P32 2  新規雇用  事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 職場:自動車部品工場 従事作業:工場敷地の緑化、福利厚生施設等の清掃 対象障害者 中川英治さん シーン1 安全意識 自動車部品工場 特別支援学校高等部教諭の杉 紀子です 本校に在籍中の中川英治さんです 卒業後、就職を希望しています よろしくお願いします 今回は、2週間の職場体験実習を受け入れていただきありがとうございます 工場長の羽田です 中川君、よろしくね 実習では製造ラインではなく工場敷地の緑化 福利厚生施設の清掃業務を体験してもらいます P33 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 工場内の敷地では、トラックとかフォークリフトの行き来が多いのだけれど移動するのに 中川君は大丈夫なのだろうか 中川さんは、学校まで毎日自転車で通学していますし 交通ルールも理解しています 工場内で必要な安全ルールについては実習が始まる前に指導いただければ守ることができ ると思います ただ、安全教育といっても講義だけでは、十分理解することが苦手です 一緒に敷地内を回りながら例えば、道路横断時の確認立入禁止箇所などを具体的に教えて いただけるとより理解が進むと思います 歩く人は緑色に塗られている部分を歩いてください 道路を渡るときは必ず左右、指差し確認してから渡るように やり方を見せるからやって ごらん ヨシ ヨシ 車が来ていたら車が通り過ぎるまで待つように ヨシ ヨシ P34 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ シーン2 マニュアルの作成 中川さんは仕事が丁寧ですね 中川さんが担当する清掃場所ってどのぐらいあるんですか 社員食堂と 玄関 男性用トイレが4か所 会議室 慣れてくれば除草作業や落ち葉掃きも考えていますよ 毎日決まった場所を清掃するのですか? 1日じゃ終わらないし屋外の清掃は天候に左右されるからその日その日にスケジュールを 立てなければいけないかな… P35 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 田島さんご提案なんですけど清掃マニュアルを整備しませんか? マニュアル? 毎日、同じ場所を清掃すれば手順もすぐに覚えると思うのですが 日によってスケジュー ルが異なるのであれば忘れてもすぐに思い出せるように簡単なマニュアルがあるといいと 思います 清掃作業というのは人によって手順が異なる場合があります …… どこに注意して綺麗にするかというポイントも決めづらいものです 中川さんが混乱しないように手順や注意事項を明らかにすることが大切です それと、中川さんはスケジュールの見通しがたたないと不安を感じてしまうことがありま す 朝の朝礼時に今日は「何時から何時までどこの清掃を行なう」という指示を出していただ けると中川さんも見通しをもって頑張れると思います なるほど P36 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ よし、写真を入れた マニュアルが出来た 後はプリントアウトして… よし完成だ! 翌日 皆さんおはようございます おはようございます 今日からスケジュール表を作りましたから一日の作業を確認してください わかりました 今日は大会議室の清掃から始めます 9時から12時までですよ はじめに椅子とテーブルを片側に寄せます 次に床を磨きます濡れているうちは足を踏み入れないでね これを繰り返します P37 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 午後からはトイレ掃除です 4か所ありますが丁寧にしてください はい 作業の仕方を写真入りで作りました 中川さんはマニュアルを見ながら急がなくてよいから丁寧にね はい 長靴、手袋… まず 床の水洗いをします 次は便器の掃除……柄つきのたわしでこする…… P38 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 解説 マニュアルの効果 1. マニュアル作成のメリット 知的障害者にとって 1マニュアル作成することにより、本人が行う作業手順を周囲の従業員が理解でき、指導 のばらつきを防ぐことができる(本人の理解に混乱が生じにくい)。 2口頭での指示だけでなく、視覚的なマニュアルがあればイメージを持ちやすい。 3覚えたことの確認がしやすい。 事業所にとって 1マニュアル作成を通じて、知的障害者の理解の程度やどのように支援すればよいか理解 するきっかけになる。 2マニュアル作成することにより、指導に関わる従業員全体が内容を確認でき、共通認識 が持ちやすい(指示の一本化)。 3事業所のスタッフは交代(異動)が考えられるため、マニュアルを残していくことで支 援の継続につながる(引継ぎ資料になる)。 2. マニュアルの基本的な作り方 (1) 作業手順を書き出します。  はじめての人に教えることをイメージし、行動を一つずつ箇条書きにしてみてください。 名称(作業名、使用する道具の呼び名など)は、普段使っている言葉に合わせておくと良 いでしょう。 (2) 本人に伝わるか試してみます。  マニュアルの内容を説明しながら実施します。手順に抜けがないか、読めない字はない か、伝わらない言葉がないか確認しながら、マニュアルの表現を修正していきます。 ※ 実際にやってみて、足りない注意点を加えるようにします。ふりがなをつけたり、手書 きで図を加えたりして微調整します。 (例)野菜のもりつけ 1右手にビニール手袋をはめる。 2千切りにされたキャベツを右手でとる。 3キャベツをお皿にもる。 4コーンをキャベツの上にのせる。 (例)野菜のもりつけ 1右手にビニール手袋をはめる。 2千切りにされたキャベツを右手でとる。 3キャベツをお皿にもる。  高さが出るように盛る 4コーンをキャベツの上にのせる。  落ちないように、上から落とさずにキャベツに置くようにする P39 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ (3) 使いやすいマニュアルを作成するための工夫 @大きさの工夫:大きくして貼り紙にしたり、持ち歩けるようにエプロンのポケットに入 る大きさにしたりするなど、用途に合わせて大きさの工夫をすると使いやすくなります。 A ラミネートで強化:水まわりで使用するもの、めくり式のものはラミネートすることで 丈夫になり、長く使用することができます。 B 掲示場所の工夫:職場の都合と本人の目につく場所を考慮して掲示します。ロッカーや 用具入れの扉の裏側は、周囲からは目につかず、本人が開けた時に見える場所になります。 C 図や写真で表現:言葉だけではわかりにくい(伝わりにくい)部分に、図や写真を入れ るとわかりやすくなります。 D 色の工夫:重要事項を目立つ色合いにします。同じ作業は同じ色で統一するなど、色に よる工夫でわかりやすくなります。 いろいろなマニュアル (1) 写真を入れたマニュアル例(トイレ清掃) 大便器 1 バケツの水ぞうきんを洗う 2 スポンジで大便器をみがく(便座の裏⇒便器の中) 3 ぞうきんでふきあげる。(ふた⇒便座⇒便座の裏(便器のまわり) 4 ふたを閉める。 5 バケツの水でぞうきんを洗う (2) マニュアルにチェック機能を付加 @ マニュアルに手順を確認できる機能を付加したもの 手順書の右端にチェック欄をつけ、手順を抜かさずに行うようにする。 作業   確認 床をほうきではく 集めたゴミやホコリは、ゴミ箱にすてる。 洗面台に洗面台用の洗剤をつける。 スポンジでみがく。 鏡をふく。(水ぶき、カラぶき) 洗面台の周りをふく。髪の毛などが残らないように! 便器の水を流す。 A 仕上がりをチェックするもの 本人のチェックだけでなく事業所側の評価をフィードバックできるようにすることで、自 己評価と事務所の評価にズレがあるのか確認することができます。 トイレそうじチェック表 チェック内容  チェック  リーダー ゴミやかみの毛がついていないか? ぬれていないか? かがみがくもっていないか? よごれがついていないか? 三角おりにしたか? トイレットペーパーは三つあるか? P40 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ シーン3 昼休みの過ごし方 おいしいね 中川さんは好き嫌いはあるの 出てくるものは みんな好きです ごちそうさま  はいよー 中川さん何しているの すみません すみません …… P42 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 杉先生 中川さんが昼休み中工場内の駐車場をうろうろしていたんですけど… 何をしているか聞いても答えないし…工場内はトラックも行き交うから不必要に歩き回る と危険だし…心配なんですよ 中川さんは、車が好きなので色々な車が止まっていることに興味を持ったのかもしれませ ん それと、一人で過ごすほうが落ち着くみたいなので休憩室を出たのかもしれません でも、それじゃ心配だなあ わかりました 事故にあわないように休憩時間中は敷地内を歩き回らないというルールを 決めて 田島リーダーからお伝えしていただくと良いと思います ただ、中川さんも禁止されるだけではストレスになると思います 車が好きなので休憩中一人で車雑誌を読みながら過ごすというのはいかがでしょう 中川さんは大丈夫かな もちろん本人の意思を確認しなければなりませんが ただ歩き回ってはだめと言うよりも 代わりにどのように過ごすべきかを話し合うことが大切だと思います 学校でも雑誌を読んで休憩時間を過ごすことがありましたので彼も了解できると思います 数日後 P42 実務編 2 新規雇用事例 特別支援学校の職場実習を受け入れ 解説 適切な行動と不適切な行動  40ページの事例において「工場内の駐車場を歩き回る」ことは、事業所にとって「不適 切な行動」として認識されています。「不適切な行動」は目立ち、それを減らすことを強く 求められます。ただ、「不適切な行動」が減ったとしても、「適切な行動」が身に付いて増 えなければ、別の「不適切な行動」がでてくる可能性があります。  山本(2008)は、行動上の問題を生じさせている要因は、「不適切な行動が多い」場合と 「適切な行動が少ない」場合があり、それらは一方が多くなると一方が少なくなるという 関係にあると述べています(図2)。また、「不適切な行動」が多い場合でも、それを減ら そうとするのではなく、それにかわる「適切な行動」を増やすよう試みることが有効であ ると指摘しています。 <例> 「不適切な行動」=工場内の駐車場を歩き回る 「適切な行動」=休憩室で一人で車雑誌を読む 適切な行動(良い行動) 適切な行動(良い行動) 不適切な行動(問題となる行動) 不適切な行動(問題となる行動) ■ 図2 不適切な行動をなくすためには、適切な行動を増やす