就業支援ハンドブック
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関しても、Aさんの家族のように申請するまで時間が必要な場合もある。生活保障のため障害年金の手続きや、時には家族問題に介入し世帯分離の手続きを手伝うこともある。就職活動の仕方も、本人は障害を開示するのか、開示せず一般求人で応募するのかで悩む。支援者は障害を開示した方が配慮されていいのではと思うが、それで必ずしもスムーズに進む、というわけではなく各企業の多様な労働環境や方針の中で調整すべき課題は多い。逆に企業の方が熱心にかかわって本人の力を引き出し、我々支援者側の狭い視野に気付いて反省することも多々ある。 大切なことは、支援者があきらめず関係機関と共に創意工夫を続ける努力をすることである。本人は決してあきらめないのだから(ただ「働く」ことがすべてではなく、就職以外の道を見つける場合もあり、あくまでも生き方探しは本人主体である)。支援者は、障害があってもいろいろな可能性がある、と思いながら片方で「大丈夫だろうか、働けないのではないか」などと不安を抱いてしまうことがある。もちろん支援がスムーズに進み、他機関と連携しなくてもそのまま就職に至る例もある。ただ一つの機関だけでかかわるには役割に限界もあり、多角的視点や広がりがもてない場合も多い。特に難しいと感じる事例には就労支援ネットワークを形成する応援団として、協力して各機関がそれぞれの役割を果たすことができれば、新たな道を拓くことができる。そして職場環境の配慮により、本人の力と可能性が存分に発揮されるのである。障害とは環境との相互作用である。職場環境に働きかけること、職場環境を調整することを忘れてはならない。特に福祉関係の支援者は、自らの施設内で過ごしている本人の姿ばかりに注目するきらいがある。しかし本人は環境にあわせ様々な顔や力をもっているものなのである。現に職場実習では施設内では知らなかった本人の顔を発見する。障害が重いのでは、と感じられていた方の表情が引き締まり、きびきびと働く姿に何度感動を覚えたことだろう。「働く」ことへの切実な希望がその姿にこめられているように感じる。Aさんのような姿を何例も何例も知ることで、支援者自身も可能性を信じる、ということがはじめて実感できるように思う。その感動が次の方への支援への原動力につながることを、いつも強く教えられている。第2節 就労移行支援事業所における支援の実際 117

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