを利用して相談を行う場合、座り方には下図に示すように何種類かあります。 図5は最も一般的な相談場面における座り方でしょう。相談員とクライエントは相対し、相談を進めます。ただし、クライエントによっては相談員と正面に向かい合うことや、また視線が合いやすくなることで圧迫感を感じる人もいるかもしれません。場合によっては、図6のように90度の位置で相談を行うという方がよいかもしれません。また、図7のように横に座り相談を行うという方法もあります。この場合、相手の顔がお互いに見にくくなりますが、視線が合いにくくなりますので、最も圧迫感を感じにくくなるかもしれません。 図5 図6 図7 A マイクロカウンセリングの基本的な関わり技法 それでは、相談場面における具体的な相談員の応答の技法に焦点をあてていきましょう。アレン・アイビイという研究者は、カウンセリングの流派には様々なものがある中で、各流派に共通して求められるカウンセリングの応答技法について、「マイクロカウンセリング」としてまとめ、カウンセリング技術を学ぼうとする人のために、カウンセリング技術の習得の手順についても提唱しています。ここでは、基本的な技術から順に紹介していきます。 いずれの技法も、「話をよく聞いてもらっている」という印象をクライエントに与える役割を持ち、信頼関係の構築や、クライエントの自己理解の促進にも有効な技法です。表1に各技法の概要を示します。なお、どんな内容や流れ・ペースであったとしても、特に初心者のうちは以下に示す基本的な技法を意識的に用いるとよいでしょう。 表1 マイクロカウンセリングにおける基本的な関わり技法 技法名 内容 具体例 @基本的関わり行動 非言語的なコミュニケーションを相談にふさわしいものにする。 ・視線を適切に合わせる ・相談にふさわしい姿勢・表情・身振りをする ・相談にふさわしい口調で対応する ・相槌を適切なタイミングで行う(「はい」「えぇ」「なるほど」「そうなんですね」 A-1繰り返し クライエントの発言を相談員がそのまま繰り返す。 ク:「○○ということで困っているんです・・」 相:「○○でお困りなんですね」「○○で困っている・・・」 A-2要約 クライエントの発言・説明を簡潔にまとめ、確認をする。 「あなたが言いたいのは○○ということですね。」 B-1開かれた質問 答え手が自由に応答することができ回答が長くなり内容も様々なものとなりうる質問(英語で言えばwhatやhowで始まるような質問) 「○○とはどういうことですか?」「□□はどうなっているのですか?」 B-2閉ざされた質問 短めで、一定の範囲内に収まる回答となる質問 「何時に帰ったのですか?」(⇒○時です) 「○○は△△だということですか?」(⇒はいorいいえ) C感情の反映 クライエントの発言の感情的な要素に焦点を当てて相談員が指摘し、共感・受容すること。 「つらいと感じているのですね。」 「不安な一方で、チャレンジしたい気持ちもあるんですね。」 ア 基本的関わり行動(視線、姿勢・表情・身振り、口調、相槌など) 基本的関わり行動は特に非言語的コミュニケーションに関するものと言えます。 相談員の顔の向きや視線に関してですが、顔をクライエントに向けることで、「きちんと話を聞いてもらっている」という印象を与えることにもつながります。また、相談員は相談を行う際、クライエントの感情や考えを把握するために表情をよく見る必要があります。そのために、相談員の視線は原則的に相手(クライエント)の目に向ける方がよいでしょう。ただし、凝視すると圧迫感を与えることにつながりますので、適宜視線を外してもよいでしょう。欧米文化と日本を含むアジアの文化では視線についての捉えられ方は異なりますが、やはりある程度は視線をクライエントに合わせることは必要だと思われます。なお、視線を合わせることに抵抗感がある場合、相手の口元やネクタイなどの頭部の下を見てもよいでしょう。 クライエントに自発的に話をしてもらう上で、聞き手である相談員が相槌を打つこともとても重要なことです。相手の話のペースに合わせながら、また基本的には相手の話の流れを妨害しないように、相槌を打つようにしましょう。相槌を打つ際に何種類かバリエーションがあるとよいでしょう。 口調や身振り・手振り、姿勢も、非言語的なコミュニケーションの要素として重要なものです。相手の話の内容に合わせて口調を変える、相槌を打つ際にうなずく動作をする、また相手の話に身を乗り出すようにする(相手に対し少し前傾する)といったことも、クライエントに話をしてもらうためには必要でしょう。 イ 繰り返し、要約 これらの技法はクライエントの自発的な話を促し、クライエントに自分自身の気持ちに気づいてもらうためのものです。 「繰り返し」を行うことで、話を聞いてもらっているという印象を与えることに加え、クライエントが自分の考えや感情を改めて認識する機会を提供すること、以上のことからもっと話をしようという意欲を抱かせるということにつながると考えられます。なお、この「繰り返し」はやりすぎると、かえって話を聞いていない印象を与えることにつながってしまうことや、また相手の発言のどの部分を繰り返すのか(なるべく相手が重要だと感じていると思われることのほうがよい)について留意する必要があります。 「要約」は「繰り返し」と似ている機能がありますが、「繰り返し」がクライエントの発言の一部をそのまま繰り返すのに対し、「要約」は相談員が聴いたことを相談員なりにまとめて確認をするという点が異なります。 この「要約」も、クライエントの話を整理し、クライエント自身に話について再認識してもらうこと、また相談員が理解したことについて確認し、次の話に進めていく、という役割があります。相談を求める人の中には、問題が複雑に絡み合い、混乱している場合もあります。相談員が相談中、要所要所で要約をすることで、解決には至らないものの、少し頭の中が整理されるというクライエントもいることでしょう。 ウ 開かれた質問、閉ざされた質問 クライエントの話をさらに探る必要があり、質問をする必要がある場合もあるでしょう。質問には「開かれた質問」と「閉ざされた質問」とがあります。 一般的には、開かれた質問の方がクライエントにとっては自由に話すことができるため、多めに使用した方がよい、とされています。ただし知的障害や精神障害のある人にとっては、開かれた質問ばかりではどう答えたらいいのか分からなくなり困惑したり、混乱したりすることも少なからずあると思われます。もちろん、閉ざされた質問ばかりでも、「取り調べ」や誘導尋問のようになってしまうこともあるので、望ましくはありません。クライエントの認知的な能力や、話の内容などを勘案しながら、開かれた質問と閉ざされた質問とのバランスを取っていくことが必要でしょう。 なお、開かれた質問のうち、特に「なぜ〜?」とある行為などの理由を相談員がクライエントに聞きたくなることもあるでしょう。この「なぜ」の質問もあまりに多用するのは望ましくないとされています。クライエントに限らず一般的に人は、自分の行動の理由を全てわかっているわけではありません。また、「なぜ〇○した(○○しなかった)?」という問いかけを多くしてしまうと、「責められている」と感じることもあります。「なぜ」の質問は使ってはいけないということではないのですが、その使用方法には留意が必要です。 エ 感情の反映 相談場面でのクライエントの発言の中には、不安、怒り、悲しみなどのネガティブな感情的な要素が含まれていることが多いです。また、単純に一つの感情だけではなく、関心がある反面不安もあるといった、複数の感情が含まれていることも少なくありません。このようなクライエントの感情について相談員が確認しフィードバックしていくことは重要です。 相談を進めようとすると、その内容・事実の確認に相談員は焦点を当てがちです。相談内容の確認も確かに重要なのですが、最終的にはクライエントの意思を探り、決定していくことが重要です。感情の反映をすることは、共感をすることになりますので信頼関係の構築が促進されます。また、その感情が言語化されることで、クライエントの感情が外在化され、自分の感情を客観的に捉えることにつながります。例えば、モヤモヤした気持ちが「悲しんでいる」「怒り」というネーミングを与えられることで明確化され、クライエントから再認識されることになります。 さらに、その感情に関連する思考などを掘り下げることにもつながり、自己理解を進めることにもつながります。以上のことから、相談の内容・事実確認だけにとらわれず、感情にも十分に焦点を当てて、クライエントの感じ方・見方を尊重した相談を行っていくとよいでしょう。 オ その他の相談技術 ここまで紹介した技術は基本的なものであり、これ以外にも様々な技術があります。ここではカウンセリングの一派で用いられる技術の一部を紹介します。いずれも、問題の解決に向けて、クライエントのモチベーションを高めること等を目的としています。 ・スケーリングクエスチョン(これまでの経験内容や今後の見通しなどについて数値に置き換え評価してもらう質問。例:「最高の時を10点、最低の時を0点としたら、今は何点くらいでしょうか?」→「3点くらいです」→「0点ではないんですね。よくないけれど3点ではあるという理由は?」「もう1点上げるにはどうなるといいのでしょうか?」) ・例外探し(クライエントにとっての「例外」を引き出す質問。例:「そのような問題が起きていない時というのはどんな時でしたか?」) ・コーピング・クエスチョン(今までの困難な状況をどのように乗り越えてきたのかを尋ねる質問。例:「そんな大変なこれまでの状況で、どうやって乗り切ってきたのですか」) ・動機づけ面接(「悪習慣をやめたいと思う一方でやめたくない」など「変わりたい、一方で、変わりたくない」気持ちを丁寧に引き出し、その人自身の「変わろう」という動機を高めるための協働的な会話スタイル。ここでは、紙幅の都合上十分な説明ができませんので参考文献14)を示します。) B 複数回に渡る相談全体の組み立て・見通し 障害者職業生活相談員の場合、会社で働く障害者であるクライエントへの心理的なカウンセリングを行うだけでなく、具体的な問題解決を図るという役割が期待されています。つまり、クライエント本人とその職場・生活環境の双方に具体的に働きかけることが求められています。そして、そのためには、どのような方向に進めるのか、クライエントとともに検討し、問題解決を図っていくことが重要です。 ところで國分は、カウンセリングの全体の手順(構造)について、@リレーションをつくる(面接初期)、A問題の核心・本質をつかむ(面接中期)、B適切な処置をする・問題を解決する(面接後期)と示しています。つまり、問題解決の前に、関係性の構築や問題の吟味の重要性が指摘されています。 問題の解決を急いでしまうことで、クライエント本人の気持ちがなかなか追いつかず、相談員側の解決策の提案に対しても気持ちが乗ってこない、信頼関係が崩れてしまう、などのリスクもありますので、「この1回の相談で方向性を絶対に見出す」などといった切迫感を持たずに、相談に臨んでいくことが重要だということが言えます。 C 相談の記録 相談をしたら、原則的には記録を付けておく方がよいでしょう。特に多くの人と相談をする場合、相談員側の記憶は曖昧になっていきます。そのため、クライエントごとにファイルを用意するなどして記録を作成しておくとよいでしょう。その際、どこまで詳細に記録をつけるのか、また、組織内でどこまでその記録を共有化するのか、これらの記録をどのように保管し外部流出を防ぐか(守秘義務)などを決めておく必要があるでしょう。 D 相談の例 相談と言ってもその内容は様々で、絶対的な正解があるものではありません。ただし、相対的に適切、あるいは逆に改善の余地があると考えられる場合があります。以下に架空の相談の例を示します。実際に相談事例1と相談事例2についてロールプレイをしてみてどのように感じるのか実感したり、相談事例1と相談事例2とではどのような点が違うのか、相談員はどのような技法を用いているのか等分析してみるとよいでしょう。なお、相談事例1は相談の進め方としてあまり望ましくない事例、相談事例2は相談事例1よりは改善されている事例を想定しています。 (相談事例1) 会話 解説 (相談員、クライエントとの定例面接を行うため、クライエントを椅子に座るよう手でジェスチャー。相談員はこれまでの記録書類を見ているため、クライエントを見ていない) 相1:最近どう?仕事には慣れた? ・閉ざされた質問 ク1:はあ、少し慣れてきたんですが・・。(ため息) 相2:慣れてきたんだ、よかったね! ・クライエントを励まそうとしている。 ク2:まあそうなんですが、まだうまくできていないなあ、と思うんです。 相3:え、そう?そんなことないと思うなあ。 ・クライエントを励まそうとしている。 ク3:それでもこの前、課長に注意されてしまって。 相4:まあ、そんなに気にすることないよ。    私も会社に入ったころは色々と怒られたよ。みんな、通る道だよ。 ・クライエントを励まそうとしている。 ク4:はあ、そうですか。 相5:そんなに気になるんなら、課長に言っておこうか?もっと丁寧に教えるようにって。 ・問題解決のため提案 ク5:え!? いや、まだそこまでしてもらわなくて、いいんですが。 相6:そう?まあ、とにかくそんなに気にする必要はないからさ。ところで、ちゃんとお薬は飲んでるの? ・クライエントを励まそうとしている。  状況の確認 ク6:はあ、まあ飲んでいます・・。 相7:お医者さんからも問題ないって言われてる? ・状況の確認 ク7:はい。ただ・・。 相8:やっぱり課長との関係かな・・? ・状況の確認 ク8:はい。 相9:まあ、気にすることはないと思うよ。ところで、チャレンジド(注:この会社における障害のある従業員のこと)の田中君ともうまくいっている? ・クライエントを励まそうとしている。 ・状況の確認 ク9:はあ、まあまあです。 (以下、家庭状況や睡眠など定められた項目を相談員が確認して終了) (相談事例2) 会話 解説 (相談員、「お座りください」と言い、クライエントを椅子に座るようジェスチャー) ク1:相談したいことがあるんです。 相1:どんなことでしょうか。 ・開かれた質問で、クライエントの発言をさらに促している。クライエントは自由に答えることができる。 ク2:就職して1年が経つんですが。 相2:はい。 ・返事(相槌)ではあるが、聞いていることを示し、さらにクライエントの発言をさらに「促す」機能も持っている。 ク3:最近、私が帰る時に、挨拶をしようと係長とかスタッフさんたちを探すことが多いんです。 相3:係長やスタッフさんを帰るときに探す。 ・クライエントの直前の発言を繰り返している。 ク4:はい。でも、いつも、いないんです。会議だとか言っていますが。私のことを避けているのかなって。 相4:避けられてるって、思うんですね。 ・クライエントの最も伝えたい部分(避けられてる)を取り出しており、かつ「思うんですね」を付けることで、クライエントは「避けられてる」というのは、客観的事実とは断定できずクライエントが判断したものであるということも、暗に示している。 ク5:絶対、私のことを避けていると思うんです。 ・クライエントの感情を取り上げている。 相5:避けられていると思うと、悲しい。 ク6:悲しいし、なんで私のことをそんなに避けるのかと。 相6:怒りを感じている。 ・ここでもクライエントの発言になかったが、抱いていそうな感情(怒り)についても尋ねている。 ク7:そうですよ、あきれています。 相7:職場のマナーとして挨拶をするべきだと考えている。でも、帰りの挨拶をしようとすると職場の人たちがいない。避けられているんではないかと感じている。 ・ここまでのクライエントの発言を要約し、相談員がこのように理解しているということを確認している。 ク8:そうなんです。 相8:お話のようなことは毎日なのでしょうか? ・具体的に頻度を聞いている。 ク9:いえ、毎日ではないのですが、それでも週に何回かあります。 相9:他に「避けられている」と感じるようなことはあるんでしょうか? ・さらに、他の場面でもクライエントの訴える内容と関連する出来事があるのか尋ねて、状況の具体的把握を行っている。 ク10:そうですね、うーん。休み時間はあまり会話をしない感じですね 相10:そんな時はどのように感じますか? ・感情に焦点を当てている。 ク11:とても寂しいですね。 相11:やはり寂しく感じますよね。そうすると、やはり職場の人たちが挨拶をしてくれるようになるといいのでしょうかね。 ・クライエントの希望を聞いている。 ク12:そうですね。 相12:そのほかに、こうなるといいということはありますか。挨拶をしなくても、自分として「まあ、仕方がないか」と思えるとか。 ・クライエントの希望を聞いているとともに、このような解釈もできるのでは(仕方がない、と思うようにする。挨拶にこだわらないようにする)ということも暗に示している。 ク13:いや、普通、社会人なら挨拶するものじゃないですか。挨拶しないっていうのはおかしいですよね・・? 相13:やはり挨拶をするのが社会人だという気持ちが強いんですね。 ・クライエントに規範意識(社会人なら挨拶をするものである)があり、こだわっている面があることを確認している。 (以下、つづく) (5) 認知的能力に配慮した相談の進め方 相談の対象は認知的能力に制約のない人ばかりではなく、企業によっては知的障害や精神障害など認知的な障害のある従業員を対象とした相談を重点的に行わなければならない場合もあるでしょう。そこで、認知的な能力に制約のあるクライエントに対して相談を行う際の留意点をいくつか示します。 @ 意味が通じているか常に意識しよう コミュニケーションが成立することの重要性を先述しましたが、繰り返しになりますが、相談員とクライエントとの間で言葉の意味の共通理解ができているのか、常に意識することの重要性は強調しておきたいと思います。以下の項目も、まとめると意味の共通理解を図るということに尽きるものです。 A 代名詞(コレ、アレ、ソノ等)の使用に留意 知的障害など認知的能力に制約がある人と相談を行う場合、クライエントと相談員とで意味を共有することに特に留意する必要があります。特に、ちょっとしたことで意味の共有が妨げられる場合があり、相談員側が軽い気持ちで「これ」「それ」「あの」などの代名詞を使って発言して、実際には意味があまり通じていないという場合があります。代名詞ではなく、具体的に事物を特定して話をしていく方が望ましいでしょう。 B 黙従傾向に留意 黙従傾向とは、よく分からない質問などに対し、意味をよく考えずに「はい」「そうです」と回答してしまう行動傾向のことを言います。知的障害の方などにこのような傾向が見受けられ、結果として本人の意思を尊重した相談が十分に行われない可能性があります。クライエントの意思を尊重するためには、この黙従傾向にも留意する必要がある場合があります。そのような場合、例えばあえて本人の意思と違うと考えられる質問を投げかけるなどして「違います」と否定してもらう、繰り返し尋ねるなどの工夫が必要でしょう。 C 新近性効果に留意 「どう思いますか」「どうしたいのですか」といった開かれた質問ではなかなか意思の確認が難しいクライエントについては、「Aにしますか?Bにしますか?Cにしますか?」というように選択肢をいくつか提示して相談を進める場合があります。その際留意したいのが新近性効果です。新近性効果とは、複数の選択肢を提示した場合、最後に提示された(=時間的に最も近く新しい)選択肢を選んでしまうということを指します(先述した例でいえばCを選んでしまう)。クライエントによっては、冒頭に提示された選択肢をなかなか覚えておくことが難しく、一番後に提示されたものを選んでしまうということがあるのです。そのため、先述した繰り返し確認するということと共通しますが、選択肢から選んでもらって意思を確認するという場合、選択肢の順番を何度か変えてクライエントに伝え、選んでもらうということが必要な場合があります。 D 音声言語のみでなく視覚的補助を用いよう クライエントのなかには、音声言語だけではなかなか相談内容を覚えておくことが難しく、また自分でメモを取ることも難しい人もいるでしょう。そのような場合、話し合った内容などについて、相談員がメモを作り渡すということが有効かつ必要な場合があります。また、そもそも話の内容の理解を促すために、音声だけより図があった方がよいということもあるでしょう。話をしながら紙に図解する、ホワイトボードを活用しながら相談をするという工夫の仕方もありますので、クライエントの状況を見ながら(もちろん中には必要のない人もいる)、視覚的補助を導入していくとよいでしょう。なお、障害の有無にかかわらず、紙などを用いながら相談を行うことで、問題となっている状況をより客観的に把握できるという効果がある場合があります。 (6) オンラインを利用した相談 2020年に発生した新型コロナウイルス感染症は、働き方を含む人々の生活を一変させました。ただ2023年5月には「5類感染症」となり、本稿執筆時点である2023年12月時点では、新型コロナウイルスの生活面の影響は、そのピーク時に比べて少なくなっています。そのため出勤の形態も、「テレワーク」から「出社」に戻している場合も多くなってきているようです。それでも「コロナ以前」とまったく同様に戻るわけではなく、オンライン技術は利便性が高いことから今後も必要に応じて使用されると考えられます。そこでここでは、オンラインを活用して相談を行う場合の留意点について、触れておきたいと思います。 オンラインでの相談の形態には様々なものがありますが、主な形態として、メールでのやり取り、LINE等のチャットでのやり取り、ZoomやSkype等によるマイクやカメラを用いた同時双方向的なやり取り(ビデオ通話)が挙げられるでしょう。 オンラインであっても、これまで述べてきた相談技術が基本とはなります。ただし、相談の進め方については先述したようにメールやビデオ通話といった形態によって影響を受けることになります。それぞれの形態ごとの留意事項は次頁表2の通りとなります。 オンラインを利用した相談には、通常の対面形式での相談に比べて、利点もあれば留意点もあります。新型コロナウイルスの生活面が影響は小さくはなってきてはいますが、オンラインという手段ならではのメリットもあり、その特徴・限界を理解したうえでオンラインという手段での相談について、今後もうまく活用していきたいものです。 表2 オンライン相談の形態ごとの特徴・留意事項 メールでの相談 LINE等のチャットによる相談 ZoomやSkype等での ビデオ通話による相談 ・相談員・クライエントともに返信に時間がかかることもある。 ・長文になりすぎないようにする必要がある。 ・メールが長文であったり、表現に情緒的なニュアンスが伝わりにくいことで、誤解が生じる場合がある。 ・通信内容は暗号化されておらず送信ミスも生じる可能性があり、第三者に漏洩するリスクがある。 ・メールと同様に文字を中心としたコミュニケーションに加え、絵文字・スタンプといった機能がある。 ・相手のスタイルやテンポ、文章量に合わせ、共感的・支持的なメッセージをはっきりと言葉やその他のツールで伝える必要がある。 ・必要に応じて絵文字・スタンプを使用する。 ・行き違いやタイムラグに対応する必要がある。 ・感情の反映に加え、対話をリードする質問が有用となる。 ・機材の有無・整備状況について確認する必要がある(Webカメラ、ヘッドセットマイクなど)。 ・インターネット接続のセキュリティ面での確認が必要である。 ・相談に適した環境かどうか双方とも確認する必要がある(通信状態、映像の画質、明るさ、音声(音漏れ)、大きさ)。 ・明瞭に話し、相槌やうなずきをきちんと行い、傾聴していることがより明確に伝わるようにする。 注)参考文献10)〜13)を参考に作成。 (7) おわりに −相談員が一人で抱え込まないことの重要性− 以上、相談員がカウンセリングを行う際の基本的な技術について説明してきました。このようにクライエントへカウンセリングを行うには、技術も重要ですが、相談員のメンタルヘルスの維持も重要です。相談員が主にカウンセリングを行うという体制であっても、カウンセリング場面で扱われた問題にチームで取り組んでいくことが必要かつ有効である場合が少なくありません。守秘義務とのバランスに留意しつつ、相談を受けた相談員が一人で抱え込まないですむ職場の体制を作っていくことが重要となります。 (若林 功) 【参考文献】 1)F・P・バイステック(著) 尾崎新・福田俊子・原田和幸(訳):「ケースワークの原則(新訳版) 援助関係を形成する技法」誠信書房(1996) 2)國分康孝:「カウンセリングの技法」誠信書房(1979) 3)空閑浩人:自己覚知, 社会福祉用語辞典,ミネルヴァ書房,p.125.(2013) 4)アレン・E・アイビイ(著) 福原真知子・椙山喜代子・國分久子・楡木満生(訳編):「マイクロカウンセリング “学ぶ−使う−教える”技法の統合:その理論と実際」川島書店(1985) 5)松山真:相談援助の展開過程T,社会福祉士養成講座編集委員会(編)「相談援助の理論と方法T」中央法規(2010) 6)D・メァーンズ(著)岡村達也・林幸子・上島洋一・山科聖加留(訳)諸富祥彦(監訳):「パーソンセンタード・カウンセリングの実際 ロジャーズのアプローチの新たな展開」コスモス・ライブラリー(2000) 7)Mehrabian, A., & Wiener, M. (1967). Decoding of inconsistent communications. Journal of Personality and Social Psychology, 6(1),p.109-114. 8)宮田正夫(1990).コミュニケーション, 國分康孝(編)カウンセリング辞典, p.193-194. 誠信書房 9)村上香奈(2014)心理臨床の立場から読み解く心身健康科学,心身健康科学 10(2),p.64-66. 10)中村洸太(編著):「メールカウンセリングの技法と実際 オンラインカウンセリングの現場から」川島書店(2017) 11)杉原保史・宮田智基:「SNSカウンセリング・ハンドブック」誠信書房(2019) 12)日本学生相談学会:「遠隔相談に関するガイドライン」(2020) 13)日本学生相談学会:「学生相談において、遠隔相談(Distance Counseling)を導入する際の留意点」(2020) 14)須藤昌寛:「福祉現場で役立つ動機づけ面接入門」中央法規(2019) 6 障害者の人権の擁護、使用者による障害者への虐待防止 近年、事業所や障害者施設での障害者への虐待に関する報道が幾度かなされてきました。虐待は障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって、それを防止することはきわめて重要です。このため、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」という。)が平成23年6月に成立し、平成24年10月1日から施行されました。 この法律では、「養護者による障害者虐待」「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」及び「使用者による障害者虐待」の3つについて、それぞれの防止等を規定していますが、ここでは「使用者による障害者虐待」について解説します。 (1) 対象障害者・対象使用者 障害者虐待防止法で定義する障害者や使用者に関しては、次のとおりとなります。 @ 対象障害者 障害者基本法(昭和45年法律第84号)第二条第一号に規定する障害者とする、とされ、すなわち「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁より継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者」と定義されます。身体障害者手帳等の所持の有無は問わず、また、年齢制限もありません。 なお、社会的障壁とは「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されます(障害者基本法第二条第二号)。 A 対象使用者 障害者を雇用する事業主(法人、個人経営者)、事業の経営担当者(法人理事、会社役員、支配人など)、その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者(実質的指導監督・決定権限者など)です。また、派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける事業主や、船員職業安定法(昭和23年法律第130号)における船員派遣を受け入れる事業主も含まれます。 なお、就労継続支援A型の場合は、「障害者福祉施設従事者等」と「使用者」のいずれにも該当します。 (2) 障害者虐待の具体例・判断のポイント @ 虐待の具体例 障害者虐待防止法では、使用者による障害者虐待とは、使用者が当該事業所に使用される障害者について行う次のいずれかに該当する行為とされます。 ア 身体的虐待 障害者の身体に外傷が生じたり、生じるおそれのある暴行を加えること、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。 【例:たたく、つねる、なぐる、熱湯を飲ませる、異物を食べさせる、監禁する、危険・有害な場所での作業を強いるなど】 イ 性的虐待 障害者に対してわいせつな行為をすること、または障害者にわいせつな行為をさせること。 【例:裸の写真やビデオを撮る、理由もなく不必要に身体に触る、わいせつな画面を配布する、性的暴力をふるう、性的行為を強要するなど】 ウ 心理的虐待 障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動その他、障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。 【例:脅迫する、怒鳴る、悪口を言う、拒絶的な反応を示す、他の労働者と差別的な扱いをする、意図的に恥をかかせるなど】 エ 放置等による虐待 障害者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置のほか、他の労働者による@〜Bの虐待行為の放置など、これに準じる行為を行うこと。 【例:住み込みで食事を提供することになっているにもかかわらず食事を与えない、意図的に無視する、放置することで健康・安全への配慮を怠るなど】 オ 経済的虐待 障害者の財産を不当に処分することその他、障害者から不当に財産上の利益を得ること。 【例:賃金等を支払わない、賃金額が最低賃金に満たない(※)、強制的に通帳を管理する、本人の了解を得ずに現金を引き出すなど】 ※都道府県労働局長から最低賃金の減額特例許可を受けている場合については、減額後の最低賃金に満たないとき。 A 虐待の判断に当たってのポイント 虐待が発生している場合、虐待をしている人(虐待者)、虐待を受けている人(被虐待者)に自覚があるとは限りません。従って、虐待の判断に当たっては虐待者、被虐待者本人の自覚は問わない、ということになります。 虐待者が「指導・しつけ・教育」の名の下に不適切な行為を続けていることや、被虐待者が、自身の障害の特性から自分のされていることが虐待だと認識していないこともあります。また、長期間にわたって虐待を受けたことから、被虐待者が無力感からあきらめてしまっている場合もあります。 虐待かどうかの判断が難しい場合、市町村や都道府県、都道府県労働局では、虐待でないことが確認できるまでは虐待事案として対応します。対応の流れについては後述しますが、市町村や都道府県は、虐待を発見した者から受けた通報のうち、「使用者による障害者虐待ではないと明確に判断される事案を除いたもの」を全て、市町村は都道府県に、都道府県は都道府県労働局に報告することとされています。 B 改正障害者雇用促進法に定めのある障害者差別(第4章第4節に詳述)と使用者による障害者虐待との関係について 障害者差別は、障害者虐待防止法第2条第8項第3号の「不当な差別的言動」に該当することから、障害者差別が認められる場合には心理的虐待が認められます。 身体的虐待、放置等による虐待、又は経済的虐待について、障害者差別禁止指針に定めのある分野における、障害者であることを理由とした障害者でない者との差別的取扱いとそれぞれの虐待に該当する行為が同時に行われていた場合には、各虐待と併せて、その差別的取扱いについて、障害者差別(心理的虐待)が認められます。 (例1) 危険作業を行わせる際に、障害者でない者に対しては適切な装備を与えるが、障害者に対しては、障害者であることを理由に、適切な装備を与えない。(身体的虐待と心理的虐待) (例2) 障害者でない者に対しては食堂を利用させるが、障害者に対しては障害者であることを理由に、食堂を利用させない。(放置等による虐待と心理的虐待) (例3) 障害者でない者に対しては最低賃金以上の賃金を支払っているが、障害者に対しては、障害者であることを理由に、最低賃金未満の賃金を支払う。(経済的虐待と心理的虐待) 上記のとおり、障害者差別は心理的虐待に該当するため、障害者差別がある(又はその疑いがある)事案について把握した場合には、他の心理的虐待事案と同様に対応することになります。 (3) 障害者虐待防止のための措置に関する事業主の責務 障害者虐待防止法では、障害者を雇用する事業主は、労働者に対する研修を実施することや、障害者や家族からの苦情処理体制を整備することなどが定められています。 @ 研修の実施 障害者虐待を防止するためには、障害者の人権についての理解を深め、障害特性に配慮した接し方や仕事の教え方などを学ぶことが大切であるとされています。研修内容としては@障害の特性を理解し、障害者への接し方を学ぶ、Aどのような行為が障害者虐待に該当するのか、障害者虐待を事業所で発見した場合にどこに報告し、事業所としてどのような措置を行うかなどを学ぶ、などが考えられます。 また、研修の実施や各種研修会への参加に加え、職場内で率直に意見交換できるような環境作りも重要となります。 A 障害者や家族からの苦情処理体制の整備 具体的には、相談担当者(または担当部署)を決め、周知を図ることが重要です。また、相談の内容や状況に応じて、相談担当者(または担当部署)と人事部門が連携を図るなど、万が一、事業所内で障害者虐待が発生した場合に、事業所内で適切に対応ができる体制を整備することも重要です。 (4) 虐待に関する通報・届出及び行政による措置 @ 発見者の通報、被害者の届出 使用者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに市町村又は都道府県に通報しなければなりません。また、使用者による障害者虐待を受けた障害者は、市町村又は都道府県に届け出ることができます。 通報又は届出を受けた市町村や都道府県は次頁の図の流れで都道府県労働局へ報告します。通報などの秘密は守られます。 なお、市町村の窓口では「障害者虐待防止センター」、都道府県の窓口では「障害者権利擁護センター」の名称としている地域もあります。 A 不利益取扱の禁止 虐待を発見した者による通報、虐待を受けた障害者による届出のいずれの場合であっても、事業主はそのことを理由に、労働者に対して、解雇その他不利益な取扱をしてはならないとされます。 B 報告を受けた場合の措置 報告を受けた都道府県労働局(労働基準監督署、ハローワークを含む)は、都道府県と連携を図りつつ、労働基準法(昭和22年法律第49号)、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)その他関係法律の規定による権限を適切に行使します。 7 中途障害者の雇用継続、長期に雇用する障害者への対応 雇用する障害者に対して合理的配慮の提供が法律で義務化されました。可能な限り、中途障害になった方を再び職場に迎え入れることができるよう考えてみましょう。 (1) 障害受容と支援方法 中途障害の方は、自分の置かれた状態がなかなか把握できず、不安や精神的葛藤から脱出できずにいることが考えられます。 障害の受容には、通常、かなりの時間が必要です。一般に、 @ショック期(茫然自失の段階)、A否認期(心理的防御反応から障害否定の段階)、B混乱期(現実を否定し切れなくなり、混乱の段階)、C努力期(依存から脱し、価値転換の段階)を経て、D障害の受容へと進むと言われています。 この流れについては、医療的なリハビリテーションでの治療効果にも影響することですので、医療機関では丁寧に対応し、障害に向き合えるようにサポートをしています。障害の受傷から職場復帰に至る過程での医療機関での対応状況について、会社側に情報提供いただき、円滑な職場復帰体制を構築できるように準備しておくことが肝要です。この際、必要に応じて、就労支援機関のスタッフや家族、友人、同僚等身近にいる人達で本人を支えるネットワークを作り上げることも有効です。 なお、本人が精神的負担に耐え切れないような場合は、臨床心理士や産業カウンセラーによるカウンセリングを活用したほうがよいでしょう。社内にそのような体制がない場合もありますが、近年では従業員支援プログラム(EAP:Employee Assistance Program)の一環としてこのようなカウンセリングサービスを有償で提供する企業も出てきています。 (2) 復職時に考慮すること 復職が可能かどうかの判断は主治医や産業医の意見をもとに、本人の希望や障害の状況、職務遂行能力、職場環境を踏まえて行います。これについては、身体的な障害により休職している場合でも精神的な障害による休職の場合でも原則として同様に対応します。また、難治性疾患により休職した者等については、職場復帰後の継続的な医療的ケアが必要な場合も多いので、この点についても配慮が必要になります。 社内の関係者(人事担当者、産業保健スタッフ、障害者職場定着推進チーム等があればそのメンバー等)が協議し、本人のキャリアと残存能力、継続的な医療ケアの必要性や禁忌事項の状況等を踏まえ、復職のプランを策定します。この際、障害の特性や治療の見通しなど非常にセンシティブな情報を扱うことも多いので、情報共有するメンバーを限定することが必要な場合もあります。 フルタイムでの現職復帰が難しい場合には、必要に応じて労働者性を発生させないリハビリ出勤や短時間勤務、緩和出勤、また勤務条件の制限(時間外勤務制限・出張制限・勤務シフトの配慮等)から始めます。 まずは、休職前と同じ職場、同じ業務への復帰を検討しますが、現職復帰が難しい場合はあまりこだわりすぎず、別の職場、業務への復帰を考えます。復職の過程で、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターなど就労支援機関のスタッフから専門的な視点で客観的なアドバイスを受けることも有効です。精神疾患によって休職している者の職場復帰に当たっては地域障害者職業センターや精神科クリニックなどが提供しているリワーク支援を利用することが有効なケースもあります。 残存能力の活用と体力維持を考慮しつつ、OFF-JTや自己啓発制度も活用して、潜在的な機能や能力を引き出す努力を行います。 以前の自分が忘れられず落ち込むこともありますが、これは本人自身が乗り越えなければならないハードルです。必要に応じて産業医、産業保健師等の健康保健スタッフや就労支援機関のスタッフの協力を得ながら相談、援助を行い、本人を支えるネットワークで見守っていることを伝えながら支えてあげましょう。 本人の問題としては、@身体的、精神的機能はどの程度回復しているか、A今後の通勤等にケアが必要か、B本人は障害を受容できているか、継続的な医療的ケアが必要な場合にはその必要性を認識できているか、C残存能力がどの程度あるか、代替機能を円滑に活用できているか等であり、受け入れる職場の問題としては、@本人の的確な能力評価、A現職復帰か、配置転換か、当面の目標と将来的な職務のイメージを構築し、本人と関係者間で共有しているか、B労働条件の変更の必要性(治療との両立のための労働時間等)と見通し、C受入態勢の構築、D障害についての正しい知識の有無、E雇用支援・職場の支援体制等です。地域障害者職業センター等、外部の専門機関のノウハウも活用しながら、課題を一つ一つ明らかにし、解決していきます。この際、言うまでもなく、本人の自立性、主体性を生かすことがポイントとなります。 (3) 障害者手帳の交付と手続き 身体障害者の場合、身体障害者福祉法に定める一定の障害が発生すれば、主治医と相談し、都道府県知事が指定する障害別指定医の診断を受け、その診断書と写真を添付して、市区町村の福祉窓口へ交付申請を行います。 精神障害者の場合、精神保健指定医、主治医等の診断書(初診日から6ヶ月経過した後に診断を受けたもの)と写真を添付して、市区町村の精神保健福祉担当窓口へ交付申請書を提出します。手帳の交付申請は原則として本人が本人の意思で行います。なお、精神障害者保健福祉手帳については2年ごと(有効期限は、交付日から2年が経過する日の属する月の末日まで)に更新の手続きが必要になります。 なお、知的障害については、「知的機能の障害が発達期(概ね18歳くらいまで)に発生」した場合に診断されるものであるため、中途障害により知的機能の低下が発生した場合や若年性認知症により知能低下を来した場合には療育手帳の発給等はされません。 身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を持つことは、国や地方公共団体の支援を受ける条件になります。身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の交付を受けるときには、市区町村独自の支援サービス、地域での生活支援サービスについての情報も得ておくようアドバイスします。《相談窓口:居住地市区町村 福祉事務所》 また、障害基礎年金、障害厚生年金の申請について、年金事務所・年金相談センターに相談するようにアドバイスすることも望まれます。 本人が身体障害者手帳又は精神障害者保健福祉手帳の交付を受けたことを企業が把握した場合は、人事担当者は、企業が障害者雇用率制度等の適用を受けるために手帳の写しを提出して欲しい旨を依頼し、事務所で保管します。この際、利用の目的と範囲を明らかにして本人の意に反したものにならないよう十分に配慮することが必要です。 併せて、障害の状態に変更のない限り毎年度利用すること、有効期限、障害の程度等に変更がないか確認することがあること等、変更のあったときの届出方法も説明しておくとよいでしょう。 厚生労働省が策定した「プライバシーに配慮した 障害者の把握・確認ガイドライン」(資料編第6節 参照)を参考としてください。《相談窓口:ハローワーク》 (4) 職業リハビリテーションサービスの活用 中途障害の場合、本人の得意とする分野や、今までのキャリアを参考として、本人の意向や希望を考慮して新たな担当業務を決めて試してみます。障害の特性や程度に見合った業務であるかどうかは実際にやってみなければわからないことも多いので、少なくとも複数の業務に就けてみます。中途障害者の場合には、単発の作業遂行については問題なくても、障害の後遺症状等により長時間の作業遂行が難しい場合もありますので、繰り返し作業、終日の作業遂行などで心身に過度の負担が発生していないか等の確認を行うことも望まれます。障害特性を踏まえた職務の再設計をする場合には、地域障害者職業センターに相談し、助言を得るとよいでしょう。 (5) 職務・役職・賃金の検討 一定の慣らし期間を経たあと、関係者で協議し、配属部署と復職後の職務、役職(役割)、妥当な賃金を決め、本人と話し合います。 職務内容が大きく変わる場合や新しい職務につく場合には、徐々にレベルアップすることを見込んだ処遇を考慮する等の配慮も望まれます。また、賃金の見直しが必要となる場合もあります。 環境整備には職場復帰支援助成金の活用も考慮して雇用継続の方向で検討します。 (6) 勤務時間・通勤方法の配慮・在宅勤務 復職に先立ち、通勤のリハビリテーションを始めます。必要に応じてラッシュ時を避ける必要がないか、通常どおりの通勤経路で支障がないか、予定している勤務時間での通勤が可能かどうかを確認します。長い療養生活から復帰する場合は、最初は苦痛も伴い、疲れることもありますが、徐々に慣れて体力にも自信がついてきます。 通勤を容易にするために、会社側の対応が必要となるケースもあります。例えば、車いす使用の下肢障害者に自家用車通勤を認めるときは、平面駐車場で、駐車場スペースは通常の1.5倍の幅が必要です。事業所の駐車場が使えるか、事業場の入口までの通路、スロープ等の改善、エレベータの設置、トイレの改造等も検討します。車いす使用者は自家用車の乗降に時間を要することも多く安全性を考慮して、降雪地帯では屋根付き駐車場の整備が望まれます。 いずれの場合も「…だろう」と決めつけず、本人に確認しながら計画し、助成金の対象となるかどうかも併せて検討します。 通常の出勤時間帯の通勤が困難な場合は、フレックスタイム、出勤時間の繰り上げ繰り下げ、勤務時間のスライド等で対応します。一般従業員への対応も含めて就業規則に規定しておくとよいでしょう。 必要な場合は、短時間勤務のほか在宅勤務も併せて検討します。 (7) 職場への啓発・理解 職業生活を円滑に遂行できるかどうかは、日常生活における家族の支援、公共施設や交通機関のバリアフリー等環境の整備状況が重要な要素になりますが、職場における障害に対する理解等、障害者を支援する人的体制が整っているかどうかが、本人の新たな生活への再出発時の意欲や職務遂行を大きく左右します(Q&A【問10】(P125)にチャレンジ)。また、中途障害を負った者が職場で再度頑張っていく姿は他の従業員にとってもよい刺激になり、従業員エンゲージメントを高めることに繋がったという報告も多く寄せられます。 職場内に障害者職業生活相談員や障害者職場定着推進チーム等が設置されている場合には、障害についての理解促進、啓発の中心として活躍が期待されます。 障害についての具体的な知識と配慮内容や方法等の情報は、職場の上司はもちろん同僚にもあらかじめ提供し、理解と協力を求めておくことが必要でしょう。 復職にあたって社員研修を実施するなど職場内での従業員に対する理解促進、啓発が必要になった場合等は、地域障害者職業センターや中央障害者雇用情報センターにご相談ください。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構では、中央障害者雇用情報センターに障害者雇用支援ネットワークコーディネーターを配置し、事業主に対する障害者雇用についての相談、社員研修の企画実施、登録された障害者雇用管理サポーターの派遣、各種情報提供のほか、就労支援機器等の展示・貸出等を行っています。 就労支援機器については、障害別に様々なものが用意されており、無料貸出制度を利用することにより、適合するかどうか事前に使ってみてから購入につなげることができます。《相談窓口:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構中央障害者雇用情報センター》 (8) 心の健康問題により休業した者の職場復帰支援 メンタルヘルス不調により休業した労働者の職場復帰支援については、厚生労働省が作成した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2020年改訂)」が支援方法について詳しく解説されており、参考になります。ホームページでも公開されていますので、支援にご活用ください。 また、地域障害者職業センターでは、うつ病等の精神障害により休職している方や、その方の復職を考えている事業主に対して、主治医等と連携し円滑な職場復帰に向けた支援(リワーク支援)を行っています。 この他、精神保健福祉センターや精神科クリニックなどリワーク支援を提供する機関が増えています。 8 退  職 (1) 自己都合退職 本人の都合による退職の場合、時として表に出ない問題が隠れていることがあります。特に障害者については、本当の理由を把握し、職場の改善等に活かしていくことが大事です。 ・仕事が難しい、教えてくれない、忙しすぎる、自分の時間がない ・職場の人間関係で悩んでいる、一人前として認めてくれない ・通勤に時間がかかりすぎる ・家族のサポートが得られなくなった 等が考えられないでしょうか。 職場に普段から何でも言える雰囲気をつくり、「業務日誌」「連絡帳」「自己申告制度」等により本人の希望や仕事上の要望、必要な配慮事項、家庭の事情等を把握し、事業主として対応が可能なものにはあらかじめ対処しておくとよいでしょう。 なお、平成28年4月から、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための合理的配慮の提供が義務づけられているとともに、障害者からの相談に適切に対応するための相談体制の整備が義務づけられていますのでご留意ください。 (2) 障害者の解雇と報告義務 障害者を事業主都合で解雇する場合は、「障害者解雇届」をハローワークへ届け出なければなりません(障害者の雇用の促進等に関する法律第81条(解雇の届出等))。 障害者の再就職は一般の求職者と比べて困難であるとされているため、ハローワークでは、解雇される障害者に対して、早期再就職の実現に向けて的確かつ迅速な支援を行っています。このため、全ての事業主は、「労働者の責めに帰すべき理由による解雇」や「天災事変その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となったことによる解雇」を除き、障害者を1人でも解雇する場合、速やかに障害者を雇用していた事業所を管轄するハローワークに「解雇届」を届け出る必要があります。これについては、週所定労働時間20時間未満の常時雇用する障害者を解雇する場合も適用されます。 なお、労働能力等に基づくことなく、単に障害を理由とした障害者を優先して解雇の対象とすることなどは差別的取扱いとして禁止されていますのでご留意ください。 (3) 定年退職 具体的な退職年月日と手続内容を少なくとも1か月前に通知します。特に聴覚・視覚・知的等の障害者にはわかりやすい丁寧な説明が必要です。 退職する障害者が再就職しない場合は、健康保険は国民健康保険へ、厚生年金保険は国民年金への加入の手続が必要となります。本人には、定年退職の日から14日以内に居住地の市区町村へ手続きするよう勧めてください。 満65歳に達するまでに、障害の程度が重くなったり、他の障害が重なったりしていると予想される場合は、障害の程度の再認定が必要です。本人が自己の意志で行うことではありますが、主治医に相談し、都道府県の指定医の認定を受けるよう勧めてください。断の結果、障害の程度が重くなれば「身体障害者手帳」の等級変更を福祉事務所(福祉担当課)へ、また障害給付が改定される場合には、「障害給付額改定請求書」を、住所地を管轄する年金事務所へ提出します。 年金については障害基礎年金や障害厚生年金(1級、2級)を受給していて、国民年金保険料の法定免除を受けている場合は、老後の老齢基礎年金は加入期間が1/2にカウントされるため老齢基礎年金は少なく、障害年金(非課税)を選択するのが一般的です。 なお、65歳以上の障害基礎年金受給者は「障害基礎年金+障害厚生年金」「老齢基礎年金+老齢厚生年金」という組み合わせだけでなく、「障害基礎年金+老齢厚生年金」という組合せも選択できますので、有利な組合せを選択するのがよいでしょう。 詳細は年金事務所へ問い合わせるようアドバイスします。 【日常生活自立支援事業と成年後見制度】  知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方の場合、障害者の生活を支える制度を利用したり、利用について相談したりする力が不十分であるために、せっかくの制度を有効に活用できていない場合があります。また、金銭管理や日常生活での契約行為等でトラブルに遭い、これを解決できず、そのことが会社への出勤や仕事への取り組みに少なからず影響してしまう場合があります。  このような課題に対処し、障害者の生活を支え、権利を守るための公的な制度として、次の二つが代表的です。判断能力が不十分な方の立場から、専門家の意見も入れて適切な方法を取れるよう、障害者本人が助言を受けることができます。 1.日常生活自立支援事業 ※  (1) 内容   生活支援員の派遣により、基本的には次のような内容の支援が行われます。 @ 福祉サービスの利用援助 A 苦情解決制度の利用援助 B 住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助等   また、上の3つの支援に伴い、次のような援助が行われる場合があります。 C 預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理) D 定期的な訪問による生活変化の察知  (2) 相談窓口 市区町村の社会福祉協議会(実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会)  (3) 根拠法令 社会福祉法  ※ 地方自治体によって名称が異なる場合があります。 2.成年後見制度  (1) 内容   〔目的〕  知的障害や精神障害等の理由で判断能力の不十分な方々は、買い物をしたり、不動産や預貯金などの財産を管理したり、福祉サービスに関する契約を結んだり、遺産分割協議を行う必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また、自分に不利益な契約内容であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害に遭うおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。   〔種類〕  成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度との2つがあります。  法定後見制度は、「後見(こうけん)」「保佐(ほさ)」「補助(ほじょ)」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。法定後見制度においては,家庭裁判所によって選ばれた成年後見人、保佐人、又は補助人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。  任意後見制度は、高齢者等の本人が、十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人である任意後見人に、自分の生活、療養看護や、財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を、公証人の作成する公正証書で結んでおく制度です。判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督の下、本人を代理して契約などをすることにより、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。  (2) 相談窓口 家庭裁判所  (3) 根拠法令 民法 Q&A【問10】在職中に事故や疾病で障害をもつことになった従業員の職場復帰にあたり、日常生活における家族支援、バリアフリー等の環境整備だけでなく、職場における障害への理解等、障害者を支援する人的体制が整っているかどうかが、本人の新たな生活への再出発時の意欲を大きく左右する。(解答と解説はP289に記載しています) 第3章 障害別にみた特徴と雇用上の配慮 第1節 肢体不自由者 第2節 視覚障害者 第3節 聴覚・言語障害者 第4節 内部障害者 第5節 知的障害者 第6節 精神障害者 第7節 発達障害者 第8節 その他の障害者 第1節 肢体不自由者 1 肢体不自由の種類と特徴 (1) 肢体不自由の種類と特徴  肢体不自由とは左右の上肢(手・腕)と下肢(足)、体幹(背骨を中心とした上半身と頸部)のいずれかの部位において、日常生活上の動作が困難となるような運動機能の障害が発生し、永続する状態をいいます。脳の運動中枢、運動神経、筋肉、骨、関節などのいずれかに外傷・疾患・欠損・変形などが生じることで起こりますが、その原因はさまざまです。  厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)1」によると、在宅の肢体不自由者数は193万人(うち、65歳未満は58万人)で、在宅の身体障害者手帳所持者全体の約半数(45%)を占めています。65歳未満の人の障害程度をみると、重度(1、2級)51.7%、中度(3、4級)35.6 %、軽度(5、6級)12.5 %となります。障害原因については、「平成18年身体障害児・者実態調査」では事故(交通事故、労働災害、その他の事故、戦傷病・戦災)16.1%、疾患22.4%、出生時の損傷3.0%、加齢4.0%、その他(不明、不詳を含む)54.5%となっています。  @ 障害の部位と内容  障害部位では、上肢、下肢、体幹の一部分に障害が発生する場合と、特定の部位だけではなく広範囲に生じる場合があります。障害の内容では、先天性の形成不全、切断などのように身体部位を失っているために運動機能を喪失している場合と、身体部位はあるものの運動機能の制限や喪失が生じている機能不全の場合があります。障害の表し方は一般に、障害部位と障害の内容によって表現します。たとえば、右上肢機能障害、左下肢切断などです。広範囲に障害がある場合には片まひ(左右どちらかの半身のまひ)、対まひ(両下肢のまひ)、全身性運動機能障害(多肢及び体幹の障害)などの表現も用いられます。また、運動機能障害の程度・状態では動作がぎこちない程度のもの、全く動かないもの、意図したのとは異なる動きとなってしまうもの、関節の動きに制限が生じるものなど、さまざまなものが見られます。  A 身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)での区分  身体障害者障害程度等級表では、肢体不自由の級別について上肢、下肢、体幹のほか、脳の運動中枢に原因があって姿勢や運動に障害が生じているもの(脳原性運動機能障害)を区分するために「乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害(上肢機能)」、「同(移動機能)」を設けています。乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害は、主に脳性まひを指しています。等級別の人数は表2のとおりです。            表1 身体障害者手帳を所持する在宅の肢体不自由児・者の年齢階級別人数(単位:千人) 合計 0〜19歳 20〜29歳 30〜39歳 40〜49歳 50〜59歳 60〜64歳 65歳以上/不詳 1931 42 42 52 96 181 162 1356 (資料出所)厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」より作成  表2 身体障害者手帳を所持する在宅の肢体不自由児・者の障害区分・等級別人数(65歳未満)(単位:千人) 総数 1級 2級 3級 4級 5級 6級 総数 576 175 123 97 108 52 20 肢体不自由(上肢) 204 83 52 29 16 15 9 肢体不自由(下肢) 244 29 44 49 88 24 10 肢体不自由(体幹) 92 45 19 14 1 13 − 肢体不自由(脳原性運動機能障害・上肢機能) 21 14 4 4 − − − 肢体不自由(脳原性運動機能障害・移動機能) 14 4 5 1 3 − 1 (資料出所)厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」より作成 1 当該調査における在宅とは「施設入所以外」を指す。 (2) 随伴障害およびその他の留意点  @ 随伴障害  肢体不自由が生じた原因によっては、運動機能の障害だけではなくさまざまな障害が併せて発生することがあります。たとえば、障害部位の痛覚、温・冷感などの感覚の低下・喪失のほか、体温調節機能の低下、排尿・排便機能の障害、てんかん発作、知能の障害などです。また、さまざまなタイプの言語障害を伴うこともあります。随伴障害が生じる場合でも、その程度は人によってかなり違いがあります。日常生活の中で対応に気をつければよい程度のものもありますが、継続的に医療管理が必要なものや職場の中での配慮が必要なものもありますので確認しておく必要があります。なお、医師などの専門家に照会する際には、本人のプライバシーに十分配慮しなければなりません。  A 障害の予後と二次障害の防止  肢体不自由の障害は程度が変化しない固定的なものが多いのですが、進行性・変動性の病気が原因となっている場合は障害の変化や進行を想定する必要があります。また、障害によっては、身体的な負荷が長期間加わることで関節などに二次的な不調が生じることがあります。過重な負荷とならないよう作業内容・時間などについて配慮を行うことや定期的な受診によって予防することが肝要です。また、休日・就業時間外の十分な休養のほか、スポーツなどを通じた健康の維持・増進が特に推奨される場合もあります。  B 障害発生の時期による影響  肢体不自由は先天的(出生前の受障)にも後天的(出生後の受障)にも発生します。先天性など早期に障害が発生した場合には、障害を補うための動作が熟達する反面、社会生活・日常生活上での諸々の経験の幅・蓄積に影響が生じる場合があります。また、成長後に障害が発生した場合には、自分の障害を受け容れること、生活や仕事などの将来設計を切り替えることなどの多大な心理的負担を経験することが少なくありません。 2 雇用上の配慮 (1) 基本的な考え方  運動機能の障害はあくまでも個人の属性の一つです。また、障害の状況は類似していても、性格や経験、適性、蓄積した技量、特技などは個人によって異なります。したがって、肢体不自由者の雇用においては、一般の場合と同様に、その人の職業的資質や資産にまず注目することが基本となります。その上で、運動機能障害が職務遂行上で特に制限となるのかどうかを考えることが大切です。また、採用に当たっては、合理的配慮としてどのような措置を講ずるかについて十分に検討することが重要となります。  なお、肢体不自由の原因や機能障害の種類に応じて共通するような配慮事項もありますが、個々の違いについて考慮することを忘れてはいけません。 (2) 職種や職務内容についての考え方 @ 残存能力の活用  障害の部分に注目するあまり、できないことばかりが目についてしまうことがありますが、職業活動は人間の能力のすべてを使うわけではありません。非障害部位を使って仕事をすることは可能です。また、運動機能に制限があるとしても、一部に可能な動作が残っていることも少なくありません。非障害部位の活用はもとより、治工具・補助具なども活用しながら障害部位の残された動きを補助的であっても有効に使うことができるよう配慮する必要があります。 A 職種・職務内容の調整  原則として、障害の有無のみによって配置を決めることは不適切です。合理的配慮を行った上で、労働能力を適正に評価することが前提となります。その上で、柔軟に検討するのが望ましいと言えます。たとえば、空席のある職種の職務要件に適する人を選別するのではなく本人の能力に適する職種を選択的に探すこと、既存の職種内容を固定的に考えるのではなく職務内容を組み合わせや工程を変えるなどによって遂行可能な職務に再構成するなどです。 (3) 設備の改善・補助具の活用  肢体不自由者の動作上の制限を補うために、状況に応じて設備の改善・補助具の活用などの合理的配慮が求められます。これらは生産性に関係するだけではなく、職場適応を進める上においても重要なポイントとなります。たとえば次のようなものがあります。 ・細かな動作ができないなどの制限を補うために、機械化、治工具・補助具を使用する。 ・車いすを利用したままで作業する場合などの作業姿勢の制限を補うために、作業台・机の高さの調整、配置の変更を行う。 ・下肢障害者の移動上の制限を補うために、通路を整頓する、作業座席の配置を工夫する、手すりをつける、スロープを設置する、エレベーターを活用する。 ・トイレの改造や洗浄便座の導入、通勤に自動車を使用する場合には駐車場を確保する、体温調節が難しい場合などで室温調整に留意したり体温調節しやすい服装の着用を認める。 (4) 通勤・体調管理等への配慮  車いすを利用する下肢障害者や体力に制限がある障害者などでは自動車通勤となることが多くなります。交通事情などのために通勤の負担が強くなる場合には、時差出勤や在宅勤務の検討が望まれます。  また体調や通院に配慮した休暇休憩も考慮する必要があります。 (5) キャリア・技能の向上についての配慮  研修先の物理的環境の問題からOFF-JTの機会が限られることがないよう代替手段を含めて配慮する必要があります。 (6) 精神面への配慮  職場適応を促進するためには、物理的な環境の整備のほか、精神的な側面への配慮や対応が非常に重要であることは言うまでもありません。障害者それぞれの個性や事情のちがいがあるため、対応はケースバイケースで考えなければなりませんが、共通して雇用主側が配慮すべき点には、障害者の不安や遠慮及び希望への対応と、個人尊重の姿勢があります。新規に採用される場合であっても在職中に受障した場合でも、職場の要求水準を満たすような仕事ができるか、解雇されないか、同僚との人間関係を(再)構築できるか、迷惑をかけないかなどの不安が強くなりがちです。また、遠慮があり配慮して欲しいことを言い出せないこと、逆に何かの配慮を提案された時に本当は必要がない場合でも言い出せないことがあるかもしれません。このような心理を理解することがまず重要になります。また、一緒に働く同僚に対する配慮や理解を促すことも雇用主の重要な合理的配慮になります。設備の改善等を行った場合、その障害者のためだけに特別の配慮をしているという不満を同僚が持つことがないよう、事前にあるいは普段から障害者に対する理解や配慮を促すような働きかけが望まれます。また、雇用主や社内の障害者担当など一部の人の努力だけで職場適応の促進を図るのではなく、障害者、雇用主、同僚が相互に立場を理解し合うことができるよう、フォーマル、インフォーマルなさまざまな機会を日常的に活用していく工夫が大切です。 (7) 重度障害者、重複障害者への配慮  脳性まひ、脳血管障害、頚髄損傷に代表される中枢性の障害は、障害部位の範囲が広く、重度障害になりやすいことに加え、随伴障害を生じることも多くなります。また、肢体不自由の程度は軽いものの、雇用上においては知覚や認知等の随伴障害に関する配慮が欠かせない人もいます。このような重度障害者、重複障害者の場合には個別的な配慮が一段と必要となります。詳しくは第2章第3節の6や本章第8節の2をご参照下さい。 3 義肢・装具・車いす  義肢・装具・車いす等の補装具は、運動機能障害をもつ肢体不自由者の身体機能を補完代償し、作業や移動等を支援する重要な役割を担っています。眼鏡や補聴器等、肢体不自由以外の身体障害者用の補装具もありますが、ここでは、義肢・装具や車いすの種類と特徴について述べます。 (1) 義   肢  義肢は、切断等により四肢の一部を欠損した場合に、元の手足の形態又は機能を復元するために装着、使用する「人工の手足」と定義され、上肢切断者用の義手と下肢切断者用の義足があります。  また、その構造によって殻構造義肢と骨格構造義肢があります。 (2) 義   手  人間の生活は上肢の操作能力に大きく依存しており、上肢を失うことは日常生活・社会生活上の大きな障害になります。手の機能は物の表面の微妙な感触をとらえたり、細かい仕事をしたり、重い荷物を持ち上げたりと多様であり、その機能を完全に代替する義手の開発は容易ではありませんが、いろいろな義手が実用化されています。  義手は切断部位によって肩義手、上腕義手、肘義手、前腕義手、手義手などがあります。また、その使用目的によって装飾用、作業用、能動式、動力式などがあります。 (3) 義   足  下肢は身体を支え、歩行する機能をもっています。上肢のように細かい操作を要求されることはありませんが、大きな荷重に耐える機能が要求されます。義足は切断端に装着され、前述の2つの機能を受け持ちますが、それだけではなく、腰掛けたり、座ったりといった、さまざまな活動に対応できるものでなければなりません。  義足は外観よりも作業に主眼をおいた作業用義足と、日常生活で使用するための機能と外観を整えた常用義足に分けられます。また、切断部位によって膝から下の下腿義足、膝から上の大腿義足、股関節の機能を失った場合の股義足などがあります。   表3 車いすのタイプと特徴 レディメイド型  車いす専門店、介護用品店、デパート等で市販されている標準規格既製品の車いす。価格的に購入しやすい。 モジュール型  あらかじめ製作された部品の組替えにより、より短納期で、より本人の障害程度に適合した車いすを製作するシステム。購入後の身体条件の変化にも対応可能。 オーダーメイド型  利用者の身体条件に合わせて採寸し製作するので、身体への適合度が優れている。一般には、医師等の処方で義肢製作所や車いすメーカーが製作する。 標準型  自走式・後輪駆動型。長時間の使用が考えられるため、疲れにくいこと、乗降(移乗)性がよいことが望まれる。  屋外用は、坂道、段差、悪路等が想定されるため、操作性、安定性がよく、強度が高いことが求められる。段差や悪路に対応するため大きめのキャスターが用いられる。 スポーツ型  使用者の身体サイズやスポーツ能力に合った、動きやすいものであることが望まれる。軽量で高強度。駆動輪にキャンバー角をつけ、安定性と旋回性の向上を図っている。個々のスポーツの特徴が加味されている。バスケットボール用、テニス用等がある。 介助用  介助者が介助、操作しやすい機能を備えていることが望まれる。標準型よりも小径の大車輪とキャスターから構成されているもののほか、4輪ともキャスターを取り付けた簡易型もある。また、介助者用のパワーアシスト機能が付加されたものもある。 片手操作型  片まひ者用。ハンドリムが健常側に2本あり片側で左右の車輪が個別に操作できる。駆動レバーを進行方向に倒すだけで操作できるタイプもある。 リクライニング型 ティルト型 リフト型  リクライニング型は背もたれの角度が自由に調節できるタイプ。その他、座面と背もたれ角度を保持したまま角度を調節できるティルト型や、ティルト機能とリクライニング機能の両機能がついているティルト・リクライニング型、ベッドや床への移乗を容易とするため上下昇降機能が付いたリフト型がある。 スタンドアップ型  アームレストに付いているレバーを握り、使用者がプッシュアップするとバックレスト、シート、フットレストが連動して動き、立ち上がる機能をもつタイプ。手動式のほか電動式もある。 電動車いす  バッテリーをもち、モーターで駆動する車いす。手動車いすを操作する駆動力がない人が利用する。ジョイスティック操作により制御する。 走行速度は4.5km/hと6km/hが規定されている。 ハンドル式電動 車いす  高齢者用の電動車いすのイメージがあり、シニアカーとよばれている。ハンドル方式で操作方法がイメージしやすい。 パワーアシスト型  補助動力付き車いす。悪路や坂道走行、段差乗り越え等で大きな駆動力が必要なとき電動補助力でパワーアシストする車いす。 図1 標準的な車いすの各部の名称 グリップ(握り) アームサポート フレーム サイドガード(側板) シート(座) レッグサポート フット・レッグサポートフレーム 跳ね上げ式フットサポート フットサポート調整ボルト キャスター(自在輪) ハンドリム クロスバー ティッピングレバー (4) 装   具  装具は、四肢や体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具として定義され、治療のために使用する医療用装具(治療用装具)と、治療が終わり、機能障害が固定した後に変形の防止や日常生活動作の向上のために使用する更生用装具があります。  一般的に装具は、その対象部位により、上肢装具、体幹装具、下肢装具に分類されます。 (5) 車 い す  車いすは、歩行が困難な人が移動を目的として使用する機器で、その名のとおり「車の部分(移動機能)」と「いすの部分(座位保持機能)」から構成されています。車いすは補装具として位置づけられており、処方は医師が行うことになっています。下肢が不自由な方が主な対象ですが、心臓に障害を持っている方で長時間の歩行が困難な方なども利用することがあります。また、高位頸髄損傷等により体幹筋の機能低下が著しい場合は、座位保持機能を有するクッションやバックサポート、側方パッドや固定ベルト等が必要になります。なお、介護保険制度により高齢者が福祉用具貸与として利用する車いすについては、医師の処方は不要です。  車いすの技術的進歩は著しく、アルミ合金製フレームの実用化を契機に車いすの軽量化が進んだり、モーターを駆動輪に組み込んだ簡易型電動車いすや補助動力付き(パワーアシスト型)車いすが開発され、普及しています。さらに、モジュール型車いすが普及し、試乗してみて不具合な点を短時間で手直しすることが可能になり、最適な車いすを取得しやすくなりました。 @ 車いすの種類と特徴  ひと言で車いすといっても実際にはたくさんの種類があります。手動型と電動型、自走用と介助用、レディメイド型とオーダーメイド型等がありますので、そのタイプと特徴を前掲表3に示します。また、標準的な車いすの各部の名称を図1に示します。 A 車いす使用者が働きやすい職場環境  車いす使用者には次のようなハンディキャップがあります。 ア 場所によっては(部屋や廊下幅の狭さ、段差等により)自由な移動が制限されます。 イ 座位のままのため手の届く範囲が限られます(床のものを拾いあげたり、高い棚のファイルを出したりすることは難しいなど)。 ウ 通常、車いすの高さは固定されているため作業姿勢の高低の調節が難しいです。  ハンディキャップを解消し、働きやすい職場環境にするためのポイントを次に示します。 ア 車いすの通行には90p以上の幅が必要です。 イ 段差はなるべく解消し、あっても2p以下にします。 ウ 扉は自動ドアか、引き戸にします。 エ 手の届く範囲は上方で床上約150p、下方で床上約40pが目安となります。作業に必要な器材や部品の配置は、レイアウトや収納箱の角度等の工夫が必要です。またリーチャーなどを利用すると手の届く範囲が広がります。 オ 機械等の操作位置が高すぎたり低すぎたりすると、無理な姿勢で作業することになりますから、通常の車いす座位姿勢で無理なく作業ができる高さに工夫することが必要です。高さの調節には、作業台を置いたり、機械を床に埋め込んだり、座面昇降式の車いすや立位がとれる車いすを使用します(Q&A【問11】(P135)にチャレンジ)。 (木 憲司) 【参考文献】 1)大川嗣雄ほか:「車いす」医学書院(1987) 2)神奈川県労働部編「身体障害者の雇用促進のために:作業工程分析と職場施設改善」 3)労働省,日本障害者雇用促進協会「障害者雇用事業所における施設設備の改善に関する研究」平成2年度研究調査報告書−10,No.16. 4)労働省,日本障害者雇用促進協会「障害者雇用事業所における施設設備の改善に関する研究V」平成4年度研究調査報告書−4,No.22. ◇ 肢体不自由者の雇用事例(サービス業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 さまざまな支援機関と連携し、体力的な制約や、通勤等で介助を必要とすることから就職をあきらめていた肢体不自由のある者を積極的に在宅雇用し、ポスター、ちらし、Webのイラストデザインの作業などに従事させている。 Web会議システムの活用により、在宅のスキルの高い者から初心者に対し、教育訓練する取組を行っており、初心者の不安の軽減、指導役の業務支援スキルの向上のほか、双方のコミュニケーション能力の向上にも結び付いている。同システムの活用により、依頼主へも在宅の社員が直接交渉することが可能となっている。 在宅で業務を進めるにあたり、フレックスタイム制を導入し、通院の日程等に配慮した取組を行っている。また、作業療法士が作業姿勢の画像を確認し助言することにより、疲労の軽減、正確さの向上に結び付き、長時間持続して作業を行えるようになった。 Q&A【問11】車いす使用の社員がいる場合、事務室のドアは引き戸より開き戸の方がよい。(解答と解説はP290に記載しています) 第2節 視覚障害者 1 視覚障害とは 視覚障害には、視力が全くない全盲の状態と、視機能が低下して日常生活や就労等に支障をきたすロービジョン(弱視)の状態があります。ロービジョンにおいても視力や視野などの違いにより、その見え方はさまざまです。 視覚の機能には、形態覚、光覚、色覚などがあります。視力は形態覚の機能を表すための指標として用いられています。視力が低下するということは空間の解像度が低下することで、形の識別が難しくなります。光覚の機能が低下すると、明るさや暗さへの対応が困難になることがあります。また、コントラストが低下することで文字の読み速度が低下することもあります。色覚に障害がある場合は、コントラストの差が低い色の間での判別ができなくなることがあり、カラー資料の中の必要な情報を見落としてしまうことがあります。 (1) 視覚の機能 図1に目の構造を示しました。カメラに例えると、角膜と水晶体はレンズで、虹彩が絞り、網膜がフィルムとなります。外界の物体から到達した光は、角膜と水晶体で屈折して、網膜に結像します。網膜上で結像した情報が視神経を介して脳の視覚中枢に伝達され、物体として認知されます。網膜上の結像がピンボケの場合は、視覚中枢からピンボケの指令が出て、毛様体が働き水晶体の厚さを調節することでピントを合わせています。遠くを見る場合には毛様体が緩まり水晶体が薄くなることでピントを調節します。一方で、近くを見る場合には毛様体が収縮して水晶体を膨らませることでピントを調節しています。老化により水晶体が硬くなると毛様体によるピント調節力も衰えるために近くが見えにくくなります。 (2) 視力とその障害 視力は視標が網膜に結像する部分により変化します。網膜の黄斑部に結像したときの視力を中心視力といいますが、このときの視力が最も高いです。従って、網膜の黄斑部に障害がある場合には視力は低くなります。視野の周辺部分に結像したときの視力を周辺視力といいますが、この部分の視力は低いです。網膜の黄斑部には錐体細胞という視細胞が配置されているために視力が高くなっています。錐体細胞は明るいところで機能し、また、色を感じることができます。視野の周辺部分には杆体細胞という視細胞が配置されているために視力は低くなります。杆体細胞は暗いところで機能し、色の判別はできません。物体の判別がやっとできる程度の薄暗闇で見る景色は色の情報が欠落した白黒の世界になります。 通常の視力は中心視力のことをいい、片眼ずつ測定します。また、眼鏡やコンタクトレンズで矯正した後の視力を対象として視覚障害を判定します。眼鏡やコンタクトレンズで矯正して身体障害者福祉法で定める以上の視力が得られる場合は、裸眼視力が0.1あるいはそれ以下であっても、視力に障害があるとはいえません。 視力が低下すると空間の解像度が低くなり形の識別が難しくなりますが、その視力を測定するために文字や記号などの視標が用いられます。わが国でよく用いられているのはランドルト環です(図2)。ランドルト環は、直径7.5mm、線の太さ1.5mmの環で、1.5mm四方の切れ目があります。この視標を5mの距離から見て、1.5mm四方の切れ目が認識できれば視力1.0となります。このときの切れ目の幅を角度で表し、その角度は視角1分となります。視角1分は60分の1度です。角度を用いることで測定距離が変わっても同じように視力を測定することができます。例えば、測定距離2.5mで上記の視標を認識できた場合の視角は2分となるので、視力は1.0の半分の0.5となります。 眼で物体を見た時の光の結像の様子を図3に示します。眼球における光の入射位置の角膜から網膜までの距離を眼軸といいます。入射した光は角膜と水晶体で屈折し、網膜で結像します。図3(a)のように正しく結像している場合、すなわちピントが合っている場合を正視といいます。図3(b)のように網膜の手前で結像している場合は近視です。眼鏡やコンタクトレンズ等の凹レンズによる調整で結像位置を網膜側に移動させることによりピントが合うようになります。逆に、遠視の場合は光の結像位置が網膜の後方になるので、老眼鏡等の凸レンズによって結像位置を短縮して網膜で結像するように調整することでピントが合うようになります。 視距離を短くして視対象に近づいていくと、その網膜像も大きくなり、近づいた分だけ大きく見えます。視力が低い場合は視対象に顔(眼)を近づけて見ることもあります。しかし、視距離を短くしても十分な大きさを得られない場合や、眼を近づけられない場合は、視対象を何らかの方法で拡大しなければならないです。視対象そのものを拡大して見る他に、遠方の視対象を拡大するのには単眼鏡を使用したりします。手元近くの視対象を拡大するためには、レンズや拡大読書器を用いたりします。 図2 ランドルト環と視距離・視角の関係 図3 正視・近視・遠視とその結像の様子 (3) 視野の障害 正面の1点を見つめて、眼を動かさないで見える範囲のことを視野といいます。視野の障害は、それが欠損している部分により全く異なった様相を見せます。視野の範囲が外側から欠損して中心部分の視野が残っている求心性視野狭窄、視野の中心部分が見えなくなる中心視野欠損などがあります。 @ 求心性視野狭窄 代表的な原因疾患として挙げられるのは、網膜色素変性症と緑内障です。網膜色素変性症では、視野の周辺部分から見えなくなり、欠損部分が中心に向かってゆっくり進んでいきます。周辺視野の網膜上には杆体細胞が配置されており、この杆体細胞は暗いところで機能します。一方、中心視野に配置されている錐体細胞は明るいところのみで機能し、暗いところでは機能しません。したがって、周辺視野が欠損すると夜盲になります。網膜色素変性症では、視野欠損がゆっくり進むため夜に見えづらくなってから初めて自覚する場合も少なくありません。 緑内障は眼圧が高くなり、視神経乳頭の部位で視神経が圧迫されることにより視機能が低下します。典型的な例では、輪状の暗点が出て、次第に周辺が見えなくなり、中心部とその周辺に少し視野が残ります。 求心性視野狭窄の読みについてですが、視野の中心部が正常であれば読みへの影響は比較的少ないです。しかし、視野が狭いため、行末から次の行の文頭を見つけたり、ページのレイアウトを把握したりという探索作業については著しく困難になります。歩行に関しては、一般に視野が10度を切ると困難が生じると言われています。視野が狭いため横方向からの人や車などの往来に気付きにくくなったり、曲がり角や目印の探索に困難が生じたりします。 A 中心視野欠損 代表的な原因疾患として加齢黄斑変性症が挙げられます。中心視野の部位である黄斑部の機能が下がり、中心視野に欠損が起こった状態になります。通常の見る動作においては、視対象を視野の中心でとらえて固視することを特に意識せずにおこなっています。このように無意識のうちに中心視野で視対象をとらえるのですが、その中心視野が見えない、あるいは見えにくい状態なので、読みと顔の認知に困難が生じることになります。読みについては、視力の高い中心視野に欠損があるために、周辺視野を活用して文字を読む必要がありますが、周辺視野の視力は中心視野に比べて低いため、視対象に極端に接近する必要のある場合があります。欠損していない周辺視野の部分で視対象をとらえる訓練がおこなわれることもあります。移動については、中心視野の欠損のみによって移動が困難になるという事例はほとんどありません。 (4) 明順応と暗順応の障害 眼では、適度な明るさで視対象が結像するように、虹彩が網膜に入る光量を調節しています。カメラでいう絞りの機能と同等です。虹彩に病変があれば光量の調節ができず、明るすぎてまぶしい、あるいは暗すぎて見えにくいといったことが起こります。角膜混濁や白内障などにより、角膜や水晶体などの光が透過する部分に混濁が生じると光が散乱し、まぶしさを感じることもあります。 このように適度な光量の調節ができなくなると、文字の輝度のコントラストの低下が起こり、読みに支障が出てきます。コントラストが低くなるに従い読むことのできる文字サイズが小さくなっていきます。淡い配色によるコントラストの低い文字は、視覚正常の人であれば読むのに支障のない範囲であっても、光量の調節機能が低下しているロービジョン者では読むことが難しくなることがあります。就労する上では、カラーがふんだんに用いられた資料を取り扱う機会がありますが、輝度コントラストの低い色の組み合わせがある場合には、文字や図などの情報が背景色に埋没してしまうこともあります。 照明の状態も読みに大きく影響することがあります。網膜色素変性症の場合、杆体細胞が配置されている領域の視野が欠損していると夜盲となり、照明が低下するとほとんど見えない状態になります。また、見えにくいために目を近づけて見ると、頭の影が出来て見えにくくなることがあります。このような場合、一定の明るさが確保されるよう、影などができないよう照明に配慮する必要があります。一方、白内障などで光が透過する部分に混濁があると、蛍光灯の明かりや窓から入ってくる日光等の光により眩しさを感じ、コントラストが低下することがあります。このような場合、ブラインドやカーテンなどにより窓から入ってくる光を調節したり、照明を調節するなどの配慮が必要になります。 (5) 色覚の障害 色覚は錐体細胞が担当しています。赤・緑・青それぞれに対応する3種類の錐体細胞があります。例えば、赤に対応する錐体細胞では、赤い色に対応する波長領域の光を受けると錐体細胞の受容器が反応します。その結果、錐体細胞が興奮し、その情報が視覚中枢に伝達されます。3種類の錐体細胞の興奮の度合いにより視対象の色が知覚されます。杆体細胞は周辺視野に多く分布し、光の有無を感じるだけで色の識別はできません。錐体細胞の機能が低下すると杆体細胞の影響により全体的に色が白っぽくなったり、黒っぽくなったりします。また、眼の状態により実際の色とは違う色として認識している場合もあります。このように、残存する錐体細胞の機能と杆体細胞の影響により、色の知覚が難しくなったり、実際とは違う色に知覚されたりします。 以上のように、視覚障害を考える上では、視力のみならず視野についても考慮する必要があります。視野障害の有無とその部位により、視覚障害のタイプも変わってきますし、それに伴い配慮すべき事項も変わってきます。コントラストの低下や錐体細胞の状況により、文字色と背景色との間の判別や色そのものの識別が難しくなったりもします。身体障害者福祉法では、視覚障害等級を視力の値と視野障害の程度によって定めています。しかし、視覚障害の障害等級と実際の見え方が対応しないこともあります。就労の現場では、個々人の眼の状態に合わせた状況の把握や配慮が必要になります。 2 全盲・ロービジョン(弱視)者の利用する情報形態とPCの利用 全盲とは視力がゼロで、光覚もない状態をいいます。また、光覚ないし何らかの保有視力がある状態をロービジョン(弱視)といいます。視覚障害者全体に占める全盲者の割合は、わが国ではおよそ20%、米国では15%といわれています。視覚障害者の多くは視力を有しており、さらにその多くは適当な支援機器を利用すれば文字の読み書きなどが可能な人々であるということです。 視覚障害者の雇用上の配慮事項を考える場合、保有視力の有無、特に文字の読み書きができる視力の有無によって、その対応は異なります。ここでは、視力ゼロで光覚もない厳密な意味での全盲に加えて、多少の光覚はあるが、種々の支援機器を使っても残存視力では文字の読み書きができない人を含めて全盲とします。このような全盲者にとって重要な情報の形態は、聴覚情報と触覚情報です。一方、支援機器を活用することで残存する視力により文字の読み書きが可能な場合をロービジョンとします。ロービジョンでは主に視覚情報を活用します。近年では、視覚障害者が就労する事務的職種やシステムエンジニア(SE)等の技術的職種を中心として、多くの場合でPC(パーソナルコンピュータ)の利用が必須となっていますが、PCの利用についても、文字の読み書きができる視力の有無によって対応が異なります。 (1) 全盲者の利用する情報形態とPCの利用 全盲者の場合は、視覚情報を利用することができないので、それを聴覚情報や触覚情報で代替しなければなりません。全盲者の情報伝達手段としては、まず初めに点字を思い浮かべる人が多いと思います。点字は大変重要なコミュニケーション手段ですが、すべての全盲者が点字使用者ではありません。点字の習得は、中途視覚障害にとって容易ではありません。特に中高年で失明した人々にとって社会生活、とりわけ就労の場面で実用的に点字を取り扱うレベルに達することは並大抵ではありません。点字が十分に使用できるレベルにない場合は、音声情報が最も重要な情報となります。一般に文字を読みながら熟考するような場合には流れていく音声情報に比べ、能動的に読み進めることのできる点字や普通文字の方が望ましいといわれています。 全盲者のPCの利用についても、視覚情報の替わりに聴覚情報や触覚情報を利用します。聴覚情報の利用の代表的なものはスクリーンリーダー(画面読み上げソフト)です。PCの画面のテキスト情報を読み上げさせることによりPCを操作します。文字の詳細読みの機能があるので漢字や記号の詳細の確認もできます。文字入力についても、この詳細読みの機能により同音異義語などの区別をつけることができます。このように、全盲者でもPCを活用することで電子化された情報にアクセスすることができます。また、PC上においては、全盲者でも普通文字を扱うことができます。スクリーンリーダーの詳細については後で述べますが、ワープロソフト、表計算ソフト、プレゼンテーション用ソフト、データベースソフトなどが利用できます。また、メールやインターネットの利用が可能ですし、範囲は限られますが各種プログラミング言語の利用が可能です。触覚情報の利用の代表的なものは点字ディスプレイです。スクリーンリーダーの点字ディスプレイ表示機能により画面情報を点字で表示します。基本的には、スクリーンリーダーで読み上げることのできる情報と同等の情報が点字ディスプレイでも表示されます。スクリーンリーダーによる音声読み上げと点字ディスプレイの併用も可能です。一般的には、メールアドレスや数式、そしてプログラミング言語を取り扱う際には、音声読み上げよりは点字ディスプレイを利用する方が速く正確に確認することができます。また、電話で通話中のときなどでは、会話のために聴覚情報を利用するので、点字ディスプレイを利用してメモをしたり、顧客情報などを調べたりすることができます。特に、電話での顧客対応が多い場合は点字ディスプレイの利用は効果的です。 このように全盲者でもPCを利用してかなりの範囲の仕事ができますが、画像情報の取り扱いは現状でも困難な状況にあります。昨今、PC上や業務の上で配布される資料には図や写真などの画像情報がふんだんに用いられるようになりましたが、全盲者には画像情報の理解が困難です。このような画像情報の取り扱いに対処することが、全盲者の就労を推進する上での課題でもあります。 (2) ロービジョン者の利用する情報形態とPCの利用 ロービジョン者は、主に視覚情報を利用し、普通文字を取り扱いますが、一口にロービジョンと言っても、その見え方は様々です。必要に応じてロービジョン用レンズなどを用いるだけで文字の読み書きができる場合もありますし、常に拡大読書器を必要とする場合もあります。視力や視野などの関係で一概には言えませんが、適切な支援機器を活用することで図形情報を扱うこともできます。見え方が人によって違うので、その人の視力、視野、適切な光量、色の見え方などに応じた適切な作業環境や作業内容を設定することでより効率的な作業を行なうことができます。 ロービジョン者のPCの利用についても、基本的には視覚情報を利用することになります。Windowsの場合はOS(基本ソフト)の機能である「ユーザー補助」で表示するテキストの大きさの設定、文字と背景色の設定、マウスポインタの大きさの設定など各種設定ができます。ユーザー補助の設定で間に合わない場合は、OSの画面拡大機能を利用したり、Zoom Textなどの画面拡大ソフトを利用します。機能の詳細は後で述べます。また、眼の疲労を妨げたり、作業の正確性を高めるためにスクリーンリーダーによる音声読み上げを併用する場合もあります。 (3) スマートフォン・タブレットの利用 2007年のiPhoneの発売以来、スマートフォン・タブレット等の画面を触ることにより操作を行うことができるタッチスクリーン端末が普及してきました。視覚障害者への普及率は7割程度といわれています。Android端末はTalkbackという読み上げ機能を追加する等の設定の必要があり、初心者には少し敷居が高いですが、iPhoneはVoiceOverという音声読み上げ機能やズーム機能・拡大鏡等の画面拡大機能が標準で装備されているので、視覚障害の初心者でも比較的使いやすい状況です。特に全盲者の多くはiPhoneを使用しています。 タッチスクリーン端末では、ホームボタンや電源ボタン、音量ボリューム調整ボタン等と、備えられている物理的なボタンはわずかで、タッチスクリーン上に配置されたボタン等を触れるジェスチャーにより操作します。VoiceOver等の音声読み上げ機能を利用して操作する場合には、まず初めに画面をタッチする(触る)ことにより画面の内容を確認します(この時点では押された場所の内容を読み上げるだけでボタンを押しても実行されません)。内容を確認した後にボタン等を押す場合には、そのボタンをダブルタップ(2回連続押し)し、実行します。ダブルタップの他にスプリットタップ(実行するボタンをタップしながら他の指で違う場所をタップする操作)という方法もあります。なお、タップとは画面を指先で軽くつつくジェスチャーのことです。 上記のように画面上をタッチしながらボタンやテキストの内容等を読み上げ、画面上に何があるかを確認する方法の他に、フリックという操作で画面上の項目を移動させながら画面上の内容を確認する方法があります。なお、フリックとは、画面を軽くはじくようなジェスチャーです。指を画面に触れて、すぐに縦方向か横方向に素早くスライドさせながら指を離します。 以上のように、隅から隅までタッチしながら画面上のどこに何があるかを探索し確認する方法と、フリックにより画面上の項目を移動させながら画面上に何があるかを確認する方法があります。一般的には、操作に慣れていない画面ではフリックにより全項目をしっかりと確認しながら操作し、どこに何があるかよく知っている画面ではタッチによりボタン等をすばやく押すようにしています。このように慣れていない画面と慣れている画面とで操作方法を使い分けている場合が多いです。 使用可能なアプリケーションは、メール、Webブラウザ、カレンダー、時計機能、地図、一般的な設定等比較的多くのアプリケーションがVoiceOverに対応しています。視覚障害者の歩行を支援するナビゲーションソフトや、カメラで写した物体を画像認識し読み上げさせるアプリケーション等もあります。Siriという声でiPhoneを操作する機能により、アラームを設定したり、天気予報を確認したり、電話帳に登録してある人に電話を掛けたりと音声操作の機能を活用している場合もあります。なお、スクリーンカーテンという機能を使用すると、画面が真っ暗な状態でのVoiceOverによる操作が可能で、視覚障害者のプライバシーを確保することができます。 このように既にスマートフォン・タブレットは視覚障害者にも普及していて、今後は就労の場面でも益々活用されるようになっていくと考えられます。 3 重度視覚障害者の雇用のポイント 視覚障害者のための雇用対策では、障害等級1,2級の重度障害者に重点がおかれています。視覚障害の場合、左右の視力の和が0.04以下、もしくは左右の視野がおのおの10度以内で両眼視能率の損失率95%以上が1,2級の重度障害者です。したがって、重度視覚障害者という場合は、全盲者と、支援機器を利用すれば普通文字の読み書きが可能な重度の視覚障害者が含まれています。ここでは、重度障害者を念頭において、雇用上の配慮事項について述べます。 視覚障害者の雇用にあたっては、(1)通勤と職場内移動、(2)コミュニケーション、(3)職種と職務内容が最も重要な配慮事項です。 (1) 通勤と職場内移動 重度視覚障害者を雇用するにあたって、特に雇用主が心配するのは通勤における安全です。自宅から職場までの通勤経路を単独で安全に歩行できるのか、交通機関の乗り換えは大丈夫か、ラッシュ時の混雑に対処できるのかといったことが懸念されます。しかし、彼らは特別支援学校(盲学校)や視覚障害リハビリテーション施設で歩行訓練を受け、白杖を使っての安全な歩行技能を身につけています。一方、歩行技能は身につけていても、全く初めての場所を重度視覚障害者、特に全盲者が単独で歩行するのは大変困難です。したがって、数回程度にわたって通勤経路の確認を支援者とおこなえば、それ以後は単独で通勤することができます。最近では、盲導犬を利用する人も増えています。盲導犬は主人が仕事中には、待機場所で静かに待っています。 全盲者の職場内移動についても特に問題はありません。初めに職場内を案内し、位置や経路を確認しておけば、その後は単独で移動できます。同僚などといっしょに移動したり、外出するときはガイドヘルプ(手引き)が便利です。視覚障害者がガイドする人の肘を軽くつかんだり、肩につかまるなどの方法でガイドされることになります。狭い場所を歩行する場合は、縦に並んで2人が1列になるようにします。慣れているところなら、視覚障害者は単独で移動できます。いつもガイドヘルプが必要という訳ではありません。 きちんと歩行技能をもつ視覚障害者の場合は移動能力は高いので、職場内での点字ブロックの設置や誘導チャイムの設置、トイレの改造などは必要ありません。しかし、視覚障害者が通常使用する通路には日ごろから物を置かないように注意する必要があります。外に開くタイプのロッカーの扉等も、開けたままだとぶつかってしまうことがあります。 ロービジョン者でも、夜盲がある場合や強い視野狭窄がある場合は、必要に応じて通勤訓練をしておくのが望ましいです。同じ通勤経路でも昼間と夜間では明るさや照明の状況によって見え方が変わってきます。また、視野が狭いと横方向から来た人や物体に気付くのが遅れてぶつかりやすくなります。周りの者がこの点に注意する必要があります。周囲の人たちに注意を喚起する意味で、ロービジョン者が白杖を持つのも1つの方法です。 明順応や暗順応の障害がある場合は、照明や採光に配慮が必要です。見え方は個人により違うので、職場のロービジョン者に確認するとよいでしょう。階段のステップや段差などで、そのエッジ部分とステップとの間のコントラストが低い場合は、ロービジョン者が識別しにくくなります。 (2) コミュニケーション 昨今では、視覚障害者が働く職場では多くの場合PCが配置され社内ネットワーク環境が構築されています。社内での情報伝達のために電子メールやグループウェア上の掲示板などを利用している場合も少なくないです。電子メールはスクリーンリーダーでの読み上げには問題ありませんし、グループウェアについてもある程度の製品でスクリーンリーダーでの読み上げが可能です。スクリーンリーダーが対応している環境では全盲者でも問題なく社内で伝達された情報を確認することができます。回覧文書が印刷物の場合は、拡大読書器等で拡大して読むことのできる視覚障害者は問題ないですが、全盲者の場合は周囲の人が読み上げてあげる、あるいは、電子データを別途配布するなどの方法があります。同じ部署の人の予定についても、グループウェアで確認することができます。同じ部署の人の予定が分かっていれば、電話の取次ぎも行えますし、話しかけるタイミングをはかったりすることができます。重度視覚障害者の場合、周囲の状況の把握がうまくいかず、どのタイミングで話しかけてよいのかわからずに、知らず知らずのうちにコミュニケーション不足に陥ってしまうことがあります。社内での情報伝達と、普段からの会話によるコミュニケーションが重要になります。 視覚障害者に物や場所を指し示す場合には、「ここ」、「そこ」あるいは「これ」、「あれ」といった指示代名詞ではなく、具体的に何がどこにあるかを伝えます。また、食器の配置を示すのに、「時計の何時の方向にある」という説明のしかたもあります。 (3) 職種と職務内容 1990年代以降のIT(情報技術)の進展と普及により社会は大きく変化し、就労環境も大きく変わりました。視覚障害者の職種と職務内容もその影響を大きく受けています。従来、重度視覚障害者の職種の1つであった電話交換手は、ダイアルインサービスの普及により雇用の場が狭くなってきています。従来、全盲者の職種の1つであったコンピュータプログラマーについても、コンピュータの利用環境が、キーボードによりテキストを主体に扱うCUI(キャラクター・ユーザ・インタフェース)から、マウスにより画面上のオブジェクトを操作するGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)に変わり、視覚的な処理の比重が大きくなったため全盲者がコンピュータプログラマーとして活躍できる場が狭くなっています。一方、インターネットの普及に伴いホームページの利用が進み、Webアクセシビリティの診断という職種が全盲者の職種の1つとして広がり始めています。 ここでは、Webアクセシビリティ診断、事務的職種、ヘルスキーパーの職場と職務内容について述べていきます。 @ Webアクセシビリティ診断 インターネットが普及し、多くの人がWeb(ホームページ)を利用するようになりました。今や仕事の上でも日常生活の上でもWebの利用は欠かせないといえます。Webが一般に普及するに伴い、障害者を含めすべての人がWebを利用できるようにする取り組みとしてWebアクセシビリティの概念が提唱され、そのための規格が整備されてきました。わが国においても、2004年6月にWebアクセシビリティがJISの規格として制定されています。Webアクセシビリティとは、高齢者や障害者がWebのコンテンツ(ホームページの内容)にアクセスし、そこから情報を取得し、操作することができることをいいますが、実際には高齢者・障害者が情報取得しづらい、操作しにくいというページも少なくありません。このようなWebページに対して、Webアクセシビリティの達成度を診断し、その結果、WebアクセシビリティのJIS規格を満たすWebページに作り替えるのが、Webアクセシビリティ診断の職務となります。JIS規格には強制力はありませんが、工業標準化法により国や地方公共団体はJIS規格を尊重しなければならないと定められているので、府省や自治体がウェブサイトを外部から調達する際にはWebアクセシビリティのJIS規格に対応している必要があります。このことによりWebアクセシビリティの診断とそれに基づくWebページの修正という業務が形成されました。現在では、このJIS規格への対応が一般企業にも広がってきています。 Webアクセシビリティの診断業務は、JIS規格等の取り決めが守られているかを診断し、その結果に基づきWebページに改良を施すという手続きをとります。診断プログラムにより自動で処理できる部分はありますが、どうしても人間が確認しなければならない箇所もあります。特に、スクリーンリーダーへの対応としてJIS規格で制定されている項目についての診断は、スクリーンリーダーに精通している全盲者が適しています。このような職務を遂行するにあたっては、Webアクセシビリティに関する知識を持つことは当然として、その他に、Webページの記述言語であるHTMLや動的なWebページの構築に用いる言語であるJavaScriptなどWeb関係の言語の習得が必要となります。 Webアクセシビリティの診断業務における全盲者の就労はまだ広がり始めた段階ですが、ITのさらなる進展や高齢化により、これからの成長が期待されます。 A 事務的職種 オフィスのIT化が進んだ現在では事務的職種においてもPCの利用は必須です。ワープロソフトや電子メール、インターネットの利用はもちろんのこと、Excelなどの表計算ソフトやPowerPointなどのプレゼンテーション用ソフトも業務の上で利用するのが当たり前の状況です。 これらのソフトの中でのテキスト情報の取り扱いは問題なく、全盲者単独での業務遂行は可能ですが、写真や図等の画像については、全盲者では扱うことができないので、周りの人の手助けが必要になります。 昨今では、マイクロソフト社のAccess等のデータベースソフトにより小規模なデータベースを構築するような業務や、マクロ言語の記述によりExcelの自動処理を行う業務なども事務的職種の一部となっている場合もあります。事務的職種においてもある程度PC操作のスキルが要求されるようになってきています。 全盲者の電話での顧客対応では、PCを操作しながら顧客と会話する必要があります。その際、スクリーンリーダーによる音声読み上げでは、電話と同じ聴覚情報を用いることになるので、通話とPC操作を同時に行うのが難しくなります。その場合にはPC操作の際に点字ディスプレイを使うことで、通話とPC操作を同時に行うことができます。 B ヘルスキーパー 理療(あんま・マッサージ・指圧、鍼、灸)は三療ともいわれ、わが国の視覚障害者の伝統的な職業です。また、就業する視覚障害者の中で三療に従事する人が最も多いです。この長年にわたって蓄積されてきた知識と技術を活用して、企業の従業員の疲労の回復、心身のバランス調整、健康の増進にあたるのがヘルスキーパー(企業内理療師)です。厚生労働省、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構をはじめ関係団体の努力によって、ヘルスキーパーを導入する企業が増えています。ヘルスキーパーとして雇用される人は、特別支援学校(盲学校)や専門養成施設での教育を受け、国家試験合格後、病院や治療院で実務経験を積んだベテランも少なくありません。設備は大がかりなものは必要なく、医療用ベッドと簡単な治療機器をそろえれば十分といわれています。 ヘルスキーパーの職場でもIT化が進み、多くの職場で予約管理や業務日誌等の予定管理・文書処理をPCで処理するようになってきています。PCの操作スキルも要求されますが、多くの場合は基本的な操作ができれば十分な状況です。 4 継続雇用・職場適応援助者(ジョブコーチ) 視覚障害者の多くは中途障害者のため、その対策が欠かせません。その場合、まず大事になるのが現在企業に雇用されていて、中途で障害を負った中途視覚障害者の雇用の継続を図ることです。 中途視覚障害者の雇用継続を考える場合には、様々なことを検討しなければなりません。これまでの業務経験や技能・技術を生かしてどのような職務を遂行できるか、そのために必要な支援機器は何か、歩行や点字の訓練の必要性などを検討する必要があります。本人や企業はこのようなことに関する知識が少ない場合が多いですから、専門家を交えた検討がなされてきました。 最近では、このような専門家として職場適応援助者(ジョブコーチ)が注目されています。職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障害者の職場適応が円滑に行われることを目的として、職場に直接出向き、本人や会社に対して作業遂行や職場内のコミュニケーションの向上支援、職務内容の設定に関する助言を行う人です。ヘルスキーパーや事務的職種の新規雇用における職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援も行われていますが、雇用継続や復職のための職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援も行われています。視覚障害そのものや、訓練・支援の制度に疎い中途視覚障害者とその企業にとって、このような専門家の支援を受けられることは心強いです。 実際の支援の例は次のようになります。現状把握と復帰に向けた計画策定の助言、歩行訓練等の諸手続きの支援、勤務に向けた諸手続きの支援、復帰後の課題点の把握とそれへの対応が、時系列で示した支援の例になります。 職場定着に向けて障害特性を踏まえた雇用管理をどのようにしていくべきか、業務内容の設定をどのようにしたらよいかというように、中途視覚障害者本人のみならず企業側もいろいろと悩みを持つ場合が少なくありません。このような問題解決のために専門家が職場に入っていき、系統的な就労支援をおこなうことが重要になります。今後、この職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援の進展と拡充が期待されます。 5 就労支援機器・ソフト これまで視覚障害者の職務におけるPCの利用について述べてきましたが、ここでは個別の就労支援機器・ソフトの詳細について述べたいと思います。 (1) 拡大読書器 印刷物や写真等を拡大して画面に表示する機器です。ビデオカメラで撮影した画像をモニタ画面に表示します。拡大倍率は、2倍程度から40倍、あるいはそれ以上で表示します。通常のカラー表示の他に、モノクロ表示や、それを反転させた白黒反転表示の機能もあります。拡大読書器とPCの画面を切り替えて表示したり、画面を分割し、両方の画面を表示させることもできる機種もあります。 卓上型(「据置型」ともいう。)の他に、持ち運びが可能な携帯型の拡大読書器も販売されています。出張や会議の多い場合、複数の場所で仕事をする場合に便利です。 インサイト社の卓上型拡大読書器 オニキスHDデスクセット (2) 画面拡大ソフト PCの画面を拡大して表示するソフトです。部分的に拡大表示したり、全画面で拡大表示したり、マルチモニタでPCの画面が2画面ある場合は1画面を拡大専用画面にすることもできます。画面色を反転表示することもできます。カーソルやマウスポインタの大きさを変えたり強調表示することができ、カーソル位置に追随する機能もあるので、文書が改行された際などに便利です。 (3) スクリーンリーダー(画面読み上げソフト) PCの画面上のテキスト情報を音声で読み上げるソフトです。キー操作の状況を音声でフィードバックするので、どのような操作をしているかを逐次把握することができます。日本語の同音異義語については、詳細読みという辞書により漢字の詳細を読み上げ、同音異義語を区別できるようになっています。電子メール、Webブラウザ、ワープロ、表計算ソフト、プレゼンテーション用ソフト、データベースソフト等の様々なソフトを使用することが可能です。一方、画像の細かい取り扱いが難しい、スクリーンリーダーに対応していないため操作ができないソフトがあるというような課題があります。 スカイフィッシュ社のスクリーンリーダーFocus Talk(フォーカストーク) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター研究部門が1996年に開発した日本初のWindowsスクリーンリーダー95Readerの後継ソフトで、95Readerの優れた操作性を継承するとともに音質の向上や最新のWindows10への対応が図られている。 (4) 点字ディスプレイ PCのテキスト情報を点字で表示する機器です。スクリーンリーダーの点字出力を表示します。電子メールのアドレスや記号等の、音声読み上げでは記憶が困難なテキスト情報については、点字で表示すると確認が速くなったり正確性が増したりします。プログラミング言語を扱う場合にも点字ディスプレイは有効です。 ※視覚障害者向け就労支援機器・ソフトにつきましては、第2章第5節4(1)@もご参照ください。 KGS社の点字ディスプレイ ブレイルメモスマートBMS40 点字表示部40マス表示、PCとの接続はUSB、点字入力キーを装備している。 (坂尻 正次) ◇ 視覚障害者の雇用事例(医療・福祉業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 病気により視覚に障害が残った職員Aさんの職場復帰にあたり、どのような職場環境がよいか理解するために、視覚障害者を雇用する他企業を見学した。また、障害特性上、従来の業務を継続して行うことが難しかったため、事務職への配置転換を進めることとした。支援機関と相談しながら、Aさんの新たな業務として、バイタルデータの入力や会議議事録の作成を設定した。Aさんの業務遂行をサポートするために、中央障害者雇用情報センターの就労支援機器の貸出制度を活用し、拡大読書器、画面読み上げソフト、画面拡大ソフトなどを整備した。切り出した業務は、これまで現場の職員が各自で入力、作成していたが、Aさんが担当することにより、職員の負担軽減と業務の効率化につながった。 第3節 聴覚・言語障害者 聴覚・言語障害は外見ではわかりにくいため、その障害の本質が理解されにくい面があります。ここでは、その障害を正しく理解するとともに、職業面における障害の特徴や職場におけるコミュニケーションなどの雇用管理上の配慮事項について学びます。特に障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく事業主による合理的配慮の提供について、聴覚・言語障害の特性をふまえた対応について考えていきます。 1 聴覚・言語障害の理解 (1) 聴覚障害とは 聴覚障害とは、聴感覚に何らかの障害があるため全く聞こえないか、聞こえにくいことをいいます。このような障害のある人を総称して聴覚障害者といいますが、ほとんど聞こえず、手話など視覚的なコミュニケーション手段を用いる人を「ろう者」、補聴器などを用いて音声によるコミュニケーションが図れる人を「難聴者」ということもあります。また、聴覚障害が生まれつきではない人を「中途失聴者」という場合もあります。 また、障害を受けた部位によって「伝音性難聴」と「感音性難聴」及び両方が混じった「混合性難聴」にわけることがあります。伝音性難聴の場合には補聴器が有効なことが多いのですが、感音性難聴は聴神経が障害を受けるため明瞭に聞きわけることができないといわれています。 さらに、音声言語の概念を習得する2〜3歳までに重度の聴覚障害が発生した場合を「言語概念習得以前の聴覚障害」、それ以降を「言語概念習得後の聴覚障害」と分類してとらえる場合があります。もちろん個人差がありますが、前者の場合、聴覚を通して音声言語を習得していないために発声が不明瞭で音声言語の習得が不十分なことが多くあります。後者の場合には比較的明瞭に発声でき、言語の理解にもあまり問題がないといわれています。 このように、聴覚障害といっても、全く聞こえなくて発語の不明瞭な人、高い音ならわかる人、低い音ならわかる人、発語ができるために「耳が聞こえないこと」が理解されない人、全く聞こえなくても発語ができる人などさまざまです。聞こえなくなった時期、教育環境、聞こえの程度によって社会生活や職場で直面する困難にも違いがあります。よって聴覚障害としてひとくくりにするのではなく違いがあることを前提にとらえていく必要があります。 しかしながら、いずれの場合にも聞こえに障害があるということは、音声による情報の獲得に困難があるばかりでなく、それによってさまざまな障害を引き起こします。聞こえる人が耳をふさいで体験するような状態をはるかに超えた困難さがあるといえます。 聴覚障害の程度について 聞こえの程度(聴力レベル)はデシベル(dB)という単位で表します。聴覚に障害のない人がやっと聞こえる最も小さい音の平均が0dB。普通の会話が60〜70dB。電車の通るガード下が100dB。数字が大きくなるほど聞こえが悪いことを示します。身体障害者福祉法の「障害程度等級表」には、聴覚障害として2、3、4、6級の程度があり、それぞれ次のように定義されます(単独で1級、5級に相当するものはありません)。  2級  両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上のもの(両耳全ろう)  3級  両耳の聴力レベルが90dB以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)  4級 1  両耳の聴力レベルが80dB以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)     2  両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの  6級 1  両耳の聴力レベルが70dB以上のもの(40cm以上の距離で発生された会話語を理解し得ないもの)     2  一側耳の聴力レベルが90dB以上、他側耳の聴力レベルが50dB以上のもの (2) 言語障害とは 言語障害とは声を全く出せないか、声は出せても言葉が不明瞭というように、音声や言語によって意思を伝えることができない障害のことをいいます。聴覚障害に起因する言語機能の損失、失語症などの言語中枢神経の障害によるもの、咽頭の損失や障害・異常によるもの、発声筋のまひによるもの、口蓋裂など構音機能障害によるものなど、その原因はさまざまです。言語障害は、必ずしも聴覚障害と連動はしていませんが、聴覚障害者の中には言語障害を併せもつ人もいます。また、中途で言語障害となった人の場合、意思を発声によって伝えられないもどかしさを強く感じることになります。 本節は、聴覚・言語障害者としてまとめていますが、以降は主に聴覚障害に焦点をあてて述べていくことにします。 2 聞こえに障害があると… (1) 言葉の習得が困難 聞こえる人の場合には、耳から周囲の人々の音声言語を聞くことによって言葉を習得していきます。聴覚障害者の場合、聞こえなくなった時期にもよりますし、個人差がありますが、聞こえの障害の結果として言葉の習得が遅れがちです。先に述べたように、音声言語の概念を習得する2、3歳の時期までに聞こえなくなった場合には、言葉を獲得するのに相当の困難を伴います。耳から入る情報は相当な量であるにもかかわらず、その手段をもち得ないからです。 また、言葉を発する際にも、自分の発音が正しいかどうかを耳で確認できないので、どうしても不明瞭な発声になりがちです。 (2) コミュニケーション障害が発生する 多くのコミュニケーションは音声言語を介して行われるので、聴覚障害はコミュニケーション障害といえます。加えて、外見からはその障害が見えにくいため、コミュニケーションについての正しい理解が得にくい側面があります。例えば、聴覚障害者だからコミュニケーションが全くとれないと考えられたり、逆に補聴器さえつければあとは全く不自由がないと思われたりします。また、中途失聴の場合、話すことができると、「聞こえ」についても問題はないものと思われて、全く配慮されないこともあります。このように、自分の意思を十分に相手に伝えることのできないもどかしさ、コミュニケーションの困難さに伴う聴覚障害者の心の葛藤は相当なものです。 コミュニケーションは日常生活にとって欠くことのできない要素です。職場においてもそれは何ら変わることはありません。作業を進めるうえで障害が少ないと考えられがちであった聴覚障害者は、生産現場を中心にその雇用が進められてきましたが、職場におけるコミュニケーションの難しさによる対人関係の問題や、教育訓練上の配慮の問題が指摘されるようになってきました。 (3) 情報障害が発生する 聴覚障害そのものは、「聞こえ」についての機能障害といえますが、日常生活においては「聞こえ」の問題に由来するさまざまな制限や制約があります。例えば、列車内で事故等による列車の遅れに関する車内放送が聞こえないために、適切な迂回方法がわからず時間をロスしてしまうなど不利益を被るような問題が発生します。単に聞こえないだけでない「情報障害」の側面に注目する必要があります。 また、聞こえる人は、耳から入る情報を自然に取捨選択し、自分との関係を判断しています。ところが、聴覚障害者にとっては、それが自分に関係する内容なのか、そうでないのかは教えられない限りわかりません。もし本当に関係のない話だとしても、聴覚障害者の人を前に数人で話をしていたとしたらどうでしょう。「直接あなたには関係のない話だから、後で結果を伝えてあげるよ」といわれても疎外感はぬぐえません。 さらに、情報が十分に得られないために、常識が欠如していると見られてしまうことがあります。それは、聴覚障害者本人の責任であるように思われがちですが、その常識ともいうべきことが、音声言語以外の方法で本人に伝えられてきたのかどうかを考えなければなりません。 次にこれらの特徴を踏まえたコミュニケーション方法について、見ていくことにします。 3 さまざまなコミュニケーション方法がある コミュニケーションにはさまざまな方法があります。聴覚障害者だからこの方法でと固定的に考えるのではなく、ある方法でうまくいかなければ別の方法で、あるいはほかの方法を組み合わせて、と工夫してコミュニケーションの輪を広げることが大切です。 コミュニケーションの相手が聴覚障害になった時期、育った環境、教育の背景などによって使える方法もさまざまです。また、場面によって方法を変えていくことも必要です。ここでは、職場でよく利用される方法について、それぞれのポイントを紹介することにします。 (1) 手   話 手話は、聴覚障害者の「見る言葉」ともいえます。手や表情を使って表します。専門用語の表現などに一定の限界はありますが、聴覚障害者が気分的にも最もリラックスできるコミュニケーション方法です。 よく、職場の上司や同僚から「手話を覚えるには相当の時間がかかるのでは?」とか「とても手話通訳者みたいには、うまくなれないですよ」といったことを聞きますが、職場でまず大切なのは「手話をうまく使えること」よりも「手話を使うことを理解すること」です。ですから、ちょっとしたあいさつや気持ちだけでも手話表現することで、コミュニケーションの輪が広がります。 手話を学ぶには地元の手話サークルに参加する、市町村などで実施する手話講習会に参加するなどの方法がありますが、もし、既に職場に聴覚障害者がいれば、その人に教えてもらう、職場の手話サークルや手話講習会で講師になってもらうという方法が効果的でしょう。 ところで、手話は、聴覚障害者の生活の中から生まれてきた「見る言葉」です。大きくわけて主に講習会などで使われている「日本語対応手話」と、主にろう者が使っている「日本手話」とよばれるものがあります。前者は、音声言語としての日本語の語順に基本的に1対1で対応していますが、後者は必ずしもその語順と対応しているのではなく、その意味をとらえて表現しています。日本手話は、見る言語本来の表現力を備えているといった特徴があります。聞こえる人は、自分が習った手話が絶対に正しいと思い込むのではなく、手話による豊かな表現のすばらしさを、まず感じてほしいものです。 さらには、職場独自の専門的な表現については、そこで通用するサインを決めておくことも、手話の使用の有無をこえた重要なコミュニケーションとなりえます。 なお、平成23年8月に障害者基本法が改正され、手話を含む意思疎通のための手段について選択の機会が確保されることが明示されました(第3条)。手話が言語として認められたことで、手話の重要性に対する認識がさらに高まることが期待されます。また、手話が言語であるという認識を踏まえ、手話言語に関する基本理念の理解や普及の促進などをめざす手話言語条例を策定する自治体も増えています。 手話であいさつ1 おはようございます。今日も、がんばろうね。 おはようございます。 今日も、 がんばろうね。 手話は手の表現だけでありません。表情も大切にしながら相手に伝えようとする思いを込めてください。 1 障害者職域拡大マニュアルNo.9「聴覚障害者の職場定着推進マニュアル」 (2) 指 文 字 50音を片手の指で表します。固有名詞や外来語など手話表現が決まっていない単語を表すときに使います。濁音や半濁音、長音や拗音などにも対応できます。手話表現を忘れてしまったときにも便利です。指文字単独でコミュニケーションは行いませんが、手話と交えて使います。 (3) 筆   談 話したいことをお互いに紙に書いてやりとりする方法です。絵や記号を書くのも一つの方法です。筆談でコミュニケーションというと負担感を覚えがちですが、実際に職場ではいろいろなメモをやりとりすることが多いのではないでしょうか。特に、仕事上の重要な指示などはメモの方が確実です。その意味で、一般的なメモの延長であると思えば、筆談は気軽にできるものです。 ただし、二重否定や婉曲表現は避けるようにします。「その方法を好まないわけではない」といった表現はわかりにくく誤解のもとです。また、いいたいことをそのまま文章で書けば完全に理解してもらえると思いがちですが、相手の音声言語としての日本語の理解力にもよりますので、伝わったかどうか確認する必要があります。 (4) 空   書 空文字ということもあります。空間に人差し指でそのまま単語を書いてください。「相手から見るとどのように書けば…」などと鏡文字にする必要はありません。同じ方向を向いて書けばさらにわかりやすくなります。手話と交えて使うことも多く、固有名詞や数字などを大勢の人たちに伝えるときにも便利です。 (5) 口   話 口話には、「読話」と「発語」があります。読話は、聴覚障害者が相手の唇の動きを見て何を話しているのかを理解する方法です。母音が同じ言葉であると、口の動きは一緒になるので注意が必要です。例えば、「たばこ」と「たまご」は同じ母音ですから、話の前後関係から判断できるようにしなければなりません。かといって必要以上に大声で、一音ずつ区切ってもかえってわかりにくいので、ゆっくりはっきり発音することが大切です。 発語は、聴覚障害者自身が話すことですが、年齢や訓練の状況によって差があります。初めは聞き取りにくいこともありますが、慣れると結構わかってくるものです。わからないときはわかったふりをしてそのままにしないこと。後で大きな誤解につながります。聴覚障害者も、「何度も聞かれることはそう苦痛ではないし、むしろ、ちゃんと聞いてくれているということでうれしい」と言っています。もし、どうしても通じないときには、違う表現に変えてみるといった工夫も必要です。 (6) 聴覚の利用 補聴器を使用して、残っている聴覚を利用することもあります。ただし、補聴器の効果にも個人差があり、明瞭に言葉を聞くことはできず、車のクラクションなど、音の認識のみの人もいます。補聴器のそばで大声で話されるとガンガン響いてわかりにくいという人もいます。また、補聴器は聞きたい人の声だけを大きくすることはできないので、例えば地下鉄の中など雑音が多いところではすべての音を拾ってしまうので効果は低くなります。 (7) TPOに応じたコミュニケーションが大切 以上のようにコミュニケーションにはさまざまな方法があります。固定的に考えるのではなく、TPOに応じて柔軟に手法を考えていく必要があります。例えば、作業指示など重要な事項は筆談で、昼食や休憩のときの和やかな雰囲気づくりは、たとえ覚えたてでも手話を使ってというように。そしてコミュニケーションを円滑にするための要素、すなわち、表情や身振り、手振りなど、どんどん取り入れていくことが大切です。 場や環境の設定も円滑なコミュニケーションにとって大切な要素です。逆光であると、手話や読話が難しくなります。相手と顔を見合わせることが必要で、例えば、朝礼や研修の際、話し手が下を向いたり、黒板で字を書きながら話したりすると、聴覚障害者の視野からはずれてしまい、その瞬間、コミュニケーションが成立しなくなります。 同時に、手話や相手の唇を読み取り続ける聴覚障害者の負担も相当なものです。適宜、休憩を入れるなどの配慮が必要です。 さらに、内容の確認方法の工夫も大切で、「わかりました」とうなずいたからといって本当にわかったかどうか、違う方向から確認します。例えば、確認のために復唱してもらうとか、実物や絵で確認してみるという方法が考えられます。相手の表情を見て話が正しく通じているのかどうかも確認していく必要があります(Q&A【問12】(P154)にチャレンジ)。 4 聴覚障害者の職業適性 長い間、聴覚障害者は木工、機械、印刷、理容、縫製などの職種に多く従事していました。特別支援学校(ろう学校)の高等部のコースを見てもこれらの職業に就くための訓練をしているところが少なくありませんでした。しかし、これらの職種が特に聴覚障害者に合っているということではなく、コミュニケーションをさほど必要とせず、手に技術をつけるといった観点からの結果といえましょう。 よって聴覚障害ゆえに作業遂行上不可能な職種はほとんどないということができます。 障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく障害者雇用の歩みを見ても、雇用義務化が導入された1976年の改正以降、聴覚障害者については大企業を中心に雇用が進んできました。 特に、通勤手段の確保、トイレの改造、エレベータの設置などの配慮が必要ないことから、雇用の機会はほかの障害者に比べると多くなっているといえます。例えば特別支援学校(高等部)卒業者(2022年3月)の就職率を状況別に見ると、聴覚障害(28.3%)、知的障害(22.1%)、病弱・身体虚弱(12.2%)、視覚障害(9.5%)、肢体不自由(3.6%)と、聴覚障害が他の障害よりも高くなっています(「学校基本調査(文部科学省)(令和4年度)」をもとに算出)。 一方、聴覚障害者の雇用が進むに従い、障害についての理解やコミュニケーションの困難さからくる職場の人間関係の問題や、教育訓練の問題が生じてきています。それは、また聴覚障害者が職場において昇進・昇格の機会に恵まれないことや、新技術が職場に導入されたときに研修を受ける機会が少ないといった問題にもつながっています。 さらに、産業構造の変化に伴い聴覚障害者も事務職やサービス産業部門に就職先を求めていく必要が生じ、これまで以上に情報集約的な仕事への移行が進んでいきます。逆説的ですが情報を獲得することに障害のある聴覚障害者が、ますますコミュニケーションや情報収集の必要な仕事に従事していかなければならないという場面が多く発生しています。 最近では、特別支援学校(ろう学校)を卒業したあと、大学に進学したり、特定の職業技術よりも一般の学習を進めていくコースを希望したりする聴覚障害者も増えてきました。コンピュータの発達・普及なども事務系の職種を希望する聴覚障害者の増加に拍車をかけています。このように、聴覚障害者の雇用は、社会的な条件の変化により、その内容を大きく変容させられているといえます。その中で、一般的な職業特性をまとめてみることにします。 (1) 身体面での特徴 身体運動機能について障害の影響はほとんどありません。健康管理や体力の点でも雇用上の問題になることは一般的にはありません。作業現場において危険を知らせるパトライトの設置や非常時の退避手段の確保などを除けば、作業を進めるうえでの特別な設備改善などもあまり必要としません。 (2) 作業面での特徴 作業面でも、聴覚障害に起因して遂行できないものは、ほとんどないといっても過言ではありません。しかしながら、音声言語としての日本語を扱うとなると、文章の読み書きなどが苦手な場合も多く、そのために実際よりも学力面で過小評価されてしまうことがあります。動作的な能力は高いのに、言語的な能力は試験などでは十分に評価されないことがあり、多面的に能力を評価していく必要があります。面接などでも表現や言葉の使用方法などだけで評価してしまうと、その聴覚障害者のもつ本来の力を見落としてしまうことになります。 以上のように、作業の理解や遂行において問題はほとんどありませんが、共同で作業を進める場合など、内容の確認方法などを決めておかないとグループとしての作業成果が十分に現れないことがあります。 (3) 行動面での特徴 人間が社会生活において自然に耳から得ている情報は少なくありません。当然、個人差はありますが、職場における常識などが身についていなかったり、気づくのに時間がかかって常識に欠けていると判断されたりしてしまうこともあります。 次に、このような聴覚障害の職業特性を踏まえ、職場における問題点とそれを解決するための方策について考えてみることにします。 5 雇用上の配慮 職場における合理的配慮の事例として国の「障害者差別禁止・合理的配慮指針1」では聴覚・言語障害について、採用後の配慮事例として、業務指示・連絡に際して、筆談やメール等を利用することや、危険個所や危険の発生を視覚で確認できるようにすることなどがあげられています。これらはそのまま職場定着のための雇用上の配慮にもつながるといえます。 (1) 職場のコミュニケーション 職場のコミュニケーションというと、1対1の作業の指示上の問題に焦点があてられがちですが、職場外でのインフォーマルな場面も含んだコミュニケーションについて考えることも大切です。コミュニケーションには、@内容の伝達と、A関係の伝達の二つの側面があるといわれています。作業に関する指示、仕事上の留意点など内容のコミュニケーションは、作業を進めるうえで非常に大切であり、確実に内容が伝達されるためには、前述のようなさまざまなコミュニケーション手段が駆使される必要があります。コミュニケーションにおける関係の伝達の側面とは、話をする相手との人間関係を形成するという機能です。上司と部下なのか、あるいは同僚同士なのか、フォーマルな関係なのか、インフォーマルなものなのか、コミュニケーションのとり方によってその二者間の関係が伝わることになります。 聴覚障害者はコミュニケーションが困難なことから、仕事中は筆談でやりとりしてくれても、昼休みや仕事帰りのときなど、職場の仲間の輪に入っていくことができずに寂しい思いをしていることが多くあります。採用された直後は、同僚の関心も高く、いつでもどこでも習いたての手話でコミュニケーションの輪が広がったのに、時間の経過とともにその機会も減っていってしまい、寂しい思いをした聴覚障害者も少なくありません。作業の場面やフォーマルな場面でコミュニケーションがとれていればそれで完全ではないのです。 それから、職場全体の情報に関するコミュニケーションの側面も忘れてはなりません。聴覚障害者は聞こえる人のように、作業をしていて自然に周囲の音声情報が入ってくるわけではありません。周囲の音声情報には、職場全体にかかわる情報から、同僚のちょっとした動向などさまざまです。いずれにせよ、こうした情報から取り残されると、例えば、「会社のことをわかっていない」、「気がきかない」といった評価に結びついてしまうこともあります。また、会社あるいは自分の所属する職場の現状や向かっている方向を知らされないまま、今、担当している仕事についてどんなに「がんばれ」といわれても、全体におけるその位置づけがわからないままに意欲を持続するのが難しいのは当然です。 後にも述べますが、職場での会議や朝礼などで、聴覚障害者にすべての情報を伝えるのは容易なことではありません。しかし、こうした情報の保障は、聴覚障害者の職場適応を考えるうえでもきわめて重要なことなのです。 (2) 職場配置 聴覚障害者の職場配置に当たっては、雇用している聴覚障害者数にもよりますが、1つの職場に聴覚障害者を集中配置するところと、分散させて配置させているところがあります。いずれも長短があって、集中方式では、情報の提供などが一元化でき効率的ですが、コミュニケーションの取りやすさから当然のこととはいえ、聴覚障害者同士が固まりやすく、聞こえる社員との交流をもちにくいといわれています。一方、分散方式では、聴覚障害者が孤立しやすく、情報提供の際も非効率であるといったことが一般的にはいわれています。しかしながら、同じ聴覚障害者だからうまくいくかというとそうとは限らず最終的には本人の適性や能力に応じて配置することが基本であり、いずれの方式であれ、情報提供やコミュニケーションに配慮した職場が求められます。 1 「差別禁止・合理的配慮指針」については、第4章第4節並びに資料編第4節及び第5節を参照。 (3) 職場定着のための配慮 聴覚障害者の雇用をめぐっては、職場への定着の問題がしばしば指摘されてきました。以下の表に示すようなことを根拠に職場の人間関係が難しいといった理由があげられますが、聴覚障害者個人の適応力の問題というより、職場への適応上の問題に直面したとき、十分に相談する機会や場がなく、結局は退職せざるを得なかった聴覚障害者も多かったものと思われます。 かといって、聴覚障害があるから定着に問題があると短絡的にとらえるのではなく、些細なコミュニケーション不足が職場の人間関係に影響を与えて、結果的に離職してしまうようなことを避けることが基本になります。 自分の担当している仕事が職場や会社全体の中でどのような位置にあるのか、将来、具体的にどのような技能やマネジメント能力をつけていけば、昇進や昇格の可能性があるのか、展望のもてる職場であることが必要です。 職場においてキャリア・アップをめざすことのできる聴覚障害者も少なくありません。コミュニケーションや情報の保障に配慮した教育・訓練の機会があれば、技能の向上や高いマネジメント能力の獲得は十分に可能です。部下を管理するうえでコミュニケーション能力が必要だから聴覚障害者には管理職は難しいとか、会議での発言が困難だからといった理由でキャリア・アップの可能性を閉ざしているのでは、企業にとって大きな損失です。また、それは聴覚障害者の働く意欲を奪うことにもなります。 聴覚障害者の退職状況の特徴 表 障害の種類別、常用雇用身体障害者の前職退職の理由のうち個人的理由の内訳(複数回答) (単位:%) 全  体 視覚障害 聴覚言語障 害肢体不自由 内部障害 障害のため 16.6 23.6 3.1 20.0 22.9 通勤が困難 9.7 9.7 7.8 9.3 12.2 賃金・労働条件 32.0 23.6 35.6 30.6 29.8 仕事の内容 24.8 26.4 30.8 21.9 23.7 会社の配慮不十分 20.5 16.7 22.4 18.8 22.5 職場の雰囲気・人間関係 29.4 25.0 35.6 28.4 26.3 家庭の事情 19.9 20.8 23.2 20.2 15.6 (資料出所)厚生労働省「平成25年度障害者雇用実態調査結果報告書」より 以下、聴覚障害者の職場定着やキャリア・アップに必要な職場における情報保障の方法を見ていくことにします。 職場全体の情報や、仕事を進めるうえで必要な情報を提供していく方法がいくつかあります。職場における朝礼や会議では、部分的には理解できても、議論が白熱してくると話し手が変わるのでついていけないと嘆く聴覚障害者も少なくありません。以下、職場におけるいろいろな情報提供面における聴覚障害者に配慮した伝達方法を紹介します。 @ 手話通訳 手話を使用する聴覚障害者については、手話通訳を配置するのが効果的です。議論の場面などでも臨機応変に対応が可能です。職員研修や定例の会議などについては手話通訳の配置が特に効果的です。 また、聴覚障害者本人の気持ちや考えを正確に理解するために手話通訳は最も適切な方法といえます。 手話通訳については、事業所のある地域の手話通訳派遣事務所や聴覚障害者の団体等に問い合わせるとよいでしょう。また、障害者総合支援法に基づく意思疎通支援事業により、市町村での手話通訳者の派遣もさらに充実することが期待されています。もちろん、手話通訳を配置しても、予め資料を聴覚障害者に渡しておいたり視覚的な資料の提示方法を併用すると理解の度合いが高まります。 A 要約筆記 聴覚障害者においては、必ずしも手話を使用する人ばかりではありませんので、要約筆記が用いられることも多くなっています。基本的には音声情報を即時に文字情報に要約して提示する方法です。 従来、講演会等では、話しの内容を要約しながら、同時に透明のOHPシート等に書き込んでいき、オーバーヘッドプロジェクタによってスクリーン等に提示する方法が用いられてきましたが、近年では、パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)をプロジェクタに接続し、音声情報をテキスト変換して映し出す方法、すなわちパソコン要約筆記が主流になっています。入力には通常のワードプロセッサのみならず、専用のソフトウエアの利用によって入力速度の向上が図られています。入力にあたっては、パソコンならではの単語登録機能を活用して、講演やプレゼンテーションの内容等に合わせた作業効率のアップが期待でき、従来の手書きによる要約筆記に比べて情報提供量が確保できるのも特徴です。入力にあたっては、複数のパソコン要約筆記者が分担して1文を完成させる方法等が取り入れられています。 B ノートテイク 少人数の会合や、手話通訳、要約筆記などの手段が取れないときに、聴覚障害者の横で、音声情報の要旨をメモする方法です。場所を選ばすに利用できることも利点の一つです。すべてを手書きでメモするのには限界がありますので、内容を要領よくまとめるかがポイントになります。ノートやホワイトボードに手書きする代わりに、パソコンに入力をして、聴覚障害者が画面を見るという方法もよく行われています。前出のパソコン要約筆記と同様、事業所内で頻繁に用いられる用語や固有名詞等を登録しておけば、入力速度が向上し、その負担も軽減されます。 C ICT(情報通信技術)の活用 FAXの普及によって聴覚障害者の連絡、特に緊急時の連絡手段が確保されたように、電子情報機器やデ ジタル機器の普及は、聴覚障害者のコミュニケーションや情報獲得に大きな影響を与えています。職場では、電子メールを利用してのコミュニケーションや情報交換が次第に普及してきており、電話を使用できないが、音声言語としての日本語を十分に使いこなせる聴覚障害者にとっては有効な手段となっています。携帯電話についても文字情報のやりとりによって出先の聴覚障害者との連絡が可能になっています。欠勤などの突発的な連絡などの場合にも、携帯電話のメールやSNSを利用することで対応が可能になっています。加えてタブレット端末やスマートフォンの普及により、聴覚障害者と健聴者との会話をサポートするアプリの活用も有効な手立てのひとつです。 また、社内での情報交換にメールを活用する例も多く見受けられます。重要な連絡事項や情報については、事前に配信しておくことで、会議などの場での情報保障を進めている事業所も少なくありません。 このように、先端技術の進展には大きな期待が寄せられますが、その利用方法の学習機会などが保障されないと聴覚障害者は恩恵が得られないことはいうまでもありません。 さらにこれらの情報保障の手段に加え、偏った情報のみが提供されるのを防ぎ、聴覚障害者の内面的な問題や悩みに応えることのできる場として、職場の手話サークルや職場定着のための組織化が効果的と思われます。 6 コミュニケーションあふれる豊かな職場を 聴覚障害者のコミュニケーションや情報の保障を考えるうえで大切なことは障害のある人、ない人のどちらか一方のみに無理や負担を強いないということです。最近では、聞こえない人が音声言語の世界に無理に自分を合わせるのではなく、聞こえない人たち自身の音声言語によらない豊かな文化を見直していこうという動きも活発化しています。聞こえることを前提に形成されてきた職場では、直ちに受け入れられにくいかもしれませんが、このような考え方は、コミュニケーションの基本を見つめ直すうえで多くの示唆を与えてくれます。 人と人のコミュニケーションが不足しがちといわれる現代社会。聴覚障害のある人に配慮した職場は、だれにとってもコミュニケーション豊かで、情報が行き交う働きやすい職場であるといえるのではないでしょうか。 (朝日 雅也) ◇ 聴覚・言語障害者の雇用事例(運輸業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 手話のできる社員がいない中、聴覚障害者をトラックドライバーとして採用した当初は、手振りや筆談により対応していたが、業務の指示内容が確実に伝わっているか等不安が生じていた。そのため、会社用のスマートフォンを整備し、業務上の相談を管理職と直接やりとりできる体制を作った。またSNSで聴覚障害のあるドライバーのグループをつくり、出勤状況の確認、点呼、体調管理、情報交換などのコミュニケーションを図った。聴覚障害があるドライバーは一見すると障害のあることがわからないため、顧客の理解が得られるように、幹部社員が顧客先に同行し挨拶をしたり、車に貼付する聴覚障害者を表す標識(聴覚障害者マーク)を名刺にも入れ理解を求めている。また、電子メモパッドを携帯し、配送先でのコミュニケーション手段として活用することで、トラックドライバーとして活躍している。 聴覚障害者標識 (聴覚障害者マーク) 〈注1〉 職場定着の推進については、障害者職域拡大マニュアルNo.9「聴覚障害者の職場定着推進マニュアル」を参考にしてください。また、実際の企業内の取組みでは、DVD「みんな輝く職場へ〜事例から学ぶ合理的配慮の提供〜」もわかりやすく解説しています。 〈注2〉 聴覚障害の特性を踏まえた職場における配慮については、コミック版3「聴覚障害者と働く」、障害者職域拡大マニュアルNo.9「聴覚障害者の職場定着推進マニュアル」を参照するとよいでしょう。 Q&A【問12】聴覚障害者とのコミュニケーションにあたっては、特定の方法のみにこだわることなく、多様な方法を検討することも重要である。(解答と解説はP290に記載しています) 第4節 内部障害者 1 内部障害の定義と種類 身体障害者福祉法は、身体障害者の更生援護を目的に制定され、身体障害の内容とその程度に応じて身体障害者手帳を交付しています。それらの障害の中で心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸器機能障害、ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害、肝臓機能障害の七つが内部障害と総称されています。これらの内部臓器障害は、それぞれ血液循環、血液浄化、呼吸、排泄、消化、免疫(感染防御)、代謝などの生命を維持するという重要な機能の障害であり、これらの臓器の本来の働きが障害されることにより日常生活活動が制限されることとなります(Q&A【問13】(P167)にチャレンジ)。 身体障害者福祉法の中に、1967年に心臓機能障害と呼吸器機能障害が、1972年に腎臓機能障害が、1984年にぼうこう又は直腸機能障害が、1986年に小腸機能障害が、1998年にヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害が取り入れられました。また、2010年4月に新たに肝臓機能障害が加えられています。今後も医療や社会状況の変化によっては、さらに新たな内部障害が更生医療の枠組みに組み込まれることも考えられます。 2 内部障害の統計 本邦では5年ごとに身体障害者の実態調査を行っていました。平成18年の調査では、全国の身体障害者数(在宅)は348万3000人と推定されています。このうち63.5%が65歳以上です。また、内部障害は107万人で30.7%でした。内部障害数の内訳では、多い順に心臓機能障害59万5000人、腎臓機能障害23万4000人、ぼうこう又は直腸機能障害13万5000人、呼吸器機能障害9万7000人、小腸機能障害8000人、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害1000人でした。全体としての身体障害者数は前回調査時(平成13年)より7.3%増加していましたが、内部障害についてはその増加率は26.0%と各種障害の中では最も大きいものとなっています。身体障害者の原因を疾患別にみると、頻度の多い順から、心臓疾患10.0%、脳血管疾患7.8%、骨関節疾患6.8%、腎臓疾患4.7%、リウマチ性疾患2.8%となっており、内部障害の原因疾患では、心臓疾患、腎臓疾患の頻度が高く、年々増加傾向を示しております。 なお、平成18年の調査以降、上記と同じ手法での全国的な身体障害者の実態調査はなされていませんが、ほぼ同様の手法で在宅障害児・者を調査した平成23年および平成28年「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者実態調査)」によると、在宅の身体障害者手帳所持者数でみると平成23年(2011年)時は386万4千人、平成28年(2016年)時は428万7千人と推計されています。そのうち内部障害者でみると平成23年時は93万人(24.1%)、平成28年時は124万1千人(28.9%)でした。機能障害別の内訳をみると、平成23年時は頻度の多い順でみると、心臓機能障害59万1千人、腎臓機能障害19万5千人、ぼうこう・直腸機能障害10万7千人、呼吸器機能障害6万9千人、小腸機能障害7千800人、肝臓機能障害5千人、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害3千400人となっています。平成28年時は頻度の多い順でみると、心臓機能障害73万人、腎臓機能障害25万3千人、ぼうこう・直腸機能障害14万9千人、呼吸器機能障害8万3千人、肝臓機能障害1万5千人、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害7千人、小腸機能障害2千人となっています。 3 心臓機能障害 身体障害者福祉法での身体障害者手帳交付に当たっての心臓機能障害の等級基準は、主に、@不整脈、A虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、B心筋症などにより心臓の本来の働きが障害され、このため日常生活活動が制限されるものにわかれており、障害程度により1級(自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの)、3級(家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの)、4級(社会での日常生活活動が著しく制限されるもの)と決められています。 (1) 代表的心疾患 @ 不 整 脈 心臓のリズムをつくり出す洞結節のパルスの発生が不規則になったり、刺激を伝える刺激伝導系以外のところから異常なパルスが発生したり、あるいは正しくパルスが伝わらなかったりすると、心拍数が異常に速くなったり遅くなったり、又はリズムに乱れを生じたりします。このような異常を不整脈といいます。 A 虚血性心疾患 ア 狭心症 心臓を養っている冠状動脈の血流量が相対的、あるいは絶対的に減少し、心筋の需要に応じきれないため狭心痛発作を起こすもので、狭心痛発作のほかに、胸部の絞扼感、圧迫感、灼熱感などが短時間みられます。 イ 心筋梗塞 心筋を養っている冠状動脈の血流が途絶えたり、あるいは極度の減少のために心筋が壊死し、このため激しい胸痛が出現します。心筋梗塞はいわば狭心症の終末像ともいえます。 ウ 心筋症 心筋症は原因不明の一次的に心筋が冒される病気をいい、拡張型、肥大型、拘束型の3つに分けられます。 エ 弁膜症 心臓には三尖弁、僧帽弁、肺動脈弁、大動脈弁と四つの弁があり、血液を一定方向に流すように機能していますが、何らかの原因によりこれらの弁の機能が障害されたものをいいます。 オ 先天性心疾患 胎生期初期の心臓血管系の発生異常により引き起こされる、先天的な心臓血管系の構造機能上の異常を呈する疾患をいいます。 カ 心不全 原因疾患のいかんにかかわらず、心臓のポンプ機能が障害され、身体の各臓器に十分な血液を送れず、肺・肝臓・腎臓などに血液のうっ滞が起こる状態をいいます。心不全になると、息切れ・呼吸困難・頻脈・チアノーゼ・浮腫などの症状を呈するようになります。 (2) 心疾患患者の雇用上の一般的注意点 心疾患患者を雇用するうえで大切な点は、患者の状態を正しく理解し、なるべく心臓に負担のかからないような仕事を心がけることです。 状態観察のポイントとなるのは、顔色・脈拍・呼吸状態・皮膚の色や状態・むくみの有無などです。脈が速い(頻脈)、呼吸が荒く息切れがしている(呼吸困難)、顔色が悪く四肢末梢が紫色に見える(チアノーゼ)、顔や四肢がむくんでいる(浮腫)などは、心不全の徴候として大切です。これらの徴候がみられる場合、心臓機能は低下しており、座位での仕事でも長時間労働は心臓に負担がかかることが予想されます。したがって、このような徴候がみられる場合は、絶えず患者の状態を観察しながら、早めに専門医の診察を受けるように指導することが大切です。また、仕事中に少しでも変わったところがみられたら、横になり安静にし、心臓への負担を軽減します。 (3) 人工臓器 心臓機能障害において用いられる人工臓器としては、主に不整脈に用いられる心臓ペースメーカー、さらに弁膜症に用いられる人工心臓弁、突然死の原因となることが多い心室頻拍や心室細動などの、致死的不整脈に対して用いられる埋め込み型除細動器があります。 @ 心臓ペースメーカー 人工的電気刺激により心臓を興奮収縮させる装置を心臓ペースメーカーとよび、刺激伝導系の何らかの障害により、心臓に著明な不整脈(極端な徐脈あるいは心臓停止)を生じさせるような疾患に対して適応としています。生活上の注意点としては、ペースメーカーの感知部分に体外から雑音が混入し、誤作動する場合があることで、例えば高エネルギーの電磁波を発生する家庭電気製品(電磁調理器)、医療用機器、工業用機器について、使用しない・近づかない注意が必要です。 A 人工心臓弁 機能障害のため正常に働かなくなった弁膜の代用として、機械的に又は他の動物の弁や心膜を加工し、正常に近い弁機能をもたせようとしたものが人工心臓弁であり、各種弁膜症で臨床症状や検査所見の程度が悪いものが人工心臓弁置換術の適応となります。生活上の注意点としては、人工心臓弁では血の塊(血栓)が弁に形成されやすく、血栓が末梢に飛んで塞栓症状を起こしやすくなります。これを防止するために、血を固まりにくくする薬物(抗凝固剤)を術後に服用させています。このため合併症としてわずかの打撲程度でも出血しやすくなっているため注意が必要です。 B 埋め込み型除細動器(ICD) 埋め込み型除細動器(ICD=Implantable Cardioverter Defibrillatorの略)は、前述したように突然死の原因となることが多い心室頻拍や心室細動などの致死的不整脈に対して、心臓ペースメーカーと同じように体内に埋め込みを行う電気刺激装置です。日常生活上の注意としては、心臓ペースメーカーと同じように、電磁波を発生する機器の近くではICDの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神などを起こすことがあるため、使用しない・近づかない注意が必要です。 (草野 修輔) 4 腎臓機能障害 腎臓の機能が高度に障害されて体液の恒常性が維持できなくなった状態を、腎不全といいます。腎機能が正常の25〜30%以下になると腎不全の状態となり、さらに腎機能が低下して10%以下になるといわゆる尿毒症となり、人工透析療法や腎臓移植療法が必要となってきます。腎不全には、急性に発症して腎機能が急激に低下する急性腎不全と、慢性に経過する慢性腎不全があります。 急性腎不全は、多くの場合可逆性であり、慢性腎不全が透析導入後ほとんど離脱できず不可逆性であるのと比べ、大きな違いがあります。急性腎不全の原因としては、腎毒性物質又は虚血による急性尿細管壊死によることが多く、慢性腎不全の原因疾患としては、糖尿病性腎症1が最も多く、次いで慢性糸球体腎炎で、高血圧による腎硬化症も多い原因です。新規の透析の原因疾患としても、糖尿病性腎症が最多です。 内部障害者の対象となるのは慢性腎不全ですので、以下慢性腎不全について記述します。 (1) 慢性腎不全の臨床症状 慢性腎不全は数ヶ月ないし数年間にわたる持続性の腎予備力の減退に基づく非可逆性の腎機能不全の状態であり、臨床症状は多種多彩です。 @ 精神・神経症状――頭痛、不安、不眠、精神障害、けいれん、昏睡、末梢神経障害。 A 消化器症状――悪心、嘔吐、食思不振、下痢、吃逆、口内炎、耳下腺炎、膵炎、胃腸炎、消化管出血。 B 循環器症状――心肥大、心不全、浮腫、心外膜炎、高血圧、脳出血。 C 呼吸器症状――肺炎、呼吸困難、呼吸促迫。 D 造血器症状――貧血、出血傾向(腸管出血、鼻出血)。 E 皮膚・粘膜症状――色素沈着、紫斑、かゆみ、皮下出血。 F 眼症状――結膜炎、角膜のカルシウム沈着。 G 骨障害――腎性骨異栄養症(線維性骨炎、骨軟化症)。 (2) 慢性腎不全の治療 慢性腎不全は生涯にわたって継続治療を必要とします。治療の要点は下記の4項です。 @ 適度な運動、食事療法(蛋白質、食塩、水分制限)。 A 増悪因子の除去(保温、感染の予防に配慮)。 B 対症療法(降圧剤、抗生物質などの投与)。 C 透析療法、腎移植。 1 糖尿病性腎症:糖尿病に特有な合併症として、腎症、網膜症、神経障害がある。この中で、生命予後に最も重要な関係を有するのが腎症である。このため、尿蛋白の検査を欠かさずに実施して、早期に腎障害を発見し、治療することが大切である。 (3) 透析療法 上記(2)@ABの治療法で症状の改善が認められない場合に透析療法が実施されます。 透析療法は失われた腎機能を代行し、血液を浄化する治療法ですが、腎機能すべてを代行するわけではありませんので、同時に食事療法、薬物療法が必要です。 透析療法には腹膜透析と血液透析があります。 腹膜透析は患者自身の腹膜を透析膜として施行するもので、透析効率は血液透析より劣りますが操作は簡単で安全性も高く、在宅でも手軽に行える利点があります。ただし、腹膜炎を合併する危険性があります。腹膜透析としてはCAPD(連続携帯式腹膜透析:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)が一般的で、腹腔に腹膜透析用カテーテルを固定装着し、透析液を腹腔内に入れたまま社会活動し、1日に3〜4回自分で注液、排液を行い透析液を交換する透析法であり、完全社会復帰を希望する患者、シャント(連結口)作成が困難で血液透析の実施が困難な症例などに用いられています。長期には腹膜が肥厚するため血液透析に移行しなければならない場合があります。 一方、血液透析(人工腎臓)は人工半透膜の間を血液を通過させ、透析を行うもので、透析効率がよく、体液異常の改善が急激に起こりますが、血液を体外循環させるために動・静脈のシャント(連結口)が必要で、小手術を行う必要があります。現在、血液透析が長期透析療法の主役となっており、1998年(平成10年)から在宅血液透析も保険適応となっています。 合併症については、腹膜透析患者では腹膜炎の早期発見に注意すること、血液透析患者ではシャントの管理が重要です。 (4) 腎 移 植 腎不全の治療法としては非常にすぐれた方法で、全身状態、腎臓の提供者などの状況が整えば、選択肢の1つになります。移植後は、まず免疫抑制剤をきちんと服用する必要がありますが、食事制限、透析のための頻回な通院などの生活上の制限は大きく減ります。移植後半年を過ぎれば、通常の運動も可能となります。 (5) 腎機能障害者に対する雇用上の一般的注意事項 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し以下に示す様な障害の内容や必要な配慮等を説明する必要があります。 @ 全身的な体力の低下を伴っていることが多く肉体的重労働には適していません。ただし、近年は不動による健康リスクの方が重要視されてきているため、レクリエーションレベルで本人の体力に合った運動は積極的に勧められるようになってきているため、無理のない活動であれば参加は可能です(Q&A【問14】(P167)にチャレンジ)。 A 体調の変動を伴うことが多いので、体調に応じた業務量の調整が必要です。 B 医学的管理は重要で、定期的に継続して医療を受ける必要があり、定期的な通院に関する配慮が必要です。 C かぜなどの感染症に罹患しやすいので、その予防を心がける必要があります。 D 長期間の療養の結果、精神的、心理的、経済的、社会的にハンディキャップを負っている場合は、温かい態度で接し、患者のもつ問題点を理解し、それぞれに応じた援助を行う必要があります。 E 身体を寒冷にさらさないような温暖な労働環境が腎機能障害者には望まれます。 F 移植腎は腹部にあるので、腹部を圧迫するような作業は、避ける必要があります。 (佐久間 肇) 5 呼吸器機能障害 ヒトは呼吸により大気中の酸素を取り入れ、体の各組織での化学的燃焼によって生じた炭酸ガスを体外に排出することで生命を維持しています。このガス交換の過程のどこかに障害が起こると、呼吸器の機能障害が起こることになります。身体障害者福祉法でいう呼吸器機能障害とは、病因を問わず、このような障害が長期に続く慢性の呼吸器の機能障害を指しており、指数(予測肺活量1秒率=1秒量÷予測肺活量×100)と動脈血酸素分圧及び行動範囲などを指標として障害が判定され、その程度により1級(呼吸器の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの)、3級(呼吸器の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの)、4級(呼吸器の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの)の身体障害者手帳が交付されます。慢性の呼吸障害をきたす代表的な疾患は以下のとおりです。 (1) 代表的な呼吸器疾患 @ 慢性閉塞性肺疾患 広範な気管支の狭搾を示し、1秒率の低下をきたすものをいい、以下の疾患が含まれます。 ア 慢性肺気腫 肺胞が破壊されて全体として肺が異常に膨張する疾患で、さまざまな程度の呼吸困難を訴えます。身体所見は努力呼吸、呼気延長(ゆっくりでしか息が吐けない)などがみられ、進行するとチアノーゼもみられます。 イ 慢性気管支炎 慢性の咳と痰を主症状とし、進行すると呼吸器の機能障害を示します。 A 拘束障害をきたす疾患 拘束障害とは肺、胸膜、胸壁の異常や、神経筋疾患などのために肺の拡張が制限され、肺活量の低下をもたらすものをいいます。肺結核、肺線維症、サルコイドーシス、肺結核手術後の胸郭変形、広範な胸膜癒着、ポリオ、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症などが原因となります。 B 慢性呼吸不全 慢性の呼吸器機能障害による低酸素血症や高炭酸ガス血症のために、体にさまざまな異常を引き起こす病態です。前述の慢性閉塞性肺疾患が進行したり、結核後遺症などによる肺活量の低下が加齢などで進行すると、このような状態になります。神経系、循環器、腎、消化器などの多くの臓器に深刻の低下な合併症を引き起こすようになります。 (2) 人工臓器 @ 酸素療法のための機器 慢性呼吸不全による低酸素血症が進んだ患者には酸素療法が有効であり、在宅酸素療法(Home Oxygen Therapyを略してHOT(ホット)と呼ばれている)により家庭や職場への復帰が可能となり、生活の質を高めることができるようになりました。装置には、液体酸素装置と酸素濃縮装置の2つがあります。在宅酸素療法は健康保険が適応されており、下記の条件を満たした場合に開始されます。ただし、HOTの導入に際しては、有効とされる他の治療(薬物療法、呼吸器リハビリテーション)を十分に行っても1ヶ月以上にわたり低酸素血症が持続することを確認する必要があります。 ア 対象疾患  (ア)高度慢性呼吸不全例 ただし、動脈血酸素分圧(PaO2) が55Torr(mmHg) 以下の者、およびPaO2が60Torr(mmHg)以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めた者。適応患者の判定にパルスオキシメータによる酸素飽和度から推測し、PaO2を用いることは差し支えない。  (イ)肺高血圧症  (ウ)慢性心不全の対象患者 ただし、医師の診断により、心不全の重症度分類で用いられるNYHA(New York Heart Association)V度以上であると認められ、睡眠時のチェーンストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸および低呼吸数をいう)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上で確認されている症例。  (エ)チアノーゼ型先天性心疾患 チアノーゼ型先天性心疾患に対する在宅酸素療法とは、ファロー四徴症、大血管転位症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹症、単心室症などのチアノーゼ型先天性心疾患患者のうち、発作的に低酸素または無酸素状態になる患者について、発作時に在宅で行われる救命的な酸素吸入療法をいう。 A NPPV(Noninvasive Positive Pressure Ventilation=非侵襲的陽圧換気療法) NPPVは、気管内挿管や気管切開処置をせずに行う換気療法で、フェイスマスクや鼻マスク、鼻プラグを通して上気道に陽圧を加え、肺の換気を補助する人工呼吸法であり、ポリオや筋萎縮性側索硬化症、進行性筋ジストロフィーなどの神経筋疾患で、呼吸筋の障害により換気機能が低下した場合に導入されることが多い治療法です。後述のベンチレーターとは異なり気管内挿管や気管切開処置などをしなくても良いため、食事や会話が可能です。NPPVで使用するマスクやインターフェースとしては、フェイスマスク、鼻マスク、鼻プラグ、マウスピースなどがあり、疾患内容や呼吸状態、患者の希望などを総合的に判断して適切なものを選択します。 B ベンチレーター(人工呼吸器) ポリオや筋萎縮性側索硬化症、進行性筋ジストロフィーなどの各種神経筋疾患などで、NPPVでの対応でも呼吸運動がさらに低下してくると十分な呼吸サポートが出来なくなり、ベンチレーターに頼らなければ生命を維持できなくなってきます。従来は長期入院下での療養を強いられましたが、近年機器の小型化が進み、在宅生活での人工呼吸器での呼吸管理も可能となってきています。 (3) 呼吸器機能障害者雇用上の一般的留意点 慢性的な呼吸器機能障害者は、低酸素血症があっても安静時は呼吸困難を訴えることはあまりありません。これは慢性の経過をとるうちに各臓器の代償機能が働くようになっているためです。しかし呼吸の予備能力が低いので、職種は障害の程度によりますが、肉体的負担の少ない軽作業やデスクワークなどが向いています。雇用上大切なことは、障害についての理解と個々の患者の状態を正しく把握することです。体調管理のためには主治医の意見も聞いておく必要があります。職場環境としては気管支粘膜が過敏になっていることが多いので、刺激ガスや温度変化(特に冷気)、乾燥に留意します。HOTを導入している患者の場合は火気の取り扱いや室内の換気にも留意します。その他、定期的な通院が必要となるため、勤務時間の配慮も必要となります。 (草野 修輔) 6 ぼうこう又は直腸の機能障害 ぼうこう疾患で尿路(尿管)を変更し、腹壁に新たな排泄口を造設したり、同様に、腸疾患で腸管の一部分を切除したり、あるいは腸管の通過障害を起こして便を肛門から排泄できない場合に、新たに肛門以外に便の排泄口(人工肛門)をつくる必要を生じる場合があります。こうしてつくられた新たな排泄口をストマとよび、これを永久的に造設した方は、部位に関係なく障害認定が行われます。また、ストマがない方でも、直腸の手術や代用ぼうこう1の使用により高度な排尿機能障害がある方や先天性鎖肛に対する肛門形成術や小腸肛門吻合術に起因する高度な排便機能障害がある方も、認定の対象となります(術後6ヶ月を経過した日以降に認定します。)。 手帳1級から3級では医療費及び税金の障害者控除が受けられ、手帳1級程度のいわゆる重度身体障害者には、居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護等の自立支援給付を受ける制度もあります。ストマ用装具費の支給制度、交通運賃割引制度などもあり、福祉センター、身体障害者更生相談所などの利用もできます。 (1) 尿管ストマを必要とする代表的疾患 @ 二分脊椎 椎弓癒合不全(脊柱管の背側が開いたままになる)により起こる先天性奇形で、脊髄や髄膜2の形成不全も合併します。脊柱管の内容の脱出を伴わない潜在性二分脊椎と、脱出を伴い体表へののう状膨隆を認めるのう状二分脊椎があります。神経因性ぼうこう3を示すのは、のう状二分脊椎のうち、のう状膨隆の中に神経根や脊髄を含む脊髄髄膜瘤とよばれるものに多くみられます。残尿が多く、ぼうこう内から尿管に尿が逆流するために、適切な処置(導尿4処置やストマの造設)を怠ると、尿路感染5を繰り返して腎機能の低下を招きます。 A ぼうこう癌 血尿で気づかれることが多い癌です。腫瘍が尿路を塞いで排尿が困難になったり、ぼうこうの伸展が悪くなると尿意が頻回になったりします。ぼうこうの一部の手術であればストマが必要ないこともあります。 B 子 宮 癌 婦人科領域の癌では最も多い癌です。しばしば癌が子宮にとどまらず、ぼうこうや直腸にまで病変が進展することがあり、子宮、ぼうこう、直腸を併せて取り除く手術が必要となることがあり、この場合は、尿管と腸管の2種類のストマをつくることになります。 1 代用ぼうこう:ぼうこう全摘出後に腸管などを用いてつくられるぼうこうの代用となるもので、尿を蓄えることができる。 2 髄膜:脳あるいは脊髄を覆っている構造物で、外側から硬膜、くも膜、軟膜の3層よりなる。 3 神経因性ぼうこう:神経疾患に伴う排尿障害の総称。肺炎や褥瘡などとともに三大神経疾患合併症といわれる。 4 導尿:カテーテルを尿道口からぼうこうに入れて、尿を排泄する操作。 5 尿路感染:ぼうこう炎を代表とする尿の通過路における感染症。 (2) 腸管ストマを必要とする代表的疾患 @ 大 腸 癌 海外に比較して日本では少なかったのですが、食事の欧米化に伴い確実にその数は増加しています。日本人の場合、大腸癌全体の60〜70%が、S状結腸と直腸に発生しています。早期の大腸癌は無症状ですが、進行癌では、血便、便通異常が出現します。直腸癌が多いので、指診といわれる肛門からの直腸内部の触診が重要です。進行癌では手術療法が中心となりますが、早期のポリープ型癌では、内視鏡的治療も可能です。 A 腸閉塞(イレウス) 小腸や大腸において、腸管の内腔の通過が阻止された状態をいい、嘔吐、腹痛、便秘、排ガス停止などの症状が出ます。腸閉塞は機械的イレウスと機能的イレウスに大別されます。機械的イレウスは、腸管の癒着による屈曲や癌による狭窄などで、多くの場合は腸管蠕動(ぜんどう)の亢進を認めます。機能的イレウスは汎発性腹膜炎などに伴い生じるまひ性イレウスが代表的で、この場合は腸管蠕動は減弱〜停止します。腸管の血流障害があれば緊急手術が必要になります。 B クローン病 主として若い成人にみられる原因不明の疾患で、消化管に線維化と潰瘍形成を伴う肉芽性炎症を起こします。腹痛、全身倦怠、下痢、下血が多い症状です。病巣が不連続で潰瘍が縦走する形態をとることが特徴で、しばしば病変部で狭窄を起こします。内科的治療にしばしば抵抗性があり、狭窄、閉塞を起こした場合は切除手術が必要になることがあります。小腸の大量切除手術の場合は、小腸機能障害で障害認定されます。 C 潰瘍性大腸炎 30歳以下の成人に多いのですが、小児や50歳以上の人にもみられる原因不明の炎症性疾患です。びらん、潰瘍を形成し、血性下痢を主徴とし、粘血便、腹痛、血便がよくみられる症状です。基本的に、直腸から病変は始まり、連続的に上部に広がります。腸管壁の浅い部分(粘膜)の炎症で、分泌腺内の膿瘍(腺窩膿瘍)が形成され、腸管の短縮、壁の硬化が起こります。難治性の場合や大腸癌を合併した場合は、切除手術が必要になることがあります。 D 腸 結 核 肺結核に伴って起こることが多く、痰の嚥下とともに腸に到達して、病変を生じると考えられています。粘膜下のリンパ組織の分布に沿って潰瘍が形成されることから、小腸では輪状潰瘍を認めることが多く、大腸では分布、形態ともに不規則といわれます。回盲部、回腸に好発します。病巣部の生検検査、生検材料・痰・胃液・便などの培養による結核菌の証明が診断上重要です。 (3) 雇用上の注意 @ 術後の体力の回復状況や、他の合併症の有無などを十分に配慮した勤務時間・内容の設定、出勤時間の決定などが必要であり、この際に主治医の意見聴取も重要です。 A 病院から退院し障害のない人の中で生活するようになったとたん、とかく障害のない人と比較して自らの悲運を嘆き、周囲を気にして人との付き合いに消極的になり、しだいに孤独感、疎外感を増して家族や社会との断絶を招くこともあります。職場における上司、同僚の障害についての理解と協力が重要です。 B 多くの方は原疾患の経過観察やストマ管理のために、定期的な医療機関の受診を要します。 C ストマ管理を要する方には、トイレ等にストマ用具を置ける簡単な処置台の準備が必要です。 7 小腸機能障害  先天的原因や後天的原因によって小腸の切除を要すると、通常の経口による栄養摂取のみでは栄養の維持が困難になる場合があり、障害認定の対象となっています。該当すれば、1級(栄養所要量の60%以上を常時中心静脈栄養法で行う必要のあるもの)、3級(栄養所要量の30%以上を常時中心静脈栄養法で行う必要のあるもの)、4級(永続的に小腸機能の著しい低下があり、随時中心静脈栄養法又は経管栄養法を行う必要のあるもの)に認定されます。小腸大量切除の場合は手術時に、それ以外の小腸機能障害の場合は6ヶ月の観察期間を経て認定されます。 (1) 代表的原因疾患 前項(ぼうこう又は直腸の機能障害)で述べた腸疾患のほかに、下記のようなものがあります。 @ 上腸管膜血管閉塞症 腸管膜動脈の血栓症・塞栓症により腸管壁の壊死を起こします。上腸管膜動脈に多く、この場合、病変は小腸から右結腸に及びます。突然の腹痛、腹部膨満、嘔吐、吐血、下血などの症状が出ます。腹膜炎を起こすと予後が悪くなるので、外科的処置(腸管切除)が急がれます。 A 外   傷 事故による腹部の強い打撲や刃物による刺傷などにより、腸管の切除が必要となることがあります。 B 先天性小腸閉鎖症 先天的に小腸の内腔に閉塞を認めるもので、早期に腸切除を要します。 (2) 中心静脈栄養法 従来、輸液といえば水分・電解質1の補給が主体でしたが、現在では、病態により栄養補給の意味づけを強くした輸液が可能となりました。末梢静脈からでも、適当な輸液剤と脂肪乳剤を併用すると1,300kcal程度の投与が可能とされます。しかし、末梢静脈からの輸液は血栓性静脈炎2の発生が高率であり、長期の栄養管理には適しません。 そこで行われるのが、中心静脈栄養法です。これは、カテーテル先端を鎖骨の下から挿入し、中心静脈に留置した状態で輸液管理を行う方法で、長期の、さらに高カロリーの輸液が可能となりました。カテーテルの清潔維持、電解質や糖代謝異常出現の監視(血液・尿検査)が必要であり、医療管理下で行われます。 小腸機能障害のために長期の中心静脈栄養法が必要で、かつ一般状態が安定し、患者・家族の協力が得られる場合、中心静脈栄養法を在宅で行う方法がとられつつあり、医療保険の適応対象にもなっています。これにより、患者・家族の社会参加を助ける効果も出てきています。輸液のシステムをジャケットやショルダーバッグに装填して移動が可能なものができており、輸液を行いながらの就労も可能となってきました。 (3) 雇用上の注意 @ 高熱環境の職場、肉体労働主体の職場などでは発汗量も多いことから、電解質バランスの異常や脱水状態をきたしやすくなるので、職場としては不適当です。 A 中心静脈栄養法は厳重な医療監視下で行われるべき方法であり、定期的な医療機関の受診は欠かせませんので、定期的通院に配慮が必要です。 (佐久間 肇) 1 電解質:特定の溶媒に溶かしたときに、溶液が電気伝導性をもつようになる物質のことで、体内電解質とは、Na、Cl、K、Ca、Pなどが重要視される。 2 血栓性静脈炎:局所の感染に基づく静脈炎で、局所の静脈の肥厚と血栓の形成をみる。 8 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害 ヒト免疫不全ウイルス(HIV: Human Immunodefi-ciency Virus)は免疫機能を担う白血球を破壊しながら数年〜10数年をかけて増殖し、重篤な免疫不全の原因となります。しかし、1980年代の治療法のなかった時代や、現在でも発展途上国等で治療を受けられない状況とは異なり、わが国では1990年代後半以降、治療法の進歩により感染者でのHIVの増殖を抑えることができるようになり、服薬や通院を続けながら職業生活を送る人が多くなっています。現在では血液中にHIVを検出できない程度に抑える治療も一般的になり、その場合、感染の危険性もほとんどなくなっています。職場での配慮も特に必要でない人も多い一方で、定期的通院の必要や過労等による病状悪化の防止のため、職場の理解が必要であっても、病気への誤解や偏見への心配から、職場に配慮等を申し出にくく、心理的なストレスを抱えている人が多いことも明らかになっています。平成10年からは内部障害に追加され、医療費の自己負担が軽減されるとともに、障害者雇用率制度の対象にもなっています。病気についての正しい理解に基づき、過剰反応することなく、職場の仲間として応援するスタンスが重要です。 (1) HIVの基礎知識 HIVはウイルスですが、インフルエンザ、風邪、下痢等のウイルスとは異なり、普通に生活している同居者にも感染しない非常に感染力が弱いウイルスで、通常の職業生活で感染することはありません。主な感染経路は、「性的感染」、「血液感染」、「母子感染」となっています。HIVは感染者の血液、精液、膣分泌液、母乳に含まれますが、空気中や水中では死滅してしまうため、直接傷口や粘膜に接触しないと感染しません。また、少し触れただけでは感染しません。また、服薬を継続しているHIV陽性者(発症の有無にかかわらずHIV抗体検査が陽性であった人として、このように呼びます。)の血液や体液中のHIV量は検査で検出できる限界未満となっている場合が多く、その場合、感染の危険性はないとされています。 HIV感染についての不合理な「万が一」の心配は、結果として、HIV陽性者の雇用差別につながります。コップの回し飲み、握手、涙・汗、キス、同じ鍋をつつく、風呂やプール、トイレ、せき、くしゃみ、シーツの共有等で感染することはありません。血液感染といっても蚊やダニを介してHIVが感染することはありません。 食品の取り扱い、美容師やマッサージ師など顧客に接触する仕事でも制約はありません。職場の出血事故で直接傷と傷が接触するという稀な事態にも、後述の出血事故への適切な対処によって、感染の可能性を限りなく少なくすることができます。社員寮等の共同生活でも、衛生管理(カミソリ・歯ブラシ等の血液がつきやすいものを共用しない等)や一般的な安全・健康指導で十分です。 (2) HIVによる免疫機能の低下 治療や服薬をしていない状況では、HIVの感染は免疫機能の低下につながります。免疫機能とは一種の「防衛体力」です。空気中、食べ物、様々な物には、細菌、カビ、ウイルス等が多く存在しますが、人々が何の問題もなく生活できるのは、免疫機能がこれらの異物を排除しているからです。HIVは、ヒトの免疫機能の中枢であるヘルパーT細胞(血液中やリンパ節にある白血球の一種)に入り込み、その内部で増殖を続け、これを破壊します。 免疫機能の低下は、ヘルパーT細胞の数(「CD4数」と呼ばれる)の検査の他、日和見感染症(通常の免疫力があれば問題を起こさない非常に弱い病原体による感染症)の発症によっても分かります。 エイズ(AIDS)とは、HIV感染による重度の免疫不全症候群のことを言い、後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome)の略です。通常の免疫力があれば発症することはない特定の疾患が確認された時点でエイズと診断されます。 (3) HIV感染症の治療と障害認定 現在、わが国では、治療を継続することで、免疫機能は障害のない人と変わらないレベルまで回復し、血液中のHIVも検出できない程度に低下している人も多くなってきました。エイズが発症した場合でも1〜2ヶ月の入院後、多くの場合、適切な治療を行うことで職場復帰が可能な例が多くなっています。 障害者手帳の対象となる免疫機能障害は、エイズ発症の有無や、血液検査のデータを含む12の指標項目を総合的に判断して認定され、おおまかに1〜2級がエイズ発症、3〜4級がエイズ発症前の免疫機能低下のレベルに相当します。前述のように、適切な治療により免疫機能は回復しますが、現在HIVを完全に消失させる治療方法はないため、治療を中断するとHIVは再増殖し、免疫機能は低下してしまいます。このため、服薬によって免疫機能が回復している人も障害認定は継続しています。 (4) 服薬・通院について 抗HIV薬は複数の錠剤を組み合わせて、各人の免疫状態やライフスタイルに合ったものが選択されます。かつては複数の錠剤を仕事中にも服薬する必要があるなど負担が大きかったのですが、最近では服薬回数が1日に1回で、仕事中の服薬の必要がない人が多くなっています。また、HIV陽性者自身の健康管理も取り組まれています。通院は、1〜3ヶ月に1回、定期的に必要です。 (5) 雇用上の注意点(合理的配慮を含む) 治療を続けているHIV陽性者では免疫機能の低下もなく特別な配慮を必要としない人も多く、職場の仲間として応援するスタンスが重要です。一方、定期的通院が必要であり体調管理のため職場の理解が必要な場合があります。職場において、同僚の科学的に根拠のない恐怖や誤解、偏見による差別や混乱が生じることを防止するために、本人とのコミュニケーションや、情報管理、啓発に慎重な対応が必要です。また、疾患管理と職業生活の両立の支援、衛生管理や出血事故対処の一般手順に留意します。 @ 定期的通院への配慮や体調管理への応援 1〜3ヶ月に1回の通院は、特に体調に問題がない場合でも、予防的な意義もあり、定期的に必要であり、確実に通院できるように配慮が必要です。また、過労やストレス等は免疫機能の低下につながるため体調管理上の配慮が必要な場合があり、本人からの配慮等の申し出を踏まえ、過剰反応することなく、体調管理を応援するスタンスで配慮等を検討します。 A 差別防止と情報の取り扱い 既述のように、HIVによる免疫機能障害あるいはHIV感染それ自体では、通常、職務遂行のための適性と能力に直接関係しません。労働安全衛生法上の「病者の就業禁止」にはあたりませんし、HIV感染それ自体は解雇の理由に該当しません。HIV感染を本人から告げられた場合に、それで過剰反応を起こすことなく、あくまで本人の適性と能力に焦点をあわせ、病気により不利な扱いをしてはいけません。そのことを明確に本人に示すことで、本人の安心にもつながります。 一般的に採用選考時等に、HIV感染についての情報の収集は行うべきではありません。健康診断も、HIV抗体検査証明が必要な国での勤務といった、合理的・客観的な理由がある場合等を除いて、HIV感染の検査は行わないことが原則であり、また、検査を行う場合には内容と理由を本人に事前に周知すべきです。 人事や産業医、健康保険を扱う部署などからの情報漏洩を不安に思うHIV陽性者が多いことから、個人情報の漏洩による企業リスクを再確認する等、情報管理を適正に行えるよう関係者の意識を高めておく必要があります。本人の意思を確認し、健康管理に関する情報は、産業医等必要最小限の担当者にとどめ、関係者の守秘義務を徹底し、情報がむやみに拡大しないように関係者の秘密保持を徹底します。HIV感染のことを明示することを望まない人もおり、上司等による定期的通院への配慮等については「持病」、「内部障害」とだけ伝える等、プライバシーや人権を最大限尊重します。また、後述の衛生管理や出血事故対策は一般的な手順であるため、職場全体にHIV陽性者がいることを伝える必要はありません(Q&A【問15】(P167)にチャレンジ)。 B 正しい知識の啓発 HIV感染については誤解や偏見が根強いことから、もし上司や同僚に病名を開示する必要があるならば、一般の健康をテーマにした研修等で、HIV感染についての正しい知識を職場に啓発しておくなどの配慮が必要です。開示しない場合でも、できれば一般の健康教育の一環としてHIV感染症の現状についての啓発をしておくことが望まれます。職場には既にHIV陽性者が働いており、職場に相談できなくてストレスを抱えている可能性もありますが、職場の理解促進の取組があることで、そのような人も相談しやすくなります。事前の啓発が行われず、パニック等の過剰反応が起こった場合でも、HIV感染症についての専門家を招いての説明会や質疑応答で沈静化できた例があります。 HIV感染症の治療の状況は近年大きく進歩しているため、最新の情報に基づく啓発が重要です。 C 疾患管理と職業生活の両立の支援 服薬や定期的通院がなされていれば、HIV陽性であること自体が仕事上で問題となることはほとんどありません。HIV陽性者の職場での健康管理や安全配慮に必要なことは、産業医等の専門の担当者が相談や支援にあたることが、情報管理上からも適切です。 一方、職場の理解について、本人の不安が大きいことから、仕事の進め方について上司等が相談に乗る、職場の同僚との親睦等で人間関係を向上させるといった一般的な職場の取組が重要です。また、一般的に、少し疲れた時に休憩でリフレッシュしやすくすることは、HIV陽性者が仕事を安心して続けやすくするのに効果的です。 D 衛生管理や出血事故対処の一般手順 HIVの治療が適切に行われていれば感染のおそれはほとんどなくなっており、職場での対策としては、血液感染症を含む一般の感染症予防についての、職場での一般の安全指導や健康教育の範囲で十分です。また、社員寮等で共同生活をする場合でも同様です。 具体的には、他人の血液や分泌物には直接触れない。これらは石鹸を使って洗い流すか、それができない時はビニール袋等でしっかり包んでゴミに出す。出血はなるべく本人が自分で処置する。カミソリ、歯ブラシ、タオル等の血液のつきやすい日用品は他の人と共有しない。傷の応急処置を他人がする必要がある場合には、ゴム手袋を着用し、血液等に触れたらすぐに石鹸を使って流水で洗い流す。傷口等の接触に備え人工呼吸ではハンカチ等をはさむ等を注意するなどです。これらは、当然、HIV陽性者自身も自覚をもって行います。 なお、以上のような配慮を行った上でも、例えば治療が適切に行われていないHIV陽性者が出血して意識を失い、他者が傷を負った手で誤って血液に触れてしまった等、感染の危険性が生じる事態は想定可能です。その場合は、迅速に医療機関を受診します。HIVは感染力が弱く、さらに服薬継続中であればHIVウイルス量は低くなっており、必ずしも感染が成立するわけではないので冷静な対応が大切です。医療機関における暴露事故などでは感染防止のために、速やかな抗HIV薬の服薬が勧められています。 【参考文献】 1)独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構:「障害者雇用マニュアル102 HIVによる免疫機能障害者の雇用促進」(2010) 9 肝臓機能障害 肝臓は人体最大の臓器で「体内の化学工場」とも呼ばれ、栄養素の分解や生合成、人体の害となる物質の解毒等の重要な役割を担っています。様々な原因で肝臓機能が永続的に著しく低下すると倦怠感や易疲労感等の症状が強くなり、さらに進行すると延命のために肝臓移植が必要となります。現在、わが国では年間400名程度が肝臓移植を受け、成功率も高くなっています。平成22年4月から、このような肝臓機能障害が、内部障害に追加され、肝臓移植や移植後の医療費の自己負担が軽減されるとともに、身体障害者手帳の交付を受けた者については障害者雇用率制度の対象となっています。通院等をしながらの無理のない職業生活や、肝臓移植の前後にわたる就業継続のために、職場での理解や配慮等が必要です。 (1) 肝臓機能とは 肝臓は500種類以上の生化学反応を同時並行で行っていますが、主な機能として、代謝、解毒作用、胆汁分泌があります。人体に必要な糖、脂肪・タンパク質等のほとんどは肝臓で合成されています。また、血液中のアルコールやアンモニア、薬物、ウイルスや毒素等は肝臓において、解毒されたり分解されたりします。さらに、古くなった赤血球を材料にして胆汁を作り腸に送り出しています。 肝臓機能が低下すると、必要なエネルギーや栄養の不足や血液中の成分の変化により、倦怠感や疲れやすさ、腹水、血液凝固の低下等が起こったり、解毒作用の低下によって、例えばアンモニアが脳に運ばれて意識障害を引き起こしたり、胆汁分泌が減ると古い赤血球の一部(ビリルビン)が血液中に増加し黄疸を引き起こしたりと、様々な症状が表れます。 ただし、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ多少の障害では症状が表れません。また機能回復しやすい丈夫な臓器です。肝炎ウイルスによる肝炎も自然に治癒したり、最新の治療による治癒が増えています。アルコール性の肝障害も禁酒によって多くは回復します。 様々な肝臓の病気によって、肝細胞の壊死と再生を繰り返すと、肝臓は線維化して硬くなり、再生能力も失い肝硬変という最終的な状態になります。しかし、その初期には、「だるい(倦怠感)」、「つかれやすい(易疲労性)」といった程度の症状しか表れません。これは、肝臓機能が低下しても、筋肉による代謝機能や、腎臓による毒物の排泄機能等によって代償されているからです(この時期を「代償期」といいます)。現在では、検査や治療法の進歩等により、10〜20年を代償期のまま安定して過ごせる人もまれではなくなっています。 (2) 肝臓機能障害の状態像 肝臓機能障害として障害認定されるのは、原則的には、肝硬変が進行して全身倦怠感や易疲労感等の症状が強く出てきた人や、肝不全1で延命や抜本的な機能改善のために肝臓移植が必要となった人たちです。先天性の場合もあり、成人後の様々な病気の結果の場合もあります。慢性肝炎等の長期の経過で肝不全になる場合もあれば、急性肝炎で肝不全となることもあります。 肝臓移植が成功すれば、肝臓機能は通常レベルに回復します。しかし、移植された肝臓が安定して機能し続けるためには、拒絶反応(移植された臓器を異物として排除しようとする免疫反応)を抑えるための免疫抑制剤を生涯服用する必要があり、また、感染症や病気の再発等の予防のために定期的な外来受診が必要です。このような人たちも、肝臓機能障害として認定されます。 (3) 肝硬変の管理 肝硬変であっても、安定した代償期で、自覚症状がなければ普通に仕事ができますが、肝臓機能の悪化を防ぐために、重労働や出張、残業等が制限されます。また、食後は横になって休憩することで肝臓への血流を増やすことが望まれます。また、禁酒は絶対です。肝臓機能障害は自覚症状が表れにくいため、仕事で無理をして、状態を悪化させることがあるので、本人の自己管理とともに、周囲の理解と配慮も大切です。 倦怠感、易疲労性が強くなり、腹水や黄疸等の症状がでてくると、定期的な検査や治療を受けながら、肝臓移植の待機となります。 (4) 肝臓移植 現在、わが国では年間300〜400名程度が、肝臓移植を受けています。わが国では、生体肝移植といって、近親者等から肝臓の一部を移植する方法が多くなっています2。 肝臓機能の検査結果によって、肝臓移植が決まっても、すぐに移植手術が受けられるわけではなく、数ヶ月〜数年、検査や治療を受けながら通院または入院で待機します。 一般的に手術予定日の1〜2週間前に入院し、手術後1〜2ヶ月で退院となり、退院後2ヶ月程度は1週間毎の受診、その後は状態の安定を見ながら月1回程度の受診まで間隔を延ばしていきます。仕事への復帰は人によって異なりますが、手術後、半年前後が多いようです。 移植された肝臓の拒絶反応を防ぐために、免疫抑制剤を継続的に服用する必要があります。免疫が抑制されると感染症を起こしやすくなりますが、抗生物質や抗ウイルス薬を服用することで予防や治療ができます。 (5) 原因疾患について 肝臓機能障害の原因は、ウイルスやアルコールによる肝炎が肝硬変や肝がんに進行したもの、薬物によるもの、自己免疫によるものなど多様です。治療や通院の必要性はこれらによっても異なります。ウイルス性肝炎は血液の直接接触でしか感染せず、普通の職業生活や一般的な出血事故への対応や衛生管理ができている職場で他者に感染することはありません。 (6) 雇用上の注意(合理的配慮を含む) @ 本人の話もよく聞きながら、産業医等の専門職により、仕事内容の検討や、治療と仕事の両立を支えるための検討ができるようにします。本人のプライバシーや人権を守るためにも、必要以上に障害や病気のことを社内に広げることは好ましくありません。  具体的には、重労働や過労を避ける必要があります。また、食後には横になって休憩できるようにします。肝臓移植後の免疫抑制剤によって感染症にかかりやすくなるので、職場での手洗い等の健康行動に気をつけるようにします。 A 個々の仕事の内容や進め方については、一方的な業務や職域の制限ではなく、上司や同僚が本人が仕事をしやすいように相談に乗るようにし、積極的に業務改善への意見を本人に求める等の取組が大切です。 B また、雇用していた人が中途で肝臓機能障害者となった場合、肝硬変の時期や肝臓移植の前後の1年〜数年間の通院や入院への配慮によって、就業継続を支えることができます。 C 通院が気兼ねなくできるようにします。特に症状がなく、安定して就業している時期でも、検査や薬の調整のため、月1回程度の通院が必要です。肝臓機能障害は症状が表れにくいため、少しでもおかしいと思った時に病院に行けるようにします。 D 血液感染であるウイルス性肝炎がある場合、通常の職業生活では感染することはないため過剰反応を起こすことなく、他者の血液に直接触れない、カミソリ等の共用は行わない等、一般的な出血事故や衛生管理への対応を確認します。 (春名 由一郎) ◇ 内部障害者の雇用事例(サービス業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 特例子会社の設立にあたって、免疫機能障害者を採用することとした。障害に対する正しい理解が、全ての社員が安心して働くために必要と考えた社長の呼びかけにより、免疫機能障害のある社員、ハローワークの雇用指導官や医療機関担当者が講師となり、経営層および社員向けの勉強会を実施した。社員の正しい理解が促進され、免疫機能障害のある社員の能力発揮や雇用の拡大につながった。また、安定した就労のためには定期通院が必要不可欠であることから、有給休暇に加え、通院休暇制度を創設したほか、障害者職業生活相談員による定期面談を行い、働きやすい環境を整備した。 1 肝臓機能がほぼ完全に失われた状態。 2 世界的に見ると脳死の臓器提供者からの移植が多くなっています。我が国でも2010年の法改正により脳死移植例が増えています。 Q&A【問13】 身体障害者福祉法において内部障害として規程されているのは、5つの障害である。 Q&A【問14】 腎臓機能障害者の健康維持にとって安静が重要であるので、休憩時間もベッド等で横になって過ごせる環境整備が必須である。 Q&A【問15】 免疫機能障害者の受け入れにあたり、本人の意思を確認した上で、上司等へは内部障害があることや必要な配慮を説明したが、具体的な病名は説明しなかった。 (いずれも解答と解説はP290に記載しています。) 第5節 知的障害者 1 知的障害者とは (1) 知的障害の概要 @ 知的障害の定義と障害特性 知的障害の定義については様々ありますが、知的障害者福祉法においてその定義は規定されていません。厚生労働省が行った「知的障害児・者基礎調査」(2000)では、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障を生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義されています。 知的障害者の障害特性として、人により個人差はありますが一般的に次のことが指摘されています。 〇読み書き・計算など言語能力や数処理能力、抽象的な概念の理解が苦手である 〇金銭管理、移動などの日常生活面や社会生活能力面に支障がある 〇意思疎通能力や対人関係などのコミュニケーション面が未熟である 〇新しい環境に適応することや、学習することに時間がかかる等 A 主な発生原因 知的障害の原因については、先天性の遺伝子・染色体異常、胎児期のアルコール・薬物等による影響、周産期の酸欠状態による脳の損傷、出産後の脳炎や脳の打撲による脳損傷などさまざまですが、原因不明のことが多いようです。 (2) 知的障害の確認と療育手帳 知的障害者の確認については、原則として療育手帳によって行われ、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター等での判定に基づき都道府県や政令指定都市から手帳が交付されます。 障害区分の判定基準については、主に知能検査による知能指数(IQ)によりますが、その他身体障害等の重複状況や社会生活能力などを総合的に勘案して判断します。 療育手帳の障害区分は、国の指針ではA(重度)、B(その他)の大きく2つに分けられていますが、自治体によってその障害区分の表記方法は異なります。例として、A1(最重度)、A2(重度)、B1(中度)、B2(軽度)、(東京都の場合は1度(最重度)〜4度(軽度))など、概ね4段階に細分化されています。また、療育手帳の名称も「愛の手帳(東京都)」、「みどりの手帳(埼玉県)」と呼ばれている自治体もあり、各自治体の裁量に委ねられています。 表1は、療育手帳の知能指数(IQ)による障害の程度の判定基準の例です。 表1 療育手帳の知能指数(IQ)による判定基準の例 障害の程度 基準例 A1 最重度 IQ20以下 A2 重度 IQ35以下IQ21以上 B1 中度 IQ50以下IQ36以上 B2 軽度 IQ51以上IQ70以下 (3) 知的障害者数 知的障害者数については、「令和5年版障害者白書」(内閣府)によると、知的障害児・者の在宅者数が96万2千人、施設入所者数が13万2千人で、合計109万4千人となっています。ただ、この数は主に療育手帳を申請し、取得している人であり、支援の必要性のない人、障害者としての位置づけを避けたい人など、手帳を申請していない人も多くいることが推測されます。 また、「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」(厚生労働省)では、在宅者数を年齢別にみると18歳未満の知的障害児が約21万4千人(22.2%)、18歳以上の知的障害者が約72万9千人(75.8%)です。また、障害程度をみると在宅の知的障害児・者のうち、「最重度・重度」が37万3千人(38.8%)、「中度・軽度」が55万5千人(57.7%)、不詳が3万4千人(3.5%)となっています。 2 知的障害者の雇用の現状 (1) 知的障害者の雇用状況 厚生労働省の調査(「平成30年度障害者雇用実態調査」)では、5人以上の常用労働者を雇用している事業所において雇用されている知的障害者は約18万9,000人と推定され、前回の調査と比べ大きく増加しています。 知的障害者の程度別の雇用状況では、重度が17.5%、重度以外が74.3%、不明等が8.2%でした。 厚生労働省「令和4年度 障害者の職業紹介状況等」から、令和3年度に就職した知的障害者は20,573件(前年度比3.1%増)であり、うち重度は3,210件(重度の割合は15.6%)となっています。 また、厚生労働省の「令和5年障害者雇用状況の集計結果」によると、43.5人以上の常用労働者を雇用している民間企業における障害別の雇用状況は、身体障害者が56.1%、知的障害者が23.6%、精神障害者が20.3%となっています。 さらに、同調査から知的障害者の企業規模別の雇用状況をみると、「43.5〜100人未満」11.1%、「100〜300人未満」18.0%、「300〜500人未満」7.9%、「500〜1000人未満」10.3%、「1000人以上」52.6%となっていて、1000人以上の大企業で働く知的障害者が半数以上を占めていることがわかります。 (2) 就職先の業種・職種の傾向 厚生労働省「令和4年度 障害者の職業紹介状況等」の調査から、知的障害者の産業別の就職状況では、医療、福祉(36.0%)が最も多く、サービス業関連(20.2 %)、製造業(16.1%)、卸売業、小売業(15.0%)と続いています。また、職業別の就職状況でみると、運輸・清掃・包装等の職業(45.6%)がほぼ半数を占め、生産工程の職業(15.4%)、サービスの職業(14.3%)、事務的職業(10.0%)、販売の職業(6.4%)となっています。 これまで、知的障害者が雇用される職種としては、その障害特性から製造補助作業、清掃業、クリーニング業などの製造業を中心とした簡易な定型作業に偏っていました。ただ、近年はパソコンを活用したデータ入力・書類作成等の事務補助作業、デイサービス等の福祉分野での介護補助、ホテル等のサービス業での軽作業、農業分野での定型作業など、従来知的障害者の就職が少なかった職域への進出が報告されていて、各企業の取組みの工夫によりさらなる知的障害者の職域の拡大が期待されます。 3 知的障害者の雇用のポイント 雇用した知的障害者がその能力を十分に発揮できるようになれば、企業にとって大きな戦力となります。知的障害者の雇用管理のポイントについて考えてみます。 (1) 雇用管理面のポイント @ 障害特性の理解と社内の合意形成 ひと口に知的障害者といっても、その能力や適性、興味、体力などは異なり人によりさまざまです。IQの数値だけにとらわれることなく、1人ひとりの特性を理解することが大切です。特性に合わせた職務内容や職場環境を設定することにより、能力が十分に発揮され企業にとって戦力となります。 採用に当たっては、従業員、特に配置部署のスタッフに対して、企業として障害者雇用の意義や取組み方針について事前に社内研修等を通して理解と協力を得るなど、社内の合意形成が必要です。企業全体が障害者に対して共通認識を持ち、統一した対応や支援を行うことにより知的障害者が安心して働く環境をつくることができます。 A 専任担当者(キーパーソン)の配置 知的障害者の場合、慣れない場所や新たな環境では不安や緊張が強く、適応するまでに時間がかかります。また、複数の人から仕事の指示や説明を受けると混乱してしまうことがあります。このため専任の担当者(キーパーソン)を決めて、指示系統を一本化することが必要です。ただ、いったん作業内容や手順を理解すると、適性が合えば簡易作業以外でも正確に、淡々とこなすことができます。 職務以外の生活面の課題についても、キーパーソンが中心となり家庭等との協力のもと早期に対応することが大切です。 B 職務内容の検討 知的障害者の場合、適職の見極めが難しいことから、配置する職務内容については試行錯誤を繰り返しながら検討していく必要があります。採用前から本人に関わってきた支援機関などからの情報やアドバイスを得ることも大切なことです。職務内容の検討の際には、作業そのものだけではなく、作業を行う場所、一緒に働く同僚などの職場環境についても併せて検討する必要があります。 また、採用当初には必要に応じて職場適応援助者(ジョブコーチ)も活用しながら職務内容について検討することが、本人の能力を長期的に最大限伸ばしていくことになります。 C 作業指示の方法と就労支援機器の活用 知的障害者に指示を出す際には、その障害特性に配慮し、言葉による説明だけではなく対象者の理解力に合わせた指示の出し方が必要となり、仕事内容は全体を小さな作業単位で切り分けて手順を説明することも大切です。具体的には、まず指示者が実際にやってみせる、次に本人と一緒にやってみる、そして一人でやらせて確認する、といった手順を理解するまで時間はかかりますが、くり返し根気よく進めていきます。そして、上手くできた時には褒めることが本人にとって大きな自信となり、就労意欲や作業能力の向上にもつながります。 その際、作業手順の理解を高めるために、文字に替えて図や写真、イラストを使ったマニュアルの作成は効果的です。言葉を通しての理解は苦手でも、視覚に訴えた図や絵による指示や説明で理解が早まります。また、目盛りの読み取りなど数量の操作についても、決められた量や長さにテープで印をつけるなどの工夫を行うことにより苦手を克服することができます。 さらに、知的障害者に対する就労支援機器として、抽象的な時間の概念を単純化・視覚化するタイムエイドを活用したり、周囲の音に敏感に反応する自閉症等の聴覚過敏に対してはイヤマフの使用が効果的です。 D 安全への配慮 働く環境の中には、取り扱いに注意が必要な機械や薬品、危険な場所等が存在することがあります。知的障害者は事前に危険を察知し、避けることが不得手です。こうした場所を改善したり、回避の対応方法、緊急時の避難方法など事前に安全確保のための教育・訓練を徹底する必要があります。 特にてんかんを重複している知的障害者に対しては、高所での作業や危険物の周囲での作業を避けるなど、発作を想定した対応を確認しておくことが大切です。 (2) 雇用継続のポイント 知的障害者について安定した雇用を継続していくためのポイントをまとめてみます。 @ 風通しの良い職場にする 知的障害者は意思表示が苦手であることから、仕事や人間関係、職場環境に対する不満や悩みがあっても自分から相談することは不得手なことが多く、職場内で孤立してしまいがちです。このため、キーパーソンを中心に周囲から日常的に声かけをしたり、職場内で定期的な話し合いの時間をつくることが大切になります。 知的障害者の受け入れ態勢などについて、社内で十分な話し合いを行い改善していくことが、結果的に障害のない社員にとっても働きやすい職場環境となります。 A 企業だけで抱え込まない 知的障害者が職場内で不適応などの課題が生じた場合には、企業だけで課題を解決するには限界があります。知的障害者が就職するまでには、特別支援学校、就労支援などの福祉施設、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなど、地域の支援機関との関わりがあることが多く、企業はこうした就労支援のノウハウを熟知した支援機関と連携しながら課題解決を図っていくことが効果的です。 本人にとっても、以前関わりのあった支援機関とは信頼関係ができていることが多く、安心して相談や支援を受けることができます。こうした地域の社会資源を大いに活用してください。 B 職場実習を通してミスマッチをなくす 知的障害者の採用に際しては、当人の特性と職務内容や職場環境とのマッチングを十分に考慮することが必要です。ミスマッチを防ぐためには、面接だけではなく、職場体験を通して見極めていくのが有効な方法です。実際に働く職場環境の中で、作業態度、作業遂行力、意欲、対人態度などを長期間にわたり観察・評価することになります。実習を行う側も、自己の適性を確認し、就職に対する不安を取り除く機会になります。 ハローワークが実施する職場実習である障害者トライアル雇用制度の実施期間は最長3か月間ですが、特別支援学校や就労支援機関が行う職場実習は1週間から数週間程度が多いようです。 このように採用前の段階で障害者の適性や能力をじっくりと見極め、企業側と障害者側がともに納得した上での雇用が、その後の安定した雇用継続の大きなポイントとなります。 C 生活面の配慮と家庭との連携 知的障害者の場合、職場における指示理解や職務の遂行能力は比較的高くても、身辺処理や社会生活面が未熟なことがあります。就労を継続していくためには、挨拶、返事、報告などの社会人としての基本的なマナーや金銭管理、健康管理などの基本的労働習慣を身につける必要があります。職場内ではこうした生活面の指導は障害者職業生活相談員をはじめとした企業内のキーパーソンが中心となりますが、必要に応じて外部の職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用の検討も必要となります。 また、遅刻や無断欠勤、体調不良等の本人の変化を早期に察知し対応するためにも、家庭との連絡を密にすることが長期の継続雇用に不可欠です。 4 知的障害者雇用の課題と取り組み (1) 企業における課題 大企業の障害者雇用においては、特例子会社制度の活用を中心に知的障害者の雇用を伸ばし成果を上げてきました。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の「多様化する特例子会社の経営・雇用管理の現状及び課題の把握・分析に関する調査」(2012)から、知的障害者を多く雇用する特例子会社の課題としては、「職域の拡大」、「作業能力の向上」、「本人の健康状態」等があげられています。今後は、さらなる障害者法定雇用率の引き上げに伴う障害者雇用の促進とあわせて、上記の課題の解決が必要となります。加えて、雇用管理や能力開発面の支援が整備され、柔軟な勤務体制が可能である等、大企業ならではのメリットを活用しながら、障害者の働く「質」の向上を目指していく取組みが求められます。 また、中小企業については、大企業に比べて障害者雇用率が低調であることから、知的障害者雇用を進めるためには、実習制度や職場適応援助者(ジョブコーチ)など地域の就労支援機関との連携・協力を最大限活用することが必要と思われます。採用までの意思決定や受け入れ態勢の整備など、大企業とは異なるきめ細かな小回りが利くメリットを活かして、それぞれの企業にあった人材の採用を積極的に進めていくことが期待されます。 (2) 定着支援の強化と就労支援機関との連携 前述のとおり、近年知的障害者だけではなく、障害者全体の雇用者数が大企業を中心に年々増加しています。反面、採用後に短期間で離職する障害者も多く存在し、その対策が課題となっています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017)によると、一般企業における知的障害者の職場定着率は、3か月の時点では85.3%で、1年の時点では68.0%と大きく低下しています。 3か月未満で離職した知的障害者の具体的な離職理由として、「業務遂行上の課題あり」(21.9%)が最も多く、「労働条件があわない」(15.1%)、「人間関係の悪化」(9.6%)、「障害・病気のため」(8.2%)と続いています。 また、3か月以降1年未満の具体的な離職理由として、「人間関係の悪化」(16.3%)が最も多く、「障害・病気のため」(12.8%)、「基本的労働習慣に課題あり」(10.5%)、「業務遂行上の課題あり」(9.3%)となっています。 全体的に離職の理由として「業務遂行上の課題あり」、「人間関係の悪化」の割合が高いことがわかります。 こうした離職理由の課題に対応するためには、企業独自の取り組みだけでは十分な対応が難しく、問題が大きくなる前の早い段階で地域の就労支援機関との連携・協力が不可欠です。 地域障害者職業センターでは、離職の主な理由となっている作業遂行力、人間関係をはじめとした基本的な労働習慣等の向上を目指した職業準備支援を行っています。さらに、企業に職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣し、職場内で発生する様々な課題に対して支援を行っています。 また、障害者就業・生活支援センターでは、日中の就業面の支援とあわせて、生活面における支援を、地域の関係機関と連携しながら行っています。こうした支援サービスを効果的に活用したいものです。 (3) 雇用後のキャリアアップ 一般の従業員と同様に、知的障害者の場合も昇進や昇格といったキャリアアップが大きな自信となり、それを契機に人間的に成長していきます。与えられた職務が問題なくこなせて、安心して任せられるようになったら、職務上の役割やポストを与えていくようにします。例えば、新たに雇用された知的障害者の指導担当に当たらせることが、責任感を養い、社員としての意識を高めることになります。また、キャリアアップを果たした身近な人の存在が、他の知的障害者の目標やモデルとなり、意欲的に仕事に取り組むきっかけになります。 企業がこうしたキャリアアップを積極的に考えることは、人材育成に加えて、知的障害者の職場定着を高めることになり、さらには、企業全体の活性化につながる効果が期待されます。 (川村 宣輝) 【参考文献】 1)内閣府:「令和5年版 障害者白書」 2)厚生労働省:「平成30年度障害者雇用実態調査」 3)厚生労働省:「令和5年障害者雇用状況の集計結果」 4)厚生労働省:「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」 5)厚生労働省:「令和4年度 障害者の職業紹介状況等」 6)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:「知的障害者の職場定着推進マニュアル(改訂版)」(2015) 7)社団法人日本知的障害者福祉連盟:「就労支援担当者の業務マニュアルQ&A」(2002) 8)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017) 9)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:「多様化する特例子会社の経営・雇用管理の現状及び課題の把握・分析に関する調査」(2012) ◇ 知的障害者の雇用事例(製造業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 特別支援学校から新卒者2人を採用したものの、これまで障害のない社員が行ってきた「作業説明を聞いて記憶し、取り組む」方法では複雑で理解に時間がかかる、結果の良し悪しの判断が難しいという課題があった。そこで写真入りの作業手順書を作成したほか、梱包する部品の取り間違いを防ぐバーコード照合の導入や異常をすぐに報告できる呼び出しベルの設置など「誰でも簡単にできる化」を進めたところ、作業は上達し、品質の安定につながった。 第6節 精神障害者 1 精神障害とは (1) 精神障害の定義 精神障害者については、統合失調症、気分(感情)障害などに代表されるような精神疾患に罹っている人、または精神疾患が原因となって生活のしづらさを抱えている人という理解が一般的です。しかし、法律によって精神障害者の定義が少しずつ違っており、それがわかりづらさの要因となっています。 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下「精神保健福祉法」という。)は医学的観点で精神障害者を定義しており、精神障害者を、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定義づけています。精神作用物質による急性中毒又はその依存症とは、アルコール依存症、および覚醒剤や麻薬などの薬物依存症などをさします。この定義だと、精神疾患に罹って、医療機関で診断を受けた人はすべて精神障害者ということになります。国際疾病分類(ICD-10)によると、「精神および行動の障害」の分類の中に、認知症、脳血管障害や脳挫傷等による高次脳機能障害、発達障害も精神障害に含まれています。このように、医学的観点からみると、精神疾患の概念は非常に広いものとなっていることがわかります。 「障害者基本法」の定義では精神障害に発達障害が含まれており、さらに、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものとされています。つまり、精神疾患だけでなく発達障害も含むことが法律に明記され、疾患があるだけでは障害者とはいえず、日常生活又は社会生活を送る上で相当な制限を受ける状態でなければならないと定義されているのです。このように、生活の観点で精神障害を定義しています。 「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」という。)では、精神障害(発達障害を含む)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者と定義されています。そして、同法施行規則では精神障害について定義しており、「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けている者、または、受けていない場合は、「統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)、又はてんかんにかかっている者」であって、「症状が安定し、就労が可能な状態にあるもの」となっています。つまり、職業生活の観点から障害を定義しているといえます。 さらに付け加えると、障害者雇用率に算定できる精神障害者を「精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているもの」に限定しています。このことから、雇用支援策の対象となる精神障害者の範囲と、障害者雇用率の対象となる精神障害者の範囲が違っています。このことは留意しておく必要があるでしょう。 さて、私たちが理解している精神障害者像ですが、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者となると、精神疾患、てんかん、発達障害、高次脳機能障害、認知症などが原因で職業生活を送る上で長期にわたって特別な援助が必要な者ということになります。知的障害も原因の一つに入りますが、療育手帳の交付を受ける場合が多いので、実質的にははずして構わないといえます。本項では、これらを精神障害者と位置づけて進めることとします。なお、発達障害、高次脳機能障害(認知症含む)については別に項目を設け(本章第7節、第8節の2)、詳細に解説してありますので、そちらも参照して下さい。 (2) 精神障害者の状況 精神障害者の状況を示す資料ですが、医療機関にかかっている精神疾患患者と、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者の2つが考えられます。 令和2(2020)年の患者調査によると、精神疾患の患者数は推計で614万8千人となっています。内訳は、多い順で、うつ病などの気分障害(172.1万人)、不安障害など(124.3万人)、統合失調症など(88.0万人)、認知症(アルツハイマー病)(79.4万人)、てんかん(42.0万人)、認知症(血管性など)(21.1万人)、アルコール依存症など(9.0万人)となっています。高次脳機能障害は認知症(血管性など)に、発達障害はうつ病や不安障害などを中心としてそれぞれに分布していると考えられます。また、高次脳機能障害は、精神疾患として分類されていない可能性も多分にあります。 病院報告によると、精神科における精神疾患の入院患者数はゆるやかに減少しており、令和4(2022)年では26.6千人となっています。また退院患者の平均在院日数は276.7日となり、こちらも若干減少していましたが、新型コロナ感染拡大とともに若干増加しました。 精神障害者保健福祉手帳について見てみましょう。令和4(2022)年度保健・衛生行政業務報告(衛生行政報告例)によると、年度末に精神障害者保健福祉手帳が交付されている精神障害者(交付台帳登載数)は全国で134万5,468人となっています。この中には、入院中や症状または障害が重く、働くことが困難な者や働くことを希望しない者も含まれています。なお、この数は毎年5−8万人ずつ増加しています。 以上の統計資料からみて、精神疾患に罹っていて治療を受けている人が約600万人、発達障害や高次脳機能障害など精神科医療機関で治療を受けていない人も含めて、長期にわたり日常生活および社会生活に制限がある人が約130万人という状況がイメージできます。 (3) 精神障害の特徴 精神障害者は、障害者としてさまざまな雇用・福祉の対象となることが、身体及び知的障害者と比べて大きく遅れました。しかし現在は、雇用においても福祉においてもほとんど制度上の格差がなくなりました。その上で、精神障害者の特徴について概観します。 @ 脳機能の障害であるために障害が見えにくい  精神疾患、てんかん、発達障害、高次脳機能障害、認知症などは脳神経の機能に異常が出るという障害です。そのため、肢体不自由および視覚障害のように外見で障害があることを判断することはできません。相手が話した言葉の本当の意味や相手の気持ちを理解したり、自分の周りで起こっている状況を察知するなど、認知機能を発揮しなければならなくなったときにはじめて障害が見えてきます。また、過剰なストレスに遭って混乱したときにはじめて障害がみえてくるのです。  全般的な知的能力に障害がなく、認知機能に障害があるということの理解は、一般市民や企業関係者はなかなかわかりにくく、それがさらに障害の理解を難しくしているといえます。 A 脳機能の障害であるために自分自身で障害を把握しにくい  自分自身に障害があるかどうかの判断・理解は自分の脳が行います。例えば、足に障害があれば、外見や動作から自分の脳が自己の障害を認識します。このように、脳というのは重要な機能ですが、その障害の有無を認識する脳の機能に障害があったらどうでしょうか。障害がなくても、自分の性格や考え方のクセは自分自身ではわかりにくいはずです。脳機能に障害があるということは、それ以上に自分自身で把握しにくいのです。 B 中途の障害が多い  発達障害や多くのてんかんを除くと、多くの精神障害は中途の障害です。それも多くは青年期以降の発症です。そのため、障害を受ける前の自分自身のイメージが残っており、障害をもってしまった今の自分自身をなかなか受け入れることができません。  また、それまでの生活が一変し、新たな人生を再構築していかなければなりません。その精神的な負担は相当なものであるといえます。その他、仕事、収入、社会的地位と自尊感情、家族の役割変更などが激変することも多々あります。このように、心理面も含めて多様な援助が必要とされます。 C 要因となる疾患が多様である  精神障害には、統合失調症、気分(感情)障害、不安障害、依存症などの精神疾患、発達障害、高次脳機能障害、認知症、てんかんなど、要因となる疾患等が非常に多様です。以前は、精神障害といえば統合失調症のことを指していました。しかし、その後にうつ病などの気分(感情)障害が精神疾患の多くを占め、さらに、うつ病の疾患像も様相が大きく変わりつつあります。それに加えて発達障害が大きくクローズアップされてきました。  そこからいえることは、障害のある個人によって障害となる部分が違うことです。このことから、支援を行う際には個別性がかなり重視されます。“精神障害者の就労支援”と考えるのではなく、“精神障害があるこの人の就労支援”というように考えて支援することが求められます。 D 精神疾患に対する根強い偏見が残っている  一般市民が受け止めている伝統的な精神障害者像としては、統合失調症に罹っている人があげられます。わが国の精神障害者支援策は統合失調症患者を中心に考えられてきました。そして、1980年代後半までは、精神障害者は医療の対象とされ、福祉や雇用の支援対象とはなっていませんでした。医療は入院中心の治療であり、退院もあまりなかったため、一般市民が地域で暮らす精神障害者と会ったり交流したりする経験もありませんでした。また、その頃のマスコミ報道も、重大事件と精神障害者を関連づけるようなされ方が多かったといえます。これらのことから、一般市民は“精神障害者を知らない”ことから偏見が起こったと考えられます。精神障害者の社会復帰施設や医療施設などの建設の際には周辺住民の反対運動が各地で起こっていたこともありました。  しかし、うつ病が増加したことから、身近な人が精神疾患に罹ることも多くなり、少しずつ偏見は薄まってきたと感じられますが、障害がわかりにくいこともあり、まだ依然として残っているといえるでしょう。このことは、精神障害者自身の内なる偏見を生み出し、彼らが障害や疾患を受け入れて、前向きに治療やリハビリテーションに取り組むことの支障にもなっています。 E 疾病と障害が併存していることが多い  精神障害者の多くは、精神科医療を継続しています。そのことから、医療的な面から見た“疾病”の側面と、生活面から見た“障害”の双方を併せもっているといえます。そして、疾病が悪化すると障害が重くなり、疾病が回復していくと障害が軽くなるというように、相互に影響を与え合うという特徴があります。  このことから、職業生活の支援を行う際にも、医療機関との連携は欠かせません。疾病と障害の影響や相互作用を良い循環にしていくような支援が理想的です。 F 共通した障害  精神障害は多様な疾患や脳機能の障害によって引き起こされることはすでに述べました。しかし、すべての精神障害者が必ず抱えているわけではありませんが、共通した主たる障害がみられることも事実です。特に障害としてあげられるのが、「認知機能の障害」と「自信と自尊感情の低下」です。以下にこの2点について述べます。 ア 認知機能の障害  知的障害と違い、発達期に脳の全般的な機能に障害を受けているわけではありません。目の前で起こっている場面の状況を把握し理解すること、投げかけられた言葉の裏に潜む意味を理解すること、あいまいな状況を理解することなど、脳の受信機能に障害があることが多いようです。そして、過去に見たり聞いたり体験した知識と受信した情報とを照合し、適切な言動を選択決定するという処理機能にも障害があることが多いようです。最後に、決定した言動を適切に相手に伝えたり表出する機能にも障害があることが多いようです。これら一連の流れを認知行動といいます。この機能に障害が出ます。そのため、言葉の理解力や記憶力に障害がなくても、コミュニケーションなどの対人技能、場に適した行動などに支障を来します。  さらに、1つひとつの具体的な作業や行動はできるが、それらを組み合わせてまとまりのある一つの作業や行動を行うことにも支障を来します。例えば、食材を包丁で切る、鍋で茹でる、フライパンで食材を炒めるなどの部分的な作業はできても、全体を調整して“美味しいカレーを作る”となると困難となってしまうなどです。  このような認知機能の障害は知的障害でも起こります。しかし、知的障害の場合は全体の知的能力に障害が出るため、周りもそれを理解し、受容する場合が多いでしょう。精神障害のように部分的な能力に障害がある場合は、周りはなかなか理解し受容できず、“怠けている”“意欲がない”と捉えられてしまい、さらに対人関係に支障を来してしまいます。 イ 自信と自尊感情の低下によるさまざまな影響  精神障害の多くは中途障害であることから、障害を受ける前の自分と比較して、能力の低下を身にしみて感じることになります。また、発達障害など先天的な障害も含めて障害を受けたことによる多くの失敗経験、療養生活や庇護的な生活を送る中で長期にわたり指示をされる生活、周りの無理解や偏見、周囲が再発を心配してチャレンジさせてもらえないことなどから、自信と自尊感情が大きく低下してしまいます。  自信や自尊感情が低下すると、本来ならできる能力があっても力を発揮できなくなってしまいます。それが周りの評価をさらに下げ、自信と自尊感情がさらに低下するという悪循環に陥っている場合が多く見られます。  これは私たちでも起こりうることです。「練習ではできるのに本番ではできない」「カラオケボックスでは歌えるのに、多くの人が行き交う駅前では歌えない」などがそうですね。  ただし、認知機能に大きな障害があるため、様々な失敗経験などをしても、それをなかなか認知できず、自信と自尊感情が低下していない精神障害者もいます。  以上2点について述べましたが、これらの障害を改善・軽減させるためには、服薬治療以外に、リハビリテーションによる精神機能の回復、職業的諸技能の(再)獲得等の学習、環境調整による支援、心理的サポート、各種援助制度の整備など、総合的な取組みが必要です(Q&A【問16】(P182)にチャレンジ)。 (4) 代表的な精神障害の特徴 @ うつ病などの気分(感情)障害  典型的なものでは、気分がひどく落ち込み、ゆううつとなるうつ状態と、気分が高揚して異常に活発となるそう状態があり、それが思考、行動などに障害が生じるものです。うつ状態とそう状態のどちらか1つであったり、双方を繰り返す(双極性感情障害)などの場合があります。どちらにしろ、その時期以外はほぼ正常状態に戻ります。  うつ状態にあるときは、うつ気分となり、活動意欲も低下し、集中力がなくなって仕事も休みがちになります。また、自責感や罪悪感、不安感が強くなるなど、職業生活にも支障を来します。その他、不眠、食欲低下、頭痛、胃痛、全身の倦怠感など、身体的な症状にも表れます。  うつ病は再発しやすいといわれています。それは、心身のストレスに弱いこと、さらに独特の思考パターンになりやすいことなどから、対人関係など余計にストレスを感じやすくなることなどが要因として考えられます。  先に述べたうつ状態は伝統的なうつ病のタイプですが、最近は新たなタイプのうつ病の出現が話題になっています。30代以下に多いといわれています。同じうつ状態でも、大きな気分の落ち込みはなく、また、リラックスした場面ではうつ状態は起きないが、職場などストレスフルな場面では起こるなどが特徴の1つです。つまり、職場には行けないが、気分転換に旅行には行けるなどです。また、自責感や罪悪感はなく、他責感が強いなど、強い自己愛があることがもう1つの特徴です。「自分の都合の良いわがまま」とうつ病との境界が曖昧になりやすく、このことから、職場とあつれきが起こり、関係が悪化することが多くみられます。ここからも、独特の思考パターンがあることがわかります。  そう状態にあるときは、高揚した気分となり、多弁、多動となり、話や思考が飛躍し、落ち着きがなくなります。他人に干渉したり、怒りやすくなり、対人トラブルに発展することもあります。 A 統合失調症  統合失調症は思春期から青年期にかけて発病しやすい病気で、精神的ストレスに対して脳の神経伝達がうまく機能しないことが原因として起こるとされています。具体的な症状は、@存在しない物事が聞こえたり見えたりと感じる幻聴や幻視、A人からどうかされるという訴えをもつ被害妄想、B現実と思考との混乱、支離滅裂な思考、C無表情・無感情で自分の殻に閉じこもる感情鈍麻や無為自閉などです。  このうち陽性症状とは、幻聴・幻視などの幻覚、被害妄想、現実と思考との混乱などの症状です。これは、抗精神病薬などの薬による治療が有効となります。陰性症状とは、感情鈍麻や無為自閉など、いわゆる脳機能が低下する症状です。この症状には、薬による治療は十分ではありません。また、陽性症状と同じような意味で「急性期症状」とよび、陰性症状と同じような意味で「慢性期症状」とよぶ場合もあります。  統合失調症は、薬その他の治療により陽性症状が改善しても、病前とまったく同じ精神状態には戻らず、いわゆる陰性症状、慢性期症状が20〜30%は残るといわれています。服薬治療しても治癒しないというのは、内部障害や視聴覚障害などの身体障害、知的障害と同様にとらえられるものでしょう。このことから、「症状が安定」した状態のことを、治療により、陽性症状、急性期症状が治まり、陰性症状、慢性期症状が残っている状態と考えればよいでしょう。  統合失調症は、再度、陽性症状、急性期症状が出やすい(これを症状の再燃ともいいます。)のが特徴です。そのために、医療機関において症状を再燃させないための服薬治療等を継続して行います。職場などでも、そのことの理解や援助が必要となってきます。 B てんかん  てんかんはWHO国際疾病分類では「神経系及び感覚器の疾患」の一部とされていますが、わが国では精神障害者としての施策の対象としています。てんかんとは、脳神経の一時的な過剰放電によるけいれんや意識の障害を伴う「てんかん発作」を引き起こすものです。発作は一時的なものですが、繰り返し起こります。頻度や発作の状態には個人差があります。  症状としては全身がけいれんして意識を失うものから、身体の一部がけいれんするものまでさまざまです。また、発作以外にも、認知機能障害やそれに関連する性格変化(例:まわりくどい、些細なことに固執する、怒りやすい等)を伴う場合があります。 C 不安障害など  統合失調症のような精神症状はなく、気分障害のような症状はありませんが、心理的な原因で不安や恐怖などを起こすものを、ここでは不安障害などとしてまとめます。特徴的なことは、不安や強迫観念が強いために、外出できない、ストレスに弱いなどが起こります。自信や自尊感情が低いことも多いようです。 D 発達障害  発達障害はWHO国際疾病分類では「心理的発達の障害」として分類されています。全般的な知的能力の発達の遅れはないが、心理的発達に偏りがみられるものをいいます。大きく分けて広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などがありますが、いずれも認知機能に障害が起こります。詳細については本章第7節を参照してください。 E 高次脳機能障害  高次脳機能障害はWHO国際疾病分類では「症状性を含む器質性精神障害」として分類されています。脳血管障害や脳挫傷などが原因で脳に損傷を受けることで、注意、知覚、学習、記憶、言語、思考など、認知機能を含む高次の精神機能の低下があらわれたものです。高次脳機能障害の詳細については本章第8節の2に詳述してありますので、参照してください。 (5) 精神障害者の就業の実態 @ 就職の状況  全国のハローワークの紹介による精神障害者の就職件数は、平成24(2012)年度は23,861件でしたが、令和4(2022)年度には54,074件となっており、10年間で2.3倍程度に増加しています。障害種別では最多となっており、障害者全体の就職件数に占める精神障害者の割合は、この10年間で34.9%から52.7%へと増加しています。近年の精神障害者の就職件数の伸びは驚異的です。  精神障害者の就いている仕事の内容についてみてみましょう。運輸・清掃・包装等の職業が30.9%と多くなっています。しかし、事務的職業に26.8%、サービスの職業に11.9%も就いているのです。  このことから、多種多様な仕事に就いていることがわかります。したがって、支援者は精神障害者の職域をイメージで判断せず、多くの可能性があることを知っておく必要があります。 A 雇用状況  令和5(2023)年6月1日現在、従業員43.5人以上の民間企業で働く障害者は64万2,178.0人で、令和4(2022)年より4.6%(2万8,220.0人)増加しています。内訳を見ると、身体障害者36万157.5人(56.1%)、知的障害者15万1,722.5人(23.6%)、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)13万298.0人(20.3%)となっています。令和4(2022)年度障害者職業紹介状況における就職件数に占める精神障害者の割合は52.7%であり、これと比較すると大きな差があります。対象となる精神障害者の範囲や企業規模の範囲が若干違うので、単純な比較はできませんが、気になるところです。  就職後の状況を見てみると、平成30年度障害者雇用実態調査では、障害種別の平均勤続年数が身体障害者10年2か月、知的障害者7年5か月に比べ、精神障害者(発達障害のみの者を除く)は3年2か月、発達障害者は3年4か月となっています。障害者職業総合センターによる「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年4月)においても、就職後3か月時点の定着率は、身体障害者77.8%、知的障害者85.3%に比べ、精神障害者は69.9%となっています。これらの結果から、精神障害者は就職した後の継続に課題があるという現状が浮かび上がってきます。  精神障害者支援には、就職をめざす支援ではなく、“働き続けるための支援”が必要といえます。   2 精神障害者に対する雇用上の配慮 (1) 採用時の留意事項 @ 意欲や希望を重視する  応募してきた精神障害者の採用を検討する場合、疾病の診断名、精神症状の重症度、入院期間、職業前訓練の実施などを採否の判断に用いることが多くあると思います。しかし、これらと就労達成率との間に相関はないというのが、国内外の研究によって明らかになってきました。唯一就労率と相関があるのは、「本人の働きたいというモチベーションの度合い」でした。そのため、意欲や希望を重視することが重要であるといえます。 A 就労支援機関の意見を十分に聞く  いままで述べたように、精神障害者の障害は多様化しています。これは、障害によって表れる特徴が多様化していること、障害のレベルに個人差が大きいことと、(職業)リハビリテーションを受けた度合いにも個人差が大きいことが考えられます。  そこで、採用に当たって、就労支援機関のスタッフに、障害状況や配慮の内容および方法について聞くことが大切です。送り出す側の就労支援機関スタッフは専門家であり、企業側に対して、きめ細やかな助言と協力を惜しむことはありません。納得するまで、わからないことは就業支援機関のスタッフに何でも聞くとよいでしょう。  また、障害者の雇用の促進等に関する法律により、事業主は、雇用した障害者の障害や能力に応じた合理的配慮の提供が義務づけられており、また、適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する努力義務が課せられています。そのためにも、具体的な配慮内容および方法を就労支援スタッフに聞くことはますます必要となるでしょう。 B スタッフ同行の職場実習を行って判断する  就労支援機関のスタッフから精神障害者の障害状況や対処方法を聞いても、それはあくまでも予想であり、職場での実際の様子ではありません。また、よほど経験豊富なスタッフでなければ、的確な助言はできません。結局は、障害者に実際の作業場面を体験してもらい、自己の職業能力を評価してもらうとともに、企業の目で評価することが確実です。職場実習は、企業側に事実を知ってもらうための有効な方法です。特に、精神障害者の雇用が未経験であったり、過去にうまくいかなかった経験がある企業の場合は、職場実習の際に就労支援機関のスタッフに同行してもらうと、適切に判断できる確率が大幅に上がります。  職場実習の制度または、それに関連する事業としては以下のものがあります。   ア 障害者トライアル雇用(窓口はハローワーク)   イ 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業(窓口は地域障害者職業センター)   ウ 職務試行法(窓口は地域障害者職業センター)   エ 就労移行支援事業および就労継続支援事業(窓口は各障害福祉サービス事業所) C 各種援助制度の活用  精神障害者を雇用する際には、上記の制度等のほか、事業主の経済的負担の軽減を中心として、人的サービスまでを含めて多種多様な援助制度が整備されています。これらの制度は、障害程度、採用経路、所定労働時間、賃金などによって利用できるかどうか決まり、また、サービス内容にも長短があります。要件等が複雑なので、経験豊富な就労支援機関のスタッフ、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部に相談するとよいでしょう。 (2) 採用直後の配慮事項  精神障害者に共通する障害として認知機能障害と自信および自尊心の低下が挙げられます。ここでは、採用直後の配慮事項として2つの障害について取り上げ、さらに、疾患別の対処方法について知っておくべきことを述べることとします。 @ 認知機能障害への配慮 ア 仕事の教え方と選び方  人間が状況を認知する方法は、視覚(目)、聴覚(耳)、触覚(皮膚など)、臭覚(鼻)、味覚(舌)です。認知機能に障害がある場合は、視覚と聴覚など多様な方法を活用することで、情報漏れが少なくなり、効果的です。ですから、仕事を教える場合は、「言葉で説明する(聴覚)」ことに加えて、視覚からの情報として、「やって見せる」、「手順書」および「説明書・解説書」を渡す、「仕上がり状況を絵や写真で見せる」などの配慮があると理解が進みます。  さらに、認知機能に障害があると、認知した情報を「処理する・整理する」ことがうまくできません。その場合は、「わかりやすくする」工夫が必要です。例えば、「やって見せるだけではなく手を添えて教える」「手順書をフローチャートにする」「文章や説明を短くする」などの配慮があると、さらに理解が進みます。  さらに、1つひとつの具体的な作業や行動はできるが、それらを組み合わせてまとまりのある1つの作業や行動に支障が出ることも認知機能障害の特徴です。その場合は、「仕事を細分化する」「臨機応変に対処しなければならない作業や複雑な作業をはずして、作業を構造化する」など、担当してもらう仕事を再構築する必要が起こる場合もあります。手順書が作成できないようなあいまいで複雑な作業は、認知機能障害があると対応できない場合が多いといえます。また、指示を出す場合も、1つずつ出すと混乱しません。  以上の配慮があると、最初は時間がかかっても、結局は能率が上がります。 イ 勤務時間  統合失調症や気分障害などで入院治療が長引くと、心身の持久力が低下します。また、認知機能に障害があることから、職場では常に緊張状態でいることが多く、さらに休憩時間の過ごし方もどうしてよいかわからず、上手に休憩を取れない精神障害者は多くいます。このことから、入職当初は休憩の回数を多く設ける、1日あるいは1週間の労働時間を短くするなどして、仕事に慣れてもらい、その後、休憩の回数を減らしたり、労働時間を長くしていくといった配慮があるとよいでしょう。  まずは、週の所定労働時間を10〜20時間から始めてみましょう。最低でも3週間後、慣れるに従って、本人や関係機関のスタッフと相談しながら増やしていきましょう。十分可能と判断できる場合は、30時間から始めてみましょう。当初に無理をしないことが長く働いてもらうためのコツです。 A 自信と自尊感情が低下している場合の配慮  自信と自尊感情が低下したままだと、本来その人が持っている能力が発揮されない、少しのきつさで仕事に来られなくなる、退職につながるなどの問題となります。そこで、自信と自尊感情を取り戻す配慮が効果を発揮します。その方法として“ストレングスモデル”が有効であることがわかってきました。  ストレングスモデルとは、「強み・長所」に焦点を当てた援助方法です。疾患や障害、苦手なことや問題点ではなく、精神障害者自身及び取り巻く環境(家族、地域、職場、仲間その他)がもっている健康な部分や可能性に焦点を当てるものです。  精神障害者本人の関心や夢・希望もストレングスととらえます。対象者は精神障害者なので、できないことや問題点、課題などはたくさんあると思います。どうしてもそこに目がいってしまいます。しかし、精神障害があっても「何ができるのか、どのようなことが得意なのか、その人の魅力は何なのか、どのような対処法を持っているのか、どんな環境(職場)であれば働けるのか、どのような支援があれば働けるのか」に焦点をあてると、見えなかった長所や強みがいろいろと見えてきます。すると、援助する側の見方が変わります。いろいろな可能性が見えてきます。  そして、できていること、得意なこと、長所などを対象者本人に言葉にして伝えることで、対象者自身が自分の長所や強みに気づき始めます。作業中に、できたことをほめるというのは大きな自信回復になります。自信や自尊感情が回復してくると、意欲が増し、課題も改善していくことが多くあります。改善するというよりも、本来持っている力が出て来たということです。私たちは、できていないことや失敗についてはいろいろと本人に言いますが、できていることはあまり言わない習慣があります。できていること、よいことをあえて言葉に出してみましょう。  逆に、課題に焦点を当てるとどうなるでしょうか。課題に焦点を当てると、対象者本人の自信と意欲の低下、夢と希望の消失を招きます。そして、援助する側も、本人のできない理由ばかりを考えて、それを正当化してしまいます。それでは障害のある従業員は戦力として成長していきません。  また、自信を失っている精神障害者は、ストレスに弱くなっています。一般的にストレスは、細かい判断や責任を伴う作業、生産管理や労務管理的な作業、繁雑・複雑な作業、厳しい対人関係の職場、失敗に対する厳しい叱責などで生じます。当初は「失敗してもいいんだよ」など、安心感を与えたり、柔和な態度を示すなど、自信をもたせるような支援は、本人の能力を十分に発揮させることになり、結果的に企業にとっても大いにプラスになります。 (3) 長期定着に向けて  精神障害者は採用後の定着に困難性があることはすでに述べました。そこで、長期定着に向けた支援のポイントについて述べることとします。 @ 通院・服薬の遵守に配慮する  通院し、服薬を継続している精神障害者はたくさんいます。精神疾患は慢性疾患であるため、高血圧症や糖尿病と同様に、通院・服薬を継続することが基本です。それは症状の再燃を防ぐためだからです。企業としては、通院の時間確保や服薬の遵守に配慮しましょう。慣れてくると、理解のある事業主ほど、本人のためにも「いつまでも薬に頼っているからよくならない」という誤解をして通院・服薬をやめさせてしまい、症状の再燃を招いてしまった例がたくさんあります。 A 医療機関や就労支援機関との連携  精神障害は多様な疾患や脳機能の障害が原因で起こっています。つまり、個別性が非常に高いことになります。そのため、障害者職業生活相談員が通院時に本人の承諾を得て一緒に同行し、主治医等を交えて情報交換を行うことや、就労支援機関のスタッフに来てもらって、本人を交えて情報交換を行うなど、関係機関と連携することが長期定着に有効です。 B 作業時間以外のつき合い方  精神に障害がない人は、休憩時間にみんなと談笑することが休息になります。しかし、精神障害者の場合、これがかえって負担になり、休息にならない人も多くいます。例えば、休憩時間は1人で寝ていたいなど、その人なりの休息方法を本人に聞き、保障してあげましょう。終業後のつき合いも同様です。必ず本人に聞いてからつき合い方を決めるようにしましょう。 C 代表的な疾患等の特性に合わせた配慮事項 ア 気分(感情)障害(メランコリー型うつ病:従来型のうつ病)  うつ病は、ストレス、精神的衝撃などが発病要因としてあげられますが、それへの対処技術が上手でないことが発病率を高めています。例を挙げると、限界を超えても頑張り続ける、「ノー」といえない、自尊心・プライドが高い、思考パターンを変更できない、過度に自責感が強いなどです。また、気分の波があることも特徴の1つです。  そのため、「ひとりで抱え込まないようにさせる」「1つの考え方だけでなく、他の見方や考え方もさせてみる(自動思考の修正)」「あせりが感じられる場合はそれを指摘し、コントロールする方法を考えさせる」などの配慮が有効といえます。 イ 気分(感情)障害(非定型うつ病:新型のうつ病)  うつらしくないうつ病といわれています。仕事には行けないが遊びには行ける、自分を責めずに他人・職場を責める、対人関係が上手にとれないなどが特徴です。なまけているように見られることもありますが、仕事や職場に関連する活動だけが苦手になっている場合などもあります。  以下の援助方法が効果的です。 ○ 本人と約束したことは勝手に変えない ○ 許されることと許されないことの枠組みを明確にしておき、例外を作らない ○ 障害者職業生活相談員と対象者の上司とが頻繁にミーティングを行って情報共有を綿密にし、職員間の信頼が揺らがないようにする ○ 対象者本人の自己責任を明確にしておく、責任の所在を曖昧にしない ○ 対象者本人の「気持ちの変化」に右往左往せず、落ち着いて対処する。感情的になって対象者本人を突き放さない ○ 就業支援機関や医療機関との連携を強固にする ○ 対象者本人の自己評価が高い場合はストレングスモデルが効果的ともいえない ○ 職業能力に支障がある場合は発達障害に対する援助と同様にする 診断名で、アとイが明確に区別されている訳ではありませんので、医療機関や支援機関の意見を参考にしながら本人の状況を把握し対応することが大切です。 ウ てんかん  てんかんは脳の放電によって一時的な脳機能異常が出現し、けいれんを起こして意識がなくなって倒れる症状から、一瞬だけ意識がなくなるだけのレベルまでさまざまな発作が出現します。服薬で発作が起こらないレベルから薬で抑えられないレベルまで個人差があります。  てんかんは、発作時のみ障害者であることが特徴です。月に1−2度発作を起こしても1年のうち10数時間だけの障害者といえるでしょう。  発作を起こした場合でも特別な処置は必要ありません。意識がなくなる発作の場合は静かなところに移動させて、意識が戻るのを待ちましょう。意識が戻った後、30分ほど休息すれば仕事に戻れます。頭痛を訴えるときは治まるまでもう少し休ませてあげてください。  まれに繰り返し発作を起こす場合があります。このときは救急で医療機関に連絡してください。  てんかん発作だけでなく、認知機能障害をあわせもつ人もいます。その場合は、認知機能障害に沿った対処をしてください。 エ 不安障害など  長期の引きこもり等を経験した不安障害の対象者は、自信と自尊感情の低下が重篤な場合が多くあります。その場合は徹底したストレングスモデルが効果を発揮します。  以下の援助方法が効果的です。 ○ 体験したことはすべて「成功体験」となるように本人にフィードバックする。 例:失敗した場合→「これで一つ学べてよかったね」   欠勤した場合→「あなたが我が社にとって重要であることがわかったよ」 ○ 精神科医療機関にかかっている場合は連携する ○ 同じ立場の従業員同士で支え合う・教え合う態勢を作る ○ 障害者職業生活相談員は自己の感情をコントロールし、対象者本人を突き放さない ○ 成功体験の積み重ねが自信となっていくので、仕事の難易度を上げる場合は小さなステップで 3 長期休業後の職場復帰における配慮  統合失調症、気分障害、高次脳機能障害などは就職後に発病・受傷することが多くあります。また、統合失調症、気分障害は就職した後に再発することも多々あります。ここでは、休職して職場復帰する際の配慮事項について述べます。 (1) 専門医への受診を勧める  採用後に精神疾患に罹る従業員の多くはうつ病であるといわれています。残念なことに、うつ病の場合は、うつ病の専門医を受診せずに、他科等を受診する場合が多くあります。その結果、症状が悪化し、長期休職になってしまいます。うつ病が疑われた場合、リワークプログラムなど職場復帰支援プログラムがある、または精神保健福祉士が配置されている精神科医療機関への受診を勧めることが職場復帰への近道といえるでしょう。  さらに、地域障害者職業センターには職場復帰支援のプログラムが用意されています。この活用も時期を見て考えます。 (2) 復職支援体制を構築する  休職となった場合、対象者本人、上司、人事担当者及び産業医などの事業所内支援体制を作ることが大切です。さらに、本人のプライバシーに配慮しつつ、外部の専門家である主治医及び精神保健福祉士等のスタッフ、就労支援機関のスタッフを加えて、復職支援体制を作ることが効果的です。リハビリ出勤、地域障害者職業センターによる“精神障害者総合雇用支援の職場復帰支援(リワーク支援)”の活用、復職後の職場適応援助者の活用など、さまざまな制度の活用と復職に向けての人的支援を得ることができます。  また、長期休業した場合は、自信や自尊心の低下、長期に休んでしまったという気まずさ、早く戻らなければというあせり、回復度合いの理解が不十分などさまざまな精神的身体的状況を引き起こします。そのため、以下の事項について検討が必要です。 @ リハビリ出勤の検討  復職して職業生活が再び継続できる状況まで回復したかどうかは、正確には誰もわかりません。そのことから、リハビリ出勤によるウォーミングアップは有効です。しかし、事業所や支援機関によって制度が様々であることから、活用についての検討が必要です。 A 職務内容及び職位の検討 B 勤務時間の検討 C 復職時期の検討 (3) 復職当初の関わり  復職直後は、休職したことによる自尊心の低下、職務遂行および職業生活の維持への自信不足、過度な緊張感、休んだ分を取り戻そうとするあせりなどの心理状態になります。そのため、笑顔で迎える、おだやかな対応をするなど、緊張を和らげる対応をすると職場適応が進みます。 (4) 障害者であることの確認・把握方法  採用時には精神障害がなく、採用後に発病や受傷して医療機関にかかったり休職した場合、精神障害者となったことが推測されます。しかし、精神障害者として障害者実雇用率に算定するには精神障害者保健福祉手帳を所持していることが条件です。  企業としての確認方法はどうすべきか悩むところでしょう。そのため、厚生労働省は「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」(資料編第6節参照)を作成しています。これによりますと、採用後に把握・確認を行う場合には、原則として労働者全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることが原則となっています。その手段としては一斉メールや社内LANの掲示板、チラシや社内報、回覧板などです。そして、障害者雇用状況報告のためという利用目的を明確にして、業務命令ではないことを明らかにすることが望まれます。 (倉知 延章) 【参考文献】 1)デボラ・R・ベッカー,R・E・ドレイク:精神障害をもつ人のためのワーキングライフ,金剛出版(2004) 2)伊藤順一郎,香田真希子監修:IPSブックレット1「IPS入門―リカバリーを応援する個別支援プログラム」地域精神保健福祉機構(2010) 3)職業リハビリテーション第26巻No.1,日本職業リハビリテーション学会(2012) 4)野中猛:精神障害リハビリテーション論,岩崎学術出版社(2006) 5)W・アンソニー,M・コーエン,M・ファルカス:精神科リハビリテーション,(株)マイン(1993) 6)一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟編:精神障害リハビリテーション論,中央法規出版(2021) ◇ 精神障害者の雇用事例(サービス業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 体調が悪いと仕事のパフォーマンスに影響するため、毎日、個人日報を作成することで、パフォーマンスの変化を見ている。体調や気分、服薬情報を記入することができる様式になっており、本人とチームリーダー、定着支援の担当者が確認している。体調の変化を把握した場合は、個人面談の設定により課題事項の早期解決につなげている。精神障害のある社員の在籍割合が多いため、医療機関との連携も欠かせないが、同社では医療機関と直接やり取りをすることは少なく、本人をよく知る就労支援機関を通じて情報共有をしている。これら職場定着に向けた取組により、安定就労につながり、チームリーダーや正社員として活躍している者もいる。 Q&A【問16】精神障害者に共通した障害の1つに認知機能の障害がある。(解答と解説はP290に記載しています) 第7節 発達障害者 1 発達障害とは 近年、“知的発達に顕著な遅れはない”“早期発見と適切な診断を行い、適切な対応と環境調整を行うことにより改善が期待できる”という様々な発達障害に社会の関心が寄せられています。このような障害として、学習障害、注意欠陥多動性障害、広汎性発達障害(高機能自閉症等)などがあげられます。決して新しい障害ではないのですが、病因や病態の理解だけでなく“呼称”も変遷してきた歴史があり、診断基準や治療方法の確立という点では、今後の検討課題が大きい障害であるといえます。平成14年に文部科学省は、このような特性のある子どもたちを「通常学級に在籍している」が「特別支援教育を必要とする」子どもたちと位置づけ、学校教育での支援を開始するという方針を打ち出しました。また、平成19年4月からは、「特別支援教育」を法的に位置づけた改正学校教育法が施行されています。この対象者は、平成17年4月から施行されている発達障害者支援法の対象者と重なっています。この法では支援体制の整備や専門家の確保などにより、発達支援、保育、教育、就労支援、その他生活支援などを進めていくこととされています。 (1) 学齢期の特別な教育支援の対象者 ―文部科学省の調査結果から― 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(文部科学省,2022)は、学習面、行動面(「不注意」又は「多動性−衝動性」と「対人関係やこだわり等」)のそれぞれに著しい困難のある児童・生徒について把握した調査です。調査結果は、質問紙に記載されたチェック項目に「該当」した項目数が基準として定めた項目数を上回った場合について集計されています。 対象は全国の公立小学校(1〜6年)及び公立中学校(1〜3年)の通常の学級に在籍する児童・生徒と、今回の調査から新たに対象に加わった高等学校(1〜3年次、全日制/定時制)の生徒で、合計88,516人です。回答は学級担任が記入し、特別支援コーディネーターまたは教頭(副校長)の確認後、校長の了解を経て提出されました。 学習面又は行動面に著しい困難のある児童・生徒はそれぞれ、小学校・中学校で8.8%、高等学校で2.2%という結果でした。過去の平成14年調査、平成24年調査(小学校・中学校で6.5%)とは対象地域や質問項目が一部異なるため単純な比較はできないものの、該当する児童・生徒の割合は高まっていることがわかります。なお、このことは、障害の出現率を示すものではない点に注意が必要です。 困難のある児童・生徒への学校教育における対応は、義務教育を中心として充実してきたところです。指導上の困難は、教育的対応によってどのように改善されるのか、あるいはどのように深刻になっていくのか、障害との関連をどのように推計していくのか、について引き続き注目していく必要があります。あわせて、職業リハビリテーションの支援を必要とする場合には、特に、高等学校や専修学校、大学・大学院における進路指導やキャリアガイダンスで計画・実施される移行支援について注目していく必要があります。 表1「学習面、各行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒数(小学校・中学校)の割合」(文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(2022)」を参考に作成) 平成14年 平成24年 令和4年 A:「聞く」「話す」「読む」「計算する」「推論する」に著しい困難 4.5% 4.5% 6.5% B:「不注意」または「多動性―衝動性」の問題が著しい 2.5% 3.1% 4.0% C:「対人関係やこだわり等」の問題が著しい 0.8% 1.1% 1.7% 図1「表1のうち令和4年度の児童生徒の困難別分布状況」(文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(2022)」を参考に作成) (2) 発達障害者支援法の対象者 平成17年4月施行の発達障害者支援法では、「『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」とされています(Q&A【問17】(P190)にチャレンジ)。 これまで、診断に携わる医学はもとより、療育や教育、福祉、職業リハビリテーションの関係者において、“知的障害は、発達障害に含まれる”と受けとめられてきました。しかし、知的障害はすでに教育・福祉・障害者雇用等の施策の対象として法的に位置づけられていることから、発達障害者支援法の対象はこれまでの施策の対象に該当しないとされた障害を中心として定められた経緯があります。したがって、発達障害者支援法が定める発達障害の範囲は、いわゆる発達障害の範囲から知的障害を除いたものとなっていますが、これらの障害と知的障害の合併の有無について明記されているわけではありません。知的障害については発達障害に区分される障害ですが、すでに雇用対策上の障害としてまとめられていますので、本章第5節を参照してください。 (3) 障害者施策における発達障害 我が国における障害者施策は、障害者基本法等により、障害者の自立及び社会参加の支援等、基本的にノーマライゼーションの理念に沿った社会を実現することとされています。また、障害者の定義については、障害者基本法の一部改正(平成23年)により「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とされています。 これを受けて、障害者総合支援法や障害者の雇用の促進等に関する法律でも発達障害は「障害者の範囲」の中に同様に位置づけられています。 (4) 本節で扱う発達障害の範囲 ――知的障害との関係―― 発達障害は、“発達期”における“中枢神経系の機能障害”により“認知・言語・学習・運動・社会性のスキルの獲得に困難が生じる”と説明されることがあります。損傷部位や損傷時期が明確でない点が脳損傷や脳血管障害とは違いますが、中枢神経系の障害が推定される点では高次脳機能障害(本章第8節の2)と類似した特徴をもつ場合があるという見方もあります。 また、発達障害とは、発達期に起こる“様々な障害”を包括する概念ですが、どのような障害を包括するのかについては、未だに明確な分類基準はありません。しかし、療育や教育をはじめとする対応や処遇に関する類似性並びに共通性からみると、知的障害、広汎性発達障害・学習障害・注意欠陥多動性障害などを包括するものとして概念化が進んでいます。 ここでとりあげている障害の場合、学習障害の定義では“知的障害はない”と明記されていますが、注意欠陥多動性障害では、診断基準に知的障害の合併の有無は明記されていません。また、知的障害と合併することの方が多いとされている広汎性発達障害では、合併しない場合を「高機能」自閉症や「高機能」アスペルガー症候群などと呼んで区別することがあります。一方、知的障害の場合の「軽度」は「中・重度ではない」を意味します。 発達障害のある生徒への教育対応としては、通常学級や高等学校において特別な支援を行う場合だけでなく、特別支援学級(心障学級など)や特別支援学校(盲・聾・養護学校など)でも特別な支援を行っています。そこで、通常学級や高等学校に在籍する発達障害のある生徒に対して、“知的障害はない”と受けとめることが多いのですが、現実には、“知的障害が軽度”という生徒も含まれます。 本節では、知的障害を伴わないか、伴ったとしても知的な障害の程度が軽度である、広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害のある人を中心的な対象としています。この場合、発達障害者支援法の範囲よりも狭くなります。 (注)発達障害の診断はアメリカ精神医学会のDSM-5(診断統計マニュアル第5版)かWHO(国際保健機関)のICD-10(疾病・傷害及び死因の統計分類第10版)のいずれかで行うことが一般的です。これらの診断分類や基準はそれぞれに改訂の歴史がありますが、発達障害については2015年にDSM-5が公表され、大きく改訂されました。一方のICD-10は2019年にICD-11への改訂が採択され、DSM-5に共通した構成となりました(自閉症圏の多様な診断名が「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」に統合される等)。とはいえ、発達障害者支援法の発達障害の定義はICD-10によっていますので、当面、従来の診断名が混在する状況があることに注意が必要です。 2 発達障害の障害特性 発達障害は、その定義から診断の時期の多くは子ども時代です。早期からの適切な対応で問題が改善される場合もありますが、反対に深刻になる場合もあります。いずれにしても、成長とともに症状が変わっていくことになるので、まず診断される時期のことをまとめておくことにします。知的障害を伴う発達障害については本章第5節をあわせて参照してください。 なお、平成25年5月にアメリカ精神医学会の診断・統計マニュアルが第5版(DSM-5)へと改訂され、平成30年には世界保健機関(WHO)の診断分類がICD-11に改訂されるなど、診断基準については過渡期を迎えています。発達障害に関して従来の診断名や診断基準とは異なる点は、「広汎性発達障害」という分類が「自閉症スペクトラム障害」に変わったこと、広汎性発達障害の中に位置づけられたアスペルガー症候群という診断名も「自閉症スペクトラム障害」に統合されたことなどです。このため、改訂以前の基準で診断された人と、改訂以降の基準で診断されることになる人がおり、当面、診断名は混在することになります。ただし、診断名や診断基準等の日本語版が確定・整備されるまでの間、本節では、DSM-5における診断基準の概要を紹介しつつも、従来の診断名にも配慮し、過渡的な段階に対応させています。 (1) 学習障害/限局性学習障害・限局性学習症(Learning Disability(LD)/Specific  Learning Disorder(SLD)) 医学で障害を診断する場合、「LD」はSpecific Learning Disorderを意味しています。教育、臨床の関係者をはじめとして、保護者の多くが使うような「学習上の困難のある児童・生徒」、もしくは「教育上の特別な配慮を必要とする児童・生徒」を想定した広い範囲の問題を抱えた対象者を含む用語とは異なっていることになります。 【診断基準:DSM-5】 読字・算数・書字の特定の領域における困難を踏まえ、学力における問題について、個々人の発達・医療・教育の経過及び家族歴並びにテストの成績と教師の観察評価、教育的介入とその効果等を通して総合的に診断されます。その際、年齢や知能から期待される水準で達成できない状態であることなどが重視されます。 【問題への対処】 読字や書字の困難がある場合、成人の失語症の言語訓練法として考案されたリハビリテーションの応用が効果的であるとされています。書字の問題では、「かな」に関しては50音表を利用した練習方法により、「漢字」に関してはワードプロセッサーの使用により書字の問題は解消されると考えられています。 また、算数の問題では「数概念の形成」の問題なのか、「計算」の問題なのか、「文章題」の問題なのかによって練習方法が違います。特に計算のみが苦手な場合には電卓の利用なども提案されています。 【教育用語としてのLD】 学習上の諸問題によって学習障害であることを判断する場合の「LD」は、Learning Disabilitiesにも対応しており、これが教育用語としての「LD」にあたります。表2は文部科学省が示している学習障害の定義です。 この定義では、「読む」「計算する」「書く」のいずれかの困難に、「聞く」「話す」「推論する」の困難を加えています。さらには、教育並びに臨床の関係者の中で、さらに広い範囲を認める立場もあります。こうした立場に立つ人々は、発達性協調運動障害(不器用)、注意欠陥多動性障害(ADHD)をこれに加えている場合があります。最も広い範囲を認める立場では、“社会性に困難がある子ども”をも含めています。これは、主として「教育的な対応が必要な子どもたちの問題を考える」ということを意味していますが、多様な発達障害の特性をどこまで含めるかという問題でもあります。教育用語としての「LD」は広い範囲の多様な学習上の困難を想定しているという見方もありますので、医学で診断されるLearning Disorderが「読字」「計算」「書字」に焦点をあてるのとは対照的です。 教育用語として使われている「学習障害」は Learning Disabilitiesを翻訳した時にあてられた用語のうちの1つです。しかし、教育、臨床の関係者をはじめとして、保護者も本人も、この用語を適切でないとして「LD」と称する場合が多いのです。「LD」という呼称には、根底に“障害が学習に関する能力の限定的な障害であり、その点について配慮し、その障害の克服を手助けしていけば、健常児と同じように知的な能力を発揮できる”という考え方があります。 このような考え方を背景として、「障害児と健常児の間の子ども」「グレイゾーンの子ども」であるために、適切な支援をうけることができないという「学習障害」観が成立することになりました。したがって、義務教育のみならず、高等学校以降の学校教育において特別な教育的支援が充実するに伴い、教育の効果に対する期待が一層高まっているといえます。 表2 現行の文部科学省の定義 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。 学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。 Point! (2) 注意欠陥多動性障害(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder : ADHD) ADHDは不注意、多動性、衝動性を特徴とする持続性の行動障害とされています。幼児期にはその特徴が認められ、児童期から様々な適応の問題が生じ、否定的な自己評価や不安、抑うつなどに悩むことも少なくないといわれます。 【診断基準:DSM-5】 不注意もしくは多動性・衝動性について、発達水準に照らして相応しない不適応症状が長期(6ヶ月以上)にわたって継続した場合に診断されます。 下記の表3のうち、不注意については6項目以上で頻発する場合に診断される対象となります。また、多動性・衝動性については6項目以上で頻発する場合に対象になります。 Point! ただし、不注意も多動性・衝動性も、青年、成人(17歳以上)では5項目を満たす場合に診断されます。また、症状は、反抗、挑戦、敵意、または課題や指示が理解できないなどによるものではないとされています。 さらに、多動性・衝動性または不注意の症状のいくつかが12歳以前に存在し、障害を引き起こしていること、これらの症状による障害が2つ以上の状況(例えば学校〔または仕事〕と家庭)に存在すること、社会的・学業的または職業的機能を損なっている、もしくはその質を低下させているという明確な証拠が存在しなければならないこと、とされています。 表3 注意欠陥多動性障害の診断 不注意 多動性/衝動性 a)綿密に注意することができない、または、不注意な過ちをおかす b)注意を持続することが困難である c)直接話しかけられたときに聞いていないように見える d)指示に従ってやり遂げることができない e)課題や活動を整理することが困難である f)精神的努力の持続を要する課題を避ける、嫌う、または、いやいや行う g)課題に必要なものをなくす h)外からの刺激によって注意をそらされる i)日々の活動で忘れっぽい a) 手足をそわそわと動かしたり、またはいすの上でもじもじしたりする b) 座っていることを要求される状況でじっとしていられない c) 不適切な状況で走り回ったり、高い所へ上ったりする d) 静かに活動できない e) WじっとしていないW または、まるで Wエンジンで動かされるようにW 行動する。他の人からは落ち着きがなく、じっとし続けるのが困難なように見える。 f) しゃべりすぎる g) 質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう h) 順番を待つことや並んで待つことが困難である i) 他人の邪魔をしたり干渉する 【問題への対処】 ADHDは神経心理学的には「実行機能」の回路に障害があるとされ、最近では「報酬系の障害」(例えば“目の前の報酬に反応しやすい等”)としての理解もすすんでいます。改善のために、薬物療法や行動療法が提案されています。このような対応により、ADHDの症状は成人期まで持続するものの、成長とともに問題が改善されていく傾向があるとされています。 (3) 知的障害のない広汎性発達障害(高機能広汎性発達障害/高機能自閉症/高機能アスペルガー症候群)/自閉症スペクトラム障害(High Functioning Pervasive Developmental Disorders:HFPDD /Autism Spectrum Disorder:ASD) 【自閉症スペクトラム障害について】 DSM-5では、「広汎性発達障害」にかわって、自閉症圏の障害としての共通性を重視した診断名として「自閉症スペクトラム障害」が使われています。「スペクトラム」という言葉は「連続している」という意味で使います。 図2では、「自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)」という用語について、定型発達から典型的な自閉症までを自閉症の強弱で一続きのものとみなす点で、広汎性発達障害を統合する概念であるという考え方を表しています。ここでは従来の診断分類による「特定不能の広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」なども自閉症圏の障害であること、しかし、「自閉症」という診断名に比べると自閉症の特徴は軽度であることが示されています。 ただし、自閉症の要素(社会コミュニケーション及び対人的相互作用の問題・行動や興味、活動の制限の問題)は共通していても、その現れ方は多様です。自閉症圏の障害にもさまざまあって、見た目には違う症状のように見えても自閉症として連続しているのだ、というものです。また、「スペクトラム」は、知的に障害のある場合もあるが、ない場合もあり、それは連続しているという場合にも使います。 高機能自閉症や高機能アスペルガー症候群という表し方をするときには、「自閉症スペクトラム障害」の高機能(知的障害を伴わない)者をさしています。 【診断基準:DSM-5】 自閉症スペクトラム障害は、自閉症圏の障害として2つの基準にそって診断されます。 A 社会コミュニケーション及び対人的相互作用の問題 B 活動や興味の範囲の著しい制限・変化への抵抗などの問題 DSM-5では、感覚に対する反応の乏しさや過度の反応に関する点が着目されています。 なお、症状は児童期早期に存在しなければならないが、社会的な要求が制限された能力を超えるまで、十分に顕在化しない可能性もあるとされています。 【問題への対処】 自閉症スペクトラム障害は、認知的・社会的そして行動上の機能に重大な混乱と影響を及ぼす複合的な障害であると理解されています。このため、治療・教育・支援に際しては、薬物療法や行動療法をはじめとしてさまざまな方法が試行されてきましたが決定的な治療法は未だないというのが実状です。個別性に対応した包括的なアプローチが必要とされており、現実にプログラムも提案されています。しかし、このような対応によっても、長期的予後を含め、問題解決の困難な障害であるとされています。 高機能の自閉症スペクトラム障害者の場合、言葉の遅れが目立ちにくいことから、一見、コミュニケーションに困難が少ないと受け取られることがあります。これは、知的機能の障害を伴わないことによるものですが、知的障害を伴わないとしても自閉症の特性に関連したコミュニケーション障害は生じうると認識することが重要です。 図2 自閉症スペクトラム障害 (井上,2011) 表4 自閉症スペクトラム障害の診断 A 全般的な発達遅滞では説明できない、社会的コミュニケーション及び社会的相互作用の持続的障害   (以下の3点すべてに該当) B 行動、興味、活動の限局的、反復的な様式   (以下の4点のうち2点以上に該当) a) 社会及び感情の相互性の障害 b) 社会的相互作用で用いられる非言語的コミュニケーションの障害 c) 発達レベル相応の関係を築き、維持することの障害 a) 常同的または反復的な話し方、運動、ものの使用 b) 習慣や儀式化された言語的あるいは非言語的行動パターンへの過剰な執着、あるいは変化への過度な抵抗 c) 強度または対象において異常な、限局的に固定化された興味 d) 感覚刺激への過剰反応、あるいは鈍感さ、あるいは環境の感覚的側面に対する独特の興味 3 相談の際の留意事項 (1) 精神疾患の併存や発達障害の重複について 子ども時代に、基本症状によって「学習障害」と診断されたとしても、読み、書き、計算、推論といった知的活動で失敗経験を繰り返すと、二次的症状として自信や意欲の低下、情緒不安定、対人・集団不適応などを引き起こし、緘黙や不登校、攻撃性、非行などの問題が引き起こされる場合があります。また、「注意欠陥多動性障害」「広汎性発達障害」や「自閉症スペクトラム障害」と診断された場合にも、対人スキルの問題や行動抑制など行動上の問題によって失敗経験を繰り返すと、同様に二次的症状が引き起こされることがあります。 最近の国内外の調査では、精神科を受診する発達障害児・者において精神障害を併存する場合が多いことが明らかとなっています。特に自閉症スペクトラム障害のある成人では、気分障害、不安障害、注意欠陥多動性障害などを併存する割合がいずれも5割前後という調査結果や、注意欠陥多動性障害にうつ病や双極性障害が高い割合で併存するといった調査結果もあります。 障害が併存する場合、その現れ方を適切に評価し、必要な対応や支援について検討することが求められます。 (2) 職業リハビリテーションのサービスの利用について 通常学級で課題の克服に努め、学校は卒業したものの「一般扱い」の求人ではうまくいかない発達障害のある青年の場合、職業リハビリテーションサービスの利用を勧めたとしても受け容れがたい事例も多いです。障害特性については、特に慎重に本人の受けとめ方に配慮する必要があります。 「発達障害」といわれて成長した青年の中には、学校教育等で配慮を受けながら課題をクリアし、職業リハビリテーションのサービスを必要とせずに通常教育から職業的自立を達成する事例もあるでしょう。しかし、入職に際して職業リハビリテーションの支援を利用した事例もあります。彼らは、療育手帳・知的障害判定によるサービスを利用した事例と、精神障害者保健福祉手帳によるサービスを利用した事例にわけられます。これは発達とともに求職活動をする際の課題が変化していったという事例です。 ハローワークの専門援助部門における障害者の紹介就職・職場定着の実態調査(障害者職業総合センター, 2017)では、2015年7月からの2ヶ月間に就職した発達障害者242名の8割以上が障害者求人に応募して就職していました。 また、障害者求人による就職者の定着率の方が一般求人による就職者に比して高く、就職時の機関連携や職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援、就職後の定着支援などは定着を支える要因とされています。 しかし、職業リハビリテーションサービスの利用を勧めたとしても「一般扱い」の求人にこだわり、求人条件の変更を受け容れがたい事例も多いのです。障害特性の理解に関する支援については、採用後においても特に慎重に本人の受けとめ方に配慮する必要があります。 Point!  発達障害については、二次的に発生する問題を含め、発達に伴う状態像の変化に対応する必要がある。  症状は在学中に現れるとされるが、職業選択や職場適応の時点で、どのような支援の課題があるのかについて、再検討する必要がある。 4 就職・定着促進のための配慮事項、支援策 学校時代は何とか過ごしても、職場ではうまくいかないという場合に求められる配慮と支援策について考えておきたいと思います。 (1) 職場に適応するうえでの問題の把握 「作業中に問題とされる行動は何か」「いつ・どのくらいの頻度や強さでおこるのか」「その行動がどのような状況(環境や人)でおこるのか」「その行動の後でどのようなことがおきたのか」などを把握することが重要です。 また、学習能力の確認も必要です。特に「未修得の学習技能を明らかにすること」「誤り方のパターンの整理・分析をすること」は、問題を改善していく可能性と深く関わります。 その他、健康状態を把握し、「体調管理にどのような配慮が必要か」を確認することも重要です。 (2) 作業条件の配慮 障害特性に合わせて、作業を効果的・効率的に行うことを支援するうえで、作業時間の調整(課題時間の延長など)が必要になる場合があります。また、作業量の調整(課題の数の限定など)が必要になる場合もあります。加えて、作業内容の調整(理解度に合わせた内容への変更など)は特に重要です。 その他に、電卓やワープロ、メモ帳、付箋など、障害特性にあった補助具の利用が有効な場合もあります。 (3) 指示理解に関する配慮 指示に際しては、スモールステップに分けて順に指示することが有効な場合もあれば、指示の単純・明確化(1度に1つの指示など)や強調化(色分けして指示を示すなど)、障害特性に対応した指示方法の選択(話し言葉で指示を出す方がよいか、指示書など文字情報の方がよいか、など)、コンピュータやスマートフォン・タブレットなど興味を引く媒体の使用などが有効な場合もあります。 (4) 環境整備の課題 落ち着いて作業に集中できるためには、障害特性にあった環境整備が必要になります。音や人の気配などの刺激に敏感な場合には、過剰な刺激を遮断するためにイヤーマフの装着、パーテーションの設置、作業場所を変更する等が有効な場合もあります。 また、こうした環境調整を行う場合、特性や配慮について、職場の同僚や上司と情報を共有することも必要となります。ただし、本人のプライバシーや意向に十分配慮することが何より重要です。 (5) 家族との連携 問題への対処については、家族との連携がとても重要になります。家族は経験豊富な支援者でもありますし、また、相談者でもあります。特性理解においても行動理解においても、また、健康管理においても、家族と十分に連携することが重要です。 本人への期待や指導方針については、家族にも十分フィードバックしながら目標を設定していくことが必要です。 (6) 関係機関との連携 職場では障害特性を理解した担当者の配置が重要です。また、生活面の支援をするバックアップ機関との連携も必要になる場合があります。何よりも学校との連携あるいは学校卒業後に利用する機関や移行を支える機関との連携が重要となります。 配慮事項、支援策の具体例として「発達障害者就労支援レファレンスブック(課題と対応例)(障害者職業総合センター, 2015)」が参考になります。就労支援の場面で現れる発達障害者のさまざまな職業生活上の課題を「業務遂行」「対人関係・コミュニケーション」「ルール・マナー」「行動面の課題」「自己理解や精神面の課題」の5つに分類したうえで、支援の場で現れることの多い143項目の課題が掲載されています。これらの課題への対応策は、「課題の要因の把握と目指すべき行動の確認」→「目指すべき行動につながる支援」→「周囲の理解促進と環境調整」の流れで示されています。「発達障害のある社員への具体的な支援方法が知りたい」「就労支援の効果的な進め方を知りたい」といった場合のヒントとなります。 ◇ 発達障害者の雇用事例(製造業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜 発達障害者の受け入れが初めてであり、どのように指導したらよいか、どのようにコミュニケーションを取ったらよいか不安だった。障害者本人が自分の特徴やセールスポイント、配慮を依頼したいことについてとりまとめた「自己紹介書」を提出してくれたため、それに基づき社内の障害特性理解に役立てた。入社にあたっては、地域障害者職業センターのジョブコーチによる支援を活用した。同時並行で作業をこなすことが苦手であったため、当日の作業を朝礼時に「作業計画書」をもとにわかりやすく指示したり、口頭での質問や相談が苦手だったため、業務日報を導入し作業の理解度や質問の有無を把握したりできるよう工夫した。これらの取組により、作業の手順を習得し、雇用継続につながった。 5 就労支援利用状況からみた事例(広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害を中心に) 下記の事例では、いずれもDSM-5以前の診断名が示されています。現在、診断名は「自閉症スペクトラム障害」に統合する方向が示されていますが、一方で、就職の際の支援制度の利用の仕方や職務の選び方、事業所への障害開示の有無、特性といった状況は多様です。ここでは、支援の利用について特徴的な4つのタイプを示しました。各個人の選択に応じた対応を検討していくことが重要といえます。(知名 青子) (1) 一般扱いの就職をした事例 短大卒40代Aさん(自閉症(アスペルガータイプ/ 知的に遅れを伴わないタイプ)・診断5歳・障害開示) 短大卒業にあたり両親が学歴にこだわらず対人関係の少ない「モノ相手の仕事」を探すことを勧め、障害を開示したうえで、縫製工場で採用となった。入社当初、社員らは自閉症への対応がわからず接し方に悩んだが、熱心で専門的知識のある両親(母親が特別支援学級の教師)と頻繁に連絡を取ることで関わり方や指導方法を探索した。 6年のOJT を経て社員らも関わり方のコツを共有し、A さんも作業に慣れたことでベテランとして勤続30 年に至っている。 高卒30代Bさん(高機能自閉症・診断5歳・障害非開示) 経済的な自立に関心の高いB さんは高校卒業後、親の強い勧めもあり対人関係の少ない工場を選んだ。ところが、B さん自身は障害を受け容れておらず、あくまで一般扱いでの就職であった。会社都合で離職の後、親から勧められた地域障害者職業センターの職業準備支援を利用することになった。障害者対象の支援であることに戸惑いながらも学んだ職場のルールやマナー等は再就職後、役立っていることを感じたという。再就職の活動は本人の強い希望で一般扱い(障害非開示)で行われ、食品工場の在庫管理として採用となった。企業による障害に対する合理的配慮はないものの職業準備支援で得た学びが対人関係のトラブルを回避する基礎となっている。 (2) 障害者雇用で就職をした事例 大卒40代Cさん(高機能広汎性発達障害・診断38 歳・精神障害者保健福祉手帳を利用)  就職活動で大卒後の仕事を決めたが、人の視線が気になったり仕事を覚えられないなどで不安が昂じて離職に至った。正社員として再就職するもうまくいかず20 社以上の離転職を繰り返した。精神的に不安定になり精神科を受診し、発達障害と診断される。精神科のデイケアを利用しつつ、配送事務・実務の仕事でトライアル雇用を経て再就職、ジョブコーチ支援を活用し、仕事と気持ちのコントロール方法を学び、自信を持つことができた。 平日を休業日として通院に充て、土日に働く勤務体制がC さんのニーズと一致している。同僚・上司の理解も進み、特段の配慮はなく安定して仕事をしている。 高卒40代Dさん(自閉症(知的に遅れを伴わないタイプ)・診断35 歳・療育手帳を利用  高卒後、就職したものの、カっとなる自分をおさえられず離職に至った。福祉作業所に通うことになったが、作業所ではなく事業所で働きたいという希望を保ち続けていたという。その後、就労支援機関を利用する中で「感情コントロールの方法」を学んだ。診断時に療育手帳を取得して就職を目指すこととし、ジョブコーチや障害者就業・生活支援センターの支援を得て、商品管理の仕事に採用された。20 年間の福祉作業所経験が今を支えている(Dさんの居住地では自閉症の診断により知的障害を伴わないケースにも療育手帳を交付している)。 特別支援学校卒30代Eさん(自閉症(カナータイプ/ 知的な遅れを伴うタイプ)・診断2歳・療育手帳を利用) 特別支援学校の紹介により、物流倉庫の管理業務で就職した。当初は、経験がない作業に混乱が大きかったが、「職場での動線」を床に貼ったテープで確認することにより作業に慣れた。工程を明確化、単純化することでE さん自身、担当作業を理解でき、次第に慣れて仕事に自信を持てるようになった。さらに、貴重な戦力として評価され、意欲的に仕事をしている。 〈注〉障害者手帳を所持していない発達障害や難病のある人をハローワーク等の紹介で雇用する事業主に対し、特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)が支給されます。支給要件等詳細はハローワークにお尋ねください。 【参考文献】 1)厚生労働省発達障害者雇用促進マニュアル作成委 員会編 「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」 (2007) 2)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(2022) 3)障害者職業総合センター調査研究報告書No.101 発達障害者の企業における就労・定着支援の現状と 課題に関する基礎的研究(2011) 4)障害者職業総合センター調査研究報告書No.112 若年者就労支援機関を利用する発達障害のある若者 の就労支援の課題に関する研究(2013) 5)障害者職業総合センター調査研究報告書No.137 障害者の就業状況等に関する調査研究(2017) 6)障害者職業総合センター資料シリーズ リーディン グス職業リハビリテーション1 発達障害のある人がよりよい就労を続けるために(2012) 7)障害者職業総合センター資料シリーズNo.100 就業経験のある発達障害者の職業上のストレスに関する 研究−職場不適応の発生過程と背景要因の検討− (2018) 8)障害者職業総合センター調査研究報告書No.150  発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究−精神疾患を併存する者を中心として−(2020) 9)障害者職業総合センター 認知に障害のある人に対する相談補助シート(2011) 10)障害者職業総合センター 発達障害者就労支援レ ファレンスブック(課題と対応例)(2015) 11)障害者職業総合センター職業センター 発達障害 を理解するために〜支援者のためのQ&A〜(2006) 12)障害者職業総合センター職業センター支援マニュ アルNo.3「アスペルガー症候群の人を雇用するため に 〜英国自閉症協会による実践ガイド〜」(2008) 13)障害者職業総合センター職業センター支援マニュ アルNo.7「発達障害を理解するために2〜就労支 援者のためのハンドブック〜」/付属リーフレット「発達障害について理解するために〜事業主の方 へ〜」(2013) 14)障害者職業総合センター職業センター実践報告書 No.27「発達障害者に対する雇用継続支援の取組〜 在職者のための情報整理シートの開発〜」(2015) 15)障害者職業総合センター職業センター支援マニュ アルNo.15 「発達障害者のワークシステム・サポート プログラム 手順書作成技能トレーニング」(2017) 16)職業能力開発総合大学校能力開発研究センター「発達障害のある人の職業訓練ハンドブック」 (2008) 17)井上勝夫 大人のPDD診断はどうあるべきか?−PDDの特性診断とprobable PDD−特集:大人において広汎性発達障害をどう診断するか 精神神経学雑誌 113巻11号 1130-1136(2011) 18)アメリカ精神医学会 DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 (日本語版用語監修:日本精神神経学会(監訳:高橋三郎/大野裕 訳:染矢俊幸/神庭重信/尾崎紀夫/三村將/村井俊哉)2014.10.)(2013) 19)発達障害の精神病理IV-ADHD編-内海健(編著)兼本浩祐(編著)神尾陽子 芝伸太郎 鈴木國文 福本修 松本俊彦 吉川徹 義村さや香 星和書店(2023) ※先に紹介した「発達障害者就労支援レファレンスブック(課題と対応例)」は下記の研究部門ホームページアドレスからダウンロードすることができます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai48.html 第8節 その他の障害者 1 難病等による障害  医学の進歩にかかわらず完治が困難な「難病」と呼ばれる病気は多くあり、誰もが発症する可能性があります。我が国では1972年から難病対策を進めてきました。その結果、多くの難病は、治療を続けながら就労を含む暮らしを送れるまでに症状を抑えることができるようになり、既に多くの難病等による障害のある人(以下「難病のある人」という。)が様々な仕事や働き方で活躍しています。しかし、多くの難病は未だ最新治療によっても完治させることが困難であるため、安定した就業継続、障害悪化の防止や早期対応等のためには、治療と仕事の両立支援への職場での理解と協力が不可欠です。それにもかかわらず、体調悪化や疲労や痛み等の、仕事上の配慮を必要とする症状が外見から分かりにくいことが多く、また、「難病」への職場の過剰反応等を心配して、本人が職場に相談しにくい状況もあります。  ここでは、難病のある人が、治療の継続と両立しながら、能力を発揮して継続して働ける職場づくりのポイントを紹介します。具体的には、「難病」についての先入観や誤解にとらわれず意欲があり適性の高い人材を採用する、通院や体調管理を応援する、本人や主治医等とのコミュニケーションにより多様で個別性の高い難病を正しく理解するなどです。  なお、治療で障害の進行が抑えられていれば障害者手帳制度や障害者雇用率制度の対象ではないこともありますが、「難病等による障害」は障害者手帳の有無にかかわらず、すべての事業主の障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象です。 (1) 難病等による障害の特徴  仕事による疲労は適度の休憩や勤務時間外の体調管理や睡眠、休日を使って疲労回復し、疲労と回復のバランスをとることが職業生活を継続できる大前提です。難病のある人の場合、仕事による疲労の蓄積と休養による疲労回復のバランスが、障害のない人よりも多かれ少なかれ崩れやすくなっています。難病等の症状が悪化した場合の症状は疾病により多様ですが、症状の悪化を防ぎ職業生活を安定させる雇用管理の課題は疾病にかかわらず共通しています。体調悪化の兆し(疲れ、痛み、集中力の低下等)は外見からは分かりにくいことが多いため、雇用管理のためには職場でのコミュニケーションが重要になります。 @ 難病対策による難病の慢性化に伴う新たな障害  我が国では難病対策として、国の研究班による治療研究、医療費助成、さらに長期の治療を続けながらの社会参加を支援しています。「難病等による障害」はすべての事業主の障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象であり、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」という。)やハローワーク等による職業リハビリテーションの対象でもあります。 ア 難病とは  1970年代に国の難病対策が開始された時には医療費助成の対象となる難病は8疾病でしたが、その後、新たな難病が特定され診断治療も進んだ結果、令和6年4月現在、医療費助成の対象となる「指定難病」は341疾病です。また、医療費受給者数は令和3年度で約102万人であり、そのうち15歳以上65歳未満の生産年齢では53万人程度です。さらに、令和6年度からは、福祉や就労等の各種支援を円滑に利用できるようにするため、医療費受給状況によらず、難病の登録者証が発行されるため、より多くの難病患者数が把握される見込みです。  難病には全国の患者数が数万人になるパーキンソン病や潰瘍性大腸炎のような疾病だけでなく、全国の患者数が10人未満という疾病も多く、専門医以外の一般の医師や産業医にも知られていない疾病も多くあります。  平成27年施行の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(以下「難病法」という。)て゛は、難病を「発病の機構か゛明らかて゛なく、かつ、治療方法か゛確立していない希少な疾病て゛あって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」としています。特に生産年齢(15歳以上65歳未満)で患者数が多い疾病としては、消化器系疾病(潰瘍性大腸炎、クローン病等)、自己免疫疾病(全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎等)、神経・筋疾病(パーキンソン病、もやもや病、多発性硬化症/視神経脊髄炎、重症筋無力症等)があります。その他、難病は患者数の少ない多様な疾病を含むものであり、血液系(原発性免疫不全症候群等)、内分泌系(下垂体機能異常症等)、視覚系(網膜色素変性症等)、循環器系(特発性拡張型心筋症等)、呼吸器系(サルコイドーシス等)、皮膚・結合組織系(神経線維腫症等)、骨・関節系(後縦靭帯骨化症等)、腎・泌尿器系(多発性嚢胞腎等)等、多種多様です。  難病の各疾病の詳細は、難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/)が一般向けに提供しています。 イ 難病等による障害への法制度の整備  障害者総合支援法では、難病等を「治療方法か゛確立しておらす゛、その診断に関し客観的な指標による一定の基準か゛定まっており、かつ、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」としており、難病法よりも広く関節リウマチ等を含み369疾病を「難病等」としてサービスの対象としています。  障害者の雇用の促進等に関する法律においても、障害者手帳のある難病のある人が障害者雇用率制度上の障害者であることはもちろん、障害者手帳のない場合でも、難病のある人は、同法第2条における「障害者」にあたり、専門的職業紹介等の職業リハビリテーション全般や障害者雇用納付金関係助成金(障害者介助等助成金、職場適応援助者助成金)の対象であり、障害者差別禁止や合理的配慮の提供義務の対象でもあります。特に、障害者手帳の対象となっていない難病のある人を新たに雇用し配慮を行う企業向けに特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)が設けられています(Q&A【問18】(P213)にチャレンジ)。 A 固定しない障害:無理なく活躍できる仕事内容と職場調整の重要性  難病等による障害の最大の特徴は、治療により症状は抑えられているものの、病気が完治していないことによる、少しの無理で体調が崩れやすいことや体調変動の起こりやすさそのものです。良くも悪くも障害が固定しておらず、医学的な重症度は同程度でも、症状が少なく仕事が問題なくできる場合もあれば、体調が悪化して退職になる場合もあり、それは仕事内容や勤務条件による場合が多いのです。 ア 健康管理、通院に無理のない仕事内容や勤務条件  難病のある人にとって「無理のない仕事」とは、身体的に無理がない、休憩が比較的自由に取りやすい、疲労回復が十分にできる勤務時間や休日、通院のための業務調整が可能ということです。難病のある人は各自の体調を踏まえながらも、様々な職種や働き方での活躍を望んでいる人も多いため、「難病のある人に適さない仕事」といった固定的な見方は適切ではなく、あくまでも、個々の仕事による疲労の蓄積とその回復に必要な休憩・休日・通院等のバランスが重要です。  例えば、デスクワークならフルタイムで働けたり、立ち作業の軽作業ならパート等の短時間で休日も多ければ働けたりする一方で、同じ軽作業でもフルタイムで週5日の勤務は続けられないという場合があります。一方、運搬や労務作業、長時間の立ち作業等の体力を要する仕事、時間的拘束が厳しく休憩が取りにくい作業、頻繁なトイレや急な体調の変化に対応しにくい顧客との約束の多い仕事等、難病のある人が続けにくい場合がある仕事もあります。ただし、固定的な見方は禁物です。 イ 通院や休暇等のための柔軟な業務調整  難病のある人は、最低でも数か月に1回の定期的通院が必要であったり、体調悪化時には早めに休憩や通院が必要であったりします。多くの場合、有給休暇等のスケジュール調整で十分ですが、難病の一部では現時点での医療管理の限界から体調変動が起こりやすく、実際の事例でも、突発休が年に数回でもあると、業務評価や職場の人間関係への影響が大きくなっている状況も認められます。しかし、そのような場合でも、育児中や介護中の従業員の多い職場等、突発休を前提とした引き継ぎを意識した仕事の進め方やチーム担当制が導入されていれば、無理なく仕事を継続できる場合もあります。 B 外見から分かりにくい障害:職場のコミュニケーションの重要性  難病等の症状が悪化した場合の症状は疾病により多様ですが、体調悪化の兆し(疲れ、痛み、集中力の低下等)は疾病にかかわらず共通しています。ただし、そのような体調悪化の兆しは外見からは分かりにくく、本人や主治医から正しい情報を得ることが重要です。難病のある人が必要としている職場の理解や配慮の具体的内容を正しく理解できれば、その実施自体は、我が国の多くの職場では決して難しいことではありません。 ア 先入観にとらわれない難病の最新の正しい知識  「難病」という言葉の印象や、症状悪化時の症状等の限られた情報から、「働くことが難しいのではないか」といった誤解を生じやすくなっています。症状が悪化した状況での治療や医療の課題と、症状が安定している状況で職場において理解・配慮すべき課題は異なります。  難病についての誤解や偏見は差別の原因となるだけでなく、難病のある人が差別の懸念から必要な配慮の申出が困難になる等、職場での理解や配慮のためのコミュニケーションの大きな妨げとなっています。職場においては、後述する治療と仕事の両立支援の流れに沿って、主治医から正しい情報を得たうえで、労働者本人と人事労務担当者、産業保健スタッフ、上司等との関係者間で話し合い、関係者ができるだけ納得を得られるような形で対応することが重要です。 イ 体調悪化の兆しの自覚の職場で申出のしやすさ  体調悪化の兆しとして、痛みや倦怠感、疲労や発熱など症状として本人に自覚されますが、そのような症状の有無や程度は外見からは分かりにくいものです。主治医から正しい情報を得たうえで、上司等から労働者本人に声掛けを行うなど、労働者本人が体調の変化について申出をしやすくし、体調管理を確実に行える職場環境を整えることが重要です。 ウ 症状のない場合でも定期的通院等が必要であることへの理解と協力  難病等は病状や体調が安定している場合であっても、完治しているわけではなく、定期的な通院で診察や検査を継続することが不可欠です。特別な検査のために別途通院が必要となる場合もあります。外見からは何も問題がないように見えることから、職場の同僚や上司に通院の必要性が理解されにくく、本人が通院しにくくなったり、職場での人間関係の悪化等の原因にもなったりします。難病のある人が健康かつ安全に働き続けるためには、定期的通院の確保が必要であることについて、必要に応じて上司や同僚に説明する等、理解や協力が得られるようにすることが重要です。 エ 進行性の難病の発症初期から相談しやすい環境づくり  難病等の中には、進行性で現在の医療では進行を止めることが困難な疾病があります。在職中に進行性の難病等を発病しても、通勤や職務遂行等に影響が出る程度に症状が進行するまでには数年〜10年以上かかることが一般的です。現状では、症状がかなり進行してから職場に相談があることが多いのですが、今後、進行性の難病のある人がより早期に職場に相談しやすくし、発症初期に職場に相談があった場合、本人も職場も将来不安から過剰反応することなく、進行の見通しを確認し、現在と当分の間の対応と将来への長期的プランを分けて考えることが重要です。進行の早い時期に職場に相談があれば、長期的視点でのタイムリーな対策も可能であり、在宅勤務の導入等の検討の準備も行いやすくなります。進行に伴う設備改善等や配慮の必要性に応じて、障害者雇用関係施策の活用策についても本人と相談し、医師の意見を確認するとよいでしょう。 C 多様な身体障害等の原因疾患としての難病等  専門的に言うと、「難病等」とは医学的な診断治療の対象である疾病のことであり、一方「障害」とはそれによる生活機能(心身機能、活動、参加)の問題状況を意味します。難病等は多様な身体障害等の原因疾患となり、その一部は障害者手帳制度の対象となります。一方、「難病等による障害」には障害者手帳制度の対象となっていない生活機能の問題状況も多く含まれ、障害者手帳の有無にかかわらず職場の理解や配慮が重要です。代表的な難病で例を示します。 ア 炎症性腸疾病(潰瘍性大腸炎、クローン病)  下痢や下血、腹痛で入院し診断されることが多く、それをきっかけとした退職が多くなっていますが、実際は治療により数か月で症状は安定するため、就業継続(休職と復職)の支援が重要です。小腸や大腸の炎症に対して、手術で腸を切除して身体障害者手帳の対象となっている人もいますが、現在では治療・服薬と自己管理で症状を抑えている人が多く、その場合は障害者手帳の対象になりません。難病の中でも最も就労例の多い疾病です。 イ 自己免疫疾病・膠原病(全身性エリテマトーデス等)  免疫機能が自分自身の体に対して反応してしまい、体の様々な部位で炎症が起こる、女性に多い病気で、様々な種類があります。全身性エリテマトーデスは、その代表的なもので、日光の紫外線に皮膚が過敏に反応したり、過労等がきっかけとなり、湿疹、口内炎、消化器炎、腎臓・心臓・呼吸器等の臓器障害、関節炎、筋肉炎等が多発し、発熱や全身疲労が顕著になりやすいことが特徴です。症状が進行して関節障害等や腎臓機能障害の程度が大きくなった場合では、障害者手帳制度の対象にもなりますが、ステロイド剤等の服薬や自己管理によって症状を抑えている人の多くは障害者手帳の対象ではありません。  重労働はもちろん、運搬等の中程度の肉体労働も、筋肉痛や関節痛が起きやすいため、膠原病のある人たちには苦痛となり得ます。 ウ 重症筋無力症  神経と筋の間の伝達の障害により、普通よりも筋肉が疲労しやすく休憩をとると回復するという特徴の病気です。症状の進行もなく、働いている人も多くいます。筋肉が疲労しやすいため、例えばビンのふたを開けるのに手助けを必要としたり階段を上るのに困難があったり、休憩なく1日働くと、まぶたが落ちてきたり、声がかすれてきたりすることを典型的な症状とします。休憩がないと短時間勤務しかできない人でも、途中で横になれる短時間の休憩を組み込めばフルタイムで働くことができる場合もあり、1日の仕事の組み方や休憩の取り方によって無理なく働けるかどうかが大きく左右されます。これらの症状が重い一部の人の場合、上肢・下肢あるいは視覚障害等で障害者手帳の対象となる場合があります。 エ 進行性の神経筋疾病(パーキンソン病、脊髄小脳変性症等)  パーキンソン病は高齢者に多い病気ですが、その10%程度は40歳未満で発症し若年性パーキンソン病と呼ばれます。症状を一時的に抑える特効薬があり、薬が効いている時には障害のない人と全く変わらないのに、数時間で薬効が切れると体を動かせなくなるという「ON−OFF症状」という特徴があります。10年以上かけて病気が進行し、薬が効きにくくなったり、薬の副作用が現れたりします。周囲に病気を隠してストレスを抱えている人も多くいます。  脊髄小脳変性症は、病気のタイプによっては、より若い年齢での発症があり、発症時が就職活動と重なることもあります。特効薬はなく、運動障害が10〜25年程度かけて、ゆっくりと進行します。  この他、進行性の神経筋疾病には、発症から数年で全身麻痺に病状が進行する場合もあり、症状の軽いうちに主治医や本人と集中的な情報交換を行い可能な対策をとることが重要になります。 オ 多発性硬化症/視神経脊髄炎  多発性硬化症/視神経脊髄炎は、脳や脊髄の中枢の神経の炎症が起こりやすい病気です。様々な部位の神経が炎症を起こすと、対応する様々な感覚(視覚等)、運動機能が障害を受けるため、症状は多様で、炎症の度に障害が悪化し、中年以降に身体障害者手帳の対象となっている人が多くなっています。その一方、最新の治療、服薬や自己注射、自己管理(過労を避ける、保温、栄養等)によって、無症状に近い状態で長期に生活できる人も増えているのですが、障害認定や目立った症状もない状態で、治療や自己管理等を続けられるように、職場での理解や配慮が必要になっています。過労等が症状悪化のきっかけになりやすいため、仕事内容や勤務条件を検討し、休憩をとりやすくし、必要な通院ができるようにして、神経の炎症をなるべく起こさないようにし、後遺症を残さず、障害を進行させないようにすることが大切です。 カ 皮膚疾患(神経線維腫症等)  皮膚疾患である神経線維腫症等では、皮膚の傷つきやすさによる直接の職務遂行上の制限だけでなく、顔面や目立つ外見での腫瘍他の変化により周囲からの「感染するのではないか」等の無理解による制約を受ける場合があります。神経線維腫症は、皮膚等の腫瘍(できもの)や色素班(しみ)を特徴とする病気で、職務遂行に影響するような身体的、精神的な機能障害は基本的になく、病気が感染するおそれもありません。顔面等の腫瘍が大きくなると手術が必要になることがあります。 キ 網膜色素変性症  中途の視覚障害の代表的な原因疾病です。最初は夜間や夕方、薄暗い部屋でものが見えなくなる症状が現れ、その後、一部の視野が見えなくなる等、ゆっくりと視覚障害が進行していくため、通勤時間の配慮等が必要になってくることもあります。  視覚障害の進行には時間がかかるため、退職年齢までに失明するとは限りませんが、状況に応じて視覚障害者用の支援機器等を早めに検討するとよいでしょう。支援機器を活用すれば、たとえ失明しても、文書を読んだり書いたりといった事務的仕事も十分に続けることができます。また、視覚障害関係の団体に相談する等、本人の生活設計や支援機器の訓練や職業訓練等、就業継続を総合的に支えることが大切です。 ク もやもや病  脳のウィリス動脈輪という太い血管の代わりに細い血管が網の目のようにできる病気です。激しい運動をした時や過呼吸になった時に、脳の血流が不足して突然崩れるように倒れる脱力発作が起こりやすく、また、30〜40歳以降では脳卒中が起こりやすくなります。脱力発作は数分でおさまり、脳卒中も軽度のことが多いのですが、発作が重なると、脳に障害が蓄積し、身体の麻痺や言語障害、高次脳機能障害により、障害者手帳の対象となります。発作を起こさない予防的な対策や、発作で突然倒れる危険性を考慮するために、産業医等も入れて仕事内容を検討することが必要です。 ケ 後縦靱帯骨化症  背骨を縦につなぐ靱帯は柔軟性があり、首、胴体、腰を自由に動かすことができますが、これが肥大・骨化して首等のこわばりや痛みが生じ、さらに、骨化が進行し脊髄を圧迫するようになる病気です。病気が進行して、脊髄麻痺と同様の下半身等の麻痺になると身体障害者手帳の対象になります。しかし、そこまで進行していない場合も、首等の痛みや、手足のしびれ等があり、疲労が溜まりやすく、また、転倒しやすく、脊髄損傷を起こしやすいので、仕事内容を産業医等と検討する必要があります。 コ 原発性免疫不全症候群  原発性免疫不全症候群は、体内に侵入した細菌やウイルスを排除しようと働く「免疫機能」が生まれつき機能しない病気です。主な症状は、感染症(風邪、化膿など)にかかりやすいことで、それが肺炎や敗血症等に重症化しやすいことです。免疫機能を高めるための通院への配慮と、その人の免疫機能に無理のない職場や仕事内容に主治医や産業医と相談して留意することで、基本的に就労は十分可能です。具体的には、デスクワークの仕事で人ごみを避けることや日頃から職場の同僚の手洗い・うがい励行や空気清浄器の設置等の協力が必要な場合があります。 (2) 差別禁止と合理的配慮の提供  「難病等による障害」は障害者手帳の有無にかかわらず、障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象です。「難病」についての先入観や偏見によらず、意欲があり適性の高い人材を採用し、本人や主治医とのコミュニケーションと正しい理解に基づき、能力を発揮して継続して働いてもらえる職場づくりの取組が重要です。「難病等による障害」は必ずしもすべてが障害者手帳制度や障害者雇用率の算定の対象にはなりませんが、適切な仕事内容と職場の理解・配慮があれば無理なく活躍できる難病のある人の公正な雇用はすべての事業主の法的義務です。 @ 「難病」の正しい知識の普及と差別防止  難病医療の進歩は急速であったため、正しい最新の知識の普及が十分でなく、「難病=働けない、雇用できない」という先入観が一般的にみられます。そのような先入観による採用拒否や退職勧告、その他の不利な扱いを懸念して、難病のある人の中には、病気を隠して働くことも多くあります。このような状況は、本人の治療と仕事の両立が困難になるだけでなく、企業の健康や安全への配慮上も問題となる悪循環をつくっています。  そのような悪循環を断つためには、募集採用時だけでなく、就職後も社内の従業員向けに、治療と仕事の両立支援や障害者差別禁止等の基本方針を明示し、難病のある人が差別をうける心配なく、職場で必要な配慮について相談しやすい環境を整えることが重要です。難病というだけで不採用にしたり就業禁止にしたりすることは、合理的理由のない差別的取扱となります。  また、障害者雇用率に算入されない難病のある人について「雇用のメリットがない」等の発言が企業や支援者から聞かれることがあるようです。「障害や難病のある人は働けない」「企業の負担が大きい」という先入観を除き、障害者が職業人として活躍する機会を保障し、その能力を正当に評価するという、障害者差別禁止や合理的配慮提供の義務化の趣旨を再確認することが重要です。 A 募集採用時の合理的配慮  難病のある人は、就職活動において、就職後に必要となる配慮を確保するための説明と、意欲や能力のアピールの両立が困難になっています。難病のある人が無理なく活躍できる仕事は一般求人のデスクワーク等にも多いことから、難病のある人が一般求人に応募することはまれではありません。難病のある人の募集採用時には、難病のある人が安心して病気や必要な配慮について開示できる環境整備や、十分なコミュニケーションのための時間を確保することが合理的配慮になり得ます。 ア 治療と仕事の両立支援等の方針の明示  偏見や差別のおそれから、難病や配慮について就職活動で説明するかどうかを迷っている人が多くいます。治療と仕事の両立に向けて職場の理解と協力の必要性を認識していても、募集採用時の企業側の「難病」への反応を予測できず迷う人が多いのが現実です。このような人たちは「健康状態」を一般的に聞かれても回答に困っています。  現在、難病に限らず、がん等の治療と仕事の両立支援の普及が進んでいます。がんや難病は誰もがかかりうる病気です。企業として、治療と仕事の両立支援に取り組んでいたり、障害者差別禁止や合理的配慮提供に取り組んでいるならば、それを募集採用時に明示すること自体が合理的配慮になり得ます。優れた人材を確保するためには、そのような方針を明示した方が有利であるという考え方もあります。 イ 能力や適性と必要な配慮を理解するための時間確保  難病のある人の中には、採用面接時に、病気のことばかりを聞かれて、適性や意欲をアピールできなかったという経験を持つ人がいます。適性や意欲等に加え、必要な配慮等について十分に理解するために面接時間を延長することも合理的配慮となり得ます。なお、仕事とは関係のない病気自体について聞く必要はありませんし、プライバシーや人権の観点からも不適切です。  ハローワーク等からの紹介の場合、支援者が事前に主治医等に病気の内容や必要な配慮等について確認を行っている場合もあります。そのような支援者が面接に同伴することを認めることも、理解を進めるための合理的配慮となります。  また、面接だけで判断が困難と感じる場合でも、職場実習、職場体験、障害者トライアル雇用制度等を活用することで、仕事による負荷や疲労、休憩や休日による体調の維持等について、職場で調整を進めるとともに、難病のある人の主治医等とも疾病管理上の情報交換も可能となり、本人、職場、支援者等の納得につながる採用への合理的配慮となります。 B 就職後の合理的配慮  「(1)難病等による障害の特徴」で記したように、難病のある人の治療と両立した就業継続のためには、無理なく活躍できる仕事内容や、休憩や通院等がしやすい職場での調整が本質的に重要です。そのためには、外見からは分かりにくい症状等も含め本人等との情報交換が重要です。 ア 休日・休憩・通院等の条件のよい仕事内容  難病のある人が働きやすい身体的負担の少ない仕事は、障害者雇用に特化した仕事に限らず、デスクワークやパート等のむしろ一般の仕事に多くあります。本人の適性に適合し職業人として活躍できる業務配置が、個別の弱点への配慮に先立って重要です。  単に本人の弱点にだけ注目し、例えば、休憩・休暇時や特定の業務を上司や同僚がその都度カバーするだけでは、「職場の迷惑になっている」と本人の心理的負担が大きくなったり、「なぜ、あの人だけが特別扱いなのか」と職場の人間関係が悪化しやすくなり、離職の大きな原因となります。また、単に仕事の負担を減らすように業務調整をすると、本人は「閑職に追いやられた」と仕事上の不満を高めやすくなります。 イ 上司・同僚の病気の正しい理解  治療と仕事の両立に関係する職場の人間関係のストレスは、難病のある人に多い離職原因です。休憩や通院、個別の業務調整等は、病気についての正しい知識がなければ、周囲の同僚には理解が困難で不公平感を抱く原因となることがあります。後述する治療と仕事の両立支援での主治医等からの情報活用や、日常の職場で本人が説明しやすくしたり、上司や同僚が疲労等について声かけを行う等、適切な理解と協力ができる職場環境の整備が重要です。 ウ 仕事内容や勤務時間等の配慮や調整  職場での健康管理・通院・休憩がしやすいこと、通院等への出退勤時刻や休憩等の職場配慮・調整が可能なこと、体調悪化につながる無理な仕事内容を避ける必要等については、後述する治療と仕事の両立支援において、職場と本人で納得できる両立支援プランをつくるとよいでしょう。  その一方で、多くの難病のある人は、繁忙期の通院や休憩の確保、職場の上司・同僚との理解を促進しやすいコミュニケーションの取り方等に悩んでいます。障害者職業生活相談員としては、職場風土の醸成だけでなく、本人の相談にも対応するとよいでしょう。例えば、「繁忙期でも必要な通院を自覚的に行うことは結局は就業が安定して職場のためになる」「できないことばかりを言うのではなく、病気でも何ができるかを積極的に上司等とも相談して考えていく」「職場の配慮については、お互い様であっても、感謝の気持ちを伝えるようにする」といった助言は、障害者職業生活相談員からもあるとよいでしょう。 エ 休職後の復職支援  難病は働き盛りでの突然の発症も珍しくなく、最初の激しい症状で入院し、難病という診断・告知に本人も企業も情報不足のまま自主退職等となり、その後数か月で症状が安定し、十分復職が可能であったことが分かったという例が少なくありません。したがって、従業員が難病で入院・休職となった時には、早めに主治医等から治療の見通しや就労可能性について情報を収集するとともに、会社の休職規程等を踏まえ、不必要な退職を防止し、スムーズな復職につなげる支援が重要です。 オ 弱点よりも得意分野を中心とした業務配置  難病のある人は職務上の経験を積み、判断力等の管理的な仕事能力の高い人も多くいます。症状が進行する病気で身体機能が障害されても、知的能力には影響がない病気も多くあります。情報通信技術の進歩により、通勤の負担の少ない働き方や、仕事の進め方にも多くの可能性があります。10年以上かけてゆっくりと症状が進行する病気も多く、本人の得意分野を活かせるように、本人、主治医、職場等でよく情報交換し、長期的視野で働き方の多様化に向けた就業規程の改正も含め、支援機器の導入、キャリア計画や職業訓練、テレワークの導入等、多様な方策を検討するとよいでしょう。 (3) 治療と仕事の両立支援の効果的活用  難病のある人への合理的配慮の提供のためには、難病の症状による仕事への影響や必要な配慮事項を正確に理解する必要があります。難病医療は日進月歩であり、また難病による症状は多様かつ個別的であるため、正確な情報は専門の主治医から得る必要があります。主治医、職場、産業医等のコミュニケーションを促進し、治療と仕事の両立支援をスムーズに実施するためには、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」3)に沿うとよいでしょう。がんの両立支援が先行していますが、難病についても対象となっており、2020年3月からはその参考資料としての「企業・医療機関連携マニュアル」の事例編にも難病が追加されています。 @ 主治医への勤務情報提供と意見書の要望  両立支援の枠組みでは、まず、労働者である患者本人から勤務情報を主治医に提供し、両立支援のためという目的を明確にして本人の同意の下で主治医の意見書を求めます。仕事内容や職場の状況が分からなければ主治医としても適切な判断は困難です。また、職場としての両立支援の取組に必要な情報や疑問点を明確にして意見を求めることで、必要な情報を得ることができます。特に、外見からは分かりにくい難病の症状や留意事項については、専門の医師から具体的な情報提供を得ることが、職場の理解と協力を促進するために不可欠です。主治医の意見を求める際には、機微な健康情報を取り扱うことになるので、産業医等がいる場合には、産業医等を通じて情報のやり取りを行うとよいでしょう。 ア 特に禁止や留意すべき業務等  疾病の種類や重症度により、個別の機能障害や、失神・脱力発作、突然の不動状態、免疫低下、皮膚の障害等、個別の症状による、本人の健康状態の悪化、職場での安全確保の観点を踏まえて、特定の業務を禁止したり、特別な留意をしたりする必要がある場合があります。 イ 定期通院等のために休暇や出退勤時刻の調整の必要性  たとえ体調がよく、特に問題がない場合でも、定期的検査や服薬の調整、医療的な相談等は、急な体調悪化や入院、休職、障害の悪化等を予防するために重要な意義があります。専門病院では休日診療が受けられないことも多く、受診予約日に無理なく通院ができるような配慮が必要な場合もあります。 ウ 就業中の休憩や疾病管理等の配慮の必要性  疲労や痛み等は本人の自覚症状以外では分かりにくいので正しい理解が重要です。 エ 症状の進行や治療の見通し  進行性の疾病なのかそうでないのか、進行性の場合は現在の仕事がいつごろまで継続可能なのか。進行性でない場合は、どの程度症状が安定しているのか。休職後の復職については、どれくらいの期間で復職が可能なのか、原職復帰は可能なのか。これらについて専門の主治医から必要な情報を得ることが必要です。 A 主治医の意見書を踏まえた両立支援プランの作成  主治医の意見書を踏まえて、職場と本人で、具体的な両立支援プランを検討します。その内容は話し合いの結果を共有するものとして、職場として、本人、所属長、人事労務担当者、産業医等の同意を得て作成します。  治療の方針や見通しを確認し、休職後の職場復帰や体調管理と両立できる仕事内容や勤務条件の調整スケジュール、職場としての具体的な就業上の配慮事項、フォローアップ面談のスケジュール、その他、同僚への説明の方針、突然の体調悪化にも対応できるように、チームで引き継ぎを意識した仕事の仕方にすること、上司が異動する時には引き継ぎをすること等、話し合いの結果を文書として確認し共有します。  両立支援プランは、本人や職場の状況の変化に応じて、見直すことも必要です。特に、治療の見通しが分かりにくい状況の場合は、当初の両立支援プランについて一定期間後に見直すことを前提として作成することが適切な場合もあります。 B 専門的支援や制度の活用  治療と仕事の両立支援は、就職後の従業員を対象に実施されるもので、職場の関係者としての産業医・保健師・看護師等の産業保健スタッフや医療機関の関係者、さらに、地域の産業保健総合支援センターが専門的支援を提供します。また、両立支援コーディネーターがこれらの関係者の連携を促進します。  一方、難病のある人の就職採用時においても、早めに治療と仕事の両立支援を想定した、本人や支援機関との情報交換が重要です。ハローワーク等からの職業紹介の場合には、その前提として、主治医等の確認が済んでいる場合もあります。  また、難病法により、各都道府県には難病相談支援センターが設置され、ハローワークや医療・保健・福祉機関、患者会などとの連携により就労を含めた相談や支援を行う拠点ができています。また、ハローワークには、難病患者就職サポーターが配置され、その他、地域障害者職業センター、医師や医療ソーシャルワーカー等も難病のある人の就労支援を行っています。 (春名 由一郎) 【参考文献】 1)障害者職業総合センター:「難病のある人の雇用管理マニュアル(2018) 2)障害者職業総合センター:「難病のある人の就労支援のために」(2016) 3)厚生労働省:「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(2019) 4)治療と仕事の両立支援ナビ https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/ 5)障害者職業総合センター:「難病のある人の職業リハビリテーションハンドブックQ&A」(2021) 2 高次脳機能障害  高次脳機能障害は、脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や脳外傷(事故や転倒)等がきっかけとなり生じる認知機能の障害です。職業生活を送っている私たちにとって、いつ、誰が、どこで受障してもおかしくない身近な障害です。  しかし、高次脳機能障害は脳機能の障害であるが故に外見上その特性が見えにくく、やる気や性格の問題といった誤解を受けてしまう可能性もあります。職業生活を共にする者が基本的な障害特性を理解しておくことは、職場内での誤解に端を発した悪循環を防ぐことに繋がります。また、高次脳機能障害は、周囲の環境によってもその状態像が大きく変わる場合があります。周囲の関わり方やちょっとした配慮がきっかけで職業生活に適応できるようになることも少なくありません。  ここでは、高次脳機能障害の基本的な特性及び職場でできる基本的な配慮について述べます。 (1) 高次脳機能障害とは  高次脳機能障害の状態像は様々です。脳の損傷部位の違いにより認知機能の障害の出方が異なる場合があるだけでなく、受障年齢、生活(就業)環境等の影響によって様々な課題や支援ニーズがあります。1人ひとりの特性や状況を理解した上で、個人に合った対応や配慮を検討していくことが重要です。 @ 高次脳機能障害の定義  医療等の領域で高次脳機能障害とは、脳の損傷や機能不全によって生じる認知機能(言語、思考、記憶、行為、学習、注意、判断など)の障害全般を指します。ここには失語症、失認、失行症が含まれ、認知症、発達障害を含む場合もあります。  一方、「行政的」には、それまで福祉サービスの活用ができなかった高次脳機能障害者を支援することを目的に、「高次脳機能障害支援モデル事業」により作成された診断基準に基づく定義があります。その診断基準には「現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である」と記されています。身体障害として認定可能な失語症や、他の枠組みでの支援が推奨された発達障害、認知症等が除外されているところに違いがあります。  このように、高次脳機能障害には医療的な定義と行政的な定義があり、用語が示す範囲に違いがあることから、注意する必要があります。 A 高次脳機能障害の原因  高次脳機能障害の原因は様々ですが、代表的なものは、脳血管障害、脳外傷、低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍などになります。この中でも多いのは、脳血管障害と脳外傷です4)。  脳血管障害は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血であり、中高年齢者に多くみられますが、若年者でもみられる場合があります。脳外傷は、事故や転倒が原因で脳に損傷を受けたものを指します。誰にでも受障の可能性があり、場合によっては、幼いころの事故が原因という場合もあります。 B 高次脳機能障害の発症から就職(復職)までの経過  高次脳機能障害の原因である脳血管障害や脳外傷等を発症した際、多くの場合は入院治療や緊急手術を受けます。生命を取り留めた後も、しばらくは意識がぼんやりとして意思疎通が難しく、生活の大半に介助が必要であることが珍しくありません。時間の経過やリハビリテーション治療により、少しずつ心身の機能を取り戻していきます。  このように、治療やリハビリテーションを受け、主治医と相談をしながら就職(復職)を目指します。活用可能な社会資源がある場合には、医療リハビリテーションの後に職業リハビリテーションを受ける場合もあります。リハビリテーションにかける期間は、障害の程度や活用可能な社会資源の内容、復職先の就業規則等の規定、本人の家計の事情等によっても異なります。  なお、リハビリテーションに時間をかけたとしても、脳の損傷がごく軽微であった場合を除き、発症・受傷前の身体機能や認知機能を完全に取り戻すことは難しい現状があります。大半の人は後遺症とつきあいながらその後の社会生活を送っていくことになります。苦手になったことを補いながら職業生活を始める/再開するためには、本人の努力だけではなく、周囲の理解に基づく環境の整備と適切な配慮が必要です。 C 様々な障害特性  高次脳機能障害において比較的多く見られる認知機能の障害特性を以下に示します。いずれも、外見からは分かりにくく、本人自身も自覚しにくい特性のため、本人も周囲も戸惑うことがあります。同時に、職業上の代表的な課題と基本的な対応についても記述します。これらの障害特性は、どれか1つだけが特異的に生じることよりも、いくつか組み合わさって広範に見られることが多くあります。なお、どの障害特性がどの程度生じるのかというのは、脳の損傷部位や受傷の程度、周囲の環境によっても異なるため、1人ひとり違います。本人を通して医療機関や就労支援機関からの情報を得るなどし、理解を深めることが重要です。 ア 注意障害  注意障害があると、注意を「続ける」、「適切に向ける」、「切り替える」、「配る」ことに障害が生じます。職業生活上の場面では、集中力が続かずミスが生じる、必要な情報に注意を向けることが苦手で説明のポイントが押さえられない、注意を上手く切り替えることが苦手なため言葉をかけられても気が付かない、注意が次から次に切り替わるため話題が点々としてまとまらない、複数の情報に上手く注意を配ることが苦手なため人の話を聞きながら要点をメモすることができない、などの課題が生じます。  脳機能の障害ですので、「気を付けるように」と注意を促すという対応だけでは上手くいきません。注意力を適切に維持できる環境やスケジュール及び作業内容を見つけ出し調整することや、ミスを防ぐ方法を本人と一緒に検討して試してみることが重要です。例えば、周囲の気になる刺激(騒音、人通りなど)が少ない場所で仕事をしてもらう、休憩をこまめにとれるようスケジュールを設定する、複雑な作業は集中しやすい時間帯(人により異なるが、例えば午前中)に行うようにするなどの環境やスケジュールの設定の工夫で課題が軽減することがあります。作業内容に関しては、同時並行作業を少なくする、他の人のチェックが入る作業を担当してもらうなどの方法があります。また、本人には、チェックリストを活用してもらい手順の抜けを防ぐ、入力した文字や数字は必ず声に出して読んでもらう、逆からも読み上げてもらうなどのミスを防ぐ具体的な確認方法を実践してもらうなどが有効な場合があります。 イ 半側空間無視  左右どちらかの特定の空間方向に対する注意の障害です。多くの場合は、左側のみ注意が向かなくなります。このような場合、本人から向かって右側にある物や情報は認識できても、左側にある物や情報を見落としてしまうという問題が生じます。なお、本人はこの障害に気づいていない場合も多いです。  職業生活場面では、作業台の左(右)側にあるものを見逃してしまう、書類の左(右)側に気が付いておらず読み飛ばしているなどが考えられます。  基本的な対応として、重要な物や情報を、注意が向けられなくなった方向(多くの場合は左側)と逆の方向(左側の注意障害の場合は右側)に配置するよう工夫することが重要です。手順書や道具は本人から向かって右(左)側に置くなどです。 ウ 記憶障害  記憶とは、日々の出来事や情報を「取り込む」→「頭の中で保持する」→「必要な情報を思い出す」という一連の過程を指します。記憶障害とは、脳の損傷によりこの一連の過程が上手く機能しなくなる障害です。すなわち、日々の出来事や情報を「取り込めていない」、「忘れる」、「思い出せない」といった状態が生じます。なお、多くの場合は受障後の出来事や情報を覚えることが苦手になりますが、受障前の出来事や情報を(部分的に)思い出せないという場合もあります。障害の程度は様々で、全く覚えていないという場合もあれば、曖昧ではあるが覚えているという場合もあります。  職業生活場面では、仕事の手順やルールを覚えられない場合があります。指示や説明の内容を記憶することが苦手なため、「何度指示しても同じところを忘れてしまう」、「何度説明しても同じ質問を繰り返してしまう」、「以前依頼したことを忘れている」という例があります。  基本的な対応は、覚えなくてもできるように工夫することです。大きく分けると、高次脳機能障害者本人ができる工夫と、周囲の人ができる工夫があります。  本人ができる工夫として、メモを取ることがあります。しかし、必要なことを自発的にメモが取れるようになるまでには時間がかかることから、何度も周囲から言葉をかけ習慣をつけてもらう必要があります。また、メモした場所や、メモしたこと自体を忘れてしまうこともあり、せっかくメモを取っても参照できない場合があります。したがって、メモの書き方のルールを決めることやメモを見るための工夫をする必要があります。メモを参照するための工夫として、普段から見る習慣があるところにメモをする方法や、スマートフォンやタブレット端末等の電子機器を活用する方法があります。電子機器は、アラーム機能等を活用することで、メモの参照が必要なタイミングに気がつくことができるため、有効な場合があります。  周囲の人ができる工夫として、覚えなくてもできるような職場環境の配慮があります。例えば、本人の1日の作業スケジュールをホワイトボード等に書いて示す、連絡事項はメモやメールで渡す、重要事項は普段から見るところに貼っておく、マニュアルを作成する、仕事で使う道具の場所が分かるように保管場所にラベルを貼りできるだけ変更しないようにするなどが考えられます。 エ 遂行機能障害  遂行機能とは、目的を持った一連の活動を適切に行うための能力です。私たちは、物事を成し遂げる際、目標を立て、計画し、実行した上で、その結果が上手くいっているのかどうか評価しつつ行動を修正するということを頭の中で行いながら物事を遂行しています。遂行機能障害とは、これらの一連の手順が上手く出来なくなってしまう状態を指します。遂行機能は非常に高度な能力のため、日常生活を送る中では障害が目立たない場合もあります。就職(復職)して初めて問題が明らかになるということも少なくありません。  遂行機能障害は、職業生活の様々な場面で影響します。例えば、1週間後を期限に資料の作成を依頼されたとします。依頼を受けると、通常は、時間の見積もりを立て、他の仕事との優先順位も考えて遂行します。また、途中で順調に進んでいるかどうかを評価しながら、もし順調に進んでいないと感じた際には、仕事の仕方や優先順位などを再考し、取捨選択などの問題解決も図りながら遂行していくことで、締め切りまでに、一定の水準の成果を上げることができます。ここに挙げた、時間の見積もりを立てる、優先順位を立てる、よりよい問題解決策を検討する、臨機応変に遂行している計画を変更するといった能力は、遂行機能によるものです。したがって、これらが上手くできないと、締め切りに間に合わない、要領が悪い、計画性が無い、融通が利かないといった印象をもたれることがあります。  基本的には、できる限り臨機応変な判断を本人が行う場面を減らすため、ルール化、マニュアル化、ルーチン化することが効果的です。普段と違うことがあったら〇〇に相談するというルールを決めるなど、イレギュラーなことが起こったときの対応も含めてルール化しておくと良いでしょう。 オ 社会的行動障害  対人場面においてみられる障害を総称して社会的行動障害と呼びます。高次脳機能障害の影響により、感情のコントロールや相手の気持ちの読み取りが苦手、場面にふさわしくない言動をとってしまう、周囲に依存的になる、自分から進んで行動を開始できないなどの特徴が生じる場合があります。  このような対人場面での特徴は、個人の性格や気持ちの問題とみなされ、職場での人間関係の問題に繋がりやすいのですが、受障後に起こっている場合には障害の影響を考える必要があります。  基本的には、どのような状況で、問題となる特徴が見られやすいのかということをまずは把握することが必要です。例えば、忙しい場面、慣れない場面、疲労が蓄積したとき、特定の作業場面などで見られるといった傾向がつかめる場合があります。把握する際は、様子を観察するだけでなく、本人と話し合ってみると、きっかけが理解できる場合もあります。なお、話し合いをする際は、職場のルールを一方的に説明するのではなく、本人の気持ちや考えをよく聴き、一緒に対応策を検討する姿勢で対応することが望まれます。  このようにして傾向を把握した上で、できる限りそのような状況が起こらないようにスケジュールの変更や環境調整を行うもしくは本人にこれらの状況を避けるための工夫を検討してもらうといった対応を行います。ただし、職場での対応では手に負えない場合や、メンタルヘルスの問題が疑われる場合には、医療機関や就労支援機関などに相談することが必要です。 カ 失語症  言語を話す、聴く、読む、書くことが困難になる障害です。いくつかのタイプがありますが、代表的なものとして、発話は流暢だが言葉の理解が上手くできないタイプと、言葉の理解は良好だが発話が上手くできないタイプがあります。  職業生活で言語を扱う場面は非常に多く、様々な場面で影響が考えられますが、コミュニケーションの取り方を工夫することで、仕事に適応できる可能性があります。  多くの場合、長く複雑な言葉や文章でやり取りするよりも、単純で短い単語や文章でやり取りした方が上手く意思疎通できます。また、なるべくゆっくり話しかけ、返答にも十分な時間を与えること、はい・いいえで答えられる質問をすることでやり取りしやすくなります。また、話し言葉よりも絵や文字を使った方が理解しやすく、話し言葉を使う際はジェスチャーを交えた方が理解しやすい場合が多いようです。 キ 失認症  視覚・聴覚などの感覚そのものに異常はないのに、対象となる物が何なのかわからなくなる障害を指します。視覚失認では、見えている物が何なのか分からない、顔が認識できない、ものの位置や配置、距離が分からないなどの特性が、身体失認では触れたものが何なのか分からないなどの特性が、聴覚失認では聞いた音が何の音なのか分からないなどの特性が見られます。  失認の種類や職場環境によって問題が生じる場面が異なるため、まずは問題が生じる場面を特定し、1つ1つ対応策を検討する必要があります。基本的には、障害されていない感覚で補う方法を検討します(例えば、視覚失認がある場合は、触覚や聴覚で理解できるよう工夫する等)。 ク 失行症  運動障害があるわけではないのに、動作が稚拙になる、道具が上手く使えなくなるなど、受障前はできていた行為が上手く行えなくなる障害です。職務内容や環境によって問題になることが異なるため、医療機関や就労支援機関と相談して対応を検討すると良いでしょう。できない動作にはあまりこだわらず、できることに着目した現実的な方法や職務内容を検討することが重要です。 D 受障後の様々な経験や環境の影響  高次脳機能障害は後天的な障害であり、受傷による急激な変化を経験します。多くの場合、この変化を受け入れることには時間とエネルギーを要することとなります。変化を受け入れていくには、本人が様々な経験をとおして自身の現状を理解していくことに加えて、周囲の人々に受け入れられているかどうかといった環境的な側面が大きく影響します。  受障時の年齢によっても事情は異なります。例えば、幼少期に受障した場合、社会人になるころには、障害と付き合いながら社会経験を積んだ期間が長くなることから、障害について自分なりに受け入れ、必要な対処法などが身についている場合もあります。一方で、障害者として生活する中でネガティブな経験を積み重ね、自信や意欲の低下を招いている可能性もあります。  社会人になってから受障した場合でも、長年のキャリアを積んだ時期に受障した場合と、入社後まもなく受障した若年層の場合では、状況が異なることが考えられます。例えば、キャリアを重ねてから受障した場合、就職(復職)の際に、これまで経験した職種(業務内容)を継続するのか、転換するのかという課題への対応が重要になります。一方、若年層の場合、積み重ねてきた職業的なスキルの積み重ねが少ないことから、受障後に新しく積み重ねなければならないところが大きく、職場適応に苦労する場合もあると考えられます。  これらは一例であり、必ず示したとおりの経過をたどるというわけではありませんが、受障前と受障後の経験が状態像に大きく影響することを理解しておくことは、本人の特性をより深く理解することに繋がります。 (2) 支援制度 @ 障害者手帳  高次脳機能障害者は、個々の障害特性や状況、事情により、異なった種類の手帳を所持している場合があります。  まず、「行政的」な定義による高次脳機能障害に該当する場合は、精神障害者保健福祉手帳の申請ができます。ただし、申請に必要な主治医の診断書は、発症・受傷(初診)から6ヶ月以上経過してから作成することとされています。  身体障害者手帳は、失語症がある場合や、重複障害として片麻痺、視野障害などの身体障害がある場合に申請ができます。  最後に療育手帳ですが、発達期(概ね18歳まで)に受障しており、日常生活に支障が生じているという場合には対象になる場合があります。  なお、障害者手帳は本人の意志により申請を行うものです。本人に取得を奨める場合には、そのメリット・デメリットを丁寧に説明し、本人自ら選択できるようにする必要があります。 A 医療機関・支援機関 ア 医療機関  高次脳機能障害を受傷した直後は必ず医療機関にかかっていますが、継続的に通院をしているとは限りません。なお、受傷直後は外科手術が可能な医療機関にかかりますが、リハビリテーションの段階では当該施設のある機関に転院しているケースが多く見られます。また、脳血管障害等が原因の場合は、生活習慣病に係る治療を受けるため、内科等の機能のある医療機関を受診している場合もあります。医療的な知見から職場での対応について相談したい場合には、本人を通して主治医に相談してみると良いでしょう。 イ 就労支援機関  地域障害者職業センターや、障害者就業・生活支援センター等の就労支援機関で、高次脳機能障害のある従業員に関する相談をすることができます。高次脳機能障害者本人がもともと利用している場合はもちろんですが、現時点では利用していない場合でも職場定着又は新規雇い入れ、復職に係る雇用管理等の相談をすることができます。ただし、本人への直接的な支援を行うには、本人の同意が必要です。 (3) 職場でできる基本的な配慮  個別の障害特性に対する対応は前述しましたが、高次脳機能障害全般に共通する配慮事項もあります。 @ 脳疲労の影響を考慮する  脳損傷の影響により脳が疲れやすくなっている場合があります。程度は様々ですが、高次脳機能障害に広く見られる特性です。  脳が疲れると、ボーっとする、あくびが多くなる、全体的に普段より行動が遅くなる、注意力散漫になりミスが増える、いらいらした様子になるなどの問題が生じることがあります。高次脳機能障害は脳の障害ですので、脳が疲れると様々な症状に影響します。したがって、普段と比較して障害特性の影響を強く感じたときには、まず脳疲労を疑い対応を考えると良いでしょう。  基本的な対応として、疲労の原因となっている事柄を見つけ、取り除きます。例えば、仕事内容の難易度が疲れの原因になっていると考えられた場合は、休憩を入れる、違う仕事を任せるなどの対応を取ります。その他にも、周囲の雑音等の環境的な要因が疲労の原因になっている場合もありますので、その場合は可能な範囲で集中しやすい配置などを検討します。  脳疲労が普段から生じやすい場合は、休憩のタイミングや時間を検討すると良いでしょう。作業に集中していると疲れに気づかないこともあります。疲れを感じてから休むのではなく、定期的にとるよう工夫が必要です。また、休憩の取り方を工夫することで変わることもあります。休憩時間に深呼吸やストレッチをしてみる、昼休みに短時間の睡眠をとるなど試してみるのも有効な手段となり得ます。  なお、悩みや不安などから睡眠や食事が十分にとれていないといった可能性もありますので、そのような兆候を感じた場合には、本人に主治医や就労支援機関、家族等との相談を促す等の対応が必要です。 A どんな工夫をすればできるかを一緒に考える  高次脳機能障害者への職場での関わり方として押さえておきたいのは、脳機能の改善を促すのではなく、どんな工夫をすればできるかを一緒に考えるということです。例えば記憶が苦手な場合に「きちんと覚えて」と促したり不注意な場合に「よく見て」と促しても、本人は障害のため対応が困難です。それよりも、手順どおりに作業をするためのメモの取り方を一緒に考えたり、確実に作業を行うための確認方法を一緒に考えたりすることが肝要です。  工夫の内容は、本人が行う工夫もあれば、周囲の者ができる工夫もあります。詳細は前述した障害特性に対する対応のとおりですが、例えば、予定を忘れずに遂行するための工夫は、本人がメモを取り参照するという方法もあれば、周囲がスケジュールを書いて渡すという方法もあります。このように、お互いにできることを見つけて工夫していくということが重要です。  また、本人1人だけでは適切な方法を見つけられない場合もありますので、周囲の者が一緒により良い方法を考える場があると効果的です。ただし、この際、あくまでも本人自身がやりたいと思う方法を選択することが重要です。本人が納得して選んだ方法でなければ、継続することは困難だからです。 B 自他評価のギャップの生じやすさを理解する  高次脳機能障害者と働くと、本人の自己評価と周囲の評価にギャップがあるとしばしば感じるかもしれません。この原因の1つは、自身の考えや行動を第3者の視点で評価するという脳機能の損傷の影響があります。このため、自身の障害にも(部分的に)気づいていない場合があります。例えば、記憶が苦手であることは自覚していても、不注意であることには気が付いていないということがあります。また、障害があること自体は理解していても、実際に生じている(または生じるであろう)現象と結び付いていないという場合もあります。したがって自身に記憶障害があり、メモを取る必要があると開示しているにもかかわらず、仕事の手順の説明を受けるときにメモを取る様子がないといったことが起こります。  このような自他評価のギャップや障害に対する気づきの問題が生じる理由には、心理的な影響もあります。高次脳機能障害を受障すると、急に以前できていたことができないという現実に直面することになります。このような状況下で心理的に強い不安を引き起こすため、無意識的に障害を否認するという場合があります。このような否認の状態を解消するには、周囲に受け入れてもらい、障害があっても認められるという肯定的な経験を積むことが必要です。  もう1つ自他評価のギャップを生じさせる要因として社会環境的な要因があります。例えば、受障後の社会経験の少なさや、周囲の反応などが考えられます。高次脳機能障害を受障してから就職(復職)する直前まで、長らく家庭と病院を行き来する生活を送っていたというケースも多々あります。そのような生活環境の中だけでは、仕事に必要な能力の変化に気づくことは難しいでしょう。このような場合は、職場で段階的に経験を積みながら、少しずつ時間をかけて自身の状態を理解してもらうことが必要です。そのため、周りが焦らないようにすることが重要です。また、就職(復職)後は、職場での立場なども変化することが多いと思われます。周囲にどのように受け入れられるのか、自身がどのようにふるまえばよいのかということに気を使い、上手く自己開示できないこともあります。  このように、自他評価のギャップが生じる背景は様々であり、これを完全に把握することは難しいかもしれません。脳機能の障害の影響ということを主眼に置きつつ、心理的な背景や社会的な背景もありうることを理解しようとする姿勢が重要です。少なくとも、本人に現実を突きつけるといった方法は上手くいかないことが多いと考えられます。本人を認める言葉かけを行う、できていないところの指摘だけでなく対応策を一緒に考えるなどを意識的に行う必要があります。 C 重複することが多い障害を考慮する  高次脳機能障害は脳機能の障害であることから、損傷部位によっては認知機能の障害だけでなく身体障害やてんかんが生じる場合があります。 ア 身体機能の障害  代表的な障害として、右又は左の上下肢の運動麻痺である片麻痺、温度や痛みなどの感覚が低下する感覚障害、視野の一部が欠損する視野障害などがあります。認知機能の障害と同時に、身体的な障害の影響を考慮した職務配置の工夫や通勤経路又は時間帯への配慮が必要な場合もあります。 イ てんかん  脳損傷が原因でてんかん発作が起きる場合があります。てんかんがある場合には、継続的な服薬が重要であることから、医療機関に定期的に通いやすいよう休暇を取得しやすくするなどの配慮が必要な場合もあります。また、運転等の危険を伴う業務がある場合には、主治医等の意見を参考に職務内容を検討する必要もあります。 D メンタルヘルスの問題を考慮する  高次脳機能障害者は、うつや不安を抱える場合が多いことが知られています。脳損傷の直接の結果としてこれらの症状が出現する場合と、日常生活や社会生活でのストレスが関係している場合の両方が考えられます。気がかりな場合は、産業保健スタッフや医療機関への相談を勧めると良いでしょう。 (4) 最後に  ここに述べたように、高次脳機能障害の状態像は多様で、外見上分かりにくい障害であるという点は、対応の難しさを感じるところかもしれません。しかし、コミュニケーションの仕方や環境、担当職務の範囲を少し変えることで状況が改善できる場合があります。社内だけで解決策を検討するのは難しい場合もあると思いますので、ぜひ就労支援機関にご相談ください。  冒頭で述べたように、高次脳機能障害はいつ、誰が、どこで受障してもおかしくない障害です。高次脳機能障害者が働きやすい環境を考えることは、誰もが安心して働ける職場を考えることに繋がるという視点で取り組むことも重要だと思われます。 (竹内 大祐) 【参考文献】 1)中島 八十一(2006).高次脳機能障害の現状と診断基準 中島 八十一・寺島 彰(編) 高次脳機能障害ハンドブック―診断・評価から自立支援まで(pp.1-20)医学書院. 2)中島 八十一. (2006). 診断基準. In 高次脳機能障害支援コーディネート研究会監修, 高次脳機能障害支援コーディネートマニュアル(pp. 28-39). 中央法規. 3)HaggerF.B., RileyA.G. (2017). The social consequences of stigma-related self-concealment after acquired brain injury. Neuropsychological Rehabilitation. 4)本田 哲三(2016)高次脳機能障害者実態調査結果, 本田 哲三(編)高次脳機能障害のリハビリテーション―実践的アプローチ 第3版 医学書院 5)O’Keeffe, F., Dockree, P., Moloney, P., Carton, S., & H. Robertson, I. (2007). Awareness of deficits in traumatic brain injury: A multidimensional approach to assessing metacognitive knowledge and online-awareness. Journal of International Neuropsychological Society, 13. 13-49. 6)Ownsworth, T., Clare,L., & Morris,M. (2006) An integrated biopsychosocial approach to understanding awareness deficits in Alzheimer's disease and brain injury. Neuropsychological Rehabilitation, 16, 415-438. 7)Prigatano, G. P., & Sherer, M., 2020.Impaired Self-Awareness and Denial During the Postacute Phases After Moderate to Severe Traumatic Brain Injury. Front Psychol, 11. 8)飛松 好子・浦上 裕子(編) (2016). 社会復帰をめざす高次脳機能障害リハビリテーション 南江堂 ◇ 高次脳機能障害者の雇用事例(卸売業・小売業) 〜障害者雇用職場改善好事例の入賞事例から〜  在職中に高次脳機能障害を受障した社員の職場復帰に際して、配置転換及び職務の見直しが必要となった。受障前、顧客先での製品修理に従事していた経験を活かし、現場の後方支援業務を担当してもらうこととした。高次脳機能障害の影響により、記憶することが苦手であったため、顧客からの電話による修理依頼に対して抜けが生じないよう、業務スケジュールノートを用いて、依頼内容、経過を記録し、参照することを徹底した。また、これまでの経験を活かし、現場のサービス員に必要な部品の助言を行うなど、後進の育成や技術の継承の面でも貢献している。   3 若年性認知症 (1) 若年性認知症とは 認知症は一般的には高齢者に多い病気ですが、年齢が若くても認知症になることがあり、65歳未満で発症した場合には「若年性認知症」とされます。65歳以上で発症する老年期認知症と病気としては同じであり、医学的には大きな違いはありません。しかし、「若年性認知症」として区別するのは、この世代が働き盛りで家庭や社会で重要な役割を担っており、病気によって支障が生じると、本人や家族だけでなく、社会的な影響が大きいためです。さらに、若年性認知症の人とその家族は、病気の特性と社会的な背景から孤立しやすく、就労や家事、育児などの複雑な課題に直面しやすく、適切な支援を受けないまま、疲弊している場合も少なくありません。 @ 認知症の定義と症状 認知症は、脳の神経細胞が十分に働かなくなるために起こる病気です。脳が縮んで小さくなったり、血管が詰まったり切れたりして脳が変化し、記憶などの知的な働きが低下していきます。記憶以外にも、時間や場所の感覚(見当識)、計画的に段取りよく物事を進める力(実行機能、遂行機能)、判断力、言葉をうまく使う、ものを見分けるなどの働きが障害されます。その結果、日常生活や仕事などの社会生活がうまく送れなくなります。 認知症になると、新しい記憶、つまり最近の出来事が思い出せなくなります。しかし、以前のことや身についた記憶(手続き記憶)は思い出せます。また、見当識の障害により、道に迷ったり、「今日は何日?」と何回も聞いたりすることがあります。さらに、実行機能が障害されると、料理のように幾つかのことを同時に段取りよく行う作業がうまくできなくなりますが、野菜を切ったり、皿を並べたりという1つ1つのことは今まで通りにできます。職場においても、同時に複数の作業をすることは苦手になりますが、1つ1つ、順番に行うことはできます。これらの症状の現れ方は、原因疾患によっても異なり、個人差もあります。原因疾患によっては、暴言や幻覚・妄想などの認知症の行動・心理症状と言われる症状が現れることがあります。特に前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症では、認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が目立つとされています。 認知症の原因が変性疾患(アルツハイマー病など)の場合は、いつの間にか始まって、ゆっくりと進んでいくことが多いです。症状の進み方は人によって様々です。進み方に影響する要因としては、病気の原因疾患や治療法だけでなく、周囲の病気への理解や対応の仕方など、本人を取り巻く環境も重要です。 A 若年性認知症の実態 若年性認知症の全国疫学調査(2020年)によると、全国の若年性認知症の人は約35,700人と推計され、人口10万人(18〜64歳)当たりの有病率は50.9人でした。老年期認知症では、年齢階級が5歳上がるごとに有病率が倍増する傾向がみられますが、若年性認知症においても40歳代以降で、このような傾向がみられました。また、性別別では男性が多く、発症時が65歳未満の人の最初の症状に気づいた年齢は54.4歳であり、働き盛りの年代での発症が多いです1)。 日常生活自立度は、V(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが日中を中心として見られ、介護を必要とする:Va、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが夜間を中心として見られ、介護を必要とする:Vb)が約3割と最も多く、次いでU(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭外で多少見られるが、誰かが注意していれば自立できる:Ua、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭内でも多少見られるが、誰かが注意していれば自立できる:Ub)が約2割でした。基本的な日常生活動作では、歩行と食事では約6割が自立していましたが、排泄、入浴、着脱衣では自立は5割以下であり、2割以上の人が全介助を必要とし、介護者の負担が大きいことが明らかになりました2)。 B 原因となる疾患 アルツハイマー型認知症が最も多く、次いで、血管性認知症、前頭側頭型認知症、外傷による認知症、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症となりました(図1)。以前の調査では血管性認知症が最多でした3)。アルツハイマー型認知症と血管性認知症の順位が入れ替わった要因としてはいくつか考えられますが、1)脳血管障害に対する予防啓発が進んだこと、2)アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患による認知症の診断精度が向上したことなどが挙げられます。 さらに、脳血管障害に基づく若年者の認知機能障害を認知症としてではなく、高次脳機能障害として取り扱い、そのための制度やサービスにつなげる傾向にあることも影響しているかもしれません。 図1 若年性認知症(調査時65歳未満)の原因疾患の内訳 出典:粟田主一「わが国における若年性認知症の有病率と生活実態調査」(2020) C 老年期認知症との違い 若年性認知症の人は老年期認知症の人と比べ、図2のように異なった特徴があります。 図2 若年性認知症の人の特性と直面する状況や課題 若年性認知症の人の支援で押さえておきたいポイント 若年性認知症は高齢の認知症といくつか違う点があります! ・発症年齢が若いため早期診断が遅れる ・認知症の症状を軽く判断されやすい ・家族を含めて経済的な課題を抱えるケースが多い ・心理的に不安定な状態になりやすい 出典:社会福祉法人仁至会 認知症介護研究・研修大府センター、「市町村における若年性認知症施策の推進のための手引き」  https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center2/20230403/o_r4_tebiki.pdf(令和5年12月25日) (2) 若年性認知症の人の雇用の現状 若年性認知症の人は現役世代特有の課題を抱えることがあります。それは、本人や家族の問題であるだけでなく、勤労者や社会人としての役割を果たす上で社会に対する影響が大きいことです。疾患の進行により退職すると経済的問題が生じるだけでなく、居場所がなくなり、社会的な役割が果たせなくなるなど個人の尊厳に関わることにもなります。 認知症は進行する疾患であり、治療薬はあるものの根本治療にはいたっておらず、診断されれば、仕事ができなくなると考える人も少なくありません。しかし、一旦退職してしまうと、再就職ができたとしても、同等の収入額を維持することは困難であることから、可能な限り現在の職場で継続して勤務することが望ましいといえます。しかし、若年性認知症の人は他の病気の人と比べて離職の発生率が高いこと4)、様々な事情により退職せざるを得ない人が多いことが明らかとなっています5)6)。 一方、雇用する企業側の若年性認知症に対する理解や就労継続する上での配慮などについては、十分であるとは言い難い状況です。小長谷らは、平成29年度に全国の従業員500人以上の企業6,733か所に対して、「企業等における障害者(若年性認知症を含む)の就労継続支援に関する調査」を行い、938件(有効回収割合:13.9%)の有効回答を得ました(表1、表2、図3、図4)7)。その結果から若年性認知症に関する認識は、「知っていた」と「聞いたことはある」を合わせると96.2%と高く、そのうち、「聞いたことはある」が半数以上でした。業種別では、製造業+卸・小売業で「知っていた」の割合が他の2業種に比べ低く、従業員数別では大きな違いはありませんでした。 従業員に「若年性認知症」「若年性認知症の疑い」「軽度認知症障害1」の人がいる企業は、以前にいた企業が39社(4.2%)、現在いる企業が26社(2.8%)であり、合わせて63社(6.7%)(2社で重複)でした。業種別では、公務が最も多く23社(2社は重複)、次いで製造・卸・小売業15社でした。従業員別では2,000人以上の企業が最も多く、31社(2社重複)でした。また、若年性認知症の人などが以前にいたと回答した企業では、その人数はいずれも1人ないし2人、現在いると回答した企業では、若年性認知症と軽度認知障害の人は、1人ないし2人であり、若年性認知症疑いの人は1人ないし数人でした。 (3) 若年性認知症の人に対する雇用上の配慮 若年性認知症の従業員を把握した経緯の中では、会社からの受診勧奨が家族からの相談や申告によりも多いことが分かっています8)。これは一般的に職場での業務は、家庭生活と比較して高度な能力が求められるため、家庭生活よりも職場内の方が、早期から本人の変調に気付かれることが多いためと考えられます。また、若年性認知症の人の中には,症状が軽い時から業務遂行の一部に困難さを感じ、病気を認識している者もいます9)。従業員の健康管理に関わる産業医や保健師などは、本人の心理面についても配慮し、サポートを行う必要があると思われます。 認知症は発症後、すぐに全てのことができなくなるわけではありません。若年性認知症の本人が記憶障害を補完するためにメモやICレコーダーなどを使用し、自身で工夫しながら就労を継続している場合もあります。また、周囲の環境が整うことで働くことも可能です。会社の若年性認知症の従業員への対応の中で、業務内容については、「他の業務・作業に変更した」が約6割で最も多く、次いで「労働時間の短縮・時間外労働削減」「管理職業務からの変更」が同じ割合(約2割)でした。その他としては「休職とした」が多く、「退職した」も見られました。課題としては、「本人の状況を把握し、今後の対応を検討するため、医療機関の受診時の同席を求めているが、本人の同意が得られていない」「仕事を継続するために、周囲にどこまで開示して理解を得るかが難しい」ことが挙げられました。取り組みとしては「通勤方法を家族と相談し、車の運転をさせない」「業務は必ず2人以上で実施する」「営業部門から人事部へ異動」「ジョブコーチの協力により業務変更」などでした。 報酬・雇用に関しては、「作業能力低下でも報酬維持した」が6割以上で最も多く、次いで「話し合いで合意退職」でした。課題として「鉄道業なので危険な作業もある。配置換えも納得しない人もいる」「通勤中及び勤務中の本人の安全確保及び事故防止」が挙げられ、取り組みとしては、「契約期間が満期となったら、契約更新を行わない事とする」「休職とせず業務継続を図り給与を維持したが、1年後、症状進行により給与を見直し、降級を実施した」「作業内容を変更したが、業務定着が不可能となり、合意退職した」などがありました。 表1 若年性認知症の認知度(n=938) 全体 上段:実数 (下段):% 知っていた 聞いたことはあった 知らなかった 無記入 429 (45.7) 474 (50.5) 33 (3.5) 2 (0.2) 業 種 別 製造業+卸・小売業 (n=241) 医療・福祉 (n=138) 公務 (n=190) 87 (36.1) 86 (62.3) 117 (61.6) 140 (58.1) 47 (34.1) 72 (37.9) 13 (5.4) 4 (2.9) 1 (0.5) 1 (0.4) 1 (0.7) 0 (0.0) 従 業 員 別 999人以下 (n=358) 1000〜1999人(n=279) 2000人以上 (n=300) 151 (42.2) 127 (45.5) 151 (50.3) 192 (53.6) 144 (51.6) 137 (45.7) 14 (3.9) 7 (2.5) 12 (4.0) 1 (0.3) 1 (0.4) 0 (0.0) 表2 若年性認知症の従業員の有無(n=938) 全体 上段:実数 (下段):% いない 以前いた 現在いる 把握していない 無記入 385 (41.0) 39 (4.2) 26 (2.8) 488 (52.0) 2 (0.2) 業 種 別 製造業+卸・小売業 (n=241) 医療・福祉 (n=138) 公務 (n=190) 104 (43.2) 79 (57.2) 38 (20.0) 8 (3.3) 4 (2.9) 14 (7.4) 7 (2.9) 1 (0.7) 11 (5.8) 120 (49.8) 54 (39.1) 129 (67.9) 2 (0.8) 0 (0.0) 0 (0.0) 従 業 員 別 999人以下 (n=358) 1000〜1999人 (n=279) 2000人以上 (n=300) 199 (55.6) 125 (44.8) 61 (20.3) 10 (2.8) 12 (4.3) 17 (5.7) 5 (1.4) 5 (1.8) 16 (5.3) 144 (40.2) 135 (48.4) 208 (69.3) 0 (0.0) 2 (0.7) 0 (0.0) 1 軽度認知症障害(MCI):一部の認知機能が低下しているが認知症とは言えず、日常生活や社会生活には支障がない状態をいう。 図3 相談機関の認知度(複数回答)(n=938) 図4 制度、サービスの認知度と利用状況(複数回答)(n=938) (4) 相談機関や制度・サービスの認知度 若年性認知症の人の就労継続支援に関する相談機関に関する知識では、約5割の企業で、「市町村の相談窓口」を把握しており、次いで、「地域障害者職業センター」が約4割でした。「その他」として、「従業員に認知症サポーターがいる」「認知症110番」「民生委員」などが挙げられました。 若年性認知症と診断された従業員が利用できる制度やサービスに関しては、知っていると答えた企業が最も多かったのは「障害者手帳」であり7割以上でした。次いで、「高額療養費制度」「障害年金」「傷病手当金」「確定申告による医療費控除」「介護保険制度」「障害者雇用率制度」が6割以上でした。一方で、これらの制度を実際に利用している企業は少なく、最も多かった「傷病手当金」でも約1割で、無記入の企業が多くみられました。「その他」の制度として「成年後見制度」が挙げられました。 (5) 接し方のポイント10) 認知症の症状が進行すると、次第に言葉で意思を伝えることが難しくなり、対応に苦慮するでしょう。言葉によるコミュニケーションは私たちの日常で最も重要であり、言葉が通じないと、認知症の人とのコミュニケーションは難しいと考えてしまいがちです。しかし、言葉以外でもコミュニケーションは可能であり、認知機能が低下しても、この「非言語的コミュニケーション」は保たれているのです。また、単に情報を伝えるだけでなく、コミュニケーションを通じて、お互いを信頼し、仲間意識を分かち合い、その人の存在を認めるという意味もあります。 具体的には、認知症の人は注意障害により、集中できないことが多いため、きちんと向き合い、アイコンタクトをとることで、話し手に集中してもらいます。目の高さを合わせ、名前を呼んだりして注意をひきます。周囲が雑音などでうるさかったり、照明が明るすぎたりする場合はなるべくそれらの原因を取り除きます。静かな環境に移動してもよいでしょう。また、言葉だけでのコミュニケーションが難しくなってきた場合には、質問や会話の内容に関連した実際の品物を示すとよいでしょう。言葉に身振り(ジェスチャー)を付けたり、わかりやすい文字で書いたり、スマートフォンなどの画面に表示したりすることも有効です。視覚以外にも、音やにおいなどが理解の手掛かりになることもあります。伝える側の態度や顔の表情も大切です。表情が重苦しかったりすると、認知症の人は敏感に反応します。また、話し方も早口にならないよう、ゆっくりと穏やかなトーンで話します。 会話の時には、ものの名前がなかなか出てこないということがよくあります。質問の時には「おやつは何がいいですか?」といった開放型の質問には「さあ・・なんでもいいです」としか答えられなくても「お饅頭とケーキはどちらがいいですか?」といった選択型の質問には答えられます。わかりやすい言葉を使うこと、会話の途中で否定したり、中断しないこと、事実と異なることを言ったら、さりげなく自然に訂正したりすることなどを心がけると、会話が円滑にできるようになります。 認知症の人とのコミュニケーションは、その人の尊厳を取り戻し、自信をつけるようなポジティブな言葉かけが効果を生みます。 (6) 今後の課題 近年、障害のある人、がんなどの慢性疾患の治療を受けている人などが働きやすいよう、企業における治療と仕事の両立支援が重要視されています。適切な治療を受けながら仕事を続けることができれば、労働者にとっても企業にとってもメリットがあります。令和 4年度の診療報酬改定において、治療と仕事の両立を推進する観点から、療養・就労両立支援指導料の対象疾患に「若年性認知症」が追加されたことで、若年性認知症の人の両立支援のさらなる推進につながると期待されます。また、企業においては障害者雇用について一定の理解があり、対応が可能となってきています。若年性認知症に関しても障害者と捉えて、障害者雇用の面からも就労継続に対応できる体制がとられることが望まれます。一方で、若年性認知症は人数が少なく個別性が高いため、企業内での事例の蓄積が難しいと推測されます。そのため、企業においては、若年性認知症に対する理解がまだ乏しく、従業員に該当者がいた場合の対応に苦慮すると考えられます。 我が国では若年性認知症の人の視点に立った施策が進められており、若年性認知症の人のニーズに合った関係機関やサービス担当者との調整役として、若年性認知症支援コーディネーターが全都道府県と一部の指定都市に配置されています11)。若年性認知症支援コーディネーターは若年性認知症の本人や家族、企業関係者などに対して、無料で相談内容の確認や整理、適切な専門医療へのアクセス、利用できる制度・サービスの情報提供、関係機関との連携調整などを通して、就労継続等の支援を行います。その支援事例は蓄積されつつあり、さらなる活用が望まれます。 また、今後、企業に対して、疾患としての認知症や若年性認知症について理解を深める取り組みを進め、若年性認知症の従業員の早期発見や早期支援体制の構築につなげることが重要であると考えられます。 (齊藤 千晶) 【引用文献】 1)粟田主一:わが国における若年性認知症の有病率と生活実態調査.精神医学62(11)、1429-1444(2020) 2)小長谷陽子、渡邉智之:全国15府県における若年性認知症者とその家族の生活実態.Dementia Japan 30(3)、394−404(2016) 3)朝田隆:総括研究報告.厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究)「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」平成18年度〜平成20年度総合研究報告書、 1-21(2009) 4)Sakata N, Okumura Y:Job loss after diagnosis of early-onset dementia: a matched cohort study. J Alzheimer's Dis 60(4)、1231-1235(2017) 5)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:若年性認知症者の就労継続に関する研究U−事業所における対応の現状と支援のあり方の検討−.調査研究報告書No.111(2012) 6)Ritchie L, Tolson D, Danson, M:Dementia in the workplace case study research: understanding the experiences of individuals, colleagues and managers. Ageing & Society; 38(10)、2146-2175(2018) 7)小長谷陽子:企業等における若年性認知症の人の就労継続の実態、厚生の指標66(8)、18−24(2019) 8)齊藤千晶、小長谷陽子:企業における若年性認知症の従業員への対応と課題.厚生の指標69(5)、7-14(2022) 9)Chaplin R, Davidson I. What are the experiences of people with dementia in employment ? . Dementia; 15(2): 147-161(2016) 10)小長谷陽子 編著:本人・家族のための若年性認知症サポートブック.中央法規 東京 (2010) 11)齊藤千晶:若年性認知症支援コーディネーターの配置状況と活動内容.新情報センター機関誌vol.111、23-31(2023) Q&A【問18】難病等による障害のうち、事業主の障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象となるのは、障害者手帳のある人のみである。(解答と解説はP290に記載しています) 第4章 障害者の雇用促進施策の体系 第1節 障害者雇用対策の現状 第2節 障害者の雇用の促進等に関する法律の体系 第3節 障害者の範囲等 第4節 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 第5節 障害者雇用率制度の概要 第6節 障害者雇用納付金制度の概要  第7節 障害者の雇用の安定のための措置等 第1節 障害者雇用対策の現状 1 障害者雇用対策の体系  障害の有無に関わらず、現代社会において社会的・経済的に自立するうえで、雇用・就業機会の確保は必要不可欠です。  障害者雇用施策については、「共生社会の実現」という理念の下、障害者基本法に基づく「障害者基本計画」(令和5年度〜令和9年度)、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)、同法に基づく「障害者雇用対策基本方針」(令和5年度〜令和9年度)等に基づき、障害者がその適性と能力に応じて、可能な限り雇用の場に就き、職業を通じて社会参加することができるよう、障害者雇用率制度をはじめとした各種施策を展開しているところです。  平成30年4月から、障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第46号)の施行により、精神障害者が雇用義務の対象となりました。これを踏まえて、障害者雇用率は、民間企業の障害者雇用率が2.2%(国及び地方公共団体は2.5%、独立行政法人等の特殊法人は2.5%、一定の教育委員会は2.4%)となり、さらに、令和3年3月1日より、民間企業の障害者雇用率が0.1%引き上げられ、2.3%(国及び地方公共団体は2.6%、独立行政法人等の特殊法人は2.6%、一定の教育委員会は2.5%)となりました。  法定雇用率は、障害者雇用促進法に基づき、少なくとも5年毎に見直しを行うこととされており、令和5年度から民間企業の障害者雇用率は2.7%(国及び地方公共団体は3.0%、独立行政法人等の特殊法人は3.0%、一定の教育委員会は2.9%)に引き上げられています。ただし、計画的な雇入れができるよう、民間企業は令和5年度中は2.3%に据え置き、令和6年4月から令和8年6月までは2.5%、その他の機関についても民間企業と同様の幅で段階的な引上げを行うこととしています。   2 障害者雇用対策の現状 (1) 雇用機会を確保するための対策の積極的推進 @ 障害者雇用率達成指導の推進 ア 障害者の雇用を促進する施策として障害者や雇用率制度を設けており、その積極的かつ厳正な運用に努めています。障害者実雇用率が低く、障害者雇用が進んでいない企業に対して、障害者雇入れ計画の作成を命じ、同計画の実施状況が遅れている企業については適正実施勧告を行うなど、早期に障害者雇用率を達成するよう指導しています。   また、こうした一連の指導にもかかわらず、障害者の雇用状況に一定の改善がみられない企業に対しては、その企業名の公表を行っています。平成3年度に4社、平成14年度に1社、平成15年度に1社、平成16年度に2社、平成17年度に2社、平成18年度に2社、平成19年度に1社(再公表)、平成20年度に4社、平成21年度に7社(うち1社は再公表)、平成22年度に6社(うち2社は再公表)、平成23年度に3社(うち1社は再公表)、平成24年度及び平成25年度に0社、平成26年度に8社、平成27年度に0社、平成28年度に2社、平成29年度に0社、平成30年度に0社、令和元年度に0社、令和2年度に1社、令和3年度に6社、令和4年度に5社(うち3社は再公表)の企業名公表を行いました。 イ 障害者雇用率未達成の企業に対しては、個別指導や障害者雇用促進セミナー等の集団指導、特例子会社の設立の要請を行っています。また、特に改善の遅れている企業については、厚生労働省が直接指導を行っています。 ウ 視覚障害者については、特定身体障害者雇用率制度により、あんまマッサージ指圧師の職種については、その70%以上を両眼の視力の和が0.08以下の視覚障害者を雇用するよう努めなければならないこととされており、当該雇用率未達成の企業又は機関に対しては、特定身体障害者雇入れ計画制度又は同採用計画制度等により、雇用率の達成を促進することとされています。 A 職業相談、職業紹介の強化等 ア ハローワークでは、求職登録中の障害者の状況を十分に把握、整備するとともに、これらの求職者に関する情報について雇用率未達成企業を中心として事業主に対し積極的に提供し、障害者の適格な職業紹介及び実効性のある雇用率達成指導につなげています。 イ 障害者と事業主との集団面接を積極的に実施することにより、障害者と事業主との接触の場を拡大し、障害者の雇用の一層の促進を図っています。 ウ 重度障害者の職業紹介に当たっては、総合的な職業評価を行う地域障害者職業センターとの連携を一層密にすることにより、その雇用の促進と安定に努めています。 エ 障害者の安定的な雇用を確保するためには、雇用の促進にとどまらず、職場適応の促進を図ることが極めて重要です。このため、特に、過去において離転職を繰り返している障害者、はじめて就職した障害者又は長期にわたって離職していた障害者、年齢が比較的若い障害者等に対する継続的な指導の実施に配慮し、障害者の職場適応の促進に努め、全体的な障害者雇用の改善に資することとしています。 B 助成措置の活用  障害の重度化、多様化に対応し、きめ細かな措置が講じられている障害者雇用納付金制度に基づく各種助成措置、重度障害者等について特に手厚い賃金助成が行われる特定求職者雇用開発助成金等を積極的に活用し、重度障害者等の雇用の促進と安定に努めています。 (2) 障害種類別対策の推進  障害者全般の雇用状況については相当改善されてきているものの、なお、重度の身体障害者、知的障害者及び精神障害者等については、その雇用は必ずしも十分に改善されていない状況にあり、重複障害の場合も含め、次のように障害種類別の特性に応じたきめ細かな対策を講じています。 @ 身体障害者対策の推進  身体障害者については、その雇用の促進と安定を図るための条件整備を進めるため、次のような措置を講じています。 ア 職域の拡大を図るため各種就労支援機器・ソフトウェアに関する情報提供や貸出し等による普及・啓発を推進しています。また、特例子会社制度による重度障害者雇用企業の設立促進等、その雇用の拡大のための諸施策を推進しています。 イ 視覚障害者については、その雇用の促進を図るため、前述の特定身体障害者雇用率制度の積極的運用に努めるほか、雇用マニュアルや動画等による啓発資料を開発、活用するなどにより、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の資格を活かしたヘルスキーパー(企業内理療師)や老人福祉施設における機能訓練指導員としての雇用について啓発活動を推進するとともに、近年のIT技術の普及等を背景とした事務的職業への就職等、職域拡大に努めています。また、中途で視覚障害を受けた在職者の雇用継続を図るため、事業主の理解を促進するとともに、視覚障害者支援団体、眼科医等と連携して的確な支援の実施に努めています。 ウ 中途障害者については、事業主との協力による職務再設計、助成金を活用した支援を実施し、職場復帰の促進に努めています。 エ 昭和54年度から国立職業リハビリテーションセンターにおいて身体障害者を対象とした職業訓練が実施され、昭和62年度からは、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにおいても実施されています。また、それ以外の障害者職業能力開発校や一部の一般の職業能力開発校においても当該訓練が実施されています。 オ 職業訓練、職場実習、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援、ハローワークにおける職業紹介等を実施するほか、就職に向かう次の段階へ着実に移行するため、個々の障害者のニーズに応じて、職業上の課題の把握とその改善や職業に関する知識習得及び社会生活技能等の向上を図るための職業準備支援を、全国の地域障害者職業センターにおいて提供しています。 カ 平成14年度から、地域障害者職業センターにおいて、円滑な就職・職場適応を支援するため、職場に職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣し、きめ細かな人的支援を実施しています。さらに、平成17年10月からは職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金を創設し、社会福祉法人等や事業主が自らジョブコーチを配置し職場適応援助を行う際の助成を実施していました。同助成金は平成27年4月9日を以て終了し、国により障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)が支給されていましたが、令和3年3月31日を以て終了し、令和3年4月1日から障害者雇用納付金制度に基づく助成金(職場適応援助者助成金)として、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が支給しています。 キ 視覚障害者に対する職業訓練の技法については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する国立職業リハビリテーションセンターでの視覚障害者の職業訓練技法の成果をまとめた「職業訓練実践マニュアル 重度視覚障害者編U〜企業との協力による職業訓練等〜」(平成23年度)を作成しました。 ク 身体障害者を含む障害者のうち、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対してキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)を支給しています。その他、障害者雇用に関する各種助成金については「第6章第2節 事業主に対する援助制度」をご参照ください。 A 知的障害者対策の推進  知的障害者については、その雇用の促進と安定を図るための条件整備を進めるため、次のような措置を講じています。 ア 平成10年7月1日から雇用率制度を拡充し、知的障害者を含む障害者雇用率を設定しています。 イ 職業準備支援(@のオ参照) ウ 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援(@のカ参照) エ 平成14年度から国立職業リハビリテーションセンター及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにおいて知的障害者を対象とした職業訓練が実施されています。また、それ以外の障害者職業能力開発校においても、当該訓練が実施されており、平成16年度からは一部の一般の公共職業能力開発校においても知的障害者等を対象とした職業訓練が実施されています。 オ 知的障害者を含む障害者のうち、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対してキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)を支給しています。その他、障害者雇用に関する各種助成金については「第6章第2節 事業主に対する援助制度」をご参照ください。 B 精神障害者対策の推進  精神障害者については、その雇用の促進と安定を図るための条件整備を進めるため、次のような措置を講じています。 ア 平成30年4月から雇用率制度を拡充し、精神障害者を含む障害者雇用率を設定しています。 イ 職業準備支援(@のオ参照) ウ 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業(@のカ参照) エ 精神障害者に対する雇用支援を強化するため、平成17年10月から、全国の地域障害者職業センターにおいて、精神障害者及び事業主に対して、主治医との連携のもと、職場復帰、雇用促進及び雇用継続のそれぞれの雇用の段階において専門的な支援を実施しています。 オ ハローワークでは、障害特性に応じて専門的な就職支援を実施するとともに、事業主に対する精神障害者等の雇用に係る課題解決のための相談援助を行う「精神・発達障害者雇用サポーター」を配置しています。 カ 平成14年度から国立職業リハビリテーションセンターにおいて精神障害者を対象とした職業訓練が実施され、平成20年度からは、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにおいても実施されています。   障害者職業能力開発校における障害種類別入校者数は、現状、精神障害者の割合が約4割(令和4年度実績)と最も高いところであり、増加傾向にある障害者の求職申込件数のうち特に精神障害者等の求職申込件数の伸びが大きいことから、引き続きこれに対応した訓練の実施が求められています。このため、国立障害者職業能力開発校のうち先導的な職業訓練を実施している国立職業リハビリテーションセンター及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンターが、他の障害者職業能力開発校及び一般の職業能力開発校に対して指導技法の提供等の支援を行う専門訓練コース設置・運営サポート事業を実施しているところです。本事業の実施により、例えば、宮城、埼玉、千葉、大阪にある障害者職業能力開発校や一部の一般の職業能力開発校において精神障害者等専門訓練コースが設置されるなどの成果をあげています。 キ 精神障害者に対する職業訓練の技法について、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する国立職業リハビリテーションセンターでの精神障害者の職業訓練技法の成果をまとめた「職業訓練実践マニュアル精神障害者編U〜企業との協力による職業訓練等〜」(平成25年度)を作成しました。 ク 精神障害者を含む障害者のうち、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対してキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)を支給しています。その他、障害者雇用に関する各種助成金については「第6章第2節 事業主に対する援助制度」をご参照ください。 ケ 各労働局において、障害者とともに働く一般労働者が精神障害・発達障害の特性等について正しく理解し、職場での応援者となってもらうよう「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座(一般労働者向け講座)」を開催しています。 C その他障害者対策の推進  身体障害者、知的障害者、精神障害者には該当しないものの、発達障害、難病、高次脳機能障害等、何らかの機能障害があるために長期にわたり職業生活に相当の制限、著しい困難を伴う場合は、障害者雇用促進法上の障害者として職業リハビリテーションの措置を中心とした施策の対象となっています。  このうち、自閉症やアスペルガー症候群等の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達障害者については、発達障害者支援法の施行(平成17年4月)も踏まえ、その雇用の促進と安定を図るため、次のような施策を講じ、発達障害者に対する支援の充実に努めています。 ア 発達障害者の支援者向けツールの作成等   (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する障害者職業総合センター職業センターにおいて、平成16年度から発達障害者に対する支援技法の開発に着手し、ガイドブック「発達障害を理解するために〜支援者のためのQ&A〜」(平成17年3月)を作成しました。   また、平成17年度から「ワークシステム・サポートプログラム」を実施し、発達障害者に対する専門的支援を通じて、事業主を含めた就労支援を行う担当者の参考となるハンドブック「発達障害を理解するために2 〜就労支援者のためのハンドブック〜」とリーフレット「発達障害について理解するために〜事業主の方へ〜」(平成24年3月)を作成しました。   近年では、実践報告書「リラクゼーション技能トレーニングの改良」(令和3年3月)、実践報告書「在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援」(令和4年3月)、支援マニュアル「発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発」(令和5年3月)等の成果物を作成しました。 イ 事業主向け発達障害者の雇用管理マニュアルの開発   発達障害者に対する事業主の理解の促進、障害特性を踏まえた的確な雇用管理ノウハウの事業主への普及・啓発を図るため、平成17年度において、事業主向け雇用管理マニュアルの開発を目的とした発達障害者雇用促進マニュアル作成委員会を設置し、「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」(平成18年3月)を作成しました。 ウ 職業準備支援(@のオ参照) エ 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援(@のカ参照) オ 発達障害者に対する職業リハビリテーション支援技法の開発   発達障害者の雇用促進に資するため、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する障害者職業総合センターにおいて発達障害者の就労支援に関する研究を行うとともに、発達障害者に対する職業リハビリテーション技法の開発及びその蓄積を図っています。 カ 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)   発達障害や難病のある人の雇用を促進し職業生活上の課題を把握するため、発達障害者や難病のある人をハローワーク等の職業紹介により常時雇用する労働者として雇い入れ、雇用管理に関する事項を把握・報告する事業主に対する助成を行っています。 キ 発達障害者に対する職業訓練   発達障害者を対象とした職業訓練の円滑な実施のため、平成18年度より(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に発達障害者に対する職業訓練の実践研究会を設置し、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにおいて、試行的な職業訓練を実施し、この成果を踏まえ、平成20年度には同センター及び国立職業リハビリテーションセンターにおいて、発達障害者を対象とした職業訓練を本格実施しています。また、国立職業リハビリテーションセンター及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンターが、他の障害者職業能力開発校及び一般の職業能力開発校に対して指導技法の提供等の支援を行う専門訓練コース設置・運営サポート事業の実施により、例えば、埼玉、千葉、京都にある障害者職業能力開発校や一部の一般の職業能力開発校において発達障害者等専門訓練コースが設置されるなどの成果をあげています。 ク 発達障害者に対する職業訓練の技法については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでの発達障害者の職業訓練技法の成果をまとめた「職業訓練実践マニュアル 発達障害者編V〜企業との協力による職業訓練等〜」(平成24年度)を作成しました。 ケ 発達障害者への職業能力開発支援   (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校能力開発研究センター(現・基盤整備センター)において、発達障害者の職業訓練から就労促進及び就労継続を支援するため、平成20年度から平成21年度にかけて「テクノロジー(支援技術)を活用した発達障害者の就労促進・就労継続に向けた支援等に関する調査研究」を実施し、「テクノロジーを活用した発達障害のある人の就労マニュアル」(平成21年度)を作成しました。 コ 難病のある人の雇用促進   難病のある人の雇用の促進と安定を図るため、難病者に係る調査・研究を実施し、その結果をふまえ、以下の実務上の課題に対応できるようにするためのハンドブック等を作成しています。  ・難病のある人の就労支援のために(平成28年6月改訂)  ・難病のある人の雇用管理マニュアル(平成30年3月)  ・難病のある人の職業リハビリテーションハンドブックQ&A(令和3年3月)  ・難病のある人の就労支援活用ガイド(令和3年3月)  ・始まっています!難病のある人の就労支援、治療と仕事の両立支援(令和3年3月)   また、難病者の円滑な就職、職場適応に向けて、職業準備支援(@のオ参照)、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援(@のカ参照)を行っています。   さらに、平成25年からハローワークに難病に関する知識を持つ「難病患者就職サポーター」を配置し、ハローワークでの相談や地域の関係機関への誘導を実施する他、難病相談・支援センターからハローワーク等への誘導などを実施しています。 サ キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)   発達障害、難病及び高次脳機能障害を有する者を含む障害者のうち、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対してキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)を支給しています。その他、障害者雇用に関する各種助成金については「第6章第2節 事業主に対する援助制度」をご参照ください。 (3) 重度障害者対策の推進  重度の障害者の就職は極めて困難な場合があるので、その雇用の促進を図るため、雇用率制度上の特例等の措置が講じられています。  各企業の雇用率の算定等に当たっては、雇用されている重度身体障害者又は重度知的障害者はその1人をもって身体障害者又は知的障害者を2人雇用しているものとして取り扱います(ダブルカウント)。さらに、重度身体障害者又は重度知的障害者である短時間労働者についても1人として雇用率にカウントしています。 (4) 職業リハビリテーションの推進(第4章第2節2参照) @ ハローワークに求職申込みを行うすべての障害者を登録し、求職申込みから就職後のアフターケアまでケースワーク方式により一貫した職業紹介、職業指導等を行うこととしています。   また、各ハローワークにおいては、障害者雇用の一層の促進を図るため、障害者求職情報を広く収集、整備し、求人者等のニーズに応じてこれらの情報を提供しています。 A このような障害者の職業紹介、職業指導を専門に行うため、現在、主要なハローワークに、障害者担当の就職促進指導官、就職支援ナビゲーター(障害者支援分)、精神・発達障害者雇用サポーター等を配置するとともに、聴覚障害者の就職指導をきめ細かく行うため、手話協力員を配置しています。 B 障害者の職業訓練は、障害の態様等に応じて各種の職業訓練が実施されています。障害者職業能力開発校(19校)においては、一般の公共職業能力開発施設において職業訓練を受けることが困難な重度障害者等(職業訓練上特別な支援を要する障害者)に重点を置いた職業訓練を実施しています。この重点的に受け入れるべき重度障害者等の範囲は、障害程度の重度化・多様化等の変化に伴い、支援内容や障害者の範囲も変化していることから、逐次見直しを行っているところであり、平成26年度においても「重度知的障害者」「知的障害及び身体障害の重複障害であって、特に配慮を必要とする者」を新たに加えること等を内容とする見直しを行いました。また、平成30年度、令和元年度の2年間において実施した、一般の公共職業能力開発施設に精神障害者等を対象とした訓練科を設置して訓練を行うモデル事業により得られた知見・ノウハウ等を普及するとともに、一般の公共職業能力開発校の既存の訓練科に精神障害者等が入校するケースもあることから、精神障害者等の受入れに係る対応力を強化する事業を実施しています。   さらに、企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等の地域の多様な委託訓練先を活用し、個々の障害者に対応した内容で実施する委託訓練を平成16年度から全都道府県において機動的に実施しています。   また、国立の障害者職業能力開発校や委託訓練においては、在職中の障害者に対する職業訓練も実施しています。 C 障害者の職業リハビリテーションについては、ハローワークにおいて職業指導、職業紹介等が行われていますが、職業能力の評価やカウンセリング等についても専門的な知識等に基づいて十分に行われることが必要です。   このため、職業評価、職業指導等の職業リハビリテーションサービスを提供する施設として、地域障害者職業センター、広域障害者職業センター、障害者職業総合センターを設けています。 ア 地域障害者職業センター(47か所、支所5か所)においては、ハローワークと密接な連携のもと、職業評価・職業指導、就職して職場に適応するために必要な支援内容・方法等を含む職業リハビリテーション計画の策定、就職に向けた職業準備支援、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援、精神障害者に対する職場復帰支援などとともに、事業主に対して障害者の雇用管理に関する専門的な支援を体系的に行っています。また、地域の関係機関に対しては、支援計画の策定や支援の実施方法、他の機関との連携方法等の職業リハビリテーションに関する専門的・技術的な助言・援助を行っています。 イ 広域障害者職業センター(国立職業リハビリテーションセンター及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンターのそれぞれの職業評価・職業指導担当部門の2か所)においては、医療施設等との連携のもとに、障害者に対する職業評価、職業指導等の措置を系統的に講ずることとしており、これらの措置を受けた障害者について必要な場合には障害者職業能力開発校における職業訓練が実施されます。 ウ 障害者職業総合センターにおいては、職業リハビリテーションに関する調査、研究、技法の開発と研究成果の積極的普及・活用及び専門職員の養成・研修を行っています。 D 障害者就業・生活支援センターでは、障害者の職業生活における自立を図るため、身近な地域において雇用、保健福祉、教育等の関係機関との連携の下、障害者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行う障害者就業・生活支援センターの設置を行っています(令和5年4月現在337か所設置)。 (5) 専門職員の養成・確保  職業リハビリテーションに携わる専門職員については、障害者職業総合センターにおいて障害者職業カウンセラー等の養成・研修を行っており、加えて職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修(一部は地域障害者職業センターにおいて実施)、障害者就業・生活支援センター就業支援担当者を対象とした研修、医療・福祉等の分野における障害者の就業支援担当者を対象とした研修等を行っています。また、ジョブコーチ支援のノウハウを豊富に有する民間機関においても、厚生労働大臣が定める職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修が実施されています。 (6) 関係機関との連携 @ 福祉、教育、医療から雇用への移行推進事業  障害者の福祉、教育、医療から雇用への移行を促進するため、企業と障害者やその保護者、就労支援機関・特別支援学校・大学等の教職員の企業での就労に対する不安感を払拭させるとともに、医療機関等に対する企業での就労への理解促進を図るため、就労支援セミナー、企業見学会等による企業理解の促進及び障害者に対する職場実習の推進等を実施する「福祉、教育、医療から雇用への移行推進事業」を関連機関と連携して、全国の労働局で実施しています。 A 障害者向けチーム支援事業  障害者の就職を促進するため、ハローワークが中心となり、労働・福祉・医療保健・教育等の分野における支援関係者による個別のチームにより、就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援を行う「障害者向けチーム支援事業」を全国のハローワークで実施しています。 B 都道府県及び市町村の福祉担当部局等との連携  都道府県労働局及びハローワークでは、都道府県や市町村等の関係機関と定期的に会議を開催し、障害者の雇用に関する諸問題の情報交換や、その対応について協議を行うなど円滑・効果的な連携を図ることとしています。 第2節 障害者の雇用の促進等に関する法律の体系 1 総則 (1) 目   的  障害者の雇用の促進等に関する法律においては、障害者の雇用の促進と安定を図ることを目的として、 @ 障害者に対する職業生活における自立を図るための職業リハビリテーション A 障害者の雇用を法的義務とした障害者雇用率制度 B 障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供 C 障害者の雇用を経済的側面から支える障害者雇用納付金制度等を中心とする施策を講ずることとしています。 (2) 障害者の範囲(第4章第3節参照) (3) 障害者雇用対策基本方針(資料編第3節参照) 2 職業リハビリテーションの推進(第5章第1節参照) (1) ハローワーク(公共職業安定所) (2) 障害者職業センター  @ 障害者職業総合センター  A 広域障害者職業センター  B 地域障害者職業センター (3) 障害者就業・生活支援センター 3 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務(第4章第4節参照) 4 障害者雇用率制度(第4章第5節参照) (1) 身体障害者、知的障害者又は精神障害者の雇用義務 (2) 身体障害者、知的障害者又は精神障害者の雇入れに関する計画 (3) 公表 5 障害者雇用納付金制度(第4章第6節参照) (1) 障害者雇用納付金の徴収 (2) 障害者雇用調整金・報奨金の支給 (3) 障害者雇用納付金制度に基づく助成金の支給 6 障害者の雇用の安定のための措置(第4章第7節参照) (1) 障害者雇用推進者 (2) 解雇等の届出 第3節 障害者の範囲等 1 障害者の範囲 障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「法」という。)においては、「障害者」とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう(法第2条第1号)こととされており、この要件に該当する限り、すべての障害者がその障害の種類のいかんを問わず法の対象となります。 2 身体障害者の範囲等 (1) 身体障害者の範囲 法においては、「身体障害者」とは、「障害者のうち、身体障害がある者であって別表に掲げる障害がある者をいう」(法第2条第2号)こととされていますが、これはおおむね身体障害者福祉法施行規則別表第5号の身体障害者障害程度等級表の1級から6級までに掲げる身体障害がある者及び7級に掲げる障害が2以上重複している者をいいます。 (2) 身体障害者であることの確認 身体障害者であることの確認は、原則として、身体障害者福祉法第15条に規定する身体障害者手帳によって行うものとされています。身体障害者手帳を所持しない者については、次の@及びAによる医師の診断書によって確認するものとされています。 なお、この確認を行う場合には、事業主は対象者の人権に特に配慮し、また個人の秘密を他に漏らさないようプライバシーの尊重に十分に注意しなければならないことは当然です。 @ 身体障害者福祉法第15条の規定により都道府県知事が指定する医師(以下「指定医」という。なお、身体に障害のある者が本人の意思により身体障害者手帳の交付を受けようとするときは、この医師の診断書を添えて都道府県知事に申請しなければならないこととされている。)の診断書を受けること。しかし、この指定医の診断書によりがたい場合には、労働安全衛生法第13条に規定する産業医による法別表に掲げる身体障害を有するとの診断書(ただし、心臓、じん臓、呼吸器、ぼうこう若しくは直腸、小腸、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫又は肝臓の機能の障害については、当分の間、指定医によるものに限る。)を受けることとされています。 A @の診断書は、障害の種類及び程度並びに法別表に掲げる障害に該当する旨を記載するものとします。 また、事業主は、法施行規則(以下「則」という。)によって、各事業所ごとに、当該事業所において身体障害者である常用雇用労働者について、医師の診断書その他その者が身体障害者であることを明らかにすることができる書類を備え付けるものとされており、その書類を当該労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年間保存するものとされています。 (3) 重度身体障害者の範囲 法においては、重度の身体障害を有する者を「重度身体障害者」として、後述のように各企業の雇用率の算定等に当たってその1人を2人の身体障害者とみなして取り扱うこととするなど特別の措置を講じることとされています。 この重度身体障害者の範囲は、則別表第1に掲げる障害がある者であり、身体障害者障害程度等級表の1級又は2級に該当する障害を有する者及び同表の3級に該当する障害を2以上重複して有することによって2級に相当する障害を有するとされる者に一致します。 (4) 重度身体障害者であることの確認 重度身体障害者であることの確認は、前述の(2)と同様です。 3 知的障害者の範囲等 (1) 知的障害者の範囲 法においては、「知的障害者」とは、「障害者のうち、知的障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう」(法第2条第4号)こととされていますが、これを受けて、則においては、知的障害者とは、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医又は地域障害者職業センター(以下「知的障害者判定機関」という。)により知的障害があると判定された者とされています。 (2) 知的障害者であることの確認 知的障害者であることの確認は、原則として、都道府県知事又は政令指定都市市長が交付する療育手帳など(例えば東京都においては「愛の手帳」という。)によって行うものとされています。療育手帳等を所持しない者については、知的障害者判定機関の交付する判定書によって確認するものとされています。 なお、この確認を行う場合には、事業主は対象者の人権に特に配慮し、また個人の秘密を他に漏らさないようプライバシーの尊重に十分に注意しなければならないことは当然です。 また、事業主は、則によって、各事業所ごとに、当該事業所において雇用する知的障害者である常用雇用労働者について、医師の診断書その他その者が知的障害者であることを明らかにすることができる書類を備え付けなければならないこととされており、その書類を当該労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年間保存しなければならないこととされています。 (3) 重度知的障害者の範囲 法においては知的障害の程度が重い者を「重度知的障害者」として、障害者雇用率の算定に当たってその1人を2人の知的障害者とみなして取り扱うこととするなど特別な措置を講ずることとされています。 この「重度知的障害者」の範囲は、「知的障害者のうち、知的障害の程度が重い者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。」(法第2条第5号)こととされていますが、「厚生労働省令で定めるもの」とは、「知的障害者判定機関により知的障害の程度が重いと判定された者とする。」(則第1条の3)とされています。 (4) 重度知的障害者であることの確認 重度知的障害者であることの確認方法は、前述の(2)と同様です。 4 精神障害者の範囲等 (1) 精神障害者の範囲 法においては、「精神障害者」とは、「障害者のうち、精神障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう」(法第2条第6号)こととされていますが、これを受けて、則においては、精神障害者とは、次に掲げる者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にあるものとされています。 @ 精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者 A 統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)又はてんかんにかかっている者(@に該当する者を除く。) (2) 精神障害者であることの確認 精神障害者であることの確認は、原則として、精神障害者保健福祉手帳によって行うものとされていますが、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者であっても、症状が安定し、就労が可能な状態にあるか否かの判断のために、主治医の診断書、意見書が必要になる場合があります。特に、症状の安定性や就労の可能性については、医学的リハビリテーション、社会的リハビリテーションの実施等に伴い、変化するものであるので、一度の判断で決定するのではなく、必要に応じて主治医等に再確認を行うことが望ましいです。精神障害者保健福祉手帳を所持しない者については、主治医の診断書、意見書等によるものとされています。 なお、この確認を行う場合には、事業主は対象者の人権に特に配慮し、また個人の秘密を他に漏らさないようプライバシーの尊重に十分に注意しなければならないことは当然です。 また、事業主は則によって、各事業所ごとに、当該事業所において雇用する精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている精神障害者について、精神障害者保健福祉手帳の写しを備え付けなければならないこととされており、当該手帳の写しを当該労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年間保存しなければならないこととされています。 5 身体障害者、知的障害者及び精神障害者以外の障害者の範囲等 (1) 法に定める障害者の範囲 法においては、「障害者」のうち「身体障害者」、「知的障害者」及び「精神障害者」については定義していますが、その他の者が「障害者」の範囲に含まれるかについては、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」に該当するか否かを個別に判断することになります。 (2) 法に定める障害者であることの確認 身体障害者、知的障害者及び精神障害者以外の者については、医師の診断書、意見書等を参考として法に定める障害者の要件に該当するか否かを個別に確認することとなります。 表1 障害の種類別にみた「障害者の雇用の促進等に関する法律」等の適用範囲 1 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者は、「精神障害者」に含まれます。 2 「その他の障害者」のうちのその他については、高次脳機能障害、難治性疾患を有する者等。 3 以下の@又はAに該当する者に限る。  @精神障害者保健福祉手帳所持者  A職場適応訓練の修了後当該職場適応訓練を委託された事業主に雇用されている者(@に該当する者は除く。) 第4節 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 1 障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務 平成18年12月に採択された障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)について、日本は平成19年9月に署名しており、@あらゆる形態の雇用に係るすべての事項に関する差別の禁止、A職場において合理的配慮が提供されることの確保等のために適当な措置をとるべきこと等を規定する同条約に対応するため、国内法制の整備を進める必要がありました。 そのため、平成25年6月に障害者雇用促進法の一部を改正する法律が成立し、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止とともに、障害者と障害でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置として、合理的配慮の提供義務等が規定され、その後、差別の禁止等の具体的な内容を規定する「障害者差別禁止指針」及び「合理的配慮指針」が平成27年3月に策定・公布され、平成28年4月から施行されています(資料編第4節及び第5節参照)。 2 障害者に対する差別の禁止 (1) 基本的な考え方 全ての事業主は労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません。 また、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別取扱いをしてはならないとされています(法第34条、第35条)。 指針では、このような障害者に対する差別の禁止に関し、事業主が適切に対処することができるよう、禁止される措置として具体的に明らかにする必要があると認められるものについて定めています。 ここで禁止される差別は、障害者であることを理由とする差別(直接差別をいい、車いす、補助犬その他の支援器具等の利用、介助者の付添い等の社会的不利を補う手段の利用等を理由とする不当な不利益取扱いを含む。)とされています。 また、障害者に対する差別を防止するという観点を踏まえ、障害者も共に働く一人の労働者であるとの認識の下、事業主や同じ職場で働く者が障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることも重要とされています。 (2) 差別の禁止 指針では、「募集・採用」、「賃金」、「配置」、「昇進」、「降格」、「教育訓練」、「福利厚生」、「職種の変更」、「雇用形態の変更」、「退職の勧奨」、「定年」、「解雇」、「労働契約の更新」の各項目に沿って禁止される差別が整理されています。これらの項目について、障害者であることを理由に、その対象から障害者を排除することや、その条件を障害者に対してのみ不利なものとすることは差別に該当し、禁止されます。例えば、募集・採用時の差別の例としては、次の@からBが考えられます。 @ 障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること。 A 募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。 B 採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること。 ただし、次に掲げる措置を講ずることは、障害者を理由とする差別に該当しません。 ・積極的差別是正措置として、障害者でない者と比較して障害者を有利に取り扱うこと。 ・合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果として異なる取扱いを行うこと。 ・合理的配慮に係る措置を講ずること(その結果として、障害者でない者と異なる取扱いとなること)。 ・障害者専用求人の採用選考又は採用後において、仕事をする上での能力及び適性の判断、合理的配慮の提供のためなど、雇用管理上必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認すること。 3 障害者に対する合理的配慮の提供義務 (1) 基本的な考え方 全ての事業主は、過重な負担を及ぼすこととなるときを除いて、募集及び採用について、障害者と障害者でない者と均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。また、障害者と障害者でない者との均等な待遇の確保又は障害者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配慮その他の必要な措置を講じなければなりません(法第36条の2、第36条の3、第36条の4)。 指針では、このような障害者に対する配慮に関し、事業主が講ずべき措置として、適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めています。 また、合理的配慮は個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のものであり、合理的配慮の提供は事業主の義務ですが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には合理的配慮の提供義務違反には問われません。 合理的配慮は個々の障害者である労働者の障害の状態や職場の状態に応じて提供されるものであるため、多様性があり個別性が高いものです。具体的にどのような措置をとるかについては、障害者と事業主との話合いの下、その意向を十分に尊重したうえで、加重な負担にならない範囲で、合理的配慮に係る措置を講ずる必要があります。 (2) 合理的配慮の提供義務 @ 合理的配慮の手続 合理的配慮の提供に関する手続は以下のとおりです。 ア 募集・採用時:障害者から事業主に対し、支障となっている事情などを申し出る。 障害者は面接日等までの間に時間的余裕をもって事業主に申し出ることが求められる。 採 用 後:事業主から障害者に対し、職場で支障となっている事情の有無を確認する。 イ 合理的配慮に関する措置について事業主と障害者で話し合う。 ウ 合理的配慮に関する措置を確定し、講ずることとした措置の内容及び理由(過重な負担にあたる場合はその旨及びその理由)を障害者に説明する。採用後について、措置の実施に一定の時間がかかる場合はその旨を障害者に説明する。 ※ 障害者の意向確認が困難な場合、就労支援機関の職員等に障害者の補佐を求めても差し支えありません。 A 合理的配慮の内容 採用後に講ずる合理的配慮は職務の円滑な遂行に必要な措置であることから、次に掲げる措置が合理的配慮として事業主に求められるものではありません。 ・日常生活に必要である眼鏡や車いす等の提供。 ・中途障害により、配慮をしても重要な職務遂行に支障を来す場合の、当該職務の継続。ただし、当該職務の継続ができない場合には、別の職務に就かせることなど、他の合理的配慮を検討する。 合理的配慮の事例として、多くの事業主が対応できると考えられる措置の例として指針において「別表」が定められています。「別表」はあくまでも例示であり、あらゆる事業主が必ずしも実施するものではありません。また、記載されている事例以外であっても合理的配慮に該当するものがあります。 (別表の記載例) 【募集及び採用時】 ・募集内容について、音声等で提供すること。(視覚障害) ・面接を筆談等により行うこと。(聴覚・言語障害など) 【採用後】 ・机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと。(肢体不自由) ・本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと。(知的障害) ・出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。(精神障害ほか)など B 過重な負担 合理的配慮の提供の義務については、事業主に対して「過重な負担」を及ぼすこととなる場合を除くこととしています。事業主は、合理的配慮に係る措置が過重な負担に当たるか否かについて、次に掲げる要素を総合的に勘案しながら個別に判断することとなっております。 ・事業活動への影響の程度 ・実現困難度 ・費用・負担の程度 ・企業の規模 ・企業の財務状況 ・公的支援の有無 事業主は、過重な負担に当たると判断した場合はその旨及びその理由を障害者に説明しなくてはなりません。その場合、事業主は、障害者の意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずる必要があります。 C 相談体制の整備 事業主は障害者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備や、相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知するとともに、相談したことを理由としての不利益取扱いの禁止を定め、当該措置を講じていることについて労働者に周知しなければなりません。 4 紛争の解決 事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供に係る事項について、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るよう努めなければなりません。  また、企業内で自主的に解決しない場合においては、刑罰法規や準司法的手続きのような判定的な形で解決を図るのではなく、調整的な解決を重視すべきであるため、紛争当事者の双方又は一方から解決につき援助を求められた場合、都道府県労働局長が、助言、指導または勧告をすることができるとしています。さらに、紛争当事者の双方または一方から調停の申請があった場合、都道府県労働局長は、当該紛争の解決のための必要があると認めるときは、紛争調整委員会に調停を行わせることとされています。 なお、上記の援助を障害者が求めたことまたは上記の調停を障害者が申請したことにより、事業主が当該労働者に対して、解雇その他の不利益な取扱いを禁止する規定も設けられています。 第5節 障害者雇用率制度の概要 1 障害者雇用率制度 (1) 趣旨 事業主は、一定の雇用関係の変動がある場合、つまり労働者を新たに雇い入れ、又は解雇しようとするような場合には、その雇用している労働者中に占める身体障害者、知的障害者又は精神障害者(以下「対象障害者」という。)の割合が一定率(障害者雇用率)以上であるようにしなければならないこととされています(法第43条)。 すなわち、対象障害者の雇用は常に一般労働者と同じように確保すべきものとし、原則として事業主は、常態として障害者雇用率を達成・維持すべき義務を有することとされています。 なお、義務の内容と関連して、その履行確保が問題になりますが、雇用関係は労使間の信頼に基づく人的結合であり、雇用を刑罰によって実現しようとすることは、必ずしも適切でないので、その義務の違反には罰則(刑罰)は設けられていません。しかしながら、この義務が法的な義務であることには変わりはなく、ただ履行確保の手段として刑罰をとらず、後述の対象障害者の雇入れに関する計画制度等によることとされています。 (2) 障害者雇用率の設定基準 障害者雇用率の設定基準は、事業主の社会連帯の理念に適合し、対象障害者に一般労働者と同水準の雇用を、各事業主が平等な負担で保障するとの観点から、障害者雇用率は、次のような割合を基準として設定することとされています(法第43条第2項)。 これは、対象障害者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会(同時に、一般労働者と同じ水準で失業することもやむを得ない。)を与えることを意味するものです。ただし、除外率制度が設けられているので、除外率によって控除した労働者に対する割合でそれを保障しようとするものです。 障害者雇用率は、このように一般労働市場における常用雇用と失業の状態に対応しつつ、対象障害者に雇用機会を保障しようとするものですから、そのときどきの条件によって変化していくべきものでありますが、障害者雇用率が常に変動することは安定性を害するので、少なくとも5年ごとに上述の割合の推移を勘案して見直すこととされています。 (3) 障害者雇用率 平成30年4月から、障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の施行により、精神障害者が雇用義務の対象となり、精神障害者が障害者雇用率の算定式に追加されました。 現行の障害者雇用率(令和6年4月1日時点)は、次のとおりです(政令第2条、第9条、第10条の2)。 身体障害者である常用労働者の数+失業している身体障害者の数 +知的障害者である常用労働者の数+失業している知的障害者の数 +精神障害者である常用労働者の数+失業している精神障害者の数 障害者雇用率= 常用労働者数−除外率相当労働者数+失業者数 〈注1〉   短時間労働者(1週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である常時雇用する労働者をいう。)は、1人を0.5人としてカウント。ただし、精神障害者の特例あり(P237参照)。 〈注2〉   重度身体障害者、重度知的障害者は1人を2人としてカウント。短時間重度身体障害者、短時間重度知的障害者は1人を1人としてカウント(P237参照)。 @ 民間企業 ア 一般事業主 2.5% イ 独立行政法人、国立大学法人、公庫、   特殊会社等の一定の特殊法人 2.8% A 国及び地方公共団体 ア 国及び地方公共団体2.8% イ 一定の教育委員会(注) 2.7% (注) 一定の教育委員会とは、都道府県に置かれる教育委員会その他厚生労働大臣の指定する教育委員会です。  ただし、令和5年4月からの民間企業における障害者雇用率は2.7%とされており、雇入れに係る計画的な対応が可能となるよう、令和6年4月から2.5%、令和8年7月から2.7%と段階的に引き上げられることとされています。国等の公的機関については、令和5年4月からの法定雇用率は3.0%(教育委員会は2.9%)とし、段階的な引き上げに係る対応(引き上げ時期及び引き上げ幅)は民間事業主と同様とされています。   2 障害者雇用率の適用と算定   (1) 事 業 主 @ 事業主の範囲 雇用義務の主体として、障害者雇用率以上の対象障害者を雇用しなければならないのは、原則として労働者を雇用して事業を行うすべての「事業主」です。「事業主」とは、常時雇用する労働者を雇用する事業主をいい、個人経営にあっては経営者自身、会社等法人組織を有するものにあっては法人そのものです。 A 障害者雇用率の適用単位 一般の事業主に対しては障害者雇用率は企業単位で適用されます。すなわち、事業主が有するすべての事業所を一括して、企業全体を一つの単位として障害者雇用率が適用されることとされています。 (2) 算定特例制度 対象障害者の雇用に関する法律上の義務は個々の事業主ごとに課せられており、たとえ親会社と子会社の関係にある企業においても、法人格が異なれば別々に取り扱うことになります。しかし、障害者の雇用を促進するため、一定の要件の下、ハローワーク所長の認定を受けた場合には、障害者雇用率制度及び障害者雇用納付金制度の適用上、法人格が異なる場合でも同一の事業主とみなす特例があります。 @ 特例子会社制度 障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社(以下「特例子会社」という。)を設立した場合には、一定の要件の下に特例子会社に雇用されている労働者も親会社に雇用されているものとみなし、障害者雇用率制度及び障害者雇用納付金制度の適用を受けることが可能となります(図1)。一定の要件とは次のとおりです。 ア 親会社にかかわる要件 ア 当該子会社の意思決定機関(財務及び営業又は事業の方針を決定する機関、すなわち、株主総会等をいう。以下同じ。)を支配していること。 イ 子会社にかかわる要件 ア 親会社との人的関係が緊密であること。具体的には、親会社からの役員派遣、従業員出向等人的交流が緊密であること。 イ 雇用される対象障害者が5人以上で、かつ、全従業員中に占める割合が20%以上であること。また、その障害者のうち、重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること。 ウ 障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。具体的には障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等を行っていること。 エ その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること。 A 特例子会社のグループ適用 特例子会社を保有する企業が特例子会社以外のその他の子会社(以下「関係会社」という。)を含めて障害者雇用を進める場合には、一定の要件のもとに関係会社に雇用されている労働者も特例子会社に雇用されている労働者と同様に親会社に雇用されている者とみなし、障害者雇用率制度及び障害者雇用納付金制度の適用を受けること(グループ適用)が可能となります(図2)。一定の要件は次のとおりです。 ア 親会社の要件 ア 親会社が関係会社の意思決定機関を支配していること。 イ 親会社が障害者雇用推進者を選任しており、その者が特例子会社及び関係会社についても障害者雇用推進者の業務を行うこと。 ウ 親会社が、親会社、特例子会社及び関係会社に雇用される対象障害者である労働者の雇用の促進及び雇用の安定を確実に達成することができると認められること。 イ 関係会社の要件 次のいずれかの要件を満たすこと。 ア 関係会社の行う事業と特例子会社の行う事業との人的関係が緊密であること。 イ 関係会社の行う事業と特例子会社の行う事業との営業上の関係が緊密であること。 ウ 関係会社が特例子会社に出資していること。 図1 特例子会社制度 図2 特例子会社のグループ適用 図3 企業グループ算定特例の具体的な事例 B 企業グループ算定特例 特例子会社を保有しない企業であっても、企業グループ全体として障害者雇用を進める場合には、一定の要件の下にそのすべての子会社(以下「関係子会社」という。)に雇用されている労働者も特例子会社に雇用されている労働者と同様に親会社に雇用されている者とみなし、障害者雇用率制度及び障害者雇用納付金制度の適用を受けることが可能となります(図3)。一定の要件とは次のとおりです。 ア 親会社の要件 ア 親会社が関係子会社の意思決定機関を支配していること。 イ 親会社が障害者雇用推進者を選任しており、その者が関係子会社についても障害者雇用推進者の業務を行うこと。 ウ 事業主が、当該事業主及び関係子会社で雇用する対象障害者である労働者の雇用の促進及び安定を確実に達成することができると認められること。 イ 関係子会社の要件 ア 関係子会社が雇用する対象障害者である労働者の数が、その関係子会社が雇用する労働者の数に1.2%を乗じて得た数(小数点以下の端数は切捨て)以上であること。ただし、雇用する労働者の数が300人以下である場合は、次の@からBまでに掲げる労働者の数に応じて、それぞれ@からBまでに定める数以上とする。  @ 労働者数が167人未満      なし  A 労働者数が167人以上250人未満 1人  B 労働者数が250人以上300人以下 2人 イ 次のいずれかの要件を満たすこと。  @ 雇用する対象障害者である労働者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。  A 関係子会社の事業と、他の関係子会社が雇用する対象障害者である労働者の行う業務に係る事業との人的関係又は営業上の関係が緊密であること。 C 事業協同組合等算定特例 中小企業が事業協同組合等を活用して協同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けた場合には、事業協同組合等とその組合員である中小企業(以下「特定事業主」という。)で実雇用を通算して、障害者雇用率制度及び障害者雇用納付金制度の適用を受けることが可能となります(図4)。 一定の要件とは次のとおりです。 ア 事業協同組合等の要件 ア 事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合、商店街振興組合又は特定有限責任事業組合であること。 (注)特定有限責任事業組合とは有限責任事業協同組合契約に関する法律(平成17年法律第40号。以下「LLP法」という。)第2条に規定する有限責任事業組合であり、次の@〜Eの要件を満たすもの。 @ 中小企業者又は小規模の事業所のみがその組合員となっていること。 A LLP法第4条第1項に規定する組合契約書(以下「組合契約書」という。)に、その存続期間の満了の日までに更新しない旨の総組合員による決定がない限り当該存続期間が更新される旨が記載又は記録されていること。 B 組合契約書に、組合員は、総組合員の同意によらなければ、その持分を譲り渡すことができない旨が記載又は記録されていること。 C 組合契約書に、業務執行の決定が、総組合員の同意または総組合員の過半数若しくはこれを上回る割合以上の多数決により行われる旨が記載又は記録されていること。 D 事業を行うために必要な経営的基礎を欠く等その目的を達成することが著しく困難であると認められないこと。 E 解散の事由が生じた場合の措置として、以下について実施計画に記載すること。 ・組合が雇用する障害者を、特定事業主が雇用すること。 ・特定事業主が協力して、障害者を雇用する意思がある事業主(特定事業主を除く)に対し、特定障害者の雇入れを求めることその他の特定障害者の新たな雇用の機会を提供すること。 イ 規約等に、事業協同組合等が障害者雇用納付金等を徴収された場合に、特定事業主における障害者の雇用状況に応じて、障害者雇用納付金の経費を特定事業主に賦課する旨の定めがあること。 ウ 事業協同組合等及び特定事業主における障害者の雇用の促進及び安定に関する事業(雇用促進事業)を適切に実施するための計画(実施計画)を作成し、この実施計画に従って、障害者の雇用の促進及び安定を確実に達成することができると認められること。 エ 自ら1人以上の障害者を雇用し、また、雇用する常用労働者に対する雇用障害者の割合が、20%を超えていること。 オ 自ら雇用する障害者に対して、適切な雇用管理を行うことができると認められること。 カ 原則として、申請時点において、事業協同組合等及び特定事業主全体で障害者雇用義務を果たしていること(申請時点において障害者義務を果たしていない場合には、実施計画に基づき、計画期間内に法定雇用率を確実に達成することができると認められること。)。 イ 特定事業主の要件 ア 事業協同組合等の組合員であること。 イ 雇用する常用労働者の数が40人以上であること。 ウ 子会社特例、関係会社特例、関係子会社特例又は他の特定事業主特例の認定を受けておらず、当該認定に係る子会社、関係会社、関係子会社又は特定事業主でないこと。 エ 事業協同組合等の行う事業と特定事業主の行う事業との人的関係又は営業上の関係が緊密であること(具体的には、特定事業主からの役員派遣等)。 オ 特定事業主が雇用する常用の対象障害者の数が、その特定事業主が雇用する労働者の数に1.2%を乗じて得た数(小数点以下の端数は切捨て)以上であること。ただし、雇用する労働者の数が300人以下である場合は、次の@からBまでに掲げる労働者の数に応じて、それぞれ@からBまでに定める数以上とする。 @ 常用労働者数167人未満要件なし A 常用労働者数167人以上250人未満障害者1人 B 常用労働者数250人以上300人以下障害者2人 図4 事業協同組合等算定特例の具体的な事例 (3) 常時雇用する労働者 雇用義務の算定の基礎となるのは、「常時雇用する労働者」に限定されていますが、「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形式のいかんを問わず、事実上期間の定めなく雇用されているすべての労働者をいい、実態的に判断されるべきものです。 具体的には、次のような労働者をいいます。 @ 期間の定めなく雇用される労働者。 A 一定の期間(例えば、1ヶ月、6ヶ月等)を定めて雇用されている労働者であって、事実上期間の定めのない労働者と同様の実態にあると認められる労働者。すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている労働者又は雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者。 B 日々雇用される労働者であって、雇用契約が日々更新されて事実上期間の定めのない労働者と同様の実態にあると認められる労働者。すなわち、Aの場合と同様に、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている労働者又は雇入れのときから1年を超えて雇用されると見込まれる労働者。 表1 除外率設定業種及び除外率 (4) 除外率制度 @ 趣   旨 すべての事業主が、平等に対象障害者を雇用するという社会連帯の理念からすれば、個々の事業主が雇用すべき対象障害者の数は、その事業主が雇用するすべての労働者の数に障害者雇用率を乗じて算定すべきものと考えられます。 しかしながら、職務によっては、対象障害者が就業することが困難であり、一律に雇用率を適用するのが不適当だと考えられた職種もありました。 このため、対象障害者の就業が一般的に困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種ごとにあらかじめ除外率を定め、雇用しなければならない法定雇用障害者数を算定する際の基礎となる常用労働者数の算定に当たっては、この除外率に相当する労働者数を控除することとされています。 なお、この除外率制度については、除外率の設定された業種に障害者は全く就くことができないという印象を与えるなど、ノーマライゼーションの理念から見て適切ではなくなってきたことや、技術革新、職場環境の整備等が進む中、これまで障害者にとって就職困難と考えられていた職種においても就業可能性が高まっていること等問題点が指摘されてきました。このため、除外率制度については平成16年4月1日から暫定的な措置として位置付けられるとともに、各業種の除外率は、一律10ポイント引き下げられ、廃止に向けて段階的に縮小していくこととされました。平成22年7月から、さらに全業種一律10ポイント引き下げられました。また、令和7年4月からは10ポイント引下げが行われる予定となっています。 A 除外率設定業種及び除外率 現行の除外率設定業種及び除外率(令和6年4月1日時点)は、表1のとおりです。 B 除外率の適用 除外率の適用は、次のとおりです。 ア 除外率は事業所を単位として適用されます。 イ 事業所とは、本店、支店、工場、鉱山、事務所などのように、1つの経営組織として独立性をもったもの、つまり、一定の場所において一定の組織のもとに有機的に相関連して一体的な経営活動が行われる施設、又は場所をいいます。   したがって、同一場所にあるものは原則として分割することなく1つの事業所とし、場所的に分離されているものは原則として別個の事業所として取り扱うことになります。 1つの事業所として取り扱うべきか否かは、通常次の見地から判断するものです。 ア 場所的に他の事業所から独立しているかどうか。 イ 組織的に1つの単位体をなし、経理、人事もしくは経営(業務)上の指揮監督又は作業工程において独立性があるかどうか。 ウ 施設として相当期間継続性を有するかどうか。 ただし、場所的に分散しているものであっても、出張所、支所などで規模が小さく、その上部機関との組織的関連ないし事務能力からみて1つの事業所という程度の独立性がないものについては、直近上位の組織に包括して全体を1つの事業所として取り扱うこととされています。 C 事業所の業種 事業所の業種については、その事業所において行われている主な事業によって判定します。 1つの事業所において2以上の業種にわたる事業が行われている場合には、従事する労働者が最も多い事業により判定し、この方法によっても判定することが困難な場合は、過去1年間の総収入額又は総販売額の最も多い事業により判定します。 D 除外率の不適用 企業全体とすれば除外率設定業種に属する事業を行っている場合でも、企画、立案、会計、管理、契約その他これに類する事務的な事業を主として行う事業所(本社、支店などの多くはこれに含まれる。)については、除外率は適用されません。 (5) 短時間労働者に関する特例 短時間労働者及び短時間労働者である対象障害者を雇用する場合は、0.5人の労働者及び対象障害者を雇用するものとみなすこととされています。 なお、短時間労働者の週所定労働時間は、20時間以上30時間未満です。 この取扱いは、実雇用率を算定する場合のほか、納付金、調整金及び報奨金の額を算定する場合にも適用されます。 (6) 重度障害者である労働者に関する特例 重度身体障害者又は重度知的障害者を雇用する場合には、その1人をもって2人の身体障害者又は知的障害者を雇用するものとみなす特例措置が設けられています。 また、重度身体障害者又は重度知的障害者である短時間労働者を雇用する場合は、1人の身体障害者又は知的障害者を雇用するものとみなすこととされています。 (7) 精神障害者である短時間労働者に関する特例 平成30年4月から精神障害者が雇用義務の対象に加わり、併せて障害者雇用率が引き上げられる一方で、精神障害者については定着が困難な者が多いという状況を踏まえ、精神障害者の希望に添った働き方を実現し、より一層の職場定着を実現するために、精神障害者である短時間労働者について、特例が設けられているところ、令和5年4月からは、要件を緩和した上で、次の特例が設けられています。 精神障害者である短時間労働者については、当分の間、その1人をもって1人の対象障害者である労働者に相当するものとみなします。 (8) 特定短時間労働者に関する特例 令和6年4月から、特定短時間労働者(週所定労働時間が10時間以上20時間未満である者)を雇用する場合は、重度身体障害者、重度知的障害者又は精神障害者については、その1人をもって0.5人対象障害者を雇用するものとみなすこととされています。 この取扱いは、実雇用率を算定する場合のほか、納付金、調整金及び報奨金の額を算定する場合にも適用されます。 3 障害者の雇用状況の報告 (1) 趣    旨 行政機関として法の適切な運用を図るためには、対象障害者の雇用状況を正確に把握しておく必要があり、一定規模以上の事業主は、毎年6月1日現在における対象障害者の雇用に関する状況を7月15日までに、障害者雇用状況報告書(厚生労働省告示様式第6号、様式第6号の2(1)及び第6号の2(2)、様式第6号の3(1)及び第6号の3(2)又は様式第6号の4(1)及び第6号の4(2))により、その主たる事業所の所在地を管轄するハローワーク所長に報告しなければならないこととされています(法第43条第7項)。 (2) 報告義務者 報告義務のある事業主は、常時雇用する労働者の数から除外率により除外すべき労働者を控除した数が40人以上の事業主です。これは法定雇用障害者数が1人以上となる事業主です(令和6年4月より法定雇用率が0.2%引き上がり2.5%となったため、報告義務は令和6年4月より43.5人以上から40人以上の事業主に拡大されました。なお令和8年7月以降は更に0.2%引き上がり2.7%となるため、報告義務は令和8年7月より40人以上から37.5人以上の事業主に拡大される予定です)。 (3) 報告の内容及び手続 報告の内容は、報告義務のある事業主のすべての事業所の常時雇用する労働者の総数、法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数、身体障害者である常時雇用する労働者数、知的障害者である常時雇用する労働者数、精神障害者である常時雇用する労働者数等についての、企業全体の総括的状況です。 4 一般事業主の障害者の雇入れに関する計画 事業主は、雇用する対象障害者の数が法定雇用率(2.5%)以上になるようにしなければならないこととされていますが、障害者雇用率が未達成である事業主に対しては、対象障害者の雇入れに関する計画(以下「雇入れ計画」という。)の作成を命じ、計画的に対象障害者の雇入れを行わせることによって、対象障害者の雇入れを確保していくこととしています。 雇入れ計画の作成は、厚生労働大臣が命ずることとされていますが、実際には、この権限は管轄ハローワーク所長に委任されています。 (1) 雇入れ計画の作成命令 雇入れ計画の作成を命ずるのは、「対象障害者の雇用を促進するため必要があると認める場合」とされていますが、身体障害者等である求職者が多数存在しており、その雇用の促進を図ることが必要である場合において、障害者雇用率が未達成である事業主のうち、対象障害者の雇用割合が障害者雇用率を相当下回っており、ある程度の期間にわたって、継続的、計画的に対象障害者を雇い入れなければその達成が困難であると認められ、かつ、常時雇用する労働者として労働者を雇い入れる見込みのあるものを対象として行うこととされています。 (2) 雇入れ計画の内容等 雇入れ計画の始期は、特に命令において指定がない限り、作成を命ぜられた後の直近の1月1日とし、また、雇入れ計画の期間は、2カ年とされ、法定雇用障害者数に不足する対象障害者の数、雇入れを予定する労働者の数等を考慮する等、実効性のある計画となるように定めるものとされています。 雇入れ計画には、少なくとも次の事項を含まなければなりませんが、これらの事項について、対象障害者を雇い入れる予定のある事業所ごとに、その内訳が明らかになるようなものにすることが必要とされています。 @ 計画の始期及び終期 A 雇入れを予定する労働者の数並びにそのうちの対象障害者の数 B 対象障害者である労働者の雇入れを予定する事業所の名称及び所在地並びに当該事業所ごとの雇入れを予定する労働者の数並びにそのうちの対象障害者の数 C 計画の終期において見込まれる労働者の総数並びにそのうちの対象障害者の数 (3) 雇入れ計画の提出 事業主は、雇入れ計画を作成したときは、遅滞なくハローワーク所長に提出しなければならないこととされています。 なお、雇入れ計画において対象障害者を雇い入れることを予定する事業所についても、本社を管轄するハローワーク所長に、当該事業所に係る雇入れ計画を提出することとされています。 (4) 雇入れ計画の実施状況の報告 雇入れ計画を作成した事業主は、これを誠実に実施すべきことは当然ですが、毎年6月1日現在における当該雇入れ計画の実施状況を翌月15日までに、かつ、当該計画期間が満了したときは、計画の終期の翌日から遅くとも45日以内に、その計画の実施状況を管轄ハローワーク所長に提出することとされています。 5 雇入れ計画の変更の勧告及び適正実施の勧告 (1) 変更の勧告 計画の終期に見込まれる対象障害者の数が法定雇用障害者数未満である場合等、法令の意図するところからみて著しく不適当な場合には、当該作成命令を発した管轄ハローワーク所長は、その変更を勧告し、適正な計画によって障害者雇用率を達成するように指導することとされています。 (2) 適正実施の勧告 正当な理由がないにもかかわらず計画どおり対象障害者の雇入れが進んでいない場合など、特に必要があると認める場合には、管轄ハローワーク所長は計画の適正な実施を勧告することができることとされており、雇入れ計画制度の実効を高めることとしています。 なお、適正実施勧告時期は、雇入れ計画1年目の12月とされています。 6 公表 厚生労働大臣は、雇入れ計画を作成した事業主が、正当な理由がなく、当該計画の変更の勧告、又は適正実施に関する勧告に従わないときは、その旨を公表できることとされています。 第6節 障害者雇用納付金制度の概要 1 趣旨  障害者を雇用するには、作業施設、設備などの改善、職場環境の整備、特別の雇用管理などが必要とされる場合が多く、障害のない人の雇用に比べると経済的に負担を伴うことは否定できません。このため雇用義務を誠実に履行している事業主とそうでない事業主とでは、経済的負担に差が生じることとなります。  障害者を雇用することは、事業主が共同して果たしていくべき責務であるとの社会連帯責任の理念に立って、事業主間の障害者の雇用に伴う経済的負担を調整するとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行うため、事業主の共同拠出による障害者雇用納付金(以下「納付金」という。)制度が設けられています。  納付金制度は、まず第一に、法定雇用率(以下「雇用率」という。)未達成事業主から納付金を徴収し、雇用率を超えて対象障害者を雇用する事業主に対して、障害者雇用調整金(以下「調整金」という。)を支給することにより、事業主間の対象障害者の雇用に伴う経済的負担の調整を図り、もって対象障害者の雇用に関する事業主の共同連帯責任の円滑な実現を目的とするものです。第二に、障害者の雇入れ又は雇用の継続を図る事業主が、作業施設や作業設備の設置・整備又は継続のための措置などについて一時的な経済的負担を余儀なくされる場合に、その費用について助成金を支給することにより、障害者の雇用の促進及び雇用の継続を容易にし、もって全体としての障害者の雇用水準を引き上げようとするものです。  なお、納付金は、実際に対象障害者を雇用している場合には、その雇用する対象障害者の数に応じて減額することとされており、結果的には法定雇用率未達成の事業主のみから徴収することとなりますが、前述から明らかなように、法定雇用率未達成であることに着目して課せられる罰金的な性格を有するものではなく、また、納付金の納付をもって雇用義務が免ぜられるものではありません(図1)。   図1 納付金制度の流れ (※1)令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年120人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人月額23,000円となること。 (※2)令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年420人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人月額16,000円となること。 2 納付金関係業務の概要  納付金制度は、事業主から納付金を徴収するとともに、その納付金によって調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金(以下「特例調整金」という。)、在宅就業障害者特例報奨金(以下「特例報奨金」という。)等の支給、障害者の雇入れ又は雇用を継続する事業主などに対する各種助成金等の支給の業務を行うこととされており、業務の具体的内容は次のとおりです。  なお、その業務の実施主体は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構とされています。 (1) 調整金、報奨金、特例調整金、特例報奨金、各種助成金等の支給及びその支給のための業務に要する費用等に充てるため、常時雇用している労働者の数が100人を超える規模の事業主から納付金を徴収すること。   なお、事業主が納付すべき納付金の額は、年度ごとに、その雇用する対象障害者である常時雇用している労働者の数が雇用率を下回る場合について、雇用率に不足する人数に一定の額(1人当たり月額50,000円)を乗じて得た額とされています。 (2) 雇用率を超えて対象障害者を雇用している事業主に対しては、当該事業主からの申請に基づき、各年度ごとにその雇用率を超える人数に一定の額(1人当たり月額29,000円)(※1)を乗じて得た額の調整金を支給すること。また、当分の間、常時雇用している労働者の数が100人以下の規模の事業主で一定の率又は数を超えて対象障害者を雇用している事業主に対しては、当該事業主からの申請に基づき、各年度ごとにその一定の率又は数を超える人数に一定の額(1人当たり月額21,000円)(※2)を乗じて得た額の報奨金を支給すること。 (※1)令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年120人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人月額23,000円となること。 (※2)令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年420人を超える場合には、当該超過人数分への支給額が1人月額16,000円となること。 (3) 常時雇用している労働者の数が100人を超える事業主であって、在宅就業障害者に仕事を発注した(在宅就業支援団体(資料編第8節(9)参照)を介して在宅就業障害者に仕事を発注した場合を含む。)事業主に対しては、当該事業主からの申請に基づき、事業主が各年度ごとに当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数に調整額21,000円を乗じて得た額の特例調整金を一定の限度額の範囲内で支給し、雇用率未達成の事業主に対しては、特例調整金の額に応じて納付金を減額すること。また、報奨金支給申請対象の事業主であって、在宅就業障害者に仕事を発注した(在宅就業支援団体を介して在宅就業障害者に仕事を発注した場合を含む。)事業主に対しては、事業主が各年度ごとに当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数に報奨額17,000円を乗じて得た額の特例報奨金を一定の限度額の範囲内で支給すること。  ※詳しくは当機構ホームページをご覧ください。 (4) 対象障害者である労働者を雇い入れるか継続して雇用している事業主に対して、これらの者が障害を克服し、作業を容易に行うことができるよう配慮された施設・設備の設置又は整備に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (5) 対象障害者である労働者を継続して雇用している事業主又はその事業主が加入している事業主の団体に対して、その対象障害者である労働者の福祉の増進を図るための施設の設置又は整備に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (6) 対象障害者である労働者を雇い入れるか継続して雇用している事業主に対して、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (7) 加齢に伴って生じる心身の変化により職場への適応が困難となった対象障害者である労働者の雇用の継続のために必要となる当該労働者が職場に適応することを容易にするための措置に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (8) 職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用に充てるための助成金を支給すること。 (9) 重度身体障害者又は通勤が特に困難と認められる身体障害者、知的障害者若しくは精神障害者である労働者を雇い入れるか継続して雇用している事業主又はこれらの事業主を構成員とする事業主の団体に対して、その障害者である労働者の通勤を容易にするための措置に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (10) 重度身体障害者、知的障害者又は精神障害者である労働者を多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主に対して、これらの障害者のために行う施設・設備の設置又は整備に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (11) 対象障害者の職業に必要な能力を開発及び向上させるための教育訓練の事業を行う者に対して当該事業に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (12) 対象障害者の雇い入れ及びその雇用の継続を図るために必要な対象障害者の一連の雇用管理に関する援助の事業を行うものに対して、当該援助の事業に要する費用に充てるための助成金を支給すること。 (13) 障害者の技能に関する競技大会に係る業務を行うこと。 (14) 障害者の雇用に関する技術的事項についての講習の業務又は障害者の雇用について事業主その他国民一般の理解を高めるための啓発の業務を行うこと。 第7節 障害者の雇用の安定のための措置等 1 障害者雇用推進者 (1) 趣   旨  障害者の雇用の促進及び安定を図るためには、障害者雇用に関する企業内部の責任体制を確立し、障害者に係る実効ある雇用推進措置及び適正な雇用管理を行う必要があります。また、企業における障害者雇用に係る国との連絡窓口を明確にしたほうが、企業に対する指導が行いやすくなることや、障害者の雇用の促進及び継続を図るための施設・設備の設置及び雇用管理等諸条件の整備、障害者の解雇の届出等の事務においても、同一企業内においては同一の責任者において処理されることが適当であること等の理由から、対象障害者の雇用義務が生じる規模(特殊法人等については36.0人、それ以外の民間企業については40.0人)以上の企業は、障害者雇用推進者(以下「推進者」という。)を設置するよう努めなければならないとされています(法第78条第2項)。 (2) 推進者の業務  障害者雇用推進者の業務は、おおむね次のような事項です。 @ 障害者の雇用の促進及びその雇用の継続を図るために必要な施設又は設備の設置又は整備その他の諸条件の整備を図るための業務 A 厚生労働大臣に対する対象障害者の雇用状況の報告 B 障害者を解雇する場合におけるハローワーク所長への届出の業務 C 対象障害者の雇入れに関する計画の作成命令を受けた場合における国との連絡等に関する業務 (3) 推進者の選任  雇用義務が生じる規模以上の企業は、(2)の@〜Cまでの業務を遂行するために必要な知識及び経験を有していると認められる者のうちから、当該業務を担当する者を推進者として選任するものとされています。  なお、推進者の設置は、企業における障害者雇用についての責任体制を明確化するとともに、取組体制を整備することに主眼があり、人事労務担当の部長クラスが選任されることが望ましいでしょう。 2 解雇等の届出 (1) 趣   旨  障害者は、就職するに当たって各種のハンディキャップを有し、再就職は一般的に困難であることにかんがみ、事業主が障害者を解雇等しようとする場合には、その旨を速やかにハローワーク所長に届け出させることにより、ハローワークはあらかじめその者に適した求人の開拓、職業指導等を積極的に行うことによって、早期の再就職を図ります。 (2) 届出の要件及び手続 @ 事業主は、法第79条第1項に規定する障害者を解雇等する場合(労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合又は天災事変、その他やむを得ない理由により事業の継続が不可能となったことにより解雇する場合を除く。)には、速やかに、次の事項を記載した届書を、その障害者が雇用されている事業所の所在地を管轄するハローワーク所長に届け出なければなりません。 ア 解雇する障害者である労働者の氏名、性別、年齢及び住所 イ 解雇する障害者である労働者が従事していた職種 ウ 解雇の年月日及び理由 A 解雇等の届出規定は、障害者の再就職が一般的に困難であるため、解雇されることが明らかになったときは、ハローワークも含めて速やかに当該障害者の再就職に努める必要があるという趣旨から設けられました。これにかんがみ、この解雇等の届出は、解雇の効力が生ずる前にできるだけ早く行われる必要があります。したがって、事業主は、解雇等の告知後速やかに届け出なければなりません。  なお、解雇等の届出義務は、解雇等の事由を個別具体的に判断し、障害者の解雇を直接規制しようとするものではありませんが、特に、事業主については、その解雇等によって障害者雇用率を下回ることとなるような場合には、障害者雇用率制度の趣旨にかんがみ、継続雇用や新規雇用等について必要な行政指導が行われることもあります。 第5章 関係機関・施設等の概要 第1節 関係施設とサービスの概要 第2節 障害者総合支援法による障害者福祉サービスの概要 第1節 関係施設とサービスの概要 1 ハローワーク(公共職業安定所) (1) 障害者の職業紹介  ハローワークは、職業紹介、職業指導等の業務を行うため国が設置する機関です。ハローワークでの障害者の職業紹介業務については、障害者がハローワークに求職を申し込むことから始まり、求職票に障害情報、技能、知識、適性、身体能力、希望職種等が記載され、この求職票に基づいてケースワーク方式による相談等が行われています。この求職票は、就職後もハローワークに保存されて、就職後の指導まで一貫して利用できるようになっています。  また、就職後のアフターケアとして、ハローワークの職員等が必要な助言・指導を行っています。 (2) 障害者向けチーム支援による個別支援  就職を希望する障害者1人ひとりに対して、ハローワークが中心となって、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労支援機関、職業能力開発校、特別支援学校、高等学校、大学、医療機関など地域の支援関係者からなる就労支援のためのチームを設置し、チーム構成員が障害者支援におけるそれぞれの強みを発揮して、支援対象者の就職に向けた準備から職場定着までの一連の支援を行います。 (3) 障害者支援の専門スタッフの配置 @ 手話協力員  聴覚障害、音声又は言語機能障害者といった耳が聞こえない、聞こえにくい求職者に対する職業相談、職業紹介及び職場適応指導については、手話協力員がハローワークの職員等に随伴し、業務に協力します。 A 就職支援ナビゲーター(障害者支援分)  障害の理解、障害者の雇用管理上必要な配慮、障害者の職業リハビリテーションに関する理解等の専門的知識を有する人材を「就職支援ナビゲーター(障害者支援分)」として各労働局の主要なハローワークに配置しています。就職支援ナビゲーター(障害者支援分)は、障害の別なく求職障害者等の個々のニーズに即して次のような業務に当たります。 ・職業相談における求職者の障害状況の把握と、職業紹介を行うために必要な援助の明確化 ・障害者求人開拓についての雇用指導官、求人部門との間の調整 ・求職者の紹介への同行、紹介時や採用後の事業主へのアドバイス等 ・地域障害者職業センター等、必要な職業リハビリテーションサービスの実施機関との間の調整 ・就職後、一定期間が経過した障害者の職場定着状況の確認と、問題となる事態を発見した時の助言 B 精神・発達障害者雇用サポーター  精神保健福祉士、臨床心理士等の資格を有し、精神障害や発達障害の専門的知識や支援経験を有する人材等を「精神・発達障害者雇用サポーター」としてハローワークに配置し、障害特性を踏まえた専門的な就職支援や職場定着支援、及び事業主に対する精神障害者等の雇用に係る課題解決のための相談援助を実施します。 (4) 企業向けチーム支援の実施 障害者雇用ゼロ企業等を対象に、労働局又はハローワークが中心となって就労支援機関等と連携して、企業ごとの状況及びニーズ等を把握するとともに、これに合わせて雇用に向けた準備段階から雇用後の職場定着まで一貫した支援を行います。 2 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(資料編第8節の(1)参照) (1) 設立経緯及び目的  平成15年10月1日、日本障害者雇用促進協会の業務に国及び(財)高年齢者雇用開発協会の業務の一部を加えて実施する、「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構」が設立されました。  日本障害者雇用促進協会は、障害者の雇用の促進等を図るためには、事業主等によって構成される障害者雇用促進団体が、行政に協力しつつ自主的活動を行うことが極めて効果的であるとの考えから、昭和52年に、障害者の雇用の促進に関する事業を行う団体として、労働大臣の認可を受けて設立されました。同協会は、その後、納付金関係業務、障害者職業センター設置運営業務など業務の拡充が図られ、障害者の雇用の促進及びその職業の安定に重要な役割を果たしてきました。  また、(財)高年齢者雇用開発協会は、高齢者の雇用の安定等に関する業務を行う財団法人として昭和53年に設立され、その後昭和61年には労働大臣により中央高年齢者等雇用安定センターに指定されるなど、定年の引上げ・65歳までの継続雇用制度の導入に関する相談援助業務をはじめ、少子高齢化が急速に進展する中での高齢者の雇用という課題に対応した重要な業務を実施してきました。  「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構」は、高齢者と障害者は、その雇用促進のために事業主の取組みを促す強力な政策支援が不可欠であるという共通性・類似性を有することにかんがみ、これら二つの法人が担ってきた高齢者及び障害者の雇用支援を一体的に実施する組織として、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構法(平成14年法律第165号。同年12月13日公布)に基づき設立されたものです。  なお、(独)高齢・障害者雇用支援機構は、独立行政法人雇用・能力開発機構を廃止する法律(平成23年法律第26号。同年4月27日公布)が施行される平成23年10月1日に、(独)雇用・能力開発機構から職業能力開発業務等の移管を受け、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」に法人名を変更しました。 (2) 障害者雇用支援関係業務の内容 @ 障害者職業センターの設置運営業務  障害者職業センターとして、障害者職業総合センター、広域障害者職業センター(中央広域障害者職業センター及び吉備高原広域障害者職業センター)及び地域障害者職業センター(47都道府県)の3種類のセンターを設置し、障害者職業総合センターを中核として、障害者に対する職業評価、職業指導、事業主に対する障害者雇用の支援、関係機関に対する助言・援助等を実施しています。 A 障害者職業能力開発校の運営業務  障害者職業能力開発校(中央障害者職業能力開発校及び吉備高原障害者職業能力開発校)を中央広域障害者職業センター、吉備高原広域障害者職業センターに併設し、それぞれ国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターとして、精神障害者や発達障害者を含む職業訓練上特別な支援を要する障害者に対する先導的な職業訓練を重点的に実施するとともに、その成果に基づき開発した職業訓練内容、指導技法等を他の障害者職業能力開発校及び一般の職業能力開発校等に提供しています。 B 障害者雇用納付金関係業務 ア 障害者雇用納付金制度に基づく障害者雇用納付金の徴収並びに障害者雇用調整金、報奨金及び各種助成金の支給をしています。 イ 障害者を5人以上雇用する事業所に選任が義務づけられている障害者の職業生活全般にわたる相談・指導を行う障害者職業生活相談員の資格認定講習を実施しています。 ウ 障害者が日ごろ培った技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々が障害者に対する理解と認識を深め、その雇用の促進と地位の向上を図るため、障害者技能競技大会(アビリンピック)を開催しています。 エ 定期刊行誌及びマスメディアを通じた障害者雇用に関する啓発広報活動並びに障害者の就労支援機器の無料貸出し等を行っています。 (3) 障害者職業センター  障害者の就職の促進と職場定着を図るため、障害者職業総合センターによる指導・支援のもと、広域障害者職業センター及び地域障害者職業センターにおいて、障害者・事業主等の多様なニーズに対応した職業リハビリテーションサービスを提供しています。 @ 障害者職業総合センター  職業リハビリテーションサービスの基盤整備と質的向上を図るため、職業リハビリテーションサービスに関する研究、技法の開発・普及及び専門職員の養成・研修、広域障害者職業センター、地域障害者職業センター等への指導・支援等を行っています。  研究部門では、研究成果をとおして障害者の職業リハビリテーションに関する施策の充実や、地域障害者職業センターをはじめ障害者就業・生活支援センター、病院、特別支援学校等での就業支援技術の向上のため、障害者を取り巻く状況や障害者施策の動向等を踏まえて、発達障害、精神障害、高次脳機能障害及び難病者等の職業リハビリテーションに関する先駆的な研究、職業リハビリテーション業務を行う地域障害者職業センター等の現場の課題解決に資するための研究、地域の就労支援機関向けの有効な支援ツール等の開発のための研究、国の政策立案に資する研究を行っています。  職業センターでは、障害の重度化・多様化によりこれまでの支援技法では効果が現れにくい発達障害、精神障害、高次脳機能障害等の障害者に対する支援技法の開発・改良を行っています。これらの人に対する実際の支援を通じて開発した効果的な支援技法は「実践報告書」、「支援マニュアル」等にとりまとめて、地域障害者職業センターをはじめ就労支援機関等に提供するとともに支援技法を普及するための講習等を実施しています。  そのほか障害者職業総合センターでは、職業リハビリテーション業務に関する企画・指導を行うとともに、障害者職業カウンセラー及び職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成・研修や、医療・福祉等の分野における障害者の就業支援を担当する人等を対象とした職業リハビリテーションに関する知識や就業支援に必要な技術の習得、資質の向上を図る研修を実施しています。 A 広域障害者職業センター/障害者職業能力開発校  障害者職業カウンセラー、職業訓練指導員が配置され、医療リハビリテーションとの連携を図りながら、職業評価、職業指導、職業訓練等の職業リハビリテーションサービスを提供しています。国立職業リハビリテーションセンター及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、全国の広範な地域から、精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者等を含む職業訓練上特別な支援を要する障害者を積極的に受入れ、先導的な職業訓練を実施しています。また、その成果をもとに、職業訓練上特別な支援を要する障害者に対する職業訓練の内容、指導技法等を蓄積し、障害者職業訓練推進交流プラザ等を通じて、他の障害者職業能力開発校等へ提供するとともに、職業訓練上特別な支援を要する障害者等向け訓練コースの設置・運営の支援に取り組むことにより、障害者職業訓練全般の水準向上に寄与しています。 ア 国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)   職業評価、職業指導、職業訓練、職業適応指導を実施しています。 イ  国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(岡山県加賀郡吉備中央町)   職業評価、職業指導、職業訓練、職業適応指導、生活指導を実施しています。 B 地域障害者職業センター  障害者職業カウンセラーが配置され、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、病院、特別支援学校等の関係機関との密接な連携の下、各都道府県における中核的な職業リハビリテーション機関として、地域に密着した職業リハビリテーションサービスを提供しています。 ・障害者に対するサービス  職業評価・職業指導・職業リハビリテーション計画の策定、職業準備支援、知的障害者判定・重度知的障害者判定を実施しています。 ・事業主に対するサービス  障害者の新規雇い入れ、在職者の職場適応やキャリアアップ、休職者の職場復帰等、障害者雇用に係る様々な支援を実施しています。障害者雇用の相談や情報提供を行うほか、障害者の雇用に関する事業主のニーズや雇用管理上の課題を分析し、必要に応じ、事業主支援計画を作成して、専門的な支援を体系的に行います。 ・障害者及び事業主に対するサービス  職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援、職場復帰、雇用促進及び雇用継続のそれぞれの雇用の段階において専門的な支援を行う精神障害者総合雇用支援を実施しています。 ・ 地域の関係機関に対する職業リハビリテーションに関する助言・援助等  障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所等関係機関に対して、支援計画の策定や支援の実施方法等の職業リハビリテーションに関する専門的・技術的な助言・援助を行っています。  また、これらの関係機関での就業支援を担当する人を対象に「就業支援基礎研修」及び「就業支援実践研修」を実施し、効果的な職業リハビリテーションを実施するために必要な知識・技術等の向上を図っています。 図1 地域障害者職業センターの業務例 (4) 都道府県支部 高齢・障害者業務課及び高齢・障害者窓口サービス課  高齢・障害者業務課(東京、大阪にあっては高齢・障害者業務課及び高齢・障害者窓口サービス課)においては、高年齢者雇用に関する相談・援助、高年齢者等の雇用に関する啓発活動、各種給付金の支給申請の受付等の高年齢者雇用支援業務及び次のような障害者雇用支援業務を実施しています。 ・ 障害者雇用納付金等の申告・申請受付  障害者雇用納付金、障害者雇用調整金、報奨金等について、事業主が提出する申告書・申請書の受付等を行っています。 ・ 各種助成金等の申請受付  障害者を新たに雇い入れたり障害者の雇用を継続するために職場環境を改善する、または雇用している障害者の職場への適応を図る場合の助成金等について、事業主が提出する申請書の受付等を行っています。 ・ 障害者雇用に関する講習・啓発活動等  障害のある労働者への職業生活に関する相談・指導を行う従業員のための障害者職業生活相談員資格認定講習を開催するとともに、事業主や事業主団体に対し、障害者の雇入れに当たっての工夫・改善策や障害者が能力を発揮して活躍するための手法を取りまとめた実践的なマニュアル・好事例集の提供等を行っています。また、より専門的な支援を必要とする場合には、適切な支援機関を紹介します。さらに、事業主のみならず広く障害者雇用の理解と認識を深めることができるよう、障害者雇用優良事業所の表彰を行っています。 ・ 地方アビリンピックの開催  障害者の職業能力に対する社会の理解と認識を高め、その雇用の促進と地位の向上を図るとともに、障害者が社会に参加する自信と誇りを持つことができる機会を提供することを目的として地方アビリンピック(障害者技能競技大会)を開催しています。 (5) 中央障害者雇用情報センター  中央障害者雇用情報センター(東京都墨田区)においては、企業の規模や業種の特性に応じた雇用管理等に関する相談・援助、就労支援機器の貸出しと活用に関する相談等を行っています。また、障害者の雇用管理に係る専門的な支援を必要とする事業所に、労務管理、医療、建築などさまざまな分野の専門家「障害者雇用管理サポーター」を派遣しています。   3 障害者就業・生活支援センター(資料編第8節の(2)参照)    障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関との連携の下、障害者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行っています。本事業は、都道府県知事が指定する社会福祉法人や特定非営利活動法人(NPO)等が運営しており、主な事業内容は、次のとおりとなっています。 (1) 障害者から就業及びこれに伴う日常生活上の問題に関する相談に応じ、必要な指導及び助言その他の援助を行うこと (2) 地域障害者職業センター又は事業主等により行われる職業準備訓練及び職場実習のあっせんを行うこと (3) 就職後の障害者に対する必要な助言、事業主に対して障害者の就職後の雇用管理や職場定着に資する助言等を行うこと (4) ハローワーク、地域障害者職業センター、社会福祉施設、保健医療施設、特別支援学校、当事者団体等の関係機関との連携・連絡調整を行うこと 4 障害者職業能力開発校(資料編第8節の(3)参照)  障害者職業能力開発校は一般の公共職業能力開発施設において職業訓練を受けることが困難な障害者に対して、その障害特性に配慮した職業訓練を実施する施設で、就職又は雇用継続に必要な技能・知識を習得し、障害者の就職の促進又は雇用継続を図ることを目的としています。 (1) 国が設置し、都道府県が運営している障害者職業能力開発校 11校 (2) 国が設置し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営している障害者職業能力開発校  2校 (3) 府県が設置・運営している障害者職業能力開発校 6校 5 発達障害者支援センター(資料編第8節の(4)参照)  発達障害者支援センターは、都道府県等が設置する機関で、発達障害者やその家族等に対し、専門的に相談に応ずるとともに、発達支援や就労支援を行っています。また、発達障害に関して、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関や民間団体等に対する情報の提供及び研修、それらの関係機関や民間団体等との連絡調整などを行い、地域における発達障害者支援の中核となり、体制整備をすることとなっています。   6 難病相談支援センター(資料編第8節の(5)参照)    難病相談支援センターは難病の患者及び家族等の相談に応じ、必要な情報提供及び助言等を行い、患者の療養生活における質の維持向上を支援することを目的とする施設です。事業内容としては、@電話や面談等の各種相談支援、A地域交流会等の活動に対する支援、B就労支援、C講演、研究会等の開催などがあり、難病患者等の様々なニーズに対応するため、各種関係機関と連携を図りながら支援を行っています。連携先の一例には、就労支援等機関(ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等)があり、各ハローワークに配置される難病患者就職サポーターは、相互の連携により、きめ細やかな就労支援につなげています。 7 労災病院  (独)労働者健康安全機構が設置運営している病院で、被災労働者に対して適切かつ迅速な診断・治療を行い、被災労働者が1日も早く労働能力を回復し、速やかな社会復帰を図ることを主たる目的としています。また、職業性疾病の予防、早期発見、治療から健康の保持・増進に至るまで勤労者の職業生活を医療の面からサポートしています。 8 福祉事務所等  福祉事務所は、都道府県、指定都市、特別区及び市等が設置する機関で、生活保護者、老人、障害者等特別の配慮を必要とする者の援護、育成又は更生の業務を行っています。障害者に関しては、この福祉事務所に社会福祉主事、身体障害者福祉司、知的障害者福祉司という専門職員が配置され、障害者への専門的相談指導を行ったり、福祉事務所員への技術的指導を行っています。そのほか市町村が地域住民の有識者を身体障害者相談員、知的障害者相談員として委嘱して地域住民の相談に応じています。 9 身体障害者更生相談所(資料編第8節の(6)参照)  身体障害者更生相談所は、都道府県等が設置する機関で、18歳以上の身体障害者の医学的、心理学的及び職能的判定を行うとともに、必要に応じ市町村が障害者総合支援法による介護給付費、自立支援医療費、補装具費等の支給決定を行う際に技術的事項についての協力を行うこととなっています。なお、18歳未満の身体障害児については、保健所又は児童相談所がこれらの業務を行っています。また、身体障害者更生相談所は、必要に応じ巡回してその業務を行うことができることとなっています。 10 知的障害者更生相談所(資料編第8節の(7)参照)  知的障害者更生相談所は、都道府県等が設置する機関で、知的障害者に対する問題について、家庭その他からの相談に応ずるとともに、18歳以上の知的障害者の医学的、心理学的及び職能的判定とこれに付随して必要な指導を行っています。また、市町村が障害者総合支援法による介護給付費等の支給決定を行う際に技術的事項についての協力を行うこととなっています。なお、18歳未満の知的障害児については、児童相談所がこれらの業務を行っています。また、知的障害者更生相談所は、必要に応じ巡回してその業務を行うことができることとなっています。 11 精神保健福祉センター(資料編第8節の(8)参照)  精神保健福祉センターは、都道府県等が設置する機関で、精神保健福祉に関する知識の普及を図り、調査・研究を行い、相談指導のうち複雑困難なものを行っているほか、精神医療審査会の事務局の役割、精神障害者保健福祉手帳の交付の際の判定、通院医療費の公費負担の判定を行っています。なお精神保健福祉センターは、精神保健福祉に関する総合的技術センターとして位置づけられ、地域精神保健活動の中心的機関である保健所、市町村及び関係機関に対して技術指導や援助なども実施しています。また、市町村が障害者総合支援法による介護給付費等の支給決定を行う際に技術的事項についての協力を行うこととなっています。 12 特別支援学校・特別支援学級・通級による指導1  障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を培うため、1人ひとりの障害の状態などに応じ、特別な配慮の下で適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要があります。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教材、障害特性に配慮した設備等を活用し、専門的な知識や経験を有する教職員により指導が行われています。  義務教育段階の全児童生徒数が減少傾向にある一方で、特別支援教育の対象となる児童生徒数は増加傾向にあります。令和5年5月1日現在、義務教育段階で特別支援学校に在籍している児童生徒と、特別支援学級及び通級による指導を受けている児童生徒の総数は約64万人2で、これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約6.8%に当たります。また、通常の学級においても、配慮が必要な児童生徒が在籍しており、学校生活における早期からの支援に対する要望の声が高まっています。  障害のある生徒の就労については、令和5年5月1日現在、特別支援学校高等部卒業者の進路を見ると、福祉施設等入所者・通所者の割合が約62.7%に達する一方で、就職者の割合は約19.6%となっています。就労の促進に当たっては、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となり、キャリア教育・就労支援をより一層充実させることが重要です。  また、大学・短期大学・高等専門学校(以下「大学等」という。)における障害のある学生(以下「障害学生」という。)の在籍者数は、(独)日本学生支援機構の調査3によると、令和4年5月1日現在、49,672人であり、年々増加しています。  同調査によると、令和4年5月1日現在、障害学生に対する就職支援やキャリア教育支援の取組として、インターンシップ先・就職先の開拓や企業との連携を実施している大学等の割合は全大学等のうち約30.2%であり、これらをはじめとした障害学生の就労に向けた支援等に関する取組を更に充実させることが重要となります。 13 その他  障害者の問題としては、その他医療、結婚生活の問題等も避けては通れないものであり、各地方自治体では、福祉事務所以外に特別な機関を設けて相談窓口を開設している場合もあります。  また、令和3年9月に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では、都道府県は、「医療的ケア児支援センター」の設置等を行い、医療的ケア児及びその家族の相談に応じ、情報提供や助言その他の支援を行うことができることとされています。 1 通級による指導:小・中学校及び高等学校において,障害のある児童生徒を対象として,通常の学級に在籍し,主として各教科などの指導を通常の学級で行いながら,障害に起因する学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な特別の指導を行う教育形態である。 2 通級による指導を受けている児童生徒数は、令和3年度通年の数値。 3 (資料出所)(独)日本学生支援機構「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書(令和4年度)」 第2節 障害者総合支援法による障害者福祉サービスの概要  障害者自立支援法(平成17年法律第123号)により、これまで身体障害者更生援護施設(身体障害者授産施設、身体障害者福祉工場等)、知的障害者援護施設(知的障害者授産施設、知的障害者福祉工場等)、精神障害者社会復帰施設(精神障害者授産施設、精神障害者福祉工場等)など、障害種別ごとに複雑に分かれていた施設・事業体系が、障害の種別(身体障害、知的障害、精神障害)にかかわらず、障害がある人々が必要とするサービスを利用できる事業体系に再編されるとともに、「就労支援のための事業」や「地域生活支援の事業」等が創設されました。同法は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に改正され、平成25年4月1日より難病患者等も障害福祉サービス等による支援の対象となりました。  「就労支援のための事業」としては、一般企業等への就労に向けて一定期間必要な訓練を行う「就労移行支援」、一般企業等での就労が困難な人に働く場を提供するとともに必要な訓練を行う「就労継続支援(A型、B型)」、一般就労に伴う環境の変化によって生じる生活面・就業面での課題に対応できるよう、事業所・医療機関・家族等と連絡調整をして必要な支援を行う「就労定着支援」が設けられ、雇用施策と連携して事業を実施することとされています(第6章参照)。  また、令和4年の法改正では、障害者本人の就労ニーズや能力・適性とともに、就労に必要な支援や配慮等を整理し、個々の状況に応じた適切な就労につなげる「就労選択支援」が創設されました(令和7年10月1日施行予定)。 ■ 福祉サービスに係る自立支援給付等の体系 1 サービスには期限のあるものと、期限のないものがありますが、有期限であっても、必要に応じて支給決定の更新(延長)は一定程度可能となります。 図1 障害者総合支援法による障害者福祉サービスの新体系 福祉サービスに係る自立支援給付等の体系 新サービス 「障害福祉サービス(個別に支給決定が行われる)」 介護給付(介護の支援を受ける場合) ・居宅介護(ホームヘルプ) ・重度訪問介護 ・同行援護 ・行動援護 ・重度障害者等包括支援 ・短期入所(ショートステイ) ・療養介護 ・生活介護 ・障害者支援施設での夜間ケア等(施設入所支援) 訓練等給付(訓練等の支援を受ける場合) ・自立訓練(機能訓練・生活訓練) ・就労移行支援 ・就労継続支援(A型=雇用型、B型=非雇用型) ・就労定着支援 ・自立生活援助 ・共同生活援助(グループホーム) 「地域生活支援事業(市町村の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟に実施できる)」 ・移動支援 ・地域活動支援センター ・福祉ホーム 日中活動と住まいの場の組み合わせ 見直し後 「日中活動の場(以下から1ないし複数の事業を選択)」 ・療養介護(医療機関への入院とあわせて実施) ・生活介護 ・自立訓練(機能訓練・生活訓練) ・就労移行支援 ・就労継続支援(A型=雇用型、B型=非雇用型) ・地域活動支援センター(地域生活支援事業) プラス 「住まいの場」 ・障害者支援施設の施設入所支援又は居住支援(グループホーム、福祉ホームの機能) 図2 障害者総合支援法による総合的な自立支援システムの全体像 「自立支援給付」(市町村) <介護給付> 居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、短期入所(ショートステイ)、療養介護、生活介護、施設入所支援 <相談支援> 基本相談支援、地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援)、計画相談支援(サービス利用相談、継続サービス利用支援) <訓練等給付> 自立訓練(機能訓練・生活訓練)、就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援(A型・B型)、就労定着支援、自立生活援助、共同生活援助(グループホーム) <自立支援医療> 更生医療、育成医療、精神通院医療(実施主体は都道府県等) <補装具> 義肢、装具、車椅子等 「地域生活支援事業」(市町村) 相談支援、移動支援、意思疎通支援、地域活動支援センター、日常生活用具の給付又は貸与、福祉ホーム等 「地域生活支援事業」(都道府県) 専門性の高い相談支援、広域的な対応が必要な事業、人材育成等については、市町村が行う地域生活支援事業を支援する 第6章 障害者雇用に関する各種援助 第1節 援助メニュー一覧 第2節 事業主に対する援助制度 第3節 障害者に対する援助制度 第1節 援助メニュー一覧  以下のメニュー一覧のうち(1)から(4)は、就労を希望する障害者の方がニーズや場面に沿って参照しやすい形にまとめたものですが、これらのメニューのうち◆印のものは、事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニューです。 (1)就職に向けての相談 「働きたいが、何から始めればよいのか分からないので相談したい。」 「就職に向けて、受けられる支援制度や支援機関を知りたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・就労に関する様々な相談支援 障害者就業・生活支援センター ・職業相談・職業紹介 ハローワーク ・障害者相談支援事業 市町村、市町村の委託を受けた相談事業者 ・就労選択支援(令和7年10月施行予定) 就労選択支援事業者 「自分に合った仕事や働き方を知りたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・職業カウンセリング、職業評価 地域障害者職業センター (2)就職に向けての準備、訓練 「就職に向けての課題を把握し、その課題の改善や適応力の向上を図るための支援を受けたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・地域障害者職業センターにおける職業準備支援 地域障害者職業センター 「就職に向けての訓練から就職後の定着支援までを一貫して受けたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・就労移行支援 就労移行支援事業者 「職業に必要な技能を身につけたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・公共職業訓練 障害者職業能力開発校等、ハローワーク ・障害者の多様なニーズに対応した委託訓練 職業能力開発校(委託訓練拠点校)、ハローワーク 「その事業所での就職を前提に、職場や作業に慣れるための実地訓練を受けたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・職場適応訓練 ハローワーク (3)就職活動、雇用前・定着支援 「すぐに就職活動を始めたい。就職先を探したい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・求職登録、職業紹介 ハローワーク 「紹介された事業所で、働き続けることができるかどうか試したい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・障害者トライアル雇用 ハローワーク 「職場に適応できるか不安なので、専門的な支援を受けながら就労したい。」 「仕事や職場でのコミュニケーションがうまくいかないので、ジョブコーチの支援を受けたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) ハローワーク 「在職中に受障し障害者となった。この職場で働き続けたいのだがどうすればよいか。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・継続雇用の支援(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) ハローワーク 「職場での様々な悩みについて相談したい。」 「職場での生活だけでなく、日常生活面での相談をしたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・就業面と生活面の一体的な支援(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 障害者就業・生活支援センター 「就労移行支援事業所等を利用し企業に就職したが、就職後も継続的に、生活面・就業面の相談がしたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・就業面と生活面の一体的な支援(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 障害者就業・生活支援センター ・就労定着支援(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 就労定着支援事業所 「うつ病等により休職しているが、もとの職場へ復帰するために、専門的な支援を受けたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・精神障害者の職場復帰支援(リワーク支援)(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 地域障害者職業センター (4)離職・転職時の支援、再チャレンジへの支援 「今の職場での仕事になじめないので転職したい。」 「仕事を辞めてしまったが、再就職したい。」 「企業で働いていたが解雇された。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・職業相談、職業紹介、雇用保険の給付 ハローワーク ・再就職を目指す場合、「(1)就職に向けての相談」「(2)就職に向けての準備、訓練」のメニューが利用できます。 「企業で働いていたが解雇された。」 「就労移行支援事業を利用したが、一般就労は難しかった。」 「体力面等の問題で働き続けることが難しくなった。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・就労継続支援(A型) 就労継続支援A型事業者 ・就労継続支援(B型) 就労継続支援B型事業者 (5)在宅就業の支援 「IT技術等を活用して在宅で仕事をしたい」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・在宅就業支援団体による援助(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 在宅就業支援団体 「在宅で働いている障害のある方に仕事を発注したい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・在宅就業支援団体による援助(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 在宅就業支援団体 ・在宅就業障害者特例調整金・特例報奨金の支給(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 高齢・障害・求職者雇用支援機構 都道府県支部 高齢・障害者業務課 (6)事業主の方への支援 「障害のある方を雇用する際に事業所が受けられる支援について知りたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・求人受理、職業紹介(仕事と障害者のマッチング)(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) ハローワーク ・障害者トライアル雇用(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 都道府県労働局、ハローワーク ・特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 都道府県労働局、ハローワーク 「障害のある方を雇用するノウハウについて知りたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・障害者雇用事例リファレンスサービス(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 高齢・障害・求職者雇用支援機構 ・就労支援機器の普及啓発、各種雇用相談・情報提供、障害者雇用支援人材ネットワーク事業(いずれも事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 中央障害者雇用情報センター ・障害者の雇用管理に関する支援等(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 地域障害者職業センター 「障害のある方が働き続けられるようにする支援について知りたい。」 支援メニューと相談窓口・支援機関 ・障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 高齢・障害・求職者雇用支援機構 都道府県支部 高齢・障害者業務課等 ・障害者雇用に係る税制上の優遇措置(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 税務署等 ・キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)(事業主の方も支援を受けることができるメニュー、又は事業主の方対象のメニュー) 都道府県労働局、ハローワーク 第2節 事業主に対する援助制度 1 障害者の方を新たに雇い入れる場合の助成金 項目 サービスの内容と目的 関係機関 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)@ 障害者等の就職困難者をハローワーク、民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。 都道府県労働局 ハローワーク 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) @ 発達障害者や難治性疾患患者をハローワーク、民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。 都道府県労働局 ハローワーク トライアル雇用助成金 (障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)@ ハローワーク等の紹介により、就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより、その適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進すること等を通じて、障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としています。 都道府県労働局 ハローワーク ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい @【厚生労働省】事業主の方のための雇用関係助成金     https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html 2 障害者雇用に当たって雇用管理の改善や職場環境の整備に取り組む場合の助成金 項目 サービスの内容と目的 関係機関 キャリアアップ助成金 (障害者正社員化コース)A 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対して助成します。 都道府県労働局 ハローワーク 障害者作業施設設置等助成金B 障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用する事業主が、その障害者が障害を克服し、作業を容易に行うことができるよう配慮された作業施設等の設置又は整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 設置や整備の方法により第1種、第2種に分かれます。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 障害者福祉施設設置等助成金B 障害者を労働者として継続して雇用している事業主又はこれらの事業主を構成員とする事業主の団体が、その障害者である労働者の福祉の増進を図るため、障害者が利用できるように配慮された休憩室・食堂等の福利厚生施設の設置又は整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 障害者介助等助成金B 障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用している事業主が、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 職場適応援助者助成金B 職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 重度障害者等通勤対策助成金B 重度身体障害者、知的障害者、精神障害者又は通勤が特に困難と認められる身体障害者を労働者として雇い入れる、又は継続して雇用する事業主又はこれらの事業主を構成員とする事業主の団体が、その障害者である労働者の通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金B 重度身体障害者、知的障害者又は精神障害者を労働者として多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主で、これらの障害者のために事業施設等の設置又は整備を行い、モデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 障害者職業能力開発助成金B 能力開発訓練事業を行う事業主等へ、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) 障害者雇用相談援助助成金B 障害者雇用相談援助事業を実施する事業者が、当該事業を利用する事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合に、その費用の一部を助成します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各都道府県支部) ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい。 A【厚生労働省】事業主の方のための雇用関係助成金     https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html B【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】助成金     https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html 3 税制上の優遇措置 項目 サービスの内容と目的 関係機関 助成金の非課税措置C (所得税・法人税) 障害者雇用納付金制度に基づく助成金を受けて固定資産を取得した際、固定資産の取得または改良に充てられた助成金の額は総収入額に不参入(所得税)または損金算入(法人税)されます。 税務署 地方税関係(事業所税)C 従業者割の事業所税については,従業者給与総額の算定及び免税点の判定において、障害者は従業者から除くものとされています。資産割の事業所税については、障害者を多数雇用する事業主が、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の支給を受けて施設の設置を行った場合、その施設で行う事業の事業所税(資産割)の課税標準となるべき事業所の床面積の算定について、2分の1に相当する面積を控除できます。 都道府県税事務所 ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧ください。 C【厚生労働省】障害者雇用に係る税制上の優遇措置 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/intro-yugusochi.html 4 障害者の雇入れに当たっての各種支援 項目 サービスの内容と目的 関係機関 障害者雇用に関する相談・援助D 障害者雇用に関する豊富な経験や知識を有する障害者雇用支援ネットワークコーディネーターが、障害者雇用の基本計画を作成・見直したい、障害者の採用計画を検討したい、障害者の処遇や人事制度を検討したい、社員研修を企画実施したい、等の障害者雇用に関する企業からの様々なご相談に応じます。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(中央障害者雇用情報センター) 障害者雇用支援人材ネットワーク事業E さまざまな分野の専門家(障害者雇用管理サポーター)を派遣し、事業主の方に対して、障害者の雇用にかかる各種相談や援助を行っているほか、さまざまな分野の専門家(障害者雇用管理サポーター)の派遣を行っています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(中央障害者雇用情報センター) 就労支援機器等普及啓発事業F 障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主や事業主団体に対し、障害者の就労を容易にするための支援機器の情報提供、無料貸出しを行っています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(中央障害者雇用情報センター) 障害者雇用事例リファレンスサービスG 障害者雇用について創意工夫を行い積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例をホームページに紹介しています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用のためのハンドブック・マニュアル等の作成H 障害者雇用に取組む事業主に役立つ情報として、障害者雇用に関する採用・配置・定着支援などの疑問に答えることを目的としたハンドブックや障害者雇用に関する問題点の解消のためのノウハウや具体的な雇用事例を障害別にコミック形式でまとめたマニュアルなどを作成しています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用のためのDVDの作成・無料貸出しI 企業の障害者雇用への理解を深めていただくためにDVDの無料貸出しを行っています。DVDは、障害者雇用を積極的に進めている企業の取組み、企業担当者のインタビュー等を通じて、職務開発、雇用管理等に関する具体的ノウハウをわかりやすく解説しています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者の在宅就業支援ホームページ チャレンジホームオフィスJ 通勤困難な障害者の就業の機会を促進するために、企業および就業希望の障害者に支援情報を提供しています。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい。 D【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】中央障害者雇用情報センターのごあんない     https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer05.html E【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】障害者雇用支援人材ネットワーク事業     https://shienjinzai.jeed.go.jp/ F【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】就労支援機器のページ     https://www.kiki.jeed.go.jp/ G【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】障害者雇用事例リファレンスサービス     https://www.ref.jeed.go.jp/ H【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】ハンドブック・マニュアル・DVD等     https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/index.html I【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】DVD貸出しのご案内     https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/dvd/index.html J【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】障害者の在宅就業支援ホームページ チャレンジホームオフィス     https://www.challenge.jeed.go.jp/ 5 地域障害者職業センターによる障害者の職場定着、職場復帰に向けた各種支援 項目 サービスの内容と目的 関係機関 雇用管理に関する専門的な支援K  新規雇い入れ、在職者の職場適応やキャリアアップ、休職者の職場復帰等において、以下の支援を行っています。 @「事業主支援計画」に基づく専門的な支援の実施 事業主のニーズや雇用管理上の課題を分析した上で支援計画を作成し、職務創出に関する助言等の専門的な支援を体系的に行います。 A「事業主支援ワークショップ」の開催 グループワーク等を通じて雇用管理上の課題解決の糸口を掴んでいただくために開催します。 B企業が企画する社員研修への協力 企業が企画する社員研修の実施に当たって、助言や講師の協力等を行います。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各地域障害者職業センター) 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援K  障害者が職場に適応できるよう、障害者職業カウンセラーが策定した支援計画に基づきジョブコーチが職場に出向いて直接支援を行います。  障害者が新たに就職するに際しての支援だけでなく、雇用後の職場適応支援も行います。  障害者自身に対する支援に加え、事業主や職場の従業員に対しても、障害者の職場適応に必要な助言を行い、必要に応じて職務の再設計や職場環境の改善を提案します。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各地域障害者職業センター) 精神障害者総合雇用支援K  精神障害のある方及び精神障害のある方を雇用しようとする又は雇用している事業主の方に対して、主治医との連携の下で、雇用促進、職場復帰、雇用継続のための専門的な支援を行います。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各地域障害者職業センター) ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい K【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】事業主の方へ    https://www.jeed.go.jp/disability/employer/index.html 第3節 障害者に対する援助制度 1 就職に向けた準備、支援 項目 サービスの内容と目的 関係機関 職業準備支援L 就職又は職場適応に必要な職業上の課題の把握とその改善を図るための支援、職業に関する知識の習得のための支援、社会生活技能等の向上を図るための支援を行います。終了後はハローワークによる職業紹介、ジョブコーチによる支援等に繋げていきます。 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(各地域障害者職業センター) 公共職業訓練M 職業能力開発促進法に基づき、就職又は雇用継続に必要な技能・知識を習得し、障害者の就職の促進又は雇用継続を図ることを目的とした職業訓練を、一般の公共職業能力開発施設において実施しています。一般の公共職業能力開発施設で職業訓練を受けることが困難な障害者については、その障害特性に配慮した職業訓練を障害者職業能力開発校において実施しています。 国立障害者職業能力開発校 府県立障害者職業能力開発校 (相談先) ハローワーク 障害者の多様なニーズに対応した委託訓練M 企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等の地域の多様な委託訓練先を開拓し、様々な障害の態様や企業のニーズに応じた公共職業訓練を実施します。 都道府県 (相談先) ハローワーク 職場適応訓練N 作業環境に適応することを容易にするために、都道府県知事等が事業主に委託して訓練を実施します。 ハローワーク 就職ガイダンス 求職障害者本人やその支援者・保護者に対して、具体的なマッチングを行う前に、就職活動に関わる知識・ノウハウの付与等を行います。 ハローワーク ↓詳しくは下記ウェブサイトをご覧下さい L【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構】障害者の方へ     https://www.jeed.go.jp/disability/person/person01.html M【厚生労働省】ハロートレーニング(障害者訓練)     https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/shougaisha.html N【厚生労働省】職場での訓練を受け入れる時は 職場適応訓練費     https://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/d02-1.html 2 障害者総合支援法関連の支援 項  目 サービスの内容と目的 関係機関 就労移行支援O 企業等への就職を希望している障害者を対象に、一定期間にわたる計画的なプログラムに基づき、事業所内や企業における作業・実習の実施、適性に合った職場探しや就労後の職場定着のための支援を行い、就職に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練や支援を行います。 就労移行支援事業所 就労定着支援O 就労移行支援・就労継続支援・生活介護・自立訓練事業所を利用し企業に就職した障害者が就職後も継続的に生活面・就業面の相談を希望する場合、就労定着支援員が、企業・自宅等へ訪問するほか、障害者が就労定着支援事業所に来所することにより、定期的に面談を行い就労継続を図るための生活リズム、家計や体調管理、正確な作業遂行等に関する助言、支援等を行います。 就労定着支援事業所 就労継続支援(A型)O 就労移行支援事業所を利用したが企業等の雇用に結びつかなかった障害者、特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが企業等の雇用に結びつかなかった障害者、企業等における就労経験はあるが現在は雇用関係にない障害者を対象に、事業所内において雇用契約に基づく就労の機会を提供します。また、就労の機会を通じて一般就労に必要な知識・能力の向上のために必要な訓練や支援を行います。 就労継続支援A型事業所 就労継続支援(B型)O 就労経験はあるが年齢や体力の面で一般企業に雇用されることが困難となった障害者等を対象に、事業所内において就労の機会や生産活動の機会を提供します(雇用契約は結ばない)。また、就労等の機会を通じて知識・能力の向上のために必要な訓練や支援を行います。 就労継続支援B型事業所 ↓就労系福祉サービスからの一般就労への移行状況や平均工賃等の各種データ及び就労支援マニュアル、調査研究等は下記ウェブサイトをご覧下さい。 O【厚生労働省】障害者の就労支援対策の状況    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html 資 料 編 第1節 障害者雇用関係統計資料 第2節 障害者基本計画(第5次)(抄) 第3節 障害者雇用対策基本方針 第4節 障害者差別禁止指針 第5節 合理的配慮指針 第6節 プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン 第7節 テレワークの適切な導入及び     実施の推進のためのガイドライン 第8節 関係機関・施設一覧 資料は二次元バーコード、リンクでもご覧いただけます。 第1節 障害者雇用関係統計資料 1 概況 (1) 身体障害者の状況 厚生労働省が平成28年12月に実施した調査によると、わが国の在宅の身体障害児・者数は推計で4,287,000人である。これは、前回調査(平成23年)の3,864,000人と比較すると423,000人(10.9%)増加しており、医学の進歩により障害者として生存する者の増加、老齢人口の増加などによるものと考えられる。 また、障害の種類別に見ると、肢体不自由が45.0%で最も多く、次いで内部障害が28.9%、聴覚・言語障害で8.0%、視覚障害で7.3%となっている(図1)。【参考】身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号) https://www.mhlw.go.jp/content/0000172197.pdf (2) 知的障害者の状況 厚生労働省が、平成28年12月に実施した調査によると、わが国の在宅の知的障害者数は推計で962,000人である。また、年齢別内訳は、18歳未満の知的障害児が214,000人(22.2%)、18歳以上の知的障害者が729,000人(75.8%)となっている。また、知的障害者の程度別内訳は、重度が38.8%、その他は57.7%となっている(表1)。 (3) 精神障害者の状況 令和2年度患者調査等によると、外来の精神疾患患者数は約586.1万人と推計されている。疾患別の内訳は、「気分(感情)障害(躁うつ病を含む)」が最も多く(約169.3万人)、次いで、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」(約123.7万人)となっている(図2)。 図1 障害の種類別にみた身体障害児・者数(在宅)の推移 1 内部障害については、昭和42年8月から心臓・呼吸器機能障害が、昭和47年7月からじん臓機能障害が、昭和59年10月からぼうこう又は直腸機能障害が、昭和61年10月からは小腸機能障害が、それぞれ身体障害者の範囲に取り入れられた。   また、平成10年4月からは「ヒト免疫不全ウイルス」による免疫の機能の障害が、平成22年4月からは肝臓機能障害が内部障害の範囲に取り入れられた。   (資料出所) 厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」(平成28年) また、平成7年に交付が開始された精神障害者保健福祉手帳は、令和3年3月末現在で1,180,269人に対して交付されており、その内訳は1級の者128,216人、2級の者694,351人、3級の者357,702人となっている。 表1 障害の程度別にみた知的障害児・者数(在宅)1 単位:人(%) 総数 重度 その他 不詳 総  数 962,000 100.0% 373,000 38.8% 555,000 57.7% 34,000 3.5% 知的障害児 (18才未満) 214,000 100.0% 69,000 32.2% 138,000 64.5% 7,000 3.3% 知的障害者 (18才以上) 729,000 100.0% 297,000 40.7% 407,000 55.8% 25,000 3.4% 不  詳 18,000 100.0% 6,000 33.3% 10,000 55.6% 1,000 5.6% 注:四捨五入で人数を出しているため、合計が一致しない場合がある。 図2 精神疾患外来患者の疾病別内訳2 1 (資料出所)厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」(平成28年) 2 (資料出所)厚生労働省「患者調査」(令和2年)をもとに厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部において作成された資料より引用 2 障害者雇用率の状況 (1) 概   況 障害者雇用率制度は、昭和35年の身体障害者雇用促進法(現在の障害者の雇用の促進等に関する法律)の制定により創設されたが、昭和51年の法改正により民間事業主の身体障害者雇用義務が従来の努力義務から法的義務として強化された。平成9年の法改正により雇用義務の対象に知的障害者が加えられ、平成25年の法改正により雇用義務の対象に精神障害者が加えられた。令和6年4月以降は以下の率以上の身体障害者、知的障害者又は精神障害者を雇用しなければならないこととされた(ただし、雇入れに係る計画的な対応が可能となるよう、令和8年6月30日までの間は括弧書きの率となる。)。 @ 国、地方公共団体 国、地方公共団体……3.0% (2.8%) 一定の教育委員会……2.9% (2.7%) A 民間企業 一般の民間企業………2.7% (2.5%) 特殊法人等……………3.0% (2.8%) また、この法律の適切な運用を図るため、常用労働者37.5人(令和8年6月30日までの間は40.0人)規模以上の民間企業等は毎年6月1日現在における身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用状況をハローワーク所長(国又は地方公共団体にあっては、その任命権者が厚生労働大臣又は各都道府県労働局長)に報告することとされている。 この報告により雇用状況の推移をみると、身体障害者の雇用の義務化(昭和51年10月)後の昭和52年の一般の民間企業における実雇用率は1.09%であったが、その後毎年着実に改善され、特に国際障害者年に当たる昭和56年には1.18%と対前年0.05ポイント増の大幅な改善をみた。以降、知的障害者の雇用率算入(昭和63年4月)と雇用義務化(平成10年7月)、除外率制度の見直し(平成16年4月)、精神障害者の雇用率算入(平成18年4月)等を経ながら長期的に改善を続け、平成18年には、初めて1.5%を超えた。一方、法定雇用率達成企業の割合は、昭和52年は52.8%、その後昭和61年までは概ね53%台で推移していたが、以降、低下傾向を辿り、平成11年には半数を割ったが、近年着実な進展が見られる。 以下は、令和5年6月1日現在の雇用状況の概要である。 (2) 民間企業における雇用状況1 @ 全体の状況 民間企業(43.5人以上規模の企業;法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者の数は642,178.0人で、前年より4.6%(28,220.0人)増加した。 このうち、身体障害者は360,157.5人、知的障害者は151,722.5人、精神障害者は130,298.0人であった。 実雇用率は2.33%(前年は2.25%)、法定雇用率達成企業の割合は50.1%(前年は48.3%)であった。 A 企業規模別の状況 企業規模別にみると、雇用されている障害者の数は、すべての企業規模で前年より増加した。 実雇用率は、民間企業全体の実雇用率(2.33%)と比較すると、 *500人〜1,000人未満規模企業(2.36%)、1,000人以上規模企業(2.55%)で上回った。 法定雇用率達成企業の割合は、全ての規模の企業で、前年を上回った。 B 産業別の状況 産業別では、雇用されている障害者の数は、「農、林、漁業」「鉱業、採石業、砂利採取業」「金融業、保険業」以外のすべての業種で前年より増加した。 実雇用率は、民間企業全体の実雇用率(2.33%)と比較すると、 *医療、福祉(3.09%)、生活関連サービス業、娯楽業(2.46%)、電気・ガス・熱供給・水道業(2.41%)、運輸業、郵便業(2.39%)、農、林、漁業(2.38%)ではそれぞれ上回ったが、それ以外の業種では同程度、又は下回った。 C 法定雇用率未達成企業の状況 法定雇用率未達成企業のうち、不足数が0.5人または1人である企業(1人不足企業)が、66.7%と過半数を占めている。 また、障害者を1人も雇用していない企業(障害者雇用ゼロ企業)が、法定雇用率未達成企業の58.6%となっている。 D 特例子会社の状況 令和5年6月1日現在で特例子会社の設定を受けている企業は、598社となっており、これらの特例子会社に雇用されている障害者の数は、46,848.0人であった(障害者の数について、雇用義務の対象とならない事業主等は集計値に含めていない)。 このうち、身体障害者は12,134.0人、知的障害者は24,062.0人、精神障害者は10,652.0人であった。 1 (資料出所) 厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36946.html (3) 国、地方公共団体における在職状況 @ 国の機関 国の機関に在職している障害者の数は9,940.0人で、実雇用率は、2.92%となっている。 A 都道府県の機関 都道府県の機関に在職している障害者の数は10,627.5人で、実雇用率は、2.96%となっている(知事部局は47機関中47機関で達成、知事部局以外は116機関中105機関が達成)。 B 市町村の機関 市町村の機関に在職している障害者の数は35,611.5人で、実雇用率は、2.63%となっている(市町村の機関は2,460機関中1,910機関が達成)。 C 都道府県等の教育委員会 都道府県等の教育委員会に在職している障害者の数は16,999.0人で、実雇用率は2.34%となっている(都道府県教育委員会は47機関中31機関が達成、市町村教育委員会は48機関中33機関が達成)。 (4) 独立行政法人等における雇用状況 独立行政法人等に雇用されている障害者の数は12,879.5人で、実雇用率は、2.76%となっている(独立行政法人等(国立大学法人等を除く)は93法人中80法人が達成、国立大学法人等は86法人中77法人が達成、地方独立行政法人等は190法人中151法人が達成)。 3 障害者の求職・就職状況2 新規に就職を希望する障害者の指標である新規求職申込件数は、平成18年度以降、10万件を超えており、平成29年度以降については、20万件を超えている。また、令和4年度のハローワークにおける障害者の就職件数は、102,537件となり、そのうち精神障害者の就職件数が全体の52.7%(54,074件)を占めている。 2 (資料出所) 厚生労働省「令和4年度 障害者の職業紹介状況等」 4 障害者の雇用状況 厚生労働省では、令和5年6月に民営事業所における障害者の雇用の実態を把握するため、障害者雇用実態調査1を実施した。この調査は、5年ごとに実施しているものであり、前回は平成30年に行っている。 【調査の概要】 本調査は、民営事業所における障害者の雇用の実態を把握するため、全国の従業員5人以上の民営事業所約9,400事業所を対象に、雇用している障害者の障害の種類・程度、賃金、労働時間等について調査した(回収率67.9%)。 【調査結果の概要】 1 身体障害者、知的障害者、精神障害者及び発達障害者の雇用状況 障害者の雇用状況については、産業別、事業所規模別の回収結果をもとに復元を行った推計値を利用して分析を行った。 ア 障害の種類・程度別の雇用状況 身体障害者について、障害の種類別にみると、肢体不自由が35.4%、内部障害が30.6%、聴覚言語障害が12.2%、視覚障害が7.5%となっている。 知的障害者については、重度が11.8%、重度以外が81.0%となっている。 精神障害者については、精神障害者保健福祉手帳により精神障害者であることを確認している者が92.7%、医師の診断等により確認している者が6.9%となっている。 精神障害者保健福祉手帳の等級をみると、3級が43.0%で最も多くなっている。また、医師の診断等による確認のうち、最も多い疾病は「そううつ病(気分障害)」で17.0%となっている。 発達障害者については、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」が69.1%で最も多い疾病となっている。 イ 雇用形態 雇用形態をみると、身体障害者は59.3%、知的障害者は20.3%、精神障害者は32.7%、発達障害者は36.6%が正社員となっている。 ウ 労働時間 週所定労働時間をみると、身体障害者は75.1%、知的障害者は64.2%、精神障害者は56.2%、発達障害者は60.7%が週30時間以上となっている。 エ 職業 職業別にみると、身体障害者は事務的職業が26.3%と最も多く、知的障害者はサービスの職業が23.2%と最も多く、精神障害者は事務的職業が29.2%と最も多く、発達障害者はサービスの職業が27.1%と最も多くなっている。 オ 賃金 令和5年5月の平均賃金をみると、身体障害者は23万5千円、知的障害者は13万7千円、精神障害者は14万9千円、発達障害者は13万円となっている。 カ 勤続年数 平均勤続年数をみると、身体障害者は12年2月、知的障害者は9年1月、精神障害者は5年3月、発達障害者は5年1月となっている。 2 障害者雇用に当たっての課題・配慮事項 障害者を雇用する際の課題としては、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者ともに、「会社内に適当な仕事があるか」が最も多くなっている。 また、雇用している障害者への配慮事項としては、身体障害者については、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休暇を認める等休養への配慮」、知的障害者については、「能力が発揮できる仕事への配置」、精神障害者については、「短時間勤務等勤務時間の配慮」、発達障害者については、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮」が最も多くなっている。 3 関係機関に期待する取組み 障害者を雇用する上で関係機関に期待する取組みとしては、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者ともに、「具体的な労働条件、職務内容、環境整備などが相談できる窓口の設置」が最も多くなっている。 1 (資料出所)令和5年度「障害者雇用実態調査」 第2節 障害者基本計画(第5次)(抄) (閣議決定 令和5年3月) https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/kihonkeikaku-r05.pdf (注)「雇用・就業、経済的自立の支援」に関しては、V「各分野における障害者施策の基本的な方向」の9を参照のこと 第3節 障害者雇用対策基本方針 <概要> https://www.mhlw.go.jp/content/001082375.pdf <本文> https://www.mhlw.go.jp/content/001083437.pdf 第4節 障害者差別禁止指針 障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、 事業主が適切に対処するための指針(平成27年厚生労働省告示第116号) <概要>  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000083349.pdf <本文>  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082149.pdf 第5節 合理的配慮指針 雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成27年厚生労働省告示第117号) <概要>  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000083347.pdf <本文>  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf <障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第三版】>  https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001237499.pdf <事例集> 合理的配慮指針事例集【第五版】 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001230884.pdf 公的機関における障害者への合理的配慮事例集【第七版】(地方公共団体等) https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001230965.pdf 障害者への合理的配慮好事例集 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001234010.pdf 第6節 プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン <概要> https://www.mhlw.go.jp/content/000581104.pdf <本文> https://www.mhlw.go.jp/content/000581119.pdf 第7節 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html 第8節 関係機関・施設一覧 (1) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構   本部 所在地 〒261-8558   千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2   高度訓練センター内   Tel 043(213)6000(代)  Fax 043(213)6808  @ 障害者職業総合センター  A 広域障害者職業センター  B 地域障害者職業センター  C 都道府県支部高齢・障害者業務課等  D 中央障害者雇用情報センター (2) 障害者就業・生活支援センター (3) 障害者職業能力開発校 (4) 発達障害者支援センター (5) 難病相談支援センター (6) 身体障害者更生相談所 (7) 知的障害者更生相談所 (8) 精神保健福祉センター (9) 厚生労働大臣が登録している在宅就業支援団体 (1) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 @ 障害者職業総合センター https://www.jeed.go.jp/location/syokugyousougou.html A広域障害者職業センター (国立職業リハビリテーションセンター・国立吉備高原職業リハビリテーションセンター) https://www.jeed.go.jp/location/koiki/1.html B地域障害者職業センター https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/index.html C都道府県支部高齢・障害者業務課等 https://www.jeed.go.jp/location/shibu/index.html D中央障害者雇用情報センター https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer05.html (2) 障害者就業・生活支援センター https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html (3) 障害者職業能力開発校  <障害者職業能力開発校所在地等一覧>   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/shougaisha.html    上記URLに掲載されていない障害者の訓練コースを設置している一般の職業能力開発校もありますので、下記一覧も合わせて参照ください。 (令和6年1月現在) 名   称 所 在 地 訓 練 科 目 北海道障害者職業能力開発校 〒073-0115 砂川市焼山60  Tel 0125(52)2774   Fax 0125(52)9177 総合ビジネス、建築デザイン、プログラム設計、CAD機械、総合実務 宮城障害者職業能力開発校 〒981-0911 仙台市青葉区台原 5-15-1  Tel 022(233)3124   Fax 022(233)3125 Webデザイン、OAビジネス、パソコン基礎、総合実務、オフィス実務、職域開発 中央障害者職業能力開発校1  (国立職業リハビリテーションセンター) 〒359-0042 所沢市並木4-2  Tel 04(2995)1711  Fax 04(2995)1052 機械製図、電子機器、テクニカルオペレーション、建築設計、DTP・Web技術、職業実務、OAシステム、経理事務、OA事務、オフィス ワーク、物流・資材管理、アシスタントワーク2 東京障害者職業能力開発校 〒187-0035 小平市小川西町 2-34-1  Tel 042(341)1411  Fax 042(341)1451 ビジネスアプリ開発、グラフィックDTP、建築CAD、オフィスワーク、実務作業、職域開発、就業支援、ビジネス総合事務、ものづくり技術、製パン、調理・清掃サービス、OA実務 神奈川障害者職業能力開発校 〒252-0315 相模原市南区桜台 13-1  Tel 042(744)1243  Fax 042(740)1497 ビジネスサポート、ビジネスキャリア、総合実務、ビジネス実務、ITチャレンジ、サービス実務、総合CAD、Web・DTP制作 石川障害者職業能力開発校 〒921-8836 石川県野々市市 末松2-245  Tel 076(248)2235  Fax 076(248)2236 機械CAD、電子機器、陶磁器製造、キャリア・マネジメント、OAビジネス、実務作業 愛知障害者職業能力開発校 〒441-1231 豊川市一宮町上新切 33-14  Tel 0533(93)2102  Fax 0533(93)6554 ITスキル、OAビジネス、CAD設計、総合実務、ワークサポート、就業支援 大阪障害者職業能力開発校 〒590-0137 堺市南区城山台 5-1-3  Tel 072(296)8311  Fax 072(296)8313 CAD技術、OAビジネス、Webデザイン、ワークサービス、Jobチャレンジ、職域開拓、オフィス実践 兵庫障害者職業能力開発校 〒664-0845 伊丹市東有岡4-8  Tel 072(782)3210  Fax 072(782)7081 ビジネス実務、オフィスワークCAD、OA事務、総合実務、キャリア実務 吉備高原障害者職業能力開発校1 (国立吉備高原職業リハビリテーションセンター) 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備 中央町吉川7520  Tel 0866(56)9000  Fax 0866(56)7636 機械製図、電子機器、システム設計、経理事務、OA事務、職業実務、職域開発2 名   称 所 在 地 訓 練 科 目 広島障害者職業能力開発校 〒734-0003 広島市南区宇品東 4-1-23  Tel 082(254)1766  Fax 082(254)1716 CAD技術、情報システム、Webデザイン、OAビジネス、事務実務、総合実務 福岡障害者職業能力開発校 〒808-0122 北九州市若松区大字 蜑住1728-1  Tel 093(741)5431  Fax 093(741)1340 3D-CAD、プログラム設計、商業デザイン、OA事務、総合実務、流通ビジネス、職域開発 鹿児島障害者職業能力開発校 〒895-1402 薩摩川内市 入来町浦之名1432  Tel 0996(44)2206  Fax 0996(44)2207 情報電子、グラフィックデザイン、OA事務、アパレル、介護福祉サービス、ワークトレーニング  障害者職業訓練校〔県立〕 名   称 所 在 地 訓 練 科 目 青森県立障がい者職業訓練校 〒036-8253 弘前市緑ケ丘1-9-1  Tel 0172(36)6882  Fax 0172(36)7255 OA事務、作業実務、デジタルデザイン 千葉県立障害者高等技術専門校 〒266-0014 千葉市緑区大金沢町 470  Tel 043(291)7744  Fax 043(291)7745 DTP・Webデザイン、福祉住環境・CAD、PCビジネス、職域開拓、基礎実務、短期実務 岐阜県立障がい者職業能力開発校 〒502-8503 岐阜市学園町2-33  Tel 058(201)4511  Fax 058(231)3760 基礎実務、OAビジネス、Webデザイン 静岡県立あしたか職業訓練校 〒410-0301 沼津市宮本5-2  Tel 055(924)4380  Fax 055(924)7758 コンピュータ、生産・サービス 京都府立京都障害者高等技術専門校 〒612-8416 京都市伏見区 竹田流池町121-3  Tel 075(642)1510  Fax 075(642)1520 総合実務、ITシステムサポート、ものづくりサポート、インテリアCADサポート (分校)京都府立城陽障害者高等技術専門校 〒610-0113 城陽市中芦原59  Tel 0774(54)3600  Fax 0774(56)0528 生産実務 兵庫県立障害者高等技術専門学院 〒651-2134 神戸市西区曙町1070  Tel 078(927)3230  Fax 078(928)5512 ものづくり、ビジネス事務、情報サービス、総合実務 障害者の訓練コースを設置している一般の職業能力開発校[県立] (令和6年1月1日現在) 都道府県 実施校 所在地 電話番号 訓練科と対象者となる障害 北海道 函館高等技術専門学院 〒041-0801 函館市桔梗町435番地 0138-47-1121 販売実務 知的障害 旭川高等技術専門学院 〒078-8803 旭川市緑が丘東3条2丁目1-1 0166-65-6667 介護アシスト 知的障害 茨 城 水戸産業技術専門学院 〒311-1131 茨城県水戸市下大野町6342 029-269-2160 総合実務 知的障害 埼 玉 職業能力開発センター 〒331-0825 さいたま市北区櫛引町2-499-11 048-651-3122 サービス実務 知的障害 職域開発 精神障害 千 葉 我孫子高等技術専門校 〒270-1163 我孫子市久寺家682-1 04-7184-6411 事務実務 知的障害 東 京 中央・城北職業能力開発センター板橋校 〒174-0041 板橋区舟渡2-2-1 03-3966-4131 実務作業 知的障害 城南職業能力開発センター 〒140-0002 品川区東品川3-31-16 03-3472-3411 実務作業 知的障害 城東職業能力開発センター 〒120-0005 足立区綾瀬5-6-1 03-3605-6140 実務作業 知的障害 新 潟 新潟テクノスクール 〒950-0915 新潟市中央区鐙西1丁目11-2 025-247-7361 総合実務 知的障害 石 川 金沢産業技術専門校 〒920-0352 金沢市観音堂町チ9番地 076-267-2221 ワークサポート 発達障害 福 井 福井産業技術専門学院 〒910-0829 福井市林藤島町20-1-3 0776-52-2120 ワークサポート 精神障害 山 梨 就業支援センター 〒400-0026 甲府市塩部4丁目5-28 055-251-3210 総合実務 知的障害 愛 知 名古屋高等技術専門校 〒462-0023 名古屋市北区安井二丁目4番48号 052-917-6711 総合実務 知的障害 岡崎高等技術専門校 〒444-0802 岡崎市美合町字平端24番地 0564-51-0775 総合実務 知的障害 三 重 津高等技術学校 〒514-0817 三重県津市高茶屋小森町1176-2 059-234-2839 OA事務 身体障害 滋 賀 滋賀県立高等技術専門校草津校舎 〒525-0041 草津市青地町1093 077-564-3296 総合実務 知的障害 京 都 福知山高等技術専門校 〒620-0813 福知山市南平野町90 0773-27-6212 総合実務 知的障害 キャリア・プログラム 精神・発達障害 大 阪 北大阪高等職業技術専門校 〒573-0128 枚方市津田山手2-11-40 072-808-2151 ワークトレーニング 知的障害 夕陽丘高等職業技術専門校 〒543-0002 大阪市天王寺区上汐4-4-1 06-6776-9900 ジョブステップ 精神障害 キャリアチャレンジ 発達障害 ワークアシスト 知的障害 奈 良 奈良県立高等技術専門校 〒636-0212 磯城郡三宅町石見440 0745-44-0565 販売実務 知的障害 和歌山 和歌山産業技術専門学院 〒649-6261 和歌山市小倉90番地 073-477-1253 総合実務 知的障害 鳥 取 産業人材育成センター倉吉校 〒682-0018 倉吉市福庭町二丁目1番地 0858-26-2247 総合実務 知的障害 島 根 東部高等技術校 〒693-0043 出雲市長浜町3057-11 0853-28-2733 介護サービス 知的障害 岡 山 北部高等技術専門校美作校 〒707-0053 美作市安蘇345 0868-72-0453 総合実務 知的障害 熊 本 熊本県立高等技術専門校 〒861-4108 熊本市南区幸田1-4-1 096-378-0121 総合実務 知的障害 宮 崎 産業技術専門校高鍋校 〒884-0003 児湯郡高鍋町大字南高鍋1770 0983-23-0523 販売実務 知的障害 沖 縄 具志川職業能力開発校 〒904-2241 うるま市兼箇段1945 098-973-5954 総合実務 知的障害 オフィスビジネス 身体障害 浦添職業能力開発校 〒901-2113 浦添市大平531 098-878-5627 オフィスビジネス 身体障害 (4) 発達障害者支援センター  http://www.rehab.go.jp/ddis/action/center/ (5) 難病相談支援センター  https://www.nanbyou.or.jp/entry/1361 (6) 身体障害者更生相談所  http://www.rehab.go.jp/innovation/information/consultation/ (7) 知的障害者更生相談所 名   称 所  在  地 北海道立心身障害者総合相談所 〒064-0944 札幌市中央区円山西町2-1-1 〔Tel 011(613)5401  Fax 011(613)4892〕 青森県障がい者相談センター 〒036-8356 弘前市大字下白銀町14-2 青森県弘前健康福祉庁舎1階 〔Tel 0172(32)8437  Fax 0172(34)6167〕 岩手県福祉総合相談センター 〒020-0015 盛岡市本町通3-19-1 〔Tel 019(629)9613  Fax 019(629)9603〕 宮城県リハビリテーション支援センター 〒981-1217 名取市美田園2-1-4 〔Tel 022(784)3587  Fax 022(784)3593〕 秋田県子ども・女性・障害者相談センター 〒010-0864 秋田市手形住吉町3-6 〔Tel 018(831)2303  Fax 018(831)2306〕 山形県知的障がい者更生相談所 〒990-0031 山形市十日町1-6-6 〔Tel 023(627)1197  Fax 023(627)1114〕 山形県知的障がい者更生相談所庄内支所 〒997-0013 鶴岡市道形町49-6 〔Tel 0235(22)0790  Fax 0235(22)2534〕 福島県障がい者総合福祉センター 〒960-8670 福島市杉妻町2-16 福島県北庁舎1階 〔Tel 024(521)2822  Fax 024(521)2873〕 茨城県福祉相談センター 〒310-0011 水戸市三の丸1-5-38 〔Tel 029(221)0800  Fax 029(221)0811〕 栃木県障害者総合相談所 〒320-8503 宇都宮市駒生町3337-1 〔Tel 028(611)1208  Fax 028(623)7255〕 群馬県心身障害者福祉センター 〒371-0843 前橋市新前橋町13-12  〔Tel 027(254)1010  Fax 027(254)2299〕 埼玉県総合リハビリテーションセンター 〒362-8567 上尾市西貝塚148-1 〔Tel 048(781)2222  Fax 048(781)2218〕 千葉県中央障害者相談センター 〒266-0005 千葉市緑区誉田町1-45-2 〔Tel 043(291)6872  Fax 043(291)8488〕 千葉県東葛飾障害者相談センター 〒270-1151 我孫子市本町3-1-2 けやきプラザ3階 〔Tel 04(7165)2422  Fax 04(7165)2423〕 東京都心身障害者福祉センター 〒162-0823 新宿区神楽河岸1-1       東京都飯田橋庁舎(セントラルプラザ12〜15階) 〔Tel 03(3235)2961  Fax 03(3235)2959〕 神奈川県立総合療育相談センター 〒252-0813 藤沢市亀井野3119 〔Tel 0466(84)5700  Fax 0466(84)2970〕 新潟県中央知的障害者更生相談所 〒950-0121 新潟市江南区亀田向陽4-2-1 〔Tel 025(381)1111  Fax 025(381)8939〕 新潟県新発田知的障害者更生相談所 〒957-8511 新発田市豊町3-3-2 〔Tel 0254(26)9131  Fax 0254(26)0022〕 新潟県長岡知的障害者更生相談所 〒940-0857 長岡市沖田1丁目237 〔Tel 0258(35)8500  Fax 0258(35)7265〕 新潟県南魚沼知的障害者更生相談所 〒949-6680 南魚沼市六日町620-2 〔Tel 025(770)2400  Fax 025(772)2190〕 新潟県上越知的障害者更生相談所 〒943-0807 上越市春日山町3-4-17 〔Tel 025(524)3355  Fax 025(526)4662〕 富山県障害者相談センター 〒931-8443 富山市下飯野36 〔Tel 076(438)5560  Fax 076(438)5585〕 石川県知的障害者更生相談所 〒920-8557 金沢市本多町3-1-10 〔Tel 076(223)9554  Fax 076(223)9556〕 福井県総合福祉相談所 〒910-0026 福井市光陽2-3-36 〔Tel 0776(24)5135  Fax 0776(24)8834〕 山梨県障害者相談所 〒400-0005 甲府市北新1-2-12 山梨県福祉プラザ2階 〔Tel 055(254)8674  Fax 055(254)8675〕 長野県知的障害者更生相談所 〒380-0872 長野市大字南長野妻科144 〔Tel 026(238)8010  Fax 026(238)8025〕 岐阜県知的障害者更生相談所 〒502-0854 岐阜市鷺山向井2563-18  〔Tel 058(231)9723  Fax 058(233)5133〕 静岡県中央知的障害者更生相談所 〒426-0075 藤枝市瀬戸新屋362-1 〔Tel 054(646)3579  Fax 054(646)3563〕 静岡県賀茂知的障害者更生相談所 〒415-0016 下田市中531-1 〔Tel 0558(24)2035  Fax 0558(24)2159〕 静岡県東部知的障害者更生相談所 〒410-8543 沼津市高島本町1-3 〔Tel 055(920)2086  Fax 055(920)2191〕 静岡県西部知的障害者更生相談所 〒438-8622 磐田市見付3599-4 〔Tel 0538(37)2819  Fax 0538(37)2841〕 静岡県富士知的障害者更生相談所 〒416-0906 富士市本市場441-1 〔Tel 0545(65)2597  Fax 0545(65)2288〕 愛知県中央児童・障害者相談センター 〒460-0001 名古屋市中区三の丸2-6-1 〔Tel 052(961)7250  Fax 052(950)2355〕 愛知県西三河児童・障害者相談センター 〒444-0860 岡崎市明大寺本町1-4 〔Tel 0564(27)2889  Fax 0564(27)2816〕 愛知県東三河児童・障害者相談センター 〒440-0806 豊橋市八町通5-4 〔Tel 0532(35)6150〕 三重県障害者相談支援センター 〒514-0013 津市一身田大古曽670-2 〔Tel 059(232)7531  Fax 059(231)0687〕 滋賀県知的障害者更生相談所 〒525-0072 草津市笠山8-5-130 〔Tel 077(563)8448  Fax 077(562)4334〕 京都府家庭支援総合センター 〒605-0862 京都市東山区清水4-185-1 〔Tel 075(531)9600  Fax 075(531)9610〕 大阪府障がい者自立相談支援センター 〒558-0001 大阪市住吉区大領3-2-36 〔Tel 06(6692)5263 Fax 06(6692)3981〕 兵庫県立知的障害者更生相談所 〒651-0062 神戸市中央区坂口通2-1-1 〔Tel 078(242)0737  Fax 078(242)0736〕 奈良県知的障害者更生相談所 〒636-0393 奈良県磯城郡田原本町大字多722 〔Tel 0744(32)0210  Fax 0744(32)0650〕 和歌山県子ども・女性・障害者相談センター 〒641-0014 和歌山市毛見琴ノ浦1437-218 〔Tel 073(445)7314  Fax 073(446)0036〕 鳥取県東部知的障害者更生相談所 〒680-0901 鳥取市江津318-1 〔Tel 0857(23)6218  Fax 0857(21)3025〕 鳥取県中部知的障害者更生相談所 〒682-0802 倉吉市東厳城町2 〔Tel 0858(23)3128  Fax 0858(23)4803〕 鳥取県西部知的障害者更生相談所 〒683-0802 米子市東福原1-1-45 〔Tel 0859(31)9309  Fax 0859(34)1392〕 島根県立心と体の相談センター 〒690-0011 松江市東津田町1741-3 〔Tel 0852(32)5905  Fax 0852(32)5924〕 岡山県知的障害者更生相談所(本所) 〒700-0807 岡山市北区南方2-13-1 〔Tel 086(235)4316  Fax 086(235)4346〕 広島県西部こども家庭センター 〒734-0003 広島市南区宇品東4-1-26 〔Tel 082(254)0381  Fax 082(256)5520〕 広島県東部こども家庭センター 〒720-0838 福山市瀬戸町山北291-1 〔Tel 084(951)2340  Fax 084(951)2379〕 広島県北部こども家庭センター 〒728-0013 三次市十日市東4-6-1 〔Tel 0824(63)5181  Fax 0824(63)9743〕 山口県知的障害者更生相談所 〒753-0814 山口市吉敷下東4-17-1(山口県福祉総合相談支援センター内) 〔Tel 083(902)2673  Fax 083(902)2678〕 徳島県障がい者相談支援センター 〒770-0005 徳島市南矢三町2-1-59 徳島県立障がい者交流プラザ1階 〔Tel 088(631)8711  Fax 088(631)8722〕 香川県障害福祉相談所 〒761-8057 高松市田村町1114 かがわ総合リハビリテーションセンター内 〔Tel 087(867)2696  Fax 087(867)3050〕 愛媛県福祉総合支援センター 〒790-0811 松山市本町7-2 愛媛県総合保健福祉センター2F 〔Tel 089(923)4471  Fax 089(923)9234〕 高知県療育福祉センター 〒780-8081 高知市若草町10-5 〔Tel 088(844)4477  Fax 088(840)4935〕 福岡県障がい者更生相談所 〒816-0804 春日市原町3-1-7 〔Tel 092(586)1055  Fax 092(586)1065〕 佐賀県総合福祉センター 〒840-0851 佐賀市天祐1-8-5 知的障害者更生相談所 〔Tel 0952(26)1212  Fax 0952(23)4679〕 長崎こども・女性・障害者支援センター 〒852-8114 長崎市橋口町10-22 〔Tel 095(844)6250  Fax 095(844)1849〕 佐世保こども・女性・障害者支援センター 〒857-0034 佐世保市万徳町10-3 〔Tel 0956(24)5272  Fax 0956(24)5272〕 熊本県知的障がい者更生相談所 〒861-8039 熊本市東区長嶺南2-3-3(熊本県福祉総合相談所) 〔Tel 096(381)4464  Fax 096(381)4412〕 大分県知的障害者更生相談所 〒870-1155 大分市大字玉沢908番地 (大分県こころとからだの相談支援センター内) 〔Tel 097(542)3117  Fax 097(541)6627〕 宮崎県中央福祉こどもセンター 〒880-0032 宮崎市霧島1-1-2 〔Tel 0985(26)1551  Fax 0985(28)5894〕 鹿児島県鹿児島知的障害者更生相談所 〒891-0175 鹿児島市桜ヶ丘6-12 〔Tel 099(264)3003  Fax 099(264)3044〕 鹿児島県大島知的障害者更生相談所 〒894-0012 奄美市名瀬小俣町20-2 〔Tel 0997(53)6070  Fax 0997(53)1532〕 沖縄県知的障害者更生相談所 〒903-0804 那覇市首里石嶺町4-385-1 〔Tel 098(886)2115  Fax 098(886)7990〕 札幌市障がい者更生相談所 〒063-0802 札幌市西区二十四軒二条6-1-1内 〔Tel 011(641)8852  Fax 011(824)1902〕 仙台市北部発達相談支援センター 〒981-3133 仙台市泉区泉中央2-24-1 〔Tel 022(375)0110  Fax 022(375)0142〕 仙台市南部発達相談支援センター 〒982-0012 仙台市太白区長町南3-1-30 〔Tel 022(247)3801  Fax 022(247)3819〕 さいたま市障害者更生相談センター 〒330-8501 さいたま市大宮区吉敷町1-124-1 大宮区役所4階 〔Tel 048(646)3124  Fax 048(646)3163〕 千葉市障害者相談センター 〒260-0844 千葉市中央区千葉寺町1208-2 千葉市ハーモニープラザ内1階 〔Tel 043(209)8823  Fax 043(209)8826〕 横浜市障害者更生相談所 〒222-0035 横浜市港北区鳥山町1770 横浜市総合リハビリテーションセンター1階 〔Tel 045(473)0666  Fax 045(473)0809〕 川崎市総合リハビリテーション推進センター 〒210-0024 川崎市川崎区日進町5-1 〔Tel 044(223)6719  Fax 044(200)3974〕 相模原市障害者更生相談所 〒252-5277 相模原市中央区富士見6-1-1 ウェルネスさがみはらA館6階 〔Tel 042(769)9807  Fax 042(750)6150〕 新潟市知的障がい者更生相談所 〒951-8133 新潟市中央区川岸町1-57-1 〔Tel 025(230)7789  Fax 025(230)7823〕 静岡市地域リハビリテーション推進センター 〒420-0846 静岡市葵区城東町24-1 城東保健福祉エリア保健福祉複合棟2階 〔Tel 054(249)3182  Fax 054(209)0103〕 浜松市障害者更生相談所 〒430-0929 浜松市中区中央1-12-1 〔Tel 053(457)2707〕 名古屋市知的障害者更生相談所(知的障害者センターサンハート) 〒456-0073 名古屋市熱田区千代田町20-26 (知的障害者センターサンハート内) 〔Tel 052(678)3810  Fax 052(683)8221〕 京都市知的障害者更生相談所 〒602-8155 京都市上京区竹屋町通千本東入主税町910-25       京都市児童福祉センター内 〔Tel 075(801)9182  Fax 075(822)4175〕 大阪市立心身障がい者リハビリテーションセンター 〒547-0026 大阪市平野区喜連西6-2-55 〔Tel 06(6797)6562  Fax 06(6797)8222〕 堺市障害者更生相談所 〒590-0808 堺市堺区旭ヶ丘中町4-3-1 健康福祉プラザ3階 〔Tel 072(245)9195  Fax 072(244)3300〕 神戸市障害者更生相談所 〒650-0016 神戸市中央区橘通3-4-1       神戸市立総合福祉センター3階 〔Tel 078(361)2340  Fax 078(361)2302〕 岡山市障害者更生相談所 〒700-8546 岡山市北区鹿田町1-1-1 〔Tel 086(803)1247  Fax 086(803)1771〕 広島市知的障害者更生相談所 〒732-0052 広島市東区光町2-15-55 〔Tel 082(263)3695  Fax 082(263)0705〕 北九州市保健福祉局総務部地域リハビリテーション推進課(北九州市知的障害者更生相談所) 〒802-8560 北九州市小倉北区馬借1-7-1 総合保健福祉センター内 〔Tel 093(522)8724  Fax 093(522)8772〕 福岡市障がい者更生相談所 〒810-0072 福岡市中央区長浜1-2-8 〔Tel 092(713)8900  Fax 092(715)3587〕 熊本市障がい者福祉相談所 〒862-0971 熊本市中央区大江5-1-50 〔Tel 096(362)6500  Fax 096(362)6660〕 (8) 精神保健福祉センター  https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou_taisaku/hoken_fukushi/index.html (9) 厚生労働大臣が登録している在宅就業支援団体  https://www.mhlw.go.jp/content/001107653.pdf  (注)在宅就業支援団体とは―在宅就業支援団体は、障害者の在宅就業を支援するため、発注元の事業主と在宅就業障害者との間に立って、障害者に対しては仕事の発注や各種相談支援等を行い、事業主に対しては納期・品質に対する保証を担う役割を果たしています。 Q&A【問】の解答と解説 【問1】(P17)  (解答)〇 (解説)合理的配慮指針では、障害者に対する合理的配慮に関し、事業主が講ずべき措置として、適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めています。(P16、P228〜P230参照) 【問2】(P31)  (解答)× (解説)人権デューデリジェンス(Due Diligence)とは、企業活動における人権侵害に関わるリスク把握と発生の予防や軽減を図る取組みです。(P31参照) 【問3】(P40)  (解答)× (解説)コミュニケーションや人間関係での配慮、賃金や労働時間など労働条件の柔軟化といったソフト面での対応も多数あり、ハード・ソフトの両面から考えることができます。(P39〜40参照) 【問4】(P60)  (解答)× (解説)賃金の支払いは、直接本人に支払わなくてはならず、本人以外への賃金支払いを禁止しています。(労働基準法第24条)(P57参照) 【問5】(P67)  (解答)〇 (解説)事業場が、個人情報保護法に則って責任を持って厳重に管理しなくてはなりません。(P61参照) 【問6】(P83)  (解答)〇 (解説)弱視の人には拡大読書器やルーペ等の器具の使用を認める配慮、全盲の人には点字を活用した採用試験の実施の配慮が提供されている事例があります。(P81、資料編第5節「合理的配慮指針事例集〔第五版〕」(P278)P5参照) 【問7】(P93)  (解答)× (解説)指導者は話の合間に障害者本人の反応を確認しながら話を続けましょう。障害者が話に合わせてうなずいているかどうか確認したり、障害者本人に理解したか、時々質問したりするとよいでしょう。(P92参照) 【問8】(P105) (解答)× (解説)障害のある社員の職場定着には早めの対応が重要であるため、課題に応じて職業生活、日常生活、医療的ケアを行う外部の支援機関や障害別の専門機関を活用します。(P98参照) 【問9】(P118) (解答)× (解説)コミュニケーションでは、言語的コミュニケーションに加えて、非言語的コミュニケーションの影響が大きいです(メラビアンの法則)。(P109〜110参照) 【問10】(P125)(解答)〇 (解説)障害者職業生活相談員は障害についての理解促進、啓発の中心としての活躍が期待されます。(P124参照) 【問11】(P135)(解答)× (解説)車いす使用者の開閉動作を考慮すると、引き戸(スライド式)の方が開き戸(通常のドア)より使いやすいです。(P135参照) 【問12】(P154)(解答)〇 (解説)コミュニケーションにはさまざまな方法があります。聴覚障害者だからこの方法でと固定的に考るのではなく、ある方法でうまくいかなければ別の方法で、あるいはほかの方法を組み合わせて、と工夫してコミュニケーションの輪を広げることが大切です。(P148〜P150参照) 【問13】(P167)(解答)× (解説)7つの障害(心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸器機能障害、ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害、肝臓機能障害)です。(P155参照) 【問14】(P167)(解答)× (解説)全身的な体力の低下を伴っていることが多く肉体的重労働には適していません。ただし、近年は不動による健康リスクの方が重要視されてきており、レクリエーションレベルで本人の体力に合った運動は積極的に勧められるようになってきており、無理のない活動であれば参加は可能です。(P158参照) 【問15】(P167)(解答)〇 (解説)プライバシーや人権を最大限尊重します。本人の意思を確認し、むやみに拡大しないように関係者の守秘義務を徹底し、健康管理に関する情報は、産業医等必要最小限の担当者にとどめ、関係者の守秘義務を徹底します。(P164参照) 【問16】(P182)(解答)〇 (解説)精神障害者の共通した障害とは、認知機能の障害と自信と自尊感情の低下があげられます。この2点の内容の理解と、配慮事項の理解が重要なポイントです。(P175〜P176参照) 【問17】(P190)(解答)〇 (解説)発達障害者支援法第2条第1項で、「『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と定義が示されています。発達障害者支援法の対象は、これまでの施策の対象に該当しないとされた障害を中心として定 められた経緯があります。(P184参照) 【問18】(P213)(解答)× (解説)障害者手帳のない場合でも、難病のある人は、障害者の雇用の促進等に関する法律第2条における「障害者」にあたり、すべての事業主の障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象です。(P194、P197〜P200参照) 索引 【A】 ADA→障害をもつアメリカ人法 ADHD→注意欠陥多動性障害 ASD→自閉症スペクトラム障害 【C】 CSR→企業の社会的責任 【D】 DSM-5 184〜187 【E】 EAP(従業員支援プログラム) 122 ESG 36, 41 【H】 HIV→ヒト免疫不全ウイルス HFPDD→高機能自閉症/(高機能)アスペルガー症候群・自閉症スペクトラム障害 【I】 ICD-10(国際疾病分類) 173, 177, 184 ICF→国際生活機能分類 ICIDH→国際障害分類 IQ→知能指数 【L】 LD→学習障害 【W】 Webアクセシビリティ診断 142 【ア】 アスペルガー症候群 66, 184〜188, 219 【イ】 意思疎通支援事業 152, 256 イレウス→腸閉塞 インクルージョン 31, 41 陰性症状 176 【ウ】 ウィリス動脈輪閉塞症→もやもや病 ウイルス性肝炎 166〜167 うつ病→気分障害 【カ】 解雇の届出 125, 227, 243 潰瘍性大腸炎 161, 193〜195 カウンセリング 108〜119 学習障害(LD) 183〜188 拡大読書器 105, 140〜141, 144〜145 下肢障害者 124, 132 画面拡大ソフト 106, 140, 144〜145 画面読み上げソフト→スクリーンリーダー 感音性難聴 106, 146 肝臓機能障害(肝機能障害) 66, 155, 165〜167 【キ】 記憶障害 64, 201〜202, 211 企業グループ算定特例(グループ特例) 233 企業の社会的責任(CSR) 15, 28〜32 企業名の公表(公表) 216 義肢 64, 132〜133, 256 義手 64, 132〜133 義足 64, 132〜133 機能・形態障害 18〜19 気分障害(うつ病、そううつ病、双極性障害)  173〜181, 188 虐待に関する通報・届出 121 求職登録 83, 217, 260 教育訓練 36〜37, 58, 95〜97, 228 狭心症 156 虚血性心疾患 156 筋萎縮性側索硬化症 159〜160 筋ジストロフィー 159〜160 【ク】 クライエント 108〜119 グループ適用→特例子会社のグループ適用 グループ特例→企業グループ算定特例 車いす(車椅子) 63, 68〜71, 132〜135, 256 車椅子使用者用便房、バリアフリートイレ(多機能トイレ) 68〜69 クローン病 161, 194〜196 訓練手当 226 【ケ】 経済的虐待 120〜121 継続雇用→中途障害者の継続雇用 健康管理 61〜67, 164 言語障害 146〜147, 151〜154 権利条約→障害者の権利に関する条約 権利擁護 102, 258 【コ】 広域障害者職業センター 221, 247〜248, 279 高次脳機能障害 173〜177, 201〜207 後縦靱帯骨化症 197 広汎性発達障害(高機能自閉症) 183〜192 公表→企業名の公表 合理的配慮指針 16, 63, 228〜230, 277〜278 高齢・障害・求職者雇用支援機構(機構) 247〜250 高齢・障害者業務課 249, 279 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法) 67 口話 83, 149 呼吸器機能障害 65, 155, 158〜160 国際疾病分類第10版→ICD-10 国際障害分類(ICIDH) 18〜19 国際生活機能分類(ICF) 19 雇用状況の報告 237 雇用率制度 231〜239 混合性難聴 146 【サ】 在宅就業支援団体 241, 288 在宅就業障害者 240〜242, 288 在宅就業障害者特例調整金(特例調整金) 227, 240〜241 在宅就業障害者特例報奨金(特例報奨金) 227, 240〜241 最低賃金 57〜58, 120〜121 採用計画 46 採用後障害→中途障害 採用面接(面接) 80〜83 産業医 61〜62, 164, 181, 224 酸素療法 65, 159 残存能力 123, 131 【シ】 視覚障害(者) 64〜65, 136〜145, 197 色覚(の)障害(異常) 64, 138〜139 事業協同組合等算定特例 234〜235 事業主に対する援助制度 263〜267 自己管理(セルフケア) 61〜64, 67, 166, 195〜197 肢体不自由 63, 67〜71, 130〜132, 272, 276 失語(症) 147, 201, 203〜204 失行(症) 201, 204 失認(症) 204 指定医 123, 126, 224 児童相談所 168, 225, 251 自閉症スペクトラム障害(ASD) 184〜185, 187〜188, 191 社会的不利 18〜19 若年性認知症 207〜213 視野(の)障害(異常) 138〜139 シャント 158 従業員支援プログラム→EAP 就業規則 56〜58, 124 就職ガイダンス 268 重度障害者 132, 141, 217, 220〜221, 237, 264〜265 重度障害者多数雇用事業所 48, 264 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金 264〜265 重度障害者等通勤対策助成金 264〜265 重度身体障害者の範囲 224 重度知的障害者の範囲 225 重度訪問介護 160, 256 就職支援ナビゲーター 221, 246 就労移行支援 101, 104, 178, 249, 253, 259〜261, 269 就労継続支援 101, 178, 210〜212, 253, 269 就労定着支援事業所 104, 260, 269 就労支援機器 105, 107, 144〜145, 247, 250, 266 手話 65, 83, 146, 148〜154 手話協力員 221, 246 手話通訳 83, 148, 152〜153 障害基礎年金 59〜60, 126 障害共済年金 60 障害厚生年金 59〜60, 126 障害者介助等助成金 194, 263 障害者基本計画 14, 18, 216, 277 障害者基本法 19, 31, 120, 149, 173, 184, 216 障害者虐待防止法 120〜121 障害者控除 160 障害者雇用関係統計資料 272〜275 障害者雇用支援人材ネットワーク事業 249, 262, 266 障害者雇用推進者(推進者) 16, 223, 233, 243 障害者雇用促進法→障害者の雇用の促進等に関する法律 障害者雇用対策基本方針 216, 223, 277 障害者雇用調整金(調整金) 223, 240〜241, 247, 249 障害者雇用に係る税制上の優遇措置(税制上の優遇措置、優遇措置) 262, 265 障害者雇用納付金(納付金) 51, 232〜235, 240〜241, 247, 249 障害者雇用納付金制度に基づく(各種)助成金 218, 223, 240〜242, 263〜264 障害者雇用の理念 14〜17 障害者雇用率 14, 231〜235, 237〜238, 274〜275 障害者作業施設設置等助成金 263 障害者差別禁止指針 16, 228, 277 障害者就業・生活支援センター 101, 103〜105, 221, 250, 279 障害者職業カウンセラー 222, 248, 267 障害者職業生活相談員 3〜5, 37〜39 障害者職業総合センター 247〜248, 279 障害者職業能力開発校 218〜221, 247〜248, 250, 268, 279〜281 障害者総合支援法 251〜253, 269 障害者トライアル雇用 47, 57, 83, 178, 260, 262 障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針→障害者差別禁止指針 障害者の権利に関する条約(権利条約) 15〜16, 31, 228 障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法) 216, 223〜224, 226〜227, 231, 274 障害者の所得保障 58〜60 障害者の態様に応じた多様な委託訓練 221, 268 障害者の定義 19, 173, 184 障害者の範囲 173, 177, 184, 221, 224〜227, 272 障害者福祉施設設置等助成金 263 障害者優先調達推進法 51 障害手当金 59〜60 障害程度等級表→身体障害者障害程度等級表 障害(の)認定 67, 160〜161, 163〜164, 166 障害年金 59〜60, 126, 211 障害福祉サービス 99, 101, 178, 211, 253〜254 障害をもつアメリカ人法(ADA) 31 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 15, 31 小腸(の)機能障害 66, 155, 161〜162, 272 常用労働者(常時雇用する労働者) 47, 231, 235, 274 除外率制度 15, 231, 235〜236, 274 職業訓練 85〜94, 268 職業準備訓練 250 職業準備支援 249, 268 職業紹介 79, 194, 200, 217, 219〜221, 246 職業能力開発 85〜86, 217〜221, 264, 268 職業リハビリテーション 14, 18, 21, 124, 188, 217〜221, 223, 246〜249 褥瘡〔じょくそう〕 62〜63, 160 職場定着推進チーム 96, 123〜124 職場適応援助者(ジョブコーチ) 83〜84, 143, 171, 178, 189, 217〜222, 227, 248, 264, 267 職場適応訓練 227, 268 職場復帰支援(復職支援、リワーク支援) 124〜125, 181, 221, 249 職務(の)再設計 22, 26, 52, 85, 124, 267 職務配置 39, 53, 84〜85 自立支援給付 160, 254 新型のうつ病 180 新近性効果 118 腎機能障害→腎臓機能障害 心筋梗塞 156 神経線維腫症 194, 196〜197 進行性 63, 130〜131, 159, 195〜196, 200 心臓機能障害 65, 155〜156 腎臓機能障害(じん臓機能障害、腎機能障害) 65, 155, 157 身体障害 130〜177, 195〜197, 201, 204, 206, 216〜221, 224, 226〜227, 231, 237〜238, 272, 274, 276 身体障害者更生相談所 160, 251, 283 身体障害者授産施設 253 身体障害者障害程度等級表(障害程度等級表) 130, 224 身体障害者相談員 251 身体障害者手帳 123, 126, 224 身体障害者の範囲 224, 272 身体障害者福祉司 251 心不全 65, 156〜157, 159 腎不全 157〜158 【ス】 遂行機能障害 64, 201, 203 随伴障害 131〜132 スクリーンリーダー(画面読み上げソフト) 139〜145 ストマ 65, 160〜161 ストレス 62〜67 スロープ 68, 124, 132 【セ】 生活介護 256, 269 生活支援員 126 生活相談員→障害者職業生活相談員 精神疾患 66, 173〜175, 180〜181, 188, 272〜273 精神障害(者) 173〜182 精神障害者雇用トータルサポーター 212 精神障害者総合雇用支援 181, 248, 267 精神障害者の範囲 173, 177, 225 精神障害者保健福祉手帳 123, 173〜174, 182, 188, 225〜226, 251, 273, 276 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法) 173, 225 精神保健福祉センター 100, 168, 225, 251, 288 精神保健福祉法→精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 性的虐待 120 税制上の優遇措置 265 脊髄小脳変性症 196 脊髄損傷 63, 197 切断 64, 130, 132〜133 全盲 64, 136, 139〜143 【ソ】 そううつ病→気分障害 双極性障害→気分障害 相談の例 114 【タ】 ダイバーシティマネジメント 31〜32 多発性硬化症 194, 196 ダブルカウント 220 段差 68, 81, 133〜135, 141 短時間労働者(パートタイム労働者) 16, 47〜49, 57〜58, 220, 231, 237 【チ】 チアノーゼ 156, 159 地域障害者職業センター 101, 217〜218, 221, 246〜251, 258〜260, 267, 279 地域別最低賃金 57 知的障害(者) 18〜20, 83〜84, 168〜172, 218〜221 知的障害者相談員 251 知的障害者の範囲 225 知的障害者福祉司 251 知的障害者福祉法 19, 168 知能指数(IQ) 168 注意欠陥多動性障害(ADHD) 177, 183〜188, 219 注意障害 64, 201〜202, 212 中央障害者雇用情報センター 44, 107, 124, 145, 250, 266, 279 駐車場 70, 124, 132 中小事業主に対する認定制度 16, 51 中心静脈栄養法 161〜162 中途視覚障害 139, 143 中途失聴 146〜147 中途障害 20, 122〜124, 217 中途障害者の継続雇用(継続雇用) 122, 143 聴覚障害(者) 146〜154 調整金→障害者雇用調整金 重複障害 132, 217, 221 腸閉塞(イレウス) 161 直腸の機能障害→ぼうこう又は直腸の機能障害 【テ】 定年 125 手すり 68〜70, 132 伝音性難聴 106, 146 てんかん 62〜64, 66, 170, 173〜174, 177, 181, 206, 225, 273 点字ディスプレイ 106, 139, 143, 145 点訳 81 【ト】 統合失調症 66, 173〜174, 176〜177, 179, 181, 225, 273 透析 65, 157〜158 糖尿病 63〜64, 157 特定求職者雇用開発助成金 49, 80, 191, 194, 217, 219, 262〜263 特定身体障害者雇用率制度 216〜217 特別支援学級 252 特別支援学校(盲学校) 141, 143 特別支援学校(ろう学校) 150 特別支援教育 27, 183, 252 特別障害者手当 60 特別特定建築物 67 特例子会社 15, 48〜49, 171, 216〜217, 232〜233, 275 特例子会社のグループ適用 232〜233 【ナ】 内部障害(者) 65, 155, 157, 272 難聴 146 難病情報センター 194 難病相談支援センター 200, 250, 283 【ニ】 二次障害 61, 131 日常生活自立支援事業 126 二分脊椎 63, 160 認知症 173〜174, 201, 207〜213, 273 【ネ】 年金 58〜60, 123, 125〜126 年金事務所 58, 60, 123, 126 【ノ】 脳血管障害 132, 173, 177, 184, 201, 208 脳性まひ 130, 132 ノートテイク 153 【ハ】 パーキンソン病 193〜194, 196, 208 パソコン要約筆記 153 発達障害者支援センター 66, 100, 102, 250, 283 発達障害者支援法 66, 183〜185, 219 バイステックの7原則 108 バリアフリー法 67〜68 ハローワーク(公共職業安定所) 246 半側空間無視 202 【ヒ】 筆談 83〜84, 149, 151, 154, 230 ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 66, 155, 163, 224, 272 【フ】 福祉工場 253 福祉事務所 123, 126, 251〜252 プライバシー 278 フレックスタイム制 58 【ヘ】 ペースメーカー 63, 65, 156〜157 ヘルスキーパー 142〜143, 217 変形労働時間制 58 ベンチレーター(人工呼吸器) 159〜160 弁膜症 156〜157 片まひ(片麻痺) 64, 130, 133, 204, 206 【ホ】 ぼうこう又は直腸の機能障害(直腸の機能障害) 65, 160, 272 報奨金 223, 227, 237, 240〜242, 247, 249 放置等による虐待 120〜121 保健指導 62〜63 補装具 132, 134, 251 【マ】 マイクロカウンセリング 111 慢性呼吸不全 159 慢性疾患 67, 180, 212 慢性腎不全 157 【ミ】 みなし労働時間制 58 【メ】 メラビアンの法則 109〜110 メンタルヘルスケア 62, 64〜65, 67 【モ】 盲導犬 141 網膜色素変性症 64, 137, 194, 197 黙従傾向 117 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症) 194, 197 【ヤ】 雇入れ計画 46, 216, 227, 238〜239 【ユ】 指文字 149 【ヨ】 陽性症状 176 要約筆記 153 【リ】 リファレンスサービス 266 療育手帳 19, 123, 168, 173, 188, 191, 204, 225 【ロ】 労災病院 251 ろう者 146, 148 労働安全衛生法 61〜62, 164, 224 労働者災害補償保険 59 ロービジョン(弱視) 64, 136, 138〜141 執 筆 者 一 覧(50音順・敬称略) 朝 日 雅 也 埼玉県立大学名誉教授 飯 島   節 筑波大学名誉教授 岩 佐   純 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 群馬障害者職業センター所長 川 村 宣 輝 元日本大学文理学部社会福祉学科教授 草 野 修 輔 東京保健医療専門職大学副学長 倉 知 延 章 九州産業大学名誉教授 齊 藤 千 晶 社会福祉法人仁至会認知症介護研究・研修大府センター主任研究主幹 坂 尻 正 次 筑波技術大学情報システム学科教授 佐久間   肇 東京保健医療専門職大学リハビリテーション学部理学療法学科教授 眞 保 智 子 法政大学現代福祉学部福祉コミュニティ学科教授  木 憲 司 和洋女子大学家政学部家政福祉学科准教授 竹 内 大 祐 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター上席研究員 知 名 青 子 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター上席研究員 春 名 由一郎 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター統括研究員 深 江 裕 忠 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  職業能力開発総合大学校能力開発院能力開発応用系職業能力開発原理ユニット准教授 藤 尾 健 二  NPO法人ワークス未来千葉 千葉障害者就業支援キャリアセンター長 松 為 信 雄 神奈川県立保健福祉大学名誉教授 八藤後   猛 日本大学理工学部まちづくり工学科特任教授 若 林   功 国際医療福祉大学医療福祉学部医療福祉・マネジメント学科准教授 厚生労働省 健康・生活衛生局 難病対策課 厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 厚生労働省 職業安定局 雇用開発企画課 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 厚生労働省 年金局 年金課 厚生労働省 年金局 事業管理課 厚生労働省 人材開発統括官 特別支援室 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 文部科学省 高等教育局 学生支援課 ※執筆当時の所属先を記載しています。 令和6年版 障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト 令和6年5月 発 行 編集―独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 障害者職業総合センター内 電 話 043(297)9514 (障害者雇用開発推進部 雇用開発課) 禁無断転載