障害者職域拡大マニュアル9 聴覚障害者の職場定着推進マニュアル 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 はじめに  本マニュアルは、聴覚障害者の雇用および職場定着を推進 することを目的として、平成8年2月に初版を発行し、多くの方 にご利用いただいております。  今般、支援機器、支援制度、支援機関などに係る最新の 情報を踏まえた改訂版を発行する運びとなりました。  本マニュアルが、今後ともできるだけ多くの企業などで活用さ れ、聴覚障害者の雇用促進、職場定着に役立つものとなれば 幸いです。  本マニュアルの作成および改訂にあたり、ご協力いただいた 関係者の方々に改めて厚く感謝申し上げます。 令和4年1月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 目 次 聴覚障害者の職業適性 4 第1章 ◆ 聴覚障害者の採用にあたって Section 1 聴覚障害とは 障害部位で3つに分類 聴覚障害の種類 6 法律的な定義と分類 聴覚障害の等級と程度 8 個別に理解することが必要「聞こえない・聞こえにくい」とは 10 Section 聴覚障害者とのコミュニケーション方法 日常業務 方法を本人に確認 12 具体的・直接的表現で 基本的な考え方 ひと手間でも 13 正確に伝わりやすい 筆談 完全には伝わらないことも多いので 14 注意が必要 口話 職場での活用は 15 信頼関係や親密感を深める 手話 仕事の範囲を広げ 16 コミュニケーションを促進 情報機器 1対複数の場面で 17 すばやく要約して書いて伝える 要約筆記 コミュニケーションの仲立ちをする 手話通訳と手話通訳者 18 市町村・ろうあ団体などに相談 手話通訳者の派遣依頼 19 Section 3 聴覚障害者の受入体制  情報提供やコミュニケーションに 配慮した職場配置 20 ともに働く立場を理解 配属時の配慮 21 職業人として伝えたい 職場のマナー 22 理解度に合わせて 指導方法と職場教育訓練 23 Section 4 設備・環境の工夫 光や振動、情報機器などを活用 設備・環境の整え方 24 第2 章 ◆ 聴覚障害者の長期職場定着のために Section 1 聴覚障害者の職場定着指導 障害を理解しきめ細かな配慮を 職場定着を図るために 26 Section 2 聴覚障害者と聴覚障害のない社員の関係向上のために 聴覚障害者は職場でのコミュニケーションに 悩んでいます 28 職場に手話の輪を広げる 社内で手話を習得する方法 30 目的やレベルに合わせて選択できる 社外で手話を習得する方法 32 Section 3 聴覚障害者のスキルアップ・キャリアアップ 働く意欲を高める スキルアップ・キャリアアップ 34 第3章 ◆ 職場の手話 目で見る言葉?それが手話です 36 コミュニケーションは、まず「あいさつ」から 38 「時」の表現 40 「問いかけ」の表現 42 オフィス でよく使われる手話 44 生産現場 でよく使われる手話 54 緊急時 の手話 58 指文字(50音)  / 数字 60 資料 障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金 …… 62  支援機関一覧 …… 63  障害者雇用に役立つ資料等 …… 68  引用文献・参考資料 …… 69 聴覚障害者の職業適性 拡大・多様化する聴覚障害者の職業分野   昨今の「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改 正により、障害者雇用促進策の充実が図られ、聴覚障 害者の雇用分野も拡大してきました。近年、聴覚障害 者を雇用している企業は多くの業種にわたっていま す。  最近では、特別支援学校を卒業後、特定の職業技術 を習得するのではなく、大学に進学する人もいます。 また、ICT(情報通信技術)の進展により、聴覚障 害者が事務職やサービス産業などの職務に従事できる 場面が多く見られるようになりました。このように、 情報収集やコミュニケーション方法の発達が、聴覚障害 者の就業する職域の拡大にとって不可欠となっています。 職業能力を左右する職場コミュニケーション  聴覚障害者の雇用が進むに従い、さまざまな問題が 表面化してくることがあります。例えば、雇用の現場において、「聴覚障害者の職業的な能力は聴覚障害の障害者雇用では一人ひとりの適性や能力、性格がない社員と変わらないが、コミュニケーションにす れ違いが起こるなど、人間関係で問題が生じている」 という声が聞かれます。   日々の現場やあるいは教育訓練の場面などでは、周囲が障害への理解に不足があったり、コミュニケーシ ョンが難しかったりといった小さなトラブルが発生します 一つひとつは小さくても、放置していると深刻な問題へと発展する危険性をはらんでいます。   一方で、聴覚障害者と聴覚障害のない社員が手話 を通して自然にコミュニケーションを行っている、活発で明るい雰囲気の職場や、聴覚障害者だけでなく聴覚障害のない社員にとっても有益な配慮を工夫して いる職場なども多く見られます。これらは、長年聴覚 障害者の雇用に取り組んでおり、勤続年数の長い聴覚 障害者がいる企業の事例です。 *  問題の解決には、雇用主や担当者、職場の仲間の正しい理解が必要です。これらの企業での成功事例は、 抽象概念の伝達やコミュニケーションの難しさに対す る工夫、手話習得など上司や同僚の努力、雇用前から の配慮など、きめ細かい支援を行った結果といえます。  また、雇用方針、職場環境など雇用管理面での対応 が適切であれば、聴覚障害者の職場定着に加え、職場 全体のモチベーションの向上が期待できることが示さ れています。 *  まずは聴覚障害の特性や個別の職業能力を理解しましょう。雇用にあたって「聴覚障害者だから、コミュニケーションが難しい」「抽象的な概念が理解できな い」「返事が不明確」などと画一的に考えることは禁物です。 障害者雇用では、一人ひとりの適性や能力、性格が異なることを正しく理解し、適切に対応することが基本となります。聴覚障害者にとってもまた、重要で不可欠な姿勢であるといえます。 *聴覚障害者の一般的な職業特性* ●身体面での特徴 身体運動機能について障害の影響 はほとんどない。 健康管理や体力が雇用上の問題に なることは一般的にない。 作業現場における危険を知らせる パトライトの設置や非常時の退避 手段の確保などを除けば、特別な 設備改善などはあまり必要としな い。 ●行動面での特徴 職場における常識やマナーなどが身についていなかったり、気づくのに時 間がかかることがある。 そのため、常識に欠けて いると判断されたりして しまうことがある。 ●作業面での特徴 聴覚障害に起因して遂行できない 作業はほとんどない。 文章の読み書きが苦手な場合が多 く、実際の能力よりも学力面で過小評過されてしまうことがある。 動作的な能力は高くても、言語的な理解や表現の仕方から、試験などでは十分に評価されないことがあるため、多面的に評価していく必要がある。 共同作業などでは、内容の確認方法を決めておかないと、グループ としての成果が十分に現れないことがある。 (参考資料:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構編『令和3年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト』) 5