第3章 就業支援に必要な考え方  障害者の就業支援においては、数多くの実践を通じた支援ノウハウの積み上げも重要であるが、新たな問題に直面した場合に行き詰まることのないよう、支援のベースとなる基本的な考え方をしっかり踏まえておくことも大切な要素となる。 第1節 就業支援とは  就業支援の実践に際し、支援方法や障害者雇用制度等の知識、ノウハウを学ぶのと同時に、以下の就業支援に関する基本的な考え方を理解し、これを念頭に置きつつ支援を行うことは非常に重要である。 第1項 働くことの意義の理解と就業支援  当然のことながら就業支援において取り扱われるのは「人が働く」ということであり、支援者にとっては働くことについての意義を考えることは避けては通れない。  職業の3要素として@個性の発揮、A連帯の実現、そしてB生計の維持が指摘されることがある。これは、人は、生計(収入)が保障されれば、働くことを通して社会への参加欲求を満たして、働くことに対して自己実現の場や自己成長の場としての要素をより強く求めることを示唆する。これらを踏まえると、働くことの意義は、「社会的な視点」と「個人的な視点」の2つの側面から捉えることが必要となろう。  前者の「社会的な視点」からすると、働くことは社会の存続や発展に必要な生産的な活動が分割されて個人に割り当てられたものであり、割り当てられた役割に継続的に従事することで賃金などの報酬が分配される。これに対して、後者の「個人的な視点」に焦点を当てると、割り当てられた役割を果たすことを通して、自分の能力を発揮し心理的な満足を得る源泉となる。仲間を作り、先輩や後輩に自分の存在を認めてもらい、自分自身の達成感や満足感を得るといった機会がもたらされ、自己の存在意義(生きている意味)を確認する価値実現の場となる。これらは障害の有無を問わないすべての人について言えることだが、障害のある場合には、さらに、@生活リズムの調整や体力・健康の維持につながり、A心理的な満足や自尊心が獲得でき、B生計を維持するための経済的な基盤が提供され、C人間関係の確立や人格形成などの社会的な関わりを持てる場となることなどが付け加わる。こうした多面的な意義があるがゆえに、障害があったとしても、働くことの意義は大きいのである。  したがって、就業支援は、個人が働く場を提供されて収入を得て、仕事役割の遂行を通して社会的な承認を獲得し、職場の仲間や友人を増やし、結果として個人の生活が豊かになることにつながることを目指すといえよう。仕事に就いて職業的に自立する中で、生涯にわたる「生活の質(Quality of Life:QOL)」の向上を目指すのである。そうした職業的自立をとおして「生活の質」の向上を支援する活動こそが職業リハビリテーションである。  このように、働くことの意義は非常に大きいことから、正規社員に加えて非正規社員あるいは短時間就業やグループ就業・在宅就業などの多様な働き方の開発や、さまざまな働く場を拡充する施策などを、さらに展開させてゆくことが大切になる。 コラムE   ◇職業リハビリテーション◇    職業リハビリテーションとは、国際労働機関(ILO)第159号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約)による定義において、「障害者が適当な職業に就き、それを継続し、かつその職業において向上することができるようにし、それにより障害者の社会への統合又は再統合を促進すること」とされている。  つまりこの定義において職業リハビリテーションは、障害者の社会への統合の手段であり、適当な雇用の継続とその向上を支援することと捉えることができる。  また、日本国内においては「障害者の雇用の促進等に関する法律」において、その定義がなされており、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ることをいう」(第2条第7号)とされている。この定義では、職業リハビリテーションの措置として、職業指導、職業訓練、職業紹介が例示されているが、職業リハビリテーションの措置はこれらに限られるものではなく、障害のある求職者の希望や特性把握等の情報収集から始まり、就職後の職場適応、職場定着に係る支援に至るまでの措置が広くこれに該当するものである。  なお、職業リハビリテーションに関する学術的な理論体系に関しては本書271ページ以降に参考図書等を掲載しているのでそちらを参考にされたい。 第2項 就業支援のための視点  就業支援を実際に行う際の重要な視点として、次のことが挙げられる1)。   1)個人と職場の双方に向けた支援  図1の概念モデルに従えば、効果的な就業支援サービスは、個人ニーズへの満足度と職場(環境)のニーズ(要求水準)への充足度の双方を向上させることにある。そのためには、個人と職場の双方に向けた支援を並行させることが重要となろう。 図1 職業リハビリテーション活動の概念モデル  図1の概念モデルの下段には、こうした個人と職場(環境)の双方に並行して提供すべき支援の方針を示した。すなわち、個人に向けられたサービスや支援は「機能の発達」を促すことを目指す。これは更に、教育や訓練によってこれまで習得していなかった機能や能力を新たに獲得する「技能の発達」と、学習を通して既存の機能や能力を実際の職場で活用できるように再構成する「技能の活用」の2つの方法がある。  他方で、職場(環境)に向けられたサービスや支援は「資源の開発」を促すことを目指す。これもまた、既存の様々な社会資源を選択したり調整しながら活用する「資源の調整」と、個人の能力や必要性に応じて既存の社会資源を改善して作りかえる「資源の修正」の2つの方法がある。就業支援は、こうした4つの方法により個人と職場(環境)の双方に焦点を当てながら支援や介入を行うものであり、この視点こそ、医学や特別支援教育での支援や介入と異なる特徴といえよう。   2)就業支援と生活支援の一体的な継続  就業支援を進める場合、対象となる障害者の能力特性をどのように捉えるかは、実際の支援の在り方を考えるうえで重要である。図2は、そうした能力特性を階層的な構造として見たものである1)。   図2 個人特性の階層構造と支援  この図では、最上段の「職務の遂行」はある特定の仕事をこなすために要求される能力、2段目の「職業生活の遂行」は職業人として基本的に要求される特定の仕事を超えた共通の能力(職場の理解、基本的ルールの理解、作業遂行の基本能力、作業遂行の態度、対人関係の態度、求職と面接技能など)、3段目の「日常生活の遂行」は日常生活について自立して維持できる能力(学習の基礎的技能<基礎的な数理処理、理解力、コミュニケーション能力など>、適応の基礎的技能<自己の理解、情緒的あるいは社会的な対人関係など>、地域社会への適応行動<日常生活技能、家事の能力、健康の管理、消費者としての技能、地域社会の理解など>)、そして、最下段の「疾病・障害の管理」は服薬管理などで疾病を自己管理して健康の維持に配慮した生活をする能力(清潔の自己管理、健康の自己管理、服薬の遵守など)を示す。  能力特性をこうした階層構造としてみると、職場や企業が最も必要とするのは生産性に直結する最上層であることは明らかだろう。そのため、企業は企業内訓練(OJT=on the job training)などを通して、従業員の職業能力開発に力を入れる。ところが、障害のある人の場合には、むしろ第2層以下の「職業生活の遂行」「日常生活の遂行」「疾病・障害の管理」に関わる諸能力が、企業の求める水準として不充分であったり不安定であったりすることが多い。このため、障害者を企業に就職させるために福祉・教育分野の関係者が行う教育・訓練は、職業生活や社会生活の準備性の向上を目指すべきものといえる。学校の進路指導もこうした準備性を高めることに焦点を当てたカリキュラムを実施するべきだろう。  また、これら3層の諸能力が不充分なままに、あるいは不安定なままに就職した知的・精神・発達障害者に対しては、福祉・教育分野の支援者が企業の担う「職務の遂行」の更なる能力開発と協働して、これら3層に関わる諸能力の維持や向上に向けた支援を担うことが望ましい。言い換えると、福祉・教育分野の支援者と企業が連携ネットワークを結び、生活支援と就業支援を並行して継続的に支援することが必要なのである。   3)キャリア発達の視点を踏まえた支援  図2の第2層以下に示す諸能力は、幼少期からの様々な経験や学習の過程を経て段階的に獲得される内容である。特に知的障害を含む発達障害の児童・生徒の場合には、発達過程での様々な経験が制約されがちになり、また、失敗の繰返しにより、自己否定的あるいは貧弱な自己概念を形成したり、非現実的な職業指向や意思決定を行う傾向が見られる。つまり、図の第2層以下の職業生活や社会生活の準備性に関わる諸能力が、発達過程で停滞しがちになる。就業支援に当たっては、キャリア発達の視点から仕事そのもののキャリアアップに焦点を当てるとともに、発達過程で停滞した諸能力に対し、職業生活で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方ができるよう、職業人としての資質や能力を高めるための支援を行うことが求められる。 コラムF   ◇キャリア発達◇    キャリア発達は、誕生から学齢期を経ながら、その後の就職や職業生活の維持、そして退職後の人生に至るまで、その生涯にわたる個人の働き方や生き方に関わるものである。キャリアという用語には様々な意味があるが、職業経歴や仕事そのものを意味するワークキャリアと、職業生活を含む様々な生活場面で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方を指すライフキャリアに分けて捉えることができる。  特に、ライフキャリアを考える場合には、図に示すように、障害の有無に関わらず、人は生涯にわたって子供・学生・余暇人・市民・職業人・家庭人などの多様な役割を遂行するのであり、それぞれの発達段階でこれらの役割に費やされる時間やエネルギーの大きさは異なる。また、この図から、個人のライフ・スタイルは、生活上の様々な役割の同時的な組合せから決まることが示唆される。さらに、それぞれの役割が自分にとってどれだけ重要であるかは、@その役割に対してどれだけ思い入れたかという態度や情意的な側面、A実際にどれだけエネルギーを投入したかという行動的な側面、Bその役割についての正確な情報である認知的な側面、の3つの側面から決まるとされる。  こうした人生に用意されている多様な役割の中でも、特に、職業人としての「仕事役割」は全体的に大きな重みを持つだろう。就業支援は、こうした様々な役割を視野に入れつつ、職業人としての役割に焦点を当てた活動である。 4)移行支援の重要性  キャリア発達の視点を踏まえると、職業的な自立に向けた支援やサービスは、「移行」の時期に最も手厚くすることが必要となる。移行は、学校から職場、あるいは職場内での職務や地位の移動などのように、それまでと異なる社会環境に参入することで、未経験の新たな役割を担うことが求められるからである。障害者の場合には、未知の新しい役割に応えるのに必要な知識や技能、あるいは行動や態度などを新たに習得するのに時間を要することから、この時期を上手く乗り越えるための支援やサービスが重要となる。  職業生活を中心とした社会的な自立への流れの中で生じる「移行」は、少なくとも、@仕事に就くための準備期間や実際の就職活動、A就職直後のごく短い時期における職場適応、B就職後の職業生活の持続、の3つの時期に区分される。このそれぞれの移行時期に応じて実施すべき支援のポイントがある。  最初の「@就業への準備段階」では、a)仕事役割を果たすだけの準備が整っているか、限られた期間でどこまでその可能性が高められるか、などの評価基準を明確にし、b)福祉・教育・医療分野の視点ではなくて、仕事役割を果たすのに必要な要件が備わっているかという見方が必要である。次の「A就業場面への参入段階」では、a)多様な働き方や働く条件を整備して、障害特性に配慮した雇用管理や雇用形態の在り方を明らかにし、b)入職後の時間経過とともに労働負荷を微増させながら支援を漸減させ、c)訓練や行動上の問題に対応する支援技術を開発することなどが必要となる。最後の「B就業の継続に向けた段階」では、職場で働くことと地域生活そのものに対する支援を一体的に継続して提供するために、a)地域生活を維持するための支援、b)職務に適応するための支援、c)企業への対応と地域ネットワークの育成などが必要である。 5)ネットワークの構築  このように、「移行」の課題は広い範囲に及び、また、人生の過程で様々な移行の課題に直面する。そうした移行の課題を円滑に乗り越えるには、各種の支援機関の支援者ばかりでなく、家族、地域の友人や隣人、職場の上司や同僚などの様々な分野の人が加わる地域支援システムが必要である。  特に、働く障害者を支えていくには、雇用・福祉・教育・医療等の各分野の連携が不可欠である。それぞれの支援機関が役割分担しつつ、個々の障害者のニーズに対応した長期的な支援を総合的に行うネットワークを、障害保健福祉圏域などの身近な地域ごとに構築することが必要である。  地域ネットワークの構築は、障害者にとっては、ライフステージを通じて適切な支援が受けられ、どの機関を利用しても必要な支援に結び付けてもらえる利点がある。また、支援者にとっては、各分野の強みを活かした効果的な役割分担が可能になる。事実、就業支援が効果的に行われている地域の多くは、熱心に就業支援に取り組む機関が中心となり、様々な個別ケースごとに地域の支援機関が緊密に連携して、それぞれの役割に応じて支援を分担するといったネットワークが構築されている。   第3項 支援者に求められる役割と資質 1)求められる能力要件  就業支援の担当者といっても、その役割の内容や職務上の権限から様々な水準があるが、共通して必要とされる能力として、@就業支援の基本的知識・理念の理解、A就業支援に関する制度の理解、B関係機関の役割・連携の理解、C企業の障害者雇用の実際の理解、D就業支援の実際の理解とともに、E支援者としての自己理解とF相談のスキル、Gコミュニケーションスキルがあげられる。例えば表1(146ページ)は、就労移行支援事業所の就労支援員、障害者就業・生活支援センターの就業支援担当者、それに、訪問型・企業在籍型職場適応援助者のそれぞれの役割・職務・求められる能力をまとめたものであり、下段には先ほどの項目が「共通基盤」として整理されている2)。 表1 障害者の一般就業を支える人材の職務と求められる能力 出典)厚生労働省職業安定局:障害者の一般就労を支える人材の育成のあり方に関する 研究会報告書(平成21年3月).2009を基に作成    また、就労移行支援事業所のサービス管理責任者研修では、@キャリア開発に関する各理論、A職業アセスメントの種類や目的と実施方法、B職業情報の種類と情報入手の方法、C職業能力開発に関する知識、訓練、教育機関などの情報、D企業における雇用管理の仕組みや主な業種における労働条件、E社会情勢、経済環境の変化、労働者を取り巻く雇用環境の変化による影響、F職業安定法等の労働関係法規や社会保障制度、Gメンタルヘルスに関する関連知識、Hライフステージにおける解決すべき課題、I初めて職業を選択する時や転職・退職などの転機の受け止め方や対応の方法、J障害特性の知識、などが基本的な知識体系とされている。また、個人の将来計画を見据えたキャリア育成への支援が就業支援の主要な課題となろう3)。 2)求められる資質  就業支援は基本的には対人サービスであることから、それに従事するには以下の資質が求められよう。  第1に、信頼関係が形成できることである。サービスの直接対象となる障害者ばかりでなく、企業や関係機関の担当者を始めとした支援に関わるフォーマル/インフォーマルな人たちと信頼関係を築けることが必要である。そのためには、利用者の立場に添うとともに、プライバシーを保護して人権を尊重する配慮が不可欠である。  第2に、面接の技術を習得することである。利用者を一人の生活者として理解し、充分な意思疎通を図りながら協働してニーズを明らかにしていくためには、利用者の感情表現を敏感に受けとめ、価値観を受容しながら、自己決定を促すような専門的な面接ができなければならない。  第3に、的確なアセスメントができることである。利用者と協働して利用者自身のニーズを明確にし、さらにその背景要因も分析することが必要である。そのためには、利用者の将来的な展望についての仮説を立てつつ、その仮説を確認するための情報を集め、関連する機関と連携し、対策を提示することが大切である。  第4に、サービスに関する知識を習得することである。実際に提供できるサービスを知り、それを利用者に適切に結び付けて総合的かつ継続的に提供をすることが必要である。そのためには、地域の公的サービスやインフォーマルな支援の所在、サービス内容、そして利用方法に精通しておくことが大切である。  第5は、チームアプローチを展開することである。就業支援の過程は様々な関係者との協働が必要となる。そのため、福祉・教育・医療分野の専門家と協同して活動するためのチームワークが大切である。  これらに加えて、就業支援を担う専門職としての倫理を尊重することが必要であろう。例えば、公益社団法人日本社会福祉士会の倫理綱領では「価値と原則」として、@人間の尊厳、A社会正義、B貢献、C誠実、D専門的力量、が掲げられ、公益社団法人日本精神保健福祉士協会倫理綱領では「倫理原則」として、@クライアントに対する責務、A専門職としての責務、B機関に対する責務、C社会に対する責務、が掲げられており、さらに両法人とも「倫理基準」が示されている。日本職業リハビリテーション学会では、障害のある人の職業リハビリテーションの実践に当たっては、その結果が人々の生活環境および生活の質に重大な影響を与えうることを認識し、職業的障害のない社会実現に貢献し、公益に寄与することを願い、@責任(人々の就労自立、健康、福祉の増進に貢献すること)、A公平性(障害、性別、人種、国籍、宗教等にとらわれない公平な姿勢)、B自己研さん(職業リハビリテーションの専門職・従事者・教育者・研究者としての自己研さん)、C公開性(実践活動等の成果の中立・公平な立場での公開・公益への還元)、D忠実性(実践および研究による成果が事実に即した忠実性を持つこと)、E行動・行為(公私混同の禁止、プライバシーの保護、 人権の尊重、社会的規範の遵守)、F研究(研究の実施におけるプライバシーの保護、秘密の厳守)の7項目に関する倫理規定を遵守することを求めている。 <参考文献> 1)松為信雄・菊池恵美子(編著):職業リハビリテーション学(改訂第2版) キャリア発達と社会参加に向けた就業支援体系.協同医書出版社.2006 2)厚生労働省:障害者の一般就業を支える人材の育成のあり方に関する研究会報告書.2009 3)前野哲哉:サービス提供の基本的姿勢.就業支援サービス管理責任者研修資料.厚生労働省.2006 さらなる理解のために   ◇障害構造の理解◇    1980年に「国際障害分類(ICIDH)」を提示した世界保健機関(WHO)は、その後の論議を重ねながら、2001年に「国際生活機能分類(ICF)」を採択した。そこでは、図に示すように、人間の健康な生活全体の機能を包括的に把握して、その否定的な側面を「障害」と見なした。  この概念モデルでは、「健康状態」は「心身機能・構造」「活動」「参加」のそれぞれで異なる視点があり、その違いは、「個人因子」や「環境因子」などの背景因子の影響下にあることを強調している。障害は「機能・構造の変調」「活動の制約」「参加の制限」として現われ、「個人因子」や「環境因子」の条件によって異なるとされる。  特徴的なことは、「能力障害」や「社会的不利」の代わりに「活動」と「参加」の語を用いることで、個人の主体性を強調し、また、個人因子と環境因子などの背景因子が「活動」や「参加」を制限することを明確にしたことである。さらに、@心身機能・構造、A活動と参加、B環境因子、C個人因子の4つの側面を32の大分類から構成される体系的なコード化を提唱した。  こうした視点は、就業支援のアプローチに大きな影響を及ぼしており、@施設中心から地域参加型の支援への転換、A自立生活モデルを踏まえた援助付き雇用への転換、B発達的な人生段階の重視、などに発展してきた。  特に障害を、環境との相互作用によって生じることと強調したことで、就業支援の実際的な技術は、個別の課題解決を目指すよりも、生物・心理・社会的な障害のある個人と、そうした個人を取り巻く種々の環境要件との相互関係の在り方をどのように改善するかに焦点が当てられることになった。 ◇リハビリテーション◇    リハビリテーションに関する定義はいくつかあるが、国際連合の障害者に関する世界行動計画において 1982年に提示された「身体的・精神的・社会的に最も適した機能水準の達成を可能にすることで、各個人が自らの人生を変革して行く手段の提供を目指し、かつ時間を限定したプロセス」は、最もよく引用されるものである。  この定義には、以下の4つの重要な概念が含まれている。第1は「身体的・精神的・社会的に」とあるように、リハビリテーションは医学分野に限るものではなく、教育や社会的分野に加えて職業的な分野も重要な構成要因であり、いわゆる総合リハビリテーションの視点に立つことが不可欠である。第2は「最も適した機能水準の達成」にあるとおり、リハビリテーション活動は、個人の置かれている様々な環境(職業や職場なども当然この中に含まれる。)との関わりにおいて「最適な機能水準」となる関係性を目指すものであり、発症以前の状態にまで回復させる「最高の状態」を求めるのではない。第3は「各個人が自らの人生を変革して行く」とあるように、対象者本人の意思決定や自主性、更にはそのためのエンパワーメントの向上を重視している。そして、第4に「時間を限定したプロセス」とあるように、実行プログラムには始まりと終わりがあるがゆえに、実施に際してはケースマネジメントの視点が不可欠であること、などが内包されている。 ◇リハビリテーションカウンセリング◇    リハビリテーションカウンセリングは、わが国では、その領域や内容について幅広く認知されているとは言い難い。心理療法としてのカウンセリングや産業カウンセリングとも異なり、リハビリテーションカウンセリングの独自性は、生物・心理・社会的な障害の影響を最小限に留めて、それが社会的不利に及ぼす影響をできるだけ阻止することによって、社会参加を促すための様々な活動を展開するための支援技術にある。実際の活動は、次に示すように、支援や介入の対象を誰に(あるいは何に)向けるかによって異なる。  第1に、障害者本人を対象とする場合には、障害によって否定的になった自己像を現実の場面に即して肯定的に再統合化したり、達成が困難となった将来目標を現実に即して達成可能な目標として再構築するための「カウンセリング」が必要である。また、障害によって機能低下した職務遂行の技能や能力を回復・復旧させたり、代替の技能を再学習して仕事や職場の求める諸能力と調整するための「コーディネート」も求められている。  第2に、家族、学校、同僚、地域生活、仕事、文化・政治・経済的状況などの様々な集団や環境を対象とする場合では、対象者本人の現有する諸能力でも対応できるように環境要件そのものを再構造化する「コンサルテーション」が必要である。  第3に、支援を提供する専門家やその他の人たちを対象とする場合には、提供される支援の内容が対象者本人のニーズに応え得るように調整する「ケースマネジメント」が必要となろう。就業支援における実践技術では、これらの支援や介入の方法を広範に取り込むことが必要である。 第2節 企業の視点の理解 はじめに  民間企業における障害者雇用数は19年連続で過去最高を更新し、2022年6月1日時点における障害者雇用状況の報告では61.3万人(実雇用率算定上の人数)を超えるに至った(図1参照)。このような着実な進展を支えてきたのは、行政指導の強化、障害者雇用取組好事例の蓄積、就業支援機関・支援制度の充実、特例子会社の増加などの取組みを挙げることができる。そしてその取組みを可能とした裏には、「社会的責任」に応えよう、法令を遵守しよう、「ダイバーシティ」の実現に取り組もうとする企業の真摯な努力があったことをまず認識しておきたい。  しかし一方で、企業を取り巻く経済環境は近年一段と厳しさを増している。「障害者雇用」の主体である企業がこの激変を乗り越えて社会的責任を果たし続けていくことは決して容易ではない。現状を踏まえ、今後どのように障害者雇用に取り組んでいくべきかを考察したい。 第1項 企業経営とは  企業とは利潤を求める集団である。利益をあげてこそ存在意義があるし、利益のあがらない企業は存続することそのものが難しくなる。企業が永く存続するためには、以下の要素が不可欠である。 収益の確保→再投資(人件費含む)→従業員満足度向上 顧客満足度向上→売上増加→収益の確保 従業員満足度向上→生産効率(モチベーション)のアップ→生産コストの引下げ  この要素がどれか一つ欠けただけでも、正の循環に目詰まりを起こし負の循環に陥ってしまう。そうならないためにも、企業は常に優れた人材の確保を心掛けている。企業が優れた人材を求めるのは、社員の働きが会社の業績に直結しているからである。過剰な採用競争の実態を厳しく指摘するむきもあるが、企業が新規採用活動に必死になるのもこれ故である。ちなみに、障害者雇用も当然この枠のなかに含まれ、基本的に企業の人材活用は福祉サービス的な発想とは全く異なるものであることをよく理解しておかなければいけない。 図1 民間企業で働く障害者数の推移 第2項 企業経営を取り巻く環境変化と対応  企業を取り巻く環境が激変する中、各企業はたえずその変化の先を見据えた経営対応を求められている。はじめに、日本の企業の競争力を左右すると思われる経営環境の大きな変化について見てみよう。 1)生産年齢人口の減少の深刻化  世界に類を見ないスピードで進行している日本の少子高齢化は深刻な問題である。特に15歳以上65歳未満の生産年齢人口の減少は、総人口の減少以上に急激である。1990年代には8,700万人であったものが2015年には7,728万人になり、2020年7,406万人、2030年6,875万人、2050年には5,275万人と急速に減少すると言われている1)。  一方、世界の人口については、国連統計の予想によれば、2019年77億人、2030年85億人、2050年97億人、2100年には実に109億人と増加すること、および一部の地域では生産年齢人口も増加することが予測されている2)。つまり、世界では人手が増える地域がある一方で、日本では人手不足がますます深刻になる、という図式である。  このような状況を踏まえ、日本の企業も人材確保に当たり、新卒定期採用主体から中途採用、通年採用へ、また採用対象を女性・高齢者・外国人・障害者に拡大していこうとする動きも見られる。 2)技術革新のスピードアップ(第4次産業革命)  経済のグローバル化に伴う国際競争の激化により、企業経営は一層のスピード化と効率性の向上が迫られている。このため、多くの企業では組織のフラット化や権限委譲、ICT(※1)技術を活用した業務効率化などが進められつつある。ICT技術の発達により、ビッグデータを分析・活用することで新たな経済価値が生まれており、また、AIにビッグデータを与えることにより、単なる情報解析だけでなく、複雑な判断をともなう労働・サービスの機械による提供も可能になると期待されている。  これらを第4次産業革命と総称しているが、内閣府の報告では、これらの技術革新により次のようなことが可能になると期待されている。 大量生産・画一的サービス提供から顧客のニーズに合わせた商品・サービスの提供。 既に存在している資源・資産の効率的な活用。 これまで人間によって行われていた労働のAIやロボットによる補助・代替。  顧客からみれば、既存の商品・サービスを今までよりも低価格で好きなときに適量購入できるというだけでなく、潜在的に求めていた新しい商品・サービスも得ることができるようになる。例えば、AIを利用した自動運転技術の開発やAIロボットによる介護補助への活用などの事例がある。また、事務の単純作業をAIロボットプログラムに置き換えることにより、24時間昼夜の区別なく作業を可能とする生産性の向上など、広い分野での活用が想定される。 (※1)ICT:「Information and Communication Technology」の略称で情報等新技術を使い人とインターネット、人と人がつながる技術のこと。 3)経済のグローバリゼーション(環境変化への柔軟な対応)  経済のグローバル化とは、国の枠を越えて世界が一つの国のように取引が行われるようになることである。それによって、企業は厳しい競争に晒される反面、世界中を市場とする飛躍のチャンスにもなっている。  また、グローバル化は経済全体では利益があっても、一部の企業に利益やデータが偏在するなどの問題も生み出す。しかし、資本主義経済は成長することが前提となっており、企業は常に競争に勝つための努力を行っているので、経済規模と効率を追及する上でグローバル化は避けられない。  それゆえ、企業では持続的成長や新規業務開拓のための不断の努力が続けられている。特に、人材の確保、能力開発には力を入れている。多様な人材を集め、相互に刺激を高めることによって能力を最大限に引き出し、社外との交流・アイデアの交換を通して創造力を磨いている。いわゆるダイバーシティの考え方の浸透である。  以上のように、今企業を取り巻く環境変化はとても激しくかつスピードが速い。既存のビジネスモデルが一夜にして陳腐化することもあり得る。このように、企業は環境の変化に柔軟に対応すべく生き残りをかけて大きく変貌しつつある。 第3項 働き方改革と人事制度の見直し 1)働き方改革について  @ 働き方改革の背景と全体像  2019年4月1日より、通称「働き方改革関連法」が順次施行されている。そもそもの働き方改革の背景であるが、日本の経済成長の支障となっている要因として、前項でも述べた少子高齢化や生産年齢人口の減少といった構造的な人口問題、イノベーションの不足による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足が指摘されており、経済再生のためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題とされたところにある。  この課題の解決のために、労働者の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現できるように検討されてきたのが「働き方改革」である。主なポイントは、「労働時間法制の見直し」(長時間労働の是正)と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」(いわゆる同一労働同一賃金に係る法整備)の2点となり、それらにより「多様で柔軟な働き方」を選択できるようにすることを目指している。  A 労働時間法制の見直し  国際的にみても日本の長時間労働は深刻で社会問題化しているが、労働生産性と長時間労働の常態化には密接な関係がある。労働生産性の低い企業がその低さを労働時間でカバーしようとすると、長時間労働で残業代などの人件費が増大することになり、そうなると、それは労働生産性の低下に直結してしまうという状況に陥る。  今回の法制度の見直しでは、長時間労働をなくし、年次有給休暇を取得しやすくすることなどによって、個々の事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現を目指すとともに、働き過ぎを防いで健康を守るようにした上で、専門的な職業の方が自立的で創造的な働き方を選択できるようにすることを目的としている。  B 「同一労働同一賃金」の徹底  「同一労働同一賃金」という大原則は今回の働き方改革の目玉の一つである。2020年4月からは同一労働同一賃金を含む法改正が施行(ただし、中小企業は2021年4月からの適用)され、企業は対応を強く求められることになる。例えば、経験やスキルもあり仕事ができる障害者社員の賃金が、同僚の健常者社員に比べ格段に安く、不合理なものである場合などは是正対象となる。  同一企業内における正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差をなくし、どのような雇用形態を選択しても、その待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることも目指している。 2)人事制度の見直しの方向  @ 「働きやすい働き方」への制度の見直し  既に大企業では、これらの法制度や環境変化に対応した取組みが始まっている。会社の方針や管理方法、具体的な労働環境として給与や勤務時間、役職などの見直しを行っている企業が増えてきている。企業の中には、若手社員の賃金を引き上げることで子育て世代に手厚い賃金カーブに変更したり、年功給から能力給へウェイトをシフトさせたりする改定を行うところが増えている。また、裁量労働制やフレックスタイム勤務の導入、さらにはテレワーク勤務を採用する企業も出始めている。また、休暇取得促進策や勤務時間短縮制度の導入などにより仕事と育児の両立支援をしているところもある。  企業はこれらの取組みにより、従業員一人当たりの労働生産性の向上、離職率の低下、採用の強化、従業員満足度の向上を目指している。  A 「働きやすさ」と「働きがい」の両立のために  働き方改革関連法が施行され、企業にとって必須のテーマとなっているが、本来の目的は従業員の「働きがい」を高めていくことにある。  仕事の達成感や責任範囲の拡大などを通して能力向上や自己成長に繋がっていく、そんな働き方を選択できるよう雇用環境を整える企業も増えてきている。従業員の「働きがい」が新たな企業価値を生み出し、企業は持続的に成長していける。「働きがい」を高めるには何が必要かを今多くの企業は模索している。 第4項 障害者雇用を取り巻く雇用環境の変化 1)関係法令の整備  2006年国連総会にて採択された「障害者の権利に関する条約」について、日本は2007年に署名、2014年に批准を行った。批准にあたり、国内では、障害者虐待防止法(通称)の成立、障害者基本法の改正、障害者総合支援法(通称)の成立、障害者差別解消法(通称)の成立、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正といった法整備が順次進められた。この一連の流れの中で、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務についても、改正障害者雇用促進法の中に規定されることとなった。 2)法定雇用率の変化と障害者雇用の促進  日本の障害者雇用施策は、企業に対し一定割合での障害者雇用を義務付ける「障害者雇用率制度」と、法定雇用率未達成の場合は納付金を納める「障害者雇用納付金制度」を基本としているので、法定雇用率の変化に沿って環境の動きを追ってみる。 図2 障害者法定雇用率の変遷 ※詳細の解説は、第4章第2節第1項「障害者の雇用の促進等に関する制度の概要」(P.247)、コラムH「障害者雇用と就業支援の歴史」(P.269)を参照のこと。  図2のように段階的に法定雇用率が引き上げられる中で、特例子会社の認定要件緩和や関係会社特例の導入、障害者就業・生活支援センターの設置や職場適応援助者(ジョブコーチ)支援制度の構築、各種助成金制度の拡充など、行政による障害者雇用支援施策もあわせて展開されてきた。  それらの施策効果とそれに伴う啓発効果、さらに企業努力が相まって、民間企業の実雇用率は着実な増加傾向にある。(※図1で2011年に一旦実雇用率が前年を下回っているのは、2010年7月の法改正で、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者も実雇用率の算定対象に加わる変更や除外率の引き下げがあったため。)  今後も法定雇用率の引き上げが想定される中、企業の障害者雇用は、採用競争、職域の拡充、定着・育成体制の整備にと、一段と厳しさを増している。 第5項 民間企業の障害者雇用の現状 1)民間企業における障害者雇用の実状  当節の冒頭にも述べたとおり、民間企業全体の雇用障害者数は19年連続で伸展してきている。民間企業全体としての流れは、障害者雇用への理解が確実に浸透しつつあることを示しているが、その内訳については必ずしも全体的な底上げが進んでいるとはいえない状況もある。  厚生労働省が公表している「令和4年障害者雇用状況の集計結果」によると、法定雇用率未達成企業のうち雇用障害者数0人の企業の割合は、常用雇用労働者数43.5人〜300人未満の中小企業において67.4%、同43.5人〜100人のより小規模企業に限ると91.9%となっている。同43.5人〜100人の企業は納付金対象ではないということが要因の一つと考えられるが、より一層の障害者雇用への理解促進が必要となるところである。  一方で、雇用率の問題だけによらず、ダイバーシティ、地域貢献などについて企業の責務として積極的に取り組み、実雇用率5%以上という企業も存在しており、企業の取組みが二極化しているのも事実である。  また、法定雇用率未達成かつ常用雇用労働者数500人以上の大規模企業の中で、不足数が0.5人または1人の企業は18.9%となっている。この企業規模の法定雇用者数は11.5人以上であることを踏まえると、あと1人の雇用がいかに重いかがうかがえる。裏返してみれば、雇用障害者数の上昇を牽引してきた超大手企業では、法定雇用率が0.1%〜0.2%引き上げられるだけで、10人〜20人単位での雇用増が必要となることから、更なる雇い入れに余裕がなくなりつつあるという声も聞かれるようになってきた。  加えて、このところ従前と比べ法定雇用率の改定が早い期間で行われているため、多人数のさらなる雇用の上乗せに際しては、職務開発や職場環境の整備、雇用条件の検討などの時間的余裕が必要である。 2)特例子会社の増加  特例子会社はここ10数年、毎年のように増加し、2022年6月1日時点では579社となっている。ただし、特例子会社制度を導入すればどの企業もうまくいくというわけではなく、障害者雇用の促進にあたり、自社が抱える問題点と同制度を導入することによるメリット・デメリットを総合的に勘案して判断することが肝要である。特例子会社は障害者が主体の企業となるため、各社では障害者にとって働きやすい環境を整備するべく努力している。また、近年、大都市圏では特例子会社の経営者層を中心に、取組好事例や各種情報の共有化に向けた横の連携が活発になっており、こうした動きが障害者雇用全体に波及していくことが期待される。  その半面、ノーマライゼーションの考え方から特例子会社制度に否定的な声もあるが、日本の障害者雇用の現状を踏まえると特例子会社制度が大きな役割を果たしているところである。 3)障害者の新しい働き方  @ 「農福連携」の動き  政府の働き方改革実現会議の取組みの一つとして、農業と福祉の連携(以下「農福連携」という。)強化が打ち出されている。農業に取り組む障害者就業施設への支援や、耕作放棄地の積極活用など、農福連携による障害者の就業支援を全都道府県での実現を目指すという方針である。趣旨としては、農福連携の取組みを通じて「農業経営の発展」と「障害者の所得の確保」を図るべく、障害者が農業分野で活躍できる場の創出などを通して農福連携の裾野を拡げて行く目的がある。企業の中には新しい職域を見出すことに苦労しているところも多く、新規職域を農業分野に広げていこうとする動きが見られる。  A 自宅や就業施設などでの働く機会の創出  働き方改革実現会議の提言においては、「テレワークによる障害者の在宅雇用の推進などICTを活用した雇用支援等」についても盛り込まれている。これは、障害や疾病の状況・特性と地域性からくる通勤の困難さを克服して、本人の能力を最大限発揮できる就業環境を整備しようとするものである。具体的には、ICTを活用した柔軟な働き方であるテレワークによって、在宅やサテライトオフィスでの就業を可能にする手法である。雇用促進に苦労している情報系・人材系企業などでは相当に注目されている。障害者の業務内容としては、文書、データなどの入力に加え、情報収集、調査、Webサイトのデザイン、Webを活用したマーケット調査など次第に拡大してきており、障害者の働き方として広がりつつある。 第6項 企業が抱える今後の取組課題  企業を取り巻く経営環境が毎年厳しさを増していく中、雇用主体である企業における障害者雇用の現状は理解いただけたと思う。その上で、企業の障害者雇用における今後の課題を考えてみたい。 1)企業における障害者の仕事の確保  従前、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種においては、それぞれの業種ごとに困難であると認められる職務の割合に応じた「除外率」が決められており、それらの業種に属する企業が実雇用率を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障害者の雇用義務の軽減策)が設けられていたが、この制度は2004年に廃止が決定され、現在経過措置として段階的に引き下げられてきているところであり、該当業種各社においては、障害状況に応じて対応可能な職務内容の検討が課題となっている。  また、近年急速にその存在感を増してきているICT、人材関連などの新興企業が障害者雇用にとりわけ苦戦している。法定雇用率が確実に引き上げられる中、これらの企業では常用雇用労働者数が毎年大幅に増加しているため、新規雇用障害者数と法定雇用障害者数の過不足が常に“いたちごっこ”の状況を続けている傾向にあるが、その根底には、障害者に従事してもらう仕事がないという悩みが存在する。これら新興企業は、概ね管理部門が小さく、自前でやる必然性のない業務は外注しているケースが多く、障害者雇用のために外注している業務を取り戻すとした場合、逆にコスト高になることはほぼ間違いない。このように法定雇用率の達成に見合うだけの仕事量を確保するのが難しいため、採用できていないという企業も多い。  一方、前述したように、中小企業では障害者の雇用経験が0人の企業数も依然として多い。一定の経験やスキルがある求職中の身体障害者は減少傾向にあり、求人募集をすれば応募者の過半数が精神障害者保健福祉手帳所持者である状況となっている。初めての障害者雇用できめ細かな雇用管理が必要な場合が多い精神障害者を雇用することは、経営資源が限られる中小企業にとり極めてハードルが高い。まず、経営者層の理解を得ることでつまずく。次に、職場の受け入れ態勢の整備や採用後の指導にあたる人材の確保も課題である。そしてなによりも障害状況に応じた一人分の仕事を作りにくいというところが大きい。公的サービスとして各種支援も用意されているが、中小企業にまで十分に浸透しているとは言えないのが現状であり、中小企業における障害者雇用の推進は、なお一層の重点課題となっている。  2)RPA(※2)の普及による仕事の変化  第2項(2)で詳述したとおり、技術革新のスピードアップ、生産年齢人口の減少といった社会変革の中にあって、今後の企業経営を考えたとき、AIやロボットの活用は必然の流れであろう。そのとき、各企業で障害者が従事していることが多い簡易・反復作業は、それらに取って代わられる可能性があろうことは想像に難くない。一つの業務に多数の障害者を集団配置している大手企業およびその特例子会社においては、それに見合う新たな仕事を準備しなければならなくなる。既存業務の中から新しい業務の切り出しを探し出すことはもちろん、AI・ロボットを導入することによって、逆にその周辺で新たな仕事の創出や構築ができないかを検討、準備することが求められている。RPAに伴う業務の変化は動き出したらあっという間である。その時期は思う以上に間近に迫っている可能性がある。 (※2)RPA:ロボットによる業務自動化の取組みを表す総称 Robotic Process Automation 3)障害者の採用の激化  法定雇用率の上昇や企業における法令遵守意識の浸透、社会貢献意欲の高まりもあって、障害者の採用市場が逼迫傾向にある。特に、大都市圏をはじめ一部の企業集中地域においては売り手市場といってよい。それに伴い、雇用可能な条件のハードルが上がるという現象が発生している。具体的には、正社員求人でないと応募がない、事務系の仕事でないと人が集まらない、給与を他社比較される、といった声をよく耳にするようになった。障害者にとっては良いことのように思えるが、必ずしもそうともばかりは言えない。  保護者や支援者から見てスマートな職種を選択する傾向にあるが、それが果たして障害者本人の希望・適性と合致しているのであろうか。条件が高くなったことにより企業が求める能力レベルも高くなったとしたら、果たしてそれに応えることが可能なのだろうか。また、売り手市場であることから、まだ職業準備性が十分ではない障害者を雇用したことで、職場にうまく適応できずに双方ともに疲弊してしまい、本人にも職場にもトラウマを残す結果となった事例も見受けられる。これは障害者、企業双方にとって不幸なことである。 4)障害者雇用の質的向上にどう応えるか  図3(165ページ)のように、常用雇用労働者数が1,000人以上の大手企業群においては、実雇用率の平均が法定雇用率を上回っており、これは2014年から続いている。また、同じ大手企業群における法定雇用率達成企業の割合についても、2018年こそ法定雇用率の引き上げがあり50%を僅かに下回ったものの、同じく2014年以降の傾向として50%以上を達成することが当たり前になりつつある。一方、行政施策面で、障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務、働き方改革の法制化といった動きがある中で、障害者雇用における企業への要求が「量」だけでなく、「質」にも向けられるようになってきた。  このような売り手市場下においては、施設・設備等のハード面はもちろんのこと、雇用条件、支援体制の充実が求められてきている。また、有期雇用から無期雇用への転換ルールが法制化されたことから、その対応策として正社員化などの雇用形態の見直しが迫られている。それと同時に、障害者雇用においても報酬制度、評価制度、昇格制度を整備・構築しようとする動きが大企業を中心に急速に増えている。制度化という明確な形にまでならないにしても、障害者を企業戦力としてとらえ、仕事の習熟度に伴ってより難易度の高い仕事を付与していこうという考え方が以前よりも浸透してきている。  しかし、労働者としての生産性の面から考えるとき、既存の健常者と同じ枠組みの中ではどうしても限界が出てきてしまう。そのような中で、障害者の頑張りにどのように報いるか、モチベーションアップにいかに繋げるか、根本的対応策を見出すことは容易ではない。  職業人としての自立を考えるとき、障害者本人の自助努力が欠かせないことは間違いないが、例えば図4のように、これからは企業としても、合理的配慮の提供とあわせて、個々人のキャリアプランを本人と一緒に考えていくような支援も重要である。 図3 民間企業の規模別の実雇用率の推移 図4 キャリアビジョンの作成 5)指導員の確保と育成  職場における障害者への指導・管理に専任者を配置できればいいが、どこの企業も人員的にそれほどの余裕はない。各職場に個別に配置する場合には配属先の上司・先輩が負うところとなり、複数人を一緒に配置する場合には定年後再雇用者を活用したりして専任者を配置するケースが多い。一方、雇用する障害者は精神障害者や発達障害者が増えてきており、指導の仕方は従前にも増して個別性や柔軟性が求められるようになってきた。そうなると、専門的資格(精神保健福祉士、臨床心理士など)・経験を持った指導員の配置を考えたいところだが、その採用は容易ではない。こういった指導員の処遇が、企業本体の正社員と比べて総じて見劣りすることも影響しているように思われる。  中小企業において障害者雇用を促進するとなると、より指導員の存在が大きいウェイトを持つ。ほとんど障害者と接したことのない人が指導員を務めることによる負担増、それによる生産性のダウンは企業規模が小さい程影響が大きい。これが障害者雇用に踏み出せない理由の一つである。企業としてニーズに合った指導員をどう採用するか、自前の職員をいかに指導者として育成していくかも大きな課題である。 第7項 支援機関に求められる意識と行動  各支援機関においても限られた陣容と資源の中で、障害者雇用の促進・定着に努力されているところではあるが、いま以上に企業の障害者雇用の促進に資する支援となるよう、企業ニーズがどこにあるのか、何を期待しているのかを理解しておきたい。それを踏まえて企業とベクトルを合わせて取り組むことが良い結果につながるものと考える。 1)就職前に備えて欲しいこと  まず第一に、「働くことへの動機付け」をしっかり行うことが望ましい。「働くということはどういうことなのか」、「労働の対価として給与があり、給与に見合う仕事をするのが職業人である」ということをいろいろな機会の中で繰り返し確認していくことが大切である。当然、入社後に企業でも行われるものだが、入社前から認識できている人とそうでない人とでは、職場定着、ステップアップに大きな差が出てくる。  次に、どんな内容の仕事に適性がありそうかを整理し、うまくその能力を引き出せるようにするための職業準備性を身につけさせてほしい。企業がそこを一から始めることは、現実問題として難しい。実際の作業・事務能力を引き上げる指導については、当然企業が入社後の研修などでしっかり行うし、それで十分に間に合う。その前提となる基礎的準備に注力することが望まれる。前項で触れたようにRPA化に伴う仕事の変化が想定される中では余計に重要となってくる。働き手としてしっかりとした基礎能力の上に個別の業務能力を積み上げられている方は、多様な仕事にも対応できる力を身に付けているものである。 2)入社後に望まれること  送り出した障害者を当面の間は必要に応じて定期的に訪問し、企業とは異なる立場で話を聞いて欲しい。雇用管理の主体は企業であるものの、慣れない間は社内では言えないことや聞いて欲しい愚痴が溜まっていることもある。その上で企業と意見交換の場を作ると、企業、支援機関そして障害者本人、それぞれにとって有効に作用する。支援機関に“おんぶに抱っこ”の企業も散見されるが、支援機関の方でそれぞれの役割分担をコーディネートしてほしい。必要とわかれば企業も行動を起こすはずである。企業を育てるのも支援機関の役割である。 3)企業と支援機関の関係  ともすると福祉サービス的な発想からの「障害者のために」という想いにより、企業からすると対立的姿勢に見える支援機関もあるが、それこそ互いの意見に耳を傾け、本当に障害者にとってどうあるのが良いかを導き出す必要がある。支援機関には障害者と企業のどちらか片方に軸足を置くのではなく、両者の間に等しく重心をおく姿勢が求められる。もし企業に「障害者を雇用してもらっている」という意識があるとするなら、それは大きな誤りである。企業から見て支援機関は専門家である。障害者雇用において、企業と支援機関はパートナーなのである。双方の信頼関係が障害者の就業を支えると言っても過言ではない。 <引用文献> 1)国立社会保障・人口問題研究所:日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)   https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp 2)国際連合広報センター:世界人口推計2019年版要旨   https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33798/ <参考文献> ○独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:令和3年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト. 2021 ○首相官邸:働き方改革の実現  https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html ○内閣府:障害者権利条約  https://www8.cao.go.jp/shougai/un/kenri_jouyaku.html ○内閣府:「日本経済2016−2017」第2章第1節「第4次産業革命のインパクト」  https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/keizai2016-2017pdf.html 第3節 就業支援と支援ネットワーク 第1項 ネットワークの意義 1)就業支援におけるネットワークの重要性  障害者の就業支援では、支援ネットワークの構築とケースマネジメントの技術は不可分の関係にある。なぜなら、ケースマネジメントの質は地域ネットワークによる「地域力」に応じて異なるからである。就業支援におけるケースマネジメントとは、「その従事者が、既存のあるいは新規に組み合わせて創り出した社会資源を利用しながら、当事者の“働きたい”ニーズを満たすのに必要なエンパワーメントを高めて、その実現に向けた自己決定を支援していくための手がかりを見つけ出す手法」、または「その従事者が、就業支援に係る既存のフォーマルな社会資源を知るとともに、インフォーマルな社会資源を組み合わせることで、地域の中にニーズを支え合う仕組みを作り出すための手法」と定義される1)。雇用・福祉・教育・医療等の各分野の連携による役割分担の下での長期的な支援を総合的に行うネットワークがあってこそ、このケースマネジメントが有効に機能するのである。そのため、厚生労働省でも、各分野の連携体制構築のための通知を発出している2)。  就業支援のための地域ネットワークは、支援を受ける当事者と支援者の双方に様々な利益をもたらす。  第1に、就業支援を担っている各分野の実務担当者の間で「就業支援」に対するイメージを共有化できる。それによって、ネットワークを通して福祉・教育・医療の各分野の担当者が自分たちの支援の強みや弱みを知って効果的に役割分担をするようになろう。また、能力評価に対する共通基準を認識できることで、障害者の就業に関するイメージのギャップを埋めることができよう。  第2に、ライフステージに沿った支援を継続的につなげることが可能となる。障害のある当事者は支援の分断に対する不安から、自分のなじんだ福祉・教育・医療の分野に留まりがちで、雇用への移行に二の足を踏むことも多い。ネットワークを構築してライフステージに応じた切れ目のない一貫した支援体制を整えることで、安心感を持って次のステップへ踏み出すことが可能になるだろう。  第3に、就業に関して起こりうる様々な問題に対して適切な分野の支援を受けることが可能となる。  第4に、福祉・教育・医療のどの分野からの支援を受けようとも、そこで完結するのではなくて、必要に応じて適切な他の分野のサービスに結び付けることが可能になる。それによって、最終的には、同じ支援にたどり着くことができよう。   2)就業支援ネットワークの基本的要件  こうした就業支援に関わる地域ネットワークの意義について、関係する実務担当者は共通認識を持つことが必要である。そのうえで、障害者本人の働きたいというニーズに即応できる体制を構築するには、次のことを心掛けることが必要である3)。  第1に、ネットワークの目的や目標を共有化することである。雇用・福祉・教育・医療等の各分野の支援機関が持つ目的や目標あるいは価値観はそれぞれ固有のものがあるが、就業支援という同じ目的に対して、共通の認識を持ち、方向性を揃えて、計画的に取り組むことが必要である。少なくとも、居住地の自治体で作成された障害福祉計画に盛り込まれている内容をもとに、地域全体の就業支援の目標を共有することが重要だろう。また、目標の進捗や達成状況についてお互いに把握すると共に、担当者が交替しても組織として継続的に支援が行われるようにする必要がある。  第2に、支援対象となる障害者本人や支援に貢献する社会資源などの情報を共有化することである。特に、支援機関が協同して支援を効果的に進めるには、支援に当たって必要な情報や利用者の個別支援計画などの内容を共有することが重要である。  第3に、就業支援の質を確保することである。そのためには、支援ネットワークに加わる支援機関はお互いに「顔の見える関係」を形成することが必要である。また、就業支援を担う人材の育成を地域ごとにあるいは全国レベルで行い、常に専門性を高めるようにバックアップすることが求められている。  第4に、各種の支援を調整することである。支援を一貫して行うには支援ネットワークに加わった関係機関が地域の実情に応じて役割を分担するとともに、支援が途切れないようにどの支援機関がどのタイミングで支援を行うのか、支援の各ステージで中心的な役割を果たす機関とそれを支える機関はどこか、などの支援全体の調整が重要である。  第5に、地域全体の就業支援の取組みを促進することである。就業支援に関しては都道府県・市町村における地域間格差が大きいことから、地域の実状に応じた創意工夫が必要である。特に、地域の支援の体制および連携等に関して協議する協議会などを活用して、地方自治体の取組みを促進し、それにより地域の就業支援の連携を一層進めていくことが重要である。   3)ネットワークの概念と類型  一般に、対人サービスにおけるネットワーク構築の目的とは、何らかの課題を抱えている人を取り囲む社会的連携によって、課題解決のための支援体制を作ることである。対人サービスのネットワークは、以下のように分類することができる3)。  第1は、障害者を含めた社会的な援護を要する人々やその家族を、地域レベルで直接支援するネットワークである。当事者・家族・友人・近隣などの人間関係から形成されるインフォーマルなネットワークと、支援者によるケースカンファレンスやケースマネジメントなどのフォーマルなネットワークがある。  第2は、福祉社会づくりを目指す市民活動レベルのネットワークである。これは、インフォーマルなネットワークである当事者・家族・友人・近隣などの関係者に留まらず、広くボランティアや様々な地域住民も参加したネットワークである。  第3は、機関や組織が相互に連携する組織的なネットワークである。ここでは、当事者に直接的なサービスを提供する実務担当者レベルから、それぞれの実務担当者が所属する組織が相互に連携する機関レベル、そして、それぞれの組織を管轄する行政組織の責任者レベルにいたるまで、三層構造的なネットワークがある。そこでは、サービス調整会議やサービス調整チーム、関係者協議会、関係連絡協議会などといった名称で会議の設定と運営が行われる。政策レベルのネットワークでは、行政内部の企画調整会議や市民や専門家を含む政策審議会などが代表例である。  これらのネットワークの類型は、ミクロ・ネットワーク、メゾ・ネットワーク、マクロ・ネットワークという分類とも対応する。組織的ネットワークの全体は、図1にあるように、それらが重層構造的に構築されることが望ましい。ここでは、最上層は支援の実務担当者同士のネットワークであるが、その下層部には、個別の組織・機関や管理職レベルで対応する組織間ネットワークが、さらにその最深部には、企業組織や経営者団体、当事者やその支援者団体、あるいは都道府県の行政組織などからなる行政・団体ネットワークが控えていることを示している。 図1 組織的ネットワークの重層構造 第2項 就業支援ネットワークに係る社会資源  就業支援に向けた地域ネットワークの形成に加わる可能性のある社会資源は、必ずしも障害者を含めた社会的な援護を要する人々を対象にした施設や機関、あるいは、就業支援を専門とする機関に限らない。なぜなら、就業支援は「働くことを含む地域生活」を確保してそれを支えることが基本だからである。すなわち、仕事に就く直前や直後の時期での支援に加えて、それ以前の働くことに対する多様な職業前訓練、更には、就職後の職場定着への支援、そして職業生活を維持するための様々な生活支援まで包括されることになる。それらを担う社会資源は極めて多様だが、主要な関係者や組織としては次のものがある1)。  第1に、当事者とその周辺での人的資源がある。就業ニーズをもつ本人をネットワークの中核として、保護者や保護者会、同じ障害を抱えた仲間や当事者団体、あるいは近隣の人たちなど、身近な個人的な人間関係から形成されるインフォーマルなネットワークがある。また、市民ボランティアや特定非営利活動法人(NPO)なども当事者と直接関わる人的資源である。  第2に、就業支援を直接的に担う地域の機関がある。ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校の高等部や各種専門校などがそれにあたる。これらに加えて、都道府県レベルで設置されている広域の支援機関として、地域障害者職業センター、障害者職業能力開発校や職業能力開発施設、発達障害者支援センターなどがある。  第3に、生活支援を直接的に担う福祉関係の機関がある。グループホーム、生活寮、生活支援センター、地域活動支援センター、福祉ホームなどである。また、福祉事務所や更生相談所、更に、地域での相談援助活動を支える民生委員(児童委員)や各種の相談員、社会的保全組織としての弁護士、税理士、社会保険労務士などもネットワークの構成員といえる。生活支援と就業支援を一体的に担う施設や機関は、今後の就業支援にあってはますます重要となろう。  第4に、特に障害者の場合には、療育相談や医療分野の専門機関も地域の社会資源として重要である。療育相談機関である保健所、地域保健機関、児童相談所、また、医療機関や施設としての病院、保健所、精神保健福祉センター、リハビリテーションセンター、リハビリテーション技術支援組織などと連携して情報を共有する必要がある。  第5に、就業支援を直接的に担う地域の機関を管轄する行政機関や団体のネットワークである。都道府県レベルでは、厚生労働省の都道府県労働局、都道府県の労働・福祉関係主管部局、教育委員会などが、地域の関係機関のネットワーク化が円滑に進められるように連携を強化することが必要である。また、当事者団体、労働組合、人権擁護機関、成年後見組織などは、行政機関の連携を進めるとともに、自らも行政組織を超えたネットワーク化に取り組むことが必要だろう。  第6として、企業自身の就業支援ネットワークへの参画である。これにより障害者本人の持つ能力を充分に発揮できるような職場環境を作ることが重要となる。就労継続支援A型事業所、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所、企業などが加わった就業支援ネットワークがあれば、障害者雇用の経験が少ない企業に対して、ノウハウを持つ企業が雇用管理ノウハウを提供したり、企業単独でのサポートが難しい場合には、ネットワークにより障害者および企業を支援することができよう。  就業支援ネットワークは、こうした多様な社会資源を取り込むことが望ましいのだが、他方で、支援機関の数や就業支援の質において地域格差が大きいことも指摘されている。そのため、地域の特性や実情に応じた、各機関の強みを充分に活かした効果的な役割分担やネットワークの構成を検討することが重要だろう。 第3項 ネットワークの構築 1)ネットワークを構築するための基本的要件  就業支援のためのネットワークに参加する機関は、第1項で記述した共通認識を土台にして、本人のニーズに即応できる体制を構築することが望ましい。  そのためには、第1に、本人のニーズを明確にしておかなければならない。本人が、ネットワーク参加の機関のどこに相談に来ようと、そのニーズを的確に把握したり、自己のニーズを明確化できるようにすることが必要であろう。第2に、ネットワークの構築と維持は実務担当者個人が主体であることを理解することである。また、専門領域や専門性の尊厳を保ち、特定職種の見方や画一的な視点に陥らないようにすべきである。第3に、自機関の能力と限界を明らかにすることである。得意とする支援サービスを含んだ個々の機関の特徴を、他のネットワーク関係機関に承知してもらうことである。個々の機関が提供できるサービスの特徴が明確になっていると、本人のニーズに応じた関係機関の選択も容易になり、ネットワークの効力も発揮されよう。   2)担当者によるネットワーク構築の手順3)  支援ネットワークを構築してそれを維持することは、障害者の多様なニーズに応えるためである。それゆえ、支援ネットワークの中核は、直接的に本人を支援する人たちを中心としたミクロ/メゾレベルの人的ネットワークであり、その意味で、支援する個々人の主体的な集まりであることが重要になる。そうしたミクロ/メゾレベルの人的ネットワークを作るには、次の4つのステップが必要となる。  第1段階は「意識の共有」である。ネットワークに参加する実務担当者個人は、自分たちは同じ目的でつながった集団に帰属しているという、心情的な共感が必要であろう。相手の組織への関心事や自組織との共通点などを理解して、会食等を通して心の垣根を取り払いながら、お互いに連帯感を高めることも必要だろう。そうした、実際に顔をあわせての意思交換により、ネットワークへの帰属意識の高まりと同時に、メンバーが相互に影響しあうことになる。  第2段階は「目標の共有」である。ネットワークの構成員となった実務担当者は、ネットワークの目標や課題を共有することが必要である。組織が異なると、意識の違いや使用する用語の意味も微妙に異なることが多く、やがては、それが意志疎通に行き違いが起こることになりかねない。したがって、参加する実務担当者は、ネットワークの目標そのものを共通言語とし、ネットワークの役割、存在価値、向かうべき方向性を明確にして、それを共有することが不可欠である。これは、同時に、実務担当者の属する機関において論議が重ねられて納得したものであると、さらに望ましい。そうした、共通の目標や展望こそが、ネットワークの活動を推進していく原動力となる。  第3段階は「情報の共有」である。これは、前の2段階を経た後になって行われるものであり、ネットワークの目標が共有されることによって、その目標の達成に関わりの深い情報が取捨選択され、ネットワークを構成する構成員や機関から提供されることになる。ネットワークの目標が明確であるほど、共有すべき情報、他機関における情報の有用性、自機関が提供できる情報などについての有効な発信や受信が可能となる。  第4段階は「知恵の共有」である。ネットワークを通して得られた情報や知識は、実務担当者たちの自組織の中に確実にフィードバックさせ、浸透させて活用できるようにしなければ意味はない。そこで得られた成果は、自組織の意識変革に結び付いて組織の成長発展の原動力となる。同時に、その過程で得られた成功事例やそのノウハウや技術は、新たな情報としてネットワークに参画している他機関にも提供されねばならない。こうした成功体験や知恵の共有は、ネットワーク内の組織間の新たな関係を生みだし、さらに力動的な関係をもたらしていく。   3)組織・機関によるネットワーク構築の手順  実務担当者が実際にネットワークを形成して支援を進めていくうちに、次第に、支援者の個人的な対応だけでは解決できない問題が出てくる。こうした問題に対処するには、支援者の所属する機関自体が連携するマクロ・ネットワークが不可欠になる。これがあって初めて、ミクロ/メゾ・ネットワークを構成している実務担当者が、ストレスを感じることなく、よりよい支援の在り方を求めていくことができる。こうした、組織のマクロ・ネットワークを構築するには、次の4つのステップが必要となる。  第1段階は「構成機関の理解」である。障害者のニーズに応答するための地域ネットワークを構成するには、構成する機関の存在を知り、その管轄地域や担当する分野と内容について理解しなければならない。また、それぞれの機関の実務担当者の知己を得て、その立場と考え方について理解するとともに、ネットワークの形成による就業支援の重要性について共通認識を促すことが必要である。  第2段階は「共通認識の深化」である。障害者雇用に対する考え方や価値観は、ネットワークを構成する機関によって異なるということを前提に考えて、情報や意識を共有することに努力を傾注することが重要となる。また、他の機関からの説明に対しては、その周辺状況も知ったうえで理解を深化させると同時に、自己の機関の活動や事業の説明に際しても、背景状況を含めて、相手が充分に納得のいくように説明することが必要である。  第3段階は「効果的な活用」である。他の機関の支援内容と現状を理解して、的確な準備を整えて、障害者や企業を確実に引き継ぐ必要がある。また、その機関での支援サービスの経過状況を把握して必要に応じて対応するとともに、サービスに不調な状況が生じた場合には代替の機関の準備を行わなければならない。  第4段階は「相互利用の強化」である。支援サービスについて、お互いに利用しあったり補完のできるような体制を構築することを志向するべきである。それは、担当者の個人的関係から組織間の機能的な連携関係へ移行させることである。相手機関の属する他のネットワークの情報を応用的に活用できたり、情報の効力や責任範囲を理解して情報の提供が許されるような信頼関係を構築することが必要である。   第4項 ネットワークの維持 1)機能不全と修復  上記のように、就業支援ネットワークを重層的に構築するには、実務担当者同士が連携する場合と、その所属する組織同士の連携という2つの構築の手順を併行させることが望ましい。だが他方で、せっかく作り上げたネットワークが機能しなかったり継続しないこともある3)。  その理由として、以下のことがある。@ネットワーク構築の目的が明確になっていないために、機関や実務担当者の間で交わされる情報の質や内容に行き違いを生じ、次第に、期待する情報に出会わなくなってしまう場合がある。Aネットワークに参加する個人や機関の基本的な姿勢として、自組織への有利や不利といった利害関係に固執すると、組織防衛的な発想が前面に出やすくなって、創造的な問題解決の場にならない。B参加する各機関が、ネットワーク構築の前から独自の活動領域を確立していると、その維持に重点が置かれて新規のネットワーク構築に向かおうとしない。  こうした理由のほかにも、例えば、ネットワーク自体が小さい規模であったり、組織のネットワークに対する方針が不明確であったり、専門職に対する理解や認識の低さがあると、構築されたネットワークは維持されなくなってしまう傾向にある。  こうした原因で機能不全に陥ってしまったネットワークに対しては、次のような修復の方法がある。@ネットワークの特徴は、異なる機関がお互いにその活動内容を組み合わせることによって、新しい価値の創造に向かうことである。そのため、お互いの機関の長所を重ね合わせるという積極的な考え方を浸透させることが必要である。A情報交換を重ねることで、個々の機関のネットワークとの関わり方そのものが変わって行く。そのため、ネットワークに参加する機関は、他の機関と関わりの中で絶え間なく変化を遂げ続ける、との理解が必要である。Bネットワークの実際の活動を維持するのは組織に属する個人である。そのため、その人たちのネットワークに対する考え方や価値観が組織の活動に反映されることを見逃してはならない。   2)ネットワーク維持のためのポイント  ネットワークの維持に際しては、参加する異なる専門職の人たちとの協同作業を円滑に進めることが不可欠である。そのためには、以下に示すようなチームを維持するための要件に注意することが必要だろう4)。 @相互の違いを前提とする。職種や機関が異なれば、その考え方や技術は当然異なるということを前提にして協同することが重要である。相手が自分とは異なる発想や価値観を持っているがゆえに、相互理解に向けたコミュニケーションに充分に配慮することが必要である。 A相手の得意技を知る。あらかじめ、異なる職種にある相手の得意な領域や技術を知っておくと、連携する対象として有用であるかどうかの判断がしやすくなる。 B相手の苦手な領域を知る。得意技とは反対に、相手の苦手な側面を知っていると、過剰な期待を抱かないために、無駄な失望や怒りを避けることができる。 C制度や相手機関の限界を知る。それぞれの職種や機関の職務は根拠となる法令で規定されているため、絶対あるいは場合によってはできないことがある。そのため、相手の立場を理解したうえで、押すべきところは押し、期待できない部分は別の手を考えることが必要である。 D相手の勤務状況を知る。それぞれの職種や機関に連絡する際に、業務の遂行上で不適切な時間帯がある。それゆえ、相手の勤務行動をできるだけ知っておき、適切な時間帯に、適切な方法で連絡をとることが重要である。 E連絡の仕方や会合依頼の仕方を知る。職種や機関の事情に応じて、電話・ファックス・メール・面会などの適切な連絡方法を工夫する。また、会議や会合に参加の依頼をする場合も、相手先の状況に応じて、派遣依頼文・費用・報告やお礼方法などを工夫する。 F実質的な連携の有効性を考慮する。連携の相手や会議の構成員を所属機関の肩書きなどから形式的に決めるのではなく、その目的に応じて個別に選定する。 G個人的な要素を考慮する。職種や機関名だけで相手の機能や能力を判断しないことである。専門家の個々人の能力を丁寧に見極めることが重要である。 Hこちらの宣伝を充分に行う。自分たちの機関や専門性に関しての広報活動を、できるだけ多くの機会を捉えて行う。それによって、自分たちの機能や限界に関する情報を踏まえたうえで、相手側も効果的に連携を図ることができる。 I相互の変化を理解する。不充分な連携の背景には、機関や専門職としての制度的な限界やそれぞれの事情がある。それらは、状況の変化、動機づけの増大、コミュニケーションの結果によって変化する可能性があることを理解する。   3)管理者の役割  こうした、ネットワークの機能不全を予防してその維持を図るには、特に、機関の管理者がネットワークを構築することの意義について知っておくことが重要だろう。すなわち、支援ネットワークに自組織の実務担当者を参加させることによって、他の機関やその実務担当者から新しい考え方や見方が導入でき、そのことを通して他の機関との間で支援の連続性が保たれるような活動や事業を見直す契機となり、また、自組織の内部資源に外部資源を組み合わせて情報を再編集することで、自組織内に変革をもたらす契機となる。機関の管理者は、ネットワークを構成する機関と自分の機関とを媒介するつなぎ役の役割を果たすことが必要である。それは単なる連絡役ではなく、ネットワークの目標を自機関の目標に落とし込み、他機関の情報や事例を自機関になじみのある言葉に変換し、自機関内で活用できるようにすることが求められる。   <参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:障害者就業支援にかかるケアマネジメントと支援ネットワークの形成(研究調査報告書通刊 246号).2003 2)厚生労働省:障害者の雇用を支える連携体制の構築・強化について(職業安定局長通知).2013 3)松為信雄・菊池恵美子編集:職業リハビリテーション学(改訂第2版) キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系.協同医書出版社.2006 4)コリガン・野中猛監訳ほか:チームを育てる 精神障害リハビリテーションの技術.金剛出版.2002 コラムG   ◇福祉施策と就業支援◇   1.障害者自立支援法から障害者総合支援法へ  障害福祉分野では、平成11年の「社会福祉基礎構造改革」を踏まえ、平成15年に支援費制度が導入された。行政がサービスを決定してきた措置制度から、障害者がサービスを選択し、契約によりサービスを利用するという新たな制度へと転換し、平成18年に施行された障害者自立支援法へとつながった。  この障害者自立支援法においては、従来の障害保健福祉施策が抜本的に改革され、施設体系の再編、新サービスの創設が行われたが、就労系障害福祉サービスについては一般就労への移行促進を目的とした就労移行支援事業が創設されるなどにより強化され、障害福祉分野と雇用分野双方で一般就労に向けた支援がなされることとなった。  その後、平成22年から平成23年に開催された「障がい者制度改革推進会議」における様々な論議等を経て、利用者負担の見直し、相談支援の充実等、地域における自立した生活のための支援の充実が図られ、平成25年4月に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行された(平成24年6月20日成立・同年6月27日公布)。 2.障害者総合支援法の概要  障害者総合支援法は、平成23年7月に成立した「改正障害者基本法」の基本的な理念にのっとり、障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活・社会生活を営めるよう、障害福祉サービスに加えて地域生活支援事業による支援を総合的に行い、障害の有無にかかわらず人格と個性を尊重し安心して暮らすことができる地域社会を実現することを目的としている。基本理念においては、社会参加の機会の確保、地域社会における共生及び社会的障壁の除去に資するよう、総合的かつ計画的に支援が行われなければならないことを掲げている。  また、制度の谷間を埋めるべく、障害者の範囲に難病等を加え、「障害程度区分」については、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改めている。 3.障害者総合支援法の改正と平成30年度報酬改定  平成27年4月より、「厚生労働省社会保障審議会障害者部会(障害者部会)」において、障害者総合支援法施行3年後の見直しについて検討された。同年12月にまとめられた報告書において、障害者の就労支援について「工賃・賃金向上や一般就労への移行をさらに促進させるための取組を進めること」、「在職障害者の就業に伴う生活上の支援ニーズに対応するため、就労定着支援を強化すべきこと」などの提言がなされた。平成28年5月に成立、同年6月3日に公布された改正障害者総合支援法においては、障害者が自らの望む地域生活を営むことができるよう、生活と就労に対する支援の一層の充実を図るための見直しがなされ、就労定着支援及び自立生活援助の創設、障害福祉サービス等情報公表制度の創設などが行われた(平成30年4月1日施行)。  また、障害福祉サービス等報酬は3年に一度改定されているが、令和3年度の改定の際は、障害者の重度化・高齢化に伴う利用者のニーズへの対応、相談支援に係る質の向上等のための報酬改定に向けて検討が行われた。また、利用者及び事業所数が急増しているサービスがある状況を受け、サービスの質の向上や制度の持続可能性の確保等の観点を踏まえ、エビデンスに基づくメリハリのある報酬体系への転換が求められた。 4.就労系障害福祉サービスについて   (各サービスの概要は第4章第2節参照) ○ 就労移行支援事業  就労移行支援事業は、就労を希望する障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して支援を行い、一般就労への移行を目指すサービスである。従来、一般就労への移行実績が著しく低い場合は報酬を減算するなどの対応を行ってきたが、前述の障害者部会報告書における、「一般就労への移行実績を踏まえたメリハリを付けた評価を行うべき」との指摘も踏まえて報酬改定にかかる検討を重ね、平成30年度からは、就労移行支援を受けた後就職し、6か月定着した者の割合に応じた基本報酬を設定している。  就労移行支援を終了後、一般就労に移行した者は令和元年度においては13,288名であったが、令和2年度は11,614名となっている。就労移行支援からの移行者は令和元年までは毎年増加していたが、令和2年においては前年より減少している。 ○ 就労継続支援A型事業  就労継続支援A型事業は、通常の事業所に雇用されることが困難であるが、適切な支援があれば雇用契約に基づく就労が可能である者に対して就労機会を提供するサービスである。  A型事業所については、収益の上がらない仕事しか提供しない等の不適切な事業運営が把握されていたため、平成29年4月に指定基準等を改正し、「生産活動収入から経費を除いた額が、利用者の賃金総額を上回っていなければならない」等を明示した。さらに、令和3年度の報酬改定では、基本報酬の算定に係る実績について、現行の「1日の平均労働時間」に加え、「生産活動」、「多様な働き方」、「支援力向上」及び「地域連携活動」の5つの観点から成る各評価項目の総合評価をもって実績とする方式(スコア方式)に見直しを図っている。  令和2年度における平均賃金月額は79,625円であり、平成18年度の制度創設以降、減少傾向にあったものが、平成27年度以降は徐々に増加している。 ○ 就労継続支援B型事業  就労継続支援B型事業は、雇用契約に基づく就労が困難である障害者に対して、就労や生産活動の機会を提供し、就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を行うサービスであり、障害者が地域で自立した生活を送ることができるように、利用者に支払う工賃水準の向上に努めなければならないとしている。  令和3年度の報酬改定においては、地域における多様な就労支援ニーズに対応する観点から、現行の「平均工賃月額」に応じて評価する報酬体系に加え、「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系を新たに設け、事業所ごとに選択することとしている。  令和2年度の平均工賃月額は15,776円であり、平成21年度以降増加していたが、令和2年度は減少している。 ○ 就労定着支援事業  平成30年4月から新たに実施された本サービスは、就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練(以下、「移行支援等」という。)の利用を経て、通常の事業所に新たに雇用され(※)、移行支援等の職場定着の義務・努力義務である6か月を経過した者に対して、就労の継続を図るために、障害者を雇用した事業所、障害福祉サービス事業者、医療機関等との連絡調整、雇用に伴い生じる日常生活又は社会生活を営む上での様々な問題に関する相談等の必要な支援を行うものである。  本サービスは、就職者を送り出した移行支援等の事業所が一体的に運営することを想定しており、それまで支援を行っていた職員がなじみの関係の中で引き続き就労定着支援を行えることが、支援者と利用者双方にとってのメリットになると考えられる。  基本報酬は、事業所の利用者数及び、就労定着率(過去3年間の総利用者のうち就労定着者の割合)に応じて設定し、どのような支援を実施したか等をまとめた「支援レポート」を、本人その他必要な関係者間で月1回共有した場合に算定できるとしている。  ※復職のために移行支援等を利用し、その後復職した障害者についても、復職して以降の就労を継続している期間が6か月に達した者は就労定着支援を利用することが可能