障害者雇用マニュアル コミック版 A 知的障害者と働く ―理解を深め、ともに働く環境づくり― はじめて障害者雇用する企業を支援 マニュアルで仕事が上達 家族の協力 ジョブコーチ支援で職場定着 高齢化への対応 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 はじめに  本マニュアルは、知的障害者の雇用および職場定着を推進することを目的として、知的 障害者雇用のノウハウを平易でわかりやすいコミック版の形式で解説したものです。平成 10年3月の初版から幾度の改訂を行い、障害者や事業主に対して、雇用の前後を通じて障 害特性を踏まえた支援を行う「ジョブコーチによる支援事業」を活用した事例や、就業面 と生活面の一体的な支援を行う「障害者就業・生活支援センター」と連携した事例、知的 障害者の高齢化への対応などの視点を盛り込み、これまで多くの企業でご利用いただいて いるところです。  平成28年4月1日から全ての事業主を対象に、雇用分野における障害者に対する差別の 禁止及び合理的配慮の提供が義務付けられたことなどを踏まえて、本マニュアルが今後と も更に多くの企業などで活用され、知的障害者の雇用促進、職場定着に役立つものとなれ ば幸いです。 令和元年8月 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 P2 CONTENTS 知的障害者と働く ―理解を深め、ともに働く環境づくり― はじめに 目次 2 主な登場人物 4 基礎編 プロローグ 6 知的障害とは 8 知的障害者の雇用の実態 9 実務偏 1 新規雇用事例 ジョブコーチ支援で受け入れをサポート 職場:スーパー 従事作業:商品の品出し、陳列、清掃作業 シーン1 求職活動 12 解説 支援機関の名称と主な業務内容 16 シーン2 面接 18 解説 障害者を雇用する場合に活用できる支援制度 20 シーン3 ジョブコーチ支援スタート 22 シーン4 通勤時の配慮 24 解説 通勤時の配慮 25 シーン5 わかりやすい教え方 26 解説 仕事の習熟をサポートするポイント 30 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 職場:自動車部品工場 従事作業:工場敷地の緑化、福利厚生施設等の清掃 シーン1 安全意識 32 シーン2 マニュアルの作成 34 解説 マニュアルの効果 38 シーン3 昼休みの過ごし方 40 解説 適切な行動と不適切な行動 42 P3 3 職場定着事例 遅刻が増えて、家族と協力して解決 職場:菓子製造会社 従事作業:商品用箱折り、箱詰め、ばんじゅう洗浄 シーン1 障害者就業:生活支援センターとの連携 43 解説 障害者職業生活相談員とは 45 シーン2 家族との連携 46 解説 家族との連絡方法 49 シーン3 余暇活動への参加 50 4 職場定着事例 指導担当者の異勤がきっかけで、作業遂行に課題が発生 職場:老人福祉施設 従事作業:清掃、洗濯物たたみ、介護補助 シーン1 地域障害者職業センターとの連携 52 シーン2 職務創出と指示系統の明確化 56 5 職場定着事例 親の高齢化のためグループホームに入居 職場:クリーニング工場 従事作業:洗濯作業 シーン1 家族の高齢化 60 解説 職場のサポート体制 63 シーン2 グループホームの活用 64 解説 事業所における知的障害者の高齢化への対応 66 エピローグ 68 資 料 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 地域障害者職業センター、広域障害者職業センター一覧 70 都道府県支部高齢・障害者業務課一覧 71 引用・参考文献一覧 72 障害者雇用に役立つ資料 73 P4 主な登場人物 上田 一郎さん (20歳・知的障害) 特別支援学校高等部を卒業、就労移行支援事業所に通った後、地域障害者職業センターの 支援を利用する。スーパーマーケット井上に採用され、食品売り場で就労を始めた。 中川 英治さん (18歳・知的障害) 特別支援学校高等部に在籍中、自動車部品製造工場で2週間の職場実習を体験。実際の作 業をとおして働き方を学び、卒業後採用された。 木村 由美さん (25歳・知的障害) 菓子製造会社に就職。元気に働きだして1年半後、友達と会えない悩みを抱える。障害者 就業・生活支援センターを通じて余暇活動に参加することで、再び元気に働きだした。 前川 花梨さん (25歳・知的障害) 老人福祉施設で清掃、洗濯物たたみ、レクリエーション補助など、介護補助スタッフとし て活躍。身近な職員が異動したことにより作業に戸惑ったが、無事クリアして就労を続け た。 服部 春夫さん (51歳・知的障害) クリーニング工場で働き勤続25年目となるが、父親が急逝、将来の自立した生活を目指し てグループホームに入居して働き続けることになった。 加藤 伸司さん 40歳・地域障害者職業センターの障害者職業カウンセラー。事業主に対して、障害者雇用 を進めるための相談や職場定着に向けた助言を行っている。 奥田 博さん 35歳・地域障害者職業センターのジョブコーチ。障害者が職場に適応できるよう職場に出 向いて支援している。 ※ この作品は複数の雇用事例を基に構成したものです。登場する人物、企業等はすべて架 空のもので実在するものではありません。 P5 基礎編 ● プロローグ 6 ● 知的障害とは 8 ● 知的障害者の雇用の実態 9 P6 基礎編 プロローグ プロローグ はいスーパーマーケット井上人事の飯野です ハローワーク障害者相談窓口担当江川と申します 今回、ハローワークに求人のお申し込 みをいただいていますが知的障害者の雇用を検討していただけませんか ハローワークも サポートしますし、障害者職業センターという専門機関もありますよ えっ… 当社では知的障害者の採用はしたことがありませんし…う〜ん 知的障害者の採用か… P7 基礎編 プロローグ ずいぶん一生懸命に作業をしていますね 近所にある就労移行支援事業所に通って、訓練を受けている知的障害のある人たちですよ 作業の一貫として園芸活動をしています ほー 元気がありますね 知的障害者は 十分働けるかも… 早速ですが知的障害者について教えてください はい、わかりました 知的障害とは… 知的障害とは… P8 基礎編 知的障害とは 解説 知的障害とは 1.障害の概要  知的な発達に遅れがあり、意思交換(言葉を理解し気持ちを表現することなど)や日常 的な事柄(お金の計算など)が苦手なために援助が必要な人といえます。  知的な遅れがあるといっても、すべての能力が遅れているわけではありません。「話し言 葉は理解できるが、文章の理解や表現は苦手」という人もいますし、「言葉による指示より 視覚的指示の方が理解しやすい」という人もいます。障害の程度、適性、意欲、興味、体 力などは個人差もあり、知能指数だけで職務能力を判断することは避ける必要があります。 2.配慮事項 いろいろな人から説明や指示を受けると混乱してしまいます。指導担当者をはっきりさ せることが大切です。  機械を導入して工程を単純化したり、工程を細分化して作業を可能にした例も多くあり ます。「それ」「あれ」などの言い方や抽象的な表現は避け、簡潔で具体的な表現が大切で す。絵や図を使ったり、注意事項などは黒板に書いたりするのもよいでしょう。やってみ せて、次に、本人にやらせて理解を確かめます。  一般に文章理解、数字の操作が苦手ですが、1個できあがるたびにカウンターを押して 数を数えなくてもよくする、砂時計やタイマーを使用して正しいタイミングや必要な時間 の長さを測るなど、道具の利用や工夫によって解決できることもあります。 3.「障害者の雇用の促進等に関する法律」における知的障害者の範囲 何によって確認? 地方自治体から療育手帳(自治体によっては、「愛の手帳」や「緑の手帳」などの名称があ ります)が交付されます。 ※ 療育手帳のほか、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センターまたは精 神保健指定医による判定書や地域障害者職業センターの判定書でも知的障害の確認ができ ます。 手帳の等級 手帳において障害程度はA(重度)、B1(中度)、B2(軽度)に区分している自治体が 多いです。 重度障害者 療育手帳Aと地域障害者職業センターで重度知的障害者と判定された者が重度障害者の扱 いとなります。障害者雇用率において、1人を2人として算定されます。 短時間労働者 障害者雇用率において、重度障害者が1人として算定されます。 重度以外の障害者が0.5人として算定されます。 4. 知的障害者の人数  内閣府の令和元年版の「障害者白書」によれば、在宅の知的障害児・者は約96万2千人 と推計され、これを社会福祉施設に入所している知的障害児・者約12万人と合わせると、 わが国の知的障害児・者数は約108万2千人です。 P9 基礎編 知的障害者の雇用の実態 5. 知的障害者の新たな職域  近年は定型業務に加え、事務補助や介護などの業務にも知的障害者の職域が広がってい ます。 【例】 ・ パソコンを使用して名刺作成 ・ 全国の支店などへメール発送 ・ 介護施設におけるベッドメイキング、利用者の誘導 ・ 保育園における園児の遊びや食事の介助、昼寝の布団の準備 (「障害者雇用事例リファレンスサービス」(https://www.ref.jeed.or.jp/)及び「知的障 害者のための職場改善に関する好事例集」(2007)より) 知的障害者の雇用の実態 (厚生労働省:平成30年度障害者雇用実態調査の結果より) 1. 雇用されている知的障害者の人数  厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、5人以上の常用労働者を雇 用している民間の事業所に常用で雇用されている知的障害者は、全国で18万9千人と推定 されています。 2. 産業別の雇用状況  産業別にみると、製造業で25・9%と最も多く雇用されています。次いで、卸売業、小 売業23・7%、医療、福祉21・9%となっています(図1 ー 1)。 3. 職業別の雇用状況  職業別にみると、生産工程の職業が37・8%と最も多く、次いでサービスの職業が22・ 4%と多くなっています(図1 ー 2)。 図1-1 産業別の雇用状況 図1-2 知的障害者の職業別雇用状況 P10 基礎編 知的障害者の雇用の実態 4. 雇用形態と労働時間  雇用形態別にみると、正社員が19・8%であり、正社員以外が80・0%となっています。 また、週所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)が65・5%と最も多く、次いで 20時間以上30時間未満が31・4%となっています(図1 ー 3)。 図1-3 週所定労働時間別 5. 賃金の状況  知的障害者の1か月の平均賃金は、11万7千円となっています。 週所定労働時間別に みると、通常(30時間以上)の者が13万7千円、20時間以上30時間未満の者が8万2千 円、20時間未満の者が5万1千円となっています。 なお、賃金の支払形態は、月給制が 19・9%、日給制が6・0%、時給制が73・8%、その他が0・2%、無回答が0・1% となっています(図1 ー 4) 図1-3 週所定労働時間別 図1-4 週所定労働時間別平均賃金