第1章 就業支援のプロセスと手法  就業支援の実践に向けてまずはじめに、基本的な就業支援の流れとその具体的な方法について解説する。 第1節 就業支援のプロセス 第1項 就業支援のプロセスの構成  障害者を対象とした就業支援のプロセスは、一般的には、「@職業に関する方向付けのための支援(インテークからプランニングまで)」、「A職業準備性の向上のための支援」、「B就職から雇用継続に向けた支援」とに大別できる。このうち、「B就職から雇用継続に向けた支援」は、支援内容の違いや関わる担当者の違いなどから、「就職のための支援」と「雇用継続(職場適応)のための支援」とに分けることができる(図1)。 図1 就業支援のプロセス  このように就業支援のプロセスを分けて考えるのは、それぞれのステップごとに支援の目標や内容が大きく異なり、連携する関係機関にも大きな違いがあるからである。この就業支援の全体のプロセスをよく把握し、自分が行っている支援が、全体のどの位置にあるもので、何を目標としているのかを、正しく把握していることが極めて大切である。  就業支援のプロセスについては、支援メニューの構成から、図2のような理解もされている。この図では、それぞれ「@就職に向けての相談」、「A就職に向けての準備、訓練」、「B就職活動、雇用前・定着支援」と表現されているが、図1の@、A、Bとその内容は同じである。また、この図では、「C離職・転職時の支援、再チャレンジへの支援」、「D企業等への支援」、「E在宅就業の支援」も支援体系の中に含まれているのが特徴である。 出典)厚生労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"4障害者雇用に関する各種援助 ".事業主と障害者のための雇用ガイド 障害者の雇用支援のために(平成 23年度版).2011.P26-30を基に作成  図2 障害者雇用に関する各種援助 支援メニュー一覧   図3(4ページ)は、就業支援のプロセスごとに、主な支援メニューを書き加えてみたものである。利用者は、このような全体を把握できる図を示されると、目標設定がしやすくなり、また目標達成のための行動や活用できるサービスをはっきりと見通すことができるようになる。支援のプロセスの全体を図示して理解を共有することは、就業支援の初期の相談場面では、非常に有効な方法である。 図3 各プロセスにおける支援メニュー    第2項 就業支援のプロセスの内容 1)職業に関する方向付けのための支援   (インテークからプランニングまで)  職業に関する方向付けのための支援は、さらに、@インテーク、Aアセスメント、Bプランニングの3つのステップに分けられる。  @ インテーク  インテーク(intake)は、受理面接または受付面接などとも称される。 相談に来た人と面接し、何のために相談に来たのか、その「主訴(chief complaint)」を確認し、受け付けるのが適当かを判断し、受付者(インテーカー)が属する機関での支援につなぐ。主訴の内容により、他の機関の方がサービス機関として適切であると判断される場合には、その機関を紹介するなどの対応をとる。  インテークは、就業支援の入口に当たる重要なステップである。利用者の中には、情報不足のため状況をあまりよく把握できていない場合や、コミュニケーション能力に課題がある場合もあり得る。利用者の期待と提供できるサービスに食い違いがあれば、この段階でよく理解し納得していただくことが大切である。また、一般にはこの段階で、利用者と支援者の間に、お互いに信頼し合い、安心して振る舞ったり、感情の交流ができたりする関係、すなわちラポール(rapport)が形成されるかどうかがほぼ決まる。このため、インテークには経験豊富な職員が対応するようにしている施設もある。    A アセスメント  アセスメント(assessment)は、就業支援では、一般に「職業評価」 を意味する。就業支援におけるアセスメントは、面接・調査、関係機関などからの情報収集、各種心理的・職業的検査や作業評価、それらに伴う行動観察などの方法によって総合的に行われる。面接・調査や情報収集では、利用者の生育歴、学歴、職歴、職業能力・適性などを理解し、置かれている状況を把握・確認する。各種検査では、職業能力・適性を中心に把握する。就業支援の場合は、特に実際の場面での職業能力・適性が問題となるので、実際の職場での実習やできる限り実物に近い模擬的な作業場面を活用した評価方法がよく使われる。  また、利用者の課題については、環境との関連性を視野に入れて把握することが必要であることから、アセスメントには、地域の雇用・就業状況を始めとする労働市場などの環境の評価も含まれる。図4(6ページ)は、アセスメントとプランニングの関係のイメージを図示したものである。 図4 アセスメントとプランニングのイメージ  B プランニング(支援計画の策定)  プランニング(planning)では、アセスメントの結果を総合して、利用者の目標を設定し、それを達成するための就業支援の内容、方法、期間などについて検討を加え、個別・具体的に明文化された支援計画を策定する。支援計画は、一般に支援者が素案を作成し、関係者や利用者本人、家族なども参加して、ケース会議によって決定するというプロセスを経る。しかし、最終的な決定は、利用者自身が行うものという理解が一般的である。支援計画の策定にあたっては、利用者本人に充分に説明し同意を得ること (インフォームド・コンセント,informed consent)が肝要であり、支援者の意見を押しつけることのないよう留意する必要がある。また、支援機関の内部はもとより、利用者本人、家族、企業等も含めた外部の関係機関で活用されるに足りる内容を盛り込むことにより、支援が効果的かつ効率的に実施されるよう留意する必要がある。   2)職業準備性の向上のための支援  職業準備性とは「個人の側に職業生活を始める(再開も含む)ために必要な条件が用意されている状態」をいう。  職業準備性の向上のための支援には、職業に必要な技能や知識を習得する訓練である職業能力開発(職業訓練,vocational training)と、職業に向けての準備性を高めるための訓練である職業前訓練(prevocational training)とがある。  職業能力開発は、段階的かつ体系的に職業技能を習得するための職業訓練で、公共職業能力開発施設<職業能力開発校、職業能力開発大学校・職業能力開発短期大学校(ポリテクカレッジ)、職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)、障害者職業能力開発校>などで行われている。  職業前訓練は、職業生活に必要な働く意欲、体力、耐性、危険への対応などの職業準備性を高めるための訓練である。地域障害者職業センターの職業準備支援、障害者総合支援法における就労移行支援、就労継続支援、医療機関における作業療法の一貫としての訓練など、職業準備性の向上を目的とする支援は、広く職業前訓練として位置付けられる。  なお、職業前訓練は職業生活の事前の準備ということになるが、職業準備性の向上は就職するまでの条件に限定される訳ではなく、就職後に職業能力開発や職場環境への適応能力の向上のための支援が求められるものでもあり、その意味では、職場におけるジョブコーチ支援や職場定着支援も職業準備性の向上のための支援に含まれることとなる。   3)就職から雇用継続に向けた支援  就職から雇用継続に向けた支援には、職場開拓、職業紹介(就職あっせん)、職場定着支援(職場適応指導)、企業に対する支援などがある。  職場開拓は、就職先を開拓することであるが、就業支援の過程で、訓練のための実習先の確保を含めることもある。職業紹介は、求人者に求職者を紹介することである。職場開拓、職業紹介ともに、ハローワークが本来業務としており、求人者、求職者について圧倒的な情報量を誇る。各種の支援メニューや各種助成措置の活用も併せて行われており、このステップでの支援は、ハローワークを中心に展開されている。  職場定着支援は、利用者の働く生活、作業、職場の環境への適応度を高め、利用者が職場に定着し、更にはキャリアアップしていくことへの支援である。このステップでは、それまで利用者に関わった者のうち特に関係の深い者、または企業の上司や同僚が、キーパーソン(key person)となって日常的に支援し、その他の関係者がそれを補佐するスタイルをとることが多い。  また、このステップでは、利用者によっては就業生活の基礎となる生活管理が重要な要素となる場合も多く、働くことを中心とした総合的な支援となることも特徴的である。 第3項 プロセスを理解した支援  ある特定の支援者は、単独では、就業支援の一部のステップに関わる場合が多く、全てのステップに直接関わることはほとんどない。支援者は、しばしば自分の役割だけに気をとられ、全体の流れを見失いがちになりやすいので、充分に注意しなければならない。効率的な支援のためには、就業支援のプロセスをよく理解しておくとともに、現在展開している支援が、全体のどの位置にあるかを把握していることが大切である。  就業支援の全体のプロセスを理解しておくことは、利用者の支援計画を作成するうえにも欠かせない。また、他機関が作成した支援計画を正しく理解するためにも欠かせないことである。  また、就業支援のプロセスは、どの関係機関とどのステップで連携をとるかを示すものでもあるから、そのプロセスを理解することは、関係機関との連携をスムーズに展開するためにも有効である。  支援者は、一人ひとりの就業支援のプロセスについて、利用者や他の支援者と理解を共有することが大切である。このためには、支援の初期の段階で、全体の流れを図示してみることが効果的である。各々の利用者について、ステップを時系列で図示し、それを利用者や関係者と共有するとよい。そうすることによって、関係者が皆、全体の流れを把握し、当面の活動は何を目標とし、全体のどの段階にあるかを自覚して動けるようになり、コミュニケーションの流れもスムーズになる。 <参考文献> ○厚生労働省 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:事業主と障害者のための雇用ガイド 障害者の雇用支援のために(平成23年度版).2011 第2節 職業に関する方向付けのための支援   (インテークからプランニング)  ここでは、就業支援のプロセスの第1段階であるインテーク、アセスメントおよびプランニング(支援計画の策定)の基本的な考え方、具体的な方法、ポイント等について実践に即して説明する。   第1項 インテークからプランニングまでの基本的な考え方 1)利用者第一  支援者が心に留めるべき最も根本的な原則は、利用者をあるがままに受容し、利用者の利益を最優先に考え、利用者の立場に立ったサービスを行うことである。  法律、通達、マニュアル等は、サービスを提供するに当たって、その内容や方法の基本となるものであるが、利用者(障害者、家族、企業、関係機関の担当者等)は一人ひとり個性があり、ニーズも多様であること、利用者をとりまく地域の環境も日々変化していることから、サービスの方法や内容はこれに合わせて工夫する必要がある。マニュアルを重視しすぎて、サービスが杓子定規になっていないか、事務処理に追われてサービスが二の次になっていないか等、サービスの方法や内容を振り返ることにより、利用者本位のサービスに努めなければならない。   2)インフォームド・コンセント  このような利用者本位の立場から、就業支援は、インテーク、アセスメント、プランニングをはじめとする各プロセスにおいて、インフォームド・コンセント(説明と同意)の考えに基づいて実施する。支援者は、事前に利用者に対して支援内容、支援計画等の必要な情報を適切な方法で分かりやすく説明し、同意を得たことを確認したうえで支援を実施しなければならない。   3)自己決定の尊重  就業支援を実効あるものとするためには、利用者本人の主体的な取組みが不可欠である。支援者側の一方的な価値観やプランを押しつけたり、理解を求めるだけでは、利用者本人の主体的な取組みが生まれてこない。このため、インフォームド・コンセントに基づき、選択の幅を広げるために充分な情報を提供し、利用者が自らの目標を自ら定めることができるような支援を行い、そのプロセスを通して利用者本人がパワーを身に付けるという「エンパワメント」の視点が重要である。   4)個人情報の取扱いと守秘義務  支援者が取り扱う情報は、干渉されたくないプライバシーであり、漏えいすると権利や利益を損なうおそれのある個人情報の塊である*。また、企業等の支援に当たっては、扱い方を誤れば法人の利益を損なう可能性がある法人情報を取り扱う。このような情報を取り扱う支援者は、職務上知り得た秘密を他に漏らさないように守秘義務を遵守することはもとより、収集する情報は業務上必要な範囲にとどめなければならない。また、その取扱いについて利用者に分かりやすく説明し、理解を得なければならない。  *平成27年9月に改正された個人情報保護法により、平成29年5月30日から、障害に関する情報は「要配慮個人情報」とされており、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならないものとなっている。   5)信頼関係の形成  就業支援を進めるに当たっては、利用者本人、家族等と支援者の間に信頼関係(ラポール)を形成することが不可欠である。支援者と利用者との間に、例えば「頼りになる」「何でも話せる」関係を築く。この信頼関係は、サービスを提供していくうえで基礎となるものであり、信頼関係がなければサービスの提供そのものが不可能となる。  このような信頼関係の形成においては、インテークの段階においてこれまで述べた利用者第一、インフォームド・コンセント、自己決定の尊重、個人情報の取扱い等に関する支援機関のポリシーを利用者に的確に示すことが重要なポイントとなる。 6)自己理解の促進  利用者本人の主体的な取組みによる就業支援を行うためには、適切な自己理解が必要である。インテークやアセスメントは、支援者にとっては支援のための情報収集であるが、利用者にとっては、過去を振り返り、現状を理解し、将来を考える貴重な機会となるものである。インテークやアセスメント、プランニングの過程を通して、自らの希望を明確化し、職業能力や労働市場などの情報を整理し、それらを関連づける作業を共に行い、自己理解が促進されるようにしなければならない。   第2項 インテークのすすめ方 1)インテークのステップ 図1 インテークのステップ  @ 主訴の把握  利用の申込みがあった場合は、まず何を求めているのか、どのように支援してほしいのか、利用目的は何か、という利用者の意向・希望(主訴)を把握する。 <ポイント> 〇主訴や受付に必要な情報を的確に把握するため、インテークのための様式をあらかじめ定めておくとよい。様式の内容は、支援機関によって異なるが、例えば申込者、連絡先、障害状況、主訴、他機関の利用状況、相談結果等が含まれる。 〇「インテークは支援機関の顔」である。利用者にとっては初めての接触で緊張していることも多いため、受容的・共感的態度で接しなければならない。最初に応対した支援者の接遇如何がその後の支援に影響を与えることがあるので充分に留意し、丁寧な対応を厳に心掛けるべきである。 〇話している言葉よりも「話したいこと」に注目して、真のニーズや本音をつかむことが大切である。  A 支援内容の説明  支援者から提供できるサービス内容を分かりやすく説明する。支援機関に対する期待は、利用者がそれまでに得た情報に基づくものであり、支援機関の役割や支援内容が正しく理解されているとは限らない。誤解がある場合には、言下に誤りを指摘するのではなく、期待されているものに絡めて誤解を解きながら、提供できる支援について理解を得る。 <ポイント> 〇利用者のコミュニケーション能力に応じて「正しい内容を分かりやすく」説明する。標準的な説明だけでなく、あらかじめパンフレットや図表など分かりやすい資料を準備しておく、実際に見学をしてもらう、具体例を使って説明するなどの工夫や配慮を行うべきである。    B 利用意思の再確認  主訴を把握し、提供できるサービスについて理解を得たうえで、利用者が支援機関を利用する意思があるかどうかを再度確認する。    C 受理  利用意思が再確認された人については、次の手順で必要事項の確認と連絡を行い、これを受理する。その際、取得する個人情報について、利用目的を明示し、事前に利用者の同意を得ることが必要となる。  なお、業務の対象にすることが適当でないとみなされる場合には、申込みを受理せず、主訴に対応する他機関の利用等について助言する。 <ポイント> ○相談受理の手順は概ね次のとおりとなる。 ・インテーク様式を用いて、改めて氏名、電話番号、障害の状況、他機関の利用状況、主訴等必要な情報を確認する。 ・相談日時、担当者、交通機関の利用方法等を伝える。 ・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等の必要参考資料を持参するよう伝える。 ○他機関の利用を勧める場合には、その利用方法を情報提供する。また、必要に応じて、利用者の同意のもと、他機関の担当者に連絡をとる。 ○アセスメントを行うに当たって関係者からの意見聴取が必要な場合には、利用者の同意のもと、家族や関係機関の担当者の同伴を求める。  D アセスメントの準備  利用者の同意が得られれば、関係機関が把握している情報を事前に提供してもらうことにより、相談時間の短縮など利用者の負担軽減に努める。 <ポイント> ○関係機関からの情報収集は、利用者の同意を得たうえで、例えば、図2(14ページ)のように文書で行うことが望ましい。文書で行うべき理由は、個人情報を取り扱う際の責任者や、内容、流れを明確に記録として残るようにするためである。安易に電話等で情報収集することには慎重になるべきである。   ○○年○○月○○日 (該当機関または施設の長を記載) 様               (所属機関または施設の長を記載) 印 相談結果等の情報提供について(依頼)  (当施設・機関)の業務運営につきましては、日頃から格別の御協力を賜り厚く御礼申し上げます。  さて、下記の者の就業支援に当たっては、(貴機関・施設)での相談結果等の情報が必要と考えられますので、情報提供をお願い申し上げます。  なお、当該情報の提供につきましては、本人の同意を得ておりますことを念のため申し添えます。 記 1.情報が必要な者  〇〇△△(生年月日 〇年〇月〇日)            (〇〇市〇〇町1−2−3) 2.情報が必要な事項  相談結果等、就業支援で参考となる資料 3.情報が必要な理由  就業支援に活用するため 以 上 図2 情報提供依頼文(記入例) 第3項 アセスメントのすすめ方  アセスメントは、地域障害者職業センター、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、職業能力開発校、企業、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、福祉事務所、特別支援学校、保健所、医療機関等で広く行われているが、実施する機関、目的や場面によってその内容や方法は様々である。ここでは、就業支援のアセスメントについて解説する。   1)アセスメントの内容  就業支援のアセスメントでは、「@個人の側の諸特性」と「A職業の側の諸条件」、「B個人をとりまく支援体制」の3つの側面について把握・分析を行う。  例えば、@個人の側の諸特性としては、基本属性(氏名、年齢、障害状況等)、家庭環境、生活歴、職歴、身体的側面(身体動作、体力等)、精神的側面(学力、性格等)、社会的側面(日常生活、職場での対人関係等)、職業的側面(労働意欲、職業適性等)がある。また、A職業の側の諸条件としては、地域の産業、労働市場の状況(障害者の求人、就職状況等)、就職可能性がある職業があり、B個人をとりまく支援体制については、利用できる社会資源等がある。 <ポイント> ○アセスメントでは「セールスポイント」や「できること(ストレングス)」に注目する。できないことや課題点が目につきやすいが、陰に隠れた長所を見逃さないように留意し、セールスポイントを伸ばす方向でアセスメントを行う。 ○課題については、必要な支援や配慮、環境調整をできるだけ明確に示す方向でアセスメントを行う。 ○家庭や地域での生活面の諸条件も、職業生活を送るうえでは影響のある要素となる。社会資源の状況も含めた全体的なアセスメントを行う視点が必要である。 ○前述したように、アセスメントの過程で利用者の自己理解を支援する視点から、アセスメントの内容やポイントを利用者に整理して示すことは有効である。図3は、安定した職業生活を継続するうえで必要とされる個人の側の要件について示したもので(職業準備性については第1章第3節参照)、このようなツールを利用者に示すことは、なぜこのような情報収集が必要なのか、どういった条件を整えていく必要があるのかについて共通認識の形成を図りながら相談を進める一助となる。   出典)相澤欽一:"資料3ジョブガイダンスの実際例".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P198を基に一部変更して引用  図3 職業準備性のピラミッド 2)個人の側の諸特性に関するアセスメントの方法  アセスメントの方法は、相談と関係機関からの情報に基づいて行うもの、これに施設内の作業場面や職場実習の観察を併せて行うものなど様々である。具体的には図4のとおり、@面接・調査、A検査(テスト)、B場面設定、C職場実習、D行動観察がある。どの方法を使うかは一様ではなく、必要に応じて取捨選択して活用するものである。   図4 アセスメントの方法  @ 面接・調査  面接・調査は、支援機関で必ず用いられる方法である。検査や職場実習は必要に応じて実施するが、面接は、アセスメントに不可欠なものであり、また土台となる方法である。アセスメントは「面接に始まり面接に終わる」といっても過言ではない。具体的には利用者本人、その家族等に対する面接による情報収集のほか、関係機関からの情報収集による。 <ポイント> 〇面接に当たっては、個人情報の取扱い等の説明を行い、同意を得ること。この場合、文書を渡して説明する方がよい。 〇あらかじめ面接・調査項目を統一様式として定めておき、漏れや重複がないように効率的に行う。 〇面接・調査を行う前に、挨拶、自己紹介、当日の予定などを分かりやすく説明する。 〇面接では、潜在しているニーズを引き出すため、必要に応じて「うなずく」「相手の言葉を繰り返す」「言いたいことを明確な言葉で返す」等、カウンセリングの技法を活用すると効果的である。 〇面接では、プランニングに必要不可欠な範囲のものを聴取することとし、就業支援に直接関係のないプライバシーに立ち入らない。 〇利用者の待機中の言動、面接の際の同伴者との接し方等も貴重な資料となるので、観察・記録しておく。 〇面接の主役は、利用者本人であり同伴者ではない。あくまで利用者を中心に相談を行う。  A 検査(テスト)  検査では、各種のテストを用いて職業的自立を図るうえで活用できる特性、予測される課題等を明らかにする。利用する検査は、身体検査、知能検査、性格検査、社会生活能力検査、職業適性検査、ワークサンプル等である。 <ポイント> 〇可能な限り関係機関で実施された結果を活用し、必要最小限の検査を実施することにより利用者の負担を軽減するように努める。 〇検査の多くは標準化されているため、諸特性を客観的に把握できるメリットがある。ただし、一つの検査だけでは一部の特性しか把握できないことから、他の方法と併せて実施することが効果的である。 〇障害による残存機能だけでなく代替機能の実用性も併せて把握する。 〇職業との関係を常に念頭に置きながらアセスメントを行う。例えば、握力が30kgあったとしても清掃作業でバケツに水を入れて運べるとは限らない。単なる身体検査で終わってはならない。 〇1種類の検査の数字によって安易に判断することは避け、総合的な視点から特性を把握することが肝要である。このため支援者は、検査に精通することはいうまでもなく、障害、職業等の知識を深め、経験を積むことにより自身のアセスメント力を高めるように努める。 〇社会的側面や労働意欲は、利用者の日常をよく知っている家族、関係機関の支援者等の意見も参考にして把握する。また、例えば金銭計算、時間の読取り等アセスメント場面で実施できる事項は、実際に行ってもらうとよい。 ワークサンプル  ワークサンプルは、実際の作業または模擬的な作業標本(ワークサンプル)を使って観察・評価する方法である。ワークサンプルには、「具体的な評価ができる」、「作業態度、工夫、興味、習熟度等も併せて把握できる」、「職業の現実的な理解と働くことへの動機づけに結びつけることができる」という長所がある。ワークサンプルとしては、ワークサンプル幕張版(MWS)などがある。MWSは、簡易版と訓練版に分かれ、職業上の課題を把握する評価ツールとしてだけでなく、作業遂行力の向上や障害の補完方法の活用に向けた支援ツールとして使うことができる。具体的には、数値入力、文書入力などのOA作業、物品請求書作成、ラベル作成などの事務作業、ピッキング、組立作業などの実務作業の3つの作業に大別される13種類の作業課題から構成されている。  B 場面設定  施設内に模擬的な作業場面を設定して観察・評価する方法である。 <ポイント> ○施設内の支援場面を活用して、実際の職業場面に近いルールの下での活動を通じ、観察・評価により職業的諸特性を多面的に把握する。その際には、表1(20ページ)の「就労移行支援のためのチェックリスト」の「チェックリスト経過記録表」を活用すると効果的である。  C 職場実習  職場実習は、利用者が実際に、企業内の作業を行うことを通して観察・評価を行う最も実際的なアセスメント方法である。この方法は、環境要因の影響も含めたアセスメントができること、実体験を通して利用者自身で職業に関する現実的な検討ができること、企業から直接的な評価が得られること、職務再設計等の検討も併せて行うことができる等の長所があり、広く活用されている。協力事業所の確保にあたっては、ハローワークをはじめ関係機関との連携、情報交換が重要である。 <ポイント> ○職場実習を行う際には、関係者間で情報共有できるように、また担当者による評価結果にバラツキが出ないようにするため、評価項目や評価基準を定めた統一様式を使用すると効果的である。例えば、地域障害者職業センターでは表2(21ページ)の「職務試行法評価票(記入例)」を使用している。 表1 チェックリスト経過記録表 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構編:就労移行支援のためのチェックリスト経過記録表(各種教材、ツール、マニュアル等No.20).2007 ※就業支援機関や事業所が連携し連続した就労支援が行えるよう新たに開発された「就労支援のための訓練生用 チェックリスト」「就労支援のための従業員用チェックリスト」は下記を参照。 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:就労支援のためのチェックリスト(各種教材、ツール、マニュアル等No.30).2009  https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/30.html 表2 職務試行法評価票(記入例)  D 行動観察  行動観察は、様々な場面での利用者の言動をありのままに記録して、その職業的諸特性を明らかにするものである。  限られた時間内に、限られた方法で利用者の多様な職業特性を全て把握することは困難であり、また、アセスメントそのものが現実の職業場面ではないという限界もある。行動観察は、この限界を補うものである。 ・行動描画法:@事実を具体的に記述すること、A程度、頻度等を記録すること、B状況が分かるようにしておくこと ・録音・録画法:事前に利用者の了解を得て、VTR等を用いて行動を記録する ・評価尺度法:観察しようとする行動と評価段階を事前に用意し、実際の行動をそれに当てはめて記録する <ポイント> 〇多面的に把握するため、褒める、具体的な目標を与える、激励するなどにより態度や状況の変化を把握することも重要である。 〇一つの行動でも一面的な捉え方だけでなく、流れや能力の程度、障害の内容等を全体的に考慮して意味付けることが必要である。例えば「よそ見」という一つの行動であっても、注意や集中力が散漫なためであったり、やり方に自信や確信がないためであったり、種々の要因が考えられる。 〇あらかじめ観察すべきポイントを絞り込んでおくために、障害特性に関する予備知識を持つ。例えば、脳性まひの痙直型の場合は、主たる障害部位以外にも多少なりとも影響があり作業能力に関係することがある等、作業能力や職業生活に関係する場合等の予備知識があれば、観察ポイントを事前に把握できる。 〇評価実施時には、観察の工夫と努力が必要である。例えば、身長計の目盛りを利用者に読んでもらうことで、視力の具合や目盛りの読み取り、三桁の数の理解、小数や単位の理解等の数処理の実用性の一端を観察することができる等、工夫により把握できる情報が増える。   3)職業の側の諸条件に関するアセスメント等  次に、地域の労働市場の状況、利用できる社会資源や支援制度の状況、支援機関や家族の支援体制等の周辺状況に関する情報を整理する。就職希望地域の求人、求職等の情報は、ハローワーク、求人広告、ホームページ等から入手する。 <ポイント> 〇一般的な職業の側の諸条件等、利用者の周辺状況の情報を入手するに当たっては、次のホームページが参考になる。 ・職業紹介、求人、求職等の情報   →ハローワークインターネットサービス ・障害者雇用対策等→厚生労働省ホームページ ・地域の労働市場の状況→各都道府県労働局のホームページ ・地域の社会資源→各都道府県・市町村のホームページ 第4項 プランニング(支援計画の策定)のすすめ方 1)プランニングのステップ 図5 プランニングのステップ  @ 情報の整理  まず、各種のアセスメントから得られた個人の側の諸特性、職業の側の諸条件、それぞれの情報を整理する。  これらを基礎として、導き出される結論、課題、対応方針(案)等をまとめる。例えば、地域障害者職業センターでは、図6(24ページ)のような様式を用いて支援計画(職業リハビリテーション計画)を策定している。 図6 職業リハビリテーション計画(記入例)  A ケース会議等での検討  支援計画は、アセスメントを担当した支援者が独自の判断で策定することなく、必要に応じてケース会議等において検討を行うとともに、文書にして組織決定を行う。 <ポイント> 〇ケース会議は、支援計画の策定、変更、進捗管理、結果の評価、問題解決、情報共有ネットワーク化等を目的として、支援に関わる関係機関の支援者に集まってもらい必要に応じて開催する。 〇エンパワメントや自己決定を尊重する観点から、ケース会議には、可能な限り利用者本人、家族等の出席を求める。    B 利用者に対する説明と同意  支援計画は、原則として利用者に書面で提示し、内容を分かりやすく説明したうえで、同意を得る。障害等のために利用者単独での理解や判断が困難な場合には、家族の同席を求め、本人および家族の同意を得る。    C 関係機関への連絡  支援計画は、本人の同意を得た上で、必要に応じて、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、職業能力開発校、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、福祉事務所、特別支援学校、保健所、医療機関等の利用者に関わる関係機関に連絡する。   2)支援計画の内容  「支援計画」の内容は、支援機関の役割、提供するサービスの内容等によって様々である。ここでは支援計画の一例として、地域障害者職業センターの「職業リハビリテーション計画」の記入例を図6に記したので参考にしていただきたい。  地域障害者職業センターの職業リハビリテーション計画は、「現状と支援の方向性」、「具体的目標」、「障害者職業センターが提案する支援内容」、「協力を求める機関及び内容等」および「留意事項等」から構成されており、その内容は概ね次のとおりである。  「現状と支援の方向性」は、アセスメントの結果に基づき、労働市場の状況や支援体制等を総合的に勘案し、利用者が早期に職業的に自立できるように、最も効果的な支援の方向性を、明らかにするものである。  「具体的目標」は、「現状と支援の方向性」において示した支援を実施するにあたって、利用者と支援者の共通目標とその到達レベルを記入し、「障害者職業センターが提案する支援内容」は、職業準備支援やジョブコーチ支援事業等、具体的目標を達成するための支援内容および支援方法を記載する。また、「協力を求める機関及び内容等」は、支援の実施にあたり必要となる関係機関の協力について、その内容を関係機関ごとに記入する。 <ポイント> 〇主体は利用者本人であることから、支援計画の中では利用者の役割を明確にすること。 〇支援の目標や内容、役割分担については、実施期限等も含めできるだけ具体的に示すこと。 〇支援計画については、利用者本人を含む関係者が参集したケース会議において調整、確認したものが、最終的な計画となること。 〇支援計画が適切に遂行されているか、新たな課題は生じていないか等について定期的に情報を集め、必要に応じて支援計画を修正できるように進捗管理(モニタリング)を行うこと。   <参考文献> 〇独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:就労移行支援のためのチェックリスト活用の手引(各種教材、ツール、マニュアル等No.20).2007  https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/19_checklist.html 〇相澤欽一:現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007 第3節 職業準備性の向上のための支援 第1項 職業準備性とは何か 1) 1)職業準備性とは  職業リハビリテーション用語集第2版2)では、職業準備(work preparation)を「職業生活を開始するに当たって要件を準備すること。 例えば、職業生活をはじめていくのに必要な身体条件、体力、仕事に対する意識、上司や同僚とコミュニケーションしていくための能力、必要な技術、技能の獲得等があげられる。これらの職業準備性(レディネス)を高めていくためには、技術的な面よりも、基本的な労働習慣を身につけることが要求される(後略)」としている。また、レディネス(readiness)を「心理学では学習に必要な準備状態をさす。成熟や経験によって得られ、効果的な教育・訓練を行うために必要な条件が充分に用意されている状態を『レディネス』があるなどと表現している。(中略)対象、目的との関連で学習レディネス、職業(就職)レディネス等が考えられる。」としている。  以上を踏まえると、職業準備性とは、「個人の側に職業生活をはじめる(再開も含む)ために必要な条件が用意されている状態」とまとめられよう。   2)職業準備性の内容  職業生活を始めるために必要な個人側の条件としては、 @職務遂行に必要な技能 A職業生活を維持するために必要な態度や基本的労働習慣(仕事に対する意欲、一定時間労働に耐える体力、規則の遵守、責任感、称賛および批判を受け入れる態度等) B職業生活を支える日常生活・社会生活面の能力(健康管理、生活リズムの確立、日常生活の管理、対人技能、移動能力、消費者としての技能、社会資源を活用する技能等) といったことが含まれる。職業準備性というときには、このうちのAやBに力点がおかれることが多い。AやBの具体的な内容としては、20ページのチェックリスト経過記録表の項目が参考になる。  いずれにしても、職業準備性は、健康管理や日常生活の管理、社会生活能力の向上(代償手段獲得の訓練も含む。)といった幅広い内容を含んでいる。ゆえに、職業準備性の向上への取組みは、就業支援の領域だけでなく医療・保健・福祉・教育等の各専門領域や家庭等でも行われることになる。このような視点をすべて取り入れて、職業準備性の向上に係る支援を記載しようとすると、膨大なものになるため、本節では、上記AおよびBの一部に関連して、就業支援の領域で行われるものに絞って説明する。  なお、就業支援の領域で行われる主な取組みとしては、就業イメージの明確化、就業に対する自信の獲得(自信回復)、一般的な職場ルールの理解促進、職場で求められる基本的な対人技能の習得、といったようなことが挙げられる。  また、就労移行支援事業のように、ある程度長期的な支援期間が設定されている場合には、基礎的な作業能力(持続力、正確性等)の向上、基礎的な体力づくりや就職後も継続して行えるような健康増進のための習慣づくり、就職後の支えになる仲間作りや余暇活動への取組みも想定される。さらに、疾病管理や日常生活管理のような医療・保健・福祉の専門領域で取り組むべきことについても、職業生活の継続の視点から取り組むことが考えられる。   3)職業準備性を考える際の留意点  職業準備性を考える際に留意しなければならない点は、「職業生活を始めるために必要な条件」が、企業側の障害者雇用に係る考え方や支援機関の支援状況等によって異なるため、職業準備性の絶対基準を設定し、個人の側に必要な条件が用意されているかどうか画一的に判別することは難しいという点である。  また、第1章第4節で説明することとなるが、援助付き雇用モデルの登場は、「訓練してから就職」というレディネスモデルの考え方から、「就職してからの継続的な支援」に発想の転換を促している。特に、訓練先で学んだことを実際の職場で応用することが苦手な人や、環境の変化に対応することが苦手な人の場合には、「訓練してから就職」よりも「就職してからの継続的な支援」の方が効果的な場合が多いのも事実である。  職業準備性を就職するためのハードルと考え、そのハードルを跳べないと就職への挑戦はできないと単純に判断するのは危険である。個々の職業準備性を検討する際には、支援や受入れ環境との相互関係の中で見ていく必要がある*。職業生活の継続のために、本人が努力すべきこと、企業が配慮すべきこと、支援者が支援すべきことを整理するための視点として、職業準備性を捉えることが大切である。  *労働省および身体障害者雇用促進協会(昭和62年当時)による研究会報告書では、「職業準備」の概念を、「障害者の就労の促進、継続、さらには安定した職業生活の確保に必要な、または有益な一切の障害者自身および関係者の準備的行為・活動、措置ないし制度を含むものとして、広く捉える。」3)とまとめ、企業や労働組合、支援者や支援制度等、障害者を受け入れる社会の側の準備性にまで言及している。   第2項 職業準備性を向上させるためのポイント 4) 1)職業準備性向上の必要性に対する理解  職業準備性向上のためには、本人の主体的な取組みが必要である。なぜ職業準備性を向上させる必要があるのか本人が理解しないまま、訓練に取り組んだとしても、成果はあまり望めない。重度の知的障害がある等のため、言葉による理解・確認が難しいケースもあるかもしれないが、原則的には、職業準備性の向上の必要性と向上させるための方法について、本人の納得を得ることは、職業準備性を向上させるための重要なポイントである。本人の納得については、アセスメント・プランニングを通じてアプローチしておくのが基本である。   2)職業情報の提供  職歴がない、仕事に対するイメージが湧かないという人に対しては、職業に関する知識(どんな仕事があるか、それらの仕事を行うときに何が要求されるか、実際にどのような求人がでているか等)や求職活動に関する知識(求人票の見方、履歴書の書き方、ハローワークの利用の仕方、面接の仕方等)に関する情報を提供する。情報提供に際しては、企業見学を含め、なるべく実際的な情報の提供に努めることが望まれる。 3)働く当事者のモデルの提示  支援対象者と同じような障害のある人たちが、どんな仕事をしているのか、どうやって就職し、どのようなことに気を付け、どんな思いで働いているのかといった情報は、働くためのイメージの明確化ばかりでなく、意欲の喚起や自信の回復等にもつながる。働く当事者の情報を提供する場合には、その当事者から直接話をしてもらうのが、最も効果的である。   4)企業からのメッセージの提示  同じことを言われても、誰から言われるかで受け止め方は大きく異なる。企業から(わが社で)働くために必要なこと等について直接話をしてもらうと、支援者が何度言っても伝わらないことが一遍に伝わることもある。また「やればできる」というメッセージを企業の側から伝えてもらうと、意欲の喚起や自信の回復等に大きな効果をもたらす。   5)企業での実習  企業で実習してみることは、職業準備性の向上を支援する最も効果的な手段である。  企業で実習してみる場合には、@複数の企業を見学したうえで、本人の希望や課題にあわせて働く場所を決める、A働く時間や働き方(単独での仕事、グループでの仕事等)もなるべく本人の希望や課題に合わせる、B職務内容だけでなく、職場内の人間関係を含めた職場環境を支援者がある程度知っておく、C必要に応じて支援者が介入できる、といった条件を満たしていることが望ましい。少なくともなぜこの職場で実習をするのか、実習の目的を本人と支援者とで共有することが必要である。本人が目的を理解しないまま実習をしても、あまり効果は期待できない。  また、実習をした後(もしくは、実習中)に、実習の振返りを行うことが大切である。実習の感想、できたことや困ったこと、実習目的の達成度等を企業側の評価も踏まえ、本人と話し合うとよい。企業側の評価は誰がするかで評価結果に大きな違いがでることもあるので、なるべく様々な立場の人の意見を確認しておくとよい。  職場が変われば本人の働く様子が変わることもある。ひとつの職場の実習結果だけで本人の実態をすべて把握したと考えてはならない。実習結果は、あくまでも特定の職場における実施時点での結果であることに留意する。   6)振返りの重要性  職業準備性向上の取組みの副産物、と言うよりは、大切な機能のひとつとして、アセスメントおよび本人と支援者との関係作りが挙げられる。次の支援につなげるためには、職業準備性の向上を支援する取組みの中で、求職活動を行う際の目標(職種や労働条件等)や就職後の職場適応を図るための対処法を明確にするとともに、本人との関係を形成することが重要である。適切なアセスメントと関係作りを行うためには、随時、本人と支援者が振返りをする必要がある。振返りの時間は、職業準備性の向上を支援するプログラムに明確に位置付けておくことが望ましい。   7)施設内訓練における留意点  何年にもわたって施設内で訓練を行うと、施設に適応することが目的になってしまい、企業で働くことにつながりづらくなることがあるため、注意を要する。  企業で働くことを目的に施設内で訓練を行う場合には、アセスメントや本人との関係作りを主目的に短期間の訓練を設定し、その中で実際の職場を活用した訓練(実習)を適宜導入する方が望ましい。  また、職場実習等のプログラムを施設内訓練と連動させると効果的である。例えば、職場実習を行ったうえで、実習した企業に就職したと想定してSST(Social Skills Training)を実施すると、欠勤や遅刻の連絡、仕事で分からないことがあったときの質問、仕事でミスしたときの対応、昼休みに会話の中に参加するときの方法、更には、忙しそうにしている〇〇さんに質問をするときどうする、〇〇さんから病気のことについて尋ねられたときどうする等、実習先の雰囲気も踏まえ、より具体的な場面設定をしながらSSTを行うことができる。   8)様々な制度の有効活用と関係機関の連携  就職前の就業支援に絞っても、職業準備性を向上させるための制度や支援は多岐にわたっている。就労移行支援事業、地域障害者職業センターの職業準備支援やリワーク支援等以外にも、「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」の「実践能力習得訓練コース」等を活用したり、技能習得のための職業能力開発校の利用も考えられる(第4章第2節参照)。様々な制度を有効活用するためには、制度の情報を知るとともに、関係機関と連携し、より効果的な制度活用を図ることが望まれる。 9)職業生活を通しての職業準備性の向上  本節では、職業準備性を「個人の側に職業生活を始める(再開を含む。)ために必要な条件が用意されている状態」とした。しかし、労働省および身体障害者雇用促進協会(昭和62年当時)による研究会報告書では、職業準備における「準備」の語感には、職業生活の事前の準備というニュアンスがあり、これにこだわると、就職後の職業能力開発や職場環境変化への対応の視点を欠くとして、職業準備の概念は、就職後の職業能力開発や職業上の変化への対応力を含め、今後の社会的、経済的変化を踏まえた「全生涯にわたる職業への対応能力の準備としてとらえなければならない」5)としている。このような考え方は、エンプロイアビリティ(雇用可能性)*の概念に近くなるが、障害のあるなしに関わらず、多くの人が、実際に企業の中で働くことにより、技術を身に付けたり、労働者として成長していくことを考えれば、実践的には、見落としてはならない視点である。  また、職業準備性向上の取組みを一緒に行った人たち等との仲間作りが、就職後の職業生活の継続に大きな影響を与える場合もある。職業準備性を向上させる取組みを行う際には、その点も考慮しておくことが望まれる。  *employability(雇用可能性):ある人が仕事に就けるかどうか、一旦就いた仕事を継続できるかどうか、また、転職できるかどうかを示す、労働市場で通用する職業能力、労働市場価値を含んだ就業能力をいう。 第3項 職業準備性向上のプログラム例  職業準備性を向上させる際には、個々の課題に留意しながら、個別の取組みを行うことが望まれる。例えば、地域障害者職業センターでは、作業支援や講習等を組み合わせた個別カリキュラムを設定して支援を行う等、個々の特性や職業上の課題に応じて職業準備性向上のための取組みを効果的に行っている。  そして、障害者職業総合センター職業センターでは、障害種別、また支援内容別に、職業準備性向上のためのプログラムおよび具体的な支援ノウハウについて、実践報告書や支援マニュアルを作成し、支援機関に配布している(資料参照)。また、それらの支援マニュアル等は、高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページからダウンロードして活用することができ、主な支援技法は、発達障害6)7)(知的障害を伴わない自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害の方への支援技法)、高次脳機能障害8)(就職又は復職を希望する方への支援技法)、精神障害9)10)(就職又は復職を希望する方への支援技法)に関するものである。 <引用文献> 1)相澤欽一:"雇用支援の実際@ X職業準備性について".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P88-91 2)日本職業リハビリテーション学会 職リハ用語検討研究委員会編:"職業準備".職業リハビリテーション用語集(第2版).2002.P56 3)労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"第一章第二節「職業準備」の概念 ".精神薄弱者の職業準備に関する調査研究V(調査研究報告書通刊第124).1988.P4 4)相澤欽一:"雇用支援の実際A T職業準備性の向上".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P107-115 5)労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"第一章第一節 職業準備の意義、理念および原理".精神薄弱者の職業準備に関する調査研究(調査研究報告書通刊第105).1987.P6 <参考文献> 6)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(実践報告書No.19).2007 7)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2)―注意欠陥多動性障害を有する者への支援―(実践報告書No.23).2010 8)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:高次脳機能障害者に対する支援プログラム―利用者支援、事業主支援の視点から―(実践報告書No.18).2006 9)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:精神障害者等の職業リハビリテーションにおける職業レディネス指導事業の役割―職業レディネス指導事業の5年の取り組み―(実践報告書No.6).1999 10)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集(2)―気分障害者に対する復職支援の実践―(実践報告書No.20).2007 コラム@   ◇障害者職業能力開発校の活用について◇    「第2項 職業準備性を向上させるためのポイント」において、「障害者の態様に応じた多様な委託訓練の実践能力習得訓練コース」の活用や「技能習得のための職業能力開発校の利用」について触れられている(32ページ)。障害者の就業支援を進める際に、就職への希望を実現する手段の一つとして「公共職業訓練」があるが、この「公共職業訓練」を企業や民間教育訓練機関等に委託して実施するというものが「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」であり、国や自治体等が直接実施しているのが「職業能力開発校」である(制度の概要は258ページを参照)。  職業能力開発校の中でも障害者を対象として実施している施設が「障害者職業能力開発校」である(制度、機関の概要は258ページ、264ページを参照)。国立、県立それぞれの施設があり、訓練科目も個々の障害者職業能力開発校ごとに様々な内容のものが設けられている。  過去において、職業訓練は主として身体障害者を対象として実施されていたが、現在では、知的障害者を対象とした訓練科目・コースが全国各地で多数設置され、さらに、精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者を対象とした職業訓練も実施されており、これらの障害者を対象とした訓練科目・コースの設置が一部で開始されている。  特に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する中央障害者職業能力開発校(埼玉県所沢市)、吉備高原障害者職業能力開発校(岡山県加賀郡)では、重度視覚障害者、精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者等の職業訓練上特別な支援を要する障害者を中心に、全国の広範な地域から受講者として受け入れており、個々の障害特性・能力・適性等に応じた個別カリキュラムによる職業訓練と職業生活指導を一体的に行う総合的指導や、障害者雇入れ検討企業との連携・協力による訓練といった先導的な取組みを行うほか、それらの成果を他の障害者職業能力開発校等に普及している(資料参照)。  障害者の就業支援に当たって、現状の職業能力を活用して就業を求めることが希望の実現につながる場合もあれば、職業能力の向上を図った上でのチャレンジがより希望を叶える有効な手段となる場合もある。就業支援担当者としては、ご本人の希望を吟味し、このようなことも視野に入れつつ支援に当たることが望まれる。職業訓練の受講に関する相談については、最寄りのハローワークに問い合わせられたい。 第4節 就職から雇用継続に向けた支援 第1項 就職から雇用継続に向けた支援の基本的な考え方  障害者自身の職業準備性を整理し、労働条件や希望職種等が明確になったらハローワークとも連携しながら受入れ企業を選択あるいは開拓していくことになる。  まず、職場開拓、職業紹介(就職あっせん)は一般にハローワークを中心に展開することとなる。ハローワークのサービスの効果的な活用方法については、次のコラムAで説明しているので参照していただきたい。  また、障害者自身に対しては、実際に希望する求人に応じて履歴書の書き方や面接の仕方などに関する具体的な相談を行う必要がある。志望動機や経歴、自己PRを企業にどう説明するか、障害についてどのように伝えるか、面接時の服装をどうするか、面接に誰が同伴するか等々について具体的な打合せを行い、必要に応じて事前に練習を行うといった支援が必要になろう。  一方、企業によっては障害者雇用を進めていく意思があるにも関わらず経験がないため、職務の選定、適切な雇用管理の仕方などに不安を感じていたり、社内の理解が得られない、施設がバリアフリーになっていないなどの理由で具体的な受入れが進まないこともある。このような場合には企業の不安や抱えている課題を解決するために、支援者が職務選定や雇用管理、施設の改善に関して情報提供や提案をしたり、社内理解を進めるための支援をしていくことが必要となる。  また、採用に向けて話が進んでも、障害者雇用の経験の有無、障害者雇用の理解の度合い、従事する仕事の内容や要求水準、障害者を支える人的体制の状況といった職場環境は、企業によってそれぞれ異なっている。障害者の職業準備性が整った状態で就職したとしても、受入れ側の企業の態勢が不充分であったり、要求水準が高かった場合には、職場に適応することは難しくなる。このような場合には、作業工程を簡易化する、周囲に障害特性について的確な理解を促す、職務の要求水準を下げてもらうなどの職場環境改善のための働きかけが必要となる。  さらに、知的障害者や精神障害者等の中には、その障害特性から環境が変わると訓練等で身に付いた力を充分に発揮できないタイプの人もいる。このため、障害の特性や受入れ企業の準備態勢の状況に応じ、職場に適応するために「仕事の技能習得」、「職場ルールの遵守」、「コミュニケーション技能の習得」、「人間関係の形成」等に関してきめ細かな支援を行うことが必要な場合もある。  就業している障害者は職場で従業員としての役割を果たしていくことに加え、生活者として「規則正しい生活習慣の確立」、「家事の遂行」、「消費活動や金銭管理」、「友達や異性との交友や余暇活動」、「地域活動への参加」、「通院・服薬といった疾病管理」など様々な役割や活動があることにも留意しなければならない(第2節図3(16ページ)、図1)。知的障害者や精神障害者等の場合、職場環境が整っている場合でも、家族関係や交友関係での問題、金銭面での問題、疾病管理の問題が、職場での作業遂行やコミュニケーション、人間関係にも影響することがありうる。したがって、雇用継続のためには職場での支援に加えて、生活面の継続的な支援も重要である。  以上のことから、就職から雇用継続のためには、@障害者の個々の状況に応じた職場適応のための支援、A企業への支援、B生活面の支援をきめ細かく一体的に実施していくことが必要であり、そのためにはそれぞれの支援を担当している支援者(病院・クリニック、就労移行支援事業所、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等)が支援対象者や企業に関する情報を共有し、連携して支援を行っていくことが重要である。  さらに、これらの支援により職場適応が図られても、生活環境の変化、配置転換や職務内容の変更、上司や同僚の異動などにより、新たな支援課題が生じる場合もある。支援者としては、職場適応後もしばらくは定期的な職場訪問や電話連絡等を通じて勤務状況を把握しておきたい。  なお、これらの情報共有においては、当然のごとく支援対象者や企業に対してその目的や内容を説明した上で同意を得ておく必要はあるので留意されたい。  ここでは、就職から雇用継続のための支援として、「企業へのアプローチの方法」、「ジョブコーチ支援」、「就業支援と生活支援」について解説を行う。 図1 就職から雇用継続に向けた職場適応についての支援体系 コラムA   ◇ハローワークのサービスの効果的な活用◇    就業支援に当たっては、職業紹介、企業への雇用率達成指導等を行うハローワークのサービスを効果的に活用することもポイントである。そのためにも、ハローワークの機能をよく理解し、それを踏まえて、日頃からハローワークの担当者と顔の見える関係作りに努めることも重要であろう。 1)ハローワークの障害者担当窓口を初めて利用するときの留意点  ハローワークの主な利用者は、仕事を探している人(求職者)と雇い入れる人を探している企業(求人者)である。  求職者に対しては、職業相談部門が希望の仕事やその探し方などの相談(職業相談)や仕事のあっせん(職業紹介)などの窓口となり、一般に、仕事を探す障害者に対しては、この職業相談部門が担当窓口となる(専門援助部門という障害者専門の窓口があり、ここが担当窓口となる。)。また、精神症状に配慮したカウンセリング等を行う精神障害者雇用トータルサポーター等を配置しているハローワークもある。  ハローワークを利用する障害者は、年々増加しており、ハローワークの担当者はとても忙しくなっている。日によっては、窓口が混雑し待ち時間が長くなることもあるので、ハローワークへ相談に行く日時を決めたら、事前にハローワークに電話し、担当者の都合や混雑状況を確認しておくとよい。そのときには、ハローワークが対応体制を検討しやすいよう、障害者本人の同意を得られれば、本人の障害特性や職歴等を簡単に説明したうえで、訪問日時を調整するとよい。  また、窓口での相談を効率的に進め、本人の状況をよく理解してもらうためにも、ハローワークを訪問する前に、本人の特性や職歴、希望する仕事、質問したい事項などをまとめておくとよいだろう。 2)ハローワークへの求職登録、職業相談の留意点  ハローワークを初めて利用するときには、求職登録といわれる求職者の氏名、連絡先、職歴などの登録が必要となる。原則として、障害者が居住する地域を管轄するハローワークに登録することとなっている。  求職登録の際には、ハローワークの登録申込書に必要事項を記載する。記載事項には、具体的な希望職種や希望の賃金などもあるが、これらがまだ決まっていない場合やどのように決めたらよいか分からない場合などは、窓口で担当者と相談すればよいので、最初からすべて記載しなければならないと構える必要はない。  なお、ハローワークでの求職登録、職業相談のときには、支援者も同席して、今後の支援について一緒に検討することが望ましい。支援者が同席しない場合には、その目的や説明、相談すべき事項等に関して、本人に充分説明しておくことが大切である。 3)ハローワークでの求人の探し方、求人条件の確認の仕方  ハローワークでは、企業からの求人情報を自由に閲覧できる。求人情報は、仕事の内容や就業時間、賃金などの労働条件などを記載した求人票にまとめられており、これをファイルや求人検索機といわれる専用パソコンでみることができる。また、厚生労働省が運営するインターネットサイト「ハローワークインターネットサービス」では、どこからでも自由に求人を検索することができる。  ハローワークの求人には、障害者の採用に限定した障害者求人のほか、障害者に限らない一般の求職者を対象とした一般求人がある。まず、障害者求人の中から応募先を探し、希望の求人がない場合は、一般求人も探してみることをお勧めする。一般求人で障害者本人に適したものがあれば、窓口で相談してみるとよい。条件などにもよるが、企業に対して、障害者求人への転換を勧める場合もある。  求人票に記載されている求人条件のうち、特に、仕事の内容、就業場所、就業時間は、障害者本人の特性等に照らして問題がないか充分確認することが必要である。仕事の内容などについて詳細がわからないときは、ハローワークの担当者から求人者に確認してもらうことも可能なので、窓口に相談してみるとよいだろう。 4)ハローワークの求人に応募する際の留意点  応募したい求人がみつかったときには、窓口の担当者に相談すると、求人の内容に合致するか確認の上、求人者に連絡をして、面接日の設定をしてもらえる。面接の前に書類選考がある場合もあるが、この場合は速やかに必要な書類を郵送する。  面接日時は、その場で決めることが多いので、応募の相談をするときには、都合の悪い日など予定を整理しておいたほうがよい。また、支援者が面接に同行する場合には、事前に求人者に連絡しておく必要がある。  応募が決まると、ハローワークから紹介状が交付されるので、面接のときには、この紹介状を履歴書などの応募書類と一緒に求人者に提出(書類選考のときは一緒に郵送)する。  求人者にハローワークから連絡をとってもらった際に、採用担当者の不在などにより連絡がつかなかったために、後日、求職者本人から面接の申込みを連絡する場合もよくある。この際には、ハローワークで求人をみた旨を告げて連絡する。面接が決定したら、ハローワークの担当者に連絡し、紹介状の交付を受けることが必要である。  また、後日、面接日時の変更や面接を辞退する場合には、求人者への連絡はもちろん、ハローワークの担当者にも一言連絡し、情報共有を円滑に行うことが望ましい。  面接の結果は、求人者が本人に通知するとともに、ハローワークにも通知することとなっている。採用となった場合は、就業開始日、労働条件の詳細、企業に求める配慮事項などについて、早めに確認して、就業のスタートに向けた準備を進める。また、不採用となった場合は、次の応募の参考とするために、差し支えない範囲で、求人者に不採用の理由を訊いておくとよい。  なお、障害者を採用した企業に支給される助成金などは、ハローワーク等の職業紹介によることが要件のひとつとなっており、紹介状は、これを証明するものとなる。ハローワーク等を介さずに採用が決定してから、形式的にハローワークの職業紹介を受け、助成金を受給する行為は不正受給であり、処罰の対象となるので、支援者はこの点に留意する必要がある。 5)マッチングのためのその他のサービス  ハローワークには、窓口での職業相談以外にも、マッチングの機会を増やすためのサービスがある。  まず、求職者情報の公開といわれるもので、求職者が自分の希望する仕事や就業条件、特長などを所定の様式に記載して公開すると(名前や連絡先などの情報は公開されない。)、企業からの面接申込みがあったときに、ハローワークが取り次いでくれる。求人者に会ってみたいと思ってもらうためにも、特に能力レベル、アピールポイントなど求人者が関心を持つ事項を記載することが重要である。  このほか、就職面接会(障害者合同面接会等様々な名称がある)といわれる複数の企業が一堂に会して、会場に設けられた各企業の席で、求職者が企業と面接できる催しがある。一度に複数の企業と接することができる絶好の機会なので、積極的に参加したい。また、多くの求職者が参加しているので、他の人の求職活動の様子をみることも参考になるだろう。規模、開催頻度は、ハローワークにより異なる。通常、開催日前に参加予定企業が案内されるので、各企業の求人内容を確認し、面接を希望する企業を絞り込んでおくと、当日スムーズに企業の席を回ることができる。また、面接に当たっては、面接のマナーや企業からの質問への対応などの準備をしておくことも大切である。通常、会場への入退場は自由となっているが、事前に希望を把握するハローワークもあるため、出席の意思をあらかじめ伝えておくとよい。また、面接希望者が多い企業では待たされることもあるので、時間の余裕を持って出掛けたほうがよいだろう。持参品は、ハローワークから案内があるが、履歴書と障害者手帳(またはコピー)の持参を求められることが多い。  これら以外にも、トライアル雇用といわれる、一定期間、企業における試行雇用を行い、その後の継続雇用のきっかけとする制度や公共職業訓練などの援助制度、ハローワークが中心となった障害者就労支援チームによる支援もある(詳細は、262ページ参照)。 6)障害者に対する援助制度、雇用保険制度に関する問い合わせ  ハローワークにおいては、トライアル雇用などの障害者に対する援助制度の手続きや雇用保険の給付も行っている(援助制度の詳細は、256ページ参照)。援助制度の要件、手続きの方法等については、最寄りのハローワークに問い合わせられたい。 第2項 企業へのアプローチの方法 1企業に対する支援の視点の必要性 1)企業を取り巻く現状  最近では、企業の障害者雇用への取組みが活発化しており、就業支援機関に障害者雇用に関する相談が持ち込まれる機会も多くなってきている。その背景には、企業のCSR(企業の社会的責任)への取組みや都道府県労働局、ハローワークによる障害者雇用率未達成企業への行政指導の強化があると考えられる。  また、一部の地方自治体では、公共施設の清掃業務等の入札に価格等に加え就職困難者の雇用や環境問題への取組みも含める総合評価入札制度や、物品調達において障害者雇用を積極的に推進している企業を優遇するなど、企業の障害者雇用への取組みを評価する動きがある。  このように、企業活動における障害者雇用への取組状況が社会的評価や収益に直接影響する時代になっており、企業としても経営上無視できない事項となっている。 2)企業に対する支援の必要性  企業が、障害者雇用に取り組む意思を有しているにもかかわらず、企業担当者が障害者雇用を進める際には、第3章第2節「企業の視点の理解」にあるような様々な課題が存在する。ゆえに、実際には障害者雇用が進まない現状がある。  このような現状において、障害者雇用を進めるためにいくら障害者の働く力を高めても、雇用やその後の職場定着に結びつけるのは難しい。職場対応は障害者という個人と、職場という環境のマッチングであるので、障害者に対してのみ向上や改善を求めていくだけでなく、職場にも改善を働きかけていく必要がある。  これまでは企業に障害者雇用について働きかける場合、行政機関が指導的立場で関わったり、就業支援機関が雇用をお願いする姿勢で関わったりしており、障害者を受け入れるための環境整備や実際の雇用管理は企業自らの努力に頼ることが多かった。しかし、障害者と同様、企業も支援(サービス)の対象としてとらえ、各々の企業において障害者雇用を進めていくための課題を把握し、その課題を解決するための支援を行っていくことが重要となる。 3)企業に対してどのような支援が必要か  障害者への支援が中心となる場合は、企業にある程度障害者雇用の知識や経験があり、職場実習の結果によって採用の見通しがある場合が多く、ゆえに、障害者一人ひとりの障害特性や指導方法に関するアドバイス、職場環境や職務内容の改善に関するお願い、障害者と一緒に働く従業員の人間関係の橋渡しといったことが企業に対する支援の中心となる。  しかし、障害者雇用の経験がなくこれから障害者雇用に取り組もうとしている企業や、身体障害者の雇用経験はあるが知的障害者や精神障害者の雇用に新たに取り組む必要性を感じている企業からは、「障害者が働いていることがイメージできない」「障害者雇用に取り組みたいが何から始めたらいいのか分からない」といった声がよく聞かれる。こうした企業に対しては、障害者が従事する職務の設定や社内の障害者雇用に関する理解の浸透など、障害者の受入れにあたって必要な準備を整えることがまず必要であり、雇用されてからは、職場定着やキャリアアップのための支援を行っていくこととなる。 2障害者雇用のプロセスと支援の内容 1)障害者雇用のプロセス  個別の障害者支援から派生する企業に対する支援は、職場開拓やハローワークからの職業紹介などを通じて、個々の障害者の障害特性の理解や具体的指導方法などに関する支援を行う場合が多い。  一方、企業から障害者雇用の取組みに関する積極的な支援要請があった場合、特に障害者雇用の知識も経験もない企業に対しては、まず障害者雇用への理解を深めてもらったうえで、具体的な障害者の受入れのための支援を行うことが望ましい。障害者雇用に初めて取り組もうとしている企業は一般的に次のようなステップを経る。 ステップ1 ……障害者雇用への理解を深める   ↓ ステップ2 ……受入れ部署や従事する職務などを選定する   ↓ ステップ3 ……人材を募集し、採用する   ↓ ステップ4 ……受入れ態勢を整える   ↓ ステップ5 ……適切な雇用管理を行う   2)各プロセスの支援の内容  @ ステップ1「障害者雇用への理解を深める」 <採用担当者へのアプローチ>  まず企業の採用担当者が障害や障害者雇用の仕組み、制度などについて理解を深める段階。次のような情報を提供していく。 障害者雇用率制度、障害者雇用納付金制度の仕組み 企業を取り巻く障害者雇用の動向 障害の種類と障害特性、障害者手帳の種類と障害の程度 他社の障害者雇用事例 利用できる相談窓口、支援機関の業務と役割(ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、発達障害者支援センター等) 活用できる制度 特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用、ジョブコーチ支援、障害者雇用納付金制度に基づく助成金、企業等を委託先とする障害者の態様に応じた多様な委託訓練など <ポイント@>「雇用管理マニュアル」などの活用  高齢・障害・求職者雇用支援機構では、企業担当者向けに「障害者の雇用管理マニュアル」、「啓発用ビデオ・DVD」などを作成している。また障害者雇用事例データベース「障害者雇用事例リファレンスサービス」も行っている。これらの資料は図表、写真、映像などを多用し、分かりやすく障害特性や障害者の雇用管理の方法、雇用事例の実際について説明している。これらをうまく活用し、分かりやすい情報提供を心掛けたい。 <ポイントA>各種セミナー、講習会、 事業主支援ワークショップなどへの参加勧奨    各都道府県労働局などの主催により、障害者雇用に関する企業向け講習会やセミナーを行っている。また地域障害者職業センターでも企業に対して事業主支援ワークショップを開催している。これらに参加すると障害者雇用の制度や仕組み、企業からの取組み事例の報告などが聞けるので、企業担当者に参加を勧めてみるとよい。 <ポイントB>企業担当者の理解度や希望に沿った情報提供    一般的に障害者の雇用経験がない、あるいは浅い企業は、障害者雇用といえば肢体不自由者、聴覚障害者、内部障害者等の身体障害者をイメージすることが多い。一方、支援機関では、知的障害者や精神障害者が増えているため、これらの障害者を採用対象として検討することもあると思われるが、障害特性に係る理解が不足している場合、まずは身体障害者から雇用したいとの意向を示す企業も多い。この場合、始めから強引に知的障害者や精神障害者の雇用を勧めると企業との信頼関係にも影響が出てくるので、基本的には企業の意向に沿って身体障害者に関する情報提供や支援を行い、企業のニーズが合うようであれば知的障害者や精神障害者の雇用の提案を行うといったスタンスが望ましい。 <社内合意の形成>  採用担当者など企業内の一部に理解が進んだところで、次に企業全体の障害者雇用に関する気運を作っていくことが重要である。  企業として障害者雇用に取り組んでいくには、いくら採用担当者が前向きであっても経営者や実際に受け入れる現場社員の理解がなければ進まない。支援者は、採用担当者が進めようとしている社内での合意形成等をサポートしていくことが重要である。そのために、障害者雇用に関する社内研修会を開催するのも有効である。    A ステップ2「受入れ部署や従事する職務などを選定する」  障害者雇用について採用担当者の理解が進み、企業内でも気運の高まりや社内合意が得られれば、具体的な配属部署や従事する職務内容について検討していく。  まず企業内の各部署、各職務における障害者配置の可能性について確認・検討していくこととなる。他社の雇用事例などを参考にしながら進めていくこととなるが、適当な職務がなければ障害者向けの職務を新たに創出していくことも必要である。    B ステップ3「人材を募集し、採用する」  受入れ部署や具体的職務が決まれば、障害者の募集活動を行うことになる。一般的には、企業がハローワークに求人を出し、紹介を受けることとなる。また特別支援学校、就労移行支援事業所などにも人材情報があるので、その橋渡しをしたり、ハローワーク主催の就職面接会への参加を促すこともよい。障害者に対する各種援助制度を効果的に活用するためにも、企業にハローワークとの連携の重要性を認識してもらうことも必要である。  また、障害者の採用経験が浅い担当者には、障害特性を踏まえた面接の留意事項などを説明しておくとよい。    C ステップ4「受入れ態勢を整える」  採用する障害者が決まったら受入れ態勢を整えていく。職場での指導者や指示系統、例えば身体障害者の場合は主に施設・設備の改善等を検討していく。受入れ部署の現場社員が不安を持っている場合もあるので、不安や疑問点を把握し、それに対して助言や情報提供を行う。この段階でも支援者が企業に出向き、社員向けの研修会を行うことも有効である。  D ステップ5「適切な雇用管理を行う」  障害特性に応じた作業指導、他の社員との関係作りなどの雇用管理を行いながら、その都度生じる問題を解決し職場定着を目指す。  支援者としては定期的に職場を訪問し、適応状況や課題等の把握に努める。ここでは、ジョブコーチ支援も有効な手段のひとつである。さらに、定着状況を見ながら職務範囲の拡大などキャリアアップを進めることも必要である。   3職務選定、職務創出 1)職務選定 <職務選定の考え方と方法>  企業が障害者雇用に消極的になる理由として「障害者にできる仕事がない」とか「障害者に何を任せたらいいのか分からない」という声がよく聞かれる。実際は、企業内の職務を一つひとつ検証していくと、障害者が対応可能な職務が見つかる場合も多い。企業から前述のような発言があった場合は、まず企業内を見学させてもらい各職務の内容、手順等を確認し、整理のうえ、障害者が従事できそうな職務を提案していく。その際、次のような「職務整理票」を活用するとよい(図2)。   図2 職務整理票 <職務選定の事例>(知的障害者の雇用を想定)   1 企業名   A社 2 業種    医療機器の製造・販売 3 雇用事業所 製品の生産工場 4 職務選定    生産工場を見学しながら、主な職務の手順、頻度、身体負荷などについて現場担当者からインタビューを行い、その結果を表のように取りまとめた。「@納期に縛られないこと」「A判断要素が少ないこと」「B恒常的な作業量を確保できること」を勘案し、bP〜bVのうちbTを主業務、bRとbVを補助業務として障害者を受け入れることを提案した。 No. 作業名 作業内容、作業頻度、身体負荷、難易度 No.1 商品の検品 ・部品の形状や表面のキズの有無を確認 ・数字、アルファベットの判読必要 ・作業には終日3名が従事 No.2 部品の収納、ピッキング ・数字とアルファベットを判読し棚番号を確認しながら収納、ピッキングを行う ・部品数は約 3,000種類 ・作業には終日5名が従事 No.3 配送用の梱包準備 ・配送する製品の大きさや数量に合わせて段ボールを組み立て、緩衝材を入れる ・午前中1時間程度、3名程度が従事 No.4 製品の組立 ・ドライバー等の工具を使用 ・製品の種類は5種類 ・作業には終日約 10名が従事 No.5 輸入製品の開梱、 ラベル貼り、箱詰め ・100個単位のものを 10個単位で詰め直す ・製品は数種類でかわらない ・作業には終日5名が従事 No.6 指示書作成の数値入力 ・エクセルの帳簿に商品番号、個数、日付を入力 ・1日数時間程度、月末に入力が集中 No.7 段ボール解体、整理 ・1日午後1時間程度、手の空いた従業員が行う ・梱包用発泡スチロールと分別し、整理してかごにまとめる 2)職務創出 <職務創出の考え方>  企業内で障害者の強みを十分に生かせるような職務を探しても見つからない場合もある。そのような場合は、障害者向けに新たな職務を創り出すことも必要である。  実際の企業ではパソコンを使った事務作業であったり、工場内のライン作業であったりと、障害レベルの重い身体障害者、知的障害者、精神障害者等にとってはマッチしにくい職務しかない場合もある。また、マッチング可能な職務があっても、仕事量が少ないため雇用に結びつかない場合もある。さらに、精神障害者や発達障害者等でパソコン等の専門的な技能を持ち合わせているにも関わらず、その職務に不得手な要素が含まれることから配置を検討できない場合もある。このような場合は、以下の考え方に基づき職務内容や範囲を決めていくことで、1名分(あるいは複数分)の職務を創出する方法がある。 <考え方1>  各部署の各社員が行っている業務の中から定型的な作業(コピー、シュレッダー、資料の封入など)を切り出し組み合わせることにより、職務を創り出す方法がある。他の社員からすれば、中核の作業に専念できることから、障害者雇用のメリットを直接受けられることとなる。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P105より引用 図3 職務創出の考え方1(切り出し・再構成モデル) 図4 障害者向け職務創出のための社内アンケート例(知的障害者の雇用を想定) <職務創出の例@>(事務関係作業、知的障害者の雇用を想定) <職務創出の例A> (ホームセンター店舗での作業、知的障害者の雇用を想定) <考え方2>  目標とする職務に向け、職業リハビリテーションや能力の向上に必要な時間を考慮し、一定の時間をかけて職務の幅を広げ、多様な業務、専門的な業務、マネジメント等を内容とする職務を担当できるようにすることを目指す方法もある。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P106より引用 図5 職務創出の考え方2(積み上げモデル) <考え方3>  個々の障害の特性、能力や経験の強みを生かす既存の職務や再構成された新たな職務を選びだし、その職務において、特性上難しかったり、不得手な作業や工程については、代償手段(就労支援機器など)の活用、担当の見直しや支援の対象とすることにより、障害者が得意とする分野に専念・特化できるようにする方法もある。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P106より引用 図6 職務創出の考え方3(特化モデル) <考え方4>  清掃など業務請負、派遣社員により対応している業務などを直接雇用障害者の専任の仕事として職務を選定する方法もある。 <職務例> 企業内の清掃業務 社員寮の清掃業務 研修所、保養所等の清掃業務 工場の緑化業務(含む除草業務) ユニフォーム・作業服のクリーニング業務 社員食堂、喫茶業務 社内メール便配達業務 4企業に対する支援における留意事項 1)サービスの対象者として接すること  障害者に対する支援を行う場合は、障害者をサービスの対象者ととらえ、一人ひとりの気持ちや考えに耳を傾け、職業能力や支援体制などをアセスメントしたうえで希望を確認しながら支援を行うことが一般的である。  それに比べ企業に接する場合は、相手の事情はあまり考えず、雇用してもらおうとひたすらお願いしたり、こちらの意図が伝わらないと「障害者に理解がない」と一方的に決めつけたりしていないだろうか。  企業もサービス対象者(=お客様)ととらえると、「障害者雇用に消極的な理由は何か」「何が障害者雇用を妨げているのか」「障害者雇用への理解度はどの程度か」「どうすれば障害者雇用を前向きに考えてもらえるか」といった視点で考えることができ、企業側のニーズに応じた具体的方策を検討することができる。   2)相手の信頼を得ること  多くの企業は障害者雇用の必要性は理解できているものの、障害者雇用を進めるうえでのいくつかの課題に直面し悩んでおり、その回答を提供したり一緒に考えるパートナーを求めている。支援者が相手に「この人と一緒に取り組めば必ず課題解決できそうだ」と思ってもらい、信頼を得ることがまず第一に重要なことといえる。  相手の企業の信頼を得るためには、まず支援者が「相手を知る」ことである。障害者雇用に関する企業からの相談があると、急ぎ出向いて一生懸命当方の候補者を売りこもうとする人がいる。これは一番まずいやり方である。相手からすれば「わが社のことを何も知らない人が、わが社の障害者雇用について提案をされても、それが本当に良い方法なのか」と考えてしまう。相手の会社に合った障害者雇用プランを提示するためにも、まず行うべきは相手の会社の状況やニーズを正しく理解することである。   3)企業が障害者を雇用する理由や障害者雇用に関する考え方を把握すること  障害者雇用の実績がある企業でも障害者雇用のきっかけや考えは様々である。各々の企業が障害者雇用に取り組む理由(動機)を把握することで、それぞれ対応方法や支援内容のポイントも異なってくる。 <企業が障害者雇用に取り組む理由> @社会情勢の趨勢、広い意味での経営戦略などの観点から障害者雇用に取り組んでいるグループ ・企業のCSRの取組みの一環として  (法令遵守、人材の活用、地域貢献等) ・行政からの要請や指導 ・ノーマライゼションの推進 A人材確保、収益の向上に関して障害者雇用に経営上のメリットを感じているグループ ・雇用している障害者が労働力として充分戦力となっている。 ・求人を出しても応募が少ないなど人材確保が難しい。 ・納付金の納付、助成金の支給、各種援助制度の利用、各種支援機関か らのサポートなどを勘案すると経営メリットがある。 B近親に障害者がいたり、近隣に障害者施設や特別支援学校があり、障害者を身近に感じているグループ ・身内に障害者がいる。 ・障害者施設の職員や特別支援学校の教諭から熱心に雇用を依頼された。   4)採用担当者に説明を行う際の留意点  採用担当者に説明を行う際は次のことに留意する。 @できるかぎり専門用語は使わない。分かりやすい言葉で説明する。 A障害や病気の状態ではなく、働く観点で特性や配慮事項を伝える。 B企業の不安感を払拭するよう前向きな姿勢で話す。  企業に対して障害特性を説明する際、我々支援者にとっては当たり前の言葉でも、企業の担当者にとっては初めて聞くことであったり、使われている言葉の意味が分かりづらい、情報量が多くて分かりづらいといったことが起こりやすい。極力専門用語を使わず簡単な言葉を使うよう気を付ける。また抽象的な表現もできる限り避け、数値や具体的例示による説明を心掛けることが必要である。  加えて、企業は障害状況の情報より、就業現場で何がどのくらいでき、何ができないのか、具体的に何を配慮すればよいかに関心がある。障害状況の説明を専門的に説明するより、就業現場で現れる特性や行動について具体的に説明することが重要である。 (障害特性の説明例)  Aさんは精神障害者で統合失調症という疾患に罹っています。統合失調症とは一般的には幻聴が聞こえたり、考えがうまくまとまらなかったりする症状が起こりますが、最近では定期的に専門医に通院し服薬することでほぼ症状は改善されます。Aさんも通院・服薬はきちんとできており病気自体は安定しています。  ただ病気の後遺症として、疲れやすく、長時間の作業になると集中力がとぎれることや、季節の変わり目に体調を崩しやすいところがあります。  現在は私ども施設に月曜日から金曜日まで毎日通い、午前9時から午後3時まで近隣の企業から受注したノベルティ商品の袋詰めに真面目に取り組んでいますので、やり方が決まった作業でパート就労など1日4時間程度であれば十分に勤務できると思います。  また、説明だけでは実際にどの程度働けるのか不安に感じられると思いますので、まずは職場実習を受けさせていただき、その働きぶりをみてから採用について検討いただくこともできます。前向きに採用をご検討願います。 5)ビジネスマナーの習得  企業にとって、障害者雇用の取組みもビジネスのひとつである。ある意味では支援者は出入りの業者(ビジネスパートナー)の一人と言うことができる。したがって、言葉遣い、電話のかけ方、名刺交換の仕方、訪問時の服装、メール文書の書き方などに関する最低限のビジネスマナーは身に付けておきたい。   6)企業訪問時の準備  企業訪問する前には企業のホームページ等で企業概要(事業概要、組織、従業員数、各事業所<支社、営業所、工場など>の所在地など)を確認しておくことが望ましい。そうすることで、具体的に障害者の受入れ事業所や部署などを検討する際に話がスムーズに進みやすい。  また、障害者雇用も当然ながら業界の景気や雇用の動向、各企業の経営状態などに直接影響される。いくらよい人材であっても雇用枠がない、あるいは少ない場合は、いくら働きかけてもなかなか採用に結び付かないことも多い。また、人事担当者は障害者雇用だけを担当している訳ではなく、多くは従業員全体の採用活動を担当している。支援者が業界や企業状況を理解していると話が進みやすいし、担当者からの信頼も得られやすい。  さらに、障害者の雇用には経営者、人事担当者、現場責任者、現場の従業員等様々な立場の人達と関わることになるが、図7(58ページ)のように、各々の立場によって関心のある事項は異なるため各々の立場を踏まえ対応することが重要である。特に人事担当者は仕事のマッチングだけでなく、雇用形態、給与、社会保険・労働保険の加入など労働条件や助成金などの援助制度への関心が高いので、基本的な労働法規や援助制度の知識は持っておきたい。  説明にあたっては、一般的な障害特性の説明、障害者を雇用する際に活用できる制度などについて分かりやすい資料を自分で取りまとめたり、既存の資料などを用意しておき、状況に応じてすぐに取り出せるようにしておく。企業訪問は交渉の場でもある。段取りが不充分であわてることなく、余裕を持って対応できるよう周到な準備をしておきたい。 図7 企業担当者の関心のある事項 <参考文献> 〇戸田ルナ・刎田文記・岩佐美樹・須田香織:職業リハビリテーションにおける課題分析技法の整理と活用.第11回職業リハビリテーション研究発表会発表論文集.独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2003 ○独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017 第3項 ジョブコーチ支援 1ジョブコーチ支援における基本的な考え方 1)ジョブコーチが生まれた理念的背景  1986年(昭和61年)に米国においてリハビリテーション法が改正され、 「援助付き雇用」が制度化されたことにより、わが国の職業リハビリテーションにおいても、従来のレディネスモデルから「援助付き雇用モデル」へのパラダイム変換が図られることとなった。  レディネスモデルとは、職業評価によって明らかとなった能力の不足を職業訓練で補ったり、職業準備性を高めたりすることにより、一定の水準に到達させ、その後就職につなげるという考え方である。  これに対して、「援助付き雇用モデル」とは、訓練してから就職を目指すのではなく、まず企業を紹介し就職した後に、その職場で求められる具体的な作業能力や対人対応力を直接的に引き上げるとともに、能力を発揮しやすいよう職場環境(物理的環境、人的環境、要求水準等)の方を調整するという考え方である。ジョブコーチは、この「援助付き雇用モデル」の考え方のもとに生まれたものである。   2)環境調整と企業に対する支援の視点  ジョブコーチ支援では、職場での支援が中心になるため、障害者に対する支援もさることながら、職場環境の調整や企業に対する支援の視点が極めて重要になる。    @ 本人を変えるか、環境を変えるか  レディネスモデルは“就職までの支援が中心”であり、ジョブコーチ支援は“就職後の職場での支援が中心”といえる。この職場での支援の方法には実は2つしかない。a本人を変えるか、b職場環境を変えるかである。前者は、本人が作業遂行力を習得したり、職場で求められる行動様式を身に付けたりすることなどであり、後者は、作業工程を単純化したり、上司に適切な指示の出し方を習得してもらうことなどが該当する。この2つの方法は二者択一的なものではなく、相補的に適用されるものである。就職までの支援に慣れ親しんだ者には、どうしても本人を変えることに目が行きがちであるが、課題に応じて、どちらがより効果的であるかなどの観点から柔軟に適用するべきであろう。本人を変えることに制限があるほど、それを補う環境調整がウエイトを占めることになる。  A なぜ企業に対する支援の視点が重要なのか  第2項の「企業へのアプローチの方法」でも述べられているように、障害者雇用に当たって、企業は職務設定や指導方法、安全面の配慮等で課題を感じ、支援を必要としている。また、障害者の現状、障害特性、雇用支援制度等に対する知識不足や誤解から、企業が誤った対応をしてしまい、その結果、不適応状態となったり、離職を余儀なくされてしまうケースも多くみられる。  ここに企業に対する支援の必要性があるのであり、ジョブコーチは職場において必要とされるこれらのニーズにタイムリーに応えていく役割を担っている。 3)ナチュラルサポートの形成の視点  ジョブコーチ支援は、障害者が自分の能力に応じた役割と責任を持って働けるようになるとともに、企業が障害者を職場の一員として自然に受け入れ、無理なくサポートできることを目指している。ナチュラルサポートの形成においては、一般に、障害者を受け入れた企業の従業員が職場で障害者を支えることのできる体制づくりが重要となる。  「体制」と言うとつい大仰なことを想像してしまうが、むしろ何気ないちょっとしたことの方が多い。一方で、何気ないことであるが故に気づきにくいという側面もある。  例をあげれば、車いす使用者が段差のあるところをスムーズに移動するにはスロープが有効になるということは分かりやすい。しかし、知的障害や精神障害のように目に見えない障害を持つ者の就労における「段差」とは何か?そしてそれを埋める「スロープ」とは何か?といったことは一見分かりにくい。  例えば、質問をする場面で考えてみる。  分からない時に質問をすることは、自らが「分かっていないこと」を認識していることが前提となる。しかし、知的障害者の中には、分かっているのか分からないのかの認識が曖昧なために質問できない者もいる。その一方で、周囲は「分からない場合は質問するはずだ」と認識することもある。この認識の違いが「段差」であり、その「段差」を埋めるためには、本人の理解度に合った指示や声掛けなどの対応が必要となる。ジョブコーチがこれらを企業の従業員に伝えることで、誤った方法で作業をしていたら、本人に「分かった?」と聞くのではなく、具体的に修正をするといった本人の特性に合った対応方法が行われるようになる。このような何気ないこと(配慮)が「スロープ」となり、それがナチュラルサポートの一つとなる。 2ジョブコーチに関する制度 1)国のジョブコーチ制度  現在、国のジョブコーチ支援制度においては、3種類の職場適応援助者(ジョブコーチ)がある。地域障害者職業センターの職員である配置型ジョブコーチ、社会福祉法第22条に規定する社会福祉法人その他障害者の雇用の促進に係る事業を行う法人の職員等である訪問型ジョブコーチ、障害者を雇用する企業に雇用される企業在籍型ジョブコーチである。1)  なお、それぞれのジョブコーチの特徴は下ページの表のとおりである。 ジョブコーチの 種類 特徴 配置型 ジョブコーチ 地域障害者職業センターに配置するジョブコーチ。就職等の困難性の高い障害者を重点的な支援対象として自ら支援を行うほか、訪問型ジョブコーチおよび企業在籍型ジョブコーチと連携し支援を行う場合は、効果的・効率的な支援が行われるよう必要な助言・援助を行う。 訪問型 ジョブコーチ 障害者の就労支援を行う社会福祉法人等に雇用されるジョブコーチ。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等が実施する訪問型職場適応援助者養成研修を修了した者であって、必要な相当程度の経験および能力を有する者が担当する。地域障害者職業センターが策定、または社会福祉法人等が作成し地域障害者職業センターが承認した支援計画に基づき支援を実施。 企業在籍型 ジョブコーチ 障害者を雇用する企業に雇用されるジョブコーチ。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等が実施する企業在籍型職場適応援助者養成研修を修了した者が担当する。地域障害者職業センターが策定、または企業が作成し地域障害者職業センターが承認した支援計画に基づき支援を実施。    @ 職場適応援助者助成金(訪問型職場適応援助者助成金、企業在籍型職場適応援助者助成金)とは  本助成金は、職場適応に特に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を実施する場合に助成するものであり、障害者の職場定着を図ることを目的としている。  A 職場適応援助者助成金を活用するには 【訪問型ジョブコーチによる支援】 イ.主な支給要件  受給できるのは、次の要件等を満たす法人 (1)次の@〜Dのすべてに当てはまる対象障害者の職場適応のために、地域障害者職業センターが作成または承認する支援計画(以下「支援計画」という。)において必要と認められた支援を、訪問型ジョブコーチに無償で行わせた法人。 @ 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病のある者、高次脳機能障害のある者、またはその他援助を行うことが特に必要であると(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が認める者のいずれかに該当する者、かつ地域障害者職業センターが作成する職業リハビリテーション計画において、訪問型ジョブコーチによる支援が必要であると認められる者 A 次のいずれかに当てはまる者   ・常用雇用労働者(1年超の雇用が見込まれる雇用保険被保険者等)、または、精神障害者であって1週間の所定労働時間が15時間以上の者で、支援対象事業主に雇用されている者  ・支援計画の開始日から2か月以内に常用雇用労働者(精神障害者であって1週間の所定労働時間が15時間以上の者を含む)として支援対象事業主に雇い入れられることが確実な者 B 当該対象障害者のための支援計画がある者(障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型の事業所の利用者としての就労を継続するための支援に関する支援計画を除く) C 本助成金のうち企業在籍型ジョブコーチによる支援の対象者として現に支援されていない者 D 国等に採用された者または採用されることが確実な者でないこと。   ※訪問型ジョブコーチは、次のすべての要件を満たす者をいう。  ・訪問型職場適応援助者養成研修等の修了者であること  ・障害者の就労支援に係る業務経験が1年以上ある者であること  ・支給対象法人の役員等が訪問型ジョブコーチとして活動する際に、労働災害に対応できる傷害保険等に加入していること  ・国等の委託事業費または補助金等から人件費の全部が支払われていないこと (2)対象障害者を雇用する事業主からの要請を受けて、当該対象障害者の職場適応を図るため、支援計画に記載された次の@〜Gの支援を実施した法人。  @ 支援計画書の策定  A 支援総合記録票(フォローアップ計画書)の策定  B 支援対象障害者に対する支援  C 支援対象事業主に対する支援  D 家族に対する支援  E 精神障害者の状況確認  F 地域障害者職業センターが開催するケース会議への出席 G その他の支援(地域障害者職業センターが、職業リハビリテーション計画に基づき必要と認めた支援) ロ.助成金の支給額  支給額は、次の@とAの額の合計 @ 支援計画に基づいて支援を行った日数に、次の日額単価を掛けて算出された額  ・1日の支援時間(移動時間を含む)の合計が4時間以上(精神障害者は3時間以上)の日16,000円  ・1日の支援時間(移動時間を含む)の合計が4時間未満 (精神障害者は3時間未満)の日8,000円 A 訪問型職場適応援助者養成研修に関する受講料を法人がすべて負担し、かつ、養成研修の修了後6か月以内に、初めて支援を実施した場合に、その受講料の1/2の額 【企業在籍型ジョブコーチによる支援】 イ.主な支給要件  受給できるのは、次の要件等を満たす事業主 (ただし、ジョブコーチごとに、申請事業所(雇用保険適用事業所)における支援計画は1回に限る) (1)次の@〜Cのすべてに当てはまる対象障害者の職場適応のために、地域障害者職業センターが作成または承認する支援計画(以下「支援計画」という。)において必要と認められた支援を、企業在籍型ジョブコーチに行わせた事業主。 @ 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病のある者、高次脳機能障害のある者、またはその他援助を行うことが特に必要であると(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が認める者のいずれかに該当する者 A 常用雇用労働者(1年超の雇用が見込まれる雇用保険被保険者等)(精神障害者であって、1週間の所定労働時間が15時間以上の者を含む) B 当該対象障害者のための支援計画がある者(障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型事業所の利用者としての就労を継続するための支援に関する支援計画を除く) C 本助成金のうち訪問型ジョブコーチによる支援対象者として現に支援されていない者   ※企業在籍型ジョブコーチは、次のすべての要件を満たす者をいう。  ・常用雇用労働者であること  ・企業在籍型職場適応援助者養成研修等の修了者であること  ・養成研修修了後、初めて支援を行う場合、地域障害者職業センターが指定する配置型ジョブコーチとともに支援を行うこと  ・支給対象期間に、本助成金以外の支給対象障害者として支援している者の数の合計が2以下であること  ・本助成金等の支給対象障害者として現に支援されている者でないこと  ・国等の委託事業費または補助金等から人件費の全部が支払われていないこと (2)支援計画に基づく対象障害者の職場適応を図るための次の@〜Cの支援を実施した事業主  @ 支援対象障害者と家族に対する支援  A 事業所内の職場適応体制の確立に向けた調整  B 関係機関との調整 C その他の支援(地域障害者職業センターが特に必要と認めて支援計画に含めた支援) ロ.助成金の支給額  支給額は、次の@とAの額の合計 @ 次の「支給額」に示す1人あたりの月額に、支援計画に基づく支援が実施された月数(6か月を上限。実施する支援の回数や対象障害者の出勤割合等の条件あり)を乗じた額 対象障害者 支給月額 障害の種別 雇用形態 中小企業 中小企業以外 精神障害者 短時間労働者以外の者 12万円 9万円 短時間労働者 6万円 5万円 精神障害者以外 短時間労働者以外の者 8万円 6万円 短時間労働者 4万円 3万円 A 企業在籍型職場適応援助者養成研修に関する受講料を事業主がすべて負担し、かつ、養成研修の修了後6か月以内に、初めての支援を実施した場合に、その受講料の1/2の額 2)地方自治体のジョブコーチ制度  内閣府が公表している資料2)によると、国のジョブコーチ制度以外にも、地方自治体において国のジョブコーチに類似した事業やその養成等が展開されているが、それぞれ自治体によって事業内容は異なる。 3ジョブコーチ支援のプロセス 1)アセスメントからフォローアップまで  ジョブコーチ支援のプロセスは、大まかにアセスメント→支援計画の策定→支援の実施→フォローアップに分けられる。 2)集中支援と移行支援、支援期間、支援開始のタイミング  @ 集中支援と移行支援  支援は、支援頻度が多いまま永続されるものではなく、徐々に支援頻度を減らして(フェイディング)、最終的には企業内の無理のない支援体制(ナチュラルサポート)により、障害者が安定して就業を継続していくことができる状態を目指すものである。そのため、支援は、職場適応のための課題解決を図りながら企業内の支援体制の構築に向けた支援を集中して行う過程と、ジョブコーチ主体の支援から企業主体の日常的な支援・指導体制(ナチュラルサポート)に移行する過程に分けられる。前者を「集中支援期」、後者を「移行支援期」という。  A 支援期間  支援期間は、職場適応援助者助成金における訪問型ジョブコーチによる支援においては、最長1年8か月(精神障害者の場合は最長2年8か月)までとし、集中支援期および移行支援期(あわせて最長8か月)およびフォローアップ期間(最長1年)からなるものとされる。また、精神障害者については、必要に応じて通常のフォローアップ期間の後に、状況の確認等を行うための追加のフォローアップ期間を設定できるものとされる。なお、集中支援期および移行支援期は個別に必要な期間が設定され、標準的な支援期間は、2か月から4か月である。  B 支援開始のタイミング  配置型ジョブコーチおよび訪問型ジョブコーチによる支援においては、雇用前、雇用開始時および雇用後のいずれからでも開始できる。 a 雇用前(訪問型ジョブコーチによる支援においては、支援対象障害者が、支援の開始日から2か月以内に雇い入れられることが確実な場合) ○雇用前に対象障害者に適した職務内容等を見極める場合。 ○職場環境になじむためには雇用前から雇用後にかけて、長期的な支援が必要な場合。 ○制度としては、障害者委託訓練(障害者の態様に応じた多様な委託訓練)との併用はできない。 b 雇用開始時 ○福祉機関や学校等で職場実習を実施し雇用が決まったが、雇用後においてもしばらくは継続した支援が必要な場合。 ○雇用は決まったが、企業に障害者雇用の経験がなく、不安があるため支援が必要な場合。 ○制度としては、トライアル雇用との併用は可能である。 c 雇用後 ○支援機関がフォローアップを行う中で、更に支援が必要な場合。 ○今まで就業支援を受けたことがないが、障害者や企業等の状況から支援が必要と判断された場合。 4ジョブコーチの支援方法・技術 1)一日の流れを把握する(職務分析)  企業に入ってまず注目するべきことは、支援対象者の職務である。その職務について、いつ何のために何をどのようにするかを分析し記述することを職務分析と言う。その職場の職務を分析することで、対象者にできそうな職務を再構成することも可能となる。  この職務分析は、後述するタイムスケジュールを作成する際の元データともなる。 2)行動をコントロールする(機能分析)  人間の行動はあるきっかけによって生起し、その行動の結果次第で同じ行動が継続したりしなかったりするという考え方がある。  例えば、挨拶をするという行動について考えてみる。朝、職場で知っている人に出会ったので(きっかけ)、「おはようございます。」と言う(行動の生起)。相手が「おはようございます。」と返してくれる(結果)。この場合、きっかけ(=知っている人に出会う)がなければ、挨拶という行動は生起しないし、相手からの返答がなければそのうち挨拶もしなくなる。これがきっかけと結果が行動をコントロールするという考え方で、「きっかけ」「行動」および「結果」の3つの項目の機能を分析する方法を機能分析といっている(図8)。  機能分析の視点を持つことで、例えば不適応行動がどんなきっかけで起こり、どんな結果で強化・維持されるかを分析的に理解することができる。 図8 機能分析(行動をその前後のきっかけや結果との関連でとらえ、それらの機能を明らかにする分析) 3)行動を習得する(課題分析)  そもそも挨拶という行動そのものができなければ、きっかけがあっても行動は生起しない。行動そのものができない場合、行動を一連のステップからなると考え、どのステップでつまずいているのか、その行動を時系列に細かく分けて分析する方法を課題分析と言う。  これは料理で言えば、レシピに相当する。例えば、目玉焼きを作るという行動ができない場合を考えてみる。目玉焼きを作るという一言で表される行動も、次のように細かいステップに分けることができる。 【目玉焼きを作る】 1.卵はあらかじめ室温に馴染ませておき、割って器に入れる。 2.ガスコンロに点火する。 3.ガスコンロにフライパンを乗せる。 4.フライパンをよく温める。(煙が出るくらい) 5.フライパンに油を薄くしき、温める。 6.油もよく温まったら火を弱火にする。 7.フライパンに1で割った卵をそっと入れる。 8.フライパンに蓋をする。 9.1分加熱する。 10.黄身の表面に白い膜が張ったら火を止める。 11.フライ返しで目玉焼きをすくい皿に盛り、お好みで塩、コショウをふる。  目玉焼きをうまく焼けなくても、1〜 11のステップで対象者の行動を観察し、どこでつまずいているのか特定することができれば、そのステップを集中的に反復練習したり、別の方法を工夫したりすることで全体の動作(料理)を習得できるようになる。白身に油の跳ねが多く付いているのであれば、5で油のしき方を反復練習することになるし、また、黄身が固くなりすぎていれば、9で1分計を用いるという工夫も考えられる。この課題分析は、後述する作業手順書を作成する際の元データともなる。  なお、ステップの分け方は、無数にあると言ってもよい。対象者の理解度に合わせていくつかのステップを統合したり、さらに細かいステップに分けて表現することも可能である。 4)環境の構造化の考え方  行動が起こるには、きっかけが明確になっている必要がある。行動を起こす合図や目印が出ていても、それが曖昧なもので本人がそれと認識できなければ行動は起きない。このきっかけが明確になるように、環境を視覚的に分かりやすく整理、再構成することを「環境の構造化」と言う。例えば、学校の時間割表も環境の構造化の一つで、何曜日の何時間目に何をするのか一目で分かるようになっているので、クラスがまとまって行動できるわけである。代表的な環境の構造化には以下のものがある。 5)さまざまな支援ツール  この環境の構造化の考え方をベースに、本人の課題に応じて様々な支援ツールを工夫することができる。 <時間の構造化>  「タイムスケジュール」は一日の流れを示したもので、時間の構造化によって、行うべき作業の見通しが持てるようになる。 <場所の構造化> 事務室掃除方向  この事務室はゾーンによって掃除する方向を変えた方が効率的であった。そのため、各ゾーンを色分けし、ゾーン毎に掃除方向を明示したものである。 <方法の構造化>  手順書をどのように使用するかによって、携行型、掲示型に分けることができる。 6)その他の環境への働きかけ  @ 疲労をコントロールする  ストレスをコントロールすることは一般的には難しいが、疲労をコントロールすることで間接的にストレスをコントロールすることができる。具体的には、勤務日数、勤務時間、職務内容を調整することで、疲労をコントロールする。  例えば、精神障害があり疲れやすいため一日4時間の就業がその時点で限度である場合、いきなり8時間就業することは負担が大きくなり、体調を崩すことにつながることが懸念される。この場合、企業と交渉し、就業時間を4時間から始めて段階的に延長していくことができないか調整する。  A モチベーションを向上させる  機能分析の項で述べたように、人間の行動は、行動が生起した際の「結果」、つまりどのようにフィードバックされるかに左右される。この考えに基づき、作業の結果に対するフィードバックを行う中で対象者のモチベーションの維持・向上を図ることができる。  例えば、単独で行う清掃業務は、日常的に人との接触が少なく、フィードバックがないとどうしてもモチベーションが低下してしまう。この場合、作業の区切り毎に、キーパーソンに報告することをルール化し、出来映えについてチェックしてもらうようにする。この場合、「報告−フィードバック」がモチベーションの維持には不可欠であることをキーパーソンに理解してもらえないと仕組みは形骸化してしまうので、いかに理解してもらうかがポイントとなる。また、図9のようにリーダーの確認欄を組み入れたチェック表を活用する方法もある。対象者の自己チェックだけでなく、上司のフィードバックがあると評価のズレに気付き、言葉かけが励みになる。 図9 トイレ掃除チェック表  B 周囲の理解を促す  ナチュラルサポートを形成するために、企業や周囲で働いている人に理解してもらう必要があることは2つある。1つは、障害特性と適切な対応法である。もう1つは、対象者の就業を支える仕組み(これがなくなれば就業を継続していくことが危うくなるというもの)である。   a 障害特性を伝える  障害特性を伝えることはそれ程簡単ではなく、誠意を持って分かりやすく説明すれば伝わるというものでもない。相手が聞く耳を持っているかどうかを的確に判断し、最も効果的なタイミングを図る必要がある。イメージが正確に伝わり、自ずと適切な対応法が連想できるような説明が理想であるが、そのためには、相手の知識、興味関心、思考パターンなどのバックグラウンドに合わせたコミュニケーションツールの開発も必要になる。  1度や2度の説明で伝えようとする必要はないが、ジョブコーチは、何をどのタイミングでどのように説明するか絶えず意識している必要がある。 「統合失調症」を説明するコミュニケーションツールの例   b 就業を支える仕組みを伝える  ジョブコーチと企業の担当者が協力して作った仕組みが、企業の中で形式だけ引き継がれ考え方が引き継がれないとせっかく作った仕組みも形骸化してしまい、果ては担当者が替わって背景が分からなくなると「何でこんなことしてるの?面倒だし、止めたら?」ということになりかねない。  例えば、分からないことがあっても質問できず、周囲から孤立し被害的になり休職してしまった精神障害者を復職支援したケースでは、支える仕組みとして、定期的に上司に報告することとし、それにより、本人が作業のできばえを確認できることが安心感につながり、また、評価されることでモチベーションの維持につながった。この場合、なぜ、対象者には仕事の区切り毎に「報告する」というルールが必要なのか、対象者にとっての報告行為の意味合い、そのメカニズムを企業や周囲で働いている人に理解してもらう必要がある。  ただし、難しいのは知らないうちに仕組みが消失し職場で課題が発生しないと、その仕組みの大切さがなかなか理解できないというところである。 7)ナチュラルサポートの言語化  定着支援を実施する機関は、地域障害者職業センターに加え、障害者就業・生活支援センター、障害者就労移行支援事業所、障害者就労定着支援事業所、特別支援学校等近年ますます多様化している。定着支援を一つの機関から別の機関に引き継ぐというケースも増える中、ナチュラルサポートの形成とその修復(メンテナンス)を複数の機関で分担する場合、ナチュラルサポートの実態に対する共通理解が不可欠となる。  ナチュラルサポートの実態の全てを言語化することは難しいにしても、本人の就労を支えている要素とその機能を明らかにすることは可能であろう。それには「もし〇〇が無くなれば本人の就労は危うくなるかも知れない」と思われるものを考えればよい。この「〇〇」に当たるものが就労を支える要素となる。この要素はジョブコーチが新たに作った仕組みのこともあれば、職場に元々あった風土や暗黙のルールのこともある。さらに、ジョブコーチがこの要素の安定度までアセスメントでき、それらが引き継がれれば支援機関は切れ目のない支援がしやすくなり、企業にとっても障害特性に留意した自立的な雇用管理が可能となり得る。 おわりに  ジョブコーチ支援は、企業の内外で障害者の就業を支える仕組みを作る作業と言える。  現場の状況を正確に把握し(本人と取り巻く環境のアセスメント)、設計図(支援計画)に基づき就業を支えるために必要な柱を企業の内外で打ち立てる。言わばジョブコーチは「大工さん」なのである。もちろん一旦構築した仕組みは、半永久的に存続するわけでない。長い間には、風雨にさらされることもあるだろうし、時には地震にも見舞われるかも知れない。それを可能な限り予測し防災対策をとる。その都度柱の立替えであったり、土台の補強などのメンテナンス作業、場合によってはリフォーム(再度の集中支援)も必要になる。何年たってもきちんとメンテナンスしてくれることが保障されていれば(フォローアップ)、安心して働けるし、安心して雇用できることになる。 ナチュラルサポートの言語化(例) <引用文献> 1)厚生労働省:"職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について".  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html 2)内閣府:"都道府県・指定都市における単独事業等一覧(平成 26年度施策分野別)".  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/h26jigyo/sisakubetu.html <参考文献> 〇小川浩:重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門.エンパワメント研究所.2001 〇(財)雇用問題研究会:職務分析の理論と実際.1982 〇東京しごと財団 障害者就業支援事業:"東京ジョブコーチ支援事業".  https://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/yourself_supporter/job_coach/index.html 〇松為信雄・菊池恵美子編集:職業リハビリテーション学(改訂第2版)キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系.協同医書出版社.2006 〇小川浩ほか:重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ実践マニュアル.エンパワメント研究所.2000 〇梅永雄二:親、教師、施設職員のための自閉症者の就労支援.エンパワメント研究所.1999 第4項 就業支援と生活支援 1就業支援における生活支援とは(基本的な考え方)  障害者の就業支援は、「就職」と「職場定着」が主たる目的であるといえる。この「職場定着」を考える際、必要不可欠なのが生活支援である。社会福祉において既に生活支援という言葉に接している方が多いと思うが、ここでは就業支援に伴う生活支援という視点で考える。  障害者は職場において支援者の支援のもと、様々な課題に取り組む。支援を受けることによりステップアップし、課題を克服し、職場での定着を図る。これと同様のことが支援対象者の生活面においても必要になる。生活面における就職以前の状況(在宅、福祉施設への入所・通所、特別支援学校への通学等)とのギャップが、時として就業継続に大きな問題を生む要因となるからだ。  自分自身のことを考えてもらうと分かりやすい。私たちを取り巻いている社会は職場だけであろうか。家族、友人、趣味を共有する社会、買い物など自分の欲求を満たすための社会、様々な要素が我々の社会を構成している。そして職場以外の様々な事柄が、時として職場での能率に影響を及ぼす。  障害者にとっても全く同様である。職場は占める割合こそ大きいが、複数ある要素のうちの一つにすぎない。そのため、たとえ一要素である職場において状況が安定していても、他の要素が不安定な状況であれば職場での状況にも大きく影響し、結果として職場定着が困難になる。例えば家庭における問題、相談しにくい悩み事、友人との金銭トラブル、未経験な事象への対応などがこれに当たる。そこで、職場での定着を目的とした生活支援が必要になる。  ここで、「就業支援における生活支援」とするのは、支援対象者が就業に向けて取組み中であるからであり、一般の生活支援と特別な相違はない。福祉施設の利用や生活保護の利用など、就業者には直接的に関わらない事柄は、就業支援における生活支援の対象外であると考えられがちであるが、「世帯」として支援を展開する際には必要な情報になる。唯一の相違は支援の主目的が「働き続けること」を支えるという点である。  つまり、生活支援とは、職場での直接支援を除いた、障害者の就業を安定的なものにするためのあらゆる支援を指すことになる。   2生活支援の内容と方法  障害者の生活支援を考える際に「ここまで」という基準はない。状況に応じて発生した課題(困難)に対して、その都度対処していくことが必要になる。臨機応変さと地域資源に関する豊富な情報と知識が必要になる。  生活支援の内容については、職場において明確に事象として現れることへの支援と、生活全般における支援とに大別することができる。本来すべての問題にはつながりがあり、分類することは意味のないことかもしれないが、ここではより着眼点を見つけやすくする目的で分類して考察したい。また、継続して働き続けるために必要な要素である余暇支援についても考えたい。   1)就業に直接関わる内容について  ここでいう就業に直接関わる生活支援の内容とは、職場での仕事に直接的に影響し、職場において課題が顕著に現れる事象のことを指す。職場における清潔感の欠如や、欠勤・遅刻の常習などがこれに当たる。表1に支援が必要な事象と実際の支援方法について例を挙げる。  表中の「原因として考えられること」の欄を見ると、一つの事象について実に様々な要因が考えられることが分かる。例えば「遅刻」という事象について考えてみる。 表1 支援が必要な就業に直接関わる事象と支援方法 支援が必要な事象 原因として考えられること 支援方法(対象) 常習的な遅刻欠勤 朝寝坊、夜更かし、時間の組み立てに関する困難、家庭環境、通勤時の問題等 状況の把握(聴き取り、面談)を行い、適宣対処、家庭(保護者)との話合いによる協力要請 身だしなみ (清潔感の欠如等) 経験不足、家庭環境、こだわり等 具体的な方法を支援(髭剃り、洗顔、整髪等)、家庭(保護者)との話合いによる協力要請(入浴、洗顔、更衣、洗濯等に関することについて) 昼食の過剰摂取、不摂取、栄養バランスの欠如 家庭における状況把握の欠如、物理的に支援困難な家庭の状況、欲求(食欲)の制御困難な状況 家庭状況の把握、具体的な打開策の提示(仕出し弁当の注文など) 作業中の集中力不足、 居眠り等 夜更かし、意欲低下等 家庭の状況把握、本人からの聴き取り、「働く」ための生活のリズムの提示等、服薬等に関する相談 職場での他害、物損等 耐える力の不足、コミュニケーションの問題(人間関係)、余暇の不足等 本人からの聴き取りによる状況把握、職場での関係把握、SSTの活用、余暇の状況把握、模索  実際に職場で遅刻が大きな問題となった場合、どのようなことから支援に着手するだろうか。  「遅刻しないようにしなさい」と注意するだけで済めばこれに越したことはない。しかし、遅刻という事象の原因が何であるかが分からなければ対処することができない。仮に遅刻の原因が「寝坊」であれば、対処としては目覚ましをセットすることや、家族に起こしてもらうということが妥当であるといえる。「自立」という観点で考えると、前者がより的確であり、後者は避けたい支援方法ではあるが、直接支援の方法としては間違いではない。しかし、寝坊の原因が根深いものである場合は、そこにも支援の必要性が発生する。仮に夜更かしが原因であれば、目覚ましのセットよりもむしろ生活習慣(夜更かし)の改善が必要になる。また、夜更かしを余儀なくされる家庭環境であれば、本人に対する支援よりも、むしろ家族を巻き込んだ生活環境の改善が必要になり、支援は本人のみならず家族にまで波及する。  このように職場において「遅刻」としてしか現れない事象の背後には、実に様々な要因が含まれていることが多く、その場合には家庭環境に踏み入った支援が必要になる場合が少なくない。  支援者が支援に入る際に最も重要なことは、見えている事象がどのようなことに起因し、どの部分に対して支援が必要かということを充分に検証することである。そのためには、本人・家族から状況について充分に「聴く」ということが必要になる。充分に聴くことによって状況をしっかり把握し、より効果的な支援を行うことができるからである。同時に、目の前で起きている事柄をよりスピーディに解決するということと、その根本的な課題にアプローチするという二つの支援を同時に展開することも必要になる。職場における課題(問題)は、即時解決すべき事象であると同時に、根本原因の克服には時間を要する場合が多いからである。  また、支援を行う際に企業と支援の範囲について認識を共有する必要がある。雇用主である企業が求める以上の支援は、時として不安定な状況をまねく原因にもなり得る。特に生活面における支援は職場における課題と関連する事項が多く、これらのバランスが重要になるため、常にベストの状況をゴールに見据えることはできない。企業と「ここまで」という支援の範囲を共有する必要がある。   2)就業の場面では見えない内容について  次に、就業の場面では具体的に問題として見えない(見えにくい)事柄について考えてみる。就業支援を行う際に、職場にだけ目を向けていればよいのだろうか。確かに職場において問題が発生した場合に対処することが就業支援の大きな役割ではある。しかし、我々が職場で働いている時間は一体どれくらいであろうか。仮に週休2日制・1日実働7時間(拘束8時間)の職場に勤めているとすると、1週間のうち職場で過ごす時間は40時間になる。1週間は168時間なので、職場以外の時間は128時間にもなる。1日8時間睡眠をとったとして睡眠時間を差し引いても、72時間は職場以外(睡眠時を除いた)で過ごしている計算になる。職場とそれ以外の場所での生活時間の比率が約4:7ということをみても、いかに職場以外で過ごす時間が長いかが分かると思う。  このような状況において、職場でしっかりできているから大丈夫ということは少々油断しているといわざるを得ない。職場を出てから帰宅までの時間、休日、更には自宅においてもパソコンや携帯電話で外界とつながっており、支援が必要になる状況に陥る可能性は常に絶えない。とはいえ、一緒に生活をしている訳でもなく、毎日家庭訪問を行う訳でもないので、職場以外での状況の把握は非常に困難である。また、問題が顕在化しない限りは、それに気付くこともできないであろう。では、どのようにこれらの課題に取り組むことができるのだろうか。ここでは一つ例を挙げて考えてみたい。   表2 ケース例  表2の例は、事象として現れるまでにいくつかのサインがあり、最終的に職場における問題に発展してしまったケースである。ここではまず職場での様子に注目していただきたい。  表における@〜Cにおいては問題として見てとれる事象はない。むしろ彼女ができたことが仕事へのモチベーションにつながりよい評価を得るかも知れない。Dに至り、初めて本人に異変が起きていることに気付くであろう。このように、この事例においては職場のみでは把握できない問題が発生しているといえる。  では、家庭の様子からは異変は見てとれないだろうか。  例えばAを見ていただきたい。もし家族との連絡の中で、「自室にこもりがち」という事実がつかめていたらどうであっただろうか。少なくとも本人に訊いてみることぐらいはできるであろう。そこですべてが把握できて解決ができるわけではないが、注意を払うきっかけにはなるだろう。ここで気にかけていることができれば、Bにおける事象は問題の発生を確信させる内容であるといえないだろうか。さらにCの事象に至れば、本人・家族と話をする場面を設けることができるであろう。  結果として、D、Eのような事態になるとしても、職場での把握のみでいきなりDの事象に当たるよりは迅速な対応が可能になる。  このように、職場だけではなく家庭等における様子の把握は、生活支援において非常に重要になる。そのため、生活支援を行う場合には家族、グループホームの世話人、ケースワーカーなど、支援対象者が最も話をしやすい人との連絡調整が不可欠になる。支援対象者を取り巻く環境を充分に把握することが必要といえる。 3)働き続けるための支援(継続的な就業のために)  就業支援における生活支援を考える際には「働き続ける」ということがキーワードになる。もちろん職場での安定した作業や人間関係構築に向けた支援が必要なことはいうまでもない。前述したように生活支援のために家族等との連携も不可欠である。ここでは更に安定した就業のために必要な要素である余暇支援について考察したい。 〇余暇支援  就業を継続するうえで、余暇は重要な要素になる。自分たちのことを考えてみよう。もちろん生活のために仕事をするのだが、果たしてそれだけであろうか。毎日仕事と家の往復で、土日も出掛けないというような生活はかえって不自然ではないだろうか。  働いた対価として得た給料を自分の余暇のために使うことも重要な社会経験であり、働き続けるためにはとても大きな要素になる。しかしながら、彼らが就業する先である企業において、常に余暇活動が準備されている訳ではない。特例子会社など障害者雇用を主たる目的としている企業においては別かもしれないが、多くの企業においては就業時間以外は個人の自由というスタンスである。  支援対象者がこれまで所属してきた機関(学校、福祉施設、デイケア等)においては常に余暇活動が準備されており、自分で余暇を探すという必要性はなかった。もちろん自分で休日を楽しむ方もたくさんいるが、社会経験の少ない障害者の中には余暇に関しても経験不足の方が多い現状がある。そのため、就業後も職場に多くのことを求めてしまい「つまらない」 「友人ができない」等の理由が課題になるケースも少なくない。「よく働きよく遊ぶ」が理想であり、余暇の充実は安定した就業継続に直結するといえる。職場を「働く場」として位置づけるためにも「余暇の場」が必要になるのである。  余暇支援において問題になるのが、実際の余暇の確保や金銭の使い方、友人との人間関係等になる。就業者の多くは平日勤務であり、土日祝日が休日になる。このような場合は、土日における余暇支援および就業時間後の支援が想定される。現状において就業時間後の支援は資源の少なさなどから困難であり、就業先企業に委ねることになる場合が多い。また、土日の余暇に関しても、施設等の余暇活動は平日に多く、土日の継続的な機会を確保することは難しい。そのため、就業者の余暇支援は定期的に開催される就業者を対象とした余暇活動の情報提供と、就業者本人主導による土日の活動に対する助言等が主になる。  定期的な余暇活動を確保するためには、地域資源に関する情報が必要になるため、こうした機関との日常的な連携が有効になる。  就業者本人が主導する余暇活動の支援においては、金銭感覚の問題や仕事に支障をきたさないための配慮、交友関係等に関する問題などについて介入度が高くなることが少なくない。特に近年ではネットに関するトラブルも増加しており、対応内容は多岐にわたる。犯罪や契約トラブルなど、場合によっては支援者の対応可能な範囲を超える事例も発生するので、利用可能な地域資源と連携した対応が必須になる。  就業において不可欠であるのが余暇であり、また就業のために適切な支援が必要になるのが余暇であるといえる。当然のことではあるが、社会においては「障害者だからここから先はダメ」という規制はない。我々に提供されているものすべてが支援対象者にも提供されている。  余暇支援において重要なことは、活動の押しつけや支援者の判断による禁止ではなく、より適切な余暇の過ごし方をともに考えることである。 3生活支援における役割分担  これまで述べてきたように、生活支援は非常に多岐にわたり、多様な対応が必要になる。状況によっては、専門的な知識・対応が必要になるため、一機関で完結する支援は一般的ではなく、他機関・家族等との連携が基本になる。  支援者としては「何とかしたい」と強く思うあまり一人で解決しようとしがちだが、不充分な知識やスキルによる支援は対象者の状況を悪化させてしまう危険があるので注意したい。生活支援においては、専門的なスキルを必要とする場面が多いため、どのような支援に対してどのような機関が有効であるかという情報が重要になる。そして持てる情報を充分に活用して支援を組み立てるコーディネーター的な役割を担うことが最も有効な支援方法になるといえる。  就業支援における生活支援では、企業・家族・支援機関の連携が必要だが、支援機関には多数の機関が含まれる。このような場合に、それぞれの機関が独自に企業や家族と連絡をとることは、企業や家族の負担感を大きくし、場合によっては情報の誤認識や時間軸におけるズレなどを引き起こす。主となる支援者がコーディネーター的な役割を担い、情報を集約することが望ましい。ただし、医療情報など個人情報に関する事柄に関しては、取扱いに充分配慮する必要がある。  ここでは、生活支援において有効と思われる支援機関について整理してみる(表3)。 表3 支援機関一覧 各市町村福祉窓口 各市町村の福祉課。福祉サービス(グループホーム等含む)、年金等の相談に対応。 都道府県・指定都市の社会福祉協議会 各種福祉サービスに関する相談や、「日常生活自立支援事業」に関する問合せ等に対応。https://www.shakyo.or.jp/ (※窓口業務は市町村の社会福祉協議会で実施) 消費生活センター 消費生活全般に関する相談に対応。 障害者就業・生活支援センター 障害者の就業に係る支援全般に関する相談に対応。 地域活動支援センター 旧法においては精神障害者の生活支援に対応。障害者総合支援法においては地域支援事業にあたる。通所により、創作的活動や生産活動機会の提供、社会との交流の促進を図る。 保健所 精神保健に関する対象者の直接相談や訪問による支援、デイケア、家庭支援等を実施している。 その他地域の福祉事業所 支援対象者がかつて所属していた機関など、余暇支援確保の際に有力な情報を持つ場合が多い。  各市町村の福祉窓口は、福祉サービス全般の相談に対応している。障害者手帳や障害者基礎年金に関する相談、住まいの問題(グループホーム等)などの総合窓口となる。  社会福祉協議会は、主に権利擁護に関する相談窓口といえる。障害者本人の判断能力欠如によるトラブルや、日常的な生活において困難が生じる場合に、成年後見人制度の活用などを検討する際の窓口になる。  消費生活センターは、商品やサービスに関わる単発のトラブルや軽微なトラブルに対して対応するとともに、悪徳商法への対応やクーリングオフの方法などを紹介してくれる。土日祝日等については、国民生活センターでも電話相談を行っている。  障害者就業・生活支援センターは、就業支援全般に対応している。生活支援員による直接的な支援や地域資源との連携による支援を行っている。  地域活動支援センターは旧法における精神障害者地域生活支援センターである。主に病院と連携している場合が多く、退院促進や地域移行(生活、住まいなど)を支援している。障害者総合支援法においては「地域生活支援事業」として位置付けられており、すべての障害者の支援を行うこととされている。保健所は、精神保健福祉センターとの連携のもと、緊急・処遇困難な相談への対応や、自立支援医療等の社会復帰や福祉サービスに関する相談、デイケアの開催、家族支援等を行っている。また、保健所と福祉事務所が統合されている場合、「保健福祉センター」という名称が使用されている地方自治体もある。  その他として、地域の就労支援機関、特別支援学校といった支援対象者が所属していた機関は重要な連携機関といえる。支援対象者に関する情報も豊富であり、余暇の活動場所としても期待できる。 4生活支援を行う際の留意点  これまで述べてきたように、就業支援における生活支援はその主たる目的を「働き続けること」に置いていることが大きな特徴である。ここでもう一度、就業支援における生活支援について留意すべき点をまとめてみる。 1)連携の重要性について  生活支援には実に多様な事象が含まれる。より専門的な知識やスキルが必要とされるため、他機関との連携が重要になる。そのためには日頃から地域資源と顔の見える関係を築いておくことが必要であり、これらのコーディネートが求められる。状況によっては主たる支援機関から協力を要請される場合もある。支援に入る際に、立ち位置、役割をしっかりと把握して取り組むことが重要になる。地域の機関との連携なしには生活支援は成り立たないといっても過言ではない。 2)即時対応について  生活支援において問題が発生した際には、即時対応が重要になる。問題の放置は事態の深刻化、拡大に直結する。また、さして深刻と考えられない事象であっても、職場では大きな問題になるケースも少なくなく、支援者の判断のみで対応を遅らせてしまうことはあってはならない。支援者自身の所在の明確化、常に連絡が取れる体制の整備が重要になる。また、自分が対応できない場合は放置するのではなく、代役を立てるなどして即時対応に努めることが重要であり、そのための基盤を整備しておくことが必要である。 3)支援対象者は成人であるという認識  就業している(しようとしている)障害者を支援する際に忘れてはならないことは、対象者は成人であり一社会人であるという認識である。前述したようにすべての社会は彼らに開かれており、彼らがとる行動は本人の自己責任によるものとみなされる。  支援対象者は、これまでは学校や施設といった機関において、一定の管理された環境下で多くの時間を過ごしてきている。また、外出の際も多くは保護者同伴などある程度安全が確保された状況下に置かれている。しかし、就業者になると、管理された環境でもなく、常時同伴者がいるという状況でもなく、本人の責任能力が問われる機会が一気に増大する。  職場における就業支援においては、本人のスキルアップと並行して、補助具の使用や周囲の配慮によって困難を解消するという手法を用いる。しかし、生活支援においては、これらの手法は適応しない場合が多い。経験値や情報を増やすことで、判断材料を増やすなど障害者本人の意識や能力に頼る面が大きく、問題解決には時間がかかる。本人の能力による解決が困難と判断される場合には、成年後見人制度の活用なども視野に入れて支援に当たらなければならない。生活支援においては、就業支援以上に本人の能力や意識が重要になるといえる。  我々が支援する対象者はあくまでも一人の成人であり、一社会人であるという前提を忘れてはいけない。支援者の態度としては、一社会人として接することは勿論のこと、平易な説明に配慮するあまり、支援対象者を子供扱いするように誤解を招く表現をしたり、支援方法を強要するようなことがあってはならない。また、支援の範囲や内容について、本人、家族、企業と共有し、共通認識の下に支援を行うことが重要になるが、支援に関する情報を家族等と共有する場合でも、本人にその趣旨を十分説明し同意を得る等の配慮が必須である。 4)家族への支援  ここでは支援対象者にとって、最も身近であり影響力を持つ支援者である家族について取りあげる。支援者にとって、対象者の家族は同じ支援チームの一員であるが、同時に支援対象でもある。  同じチームの一員としてとらえるとき、家族はとても重要な役割を担う。我々の生活は日中(職場)と夜間(家庭)に大別することができるが、後者を共に過ごすのが家族であり、また、就職するまでの支援対象者の情報を最も有しているのも同じく家族である。このようなことから、家族にしか行えない支援や、家族しか知り得ない情報が存在する。そのため、家族を抜きにした支援は困難であると言える。  では次に支援対象としてとらえるとどうだろうか。支援対象者の日中の様子について、家族がどの程度知り得るかということを成長とともに考察すると次のようになる。 表4 成長過程における情報共有ツールの考察 一般 福祉(特別支援教育) 保育園、幼稚園 送迎時の伝達、参観 情報量:非常に多い 送迎時の伝達、参観 情報量:非常に多い 小学校 授業参観、連絡帳、プリント 情報量:多い 授業参観、連絡帳、プリント、 送迎時の伝達 情報量:非常に多い 中学校 授業参観、連絡帳、プリント 情報量:普通 授業参観、連絡帳、プリント、 送迎時の伝達 情報量:非常に多い 高等学校 プリント、3者面談 (進路相談) 情報量:少ない 授業参観、連絡帳、プリント、 3者面談 (進路相談) 情報量:非常に多い 大学、福祉施設等 大学 情報量:なし 福祉施設等 保護者会、連絡帳、面談 情報量:非常に多い  表4を見ていただくとわかるように、一般的には小学校、中学校と年齢を重ねるに従い情報伝達が本人主導に移行していると言える。しかし、特別支援教育から福祉へと進んだ場合には、家族は本人以外に情報を得るツールを十分に有しており、伝達の移行がなされていないと言える。このような環境下で過ごしてきた方が就職するとどうなるだろうか。一部特例子会社のように障害のあるスタッフに対して厚い支援体制が整っている企業を除けば、ほとんどの場合、連絡帳や保護者会などは無い。家族にとって唯一の情報源が支援対象者本人であるという状況になる。この状況に慣れていないと、家族は情報不足から大きな不安を抱えることになる。本来であれば、支援者と情報を共有し対象者を支えるチームに属することが望ましい家族が、チームの外にいる形になってしまう。この状況になると、家庭での支援はスムーズにいかなくなり、効果的な支援を行えなくなる。そればかりか、状況によっては情報不足に起因する誤解等から、対象者本人ではなく家族の言動が雇用継続を困難にしてしまうようなことも起こりかねない。  以上のことから家族への支援、とりわけ情報の提供・共有は障害者の就業支援においては欠かすことが出来ないと言える。また、家族によってはすぐに適切な支援者としての理解や対応が期待できない場合もあるため、一方的な価値観を押しつけることなく、支援の段階に応じて、必要な情報提供を行い障害特性や職業生活への理解を促しつつ、適切な支援のスタンスが共有できるよう支援を進めることが望まれる。家族と情報を共有し、支援チームを組むことにより対象者の就業と生活を一体的に支援することが可能になる。 5)「できる」ための支援を  福祉の分野における生活支援とあえて差別化をはかるのであれば、「本人ができるように」という視点を最優先するということである。  生活支援の基本的なスタンスとしては、本人のアセスメント結果等を踏まえつつ「本人ができる」を目的に支援を展開する。他機関との連携が必要な場合には、最終的には支援対象者本人が主体的にそれらの機関を利用できるようになることが理想であり、そのためのサポートを心掛けることが必要になる。支援者の見定めのないまま、本人に対して支援者が身の回りの全てを支援してしまうことは、本人のスキルアップにはつながらない可能性がある。  支援者が「私がいれば大丈夫」というスタンスで支援する限り、支援対象者の「できる」は育たない。最低限の支えでという意識をどこかでしっかりと持つ必要がある。例えるならば、杖があれば歩ける方に車椅子を差し出してしまうようなことは、就業支援における生活支援の場においては避けたい。働き続けること、生活し続けていくことが目的であり、現時点の問題解決が必ずしも最終目的ではない。過度な支援は、結果として対象者の自立を阻害し、支援者なしには生活できない状況を作り上げてしまう恐れがあることを忘れてはならない。 6)就業支援における生活支援のプロとして  就業支援における生活支援を行う場合、必ずしも本人に寄り添う場面ばかりではない。支援対象者、企業双方への支援が前提になるので、時には本人の意に沿わないことにも取り組む場面に直面する。福祉を志す方の多くが本人の希望に寄り添い、サポートすることを主眼に業務に当たっていると思う。しかし、時として相反する支援が存在するのが就業支援である。今支援対象者にとって何がベストなのか、支援者自身の満足ではなく、支援対象者にとってのベストを求める意識を常に持っておくことが重要である。  また、日常生活を形成するうえで、どのような困難が存在し、何に起因しており、どのような対処が有効かを模索し、また、問題解決に当たってどのような資源・機関があり、活用が可能かを検討することとなる。そのための豊富な情報が必要であり、地域資源や社会情勢には常に高いアンテナを張っておくことが必要になる。  就業支援のプロとして、持てる力を発揮できるよう連携を重視し、地域に根ざした活動をすることが、よりよい支援につながる。 5支援者の立ち位置について  最後に、まとめとして支援者の立ち位置についてお伝えしたい。就業支援における支援対象者に対する立ち位置は、その他の福祉サービスにおけるそれとは異なると考えられる。  福祉サービスにおける支援者の立ち位置は、本人に寄り添い、本人の満足を最優先にするものと考えられる。最終的にはサービスが評価され、更なる利用者の増加につながる。  しかし、就業支援における支援者の立ち位置はこれとは異なる。支援対象者は必ずしも法人のサービス利用者とは限らない。また、本人の満足は今目の前にある一点ではなく、安定した就業・生活という長く続く線であり、即座には感じづらいものである。このような視点をしっかりと持ち、 自身の立ち位置を考えることが重要である。  また、福祉サービスにおいては本人の満足を最優先するため、時として手厚いサービスを提供する。そして本人がサービスを利用し続ける限り、対象者との関係が変化することはない。  しかし、就業支援において支援者はあくまでも黒子である。必要以上に出過ぎることは適切な支援とはいえない。また、場合によっては支援頻度・介入度を徐々に減少させ、困ったときに SOSが出せるような距離感の取れる存在になることも必要である。支援すること自体に満足を求めるのではなく、支援対象者が自立することに支援者自身の仕事の満足・目的を置かなければならないのが就業支援であり、就業支援における生活支援である。  警察や消防といった機関に例えることが適切であるかは分からないが、就業支援における生活支援は、その機能は類似していると私は考える。あらゆる事態に対し常に準備し、情報を収集する。そして準備した情報は機能する機会がなければそれはよいことであり、しかし必要な場合にはすぐに駆けつけられる。このような機能を持つことを意識し、その内容にやりがいを持つことができれば、就業支援における生活支援はとても有意義であり、必要不可欠なものであると感じられるであろう。そして就業支援者として真に「何をすべきか」をしっかりと捉えて、支援対象者の自立に向けた的確なサポートができるだろう。 コラムB   ◇地域障害者職業センターにおける『関係機関に対する職業   リハビリテーションに関する助言・援助』の活用について◇    ここ数年来、障害者の就業ニーズの高まりや、平成18年度の障害者自立支援法の施行、並びに平成25年度の障害者総合支援法の施行により、「福祉から雇用へ」の流れがより一層強まっているところであり、それに伴い職業リハビリテーションサービスを提供する就業支援機関も増加している。その多くは、福祉施設から移行している機関であり、就業支援について豊富な実績を有している機関も見られる一方で、就業支援のノウハウの蓄積や企業、ハローワーク等との関係作りについてはこれから本格的に取り組む機関も見受けられる。  そのような中、全国の地域障害者職業センターにおいて、各地域における障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所その他の支援機関がより効果的な職業リハビリテーションサービスを実施できるよう、これらの支援機関に対して職業リハビリテーションの実施における技術的事項(例えば精神障害者の職業的課題に対してどのような支援をどのような方法で実施すれば良いか等)に関する助言・援助等を行う取組みが強化されている。  具体的には、地域障害者職業センターにおいて支援機関からの要請を受けて、@当該機関における職業リハビリテーションサービスの導入や見直し等に際して、技術的事項に関する説明や提案等を行う、A要請のあった支援機関の支援対象者をジョブコーチ支援等により協同で支援する、B当該機関職員に対して地域障害者職業センターにおける実習を行うといったサービスを提供するほか、C就業支援の共通基盤となる知識・スキルの習得に向けた研修(就業支援基礎研修等)を実施している。  各支援機関において、「障害者への就職に向けた訓練・支援メニューを考えているがどう取り組めばよいか…」、「新たに就業支援担当となるスタッフの業務をどのような内容にしたらよいか…」といったお困りの状況等があれば、地域障害者職業センターに相談を寄せられたい。