第3章 情報保障と就労 1情報保障の基本的な考え方  企業は、「障害者雇用促進法」により、職場において、社員の障害の特性などに応じた合理的配慮の提供義務があり、情報保障もその一つです。情報保障とは、きこえない・きこえにくい人の「情報障害」の側面に着目し、音声に代わるほかの手段により情報を提供することをいいます。 情報保障の重要性について、就労との関係でより詳しく紹介します。  それぞれの会社や部門などには目的・方針などがあり、社員はそれらの実現に寄与すべく働いているともいえます。その実現のためには、それらが社員に認知・理解されていることが必要です。同様に、きこえない・きこえにくい社員も職業生活を継続し、キャリアアップなどを実現していくためは、会社の方針だけでなく、その周辺情報も含め取得し、周りの社員と共有することが不可欠です。しかし、きこえる人が音声情報に頼っているために、きこえない・きこえにくい人に必要な情報の伝達漏れがあったり、きこえない・きこえにくい人の日本語の習得状況などの点から、伝達した情報が正確に理解されなかったりすることがあります。そうしたことを防ぐため、必要な情報が伝わるようにすること、あわせて、伝える際には理解しやすい方法や表現に配慮することが、職場で必要な「情報保障」の考え方といえます。  情報保障を図る際には、各人の障害の状況や情報保障を必要とする場面に応じた手段を選択できるようにすることや、障害の有無にかかわらず、同じ内容の情報を、同一時点で取得できるようにする観点も必要です。これらは、聴覚障害以外の障害のある方、高齢者や外国籍の人などについても同様です。  次ページ以降で、きこえない・きこえにくい人への情報保障の方法・手段などについて、要約筆記、手話通訳、情報機器・ソフト、そのほかの順に紹介します。コミュニケーションの方法と重なる部分もありますが、職場で必要とされる情報伝達(作業上の指示や連絡事項など)及びこれを受けた意見の表示手段の確保という観点から説明します。  基本的な考え方は、第二章と同じです。まず、一人ひとりにとって伝わりやすい、使いやすい方法を基本に、状況に応じた選択・工夫をしていくことです。 デジタル補聴システム 受信機 送信機 2情報保障の方法・手段 1要約筆記 @要約筆記(要約筆記通訳)とは  音声で聞きとった話を要約し、手書きあるいはパソコンなどで文字に書き表して伝える方法で、きこえない・きこえにくい人が講義や研修、会議などに参加する際には、内容を理解するのに必要とされるものです。  特に中途失聴者や難聴者、老人性難聴の場合など、手話を習得するための十分な機会がなかった人たちにとって有効な方法です。  要約筆記は、主に一対複数の場面で、話し手の意図をすばやく要約し、分かりやすく、正確に伝える専門的なコミュニケーション技術であり、要約筆記を行う人の知識及び技能を客観的に判定する「全国統一要約筆記者認定試験」に合格するなどした上で、各都道府県など、各市町村に登録して活動する人を要約筆記者といいます。  要約筆記者を利用する場合、地方自治体などの派遣事業実施団体に依頼します。要約筆記者の派遣も、手話通訳者の派遣と同じ制度の枠組みで実施されていることが多いため、次項「手話通訳」でまとめて説明します。  他方、日常的な就労場面で、外部からの要約筆記者を利用することが効率的でないなどのケースもあります。そうした場合は、同僚などによる要約筆記を用いた情報伝達が現実的な情報保障と考えられます。次に、要約筆記の方法やポイントを紹介しますので、参考にしてください。 A要約筆記の方法  要約筆記の方法には、主に以下のものがあります。いずれの方法においても、きこえない・きこえにくい人の耳の代わりに聞き取り、書き起こすのが要約筆記であり、単なるメモとは異なることを理解する必要があります。本人の日本語の語い力に応じた表現を用いることや、その職場で使われる用語や固有名詞は事前に表現(用語を短縮して表記するなど)を決めておくなどの工夫も重要です。 ●ノート(紙)を使う「ノートテイク」 筆記者がきこえない・きこえにくい人の隣に座ってノートや大きめのメモ用紙にペンなどを使い、書いていく方法です。職場では周囲の人の協力による「ノートテイク」が日常の情報保障の有効な手段となります。 ●パソコン要約筆記 聞き取った内容をすぐにパソコンに入力し、プロジェクターやディスプレイなどに映し出す方法です。きこえない・きこえにくい人が参加する会議や会合などの場合によく使われます。きこえない・きこえにくい人の人数が少なければ(ノートパソコンであれば2〜3人が上限)、パソコンで会議記録をとる人の横から、きこえない・きこえにくい人がパソコン画面を直接見る方法もあります。その職場でよく使われる用語や固有名詞は事前に登録しておくと便利です。 ●OHC(オーバーヘッドカメラ) 机上の用紙などにペンで書いたものを、カメラで撮影しスクリーンなどに拡大して映し出す方法です。手書きのイラストや写真などをそのまま映すこともできます。機種によっては、倍率を変えたり、字と地を白黒反転したりすることも可能です。 2手話通訳 @手話通訳と手話通訳者  手話通訳とは、きこえる人が話す日本語を手話で、きこえない・きこえにくい人に伝え、また逆に、きこえない・きこえにくい人の手話を読み取って、きこえる人に日本語で伝えることです。このようなコミュニケーションの仲立ちをする人が手話通訳者です。手話通訳者は、公的機関(ハローワーク、市役所、警察など)での相談、医療機関での受診・入院時など様々な場面で手話通訳を行っています。企業関係では、採用面接、会議、研修、面談などにおいて、手話通訳が行われています。  手話通訳者には一定以上の手話のスキルと、聴覚障害の特性・福祉制度などに関する知識が必要です。それらを備えた専門家の資格認定制度として手話通訳士があります。手話通訳士以外にも、自治体が実施する手話通訳者養成事業において養成される手話通訳者があります。 A職場における手話通訳  これまで述べてきたように、きこえない・きこえにくい人には手話や要約筆記などによる情報保障が不可欠です。職場においては、情報保障だけでなく、コミュニケーションの促進や人間関係づくりの方法としても手話通訳は重要です。  職場での手話通訳が必要な場面としては、まず、日常的な業務上の指示や相談・報告、会議・研修・ミーティングなどが考えられます。それ以外にも、会社説明会・採用面接など様々な場面が考えられます。  そうした場面での手話通訳を、社内の人材(社員)が行う場合と、外部の手話通訳者を利用して行う場合があります。外部からの利用については、要約筆記者の利用も含め、後ほど紹介しますが、社員が手話通訳を担う場合にも、手話通訳者・要約筆記者の基本的な心構えや活用時の留意点などは参考になります。  情報保護の観点から外部の手話通訳者・要約筆記者の利用に慎重になる企業もあるようですが、手話通訳者・要 2約筆記者には、派遣機関などにおける守秘義務があります。  また手話通訳士の職能団体である日本手話通訳士協会では、「手話通訳士倫理綱領」を定めていますので、次にその一部を紹介します。 ? 私たち手話通訳士は、(略)社会的に正当に評価されるべき専門職として、互いに共同し、広く社会の人々と協同する立場から、ここに倫理綱領を定める。 ? 手話通訳士は、全ての人々の基本的人権を尊重し、これを擁護する。 ? 手話通訳士は、職務上知りえた聴覚障害者及び関係者についての情報を、その意に反して第三者に提供しない。 要約筆記者についても、全国要約筆記問題研究会が同様の「要約筆記者の倫理綱領」を定めています。 B 手話通訳者・要約筆記者の利用について  市町村などの障害福祉担当課や、事業の委託を受けた団体などが手話通訳者・要約筆記者の派遣を行っていますので、派遣の依頼や相談は市町村や各都道府県にある聴覚障害者情報提供施設などに問い合わせてください(巻末の資料編参照)。  JEEDでは、企業が障害者を雇用する際に手話通訳者・要約筆記者を配置または委嘱した場合などに、その費用を一部助成しています(障害者介助など助成金(126ページ参照))。助成には一定の要件と審査があります。相談窓口はJEEDの各都道府県支部です(131?132ページ参照)。 C手話に関する資格・検定制度 手話通訳士は厚生労働大臣が認定した「社会福祉法人聴力障害者情報文化センター」が実施している手話通訳技能認定試験に合格し、同センターに登録した人です。 手話通訳者は、一般的には、自治体が実施する手話講習会を修了し、手話通訳者全国統一試験(社会福祉法人全国手話研修センターが実施)に合格し、自治体に登録した人です。そのほかには、自治体が養成する「手話奉仕員」(きこえない・きこえにくい人と活動をともにするボランティア)がいるほか、全国手話研修センターが実施する全国手話検定試験(受験者が自身の知識やスキルの確認、向上などを目指す)に向けた学習を通じ、手話を学んでいる人もいます。 Check 要約筆記のポイント  要約筆記の3原則は「速く」「正しく」「読みやすく」といわれています。 ? 速く書くための工夫 ? 漢字を略字とする。2文字のうち一方は仮名書きにする 働→仂、機→木、業務→業ム 口座→口ザ ? 前もって略語・略号を決めておく コミュニケーション→コミ ? 団体名などは略称を使う 高齢・障害・求職者雇用支援機構→JEED ? 正しく書く ? 主観を入れずに話を聞き取り、要点をつかむ ? 話の主旨をつかみ、主語・述語を捉える(必要な場合は補足する) ? 分からないことは基本的に書かない。どうしても書き残す必要がある場合は、その部分に目印(例えば「?」)をつけておいて、後で確認して伝える ? 数字、人名、地名などは正確に聞き取る。漢字が分からないときはカタカナで書く ? 分かりやすく(読みやすく)書く ? 読みやすい文字で、少し大きな字を心がける ? 縦書き、横書きは書きやすい方を選ぶ ? 行間をあけ、改行、分かち書きなどを使い、文章を見やすくする ?文章を中途半端に終わらせず、完結させる ? 句読点、常用漢字、送り仮名など日本語の表記の約束を守る そのほかにも、以下のような点に配慮します。 ? 重要でない語や句の一部を省略する ?短い表現に置き換える ? 2つ以上の文を1つにまとめる ? 似ている表現部分を削除する  削除できるもの: 前置き、繰り返し、つなぎの言葉、言い換え、修飾語 など  削除できないもの: 意見、主張、結論、まとめ など Check 利用に当たって(派遣料・派遣人数・時間の目安、依頼時の留意事項) ? 手話通訳・要約筆記の派遣料(交通費など)  派遣時間は、時間単位または半日、1日などの単位で定められ、派遣料はその時間数に応じていることが多いようです。地域によって異なりますので、市町村や聴覚障害者情報提供施設などにお問い合わせください。 ? 派遣人数  手話通訳も要約筆記も集中力を必要としますので、同じ人が続けて対応できるのは15分から20分程度とされています。したがって、方式(会話を断続的に通訳するのか、講師の話を連続して通訳するのかなど)や、時間により必要とされる人数が異なります。  手話通訳の場合、採用面接のような個別面談方式で、比較的短時間での手話通訳であれば1名でよいケースもありますが、講演形式や、通訳時間が1時間を超える面接などでは2名、4時間を超える場合には3名が必要な場合もあります。  要約筆記の場合、全体投影とノートテイクがあります。全体投影は、大会場などで音声に合わせて内容を要約した文字をスクリーンに投影する方法で、ノートテイクは、きこえない・きこえにくい人の隣に座り、音声を文字にして伝えるものです。  全体投影には、手書き入力とパソコン入力があります。筆記者の人数は、一般的には、4時間以内であれば手書き・パソコンのいずれも3〜4名、4時間を超えると、手書き5名、パソコン6名が必要です。ノートテイクの場合、一般的には、4時間以内であれば2名、4時間を超えると3名が必要な場合もあります。いずれも派遣機関と相談いただくことが必要です。 ? 依頼時の留意事項 ? 手話通訳者も要約筆記者も、十分な時間的余裕をもって依頼します。 ? 依頼内容(日時、場所、目的、当日の流れなど)は明確に伝え、事前の打合せをします。 必要な物品など(机・イス、機器など)を確認し、余裕をもって準備します。 ? 資料がある場合は、可能な範囲で事前に提供します。 ? 当日は機材の確認や関係者との打合せが必要です。そのための時間を確保します。 なお、手話通訳者も要約筆記者も守秘義務が課せられ、通常、業務終了後に資料・メモなどは返却されますが、利用企業側でも回収・保存・破棄などを確実に行ってください。 Check 会議・研修でのポイント (手話通訳者の派遣を受けた場合と社内人材による手話通訳の共通ポイント) ? 手話通訳者が視野に入る位置にきこえない・きこえにくい人の席を設ける  手話通訳者の位置は、会議のように発言者が特定できない場合は、きこえない・きこえにくい人の席を、出席者全員と手話通訳者が無理なく視野に入る位置に設けると、自然な形で通訳を利用することができます。研修や講演会のように話し手の位置が固定している場合は、手話通訳者と講師などが視界に入り、手話の読み取りやすい距離に設定します。 ?無理なく手話通訳ができるペースで進行する  会議の場では「手話通訳者がいるから大丈夫」とは一概にはいえません。会議の進行がきこえる人のペースになってしまい、内容が理解できないこともあります。また、きこえない・きこえにくい人が発言をしたいときにもタイミングを逃してしまい、思うように意見がいえない場合もあることに配慮する必要があります。 ? 発言する際にはまず挙手をし、名前をいってから発言することを呼びかける  会議の場では同時発言を避け、挙手をしてから発言するよう出席者に協力を呼びかけます。また、議論が白熱してくると手話通訳がついていけない場合も多いので、司会者または会議の運営にあたる人は出席者に注意を促す必要もあります。 ? 事前に議事内容や資料を配付する  きこえない・きこえにくい人は、会議中ずっと視線を手話通訳者のほうへ向けていて、手元の資料に目を通しながら発言を聞いたり、メモをとったりすることが困難なため、事前に議事内容や資料を配付しておきます。これは手話通訳者にとっても同様で、事前に内容を把握することによって、より確実な通訳が可能になります。 (社内人材による手話通訳の場合のポイント) ? 手話通訳に専念する人を手配する  会議などにおいて、出席者が手話通訳も兼ねると、その人の参加が困難となります。基本的には、手話通訳の担当者を別途に手配することが必要です。また、長時間にわたる場合は、2名以上で交替しながら通訳できる態勢が必要です。 ? できるだけ議事録などを作成  会議の後は、議事録を作成して配付すれば、きこえない・きこえにくい人だけでなく、出席者全員が内容の確認をすることが可能になります。 ? きこえない・きこえにくい人の発言の機会を保障  一方的な情報の伝達にとどまらず、きこえない・きこえにくい人からの発言を保障することにより、不明点が解消され、情報伝達の正確性が高まることも期待され、確実な情報保障につながります。コロナ禍で一層活用の進んだWeb会議システムなどにおいても、発言をチャット機能で文字化することにより双方向性が確保されます。 3情報機器・ソフト @情報機器とアプリ  ICT(情報通信技術)をはじめとする、各種機器やアプリケーション・ソフト(アプリ)などの進歩には目覚ましいものがあり、障害者の就労場面でも活用されています。  ここでは、きこえない・きこえにくい人の就労場面で活用されている機器などについて、情報機器などを中心に紹介します。主なものを一覧にまとめたものが46ページの表です。Aでは表に沿って紹介します。  なお、コミュニケーションの方法と同様、どの機器やアプリがよいかは個人や職場環境などによって異なります。使いやすさや有効性、コストなどを考慮して活用しましょう。 A種類と機能  コミュニケーションのための支援機器として、情報通信機器などに関連するものがあります。まずは、スマートフォン(以下「スマホ」という)・タブレットなどの情報端末です。これらは、様々なアプリを組み込むことで、通話(音声・ビデオ)をはじめ、電子メールやSNS、音声認識・文字変換などの様々な機能を持つことが可能になります。きこえない・きこえにくい人も、カメラ機能を活用した手話での会話やメール、SNSなどを活用してコミュニケーションをとっています。通信関連のものとしては、FAX、電話着信確認器や難聴者用電話機などもあります。  通信関連以外にも様々なものがあります。補聴システムは、補聴器や人工内耳の機能を補助するもので、会議や研修などにおいて、ヒアリングループ、会議用拡聴器などを設置することで、より聞き取りやすい「音」で伝えるものです。  音声認識アプリは、日本語の音声を文字に変換し、スマホやパソコンの画面に表示するものです。近年はAI(人工知能)などの活用により、変換の正確さが向上しており、スマホで使用する人が多くなっています。また、変換結果の記録やほかの機器・アプリとの連動などの機能拡張が進んでいます。 また、筆談のところで触れましたが、筆談支援機器もよく使われています。コミュニケーションボードなどとも呼ばれ、銀行や市役所などの窓口に備えられていることもあります。紙と違い何回も書いたり消したりできるもので、磁気式、ホワイトボード式、電子式(電子パッド)などがあります。比較的安価で、ポータブルで使いやすいので、導入が容易なツールです。  そのほか、社内連絡や緊急時通報のための文字表示器、光や振動による信号装置、振動付腕時計などもあります。 きこえない・きこえにくい人一人ひとりのニーズに応じて必要な機器などを整備し、コミュニケーションを図る方策を講ずることは、合理的配慮の提供、情報保障の観点だけでなく、仕事の幅を広げていくためにも有効です。 B機器などの情報を得る方法  既に様々な機器やソフトがあり、順次改良されてきています。また、新たに開発されたものも増えています。それら全てを把握し、活用することは簡単ではありませんので、JEEDの運営する就労支援機器などに関するサイトを確認する、就労支援機器貸出・相談窓口(東京)(※)に相談するといった方法があります。就労支援機器貸出・相談窓口では、専門家が機器などの活用に関する相談・助言や、機器の導入をお考えの事業所などに機器の無料貸出を行っています(135ページ参照)。また、ユーザーの情報が有用な場合もあるため、障害のある当事者から情報収集するのも有効です。本マニュアルの作成にあたり取材した人からは、機器などに詳しい障害のある友人や、当事者団体(地域のろうあ協会)に相談すると、新製品や使い勝手の情報が得られるとの話がありました。 ※ 令和7年3月まで「中央障害者雇用情報センター」の名称でサービスを提供しています。 Check 携帯電話などの活用 ? 携帯電話・スマホ・タブレットなどの情報機器  携帯電話やスマホは、携行に便利な文字通信機器として、きこえない・きこえにくい人の重要なツールとなっています。特に着信を振動で知らせるバイブレーター機能は、着信が分かり、必要なときにすぐ連絡が取れるので、急ぎの場合で確実に連絡を取りたいときに使われています。  また、スマホやタブレットは、機器の高性能化と様々なソフト(アプリ)の開発により、多様な機能をこなすことが可能になっており、通信だけでなく、情報処理・業務処理のツールとなっています。例えば、音声認識・文字変換アプリにより音声での発言を即座に文字化することで、きこえない・きこえにくい人に伝えることが可能になっています。 ? 電子メール・SNS  電子メールやSNSは、業務の指示・伝達などに積極的に活用することによって、きこえない・きこえにくい人の担当業務の範囲を広げ、コミュニケーションを促進する上で大きな効果を発揮しています。また、機能の拡充により、画像や動画のやり取り、複数のユーザーでの情報共有や意見交換がスムーズに行えるようになるなど、きこえない・きこえにくい人の就労に役立っています。 Check 情報セキュリティと情報リテラシーについて  スマホやパソコンなどが高性能になり、また、インターネットでの情報取得・発信が頻繁に行われる状況になっています。個人情報や業務上知りえた情報の保護、不適切な情報発信によるトラブル防止など、情報セキュリティに関する社員の理解や取扱いルールの遵守が必要とされています。また、入手した情報の信ぴょう性などを慎重に確認するなどの情報リテラシーへの理解も求められています。  きこえない・きこえにくい人の場合にも情報セキュリティや情報リテラシーについての理解を深め、トラブルを防止するための配慮が必要です。具体的には、必要性やどのようなリスクがあるかを、分かりやすい資料にまとめて伝える、ルールもできるだけシンプルなものとし、配付するとよいでしょう。 事例 情報共有システムの活用  当社は、現場での工事が主のため、日によって就業場所・工事内容などが異なります。そのため、情報共有システムを導入し、就業場所などの情報を逐次掲載し、社員は各自の端末で確認し、対応しています。工事完了の記録や報告もシステムで行うこととしており、きこえない・きこえにくい社員もシステムを活用することで支障はありません。 (E社) Web会議システムの活用  コロナ禍への対応もあり、当社では在宅勤務を進めました。在宅勤務者も交えて会議やミーティングが必要なため、Web会議システムを導入し、きこえない・きこえにくい社員への配慮(情報保障)として、音声の文字起こし(字幕作成)機能を活用しています。字幕は保存ができるため、議事録作成もスムーズになり、業務効率化にもつながりました。 (F社) 機器・アプリの活用によりコミュニケーションを図り、テレワークも実現  機械メーカーで、聴覚障害のある社員が複数名就労しています。聴覚障害のある社員全員にコミュニケーションボードを支給し、意思疎通を図っています。そのほかにも、聴覚障害者が所属する部署ではスマホで音声認識アプリを利用することで意思疎通を図っています。また、事務部門では約半数の社員が在宅でのテレワークになっています。そのため、Web上での打合せや会議が日常的に行われています。その際の情報保障として、音声文字化機能や議事録作成機能などを活用することで聴覚障害のある社員も支障なく参加しています。 (G社) 4その他 きこえない・きこえにくい人とのコミュニケーションを図る上で利用可能なほかのサービスを紹介します。 ? 遠隔手話通訳サービスと 電話リレーサービス 両サービスとも意思疎通の円滑化、情報保障に関連するサービスです。 ●遠隔手話通訳サービス 遠隔手話通訳サービスとは、スマートフォンやタブレット端末を利用して、離れた場所の手話通訳者による手話通訳を受けることができるサービスです。 「障害者総合支援法」に基づく「地域生活支援事業」における「意思疎通支援(コミュニケーション支援)事業」として全国の市町村が主体となり実施するものと、民間企業が主体となりサービスを提供しているものがあります。 前者は、行政機関や学校、病院などの利用に際し、手話通訳者の同行が困難な場合などにおいて、当事者や当該機関などからの申請に基づき実施されるものです。後者は、遠隔手話サービスの利用ニーズのある企業など(以下「利用企業」という)が予め遠隔手話通訳サービスの提供企業と契約を行い、利用企業にきこえない・きこえにくい人が訪れた際に当該サービスが利用できるようにしておくものです。令和6年度から、事業者による障害のある方への合理的配慮が義務化されたことにより、利用企業が増えてきています。 企業の活用例としては、採用面接の際に、遠隔手話通訳サービスを活用したオンライン面接を行う、手話での対応が必要な顧客の来店時に、同サービスを利用し接客を行うといったことが考えられます。 ●電話リレーサービス 電話リレーサービスは、聴覚や発話に困難のある方(きこえない・きこえにくい人)と、きこえる人(聴覚障害者等以外の人)との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができる、法律に基づいた公共インフラとしてのサービスです。総務大臣が指定する電話リレーサービス提供機関「一般財団法人日本財団電話リレーサービス」が同サービスを提供しています。 就労場面での活用例としては、きこえない・きこえにくい社員が社外の相手に急ぎの用件で連絡する際に、きこえる同僚に頼らずに自分で電話をして仕事をすることができます。これにより、きこえない・きこえにくい社員が同僚に気兼ねすることなく仕事を進めることができます。また、きこえない・きこえにくい社員の職域の拡大にもつながります。