T 視覚障害者が活躍する職場 【事例紹介】 CASE1 高齢者施設における視覚障害者の雇用取組事例 〜盲学校と連携し、就労支援機器を活用した取組〜 ※令和3 年に取材。 事業所 A センター 事業概要/ 高齢者に対する通所介護事業所、入浴、食事、レクリエーション等のサービスを提供する福祉事業を展開する法人が運営 している高齢者施設。 本人 B さん 年齢/ 20 代 これまでの経緯/ 網膜色素変性症(難病)のため、両眼の視野狭窄があり、視力が低下し、正面は特に見えにくい。 〜雇用までの道のり〜 職場実習を雇用のきっかけに A センターの属する法人(以下「法人」という。)では、 地域の人々が住み慣れたまちで安心して生活することので きる「福祉のまちづくり」の実現をめざし、地域の高齢者 や障害者などの支援事業をはじめとする様々な福祉サービ ス活動を実施し、高齢者に対する通所介護事業所を3 施設、 老人福祉センターを1 施設、小規模多機能型居宅介護施設 を1 施設、及び障害者に対する障害者計画相談支援などの 事業を運営しています。A センターは高齢者に対する通所 介護事業所として、入浴、食事、ゲームや体操などのレク リエーションをはじめとする様々なサービスを提供してい ます。 法人では、長年にわたり老人福祉センターにおいて県立 盲学校から生徒の職場実習を受け入れていますが、これま で視覚障害者の雇用はありませんでした。法人の人事担当 課長(以下「担当課長」という。)は、職場実習を行う生 徒を法人内の障害者雇用に結びつけられないかとの思いが あり、盲学校の教員に生徒の進路について、状況を教えて ほしいと話をしたことが雇用のきっかけとなりました。 担当課長は、視覚障害のある生徒を受け入れるための作 業環境の整備をどう進めるかなどに対する不安もありまし たが、盲学校の教員との相談の中で、視覚障害者用のパソ コン画面の拡大ソフトや拡大読書器などの就労支援機器が あり、それらの機器の貸出し制度や購入した際の助成金制 度があるとの情報を得たことにより、視覚障害者の雇用に 踏み切りました。 職場実習の開始 A センターでは業務に必要な機器などを独立行政法人高 齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「機構」という。) の中央障害者雇用情報センター(以下「情報センター」と いう。)からの貸与により設置し、盲学校の教員の支援を 受けながら、B さんの職場実習を3 日間実施しました。職 場実習終了後は、3 か月間のトライアル雇用を経て、正式 な雇用契約に至り、就労を継続しています。 マッサージ師としての活躍 B さんは主に、A センター利用者へのあん摩マッサージ サービス、サービス記録のパソコンへの入力、利用者カル テの書類確認などの業務に従事しています。 具体的には、A センターの休養室内のベッド上で利用者 へあん摩マッサージを行います。マッサージ終了後は、休 養室近くに配置されたパソコン業務用机に移動し、サービ スの記録をパソコンへ入力します。その際の利用者との会 話、コミュニケーションも重要な業務の一つです。 就労支援機器の導入で働きやすく B さんは正面が特に見えにくく、周辺視野を利用し物を見 ているため、歩行や文書の読み書きなどに支障をきたし ています。そのため、通勤における支援、業務に必要な就 労支援機器などの環境整備が不可欠となります。このこと から、B さんの雇用に向けた職場実習及びトライアル雇用 を行うにあたり、パソコン関係機器に関する作業環境を整 える必要がありました。そこで、情報センターの就労支援 機器貸出し制度を利用し、パソコン画面上の文字拡大用ソ フト、パソコン画面読み上げ用ソフト、拡大読書器の3 機 器を6 か月間職場に配置しました。 また、パソコンの配置場所は、障害のない者には通常の 明るさでしたが、B さんにとってはまぶしい環境だったた め、少し暗い場所に機器を配置するとともに、パソコン画 面の設定をB さんに合わせて調整しました。情報センター の就労支援機器貸出し期間終了後は、A センターで同様の 機能を持った機器を購入し、再度、購入機器の設定を調整 しました。なお、機器の購入については、機構の支部を通 じて障害者作業施設設置等助成金制度を利用し、全購入費 用の3 分の2 の補助を受けることができました。 B さんが出勤するときは、電車で自宅の最寄駅からA セ ンターの最寄駅まで移動後、徒歩で約400m 離れた町役 場まで移動し、そこから約700m 離れた職場まではA セ ンターの車で送迎しています。帰宅するときは、A センター の最寄駅までバスを利用し、そこから自宅の最寄駅まで電 車での移動となります。B さんは当初、単独での通勤がで きなかったため、雇用前に県の視覚障害者支援ネットワー クのスタッフによるサポートを得て、最寄りの駅からA センターまでの付添い、歩行訓練を行いました。現在は通 勤経路にも慣れ、単独で通勤できるようになっています。 なお、B さんに関しては、冬季の積雪時や電車が不通と なった場合など、通常と違う状況となった場合の通勤につ いて、特別な配慮が必要であるとA センターでは考えて います。 また、B さんはA センター内では、当初は昼食場所やト イレへの移動などには職員の手引き誘導を必要としていま したが、しばらくすると施設内の配置などを覚え、単独で 行動できるようになっています。 視覚障害者の更なる雇用を目指して B さんは、「盲学校在学中は、就職するにあたり学校に あるパソコン機器などと同じような機器が就職先で使える のかどうか不安でしたが、職場で用意してもらえたので 大変ありがたかったです。また、今ではパソコン業務にも 慣れてきてスピードが上がってきました。マッサージを楽 しみにして来てくれる利用者様がいるのでうれしいです。 もっと多くの方にマッサージに来ていただきたいです」と 話しています。 A センター所長と担当課長は、「B さんによるあん摩マッ サージは利用者から大変好評であり、毎週マッサージを受 けにくる利用者もいらっしゃいます。利用者が高齢者なの で会話が年代的に合わないなどの課題がありますが、B さ んはまだ若く、コミュニケーション能力が優れているので、 今後の成長に期待しています。また、B さんを雇用したこ とは、A センターにとっても大変良い経験でした。この経 験を活かして、盲学校と協力しながら当法人内の他の施設 にもあん摩マッサージ業務を担う視覚障害者を雇用してい きたい」と話しています。 用語解説 就労支援機器 障害者が仕事をしやすくなるように、障害者の就労をサポートするために開発された機器のことです。障害の状況や職務に組み合わ せて使うことができます。 例えば、視覚障害者に対しては、印刷物や写真などを拡大する「拡大読書器」、パソコン画面の情報を点字に変換して表示する「点字ディ スプレイ」などがあります。また、ソフトウェアでは、パソコン画面の情報を音声で読み上げる「画面読み上げソフト」、パソコン画 面の一部または全体を拡大して表示する「画面拡大ソフト」などがあります。 P44「W視覚障害者に役立つ支援機器」 CASE2 コンサルティング会社における視覚障害者の雇用取組事例 〜職種転換プロジェクトによる社員の職種転換を実施〜 ※令和4 年に取材。 事業所 C 社 事業概要/経営診断・戦略立案、業務改革・組織改革、IT 戦略・企画立案、システム開発、      アウトソーシング等のコンサルティングサービス等を展開 本人 D さん 年齢/ 30 代 これまでの経緯/ 先天性の強度近視。左目は高校生の時に網膜剥離を発症し、現在は中心部の視力はあるものの眼前に提示した手の 動きがわかる程度。右目はコンタクトレンズで矯正して0.1 程度。視覚特別支援学校高等部専攻科鍼灸手技療法科 卒業後、ヘルスキーパーとして新卒でC 社に入社。 〜職種転換までの道のり〜 ヘルスキーパーとして勤務 C 社は、様々な業界・業種に対し、経営診断・戦略立案、 業務改革・組織改革、IT 戦略・企画立案、システム開発な どのサービスを行うコンサルティング会社です。 C 社では、2007 年にリラクゼーションルームを立ち上 げ、社員の健康維持や疲労回復に向けたマッサージのサー ビス提供において、視覚障害者のヘルスキーパーが活躍し てきました。その中の一人であるD さんは、視覚特別支 援学校の高等部専攻科鍼灸手技療法科を卒業後、新卒でC 社に入社しました。D さんは、あんま、マッサージ指圧師 免許、鍼師免許を在学中に取得しており、就職後はヘルス キーパーとしてリラクゼーションルームに配属され、社員 へのマッサージの施術を行うとともに、利用予約、備品の 管理、ミーティング資料の作成、アンケート集計など幅広 く業務を行ってきました。 ヘルスキーパーから事務職への職種転換決断 新型コロナウイルス感染症の長期化、および全社の働き 方改革に伴いリモートワークが進み、出社比率が大幅に低 下し、従前のようなリラクゼーションルームの運営継続が 難しくなり、2021 年4 月、やむなくリラクゼーションルー ムの閉鎖が決定されました。一方で、会社としてはリラク ゼーションルームで働く社員が継続して勤務できるように するために、社内の総務部門、人事部門、健康支援室の協 業で職種転換プロジェクト(以下「プロジェクト」という。) を発足させました。D さんはこの機会に自身の今後のキャ リアを考えた結果、マッサージ師や鍼師としての道を続け るのではなく、事務職として職種転換をする決断をしまし た。新たな道に進む決断をするまでに時間はかからなかっ たとのことです。 外部支援機関と連携しながらのプロジェクト推進 プロジェクトでは、リラクゼーションルームの視覚障害 のある社員の職種転換をどう進めるべきか、何から手を付 ければいいのかC 社にはノウハウがなかったため、まず は以前からやり取りのあった障害者職業センター(以下「職 業センター」という。)に相談しました。同様の支援事例 は職業センター内にありませんでしたが、視覚障害指導の 専門家につないでいただき、何から手を付けていくべきか を明確にしました。 まずは、事務職への職種転換を決断した社員のビジネス レベルのパソコンスキル習得のため、約半年間、国立職業 リハビリテーションセンターや視覚障害者のICT(情報通 信技術)利用促進に取り組む訓練施設で、教育訓練を受講 しました。この教育訓練は、音声読み上げソフトや画面拡 大機能の使い方、Word、Excel、PowerPoint の使い方 を習得する基礎訓練と、会社からの課題(配属後の想定業 務をアレンジした課題)に取り組む実践訓練の二段階で実 施しました。 P63「地域障害者職業センター」 CHECK! 職場異動後の業務研修とサポート D さんを含む事務職への職種転換を決断した社員は、約 半年間の教育訓練を経て、全社各部門から各種業務を受託 する障害者雇用推進チームに異動し、業務研修に取り組み ました。異動にあたり、独立行政法人高齢・障害・求職者 雇用支援機構の就労支援機器の貸出し制度や、障害者雇用 納付金制度に基づく助成金を活用し、環境面での整備も同 時並行で進めました。 業務研修中は、専任のサポート担当者(以下、「指導員」) を配置し、業務のレクチャーからOJT 指導までを実施し ました。元々あった業務手順書の記述では、視覚障害者の 社員が内容を理解するのが難しかったため、指導員は、音 声読み上げソフトでは識別できない画像や図を説明文章に 置き換えたり、パソコンのショートカットキーの操作方 法も細やかに記載する等の工夫をして、視覚障害者が作業 を理解しやすい業務手順書に加工しました。社員に業務で 使ってもらい修正することを繰り返し、今も、業務手順書 はバージョンアップを続けています。 加えて、職業センターから業務指導の専門家(ジョブコー チ)の派遣を受け、視覚障害者の社員には就労支援機器や ソフトウエアの活用方法の指導、指導員には業務指導方法 のレクチャーをしてもらう等、専門的なサポートを受けま した。 D さんは教育訓練や業務研修について、「業務の作業工 程とその目的を理解しながら、自身のスキル向上や業務効 率化ができないか試行錯誤を重ねました。全く違う職種へ の挑戦で、あらゆることが初めての経験となるため不安は ありますが、必要に応じて業務ツールの作成・活用もしな がら、業務品質の担保に取り組んでいます。」と話してい ました。 また、異動の受け入れを行った障害者雇用推進チームの マネージャーは、「以前から当チームでは視覚障害のある 社員が活躍していますが、今回のプロジェクトでは、ヘル スキーパーからの職種転換による新たなキャリアが構築さ れることで、個々人の多様性と可能性を感じる良い機会に なったと実感しています。その一方、個々の更なるパソコ ンスキルの向上と、受け入れ側のノウハウ蓄積などの課題 は依然として残っています。1年半ほど実施してきたプロ ジェクト自体は終わりを迎えますが、個々の状況に合わせ、 担当業務の領域を広げ、自信をもって業務を進められるよ うこれからもサポートしていきたいです。プロジェクトの 終了後も、就業環境の整備、業務内容や業務量の調整、障 害配慮を引き続き検討、実施していきます。」とプロジェ クトを振り返っていました。 P44「W視覚障害者に役立つ支援機器」 P56「障害者雇用納付金制度に基づく主な助成金一覧」 企業担当者からのメッセージ 人事総務グループ 人事ユニット 支援員(プロジェクトリーダー) ヘルスキーパーから事務職への職種転換は今までにも例のない取り組みであり、何をどのように進めたら良い かわからない状態から始まりましたが、様々な支援機関を活用しながら試行錯誤を重ね、現場配属まで進めるこ とができました。 プロジェクト終了まで無事に進められたのも、職種転換を意思決定した本人たちの努力があったからこその成 果であると感じています。自身の持つ障害により、いろいろな可能性を諦めないでほしいという気持ちを胸に、 これからも活躍してもらえるよう支援を続けたいと思っています。 CASE3 視覚障害者が補助者なしで作業できるような 職場環境づくりを実現した取組事例 ※平成30 年に取材。 事業所 E 事業所 事業概要/作業用・乗用車用ヘルメット、安全帯、換気用風管、担架等の安全用品を製造している製作会社の一事業所 本人 F さん 年齢/ 20 代 これまでの経緯/ 全盲。白杖の他、盲導犬を利用している。 〜雇用までの道のり〜 我が事業所でも障害者の雇用を E 事業所の属する製作所における主力工場では、障害者 雇用に積極的にすすめており、障害のある社員が組立作業 やフォークリフトでの運搬作業に従事しています。こうし た中、E 事業所の所長はE 事業所においても障害者に活躍 してもらえるのではないかと思い、全盲のF さんを採用し ました。 直面した課題に対応できる職場環境を作る E 事業所では、初めての障害者雇用であったことから、 現場の理解を得られるか不安がありました。このため、障 害者雇用の方針や採用する障害者の障害特性について全社 員に説明した上で、社員からも意見を聞きました。障害特 性や配慮すべき事項については、F さんが通所していた障 害者支援施設の職員の方にも確認を行いました。社員から は大きな反対は出ませんでした。 次に、職場環境の整備として、作業場から食堂への移動 など、事業所内の移動を安全にできるよう、事業所内に導 線を設置したほか、ロッカーやタイムレコーダーなどの社 内の備品や自動販売機に点字シールを貼付しました。これ らの工夫はF さんのご家族の協力を得て行いました。 職務選定と作業環境の整備については、F さんが単独で 従事できる作業を選定するなどの環境整備を行う必要があ りました。これまでパート従業員が行っていた作業の工程 を分割し、補助者なしで従事できる作業を見つけ出しまし た。加えて、F さんが単独で作業できるようにするための 簡易的な治具のひとつとして、保護ベルト(命綱のこすれ 防止)組み立ての際に手で長さがわかるように工夫された 治具を作成しました。 また、F さんにとっては初めての会社勤務であり、単独 で通勤できるようになることが課題でした。このため日本 盲導犬協会から盲導犬の貸与を受けるとともに、盲導犬と ともに通勤する訓練を受けました。1 か月あまりの訓練で 単独で通勤できるようになり、訓練前は片道1時間以上か かっていた通勤時間が片道40 分程度に短縮されました。 P66「点字図書館・点字出版所」 CHECK! あたたかい職場、これからの活躍に期待 F さんは、「入社当初は、部品の裏表を手触りで判別す るのがむずかしくて苦労しましたが、会社の方が見本を用 意して手に触れながら教えてくれたので、今では一人で作 業できるようになりました。就職面接会で、いくつかの会 社から全盲の人にはどうやって仕事を教えていいのかわか らない、と言われましたが、この会社ではていねいに仕事 を教えてくれたのでありがたく思っています。」と話して います。 E 事業所の所長は、「F さんを採用した際、最初に本人 専用の簡単な作業用治具を用意する必要があったことと、 作業を覚えるのに少し時間がかかったこと以外は、受け入 れの際に困ったことはありませんでした。事故のリスク等 を心配して、視覚障害者には工場勤務はできないと思われ がちですが、F さんは現在、E 事業所にとって欠かせない 戦力になっています。本人の人柄も明るく前向きで、仕事 にも熱心に取り組んでくれるので、職場の雰囲気がとても よくなりました。E 事業所では、障害者雇用をしていると いう特別な意識はありません。周囲の社員が自然体で受け 入れていることがよい結果につながっています。」と話し ています。 用語解説 盲導犬 身体障害者補助犬のひとつであり、視覚障害者の歩行を安全にサポートする大切なパートナーとなります。障害物を避け、階段など の段差を教えるなどのサポートだけでなく、視覚障害者の自立生活の大きな支えとなっています。国家公安委員会より認定された施設 において、一定期間訓練を受けた犬で、白または黄色のハーネス(盲導犬用の胴輪)をつけています。このハーネスを通して盲導犬の 動きがユーザー(視覚障害者)に伝わり、安全に歩くことができます。 平成14 年5 月、身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の同伴受け入れを義務づける「身体障害者補助犬法」が成立しました。 さらに、補助犬を伴う人が施設を円滑に利用できるように、都道府県等への補助犬の同伴等に関する窓口の設置や民間の事業所等での 補助犬の使用受け入れの義務化など、法律の改正がなされています。 CASE4 障害のあるスタッフと患者様との信頼関係が ある職場作り ※平成30 年に取材。 事業所 G 病院 事業概要/医療・福祉サービスを行っている医療法人が運営する総合病院 本人 H さん 年齢/ 40 代 これまでの経緯/ 弱視。小さな文字などはルーペを使って判読でき、人の顔を見て誰かは判別できないが、廊下を歩いていて人とぶ つかることはない。 〜雇用体制の構築までの道のり〜 障害者雇用の体制づくりで更なる雇用促進を G 病院での障害者雇用は、鍼灸・マッサージ師として雇 い入れを始め、その後も継続して採用を進めており、障害 者の実雇用率は現在も高い水準にあります。 この法人の物理療法室の開設に合わせ、G 病院では、ま ず障害のない鍼灸・マッサージ師のスタッフ(以下「I さ ん」という。)を採用し業務を開始しました。I さんは鍼灸・ マッサージ業務を行いながら、視覚障害者の採用にも関わ り、盲学校の先生との情報交換などを担当しています。 G 病院では盲学校の卒業生を順次採用し、物理療法室に 配属を行っています。物理療法室のスタッフは6 人のうち 5 人が視覚障害(弱視)のあるスタッフであり、全員が鍼灸・ マッサージ師として働いています。 G 病院で視覚障害者の採用を行う際は、I さんと盲学校 の先生との間で情報交換がなされ、そこから得た情報を参 考に募集・採用を進めています。採用基準は、鍼灸・マッ サージの資格を有していること、実際に鍼灸・マッサージ の仕事ができることです。 G 病院への応募を希望する方に対しては、施設見学、実 際の作業の説明などを行い応募者の仕事環境の理解を深め ています。 安全な業務遂行のための配慮と体制づくりを リハビリテーション科ではたらくスタッフは各人が持っ ている資格に応じた業務を行うこととなります。仕事の分 野としては、開設当初は医療分野でのサービス提供を主と していますが、介護保険制度がスタートしてからは、通所 リハビリテーションの利用者に向けた介護サービスも提供 することとなり、職域は拡大しています。 採用後の教育や配慮については、鍼灸・マッサージ業務 のための資格、技能はすでに有しているため、職場での理 療業務自体に関する教育等の負担はさほど大きくはありま せん。 一方で、仕事の周辺部についての配慮はなされています。 たとえば、業務マニュアルの活字を大きくするなど見やす くしたものを用意することをはじめとして、様々な取組が 行われています。 「自分たちでできることはできるだけ自分たちで解決し ていく」を職場の基本方針として個人の障害の程度により、 不得手な作業がある際には、お互いカバーし合いながら業 務を行っています。 業務では、医師の処方箋に基づいて交通事故の外傷、首 の捻挫、痛みを伴う患者などに対して鍼灸・マッサージな どの施術が行われます。スタッフは、患者別の担当制では なく、患者全員の施術を行っており、患者一人ひとりの治 療部位、施術内容を全て把握して施術を行います。毎日の 業務報告については、障害のあるスタッフが何人の患者に 応対したかなどをお互いに確認し合い、自分たちで業務日 誌を作成しています。業務日誌への記入の際は、細かい記 入は求めず、ルーペを使ってレ点チェックで簡単に済むよ うに改良された様式を使うようにしており、取りまとめを 行っているスタッフが聞き取りなどを行い業務日誌の内容 を補完するようにしています。 また、施術室には施術用のベッドが8 台設置してあり、 同時に複数の患者への施術を行えるように機器を揃えてい ます。高齢の患者に対しては、ベッドへの移乗時に転倒す る危険があるため特に全員で注意を払いながら施術を行い ます。 お互いの気配りではたらきやすい職場環境を I さんは約40 年間勤務しており、事務処理、苦情の処 理、教育指導(お客様への接遇他)などのサポートを行っ てきました。現在は非常勤のスタッフとなりましたが、今 でも障害のあるスタッフに目を配り、仕事上のサポートや スタッフの悩みを聞くなど、G 病院における障害者雇用を 支える役割を担っています。 G 病院では退職者も含めこれまでに10 名の障害のある スタッフを雇用しており、そうした経験を踏まえ、障害雇 用に関する経験・ノウハウを積み重ねてきました。 業務以外のサポートとしては、G 病院が職員のために独 自に送迎バスを運行しており、障害のあるスタッフは、全 員が送迎バスを利用し安全に通勤できるような通勤環境を 整備しています。また、送迎バスは決まった時間での運行 であることから、障害のあるスタッフが仕事の都合で送迎 バスに間に合わないときは同じ方面に帰宅する障害のない 職員が自家用車で送るなどのサポートが行われています。 職場の人間関係については、同じ職場で同じような障害 のあるスタッフが働いている中、コミュニケーションをよ く取っており、同じ立場の仲間であるのでお互いに気遣い があり、お互いの生い立ち、障害による不便さなど共感し ているので非常に良好な関係を築いています。ですから、 退職理由は結婚などのライフスタイルの変化によるもの や、G 病院で働くことで自信をつけて開業したことによる ものとなっています。 長年の就労を支えるもの H さんは勤続21 年のスタッフとしてG 病院で活躍して います。視覚障害の程度は、小さな文字などはルーペを使っ て判読でき、人の顔を見て誰かは判別できませんが、廊下 を歩いていて人とぶつかることはありません。数年前に職 場結婚をしていますが、結婚後もG 病院のスタッフとし て働いています。盲学校在学中にあん摩マッサージ、指圧、 鍼、灸の資格を取得しており、卒業と同時にG 病院に就 職しました。通勤は、自宅から同法人の通勤バスが通うと ころまで公共交通機関を利用しており、通勤に介助は必要 とせず、ひとりで通勤しています。 H さんが仕事場で苦労したことは、弱視であるために患 者の名前とどんな治療をしている患者さんなのかが一致し ないことでした。視覚障害のあるスタッフは名前を聞いて も顔を見て判別することが難しくなります。これは、患者 からするとなかなか名前を覚えてくれないことになり、迷 惑をかけてしまうことにつながります。この対策として周 りのスタッフの助けを借りるとともに、患者の声の特徴、 仕草の特徴などを覚えるなどの努力を行っています。 H さんは病院以外の活動として、全国の鍼灸・マッサー ジ師の資格を持って医療機関に勤務する障害視覚障害者の 団体に所属し、各方面からの情報交換をしながら、資格や 技術の取得、自己研鑽を行っています。 H さんは、「患者さんとの会話を通じて患者の痛みや、 高齢の患者の悩みを聞くことなどを通じて、日常の中で信 頼関係が築かれ、患者さんが継続して病院に来て下さる時 に仕事の達成感を感じています。これからも、できる限り この仕事に携わって患者さんの心と身体の痛みを軽減して 喜んでいただけるような治療を行っていきたい」と話して います。 CASE5 本人の強い意欲と会社の柔軟な対応により、 配置転換をして復職が実現 ※平成21 年当時の事例を基に編集しています。 J 社 事業概要/各種食材、酒類の輸入・開発・販売および飲食店を国内外にチェーン展開するフードサービス業 ※文中記載の組織名称は、当時の名称を記載しています。 本人 K さん 年齢/ 20 代 これまでの経緯/ 2006 年、視神経炎のため突然目が見えなくなる。治療により視力は徐々に回復し、現在は0.04 程度。ただし、 視野に欠損があり特に中心部分は見えない。          発症前は店舗でアシスタントマネジャーをしていたが、事務職として復職。復職後、大腿骨骨頭壊死による下肢障 害となる。 〜復職までの道のり〜 突然の障害を受け入れ、復職をめざす K さんは、J 社に入社し、店舗でお客様と接する忙しい 日々を過ごしていました。 2006 年、突然高熱を発し、1 週間後に目が見えなくな りました。「視神経炎」という診断でした。入院して治療 を続け、視力は少し回復したものの、視野の真ん中が見え ない状態になりました。 4か月ほどで退院し、人事を担当する組織開発室長(以 下「開発室長」という。)に復職について相談しました。 白杖をついて、家族に付き添われて会社に来たK さんの姿 を見たとき、「復職は難しいのではないか」と開発室長は 思ったそうです。 しかし、話をしていくうちに、K さんがJ 社がとても好 きで、なんとしても仕事に戻りたいと思っている姿勢を強 く感じました。企業として何ができるか考えたとき、店舗 での勤務は困難でも事務職として職域を検討することはで きると思い、K さんに、「一人で通勤できること」「パソコ ンのスキルを身につけること」を提示しました。このとき、 休職期間を延長することも視野に入れたそうです。 歩行技術とパソコンのスキルを習得 K さんは、さっそく区役所に行き、いろいろな情報を集 めました。そして、盲人福祉協会の協力を得て歩行訓練を 行い、白杖を利用して一人で歩行する技術を習得しました。 その後、日本盲人職能開発センターに通所し、パソコンの 講習を受講することになりました。 3か月後、K さんからの連絡を受けた開発室長は、パソコ ンの受講状況を見学し、K さんが一人で通所していることや それまで経験したことのないパソコンの基礎的なスキルを 身につけたことに対し、その意欲と努力に感動したそうです。 開発室長は、このとき初めて視覚障害者向けの就労支援 機器を目にし、「パソコンが話している」と驚きを感じる と共に、復職後のイメージを描くことができたそうです。 復職のための準備 会社に戻った開発室長は、K さんの復職に向けて調整を 始めました。まずはK さんの配属先と職務内容です。復職 の時期と受け入れ態勢を考慮して人材開発部の採用担当と しての職務を考えました。 これまでの仕事内容を一部組み替えて、定型的な職務を 確保するようにしました。 職務内容を考える際には、日本盲人職能開発センターの 職員の協力を得て、K さんのパソコンスキルの習得状況を 把握し、検討を進めました。 また、必要な支援機器について検討し、「支援機器貸出 し制度」や「障害者作業施設設置等助成金」を利用して、 パソコン画面の文字を拡大するソフト、画面を読み上げる ソフト、原稿の文字を拡大する機器(拡大読書器)を整備 し環境を整えました。 柔軟な受け入れ態勢を検討 こうして、K さんは12 月に人材開発部に復職しました。 復職当初は通勤の負担を考慮して勤務開始時間を遅らせ たり、短時間の勤務から始めて段階的に勤務時間を増やし ていったり、パソコンスキルの定着を図るため、週に1 度 日本盲人職能開発センターに通 う時間を設定したりと、柔軟な 対応をしていきました。 K さんは、現在、採用応募者 の受付(メールや電話による応 対)、会社説明会の準備、資料作 成、データ管理、店舗との調整 など採用に関わるあらゆる業務 に対応しています。 支援機器のほかに、「青いのり(塗ったのりが見えやす い)」「太字のマジック」「レターガイドセット(溝がある ので書く部分が見えやすい)」など仕事をしやすいものを 自ら探し、周囲に伝えていきました。 K さんの上司である採用プロジェクトリーダーに、普段 配慮していることを尋ねると、「特別に配慮していること はありませんが、強いて言うと、整理整頓には気をつけて いますね。あるべきところに物がなくて、探すことに時間 を費やすと、本人にとってもストレスになりますし、効率 もサービスも低下しますから。あとは、ファイリングした 書類のトップに拡大した見出しをつけて、見やすくすると いうことはしています。でも、彼にとって見やすいという ことは自分たちにとっても見やすく、仕事がしやすいこと なんです」という答えが返ってきました。 採用プロジェクトリーダーの言葉からも、K さんの言葉か らも、コミュニケーションがよくとれていることがわかります。 今後に向けて 今後について、K さんは「今は採用に関わる仕事が中心 で、重要な仕事であるとやりがいを感じていますが、今後 も新しい知識を習得してできることを増やしていきたい」 と考えています。 一方、開発室長も「まだ若いので、経理やオフィスマネ ジャーなどに挑戦してほしいと思っています。そのために は、本人の努力はもちろんですが、会社としてもどうすれ ばできるのか考えていくことが必要です」と話しています。 「仕事を続けるためにはどうしたらよいか」という視点 で考え、周囲にも積極的に相談していくK さんの前向きな 姿勢と、人を大切にし、人を活かすという会社の理念が、 キャリアアップにつながり、社内全体にもさらに良い効果 を産み出すことでしょう。 K さんの主な職務内容 【新卒者の採用に関して】 ・会社説明会資料の作成・準備 ・会社説明会参加の受付 ・グループ面談・一次面接・最終面接の受付、案内 ・学生データの管理 ・学生に対する社内報送付 ・ 内定式、新人研修など内定者(新入社員)の集会における  司会など 【アルバイト・パート採用に関して】 ・J 社全店舗のWeb 応募者のデータ管理 ・Web 応募者が希望している店舗との連絡 ・店舗に掲示している募集pop の作成など 本人の強い意志と人を活かす 企業の姿勢が重要 組織開発室長 K さんは、店舗で店長を目指し教育訓練をしていると きに、突然目が見えなくなりました。店舗で働き続ける ことは困難なため、休職中に歩行技術とパソコンスキル を習得し、事務職として復職しました。現在は人材開発 部に所属し、支援機器を活用しながら採用全般に関わる 仕事をしています。 復職当初は、慣れない仕事でとまどいもありましたが、 仕事をしやすい手順を考えたりツールを活用したりする ことで、現在は充分力を発揮しています。 本人の強い意欲と、「どうすればできるか」という視 点で、人を活かすしくみづくりを企業が考えることが大 切だと感じています。 CASE6 関係機関の協力のもと、インターンシップを 経てヘルスキーパーとして活躍 ※平成21 年当時の事例を基に編集しています。 事業所 L 社 事業概要/各種広告の代理業務、広告宣伝に関する企画・立案・制作等を展開する企業 本人 M さん 年齢/ 30 代 これまでの経緯/ 角膜混濁による先天性の弱視。視力は0.03 程度。視野に見えにくいところがある。          過去に事務職での就労経験があるが、市立盲特別支援学校であんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師の資格を 取得。2009 年4 月から、ヘルスキーパーとしてL 社に勤務。 〜雇用までの道のり〜 新しい視点で視覚障害者の受け入れを検討 L 社ではこれまで、在職していた障害者が結婚や家庭の 事情などによって短期間で複数名退職することになり、人 事担当者はハローワークに相談しました。 それまで勤務していた障害者は、ほとんどが肢体不自由 者で、主に事務業務に従事していましたが、採用人数の関 係から従来の採用方針に加え、新たな視点による障害者の 採用を検討するように勧められました。 同業他社で雇用事例があることや、業種の特徴から、従 業員の疲労やストレスがたまりやすいことを考え、ヘルス キーパーの導入をハローワークの担当者に相談し、検討す ることにしました。 ハローワーク、市立盲特別支援学校との連携 ハローワークの担当者から市立盲特別支援学校を紹介さ れ、盲学校の教諭からヘルスキーパーの説明を受けた人事 担当者は、学生や設備など実際の受け入れに必要な情報収 集と確認のため、早速6 月に同校を訪問しました。その 中で盲学校の教諭から、導入にあたり、本人と就労先の従 業員がお互いになじめるかを確認するための「インターン シップ(実習)」を実施することを提案され、社内で検討 しました。 P15 用語解説「インターンシップ」 インターンシップで理解促進 社内調整の結果、1 週間のインターンシップ期間を設定 しました。マッサージを行うために必要な物品はすべて市 立盲特別支援学校が用意し、社内の仮のスペースで、担当 教諭同行のもと就職を希望していたM さんが、実習生とし てマッサージを実施しました。実習体験者は人事を中心に 他部署の従業員や役員まで対象を広げ、1 日5 名、計25名 がマッサージを体験し、施術後にアンケートを行いました。 その結果、双方が好感触であったため、M さんのヘルス キーパーとしての受け入れが決まりました。 マッサージルームを開設 その後、マッサージルームを設置するスペースや必要な 備品の購入などの参考にするため、先行企業のマッサージ ルームの見学を行ったり、保健師の知り合いのヘルスキー パーからも情報を収集したりして、M さんの希望も参考 にM さんや盲学校の教諭と数回相談しながら、マッサー ジルーム開設の準備を進めました。 また、カルテの管理業務のための拡大読書器や画面拡大 ソフト、画面読み上げソフトなどの比較的高額の就労支援 機器も整備しました。 これらの就労支援機器の整備に際しては、障害者雇用納 付金制度に基づく助成金を活用しました。助成金申請手続 きに関しては、事前に市立盲特別支援学校から丁寧な助言 が行われています。 こうして、M さんは市立盲特別支援学校を卒業した2009 年4 月から、ヘルスキーパーとしてL 社に勤務することにな りました。 P56「障害者雇用納付金制度に基づく主な助成金一覧」 マッサージルームの運用 当初は、施術を希望する従業 員は事前に人事に電話で予約を する方法をとっていましたが、 認知度が上がるにつれ希望者が 多くなったので、システム担当者と相談し、イントラネッ ト上に予約システムを作成しました。その結果、希望者が 直接予約し、予約状況をM さんがいつでも確認できるよう になりました。現在は1 回40 分の施術で1 日6 人分の予 約ができるしくみになっています。 予約者は人事で代金(1 回千円)を払い、カードを受け 取りマッサージルームに行くという流れになっており、人 事でも施術を受ける者を把握するようにしています。リピー ターも増えており、施術を受ける者は徐々に増えています。 また、毎朝、厚生担当者がその日の予約状況をイントラネッ ト上に告知するため、当日の体調や業務を考慮して当日に予 約を入れる希望者も多く、稼働率は概ね80% とのことです。 快適なマッサージをするために M さんは、マッサージを受けた従業員から、「マッサージを 受けて楽になった」という言葉を聞くのがとても嬉しいと言い ます。初めて施術をする場合には、問診表を活用してその人の 全体の状況を把握するようにしたり、時には自分もマッサージ を受けてみて、施術される人の気持ちを考えたりするなど、よ りよいマッサージをするための工夫や努力を怠りません。 事業の厚生担当者は、「ヘルスキーパーはスペシャリス トで、私たちは技術に関するサポートはできませんが、コ ミュニケーションを密にして仕事がしやすくなるように一 緒に考えていきたいと思っています」と話しています。 M さんは、技術に関しては盲学校の先生や同業の友人 に相談しながら、自分のスキルを高めており、施術を受け る人の満足度がさらに高まるようにしたいと、今後に向け ても意欲的です。 人事担当者も「社内でヘルスキーパーが定着しつつあり ます。今後は、社外の研修の受講等でキャリアアップを 図っていただき、将来的には本人の希望するアロマや鍼灸 など、メニューを広げていくことも検討したいと思ってい ます」と話しています。 M さんの施術を受けた従業員がリフレッシュして仕事 に取り組み、さらに仕事の質が上がる、その効果が広がる ことが期待されます。 ヘルスキーパー導入までの取り組み @関係機関との相談、先行企業の見学 A実習の実施 Bマッサージルームの準備(室内レイアウト、必要物品等の購入計画) C支援機器の検討 D助成金等の申請手続き E運営方法の検討 F保健所への届出 G社内への周知 従業員の福利厚生に目を向け新たな職域へ 障害者を雇用 人事担当者 長期間勤務していた障害者が家庭の事情で短期間に退職す ることになり、急遽ハローワークの担当官に今後の対応につ いて相談し、従来の採用方法に加え新しい視点からの障害者 雇用を検討しました。その一つとして、以前から気にかけて いた従業員の健康管理面からも評判のヘルスキーパー導入の 検討を始めました。初めは全く勝手がわからず不安でしたが、 ハローワークと市立盲特別支援学校の協力を得て順調に準備 を進めることができました。実習によるマッサージの実体験 は社内の理解を深めるために、先行企業の見学は本人を交え てのマッサージルーム開設準備打ち合わせの際の設備や備品 を決定するのにとても参考になりました。市立盲特別支援学 校の適切なアドバイスもあり、購入備品の助成金申請手続き を含め、比較的すんなりと導入できたと思います。 現在の稼働率は80% と好評で、従業員の福利厚生として も有効に機能しており、思い切って導入して良かったと感じ ております。 用語解説 インターンシップ 学校と企業(非営利団体)との連携によって、学生が在学中に自らの専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を行うことです。教 育活動の一環として学校の主体的取り組みを軸に行われるのが基本ですが、実習の態様から労働基準法上の労働者とみなされる場合も あります。( 厚生労働省「インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会報告」より) 盲学校では学校の教育課程としてインターンシップを行っており、この事例では、その制度を活用して企業で実習を行いました。 CASE7 マネージャーやリーダーとして、講師として、 多くの視覚障害者が活躍 ※平成21 年取材当時の事例を基に、令和5 年の状況を加え、編集しています。 事業所 N 社 事業概要/大手電気通信事業者の特例子会社。       ウェブアクセシビリティの診断・研修、障害者に役立つポータルサイトの企画・運営、各種資料の電子化、名刺作成、リ サイクル紙による手漉き紙製品の製造、通信料金の問い合わせ、オフィスマッサージ等の業務を展開。 本人 O さん 年齢/ 40 代 これまでの経緯/ 3 歳の時に網膜芽細胞腫で右目を摘出。10 歳時、手術により左目の視力が改善し、盲学校から一般の小学校に編入、 大学に進学しIT 系企業に就職。 20 代半ばに視力が低下し、同社を退職。 国立職業リハビリテーションセンターでの職業訓練を経て2004 年、N社に入社。現在は、左目の視力は明るさ を判別できる程度。 P さん 年齢/ 40 代 これまでの経緯/ 網膜はく離のため、18 歳時、手術を行う。右目はほとんど見えず、左目の視力は0.03 程度。視野のところどこ ろが欠損していたり、暗いところでは見えにくい。パソコンスキルを習得するため国立職業リハビリテーションセ ンターでの職業訓練を経て、データ入力の仕事で2 年間就労したあと、N社に入社。 〜雇用までの道のり〜 特例子会社を設立し、 障害に合わせた配慮を行う N社は、大手電気通信事業者の特例子会社で、従業員は 478 名。そのうち360 名が障害者です。肢体不自由、視 覚障害、聴覚障害、内部障害、知的障害、精神障害とさま ざまな障害のある方が勤務しており、視覚障害者は27 名 です。(社員数は2022 年6 月1 日現在) 設立に際しては、「障害者作業施設設置等助成金」や「重 度障害者等通勤対策助成金」を活用して施設をバリアフ リー化したり、駐車場を確保するなどして受け入れ体制を 整備しました。 P19 用語解説「特例子会社」        「重度障害者等通勤対策助成金」 P56「障害者雇用納付金制度に基づく主な助成金一覧」 それぞれの障害に配慮した取り組みがなされています が、事務室内では視覚障害者が安全に移動できるように、 「曲がり角はじゅうたんの色と厚みを変え、わかりやすく する」、「カウンターやキャビネットの角に緩衝材を貼り、 ぶつかっても怪我をしないようにする」、「案内表示を白黒 反転させて見やすくする」などの配慮をしています。 また、障害の状況に合わせた支援機器を整備し、「書類 は電子化する」、「会議資料を事前に電子データで配付す る」、「伝達事項は口頭だけでなくメールで周知する」、「社 内掲示等はテキスト版にして配信する」など、パソコンと 支援機器を活用して情報の共有化を図っています。 これらは、設立当初からO さんをはじめ視覚障害のあ る社員の意見を聞きながら整備してきたことです。 マネージャーや各種研修の講師として活躍 O さんは、幼児期に網膜芽細胞腫により右目を摘出しま したが、その後手術により、左目の視力が改善し、盲学校 から一般の小学校に編入し、大学まで進学しIT 系企業に 就職しました。20 代半ばで視力が低下し、それまで従事 していた仕事を継続することが困難になり、IT系企業を 退職しました。その後、歩行技術を習得する訓練を受け、 国立職業リハビリテーションセンターでコンピューターの プログラミングやネットワークについての職業訓練を受講 しました。 職業訓練時に知り合った仲間からN社の設立に誘われ、 ホームページの利用しづらさなど自身の経験もあり、障害 者が暮らしやすい社会をつくりたいという想いから入社し ました。このときの想いがN 社での現在の業務につながっ ています。 現在、営業部アクセシビリティ推進室アクセシビリティ 担当に所属し、7 名の担当メンバーのマネージャーとして、 それぞれのメンバーの業務の進捗状況を把握し、必要なア ドバイスを行い、より良い業務が遂行できるようマネジメ ント業務の他、主にウェブアクセシビリティの診断・研修 などの業務に携わっています。自身もこれまでのキャリア を活かし、各種研修や講演の講師として積極的に業務を 行っています。 P19 用語解説「ウェブアクセシビリティ」 障害に合わせた配慮事項 【視覚障害者に対する配慮事項】 ・曲がり角でじゅうたんの色と厚みを変える ・カウンターやキャビネットに緩衝材を貼る ・白黒反転した案内表示をつける ・障害に応じた支援機器を整備する  (拡大読書器、画面読み上げソフト、画面拡大ソフト等) ・書類を電子化(アクセシブルなPDF 等)する ・会議資料等を電子化して事前に配付する ・掲示物はテキストファイルで配信する ・伝達事項は口頭だけでなくメールで周知する ・外出時にはガイドが同行する 【その他の配慮事項】 ・ドアを引き戸にする ・自動ドア、スロープの設置 ・駐車場の確保 ・事務室内に多目的トイレ使用表示灯の設置 ・自助具の活用 ・要約筆記の導入 ・筆談器の設置 ・手話通訳の配置 ・定着支援コーディネーターによる相談室の設置 全盲のため、画面読み上げソフトを利用して業務を遂行 していますが、作成した書類のレイアウト調整や、研修・ 講演など出張の際のガイドは視覚障害以外のメンバーがサ ポートしているそうです。 「自身が得意なこと」と、「障害上できないこと」、「で きるが時間がかかること」に分類して、担当全体として業 務を円滑に進めることを考えて、周囲のメンバーの協力を 得ながら業務を進めています。 最近では、ウェブアクセシビリティに関心を持つ自治体 や企業も増え、研修や講演の依頼が多くなっているそうで す。O さんは「障害のある方にとって少しでも暮らしやす い社会をつくりたいという自分の希望がこうした業務を通 じて少しずつ達成されることがとても嬉しく、これからも 障害者がチャレンジできる社会づくりの一役を担いたい」 と考えています。会社からも、マネージャーとしてさらに 力を発揮することを期待されています。 サイトの企画から執筆まで、仕事の幅が広がる P さんは、網膜はく離のため18 歳のときに何度か手術 を行いました。現在右目は見えず、左目の視力が0.03 程 度です。視野のところどころが欠けていて、特に下の方は 見えにくく、全体的にすりガラスを通して物を見ているよ うな感覚だそうです。 P さんも歩行技術や点字の習得の訓練を受けた後、国立 職業リハビリテーションセンターでパソコンスキル習得の ための職業訓練を受講しました。訓練終了後は、パソコン スキルを活かして、データ入力の業務に就きました。2 年 ほど経過した頃、N 社の求人を知り、新しいことにチャレ ンジしたいという気持ちで転職しました。 現在は主に、障害者に役立つポータルサイトの企画・運 営に携わっています。企画に際してはどのような情報が障 害者にとって役立つのか、また、どのように掲載すると利 用者が読みやすいのかなど、日々担当のメンバーとディス カッションを重ね検討しながら業務を進めています。 業務を遂行する際は、画面読み上げソフトや画面拡大ソ フトをインストールしたパソコンのほか、拡大読書器を使 用していますが、ハード面が整備されているだけでなく、 ソフト面でもさまざまな障害のある方がお互いに必要な配 慮をしているそうです。例えば、取材には、カメラマンを 兼ねた視覚障害以外のメンバーが同行しサポートします。 サイトに記事を掲載するために自ら取材し、記事も執筆 しますが、ひとつの記事ができあがるまでには、取材先と の交渉や調整が何度も必要になります。以前の会社で従事 した定型的な業務と比べると、とてもやりがいがあると感 じています。障害理解研修や心のバリアフリー研修などの 講師を務めることもあり、当初より業務の幅が広がってい ます。研修を通し、障害について多くの人に知ってもらう ことで障害の有無にとらわれることなく、支えあいながら 社会で共に暮らしていくことが日常となることを願ってい ます。 そのためにも、自分自身について発信していくことが大 切と考えていて、「これはできるけれど、ここはサポート があるとありがたい」ということをきちんと伝えることを 意識しています。 「これからも自分のできることにチャレンジしてどんど ん仕事を広げたい」と考えています。 ポータルサイト記事ができるまで 記事の企画 取材先との調整 取材 原稿執筆 校正 掲載準備 サイトへの掲載 障がいの有無に関わらず、できることで T 仲間をサポートして働きやすい職場を作る  N社では、O さんやP さんの他にも視覚障害者がウェ ブサイトやアクセシビリティに関する業務、オフィスマッ サージ業務に従事しており、多くのメンバーが職業訓練等 で習得した知識や技術を業務に活かし、活躍しています。 また、視覚障害以外の障害者も、それぞれの職場で一人ひ とりが責任を持って活躍しています。 さまざまな障害がある社員がお互いの障害を理解するこ とに努め、視覚障害者に対する資料の読み上げや外出時の ガイドと同様に、たとえば、聴覚障害者が情報を得やすい ように、視覚障害者がパソコンで要約筆記をして会議を進 めるなど、お互いの障害をサポートし、働きやすい職場を 作っています。 N 社の事務室には、ダウン症の書家・金澤翔子さんによ る「共に生きる」の大きな書が掲示されていますが、この 取材を通じて、O さんやP さんをはじめ社員それぞれが、 自らの業務を通じた障害理解、ひいては共生社会の実現に 貢献したいという思いを強く感じることができました。 に貢献してくれることに期待  取締役営業部長 2004 年、当社が特例子会社として設立した当時、3 名の 障害者を採用しました。障害種別は視覚障害と肢体不自由で、 そのうちの一人がO さんです。現在(2022 年6 月1 日)、 身体障害・知的障害・精神障害のある社員数は120 倍の360 名にも増えています。この間、障害のある社員の声を聴きな がら、体制、各種ルールや環境整備などを行ってきました。 現在、視覚障害のある社員(27 名)の主な業務は障害を強 みとした業務で、ウェブアクセシビリティの診断・研修、障 害者に役立つポータルサイトの企画・運営、障害理解や心の バリアフリー研修の講師、オフィスマッサージ等多岐にわた り、社員全員がお客様に信頼されるサービスを提供しようと 責任感をもって業務を行っています。その結果、O さんはマ ネージャーとして、その他のメンバーもチームリーダー等と して、活躍しています。 健常者だからといってすべてのことができるわけではあり ませんし、障害があっても工夫することにより多くの業務を こなすことができます。障害がある、ないに関わらず、前向 きに業務に向き合っていくことが大切だと感じています。 昨今、各種障害者関連の法律やガイドラインなどが整えら れてきていますが、共生社会の実現に向けてはハード面だけ でなく、ソフト面、心のバリアフリー等も重要な要素になっ てきます。当社の経営理念である「社員一人ひとりの働き甲 斐(輝き)を通して、バリアのない豊かな社会の実現に貢献 します」のもと、今後も社員はその活躍を通じて、社会に貢 献してくれることを信じています。 用語解説 特例子会社 障害者雇用率制度において、障害者の雇用機会の確保(法定雇用率の達成等)は個々の事業主ごとに義務付けられています。一方、 障害者雇用の促進及び安定をはかるため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には特 例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして実雇用率を算定できることとしています。また、 特例子会社を持つ親会社については、関係する子会社も含め、企業グループによる実雇用率算定を可能としています。 重度障害者等通勤対策助成金 重度身体障害者、知的障害者、精神障害者または通勤が特に困難と認められる身体障害者(重度障害者等)を労働者として雇用する 事業主または、これらの重度障害者等を雇用している事業主の加入する事業主団体が、これらの者の通勤を容易にするために措置を行 う費用の一部を助成するものです。 具体的には、通勤のための駐車場の賃借、通勤用バスの購入、住宅手当の支払い等が該当します。 P56「障害者雇用納付金制度に基づく主な助成金」 ウェブアクセシビリティ  「アクセシビリティ」とは「アクセスできること」という意味の英単語で、情報やサービスがどの程度広汎な人に利用可能であるか を表します。類義語としては「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」があり、Webページのアクセシビリティについては、「ウェ ブアクセシビリティ」といいます。