就業支援ハンドブック実践編
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広汎性発達障害と診断されたことについて、Aさん自身は納得している。これまでのつらい生活歴の原因が分かってスッキリし、むしろ自分の特徴をもっとよく知りたいと考えている。なお、診断結果は両親にも伝えており、母親は受容的である。父親からは特段何も言われていないが、抵抗感はない様子である。障害の開示・非開示の判断については、両親はAさんの意思を尊重するだろうと考えている。また、診断の際にクリニックでWAIS-Ⅲを実施したが、Aさんは詳細な記録を所持しておらず、「言語理解(一般常識等の社会的な知識やその学習能力)は標準域にあるが、知覚統合(図や地図等の空間把握能力)、作動記憶(「ワーキングメモリー」と呼ばれている力)の2つが標準に比べてやや低位」との内容のメモのみ所持していた。以上からカウンセラーは、言葉理解には特に問題がないが、地図等による視覚的な情報把握や段取りの組み立て等が苦手なこと、何事も実際に行動に移る際には時間がかかることを予想した。そのため、作業に取り組む際は事前に段取りの組み立ての大枠を提示することや、瞬時の判断が求められる作業よりも繰り返し行う作業の方が安心して取り組めるであろうことを想定した。<「職歴や日常生活での困り感を記載する振り返りシート」の状況>上記シートの内容を確認し、「作業面」「対人面」「思考・行動面」についての特徴を共有した。多くの項目に○印を付けていたため、Aさんに確認を行い顕著に感じるものについては◎印を付けた。結果は以下のとおりであるが、例えば感情のコントロールが難しい等、カウンセラーが面接時に把握した状況と異なる回答については、実際のエピソード等を交えて詳細を聞き取った。また、今後必要があればカウンセラーが主治医と情報交換を行うことについて了承を得るとともに、次回の通院時には、カウンセラーの名刺を主治医に渡してもらうこととした。●Aさんが捉えている自分の特徴○作業面・ 指示書は文字だけでは分かりにくいため、写真や図などの視覚情報があった方が最も分かりやすい。次に口頭説明があった方が分かりやすい。・ 周囲の状況から対応方法を判断したり、言葉で相談しながら同時並行で仕事を進めることは苦手である。・一度作業のコツを掴めば、その後は安定して行える。・分からなくても「ハイ」と言ってしまうことがある。○対人面・表情や態度等から、相手の気持ちを読み取るのが苦手である。・ 感情のコントロールが難しい(具体的な場面の一例としては、急に予定が変更した時、自分の思いが伝わっていない時、注意された時、落ち込んだ時など)。・職場のフリータイム(休憩時間)での会話が苦手である。○思考・行動面・興味の偏りがある。第2章 事例1 ワークサンプル幕張版(MWS)等を活用したアセスメントとプランニング22第2章 事例1

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