就業支援ハンドブック
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136 第3章 就業支援に必要な考え方 就業支援の実践に際し、支援方法や障害者雇用制度等の知識、ノウハウを学ぶのと同時に、以下の就業支援に関する基本的な考え方を理解し、これを念頭に置きつつ支援を行うことは非常に重要である。 当然のことながら就業支援において取り扱われるのは「人が働く」ということであり、支援者にとっては働くことについての意義を考えることは避けては通れない。 職業の3要素として①個性の発揮、②連帯の実現、そして③生計の維持が指摘されることがある。これは、人は、生計(収入)が保障されれば、働くことを通して社会への参加欲求を満たして、働くことに対して自己実現の場や自己成長の場としての要素をより強く求めることを示唆する。これらを踏まえると、働くことの意義は、「社会的な視点」と「個人的な視点」の2つの側面から捉えることが必要となろう。 前者の「社会的な視点」からすると、働くことは社会の存続や発展に必要な生産的な活動が分割されて個人に割り当てられたものであり、割り当てられた役割に継続的に従事することで賃金などの報酬が分配される。これに対して、後者の「個人的な視点」に焦点を当てると、割り当てられた役割を果たすことを通して、自分の能力を発揮し心理的な満足を得る源泉となる。仲間を作り、先輩や後輩に自分の存在を認めてもらい、自分自身の達成感や満足感を得るといった機会がもたらされ、自己の存在意義(生きている意味)を確認する価値実現の場となる。これらは障害の有無を問わないすべての人について言えることだが、障害のある場合には、さらに、①生活リズムの調整や体力・健康の維持につながり、②心理的な満足や自尊心が獲得でき、③生計を維持するための経済的な基盤が提供され、④人間関係の確立や人格形成などの社会的な関わりを持てる場となることなどが付け加わる。こうした多面的な意義があるがゆえに、障害があったとしても、働くことの意義は大きいのである。第1項 働くことの意義の理解と就業支援第1節 就業支援とは

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