就業支援ハンドブック実践編
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高次脳機能障害者の場合、就職に向けた訓練自体は上手く達成したとしても、就職した後、職場という新たな環境に入ると、困難場面でどう対処すればよいか分からず、上手く適応できなくなるケースも少なくありません。このため支援者は、「今の状況下でどう対処したらよいか?」という問いかけを常に本人に行い、本人自身が起きたことへの対処方法を考えて行動するトレーニングを行うことが大切です。10短期目標としては、ビジネスマナー講座の受講を通じて、社会人としての態度や対応を身につけることを目標とした。なお、ビジネスマナー講座では、座学とロールプレイによる演習を交えながら支援を行った。また、滑舌の悪さがあるため、早口で話すと聞き取りにくくなってしまう点については、「コミュニケーションの項目」において、「相手に伝わる挨拶をする」という目標を立てることとし、ゆっくりはっきり話すことを意識してもらうようにした。なお、具体的な支援方法については、例えば、挨拶等の際に聞き取りにくい時には、「もう一度ゆっくり話してみて下さい。」と声かけし、その場でフィードバックしながら支援を行った。このような支援を、日々当施設職員全員が共通して行った。加えて電話練習では、相手が聞き取りやすい話し方をすることを目標にして取り組むこととした。また、Aさん自身の言葉をボイスレコーダーで録音して聞き取るトレーニングも併せて実施し、自分の言葉の不明瞭さの原因を自覚し、自分の伝えたいことを相手に確実に伝えるためにはどう話せばよいのかについて、意識を高めていくこととした。さらに、「就労意識の項目」において、「様々な作業体験を通じて自分に合っている職種を検討する」ことを目標とし、事務職のみにこだわらず違う仕事にも視野を広げるため、ワークサンプル幕張版の簡易版や認知訓練にも参加することとした。(3) 利用中の行動観察及び面談によるアセスメント暫定の個別支援計画書に沿ってプログラムを進めながら、行動を観察した。Aさんに対しては、挨拶がきちんとできている時は評価し、聞き取れない場合は挨拶ができたこと自体は評価した上で、課題点について「もう少しゆっくりはっきり話しましょう。」と声かけし、それを当施設職員全員で統一して支援したPoint11  。また、必要に応じて就労支援員自らが挨拶の見本を示すなど、ロールプレイを交えた支援も日常的に行った。このような支援を2か月ほど繰り返すうちに、ゆっくり話すことができるようになっていった。Aさんも自信が持てるようになり、訓練に対するモチベーションアップにも繋がった。できていることもできていないことも、まずは事実をシンプルに伝えることが大切です。その上で、できていることについては、自信を持って継続して課題に取り組めるように伝えます。できていないことは、ミスの出方に傾向があるか、どうしたらミスを出さずに済むか一緒に考える等の対応が望まれます。11第2章 事例4 各種検査、体験利用プログラム等によるアセスメントとプランニング102第2章 事例4

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