就業支援ハンドブック
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270 第4章 就業支援に必要な知識衛生職親制度(1970年)をはじめとして、事業所に精神障害者の訓練を委託する制度がいくつかの自治体で導入されている。この事業は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に規定されている社会適応訓練に引き継がれたが、同法の改正により、現在は地方自治体の独自事業として実施されているケースがある。 1983年にILOは職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(159号)と勧告(168号)を採択した。同条約は、職業リハビリテーションの目的を、就職だけでなく、その後の雇用継続・向上を図り、社会への統合を実現することであるとし、また、職業リハビリテーションはすべての種類の障害者について適用することとしている。日本政府は、ILO条約の批准を前提に、1987年に身体障害者雇用促進法を、①法律の対象をすべての障害者に拡大(知的障害者を実雇用率に算定:施行1988年)、②雇用促進に加え雇用の安定を図る、③職業リハビリテーションを法律で規定(障害者職業センターや障害者職業カウンセラーの位置づけ)等からなる抜本改正を行い、名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改めている。 その後、同法は、精神障害者に障害者雇用納付金制度の各種助成金の適用(1992)、知的障害者の雇用義務化(1997)、障害者就業・生活支援センター事業及び職場適応援助者(ジョブコーチ)事業の創設(2002)、精神障害者の実雇用率算定(2006)、障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務化(2016)、精神障害者の雇用義務化(2018)等の改正が行われ、対象者の拡大と内容の充実が図られている。また、2005年に障害者自立支援法(現障害者総合支援法)が制定され、就労移行支援事業が創設されたほか、2018年には就労定着支援事業が創設された。なお、この間に、厚生省と労働省の統合により厚生労働省が誕生(2001)し、これまで労働行政と厚生行政に分かれていた、障害者の雇用・就業対策の一本化が進められている。 障害者雇用や就業支援は、ノーマライゼイション、エンパワーメント、リカバリー、ピープルファースト等のさまざまな理念や運動、そして、米国の援助付き雇用、ILOの条約や勧告、国連の障害者の権利条約等の国際的な動向、さらには、企業におけるCSRやコンプライアンス、ダイバーシティへの関心の高まり等、さまざまなことから影響を受け、対象者の拡大と内容の充実を図ろうとしている。また、就業支援の現場では、これらの潮流を受けて、施設から地域へ、専門家主導から当事者主体へ、といったパラダイムの転換と、企業との協働、地域ネットワークによる支援といった視点が求められていると言える。

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