U視覚障害者とは 1視覚障害の種類  視覚は、視力、視野、色覚、光覚などの機能に分けられます。  これらの機能が永続的に低下した状態で、機能の改善が困難であるものを一般的に障害といいま すが、身体障害者福祉法では、このうち視力と視野に障害がある場合を視覚障害と定めています。 (1)視力の障害  視力とは、空間において2 点または2 線 を見分ける能力のことをいいます。日本で は、直径7.5o、太さ1.5oの円の一部が 1.5o幅で切れている輪(ランドルト環)を 5m 離れたところから見て、切れている方 向が正確に確認できることをもって、視力 1.0 としています。  視力には、「裸眼視力」と眼鏡やコンタク トレンズ等で屈折異常を調整した「矯正視 力」があります。障害のある場合は矯正し ても比較的効果が少なく、視力の回復が期 待できないことが多くあります。 用語解説 ランドルト環  ランドルト環は、視力を測定する「万国式試視力表」に用いられています。万国式試視力表は、ランドルト環やアラビア数字を用 いて作られていますが、日本では、ランドルト環とカタカナを使用した石原式、ランドルト環とひらがなを使用した大島式等がある とされています。 全盲と弱視  視覚障害者の中には、視覚を全く活用できない「全盲」の人と、光を感じる、ないしは何らかの 保有視力がある「弱視」の人がいます。 ※近年、「弱視」を「ロービジョン」ということも多くなっていますが、本マニュアルでは「弱視」という表記 としてます。 (2)視野の障害  人間の目は、静止したままでもかなり広い範囲を見ることができます。この見える範囲を「視野」 といい、正常な片目の視野は、上方と内方(鼻側)が60 度、外方(耳側)100 度、下方75 度です。  視野の障害には、全体的に見える範囲が狭まる「視野狭窄」、部分的に見えないところがある「暗 点」、視野の半分が欠ける「半盲」などがあります。  視力が良くて視野が狭い場合には、読み書きにそれほど支障はありませんが、歩行や行動は困難 になります。逆に、視力が低くて視野が保たれている場合には、読み書きには不自由さを感じますが、 歩行や行動に大きな困難をきたすことはありません。 見やすくする工夫  見える範囲が狭い場合は、少し離れてみると視野が広がり、見たいものが見つけやすくなります。 反面、遠いところに基準点を置くと、近くにあるものは視野に入りにくく、見失ったりぶつかった りしやすくなります。  真ん中が見えにくい場合は、近くで見るほど暗点が小さくなり、隠れていたところが見えてきます。 視力と視野の関係  視野が正常である場合、視力が0.3 以下になると「読むこと」に不自由さを感じるようになりますが、 0.1 以上あれば行動にはほとんど不便を感じないといわれています。「書くこと」に関しては、マジッ クなど濃い太い字であれば、0.02 くらいの視力でも認識することができます。  視野が各方向10 度以内になると、視力があっても行動が制限され、5 度以内になると、目を使う ことがきわめて困難になるといわれています。  視野5 度では、見るものから60cm 離れても、直径5cm の範囲しか見ることができません。  視野が正常である場合、視力が0.3 以下になると「読むこと」に不自由さを感じるようになりますが、 0.1 以上あれば行動にはほとんど不便を感じないといわれています。「書くこと」に関しては、マジッ クなど濃い太い字であれば、0.02 くらいの視力でも認識することができます。  視野が各方向10 度以内になると、視力があっても行動が制限され、5 度以内になると、目を使う ことがきわめて困難になるといわれています。  視野5 度では、見るものから60cm 離れても、直径5cm の範囲しか見ることができません。 視覚障害の範囲   「身体障害者福祉法」及び「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、視覚障害者の範囲は次の ように定められています。 次に掲げる視覚障害で永続するもの ・両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、矯正視力 について測ったものをいう。以下同じ)がそれぞれ0.1 以下のもの ・一眼の視力が0.02 以下、他眼の視力が0.6 以下のもの ・両眼の視野がそれぞれ10 度以内のもの ・両眼による視野の2 分の1 以上が欠けているもの 2 見え方のいろいろ  視覚障害とひとことでいっても、見え方や見えにくさはさまざまです。 これら見えにくさの要因を一人で複数持っていることがあり、見え方は人によって異なります。  目が見えないあるいは見えにくいと、経験のないことに対して消極的になり、外出や行動が制限 されることがあります。ロービジョンケア、歩行訓練、ガイドヘルパー制度などを利用して不安を 取り除くことが望まれます。  また、一般に情報の80 〜 85%が視覚から得られるといわれており、視覚障害があることによっ て情報が不足しないような配慮が望まれます。 P41 コラム「ロービジョンケアとの連携・保有視機能の活用」 3 視覚障害の等級と程度  視覚障害の等級は、身体障害者福祉法において1 級〜 6 級に区分されています。  1 級と2 級は重度身体障害者と定められています。それぞれの等級における障害程度は、下記の とおりです。 1級  視力の良い方の眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常が ある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ。)が0.01 以下 のもの 2級  1. 視力の良い方の眼の視力が0.02 以上0.03 以下のもの 2. 視力の良い方の眼の視力が0.04 かつ他方の眼の視力が手動弁(※)以下のもの 3. 周辺視野角度(T/4 視標による。以下同じ。)の総和が左右眼それぞれ80 度以下 かつ両眼中心視野角度(T/2 視標による。以下同じ。)が28 度以下のもの 4. 両眼開放視認点数が70 点以下かつ両眼中心視野視認点数が20 点以下のもの 3級 1. 視力の良い方の眼の視力が0.04 以上0.07 以下のもの(2級の2に該当するもの を除く。) 2. 視力の良い方の視力が0.08 かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの 3. 周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ80 度以下かつ両眼中心視野角度が56 度以 下のもの 4. 両眼開放視認点数が70 点以下かつ両眼中心視野視認点数が40 点以下のもの 4級 1. 視力の良い方の眼の視力が0.08 以上0.1 以下のもの(3級の2に該当するもの を除く。) 2. 周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ80 度以下のもの 3. 両眼開放視認点数が70 点以下のもの 5級 1. 視力の良い方の眼の視力が0.2 かつ他方の眼の視力が0.02 以下のもの 2. 両眼による視野の2 分の1 以上が欠けているもの 3. 両眼中心視野角度が56 度以下のもの 4. 両眼開放視認点数が70 点を超えかつ100 点以下のもの 5. 両眼中心視野視認点数が40 点以下のもの 6級 視力の良い方の眼の視力が0.3 以上0.6 以下かつ他方の眼の視力が0.02 以下のもの ※ 手動弁…検者の手掌を被検者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力のこと。 (身体障害者福祉法施行規則別表第5号「身体障害者障害程度等級表」より) 視覚障害の主な原因疾患 緑内障  緑内障とは、眼圧が高くなることによって視神経が障害されて萎縮し、それに対応 した視野が損われ、最終的には視力も低下していく病気です。  常に日本の中途失明原因の上位にある疾患です。 ?眼圧が高くなるのを防ぐ管理が必要です。 白内障  白内障とは、眼球の中の水晶体が灰白色や茶褐色に濁り、物がかすんだりぼやけた りまぶしく見えるようになる病気です。進行すれば視力が低下しますが、網膜に異常 のない場合は手術によって摘出し人工レンズを入れることで、視力が回復します。  白内障の原因は、加齢によるものが最も多く、そのほか先天性によるもの、糖尿病 などの代謝性、外傷性、赤外線などの有害光線によるものなどがあります。   ?照明やコントラスト、まぶしさなど、適度な明るさや見えやすさに配慮する   ことが望まれます。 網膜色素変性症  網膜色素変性症とは、網膜の中の光を感知する色素上皮に異常な色素が沈着し、光 の明るさを感じとる細胞が障害を受ける病気です。  夜盲、視野狭窄を訴える進行性の疾患であり、病気の進行と共に視力が低下します。 視野狭窄は中心に向かって進んでいく求心性視野狭窄を示します。 ?夜盲がある場合は暗所での歩行に配慮が必要です。 黄斑変性  黄班変性とは、網膜の中心にある黄斑に異常が生じ、視野・視力障害をひきおこす 病気です。中心部に視野欠損が見られる「中心暗点」や物がゆがんで見えることが特 徴です。  ?ルーペの使用や、太線で囲む等、細かい部分が見えやすいように工夫する    ことが望まれます。 視覚障害の主な原因疾患 糖尿病網膜症  糖尿病網膜症は、糖尿病により網膜の細い血管がふさがり、酸素が行き渡らなくな ることによって、新生血管ができてその新生血管が出血し、障害が起きてくるものです。 発症頻度が高いにもかかわらず自覚症状のないままに進行して、失明に至ることもあ る重大な病気です。日本では、緑内障と共に成人の失明の主要な原因となる疾患です。  ?糖尿病の治療と眼科に関する管理が必要になります。 視神経萎縮  視神経萎縮は、視神経の外傷、炎症、変性疾患、腫瘍など視神経の病変、周囲組織 から視神経への圧迫、視神経の血管病変、網膜疾患および緑内障などにより、視神経 が変性萎縮し、その機能を失った状態をいいます。視力低下や視野狭窄が主な症状です。  ?症状は原因となる疾患によってさまざまですが、症状によってルーペを使用   したり、まぶしさに対する配慮などが必要になります。 よく使われる用語の解説 せい眼がん者しゃ  「視覚障害者」の対義語であり、「視 覚に障害のない者」を指す言葉である。 「晴」は、澄んだ瞳、ぱっちり開いた目 の意味。  近視、遠視、老視などの人もいるが、 日本では運転免許証の取得などで視覚 による社会生活を制限されていなけれ ば「晴眼者」としてみなされる。 点てん字じ  点字は、触覚によって読むことが可能となるよ う、凸点を横2 ×縦3 に組み合わせて文字体系と した視覚障害者(とくに全盲者)用の文字のこと をいう。漢字の点字もある。 墨すみ字じ  「墨字(すみじ)」は視覚障害者の使用する「点字」に対して、ひらがな、 カタカナ、漢字などの通常に書いたり印刷したりする文字のことをいう。 点てん訳やく  通常の文字で書かれた文章を、点字で書かれた文章に翻訳すること。 白はく杖じょう  視覚障害者が歩行する際に路面状況を触擦し、 また、ドライバーや他の歩行者などに注意を喚 起して、安全に歩行するために使用する白い杖 をいう。 あはき あん摩マッサージ指圧、鍼、灸の頭文字をとって「あはき」という。 夜や 盲もう 暗いところや夜に見えにくい状態のこと。網膜にある桿状体の機能障 害によっておこり、「鳥眼(とりめ)」ともいう。 支援機器  障害者の生活や就労をサポートす るために開発された機器のこと。職 場で利用されるものとして、視覚障 害者に対しては「拡大読書器」、「点 字ディスプレイ」のほか、パソコン 画面を読み上げる「画面読み上げソ フト」や表示画面の一部を拡大する 「画面拡大ソフト」等各種ソフトウ ェアがある。 音声パソコン  市販のパソコンに、音声ガイド機能のある視覚障害者向けの画面読み 上げソフトをインストールしたもの。視覚に障害がある場合、マウスに よる操作が困難なので、音声ソフトが画面を読み上げる声に従って、 キーボードでパソコンやソフトを操作する。 中心暗点 視野の障害により、真ん中がまったく見えないか見えにくい状態をいう。 ガイドヘルプ 一人では外出が困難な視覚障害者や全身性障害者、知的障害者が外出 する際、安全面に留意しながら移動介護サービスを提供すること。 ロービジョンケア 視覚障害者が持っている視機能を最大限に活用して、「読み・書き」と 「歩行・日常生活」の向上を目指すケアをいう。 アクセシビリティ 高齢者・障害者を含む誰もが、様々な製品や建物やサービスなどを支 障なく利用できるかどうか、あるいはその度合いをいう。