実務編  事例1  ■会社で優先順位をつけて仕事をすることが苦手で契約更新できず、就労支援機関におけるサポートにより、自己理解を進め、雇用につながった事例    シーン1 発達障害者支援センターの利用 渡辺 賢治さん (22歳) アスペルガー症候群 専門学校を卒業後契約社員として就職したが同時に2つ以上の仕事ができない、作業内容が急に変更した際に対応できない等の状況から「会社の要求水準に達していない」として契約が更新されなかった    いろんな仕事があるけど僕にはどんな仕事が向いているだろう…    ただいま    僕のように学校卒業後就職してうまくいかなかったっていう人も結構いるんだな…    この人は就職してから発達障害と気づいたっていうけど    発達障害って…? ハローワーク    あのー    職業相談1    相談があるのですが    最初の会社では注意ばかりされて結局、契約を更新してもらえませんでした    次の会社では、作業中に別の作業指示が入るとどうしたらよいか分からなくなり、言われたとおりにできずに、上司から注意を受けることが多くありました    自分では一生懸命やっているけど職場の人の言うことがよく分からないことが多く    そのままやっていると「そうじゃない」と注意をされました  「これを」「あれを」    このまま仕事を探してもまた同じようになるのではないかと心配です    インターネットで発達障害のことを見ると、自分は発達障害なんじゃないかと思います    若い人の中にはコミュニケーションが苦手で「自分は発達障害じゃないか?」と思う人もいるようですね  一度発達障害者支援センターで相談されてはどうでしょうか?    わかりました  発達障害者支援センター    どうされましたか    実は…    最近は専門学校や大学を卒業し就職したけれど仕事がうまくできない長く続かないと悩んでこの発達障害者支援センターに相談に来る人が増えています    自分は一生懸命頑張っているけれどそこは評価されずできないことを指摘されてばかりで苦労されている人が多いです    どういうことが難しいのかお話をうかがい一緒に考えていければと思います    自分と同じように苦労している人が多いんだな    僕もまずは発達障害があるのかを確認して    もしそうならば職場で配慮してもらいながら働くことを考えた方がいいのかもしれない    インターネットで見た大人の発達障害者を対象に診断や相談を行っている病院に行ってみよう  白岩病院    …というわけなんです先生    なるほど  発達障害者支援センター    先生からはアスペルガー症候群と診断されました    就職する時は障害を理解してもらったほうがよいだろう    でも一人で活動するのは難しいだろうから支援センターに相談してみるように言われました    医療的な面でサポートしていただけるのは心強いですね    渡辺さんのことを分かってもらえる人が増えるといいですね    障害者職業センターでは就職に関する相談や実際に働く体験"ができるプログラムがあるようですよ    一度相談してみたいです    紹介してください  解説  発達障害者を支援する機関   発達障害者の雇用を支援する機関と支援内容として、主に以下のものがあります。    1 ハローワーク(公共職業安定所)  ハローワークは、厚生労働省が運営する国の機関です。ハローワークでは、「トライアル雇用」や各種助成金など種々の支援策を活用しながら、就職を希望する障害者に対する職業相談・職業紹介、就職後の職場定着・継続雇用などの支援や、事業主に対する障害者雇用の指導・支援を行っています。特に、福祉、特別支援教育、医療から一般雇用への移行の促進が重要な課題となっていることから、地域の関係機関との連携を一層強化しながら、よりきめ細かな支援・指導を実施しています。    トライアル雇用  障害者雇用に取り組む意欲があっても、障害者雇用の経験がなく、雇い入れることに躊躇している事業所と、これまでの雇用就労経験が乏しいために就職に不安を感じている障害者の双方の不安を軽減・解消するため、短時間の試行雇用を実施し、障害者の常用雇用への移行を目指すもので、試行雇用期間中(原則3か月)は事業主にトライアル雇用助成金(月額4万円、最長3か月間)が支給されます。  なお、障害者手帳の有無に関わらず、発達障害者の雇入れ時に、週の労働時間を10時間以上20時間未満とし、職場適用状況や体調等に応じて期間中に20時間以上とすることを目指す場合は、障害者短時間トライアル雇用が活用できます。    特定求職者雇用開発助成金  新たにハローワーク等の紹介により、障害者手帳を持っている障害者を常用労働者として雇い入れた事業主に対しては、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」により助成をしています。  また、障害者手帳を持っていない発達障害者を、ハローワーク等の職業紹介により常用労働者として雇い入れ、雇用管理に関する事項を把握・報告する事業主に対しては、「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」により助成を行っています。  なお、一部のハローワークにおいては、「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」として、就職支援ナビゲーター(発達障害者等支援分)を配置し、発達障害等の要因によりコミュニケーションに困難を抱えている求職者に対して、その希望や特性に応じて専門支援機関である地域障害者職業センターや発達障害者支援センター等に誘導するとともに、障害者向けの専門支援を希望しない者については、ハローワークにおいてきめ細かな個別相談、支援を実施しています。    2 地域障害者職業センター  全国の各都道府県に設置され、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しています。障害者職業カウンセラーが配置され、障害者に対して、職業評価、職業指導、職業準備支援、ジョブコーチによる支援等の専門的な職業リハビリテーション、事業主に対する雇用管理に関する助言等を実施しています。    職業評価・職業指導  就職の希望等を把握した上で、職業能力等を評価し、必要な相談・指導を行い、これらを基に、就職して職場に適応するために必要な支援内容・方法等を含む個々人の状況に応じた「職業リハビリテーション計画」を策定します。   職業準備支援  個別カリキュラムに基づき、就職又は職場適応に必要な職業上の課題の把握とその改善を図るための支援、職業に関する知識の習得のための支援、社会生活技能等の向上を図るための支援を行います。  発達障害者に対しては、発達障害の障害特性や職業上の課題を踏まえた専門的な支援として、問題解決技能、対人技能、リラクゼーション技能、マニュアル作成技能等の技能体得講座及び事業所での体験実習による「発達障害者就労支援カリキュラム」を実施しています。   ジョブコーチによる支援  障害者が職場に適応できるよう、ジョブコーチが職場に出向いて、障害者および事業主に対して支援や助言などを行います。  ジョブコーチは、障害者本人に対しては、「作業手順を覚える」「作業のミスを防ぐ」といった職務を遂行するための支援や「質問や報告を適切に行う」など円滑なコミュニケーションをとるための支援などを行います。  また、事業主や職場の従業員に対しては、「障害を理解し適切な配慮をするための助言」や「仕事内容や指導方法に対する助言」などの支援を行います。 事業主に対する雇用管理に関する助言等  事業主が障害者の雇用管理に課題を有し、その解決に継続的な支援を必要としている場合には、事業主のニーズや雇用管理上の課題を分析し「事業主支援計画」を策定して、体系的な支援を行います。  特に専門性の高い障害者の雇用管理に係る事項については、地域の専門家である「障害者雇用管理サポーター」の協力を得て助言等を行います。   3 広域障害者職業センター  (国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンター)  国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、障害者職業カウンセラーと職業訓練指導員を配置して、発達障害者を対象にした専門的な職業訓練を実施しています。   4 発達障害者支援センター  都道府県等が設置する機関で、発達障害者やその家族等に対し、専門的に相談に応ずるとともに、発達支援や就労支援を行っています。また、発達障害に関して、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関や民間団体等に対する情報の提供及び研修、それらの関係機関や民間団体等との連絡調整などを行い、地域における発達障害者支援の中核となり、体制整備をすることとなっています。   ただし、人口規模、面積、交通アクセス、既存の地域資源の有無や自治体内の発達障害者支援体制の整備状況などによって、各センターの事業内容には地域性があります(平成31年2月現在 95か所) 5 障害者就業・生活支援センター  就職や職場への定着に当たって就業面における支援とあわせ、生活面における支援を必要とする障害者に対して、身近な地域で、雇用、保健福祉、教育等の関係機関との連携の拠点として連絡調整等を積極的に行いながら、就業及びこれに伴う日常生活、社会生活上の相談・支援を一体的に行う施設で、都道府県知事が指定する一般社団法人若しくは一般財団法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO)等が運営しています(平成30年10月1日現在334か所)。 シーン2 地域障害者職業センターの利用 地域障害者職業センター   カウンセラーの湯川です 職業準備支援を受講して仕事をする上での得意不得意を整理してみませんか わかりました 地域障害者職業センター・職業準備支援  パソコンを利用したデータ入力  封入作業  データチェック  グループワークで『上司に質問する』というテーマを設定し参加者同士でロールプレイを行う 上司にはいつもドキドキ わかるわかる 職場で必要な対人対応スキルや渡辺さん自身の得意不得意なことについて、理解を深めていった   地域障害者就業センター体験した 作業やグループワークを受けた感想はどうですか?   職業センターではまずどの作業からやればいいか わかりやすい指示をしてくれたので 1 封入する書類をセットする 2 封筒にあて名シールを貼る 3 文書のあて名と封筒のあて名を確認して書類を入れる とても仕事がしやすかったです 優先順位を決めるのが昔から苦手でしたが上司に順位をききながら「やることリスト」を作成してやるといいのだと思いました   グループワークで 上司に質問することについてみんなと話し合いましたが… 職場で質問ができなかった経験の人がいたり… あの… どのように声をかければいいかわからなかったり… みなさんの意見を聞けたことがとても参考になりました 渡辺さんは 表計算ソフトの扱いが上手で データ入力のスピードも速いし正確ですね 求職活動を進めるにあたり 渡辺さんの得意不得意「会社でこのような配慮があると力を発揮できる」といったポイントを整理していきましょう はい 渡辺さんは求職活動をする際にはご自身の障害については会社に伝えますか? 主治医の先生とも相談していろいろ考えたのですが手帳(精神障害者保健福祉手帳)をとって障害者枠で求職活動を進めたいと思います 自分が仕事を進めるうえでは会社に配慮してほしい点もあるので… わかりました   POINT 障害をオープンにすることについて 障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳等)の取得や障害を明らかにして求職活動を行うことについては、本人の意向を踏まえながら進めます。企業や支援者が強要することは避けなければなりません。 白岩病院 先生ありがとうございました 申請した精神障害者保健福祉手帳が交付されました 就職活動頑張ってね   シーン3 面接 関口電子工業 関口電子工業の「事務補助」の求人で面接が実現してよかったね 職業カウンセラーの湯川さんも一緒だから安心です どうぞおかけください 総務部長の山下です よろしくお願いします 履歴書と紹介状プロフィール票です プロフィール票とは? 渡辺さんの得意なことや採用していただける場合に、職場内で「このようなサポートがあると力を発揮できる」といったことなどをまとめたものです ふむ 表計算ソフトやデータベースソフトを活用したことがあるようですね 専門学校に通っているときに操作方法を覚えました 当センターに通っていた時にもデータ入力作業を体験していただきましたが入力スピードも速く、正確です わが社には知的障害や精神障害のある従業員がいるが発達障害はまた違う障害のようだ… 最初はコピー作業や郵便物の仕分けを中心に仕事を考えていましたけど 表計算ソフトのスキルがあるのであればデータ入力中心になっても大丈夫かな 頑張ります 渡辺さんへの配慮についてですが… プロフィール票にもあるとおりデータ入力に対応できるスキルがあります 一度に複数の作業指示があると優先順位をつけることが苦手ですので作業を1つずつ指示していただくか優先順位を伝えていただけると助かります ご提案なのですが…採用いただける場合には当センターのジョブコーチ支援を活用できます ジョブコーチを御社に派遣して渡辺さんが職場に慣れ仕事の優先順位を決めて進められるように会社の方と相談しながらサポートをしたいと思います わかりました検討しましょう POINT ジョブコーチ支援 事業所にジョブコーチを派遣し、障害者や事業主に対して、雇用の前後を通じて障害特性を踏まえた直接的、専門的な援助を実施します。 シーン4 ジョブコーチ支援による受入れと会社の体制整備 向井係長 先日面接に来た渡辺さんだけど採用しようと思う 障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用してね 職場定着も図りたいし指導をよろしく頼むよ わかりました 総務部人事課 今日からよろしくお願いします ジョブコーチの三田村です よろしくお願いします 渡辺さんは総務部の所属になります 直接仕事を教える担当者を紹介します 係長の向井さんです 向井ですよろしく どんな作業を行うのですか 新卒者採用にあたっての応募者情報登録や総務関係の申請書のデータ登録を行ってもらう予定です まず始めにやるべき作業はどれですか? 今の時期であれば応募者情報登録ですね もしわからないことがあったら係長に相談すればいいですか いいですよ 質問・報告は向井係長へ…と 応募者情報登録 申請書データ登録 質問、報告は向井係 渡辺さんはデータ入力は速く、正確にできるのですが これやって あれやって 指示をだすときは優先順位がわかるように伝えてください 1度に複数の作業指示を受けるとどちらを優先していいか混乱してしまうことがあります 1つの作業が完了してから新しい作業指示をだすと混乱せずに作業に集中できます 作業A 終了 作業B さっさっ わかりました それでは登録のやり方を教えますね 立ちあげ 入力 メモをとろう… 渡辺さんの仕事の様子はどう? キー入力は速くて正確ですね それはよかった ところで 向井係長渡辺さんの指導はあなたの業務の1つとして位置づけるから他の業務と同じように頑張ってもらいたい 何か指導する上で困ったことがあれば遠慮なく私に相談して欲しい障害特性に関することであればジョブコーチと相談してもらってもいいから わかりました よろしくお願いします 解 説 職場での支援体制を構築する上でのポイント    1 障害者の能力の適切な把握  職場への適応をサポートする上で、本人の長所短所を含めた障害特性や指導上、支援上の配慮事項等を、職場の上司や同僚に正しく理解してもらうことが大切です。  採用の段階から本人が自ら発達障害のあることを明らかにしている場合には、雇用した場合の配属先や担当業務を決定したり、教育訓練の方法や職場環境を整備したりするために、本人の能力や「このような配慮があると能力を発揮できる」といったポイントを把握することは大切です。  この場合には、本人の了解のもと20ページで紹介したプロフィール票を支援機関から提出してもらう方法もあります。ただし、障害に関連する情報は個人情報の中でも特に取り扱いに配慮を必要とするセンシティブ情報(機微情報)になりますし、プロフィール票の提出が採否に影響することのないよう注意が必要です。      支援機関が本人と相談しながら作成したプロフィール票  ○○さんのプロフィール 1 支援体制 (1) ○○クリニック(××市)  通院頻度…月1回(原則土曜日) (2) 地域障害者職業センター TEL.000−000―0000 担当カウンセラー:△△ △△  ジョブコーチ:□□ □□    2 スキル  Word…文書作成、表の挿入、宛名ラベル作成  Excel…関数(SUM、IF)、グラフ作成、オートフィルター  Access…データベース入力、修正    3 作業指示  やらなければならないことが複数あると、優先順位がうまくつけられず、誤った優先順位で作業を進めてしまうことが稀にあります。  →「分からないことがあったら、必ず○○さんに確認すること」と提示していただけると大丈夫です。   4 報告 周囲の状況を察することが苦手で、報告をすることに気後れし、タイミングが遅れたり省略したりすることがあります。 →常に報告するキーパーソンを決めていただいたり、定期報告する時間をあらかじめスケジュールに入れたりするなど、「決まり」になっていると負担なく報告ができます。   5 セールスポイント  キーボード入力はタッチタイピングができます。入力は集中して行うことができます。    2 障害特性に関する情報提供  職場への障害特性に関する情報提供については、障害のあることをオープンにすることに本人が抵抗を感じる場合もあることから、基本的には、本人の意思を確認し、それを十分尊重した上で判断するのが良いでしょう。  少なくとも、直属の上司や直接仕事のやりとりをする立場にある同僚には、障害特性を正しく理解してもらい、特性に応じた配慮や対応がなされることが望ましいと考えられます。また、直接のやりとりを行う立場にない他の同僚についても、何故、特定の者に特別の配慮がなされているのかについて疑問や誤解が生じないよう、必要な範囲で情報提供しておくことが大切です。  誰に、どの程度、障害特性について情報提供するかについては、本人や必要に応じて家族ともよく話し合い、本人の了解を得た上で対応することが重要です。  障害特性と対応方法の説明については、本人の了解を得た上で、地域障害者職業センター等の支援機関に依頼する方法も考えられます。  また、一般の社員に対して障害に関する基本的な知識等を周知する方法としては、社内研修の場を活用することも考えられます。この場合、研修の講師は地域障害者職業センター等の支援機関に依頼することも効果的だと考えられます。 3 社内の支援体制の構築  採用後の発達障害者の職場定着を推進していくためには、社内の支援体制の構築により職場の人間関係や労働環境の改善を進めることが有効です。 ■ 仕事に関する教育・指導、部署内の人間関係の改善、悩み等の解消については、配属部署の管理者や上司が直接の相談窓口となることが望ましいでしょう。 ■ 発達障害者の教育・指導などに関して配属部署の管理者や上司、同僚に負担がかかることがあります。人事担当者は、特定の社員に負担が偏っていないか、相談窓口となっている社員が困っていないかなどに気を配り、配属部署の管理者や社員のサポートを行うことが大切です。 ■ 発達障害者の職場定着について、配属部署の管理者、人事担当者だけが対応するのではなく、事業所が組織的に取り組むために、幹部会議、○○委員会等、社内の既存の組織を活用し、職場定着に向けた課題の把握や対応を検討する方法もあります。 ■ 医療面の問題や障害特性への対応に不安を感じた場合など、事業所だけでの対応が困難な場合には、外部の支援機関と連携して対応していくと良いでしょう。 何でも相談してください 悩み 人間関係 仕事 解説   4 プライバシーに配慮した障害の把握・確認  職場において、採用時に本人から告知をされていないにもかかわらず、採用後の普段の行動や態度から発達障害ではないかと思われるような場合があるかもしれません。その場合、発達障害という診断を既に受けていて職場には伝えていない場合、発達障害という診断は受けていないが、在学中あるいは社会に出てからさまざまな課題に直面する中で、発達障害の疑いを持つ場合、本人は周囲との関係に難しさを感じながらも障害であるとは思っていない場合等さまざまなケースがあります。  このような場合、特定の個人に対して障害の把握・確認を行うことは適切ではありません。  採用時に障害のあることを把握して採用した社員とは別に、既に採用している社員の障害の把握・確認に当たっては、雇用している社員全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることが原則です。ただし、例外的に、個人を特定して照会を行うことができる場合もあります。具体的には以下のとおりです。   @ 雇用している労働者全員に対して申告を呼びかける場合  労働者全員に対して、メールの送信や書類の配付により画一的な手段で行うことが原則です。また、申告を呼びかける際は、障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的等を明示するとともに、業務命令として、この呼びかけに対する回答を求めているものではないことを明らかにすることが望まれます。 A 個人を特定して照会を行うことができる場合  障害者である労働者本人が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は、個人を特定して障害者手帳の所持を照会することができます。詳しい内容は、左記厚生労働省のホームページをご確認下さい。 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000065285.pdf  なお、発達障害と診断されている場合でも、本人の意向で障害者手帳(療育手帳または精神障害者保健福祉手帳)を持たない人もいますが、これらの人に障害者手帳の取得を強要することも行ってはいけません。障害者手帳の取得は、あくまでも本人の意思により行われるものです。  また、発達障害のあるなしに関わらず、職場における課題が散見されるケースにおいては、「仕事をうまく進めるために、これらの課題を一緒に解決していく」という視点で関わり、相談の内容に応じて社内の産業保健スタッフとの相談や医療機関、発達障害者支援センター等との連携を検討していくとよいでしょう。 A社の取り組み  更なる障害者雇用を検討していたところ、経営者の判断により「ハートフルプロジェクト」が発足しました。当社では、全国に多くの販売店舗を有しており、その中から「ハートフルモデル店舗」として、障害者を受け入れる店舗を認定することにしました。  「ハートフルモデル店舗」に認定されることは、店舗として評価されることでもあり、「自分達の店舗において受け入れたい」という前向きな声が聞こえるようになりました。  障害者の採用に当たっては、本社の人事課が障害者と面接を行ったうえで、店長等に障害特性を伝えています。勤務直前には、店長、本人、支援機関、本社人事課による4者面談を行いサポート内容を確認するとともに、本社が本人に対して接遇トレーニングを行う等、店舗の受け入れをサポートしています。 ハートフルモデル店舗   B社の取り組み  当社では、社員に対して個別に業務目標を設定していますが、障害者の指導を担当する社員に対しては、「障害者に対する指導」を業務目標として設定してもらっています。業務として設定することにより、どのような指導をすれば習熟するかと熱心に考えてくれるようになりました。  また、業務目標として設定することにより、上司は指導を担当する社員の進捗管理をする必要がありますので、部署全体で障害者雇用を検討していくきっかけとなりました。   業務目標 障害者に対する指導   障害者手帳について  発達障害の場合、交付される障害者手帳は療育手帳(自治体によっては、愛の手帳、みどりの手帳、愛護手帳など)あるいは精神障害者保健福祉手帳のいずれかとなります。精神障害者保健福祉手帳は、うつ病や統合失調症等の精神疾患に加え、発達障害も対象としています。よって、精神障害者保健福祉手帳を取得しているからといって、精神疾患の症状があるとも限りません。障害者手帳の種類だけでその人の特性を決めつけるのではなく、本人、家族、支援機関等から障害特性等を確認することが必要です。