職場定着  長期的な職場定着の促進@ 個人面談・カウンセリングによるチェック このストーリーの主人公 花田千穂さん(25歳) 既製服メーカー美装社の 工場に勤務 勤続3年 生後まもなく失聴(障害等級2級) 工場の昼休み どうしたん だろう… 花田さん、このごろ 元気がないなあ やあ、花田さん どう、仕事 頑張ってる? 手話サークルも 続けているかい? あ、部長… いえ、あんまり … 私、工場を 辞めたいん です… えっ!! ちょっと 花田さん?! 応接室 忙しいのに 現場を空けさせて すまないね 実は 花田さんのこと なんだけど… 花田さんは よくやってますよ まわりの人たちとも うまくやっている ようです キミは新任で よく知らないだろうが 以前の彼女はもっと 陽気で活発だった ように思うんだ がね… そうなんですか? 現場ではまじめに 働いていますが… ふーむ …? そういえば 地域障害者職業センターの カウンセラーから 指導を担当していた上司が 異動になったときに 離職してしまった 聴覚障害者の事例を 聞いたことがあるなあ 前の 指導員 新任の 指導員 確かに前任の 添川さんは きめ細かい 指導を していたなあ 技術指導も 熱心だったし 現場のみんなで 手話を覚える 「1日1手話運動」 余暇も楽しく やっていた― 添川さんの定年退職が 原因だとしたら 改めて、人が 変わっても彼女への配慮が 変わらないような体制を つくらないと いけないなあ 仕事の方は どうですか? なんとか 頑張って います 定期的に 面談もして 花田さんの悩みも 理解していかないと… 相互関係から問題解決へ導く ●聴覚障害者の職場定着を図るうえで重要なことは、聴覚障害者の職場に対するニーズや悩みをどのように知り、対応していくか、また上司・同僚との間に生じている小さな溝やすれ違いをどうやって埋めていくかです。その企業が聴覚障害者についてどのようなことを考え、どう対応していこうとしているかをしっかり理解してもらうことも大切です。こうした問題に効果を発揮する取り組みとして、多くの企業で個人面談が実施されています。 ●個人面談は上司が直接行う場合もありますが、社内の「障害者職場定着推進チーム」(55ページ参照)による面談やカウンセリングも効果をあげています。この推進チームによる面談では、第三者的な立場から、上司・同僚・障害者の間のパイプ役として意思の疎通を促し、問題解決への的確なアドバイスが可能です。さらに、縦割り的な対応だけでなく、職制を超えた問題解決にも効果的に機能します。 職場定着  長期的な職場定着の促進A 手話でコミュニケーションの輪を広げる どうだい、もう一度 手話サークルを 頑張ってみないか 花田さん! でも… これで よし! しっかり チェック しましたか? はい 大丈夫 です! あなたたち 遊んでないで 仕事、仕事! どうして 手話で話すと 「遊び」に なっちゃうの? みんなだって 仕事中に話を することが あるのに… 手話サークルも このごろ出席率が 低いし… やっぱり 手話が自由な 表現手段だって ことを、みんなに わかってもらうのは 難しいと思います 先日、テレビで 手話コーラスを 見たんだけど 素敵だったねえ わが社の 手話サークルでも 取り入れてみたら どうだろう? 手話コーラス かあ… なんだか 楽しそう! 手話サークルの日 今日から 手話コーラスを 始めたいと 思います 手話コーラス? 手話コーラス だって? できるか なあ… でも なんだか 楽しそう むずかし そう… まあ、とにかく やってみましょう はい、これ 楽譜よ! いつも前を向いてがんばろう 楽しく笑える日が来るよ 悲しいことがあっても 歌詞の気持ちを 手話に込めて 歌ってね! 手話によるコミュニケーション ●手話は、聴覚障害者にとってリラックスして意思伝達しやすいコミュニケーション方法です。手指の形で五十音を表現する「指文字」や、指で宙に大きく字を書く「空書」も手話の補助手段として利用されています。  また、聴覚障害のない人からの手話によるコミュニケーションは、聴覚障害者を積極的に理解する姿勢を表現することでもあり、より信頼関係を深めることにも役立ちます。完全に習得していなくても、積極的に取り入れていくことが大切です。 ◎手話を習得する方法  聴覚障害者自身から教えてもらったり、社内で手話に熟達している人や社外の講師に依頼して、講習会を開く方法が一般的です。また、昼休みや就業時間外に自主的に集まって、サークル活動として行っているところもあります。より効果を高めるには、会社側の理解と積極的な支援も必要です。 職場定着  長期的な職場定着の促進B 聴覚障害者の意見を活かす ある日の 応接室 花田さん 忙しいのに すまないが … 何か? 今度、うちに 2人の聴覚障害者が 入社することに なったんだ 実はその2人の 指導を花田さんに お願いしたいと 考えているんだが… えっ! あなたの仕事ぶりは 現場のみんなも 評価しているのよ その経験を 新しく入ってくる 人たちに 伝えてほしいと 私も思うわ でも 私には …! うちも 障害者の雇用は 花田さんが 初めてで 体制が整っている わけではない これからは キミに中心に なってもらって 改善していこうと 思っているんだ でも 私1人では… 手話サークルで 手話を勉強している 現場の仲間から もう1人スタッフを 決めて、チームを 組んでやってみて くれないかな? できるかしら でも、よい職場を つくる チャンスかも …… わかりました 私やってみます! そうか! これからは 自分の意見を はっきり言って 後に続く人を 育ててほしい! はい 頑張ります! それから 1か月後― こういう ところは特に 注意して … 頑張って ね! ありがとう ございます 失礼します 2人とも あんまり 自分の考えを 言わなかった わね 聴覚障害者って 聞こえないだけ じゃなくて 言いたいことが 言えないという こともあるの 言いたいことが 言えるような 職場をつくるのが 私たちの仕事なのね ええ! 聴覚障害者とともに職場環境の向上を図る ●障害者の悩みや不満を一番に理解しているのは障害者自身です。「障害者職場定着推進チーム」(55ページ参照)には、障害者の代表にも参加してもらい、その体験や思いを職場環境づくりに役立てましょう。また、(財)全日本ろうあ連盟加盟団体(75ページ参照)に相談するなど、社外との積極的な交流や情報収集も効果的です。 ●手話に習熟している聴覚障害者に、社内の手話サークルの運営を手伝ってもらったり、職場の先輩として、同じ障害のある新人の指導に当たってもらうなど、職場において主体的に参加できる場面をつくることは、コミュニケーションを促進するだけでなく、聴覚障害者の職業人としての自覚を高め、仕事への意欲を向上させる点からも大きな効果を生みます。 職場定着  長期的な職場定着の促進C 職場環境や設備の改善のために これで いいのかしら? ここは こうして… やっぱり 工場の全工程が わかった方が いいわね! うーん イラストって けっこう難しい なあ これでわかる かしら? 大丈夫 大丈夫! よし、できた! 文字が ぎっしりより はるかに わかりやすい かも…!! あっ 部長!! キミたちが熱心に 指導していることは 聞いているが 随分頑張ってる んだねえ どれどれ ほほう これはよく 描けてるね! まさに 「目で見る マニュアル」 だねえ! 私が新人だったころ 添川さんが絵で 工程を説明してくれた のが、とてもわかり やすかったんです こっちは 職場のみんなが もっと新人さんたちに 話しかけてくれるよう コミュニケーションの ポイントをまとめ ました ほう ! それから部長 聴覚障害者には 業務時間を知らせる チャイムや緊急放送 が聞こえないので 電光掲示板を 設置してほしい んです 故障や部品切れなどが 発生したときに すぐ連絡がとれるように 呼び出しランプ(パトランプ) もあるといいと 思います ハハハ キミたちは もうしっかり わが社の小さな 「障害者職場 定着推進チーム」 だね 障害者職場 定着推進チーム って? それはね 障害者が働く 喜びを見い出し 能力を十分に 発揮できる 職場環境づくり などを目的として さまざまな活動を 行うために 各企業が自主的に つくっている チームなんだ 障害者個人の 相談にのるほか、 社内の障害理解 促進などに組織的に 取り組むものだよ @障害者職場定着推進チーム打ち合わせ A仕事やコミュニケーションなどの悩みの  ヒアリング B社員へのアンケート調査 障害者職場定着推進チーム ●障害者職場定着推進チームは、障害者が働く喜びを見出し、その能力を十分に発揮できる職場環境をつくり、職場適応を促進することを目的として各企業が自主的につくるものです。事業所の代表者をはじめ、人事担当部課長や障害者の配属職場の長、障害者職業生活相談員などが加わり、組織的に障害者の職場適応に関する事項を協議し、改善していくものですが、新たな組織をつくる方法のほか、障害者も含めた従業員の職場適応の向上を図るための既存の組織(幹部会議、○○委員会など)があれば、その運営、活動を当該チームとみなしてもよいでしょう。 〔主な活動〕 ◇障害者雇用についての理解と促進に努める ◇障害者の作業意欲を把握し、意欲を高めるための援助を行う ◇個別相談の実施によって問題点を把握し、解決へ導く ◇職場配置や業務内容の見直しを行う ◇教育・訓練の方法の見直しを行う ◇労働環境の見直しを行う ◇人間関係などの職場生活についての援助を行う ◇余暇活動についての支援を行う ◇障害者職業生活相談員の活動を支援する 職場定着  長期的な職場定着の促進D 聴覚障害のない人にも便利な業務体制づくり おはよう ございます 今日の… おはよう ございます おはよう ございます 聴覚障害者には、社内放送で 連絡される作業の注意や変更が わからないという問題提起から ホワイトボードで1日の仕事を 確認し合う朝礼が始まり 職場の全体のミスが大幅に減った 花田たちが イラストを描いた 「目で見るマニュアル」 をもとに ビジュアル化された マニュアルが美装社の 標準マニュアルとなり わかりやすいと 喜ばれている なるほど わかりやすい ねえ… 聴覚障害者に対する コミュニケーションの配慮によって 障害のあるなしにかかわらず職場全体の コミュニケーションのがスムーズに なった あれから 1年たった ある日― 障害者にとって 働きやすい環境って 従業員全員にとっても 働きやすい 環境なんだね! そういえば 去年の秋には … いろいろ大変だったけれど、 キミたちの活躍のおかげで わが社の聴覚障害者の 受入れ態勢もしっかり 整ってきたね! ユニバーサルデザインという視点 ●障害のあるなしや年齢を問わず、誰にとっても暮らしやすい社会を目指す「ユニバーサルデザイン」という考え方が、日本でも広がりつつあります。「共用品」の商品開発や文字情報の提供などの企業サービスの分野でも「ユニバーサルデザイン」が認知され始めています。職場においても、障害者にとって快適で働きやすい環境は、一般従業員にとっても働きやすい環境であることを認識して、職場環境の見直しを進めることが必要です。実際に、聴覚障害者に対する円滑なコミュニケーションへの配慮によって、職場全体のコミュニケーションレベルが向上したという声もあがっています。 ●障害者とともに、誰もが働きやすい職場環境を整備していくという発想は、障害者の職場定着を促進するだけでなく、すべての従業員の働く喜びと意欲を向上させることにもつながります。