就業支援ハンドブック
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194 第4章 就業支援に必要な知識  ロ.失行症(いずれの半球障害でも出現する症状) 身体部位(手や足)を動かすことができ、何を行うべきか頭でわかっているにも関わらず、目的に応じた動作ができない状態を失行症という。左大脳半球が障害されると、観念失行(歯ブラシや櫛などの日常的な道具の使用障害)や観念運動失行(ジャンケン、手をふるなどの動作の障害)が出現する。右大脳半球が障害されると、着衣失行(衣服をうまく着られない)や構成失行(物を組み立てたり、絵を描くことができない)が出現する。これらの症状は、検査して初めてわかる症状であったり、行動が奇異であったり(歯ブラシを櫛として使う等)するので、周囲の理解を得にくい症状といえる。 これらの症状が重度の場合は日常生活にも支障をきたす。軽度の場合は、日常生活面ではそれほど問題はないが、職業場面では作業手順がわからない、空間配置が上手くいかないなどの問題が生じる可能性があるので、作業遂行の確認が必要である。   ハ.失認症(右半球の障害による代表的な症状としての半側空間無視) 外界の情報を取り入れる感覚様式に対応して、視覚失認、聴覚失認、触覚失認などがあるが、通常、問題とされるのは出現頻度の高い視覚失認である。視覚失認とは視野や視力など、感覚器官自体には問題がなく、感覚刺激の入力は可能であるが、入手した情報の処理過程に問題があるために、視覚的認知に障害が生じる状態である。両側大脳半球の後頭葉が損傷されると、人の顔がわからない、色の区別ができない、文字が読めない等、視覚的に捉えた対象が理解できないという視覚失認が生じ、対人関係や日常生活に支障をきたす。 視覚失認の中で、特に出現頻度の高い症状に視空間認知障害としての半側空間無視がある。これは主に右大脳半球が障害された際に生じる左半側の空間に対する注意・認知の障害である。例えば、食事の際に左側に置いてあるご飯などを食べ残す、洋服の左袖に腕を通さない、左側の髭をそり残す、歩行の際に左側の障害物に気付かずぶつかる、左側の車に気付かない等、日常生活を送るうえでも問題となる。症状が軽度で日常生活ではそれほど問題がない場合であっても、職業場面では、車の運転や事務作業で

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