第5章 定着支援、スキルアップとキャリアアップ 1職場でのコミュニケーション  表1は、障害のある方が感じている合理的配慮の必要性について、障害別、配慮項目別に調査・比較したものです。きこえない・きこえにくい人(表1では「聴覚言語機能」と表記)は、「コミュニケーション」、「定期的な相談」、「能力発揮できる仕事」、「業務遂行の支援や助言者の配置」に関連する項目(赤枠)の配慮を必要としていることが分かります。また、この研究では配慮の十分さも調査しており、きこえない・きこえにくい人は、多くの配慮を必要としているものの、その配慮が十分に受けられていないと考えられる項目が、ほかの障害と比べて多いという結果も示されています。きこえない・きこえにくい人はコミュニケーションの配慮を必要としているにもかかわらず、職場で十分な配慮が得られていないと感じている実態があるといえます。  表2、表3は一般財団法人全日本ろうあ連盟が実施した「第2回聴覚障害者の差別事例と合理的配慮事例アンケート」の結果を分析した表の一部です。表2の「就労場面における差別的内容」のグラフでは、「会議や研修で手話通訳などの情報保障なし(全回答者の30・2%)」、「職場でのコミュニケーション上の配慮なし(全回答者の27・8%)」が上位に挙がっています。表3の「就労場面における配慮内容」のグラフでは、同じく「情報保障」、「コミュニケーション上の配慮」が上位ですが、配慮を受けたと回答した人の割合は一番上位の項目でも全回答者の4・4%にとどまっています。改正された障害者雇用促進法が、2016年4月に施行されてまもない時期のアンケートですが、こちらの結果からも、情報保障やコミュニケーション上の配慮が十分に得られていないと感じている人が少なくない状況であったことが窺えます。  次ページから、きこえない・きこえにくい人ときこえる人との間で生じやすい、職場でのコミュニケーションの行き違いの事例を三つ紹介します。 1相互の確認不足の事例 コミュニケーションの基本は確認から このストーリーの主人公 木村美雪さん(40歳) ジード食品総務部人事課勤務 転職してまもない中途失聴(障害等級三級) はい人事課の小泉です!あっ八島係長! あぁ、小泉さんか明後日の会議が急に明日になったので頼んでおいた資料を今日中に作っておくように木村さんに伝えてくれる? それから私の机の上のファイルも木村さんに渡しておいてくれる? はいわかりました 木村さん出張先の八島係長から電話で、このファイルを木村さんに渡すようにって… それから明後日の会議が明日になったので 例の資料を今日中に作成しておくようにって あぁ、これがあのファイルで……!?ここに書いてもらえますか? じゃあ木村さんよろしくお願いします すぐ行きます課長! えっ!はっはい… 資料をどうすればいいの!? 明日係長に聞こう… 翌日の朝 えー?資料できてないの!?昨日ちゃんと伝言しておいたんだけど… 私聞いてませんけど… 小泉さん昨日、木村さんに伝言してくれなかったの? すぐに伝えましたけど… でも木村さんは聞いてないっていってるよ! えーっそんなぁ…! …なるほど小泉さんも木村さんも内容が伝わったかどうかきちんと確認すべきだったね 特に大事な業務連絡はメモを利用するようにした方がいいですね ごめんなさいわかったと思い込んでしまって… 私もわかるまでちゃんと聞き返せばよかったんです 私も携帯からメールを送ってしっかり確認すべきでした そう、皆お互いにしっかり確認し合うことが大切だね 2情報提供が不足している職場環境の事例 コミュニケーションの壁をなくすには この書類は今年から新しい書式になったと言いましたよね! ちゃんと話を聞いてないからこういうミスをするんだよ! 私も気をつけなくちゃ… 数時間後のこと 課長書類ができました ムッ!なんだこれは! また同じミスをしているよ! 書き直してくるように! 同じミスってどういうことかしら? どうして? 木村さん… ごめんなさいさっき… この会社もやっぱり… 前の会社では私は中途失聴なので発音が明瞭ということで実際より、よくきこえると思われていた えーっうっそー! ねぇ木村さんもそう思わない? きこえないことわからないことがきちんと理解してもらえず情報センターに配置転換になってしまった わーっわからない!どうしよう! はーいどうぞ! 失礼しま…あっ森さん!? あら、木村さんあなたの様子が気になって今日は定期訪問に来たのよ 木村さんごめん… あら桜井さん?! 二人ともどうしたんですか?入ってください はい失礼します さっきはごめんなさいあの書類は書式が変わったのよ 少し前に山田さんが同じミスで課長に怒られたときに教えてあげるべきだったの くらペアで仕事を教える役目でも同僚が怒られていることまでは伝えにくいわよね はい何だか告げ口しているみたいで… そういえばこんなこともありました 何をやっているのかしら? 二千円でいいかしら? 私も二千円… さっき、何のお金を集めていたの? あっ知らなかったんだ!経理部の藤井さんのお母さんが病気で亡くなったのよ! えーっ知らなかった…! だから、皆でお香典を集めていたのよ知っていると思っていたの ………… 確かに結婚や出産のようなおめでたいことは皆で話題にするけどご不幸はあまり口にしないしなぁ… だから私だけ全然知らずにいることがあるんです そういうところできこえない人たちは社内のコミュニケーションの輪にうまく入れないことが、けっこう多いようです そうなんですたとえ小さな情報でもそれが職場の雰囲気を変えることもありそのコミュニケーションの輪に入れないと何となく自分の居場所じゃないような気がしてしまうんです そういうことも話し合える仲間を作るには待っているだけじゃダメだと思うの! 自分からも話しかけるようにしなくちゃね でも聴覚や言語に障害があることでコミュニケーションをとることに臆病になったり緊張したりする人が多いのも事実だからまず、周囲から積極的に情報提供する努力が必要だね ところで、木村さん私に何か用事があって来たのでは? いいえ、もういいんです私頑張ります! フフフ 3相互の理解不足の事例 誤解は相互理解のチャンス ある日のこと キャッ!! コピーこ・しょう・ちゅうメ・ン・テ・ナ・ン・スた・の・ん・だ・わ! あーっびっくりした… まぁなんて乱暴な人なんでしょう! そして あら?開かないわ! そのロッカー開けるのにコツがあるのよ! 困ったわ ちょっと貸してごらんなさい! わぁ!何するんです! ほら開いた! いきなりひどいわ どうして意地悪ばかりするんだろう? 翌日の退社時のこと はっ! 昨日はごめんなさい!あなたにどう声をかければいいのかわからなくて… 話し合える仲間を作るには待っているだけじゃダメだって思うの自分からも話しかけるようにしなくちゃね 仕事で何度も聞き直したらそれからあまり話をしてくれなくなった人もいるし… もう一度お願いします 仕事で必要な話はちゃんとしてくれるけどそれ以外はあまり話をしてくれない人もいる… でもこの人は私に謝るために「ごめんなさい」という手話まで覚えてくれてお互い理解をし合うことが大切なんだ! 私は大人になってからきこえなくなったので手話はできませんでも大きな声ではっきりゆっくり話してくれれば会話もできます わかった・私・網島・というの・よろしく・ね! それから昼休みや就業時間後に楽しそうに会話する二人の姿が見られるようになった あなたのおかげでやっと自分のことが伝えられるようになったわ One Point 心のバリアフリー ?きこえない・きこえにくい人の気持ち  コミュニケーションの困難さや情報不足の不安などから、きこえる人との交流に強い緊張感を抱いたり、失敗を恐れてなかなかうまく心を開けない人がいます。 ?きこえる人の気持ち  きこえない・きこえにくい人と、どのようにコミュニケーションをとってよいか分からないため、積極的に接することを避ける人がいます。 ?心の壁を取り除くために  周囲のきこえる人からの積極的な働きかけが特に大切です。お互いに同じ職場の仲間であることを意識するとともに、障害についての理解を深め、相手をありのまま受け止める気持ちが必要です。また社内の行事をはじめ、勤務時間以外の余暇活動などにも、きこえない・きこえにくい人が気軽に参加でき、打ち解けた雰囲気の中で心を開くことができるように配慮することが望まれます。 2職場定着を図るために  「1.職場でのコミュニケーション」の(1)では、小泉さん(きこえる人)が急ぎの要件であるにもかかわらず、木村さん(きこえにくい人)に口頭のみの指示を行い、伝わったかどうかの確認ができていませんでした。また、木村さんも小泉さんの指示が十分理解できないままであったものの、確認を後回しにしてしまい、期日までの資料作成ができませんでした。  (2)では、書類の書式変更や業務外の連絡について、きこえる人たちと木村さんとの間で、十分に情報共有がなされていませんでした。きこえる人の間では、明示的に話題として取り上げなくても了知されていることが、きこえない・きこえにくい人には伝わりにくいことがあります。  (3)では、網島さん(きこえる人)が木村さんとどのようにコミュニケーションを取ったらよいか分からず、配慮をしているつもりが逆に驚かせたり、印象を悪くしてしまっています。木村さんのほうは自身の発語がスムーズなため、実際よりもよく聞こえると思われがちであると分かっていても、実際の聞こえの状態や希望するコミュニケーション方法を周囲に十分伝えられず、配慮してもらえないことに悩んでいました。 このように、きこえない・きこえにくい人ときこえる人との間でコミュニケーションの行き違いが生じると、きこえない・きこえにくい人が疎外感を抱き離職に至るケースもあります。  これらの事例に対する職場の対策としては、@受入れ時に「聞こえ」の状態や希望するコミュニケーション方法を確認し、本人の了解のもと職場の社員の理解を図る、また、時間の経過とともに、本人に対する配慮について、社員の意識が薄れることのないよう、定期的に振り返りを行う、A指示を出すときは、なるべく口頭のみでなくメモやメールなどに残し、内容が理解できたかどうか確認する、B業務上の変更点は、「今までの(書式は)…、新しい(書式は)…。」のように、新旧を比較するなど分かりやすく伝えるなどが挙げられます。  「1.職場でのコミュニケーション」の表1では、「定期的な相談」や「業務遂行の支援や助言者の配置」も、きこえない・きこえにくい人が必要とする傾向が強い配慮項目となっています。次ページからの二つの事例は、それらが職場定着のカギとなることや職場定着のための社内の体制づくりの様子を描いています。職場定着のポイントは、コミック部分のページの中で各エピソードの最後にまとめていますので参考にしてください。 1個人面談 手話通訳者の派遣などにより丁寧な相談を このストーリーの主人公 花田千穂さん(25歳) 既製服メーカー ジード社 工場勤務勤続3年 生後まもなく失聴(障害等級二級) 昼休み どうしたんだろう…花田さんこの頃元気がないなぁ やぁ、花田さんどう、仕事頑張ってる?手話サークルも続けているかい? あ、部長…いえ、あまり… 私工場辞めたいんです… えっ!! ちょっと花田さん?! 応接室 山田さん忙しいのに現場を空けさせてすまないね 実は花田さんのことなんだけど… 花田さんはよくやっていますよ周りの人たちともうまくやっているようです 山田さんは新任でよく知らないだろうが以前の彼女はもっと陽気で活発だったように思うんだがね… そうなんですか?現場ではまじめに働いていますが… ふーむ…? そういえば地域障害者職業センターの障害者職業カウンセラーから上司が異動になったときに離職してしまった人の事例を聞いたことがあるなぁ 前の上司 新任の上司 確かに前任の添川さんはきめ細かくかかわってくれていたなぁ 技術指導も熱心だったし 現場の皆で手話を覚える「1日1手話運動」 余暇も楽しくやっていた 添川さんの定年退職が原因だとしたら改めて、人が替わっても彼女への配慮が変わらないような体制を作らないといけないなぁ 仕事の方はどうですか? なんとか頑張っています 定期的に面談して花田さんの悩みも理解していかないと… One Point 障害者職業カウンセラー  厚生労働大臣が指定する試験に合格し、かつ、厚生労働大臣が指定する講習を修了した者で、地域障害者職業センターや広域障害者職業センターなどに配置されています。職業評価(職業リハビリテーション計画の策定)、職業準備支援、ジョブコーチ支援、リワーク支援のほか、障害者の新規雇い入れ、在職者の職場適応やキャリアアップなどに係る事業主支援、関係機関に対する専門的な職業リハビリテーション技法の提供などに携わっています。 どうだい、もう一度手話サークルを頑張ってみないか花田さん! でも… これでよし! しっかりチェックしましたか? はい大丈夫です! あなたたち遊んでないで仕事、仕事! どうして手話で話すと「遊び」になっちゃうの? 皆だって仕事中に話をすることがあるのに… 手話サークルもこの頃参加者が少ないし… どう伝えたらいいかわからないんですけどやっぱり工場を辞めさせてください 一度気持ちの整理が必要かもしれないね 入社のときにかかわってもらった地域障害者職業センターに相談するのはどうかな? いいですけど… そういうことでしたら手話通訳者と一緒に本人の話を聞いてみましょう 障害者職業カウンセラー お久しぶりです部長から花田さんが離職を考えていると聞きました 今日は手話通訳者にも来てもらっているのでまずは手話で気持ちを話してみませんか? 手話なら気持ちが伝えられそうです 元上司の添川さんが退職してから手話サークルに参加する人も少なくなって 今の上司の山田さんは仕事中に手話で話すことをよく思っていないようで… 部長も山田さんも花田さんはよくやってくれていると言っていましたよ そんなふうには思えなくて 手話が私の言語だってことを皆にわかってもらいたいです 私も同席するので今の気持ちを部長や山田さんに伝えてみませんか わかりました 花田さん辞めたいと思った理由を手話で話してみてください 以前、仕事のことで同僚と手話で話しているとき山田さんから遊んでないで仕事をしなさいと注意されたことがありました 気づいたら同僚ともコミュニケーションをとりにくくなってもう辞めるしかないと思うようになりました そうだったの全然、気付かなくてごめんなさいね 私は手話がわからないし今の担当の仕事で頭がいっぱいになって 花田さんの気持ちを想像する余裕がなかったわ 花田さんにはこの会社にずっといてもらいたいし悩んでいるときは早めに相談してほしいのだが 花田さんもそうですがきこえない人の中には筆談ができても詳細な部分は手話でないと伝えられない人もいます そうだったのか山田さんも今の担当に慣れてきたし手話サークルに参加してみてはどうかね はい私もそろそろ参加したいと思っていました ありがとうございます 私も仕事中に手話で話すと業務外の話をしていると誤解されてしまうと思い込んでいました 手話は私の自己表現の手段だとわかってもらえたらうれしいです きこえる人からの手話によるコミュニケーションは きこえない人たちを積極的に理解する姿勢を表現する方法の一つです 今日のように込み入った相談をするときは 本人の希望を確認した上で手話通訳者の派遣を依頼してください こんにちは One Point 相互関係から課題解決へ導く ? きこえない・きこえにくい人の職場定着を図る上で重要なことは、きこえない・きこえにくい人の職場に対するニーズや悩みをどのように知り、対応していくか、また上司・同僚との間に生じている小さな溝やすれ違いをどうやって埋めていくかです。企業が、きこえない・きこえにくい人についてどのようなことを考え、どう対応していこうとしているのかをしっかり理解してもらうことが大切です。こうした課題に効果を発揮する取組として、多くの企業で個人面談が実施されています。 ? 個人面談は上司が直接行う場合もありますが、このエピソードの花田さんのように、口話や筆談では自分の気持ちがうまく伝えられないと考えている人は少なくありません。職場の人間関係の悩み、意欲や自信の低下など不適応の問題を抱えているときや、人事考課に係る面談のときなどは、本人の希望を確認した上で、手話通訳者の派遣を依頼し、相互の考えを理解し合えるよう丁寧に相談を進めていくことが大切です。 ? 社内の「障害者職場定着推進チーム」(92ページ参照)による面談やカウンセリングも効果をあげています。推進チームによる面談では、第三者的な立場から、上司・同僚・障害者間のパイプ役として意思の疎通を促し、課題解決への的確なアドバイスが可能です。さらに、縦割り的な対応だけでなく、職制を超えた課題解決にも効果的に機能します。 2職場定着のための組織的な対応 きこえない・きこえにくい人の意見を活かす ある日の応接室 花田さん忙しいのにすまないが… 何ですか? 今度、うちにきこえない人たちが二人入社することになったんだ 実はその二人の教育担当を花田さんにお願いしたいと考えているんだが… えっ! あなたの仕事ぶりは現場の皆も評価しているのよ その経験を新しく入ってくる人たちに伝えてほしいと私も思うわ でも私には…! うちも障害者雇用は花田さんが初めてで体制が整っているわけではない これからは花田さんに中心となってもらって改善していこうと思っているんだ でも私一人では… 手話サークルで手話を勉強している現場の仲間からもう一人スタッフを決めてチームを組んでみてくれないかな? できるかしらでも、よい職場を作るチャンスかも わかりました私やってみます! そうか!これからは自分の意見をはっきり言って後に続く人を育ててほしい! はい頑張ります! それから一か月後 こういうところは特に注意して… 頑張ってね! ありがとうございます失礼します 二人ともあんまり自分の考えを言わなかったね きこえない・きこえにくいということは言いたいことが言えないということもあるの 言いたいことが言えるような職場を作るのが私たちの仕事なのね ええ! One Point きこえない・きこえにくい人とともに職場環境の向上を図る ? 障害者の悩みや不満を一番に理解しているのは障害者自身です。「障害者職場定着推進チーム」(92ページ参照)に、障害者の代表にも参加してもらうと、その体験や思いを職場環境づくりに反映しやすくなります。また、(財)全日本ろうあ連盟加盟団体(132?134ページ参照)に相談するなど、社外との積極的な交流や情報収集も効果的です。 ? 手話に習熟しているきこえない・きこえにくい人に、社内の手話サークルの運営を手伝ってもらったり、職場の先輩として、同じ障害のある新人の指導に当たってもらうなど、職場において主体的に参加できる場面を作ることは、コミュニケーションを促進するだけでなく、きこえない・きこえにくい人自身がやりがいや自信を高めていく機会にもなります。 職場環境や設備の改善のために これでいいのかしら? ここはこうして… やっぱり工場の全工程がわかったほうがいいわね! うーん わかりやすいマニュアルを作るって難しいなぁ これでわかるかしら? 大丈夫大丈夫! よし、できた!動画を入れたからよりわかりやすくなったかも…! あっ部長! あなたたちが熱心に支援していることは聞いているが随分頑張っているんだねぇ どれどれ ほほぅこれはよくできているね! 「目で見るマニュアル」だねぇ! 私が新人だった頃添川さんが絵で工程を説明してくれたのがとてもわかりやすかったんです こっちは職場の皆がもっと新人さんたちに話しかけてくれるようコミュニケーションのポイントをまとめました ほぅ! それから部長きこえない人たちには業務時間を知らせるチャイムや緊急放送が聞こえないので 電光掲示板の設置とメッセージアプリでの共有をしてほしいんです 故障や部品切れなどが発生したときにすぐに連絡がとれるように呼び出しランプ(パトランプ)もあるといいと思います ハハハあなたたちはもうしっかり我が社の小さな「障害者職場定着推進チーム」だね 障害者職場定着推進チームって? 障害者職業生活相談員資格認定講習で知ったんだが他社では職場でチームを設置して障害のある方たちが働きやすくなるように定例会などを開いて活動しているんだ 障害者個人の相談に乗るほか社内の障害者理解促進などに組織的に取り組むものだよ @障害者職場定着推進チームでの 課題の共有 A仕事やコミュニケーションなどの 悩みをヒアリング B社員へのアンケート調査 One Point 障害者職場定着推進チーム  障害者職場定着推進チームは、企業により名称は異なりますが、障害のある方たちが働きやすくなるように、組織的な取組を行います。  事業所の代表者をはじめ、人事担当部課長や障害者の配属職場の長、障害者職業生活相談員などが加わり、組織的に障害者の職場適応に関する事項を協議し、改善していくものです。新たな組織を作る方法のほか、障害者も含めた社員の職場定着の向上を図るための既存の組織(幹部会議、○○委員会など)を活用する方法もあります。 [主な活動] ? 社内の障害者雇用についての理解と促進 ? 障害者の作業意欲及び自信の醸成 ? 個別相談の実施による課題点の把握と解決 ? 職場配置や業務内容の見直し ? 教育訓練の方法の見直し ? 労働環境の見直し ? 人間関係などの職場生活についての援助 ? 障害者職業生活相談員の活動の支援 誰もが働きやすい業務体制づくり おはようございます今日の… おはようございます きこえない・きこえにくい人には社内放送による作業の注意や変更がわからないという問題提起からタブレットで一日の仕事を確認し合う朝礼が始まり職場全体でのミスが大幅に減った 花田さんたちが作った「目で見るマニュアル」をもとにビジュアル化された動画がジード社の標準マニュアルとなりわかりやすいと喜ばれている なるほどわかりやすいねぇ… きこえない・きこえにくい人に対するコミュニケーションの配慮によって職場全体の情報が同時に共有できコミュニケーションがスムーズになった あれから一年たったある日 障害のある方たちにとって働きやすい環境って社員全員にとっても働きやすい環境なんだね! そういえば花田さんに教育係をお願いしたのは去年の秋頃だったかな いろいろ大変だったけれど花田さんたちの活躍のおかげで我が社の障害者職場定着推進チームの活動もしっかり根付いてきたね One Point ユニバーサルデザインという視点  障害の有無や年齢を問わず、誰にとっても暮らしやすい社会を目指す「ユニバーサルデザイン」という考え方が、日本でも広がっています。「共用品」の商品開発や文字情報の提供などの企業サービスの分野でも「ユニバーサルデザイン」が認知されています。職場においても、障害者にとって快適で働きやすい環境は、全ての社員にとって働きやすい環境であることを認識して、職場環境の見直しを進めることが必要です。実際に、きこえない・きこえにくい人に対する円滑なコミュニケーションへの配慮によって、職場全体のコミュニケーションレベルが向上したという話もあります。  障害者だけでなく、誰もが働きやすい職場環境を整備していくという発想は、障害者の職場定着を促進するだけでなく、全ての社員の働く喜びと意欲を向上させることにもつながります。 3スキルアップとキャリアアップ  障害者雇用が進む中で、雇用の質の確保も重要になっています。令和4年の法改正では、事業主が障害者の職業能力の開発・向上のための措置を講ずる責務が明記されました。障害者が意欲とやりがいをもって働き続けるためには、障害者自身のスキルアップ・キャリアアップへの取組とともに、それについての事業所の環境整備が必要です。 スキルアップ・キャリアアップを図るため、社員への研修を行う場合には、きこえない・きこえにくい社員にもきこえる社員と同様の研修の機会を提供することが必要です。  また、機会はあっても、その研修に情報保障がなければ、きこえない・きこえにくい社員はその希望と能力にもかかわらず、きこえる社員と同様に学ぶことができず、その結果、きこえる社員に比べてスキルアップが難しくなってしまいます。社外の講習なども同様であり、講習主催者に対し手話通訳などの情報保障の有無を確認することが重要です。  きこえる社員と同等の機会及び情報量で研修を受けられることによって初めて、全ての社員が同じスタートラインに立てるといえます。  キャリアアップをして管理職になった場合、部下への指示や会議での交渉など、周囲とコミュニケーションを図る機会が多くなります。  コミュニケーション上の配慮を行うことによって、きこえない・きこえにくい社員も管理職の業務を行うことが可能です。  キャリアを活かし、かつモチベーションを維持・向上するために、本人と話し合いの上、チームの中でリーダー的な役割を担ってもらう、専門技術を評価した、管理職相当のポジションに登用するといった取組を行う企業もあります。  きこえない・きこえにくい社員が研修や会議に出席する場合の情報保障のポイントは、101ページに掲載しています。ただし、コミュニケーション方法の希望は一人ひとり異なるため、事前に本人に確認しておく必要があります。  次ページからのコミック部分では、研修や会議で情報保障に取り組む様子を紹介するほか、モチベーション向上のための工夫についてまとめています。 事例 社内研修体制の整備 事例  当社では障害の有無に関係なく、キャリアアップのために資格取得や研修受講ができるよう、社内体制を整備しています。研修プログラムはビジネススキル、プレゼンテーション、課題解決、表計算ソフトの使い方など、多岐にわたっています。聴覚障害者への合理的配慮としては、スライドに字幕をつける、手話通訳者・要約筆記者を配置する、音声認識ソフトの入ったタブレットを貸与するなどを行っています。社内イントラネットのホームページに就労支援機器の借り方・使い方なども掲載しています。また、障害者雇用に関しては、管理職向けの研修やe-ラーニングを実施するほか、全国の各事業所の人事担当者を参集し、オンラインでグループワークを行うなどして、障害の理解・配慮の促進を図っています。 (H社) 1研修における情報保障 きこえる社員と同等の機会と情報量を このストーリーの主人公 海野大介さん(33歳) ジード商事企画調査部勤務 勤続11年生後まもなく失聴(障害等級二級) 山本直樹さん(35歳) ジード商事管理部勤務 勤続11年中途失聴(障害等級三級) ここジード商事では例年各セクションのリーダーとなる人材を育成するため入社十年以上の社員を対象とする「キャリア研修」が行われています 今年は海野さんと山本さんの二人の参加も予定している!そこで「障害者職場定着推進チーム」の皆さんに来てもらったわけだが活発な意見を聞かせてもらいたい! 企画調査部の海野さんは最近は自分の企画を提案したりしてとても熱心ですよ 管理部の山本さんも在職障害者の職業訓練制度を利用して障害者職業能力開発校でOA研修を受けるなどよく頑張っていますよ 二人ともぜひキャリア研修に参加してキャリアップしたいと積極的です それは素晴らしい!次世代のリーダーを育成するこの研修の役割は大きいと思うよそれで、具体的な研修の内容は? 研修プログラムはセミナーとレポートの作成ですね セミナーでは情報保障が必要ですせっかく同じ機会が与えられても情報保障がなければきこえる人と同じように学ぶことはできません 資料の配付やスクリーン映写だけでなく手話のできる海野さんには手話通訳者についてもらうといいと思いますよ 手話通訳者 参加者には質問や意見を活発に出してもらいたいとセミナーには特に力を入れているんだ!彼らの情報保障はどうしたらよいのかね? 「話し言葉↓手話」「手話↓話し言葉」で手話通訳なら質問や意見も発表でき相互のコミュニケーションが可能です 手話を使わない山本さんには要約筆記者が必要です パソコンを使った筆記なら速度も速いです質問や意見はプロジェクターで映し出す方法もあります 要約筆記者 音声認識ソフトを使って話している人の言葉をリアルタイムに画面に映し出す方法もあります その方法なら全員の質問や意見が活発になりそうだね One Point 在職障害者のための職業訓練  国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(岡山県加賀郡吉備中央町)では、障害のある方に向けた職業訓練を実施しています。在職中の障害のある方は、以下のような訓練を受けています。 1 スキルアップを目指す訓練  新たな技法・知識の習得により、職務内容の変化に対応できるようにするための訓練です。両センターそれぞれの特長を活かした訓練を実施しています。 〇 国立職業リハビリテーションセンター (https://www.nvrcd.jeed.go.jp/)  職業技能のレベルアップを図るための、3日程度の短期間の職業訓練(能力開発セミナー)を実施しています。各訓練コースの内容と年間の予定は、ホームページをご覧ください。 〇 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター (https://www.kibireha.jeed.go.jp/)  企業のニーズに応じたオーダーメイドの訓練を、6か月以内の期間を設定して実施しています。 2 職場復帰に向けた訓練  疾病、事故などにより受障した休職中の方が職場復帰するにあたり、必要な技術を身につけるための職業訓練です。  オーダーメイドによる実施となるため、個別の事情、希望に合わせて訓練内容の調整が可能です(期間は6か月以内)。  これらいずれの訓練も、きこえない・きこえにくい人については、受講申込みの際に必要な配慮事項(手話、筆談、音声文字変換ソフトの使用など)を伝えていただくことにより、情報保障のための環境を整備しています。  利用に関する詳細については、各センターにお問い合わせください。 2会議における情報保障 会議に参加できる仕組みづくり 「障害者を対象としたオンラインショッピング」という海野さんの企画が動き出したのだが… やはり海野さんを中心にこの企画を進めるのは無理です部長! ほうあんなに張り切っていたのに…!? ここにきて問題が起きたのです! 営業部や関連会社との打合せや会議が増えたんですが彼には会議がつらいようなんです 集中力が必要なため長時間の会議は難しい! 3メートル以上離れていると「読話」しづらい! 正面からでないと唇の動きが見えない! 毎回、手話通訳を手配することが難しく重要な会議では常に誰かにメモをとってもらわなければいけませんからそれも申し訳ないという気持ちがあるようです うーむそうか… そうだこうしよう!ここは一つ海野さんが最も理解・参加しやすい形の「バリアフリー会議」をやってみてはどうだろう? バリアフリー会議? 企画調査部では部長の提案で「バリアフリー会議」を進めることになった ☆補聴システムや音声認識ソフトを用いて発言を可視化 今日の会議は音声認識ソフトを使ってみよう PCやタブレットで文字が見られるのでわかりやすいです ☆発言は挙手をして一人ずつ話す はい! ☆30分ごとに区切って休息を入れる ☆決定事項はすぐに文書にして全員に配付 今日の決定事項をまとめておいたよ ありがとうございます いやぁ、部長!バリアフリー会議思っていた以上の効果です! 会議の進行はスムーズですし短時間で内容の濃い会議ができるようになりました! ほう! まさに海野さん効果だね! 海野さんのためだけじゃなくほかの社員にとってもよい効果が出ていますよ! One Point 研修・会議における情報保障のポイント ? 社外の手話通訳者を手配する ? 手話通訳のできる社員を通訳としてつける(通訳を任された場合は、可能な限り通訳のみに専念することが大事) ? 手話通訳者の手の動きが見やすい席を確保する ? 要約筆記者を手配する ? 音声認識ソフトを使う ? 本人に事前に資料を渡す(手話通訳者、要約筆記者にも) ? 動画に字幕をつける ? 発言は挙手制にし、発言が重ならないようにする ? 演習ではコミュニケーションボードなどを利用し、細かい情報を得られるように配慮する ? 質問などについてはパソコン筆記をしてもらい、プロジェクターで画面に映し出すなど、参加者全員が共有できる方法を用意する ? 会議の決定事項は文書にして全員に共有する 3モチベーション向上のための工夫 やりがいを持てるように おめでとう! いよいよ海野さんの企画が実現するんだね! ありがとうございますこれから具体化に向けて動き出します! やったね! 外部の企業を招いての説明会も皆さんの意見で僕が発表しました 皆がプロジェクター用の説明資料を作ったりリハーサルもしてくれて 手話通訳者も手配してもらって無事に終了することができました! 実は僕からもいい報告があるんです これを見てください!係長に昇格したんです おめでとう!やったね山本さんの努力とキャリアが評価されたんだね おめでとう! ともに働く職場のために! もう一度かんぱーい! One Point モチベーションの維持・向上のために  雇用を継続し、社員の意欲を維持・向上させるために、またキャリア形成に資するよう、以下のような企業の取組や配慮もみられます。 ? 作業内容の理解の支援  文章だけでなく、写真や動画を活用した分かりやすいマニュアルを作成する ? スキルアップ支援  障害者技能競技大会(アビリンピック)への参加を促し、従事している業務に係る技能を研鑽する。また、技能検定などの資格取得を促し、取得した場合には「技能手当」の支給を行うなどする。こうした個人の挑戦が個人のスキルアップにとどまらず、チームや会社全体のモチベーション向上につながる例もある ? 職域開発・拡大  本人の適性や状況の変化を踏まえ、新たな職域の開発・拡大に向け、必要な技能の習得のための研修の機会を提供する ?目標設定と定期的な面談  本人とよく話し合って目標を設定し、可視化(文書化など)の上、定期的な面談による振り返りと今後の課題の整理を行い、次のステップにつなげていく。また目標の達成度を評価し、賞与や昇給に反映する ?体力の維持、ストレスの解消による意欲喚起  障害者スポーツ大会※などへの参加を支援・勧奨し、大会などへの出場のための休暇取得の配慮を行う ※ 聴覚障害者を対象としたデフリンピックは2025年に東京で開催されます。 その後 職場の仲間の笑顔にかこまれながらジード電気の望月翔太さんは職場のルールとマナーや職業人としてのたくましさを少しずつ身につけています ジード食品の木村美雪さんは自分の状況をはっきりと周囲に伝えることで誤解が解け、徐々に自信を取り戻しつつあります 一時は離職も心配されたジード社の花田千穂さんは今や後輩の相談に乗れるほどしっかりと職場に定着しています ジード商事の海野大介さんと山本直樹さんはときどき研修仲間と一緒にお酒を飲んで、将来の夢について語り合っています それから…ジード電気の夏目部長が望月さんの後輩を採用すべくハローワークの森さんを訪れ近況を報告しました 皆それぞれの仕事でしっかり花を咲かせてほしいですね!