第2章 きこえない・きこえにくい人とのコミュニケーション 1本人の望む方法を確認  きこえない・きこえにくい人とのコミュニケーションの方法には様々な方法がありますが、視覚による情報伝達・コミュニケーションの方法が有効です。具体的には、口話、筆談、手話、メール、SNSなどがあります。一方、同じ障害等級でも、各人の失聴年齢、聞こえ方、残存聴力、教育歴、家庭環境、日本語の習得状況、手話の習得状況は様々ですから、まずは本人にはどのような方法がよいかを確認することから始めてください。  日常的にはどのようなコミュニケーション方法がよいのか、補助的方法は何がよいのか、職場で配慮してほしいことは何かなどを確認し、企業としてどのような対応が可能かを調整・配慮していきます。その際には、「この人にはこの方法で」と固定的に考えるのではなく、できるだけ状況に応じて工夫することが大切です。職場にはいろいろな場面があり、コミュニケーションの方法にもそれぞれのメリットとデメリットがあります。機械音が大きい現場で有効なもの、社員間の距離が離れている状況で有効なものは異なるでしょうし、今この場でやり取りしなくてはならない場合と、少々後でも伝わればよい場合とでも異なります。場面に応じた方法を選び、うまくいかなければ別の方法を試すなど、本人と相談しながら工夫し、コミュニケーションをとることが大切です。 2コミュニケーションにおける留意事項 @分かりやすい表現を  どのような方法をとるのであれ、分かりやすい表現をとることが大切です。きこえない・きこえにくい人の中には、「もの」や「行動」に基づいた具体的な言葉・表現は理解しやすいが、抽象的な言葉・表現の理解には時間を要する人もいます。できるだけ具体的な言葉・表現を用いてください。 また、一文が長い文章や複雑な構文だと理解されにくい場合もあります。口頭でも文章でも端的で平明な表現としてください。  そのほかにも、二重否定、例え話や比ゆ、暗示的な表現も誤解されやすいので、直接的な表現で伝えるように心がけましょう。 Aコミュニケーションの機会を確保  きこえない・きこえにくい人の場合には、音による情報取得や周囲とのコミュニケーションの機会が不足しがちです。それを補うためにも、定期的に本人との面談の機会を設け、情報取得の状況を確認し、必要な情報を補うとともに、正確な理解のもとに業務が遂行されているかを確認し、理解を支援することが重要です。 Check スムーズなコミュニケーションのための工夫 ?伝えるための工夫と確認の重要性  きこえない・きこえにくい人に限りませんが、説明などを聞いた人がうなずいたり、「分かりました」といったとしても内容が十分に伝わっていないことがあります。きこえない・きこえにくい人の場合にも、日本語の理解力などから、十分に意思疎通が図れていないケースも考えられます。指示や説明の際には、重要事項はメモにするなど、確実に伝わるための配慮が必要です。キーワードや単語だけでも手話も交じえながら伝達したり、理解の状況を筆談で確認したりしながら進めることも有効です。 ?特殊な読み方の漢字などには「ふりがな」を  きこえる人は耳から聞いて漢字の読み方を覚えることができますが、きこえない・きこえにくい人は目で見て覚えることが主になります。そのため、「施せ 工こう」「治じ 具ぐ」など、特殊な読み方をする漢字の場合、書くことはできるし、意味も分かっているにもかかわらず、正しい読み方を知らないことがあります。  特殊な読み方をする漢字などには、できるだけ「ふりがな」をふる、業務で使用する特殊な言葉や略語などは、読み方や意味を明記したリストを作成、提示しておくと、スムーズなコミュニケーションに役立ちます。 ?休憩を取りながらのコミュニケーションを  口話(読話)や手話の読み取りには集中力が必要です。そのため、きこえない・きこえにくい人がこれを長時間続けることはストレスや疲労が蓄積し、理解力の低下などにつながる場合もあります。特に、会議や研修のように大量の情報が一方的に提供される場合には負担が大きくなります。会議などでは適宜、休憩を取るなどの配慮が望まれます。 ?聞き取れないときは補助的手段の活用を  きこえない・きこえにくい人の発音が聞き取れないときは、紙に書いてもらう方法(筆談)があります。紙以外にも、コミュニケーションボードなどの補助的手段を活用することも有効です。確実で円滑なコミュニケーションのためにも同様です。 Column 表現に関する理解にギャップがないかを確認し、理解を支援  慣用的な表現や新しい表現については、それがどのような意味を持ち、どのような行為などが求められているかについて、関係者の理解にギャップがある場合があります。聴覚障害が情報障害であることから、こうしたギャップが生じやすい状況があります。  例えば、「報連相(報告・連絡・相談)」はどの職場でも日常的に行われているものですが、ある聴覚障害者は、「上司への報告」と限定的に理解していたため、業務で困ったことがあっても上司に相談することができていませんでした。これは、「相談」という言葉の意味を「自分では決めかねることについて、人(上司など)と話し合うこと」と理解していなかったためと思われます。  「報連相」に限ったことではありませんが、ある表現がどのような意味を持つのか、何をすべきかを関係者が共通に理解していることは重要です。きこえない・きこえにくい人に対し、重要な表現は折に触れて意味を伝える、新しい表現は具体的に説明するといった配慮と、必要に応じ、理解の支援を行うことが重要です。 2 コミュニケーションの方法 (口話・筆談・手話) 1口話?正しく伝わったかを確認することが必要。明瞭、簡潔な表現で身ぶり手ぶりを交えて理解しやすく? 具体的なコミュニケーションのとり方についてもう少し教えていただきたいのですが… では、きこえない人とのコミュニケーション方法について口話、筆談、手話の順でお話しします 「口話」は、「読話」と「発語」があり、「読話」は、きこえない人が相手の唇の動きを読み取って 理解します 口話だと周りの社員も対応しやすいですね でも、口話は唇の動きなどを読み取るわけですから、正確に読み取れないことも多いので注意が必要です 例えばこんな話が上司に作成した資料をチェックしてもらい う?んいいねこれコピーして! えっゴミ!? んっ? ゴミかぁ… 違うよコピーだよコピー! えっ! あっコピーですね! コピー ゴミ 「コピー」と「ゴミ」なるほど口の動きが似ていますね 「橋」と「端」と「箸」のように日本語は同音異義語も多くて間違えやすいのです 口話は口の形や表情会話の流れなどから推量して判断します さらに、身ぶりや手ぶりなどを交えて話すと理解が深まります先程のエピソードだとコピー機が置いてある方向を指さすといいですね ☆1音ずつではなく 意味のまとまりごとに こ・ぴ・い・を・お・ね・が・い コピーを・お願い ☆相手とアイコンタクトを とりながら はっきり口をあけて ゆっくりめに ☆二重否定などの複雑な表現は避けて 明瞭・簡潔な表現で その方法がいけないわけではない!  職場における具体的な方法として、口話、筆談、手話の順で紹介します。  なお、外部の手話通訳者や要約筆記者の利用については、「第3章 情報保障と就労」で紹介します。 口話は、話し手の唇や口の動きから話の内容を読み取り(読話)、自分の話したいことを声に出して話す(発語)コミュニケーション方法です。難しい言い回しなどは使わずに、できるだけ明瞭、簡潔な表現を用いることが大切です。  きこえない・きこえにくい人は、話し手の口の形がつかめても、同じような口の形の言葉は読み取りにくいものです。鏡の前で試してみるとよく分かりますが、「たばこ」と「たまご」では全く口の形が同じです。これは母音が「○a○a○o」と同じだからです。同音異義語の場合はなおさらです。そうした場合には身ぶりなどを加えると理解してもらいやすくなります。  以下に、口話によるコミュニケーションのポイントを示します。口話でコミュニケーションをとる場合でも、会議の要約や業務の指示はメモなどを使って確認し、誤解のないようにすることで、より確実な伝達が可能となります。 Check 口話によるコミュニケーションのポイント ? 口話に限らず、会話の際にはアイコンタクトが重要です。そして、相手の顔を見ながら、はっきりと口をあけ、ゆっくり話します。早口や、ぼそぼそとした話し方は避けます。 ? 話す人の口元や表情が見えやすい位置取りも大切です。窓や照明を背にして話すと、相手は唇の動きや表情が見えにくくなります。部屋全体の明るさも含め、見やすい環境が必要です。 ? 同じような口の形の言葉は読み取りにくいので、身ぶりや手ぶりで表す、指で具体物を指す、数を示すなどを加えると、より理解しやすくなります。 〈例〉 たばこ・たまご、おにいさん・おじいさん、二に・四し ? 言葉を1音ずつ区切って話すと、かえって分かりづらくなります。相手の反応を見ながら、意味のまとまりごとに区切って、言葉の自然なリズムを崩さずに話します。 〈例〉 ア・ナ・タ・ノ・オ・ナ・マ・エ・ハ? アナタノ・オナマエハ? ? 口の形を極端に大きくすると、かえって分かりづらくなります。ふだんの話し方を基本にしてください。 ? 二重否定などの複雑な表現は避けます。 ? 相手の発語が分からないときは、遠慮せずに確認することが大切です。確認は、聞き返すことや、発語の内容を本人に書き起こしてもらうことなどが考えられます。理解したつもりや思い込みは、後で大きな誤解につながります。 2筆談?書くのはひと手間でも、正確に伝わりやすい方法? 口話で伝わらない場合もありますその場合は筆談を併用します 筆談…ですか!? 口話に比べて少し面倒に思えるかもしれませんがきこえない人たちときこえる人双方にとって、確実性の高いコミュニケーション方法です特に仕事の指示や伝達事項など重要なことは筆談がいいですね わかりました! 筆談の場合も、相手に伝わったかどうか確認しながら進めることが大切です例えば、こんな話が…… ヨコクに行ったことある? ヨコク? 私はヨコクに行ってみたいの なぁんだそれはシコクよ! 誰でも漢字の読み方を勘違いすることってありますよね こえない人たちはどうしても情報が限られてしまうので読み間違いもありがちです ですから筆談と口話を組み合わせたほうが正確に伝わりますよ 組み合わせるとよりわかりやすいんだ! わかりやすい筆談の方法をお互いに了解しておくとよいのですが一般的には… このポイントを踏まえてわかったかどうか確認しながら行います なるほど! ◯漢字も交え 読みやすい 文字で ◯長い文章は避け尊敬語は省略 ◯比ゆや二重否定は避ける ◯5W1Hを明確にして要点を簡潔に ◯質問は「YES」「NO」で答えられる明解な文章で @ 口話や手話に交え、メモなどを活用  筆談は、正確度が高いコミュニケーション方法の一つです。きこえない・きこえにくい人が、手話が使えない人と少人数(一対一など)でコミュニケーションをとる場合に有効です。きこえない・きこえにくい人と初めて面談をする場合には、大きめのメモ用紙と鉛筆などを用意しておきましょう。可能であれば、後で紹介する「筆談支援機器」を活用するとスムーズです。  筆談の際にも、分かりやすい表現にすることが基本です。また、紙に書くだけでなく、簡単な表現は口話や手話を交え、相手の表情などから理解したかどうかを確認しながら進めるとスムーズです。そして、重要な点は本人にも書いてもらうことで、より確実なコミュニケーションが図れます。 必ずしも文章でなくても構いません。口話でうまく伝わらないと感じたときに、その言葉を書き表すこともコミュニケーションの進展につながります。 ただし、書き手が一般的に使っている言葉で書いても通じないことがあります。字を読むことができても、その言葉の意味・内容を理解することが困難な場合があるからです。理解できない言葉があるときには遠慮せずに確認(質問)するように、予め本人に伝えておくことも大切です。 A伝達事項は書いて確実に伝える  筆談はほかのコミュニケーション手段と比較すると、多少時間がかかりますが、伝えたい点を具体的にはっきりさせて伝えれば、意思の疎通が図りやすくなります。筆談には、何度も書いたり消したりできる、感圧式の液晶パネルや磁気ボードを利用した「筆談支援機器」なども便利です。  特に、業務内容や伝達事項などは、できるだけ筆談を利用して、正確に伝わっているかどうかを確認することが大切です。確認は、本人にも内容を書いてもらう、手帳にメモしてもらうなどにより行います。また、重要な事項は、指示書やメモなどの「文書」によって行うことが、伝達すべき情報の漏れや行き違いを防ぐことにつながります。 One Point 筆談と要約筆記  筆談と同様に文字により情報提供する方法として、要約筆記があります。要約筆記者の養成・派遣も、手話通訳者の養成・派遣などと同様、障害者総合支援法に基づく意思疎通支援事業の1つです。要約筆記者と手話通訳者については、「第3章 情報保障と就労」で詳しく紹介しますが、要約筆記のスキルや留意事項は筆談においても参考となる点が多くあります。 Check 重要なことは資料などを活用して伝える  コミュニケーションの方法について述べてきましたが、情報の伝え方と、伝えたことを本人が理解しているかの確認は重要です。  ある聴覚障害者(63歳)は、就業規則上の定年が数年前に変更されたこと(60歳から65歳に変更)を認識しないまま勤務していました(本人は定年退職後の再雇用との認識でしたが、実際にはまだ定年に達していませんでした)。  会社では就業規則の変更時に全社員に伝えていましたが、ご本人は理解されていなかったようです。会社は改めて本人に伝え、理解にいたりましたが、このようなことを避けるには、例えば、変更時点で変更内容を文章にして渡し、説明と確認を行うといった対応が考えられます。変更時に限らず、入社時にも就業規則に関する説明をすることだけでなく、資料として渡し、分かりやすい説明を行うことも大切です。 3手話?職場での活用は信頼関係や親密感を深めます? もう一つきこえない人たちにとって意思の伝達がしやすいコミュニケーションに手話があります でも手話を覚えるには相当の時間がかかるでしょう? いえ、職場におすすめしたいのはまず「手話をうまく使える」ことよりも「手話を使うことを理解する」ことなんです 例えばこんなケース あの… きこえる人からの手話によるコミュニケーションはきこえない人たちを積極的に理解する姿勢を表しお互いの距離が縮まります なるほど! おはようございまーす 十分にマスターしていなくても積極的に取り入れていくことが大切なんです 彼らに教えてもらうとよいコミュニケーションになるかもしれませんね コミュニケーション 手話に早くなじむポイントは@まず仕事で日常的に 使っている言葉の中から 簡単な手話を一つ 選んで毎日使い だんだん増やしていく ありがとう おつかれさま Aものの形や動きを 表現する手話が多いので 何を表しているか 考えながら行う 会う B手の動きと一緒に 言葉も発音しながら行うと より正確に伝わる うれしい! C大切なことは筆談と 併用して確実に伝える D伝えた後は 正確に伝わったかどうか 確認する わかりましたか? わかりました! でも思春期以降にきこえなくなった人など手話を習得していない人もいます どんなコミュニケーション方法がよいかは本人の意向を確認し相談してください @手話とは  手話は「目で見る言葉」ともいえます。「障害者基本法」において、手話は日本語と同様、一つの言語とされています。きこえない・きこえにくい人が日常的に手話を使う場合は、手話が第一言語(生まれてから最初に身につける言語、自分を最も表現しやすい言語といった意味で用いられ、「母語」という場合もあります)です。 手話が第一言語である人にとっては、手話が自分の気持ちを伝えやすいコミュニケーションの方法です。以下のA以降では、上司や同僚がきこえない・きこえにくい人と手話でコミュニケーションをとる際のポイントを紹介します。  なお、社外から手話通訳の専門家である手話通訳者の派遣を利用することがあると思います。手話通訳者の派遣依頼や資格制度などについては「第3章 情報保障と就労」で紹介します。  ※手話通訳を担う人材、資格制度として「手話通訳者」「手話通訳士」がありますが、本マニュアルでは両方を総称して「手話通訳者」と表記します。ただし、特定の資格を指す場合は「手話通訳士」のように表記します。 なお、本マニュアルでは「(社内で)手話が使える人材(社員)」という表記を用いることがありますが、これは、資格などの有無にかかわらず、社内で手話通訳を担当する人を指します。 A 筆談や口話と組み合わせ、できるところから始める  手話をマスターするまでには、かなりの期間を必要とします。しかし、マスターしてから使おうというのではなく、まずはできるところから始めてみましょう。その際には筆談や口話、身ぶり、表情などを組み合わせることも有効です。ただし、情報が正しく伝わっていることが重要な場面や複雑な内容を伝える場面では、認識共有がなされたことの確認が必要です。  なお、手話にも方言があるなど、人によって手話の表現が異なることがあります。分かりにくい場合には文書などで確認するとよいでしょう。また、会社や業種によっては特有の用語・表現があります。それらについては本人と相談しながら、手話表現を決めておくと日常の円滑なコミュニケーションに役立ちます。 B職場の人間関係づくりのために  手話を第一言語とする人は、手話によって仲間と自由に話し合い、互いに共感することで、信頼関係・人間関係を作っていきます。  きこえる社員が手話を使い、手話を第一言語とする人と積極的にコミュニケーションを図ろうとすることは、手話を第一言語とする人にとってもうれしいものです。「そんなにできないから……」と消極的にならずに、伝えたい気持ちを第一に、簡単な表現からでよいので、手話でのコミュニケーションを図ってみてください。 C 社内で手話を使える人材の育成  職場に手話が使える社員を増やすこと、社内に手話の輪を広げる取組も大切です。  社内で手話を習得する方法としては、日頃から手話を使う機会(挨拶や休憩時の雑談など)を奨励することや、朝礼などでの簡単な手話の学習、手話を学ぶ講習会やサークル活動を行うことなどがあります。既に取り組まれている企業では、定期または不定期に手話講習会を開き、きこえない・きこえにくい社員を含め、手話のできる社員から手話を教わる方法がよくとられています。また、昼休みや時間外などに自主的に集まって、サークル活動として手話を習得するところも増えています。  これらをきっかけに、きこえない・きこえにくい人が職場定着への自信を持つとともに、社員とのかかわりが広がることにより、きこえる社員にとっても、きこえない・きこえにくいことへの理解が進み、職場内の人間関係が、より深まることにもつながります。 One Point 情報アクセシビリティについて  情報アクセシビリティとは、年齢や障害の有無などに関係なく、誰でも必要とする情報に簡単にアクセスでき、利用できることをいいます。令和4年5月に施行された「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」では、以下を社会に求めています。 ? 障害の種類・程度に応じた手段を選択できるようにすること ? 日常生活・社会生活の地域にかかわらず等しく情報取得などができるようにすること ? 障害者でない人と同じ内容の情報を、同一時点で取得できるようにすること ? 高度情報通信ネットワークの利用・情報通信技術の活用を行うこと  手話を第一言語とする人の情報アクセシビリティは、場面によるものの、手話による情報保障である可能性が高いものと想定されます。地方自治体の中には、「手話言語条例」(自治体によって名称が異なる場合があります)を制定しているところもあります。 One Point 情報アクセシビリティと合理的配慮の提供  アクセシビリティと合理的配慮は混同されやすい概念ですので、簡単に説明します。  アクセシビリティは全ての障害者を念頭におき確保すべきものですが、合理的配慮は特定の人の障害特性に合わせて行うものです。例えば、アクセシビリティは、社員の募集要項を点字版も提供する、募集案内サイトの説明をシンプルな分かりやすい表現にするといったことで、誰もがアクセスしやすい環境を予め整備することです。  一方、合理的配慮は、例えば、社員研修の実施に際し、通常の環境・方法では参加が困難な障害者がいる場合に、本人と相談しながら、障害特性に応じた配慮を、企業にとって過重な負担でない範囲で提供することです。手話を第一言語とする社員の場合であれば、本人の申し出により手話通訳者を配置することなどがこれにあたります。 事例から学ぶ 計画的な講習会が効果を生む  当社では社員研修として、外部講師による手話講習会を年2回行っています。1回の講習期間は2〜3か月間で、週1回2時間程度で行っています。初心者コースの回と、中級者コースの回を設定しており、初心者コースでは基礎学習を中心に行い、中級者コースでは聴覚障害者とのフリートーキングを中心に行っています。結果、以下のような変化や受講者からの感想が寄せられ、効果があったと考えています。 ? 職場の人たちが気軽に聴覚障害者に語りかけるようになりました。 ? 聴覚障害者とのふれ合いの中から、お互いの一体感が深まりました。 ? 手話講習会修了者のいる職場に配属された聴覚障害者が、手話がわずかでもできる人がいることに安心し、職場への適応がスムーズでした。 ? 社内の雰囲気が明るくなりました。  なお、手話講習会の参加を促すために、会社として次の取組を行い、成果につながりました。 ? 手話講習会のワッペンを作り、参加者につけてもらうことで周囲からの評価や、参加意欲の向上につながりました。 ? 手話講習会修了者を会社として表彰することで、本人の達成感につながりました。また、ほかの社員の参加意欲にもつながりました。 (B社) 会社独自の育成システムを構築  当社には数十名の聴覚障害者が働いており、手話を日常的に使っています。そのため、手話を第二言語とする社員の育成に取り組んでいます。具体的には、@社内に手話サークルを作り、参加を促す、A社内資格として「手話コミュニケーター」制度を設け、日常的なレベルの手話通訳を担ってもらう、Bより専門的な手話通訳による意思疎通を支援する社員の育成のため、手話通訳者の資格取得を社員に推奨し、取得者の受験料を会社が負担するなどの取組を進めています。  一方で、個人情報の取扱いには留意しており、研修時の通訳などは社員が行いますが、人事評価のための面談などでは、外部の手話通訳者の派遣を会社で準備しています。 (C社) 朝礼で練習  当社では、毎日行う朝礼の際に手話練習を行っています。「今朝の手話」として毎日1つの単語を取り上げ、全員で練習しています。「おはようございます」「こんにちは」「お疲れさま」などの挨拶に始まり、日常よく使う単語や業界用語へと広げていきました。  手話を完璧にこなすのは容易ではありませんが、100語でも覚えれば随分と違い、ある程度の日常のコミュニケーションはとれるようになります。この2年の間にそうした社員がかなり増え、聴覚障害者との垣根が取り払われて、昼休みなどもきこえる社員と聴覚障害者の談笑風景がよく見られ、社内に活気が出てきたように思われます。 (D社)