実 践 編 事例 5 在職中に受障し、日常及び就労面の 訓練を受けて職場復帰を果たした事例 渡辺 晴幸 さん(42歳) 疾患名:事故による両眼の損傷 視力・視野:全盲 建設現場での 現場監督だった 渡辺さんは 作業中落下してきた 鉄パイプが頭部を直撃し 両目の視力を失った その後、訓練を経て 職場復帰した シーン1 職場復帰を見据えた訓練の実施 渡辺さんは 前途に失望し 気力がわかない状態が 続いていました 眼科医は ロービジョン ケアとして 自立した日常生活を 送るための訓練や 継続就労に関する 助言、心理的なケアを 行いました 渡辺さんは徐々に気力を回復し リハビリテーションを 受けるようになりました リハビリテーション 歩行訓練 日常生活動作訓練 コミュニケーション訓練① コミュニケーション訓練② 58 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 竹中業務第一課長は 渡辺さんの職場復帰の 可能性を探るため、 障害者職業センターを訪問 ノジマ建設の 竹中です 障害者 職業カウンセラーの 井上です 中途で視覚障害者 となった方が 職場復帰して 頑張っておられる 会社を見学し 何ができるのかを 把握したいの ですが… そうですね お話を聞く限り 建設現場での仕事は難しそう ですので パソコンのスキル向上を 図って事務的な職種に 配置転換するのがいいかも しれませんね まずは何社か探して みましょう ここだな 本日はお世話に なります 当社も、はじめは 本当に復帰できるのか 復帰したとしても どのような 仕事を任せればよいのか 分からず悩みました 59 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 でも、医療的な処置が 終わり リハビリテーションへ 移行した際に 支援機器を利用して パソコン操作をする 職業訓練を 受けたことから データ処理や文書処理が できることが 分かったのです それから本人と話し合い 復帰を決めました うん、中途の 視覚障害者であっても これだけパソコンが 活用できるのなら 渡辺さんも必ず復帰 できるはずだ! 日常生活動作訓練 竹中課長は 渡辺さんの訓練の 進捗状況を 確認するため 月に1度は様子を 見に行き 話し合いを 持っていました 渡辺さん 訓練の進捗は どうだい? 課長、おかげさまで 日に日にできることが 増えていき気持ちが 前向きになってきました でも、とにかく早く 職場復帰したいです その気持ちが 正直焦りに つながることもあります 実はね 先日渡辺さんと 同じように 中途で視覚障害者になった 人が働く様子を見に 行ったんだけど 音声パソコンを使って 事務作業を していたんだよね 渡辺さんも同じ 訓練を 受けているし これなら 渡辺さんも 必ず復帰 できると 確信したんだ 60 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 それで、役員に そのことを報告したら 社長からも 『必ず復帰させるように、 渡辺さんには頑張る ように伝えてほしい』 と言われたよ そうなんですか! じゃあ、 今まで以上に 頑張らないと いやいや とにかく焦らずに パソコン操作も できることを一つずつ 増やしていくことが 大事だよ 分かりました その後、渡辺さんは 次のステップとして 視覚障害者の 職業能力開発施設で より高度なパソコンの スキル向上を 目指しました 渡辺さんは 訓練から職場復帰へ スムーズに移行する ことを考え 訓練期間中に 後藤訓練指導員と 職場を訪れました 二人は 社内システム担当者を 交えて社内システム (グループウェア等)における 画面読み上げソフトの 読み上げ状況を検証しました 後藤訓練指導員は 渡辺さんに 社内システムに応じた キーボードによる パソコン操作の ポイントを指導しました 61 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 シーン2 職場復帰への移行 竹中課長は 職業訓練期間中も 定期的に渡辺さんとの 面談を実施し 訓練の進捗報告を 受けていました なるほど いろいろな操作ができる ようになって パソコンスキルも 向上しているようですね 渡辺さんは 表計算ソフトでの 関数を使うことが 得意ですね あとはとにかく 明るいですし コミュニケーション を取ることが 好きなようなので それらを活かせる 業務があると 良いですね …というわけで 渡辺さんは 音声パソコンを使って 一定のスキルは 身につけた そこで、復帰後は 事務職として 本社での業務に 携わって もらおうと思う 具体的な業務としては これまでの現場監督の 経験を活かし また習得したパソコンの スキルを活用して 現在各現場の担当社員が ばらばらに購入している資材を 渡辺さんに一括して 購入契約をしてもらおうと思う 62 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 いいですね 現場担当社員の 負担軽減にもなりますし 何より渡辺さんの明るさや コミュニケーション力が 活かせそうですね その後まもなく渡辺さんは 職業訓練を修了し、職場に復帰しました 休職中の段階から 社内システムにおける 音声パソコンの読み上げ 状況を検証したり 社内システムに応じた パソコン操作を 学ぶことができたため 復帰後はスムーズに業務に 携わることができました 業務は 「資材の価格調査・価格折衝 電子見積や電話による 業者との取引」で 各種資材や取引先業者を データベース化し効率的に 業務を進めています 63 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 周囲では 会議室へのガイドや 通路に物を置かないことなど 渡辺さんが働きやすい環境を つくるための配慮が なされています 会議室に 行きましょう スムーズに 職場復帰 できたようだね 社長 おかげさまで渡辺さんも周囲も 違和感なく 業務をこなしています 渡辺さんの業務によって 現場の社員の負担が 減るとともに 入念な価格調査と交渉による 一括購入により 大幅なコストダウンを 達成できました 64 実 践 編 事例5 在職中に受障し、日常及び就労面の訓練を受けて職場復帰を果たした事例 解 説 中途障害者の職場復帰のポイント 職場復帰に向けて 1 長期的な視点での対応が必要です。  疾病や事故等により視覚障害となることは、本人の生活 に大きな制限や困難をもたらし、精神的にも大きなダメー ジとなるため、本人が障害を受け止めるには時間がかかり ます。企業としては、これらのことを理解し、会社として今 後の支援の見通しなどを示すことが望まれます。  職場復帰の際には、配置転換やそれに伴う技術習得の 必要性など、長期的な視野で対応することが必要になり ます。産業医や主治医と相談したり、リハビリテーション 施設等に同行して職場復帰に向けたプロセスを確認する ことが大切です。 2 本人、主治医、訓練担当者と  必要な治療やリハビリテーションにより自立の見通し がたってきたら、職場復帰への準備をはじめます。  職場復帰の際には、配置転換等を検討する必要のある 場合もあるので、本人の希望を確認した上で、職種や配属 先についての打合せをします。その際、仕事の内容や手 順、就労支援機器の必要性等を確認します。  就労支援機器等の整備については、視覚障害者がパソコンを利用するに当た って、業務システムや社内向けウェブサイトなどがマウスを使わずキーで操作 できるか、また、画面読み上げソフトや拡大ソフトがインストールできて業務 システム等との互換性の面で不具合が生じないかなど、システム担当者との打 合せも必要となります。  この他、通勤や事業所内での移動、食事など仕事以外の場面においてもどの ようなサポートが必要となるのか検討、調整を行います。その際、生活訓練や 職業訓練などの担当者からアドバイス を得ることも有効です。 3 社内の理解を進める  職場復帰が決まったら、配属先の上司 や同僚の視覚障害に対する理解を深め ることが大切です。  視覚障害者への一般的な配慮事項を 知ってもらうことも大切ですが、障害の 状況は一人ひとり違いますので、本人と よく話し合って、どのようなサポートが あると良いのかを職場で共有するよう にしてください。 <一般的な職場復帰までのプロセス> 治 療 リハビリテーション(必要に応じ生活訓練、職業訓練) 職場復帰の調整 職場復帰 復帰後のフォロー 65