実務編 事例4 ■ 聴覚の感覚過敏が原因で集中力の低下が見られたため ノイズキャンセリングヘッドホンを活用した事例 シーン1 感覚過敏 藤田 徹宏さん (24歳)アスペルガー症候群 大学卒業後 システムエンジニアとして就職するが、作業のミスが多い、チーム作業がうまくできない等により、離職その後、発達障害があることがわかり精神障害者保健福祉手帳を取得し、地域障害者職業センターのサポートを受けながら求職活動を行った ハローワーク 職業相談 ハローワークの紹介で、アパレルメーカー「アパレルABC」の本社にて各店舗の売上データの集計、管理を行う業務で採用となる 併せてジョブコーチ支援を実施することとなり本人の障害特性を伝えたうえ指導担当者の選任 作業マニュアルの作成を行うなどサポートを行ってきたものの作業中の集中力低下がみられた 応接室 藤田さんのことなのですが ジョブコーチにサポートしていただいたり作業マニュアルを作成したりして売上データの集計手順は理解しているのですけどどうも作業に時間がかかっているようです ミスをしないように何回も確認しているのでしょうか 何回も確認しているというよりもどうも作業に集中できていないようなのですが 確認してみます 経理課 カタカタ ぴるるるる びくっ 藤田さん仕事は順調ですか? はぁ データ集計のやり方は覚えた? ええやり方は覚えました オフィスは電話がたくさん鳴るけどびっくりしない? そうなんです 電話のベルが鳴るとびっくりしちゃって怖くてしばらく手が止まるんですよ それは大変でしたね前から電話のベルは苦手だったの? はい 子どものころから電話のベルとか突然大きな音は苦手でした あと似た発音の言葉をよく聞き間違えたりして怒られたことも多かったです それ以外に見え方とか匂いで困ったことは? 夜のネオンの点滅が苦手です でもこれは職場ではないので大丈夫です 応接室 藤田さんが集中できないの原因の1つとして感覚過敏が影響していることが考えられます 感覚過敏? はい 発達障害のある人の中には音や光、色、触覚などに敏感な人がいます 藤田さんの場合は音や光に対して敏感なようです 具体的には… 電話のベルの音や突然の大きな音が苦手で驚いて怖くなって少し動きが止まってしまうようです 会社であればたくさん電話のベルがなりますその都度動きが止まってしまえば作業に集中できないでしょう 光は夜のネオンのように強い光が苦手なようですが職場ではそのような光はないので大丈夫とのことです どのような対応が考えられますか? 大きな音を避けるために静かな環境で作業を行えると一番いいでしょうけど 一人だけ離れての作業が難しければ 耳栓の使用を許可いただけると助かります 最近ではノイズキャンセリングヘッドフォンといって機器の作動音などのノイズ音だけを選択して遮るものもあります これだと通常の会話は普通に聞き取ることはできます ノイズキャンセリングヘッドフォンの使用については上司や同僚、ご家族の理解も必要ですね ご家族には私からお話するとして 同僚に対しては「感覚過敏」について理解を得るために研修をやってもらえないですか? わかりました 藤田さんがスムーズにお仕事ができるよう藤田さんの了解を得た上で ご本人の特性と対応方法について説明させていただきます ミーティングルーム 発達障害セミナー 感覚過敏ですが… しーん カタカタ 感覚過敏に対する配慮  発達障害者の中には、音や光、色、触覚などに独特で過剰な敏感さを持っている人がいます。高橋・増渕(2008)の「アスペルガー症候群・高機能自閉症における『感覚過敏・鈍麻』の実態と支援に関する研究」において、当事者からは次のような感覚過敏の内容が指摘されています。  なお、「感覚過敏・鈍麻」の内容については、個人差が大きいことが指摘されており、以下に挙げられた内容が全ての発達障害者に当てはまるものではありません。  どの程度「耐えられないのか」「支援が必要なのか」については、本人や支援機関の意見を参考にしながら対応していくと良いでしょう。   視覚の過敏・鈍麻 ●苦手な色や柄の服が着られない ●ヘトヘトに疲れていると(色や光などの)刺激がとても強く感じられる ●すれ違おうとして(距離感がわからず)人にぶつかることがある ●人の顔を識別するのが大変苦手である ●ページのどこを読んでいるのかわからなくなる ●目まぐるしい街の様子を見ていると気分が悪くなる ●蛍光灯が瞬くのが見える ※照明を暗めにしたり、サングラス(アーレンレンズ眼鏡)を着用したりすることで負担が軽減される場合があります。   聴覚の過敏・鈍麻 ●突然の音にとても弱い ●似た発音をよく聞き間違える ●大きな音にとても弱い ●一度に二人以上の人とは会話ができない ●スーパーやデパートのBGMがとても気になってしまう ●人混みの騒音にとても耐えられない ●聴覚から入るものは覚えられない ●電話のベルの音が苦手 ※耳栓やノイズキャンセリングヘッドフォン(周囲のノイズ(環境騒音)のみを減らすヘッドフォン)を使用することで負担が軽減される場合があります。   嗅覚の過敏・鈍麻 ●特定の香水・アフターシェーブローションなどの香りが我慢できない ●化粧品のにおいがとても苦手である ●ひとりひとりの体臭がすごく気になる ●接着剤や絵の具などの図工用品のにおいがとても苦手である ※周囲の人に香水などの使用を控えてもらうと負担が軽減される場合があります。   その他の感覚の過敏・鈍麻 ●人との共同作業は負担が大きすぎる ●朝起きてもしばらく動けない ●睡眠パターンがとても不規則である ●「時間内に何かをしなければならない」と焦りを感じると停止状態になってしまう ●ひどく疲れやすい ●休み時間の廊下や昼休みの食堂はとても疲れる ●混雑した駐車場で自分の車が見つけられない ※「自分だけの空間」があることで落ち着きを取り戻すことができる場合があります。