基礎編 障害者職業センターでの相談 「視覚障害とは」 視覚障害者のリハビリテーション 就労に当たっての環境整備 視覚障害者の業務 視覚障害者に関するデータ 5 基礎編 シーン1 障害者職業センターでの相談「 視覚障害とは」 人事課の 十河です ハローワークの毛利です 先日、事務職の 求人をいただき ましたが 視覚障害者の 採用を検討して みませんか えっ 視覚 障害者… 全盲の方ですが 職業訓練を 受けており パソコン操作は 身につけて います 他社での 就労事例も 多数ありますよ うーん 上司と 相談して みます 田中課長 ハローワークから 視覚障害者の雇用を 提案されたんですよ どんな仕事が 任せられるか 想像がつきませんし 接し方とか 面接での ポイントも わかりません なるほど まずは 視覚障害のことを 理解したいね 以前、ハローワーク 主催のセミナーで 障害者職業センターが 相談にのってくれると 聞いたよ まず、相談に 行って みよう わかりました ※「地域障害者職業センター一覧」(P74)参照 6 基礎編 …というわけでして 視覚障害者を 受け入れた場合の 配慮や接し方を 教えて いただきたく 訪問しました 障害者職業 カウンセラーの井上です まず、視覚障害について ご説明します 視覚障害とは 視覚障害には「全盲」と 何らかの保有視力のある 「弱視」があります 定義はさまざま ですが おおむね この表の とおりです 矯正視力 主に使用する文字 主な状態 盲 0.02 未満 点字 全く見えない。明暗が分かる。 強度弱視 0.02 以上0.04 未満 点字・墨字※ ぼんやりと物の形が分かる。 弱視 0.04 以上0.3 未満 墨字※ 拡大鏡を使えば新聞が読めるなど。 ※墨字:紙に印刷または書かれた文字のこと なるほど 視覚障害者の中には 生まれつき視覚に 障害のある方だけでなく 疾病や事故により 中途で視覚障害になった方も 多くいます 視覚は このような 機能に分けられ このうち 身体障害者 福祉法では 視力と 視野に障害が あるものを 視覚障害と 定めています 視 覚 視野 (静止した状態で見える範囲) 色覚 (色のコントラストの判別) 視力 (形の識別) 光覚 (明るさや暗さへの対応) 視力に障害があると 眼鏡やコンタクトレンズ等で 矯正しても 効果が少ないことがよくあります 7 基礎編 視野の障害には このようなもの があります 通常の見え方 視野の障害 全体的に見える範囲が狭まる 「視野狭窄」 部分的に 見えないところがある 「暗点」 視野の半分が欠ける 「半盲」 視力が良くて 視野が狭い場合 読み書きには さほど支障がなく 歩行や行動に 不自由さを感じます 視力が低くて視野が 保たれている場合 読み書きには不自由さを感じますが 歩行や行動には大きな困難は きたしません 他にも 眼球が揺れる 「眼球震盪」 両目で見ると 物が二重に見える「複視」 などがあります 8 基礎編 このように 視覚障害と一言で言 ても 見えにくさはさまざまで さらにこの見えにくさを 一人で複数持 ている こともあるため 見え方は人それぞれと 言えます ゆがんで見える 全体がぼやける まぶしさが 強く見えにくい 視野の一部が 見えない 視野の中心が 見えない 暗いところでは 見えにくい 物が二重に みえる 眼球が揺れて 見えにくい POINT ■ 視覚障害の等級と程度 視覚障害の等級は、身体障害者福祉法において1級~6級に区分されています。 1級と2級は重度身体障害者と定められています。それぞれの等級における障害程度は下記のとおりです。 【1級】視力の良い方の眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、矯正視力について測ったものをいう。以 下同じ。)が0.01 以下のもの 【2級】 1 視力の良い方の眼の視力が0.02 以上0.03 以下のもの 2 視力の良い方の眼の視力が0.04 かつ他方の眼の視力が手動弁(※)以下のもの 3  周辺視野角度(Ⅰ /4 視標による。以下同じ。)の総和が左右眼それぞれ 80 度以下かつ両眼中心視野角度(Ⅰ /2 視標による。以下同じ。) が 28 度以下のもの 4 両眼開放視認点数が 70 点以下かつ両眼中心視野視認点数が 20 点以下のもの 【3級】 1 視力の良い方の眼の視力が0.04 以上0.07 以下のもの(2級の2に該当するものを除く。) 2 視力の良い方の視力が0.08 かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの 3 周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ 80 度以下かつ両眼中心視野角度が 56 度以下のもの 4 両眼開放視認点数が 70 点以下かつ両眼中心視野視認点数が 40 点以下のもの 【4級】1 視力の良い方の眼の視力が0.08 以上0.1 以下のもの(3級の2に該当するものを除く。) 2 周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ 80 度以下のもの   3 両眼開放視認点数が 70 点以下のもの 【5級】 1 視力の良い方の眼の視力が0.2 かつ他方の眼の視力が0.02 以下のもの 2 両眼による視野の 2 分の 1 以上が欠けているもの   3 両眼中心視野角度が 56 度以下のもの 4 両眼開放視認点数が 70 点を超えかつ 100 点以下のもの   5 両眼中心視野視認点数が 40 点以下のもの 【6級】 視力の良い方の眼の視力が0.3 以上0.6 以下かつ他方の眼の視力が0.02 以下のもの ※手動弁…検者の手掌を被検者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力のこと。  (身体障害者福祉法施行規則別表第5号「身体障害者障害程度等級表」より) ■ 視覚障害の範囲 「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、視覚障害者の範囲は次のように定められています。 次に掲げる視覚障害で永続するもの ● 両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、矯正視力について測ったも のをいう。以下同じ)がそれぞれ 0.1 以下のもの ●一眼の視力が 0.02 以下、他眼の視力が0.6 以下のもの ●両眼の視野がそれぞれ 10 度以内のもの ●両眼による視野の 2 分の1 以上が欠けているもの 9 基礎編 シーン2 視覚障害者のリハビリテーション 視覚障害者が どのような訓練を 受けているのかを ご紹介します 目が見えない 見えにくい ことによる 『一人で歩けない』 『文字の読み書きが できない』 『料理等家事が できない』といった 不便さを解消 あるいは軽減するため このような 訓練があります ①歩行訓練 ②コミュニ  ケーション訓練 ③日常生活動作訓練 ①歩行訓練 白杖を使用して 安全を確保し 一人で目的地まで 移動できる訓練を 行っています ②コミュニケーション訓練 点字の読み書き 拡大読書器や 音声パソコンの 操作方法等を 習得できるよう にします 10 基礎編 ③日常生活動作訓練 料理をする 自動現金預払機 (ATM)利用 洗濯をする 料理や 洗濯のほか お金の弁別や ATMの 操作による 金銭管理などの 動作を 一人で行える ように訓練を します これらの訓練は視覚障害者の リハビリテーション施設や 一部の医療機関、団体等で 行われています 色々な訓練を しているの ですね この他 盲導犬を 利用している方も いらっしゃいます 平成14年に 身体障害者補助犬法が成立し 各種施設を身体障害者が 利用する場合 補助犬の同伴を拒んでは ならないなどアクセス権が 保障されているんです 平成19年には法律が 一部改正され 民間企業に対して勤務する 身体障害者の補助犬使用の 受入れが義務づけられました よく わかりました 11 基礎編 シーン3 就労に当たっての環境整備 実際にわが社が 視覚障害者を 受け入れるに当たっては どのような配慮が 必要になるのでしょうか はい 見え方や 仕事の内容によって 異なるのですが まずは 環境を整備することから 考えていくべき でしょう 一つは 就労支援機器を活用するという 方法があります 情報通信技術(ICT)の 進歩により 視覚障害者の 文字処理能力が向上し 電子化された情報であれば 支援機器を活用して 点字や音声に 変換することにより 「読む」ことができる人が 多くなっています 就労支援機器を 活用することで 職務上「できること」の 幅を広げたり 職務を効率的に 進めることが できます 例えば… 拡大読書器 ズーム式のカメラで書類等を 写し取り モニタ画面に拡大表示する装置 拡大倍率を設定できるほか 白黒反転機能によりまぶしさを 軽減することで 読みやすくしたり コントラストを強調して 淡い文字や色文字を はっきり見ることができる機能 も備わってる 携帯型で持ち運べるものもある ※「就労支援機器の展示・貸出し」(P79)参照 12 基礎編 画面拡大ソフト パソコンの画面の一部または 全体を拡大して表示する ソフトウェア 拡大倍率を設定でき、 色の反転表示機能や カーソルや ポインターの 強調機能も ついている 画面読み上げソフト パソコンの画面情報を音声で 読み上げるソフトウェア ファイルのオープンやクローズ メニューやダイアログ項目 アプリケーションが表示 するメッセージ 漢字や文字種の違い 入力内容やデータなどを 読み上げることができる 点字ディスプレイ 点字対応ソフトウェアなどが 出力した情報を点字で 表現するための機器 画面の情報や文字情報などを リアルタイムで点字として表示する さらに点字でのメモの読み書きや スケジュール管理などの 電子手帳機能も備えている ほー なるほど この他にも印刷物や PDFなどの画像情報から 文字情報を抽出する 活字音訳(OCR) ソフトなどが あります これらの 就労支援機器は 視覚障害者の 状態や職務に 応じて選択し 組み合わせて 使うことが できます 13 基礎編 次に 施設や設備の改善に ついてですが 基本的には 大がかりな 施設の改善や 設備の導入は必要なく あまり費用を かけずに 行うことができます 危険を避けられるように することはもとより 視覚障害者が働きやすい 職場環境を作るための 工夫が望まれます 例えば… 職場のレイアウト 視覚障害者が移動しやすいように 部屋の入口付近に席を設ける 通常使用する通路に物を置かない トイレやエレベーターなど通常使用する場所への 移動の手がかりや目印を伝える 書類や物品の保管場所を一定にする 点字表示 点字を利用する視覚障害者を 受け入れる場合 エレベーターのボタンや 階段の手すりなど 視覚障害者が利用する設備に 点字シール等により 点字表示を行うことが望まれます 14 基礎編 照明や採光 十分な照明がない十分な照明がない 逆に直射日光が当たるなど 明るすぎると 疲労しやすいと言われています 感じる明るさは 個人により異なるため ●デスクスタンドを利用する ●蛍光灯にシェードをかける ●ブラインドを下げる など 視覚障害者本人と話し合って 対応方法を検討してください このほか 勤務時間の調整が 必要な場合があります 障害の種類や程度によって 勤務時間をずらしたり 眼疾患による 目の疲労回復のため 適宜休憩を設けたり 定期的な通院時間を 確保するなど 視覚障害者本人と 話し合って決めることが 望まれます 最後に 障害の種類や 程度に応じて 人的支援の検討が 望まれます 障害者が円滑に 職場に適応することが できるように ジョブコーチが事業所に出向き 職場内で作業遂行力の向上の ための支援や雇用管理に関する 助言などを行う 職場適応援助者(ジョブコーチ)※1 による支援事業があります ○行目の最後に スペースを 入れましょう あとはOKです 重度の視覚障害者を 雇用する際に資料の読み上げや 記録、視覚障害者が作成した 文書の確認等、視覚障害者の依頼に 基づき、業務のサポートをする 職場介助者を配置した場合 「障害者介助等助成金※2 (職場介助者の配置または 委嘱助成金)」を 活用できる場合が あります ※1 事例3(P44~49)参照 ※2「事業主に対する助成措置」(P77)参照 15 基礎編 シーン4 視覚障害者の業務 視覚障害者は 実際に どのような業務に 従事しているのですか それでは 視覚障害者が 活躍している業務を ご紹介いたします 総務人事での業務 企業内全社員の勤務時間や 残業時間の集計・分析 給与システムの入力 安全衛生にかかる定期健康診断結果の報告 新人研修や社員研修の資料作成 応募者のデータ管理や就職サイトの管理 内定者とのメールのやりとりによる フォロー 受付電話応対など ヘルスキーパー (企業内理療師) マッサージ等施術以外にも カルテ管理 受付業務 衛生管理 (ベッドメイク等)など その他事務系業務 経理伝票処理 営業部における各種データ加工 店舗や営業所ごとの売上げ実績の集計・分析 WEBコンテンツの作成作業 16 基礎編 他にも多種多様な業務に 従事しています 視覚障害者それぞれの 職務スキルや障害の程度と 各企業において 設定できる業務を 照らし合わせながら 検討していただけたらと 思いますし もし職務の設定で お悩みの場合は ハローワークや 障害者職業センターなどに ご相談いただければ 一緒に検討していきます 以上 いろいろと ご説明してきましたが いかがでしたか とても勉強に なりました 今日の話を聞いて わが社でも 採用を 検討できるように 思いました 面接を実施し 前向きに 検討していきたいと 思います 何かわからないことがあれば ご相談させていただきます はい いつでもご相談ください よし 帰ったら上司に 報告しなければ いけないね 面接の準備も 進めましょう! 17 基礎編 解 説 視覚障害者に関するデータ 視覚障害者の数  厚生労働省が平成28年に実施した生活のしづらさなどに関する調査によると、全国の視覚障害による身体障害者手帳所持者数は31万2千人となっており、これは身体障害者手帳所持者数全体の7・3%を占めています。なお、全国の身体障害者手帳所持者数は428万7千人です。 視覚障害者の職業紹介状況  厚生労働省の令和3年度障害者の職業紹介状況等から抽出したデータによると、就職件数は1,497件で、就職率は36%となっています。  職業別の就職件数を見ると、「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師」が435件(29・1%)と最も多く、次いで「運搬・清掃・包装等の職業」が315件(21%)、「事務的職業」が288件(19・2%)となっています。重度視覚障害者(身体障害者手帳1、2級)については「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師」が338件(41・8%)と最も多く、構成割合は重度視覚障害者以外を含めた時よりも高くなり、他の職業における割合がその分低くなっています。 障害の種類別にみた 身体障害者手帳所持者数 (総数:4,287,000人) 肢体不自由 1,931,000人 (45.0%) 内部障害 1,241,000人 (28.9%) 聴覚・ 言語障害 341,000人 (8.0%) 視覚障害 312,000人 (7.3%) 不詳 462,000人 (10.8%) (厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」より) 1 視覚障害者の職業紹介状況(令和3年度累計) (件、人、%) 新規求職申込件数 有効求職者数 うち重度 うち重度 計 4,160 2,039 8,738 4,872 就職件数 就職率 うち重度 うち重度 計 1,497 808 36.0 39.6 2 視覚障害者の職業別就職件数 (件、%) 職業 視覚障害者 構成比 重度 構成比 合計 1,497 100 808 100 専門的・技術的職業 573 38.3 424 52.5 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師 435 29.1 338 41.8 ヘルスキーパー 17 1.1 10 1.2 福祉施設指導専門員 44 2.9 27 3.3 老人福祉施設専門指導員(機能訓練指導員を含む) 32 2.1 25 3.1 理学療法士 18 1.2 14 1.7 情報処理・通信技術者 3 0.2 0 0.0 その他 73 4.9 45 5.6 管理的職業 2 0.1 1 0.1 事務的職業 288 19.2 136 16.8 販売の職業 30 2.0 11 1.4 サービスの職業 170 11.4 64 7.9 保安の職業 24 1.6 7 0.9 農林漁業の職業 24 1.6 9 1.1 生産工程の職業 58 3.9 21 2.6 輸送・機械運転の職業 4 0.3 0 0.0 建設・採掘の職業 9 0.6 3 0.4 運搬・清掃・包装等の職業 315 21.0 132 16.3 (厚生労働省「令和3年度 障害者の職業紹介状況等」より抽出) 18