実 践 編 事例 3 ジョブコーチ支援を活用して 課題改善を図った事例 大谷 宏一 さん(19歳) 疾患名:先天性白内障 視力・視野:弱視、視野狭窄 島田商事は 特別支援学校(盲学校) からの依頼を受けて 3年生の 大谷さんを 職場実習生として 受け入れた 職務上の 課題があるため ジョブコーチ支援を 活用することと なった シーン1 課題の洗い出しと改善への取組 大谷さん 10日間の職場実習 お疲れ様でした 感想はどうでしたか 山田総務部長 はい 慣れない作業で 緊張しましたが 皆さんのご指導で 何とかできるように なったと思います 職場実習の作業は 『パソコンデータ入力』 『郵便物や宅配物の 受取・発送・仕分け』 『ファイリング』 『シュレッダー』 『会議室の片付け』 倉澤主任 から見て どうだった? はい よく頑張っていましたし 作業も一通り できていました ただ、時間が かかり過ぎていたり 細かな部分でミスが 目立ちました 卒業後の採用に当たって その点を改善できると いいのですが… ではトライアル雇用※1を 活用してはいかがでしょうか? あわせて 障害者職業センターから ジョブコーチ※2を 派遣して もらう方法も あります 教諭 ※1※2解説ページ(P49)参照 44 実 践 編 事例3 ジョブコーチ支援を活用して課題改善を図った事例 わかりました 早速相談して みましょう 障害者職業カウンセラー …というわけで 職場実習を 終えたのですが 視力や視野が影響して いるかもしれませんね 支援の中で 職務上の課題を把握して 一緒に解決策を考えて いきましょう 島田商事は トライアル雇用制度 を活用すると同時に ジョブコーチ支援 活用することと なりました おはようございます ジョブコーチの 長谷川です 主任の 倉澤です よろしく お願いします 支援が始まった 大谷さんの 業務状況を 見てみましょう 机が 散らかって いる ○○の ファイルを 持ってきて くれる? 目当ての ファイルが 見つからない 会議室の ホワイトボードが 汚れている 45 実 践 編 事例3 ジョブコーチ支援を活用して課題改善を図った事例 大谷さんの課題を 改善するために いろいろ指導してみましたが なかなか改善しません 大谷さん自身も 改善しようと いう努力は 見えるの ですが… 何度か作業の様子を拝見し 大谷さんとも話してみました そこで倉澤主任に いくつかご報告とご提案が ございます 作業に 時間がかかって しまうのは 次のことが 要因と 考えられます 要因 1 各作業における 手順が一定でなく 思い出すのに 時間がかかっている 要因 2 机の上や引き出しの中が 雑然としており、 業務で使用する 物品や書類を探すのに 時間がかかっている 大谷さんに渡すべき 書類を 不在時に適当に置い ているため 気づきにくい あら いないの… 机の上に 置いておくね 要因 3 棚にあるファイルの 文字が小さく 見つけるのに 時間がかかっている 46 実 践 編 事例3 ジョブコーチ支援を活用して課題改善を図った事例 どのように 改善すれば いいのでしょうか そうですね それぞれの課題について 一つずつ検討して みましょう 改善への 取組 1 これくらい 大きな字で なるほど 作業の工程や ポイントをまとめ 見やすいように 文字を大きくしたり 色使いを工夫するなど 大谷さんのための 作業マニュアルを 作成 改善への 取組 2 机の引き出しの中や 机の上それぞれどこに何を 置くのかを定めておく また 他の社員が大谷さんに 渡すべき書類等を 置く場所を決めておく みんなも 大谷さんへ渡す 書類は 連絡箱の中に 入れるように どこにあるか わかりやすい です 改善への 取組 3 大谷さんが 探しやすいよう 社員と協力して 分類コードごとに ファイルの見出しを 色分けし 表題を大きな文字に 変更する これならすぐに 見つけられる それから 会議終了後の 片付けで 毎回 ホワイトボードの 拭き残しが 目立つのですが… どう指導したら いいでしょうか おそらく 薄く残た消し跡が 見えにくいことと 視野狭窄により ホワイトボードの近くで 全体を見ても 見落としている可能性が あります 47 実 践 編 事例3 ジョブコーチ支援を活用して課題改善を図った事例 汚れ具合を 判断してきれいに するのではなく 全体を定型的に 拭き上げるように しては どうでしょうか イレイザーでは 落ちにくいことが あるかもしれませんので 濡れ雑巾で拭きあげ その後 乾いた雑巾で仕上げるのが いいかもしれませんね なるほど、 早速大谷さん と一緒に やってみます まず、濡れ雑巾 次は乾いた雑巾で 提案いただいた とおり 試してみたら うまくいきました ありがとう ございます 3か月後、ケース会議にて 不安だった点も 改善でき ましたね この3か月間 よく頑張って くれたね 来月から正式採用 としますので 引き続き頑張って ください ありがとう ございます 今後も新たな業務に取り組む 中で課題が出てくることが あるかもしれませんが 引き続き作業上のポイントを 明確に伝えていただくとともに 改善すべき事項や 達成できたことを フィードバックしていただく ことが大谷さんの成長に つながると思います そうですね 大谷さんだけでなく 私たちも頑張って いきます 48 実 践 編 事例3 ジョブコーチ支援を活用して課題改善を図った事例 解 説 障害者トライアル雇用助成金、 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援 障害者トライアル雇用助成金  障害者を一定期間雇用することにより、その適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進すること等を通じて、障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的とするものです。  また、障害者の安定的な就業の場が確保されるようにする観点から、その後の継続雇用される労働者として雇用を図るものです。 ●実施期間 原則3か月で、ハローワークの職業紹介により、有期雇用契約を締結します。 ●申込手続き トライアル雇用に係る求人申込を管轄するハローワークで行ってください。 ●助成金の支給 トライアル雇用を実施した事業主に対して、トライアル雇用助成金が支給されます。原則として対象者1人当たり月額最大40,000円です。(最長3か月) ●対象となる事業主は、過去6か月の間に労働者の解雇を行っていないなど諸条件がありますので、利用に当たっては管轄のハローワークへ事前にご相談ください。 不安 事業主 ■ 障害に応じた職場の配慮事項が分からない ■ 障害者への接し方、雇用管理が分からない ■ 身体障害者は雇用しているが、視覚障害者を 雇うのは初めて ■ どのような仕事を担当させればよいか分からない 不安 障害者 ■ どのような仕事が適職か分からない ■ 就職は初めてなので、職場での仕事に耐えら れるか不安 ■ 訓練を受けたことが実際に役立つか不安 不安の 解消・軽減 トライアル雇用 (3 か月間の有期雇用) 常用雇用 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援  障害者が円滑に職場へ適応することができるように、ジョブコーチが職場に出向き、対象となる障害者や事業主のニーズや課題を踏まえた支援計画に基づいて、障害者本人と事業主や職場の従業員に対してきめ細かな人的支援を行う制度です。 ●支援の契機 雇用の前後を問わず、必要なタイミングで支援が可能です(例:不安の軽減や作業手順を覚えるために雇い入れと同時に支援を開始。配置転換や人事異動といった職場環境の変化により職場適応上の課題が生じたため雇用後の支援を開始。)。 ●実施期間 個別に必要な期間を設定します(標準は2~4か月)。職場適応上の課題が改善され、職場の上司や同僚が適切に関われるようになった段階で支援が終了となります。支援終了後は、必要なフォローアップを行います。 ◇視覚障害者及び視覚障害者を雇用する事業主からの職場適応に係る支援のニーズは近年高まってきており、事務的職種やヘルスキーパー等における新規雇用はもとより、雇用継続や職場復帰についても、ジョブコーチによる支援の実施が今後一層期待されています。 事業主(管理監督者・人事担当者) ●障害特性に配慮した雇用管理に 関する助言 ●配置、職務内容の設定に関する助言 障害者 ●作業遂行力の向上支援 ●職場内コミュニケーション能力 の向上支援 ●健康管理、生活リズムの構築支援 同 僚 上 司 同 僚 ジョブ コーチ ●障害の理解に係る社内啓発 ●障害者との関わり方に関する助言 ●指導方法に関する助言 家 族 ●安定した職業生活を送るための  家族の関わり方に関する助言 集中支援 不適応課題を分析し、集中的 に改善を図る 週3~4日訪問 移行支援 支援ノウハウの伝達やキーパーソンの育成 により、支援の主体を徐々に職場に移行 週1~2日訪問 フォローアップ 数週間~数か月に 1度訪問 支援期間1~8か月(標準2~4か月()地域センターの場合) 49