就業支援ハンドブック実践編
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通所開始後のAさんは、念願であった就業への足掛かりが見え出したためか、休むことなく事業所に通い、作業については基礎トレーニング期の部門のみでなく、実践トレーニング期の部門にも少しずつ入り始めるなど、積極的にトレーニングに参加していた。個別相談でも「緊張しているがやりがいがある」と笑顔で話された。職員は、この状況を紹介者であるPSWへ伝えたところ、すでに外来通院の際に、Aさんから直接「元気で頑張っている。」と嬉しそうに報告があったとのことだった。併せて、主治医やPSWの意見を聞くと、「順調な滑り出しだと思う。」とのことだった。この様な状況を踏まえ、通所が順調だと判断した職員は、2か月を経過したところで、通所日を3日から4日へ増やすことを提案した。Aさんからも「ぜひ、チャレンジしたい。」との意向があり通所日数の変更をした。しかし、変更から2週間が経過した頃、Aさんに変化が表れ始めた。具体的には、「今までできていた作業でミスがでる」「作業確認の回数が多くなる」などがあり、作業中、混乱することもあった。また、表情も優れず、周囲の言葉に敏感に反応したり、周りを気にする素振りも多くなった。そこで、この変化を気にした職員は臨時面接を行い、最近の様子について聞き取った。Aさんは「大丈夫」と話したが、職員から「今まではとても明るい表情で通所していたが、この頃は表情が優れないように見える。」や「作業中に周囲の音や言葉に非常に敏感になっている印象を受ける。」などを率直に伝えたところ、「周りが気になってしまう。」「みんなが自分の悪口を言っているのではないか?といつも考えている。」などを話された。また、「このような状態になるのは初めてなのか?」との問いには、以前にもあったとのことであり、「どういう状況でこのような事が起こるのか?」という問いには、「疲れたり、緊張が強くなるとよく起こる。」と話された。職員は、こんなに頑張っているのだから、Aさんの悪口を言う人はB事業所には誰もいない旨を伝えた上で、「多分これは頑張り過ぎたために出てきたものなので、週4日をもう一度週3日に戻して様子をみる。」「これは病気が伝えている疲れのサインだと思うので、今後もこの様なことが起こった場合は支援者に発信する。」の2点を提案した。Aさんは、多少半信半疑の様子ではあったものの「そうしてみます」との返答があり、一旦、通所日を3日に戻すことにしたPoint12  。困りごとや不安があっても、自分の気持ちをうまく言語化できないために「大丈夫です」と話される方もいます。そういった方には、言葉でまとまらなくても、不安や困りごとをどのように感じているかの「感覚」だけでも話してもらい、支援者が代わりに言語化しながら、両者で共有することに努めます。時間をかけて丁寧に相談しながら、本人にフィットする共通言語を見つけ出していく事が、支援者側に求められる力だと思います。本事例では、「疲れのサイン」が重要な共通言語となります。12併せて、病状悪化の可能性もあるため、Aさんの了解を取って主治医へ相談をしたところ、「支援者に相談が出来ているので大丈夫だと思うが、しばらく通所を3日に減らしても、症状が変わらないようならばまた連絡がほしい。」との助言を得た。職員は、この間の本人の様子と主治医からのアドバイスを踏まえ、B事業所スタッフ間で下記の方針を共有したPoint13  。① 通所日を週3日にする。第2章 事例3 体験利用プログラム、医療機関からの情報収集等によるアセスメントとプランニング84第2章 事例3

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