第7章 職場の手話 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/hrkdpo00000048v1.html 1目で見る言葉 ―それが手話です  手話は、きこえない・きこえにくい人の多くが日常的に使用しているコミュニケーション方法で、手の表現や体の動作、表情を総合して構成されています。  手話の語順や文脈構成は、必ずしもよく使われる日本語の文法と一致しないため、「手話は語いが少ない」「文法的に不明瞭」などと見られることもあります。しかし、手話は、異なる文法を持った表現豊かな言語だということを理解する必要があります。 きこえない・きこえにくい人にとって、職場内に、たとえ上手ではなくても手話のできる上司や同僚がいる心理的な安心感は、非常に大きなものがあるでしょう。  手話は、互いに親近感を生じさせ、また関係を築くきっかけを与えてくれる優れたコミュニケーション手段です。職場では、少しずつでもよいので、できるだけ多くの人が手話を覚え、使えるようになることが望ましいでしょう。  この章では職場でよく使う手話を紹介します。 なお、本章に掲載した手話は全て動画でご覧いただけます。前頁の二次元コードからアクセスできます。 ※「手話は言語である」と定義した「障害者権利条約」が平成18年12月13日の国連総会において全会一致で採択され、わが国でも平成26年1月20日に批准されました。同条約第二条では、言語が「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語という」と定義され、手話が言語として国際的に認知されています。日本国内法制においても、「障害者基本法」に「言語(手話を含む)」と明記されており、手話が言語として法的に認知されています。 手話が分かると、気持ちが早く通じます [手話](が) 両手の人差指を向かい合わせ 糸を巻くように回転させる [分かる](と) 右掌を胸にあて 下におろす [気持ち](が) 右人差指で左胸あたりに 小さな円を描く [早く] 親指と人差指を閉じた右手をすばやく 左に動かしながら人差指を伸ばす [通じ](ます) 両手の人差指の先を 近づけて合わせる 2職場の手話(動画編) コミュニケーションは、まず「あいさつ」 から  「あいさつ」は、コミュニケーションのきっかけです。手話を第1言語とする方は、相手の表情を見て、感情や体調などを推し量ります。相手にまっすぐ目を向け、顔の表情豊かに心の動きを表しながら、手指を動かしましょう。 はじめまして 下に向けた右掌の人差指以外の4指を握りながら上げ 両手の人差指を立て胸の前に寄せ合わせる おはようございます 右手のこぶしをこめかみにあて、さっと下し、軽く一礼する よろしくお願いします 右手のこぶしを鼻にあて少し前に出し その手を開き顔の中央から前に下ろしながら、一礼する ありがとうございます 左手の甲に右手を立て、 少し上げて一礼する お疲れさま 右手のこぶしで左腕を2回叩いて、軽く一礼する すみません 右手2指で眉間をつまむ仕草をして 開いた手を顔の中央から前に下ろし、一礼する どういたしまして 右手を胸の前で左右に振る お先に失礼します 右手の人差指を左胸にあて、軽く一礼する 気遣いの表現は、心を癒し、支えます 「あなたのことを気にかけているよ」というメッセージを繰り返し伝えましょう。 そのことがつらいときにも相手の心を癒し、支えとなります。 仕事終わった? 手の甲を下にして開いた両 手の指先を2回近づけ 両手を下におろしながら 5 指をつまみ問いかけの表 情をする 気を付けてね 軽く指を開いた両手を上下 に置き体の前に出し 強く握りながら体に引きつ ける お身体をお大事に 右手で体を円くなで 胸にあてた左手の甲を右手 でなでる どうしました(何)? 右人差指を立てて左右に振り、 問いかけの表情をする 分かりますか? 胸にあてた右掌を下ろし、 問いかけの表情をする 元気ですか? 両手のこぶしを下に向けて2 回上下し、問 いかけの表情をする 手伝う 左手の親指を立て前に向け、右掌で2回ト ントンと押し出す 手伝ってもらう 親指を立てた左手を、右掌で2回トントン と自分側に向け軽く叩く 大丈夫? 右手の指先を左・右の順に胸にあて、問い かけの表情をする 忙しいA 折り曲げた両手の5指の指先を下に向け、 かき回す 忙しいB 両掌を上に向け、小指側を胸に沿って交互 に上下する 職場で使われる用語 職場では、少しでもかまいませんから、できるだけ多くの人が手話を覚え、 使えるようになることが望ましいでしょう。 会社 両手の2 指を立てて頭の横で交 互に前後に動かす タイムカード 左掌に右親指の先を付け右人差 指を下に半回転し、右手をカードに見立てて差し込む仕草をする 朝礼 右手のこぶしをこめかみにあて、 さっと下ろし、両手の4 指を折り曲げる 遅刻 左掌に右親指の先を付け右人差し指を下に半回転し、 垂直に立てた右手で、寝かせた左手の上を乗り越える 残業 手の甲を下にして開いた両手の指先を2 回近づけ、 垂直に立てた右手で、寝かせた左手の上を乗り越える 休暇 掌を下に向け、中央方向に水平に動かす 手当 左手の甲を右掌で叩き、右手2指で輪を作り 「お金」を示す 会議 親指を立てた両手をつけ合わせたまま、水平に クルンと円を描く 報・連・相 報告 両手の指でL 字を作って、口の前に置き、前に出す 連絡 両手の親指と人差指2指で作った輪をつなぎ合わせて、弧を描きながら前に出す 相談 親指を立てた両手を左右からコンコンと軽く2回打ち付ける 机 両掌で胸の前に机の角を描く 椅子 左手2 指に右手2指を掛ける コピー 左掌を下に向け、軽く曲げた右手をつかんで下ろしながら閉じる 電話 親指と小指を立てた右手を耳と口にあてる パソコン 左手で指文字「パ」を作り、右手でキーボードを打つ仕草をする インターネット 右手で指文字「イ」を作り、筒状にした左手の周囲を前方に1回転させる メール 右手で指文字「メ」を作り、前に出す チャット 両手2 指の「C」型をかみ合わせるように、胸の前で交互に前後に動かす 安全 両掌を上に向け胸元から下ろす 確認 折り曲げた2 指で目のあたりを左右させ、両腕を立ててこぶしを作り2 回下ろす ヘルメット 両手でヘルメットをかぶる仕草をする 「問いかけ」 の表現  問いかけをするときは、そのものごと(場所、人、時間など)を示し、@〜C(@手話を小刻みに繰り 返す、A眉をしかめた表情を伴う、B顎をやや前に突き出すとともに小刻みに振る、C続けての手話 をする)などを併せて表現して、質問の意思を明確に伝えましょう(動画編ではBの表現を採用してい ます)。また、状況や相手との関係性、動作の強弱により、軽い疑問になったり詰問調になったりする ので、会話の内容に応じて、これをうまく使い分ける必要があります。 どうですか? 右掌を上に向け左右に振り、問いかけの表情をする 誰ですか? 右手の甲を頬に添えて、問いかけの表情をする いつですか? 上下にした両手を親指から順に折って握り、問いかけの表情をする いくつですか? 右手を親指から順に折って握り、問いかけの表情をする どこですか? 指を少し曲げた右手を前に置き、右人差指を立てて左右に振り、問いかけの表情をする どちらですか? 人差指を立てた両手を交互に上下させ、問いかけの表情をする なぜですか? 左掌の下側で右手人差指を2 回前後させ、問いかけの表情をする 緊急時の手話  作業中の火災などで、緊急に避難しなければならないときに備え、きこえない・きこえにくい人が一目見て理解できるように、緊急避難時の手話や身ぶり表現をそれぞれの職場で決めておくことが大事です。  きこえる人も含め、職場内の全従業員に徹底しておいてください。 危険 軽く折り曲げた両手両指の指先で胸を叩く 逃げて 両手の人差指で交互に頬を切る仕草をする ケガ 両腕を振って逃げる仕草をする AED 両手の親指と曲げた4指をつけてハート型を作り、残した左手の横で右手の2指をギザギザと稲妻の形に振り下ろす 警報A 左手こぶしを胸に置き、親指と人差指でL字を作った右手を前に出す 警報B 右手こぶしで2回胸を叩き、口を「ホ」形にし両手の親指と人差指でそれぞれL 字を作って斜め前に出す 火事 両手で屋根を作り、残した左手の横で指先を上に向けた右手を炎のように回し上げる 消火器 指先を上に向けた右手を炎のように回し上げ、左手で消火器を抱え右手でホースを揺らす仕草をする 台風 両手を広げて右斜め上から、左斜め下へ手をブンブンと回しながら下ろす 地震 両掌を上に向け前後に動かす 津波 水平に置いた左手を右手で乗り越え、前方に出す 職場内での会話  職場では、業務の内容だけにとどまらない豊富なコミュニケーションが、人間関係構築の基礎となり、安心して働ける職場づくりにつながります。以下のような場面で用いられる手話も参考にしてみてください。 会議の案内 説明内容についての質問 オンライン会議の設定 人事面談の連絡 送別会の贈り物 手話研修 ランチ 指を使った表現  親指から小指まで、5 本の指はそれぞれ固有の意味を持っています。例えば、親指を立てれば「男性」を表し、小指を立てると「女性」を意味する手話になります。こうした指の持つ意味をうまく組み合わせて使うと、簡単に右のような単語を覚えることができます。  手話表現は、日常的な動作やものの形、その意味から生まれたものが中心となっています。その手話表現のもとになったものを理解すると、手話の習得も早くなるでしょう。 親 指=男、父、息子 小 指=女、母、娘、姉、妹 中 指=兄、弟 薬 指=(姉、妹)、薬の手話にも使う 人差指= これ、あれ、私、あなたなどをさし示すときに使う 手話で会話をするときの留意点 手話では、日本語の助詞にあたる単語が手話表出の際の頷き、手の位置、速さなどで表されることが多くみられます。手話の単語の語順については、いくつかの表し方がありますが、内容の具体化を工夫しながら、見てよく分かる表現を心がけることが基本です。 技術的には、 @手の位置と方向(動き)を正確に A 相手の顔の表情を見ながら、目を合わせ、通じているかを確認する B身ぶりや表現に気持ちを込める という 3 点に留意することが大切です。 事例 手話に対してそれぞれの立場から 事例 ? 仕事上の指示もほとんど手話で  ―上司の立場から  当課には約100名の従業員がおり、4班に分かれて作業をしています。聴覚障害者はそのうち3つの班に2名ずつ、計6名働いています。そのいずれの班にも手話のできる社員が配置され、朝礼での手話通訳から仕事上の指示・伝達まで、聴覚障害者と聴覚障害のない社員の間に立って、円滑にコミュニケーションを進めています。  ただし、正確な作業を要求される複雑な業務指示や、安全衛生上の伝達事項などは、筆談を交えて行っています。 (K社) ? 簡単な手話なら自然に身につく  ―同僚の立場から  最初は話がうまく通じるかどうか不安でした。でも一緒に仕事をするうちに、自然に「おはよう」「さようなら」といった挨拶から、「ここ」「そこ」「早く」「ゆっくり」といった簡単な手話を覚えてしまいました。仕事上で複雑な話をするときには手話の上手な同僚を呼んで伝えてもらいますが、日常会話程度なら、私も含めて班全員が手話で障害者と話をすることができます。  ただ、どうしても片言の手話では打ちとけた会話ができません。会社では、外部の手話講習会に毎年数名ずつを受講させて手話通訳者を養成しているので、私も来年は希望して本格的な手話を身につけたいと考えています。 (L社) ? 手話のできる社員がいることが安心につながる  ―聴覚障害者の立場から@  採用面接時に手話ができる社員がいたので、この会社なら安心して働けると思って入社しました。  手話教室を開催していることも、障害に対する理解があって働きやすい職場だと感じています。 (M社) ? もっと多くの同僚と手話で話をしてみたい  ―聴覚障害者の立場からA  聴覚障害者同士で話をするときは手話と口話を使っています。また、手話のできる同僚の人とは手話で話をしますが、内容が複雑な場合は筆談をお願いしています。この工場では手話のできる人が大勢いるので気分的に非常に楽ですが、もっと多くの同僚と手話で話をすることができれば、とてもうれしいと思います。 (N社) 指文字 あ アルファベットの「A」 い アルファベットの「I」 う アルファベットの「U」 え アルファベットの「E」 お アルファベットの「O」 か アルファベットの「K」 き 影絵のきつね く 手話の数字「9」 け アルファベットの「B」 こ カタカナの「コ」の一部 さ アルファベットの「S」 し 手話の数字「7」 す カタカナの「ス」 せ 手話の「兄弟」 そ 手話の「それ」 た アルファベットの「T」 ち カタカナの「チ」 つ カタカナの「ツ」 て 手そのものを示す と 手話の「…と」 な アルファベットの「N」 に カタカナの「ニ」 ぬ 手話の「盗む」 ね 手話の「根」 の カタカナの「ノ」 は アルファベットの「H」 ひ 手話の数字「1」 ふ カタカナの「フ」 へ カタカナの「ヘ」 ほ 「帆」をかたどる ま アルファベットの「M」 み 手話の数字「3」 む 手話の数字「6」 め 「目」をかたどる も 手話の「同じ」 や アルファベットの「Y」 ゆ 指を3本立てて 甲を示す よ 手話の数字「4」 ら アルファベットの「R」 り カタカナの「リ」 る カタカナの「ル」 れ カタカナの「レ」 ろ カタカナの「ロ」 わ アルファベットの「W」 を アルファベットの「O」 ん カタカナの「ン」 長音 人差指で「I」と空書する 促音例 っ 指文字を後方に引く 半濁音例 ぽ 指文字を上下に移動させる 濁音例 ぎ 指文字を横に移動させる 数字 0 2指で輪を作る 1 人差指を立てる 2 2指を立てる 3 3指を立てる 4 4指を立てる 5 親指を横に向ける 6 親指と人差指を示す 7 親指と2指を示す 8 親指と3指を示す 9 親指と4指を示す 10 人差指を折り曲げる 11 「10」を示し 「1」を示す 12 「10」を示し 「2」を示す 100 親指と2指をつけ合わせる 右手人差指をはね上げる 1000 A 親指と3指をつけ合わせる B 1指で「千」と空書する 万 A 全指をつけ合わせる B 「万」と空書する そのほか、「手話言語研究所」の 「新しい手話の動画サイト」なども 参考にしてみてください。