5 職場定着 事例 親の高齢化のため グループホームに入居 職場:クリーニング工場 従事作業:洗濯作業 対象障害者 服部 晴夫さん クリーニング工場 今日も 元気でやっているね 洗濯機の操作は 順番の数字どおりにね はい ここへ来て 25年になるなあ 年はいくつになったかな 51歳です 工場長 石川 賢二さん ご家族も 喜んで いらっしゃるよ あ、服部さん 先週のハイキングは 楽しかったな また 誘って くださいね … こうした 同僚の支えが 服部君の 継続勤務を 支えているんだ えっ…… 服部君のお父様が 亡くなった…… お母さん ご愁傷様でした 大変だったでしょう いろいろお世話になりました 晴夫もようやく 落ち着いたようです 何か困ったことが あれば、言って くださいよ 実は… 今後の晴夫の ことなんです このたび主人が 他界したことで 親なき後のことが 現実問題として 追ってきまして… 服部晴夫さんは 良くやって いますよ 本人がよければ 定年までずっと 働いてもらいたいと 考えています ありがとう ございます 工場長をはじめ 皆さんのおかげで 晴夫も長く勤めることが できました でも心配なのは 私亡き後、一人で生活して 行けるのかということが 心配で… そうでしょう… そういえば工場に 障害者就業・生活支援センターの 先生がよく巡回で来るから もしかすると何か サポートして もらえるかもしれません 今度 聞いてみましょうか 職場のサポート体制 1.ナチュラルサポートとは  障害者の職場定着のためには、職場におけるサポート体制が重要であることが指摘され ています。特に、上司や同僚などが障害者に対して行なうサポートを「ナチュラルサポー ト」といい、小川(2001)は「一般の従業員が職場において、障害のある人の就労継続に 必要な様々な援助を自発的または計画的に提供すること」と定義しています。  60から61ページの事例における洗濯機操作への配備、余暇活動の参加などさりげな いサポートは、まさに「ナチュラルサポート」といえます。 2.サポート体制の構築とポイント  障害者を受け入れた企業において、初めからナチュラルサポートが形成できるとはかぎ りません。サポート体制について企業全体で検討したり、支援機関の助言を得たりしなが ら構築していくと良いでしょう。 ポイント1 指導担当者の配置  多くの知的障害者は、いろいろな人から説明や指示を受けると混乱しています。指導担 当者をはっきりさせることが大切です。新しい環境に緊張したり、気後れしている知的障 害者を職場に溶け込ませていくには、温かい人柄と辛抱強さが必要になります。  職場への適応に向けた基礎的な生活指導も合わせて行う場合、「キーパーソン」として、 まさに雇用の成否の鍵を握ることになります。職場に多少、慣れてきた場合でも、本人の 気持ちやいいたいことを汲み取って従業員に伝える仲立ちが必要なこともあるので、指導 者を配置することが望ましいといえます。 ポイント2 人事担当部署の役割  障害者の教育・指導などに関して配属部署の管理者や従業員に負担がかかりやすくなり ます。人事担当者は、特定の従業員に負担が偏っていないか、相談を担当している人が困 っていないかなどに気を配り、採用後しばらくの間は配属部署の管理者や従業員のサポー トを行います。  また、企業のサポート体制のみで対応できない場合は、支援機関に協力を求めるなど外 部の資源との連携も人事担当者の重要な役割といえます。 ポイント3 支援機関との連携  知的障害者の場合は、家庭や交友関係のトラブル、生活習慣の乱れなど職場以外の事項 が職務遂行に影響を与える場合があります。また、体調の安定を図るため継続的な通院が 必要な場合もあります。  これは職場以外の生活や医療面の問題に対しては、企業が立ち入ることが躊躇される場 合があります。このような場合は、支援機関や医療機関のスタッフに協力を求め連携して 対応していくとよいでしょう。 障害者 Aさん サポート 連携 ポイント1 ●社内サポート体制を作る 職場の上司、人事担当者、支援機関担当者が役割を決め連携して改善を図る ポイント2 ●人事担当部署の役割 職場の上司に負担がかかりやすい。人事担当者や支援機関スタッフがサポート ポイント3 ●支援機関との連携 生活面や医療面の問題解決には支援機関スタッフのサポートを受ける サポート サポート 支援機関Dさん 役割 ●生活面の支援や悩みの解消(生活習慣、家族・交友関係、医療機関との調整) 職場の上司Bさん 役割 ●仕事に関する教育・指導や悩みの解消 ●人間関係の改善 ●職場環境の改善 人事担当者Cさん 役割 ●労働条件(就業時間・休日)の配置 ●医療機関や支援機関との連絡調整 シーン2 グループホームの活用 数日後 お母様の お悩みわかります 当法人で グループホームという 施設を運営しています グループホームを 利用している方々は 親元を離れ、共同生活しながら 仕事をしています 食事は世話人という スタッフが準備しています 共同生活が 最初慣れない場合も あるかもしれませんが 部屋は個室ですし 晴夫さんと同じように ご家族がご高齢で 自立生活を目指して グループホームを 利用している方も いらっしゃいますよ そこに入れたら 安心だけどね〜 1回見学させて もらえば? それがいいと 思います 親元を離れての 生活について 服部さんが十分に 納得する必要が あると思います グループホームの イメージもつかないと 思うので、一度見学して その上で判断されて みてはいかがでしょう グループホーム 仲間もいて 楽しそうだな お父さんも亡くなって お母さんも もう年だから… 個室だし こんなところで 暮らせれば うれしいな 半年後 いってきます! 事業所における知的障害者の高齢化への対応 1.高齢化に伴う能力低下による雇用継続の問題  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者の加齢・高齢化に対応した継続雇用 の在り方に関する調査研究」によると、重度障害者等(※)を多数雇用している事業所を 対象に行なったアンケート調査において、「加齢・高齢化に伴う能力低下により、雇用継続 に問題が生じている」と回答した事業所は全体の30.5%でした。 ※ここでいう重度障害者等とは、重度身体障害者、知的障害者、精神障害者をいいます。 雇用の継続に問題は生じていない 69.5% 雇用の継続に問題が生じている者がいる 30.5% 加齢・高齢化に伴う雇用継続(回答256事業所) 2.雇用継続のために取り組んでいる内容  同アンケート調査において、知的障害者の高齢化に対して、企業が雇用継続のために取 り組んでいる内容として回答が多かったものとしては、「より軽い作業に配置転換させる」 23.8%、「勤務時間、勤務日数等を少なくする」21.9%、「事業所外の福祉サービスへ の移行ができるよう関係者との相談を進める」18.8%でした。 より軽い作業に配置転換させる 23.8% 勤務時間、勤務日数等を少なくする 21.9% 賃金を下げる 8.1% 最低賃金の減額許可を受ける 11.3% 事業所内に福祉施設を設置するなど軽作業部門を設ける 4.4% 事業所外の福祉サービスへの移行が出来るよう関係者との相談を進める 18.8% 研修・訓練などの支援を行う 4.4% 職場の設備を改善する 6.9% その他 0.6% 0 5 10 15 20 25 雇用継続のために取り組んでいる内容 (回答110事業所、延べ160件) 3.具体的な取り組み内容  同調査研究のヒアリングにより把握された、事業所における継続雇用の取り組みをご紹 介します(以下の事例は、全て知的障害者の事例です)。 事例1(50代) 作業内容:クリーニング工場におけるシーツ・枕カバーなどの整理。シーツローラーへの 投入作業。 高齢化による課題:シーツ・枕カバーなどは、水分を含んでいるため腰に負担がかかるの か、腰痛を訴える。 事業所の取り組み:比較的腰に負担のかからないシーツローラーへの投入作業を中心に行 なう。 見通し:以前と比較し、腰痛の訴えがなくなる。今後、腰痛を訴えた場合は配置転換を検 討。定年まで雇用する予定。 事例2(60代) 作業内容:塗装工場で部品の吹き付け塗装作業。 高齢化による課題:能力低下がみられた。 事業所の取り組み:労働時間の短縮を行なう。 見通し:本人の意思があれば、65歳まで雇用する予定。 事例3(60代) 作業内容:公園等の環境整備、管理業務 高齢化による課題:フルタイム勤務を行なっていたところ、持続力や注意力が低下。 事業所の取り組み:勤務日数を減らし、負担の軽減を行なう。 見通し:現状のままで継続雇用する予定。 事例4(50代) 作業内容:墓園の清掃・除草作業。ごみの回収と分別。 高齢化による課題:体力低下が見られた。 事業所の取り組み:5年前に両親の介護のため、週3日勤務に変更。介護の必要性がなっ た後も、体力低下が見られたため週3日勤務を継続。 見通し:継続雇用する予定。 事例5(60代) 作業内容:洗濯作業。 高齢化による課題:全般的な生活支援が必要。 事業所の取り組み:夕飯の支度を週3回ヘルパーに依頼。障害者就業・生活支援センターや 社会福祉協議会に家庭訪問や金銭管理を依頼。 見通し:65歳まで継続雇用する予定。 ●ヒアリングの対象企業では、「勤務時間や勤務日数の短縮」、「軽作業への配置転換」を行 って、障害者の負担の軽減を図っています。 ●日常から障害者の適性や能力を把握することにより、個々の障害者に応じた職場づくり を行っています。 ●また、障害者の健康管理や退職後の安定した生活を送れるよう、福祉施設との連携も必 要との意見が出されています。