第6章 安全・安心な職場づくりを目指して 労働安全衛生対策の推進  障害の有無にかかわらず、全ての社員にとって安全・安心な職場を実現することは重要です。最近では、自然災害リスクへの対策に関する意識も高まってきています。JEEDでは企業の取組などをまとめた「障害者の労働安全衛生対策ケースブック」を作成しています。本章では、同ケースブックなども参考に、きこえない・きこえにくい人の安全・安心な職場づくりについて紹介します。 1安全衛生教育と体制整備  労働災害の防止については関係法令で定められているとともに、各企業でもルールや対処方法が定められています。こうしたルールなどは分かりやすい資料にして社員に渡す、研修の際には手話通訳者を手配する、内容を字幕で表示するといった配慮が望まれます。当事者本人の理解を図ることだけでなく、災害を防止するために周囲がどのような配慮を行うことが必要かを予め検討・確認しておくことも大切です。  また、障害のある方でないと気がつかないこともあるので、仕組みとして当事者の声を聞く機会を設ける取組なども重要です。例えば、障害のある社員を安全衛生委員会のメンバーにする、障害のある社員にアンケートを行うといった取組が挙げられます。  ある企業では、きこえない・きこえにくい社員にアンケートをとったところ、「見通しが悪い階段や廊下では、足音に気づかず、ぶつかりそうになることがある」との声があり、ミラーを設置することでヒヤリ・ハットを解消しました。 2環境整備  安全・安心な職場づくりのために守るべきこと・大切なことは繰り返し社員に伝え、常に意識してもらう必要がありますが、安全上のルールやスローガンを見やすい場所に掲示することにより、視覚的な周知と注意喚起を図ることも考えられます。加えて、聴覚障害への対応として、以下のような取組も考えられます。  例えば、工場内では、緊急時にブザーと併せて点灯する回転警告灯(パトランプ)や、指示が表示される電光掲示板の設置を行っている企業もあります。搬送装置やフォークリフトが行き交う職場では、搬送装置にライトをつけ、バック時のフォークリフトを改修することで進行方向に矢印が投影されるようにして、きこえない・きこえにくい人もこれらの動きを認知しやすくした事例もあります。また、緊急事態を伝達するために、大音量に加え、強い振動・フラッシュを発する機器を支給した事例もあります。AEDの設置にあたり、本体の液晶画面に操作法などが表示されるタイプを導入する、停電により暗くなった工場内でも物品や動線が分かるように蓄光テープを貼るなどを行った事例もあります。  そのほかにも、工場内で全員が同じ作業着を着ていても、緊急時に障害者の避難誘導を担当する者が誰か、すぐに分かるよう、担当者が腕章を着けるようにした事例もあります。 3災害発生時などの所内体制  緊急時には全ての情報を視覚的な情報として提供することが難しい場合もあります。そうした場合には、きこえない・きこえにくい人の周囲の人が状況を伝えたり、一緒に行動したりすることで、安全を確保することも大切です。そのためには、声をかける人を予め決めておくことなどが望まれます。 4事前の準備と訓練の実施など  緊急時に適切な行動をとるためには、緊急時のルールや行動計画が事前に定められ、理解されていることや、事前の訓練が不可欠です。実際に機器を使ってみる、ルールに沿って避難してみる、訓練終了後には振り返りを通じて、機器は想定どおり動くのか、社員は冷静に行動できるのか、ルールなどに改善すべきことはないのかを確認しておくことが大切です。  特に、障害のある社員が訓練に参加することは重要です。実際に参加することを通じて、計画やルールの妥当性の検証、障害のある社員を含め社員の意識面での向上などにつながり、全ての社員にとって安全・安心な職場の実現にもつながります。  緊急時以外にも、社員の加齢による心身機能の変化や、施設・設備・機器の経年劣化などのリスクも考えられます。障害の有無にかかわらず、社員が安全・安心に働き続けるためには、職場のリスクアセスメントを継続的に行うことが大切です。 5BCP(事業継続計画)の策定について  全ての企業に策定が義務づけられているわけではありませんが、企業の安全配慮義務との関係から、緊急事態でも従業員とその家族の生命や健康を守った上で事業を継続するための「BCP(事業継続計画)」を策定しておくことが望ましいものとされています。  中小企業庁のホームページによると、「BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」とされています。BCPの内容としては、@避難計画の作成、A非常時における社員との連絡網の作成と安否確認の方法、B食料品などの備蓄、防災用品(電源・電灯など)などの準備、C事業継続に向けた人員態勢の確保など、多岐にわたる例示があります。  策定に当たっては、障害のある社員がいることを念頭に置いて作成することが求められます。  きこえない・きこえにくい社員については、非常時の連絡や安否確認について、文字などの視覚的情報でも迅速・確実に行われることや、BCPについて分かりやすく周知することなどが基本です。また、避難訓練同様、実際に試行し、実効性の検証などを行うことも重要です。 Check 安全・安心な職場づくりに役立つ資料 ? 「障害者の労働安全衛生対策」に関するサイト(JEED) ? https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003h4nf.html ? 「障害者の労働安全衛生対策ケースブック」(デジタルブック)(JEED) ? https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/casebook ? 「聴覚障害者災害時初動・安否確認マニュアル」(一般財団法人全日本ろうあ連盟) ? https://www.jfd.or.jp/info/2010/teq/p018/1-shodou-anpi-manual.pdf 社内に設置したミラー 作業場用デジタル時計一体型警報装置 矢印を投影しながら進むフォークリフト 社員食堂に設置された光警報装置 矢印を投影しながら進む搬送装置 壁にかけたヘルメットが光る様子(左:消灯前、右:消灯後) (このほかにも、机や棚の外周、扉のノブや開く方向をテープで示しています)