就業支援ハンドブック
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  (2)精神疾患の病名(分類) 精神障害の理解を難しくしているもう一つの要因に、精神疾患の病名(精神疾患の分類)が、わかりにくいことがある。特に「気分障害」という疾患名のついている従来の「躁うつ病」という疾患は、呼称も概念も従来とは異なっている。現在、精神疾患の診断分類・基準で信頼性と妥当性が高いとして評価されているのは、世界保健機関(World Health Organization:WHO)が整理した「国際疾患分類」(International Classification of Diseases:ICD)とアメリカ精神医学会が作成の「精神疾患の分類と診断の手引き」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)で用いられている操作的診断分類であり、それ以前の診断分類を「伝統的診断分類」として区別している。日本のほとんどの大学病院では、ICDかDSMを診断に用いているが、「伝統的診断分類」が混在して用いている病院も少なからず存在し、そのことが疾患分類を不明確にし、わかりにくいと感じさせる原因の一つとなっている。  イ.伝統的診断分類から操作的診断分類へ 伝統的診断分類によると、精神疾患は病因によって「外因性」、「内因性」、「心因性」に区別されていた。内因とは遺伝的な原因であり、心因とは心理的原因であり、外因とは脳を含む身体の病変か中毒性物質が原因となっているものである。 しかし、統合失調症や躁うつ病に効く薬剤が発見されたことにより、内因性精神障害や心因性精神障害に器質的な基盤がないとは言えなくなったことやうつ病のなかには心因性のものがあるとの提唱などにより、原因(病因)に基づく分類は妥当性がないことが分かってきた。また、英米の精神科医が伝統的診断により同じ患者を評価したところ、躁うつ病と統合失調症に診断結果が分かれ、臨床情報の共有化が図れなかったこと等、伝統的診断では明確な診断基準を示していなかったことによる信頼性および有用らの者が福祉およびリハビリテーションの対象となる。そのため医学的見地からの精神障害(者)の概念よりは狭く、イの医学的概念の「精神障害」であっても、ロの対象者とならない者もいることになる。 第1節 障害特性と職業的課題(精神障害) 207

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