実践編 第3 章 精神障害者の職場復帰 事例5 メンタル不調による休職から、 職場の上司と産業保健スタッフの サポートにより職場復帰した事例 事例6 職務の変更を行うことにより、 2回目の休職から職場復帰した事例 ※第2章及び第3章の事例に登場する人物の疾患名は様々な設定 となっていますが、本コミック版マニュアルでは精神障害者へ の対応として共通項となりうる事項を紹介しています。  実際に雇用管理を行う上では、ここで紹介する共通項を踏まえ つつ、個人の状況を的確に把握し、それに応じた個別対応を図 ることが望まれます。 第3章 実践編事例5 メンタル不調による休職から、職場の上司と 産業保健スタッフのサポートにより職場復帰した事例 シーン5-1 休業開始から職場復帰できる 段階までの回復の過程 綱山 加奈子さん(32歳) うつ病 職場: 株式会社庄田 (従業員500人の製造メーカー) 営業・企画部門に 所属している網山さんは プロジェクトのリーダーを 任されることになりました 当初はリーダーとして 意欲的に仕事を こなしていましたが次第に さまざまな課題を プレッシャーとして抱え 込むようになりました また、同時期に父親の 介護を手伝うこととなり 心身の疲労が重なったことから 頭痛などの身体症状と 気分の落ち込み 不眠が出るように なりました 体調不良により 欠勤することが 多くなり 心療内科を 受診したところ うつ病と診断され 休職することと なりました 和田人事課長と 井上産業保健師は 綱山さんが 職場復帰した後も 安定して働き続けられる 体制をつくるため 親会社の 産業保健スタッフから 情報を収集することと しました …というわけで 職場復帰に向けて どのように対応すれば よいでしょうか わが社に限らず メンタル不調による 休職者がいる 事業所は多い状況です 過去1年間にメンタルヘルス不調により 連続1か月以上休業又は退職した労働者割合 厚生労働省「平成29年労働安全衛生調査」から抜粋 休職者にできるだけ スムーズに職場復帰して もらうためには 該当者が出てから 対応するのではなく あらかじめ 職場復帰までの 取組を整備して おくことが必要です 職場復帰の流れと 事業所として 取り組むポイントを 整理しましょう 第1ステップ 休業開始 及び休業中のケア 「1休業開始時は   経済的な保障や   休業の最長期間   職場復帰に向けた   手順など必要最低限の   説明に留めて   W病気回復を最優先することW   を伝えます」 仕事のことは 心配せず、主治医の 指示に従って病気の 回復を最優先して ください …はい 定期的に連絡させてもらい ますが、主治医から職場 復帰についての話題が 出たら教えてくださいね 休職間もない時期に事業所から 休職者に連絡を入れる際には休職者が 自分のタイミングで 返事できるように メールや文書で 連絡している 事業所も あります 「2休職者への連絡は   労務管理の観点や   職場復帰後の   関係性を高めるために   人事担当者と連携しながら   主として上司が   行うことが基本ですが その際には 産業保健スタッフから アドバイスを受けることが 望まれます」 共有 人事担当者 上 司 産業保健スタッフ 本人に対しては 上司、人事担当者 産業保健スタッフ 誰にでも相談できることを 伝えておくと いいでしょう 「3意欲が回復し 憂うつな気分が改善してきたと 思われる段階では 主治医が職場復帰の 見通しについて 言及しているかを確認します」 休職から4か月経過した頃ー …そうですか 快方に向かっているよう でよかった 主治医からは どんなお話がありましたか 上村部長 職場復帰に向けて 日中は図書館に 通うなどの活動を 始めてもいいのでは と言われました それでは 綱山さんの都合のいい日に 井上保健師や 和田人事課長と一緒に 職場復帰に向けた 打合せを行いませんか はい よろしくお願いします 定期的なやりとりの中で 生活リズムが 安定してきたと 感じられた ことから 職場復帰に向けた 取組に ついて 話し合う 場を設定 しました 「4職場復帰に向けた   自主的活動を   促します」 自分の生活リズムや 気分の波を把握すること また、外出の機会を増やして 体力を養うために これらの活動を 進めてみては いかがでしょう 主治医とも相談して みてください 〜職場復帰に向けた活動〜 1生活リズムチェック表※1で生活リズムや体調、気分 を記録し、自分の状態を客観的に把握するとともに 上司や人事担当者と共有する 2体力の回復を目的に、散歩したり軽く運動をする 3自宅外での活動に適応することや集中力・判断力な どを回復することを目的に、図書館に通う ※1「生活リズムチェック表」については、P64 をご参照ください ありがとうございます 早速主治医に 相談してみます 綱山さんは主治医と相談し 職場復帰に向けた活動を 始めることにしました その間、上村部長や井上保健師には 定期的に通院状況や 活動状況の進捗を報告しました 生活リズムチェック表 綱山さんが職場復帰に向けた 活動を始めて1か月後 再度打合せを行いました 生活リズムは 以前の状態に 戻ってきました 主治医には 生活リズム チェック表を 見せながら 診察を 受けて いますが 職場復帰できる 段階にあると 言われました 確かに 活動を始めた頃と 比較して 生活リズムが 安定してきたと 思います それでは 職場復帰に向けた 手続きを 進めていきましょう よろしく お願いします シーン5-2 職場復帰の決定 第2ステップ 主治医による 職場復帰可能の判断 「休職者から 主治医が職場復帰可能と 判断した診断書を 提出してもらいます 職場復帰に際して 必要とされる 職務遂行レベルに 達しているか どうかを把握 するため 休職者または 産業医から主治医に対して 情報提供を依頼※2します」 ※2 情報提供の依頼については、P65 をご参照ください 和田人事課長は、綱山さんから 職場復帰が可能と記載のある 診断書を提出して もらいました また、診断書だけでは症状の 回復度合いや職場復帰の際に 留意すべき事項が 把握しにくいことから… 網山さんの同意を得て 綱山さんの主治医に 職場復帰の判断に必要な 情報の提供を 依頼すること にしました 綱山さんの主治医への情報提供依頼事項 ●業務上影響を及ぼすと考えられ る症状の有無、注意力や集中力 の回復程度、疲労の回復具合、 職場復帰の際に配慮すべき事項 など その際、事業所の就業規則や復帰後に 事業所が想定している業務について説 明しておくと、主治医から具体的な意 見が得られやすくなります 主治医と産業医の間で情報を共有するに当たり 事業所によっては産業医との調整に 時間がかかることがあります その際は人事担当部署から 情報提供依頼を行っても 主治医が対応してくれる 場合があります 第3ステップ 職場復帰可否の判断と 職場復帰支援プランの作成 「1職場復帰の可否判断については 上司などによる 本人の職場復帰の意思確認 産業医による主治医への 情報提供依頼 本人の状態の確認 所属部署の環境などの観点で 事業所が判断します」 主治医←産業医→本人 職場の環境は… 職場復帰についてどう思いますか? 「2職場復帰支援プランは 人事担当者と 上司で次のような 項目について検討しながら 作成します その際 産業医を含めた 産業保健スタッフは 必要な助言を 行います」 〜職場復帰支援プランを作成する際の検討項目例〜 1職場復帰日 2就業上の配慮(業務内容や業務量の変更、治療上必要な配慮、サポートの方法など) 3人事労務管理上の対応(配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否や必要性など) 4産業医等による医学的見地からの意見(安全配慮義務に関する助言など) 5フォローアップ(就業制限等の見直しのタイミング、その他配慮事項等が不要となる時期の見通し、フォローアップの方法など) 綱山さんの復帰に当たっては 和田人事課長、上村部長、井上保健師で プラン作成のための 打合せを行い 介護休業制度に ついても ご説明します また、社内の 介護休業制度に ついても 情報提供しました 第4ステップ 最終的な 職場復帰の決定を行う 事業所が作成した 職場復帰支援プランについて 綱山さんと綱山さんの家族に 説明を行いました 職場復帰支援プランの内容 ●職場復帰日は、9月1日とする ●労働時間は、1 日6 時間から始め、1 か月ごと に1 時間ずつ延長する ●職務内容は、内勤で上司から指示を受けた業務を こなすことから始め、1 か月後には内勤で担当業 務に限って作業を行い、2 か月後には外勤を含め て自分の担当する業務をこなす  最終的には本来の職務(自分の業務に加えてグルー プ内の業務を把握・調整する)をこなせるように する ●月に1回の産業医相談に加え、必要に応じて産業 保健スタッフや上司との相談、毎月末には人事担 当者、上司、産業保健スタッフとの相談を行う 職場復帰に 向けたプランを 作成しました スムーズに 職場復帰できるように 私たちもサポート していきたいと思います ありがとう ございます 無理はしないで 仕事を進めて いきたいと 思います こうして 綱山さんは 職場復帰 することと なりました シーン5-3 職場復帰後のフォローアップ 第5ステップ 職場復帰後の フォローアップ 「復帰後には 就業上の配慮や就業時間の 制限の段階的な解除を 産業医のほか 人事担当者・上司・ 産業保健スタッフとの 定期的な面談の実施により 確認していきます」 上村部長は、綱山さんの 職場復帰に当たり 共に働く従業員に対して 職場復帰後の見通しを 説明するとともに その間の作業負担への 理解を求めました このほか、人事担当者や 産業保健スタッフは 職場の同僚や上司に 過度の負担が かかっていないかに ついても確認して 必要に応じてフォローを 行うことが望まれます 職場復帰した綱山さんは 就業時間や職務の制限を 守りつつ 自らの調子を確認しながら 業務を進めました 和田人事部長や井上保健師 上村部長との四者面談も定期的に 行われ段階的に職務等の制限が 解除されていきました それでは 就業時間を 1時間延長し 職務の制限も 一部解除 しましょう お願いします 3か月後ー 職場復帰から 3か月が 経過しましたが 仕事の方は いかがですか はい 上司をはじめ 職場の皆さんのおかげで 休まず職務を続ける ことができました 定期的な面談や 職務の負荷を段階的に 設定していただいた ことでスムーズに 戻れたと思います 順調に業務を こなしていますね 綱山さんの同意を得て 現場にも理解を求め 配慮が得られたことも 大きかったと 思います 体調や気持ちに ついては いかがですか 当初は 多少疲れを 感じましたが気分の 落ち込みはありません 今回休職したことが 自分の仕事の仕方に ついて振り返る いい機会になりました これまでの 状況から職務の 制限については 解除したいと 思います はい よろしく お願いします 職場復帰に向けて 見通しと計画を 立てたこと また上村部長と 和田人事課長との間で 情報を共有しながら サポートを進めたことが スムーズな職場復帰に つながったのだと 思います 不安があれば今後も 気兼ねなく声を かけてくださいね 上村部長も 綱山さんの状態に 変化があれば いつでも ご相談ください よろしく お願いします 解 説 雇用管理に役立つツール2 生活リズムチェック表  メンタル不調により休職している従業員が職場復帰するためには、生活リ ズムを立て直し規則正しい生活を送れるようになることが必要となります。  症状が悪化している段階では睡眠障害や憂うつな気分により、就労してい る時のような生活リズムで過ごすことは難しい状態ですが、ある程度症状が 回復した段階では、生活リズムの改善に向けて取り組むことが有効です。  その際、毎日の睡眠時間や活動、気分の状態などを記録すると、自分の日々 の過ごし方を客観的に把握することができるとともに、症状や気分と照らし 合わせながら生活リズムの改善に向けた意識付けが期待できます。このため リワーク支援などでも活用されています。  また、事業所においても生活リズムチェック表の情報を本人と共有するこ とによって、職場復帰に向けた具体的なサポートの仕方を検討したり、今後 の見通しを探る参考にすることが期待できます。  生活リズムチェック表は、呼び名や様式に様々なものがありますが、ここ ではその一例をご紹介します。 資料出所:NECディスプレイソリューションズ株式会社 雇用管理に役立つツール3 職場復帰支援に関する情報提供依頼書  スムーズな職場復帰を職場で支援するためには、最終的な職場復帰決定 の手続きの前に、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰の可否を 適切に判断しなければなりません。  メンタル不調で休職中の従業員から、主治医が職場復帰可能と判断した 診断書が提出されても、診断書に記載されている内容だけでは十分な職場 復帰支援を行うのが困難な場合があります。  その際は、産業医等が本人の同意を得た上で、治療の状況と病状の回復状 況、そして業務遂行能力について評価を行うに当たって必要な情報や意見 を、本人の主治医から収集することが有効です。  以下の「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」は、厚生労働省「心の健康 問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に掲載されている様 式です。  なお、情報提供依頼を行うに当たっては労働者のプライバシーに十分配 慮することに留意してください。 資料出所:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」