実 践 編 事例 6 在宅勤務を導入した事例 余野木 守 さん(38歳) 疾患名:網膜色素変性症   視力・視野:弱視と視野狭窄から 全盲へ 城山総合建設に入職し 総務や企画部門にて 画面拡大ソフトや 拡大読書器等を活用 しながら勤務 進行性の疾病により 全盲になって一時 休職していた… 会社移転のため 通勤困難となったが 在宅勤務にて 職場復帰した シーン1 在宅勤務導入に当たっての取組 城山総合建設の会議室 余野木さんは これまで 複数の 部署での 職務経験が あります 周囲からの 人望も厚く 川村設計課長 全盲になっても 継続して就労 してもらいたい ですね 城山取締役 余野木さんは今 休職して職業訓練を 受け 画面読み 上げソフトを活用 したパソコン操作 を習得していると 聞いていますが そろそろ修了する 時期ですね 職場復帰後の 職務は決まって いるの? 訓練状況を 確認しましたが エクセルでのデータ処理や ワードでの文章作成は 十分こなせるようです ただ、今までのように 紙の資料をもとに 業務を行ったり 電子データに起こす 作業は難しいようです それを考えると 新たな職務の創出が 必要ですね 66 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 わが社は来月に 移転するけど 通勤はどうする つもりなのだろう? そこが問題なんです 余野木さんは 移転後の社屋への 単独通勤が難しいようで 通勤するために ご家族のサポートを 検討している ようです そう言えば障害者雇用の一つの 手段として在宅勤務があると 聞いたことがあります 導入するにはいろいろと配慮 すべき事項があるとも 聞いています 情報収集が必要ですね では、川村設計課長は 職務内容について 余野木さんと連絡を取りながら 部署内で検討すること そして馬島人事主任は 在宅勤務導入に関する情報を 収集することから 始めてほしい 訓練の進捗状況は どうですか? はい、順調に 進んでいます 職場復帰後のこと なんだけど 先日 人事との打ち合わせの中で 在宅勤務について話が 出たんだ 余野木さんはどう思う? 在宅勤務ですか 今まで考えたことは なかったですけど 通勤の大変さを考えると いいかもしれません 67 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 これまでどおりに 対応するのが難しい職務も あるだろうから 新たな職務も 考えなくては… そのことなんですが 一つ提案があります 私はこれまで いろいろな部署を 経験させていただいた ことで気付いたことが あるんです それはどの部署でも 他部署の情報が 入りにくいことと 業務のベースとなる業界 ニュース等の情報収集を する時間が取りにくい ことなんです これらを解消するために 各部署の業務紹介や最新情報 業界関連ニュースの 紹介を主とした社内の メールマガジンを 始めたらどうかと… なるほど メールマガジンの 作成であれば電子媒体で情報を取得しやすいですし 自ら執筆するにしても 原稿を他の部署に 頼むとしても紙媒体を 介することなく電子媒体で やりとりできます そうだね それなら 在宅勤務でも対応できるな よし、早速検討してみるよ 余野木さんは メールマガジンの企画を 練っておいてくださいね はい、実は職場復帰に 当たってご提案させて いただこうと思って いたので 既に作成済みです 一方、馬島人事主任は 在宅就業支援団体に 相談しに行きました 城山総合建設 人事の馬島です 在宅支援団体 さとみ会の 瀬川です 68 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 …というわけで 当社では在職している 視覚障害者を 通常勤務から 在宅勤務へ移行することを 検討している次第です 導入に当たっての 留意事項を教えてください そうですね まずは在宅勤務者のための 社内制度を整備しなければ なりません 例えば勤務管理や報告の方法 出社の取扱い 通信機器や通信費用負担の 取扱いなどが挙げられます なるほど 他には 在宅勤務になると 通常勤務者との コミュニケーションが 不足しがちになります そのため業務上の やりとりをしやすくする ことはもちろん 業務外の内容を相談できる 体制を構築しておくことも 望まれます 他にも留意しておくことは ありますが まずはイメージづくりの ために先行導入企業の 見学やお話を聞くことが お薦めです 分かりました ありがとう ございます その後 先行導入している 企業の見学を実施しました 職場復帰前の打ち合わせ 在宅就業支援団体への 相談と先行導入企業の 見学を踏まえて 就業規則等の取り決め をしたいと思います ○就業規則はこれまでどおりの扱いとする ○規則上取り決めのない事項は以下のとおりとする ・勤怠管理:社内システムのスケジュール表更新により       業務の開始と終了を報告する ・定期出社:月に1回所属部署の業務打合わせと兼ねる ・通信機器:業務上のパソコン、支援機器を貸与する ・通信費負担:業務用回線を増設して当該費用を会社が        負担する ・情報セキュリティ:ウィルス対策ソフトの導入、扱う           データは機密性の高いデータを除く など 69 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 このほかに 『業務進捗管理』は 日報の提出と処理した 作業データの提出で確認し 上司からの フィードバックにより 行うようにします 『業務連絡』はメールと 電話により行うほか 社内システムで 回覧物の電子 データを確認 することとします 業務外の相談体制として 3か月に1度定期出社の際に 川村設計課長と私で 相談を実施することに したいと思います これまでの業務の中で 継続してできるデータ 処理業務は社内システム を通じて提供します なお、情報セキュリティの 観点からも 問題ございません そのほか 新たな 職務について 余野木さんから 企画が挙がって います …ということから メールマガジンの作成を 提案いたします 以上を踏まえて 在宅勤務を導入したいと 考えておりますが いかがでしょうか なるほど よく分かりました それでは取組を 進めてください 70 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 シーン2 在宅勤務定着に当たっての取組 余野木さんの在宅勤務に 必要な手続きや 設備の設置が行われました 余野木さんは在宅勤務を 開始しました 主な1日の流れ 9:00 ○社内システム内のスケジュール表に業務時間を 入力して業務開始 ○メールマガジン作成に  係る建築資格関連情報や  業界ニュースなどの記事  ネタをインターネット等  から収集 ○データ処理作業 12:00 ~ 13:00 昼休憩 13:00 ○メールマガジン原稿作成、  依頼した原稿のチェック 17:30 ○日報とメールマガジン原稿を上司へメール 18:00 ○社内システム内のスケジュール表に業務終了を 入力 メールマガジンの業務の流れ 打合せ ●川村設計課長ほか  社員数名と  定期出社時に  打合せをして、  構成や内容を  決める ●記事ネタの収集、他部署の社員  に原稿執筆依頼 ●原稿作成、執筆依頼した原稿の  チェック チェック ●原稿(自筆分、依頼分)等を川村設計課長  に提出 ●川村設計課長が校正して余野木さんに  フィードバック 配信 ●川村設計課長の  所属部署の担当  者がレイアウト  を整えてメール  マガジンを配信 業務上の取組での工夫 メールマガジンを執筆依頼する場合 余野木さんが直接担当部署へ電話や メールなどで依頼することとしました こうすることによって 所属部署だけではなく 他部署の多くの 社員と関係を 築くことになります 将来的には 社内のテレビ会議のシステムを 余野木さんの部内会議への 出席や業務の打合せ等に 活用することも検討しています 71 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 定期出社の際 メールマガジン来月号の打合せ会議 を行うとともに総務部門を訪問し 必要に応じて事務手続きを行うよう にしています メールマガジンで 執筆依頼する 社員とも 極力直接会うように しています 3か月に1度は 川村設計課長と 馬島人事主任 余野木さんとで面談を実施し 体調面の確認を含めて 業務外での悩みや不安に 対応する形を定着させました 定期出社した日の 業務時間後は… 余野木さん、 今月はどこに 行く? いつものところ でいいんじゃ ないですか 余野木さん 最近新しい店が できたので そこに行って みましょうよ! メールマガジン は社内で好評だよ 業界ニュースなど のネタを盛り込ん でくれているので ありがたいという 声もあるし ありがとう ございます! そう言っていただ けると モチベーション が上がりますね コミュニケーション 面で足りないこと とか不安なことは ない? 特に不安はないです でもコミュニケーション を深める手段で一番良い のは私にとっては これです! よし! じゃあ これからもみんなで力を 合わせて頑張っていこう かんぱーい! 72 実 践 編 事例6 在宅勤務を導入した事例 解 説 在宅勤務に関する手続き、マニュアルの紹介 障害者の在宅勤務は、一般的な在宅勤務とは異なる配慮が必要となります。企業が障害者の在宅勤 務を導入する際のプロセスとその特徴について、ポイントを絞り、以下の図のとおりまとめましたの で、参考にしてください。 在宅勤務導入のプロセス 導入の検討と経営判断 (導入目的を明確にしておきます。) 現状把握 (在宅勤務に関連する制度等を把握します。) 受入れ部署、職務内容の検討 社内制度の作成 ①勤務時間や賃金などの労働条件 ②勤務管理や報告の方法(メールや電話など) ③定期出社の取扱い(定例会議に合わせるなど) ④福利厚生 ⑤業務管理の方法(作業の成果物の提出・チェッ ク・フィードバック等によってなど) ⑥通信機器や通信費用負担の取扱い、障害の状況 に応じた機器の設定など ⑦社内教育の取扱い ⑧情報セキュリティの確保 などについて、取り決めておくことが必要です。 導入スケジュール の策定 支援体制の整備 ①在宅勤務コーディネーターの配置の検討(障害 者雇用納付金制度に基づく助成金の検討) ②コミュニケーション体制の確立(メールや電話、 ネットミーティングなどの手段の検討。上司だ けでなく同僚や人事担当者など多様な関係者と のつながりの形成) ③健康管理支援 ④相談窓口の設置 ⑤社内システムへのアクセス環境(リモートアクセ スについて、OSやアプリケーションをサーバー 側で一元管理するシステムについて) などについて検討して整備することが重要です。 受入れ部署等に対する 教育研修の実施 在宅勤務の導入 導入後の問題点の把握 疲労の蓄積がないか、孤独感を感じることが ないかなど身体面及び精神面の状況把握と必 要なフォローアップが必要です。 在宅就業支援団体等への相談や先行導入企業の見学を通じて、情報を収集するととも に、必要に応じてアドバイスや支援協力を得ることが有効です。 障害者の在宅就業に関する支援制度や在宅勤務事例については、専用ホームページに て紹介しています。 (URL:https://www.challenge.jeed.go.jp/) 障害者の在宅就業支援ホームページチャレンジホームオフィス 73