令和5年度版就業支援ハンドブック 障害者の就業支援に取り組む方のために 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 はじめに    近年、障害者の就業意欲が高まるとともに、企業においても、CSR(企業の社会的責任)への関心の高まりや戦力化できる人材層であることの認識を背景に、積極的に障害者雇用に取り組む企業が増加するなど、障害者雇用は着実に進展している。  このような動向を踏まえ、平成 25年6月に成立した障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律により、平成 28年4月1日から、障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供が義務づけられた。また、平成 30年4月1日から、精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ、これに伴い、民間企業の障害者法定雇用率が 2.2%に、令和3年3月1日からは更に0.1%引き上げられ 2.3%となった。さらに、令和元年6月にも、同法律について、公務部門における障害者活躍推進計画の作成・公表義務や、障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度の創設等の障害者の活躍の場の拡大に関する措置、公務部門に対する報告徴収の規定の新設等の障害者の雇用状況の的確な把握等に関する措置を内容とする改正法が成立し、順次施行されている。また、障害福祉分野においては、平成 18年の障害者自立支援法の施行により、福祉施設から一般就労への移行が推進され、平成 24年6月には、障害福祉サービスの充実等障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援し、新たな障害保健福祉施策を講ずるため、障害者の範囲の見直しによる難病等の追加、障害福祉サービス基盤の計画的整備を主な内容とする障害者自立支援法に代わる「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が公布、遂次施行された。さらに、平成28年5月には、改正障害者総合支援法が成立し、平成30年4月より就労定着に向けた支援を行うサービス(就労定着支援)が施行された。  本書は、平成 19年8月に厚生労働省が取りまとめた「福祉、教育等との連携による障害者の就労支援の推進に関する研究会」の報告書での就業支援に関する基本的な知識・ノウハウを体系的に学べるテキストの必要性の指摘を受け、当機構の障害者職業総合センター(千葉市)において実施してきた人材育成事業、支援技法等の研究・開発の成果および各都道府県に設置している地域障害者職業センターでの障害者、企業に対する支援の実践を基に、平成 21年3月、就業支援に関する入門書として発行された。  本書の構成としては、外部の有識者、実践者の方々から内容や構成等についてのご意見を伺ったうえで、障害者職業総合センターに設置した作成委員会において、これから就業支援の知識、経験を深めようという方が読み進めやすい内容、構成とした。  第1章では実践に直接結びつきやすい内容として、具体的な支援方法、支援のポイント等、支援ノウハウについてまとめ、第2章はそれを踏まえた就業支援機関における実際の支援事例をご紹介している。さらに、実践に向けた支援ノウハウの理解がより確実に行えるよう、第3章においては就業支援における基本的な考え方について解説している。また、第4章においては実践の広がりに応じて必要となるであろう各障害に関する諸特性や就業支援に関連する制度等を概括している。  なお、本書においては、用語はできる限り統一することとした。本書のタイトルも含め、「就業支援」という用語を使用しているが、これは、企業における雇用に向けた支援、企業での雇用の継続のための支援を指すものとして使用している。「就労支援」、「職業リハビリテーション」といった用語と厳密に区別している訳ではないが、「就労支援」は、雇用関係の成立を前提としない福祉施設等での活動も含むイメージもあること、「職業リハビリテーション」は、福祉、医療、教育等の分野の方には馴染みが薄い場合もあることから、本書では基本的には「就業支援」に統一することとしている。また、雇用の場面は民間企業に限られるものではなく、地方公共団体、学校等も含めた広い場面が想定されるが、本書においては、これら雇用される場を「企業」と総称している。  今般、昨年度に引き続き「就業支援ハンドブック」を発行した。本書が就業支援の入門書として、各分野での障害者の就業支援に携わり始めた方、これから携わろうとする方の道しるべとなり、さらには、実際の支援を行う中で、戸惑い、迷った場合などに、基本に立ち返り見直しを行う際のきっかけの書となれば幸いである。  最後になったが、今般の改訂作業等にも精力的なご協力をいただいた執筆者の皆様のご協力があってこそ本書の発行に至ることができた。厚く御礼を申し上げる次第である。 令和5年2月  独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 就業支援ハンドブック 目次   第1章 就業支援のプロセスと手法 第1節 就業支援のプロセス2 第2節 職業に関する方向付けのための支援(インテークからプランニング)9 第3節 職業準備性の向上のための支援27     コラム@障害者職業能力開発校の活用について34 第4節 就職から雇用継続に向けた支援35     コラムAハローワークのサービスの効果的な活用38     コラムB地域障害者職業センターにおける『関係機関に対する      職業リハビリテーションに関する助言・援助』の活用について92 第2章 就業支援の実際(事例) 第1節 障害者就業・生活支援センターにおける支援の実際94 第2節 就労移行支援事業所における支援の実際106     コラムC地域障害者職業センターにおける障害者支援について118 第3節 特別支援学校における支援の実際121     コラムD働く障害者の声133 第3章 就業支援に必要な考え方 第1節 就業支援とは136     コラムE職業リハビリテーション138     コラムFキャリア発達143     ●さらなる理解のために      障害構造の理解149      リハビリテーション150      リハビリテーションカウンセリング151 第2節 企業の視点の理解152 第3節 就業支援と支援ネットワーク169     コラムG福祉施策と就業支援181 第4章 就業支援に必要な知識 第1節 障害特性と職業的課題186 第2節 障害者雇用に関する制度の概要247     コラムH障害者雇用と就業支援の歴史269 資料 参考図書・参考資料一覧271 索引 事項索引281    逆引き索引「こんな時どうしよう」286 第1章 第1章 就業支援のプロセスと手法  就業支援の実践に向けてまずはじめに、基本的な就業支援の流れとその具体的な方法について解説する。 第1節 就業支援のプロセス 第1項 就業支援のプロセスの構成  障害者を対象とした就業支援のプロセスは、一般的には、「@職業に関する方向付けのための支援(インテークからプランニングまで)」、「A職業準備性の向上のための支援」、「B就職から雇用継続に向けた支援」とに大別できる。このうち、「B就職から雇用継続に向けた支援」は、支援内容の違いや関わる担当者の違いなどから、「就職のための支援」と「雇用継続(職場適応)のための支援」とに分けることができる(図1)。 図1 就業支援のプロセス  このように就業支援のプロセスを分けて考えるのは、それぞれのステップごとに支援の目標や内容が大きく異なり、連携する関係機関にも大きな違いがあるからである。この就業支援の全体のプロセスをよく把握し、自分が行っている支援が、全体のどの位置にあるもので、何を目標としているのかを、正しく把握していることが極めて大切である。  就業支援のプロセスについては、支援メニューの構成から、図2のような理解もされている。この図では、それぞれ「@就職に向けての相談」、「A就職に向けての準備、訓練」、「B就職活動、雇用前・定着支援」と表現されているが、図1の@、A、Bとその内容は同じである。また、この図では、「C離職・転職時の支援、再チャレンジへの支援」、「D企業等への支援」、「E在宅就業の支援」も支援体系の中に含まれているのが特徴である。 出典)厚生労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"4障害者雇用に関する各種援助 ".事業主と障害者のための雇用ガイド 障害者の雇用支援のために(平成 23年度版).2011.P26-30を基に作成  図2 障害者雇用に関する各種援助 支援メニュー一覧   図3(4ページ)は、就業支援のプロセスごとに、主な支援メニューを書き加えてみたものである。利用者は、このような全体を把握できる図を示されると、目標設定がしやすくなり、また目標達成のための行動や活用できるサービスをはっきりと見通すことができるようになる。支援のプロセスの全体を図示して理解を共有することは、就業支援の初期の相談場面では、非常に有効な方法である。 図3 各プロセスにおける支援メニュー    第2項 就業支援のプロセスの内容 1)職業に関する方向付けのための支援   (インテークからプランニングまで)  職業に関する方向付けのための支援は、さらに、@インテーク、Aアセスメント、Bプランニングの3つのステップに分けられる。  @ インテーク  インテーク(intake)は、受理面接または受付面接などとも称される。 相談に来た人と面接し、何のために相談に来たのか、その「主訴(chief complaint)」を確認し、受け付けるのが適当かを判断し、受付者(インテーカー)が属する機関での支援につなぐ。主訴の内容により、他の機関の方がサービス機関として適切であると判断される場合には、その機関を紹介するなどの対応をとる。  インテークは、就業支援の入口に当たる重要なステップである。利用者の中には、情報不足のため状況をあまりよく把握できていない場合や、コミュニケーション能力に課題がある場合もあり得る。利用者の期待と提供できるサービスに食い違いがあれば、この段階でよく理解し納得していただくことが大切である。また、一般にはこの段階で、利用者と支援者の間に、お互いに信頼し合い、安心して振る舞ったり、感情の交流ができたりする関係、すなわちラポール(rapport)が形成されるかどうかがほぼ決まる。このため、インテークには経験豊富な職員が対応するようにしている施設もある。    A アセスメント  アセスメント(assessment)は、就業支援では、一般に「職業評価」 を意味する。就業支援におけるアセスメントは、面接・調査、関係機関などからの情報収集、各種心理的・職業的検査や作業評価、それらに伴う行動観察などの方法によって総合的に行われる。面接・調査や情報収集では、利用者の生育歴、学歴、職歴、職業能力・適性などを理解し、置かれている状況を把握・確認する。各種検査では、職業能力・適性を中心に把握する。就業支援の場合は、特に実際の場面での職業能力・適性が問題となるので、実際の職場での実習やできる限り実物に近い模擬的な作業場面を活用した評価方法がよく使われる。  また、利用者の課題については、環境との関連性を視野に入れて把握することが必要であることから、アセスメントには、地域の雇用・就業状況を始めとする労働市場などの環境の評価も含まれる。図4(6ページ)は、アセスメントとプランニングの関係のイメージを図示したものである。 図4 アセスメントとプランニングのイメージ  B プランニング(支援計画の策定)  プランニング(planning)では、アセスメントの結果を総合して、利用者の目標を設定し、それを達成するための就業支援の内容、方法、期間などについて検討を加え、個別・具体的に明文化された支援計画を策定する。支援計画は、一般に支援者が素案を作成し、関係者や利用者本人、家族なども参加して、ケース会議によって決定するというプロセスを経る。しかし、最終的な決定は、利用者自身が行うものという理解が一般的である。支援計画の策定にあたっては、利用者本人に充分に説明し同意を得ること (インフォームド・コンセント,informed consent)が肝要であり、支援者の意見を押しつけることのないよう留意する必要がある。また、支援機関の内部はもとより、利用者本人、家族、企業等も含めた外部の関係機関で活用されるに足りる内容を盛り込むことにより、支援が効果的かつ効率的に実施されるよう留意する必要がある。   2)職業準備性の向上のための支援  職業準備性とは「個人の側に職業生活を始める(再開も含む)ために必要な条件が用意されている状態」をいう。  職業準備性の向上のための支援には、職業に必要な技能や知識を習得する訓練である職業能力開発(職業訓練,vocational training)と、職業に向けての準備性を高めるための訓練である職業前訓練(prevocational training)とがある。  職業能力開発は、段階的かつ体系的に職業技能を習得するための職業訓練で、公共職業能力開発施設<職業能力開発校、職業能力開発大学校・職業能力開発短期大学校(ポリテクカレッジ)、職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)、障害者職業能力開発校>などで行われている。  職業前訓練は、職業生活に必要な働く意欲、体力、耐性、危険への対応などの職業準備性を高めるための訓練である。地域障害者職業センターの職業準備支援、障害者総合支援法における就労移行支援、就労継続支援、医療機関における作業療法の一貫としての訓練など、職業準備性の向上を目的とする支援は、広く職業前訓練として位置付けられる。  なお、職業前訓練は職業生活の事前の準備ということになるが、職業準備性の向上は就職するまでの条件に限定される訳ではなく、就職後に職業能力開発や職場環境への適応能力の向上のための支援が求められるものでもあり、その意味では、職場におけるジョブコーチ支援や職場定着支援も職業準備性の向上のための支援に含まれることとなる。   3)就職から雇用継続に向けた支援  就職から雇用継続に向けた支援には、職場開拓、職業紹介(就職あっせん)、職場定着支援(職場適応指導)、企業に対する支援などがある。  職場開拓は、就職先を開拓することであるが、就業支援の過程で、訓練のための実習先の確保を含めることもある。職業紹介は、求人者に求職者を紹介することである。職場開拓、職業紹介ともに、ハローワークが本来業務としており、求人者、求職者について圧倒的な情報量を誇る。各種の支援メニューや各種助成措置の活用も併せて行われており、このステップでの支援は、ハローワークを中心に展開されている。  職場定着支援は、利用者の働く生活、作業、職場の環境への適応度を高め、利用者が職場に定着し、更にはキャリアアップしていくことへの支援である。このステップでは、それまで利用者に関わった者のうち特に関係の深い者、または企業の上司や同僚が、キーパーソン(key person)となって日常的に支援し、その他の関係者がそれを補佐するスタイルをとることが多い。  また、このステップでは、利用者によっては就業生活の基礎となる生活管理が重要な要素となる場合も多く、働くことを中心とした総合的な支援となることも特徴的である。 第3項 プロセスを理解した支援  ある特定の支援者は、単独では、就業支援の一部のステップに関わる場合が多く、全てのステップに直接関わることはほとんどない。支援者は、しばしば自分の役割だけに気をとられ、全体の流れを見失いがちになりやすいので、充分に注意しなければならない。効率的な支援のためには、就業支援のプロセスをよく理解しておくとともに、現在展開している支援が、全体のどの位置にあるかを把握していることが大切である。  就業支援の全体のプロセスを理解しておくことは、利用者の支援計画を作成するうえにも欠かせない。また、他機関が作成した支援計画を正しく理解するためにも欠かせないことである。  また、就業支援のプロセスは、どの関係機関とどのステップで連携をとるかを示すものでもあるから、そのプロセスを理解することは、関係機関との連携をスムーズに展開するためにも有効である。  支援者は、一人ひとりの就業支援のプロセスについて、利用者や他の支援者と理解を共有することが大切である。このためには、支援の初期の段階で、全体の流れを図示してみることが効果的である。各々の利用者について、ステップを時系列で図示し、それを利用者や関係者と共有するとよい。そうすることによって、関係者が皆、全体の流れを把握し、当面の活動は何を目標とし、全体のどの段階にあるかを自覚して動けるようになり、コミュニケーションの流れもスムーズになる。 <参考文献> 厚生労働省 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:事業主と障害者のための雇用ガイド 障害者の雇用支援のために(平成23年度版).2011 第2節 職業に関する方向付けのための支援   (インテークからプランニング)  ここでは、就業支援のプロセスの第1段階であるインテーク、アセスメントおよびプランニング(支援計画の策定)の基本的な考え方、具体的な方法、ポイント等について実践に即して説明する。   第1項 インテークからプランニングまでの基本的な考え方 1)利用者第一  支援者が心に留めるべき最も根本的な原則は、利用者をあるがままに受容し、利用者の利益を最優先に考え、利用者の立場に立ったサービスを行うことである。  法律、通達、マニュアル等は、サービスを提供するに当たって、その内容や方法の基本となるものであるが、利用者(障害者、家族、企業、関係機関の担当者等)は一人ひとり個性があり、ニーズも多様であること、利用者をとりまく地域の環境も日々変化していることから、サービスの方法や内容はこれに合わせて工夫する必要がある。マニュアルを重視しすぎて、サービスが杓子定規になっていないか、事務処理に追われてサービスが二の次になっていないか等、サービスの方法や内容を振り返ることにより、利用者本位のサービスに努めなければならない。   2)インフォームド・コンセント  このような利用者本位の立場から、就業支援は、インテーク、アセスメント、プランニングをはじめとする各プロセスにおいて、インフォームド・コンセント(説明と同意)の考えに基づいて実施する。支援者は、事前に利用者に対して支援内容、支援計画等の必要な情報を適切な方法で分かりやすく説明し、同意を得たことを確認したうえで支援を実施しなければならない。   3)自己決定の尊重  就業支援を実効あるものとするためには、利用者本人の主体的な取組みが不可欠である。支援者側の一方的な価値観やプランを押しつけたり、理解を求めるだけでは、利用者本人の主体的な取組みが生まれてこない。このため、インフォームド・コンセントに基づき、選択の幅を広げるために充分な情報を提供し、利用者が自らの目標を自ら定めることができるような支援を行い、そのプロセスを通して利用者本人がパワーを身に付けるという「エンパワメント」の視点が重要である。   4)個人情報の取扱いと守秘義務  支援者が取り扱う情報は、干渉されたくないプライバシーであり、漏えいすると権利や利益を損なうおそれのある個人情報の塊である*。また、企業等の支援に当たっては、扱い方を誤れば法人の利益を損なう可能性がある法人情報を取り扱う。このような情報を取り扱う支援者は、職務上知り得た秘密を他に漏らさないように守秘義務を遵守することはもとより、収集する情報は業務上必要な範囲にとどめなければならない。また、その取扱いについて利用者に分かりやすく説明し、理解を得なければならない。  *平成27年9月に改正された個人情報保護法により、平成29年5月30日から、障害に関する情報は「要配慮個人情報」とされており、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならないものとなっている。   5)信頼関係の形成  就業支援を進めるに当たっては、利用者本人、家族等と支援者の間に信頼関係(ラポール)を形成することが不可欠である。支援者と利用者との間に、例えば「頼りになる」「何でも話せる」関係を築く。この信頼関係は、サービスを提供していくうえで基礎となるものであり、信頼関係がなければサービスの提供そのものが不可能となる。  このような信頼関係の形成においては、インテークの段階においてこれまで述べた利用者第一、インフォームド・コンセント、自己決定の尊重、個人情報の取扱い等に関する支援機関のポリシーを利用者に的確に示すことが重要なポイントとなる。 6)自己理解の促進  利用者本人の主体的な取組みによる就業支援を行うためには、適切な自己理解が必要である。インテークやアセスメントは、支援者にとっては支援のための情報収集であるが、利用者にとっては、過去を振り返り、現状を理解し、将来を考える貴重な機会となるものである。インテークやアセスメント、プランニングの過程を通して、自らの希望を明確化し、職業能力や労働市場などの情報を整理し、それらを関連づける作業を共に行い、自己理解が促進されるようにしなければならない。   第2項 インテークのすすめ方 1)インテークのステップ 図1 インテークのステップ  @ 主訴の把握  利用の申込みがあった場合は、まず何を求めているのか、どのように支援してほしいのか、利用目的は何か、という利用者の意向・希望(主訴)を把握する。 <ポイント> 〇主訴や受付に必要な情報を的確に把握するため、インテークのための様式をあらかじめ定めておくとよい。様式の内容は、支援機関によって異なるが、例えば申込者、連絡先、障害状況、主訴、他機関の利用状況、相談結果等が含まれる。 〇「インテークは支援機関の顔」である。利用者にとっては初めての接触で緊張していることも多いため、受容的・共感的態度で接しなければならない。最初に応対した支援者の接遇如何がその後の支援に影響を与えることがあるので充分に留意し、丁寧な対応を厳に心掛けるべきである。 〇話している言葉よりも「話したいこと」に注目して、真のニーズや本音をつかむことが大切である。  A 支援内容の説明  支援者から提供できるサービス内容を分かりやすく説明する。支援機関に対する期待は、利用者がそれまでに得た情報に基づくものであり、支援機関の役割や支援内容が正しく理解されているとは限らない。誤解がある場合には、言下に誤りを指摘するのではなく、期待されているものに絡めて誤解を解きながら、提供できる支援について理解を得る。 <ポイント> 〇利用者のコミュニケーション能力に応じて「正しい内容を分かりやすく」説明する。標準的な説明だけでなく、あらかじめパンフレットや図表など分かりやすい資料を準備しておく、実際に見学をしてもらう、具体例を使って説明するなどの工夫や配慮を行うべきである。    B 利用意思の再確認  主訴を把握し、提供できるサービスについて理解を得たうえで、利用者が支援機関を利用する意思があるかどうかを再度確認する。    C 受理  利用意思が再確認された人については、次の手順で必要事項の確認と連絡を行い、これを受理する。その際、取得する個人情報について、利用目的を明示し、事前に利用者の同意を得ることが必要となる。  なお、業務の対象にすることが適当でないとみなされる場合には、申込みを受理せず、主訴に対応する他機関の利用等について助言する。 <ポイント> 相談受理の手順は概ね次のとおりとなる。 ・インテーク様式を用いて、改めて氏名、電話番号、障害の状況、他機関の利用状況、主訴等必要な情報を確認する。 ・相談日時、担当者、交通機関の利用方法等を伝える。 ・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等の必要参考資料を持参するよう伝える。 他機関の利用を勧める場合には、その利用方法を情報提供する。また、必要に応じて、利用者の同意のもと、他機関の担当者に連絡をとる。 アセスメントを行うに当たって関係者からの意見聴取が必要な場合には、利用者の同意のもと、家族や関係機関の担当者の同伴を求める。  D アセスメントの準備  利用者の同意が得られれば、関係機関が把握している情報を事前に提供してもらうことにより、相談時間の短縮など利用者の負担軽減に努める。 <ポイント> 関係機関からの情報収集は、利用者の同意を得たうえで、例えば、図2(14ページ)のように文書で行うことが望ましい。文書で行うべき理由は、個人情報を取り扱う際の責任者や、内容、流れを明確に記録として残るようにするためである。安易に電話等で情報収集することには慎重になるべきである。   年月日 (該当機関または施設の長を記載) 様               (所属機関または施設の長を記載) 印 相談結果等の情報提供について(依頼)  (当施設・機関)の業務運営につきましては、日頃から格別の御協力を賜り厚く御礼申し上げます。  さて、下記の者の就業支援に当たっては、(貴機関・施設)での相談結果等の情報が必要と考えられますので、情報提供をお願い申し上げます。  なお、当該情報の提供につきましては、本人の同意を得ておりますことを念のため申し添えます。 記 1.情報が必要な者  〇〇△△(生年月日 〇年〇月〇日)            (〇〇市〇〇町1−2−3) 2.情報が必要な事項  相談結果等、就業支援で参考となる資料 3.情報が必要な理由  就業支援に活用するため 以 上 図2 情報提供依頼文(記入例) 第3項 アセスメントのすすめ方  アセスメントは、地域障害者職業センター、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、職業能力開発校、企業、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、福祉事務所、特別支援学校、保健所、医療機関等で広く行われているが、実施する機関、目的や場面によってその内容や方法は様々である。ここでは、就業支援のアセスメントについて解説する。   1)アセスメントの内容  就業支援のアセスメントでは、「@個人の側の諸特性」と「A職業の側の諸条件」、「B個人をとりまく支援体制」の3つの側面について把握・分析を行う。  例えば、@個人の側の諸特性としては、基本属性(氏名、年齢、障害状況等)、家庭環境、生活歴、職歴、身体的側面(身体動作、体力等)、精神的側面(学力、性格等)、社会的側面(日常生活、職場での対人関係等)、職業的側面(労働意欲、職業適性等)がある。また、A職業の側の諸条件としては、地域の産業、労働市場の状況(障害者の求人、就職状況等)、就職可能性がある職業があり、B個人をとりまく支援体制については、利用できる社会資源等がある。 <ポイント> アセスメントでは「セールスポイント」や「できること(ストレングス)」に注目する。できないことや課題点が目につきやすいが、陰に隠れた長所を見逃さないように留意し、セールスポイントを伸ばす方向でアセスメントを行う。 課題については、必要な支援や配慮、環境調整をできるだけ明確に示す方向でアセスメントを行う。 家庭や地域での生活面の諸条件も、職業生活を送るうえでは影響のある要素となる。社会資源の状況も含めた全体的なアセスメントを行う視点が必要である。 前述したように、アセスメントの過程で利用者の自己理解を支援する視点から、アセスメントの内容やポイントを利用者に整理して示すことは有効である。図3は、安定した職業生活を継続するうえで必要とされる個人の側の要件について示したもので(職業準備性については第1章第3節参照)、このようなツールを利用者に示すことは、なぜこのような情報収集が必要なのか、どういった条件を整えていく必要があるのかについて共通認識の形成を図りながら相談を進める一助となる。   出典)相澤欽一:"資料3ジョブガイダンスの実際例".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P198を基に一部変更して引用  図3 職業準備性のピラミッド 2)個人の側の諸特性に関するアセスメントの方法  アセスメントの方法は、相談と関係機関からの情報に基づいて行うもの、これに施設内の作業場面や職場実習の観察を併せて行うものなど様々である。具体的には図4のとおり、@面接・調査、A検査(テスト)、B場面設定、C職場実習、D行動観察がある。どの方法を使うかは一様ではなく、必要に応じて取捨選択して活用するものである。   図4 アセスメントの方法  @ 面接・調査  面接・調査は、支援機関で必ず用いられる方法である。検査や職場実習は必要に応じて実施するが、面接は、アセスメントに不可欠なものであり、また土台となる方法である。アセスメントは「面接に始まり面接に終わる」といっても過言ではない。具体的には利用者本人、その家族等に対する面接による情報収集のほか、関係機関からの情報収集による。 <ポイント> 〇面接に当たっては、個人情報の取扱い等の説明を行い、同意を得ること。この場合、文書を渡して説明する方がよい。 〇あらかじめ面接・調査項目を統一様式として定めておき、漏れや重複がないように効率的に行う。 〇面接・調査を行う前に、挨拶、自己紹介、当日の予定などを分かりやすく説明する。 〇面接では、潜在しているニーズを引き出すため、必要に応じて「うなずく」「相手の言葉を繰り返す」「言いたいことを明確な言葉で返す」等、カウンセリングの技法を活用すると効果的である。 〇面接では、プランニングに必要不可欠な範囲のものを聴取することとし、就業支援に直接関係のないプライバシーに立ち入らない。 〇利用者の待機中の言動、面接の際の同伴者との接し方等も貴重な資料となるので、観察・記録しておく。 〇面接の主役は、利用者本人であり同伴者ではない。あくまで利用者を中心に相談を行う。  A 検査(テスト)  検査では、各種のテストを用いて職業的自立を図るうえで活用できる特性、予測される課題等を明らかにする。利用する検査は、身体検査、知能検査、性格検査、社会生活能力検査、職業適性検査、ワークサンプル等である。 <ポイント> 〇可能な限り関係機関で実施された結果を活用し、必要最小限の検査を実施することにより利用者の負担を軽減するように努める。 〇検査の多くは標準化されているため、諸特性を客観的に把握できるメリットがある。ただし、一つの検査だけでは一部の特性しか把握できないことから、他の方法と併せて実施することが効果的である。 〇障害による残存機能だけでなく代替機能の実用性も併せて把握する。 〇職業との関係を常に念頭に置きながらアセスメントを行う。例えば、握力が30kgあったとしても清掃作業でバケツに水を入れて運べるとは限らない。単なる身体検査で終わってはならない。 〇1種類の検査の数字によって安易に判断することは避け、総合的な視点から特性を把握することが肝要である。このため支援者は、検査に精通することはいうまでもなく、障害、職業等の知識を深め、経験を積むことにより自身のアセスメント力を高めるように努める。 〇社会的側面や労働意欲は、利用者の日常をよく知っている家族、関係機関の支援者等の意見も参考にして把握する。また、例えば金銭計算、時間の読取り等アセスメント場面で実施できる事項は、実際に行ってもらうとよい。 ワークサンプル  ワークサンプルは、実際の作業または模擬的な作業標本(ワークサンプル)を使って観察・評価する方法である。ワークサンプルには、「具体的な評価ができる」、「作業態度、工夫、興味、習熟度等も併せて把握できる」、「職業の現実的な理解と働くことへの動機づけに結びつけることができる」という長所がある。ワークサンプルとしては、ワークサンプル幕張版(MWS)などがある。MWSは、簡易版と訓練版に分かれ、職業上の課題を把握する評価ツールとしてだけでなく、作業遂行力の向上や障害の補完方法の活用に向けた支援ツールとして使うことができる。具体的には、数値入力、文書入力などのOA作業、物品請求書作成、ラベル作成などの事務作業、ピッキング、組立作業などの実務作業の3つの作業に大別される13種類の作業課題から構成されている。  B 場面設定  施設内に模擬的な作業場面を設定して観察・評価する方法である。 <ポイント> 施設内の支援場面を活用して、実際の職業場面に近いルールの下での活動を通じ、観察・評価により職業的諸特性を多面的に把握する。その際には、表1(20ページ)の「就労移行支援のためのチェックリスト」の「チェックリスト経過記録表」を活用すると効果的である。  C 職場実習  職場実習は、利用者が実際に、企業内の作業を行うことを通して観察・評価を行う最も実際的なアセスメント方法である。この方法は、環境要因の影響も含めたアセスメントができること、実体験を通して利用者自身で職業に関する現実的な検討ができること、企業から直接的な評価が得られること、職務再設計等の検討も併せて行うことができる等の長所があり、広く活用されている。協力事業所の確保にあたっては、ハローワークをはじめ関係機関との連携、情報交換が重要である。 <ポイント> 職場実習を行う際には、関係者間で情報共有できるように、また担当者による評価結果にバラツキが出ないようにするため、評価項目や評価基準を定めた統一様式を使用すると効果的である。例えば、地域障害者職業センターでは表2(21ページ)の「職務試行法評価票(記入例)」を使用している。 表1 チェックリスト経過記録表 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構編:就労移行支援のためのチェックリスト経過記録表(各種教材、ツール、マニュアル等No.20).2007 ※就業支援機関や事業所が連携し連続した就労支援が行えるよう新たに開発された「就労支援のための訓練生用 チェックリスト」「就労支援のための従業員用チェックリスト」は下記を参照。 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:就労支援のためのチェックリスト(各種教材、ツール、マニュアル等No.30).2009  https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/30.html 表2 職務試行法評価票(記入例)  D 行動観察  行動観察は、様々な場面での利用者の言動をありのままに記録して、その職業的諸特性を明らかにするものである。  限られた時間内に、限られた方法で利用者の多様な職業特性を全て把握することは困難であり、また、アセスメントそのものが現実の職業場面ではないという限界もある。行動観察は、この限界を補うものである。 ・行動描画法:@事実を具体的に記述すること、A程度、頻度等を記録すること、B状況が分かるようにしておくこと ・録音・録画法:事前に利用者の了解を得て、VTR等を用いて行動を記録する ・評価尺度法:観察しようとする行動と評価段階を事前に用意し、実際の行動をそれに当てはめて記録する <ポイント> 〇多面的に把握するため、褒める、具体的な目標を与える、激励するなどにより態度や状況の変化を把握することも重要である。 〇一つの行動でも一面的な捉え方だけでなく、流れや能力の程度、障害の内容等を全体的に考慮して意味付けることが必要である。例えば「よそ見」という一つの行動であっても、注意や集中力が散漫なためであったり、やり方に自信や確信がないためであったり、種々の要因が考えられる。 〇あらかじめ観察すべきポイントを絞り込んでおくために、障害特性に関する予備知識を持つ。例えば、脳性まひの痙直型の場合は、主たる障害部位以外にも多少なりとも影響があり作業能力に関係することがある等、作業能力や職業生活に関係する場合等の予備知識があれば、観察ポイントを事前に把握できる。 〇評価実施時には、観察の工夫と努力が必要である。例えば、身長計の目盛りを利用者に読んでもらうことで、視力の具合や目盛りの読み取り、三桁の数の理解、小数や単位の理解等の数処理の実用性の一端を観察することができる等、工夫により把握できる情報が増える。   3)職業の側の諸条件に関するアセスメント等  次に、地域の労働市場の状況、利用できる社会資源や支援制度の状況、支援機関や家族の支援体制等の周辺状況に関する情報を整理する。就職希望地域の求人、求職等の情報は、ハローワーク、求人広告、ホームページ等から入手する。 <ポイント> 〇一般的な職業の側の諸条件等、利用者の周辺状況の情報を入手するに当たっては、次のホームページが参考になる。 ・職業紹介、求人、求職等の情報   →ハローワークインターネットサービス ・障害者雇用対策等→厚生労働省ホームページ ・地域の労働市場の状況→各都道府県労働局のホームページ ・地域の社会資源→各都道府県・市町村のホームページ 第4項 プランニング(支援計画の策定)のすすめ方 1)プランニングのステップ 図5 プランニングのステップ  @ 情報の整理  まず、各種のアセスメントから得られた個人の側の諸特性、職業の側の諸条件、それぞれの情報を整理する。  これらを基礎として、導き出される結論、課題、対応方針(案)等をまとめる。例えば、地域障害者職業センターでは、図6(24ページ)のような様式を用いて支援計画(職業リハビリテーション計画)を策定している。 図6 職業リハビリテーション計画(記入例)  A ケース会議等での検討  支援計画は、アセスメントを担当した支援者が独自の判断で策定することなく、必要に応じてケース会議等において検討を行うとともに、文書にして組織決定を行う。 <ポイント> 〇ケース会議は、支援計画の策定、変更、進捗管理、結果の評価、問題解決、情報共有ネットワーク化等を目的として、支援に関わる関係機関の支援者に集まってもらい必要に応じて開催する。 〇エンパワメントや自己決定を尊重する観点から、ケース会議には、可能な限り利用者本人、家族等の出席を求める。    B 利用者に対する説明と同意  支援計画は、原則として利用者に書面で提示し、内容を分かりやすく説明したうえで、同意を得る。障害等のために利用者単独での理解や判断が困難な場合には、家族の同席を求め、本人および家族の同意を得る。    C 関係機関への連絡  支援計画は、本人の同意を得た上で、必要に応じて、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、職業能力開発校、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、福祉事務所、特別支援学校、保健所、医療機関等の利用者に関わる関係機関に連絡する。   2)支援計画の内容  「支援計画」の内容は、支援機関の役割、提供するサービスの内容等によって様々である。ここでは支援計画の一例として、地域障害者職業センターの「職業リハビリテーション計画」の記入例を図6に記したので参考にしていただきたい。  地域障害者職業センターの職業リハビリテーション計画は、「現状と支援の方向性」、「具体的目標」、「障害者職業センターが提案する支援内容」、「協力を求める機関及び内容等」および「留意事項等」から構成されており、その内容は概ね次のとおりである。  「現状と支援の方向性」は、アセスメントの結果に基づき、労働市場の状況や支援体制等を総合的に勘案し、利用者が早期に職業的に自立できるように、最も効果的な支援の方向性を、明らかにするものである。  「具体的目標」は、「現状と支援の方向性」において示した支援を実施するにあたって、利用者と支援者の共通目標とその到達レベルを記入し、「障害者職業センターが提案する支援内容」は、職業準備支援やジョブコーチ支援事業等、具体的目標を達成するための支援内容および支援方法を記載する。また、「協力を求める機関及び内容等」は、支援の実施にあたり必要となる関係機関の協力について、その内容を関係機関ごとに記入する。 <ポイント> 〇主体は利用者本人であることから、支援計画の中では利用者の役割を明確にすること。 〇支援の目標や内容、役割分担については、実施期限等も含めできるだけ具体的に示すこと。 〇支援計画については、利用者本人を含む関係者が参集したケース会議において調整、確認したものが、最終的な計画となること。 〇支援計画が適切に遂行されているか、新たな課題は生じていないか等について定期的に情報を集め、必要に応じて支援計画を修正できるように進捗管理(モニタリング)を行うこと。   <参考文献> 〇独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:就労移行支援のためのチェックリスト活用の手引(各種教材、ツール、マニュアル等No.20).2007  https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/19_checklist.html 〇相澤欽一:現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007 第3節 職業準備性の向上のための支援 第1項 職業準備性とは何か 1) 1)職業準備性とは  職業リハビリテーション用語集第2版2)では、職業準備(work preparation)を「職業生活を開始するに当たって要件を準備すること。 例えば、職業生活をはじめていくのに必要な身体条件、体力、仕事に対する意識、上司や同僚とコミュニケーションしていくための能力、必要な技術、技能の獲得等があげられる。これらの職業準備性(レディネス)を高めていくためには、技術的な面よりも、基本的な労働習慣を身につけることが要求される(後略)」としている。また、レディネス(readiness)を「心理学では学習に必要な準備状態をさす。成熟や経験によって得られ、効果的な教育・訓練を行うために必要な条件が充分に用意されている状態を『レディネス』があるなどと表現している。(中略)対象、目的との関連で学習レディネス、職業(就職)レディネス等が考えられる。」としている。  以上を踏まえると、職業準備性とは、「個人の側に職業生活をはじめる(再開も含む)ために必要な条件が用意されている状態」とまとめられよう。   2)職業準備性の内容  職業生活を始めるために必要な個人側の条件としては、 @職務遂行に必要な技能 A職業生活を維持するために必要な態度や基本的労働習慣(仕事に対する意欲、一定時間労働に耐える体力、規則の遵守、責任感、称賛および批判を受け入れる態度等) B職業生活を支える日常生活・社会生活面の能力(健康管理、生活リズムの確立、日常生活の管理、対人技能、移動能力、消費者としての技能、社会資源を活用する技能等) といったことが含まれる。職業準備性というときには、このうちのAやBに力点がおかれることが多い。AやBの具体的な内容としては、20ページのチェックリスト経過記録表の項目が参考になる。  いずれにしても、職業準備性は、健康管理や日常生活の管理、社会生活能力の向上(代償手段獲得の訓練も含む。)といった幅広い内容を含んでいる。ゆえに、職業準備性の向上への取組みは、就業支援の領域だけでなく医療・保健・福祉・教育等の各専門領域や家庭等でも行われることになる。このような視点をすべて取り入れて、職業準備性の向上に係る支援を記載しようとすると、膨大なものになるため、本節では、上記AおよびBの一部に関連して、就業支援の領域で行われるものに絞って説明する。  なお、就業支援の領域で行われる主な取組みとしては、就業イメージの明確化、就業に対する自信の獲得(自信回復)、一般的な職場ルールの理解促進、職場で求められる基本的な対人技能の習得、といったようなことが挙げられる。  また、就労移行支援事業のように、ある程度長期的な支援期間が設定されている場合には、基礎的な作業能力(持続力、正確性等)の向上、基礎的な体力づくりや就職後も継続して行えるような健康増進のための習慣づくり、就職後の支えになる仲間作りや余暇活動への取組みも想定される。さらに、疾病管理や日常生活管理のような医療・保健・福祉の専門領域で取り組むべきことについても、職業生活の継続の視点から取り組むことが考えられる。   3)職業準備性を考える際の留意点  職業準備性を考える際に留意しなければならない点は、「職業生活を始めるために必要な条件」が、企業側の障害者雇用に係る考え方や支援機関の支援状況等によって異なるため、職業準備性の絶対基準を設定し、個人の側に必要な条件が用意されているかどうか画一的に判別することは難しいという点である。  また、第1章第4節で説明することとなるが、援助付き雇用モデルの登場は、「訓練してから就職」というレディネスモデルの考え方から、「就職してからの継続的な支援」に発想の転換を促している。特に、訓練先で学んだことを実際の職場で応用することが苦手な人や、環境の変化に対応することが苦手な人の場合には、「訓練してから就職」よりも「就職してからの継続的な支援」の方が効果的な場合が多いのも事実である。  職業準備性を就職するためのハードルと考え、そのハードルを跳べないと就職への挑戦はできないと単純に判断するのは危険である。個々の職業準備性を検討する際には、支援や受入れ環境との相互関係の中で見ていく必要がある*。職業生活の継続のために、本人が努力すべきこと、企業が配慮すべきこと、支援者が支援すべきことを整理するための視点として、職業準備性を捉えることが大切である。  *労働省および身体障害者雇用促進協会(昭和62年当時)による研究会報告書では、「職業準備」の概念を、「障害者の就労の促進、継続、さらには安定した職業生活の確保に必要な、または有益な一切の障害者自身および関係者の準備的行為・活動、措置ないし制度を含むものとして、広く捉える。」3)とまとめ、企業や労働組合、支援者や支援制度等、障害者を受け入れる社会の側の準備性にまで言及している。   第2項 職業準備性を向上させるためのポイント 4) 1)職業準備性向上の必要性に対する理解  職業準備性向上のためには、本人の主体的な取組みが必要である。なぜ職業準備性を向上させる必要があるのか本人が理解しないまま、訓練に取り組んだとしても、成果はあまり望めない。重度の知的障害がある等のため、言葉による理解・確認が難しいケースもあるかもしれないが、原則的には、職業準備性の向上の必要性と向上させるための方法について、本人の納得を得ることは、職業準備性を向上させるための重要なポイントである。本人の納得については、アセスメント・プランニングを通じてアプローチしておくのが基本である。   2)職業情報の提供  職歴がない、仕事に対するイメージが湧かないという人に対しては、職業に関する知識(どんな仕事があるか、それらの仕事を行うときに何が要求されるか、実際にどのような求人がでているか等)や求職活動に関する知識(求人票の見方、履歴書の書き方、ハローワークの利用の仕方、面接の仕方等)に関する情報を提供する。情報提供に際しては、企業見学を含め、なるべく実際的な情報の提供に努めることが望まれる。 3)働く当事者のモデルの提示  支援対象者と同じような障害のある人たちが、どんな仕事をしているのか、どうやって就職し、どのようなことに気を付け、どんな思いで働いているのかといった情報は、働くためのイメージの明確化ばかりでなく、意欲の喚起や自信の回復等にもつながる。働く当事者の情報を提供する場合には、その当事者から直接話をしてもらうのが、最も効果的である。   4)企業からのメッセージの提示  同じことを言われても、誰から言われるかで受け止め方は大きく異なる。企業から(わが社で)働くために必要なこと等について直接話をしてもらうと、支援者が何度言っても伝わらないことが一遍に伝わることもある。また「やればできる」というメッセージを企業の側から伝えてもらうと、意欲の喚起や自信の回復等に大きな効果をもたらす。   5)企業での実習  企業で実習してみることは、職業準備性の向上を支援する最も効果的な手段である。  企業で実習してみる場合には、@複数の企業を見学したうえで、本人の希望や課題にあわせて働く場所を決める、A働く時間や働き方(単独での仕事、グループでの仕事等)もなるべく本人の希望や課題に合わせる、B職務内容だけでなく、職場内の人間関係を含めた職場環境を支援者がある程度知っておく、C必要に応じて支援者が介入できる、といった条件を満たしていることが望ましい。少なくともなぜこの職場で実習をするのか、実習の目的を本人と支援者とで共有することが必要である。本人が目的を理解しないまま実習をしても、あまり効果は期待できない。  また、実習をした後(もしくは、実習中)に、実習の振返りを行うことが大切である。実習の感想、できたことや困ったこと、実習目的の達成度等を企業側の評価も踏まえ、本人と話し合うとよい。企業側の評価は誰がするかで評価結果に大きな違いがでることもあるので、なるべく様々な立場の人の意見を確認しておくとよい。  職場が変われば本人の働く様子が変わることもある。ひとつの職場の実習結果だけで本人の実態をすべて把握したと考えてはならない。実習結果は、あくまでも特定の職場における実施時点での結果であることに留意する。   6)振返りの重要性  職業準備性向上の取組みの副産物、と言うよりは、大切な機能のひとつとして、アセスメントおよび本人と支援者との関係作りが挙げられる。次の支援につなげるためには、職業準備性の向上を支援する取組みの中で、求職活動を行う際の目標(職種や労働条件等)や就職後の職場適応を図るための対処法を明確にするとともに、本人との関係を形成することが重要である。適切なアセスメントと関係作りを行うためには、随時、本人と支援者が振返りをする必要がある。振返りの時間は、職業準備性の向上を支援するプログラムに明確に位置付けておくことが望ましい。   7)施設内訓練における留意点  何年にもわたって施設内で訓練を行うと、施設に適応することが目的になってしまい、企業で働くことにつながりづらくなることがあるため、注意を要する。  企業で働くことを目的に施設内で訓練を行う場合には、アセスメントや本人との関係作りを主目的に短期間の訓練を設定し、その中で実際の職場を活用した訓練(実習)を適宜導入する方が望ましい。  また、職場実習等のプログラムを施設内訓練と連動させると効果的である。例えば、職場実習を行ったうえで、実習した企業に就職したと想定してSST(Social Skills Training)を実施すると、欠勤や遅刻の連絡、仕事で分からないことがあったときの質問、仕事でミスしたときの対応、昼休みに会話の中に参加するときの方法、更には、忙しそうにしている〇〇さんに質問をするときどうする、〇〇さんから病気のことについて尋ねられたときどうする等、実習先の雰囲気も踏まえ、より具体的な場面設定をしながらSSTを行うことができる。   8)様々な制度の有効活用と関係機関の連携  就職前の就業支援に絞っても、職業準備性を向上させるための制度や支援は多岐にわたっている。就労移行支援事業、地域障害者職業センターの職業準備支援やリワーク支援等以外にも、「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」の「実践能力習得訓練コース」等を活用したり、技能習得のための職業能力開発校の利用も考えられる(第4章第2節参照)。様々な制度を有効活用するためには、制度の情報を知るとともに、関係機関と連携し、より効果的な制度活用を図ることが望まれる。 9)職業生活を通しての職業準備性の向上  本節では、職業準備性を「個人の側に職業生活を始める(再開を含む。)ために必要な条件が用意されている状態」とした。しかし、労働省および身体障害者雇用促進協会(昭和62年当時)による研究会報告書では、職業準備における「準備」の語感には、職業生活の事前の準備というニュアンスがあり、これにこだわると、就職後の職業能力開発や職場環境変化への対応の視点を欠くとして、職業準備の概念は、就職後の職業能力開発や職業上の変化への対応力を含め、今後の社会的、経済的変化を踏まえた「全生涯にわたる職業への対応能力の準備としてとらえなければならない」5)としている。このような考え方は、エンプロイアビリティ(雇用可能性)*の概念に近くなるが、障害のあるなしに関わらず、多くの人が、実際に企業の中で働くことにより、技術を身に付けたり、労働者として成長していくことを考えれば、実践的には、見落としてはならない視点である。  また、職業準備性向上の取組みを一緒に行った人たち等との仲間作りが、就職後の職業生活の継続に大きな影響を与える場合もある。職業準備性を向上させる取組みを行う際には、その点も考慮しておくことが望まれる。  *employability(雇用可能性):ある人が仕事に就けるかどうか、一旦就いた仕事を継続できるかどうか、また、転職できるかどうかを示す、労働市場で通用する職業能力、労働市場価値を含んだ就業能力をいう。 第3項 職業準備性向上のプログラム例  職業準備性を向上させる際には、個々の課題に留意しながら、個別の取組みを行うことが望まれる。例えば、地域障害者職業センターでは、作業支援や講習等を組み合わせた個別カリキュラムを設定して支援を行う等、個々の特性や職業上の課題に応じて職業準備性向上のための取組みを効果的に行っている。  そして、障害者職業総合センター職業センターでは、障害種別、また支援内容別に、職業準備性向上のためのプログラムおよび具体的な支援ノウハウについて、実践報告書や支援マニュアルを作成し、支援機関に配布している(資料参照)。また、それらの支援マニュアル等は、高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページからダウンロードして活用することができ、主な支援技法は、発達障害6)7)(知的障害を伴わない自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害の方への支援技法)、高次脳機能障害8)(就職又は復職を希望する方への支援技法)、精神障害9)10)(就職又は復職を希望する方への支援技法)に関するものである。 <引用文献> 1)相澤欽一:"雇用支援の実際@ X職業準備性について".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P88-91 2)日本職業リハビリテーション学会 職リハ用語検討研究委員会編:"職業準備".職業リハビリテーション用語集(第2版).2002.P56 3)労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"第一章第二節「職業準備」の概念 ".精神薄弱者の職業準備に関する調査研究V(調査研究報告書通刊第124).1988.P4 4)相澤欽一:"雇用支援の実際A T職業準備性の向上".現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック.金剛出版.2007.P107-115 5)労働省・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:"第一章第一節 職業準備の意義、理念および原理".精神薄弱者の職業準備に関する調査研究(調査研究報告書通刊第105).1987.P6 <参考文献> 6)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(実践報告書No.19).2007 7)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2)―注意欠陥多動性障害を有する者への支援―(実践報告書No.23).2010 8)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:高次脳機能障害者に対する支援プログラム―利用者支援、事業主支援の視点から―(実践報告書No.18).2006 9)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:精神障害者等の職業リハビリテーションにおける職業レディネス指導事業の役割―職業レディネス指導事業の5年の取り組み―(実践報告書No.6).1999 10)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集(2)―気分障害者に対する復職支援の実践―(実践報告書No.20).2007 コラム@   障害者職業能力開発校の活用について    「第2項 職業準備性を向上させるためのポイント」において、「障害者の態様に応じた多様な委託訓練の実践能力習得訓練コース」の活用や「技能習得のための職業能力開発校の利用」について触れられている(32ページ)。障害者の就業支援を進める際に、就職への希望を実現する手段の一つとして「公共職業訓練」があるが、この「公共職業訓練」を企業や民間教育訓練機関等に委託して実施するというものが「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」であり、国や自治体等が直接実施しているのが「職業能力開発校」である(制度の概要は258ページを参照)。  職業能力開発校の中でも障害者を対象として実施している施設が「障害者職業能力開発校」である(制度、機関の概要は258ページ、264ページを参照)。国立、県立それぞれの施設があり、訓練科目も個々の障害者職業能力開発校ごとに様々な内容のものが設けられている。  過去において、職業訓練は主として身体障害者を対象として実施されていたが、現在では、知的障害者を対象とした訓練科目・コースが全国各地で多数設置され、さらに、精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者を対象とした職業訓練も実施されており、これらの障害者を対象とした訓練科目・コースの設置が一部で開始されている。  特に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する中央障害者職業能力開発校(埼玉県所沢市)、吉備高原障害者職業能力開発校(岡山県加賀郡)では、重度視覚障害者、精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者等の職業訓練上特別な支援を要する障害者を中心に、全国の広範な地域から受講者として受け入れており、個々の障害特性・能力・適性等に応じた個別カリキュラムによる職業訓練と職業生活指導を一体的に行う総合的指導や、障害者雇入れ検討企業との連携・協力による訓練といった先導的な取組みを行うほか、それらの成果を他の障害者職業能力開発校等に普及している(資料参照)。  障害者の就業支援に当たって、現状の職業能力を活用して就業を求めることが希望の実現につながる場合もあれば、職業能力の向上を図った上でのチャレンジがより希望を叶える有効な手段となる場合もある。就業支援担当者としては、ご本人の希望を吟味し、このようなことも視野に入れつつ支援に当たることが望まれる。職業訓練の受講に関する相談については、最寄りのハローワークに問い合わせられたい。 第4節 就職から雇用継続に向けた支援 第1項 就職から雇用継続に向けた支援の基本的な考え方  障害者自身の職業準備性を整理し、労働条件や希望職種等が明確になったらハローワークとも連携しながら受入れ企業を選択あるいは開拓していくことになる。  まず、職場開拓、職業紹介(就職あっせん)は一般にハローワークを中心に展開することとなる。ハローワークのサービスの効果的な活用方法については、次のコラムAで説明しているので参照していただきたい。  また、障害者自身に対しては、実際に希望する求人に応じて履歴書の書き方や面接の仕方などに関する具体的な相談を行う必要がある。志望動機や経歴、自己PRを企業にどう説明するか、障害についてどのように伝えるか、面接時の服装をどうするか、面接に誰が同伴するか等々について具体的な打合せを行い、必要に応じて事前に練習を行うといった支援が必要になろう。  一方、企業によっては障害者雇用を進めていく意思があるにも関わらず経験がないため、職務の選定、適切な雇用管理の仕方などに不安を感じていたり、社内の理解が得られない、施設がバリアフリーになっていないなどの理由で具体的な受入れが進まないこともある。このような場合には企業の不安や抱えている課題を解決するために、支援者が職務選定や雇用管理、施設の改善に関して情報提供や提案をしたり、社内理解を進めるための支援をしていくことが必要となる。  また、採用に向けて話が進んでも、障害者雇用の経験の有無、障害者雇用の理解の度合い、従事する仕事の内容や要求水準、障害者を支える人的体制の状況といった職場環境は、企業によってそれぞれ異なっている。障害者の職業準備性が整った状態で就職したとしても、受入れ側の企業の態勢が不充分であったり、要求水準が高かった場合には、職場に適応することは難しくなる。このような場合には、作業工程を簡易化する、周囲に障害特性について的確な理解を促す、職務の要求水準を下げてもらうなどの職場環境改善のための働きかけが必要となる。  さらに、知的障害者や精神障害者等の中には、その障害特性から環境が変わると訓練等で身に付いた力を充分に発揮できないタイプの人もいる。このため、障害の特性や受入れ企業の準備態勢の状況に応じ、職場に適応するために「仕事の技能習得」、「職場ルールの遵守」、「コミュニケーション技能の習得」、「人間関係の形成」等に関してきめ細かな支援を行うことが必要な場合もある。  就業している障害者は職場で従業員としての役割を果たしていくことに加え、生活者として「規則正しい生活習慣の確立」、「家事の遂行」、「消費活動や金銭管理」、「友達や異性との交友や余暇活動」、「地域活動への参加」、「通院・服薬といった疾病管理」など様々な役割や活動があることにも留意しなければならない(第2節図3(16ページ)、図1)。知的障害者や精神障害者等の場合、職場環境が整っている場合でも、家族関係や交友関係での問題、金銭面での問題、疾病管理の問題が、職場での作業遂行やコミュニケーション、人間関係にも影響することがありうる。したがって、雇用継続のためには職場での支援に加えて、生活面の継続的な支援も重要である。  以上のことから、就職から雇用継続のためには、@障害者の個々の状況に応じた職場適応のための支援、A企業への支援、B生活面の支援をきめ細かく一体的に実施していくことが必要であり、そのためにはそれぞれの支援を担当している支援者(病院・クリニック、就労移行支援事業所、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等)が支援対象者や企業に関する情報を共有し、連携して支援を行っていくことが重要である。  さらに、これらの支援により職場適応が図られても、生活環境の変化、配置転換や職務内容の変更、上司や同僚の異動などにより、新たな支援課題が生じる場合もある。支援者としては、職場適応後もしばらくは定期的な職場訪問や電話連絡等を通じて勤務状況を把握しておきたい。  なお、これらの情報共有においては、当然のごとく支援対象者や企業に対してその目的や内容を説明した上で同意を得ておく必要はあるので留意されたい。  ここでは、就職から雇用継続のための支援として、「企業へのアプローチの方法」、「ジョブコーチ支援」、「就業支援と生活支援」について解説を行う。 図1 就職から雇用継続に向けた職場適応についての支援体系 コラムA   ハローワークのサービスの効果的な活用    就業支援に当たっては、職業紹介、企業への雇用率達成指導等を行うハローワークのサービスを効果的に活用することもポイントである。そのためにも、ハローワークの機能をよく理解し、それを踏まえて、日頃からハローワークの担当者と顔の見える関係作りに努めることも重要であろう。 1)ハローワークの障害者担当窓口を初めて利用するときの留意点  ハローワークの主な利用者は、仕事を探している人(求職者)と雇い入れる人を探している企業(求人者)である。  求職者に対しては、職業相談部門が希望の仕事やその探し方などの相談(職業相談)や仕事のあっせん(職業紹介)などの窓口となり、一般に、仕事を探す障害者に対しては、この職業相談部門が担当窓口となる(専門援助部門という障害者専門の窓口があり、ここが担当窓口となる。)。また、精神症状に配慮したカウンセリング等を行う精神障害者雇用トータルサポーター等を配置しているハローワークもある。  ハローワークを利用する障害者は、年々増加しており、ハローワークの担当者はとても忙しくなっている。日によっては、窓口が混雑し待ち時間が長くなることもあるので、ハローワークへ相談に行く日時を決めたら、事前にハローワークに電話し、担当者の都合や混雑状況を確認しておくとよい。そのときには、ハローワークが対応体制を検討しやすいよう、障害者本人の同意を得られれば、本人の障害特性や職歴等を簡単に説明したうえで、訪問日時を調整するとよい。  また、窓口での相談を効率的に進め、本人の状況をよく理解してもらうためにも、ハローワークを訪問する前に、本人の特性や職歴、希望する仕事、質問したい事項などをまとめておくとよいだろう。 2)ハローワークへの求職登録、職業相談の留意点  ハローワークを初めて利用するときには、求職登録といわれる求職者の氏名、連絡先、職歴などの登録が必要となる。原則として、障害者が居住する地域を管轄するハローワークに登録することとなっている。  求職登録の際には、ハローワークの登録申込書に必要事項を記載する。記載事項には、具体的な希望職種や希望の賃金などもあるが、これらがまだ決まっていない場合やどのように決めたらよいか分からない場合などは、窓口で担当者と相談すればよいので、最初からすべて記載しなければならないと構える必要はない。  なお、ハローワークでの求職登録、職業相談のときには、支援者も同席して、今後の支援について一緒に検討することが望ましい。支援者が同席しない場合には、その目的や説明、相談すべき事項等に関して、本人に充分説明しておくことが大切である。 3)ハローワークでの求人の探し方、求人条件の確認の仕方  ハローワークでは、企業からの求人情報を自由に閲覧できる。求人情報は、仕事の内容や就業時間、賃金などの労働条件などを記載した求人票にまとめられており、これをファイルや求人検索機といわれる専用パソコンでみることができる。また、厚生労働省が運営するインターネットサイト「ハローワークインターネットサービス」では、どこからでも自由に求人を検索することができる。  ハローワークの求人には、障害者の採用に限定した障害者求人のほか、障害者に限らない一般の求職者を対象とした一般求人がある。まず、障害者求人の中から応募先を探し、希望の求人がない場合は、一般求人も探してみることをお勧めする。一般求人で障害者本人に適したものがあれば、窓口で相談してみるとよい。条件などにもよるが、企業に対して、障害者求人への転換を勧める場合もある。  求人票に記載されている求人条件のうち、特に、仕事の内容、就業場所、就業時間は、障害者本人の特性等に照らして問題がないか充分確認することが必要である。仕事の内容などについて詳細がわからないときは、ハローワークの担当者から求人者に確認してもらうことも可能なので、窓口に相談してみるとよいだろう。 4)ハローワークの求人に応募する際の留意点  応募したい求人がみつかったときには、窓口の担当者に相談すると、求人の内容に合致するか確認の上、求人者に連絡をして、面接日の設定をしてもらえる。面接の前に書類選考がある場合もあるが、この場合は速やかに必要な書類を郵送する。  面接日時は、その場で決めることが多いので、応募の相談をするときには、都合の悪い日など予定を整理しておいたほうがよい。また、支援者が面接に同行する場合には、事前に求人者に連絡しておく必要がある。  応募が決まると、ハローワークから紹介状が交付されるので、面接のときには、この紹介状を履歴書などの応募書類と一緒に求人者に提出(書類選考のときは一緒に郵送)する。  求人者にハローワークから連絡をとってもらった際に、採用担当者の不在などにより連絡がつかなかったために、後日、求職者本人から面接の申込みを連絡する場合もよくある。この際には、ハローワークで求人をみた旨を告げて連絡する。面接が決定したら、ハローワークの担当者に連絡し、紹介状の交付を受けることが必要である。  また、後日、面接日時の変更や面接を辞退する場合には、求人者への連絡はもちろん、ハローワークの担当者にも一言連絡し、情報共有を円滑に行うことが望ましい。  面接の結果は、求人者が本人に通知するとともに、ハローワークにも通知することとなっている。採用となった場合は、就業開始日、労働条件の詳細、企業に求める配慮事項などについて、早めに確認して、就業のスタートに向けた準備を進める。また、不採用となった場合は、次の応募の参考とするために、差し支えない範囲で、求人者に不採用の理由を訊いておくとよい。  なお、障害者を採用した企業に支給される助成金などは、ハローワーク等の職業紹介によることが要件のひとつとなっており、紹介状は、これを証明するものとなる。ハローワーク等を介さずに採用が決定してから、形式的にハローワークの職業紹介を受け、助成金を受給する行為は不正受給であり、処罰の対象となるので、支援者はこの点に留意する必要がある。 5)マッチングのためのその他のサービス  ハローワークには、窓口での職業相談以外にも、マッチングの機会を増やすためのサービスがある。  まず、求職者情報の公開といわれるもので、求職者が自分の希望する仕事や就業条件、特長などを所定の様式に記載して公開すると(名前や連絡先などの情報は公開されない。)、企業からの面接申込みがあったときに、ハローワークが取り次いでくれる。求人者に会ってみたいと思ってもらうためにも、特に能力レベル、アピールポイントなど求人者が関心を持つ事項を記載することが重要である。  このほか、就職面接会(障害者合同面接会等様々な名称がある)といわれる複数の企業が一堂に会して、会場に設けられた各企業の席で、求職者が企業と面接できる催しがある。一度に複数の企業と接することができる絶好の機会なので、積極的に参加したい。また、多くの求職者が参加しているので、他の人の求職活動の様子をみることも参考になるだろう。規模、開催頻度は、ハローワークにより異なる。通常、開催日前に参加予定企業が案内されるので、各企業の求人内容を確認し、面接を希望する企業を絞り込んでおくと、当日スムーズに企業の席を回ることができる。また、面接に当たっては、面接のマナーや企業からの質問への対応などの準備をしておくことも大切である。通常、会場への入退場は自由となっているが、事前に希望を把握するハローワークもあるため、出席の意思をあらかじめ伝えておくとよい。また、面接希望者が多い企業では待たされることもあるので、時間の余裕を持って出掛けたほうがよいだろう。持参品は、ハローワークから案内があるが、履歴書と障害者手帳(またはコピー)の持参を求められることが多い。  これら以外にも、トライアル雇用といわれる、一定期間、企業における試行雇用を行い、その後の継続雇用のきっかけとする制度や公共職業訓練などの援助制度、ハローワークが中心となった障害者就労支援チームによる支援もある(詳細は、262ページ参照)。 6)障害者に対する援助制度、雇用保険制度に関する問い合わせ  ハローワークにおいては、トライアル雇用などの障害者に対する援助制度の手続きや雇用保険の給付も行っている(援助制度の詳細は、256ページ参照)。援助制度の要件、手続きの方法等については、最寄りのハローワークに問い合わせられたい。 第2項 企業へのアプローチの方法 1企業に対する支援の視点の必要性 1)企業を取り巻く現状  最近では、企業の障害者雇用への取組みが活発化しており、就業支援機関に障害者雇用に関する相談が持ち込まれる機会も多くなってきている。その背景には、企業のCSR(企業の社会的責任)への取組みや都道府県労働局、ハローワークによる障害者雇用率未達成企業への行政指導の強化があると考えられる。  また、一部の地方自治体では、公共施設の清掃業務等の入札に価格等に加え就職困難者の雇用や環境問題への取組みも含める総合評価入札制度や、物品調達において障害者雇用を積極的に推進している企業を優遇するなど、企業の障害者雇用への取組みを評価する動きがある。  このように、企業活動における障害者雇用への取組状況が社会的評価や収益に直接影響する時代になっており、企業としても経営上無視できない事項となっている。 2)企業に対する支援の必要性  企業が、障害者雇用に取り組む意思を有しているにもかかわらず、企業担当者が障害者雇用を進める際には、第3章第2節「企業の視点の理解」にあるような様々な課題が存在する。ゆえに、実際には障害者雇用が進まない現状がある。  このような現状において、障害者雇用を進めるためにいくら障害者の働く力を高めても、雇用やその後の職場定着に結びつけるのは難しい。職場対応は障害者という個人と、職場という環境のマッチングであるので、障害者に対してのみ向上や改善を求めていくだけでなく、職場にも改善を働きかけていく必要がある。  これまでは企業に障害者雇用について働きかける場合、行政機関が指導的立場で関わったり、就業支援機関が雇用をお願いする姿勢で関わったりしており、障害者を受け入れるための環境整備や実際の雇用管理は企業自らの努力に頼ることが多かった。しかし、障害者と同様、企業も支援(サービス)の対象としてとらえ、各々の企業において障害者雇用を進めていくための課題を把握し、その課題を解決するための支援を行っていくことが重要となる。 3)企業に対してどのような支援が必要か  障害者への支援が中心となる場合は、企業にある程度障害者雇用の知識や経験があり、職場実習の結果によって採用の見通しがある場合が多く、ゆえに、障害者一人ひとりの障害特性や指導方法に関するアドバイス、職場環境や職務内容の改善に関するお願い、障害者と一緒に働く従業員の人間関係の橋渡しといったことが企業に対する支援の中心となる。  しかし、障害者雇用の経験がなくこれから障害者雇用に取り組もうとしている企業や、身体障害者の雇用経験はあるが知的障害者や精神障害者の雇用に新たに取り組む必要性を感じている企業からは、「障害者が働いていることがイメージできない」「障害者雇用に取り組みたいが何から始めたらいいのか分からない」といった声がよく聞かれる。こうした企業に対しては、障害者が従事する職務の設定や社内の障害者雇用に関する理解の浸透など、障害者の受入れにあたって必要な準備を整えることがまず必要であり、雇用されてからは、職場定着やキャリアアップのための支援を行っていくこととなる。 2障害者雇用のプロセスと支援の内容 1)障害者雇用のプロセス  個別の障害者支援から派生する企業に対する支援は、職場開拓やハローワークからの職業紹介などを通じて、個々の障害者の障害特性の理解や具体的指導方法などに関する支援を行う場合が多い。  一方、企業から障害者雇用の取組みに関する積極的な支援要請があった場合、特に障害者雇用の知識も経験もない企業に対しては、まず障害者雇用への理解を深めてもらったうえで、具体的な障害者の受入れのための支援を行うことが望ましい。障害者雇用に初めて取り組もうとしている企業は一般的に次のようなステップを経る。 ステップ1 ……障害者雇用への理解を深める   ↓ ステップ2 ……受入れ部署や従事する職務などを選定する   ↓ ステップ3 ……人材を募集し、採用する   ↓ ステップ4 ……受入れ態勢を整える   ↓ ステップ5 ……適切な雇用管理を行う   2)各プロセスの支援の内容  @ ステップ1「障害者雇用への理解を深める」 <採用担当者へのアプローチ>  まず企業の採用担当者が障害や障害者雇用の仕組み、制度などについて理解を深める段階。次のような情報を提供していく。 ●障害者雇用率制度、障害者雇用納付金制度の仕組み ●企業を取り巻く障害者雇用の動向 ●障害の種類と障害特性、障害者手帳の種類と障害の程度 ●他社の障害者雇用事例 ●利用できる相談窓口、支援機関の業務と役割(ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、発達障害者支援センター等) ●活用できる制度 特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用、ジョブコーチ支援、障害者雇用納付金制度に基づく助成金、企業等を委託先とする障害者の態様に応じた多様な委託訓練など <ポイント@>「雇用管理マニュアル」などの活用  高齢・障害・求職者雇用支援機構では、企業担当者向けに「障害者の雇用管理マニュアル」、「啓発用ビデオ・DVD」などを作成している。また障害者雇用事例データベース「障害者雇用事例リファレンスサービス」も行っている。これらの資料は図表、写真、映像などを多用し、分かりやすく障害特性や障害者の雇用管理の方法、雇用事例の実際について説明している。これらをうまく活用し、分かりやすい情報提供を心掛けたい。 <ポイントA>各種セミナー、講習会、 事業主支援ワークショップなどへの参加勧奨    各都道府県労働局などの主催により、障害者雇用に関する企業向け講習会やセミナーを行っている。また地域障害者職業センターでも企業に対して事業主支援ワークショップを開催している。これらに参加すると障害者雇用の制度や仕組み、企業からの取組み事例の報告などが聞けるので、企業担当者に参加を勧めてみるとよい。 <ポイントB>企業担当者の理解度や希望に沿った情報提供    一般的に障害者の雇用経験がない、あるいは浅い企業は、障害者雇用といえば肢体不自由者、聴覚障害者、内部障害者等の身体障害者をイメージすることが多い。一方、支援機関では、知的障害者や精神障害者が増えているため、これらの障害者を採用対象として検討することもあると思われるが、障害特性に係る理解が不足している場合、まずは身体障害者から雇用したいとの意向を示す企業も多い。この場合、始めから強引に知的障害者や精神障害者の雇用を勧めると企業との信頼関係にも影響が出てくるので、基本的には企業の意向に沿って身体障害者に関する情報提供や支援を行い、企業のニーズが合うようであれば知的障害者や精神障害者の雇用の提案を行うといったスタンスが望ましい。 <社内合意の形成>  採用担当者など企業内の一部に理解が進んだところで、次に企業全体の障害者雇用に関する気運を作っていくことが重要である。  企業として障害者雇用に取り組んでいくには、いくら採用担当者が前向きであっても経営者や実際に受け入れる現場社員の理解がなければ進まない。支援者は、採用担当者が進めようとしている社内での合意形成等をサポートしていくことが重要である。そのために、障害者雇用に関する社内研修会を開催するのも有効である。    A ステップ2「受入れ部署や従事する職務などを選定する」  障害者雇用について採用担当者の理解が進み、企業内でも気運の高まりや社内合意が得られれば、具体的な配属部署や従事する職務内容について検討していく。  まず企業内の各部署、各職務における障害者配置の可能性について確認・検討していくこととなる。他社の雇用事例などを参考にしながら進めていくこととなるが、適当な職務がなければ障害者向けの職務を新たに創出していくことも必要である。    B ステップ3「人材を募集し、採用する」  受入れ部署や具体的職務が決まれば、障害者の募集活動を行うことになる。一般的には、企業がハローワークに求人を出し、紹介を受けることとなる。また特別支援学校、就労移行支援事業所などにも人材情報があるので、その橋渡しをしたり、ハローワーク主催の就職面接会への参加を促すこともよい。障害者に対する各種援助制度を効果的に活用するためにも、企業にハローワークとの連携の重要性を認識してもらうことも必要である。  また、障害者の採用経験が浅い担当者には、障害特性を踏まえた面接の留意事項などを説明しておくとよい。    C ステップ4「受入れ態勢を整える」  採用する障害者が決まったら受入れ態勢を整えていく。職場での指導者や指示系統、例えば身体障害者の場合は主に施設・設備の改善等を検討していく。受入れ部署の現場社員が不安を持っている場合もあるので、不安や疑問点を把握し、それに対して助言や情報提供を行う。この段階でも支援者が企業に出向き、社員向けの研修会を行うことも有効である。  D ステップ5「適切な雇用管理を行う」  障害特性に応じた作業指導、他の社員との関係作りなどの雇用管理を行いながら、その都度生じる問題を解決し職場定着を目指す。  支援者としては定期的に職場を訪問し、適応状況や課題等の把握に努める。ここでは、ジョブコーチ支援も有効な手段のひとつである。さらに、定着状況を見ながら職務範囲の拡大などキャリアアップを進めることも必要である。   3職務選定、職務創出 1)職務選定 <職務選定の考え方と方法>  企業が障害者雇用に消極的になる理由として「障害者にできる仕事がない」とか「障害者に何を任せたらいいのか分からない」という声がよく聞かれる。実際は、企業内の職務を一つひとつ検証していくと、障害者が対応可能な職務が見つかる場合も多い。企業から前述のような発言があった場合は、まず企業内を見学させてもらい各職務の内容、手順等を確認し、整理のうえ、障害者が従事できそうな職務を提案していく。その際、次のような「職務整理票」を活用するとよい(図2)。   図2 職務整理票 <職務選定の事例>(知的障害者の雇用を想定)   1 企業名   A社 2 業種    医療機器の製造・販売 3 雇用事業所 製品の生産工場 4 職務選定    生産工場を見学しながら、主な職務の手順、頻度、身体負荷などについて現場担当者からインタビューを行い、その結果を表のように取りまとめた。「@納期に縛られないこと」「A判断要素が少ないこと」「B恒常的な作業量を確保できること」を勘案し、bP〜bVのうちbTを主業務、bRとbVを補助業務として障害者を受け入れることを提案した。 No. 作業名 作業内容、作業頻度、身体負荷、難易度 No.1 商品の検品 ・部品の形状や表面のキズの有無を確認 ・数字、アルファベットの判読必要 ・作業には終日3名が従事 No.2 部品の収納、ピッキング ・数字とアルファベットを判読し棚番号を確認しながら収納、ピッキングを行う ・部品数は約 3,000種類 ・作業には終日5名が従事 No.3 配送用の梱包準備 ・配送する製品の大きさや数量に合わせて段ボールを組み立て、緩衝材を入れる ・午前中1時間程度、3名程度が従事 No.4 製品の組立 ・ドライバー等の工具を使用 ・製品の種類は5種類 ・作業には終日約 10名が従事 No.5 輸入製品の開梱、 ラベル貼り、箱詰め ・100個単位のものを 10個単位で詰め直す ・製品は数種類でかわらない ・作業には終日5名が従事 No.6 指示書作成の数値入力 ・エクセルの帳簿に商品番号、個数、日付を入力 ・1日数時間程度、月末に入力が集中 No.7 段ボール解体、整理 ・1日午後1時間程度、手の空いた従業員が行う ・梱包用発泡スチロールと分別し、整理してかごにまとめる 2)職務創出 <職務創出の考え方>  企業内で障害者の強みを十分に生かせるような職務を探しても見つからない場合もある。そのような場合は、障害者向けに新たな職務を創り出すことも必要である。  実際の企業ではパソコンを使った事務作業であったり、工場内のライン作業であったりと、障害レベルの重い身体障害者、知的障害者、精神障害者等にとってはマッチしにくい職務しかない場合もある。また、マッチング可能な職務があっても、仕事量が少ないため雇用に結びつかない場合もある。さらに、精神障害者や発達障害者等でパソコン等の専門的な技能を持ち合わせているにも関わらず、その職務に不得手な要素が含まれることから配置を検討できない場合もある。このような場合は、以下の考え方に基づき職務内容や範囲を決めていくことで、1名分(あるいは複数分)の職務を創出する方法がある。 <考え方1>  各部署の各社員が行っている業務の中から定型的な作業(コピー、シュレッダー、資料の封入など)を切り出し組み合わせることにより、職務を創り出す方法がある。他の社員からすれば、中核の作業に専念できることから、障害者雇用のメリットを直接受けられることとなる。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P105より引用 図3 職務創出の考え方1(切り出し・再構成モデル) 図4 障害者向け職務創出のための社内アンケート例(知的障害者の雇用を想定) <職務創出の例@>(事務関係作業、知的障害者の雇用を想定) <職務創出の例A> (ホームセンター店舗での作業、知的障害者の雇用を想定) <考え方2>  目標とする職務に向け、職業リハビリテーションや能力の向上に必要な時間を考慮し、一定の時間をかけて職務の幅を広げ、多様な業務、専門的な業務、マネジメント等を内容とする職務を担当できるようにすることを目指す方法もある。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P106より引用 図5 職務創出の考え方2(積み上げモデル) <考え方3>  個々の障害の特性、能力や経験の強みを生かす既存の職務や再構成された新たな職務を選びだし、その職務において、特性上難しかったり、不得手な作業や工程については、代償手段(就労支援機器など)の活用、担当の見直しや支援の対象とすることにより、障害者が得意とする分野に専念・特化できるようにする方法もある。 出典)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:”第3節新たな職務創出支援モデル”.精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017.P106より引用 図6 職務創出の考え方3(特化モデル) <考え方4>  清掃など業務請負、派遣社員により対応している業務などを直接雇用障害者の専任の仕事として職務を選定する方法もある。 <職務例> ●企業内の清掃業務 ●社員寮の清掃業務 ●研修所、保養所等の清掃業務 ●工場の緑化業務(含む除草業務) ●ユニフォーム・作業服のクリーニング業務 ●社員食堂、喫茶業務 ●社内メール便配達業務 4企業に対する支援における留意事項 1)サービスの対象者として接すること  障害者に対する支援を行う場合は、障害者をサービスの対象者ととらえ、一人ひとりの気持ちや考えに耳を傾け、職業能力や支援体制などをアセスメントしたうえで希望を確認しながら支援を行うことが一般的である。  それに比べ企業に接する場合は、相手の事情はあまり考えず、雇用してもらおうとひたすらお願いしたり、こちらの意図が伝わらないと「障害者に理解がない」と一方的に決めつけたりしていないだろうか。  企業もサービス対象者(=お客様)ととらえると、「障害者雇用に消極的な理由は何か」「何が障害者雇用を妨げているのか」「障害者雇用への理解度はどの程度か」「どうすれば障害者雇用を前向きに考えてもらえるか」といった視点で考えることができ、企業側のニーズに応じた具体的方策を検討することができる。   2)相手の信頼を得ること  多くの企業は障害者雇用の必要性は理解できているものの、障害者雇用を進めるうえでのいくつかの課題に直面し悩んでおり、その回答を提供したり一緒に考えるパートナーを求めている。支援者が相手に「この人と一緒に取り組めば必ず課題解決できそうだ」と思ってもらい、信頼を得ることがまず第一に重要なことといえる。  相手の企業の信頼を得るためには、まず支援者が「相手を知る」ことである。障害者雇用に関する企業からの相談があると、急ぎ出向いて一生懸命当方の候補者を売りこもうとする人がいる。これは一番まずいやり方である。相手からすれば「わが社のことを何も知らない人が、わが社の障害者雇用について提案をされても、それが本当に良い方法なのか」と考えてしまう。相手の会社に合った障害者雇用プランを提示するためにも、まず行うべきは相手の会社の状況やニーズを正しく理解することである。   3)企業が障害者を雇用する理由や障害者雇用に関する考え方を把握すること  障害者雇用の実績がある企業でも障害者雇用のきっかけや考えは様々である。各々の企業が障害者雇用に取り組む理由(動機)を把握することで、それぞれ対応方法や支援内容のポイントも異なってくる。 <企業が障害者雇用に取り組む理由> @社会情勢の趨勢、広い意味での経営戦略などの観点から障害者雇用に取り組んでいるグループ ・企業のCSRの取組みの一環として  (法令遵守、人材の活用、地域貢献等) ・行政からの要請や指導 ・ノーマライゼションの推進 A人材確保、収益の向上に関して障害者雇用に経営上のメリットを感じているグループ ・雇用している障害者が労働力として充分戦力となっている。 ・求人を出しても応募が少ないなど人材確保が難しい。 ・納付金の納付、助成金の支給、各種援助制度の利用、各種支援機関か らのサポートなどを勘案すると経営メリットがある。 B近親に障害者がいたり、近隣に障害者施設や特別支援学校があり、障害者を身近に感じているグループ ・身内に障害者がいる。 ・障害者施設の職員や特別支援学校の教諭から熱心に雇用を依頼された。   4)採用担当者に説明を行う際の留意点  採用担当者に説明を行う際は次のことに留意する。 @できるかぎり専門用語は使わない。分かりやすい言葉で説明する。 A障害や病気の状態ではなく、働く観点で特性や配慮事項を伝える。 B企業の不安感を払拭するよう前向きな姿勢で話す。  企業に対して障害特性を説明する際、我々支援者にとっては当たり前の言葉でも、企業の担当者にとっては初めて聞くことであったり、使われている言葉の意味が分かりづらい、情報量が多くて分かりづらいといったことが起こりやすい。極力専門用語を使わず簡単な言葉を使うよう気を付ける。また抽象的な表現もできる限り避け、数値や具体的例示による説明を心掛けることが必要である。  加えて、企業は障害状況の情報より、就業現場で何がどのくらいでき、何ができないのか、具体的に何を配慮すればよいかに関心がある。障害状況の説明を専門的に説明するより、就業現場で現れる特性や行動について具体的に説明することが重要である。 (障害特性の説明例)  Aさんは精神障害者で統合失調症という疾患に罹っています。統合失調症とは一般的には幻聴が聞こえたり、考えがうまくまとまらなかったりする症状が起こりますが、最近では定期的に専門医に通院し服薬することでほぼ症状は改善されます。Aさんも通院・服薬はきちんとできており病気自体は安定しています。  ただ病気の後遺症として、疲れやすく、長時間の作業になると集中力がとぎれることや、季節の変わり目に体調を崩しやすいところがあります。  現在は私ども施設に月曜日から金曜日まで毎日通い、午前9時から午後3時まで近隣の企業から受注したノベルティ商品の袋詰めに真面目に取り組んでいますので、やり方が決まった作業でパート就労など1日4時間程度であれば十分に勤務できると思います。  また、説明だけでは実際にどの程度働けるのか不安に感じられると思いますので、まずは職場実習を受けさせていただき、その働きぶりをみてから採用について検討いただくこともできます。前向きに採用をご検討願います。 5)ビジネスマナーの習得  企業にとって、障害者雇用の取組みもビジネスのひとつである。ある意味では支援者は出入りの業者(ビジネスパートナー)の一人と言うことができる。したがって、言葉遣い、電話のかけ方、名刺交換の仕方、訪問時の服装、メール文書の書き方などに関する最低限のビジネスマナーは身に付けておきたい。   6)企業訪問時の準備  企業訪問する前には企業のホームページ等で企業概要(事業概要、組織、従業員数、各事業所<支社、営業所、工場など>の所在地など)を確認しておくことが望ましい。そうすることで、具体的に障害者の受入れ事業所や部署などを検討する際に話がスムーズに進みやすい。  また、障害者雇用も当然ながら業界の景気や雇用の動向、各企業の経営状態などに直接影響される。いくらよい人材であっても雇用枠がない、あるいは少ない場合は、いくら働きかけてもなかなか採用に結び付かないことも多い。また、人事担当者は障害者雇用だけを担当している訳ではなく、多くは従業員全体の採用活動を担当している。支援者が業界や企業状況を理解していると話が進みやすいし、担当者からの信頼も得られやすい。  さらに、障害者の雇用には経営者、人事担当者、現場責任者、現場の従業員等様々な立場の人達と関わることになるが、図7(58ページ)のように、各々の立場によって関心のある事項は異なるため各々の立場を踏まえ対応することが重要である。特に人事担当者は仕事のマッチングだけでなく、雇用形態、給与、社会保険・労働保険の加入など労働条件や助成金などの援助制度への関心が高いので、基本的な労働法規や援助制度の知識は持っておきたい。  説明にあたっては、一般的な障害特性の説明、障害者を雇用する際に活用できる制度などについて分かりやすい資料を自分で取りまとめたり、既存の資料などを用意しておき、状況に応じてすぐに取り出せるようにしておく。企業訪問は交渉の場でもある。段取りが不充分であわてることなく、余裕を持って対応できるよう周到な準備をしておきたい。 図7 企業担当者の関心のある事項 <参考文献> 〇戸田ルナ・刎田文記・岩佐美樹・須田香織:職業リハビリテーションにおける課題分析技法の整理と活用.第11回職業リハビリテーション研究発表会発表論文集.独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2003 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書通刊第133).2017 第3項 ジョブコーチ支援 1ジョブコーチ支援における基本的な考え方 1)ジョブコーチが生まれた理念的背景  1986年(昭和61年)に米国においてリハビリテーション法が改正され、 「援助付き雇用」が制度化されたことにより、わが国の職業リハビリテーションにおいても、従来のレディネスモデルから「援助付き雇用モデル」へのパラダイム変換が図られることとなった。  レディネスモデルとは、職業評価によって明らかとなった能力の不足を職業訓練で補ったり、職業準備性を高めたりすることにより、一定の水準に到達させ、その後就職につなげるという考え方である。  これに対して、「援助付き雇用モデル」とは、訓練してから就職を目指すのではなく、まず企業を紹介し就職した後に、その職場で求められる具体的な作業能力や対人対応力を直接的に引き上げるとともに、能力を発揮しやすいよう職場環境(物理的環境、人的環境、要求水準等)の方を調整するという考え方である。ジョブコーチは、この「援助付き雇用モデル」の考え方のもとに生まれたものである。   2)環境調整と企業に対する支援の視点  ジョブコーチ支援では、職場での支援が中心になるため、障害者に対する支援もさることながら、職場環境の調整や企業に対する支援の視点が極めて重要になる。    @ 本人を変えるか、環境を変えるか  レディネスモデルは“就職までの支援が中心”であり、ジョブコーチ支援は“就職後の職場での支援が中心”といえる。この職場での支援の方法には実は2つしかない。a本人を変えるか、b職場環境を変えるかである。前者は、本人が作業遂行力を習得したり、職場で求められる行動様式を身に付けたりすることなどであり、後者は、作業工程を単純化したり、上司に適切な指示の出し方を習得してもらうことなどが該当する。この2つの方法は二者択一的なものではなく、相補的に適用されるものである。就職までの支援に慣れ親しんだ者には、どうしても本人を変えることに目が行きがちであるが、課題に応じて、どちらがより効果的であるかなどの観点から柔軟に適用するべきであろう。本人を変えることに制限があるほど、それを補う環境調整がウエイトを占めることになる。  A なぜ企業に対する支援の視点が重要なのか  第2項の「企業へのアプローチの方法」でも述べられているように、障害者雇用に当たって、企業は職務設定や指導方法、安全面の配慮等で課題を感じ、支援を必要としている。また、障害者の現状、障害特性、雇用支援制度等に対する知識不足や誤解から、企業が誤った対応をしてしまい、その結果、不適応状態となったり、離職を余儀なくされてしまうケースも多くみられる。  ここに企業に対する支援の必要性があるのであり、ジョブコーチは職場において必要とされるこれらのニーズにタイムリーに応えていく役割を担っている。 3)ナチュラルサポートの形成の視点  ジョブコーチ支援は、障害者が自分の能力に応じた役割と責任を持って働けるようになるとともに、企業が障害者を職場の一員として自然に受け入れ、無理なくサポートできることを目指している。ナチュラルサポートの形成においては、一般に、障害者を受け入れた企業の従業員が職場で障害者を支えることのできる体制づくりが重要となる。  「体制」と言うとつい大仰なことを想像してしまうが、むしろ何気ないちょっとしたことの方が多い。一方で、何気ないことであるが故に気づきにくいという側面もある。  例をあげれば、車いす使用者が段差のあるところをスムーズに移動するにはスロープが有効になるということは分かりやすい。しかし、知的障害や精神障害のように目に見えない障害を持つ者の就労における「段差」とは何か?そしてそれを埋める「スロープ」とは何か?といったことは一見分かりにくい。  例えば、質問をする場面で考えてみる。  分からない時に質問をすることは、自らが「分かっていないこと」を認識していることが前提となる。しかし、知的障害者の中には、分かっているのか分からないのかの認識が曖昧なために質問できない者もいる。その一方で、周囲は「分からない場合は質問するはずだ」と認識することもある。この認識の違いが「段差」であり、その「段差」を埋めるためには、本人の理解度に合った指示や声掛けなどの対応が必要となる。ジョブコーチがこれらを企業の従業員に伝えることで、誤った方法で作業をしていたら、本人に「分かった?」と聞くのではなく、具体的に修正をするといった本人の特性に合った対応方法が行われるようになる。このような何気ないこと(配慮)が「スロープ」となり、それがナチュラルサポートの一つとなる。 2ジョブコーチに関する制度 1)国のジョブコーチ制度  現在、国のジョブコーチ支援制度においては、3種類の職場適応援助者(ジョブコーチ)がある。地域障害者職業センターの職員である配置型ジョブコーチ、社会福祉法第22条に規定する社会福祉法人その他障害者の雇用の促進に係る事業を行う法人の職員等である訪問型ジョブコーチ、障害者を雇用する企業に雇用される企業在籍型ジョブコーチである。1)  なお、それぞれのジョブコーチの特徴は下ページの表のとおりである。 ジョブコーチの 種類 特徴 配置型 ジョブコーチ 地域障害者職業センターに配置するジョブコーチ。就職等の困難性の高い障害者を重点的な支援対象として自ら支援を行うほか、訪問型ジョブコーチおよび企業在籍型ジョブコーチと連携し支援を行う場合は、効果的・効率的な支援が行われるよう必要な助言・援助を行う。 訪問型 ジョブコーチ 障害者の就労支援を行う社会福祉法人等に雇用されるジョブコーチ。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等が実施する訪問型職場適応援助者養成研修を修了した者であって、必要な相当程度の経験および能力を有する者が担当する。地域障害者職業センターが策定、または社会福祉法人等が作成し地域障害者職業センターが承認した支援計画に基づき支援を実施。 企業在籍型 ジョブコーチ 障害者を雇用する企業に雇用されるジョブコーチ。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等が実施する企業在籍型職場適応援助者養成研修を修了した者が担当する。地域障害者職業センターが策定、または企業が作成し地域障害者職業センターが承認した支援計画に基づき支援を実施。    @ 職場適応援助者助成金(訪問型職場適応援助者助成金、企業在籍型職場適応援助者助成金)とは  本助成金は、職場適応に特に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を実施する場合に助成するものであり、障害者の職場定着を図ることを目的としている。  A 職場適応援助者助成金を活用するには 【訪問型ジョブコーチによる支援】 イ.主な支給要件  受給できるのは、次の要件等を満たす法人 (1)次の@〜Dのすべてに当てはまる対象障害者の職場適応のために、地域障害者職業センターが作成または承認する支援計画(以下「支援計画」という。)において必要と認められた支援を、訪問型ジョブコーチに無償で行わせた法人。 @ 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病のある者、高次脳機能障害のある者、またはその他援助を行うことが特に必要であると(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が認める者のいずれかに該当する者、かつ地域障害者職業センターが作成する職業リハビリテーション計画において、訪問型ジョブコーチによる支援が必要であると認められる者 A 次のいずれかに当てはまる者   ・常用雇用労働者(1年超の雇用が見込まれる雇用保険被保険者等)、または、精神障害者であって1週間の所定労働時間が15時間以上の者で、支援対象事業主に雇用されている者  ・支援計画の開始日から2か月以内に常用雇用労働者(精神障害者であって1週間の所定労働時間が15時間以上の者を含む)として支援対象事業主に雇い入れられることが確実な者 B 当該対象障害者のための支援計画がある者(障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型の事業所の利用者としての就労を継続するための支援に関する支援計画を除く) C 本助成金のうち企業在籍型ジョブコーチによる支援の対象者として現に支援されていない者 D 国等に採用された者または採用されることが確実な者でないこと。   ※訪問型ジョブコーチは、次のすべての要件を満たす者をいう。  ・訪問型職場適応援助者養成研修等の修了者であること  ・障害者の就労支援に係る業務経験が1年以上ある者であること  ・支給対象法人の役員等が訪問型ジョブコーチとして活動する際に、労働災害に対応できる傷害保険等に加入していること  ・国等の委託事業費または補助金等から人件費の全部が支払われていないこと (2)対象障害者を雇用する事業主からの要請を受けて、当該対象障害者の職場適応を図るため、支援計画に記載された次の@〜Gの支援を実施した法人。  @ 支援計画書の策定  A 支援総合記録票(フォローアップ計画書)の策定  B 支援対象障害者に対する支援  C 支援対象事業主に対する支援  D 家族に対する支援  E 精神障害者の状況確認  F 地域障害者職業センターが開催するケース会議への出席 G その他の支援(地域障害者職業センターが、職業リハビリテーション計画に基づき必要と認めた支援) ロ.助成金の支給額  支給額は、次の@とAの額の合計 @ 支援計画に基づいて支援を行った日数に、次の日額単価を掛けて算出された額  ・1日の支援時間(移動時間を含む)の合計が4時間以上(精神障害者は3時間以上)の日16,000円  ・1日の支援時間(移動時間を含む)の合計が4時間未満 (精神障害者は3時間未満)の日8,000円 A 訪問型職場適応援助者養成研修に関する受講料を法人がすべて負担し、かつ、養成研修の修了後6か月以内に、初めて支援を実施した場合に、その受講料の1/2の額 【企業在籍型ジョブコーチによる支援】 イ.主な支給要件  受給できるのは、次の要件等を満たす事業主 (ただし、ジョブコーチごとに、申請事業所(雇用保険適用事業所)における支援計画は1回に限る) (1)次の@〜Cのすべてに当てはまる対象障害者の職場適応のために、地域障害者職業センターが作成または承認する支援計画(以下「支援計画」という。)において必要と認められた支援を、企業在籍型ジョブコーチに行わせた事業主。 @ 身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病のある者、高次脳機能障害のある者、またはその他援助を行うことが特に必要であると(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が認める者のいずれかに該当する者 A 常用雇用労働者(1年超の雇用が見込まれる雇用保険被保険者等)(精神障害者であって、1週間の所定労働時間が15時間以上の者を含む) B 当該対象障害者のための支援計画がある者(障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型事業所の利用者としての就労を継続するための支援に関する支援計画を除く) C 本助成金のうち訪問型ジョブコーチによる支援対象者として現に支援されていない者   ※企業在籍型ジョブコーチは、次のすべての要件を満たす者をいう。  ・常用雇用労働者であること  ・企業在籍型職場適応援助者養成研修等の修了者であること  ・養成研修修了後、初めて支援を行う場合、地域障害者職業センターが指定する配置型ジョブコーチとともに支援を行うこと  ・支給対象期間に、本助成金以外の支給対象障害者として支援している者の数の合計が2以下であること  ・本助成金等の支給対象障害者として現に支援されている者でないこと  ・国等の委託事業費または補助金等から人件費の全部が支払われていないこと (2)支援計画に基づく対象障害者の職場適応を図るための次の@〜Cの支援を実施した事業主  @ 支援対象障害者と家族に対する支援  A 事業所内の職場適応体制の確立に向けた調整  B 関係機関との調整 C その他の支援(地域障害者職業センターが特に必要と認めて支援計画に含めた支援) ロ.助成金の支給額  支給額は、次の@とAの額の合計 @ 次の「支給額」に示す1人あたりの月額に、支援計画に基づく支援が実施された月数(6か月を上限。実施する支援の回数や対象障害者の出勤割合等の条件あり)を乗じた額 対象障害者 支給月額 障害の種別 雇用形態 中小企業 中小企業以外 精神障害者 短時間労働者以外の者 12万円 9万円 短時間労働者 6万円 5万円 精神障害者以外 短時間労働者以外の者 8万円 6万円 短時間労働者 4万円 3万円 A 企業在籍型職場適応援助者養成研修に関する受講料を事業主がすべて負担し、かつ、養成研修の修了後6か月以内に、初めての支援を実施した場合に、その受講料の1/2の額 2)地方自治体のジョブコーチ制度  内閣府が公表している資料2)によると、国のジョブコーチ制度以外にも、地方自治体において国のジョブコーチに類似した事業やその養成等が展開されているが、それぞれ自治体によって事業内容は異なる。 3ジョブコーチ支援のプロセス 1)アセスメントからフォローアップまで  ジョブコーチ支援のプロセスは、大まかにアセスメント→支援計画の策定→支援の実施→フォローアップに分けられる。 2)集中支援と移行支援、支援期間、支援開始のタイミング  @ 集中支援と移行支援  支援は、支援頻度が多いまま永続されるものではなく、徐々に支援頻度を減らして(フェイディング)、最終的には企業内の無理のない支援体制(ナチュラルサポート)により、障害者が安定して就業を継続していくことができる状態を目指すものである。そのため、支援は、職場適応のための課題解決を図りながら企業内の支援体制の構築に向けた支援を集中して行う過程と、ジョブコーチ主体の支援から企業主体の日常的な支援・指導体制(ナチュラルサポート)に移行する過程に分けられる。前者を「集中支援期」、後者を「移行支援期」という。  A 支援期間  支援期間は、職場適応援助者助成金における訪問型ジョブコーチによる支援においては、最長1年8か月(精神障害者の場合は最長2年8か月)までとし、集中支援期および移行支援期(あわせて最長8か月)およびフォローアップ期間(最長1年)からなるものとされる。また、精神障害者については、必要に応じて通常のフォローアップ期間の後に、状況の確認等を行うための追加のフォローアップ期間を設定できるものとされる。なお、集中支援期および移行支援期は個別に必要な期間が設定され、標準的な支援期間は、2か月から4か月である。  B 支援開始のタイミング  配置型ジョブコーチおよび訪問型ジョブコーチによる支援においては、雇用前、雇用開始時および雇用後のいずれからでも開始できる。 a 雇用前(訪問型ジョブコーチによる支援においては、支援対象障害者が、支援の開始日から2か月以内に雇い入れられることが確実な場合) 雇用前に対象障害者に適した職務内容等を見極める場合。 職場環境になじむためには雇用前から雇用後にかけて、長期的な支援が必要な場合。 制度としては、障害者委託訓練(障害者の態様に応じた多様な委託訓練)との併用はできない。 b 雇用開始時 福祉機関や学校等で職場実習を実施し雇用が決まったが、雇用後においてもしばらくは継続した支援が必要な場合。 雇用は決まったが、企業に障害者雇用の経験がなく、不安があるため支援が必要な場合。 制度としては、トライアル雇用との併用は可能である。 c 雇用後 支援機関がフォローアップを行う中で、更に支援が必要な場合。 今まで就業支援を受けたことがないが、障害者や企業等の状況から支援が必要と判断された場合。 4ジョブコーチの支援方法・技術 1)一日の流れを把握する(職務分析)  企業に入ってまず注目するべきことは、支援対象者の職務である。その職務について、いつ何のために何をどのようにするかを分析し記述することを職務分析と言う。その職場の職務を分析することで、対象者にできそうな職務を再構成することも可能となる。  この職務分析は、後述するタイムスケジュールを作成する際の元データともなる。 2)行動をコントロールする(機能分析)  人間の行動はあるきっかけによって生起し、その行動の結果次第で同じ行動が継続したりしなかったりするという考え方がある。  例えば、挨拶をするという行動について考えてみる。朝、職場で知っている人に出会ったので(きっかけ)、「おはようございます。」と言う(行動の生起)。相手が「おはようございます。」と返してくれる(結果)。この場合、きっかけ(=知っている人に出会う)がなければ、挨拶という行動は生起しないし、相手からの返答がなければそのうち挨拶もしなくなる。これがきっかけと結果が行動をコントロールするという考え方で、「きっかけ」「行動」および「結果」の3つの項目の機能を分析する方法を機能分析といっている(図8)。  機能分析の視点を持つことで、例えば不適応行動がどんなきっかけで起こり、どんな結果で強化・維持されるかを分析的に理解することができる。 図8 機能分析(行動をその前後のきっかけや結果との関連でとらえ、それらの機能を明らかにする分析) 3)行動を習得する(課題分析)  そもそも挨拶という行動そのものができなければ、きっかけがあっても行動は生起しない。行動そのものができない場合、行動を一連のステップからなると考え、どのステップでつまずいているのか、その行動を時系列に細かく分けて分析する方法を課題分析と言う。  これは料理で言えば、レシピに相当する。例えば、目玉焼きを作るという行動ができない場合を考えてみる。目玉焼きを作るという一言で表される行動も、次のように細かいステップに分けることができる。 【目玉焼きを作る】 1.卵はあらかじめ室温に馴染ませておき、割って器に入れる。 2.ガスコンロに点火する。 3.ガスコンロにフライパンを乗せる。 4.フライパンをよく温める。(煙が出るくらい) 5.フライパンに油を薄くしき、温める。 6.油もよく温まったら火を弱火にする。 7.フライパンに1で割った卵をそっと入れる。 8.フライパンに蓋をする。 9.1分加熱する。 10.黄身の表面に白い膜が張ったら火を止める。 11.フライ返しで目玉焼きをすくい皿に盛り、お好みで塩、コショウをふる。  目玉焼きをうまく焼けなくても、1〜 11のステップで対象者の行動を観察し、どこでつまずいているのか特定することができれば、そのステップを集中的に反復練習したり、別の方法を工夫したりすることで全体の動作(料理)を習得できるようになる。白身に油の跳ねが多く付いているのであれば、5で油のしき方を反復練習することになるし、また、黄身が固くなりすぎていれば、9で1分計を用いるという工夫も考えられる。この課題分析は、後述する作業手順書を作成する際の元データともなる。  なお、ステップの分け方は、無数にあると言ってもよい。対象者の理解度に合わせていくつかのステップを統合したり、さらに細かいステップに分けて表現することも可能である。 4)環境の構造化の考え方  行動が起こるには、きっかけが明確になっている必要がある。行動を起こす合図や目印が出ていても、それが曖昧なもので本人がそれと認識できなければ行動は起きない。このきっかけが明確になるように、環境を視覚的に分かりやすく整理、再構成することを「環境の構造化」と言う。例えば、学校の時間割表も環境の構造化の一つで、何曜日の何時間目に何をするのか一目で分かるようになっているので、クラスがまとまって行動できるわけである。代表的な環境の構造化には以下のものがある。 5)さまざまな支援ツール  この環境の構造化の考え方をベースに、本人の課題に応じて様々な支援ツールを工夫することができる。 <時間の構造化>  「タイムスケジュール」は一日の流れを示したもので、時間の構造化によって、行うべき作業の見通しが持てるようになる。 <場所の構造化> 事務室掃除方向  この事務室はゾーンによって掃除する方向を変えた方が効率的であった。そのため、各ゾーンを色分けし、ゾーン毎に掃除方向を明示したものである。 <方法の構造化>  手順書をどのように使用するかによって、携行型、掲示型に分けることができる。 6)その他の環境への働きかけ  @ 疲労をコントロールする  ストレスをコントロールすることは一般的には難しいが、疲労をコントロールすることで間接的にストレスをコントロールすることができる。具体的には、勤務日数、勤務時間、職務内容を調整することで、疲労をコントロールする。  例えば、精神障害があり疲れやすいため一日4時間の就業がその時点で限度である場合、いきなり8時間就業することは負担が大きくなり、体調を崩すことにつながることが懸念される。この場合、企業と交渉し、就業時間を4時間から始めて段階的に延長していくことができないか調整する。  A モチベーションを向上させる  機能分析の項で述べたように、人間の行動は、行動が生起した際の「結果」、つまりどのようにフィードバックされるかに左右される。この考えに基づき、作業の結果に対するフィードバックを行う中で対象者のモチベーションの維持・向上を図ることができる。  例えば、単独で行う清掃業務は、日常的に人との接触が少なく、フィードバックがないとどうしてもモチベーションが低下してしまう。この場合、作業の区切り毎に、キーパーソンに報告することをルール化し、出来映えについてチェックしてもらうようにする。この場合、「報告−フィードバック」がモチベーションの維持には不可欠であることをキーパーソンに理解してもらえないと仕組みは形骸化してしまうので、いかに理解してもらうかがポイントとなる。また、図9のようにリーダーの確認欄を組み入れたチェック表を活用する方法もある。対象者の自己チェックだけでなく、上司のフィードバックがあると評価のズレに気付き、言葉かけが励みになる。 図9 トイレ掃除チェック表  B 周囲の理解を促す  ナチュラルサポートを形成するために、企業や周囲で働いている人に理解してもらう必要があることは2つある。1つは、障害特性と適切な対応法である。もう1つは、対象者の就業を支える仕組み(これがなくなれば就業を継続していくことが危うくなるというもの)である。   a 障害特性を伝える  障害特性を伝えることはそれ程簡単ではなく、誠意を持って分かりやすく説明すれば伝わるというものでもない。相手が聞く耳を持っているかどうかを的確に判断し、最も効果的なタイミングを図る必要がある。イメージが正確に伝わり、自ずと適切な対応法が連想できるような説明が理想であるが、そのためには、相手の知識、興味関心、思考パターンなどのバックグラウンドに合わせたコミュニケーションツールの開発も必要になる。  1度や2度の説明で伝えようとする必要はないが、ジョブコーチは、何をどのタイミングでどのように説明するか絶えず意識している必要がある。 「統合失調症」を説明するコミュニケーションツールの例   b 就業を支える仕組みを伝える  ジョブコーチと企業の担当者が協力して作った仕組みが、企業の中で形式だけ引き継がれ考え方が引き継がれないとせっかく作った仕組みも形骸化してしまい、果ては担当者が替わって背景が分からなくなると「何でこんなことしてるの?面倒だし、止めたら?」ということになりかねない。  例えば、分からないことがあっても質問できず、周囲から孤立し被害的になり休職してしまった精神障害者を復職支援したケースでは、支える仕組みとして、定期的に上司に報告することとし、それにより、本人が作業のできばえを確認できることが安心感につながり、また、評価されることでモチベーションの維持につながった。この場合、なぜ、対象者には仕事の区切り毎に「報告する」というルールが必要なのか、対象者にとっての報告行為の意味合い、そのメカニズムを企業や周囲で働いている人に理解してもらう必要がある。  ただし、難しいのは知らないうちに仕組みが消失し職場で課題が発生しないと、その仕組みの大切さがなかなか理解できないというところである。 7)ナチュラルサポートの言語化  定着支援を実施する機関は、地域障害者職業センターに加え、障害者就業・生活支援センター、障害者就労移行支援事業所、障害者就労定着支援事業所、特別支援学校等近年ますます多様化している。定着支援を一つの機関から別の機関に引き継ぐというケースも増える中、ナチュラルサポートの形成とその修復(メンテナンス)を複数の機関で分担する場合、ナチュラルサポートの実態に対する共通理解が不可欠となる。  ナチュラルサポートの実態の全てを言語化することは難しいにしても、本人の就労を支えている要素とその機能を明らかにすることは可能であろう。それには「もし〇〇が無くなれば本人の就労は危うくなるかも知れない」と思われるものを考えればよい。この「〇〇」に当たるものが就労を支える要素となる。この要素はジョブコーチが新たに作った仕組みのこともあれば、職場に元々あった風土や暗黙のルールのこともある。さらに、ジョブコーチがこの要素の安定度までアセスメントでき、それらが引き継がれれば支援機関は切れ目のない支援がしやすくなり、企業にとっても障害特性に留意した自立的な雇用管理が可能となり得る。 おわりに  ジョブコーチ支援は、企業の内外で障害者の就業を支える仕組みを作る作業と言える。  現場の状況を正確に把握し(本人と取り巻く環境のアセスメント)、設計図(支援計画)に基づき就業を支えるために必要な柱を企業の内外で打ち立てる。言わばジョブコーチは「大工さん」なのである。もちろん一旦構築した仕組みは、半永久的に存続するわけでない。長い間には、風雨にさらされることもあるだろうし、時には地震にも見舞われるかも知れない。それを可能な限り予測し防災対策をとる。その都度柱の立替えであったり、土台の補強などのメンテナンス作業、場合によってはリフォーム(再度の集中支援)も必要になる。何年たってもきちんとメンテナンスしてくれることが保障されていれば(フォローアップ)、安心して働けるし、安心して雇用できることになる。 ナチュラルサポートの言語化(例) <引用文献> 1)厚生労働省:"職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について".  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html 2)内閣府:"都道府県・指定都市における単独事業等一覧(平成 26年度施策分野別)".  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/h26jigyo/sisakubetu.html <参考文献> 〇小川浩:重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門.エンパワメント研究所.2001 〇(財)雇用問題研究会:職務分析の理論と実際.1982 〇東京しごと財団 障害者就業支援事業:"東京ジョブコーチ支援事業".  https://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/yourself_supporter/job_coach/index.html 〇松為信雄・菊池恵美子編集:職業リハビリテーション学(改訂第2版)キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系.協同医書出版社.2006 〇小川浩ほか:重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ実践マニュアル.エンパワメント研究所.2000 〇梅永雄二:親、教師、施設職員のための自閉症者の就労支援.エンパワメント研究所.1999 第4項 就業支援と生活支援 1就業支援における生活支援とは(基本的な考え方)  障害者の就業支援は、「就職」と「職場定着」が主たる目的であるといえる。この「職場定着」を考える際、必要不可欠なのが生活支援である。社会福祉において既に生活支援という言葉に接している方が多いと思うが、ここでは就業支援に伴う生活支援という視点で考える。  障害者は職場において支援者の支援のもと、様々な課題に取り組む。支援を受けることによりステップアップし、課題を克服し、職場での定着を図る。これと同様のことが支援対象者の生活面においても必要になる。生活面における就職以前の状況(在宅、福祉施設への入所・通所、特別支援学校への通学等)とのギャップが、時として就業継続に大きな問題を生む要因となるからだ。  自分自身のことを考えてもらうと分かりやすい。私たちを取り巻いている社会は職場だけであろうか。家族、友人、趣味を共有する社会、買い物など自分の欲求を満たすための社会、様々な要素が我々の社会を構成している。そして職場以外の様々な事柄が、時として職場での能率に影響を及ぼす。  障害者にとっても全く同様である。職場は占める割合こそ大きいが、複数ある要素のうちの一つにすぎない。そのため、たとえ一要素である職場において状況が安定していても、他の要素が不安定な状況であれば職場での状況にも大きく影響し、結果として職場定着が困難になる。例えば家庭における問題、相談しにくい悩み事、友人との金銭トラブル、未経験な事象への対応などがこれに当たる。そこで、職場での定着を目的とした生活支援が必要になる。  ここで、「就業支援における生活支援」とするのは、支援対象者が就業に向けて取組み中であるからであり、一般の生活支援と特別な相違はない。福祉施設の利用や生活保護の利用など、就業者には直接的に関わらない事柄は、就業支援における生活支援の対象外であると考えられがちであるが、「世帯」として支援を展開する際には必要な情報になる。唯一の相違は支援の主目的が「働き続けること」を支えるという点である。  つまり、生活支援とは、職場での直接支援を除いた、障害者の就業を安定的なものにするためのあらゆる支援を指すことになる。   2生活支援の内容と方法  障害者の生活支援を考える際に「ここまで」という基準はない。状況に応じて発生した課題(困難)に対して、その都度対処していくことが必要になる。臨機応変さと地域資源に関する豊富な情報と知識が必要になる。  生活支援の内容については、職場において明確に事象として現れることへの支援と、生活全般における支援とに大別することができる。本来すべての問題にはつながりがあり、分類することは意味のないことかもしれないが、ここではより着眼点を見つけやすくする目的で分類して考察したい。また、継続して働き続けるために必要な要素である余暇支援についても考えたい。   1)就業に直接関わる内容について  ここでいう就業に直接関わる生活支援の内容とは、職場での仕事に直接的に影響し、職場において課題が顕著に現れる事象のことを指す。職場における清潔感の欠如や、欠勤・遅刻の常習などがこれに当たる。表1に支援が必要な事象と実際の支援方法について例を挙げる。  表中の「原因として考えられること」の欄を見ると、一つの事象について実に様々な要因が考えられることが分かる。例えば「遅刻」という事象について考えてみる。 表1 支援が必要な就業に直接関わる事象と支援方法 支援が必要な事象 原因として考えられること 支援方法(対象) 常習的な遅刻欠勤 朝寝坊、夜更かし、時間の組み立てに関する困難、家庭環境、通勤時の問題等 状況の把握(聴き取り、面談)を行い、適宣対処、家庭(保護者)との話合いによる協力要請 身だしなみ (清潔感の欠如等) 経験不足、家庭環境、こだわり等 具体的な方法を支援(髭剃り、洗顔、整髪等)、家庭(保護者)との話合いによる協力要請(入浴、洗顔、更衣、洗濯等に関することについて) 昼食の過剰摂取、不摂取、栄養バランスの欠如 家庭における状況把握の欠如、物理的に支援困難な家庭の状況、欲求(食欲)の制御困難な状況 家庭状況の把握、具体的な打開策の提示(仕出し弁当の注文など) 作業中の集中力不足、 居眠り等 夜更かし、意欲低下等 家庭の状況把握、本人からの聴き取り、「働く」ための生活のリズムの提示等、服薬等に関する相談 職場での他害、物損等 耐える力の不足、コミュニケーションの問題(人間関係)、余暇の不足等 本人からの聴き取りによる状況把握、職場での関係把握、SSTの活用、余暇の状況把握、模索  実際に職場で遅刻が大きな問題となった場合、どのようなことから支援に着手するだろうか。  「遅刻しないようにしなさい」と注意するだけで済めばこれに越したことはない。しかし、遅刻という事象の原因が何であるかが分からなければ対処することができない。仮に遅刻の原因が「寝坊」であれば、対処としては目覚ましをセットすることや、家族に起こしてもらうということが妥当であるといえる。「自立」という観点で考えると、前者がより的確であり、後者は避けたい支援方法ではあるが、直接支援の方法としては間違いではない。しかし、寝坊の原因が根深いものである場合は、そこにも支援の必要性が発生する。仮に夜更かしが原因であれば、目覚ましのセットよりもむしろ生活習慣(夜更かし)の改善が必要になる。また、夜更かしを余儀なくされる家庭環境であれば、本人に対する支援よりも、むしろ家族を巻き込んだ生活環境の改善が必要になり、支援は本人のみならず家族にまで波及する。  このように職場において「遅刻」としてしか現れない事象の背後には、実に様々な要因が含まれていることが多く、その場合には家庭環境に踏み入った支援が必要になる場合が少なくない。  支援者が支援に入る際に最も重要なことは、見えている事象がどのようなことに起因し、どの部分に対して支援が必要かということを充分に検証することである。そのためには、本人・家族から状況について充分に「聴く」ということが必要になる。充分に聴くことによって状況をしっかり把握し、より効果的な支援を行うことができるからである。同時に、目の前で起きている事柄をよりスピーディに解決するということと、その根本的な課題にアプローチするという二つの支援を同時に展開することも必要になる。職場における課題(問題)は、即時解決すべき事象であると同時に、根本原因の克服には時間を要する場合が多いからである。  また、支援を行う際に企業と支援の範囲について認識を共有する必要がある。雇用主である企業が求める以上の支援は、時として不安定な状況をまねく原因にもなり得る。特に生活面における支援は職場における課題と関連する事項が多く、これらのバランスが重要になるため、常にベストの状況をゴールに見据えることはできない。企業と「ここまで」という支援の範囲を共有する必要がある。   2)就業の場面では見えない内容について  次に、就業の場面では具体的に問題として見えない(見えにくい)事柄について考えてみる。就業支援を行う際に、職場にだけ目を向けていればよいのだろうか。確かに職場において問題が発生した場合に対処することが就業支援の大きな役割ではある。しかし、我々が職場で働いている時間は一体どれくらいであろうか。仮に週休2日制・1日実働7時間(拘束8時間)の職場に勤めているとすると、1週間のうち職場で過ごす時間は40時間になる。1週間は168時間なので、職場以外の時間は128時間にもなる。1日8時間睡眠をとったとして睡眠時間を差し引いても、72時間は職場以外(睡眠時を除いた)で過ごしている計算になる。職場とそれ以外の場所での生活時間の比率が約4:7ということをみても、いかに職場以外で過ごす時間が長いかが分かると思う。  このような状況において、職場でしっかりできているから大丈夫ということは少々油断しているといわざるを得ない。職場を出てから帰宅までの時間、休日、更には自宅においてもパソコンや携帯電話で外界とつながっており、支援が必要になる状況に陥る可能性は常に絶えない。とはいえ、一緒に生活をしている訳でもなく、毎日家庭訪問を行う訳でもないので、職場以外での状況の把握は非常に困難である。また、問題が顕在化しない限りは、それに気付くこともできないであろう。では、どのようにこれらの課題に取り組むことができるのだろうか。ここでは一つ例を挙げて考えてみたい。   表2 ケース例  表2の例は、事象として現れるまでにいくつかのサインがあり、最終的に職場における問題に発展してしまったケースである。ここではまず職場での様子に注目していただきたい。  表における@〜Cにおいては問題として見てとれる事象はない。むしろ彼女ができたことが仕事へのモチベーションにつながりよい評価を得るかも知れない。Dに至り、初めて本人に異変が起きていることに気付くであろう。このように、この事例においては職場のみでは把握できない問題が発生しているといえる。  では、家庭の様子からは異変は見てとれないだろうか。  例えばAを見ていただきたい。もし家族との連絡の中で、「自室にこもりがち」という事実がつかめていたらどうであっただろうか。少なくとも本人に訊いてみることぐらいはできるであろう。そこですべてが把握できて解決ができるわけではないが、注意を払うきっかけにはなるだろう。ここで気にかけていることができれば、Bにおける事象は問題の発生を確信させる内容であるといえないだろうか。さらにCの事象に至れば、本人・家族と話をする場面を設けることができるであろう。  結果として、D、Eのような事態になるとしても、職場での把握のみでいきなりDの事象に当たるよりは迅速な対応が可能になる。  このように、職場だけではなく家庭等における様子の把握は、生活支援において非常に重要になる。そのため、生活支援を行う場合には家族、グループホームの世話人、ケースワーカーなど、支援対象者が最も話をしやすい人との連絡調整が不可欠になる。支援対象者を取り巻く環境を充分に把握することが必要といえる。 3)働き続けるための支援(継続的な就業のために)  就業支援における生活支援を考える際には「働き続ける」ということがキーワードになる。もちろん職場での安定した作業や人間関係構築に向けた支援が必要なことはいうまでもない。前述したように生活支援のために家族等との連携も不可欠である。ここでは更に安定した就業のために必要な要素である余暇支援について考察したい。 〇余暇支援  就業を継続するうえで、余暇は重要な要素になる。自分たちのことを考えてみよう。もちろん生活のために仕事をするのだが、果たしてそれだけであろうか。毎日仕事と家の往復で、土日も出掛けないというような生活はかえって不自然ではないだろうか。  働いた対価として得た給料を自分の余暇のために使うことも重要な社会経験であり、働き続けるためにはとても大きな要素になる。しかしながら、彼らが就業する先である企業において、常に余暇活動が準備されている訳ではない。特例子会社など障害者雇用を主たる目的としている企業においては別かもしれないが、多くの企業においては就業時間以外は個人の自由というスタンスである。  支援対象者がこれまで所属してきた機関(学校、福祉施設、デイケア等)においては常に余暇活動が準備されており、自分で余暇を探すという必要性はなかった。もちろん自分で休日を楽しむ方もたくさんいるが、社会経験の少ない障害者の中には余暇に関しても経験不足の方が多い現状がある。そのため、就業後も職場に多くのことを求めてしまい「つまらない」 「友人ができない」等の理由が課題になるケースも少なくない。「よく働きよく遊ぶ」が理想であり、余暇の充実は安定した就業継続に直結するといえる。職場を「働く場」として位置づけるためにも「余暇の場」が必要になるのである。  余暇支援において問題になるのが、実際の余暇の確保や金銭の使い方、友人との人間関係等になる。就業者の多くは平日勤務であり、土日祝日が休日になる。このような場合は、土日における余暇支援および就業時間後の支援が想定される。現状において就業時間後の支援は資源の少なさなどから困難であり、就業先企業に委ねることになる場合が多い。また、土日の余暇に関しても、施設等の余暇活動は平日に多く、土日の継続的な機会を確保することは難しい。そのため、就業者の余暇支援は定期的に開催される就業者を対象とした余暇活動の情報提供と、就業者本人主導による土日の活動に対する助言等が主になる。  定期的な余暇活動を確保するためには、地域資源に関する情報が必要になるため、こうした機関との日常的な連携が有効になる。  就業者本人が主導する余暇活動の支援においては、金銭感覚の問題や仕事に支障をきたさないための配慮、交友関係等に関する問題などについて介入度が高くなることが少なくない。特に近年ではネットに関するトラブルも増加しており、対応内容は多岐にわたる。犯罪や契約トラブルなど、場合によっては支援者の対応可能な範囲を超える事例も発生するので、利用可能な地域資源と連携した対応が必須になる。  就業において不可欠であるのが余暇であり、また就業のために適切な支援が必要になるのが余暇であるといえる。当然のことではあるが、社会においては「障害者だからここから先はダメ」という規制はない。我々に提供されているものすべてが支援対象者にも提供されている。  余暇支援において重要なことは、活動の押しつけや支援者の判断による禁止ではなく、より適切な余暇の過ごし方をともに考えることである。 3生活支援における役割分担  これまで述べてきたように、生活支援は非常に多岐にわたり、多様な対応が必要になる。状況によっては、専門的な知識・対応が必要になるため、一機関で完結する支援は一般的ではなく、他機関・家族等との連携が基本になる。  支援者としては「何とかしたい」と強く思うあまり一人で解決しようとしがちだが、不充分な知識やスキルによる支援は対象者の状況を悪化させてしまう危険があるので注意したい。生活支援においては、専門的なスキルを必要とする場面が多いため、どのような支援に対してどのような機関が有効であるかという情報が重要になる。そして持てる情報を充分に活用して支援を組み立てるコーディネーター的な役割を担うことが最も有効な支援方法になるといえる。  就業支援における生活支援では、企業・家族・支援機関の連携が必要だが、支援機関には多数の機関が含まれる。このような場合に、それぞれの機関が独自に企業や家族と連絡をとることは、企業や家族の負担感を大きくし、場合によっては情報の誤認識や時間軸におけるズレなどを引き起こす。主となる支援者がコーディネーター的な役割を担い、情報を集約することが望ましい。ただし、医療情報など個人情報に関する事柄に関しては、取扱いに充分配慮する必要がある。  ここでは、生活支援において有効と思われる支援機関について整理してみる(表3)。 表3 支援機関一覧 各市町村福祉窓口 各市町村の福祉課。福祉サービス(グループホーム等含む)、年金等の相談に対応。 都道府県・指定都市の社会福祉協議会 各種福祉サービスに関する相談や、「日常生活自立支援事業」に関する問合せ等に対応。https://www.shakyo.or.jp/ (※窓口業務は市町村の社会福祉協議会で実施) 消費生活センター 消費生活全般に関する相談に対応。 障害者就業・生活支援センター 障害者の就業に係る支援全般に関する相談に対応。 地域活動支援センター 旧法においては精神障害者の生活支援に対応。障害者総合支援法においては地域支援事業にあたる。通所により、創作的活動や生産活動機会の提供、社会との交流の促進を図る。 保健所 精神保健に関する対象者の直接相談や訪問による支援、デイケア、家庭支援等を実施している。 その他地域の福祉事業所 支援対象者がかつて所属していた機関など、余暇支援確保の際に有力な情報を持つ場合が多い。  各市町村の福祉窓口は、福祉サービス全般の相談に対応している。障害者手帳や障害者基礎年金に関する相談、住まいの問題(グループホーム等)などの総合窓口となる。  社会福祉協議会は、主に権利擁護に関する相談窓口といえる。障害者本人の判断能力欠如によるトラブルや、日常的な生活において困難が生じる場合に、成年後見人制度の活用などを検討する際の窓口になる。  消費生活センターは、商品やサービスに関わる単発のトラブルや軽微なトラブルに対して対応するとともに、悪徳商法への対応やクーリングオフの方法などを紹介してくれる。土日祝日等については、国民生活センターでも電話相談を行っている。  障害者就業・生活支援センターは、就業支援全般に対応している。生活支援員による直接的な支援や地域資源との連携による支援を行っている。  地域活動支援センターは旧法における精神障害者地域生活支援センターである。主に病院と連携している場合が多く、退院促進や地域移行(生活、住まいなど)を支援している。障害者総合支援法においては「地域生活支援事業」として位置付けられており、すべての障害者の支援を行うこととされている。保健所は、精神保健福祉センターとの連携のもと、緊急・処遇困難な相談への対応や、自立支援医療等の社会復帰や福祉サービスに関する相談、デイケアの開催、家族支援等を行っている。また、保健所と福祉事務所が統合されている場合、「保健福祉センター」という名称が使用されている地方自治体もある。  その他として、地域の就労支援機関、特別支援学校といった支援対象者が所属していた機関は重要な連携機関といえる。支援対象者に関する情報も豊富であり、余暇の活動場所としても期待できる。 4生活支援を行う際の留意点  これまで述べてきたように、就業支援における生活支援はその主たる目的を「働き続けること」に置いていることが大きな特徴である。ここでもう一度、就業支援における生活支援について留意すべき点をまとめてみる。 1)連携の重要性について  生活支援には実に多様な事象が含まれる。より専門的な知識やスキルが必要とされるため、他機関との連携が重要になる。そのためには日頃から地域資源と顔の見える関係を築いておくことが必要であり、これらのコーディネートが求められる。状況によっては主たる支援機関から協力を要請される場合もある。支援に入る際に、立ち位置、役割をしっかりと把握して取り組むことが重要になる。地域の機関との連携なしには生活支援は成り立たないといっても過言ではない。 2)即時対応について  生活支援において問題が発生した際には、即時対応が重要になる。問題の放置は事態の深刻化、拡大に直結する。また、さして深刻と考えられない事象であっても、職場では大きな問題になるケースも少なくなく、支援者の判断のみで対応を遅らせてしまうことはあってはならない。支援者自身の所在の明確化、常に連絡が取れる体制の整備が重要になる。また、自分が対応できない場合は放置するのではなく、代役を立てるなどして即時対応に努めることが重要であり、そのための基盤を整備しておくことが必要である。 3)支援対象者は成人であるという認識  就業している(しようとしている)障害者を支援する際に忘れてはならないことは、対象者は成人であり一社会人であるという認識である。前述したようにすべての社会は彼らに開かれており、彼らがとる行動は本人の自己責任によるものとみなされる。  支援対象者は、これまでは学校や施設といった機関において、一定の管理された環境下で多くの時間を過ごしてきている。また、外出の際も多くは保護者同伴などある程度安全が確保された状況下に置かれている。しかし、就業者になると、管理された環境でもなく、常時同伴者がいるという状況でもなく、本人の責任能力が問われる機会が一気に増大する。  職場における就業支援においては、本人のスキルアップと並行して、補助具の使用や周囲の配慮によって困難を解消するという手法を用いる。しかし、生活支援においては、これらの手法は適応しない場合が多い。経験値や情報を増やすことで、判断材料を増やすなど障害者本人の意識や能力に頼る面が大きく、問題解決には時間がかかる。本人の能力による解決が困難と判断される場合には、成年後見人制度の活用なども視野に入れて支援に当たらなければならない。生活支援においては、就業支援以上に本人の能力や意識が重要になるといえる。  我々が支援する対象者はあくまでも一人の成人であり、一社会人であるという前提を忘れてはいけない。支援者の態度としては、一社会人として接することは勿論のこと、平易な説明に配慮するあまり、支援対象者を子供扱いするように誤解を招く表現をしたり、支援方法を強要するようなことがあってはならない。また、支援の範囲や内容について、本人、家族、企業と共有し、共通認識の下に支援を行うことが重要になるが、支援に関する情報を家族等と共有する場合でも、本人にその趣旨を十分説明し同意を得る等の配慮が必須である。 4)家族への支援  ここでは支援対象者にとって、最も身近であり影響力を持つ支援者である家族について取りあげる。支援者にとって、対象者の家族は同じ支援チームの一員であるが、同時に支援対象でもある。  同じチームの一員としてとらえるとき、家族はとても重要な役割を担う。我々の生活は日中(職場)と夜間(家庭)に大別することができるが、後者を共に過ごすのが家族であり、また、就職するまでの支援対象者の情報を最も有しているのも同じく家族である。このようなことから、家族にしか行えない支援や、家族しか知り得ない情報が存在する。そのため、家族を抜きにした支援は困難であると言える。  では次に支援対象としてとらえるとどうだろうか。支援対象者の日中の様子について、家族がどの程度知り得るかということを成長とともに考察すると次のようになる。 表4 成長過程における情報共有ツールの考察 一般 福祉(特別支援教育) 保育園、幼稚園 送迎時の伝達、参観 情報量:非常に多い 送迎時の伝達、参観 情報量:非常に多い 小学校 授業参観、連絡帳、プリント 情報量:多い 授業参観、連絡帳、プリント、 送迎時の伝達 情報量:非常に多い 中学校 授業参観、連絡帳、プリント 情報量:普通 授業参観、連絡帳、プリント、 送迎時の伝達 情報量:非常に多い 高等学校 プリント、3者面談 (進路相談) 情報量:少ない 授業参観、連絡帳、プリント、 3者面談 (進路相談) 情報量:非常に多い 大学、福祉施設等 大学 情報量:なし 福祉施設等 保護者会、連絡帳、面談 情報量:非常に多い  表4を見ていただくとわかるように、一般的には小学校、中学校と年齢を重ねるに従い情報伝達が本人主導に移行していると言える。しかし、特別支援教育から福祉へと進んだ場合には、家族は本人以外に情報を得るツールを十分に有しており、伝達の移行がなされていないと言える。このような環境下で過ごしてきた方が就職するとどうなるだろうか。一部特例子会社のように障害のあるスタッフに対して厚い支援体制が整っている企業を除けば、ほとんどの場合、連絡帳や保護者会などは無い。家族にとって唯一の情報源が支援対象者本人であるという状況になる。この状況に慣れていないと、家族は情報不足から大きな不安を抱えることになる。本来であれば、支援者と情報を共有し対象者を支えるチームに属することが望ましい家族が、チームの外にいる形になってしまう。この状況になると、家庭での支援はスムーズにいかなくなり、効果的な支援を行えなくなる。そればかりか、状況によっては情報不足に起因する誤解等から、対象者本人ではなく家族の言動が雇用継続を困難にしてしまうようなことも起こりかねない。  以上のことから家族への支援、とりわけ情報の提供・共有は障害者の就業支援においては欠かすことが出来ないと言える。また、家族によってはすぐに適切な支援者としての理解や対応が期待できない場合もあるため、一方的な価値観を押しつけることなく、支援の段階に応じて、必要な情報提供を行い障害特性や職業生活への理解を促しつつ、適切な支援のスタンスが共有できるよう支援を進めることが望まれる。家族と情報を共有し、支援チームを組むことにより対象者の就業と生活を一体的に支援することが可能になる。 5)「できる」ための支援を  福祉の分野における生活支援とあえて差別化をはかるのであれば、「本人ができるように」という視点を最優先するということである。  生活支援の基本的なスタンスとしては、本人のアセスメント結果等を踏まえつつ「本人ができる」を目的に支援を展開する。他機関との連携が必要な場合には、最終的には支援対象者本人が主体的にそれらの機関を利用できるようになることが理想であり、そのためのサポートを心掛けることが必要になる。支援者の見定めのないまま、本人に対して支援者が身の回りの全てを支援してしまうことは、本人のスキルアップにはつながらない可能性がある。  支援者が「私がいれば大丈夫」というスタンスで支援する限り、支援対象者の「できる」は育たない。最低限の支えでという意識をどこかでしっかりと持つ必要がある。例えるならば、杖があれば歩ける方に車椅子を差し出してしまうようなことは、就業支援における生活支援の場においては避けたい。働き続けること、生活し続けていくことが目的であり、現時点の問題解決が必ずしも最終目的ではない。過度な支援は、結果として対象者の自立を阻害し、支援者なしには生活できない状況を作り上げてしまう恐れがあることを忘れてはならない。 6)就業支援における生活支援のプロとして  就業支援における生活支援を行う場合、必ずしも本人に寄り添う場面ばかりではない。支援対象者、企業双方への支援が前提になるので、時には本人の意に沿わないことにも取り組む場面に直面する。福祉を志す方の多くが本人の希望に寄り添い、サポートすることを主眼に業務に当たっていると思う。しかし、時として相反する支援が存在するのが就業支援である。今支援対象者にとって何がベストなのか、支援者自身の満足ではなく、支援対象者にとってのベストを求める意識を常に持っておくことが重要である。  また、日常生活を形成するうえで、どのような困難が存在し、何に起因しており、どのような対処が有効かを模索し、また、問題解決に当たってどのような資源・機関があり、活用が可能かを検討することとなる。そのための豊富な情報が必要であり、地域資源や社会情勢には常に高いアンテナを張っておくことが必要になる。  就業支援のプロとして、持てる力を発揮できるよう連携を重視し、地域に根ざした活動をすることが、よりよい支援につながる。 5支援者の立ち位置について  最後に、まとめとして支援者の立ち位置についてお伝えしたい。就業支援における支援対象者に対する立ち位置は、その他の福祉サービスにおけるそれとは異なると考えられる。  福祉サービスにおける支援者の立ち位置は、本人に寄り添い、本人の満足を最優先にするものと考えられる。最終的にはサービスが評価され、更なる利用者の増加につながる。  しかし、就業支援における支援者の立ち位置はこれとは異なる。支援対象者は必ずしも法人のサービス利用者とは限らない。また、本人の満足は今目の前にある一点ではなく、安定した就業・生活という長く続く線であり、即座には感じづらいものである。このような視点をしっかりと持ち、 自身の立ち位置を考えることが重要である。  また、福祉サービスにおいては本人の満足を最優先するため、時として手厚いサービスを提供する。そして本人がサービスを利用し続ける限り、対象者との関係が変化することはない。  しかし、就業支援において支援者はあくまでも黒子である。必要以上に出過ぎることは適切な支援とはいえない。また、場合によっては支援頻度・介入度を徐々に減少させ、困ったときに SOSが出せるような距離感の取れる存在になることも必要である。支援すること自体に満足を求めるのではなく、支援対象者が自立することに支援者自身の仕事の満足・目的を置かなければならないのが就業支援であり、就業支援における生活支援である。  警察や消防といった機関に例えることが適切であるかは分からないが、就業支援における生活支援は、その機能は類似していると私は考える。あらゆる事態に対し常に準備し、情報を収集する。そして準備した情報は機能する機会がなければそれはよいことであり、しかし必要な場合にはすぐに駆けつけられる。このような機能を持つことを意識し、その内容にやりがいを持つことができれば、就業支援における生活支援はとても有意義であり、必要不可欠なものであると感じられるであろう。そして就業支援者として真に「何をすべきか」をしっかりと捉えて、支援対象者の自立に向けた的確なサポートができるだろう。 コラムB   地域障害者職業センターにおける『関係機関に対する職業   リハビリテーションに関する助言・援助』の活用について    ここ数年来、障害者の就業ニーズの高まりや、平成18年度の障害者自立支援法の施行、並びに平成25年度の障害者総合支援法の施行により、「福祉から雇用へ」の流れがより一層強まっているところであり、それに伴い職業リハビリテーションサービスを提供する就業支援機関も増加している。その多くは、福祉施設から移行している機関であり、就業支援について豊富な実績を有している機関も見られる一方で、就業支援のノウハウの蓄積や企業、ハローワーク等との関係作りについてはこれから本格的に取り組む機関も見受けられる。  そのような中、全国の地域障害者職業センターにおいて、各地域における障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所その他の支援機関がより効果的な職業リハビリテーションサービスを実施できるよう、これらの支援機関に対して職業リハビリテーションの実施における技術的事項(例えば精神障害者の職業的課題に対してどのような支援をどのような方法で実施すれば良いか等)に関する助言・援助等を行う取組みが強化されている。  具体的には、地域障害者職業センターにおいて支援機関からの要請を受けて、@当該機関における職業リハビリテーションサービスの導入や見直し等に際して、技術的事項に関する説明や提案等を行う、A要請のあった支援機関の支援対象者をジョブコーチ支援等により協同で支援する、B当該機関職員に対して地域障害者職業センターにおける実習を行うといったサービスを提供するほか、C就業支援の共通基盤となる知識・スキルの習得に向けた研修(就業支援基礎研修等)を実施している。  各支援機関において、「障害者への就職に向けた訓練・支援メニューを考えているがどう取り組めばよいか…」、「新たに就業支援担当となるスタッフの業務をどのような内容にしたらよいか…」といったお困りの状況等があれば、地域障害者職業センターに相談を寄せられたい。 第2章 就業支援の実際(事例)  本章ではより具体的な就業支援のイメージを持っていただくために様々な支援者による実際の支援事例をご紹介する。 第1節 障害者就業・生活支援センターにおける     支援の実際 〜障害者就業・生活支援センターみなと〜 第1項 施設の概要  当センターの運営母体は医療法人であり、青森県八戸市に昭和21年に当法人の前身医院が開設、昭和57年より国道沿いの現地に移転し、現在は精神科病院(病床数278床)および介護医療院(48床)を運営している。診療科目の精神科および一般科(5科)、歯科に加え、北東北てんかんセンターを併設し、地域に根ざした医療を実践している。また、病院機能の他、障害者の社会復帰や地域生活支援にも取り組んでおり、精神科デイケアセンター、宿泊型自立訓練事業所、グループホーム、障害者地域活動支援センター、障害者就労移行支援事業所、特定相談支援事務所等を開設し、医療から地域生活まで総合的なサービスを提供している。  当センターは、平成19年4月、県内3番目の障害者就業・生活支援センターとして青森県八戸市に開設した。青森県の県南地域(1市6町1村)、圏域人口約32万人を担当している。圏域内には、ハローワークが2か所、就労移行支援事業所6か所、就労継続支援A型事業所23か所、就労継続支援B型事業所63か所ある(令和2年10月1日現在)。   第2項 支援事例の紹介 《知的障害者 Aさん 20代 男性》 1)事例の概要および支援に至る経緯  @ 生活環境および生育歴  家族は、父親、母親、兄2人、弟1人の4人兄弟である。共働きの両親と弟と同居している。乳幼児健診では言葉の発達の遅れが指摘され、ことばの教室に通っていた。小学校は普通学級へ入学する。中学校入学後、徐々に勉強についていけなくなり、中学2年時に特別支援学級へ転籍、療育手帳を取得する。中学時代は他の生徒からからかいを受けていた。  その後、B特別支援学校高等部へ進学し、卒業後は在学中の実習先であったスーパーC社へ就職した。母親と兄弟は本人の障害について受容しており協力的である。  父親は療育手帳を所持する必要はないと考えており、障害についての理解が十分ではない。本人の性格は明るく人懐っこく、高校時代の同級生や後輩数名と卒業後も交流がある。    A 当センター利用に至る経緯  C社では青果部門に配属され、野菜の袋詰めや品出し等を担当する。6年間勤めたが、パート社員としての雇用契約であったため、将来を考えた時に収入が足りないと考え、退職する。  離職後、県外就職を希望し、母親の協力のもと、ハローワークDからの紹介で県外にあるカラオケ店E社へ就職、パートの清掃員として勤務する。同時に就業地のグループホームへ入所する。E社の勤務2年経過後、正社員勤務と収入の増加を希望し転職活動を行う。グループホームの職員からの支援も受け、クリーニング業のF社に正社員として転職する。F社では工場内作業員として勤務し、リネンたたみ等の業務を行っていた。1年経過後、療育手帳を持っている従業員が差別的に見られていると感じたこと、グループホームへの不満等が重なり、F社を退職し帰郷する。  その後、地元での再就職を目指し求職活動を行うがうまくいかず、本人、母親から当センターへ相談が入る。電話相談を受けた際には、氏名、性別、年齢、障害種別、手帳の有無と種類、相談者、紹介元、訓練先、医療機関、働く意欲、連絡先、相談の主訴を、本人の同意が得られる範囲で聞き取り、更に障害者就業・生活支援センターの役割や支援内容について説明を行い、来所相談の予約を行った。   2)インテークからアセスメント  @ 面談(インテーク)  本人と母親が来所し、就業支援担当者2名と初回面談を実施。面談の初めに、本人と母親より、相談の主訴について聞き取りを十分に行う。その後、個人情報の聞き取りについての説明と同意を得たうえで、氏名、生年月日、現住所等の基本情報および障害者手帳の有無、本人の生育歴、障害状況、生活状況、最終学歴、職歴について聞き取りを行った。  生育歴について、当センターでは出生時の様子(出生地、分娩時の状況)、発育状況(首の座り始め、始歩、始語)、幼少期の様子や保育園等への通園状況、学齢期の様子や小学校、中学校への通学状況(特別支援学級かどうか、友人関係、成績等)、進学の有無、就職後の職歴や在職中の状況等を時系列に聞き取っている。また、障害状況については、定期通院の有無、通院先と主治医、服薬の有無、服薬の回数と薬の種類、発作の有無、発作時の状況と対処法、既往歴、補そう具の有無等を確認している。生活状況については、家庭での生活リズムや自己管理の状況、余暇の過ごし方等を中心に、可能な方については生計の状況(家族の就業状況、年金受給の有無、自立支援医療の有無等)についても確認するようにしている。  最後に本人と母親より、仕事内容、勤務地、勤務時間、通勤手段、希望給与、障害の開示・非開示といった就職に際しての希望、また、就職に限らない生活全般に対する希望についても確認した。  1時間程度の初回面談終了後、アセスメント実施を提案し、本人と母親より了承をもらう。次回は、アセスメントの実施とし、3日間、9時から15時まで当センターに通所してもらうこととなった。アセスメント実施にあたり、利用登録と個人情報使用への同意をもらう。    A センター内ケース会議  初回面談により把握した基本情報をもとに、当センター職員全員(センター長1名、主任就業支援担当者1名、就業支援担当者2名、主任職場定着支援担当者1名および生活支援担当者1名)でAさんについてのケース会議を行った。会議では、現時点での課題、アセスメントで詳細に確認しなければならない点、作業アセスメントの内容等について話し合う。結果、職業準備性、本人の性格、生活状況、障害特性、本人の得意・不得意についてアセスメントすることとなった。  当センターでは独自のアセスメントを準備しており、聞き取りの他、自法人の障害者就労移行支援事業所の一角を使用し、作業アセスメントを実施している。アセスメント内容は、厚生労働省「就労移行支援のためのチェックリスト」(以下「チェックリスト」という。)、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「M-ストレス・疲労アセスメントシート(Makuhari Stress and Fatigue Assessment Sheet)」(以下「MSFAS」という。)の記入と聞き取り、幕張版ワークサンプル、作業アセスメント13種類である。また、必要に応じて心理検査も実施する。主治医がいる場合は、本人より同意を得て、電話連絡もしくは受診同行により主治医から確認を取り実施している。  チェックリストとMSFASは必ず実施し、作業と心理検査はセンター内ケース会議で組み合わせや内容を検討し、概ね作業4種類を2回および心理検査を実施できるよう組み合わせる。時間がかかる心理検査の場合は、別途時間を設ける場合もある。    B アセスメントの実施  アセスメントは基本的には3日間、9時から15時まで行い、@健康管理、A日常生活管理、B対人技能、C基本的労働習慣、D職業適性の5項目(図1)について確認する。各項目の評価に加え、本人と支援者の評価の差を確認し、すり合わせていくことを重視している。職員は2名で実施する。2名で実施することにより、評価の偏りを防ぐと共にアセスメント結果を基にした個別支援計画策定時に、今後の支援の方向性について協議できる環境を担保する。  Aさんに対しては、アセスメント初日は、来所後1時間30分程度で「チェックリスト」と「MSFAS」の記入と聞き取りを実施した。聞き取り終了後、60分作業1種目、昼休みを挟んで、午後も60分作業2種目を実施した。2日目、3日目は、体調や疲労度を確認し、午前に60分作業2種目、午後に60分作業2種目と振り返りを行い、欠勤、遅刻や早退についても確認した。  3日間のアセスメントを通じて、@健康管理は概ねできており、「作業スピードや指示の理解が他の人よりゆっくりだと思う」と自身の障害を簡単に説明できる状況であった。A日常生活管理も概ねできていた。しかし、髭のそり残しや汗の臭いがあり、身だしなみについて助言や支援が必要であることがわかった。B対人技能では、印象の良い挨拶や場に応じた言葉遣いができ、感情も安定していた。しかし、人から頼まれると断れず相談もできない等、困ったときの相談や意思表示が苦手で相手に合わせてしまう傾向にあり、意思の伝え方について訓練、助言や支援が必要であると判断された。C基本的労働習慣では、就労意欲は高く、体力・集中力・持続力、ルールの遵守はこれまでの就労経験により概ね身についていた。しかし、返事・報告・連絡・相談については、作業を十分に理解できていなくても質問をしない、わかりましたと答えてしまうといった様子が確認された。本人は「できる」、支援者は「あまりできない」と本人評価と支援者評価に大きな差があった。この評価の差は在職時にも生じていた可能性が高く、離職原因に繋がっていると考えられた。そのため、この評価の差を縮めるための訓練や助言、支援が必要であると考えられた。D職業適性では、指示理解・確認の項目で、本人は、一度の作業指示や複数指示で理解ができないことから「あまりできていない」と評価、支援者は、理解できない際の確認ができないことから「あまりできていない」と評価していた。同一項目で同一評価であっても評価内容が違っていた。環境変化への対処については、本人評価が支援者評価より高かった。作業手順や支援者の変更があった際に、変化に対応することに時間を要していたが、本人は「だいたいできている」との評価であった。本人の自覚は薄いが、環境変化への対処には困難があったと推測された。  このアセスメントから、身だしなみの課題、困ったことの相談といった意思伝達の課題、報告・連絡・相談といった基本的労働習慣の課題が認められた。この課題の解消を含め、今後の支援の方向性を提案するために個別支援計画策定を行った。  C 個別支援計画策定と説明  アセスメントで得られた情報を基に、アセスメント担当者2名が協議し個別支援計画書(案)を作成する(図1)。その後、作成された個別支援計画書(案)の内容をセンター職員全体で協議し、内容の変更や追加、修正し、センター長が最終確認をした上で、本人や家族へ説明する。担当者による個別支援計画書(案)作成開始から本人や家族への説明まで概ね2週間以内で行っている。本人や家族へ個別支援計画書の説明を行い、同意を得て個別支援計画策定となる。  今回はアセスメント実施後、1週間で説明を行った。説明時には、「希望」や「想いと目標」に間違いや変化がないか必ず確認する。就職する本人の希望を叶えるための計画でなければならないからである。  アセスメントから、身だしなみの課題、困ったことの相談といった意思伝達の課題、報告・連絡・相談といった基本的労働習慣の課題が認められたことを本人と母親に説明した。困ったことの相談が苦手なこと、報告・連絡・相談が適切なタイミングでできなかったことが、在職中に本人と会社の間で双方の不満の原因になった可能性が考えられるため、再就職を目指すためには、この課題について対処技能を身につける必要性を説明し、障害者就労移行支援事業所(以下、本節において「移行支援事業所」という。)での訓練を提案した。  本人と母親もアセスメント結果と今後の支援の方向性について納得された。この時点で、移行支援事業所の利用の手続きの流れを説明し、利用可能な特定相談支援事業所(以下、本節において「相談支援事業所」という。)、移行支援事業所について情報提供する。しかし、10日後の障害者就職面接会へ参加を希望したため、その結果次第で今後の方向性を再度話し合うこととした。個別支援計画書には障害者就職面接会参加についても追加記載し、本人より署名をもらう。 3)移行支援事業所の申請から利用  @ 移行支援事業所の申請  翌日、本人より「面接会は見送り移行支援事業所の利用を進めたい」と連絡が入ったため、本人と母親に再度来所してもらうこととした。面談は本人、母親、就業支援担当者2名、G相談支援事業所で行った。面談調整時に、G相談支援事業所とH移行支援事業所の利用を希望している旨を確認していたため、面談時はG相談支援事業所にも同席してもらった。G相談支援事業所が今後の手続きの流れを説明し、H移行支援事業所の見学を提案した。当日見学可能とのことで、H移行支援事業所の見学も行う。その後、3日間の体験利用を経て、G相談支援事業所とH移行支援事業所の利用申請を行った。  利用申請3週間後に、本人、母親、G相談支援事業所、H移行支援事業所、当センターの参集により、サービス担当者会議が開催された。G相談支援事業所からサービス等利用計画(案)を説明、当センターから個別支援計画書を説明し、今後のH移行支援事業所の個別支援計画(案)に反映してもらうことを依頼した。また、早期に就職できる可能性があることを参加者で共有し、職業準備訓練(以下「訓練」という。)開始後は月1回、訓練状況と本人の課題解消について当センターとH移行支援事業所で情報共有することとした。 図1 個別支援計画書  A 移行支援事業所の利用  H移行支援事業所の利用開始後は、当センターの個別支援計画書も参考に訓練が実施された。また、月1回、訓練状況を共有する連絡を取り、課題の解消についても確認している。当センターでは、訓練課題が明確で、長期的な訓練の必要性が低いとの見立てがある場合は、移行支援事業所へのこまめな連絡や確認を行っている。訓練の進捗に合わせ、当センターから職場実習の提案、ハローワークへの相談や求職登録・チーム支援策定の提案などを適宜行えるようにするためである。  H移行支援事業所の利用開始3か月後、困ったことの相談や報告・連絡・相談についても、その必要性やタイミングなどが身についてきたとH移行支援事業所より確認したため、求職活動の開始について当センターより提案した。 4)求職活動支援  @ ハローワークへの相談とチーム支援計画策定  求職活動にあたり、まずはハローワークDへ相談に行った。本人、H移行支援事業所、就業支援担当者、ハローワークDの4者で障害者求職登録の有無、就労意欲や訓練状況について確認する。次回、チーム支援会議を開催することとなった。訪問型職場適応援助者による支援(以下「ジョブコーチ支援」という。)の必要性も説明し、次回会議には地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の参加も要請することとした。  その後、チーム支援会議が開催される。本人、ハローワークD、職業センター、H移行支援事業所、就業支援担当者の5者で行う。母親は都合で参加できず、H移行支援事業所より報告することとした。ハローワークDよりチーム支援計画と各支援機関の役割の説明があり、本人同意する。また、ジョブコーチ支援の実施に向け、支援計画策定等に資するため職業センターの職業評価を実施することとなった。当センターからは物流会社I社について情報提供した。作業内容がコンテナ洗浄と野菜の袋詰めが主な業務であること、職場環境として比較的年配の従業員が多いことから、本人に合う職場と考えていることを説明し、ハローワークDと当センター、H移行支援事業所で職場開拓を実施することとなった。  A 職場開拓と職場実習の実施  職場開拓では、ハローワークD、H移行支援事業所、就業支援担当者の3者で訪問。I社の管理者と現場担当者と面談、作業内容の見学、Aさんの説明、本人の見学依頼を行った。本人より実習希望があれば実習を行うこととし、本人の見学日時、実習となった場合の実習期間、時間と場所、作業内容について確認した。実習期間は2週間で平日のみ10日間、時間は9時から15時、作業内容は野菜の袋詰めとコンテナ洗浄となる。また、実習初日より3日間は終日支援に入ること、その後もH移行支援事業所と共同で巡回することを説明し、企業の不安払拭に努めた。  後日、本人とH移行支援事業所、就業支援担当者の3名で見学する。作業内容の確認、I社までの通勤ルートの確認、入口の確認、職場の方との面識作りを行った。職場見学を行ったことで本人の不安も軽減され、見学後、本人希望により実習を開始することとなる。結果はハローワークDへも就業支援担当者より報告した。 <職場実習の実施>  当センターにおいては、職場実習を実施する場合は、職場実習依頼文、傷害保険および損害保険への加入、本人および家族の職場実習同意書、企業の職場実習同意書の4点を準備している。今回は移行支援事業所を利用していたため、上記4点についてはH移行支援事業所に作成を依頼し、写しをもらうこととした。実習支援については、H移行支援事業所と相談し、支援予定を組んだ。また、実習初日は双方とも支援に入り、支援の視点を共有することとした。  実習初日、見学時に確認した入口で本人と待ち合わせた。就業支援担当者とH移行支援事業所の2名で支援を行う。本人は緊張した様子を見せており、近くで見守っていることの声掛けを行う。作業は意欲的に行っていた。基本的に就業支援担当者は本人の作業状況を見守り、必要な時のみ、言葉→ジェスチャー→モデリング→手添えの順で、本人が理解できる最小限の指示階層の助言を与えるように心掛けている。また、情報の共有化を目的とし、H移行支援事業所担当者と共同で職場実習支援を実施している。支援者が同じ状況を見て、様々な視点から実習状況をアセスメントし、必要な支援を共に検討することが重要と考えているためである。実習支援を行う中で、現場従業員へ本人の特性や指示の出し方等を説明している。また、現場従業員の不安を傾聴し、本人への対応の仕方について説明を加えた。実習4日目からは見守りが必要な時間に合わせ、H移行支援事業所と交代で実習巡回した。  職場実習終了時には本人、就業支援担当者、企業の3者でそれぞれ職場実習評価票を作成する。実習評価票作成時には、本人よりI社で働きたい旨の意向は確認している。後日、ハローワークDが主催する実習評価会議には、I社、ハローワークD、H移行支援事業所、就業支援担当者の4者が参集された。そこで、3者の評価票を基に実習状況を評価し、本人の評価、企業の評価、支援者の評価の共通点と相違点を確認し、雇用の可能性について話し合った。今回は評価が良好で雇用を検討する運びとなったため、ハローワークDが改めて求人受理を行うことした。雇用に向けた調整を行うこととなったため、実習評価会議終了後に障害者雇用支援制度について説明を行った。通常、当センターとハローワークとの連携においては、企業への障害者雇用支援制度の説明では、助成金制度等の支援制度に関する説明はハローワーク、障害者就業・生活支援センターやジョブコーチ支援制度といった人的支援に関する説明は就業支援担当者が行うこととしており、双方から説明を行った上で、ジョブコーチ支援の利用について社内で検討してもらうこととなった。  実習評価会議終了後、H移行支援事業所と就業支援担当者と本人で面談し、3者の評価票についてフィードバックし、実習評価会議の報告と求人開拓を行うこととなった旨を報告した。 <職業センターの活用>  I社での職場実習がチーム支援会議後まもなく決定したため、職業評価は実習評価会議後に実施することとなった。障害者職業カウンセラーがH移行支援事業所へ来所し、本人やH移行支援事業所と面談、実習評価や訓練状況の聞き取りを行った。面談内容をもとに、職業リハビリテーション計画を策定し、拡大ケース会議にて説明がなされた。多くの場合、就業支援担当者や移行支援事業所が本人および家族と事前調査票を作成し、職業センターに提出する。その後、職業センターにて職業評価が実施される。ただし、本人の負担を考慮し、職業センターが出向いて職業評価が実施されることもある。評価結果については職業センターにおいて取りまとめ、後日拡大ケース会議にて説明がなされる。 5)採用から職場定着支援  @ 採用に向けた支援  ハローワークDがI社より就業場所、仕事の内容、賃金形態および給与、雇用形態、雇用期間、就業時間、週所定労働日数、休日、加入保険等を確認した。1日6時間、週5日勤務のパート勤務、作業内容は職場実習と同じコンテナ洗浄と野菜の袋詰め作業という条件であった。障害者専用求人がI社より提出されたため、本人、H移行支援事業所、就業支援担当者の3名でハローワークDへ行き、求人内容を確認する。本人の希望も「働きやすい職場環境で長く働くこと」と変化があり、I社の雇用条件に不満はなかった。そのため、紹介状交付、面接日時の調整となる。面接はH移行支援事業所が同行支援することとなった。この時、雇用にあたってはI社もジョブコーチ支援の利用希望があることをハローワークDより就業支援担当者が確認、職業センターとの連絡調整は就業支援担当者が行うことなり、障害者職業カウンセラーへ連絡している。  面接に向けた履歴書の作成については、志望動機は本人の言葉で表現されることを大切にし、内容のまとめ方や書き方、証明写真の貼り方まで支援する。面接想定問答集を独自で作成し、その問答集を活用して面接練習を行う。面接当日は就業支援担当者が同行する場合、基本的に面接中に本人の代わりに説明せず、必要なことは最後に説明を加えるように心掛けている。あくまでも企業と本人の面接であることを重視している。今回は移行支援事業所を利用していたため、上記支援は移行支援事業所が行っている。  A 就業支援担当者とジョブコーチの連携  面接後、当日中に採用の返事がきた。1週間後から働いて欲しいとの話であった。採用に伴い予定していたジョブコーチ支援については、当センターを運営する法人に所属するジョブコーチ2名が担当することとなった。支援開始5日前には、ジョブコーチより企業と本人・家族に向け訪問型職場適応援助者支援計画について説明。その際は支援方針を確認するために就業支援担当者も同席する。  採用初日、就業支援担当者はジョブコーチ2名と一緒に就業開始時間前に職場を訪問。職場の方への挨拶を本人、ジョブコーチと済ませてから支援を開始。初日は就業支援担当者とジョブコーチの支援方法等を共通のものにするため同時に支援に入った。2日目以降は、職場における支援はジョブコーチを中心とし、集中支援期は週2日から3日、移行支援期は週1日から2日程度の頻度でジョブコーチ支援を行った。就業支援担当者は、ジョブコーチ支援が終了した後の支援体制と職場の方々との関係性を維持するために、ジョブコーチ支援期間中も初めの1か月は週1日程度職場訪問を行い、2か月目以降は就業状況が安定していれば2週間から1か月に1日程度の職場訪問を続けた。  職場訪問では管理者の方の意見、現場で一緒に働いている方の意見の両方を聞くように心掛けている。特に現場の方からの不安や疑問についての相談には時間を掛けて耳を傾けるようにしている。ジョブコーチによる支援と合わせて職場訪問し、就業状況についてジョブコーチと確認し、課題点と支援内容についての整理も行う。この間、就業支援担当者より、適宜、ハローワーク担当者や家族に状況報告の連絡を入れている。  2か月半後、ジョブコーチ支援終了に伴うケース会議を行った。参集範囲は、本人、ジョブコーチ、就業支援担当者、企業の4者であった。支援経過が順調であったことから職業センターとハローワークDへは会議終了後に報告することとなった。基本的にはハローワークは参加、職業センターの参加も必要に応じて要請している。会議では再度、課題点とその後の支援を要する内容、各支援者の役割分担について確認を行う。  Aさんの今後の課題はモチベーションの維持であり、現場従業員の異動に伴う環境変化時の対応、本人の能力に応じた職域の拡大や就業時間の延長等、キャリアアップにつながるための適切な評価が必要になることを4者で確認する。また、ジョブコーチはフォローアップにより職場内の支援体制の維持を確認しつつ、就業支援担当者は職場訪問と本人との面談を継続することとした。ハローワークDと職業センターへも上記について報告し、各関係機関で適宜、情報共有の連絡を取り合った。 6)就業の維持と生活支援  就職後1年7か月が経過した。この間、本人の生活状況も変化し、次兄家族の同居を機に一人暮らしを希望している。また、現職の他にアルバイトをしたいとの相談も受けた。その都度、本人の気持ちを傾聴しながら助言することで、Aさんは以前のように一人で悩みを抱え込むことなく、支援者に相談しながら就業生活を送っている。 第3項 まとめ(支援を通じて感じること) 1)アセスメントの重要性  就業支援を行うためにはアセスメントを充分に行うことが重要である。本人に関する情報をどれだけ把握しているかが、その後の支援の方向性の提案に大きく関わる。また、アセスメントを行う際には、都度、本人の希望を確認することが必要であると考える。何のためにアセスメントするのかを本人と支援者が共有することから始めなければならない。聞き取りだけではわからないことも多く、作業アセスメントや心理検査など多面的な視点からアセスメントできるとより現実的な支援の方向性を検討できるようになると考える。そのためには、圏域内の移行支援事業所の暫定支給決定期間によるアセスメントや医療機関による心理検査の所見など、各関係機関の協力を得て情報共有することも必要である。 2)支援者間の連携の重要性  職場定着支援に関しては、ジョブコーチと就業支援担当者の役割分担と、適切な支援のバトンタッチが必要であると感じる。職場定着のための課題解消のために集中的な支援を行うジョブコーチと就業維持のための継続的な支援を行う就業支援担当者が、的確に連携を図りつつ支援を進めることが重要である。逆に、職場内支援をジョブコーチに任せきりにすると、ジョブコーチのフォローアップが終了する頃には就業支援担当者と企業との関係性が途切れていたり、現場の方との信頼関係が形成されていなかったりする。そうならないためにも、ジョブコーチが中心となり支援に入る時期、就業支援担当者に支援が再移行してくる時期を意識しつつ連携を密にした支援を進めることが必要であると感じている。 3)圏域における支援ネットワーク構築の必要性  障害者就業・生活支援センターは就業支援と生活支援を一体的に行う機関である。そのため、就業も本人の生活の一部であることを意識し、本人の生活全般に対する希望を大切にしながら希望実現のために必要な機関を一つ一つ繋ぎ、チームにすることが求められる。「繋ぐ」役割を果たすためにも、地域の社会資源に精通し、顔と顔の見える機動力のあるインフォーマルな支援ネットワーク構築と、地域の自立支援協議会等のフォーマルな支援ネットワーク構築の両方に尽力しなければならない。 第2節 就労移行支援事業所における支援の実際 〜就労移行支援事業所(創)シー・エー・シー〜 第1項 施設の概要 1)施設の沿革と周辺地域の状況  就労移行支援事業所(創)シー・エー・シーは、平成15年1月に精神障害者通所授産施設として設立した。開設当初から一般就労を目的とした活動内容を実施し、就業準備プログラムと、就職活動および就業継続のための相談・支援サービスを提供している。平成21年には障害者自立支援法による多機能型の就労移行支援事業へと移行した。他に就労継続支援事業B型の施設を併設している。施設の名前の由来は、Challenge And Createの頭文字をとり、「働くことに挑戦し、働く場や生きがいを創造しよう」という意味を込めている。また一般就労に向けた利用が意識されるよう、企業のような名前とした。  当施設は神戸市(令和2年10月1日現在人口151万6千人の政令指定都市)中央区に位置し、施設の最寄り駅はJR神戸駅、私鉄の各駅、市営バス停留所それぞれから徒歩10分圏内である。周辺は官公庁、商業施設、企業、住宅が混在している。地域の社会資源は、総合病院精神科、精神科病院、精神科診療所が多数あり、いくつかの医療機関ではデイケアやデイナイトケア、訪問看護も行っている。精神障害者が主に利用している地域活動支援センターや就労継続支援B型事業所、グループホーム、障害者地域生活支援センター等、社会福祉施設も多数点在している。また労働機関である労働局やハローワークは徒歩圏内、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、その他の行政機関も公共交通機関を使用して30分以内にあり、利便性の高い立地となっている。  当施設のある神戸市は知名度の高い観光都市である。ファッション、グルメ、そして国際色豊かな商業地域と、文化や自然を楽しむ観光地がある。中心部にほど近い人工島や海岸線、そして郊外の地域は様々な企業の工業地帯となっている。ハローワークにおける障害者求人は、事務職やサービス業関係が多い。市内には15か所の特例子会社がある(令和2年8月現在)。 2)利用者の状況とサービスプログラム  当施設は、精神障害の特性に合わせた就業準備プログラムを提供し、就業支援を行っている。定員は15名で登録は20名前後である。施設利用者の年齢層は、20代から40代が主となっている。男女の比率は現在約1対1である。当施設でのプログラムの内容を紹介する(表1(108ページ)参照)。まず@基本的な労働習慣作りと職業適性を知るための、施設内実習(軽作業・印刷・発送作業・パソコン入力作業ほか)および企業実習(サービス業・事務補助・工場内業務・食品関連・清掃ほか)がある。また、様々な仕事内容をゲーム形式で行いながら正確で効率よく作業を進める方法を考えるための、作業遂行能力を高めるプログラムや、職場見学、就業体験談を聞くプログラムも行っている。次にA職場での対人技能および対処技能を習得するための社会生活技能訓練(Social Skills Training)やビジネスマナー講座がある。そしてB疾病障害管理のための心理教育プログラムは、障害や服薬についての知識・ストレス対処法の工夫・主治医との相談の仕方や医療保健福祉機関および労働関連のサービスの利用の仕方等について、身につけられるものとなっている。C社会人マナーの習得や様々な社会経験の再構築を目的としたプログラムでは、敬語の使い方や余暇の工夫などの生活セミナーや、職場での忘年会やテーブルマナーを身につける食事会、レクリェーション等を行っている。D仕事探しのプログラム(就労セミナー)では、就職面接の対応方法や履歴書の書き方、障害をオープンにして働く方法やオープンにしないで働く方法を知る、精神障害をもちながら働いている方の体験談を聞く、ハローワークや企業の方の講話等、自分に合った働き方を考える機会を作っている。以上、職業準備性を高めるものが中心となっている(表1(108ページ)参照)。さらに各プログラムでは、就業への意欲や動機付けを高め維持するために、ピアサポートの力を促進するグループワークを取り入れている。またメンバーや就職者の家族を対象に、定期的に家族の会を開催し、心理教育や情報交換、相談支援を行っている。 表1 プログラムスケジュール 曜日 9:15〜10:00 10:00〜12:00 12:00〜13:00 13:00〜15:00 15:00〜15:30 月 朝のミーティング (気分調べ・本日の予定・当番) ラジオ体操等 所内実習 職場実習 (パソコン教室) (脳力アップ) 昼休み ビジネスマナー・体調管理のセミナー他 掃除 帰りのミーティング (各作業の報告・明日の予定・連絡事項) 火 就労セミナー・ SST他 水 生活セミナー 木 所内・職場実習 金 SST・スポーツ他  以上のプログラムへの参加を経て、職業準備性が向上した利用者から就職活動に入り、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等と連携し、各種支援制度等の利用を検討しながら、就職を目指していく。そして就職した後も、相談や職場介入などを含めた就業継続支援を行っている。その一環として当施設では、ハローワークや医療機関の支援者等と一緒に月1回仕事が終わってから立ち寄れるよう夕方から夜にかけての時間に『アフターワークの会』を開催している。精神障害をもちながら働いている方々が気軽に参加でき、精神障害に伴う悩みや、障害年金や雇用保険などの情報、仕事を長続きさせるための工夫や、仕事で失敗してしまったがどうしたらいいか、など働いていれば誰もが体験し思い悩むことについて話し合い、仲間同士で支え合う場となっている。 3)当施設利用者の就職実績 表2 施設の利用状況と就職者数(平成15年1月〜令和2年10月末現在) 総登録者数 男女比 平均年齢 272名 男性:191名 女性:?81名 36.0歳 (登録時) 就職者数 153名 オープン 133名 クローズ 20名  表2、表3のとおり、利用者の約半数以上が就職に結びついている。就職はオープン(障害について企業に伝える)の方が多いが、クローズ(障害について企業には伝えない)でも勤務条件と職場環境が本人と合っていれば、継続して働くことができている。なお、就職後の支援の一環として、転職支援も行っている。 表3 就職者の職種(平成15年1月〜令和2年10月末現在) 職 種 人数 職 種 人数 事務 38 電子機器関係 2 サービス業(販売等) 11 機械加工 2 飲食業 11 リネン交換 1 清掃関係 31 IT関係 2 クリーニング 10 施設管理 1 製造 5 食品加工 4 ゴム加工 5 在宅 1 倉庫内作業 10 金融関係 1 ヘルパー/介護補助 8 機械洗浄 1 派遣 3 病院内軽作業 1 運送 2 商品管理・ピッキング 3 合 計 153  また、それぞれの体調に合った条件で働いている状況を表4に示した。また就職当初は短時間でも、徐々に伸ばしていき1日7〜8時間勤務できるようになる場合もある。 表4 就職者の勤務日数(平成 15年 1月から令和2年10月末現在) 勤務日数と時間 (週20時間未満) 人数 勤務日数と時間 (週20時間以上) 人数 1日3時間 週1日 1 1日4時間 週5日 21 1日2時間 週2日 1 1日5時間 週4日 21 1日3時間 週3日 5 1日6時間 週4日 8 1日4時間 週2日 1 1日5時間 週5日 15 1日4時間 週3日 5 1日5.5時間 週 5日 4 1日3.5時間 週4日 2 1日6時間 週5日 18 1日5時間 週3日 7 1日7時間 週5日 3 1日4時間 週4日 5 1日8時間 週5日 31 その他(不定期) 5 合計 153 第2項 支援事例の紹介(就業支援と関係機関の連携の実際) 《精神障害者(双極性気分障害) Aさん 29才 女性》 1)当施設利用に至る経緯  Aさんは、精神障害に加え、はっきりした診断は示されていないが、主治医の見解では広汎性発達障害の特性も併せもっていると言われた方である。現在両親、兄と生活している。幼少時からひとりで過ごすことが多く、人づきあいの苦手だったAさんは中学、高校生活を通し、人と目が合わせられない、友達ができないことから悩む中で、被害的な受け止め方が見られ、うつ状態となり、高校2年生の時に精神科クリニックを受診していた。その後症状が落ち着き、高校卒業後はコンピュータ関連の専門学校に進学する。卒業後は工業用機器の会社に就職し、経理の仕事に就いた。しかし1年半後、職場の人間関係に悩み症状が再燃、仕事を辞めざるを得なかった。しばらく自宅療養した後、郵便局やスーパーなどでアルバイトをするが、職場のストレスから不眠、そして何でもできるのではないかという万能感からの問題行動が見られる、買い物が止まらないなど躁状態となり、再度療養生活を送ることになった。症状が軽減した頃、主治医からの勧めによりデイケアを利用開始。その後2年を経て体調が安定し、本人より働きたい旨をデイケアスタッフに相談したところ、当施設を紹介された。 2)当施設におけるAさんへの支援  @ Aさんのアセスメント内容  施設利用開始から3か月経過し、様々なプログラムへの参加を経て把握したAさんのアセスメントと、それに対応した支援内容が表5である。 表5 Aさんのアセスメント内容 性格 真面目で素直な性格。自己評価がとても低く、否定的側面を強調し、物事を捉える傾向がある。あまり細かいところは気にせず、さっぱりしている面がある。パソコン関連のゲームが好きである。 支援内容 自己肯定感が持てるよう、できているところは積極的に声をかけ、評価していく。社会経験を増やすことで自信を得られるよう働きかける。 精神障害の状況 通院や服薬自己管理もできている。気分や体調はほぼ安定しており、施設利用は週5日休まず参加されている。かつて職場で強く叱責されたり、新しい仕事を次々指示されるなどのストレスがかかるとうつ症状が出る、と話される。 ※通所に当たって本人、家族からの聴取に加え、デイケアスタッフから医療情報を把握した上で、具体的な活動を通じ状態を把握している。 支援内容 心理教育プログラムに参加してもらいながら、疾病管理やストレス対処法などを少しずつ身につけられるように働きかける。 健康面・身体面 アレルギー性鼻炎がある。筋力としての体力はないが、毎日通所する持続力がある。 支援内容 基礎体力をつけるため、ラジオ体操・ウォーキング参加を奨励する。 コミュニケーション 対人関係は苦手意識がある。自分の気持ちや言いたいことが思うように伝えられず、相手から誤解されることがある。思いついた単語を脈絡なくつぶやく、なかなか相手に声をかけられず自問自答しているときもある。会話の時相手の顔を見ることができないことについては、本人も自覚しており、顔を見て話せるよう意識している。利用当初に「他の女性利用者からいろいろと声をかけてもらったことで、早く慣れることができた。彼女のようになりたい。」と話される。 支援内容 SST(社会生活技能訓練)で様々な対人場面の練習を行う。また、相手の顔を見る、適切な声の大きさなど、非言語的コミュニケーションスキルを意識できるよう働きかける。 ADL・生活スキル 身の回りのことはほぼ自立しているが、家事は母親まかせである。ファッションや身だしなみに関心がなく、母親が購入し用意する衣服を着ている。髪に寝癖がついていても気にしない。 支援内容 身だしなみについては、「女性のマナー講座」のプログラムに参加してもらう。その他ビジネスマナー講座や、日常の声掛けで改善できるよう働きかける。 金銭管理 以前精神症状から買い物をしすぎたことがあり、それ以来母親から定期的に小遣いをもらっている。お菓子やゲーム等を購入している。 社会的マナー 挨拶などはきちんとされるが、社会経験が少ないため、状況に応じた適切なマナーや態度がわからない。 支援内容 ビジネスマナー講座、食事会(テーブルマナー)、一泊旅行、忘年会などのプログラムを通じ、社会経験の場を増やし、状況に応じた行動がとれるよう働きかける。 作業遂行能力 パソコン関連は専門学校で勉強していたこともあり、形式の決まったパソコン入力は得意である。集中力も持続することができる。手先の細かい作業は苦手である。雑な面もあり、よく物を落とす、手順を省略しようとするなど横着な行動も見られる。 支援内容 パソコン入力作業のほかにも、軽作業、印刷作業、発送作業などを行いながら様々な作業に慣れてもらう。また作業効率を上げるためのプログラムで、作業手順や段取り、効率性や注意の焦点づけについて考える機会を作る。どうしたらよいかわからないと考えこんでいることがあるので、「報告」「連絡」「相談」ができるよう働きかけ、SSTでも練習する。 希望する職種、 労働条件等 以前経理の仕事や、郵便局、スーパーでのアルバイトなどの経験はあるものの、職場での人間関係がうまくいかず離職となっている。「パソコン関連は好きだが、実際に自分がどんな仕事に向いているかわからない。」と話されている。 支援内容 施設内の各プログラムや企業実習に参加してもらいながら、本人に合った勤務条件や環境を一緒に検討する。また、職業準備性の向上と同時に地域障害者職業センターで職業評価を受けることも検討し、多角的な視点で職業適性を見極めていくこととする。 家族 母親は本人のことを心配しているが、何が障害なのか把握できていない様子。施設の家族の会には参加されている。父親や兄は仕事にかかりきりで、本人にはほとんど干渉しないようである。 支援内容 母親には、引き続き家族の会に参加してもらい、施設の活動内容、疾病や障害について理解していただき、施設と連携して本人を支援できるよう、働きかける。  A 企業での実習の開始  利用開始から半年後、施設内でのプログラムにも前向きに参加され、だいぶ慣れてきた様子であった。Aさんと定期面談をもち、振り返りと就職に向けた計画について話し合いを行う中で、「自分から挨拶ができるようになった」「人の顔を見ることは苦手だったが、顔を見て話せるようがんばりたい」「敬語を上手に使いたい」「自分の苦手なストレスを知り上手く対処したい」という気づきと意欲が示されるようになった。そして次なるステップのひとつとして企業での実習を始めることになった。実習内容は病院内のクリーニング業務で、時間は午前9時〜12時の週2日、担当者と一緒にタオル類やおしぼり、衣類のクリーニングを行った。本人も「いろいろな業務を経験したい」と前向きに取り組まれる。実習初日から3回程、スタッフが同行支援し、それ以後は自分で担当者の指示を受けながら仕事を行った。指示されたことや報告などは間違いのないように意識されており、本人の努力がうかがえた。  B ハローワークのジョブガイダンス事業への参加  実習が始まってから約3か月後、ハローワークにてジョブガイダンス事業が開催されることになり、Aさんも参加することになった。ジョブガイダンスでは、ハローワークの使い方、求人票の見方、履歴書の書き方、就職面接の受け方など1日2時間、週5日かけて各講座が行われた。Aさんは講義中つい居眠りすることもあったが、どれも積極的に参加されており、就職への動機づけがさらに高まったことがうかがえた。  C 精神障害者保健福祉手帳の取得と、障害者就業・生活支援センターへの登録  基本的労働習慣など職業準備性も整ってきたこともあり、Aさんは就職に向け更なる取組みを進めることになった。Aさんの居住地は神戸市に隣接する市にあるため、地元の障害者就業・生活支援センターに利用登録し、就職への支援をお願いすることになった。その際、母親にはAさんの持っている「働きづらさ」と「配慮されれば発揮できる力」について説明し、今後の就職は障害をオープンにして企業に理解を求めながらの就職を勧めた。母親もAさんが今までの仕事が続かなかったことを振り返りながら理解、了承し、障害者就業・生活支援センターへはAさんと母親、当施設スタッフが一緒に行き登録を行った。  またそれまで両親からの反対もあり、Aさんは精神障害者保健福祉手帳を取得していなかったが、Aさんに配慮された職場で働けるようにする手段のひとつと、母親も納得し手帳を申請することになった。同時にAさんの了解を得て、主治医へ連絡しAさんの現状や今後の就業支援の方針について説明を行った。主治医からは、Aさんが自ら明るく挨拶するようになったこと、体調も安定していること、配慮さえあれば働けることについて話を聞くことができるとともに、職業生活の安定に向けての体調管理面での連携体制を確認した。  D 地域障害者職業センターにおける職業評価  Aさんは、当施設に休まず通い、どのプログラムにも真面目かつ積極的に取り組んでいたが、作業遂行上の課題(仕事が雑になる、周囲に注意が向けられずよく物にぶつかったり落としたりする、ボディ・イメージがよくないため体の動きを状況に合わせられない)が見られ、その対応方法等の検討に向けては地域障害者職業センターにおける職業評価も通じて、Aさんに合った働き方を考えることになった。  職業評価では、就職への希望や医療情報、日常の活動状況等については本人および当施設からの聞き取りにより整理するほか、作業検査や職業適性検査等を通じ、就職活動や職業生活を進める上で留意すべきポイント等の検討が進められた。  その結果、対人対応面での特性(緊張しやすい、人の顔を覚えることが苦手、人に教えたり説明することが苦手、自己評価が低い)に配慮した職場環境の選定が望まれること、職務内容の検討においては、数処理等の一定の知的判断への対応は可能であるが、図形の弁別や照合作業等の不得手さに配慮した選定が望まれることが確認された。そこで、本人の希望や興味も踏まえ、パソコンによる文字情報や数字データの入力作業を中心に就職活動を進めていこうということとなった。  E 就職活動  Aさんと今後の仕事探しについて話し合い、まずどのような求人があるのかハローワークに行き情報収集をすること、地元の障害者就業・生活支援センターにも定期的に相談することを確認した。Aさんはハローワークに行き求人情報を探す中、各支援者もAさんに合った求人を探していたが、なかなか見つからない日々が続いた。その間Aさんは求人内容がよさそうだと思うと、自ら窓口で相談しひとりで就職面接を受けに行ったこともあった。しかし地図が読めずに目的地にたどり着けない、面接を受けたがうまくいかなかった、との状況から3社より不採用通知を送られている。当然Aさんはそのたびに「やっぱりだめですね。」と落ち込んだが、当施設スタッフからこれは失敗ではなく経験を活かすための学びであること、うまくいかなかった点を挙げ、そこから次回はどう工夫して臨んだらいいのかを一緒に考えた。  F ケース会議の開催  精神障害があっても、就職面接にすぐ通り採用になる人もいれば、なかなか面接に通らない人もいる。Aさんの場合、短時間の就職面接だけではAさんについて理解してもらうことは難しいと判断した。そこで支援者が集まりケース会議を行い、Aさんの就職の実現へ向けた取組みを検討することとなった。会議には、Aさん、母親、そしてハローワーク、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センター、当施設の各担当者が参加し、それぞれから情報提供を行いながら、今後の支援の方向性を探った。Aさんは「こんなにたくさんの人が支援してくれているんですね」と言い、母親からはAさんの病気が悪かったころの苦悩、そして今は病気になる前に戻ったように見え、障害についてはよくわからない点もあるが、確かに働きづらさがあり理解してもらった方がいいのだろう、という話が改めてあった。今後は、Aさんが安心して働けるような職場環境が提供されるよう、障害をオープンにして就職活動を行っていくこと、そしてAさんについて企業に知ってもらうためには、まず職場実習を行い、その中で企業側にAさんの長所を見出してもらうことができれば就職につながるのではないか、ということが話し合われ、職場実習からの採用の検討が可能な企業の開拓を行うことになった。 3)職場実習  ある日Aさんがハローワークで求人検索をしていたところ、パソコン入力業務が主である事務の仕事で募集があり、ハローワーク窓口で担当の職員に相談することとなった。一般求人であったが、ハローワーク担当職員が人事担当者と交渉し、障害を開示したうえでの面接を行うことになった。当施設ではAさんと履歴書を一緒に作成し、障害者就業・生活支援センターでは面接の練習を行い、当日に臨んだ。  就職面接では練習通り、ハキハキと質問に答えられたこと、そしてパソコン入力が得意であることが評価され、数日の職場実習を経て適性があれば雇用するという流れになった。実習は障害者就業・生活支援センターが中心に支援することになった。実習前に当施設と本人とで、職場で配慮してほしい点を確認しそれを書面にして人事担当者に渡した。本人が配慮を求めた点は「仕事の指示は、ひとつずつお願いします(一度に複数の指示があるとわからなくなってしまいます)」「ゆっくり説明してください」「今日行う仕事量やスピードがどの程度求められているのか、目安を教えてくれれば段取りがつけやすいです」「間違えず確実に仕事をしたいので、最初からスピードを求めず、慣れるまで少し待ってください」であった。それを受け、人事担当者が、仕事面で対人コミュニケーションが伴わないパソコン入力作業を中心業務に用意、仕事のマニュアルを作成しわかりやすく提示、複数の仕事を指示しないこと、仕事の指示は穏やかな口調で伝えること等を配慮し準備してくれたため、Aさんは安心して職場実習を受けることができた。  職場実習では、Aさんのパソコンスキルが高く、真面目な仕事ぶりが評価され、特に問題もなかった。Aさんからは「職場の方々が親切に丁寧に教えてくれたので、仕事がしやすかったです。楽しかったし少し自信もつきました。」との感想があった。そしてその後、雇用契約を結ぶことになった。 4)採用とその後  Aさんの主な業務は、パソコンでのデータ入力作業であるが、合間に資料の印刷や発送も行っている。採用当初は、時々障害者就業・生活支援センターの担当者が職場に同行し、業務遂行の仕方を助言したが、1か月後には、指示された業務を自分で行うことができるようになった。  当施設では就職後の利用者への支援として、必要に応じて電話相談や職場訪問を行っている。Aさんの職場にも定期的に出向き、職場の方から様子をうかがい、Aさんからも話を聴くなどして支援を続けている。その他施設恒例の一泊旅行や忘年会などにはAさんも参加し、充実した余暇を楽しんでいる。  ところで就労移行支援事業所は、利用者が就職してもサービスは終了しない。就職は喜びと同時に、緊張と不安を胸にした新たなスタートである。就職した後も様々な課題が生じる。「上司から注意されたがうまくできず、やめた方がいいのか」「挨拶してもしてくれない人がいる。嫌われているのでは」という不安や、指示された仕事がなかなかうまくできない、お昼休みの過ごし方がわからない、といったことなど様々である。必要に応じて職場に同行し、職場環境や業務内容、社内の人間関係など一緒に確認しながら対処法を検討することが大切である。また企業も本人にどう接していいかわからない場合もあるので、適切に説明し担当者を支援することも求められている。   第3項 精神障害者の支援を通じて感じること  就業支援には、当然のことながら、@本人の職業準備性、A支援機関のチーム支援、B労働条件と本人の特性のマッチング、が重要である。ただこの3点すべてが最初からきれいに揃うことは難しく、試行錯誤しながら支援を進めることになる。100人いれば100通りの事例がある。  また、就業支援は単に「働く」ことだけの支援ではない。ひとりの生活者、あるいは人生そのものの支援をも含んでいる。体調管理にしても、心理教育のみならず主治医との関係や医療サービスの内容、家族との関係、本人の価値観、生活スタイルなどが影響している。精神障害者保健福祉手帳に関しても、Aさんの家族のように申請するまで時間が必要な場合もある。生活保障のため障害年金の手続きや、時には家族問題に介入し世帯分離の手続きを手伝うこともある。就職活動の仕方も、本人は障害を開示するのか、開示せず一般求人で応募するのかで悩む。支援者は障害を開示した方が配慮されていいのではと思うが、それで必ずしもスムーズに進む、というわけではなく各企業の多様な労働環境や方針の中で調整すべき課題は多い。逆に企業の方が熱心にかかわって本人の力を引き出し、我々支援者側の狭い視野に気付いて反省することも多々ある。  大切なことは、支援者があきらめず関係機関と共に創意工夫を続ける努力をすることである。本人は決してあきらめないのだから(ただ「働く」ことがすべてではなく、就職以外の道を見つける場合もあり、あくまでも生き方探しは本人主体である)。支援者は、障害があってもいろいろな可能性がある、と思いながら片方で「大丈夫だろうか、働けないのではないか」などと不安を抱いてしまうことがある。もちろん支援がスムーズに進み、他機関と連携しなくてもそのまま就職に至る例もある。ただ一つの機関だけでかかわるには役割に限界もあり、多角的視点や広がりがもてない場合も多い。特に難しいと感じる事例には就労支援ネットワークを形成する応援団として、協力して各機関がそれぞれの役割を果たすことができれば、新たな道を拓くことができる。そして職場環境の配慮により、本人の力と可能性が存分に発揮されるのである。障害とは環境との相互作用である。職場環境に働きかけること、職場環境を調整することを忘れてはならない。特に福祉関係の支援者は、自らの施設内で過ごしている本人の姿ばかりに注目するきらいがある。しかし本人は環境にあわせ様々な顔や力をもっているものなのである。現に職場実習では施設内では知らなかった本人の顔を発見する。障害が重いのでは、と感じられていた方の表情が引き締まり、きびきびと働く姿に何度感動を覚えたことだろう。「働く」ことへの切実な希望がその姿にこめられているように感じる。Aさんのような姿を何例も何例も知ることで、支援者自身も可能性を信じる、ということがはじめて実感できるように思う。その感動が次の方への支援への原動力につながることを、いつも強く教えられている。 コラムC   地域障害者職業センターにおける障害者支援について   <はじめに>  障害者本人の就業に対する意欲の高まりや、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正に伴う、法定雇用率の改定や差別の禁止、合理的配慮の提供義務等の措置などにより障害者雇用は着実に進展している。厚生労働省が発表している令和2年度の障害者の職業紹介状況等によると、ハローワークを通じた障害者の就職件数はコロナ禍において前年度比で減少したものの、令和元年度の取りまとめまでは、11年連続で増加しており、中でも精神障害者やその他の障害者の就職者数の伸び率が高くなっている。  一方で、当機構の障害者職業総合センター研究部門の調査研究(調査研究報告書No.137「障害者の就業状況等に関する調査研究」)によると、障害者求人と一般求人、一般求人における障害の開示・非開示において、また、支援機関による定着支援の有無等により、就職後の定着率に有意な差があることが報告されている。  これらのことから、近年の就業支援ではジョブマッチングのための支援や就職後、安定した就業を継続するためのセルフマネジメントスキルの向上、就業先の人も含めた職場環境の調整などが重要になってきているといえる。  地域障害者職業センターでは、本ハンドブック本編にあるようにアセスメントからプランニングを経て、支援が必要な障害者に対し、職業準備支援、ジョブコーチ支援等を実施しており、マッチングや職場適応、就業継続の支援を行っている。ここでは、利用者の約6割を占める精神障害者や発達障害者への支援を中心にその概要を紹介する。 <職業準備支援>  職場をイメージした模擬的就労場面での作業体験や各種講習、個別相談などを通して就職や職場適応に必要な職業上の課題の把握とその改善を図るための支援、職業に関する知識の習得のための支援、社会生活技能等の向上を図るための支援を行っている。特に発達障害者向けのカリキュラムとして、ロールプレイを通して職場での対人技能を学ぶ「職場対人技能トレーニング(JST)」や、問題の発生状況や原因を把握し、現実的な問題解決策を選択できるようにするための「問題解決技能トレーニング」、自分の特徴(得手不得手等)を整理して、セールスポイントや配慮してほしいことなどを会社や支援機関、家族に説明するための自己紹介シートである「ナビゲーションブックの作成」などを実施している。また、精神障害の中でもうつ病等の気分障害の求職者が増加している状況を踏まえ、より実践的な模擬的就労場面を設定し、集団によるチーム作業等を通して作業遂行上の課題を把握し、対処スキルの習得を図る「ジョブリハーサル」や、自らの成功体験や職業上の課題などを振り返り、今後の働き方に関する理解を深めるための「キャリア講習」、ストレス対処や体調の自己管理のための「職業生活講習」などを組み合わせたカリキュラムを実施している。 <ジョブコーチによる支援>  障害者の職場適応を支援するジョブコーチ(職場適応援助者)が職場を訪問し、障害特性や職務内容、職場環境など個々の状況に応じた支援を実施している。ジョブコーチはその名称や、これまで支援対象のボリュームゾーンとなっていた知的障害者に対する支援の実践内容などから、職場での作業習得のために作業場面に介入を行うイメージが強いが、地域障害者職業センターにおけるジョブコーチ支援の対象が精神障害者や発達障害者にシフトしていく中で、支援の内容も多様化してきている。例えば、疲労やストレスのセルフケアに関する助言やツールの導入のための支援、本人や企業との相談を中心とした支援を行い、本人と企業のコミュニケーションの円滑化を図るといった、相談支援を中心とした支援が増加傾向にある。また、企業自らの、障害のある社員に対する雇用管理スキルの向上を目指して、企業担当者とジョブコーチが協同で職場適応支援を行う機会も増えてきている。 <事業主に対する支援>  障害者の就業、職場定着を進めるためには、もう一方の当事者である事業主に対する支援も重要となる。このため地域障害者職業センターでは、上記ジョブコーチ支援の項目で述べたような個別の支援を通じた支援を実施するほか、障害者雇用に課題や関心を有する事業主に対し、障害者雇用の段階別にテーマを設定した講座や企業同士の意見交換の場の提供、採用面接の演習、採用後の雇用管理に関するノウハウの提供などを、それぞれの事業主の置かれた状況に応じ、体系的に実施している。 <おわりに>  本コラムでは、地域障害者職業センターにおける障害者支援について、精神障害者や発達障害者に対する支援を中心に述べてきたが、各地域の就業支援体制の整備状況等に応じて身体障害者や知的障害者への支援も引き続き取り組んでいる。近年では、高次脳機能障害者に対する復職や就業支援のニーズも高まってきている。また、うつ病等により休職している者へのリワーク(職場復帰)支援なども行っているところである。障害者、事業主の支援ニーズや地域の就業支援機関の状況に応じて、地域障害者職業センターの支援を活用されたい。 第3節 特別支援学校における支援の実際 〜東京都立志村学園〜 第1項 本校の概要  東京都立志村学園は、平成25年4月に開校した「知的障害教育部門」と「肢体不自由教育部門」を併置した特別支援学校である。  知的障害教育部門については、「東京都特別支援教育推進計画」に位置づけられた「高等部就業技術科」(以下「就業技術科」という。)として設置された(東京都内では4校目の職業学科)。  就業技術科は、定員を設け(本校は1学年80名)、軽度知的障害の生徒を対象に「生徒全員の企業就労を目指す」というコンセプトで設置されている。専門教科である「職業に関する教科」を中心にしながら、各教科等をバランスよく学び、働く力や大人・社会人としての知識・技能・態度等を身に付けようとしている。 表1 3年生時間割(例)  進路指導の基本的な考え方としては、職業に関する教科等の授業で身につけた力を現場実習で試しながら、進路相談で振り返り次の目標を設定し、現場実習でわかった自分の強みはさらに授業で磨きをかけ、弱みは改善していくサイクルを目指している。そして、就職活動としても、現場実習を軸に展開していく。  就職活動として山場になるのは、3年生の9月16日以降に行われる採用選考になる*。東京都の場合、応募は1社ずつになる(10月まで)*ため、どの1社に応募するか、自分で決めてほしいと願っている。そのために本校では、2年生の後半からの現場実習を就職活動と位置づけ、もしかしたら就職先になるかもしれない会社にチャレンジしていく。2年生のうちに複数の職場で現場実習を行い、3年生の現場実習でもそれが続いていく。順調な場合、夏休み前にはこの会社に応募したいと絞り込めるようになっていく。このような進路相談を経て、会社に高卒求人票の申込みを依頼し、雇用条件も含めて応募の意思を確認していく。  *(編集注)令和2年度において東京都の場合は、採用選考が10月16日以降に行われ、11月1日までは1社ずつの応募となっている。 図1 進路指導の基本的な考え方 図2 現場実習と採用選考の流れ(事業所説明用) 第2項 支援事例の紹介 《発達障害者(軽度知的障害を重複) Aさん 男性 18歳》 1)事例の概要  「先生、もう1回M社で実習して確かめたいんだけど・・・」  夏休み前、3年生は一斉に進路面談を実施する。本校では、本人・保護者・担任・進路担当の4人が参加している。  順調な生徒は、この面談で求人への応募について方向性を確認する。「N社かO社か」や「この会社へ応募でいいか」等で迷う生徒も、これまでの現場実習が不調な生徒も、この時期には一定の方向性のもと、秋の就職活動へと向かう準備をしていく。  この時期、Aさんの進路面談も設定された。  部活動では東京都代表チームにも選ばれ、チームを引っ張るリーダー、授業ではストイックなまでに清掃作業に取り組む。そのような彼も、中学校までは、コミュニケーションや数学等の教科学習に苦労してきた。  本校に入学してからは、徐々に自信を取り戻し、2年生からの就職活動にも前向きに積極的に、でも慎重にコツコツと体験を積み重ねてきた。2年生で3社、3年生で2社の実習を重ね、いよいよ応募先の1社を絞る時期になった。  M社とN社、悩みに悩み、その結果M社に応募、内定を勝ち取っていった。 2)支援の経過  @ 「この会社に応募したい」を自分で決める(選択の支援)  「仕事の希望は、自分の強みを生かせる事務作業か、授業でもやっている清掃作業で行きたい」  Aさんの中では、それまでの「職業に関する教科」の授業や仕事に関する学習、1年生の時からの現場実習の体験から、2年生の秋には上記のようなイメージだった。  2年生の後半からの現場実習を「就職活動」とすることは先にも述べた。実はこの意識を作るには、生徒たちも先生たちも苦労する。  1年生や2年生の前半までは「やってみたい・やりたい仕事」で実習を組んでいく。2年生の前半の現場実習では、複数の「やってみたい・やりたい仕事」から、一つに絞って取り組んでいく。授業でも「仕事選び」という言葉で共有している。そこで一つに絞る選択を実際やってみることになる。このプロセスで、「選ぶ」というのは「他を捨てる」ことでもあることを学んでいく。  2年生後半からは、「就職活動」そして「会社選び」になる。つまり、仕事内容だけではなく、職場環境や雇用条件等々、観点を増やした選択になる。そのタイミングで当時地域の就労支援機関が実施していた「職業ガイダンス」を活用した。就職活動に向かう2年生を対象に、その心構えや職業選択に当たっての観点等を学んでいく。 図3 仕事を選ぶときに考えること  「あなたたちが卒業する年の4月に雇用を検討している、こういう会社があって、『ぜひ現場実習で生徒に会いたい』とお話しがあるんだけど、チャレンジしてみますか」  生徒へのこんな投げかけをすると、ほぼ全員「やりたいです!」と現場実習の設定になっていく。生徒も、現場実習をやってみないとわからないことを知っていき、実習終了後の評価や手ごたえ、会社の情報によって次のステップの検討に進んでいく。  Aさんも、この流れで進めていった。終わった後には必ず「この後、(今回現場実習に行った)K社はどうだった?」と聞くようにしているが、Aさんは、「んんん・・・もう1社できますか?」と聞いていた。  「そうだよね、じゃあL社でやってみて、考えてみよう」  Aさんに限らず、本校の生徒が「選択」していく時、比較することがその支援として有効になる。自分で観点を見つけ、絞り、優先順位をつけながら、選択していく。そして、「やりたい仕事」から就職活動を考え始め、「できる仕事」をあわせて就職を目指すことを学んでいく。  「選択」していく時に、「できる仕事」が多いほど、会社の期待(つまり求人内容)に応えることができ、選択肢が広がる・・・その構造を知っていく。  また、一方でこのプロセスをとおして、「この会社に入りたい!」という気持ちを強めていく。比較検討しながら、現場実習で出会った職場のいいところをわかっていき、仲間になりたいと希望していく。  「自分で入りたいと思う1社を決めて、選考に応募して、勝ち取っていく」という流れができていく。  そのため、本校では2年生後半から複数の職場で現場実習を行うわけだが、1件の現場実習は最大で1週間としている。2週間以上の期間の実習を一定期間に複数実施するのは難しい。校内での生活も大事にしてほしいし、授業や授業以外でも力をつけ、もまれて鍛えられてほしいと願っているからである。  L社でも現場実習をやってみたAさんは、学校に帰ってくると次のように振り返った。  「先生、清掃の会社で2社やってみたけど、事務の仕事の会社でも実習できますか?」  慎重なAさんなので、ある程度の予想はしていた。その後事務の仕事のM社とN社でも現場実習をやってみて、「やっぱり事務の仕事、会社で就職したい」と希望が変わっていった。  A 応募先を1社に絞る・決める、そして応募へ(就職活動への支援)  3年生になったAさんは4月の進路面談で、次のように言った。  「M社とN社、3年生の前半でもう一度現場実習をやって決めたい」  就職活動への見通しを持ちながら、夏休みまでにはもう一度実習をして、確かめたいというわけだった。  Aさんは2社からの評価もよく順調に3年生前半の現場実習の見通しを作ることができた。この他に、2年生で実習した希望の会社でもう一度現場実習をやって決めていきたいという生徒、2年生で実習した会社の採用計画が変更になったため求人が出なくなりそう、だから他社で現場実習を設定していく生徒、どうも2年生までの現場実習はうまくいかなかったので他社での実習のチャンスを作ろうという生徒、大きくはこの4つの層に分かれていく。  3年生の7月、前半戦の現場実習を受けて進路面談を設定する。この面談では、応募先を絞り込んでいく内容を話し合う。毎年3年生の6〜7割の生徒が、この面談で希望の1社を決めていくことができている。現場実習でわかったことと、雇用条件とを合わせて、応募を考えていく。  すでにこの時期には、授業の中で高卒求人票については学んでいる。7月になると、学校も高卒求人票を見ることができ、早い人はこの面談で応募を検討することができる。 図4 応募先を絞る  M社とN社で現場実習をやっていたAさんは、この面談でM社の高卒求人票を見たいと希望を話した。すぐにM社にその意向を伝え、ハローワークに求人の申込みをしていただくと、7月の終わりになって学校に届いた。  同じ時期、本校では毎年8月初旬には、3年生は学校管轄のハローワークで「求職登録」の手続きを行う。ほぼ全員登録するため、事前の学習には熱が入る。 図5 「求職登録」とは  求職登録の準備を通して、ハローワークの機能や登録のための手続き、書類の書き方や個人情報の取り扱い等を学んでいく。  登録当日は、いい緊張感を持って、ハローワークの担当者と面談する。その際、自分のことや希望の事業所のことを、しっかり話していく。毎年この求職登録会で、手続きと面談をしていくが、生徒の反応として次のような感想があがる。  「ハローワークって、やさしいんだ。こわい所じゃないんだ・・・・」「ハローワークって、就職の時だけじゃなくて、働く上で困ったりしたときに相談できるんだ」などと実感していく。  「実習をやってみて、雇用条件を見て、私はM社に応募したいと考えています。ハローワークも応援してください。」  求人票を見てこの求職登録に臨んだAさん、特に初めての人と話すのは苦手なのだが、専門援助部門のご担当の方からうまく引き出していただきながら、しっかり希望を伝えることができた。  この後、AさんはM社に応募、「志村スタンダード(志村学園で身につけるべき社会生活習慣のチェックリスト)」や面接練習を経て培った力をもとに、選考を受けて、採用内定を勝ち取っていく。 図6 志村スタンダード(中級編) 3)「働く生活」と定着にむけて  採用選考への応募を軸とした現場実習を組んでいくことで、生徒の目標への意識は明確になり、何を努力すべきかがわかりやすくなる。  在学中にできる最初の定着の支援として、本人が「この会社に入りたい!」と強く思って4月を迎えることと捉えることができる。  AさんもM社という目標を自分で決めた。「ほんとうにいいのか?」と確かめた2回の現場実習とハローワークでの求職登録でその気持ちを強め、実習でもらってきた「宿題(今後成長するための課題等)」に授業で磨きをかけてきた。  自分の目標を持つと、彼らは必ず努力していく。コミュニケーションに苦手意識を強く持つAさんも、学校・ハローワークの面談や面接練習を経て、自信をつけて突破した。  一方で、高校生の採用選考のルールを意識して流れと動きを作ることで、会社もスケジュールを意識して動いてもらえるようになる。そうすると、従来の特別支援学校生徒への内定が、大幅に早くなる。そうなると、卒業後の職業生活を見据えた学習を計画的具体的に進めることができる。  採用内定が早く出ることで、卒業後の「働く生活」に向けての学習に時間を使うことができるようになる。  学校は個別移行支援計画を作成することになるが、本校では「マイ・ライフ・プラン」と呼び、自分の生活設計をする学習として取り組んでいる。  11月ごろになると、採用内定をもらえる生徒も増え、徐々に卒業後の生活が近いと実感できるようになる。授業でも「困ったときや心配事ができたとき、どうすればいい?」などの話題も増えてくる。  本校では、このタイミングで「就労支援機関連絡会」として、生徒の居住地ごとに設置されている「就労支援センター」と面会する機会を設定している。  相談が苦手で、新しい人に会うのも得意ではない生徒は、年度末に登録する前に面会しておくことで、少しでも距離を縮め、本人達から「話を聞いてほしい」という関係に近づけるような機会にしている。  Aさんは、3年生の夏休みに通勤寮の見学に参加している。「働く生活」を考える上で、福祉サービスを利用しながらの自立を知るためだった。  「通勤寮でお金と力を貯めて、将来は一人暮らしをしたい」  これが彼の「働く生活」作りの目標だった。  「でも、すぐに一人暮らしは難しい・・・お金も貯めたいし、料理や洗濯も覚えたい」  そのために、通勤寮だけでなく、内定が出た後はグループホームを3件見学し、卒業時点で入居することになった。  そして、グループホームのある住所地の就労支援センターに登録した。 第3項 まとめ 1)特別支援学校の進路決定支援  高校生の採用選考のスキームに合わせていくことで、自分で目標を設定して、勝ち取るための努力を捉えやすくなる。そして、現場実習をはじめとする進路指導の柱のあり方も、そこに合わせていく必要がある。  「働くのはあなたたちです。保護者や先生たちではありません。現場実習は複数の会社でできますが、応募できるのは(東京都の場合10月まで)一社ずつです。どの一社に入りたいか、あなたたちが決めてください。でも、入ることができるかどうか、決めるのは・・・・・会社です」  法制度が変化し、様々なフレームが変わっていく中、本人が「この会社に入りたい」と、強く思って勝ち取る仕組みを工夫できる学校でありたいと考える。 2)「働く生活」にむけて  働く意義は多様で、それぞれの年齢や状況によっても変化する。ライフステージ上で出てくる「ライフイベント」について知り、「こんな生活を作りたい」と目標を持ちながら、働き続けられるようになってほしい。  そのためには「相談」が必要になる。  苦手なことは支援を求める、自分の役割をわかって、努力を応援してもらう。本人達から見て、頼れる人(機関)を増やしてほしい。  出身学校も含めた支援機関との関わりも、対等な関係性を作りつつ、活用していきながら、大人としての学びにつなげていきたい。 コラムD   働く障害者の声    障害者の就業意欲の高まりとともに、企業における障害者雇用者数は平成16年以降上昇の一途を辿り、障害者雇用率も令和3年6月時点では2.20%と過去最高となっている。そうした中で実際に企業において生き生きと働く障害者の姿は、就業支援の必要性、重要性を再認識するきっかけとなろう。そこで、ここでは実際に企業で働く障害者の声として、ゆうせいチャレンジド株式会社※で働く障害者の方々の生の声をご紹介する。 ・53歳 男性 「毎日一緒に頑張っている仲間と旅行に行ったり、ボウリングをしたりすることが、仕事を通じての楽しみです。もちろん、頑張って働いた自分の給料でというのがうれしいです。」 ・45歳 男性 「仕事を通じて、苦手なことでも頑張って出来るようになったことがあります。仕事でなければチャレンジしないことだったので、仕事をしていてよかったです。」 ・41歳 女性 「仕事をして給料をもらうと、より一層責任を感じ、頑張ろうという気持ちになります。そして、働いていると『いつもきれいにしてくれて、ありがとう』という声をかけられることもあって、自分が会社の役に立っているんだなぁと感じます。」 ・41歳 男性 「給料をためて、いつか独り暮らしがしたいです。そして、結婚もしたいです。そのためには仕事を頑張らなくてはなりません。」 ・36歳 男性 「将来的には、ビルメンテナンスの講習を受けたり、資格を取ったりしたいです。でも今は、まず毎日の仕事のレベルをあげることが目標です。それがいつか、講習の受講や資格へのチャレンジにつながっていくと思います。」 といったように企業で働くことは障害者にとっても有意義な日常生活を送るための活動の場となっており、また、さらなる生活の充実や自己の能力開発など生涯を通じての生活の質(QOL)の向上に繋がる活動となっていると言えよう。 ※ゆうせいチャレンジド株式会社=平成19年設立。日本郵政グループの特例子会社。社員数198名、内チャレンジド(知的障害等のある社員)は155名 (令和2年10月末現在)。本社、支店合わせて勤務地は18箇所。チャレンジドは主に社屋の清掃に従事。 第3章 就業支援に必要な考え方  障害者の就業支援においては、数多くの実践を通じた支援ノウハウの積み上げも重要であるが、新たな問題に直面した場合に行き詰まることのないよう、支援のベースとなる基本的な考え方をしっかり踏まえておくことも大切な要素となる。 第1節 就業支援とは  就業支援の実践に際し、支援方法や障害者雇用制度等の知識、ノウハウを学ぶのと同時に、以下の就業支援に関する基本的な考え方を理解し、これを念頭に置きつつ支援を行うことは非常に重要である。 第1項 働くことの意義の理解と就業支援  当然のことながら就業支援において取り扱われるのは「人が働く」ということであり、支援者にとっては働くことについての意義を考えることは避けては通れない。  職業の3要素として@個性の発揮、A連帯の実現、そしてB生計の維持が指摘されることがある。これは、人は、生計(収入)が保障されれば、働くことを通して社会への参加欲求を満たして、働くことに対して自己実現の場や自己成長の場としての要素をより強く求めることを示唆する。これらを踏まえると、働くことの意義は、「社会的な視点」と「個人的な視点」の2つの側面から捉えることが必要となろう。  前者の「社会的な視点」からすると、働くことは社会の存続や発展に必要な生産的な活動が分割されて個人に割り当てられたものであり、割り当てられた役割に継続的に従事することで賃金などの報酬が分配される。これに対して、後者の「個人的な視点」に焦点を当てると、割り当てられた役割を果たすことを通して、自分の能力を発揮し心理的な満足を得る源泉となる。仲間を作り、先輩や後輩に自分の存在を認めてもらい、自分自身の達成感や満足感を得るといった機会がもたらされ、自己の存在意義(生きている意味)を確認する価値実現の場となる。これらは障害の有無を問わないすべての人について言えることだが、障害のある場合には、さらに、@生活リズムの調整や体力・健康の維持につながり、A心理的な満足や自尊心が獲得でき、B生計を維持するための経済的な基盤が提供され、C人間関係の確立や人格形成などの社会的な関わりを持てる場となることなどが付け加わる。こうした多面的な意義があるがゆえに、障害があったとしても、働くことの意義は大きいのである。  したがって、就業支援は、個人が働く場を提供されて収入を得て、仕事役割の遂行を通して社会的な承認を獲得し、職場の仲間や友人を増やし、結果として個人の生活が豊かになることにつながることを目指すといえよう。仕事に就いて職業的に自立する中で、生涯にわたる「生活の質(Quality of Life:QOL)」の向上を目指すのである。そうした職業的自立をとおして「生活の質」の向上を支援する活動こそが職業リハビリテーションである。  このように、働くことの意義は非常に大きいことから、正規社員に加えて非正規社員あるいは短時間就業やグループ就業・在宅就業などの多様な働き方の開発や、さまざまな働く場を拡充する施策などを、さらに展開させてゆくことが大切になる。 コラムE   職業リハビリテーション    職業リハビリテーションとは、国際労働機関(ILO)第159号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約)による定義において、「障害者が適当な職業に就き、それを継続し、かつその職業において向上することができるようにし、それにより障害者の社会への統合又は再統合を促進すること」とされている。  つまりこの定義において職業リハビリテーションは、障害者の社会への統合の手段であり、適当な雇用の継続とその向上を支援することと捉えることができる。  また、日本国内においては「障害者の雇用の促進等に関する法律」において、その定義がなされており、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ることをいう」(第2条第7号)とされている。この定義では、職業リハビリテーションの措置として、職業指導、職業訓練、職業紹介が例示されているが、職業リハビリテーションの措置はこれらに限られるものではなく、障害のある求職者の希望や特性把握等の情報収集から始まり、就職後の職場適応、職場定着に係る支援に至るまでの措置が広くこれに該当するものである。  なお、職業リハビリテーションに関する学術的な理論体系に関しては本書271ページ以降に参考図書等を掲載しているのでそちらを参考にされたい。 第2項 就業支援のための視点  就業支援を実際に行う際の重要な視点として、次のことが挙げられる1)。   1)個人と職場の双方に向けた支援  図1の概念モデルに従えば、効果的な就業支援サービスは、個人ニーズへの満足度と職場(環境)のニーズ(要求水準)への充足度の双方を向上させることにある。そのためには、個人と職場の双方に向けた支援を並行させることが重要となろう。 図1 職業リハビリテーション活動の概念モデル  図1の概念モデルの下段には、こうした個人と職場(環境)の双方に並行して提供すべき支援の方針を示した。すなわち、個人に向けられたサービスや支援は「機能の発達」を促すことを目指す。これは更に、教育や訓練によってこれまで習得していなかった機能や能力を新たに獲得する「技能の発達」と、学習を通して既存の機能や能力を実際の職場で活用できるように再構成する「技能の活用」の2つの方法がある。  他方で、職場(環境)に向けられたサービスや支援は「資源の開発」を促すことを目指す。これもまた、既存の様々な社会資源を選択したり調整しながら活用する「資源の調整」と、個人の能力や必要性に応じて既存の社会資源を改善して作りかえる「資源の修正」の2つの方法がある。就業支援は、こうした4つの方法により個人と職場(環境)の双方に焦点を当てながら支援や介入を行うものであり、この視点こそ、医学や特別支援教育での支援や介入と異なる特徴といえよう。   2)就業支援と生活支援の一体的な継続  就業支援を進める場合、対象となる障害者の能力特性をどのように捉えるかは、実際の支援の在り方を考えるうえで重要である。図2は、そうした能力特性を階層的な構造として見たものである1)。   図2 個人特性の階層構造と支援  この図では、最上段の「職務の遂行」はある特定の仕事をこなすために要求される能力、2段目の「職業生活の遂行」は職業人として基本的に要求される特定の仕事を超えた共通の能力(職場の理解、基本的ルールの理解、作業遂行の基本能力、作業遂行の態度、対人関係の態度、求職と面接技能など)、3段目の「日常生活の遂行」は日常生活について自立して維持できる能力(学習の基礎的技能<基礎的な数理処理、理解力、コミュニケーション能力など>、適応の基礎的技能<自己の理解、情緒的あるいは社会的な対人関係など>、地域社会への適応行動<日常生活技能、家事の能力、健康の管理、消費者としての技能、地域社会の理解など>)、そして、最下段の「疾病・障害の管理」は服薬管理などで疾病を自己管理して健康の維持に配慮した生活をする能力(清潔の自己管理、健康の自己管理、服薬の遵守など)を示す。  能力特性をこうした階層構造としてみると、職場や企業が最も必要とするのは生産性に直結する最上層であることは明らかだろう。そのため、企業は企業内訓練(OJT=on the job training)などを通して、従業員の職業能力開発に力を入れる。ところが、障害のある人の場合には、むしろ第2層以下の「職業生活の遂行」「日常生活の遂行」「疾病・障害の管理」に関わる諸能力が、企業の求める水準として不充分であったり不安定であったりすることが多い。このため、障害者を企業に就職させるために福祉・教育分野の関係者が行う教育・訓練は、職業生活や社会生活の準備性の向上を目指すべきものといえる。学校の進路指導もこうした準備性を高めることに焦点を当てたカリキュラムを実施するべきだろう。  また、これら3層の諸能力が不充分なままに、あるいは不安定なままに就職した知的・精神・発達障害者に対しては、福祉・教育分野の支援者が企業の担う「職務の遂行」の更なる能力開発と協働して、これら3層に関わる諸能力の維持や向上に向けた支援を担うことが望ましい。言い換えると、福祉・教育分野の支援者と企業が連携ネットワークを結び、生活支援と就業支援を並行して継続的に支援することが必要なのである。   3)キャリア発達の視点を踏まえた支援  図2の第2層以下に示す諸能力は、幼少期からの様々な経験や学習の過程を経て段階的に獲得される内容である。特に知的障害を含む発達障害の児童・生徒の場合には、発達過程での様々な経験が制約されがちになり、また、失敗の繰返しにより、自己否定的あるいは貧弱な自己概念を形成したり、非現実的な職業指向や意思決定を行う傾向が見られる。つまり、図の第2層以下の職業生活や社会生活の準備性に関わる諸能力が、発達過程で停滞しがちになる。就業支援に当たっては、キャリア発達の視点から仕事そのもののキャリアアップに焦点を当てるとともに、発達過程で停滞した諸能力に対し、職業生活で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方ができるよう、職業人としての資質や能力を高めるための支援を行うことが求められる。 コラムF   キャリア発達    キャリア発達は、誕生から学齢期を経ながら、その後の就職や職業生活の維持、そして退職後の人生に至るまで、その生涯にわたる個人の働き方や生き方に関わるものである。キャリアという用語には様々な意味があるが、職業経歴や仕事そのものを意味するワークキャリアと、職業生活を含む様々な生活場面で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方を指すライフキャリアに分けて捉えることができる。  特に、ライフキャリアを考える場合には、図に示すように、障害の有無に関わらず、人は生涯にわたって子供・学生・余暇人・市民・職業人・家庭人などの多様な役割を遂行するのであり、それぞれの発達段階でこれらの役割に費やされる時間やエネルギーの大きさは異なる。また、この図から、個人のライフ・スタイルは、生活上の様々な役割の同時的な組合せから決まることが示唆される。さらに、それぞれの役割が自分にとってどれだけ重要であるかは、@その役割に対してどれだけ思い入れたかという態度や情意的な側面、A実際にどれだけエネルギーを投入したかという行動的な側面、Bその役割についての正確な情報である認知的な側面、の3つの側面から決まるとされる。  こうした人生に用意されている多様な役割の中でも、特に、職業人としての「仕事役割」は全体的に大きな重みを持つだろう。就業支援は、こうした様々な役割を視野に入れつつ、職業人としての役割に焦点を当てた活動である。 4)移行支援の重要性  キャリア発達の視点を踏まえると、職業的な自立に向けた支援やサービスは、「移行」の時期に最も手厚くすることが必要となる。移行は、学校から職場、あるいは職場内での職務や地位の移動などのように、それまでと異なる社会環境に参入することで、未経験の新たな役割を担うことが求められるからである。障害者の場合には、未知の新しい役割に応えるのに必要な知識や技能、あるいは行動や態度などを新たに習得するのに時間を要することから、この時期を上手く乗り越えるための支援やサービスが重要となる。  職業生活を中心とした社会的な自立への流れの中で生じる「移行」は、少なくとも、@仕事に就くための準備期間や実際の就職活動、A就職直後のごく短い時期における職場適応、B就職後の職業生活の持続、の3つの時期に区分される。このそれぞれの移行時期に応じて実施すべき支援のポイントがある。  最初の「@就業への準備段階」では、a)仕事役割を果たすだけの準備が整っているか、限られた期間でどこまでその可能性が高められるか、などの評価基準を明確にし、b)福祉・教育・医療分野の視点ではなくて、仕事役割を果たすのに必要な要件が備わっているかという見方が必要である。次の「A就業場面への参入段階」では、a)多様な働き方や働く条件を整備して、障害特性に配慮した雇用管理や雇用形態の在り方を明らかにし、b)入職後の時間経過とともに労働負荷を微増させながら支援を漸減させ、c)訓練や行動上の問題に対応する支援技術を開発することなどが必要となる。最後の「B就業の継続に向けた段階」では、職場で働くことと地域生活そのものに対する支援を一体的に継続して提供するために、a)地域生活を維持するための支援、b)職務に適応するための支援、c)企業への対応と地域ネットワークの育成などが必要である。 5)ネットワークの構築  このように、「移行」の課題は広い範囲に及び、また、人生の過程で様々な移行の課題に直面する。そうした移行の課題を円滑に乗り越えるには、各種の支援機関の支援者ばかりでなく、家族、地域の友人や隣人、職場の上司や同僚などの様々な分野の人が加わる地域支援システムが必要である。  特に、働く障害者を支えていくには、雇用・福祉・教育・医療等の各分野の連携が不可欠である。それぞれの支援機関が役割分担しつつ、個々の障害者のニーズに対応した長期的な支援を総合的に行うネットワークを、障害保健福祉圏域などの身近な地域ごとに構築することが必要である。  地域ネットワークの構築は、障害者にとっては、ライフステージを通じて適切な支援が受けられ、どの機関を利用しても必要な支援に結び付けてもらえる利点がある。また、支援者にとっては、各分野の強みを活かした効果的な役割分担が可能になる。事実、就業支援が効果的に行われている地域の多くは、熱心に就業支援に取り組む機関が中心となり、様々な個別ケースごとに地域の支援機関が緊密に連携して、それぞれの役割に応じて支援を分担するといったネットワークが構築されている。   第3項 支援者に求められる役割と資質 1)求められる能力要件  就業支援の担当者といっても、その役割の内容や職務上の権限から様々な水準があるが、共通して必要とされる能力として、@就業支援の基本的知識・理念の理解、A就業支援に関する制度の理解、B関係機関の役割・連携の理解、C企業の障害者雇用の実際の理解、D就業支援の実際の理解とともに、E支援者としての自己理解とF相談のスキル、Gコミュニケーションスキルがあげられる。例えば表1(146ページ)は、就労移行支援事業所の就労支援員、障害者就業・生活支援センターの就業支援担当者、それに、訪問型・企業在籍型職場適応援助者のそれぞれの役割・職務・求められる能力をまとめたものであり、下段には先ほどの項目が「共通基盤」として整理されている2)。 表1 障害者の一般就業を支える人材の職務と求められる能力 出典)厚生労働省職業安定局:障害者の一般就労を支える人材の育成のあり方に関する 研究会報告書(平成21年3月).2009を基に作成    また、就労移行支援事業所のサービス管理責任者研修では、@キャリア開発に関する各理論、A職業アセスメントの種類や目的と実施方法、B職業情報の種類と情報入手の方法、C職業能力開発に関する知識、訓練、教育機関などの情報、D企業における雇用管理の仕組みや主な業種における労働条件、E社会情勢、経済環境の変化、労働者を取り巻く雇用環境の変化による影響、F職業安定法等の労働関係法規や社会保障制度、Gメンタルヘルスに関する関連知識、Hライフステージにおける解決すべき課題、I初めて職業を選択する時や転職・退職などの転機の受け止め方や対応の方法、J障害特性の知識、などが基本的な知識体系とされている。また、個人の将来計画を見据えたキャリア育成への支援が就業支援の主要な課題となろう3)。 2)求められる資質  就業支援は基本的には対人サービスであることから、それに従事するには以下の資質が求められよう。  第1に、信頼関係が形成できることである。サービスの直接対象となる障害者ばかりでなく、企業や関係機関の担当者を始めとした支援に関わるフォーマル/インフォーマルな人たちと信頼関係を築けることが必要である。そのためには、利用者の立場に添うとともに、プライバシーを保護して人権を尊重する配慮が不可欠である。  第2に、面接の技術を習得することである。利用者を一人の生活者として理解し、充分な意思疎通を図りながら協働してニーズを明らかにしていくためには、利用者の感情表現を敏感に受けとめ、価値観を受容しながら、自己決定を促すような専門的な面接ができなければならない。  第3に、的確なアセスメントができることである。利用者と協働して利用者自身のニーズを明確にし、さらにその背景要因も分析することが必要である。そのためには、利用者の将来的な展望についての仮説を立てつつ、その仮説を確認するための情報を集め、関連する機関と連携し、対策を提示することが大切である。  第4に、サービスに関する知識を習得することである。実際に提供できるサービスを知り、それを利用者に適切に結び付けて総合的かつ継続的に提供をすることが必要である。そのためには、地域の公的サービスやインフォーマルな支援の所在、サービス内容、そして利用方法に精通しておくことが大切である。  第5は、チームアプローチを展開することである。就業支援の過程は様々な関係者との協働が必要となる。そのため、福祉・教育・医療分野の専門家と協同して活動するためのチームワークが大切である。  これらに加えて、就業支援を担う専門職としての倫理を尊重することが必要であろう。例えば、公益社団法人日本社会福祉士会の倫理綱領では「価値と原則」として、@人間の尊厳、A社会正義、B貢献、C誠実、D専門的力量、が掲げられ、公益社団法人日本精神保健福祉士協会倫理綱領では「倫理原則」として、@クライアントに対する責務、A専門職としての責務、B機関に対する責務、C社会に対する責務、が掲げられており、さらに両法人とも「倫理基準」が示されている。日本職業リハビリテーション学会では、障害のある人の職業リハビリテーションの実践に当たっては、その結果が人々の生活環境および生活の質に重大な影響を与えうることを認識し、職業的障害のない社会実現に貢献し、公益に寄与することを願い、@責任(人々の就労自立、健康、福祉の増進に貢献すること)、A公平性(障害、性別、人種、国籍、宗教等にとらわれない公平な姿勢)、B自己研さん(職業リハビリテーションの専門職・従事者・教育者・研究者としての自己研さん)、C公開性(実践活動等の成果の中立・公平な立場での公開・公益への還元)、D忠実性(実践および研究による成果が事実に即した忠実性を持つこと)、E行動・行為(公私混同の禁止、プライバシーの保護、 人権の尊重、社会的規範の遵守)、F研究(研究の実施におけるプライバシーの保護、秘密の厳守)の7項目に関する倫理規定を遵守することを求めている。 <参考文献> 1)松為信雄・菊池恵美子(編著):職業リハビリテーション学(改訂第2版) キャリア発達と社会参加に向けた就業支援体系.協同医書出版社.2006 2)厚生労働省:障害者の一般就業を支える人材の育成のあり方に関する研究会報告書.2009 3)前野哲哉:サービス提供の基本的姿勢.就業支援サービス管理責任者研修資料.厚生労働省.2006 さらなる理解のために   障害構造の理解    1980年に「国際障害分類(ICIDH)」を提示した世界保健機関(WHO)は、その後の論議を重ねながら、2001年に「国際生活機能分類(ICF)」を採択した。そこでは、図に示すように、人間の健康な生活全体の機能を包括的に把握して、その否定的な側面を「障害」と見なした。  この概念モデルでは、「健康状態」は「心身機能・構造」「活動」「参加」のそれぞれで異なる視点があり、その違いは、「個人因子」や「環境因子」などの背景因子の影響下にあることを強調している。障害は「機能・構造の変調」「活動の制約」「参加の制限」として現われ、「個人因子」や「環境因子」の条件によって異なるとされる。  特徴的なことは、「能力障害」や「社会的不利」の代わりに「活動」と「参加」の語を用いることで、個人の主体性を強調し、また、個人因子と環境因子などの背景因子が「活動」や「参加」を制限することを明確にしたことである。さらに、@心身機能・構造、A活動と参加、B環境因子、C個人因子の4つの側面を32の大分類から構成される体系的なコード化を提唱した。  こうした視点は、就業支援のアプローチに大きな影響を及ぼしており、@施設中心から地域参加型の支援への転換、A自立生活モデルを踏まえた援助付き雇用への転換、B発達的な人生段階の重視、などに発展してきた。  特に障害を、環境との相互作用によって生じることと強調したことで、就業支援の実際的な技術は、個別の課題解決を目指すよりも、生物・心理・社会的な障害のある個人と、そうした個人を取り巻く種々の環境要件との相互関係の在り方をどのように改善するかに焦点が当てられることになった。 リハビリテーション    リハビリテーションに関する定義はいくつかあるが、国際連合の障害者に関する世界行動計画において 1982年に提示された「身体的・精神的・社会的に最も適した機能水準の達成を可能にすることで、各個人が自らの人生を変革して行く手段の提供を目指し、かつ時間を限定したプロセス」は、最もよく引用されるものである。  この定義には、以下の4つの重要な概念が含まれている。第1は「身体的・精神的・社会的に」とあるように、リハビリテーションは医学分野に限るものではなく、教育や社会的分野に加えて職業的な分野も重要な構成要因であり、いわゆる総合リハビリテーションの視点に立つことが不可欠である。第2は「最も適した機能水準の達成」にあるとおり、リハビリテーション活動は、個人の置かれている様々な環境(職業や職場なども当然この中に含まれる。)との関わりにおいて「最適な機能水準」となる関係性を目指すものであり、発症以前の状態にまで回復させる「最高の状態」を求めるのではない。第3は「各個人が自らの人生を変革して行く」とあるように、対象者本人の意思決定や自主性、更にはそのためのエンパワーメントの向上を重視している。そして、第4に「時間を限定したプロセス」とあるように、実行プログラムには始まりと終わりがあるがゆえに、実施に際してはケースマネジメントの視点が不可欠であること、などが内包されている。 リハビリテーションカウンセリング    リハビリテーションカウンセリングは、わが国では、その領域や内容について幅広く認知されているとは言い難い。心理療法としてのカウンセリングや産業カウンセリングとも異なり、リハビリテーションカウンセリングの独自性は、生物・心理・社会的な障害の影響を最小限に留めて、それが社会的不利に及ぼす影響をできるだけ阻止することによって、社会参加を促すための様々な活動を展開するための支援技術にある。実際の活動は、次に示すように、支援や介入の対象を誰に(あるいは何に)向けるかによって異なる。  第1に、障害者本人を対象とする場合には、障害によって否定的になった自己像を現実の場面に即して肯定的に再統合化したり、達成が困難となった将来目標を現実に即して達成可能な目標として再構築するための「カウンセリング」が必要である。また、障害によって機能低下した職務遂行の技能や能力を回復・復旧させたり、代替の技能を再学習して仕事や職場の求める諸能力と調整するための「コーディネート」も求められている。  第2に、家族、学校、同僚、地域生活、仕事、文化・政治・経済的状況などの様々な集団や環境を対象とする場合では、対象者本人の現有する諸能力でも対応できるように環境要件そのものを再構造化する「コンサルテーション」が必要である。  第3に、支援を提供する専門家やその他の人たちを対象とする場合には、提供される支援の内容が対象者本人のニーズに応え得るように調整する「ケースマネジメント」が必要となろう。就業支援における実践技術では、これらの支援や介入の方法を広範に取り込むことが必要である。 第2節 企業の視点の理解 はじめに  民間企業における障害者雇用数は19年連続で過去最高を更新し、2022年6月1日時点における障害者雇用状況の報告では61.3万人(実雇用率算定上の人数)を超えるに至った(図1参照)。このような着実な進展を支えてきたのは、行政指導の強化、障害者雇用取組好事例の蓄積、就業支援機関・支援制度の充実、特例子会社の増加などの取組みを挙げることができる。そしてその取組みを可能とした裏には、「社会的責任」に応えよう、法令を遵守しよう、「ダイバーシティ」の実現に取り組もうとする企業の真摯な努力があったことをまず認識しておきたい。  しかし一方で、企業を取り巻く経済環境は近年一段と厳しさを増している。「障害者雇用」の主体である企業がこの激変を乗り越えて社会的責任を果たし続けていくことは決して容易ではない。現状を踏まえ、今後どのように障害者雇用に取り組んでいくべきかを考察したい。 第1項 企業経営とは  企業とは利潤を求める集団である。利益をあげてこそ存在意義があるし、利益のあがらない企業は存続することそのものが難しくなる。企業が永く存続するためには、以下の要素が不可欠である。 収益の確保→再投資(人件費含む)→従業員満足度向上 顧客満足度向上→売上増加→収益の確保 従業員満足度向上→生産効率(モチベーション)のアップ→生産コストの引下げ  この要素がどれか一つ欠けただけでも、正の循環に目詰まりを起こし負の循環に陥ってしまう。そうならないためにも、企業は常に優れた人材の確保を心掛けている。企業が優れた人材を求めるのは、社員の働きが会社の業績に直結しているからである。過剰な採用競争の実態を厳しく指摘するむきもあるが、企業が新規採用活動に必死になるのもこれ故である。ちなみに、障害者雇用も当然この枠のなかに含まれ、基本的に企業の人材活用は福祉サービス的な発想とは全く異なるものであることをよく理解しておかなければいけない。 図1 民間企業で働く障害者数の推移 第2項 企業経営を取り巻く環境変化と対応  企業を取り巻く環境が激変する中、各企業はたえずその変化の先を見据えた経営対応を求められている。はじめに、日本の企業の競争力を左右すると思われる経営環境の大きな変化について見てみよう。 1)生産年齢人口の減少の深刻化  世界に類を見ないスピードで進行している日本の少子高齢化は深刻な問題である。特に15歳以上65歳未満の生産年齢人口の減少は、総人口の減少以上に急激である。1990年代には8,700万人であったものが2015年には7,728万人になり、2020年7,406万人、2030年6,875万人、2050年には5,275万人と急速に減少すると言われている1)。  一方、世界の人口については、国連統計の予想によれば、2019年77億人、2030年85億人、2050年97億人、2100年には実に109億人と増加すること、および一部の地域では生産年齢人口も増加することが予測されている2)。つまり、世界では人手が増える地域がある一方で、日本では人手不足がますます深刻になる、という図式である。  このような状況を踏まえ、日本の企業も人材確保に当たり、新卒定期採用主体から中途採用、通年採用へ、また採用対象を女性・高齢者・外国人・障害者に拡大していこうとする動きも見られる。 2)技術革新のスピードアップ(第4次産業革命)  経済のグローバル化に伴う国際競争の激化により、企業経営は一層のスピード化と効率性の向上が迫られている。このため、多くの企業では組織のフラット化や権限委譲、ICT(※1)技術を活用した業務効率化などが進められつつある。ICT技術の発達により、ビッグデータを分析・活用することで新たな経済価値が生まれており、また、AIにビッグデータを与えることにより、単なる情報解析だけでなく、複雑な判断をともなう労働・サービスの機械による提供も可能になると期待されている。  これらを第4次産業革命と総称しているが、内閣府の報告では、これらの技術革新により次のようなことが可能になると期待されている。 大量生産・画一的サービス提供から顧客のニーズに合わせた商品・サービスの提供。 既に存在している資源・資産の効率的な活用。 これまで人間によって行われていた労働のAIやロボットによる補助・代替。  顧客からみれば、既存の商品・サービスを今までよりも低価格で好きなときに適量購入できるというだけでなく、潜在的に求めていた新しい商品・サービスも得ることができるようになる。例えば、AIを利用した自動運転技術の開発やAIロボットによる介護補助への活用などの事例がある。また、事務の単純作業をAIロボットプログラムに置き換えることにより、24時間昼夜の区別なく作業を可能とする生産性の向上など、広い分野での活用が想定される。 (※1)ICT:「Information and Communication Technology」の略称で情報等新技術を使い人とインターネット、人と人がつながる技術のこと。 3)経済のグローバリゼーション(環境変化への柔軟な対応)  経済のグローバル化とは、国の枠を越えて世界が一つの国のように取引が行われるようになることである。それによって、企業は厳しい競争に晒される反面、世界中を市場とする飛躍のチャンスにもなっている。  また、グローバル化は経済全体では利益があっても、一部の企業に利益やデータが偏在するなどの問題も生み出す。しかし、資本主義経済は成長することが前提となっており、企業は常に競争に勝つための努力を行っているので、経済規模と効率を追及する上でグローバル化は避けられない。  それゆえ、企業では持続的成長や新規業務開拓のための不断の努力が続けられている。特に、人材の確保、能力開発には力を入れている。多様な人材を集め、相互に刺激を高めることによって能力を最大限に引き出し、社外との交流・アイデアの交換を通して創造力を磨いている。いわゆるダイバーシティの考え方の浸透である。  以上のように、今企業を取り巻く環境変化はとても激しくかつスピードが速い。既存のビジネスモデルが一夜にして陳腐化することもあり得る。このように、企業は環境の変化に柔軟に対応すべく生き残りをかけて大きく変貌しつつある。 第3項 働き方改革と人事制度の見直し 1)働き方改革について  @ 働き方改革の背景と全体像  2019年4月1日より、通称「働き方改革関連法」が順次施行されている。そもそもの働き方改革の背景であるが、日本の経済成長の支障となっている要因として、前項でも述べた少子高齢化や生産年齢人口の減少といった構造的な人口問題、イノベーションの不足による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足が指摘されており、経済再生のためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題とされたところにある。  この課題の解決のために、労働者の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現できるように検討されてきたのが「働き方改革」である。主なポイントは、「労働時間法制の見直し」(長時間労働の是正)と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」(いわゆる同一労働同一賃金に係る法整備)の2点となり、それらにより「多様で柔軟な働き方」を選択できるようにすることを目指している。  A 労働時間法制の見直し  国際的にみても日本の長時間労働は深刻で社会問題化しているが、労働生産性と長時間労働の常態化には密接な関係がある。労働生産性の低い企業がその低さを労働時間でカバーしようとすると、長時間労働で残業代などの人件費が増大することになり、そうなると、それは労働生産性の低下に直結してしまうという状況に陥る。  今回の法制度の見直しでは、長時間労働をなくし、年次有給休暇を取得しやすくすることなどによって、個々の事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現を目指すとともに、働き過ぎを防いで健康を守るようにした上で、専門的な職業の方が自立的で創造的な働き方を選択できるようにすることを目的としている。  B 「同一労働同一賃金」の徹底  「同一労働同一賃金」という大原則は今回の働き方改革の目玉の一つである。2020年4月からは同一労働同一賃金を含む法改正が施行(ただし、中小企業は2021年4月からの適用)され、企業は対応を強く求められることになる。例えば、経験やスキルもあり仕事ができる障害者社員の賃金が、同僚の健常者社員に比べ格段に安く、不合理なものである場合などは是正対象となる。  同一企業内における正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差をなくし、どのような雇用形態を選択しても、その待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることも目指している。 2)人事制度の見直しの方向  @ 「働きやすい働き方」への制度の見直し  既に大企業では、これらの法制度や環境変化に対応した取組みが始まっている。会社の方針や管理方法、具体的な労働環境として給与や勤務時間、役職などの見直しを行っている企業が増えてきている。企業の中には、若手社員の賃金を引き上げることで子育て世代に手厚い賃金カーブに変更したり、年功給から能力給へウェイトをシフトさせたりする改定を行うところが増えている。また、裁量労働制やフレックスタイム勤務の導入、さらにはテレワーク勤務を採用する企業も出始めている。また、休暇取得促進策や勤務時間短縮制度の導入などにより仕事と育児の両立支援をしているところもある。  企業はこれらの取組みにより、従業員一人当たりの労働生産性の向上、離職率の低下、採用の強化、従業員満足度の向上を目指している。  A 「働きやすさ」と「働きがい」の両立のために  働き方改革関連法が施行され、企業にとって必須のテーマとなっているが、本来の目的は従業員の「働きがい」を高めていくことにある。  仕事の達成感や責任範囲の拡大などを通して能力向上や自己成長に繋がっていく、そんな働き方を選択できるよう雇用環境を整える企業も増えてきている。従業員の「働きがい」が新たな企業価値を生み出し、企業は持続的に成長していける。「働きがい」を高めるには何が必要かを今多くの企業は模索している。 第4項 障害者雇用を取り巻く雇用環境の変化 1)関係法令の整備  2006年国連総会にて採択された「障害者の権利に関する条約」について、日本は2007年に署名、2014年に批准を行った。批准にあたり、国内では、障害者虐待防止法(通称)の成立、障害者基本法の改正、障害者総合支援法(通称)の成立、障害者差別解消法(通称)の成立、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正といった法整備が順次進められた。この一連の流れの中で、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務についても、改正障害者雇用促進法の中に規定されることとなった。 2)法定雇用率の変化と障害者雇用の促進  日本の障害者雇用施策は、企業に対し一定割合での障害者雇用を義務付ける「障害者雇用率制度」と、法定雇用率未達成の場合は納付金を納める「障害者雇用納付金制度」を基本としているので、法定雇用率の変化に沿って環境の動きを追ってみる。 図2 障害者法定雇用率の変遷 ※詳細の解説は、第4章第2節第1項「障害者の雇用の促進等に関する制度の概要」(P.247)、コラムH「障害者雇用と就業支援の歴史」(P.269)を参照のこと。  図2のように段階的に法定雇用率が引き上げられる中で、特例子会社の認定要件緩和や関係会社特例の導入、障害者就業・生活支援センターの設置や職場適応援助者(ジョブコーチ)支援制度の構築、各種助成金制度の拡充など、行政による障害者雇用支援施策もあわせて展開されてきた。  それらの施策効果とそれに伴う啓発効果、さらに企業努力が相まって、民間企業の実雇用率は着実な増加傾向にある。(※図1で2011年に一旦実雇用率が前年を下回っているのは、2010年7月の法改正で、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者も実雇用率の算定対象に加わる変更や除外率の引き下げがあったため。)  今後も法定雇用率の引き上げが想定される中、企業の障害者雇用は、採用競争、職域の拡充、定着・育成体制の整備にと、一段と厳しさを増している。 第5項 民間企業の障害者雇用の現状 1)民間企業における障害者雇用の実状  当節の冒頭にも述べたとおり、民間企業全体の雇用障害者数は19年連続で伸展してきている。民間企業全体としての流れは、障害者雇用への理解が確実に浸透しつつあることを示しているが、その内訳については必ずしも全体的な底上げが進んでいるとはいえない状況もある。  厚生労働省が公表している「令和4年障害者雇用状況の集計結果」によると、法定雇用率未達成企業のうち雇用障害者数0人の企業の割合は、常用雇用労働者数43.5人〜300人未満の中小企業において67.4%、同43.5人〜100人のより小規模企業に限ると91.9%となっている。同43.5人〜100人の企業は納付金対象ではないということが要因の一つと考えられるが、より一層の障害者雇用への理解促進が必要となるところである。  一方で、雇用率の問題だけによらず、ダイバーシティ、地域貢献などについて企業の責務として積極的に取り組み、実雇用率5%以上という企業も存在しており、企業の取組みが二極化しているのも事実である。  また、法定雇用率未達成かつ常用雇用労働者数500人以上の大規模企業の中で、不足数が0.5人または1人の企業は18.9%となっている。この企業規模の法定雇用者数は11.5人以上であることを踏まえると、あと1人の雇用がいかに重いかがうかがえる。裏返してみれば、雇用障害者数の上昇を牽引してきた超大手企業では、法定雇用率が0.1%〜0.2%引き上げられるだけで、10人〜20人単位での雇用増が必要となることから、更なる雇い入れに余裕がなくなりつつあるという声も聞かれるようになってきた。  加えて、このところ従前と比べ法定雇用率の改定が早い期間で行われているため、多人数のさらなる雇用の上乗せに際しては、職務開発や職場環境の整備、雇用条件の検討などの時間的余裕が必要である。 2)特例子会社の増加  特例子会社はここ10数年、毎年のように増加し、2022年6月1日時点では579社となっている。ただし、特例子会社制度を導入すればどの企業もうまくいくというわけではなく、障害者雇用の促進にあたり、自社が抱える問題点と同制度を導入することによるメリット・デメリットを総合的に勘案して判断することが肝要である。特例子会社は障害者が主体の企業となるため、各社では障害者にとって働きやすい環境を整備するべく努力している。また、近年、大都市圏では特例子会社の経営者層を中心に、取組好事例や各種情報の共有化に向けた横の連携が活発になっており、こうした動きが障害者雇用全体に波及していくことが期待される。  その半面、ノーマライゼーションの考え方から特例子会社制度に否定的な声もあるが、日本の障害者雇用の現状を踏まえると特例子会社制度が大きな役割を果たしているところである。 3)障害者の新しい働き方  @ 「農福連携」の動き  政府の働き方改革実現会議の取組みの一つとして、農業と福祉の連携(以下「農福連携」という。)強化が打ち出されている。農業に取り組む障害者就業施設への支援や、耕作放棄地の積極活用など、農福連携による障害者の就業支援を全都道府県での実現を目指すという方針である。趣旨としては、農福連携の取組みを通じて「農業経営の発展」と「障害者の所得の確保」を図るべく、障害者が農業分野で活躍できる場の創出などを通して農福連携の裾野を拡げて行く目的がある。企業の中には新しい職域を見出すことに苦労しているところも多く、新規職域を農業分野に広げていこうとする動きが見られる。  A 自宅や就業施設などでの働く機会の創出  働き方改革実現会議の提言においては、「テレワークによる障害者の在宅雇用の推進などICTを活用した雇用支援等」についても盛り込まれている。これは、障害や疾病の状況・特性と地域性からくる通勤の困難さを克服して、本人の能力を最大限発揮できる就業環境を整備しようとするものである。具体的には、ICTを活用した柔軟な働き方であるテレワークによって、在宅やサテライトオフィスでの就業を可能にする手法である。雇用促進に苦労している情報系・人材系企業などでは相当に注目されている。障害者の業務内容としては、文書、データなどの入力に加え、情報収集、調査、Webサイトのデザイン、Webを活用したマーケット調査など次第に拡大してきており、障害者の働き方として広がりつつある。 第6項 企業が抱える今後の取組課題  企業を取り巻く経営環境が毎年厳しさを増していく中、雇用主体である企業における障害者雇用の現状は理解いただけたと思う。その上で、企業の障害者雇用における今後の課題を考えてみたい。 1)企業における障害者の仕事の確保  従前、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種においては、それぞれの業種ごとに困難であると認められる職務の割合に応じた「除外率」が決められており、それらの業種に属する企業が実雇用率を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障害者の雇用義務の軽減策)が設けられていたが、この制度は2004年に廃止が決定され、現在経過措置として段階的に引き下げられてきているところであり、該当業種各社においては、障害状況に応じて対応可能な職務内容の検討が課題となっている。  また、近年急速にその存在感を増してきているICT、人材関連などの新興企業が障害者雇用にとりわけ苦戦している。法定雇用率が確実に引き上げられる中、これらの企業では常用雇用労働者数が毎年大幅に増加しているため、新規雇用障害者数と法定雇用障害者数の過不足が常に“いたちごっこ”の状況を続けている傾向にあるが、その根底には、障害者に従事してもらう仕事がないという悩みが存在する。これら新興企業は、概ね管理部門が小さく、自前でやる必然性のない業務は外注しているケースが多く、障害者雇用のために外注している業務を取り戻すとした場合、逆にコスト高になることはほぼ間違いない。このように法定雇用率の達成に見合うだけの仕事量を確保するのが難しいため、採用できていないという企業も多い。  一方、前述したように、中小企業では障害者の雇用経験が0人の企業数も依然として多い。一定の経験やスキルがある求職中の身体障害者は減少傾向にあり、求人募集をすれば応募者の過半数が精神障害者保健福祉手帳所持者である状況となっている。初めての障害者雇用できめ細かな雇用管理が必要な場合が多い精神障害者を雇用することは、経営資源が限られる中小企業にとり極めてハードルが高い。まず、経営者層の理解を得ることでつまずく。次に、職場の受け入れ態勢の整備や採用後の指導にあたる人材の確保も課題である。そしてなによりも障害状況に応じた一人分の仕事を作りにくいというところが大きい。公的サービスとして各種支援も用意されているが、中小企業にまで十分に浸透しているとは言えないのが現状であり、中小企業における障害者雇用の推進は、なお一層の重点課題となっている。  2)RPA(※2)の普及による仕事の変化  第2項(2)で詳述したとおり、技術革新のスピードアップ、生産年齢人口の減少といった社会変革の中にあって、今後の企業経営を考えたとき、AIやロボットの活用は必然の流れであろう。そのとき、各企業で障害者が従事していることが多い簡易・反復作業は、それらに取って代わられる可能性があろうことは想像に難くない。一つの業務に多数の障害者を集団配置している大手企業およびその特例子会社においては、それに見合う新たな仕事を準備しなければならなくなる。既存業務の中から新しい業務の切り出しを探し出すことはもちろん、AI・ロボットを導入することによって、逆にその周辺で新たな仕事の創出や構築ができないかを検討、準備することが求められている。RPAに伴う業務の変化は動き出したらあっという間である。その時期は思う以上に間近に迫っている可能性がある。 (※2)RPA:ロボットによる業務自動化の取組みを表す総称 Robotic Process Automation 3)障害者の採用の激化  法定雇用率の上昇や企業における法令遵守意識の浸透、社会貢献意欲の高まりもあって、障害者の採用市場が逼迫傾向にある。特に、大都市圏をはじめ一部の企業集中地域においては売り手市場といってよい。それに伴い、雇用可能な条件のハードルが上がるという現象が発生している。具体的には、正社員求人でないと応募がない、事務系の仕事でないと人が集まらない、給与を他社比較される、といった声をよく耳にするようになった。障害者にとっては良いことのように思えるが、必ずしもそうともばかりは言えない。  保護者や支援者から見てスマートな職種を選択する傾向にあるが、それが果たして障害者本人の希望・適性と合致しているのであろうか。条件が高くなったことにより企業が求める能力レベルも高くなったとしたら、果たしてそれに応えることが可能なのだろうか。また、売り手市場であることから、まだ職業準備性が十分ではない障害者を雇用したことで、職場にうまく適応できずに双方ともに疲弊してしまい、本人にも職場にもトラウマを残す結果となった事例も見受けられる。これは障害者、企業双方にとって不幸なことである。 4)障害者雇用の質的向上にどう応えるか  図3(165ページ)のように、常用雇用労働者数が1,000人以上の大手企業群においては、実雇用率の平均が法定雇用率を上回っており、これは2014年から続いている。また、同じ大手企業群における法定雇用率達成企業の割合についても、2018年こそ法定雇用率の引き上げがあり50%を僅かに下回ったものの、同じく2014年以降の傾向として50%以上を達成することが当たり前になりつつある。一方、行政施策面で、障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務、働き方改革の法制化といった動きがある中で、障害者雇用における企業への要求が「量」だけでなく、「質」にも向けられるようになってきた。  このような売り手市場下においては、施設・設備等のハード面はもちろんのこと、雇用条件、支援体制の充実が求められてきている。また、有期雇用から無期雇用への転換ルールが法制化されたことから、その対応策として正社員化などの雇用形態の見直しが迫られている。それと同時に、障害者雇用においても報酬制度、評価制度、昇格制度を整備・構築しようとする動きが大企業を中心に急速に増えている。制度化という明確な形にまでならないにしても、障害者を企業戦力としてとらえ、仕事の習熟度に伴ってより難易度の高い仕事を付与していこうという考え方が以前よりも浸透してきている。  しかし、労働者としての生産性の面から考えるとき、既存の健常者と同じ枠組みの中ではどうしても限界が出てきてしまう。そのような中で、障害者の頑張りにどのように報いるか、モチベーションアップにいかに繋げるか、根本的対応策を見出すことは容易ではない。  職業人としての自立を考えるとき、障害者本人の自助努力が欠かせないことは間違いないが、例えば図4のように、これからは企業としても、合理的配慮の提供とあわせて、個々人のキャリアプランを本人と一緒に考えていくような支援も重要である。 図3 民間企業の規模別の実雇用率の推移 図4 キャリアビジョンの作成 5)指導員の確保と育成  職場における障害者への指導・管理に専任者を配置できればいいが、どこの企業も人員的にそれほどの余裕はない。各職場に個別に配置する場合には配属先の上司・先輩が負うところとなり、複数人を一緒に配置する場合には定年後再雇用者を活用したりして専任者を配置するケースが多い。一方、雇用する障害者は精神障害者や発達障害者が増えてきており、指導の仕方は従前にも増して個別性や柔軟性が求められるようになってきた。そうなると、専門的資格(精神保健福祉士、臨床心理士など)・経験を持った指導員の配置を考えたいところだが、その採用は容易ではない。こういった指導員の処遇が、企業本体の正社員と比べて総じて見劣りすることも影響しているように思われる。  中小企業において障害者雇用を促進するとなると、より指導員の存在が大きいウェイトを持つ。ほとんど障害者と接したことのない人が指導員を務めることによる負担増、それによる生産性のダウンは企業規模が小さい程影響が大きい。これが障害者雇用に踏み出せない理由の一つである。企業としてニーズに合った指導員をどう採用するか、自前の職員をいかに指導者として育成していくかも大きな課題である。 第7項 支援機関に求められる意識と行動  各支援機関においても限られた陣容と資源の中で、障害者雇用の促進・定着に努力されているところではあるが、いま以上に企業の障害者雇用の促進に資する支援となるよう、企業ニーズがどこにあるのか、何を期待しているのかを理解しておきたい。それを踏まえて企業とベクトルを合わせて取り組むことが良い結果につながるものと考える。 1)就職前に備えて欲しいこと  まず第一に、「働くことへの動機付け」をしっかり行うことが望ましい。「働くということはどういうことなのか」、「労働の対価として給与があり、給与に見合う仕事をするのが職業人である」ということをいろいろな機会の中で繰り返し確認していくことが大切である。当然、入社後に企業でも行われるものだが、入社前から認識できている人とそうでない人とでは、職場定着、ステップアップに大きな差が出てくる。  次に、どんな内容の仕事に適性がありそうかを整理し、うまくその能力を引き出せるようにするための職業準備性を身につけさせてほしい。企業がそこを一から始めることは、現実問題として難しい。実際の作業・事務能力を引き上げる指導については、当然企業が入社後の研修などでしっかり行うし、それで十分に間に合う。その前提となる基礎的準備に注力することが望まれる。前項で触れたようにRPA化に伴う仕事の変化が想定される中では余計に重要となってくる。働き手としてしっかりとした基礎能力の上に個別の業務能力を積み上げられている方は、多様な仕事にも対応できる力を身に付けているものである。 2)入社後に望まれること  送り出した障害者を当面の間は必要に応じて定期的に訪問し、企業とは異なる立場で話を聞いて欲しい。雇用管理の主体は企業であるものの、慣れない間は社内では言えないことや聞いて欲しい愚痴が溜まっていることもある。その上で企業と意見交換の場を作ると、企業、支援機関そして障害者本人、それぞれにとって有効に作用する。支援機関に“おんぶに抱っこ”の企業も散見されるが、支援機関の方でそれぞれの役割分担をコーディネートしてほしい。必要とわかれば企業も行動を起こすはずである。企業を育てるのも支援機関の役割である。 3)企業と支援機関の関係  ともすると福祉サービス的な発想からの「障害者のために」という想いにより、企業からすると対立的姿勢に見える支援機関もあるが、それこそ互いの意見に耳を傾け、本当に障害者にとってどうあるのが良いかを導き出す必要がある。支援機関には障害者と企業のどちらか片方に軸足を置くのではなく、両者の間に等しく重心をおく姿勢が求められる。もし企業に「障害者を雇用してもらっている」という意識があるとするなら、それは大きな誤りである。企業から見て支援機関は専門家である。障害者雇用において、企業と支援機関はパートナーなのである。双方の信頼関係が障害者の就業を支えると言っても過言ではない。 <引用文献> 1)国立社会保障・人口問題研究所:日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)   https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp 2)国際連合広報センター:世界人口推計2019年版要旨   https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33798/ <参考文献> 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:令和3年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト. 2021 首相官邸:働き方改革の実現  https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html 内閣府:障害者権利条約  https://www8.cao.go.jp/shougai/un/kenri_jouyaku.html 内閣府:「日本経済2016−2017」第2章第1節「第4次産業革命のインパクト」  https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/keizai2016-2017pdf.html 第3節 就業支援と支援ネットワーク 第1項 ネットワークの意義 1)就業支援におけるネットワークの重要性  障害者の就業支援では、支援ネットワークの構築とケースマネジメントの技術は不可分の関係にある。なぜなら、ケースマネジメントの質は地域ネットワークによる「地域力」に応じて異なるからである。就業支援におけるケースマネジメントとは、「その従事者が、既存のあるいは新規に組み合わせて創り出した社会資源を利用しながら、当事者の“働きたい”ニーズを満たすのに必要なエンパワーメントを高めて、その実現に向けた自己決定を支援していくための手がかりを見つけ出す手法」、または「その従事者が、就業支援に係る既存のフォーマルな社会資源を知るとともに、インフォーマルな社会資源を組み合わせることで、地域の中にニーズを支え合う仕組みを作り出すための手法」と定義される1)。雇用・福祉・教育・医療等の各分野の連携による役割分担の下での長期的な支援を総合的に行うネットワークがあってこそ、このケースマネジメントが有効に機能するのである。そのため、厚生労働省でも、各分野の連携体制構築のための通知を発出している2)。  就業支援のための地域ネットワークは、支援を受ける当事者と支援者の双方に様々な利益をもたらす。  第1に、就業支援を担っている各分野の実務担当者の間で「就業支援」に対するイメージを共有化できる。それによって、ネットワークを通して福祉・教育・医療の各分野の担当者が自分たちの支援の強みや弱みを知って効果的に役割分担をするようになろう。また、能力評価に対する共通基準を認識できることで、障害者の就業に関するイメージのギャップを埋めることができよう。  第2に、ライフステージに沿った支援を継続的につなげることが可能となる。障害のある当事者は支援の分断に対する不安から、自分のなじんだ福祉・教育・医療の分野に留まりがちで、雇用への移行に二の足を踏むことも多い。ネットワークを構築してライフステージに応じた切れ目のない一貫した支援体制を整えることで、安心感を持って次のステップへ踏み出すことが可能になるだろう。  第3に、就業に関して起こりうる様々な問題に対して適切な分野の支援を受けることが可能となる。  第4に、福祉・教育・医療のどの分野からの支援を受けようとも、そこで完結するのではなくて、必要に応じて適切な他の分野のサービスに結び付けることが可能になる。それによって、最終的には、同じ支援にたどり着くことができよう。   2)就業支援ネットワークの基本的要件  こうした就業支援に関わる地域ネットワークの意義について、関係する実務担当者は共通認識を持つことが必要である。そのうえで、障害者本人の働きたいというニーズに即応できる体制を構築するには、次のことを心掛けることが必要である3)。  第1に、ネットワークの目的や目標を共有化することである。雇用・福祉・教育・医療等の各分野の支援機関が持つ目的や目標あるいは価値観はそれぞれ固有のものがあるが、就業支援という同じ目的に対して、共通の認識を持ち、方向性を揃えて、計画的に取り組むことが必要である。少なくとも、居住地の自治体で作成された障害福祉計画に盛り込まれている内容をもとに、地域全体の就業支援の目標を共有することが重要だろう。また、目標の進捗や達成状況についてお互いに把握すると共に、担当者が交替しても組織として継続的に支援が行われるようにする必要がある。  第2に、支援対象となる障害者本人や支援に貢献する社会資源などの情報を共有化することである。特に、支援機関が協同して支援を効果的に進めるには、支援に当たって必要な情報や利用者の個別支援計画などの内容を共有することが重要である。  第3に、就業支援の質を確保することである。そのためには、支援ネットワークに加わる支援機関はお互いに「顔の見える関係」を形成することが必要である。また、就業支援を担う人材の育成を地域ごとにあるいは全国レベルで行い、常に専門性を高めるようにバックアップすることが求められている。  第4に、各種の支援を調整することである。支援を一貫して行うには支援ネットワークに加わった関係機関が地域の実情に応じて役割を分担するとともに、支援が途切れないようにどの支援機関がどのタイミングで支援を行うのか、支援の各ステージで中心的な役割を果たす機関とそれを支える機関はどこか、などの支援全体の調整が重要である。  第5に、地域全体の就業支援の取組みを促進することである。就業支援に関しては都道府県・市町村における地域間格差が大きいことから、地域の実状に応じた創意工夫が必要である。特に、地域の支援の体制および連携等に関して協議する協議会などを活用して、地方自治体の取組みを促進し、それにより地域の就業支援の連携を一層進めていくことが重要である。   3)ネットワークの概念と類型  一般に、対人サービスにおけるネットワーク構築の目的とは、何らかの課題を抱えている人を取り囲む社会的連携によって、課題解決のための支援体制を作ることである。対人サービスのネットワークは、以下のように分類することができる3)。  第1は、障害者を含めた社会的な援護を要する人々やその家族を、地域レベルで直接支援するネットワークである。当事者・家族・友人・近隣などの人間関係から形成されるインフォーマルなネットワークと、支援者によるケースカンファレンスやケースマネジメントなどのフォーマルなネットワークがある。  第2は、福祉社会づくりを目指す市民活動レベルのネットワークである。これは、インフォーマルなネットワークである当事者・家族・友人・近隣などの関係者に留まらず、広くボランティアや様々な地域住民も参加したネットワークである。  第3は、機関や組織が相互に連携する組織的なネットワークである。ここでは、当事者に直接的なサービスを提供する実務担当者レベルから、それぞれの実務担当者が所属する組織が相互に連携する機関レベル、そして、それぞれの組織を管轄する行政組織の責任者レベルにいたるまで、三層構造的なネットワークがある。そこでは、サービス調整会議やサービス調整チーム、関係者協議会、関係連絡協議会などといった名称で会議の設定と運営が行われる。政策レベルのネットワークでは、行政内部の企画調整会議や市民や専門家を含む政策審議会などが代表例である。  これらのネットワークの類型は、ミクロ・ネットワーク、メゾ・ネットワーク、マクロ・ネットワークという分類とも対応する。組織的ネットワークの全体は、図1にあるように、それらが重層構造的に構築されることが望ましい。ここでは、最上層は支援の実務担当者同士のネットワークであるが、その下層部には、個別の組織・機関や管理職レベルで対応する組織間ネットワークが、さらにその最深部には、企業組織や経営者団体、当事者やその支援者団体、あるいは都道府県の行政組織などからなる行政・団体ネットワークが控えていることを示している。 図1 組織的ネットワークの重層構造 第2項 就業支援ネットワークに係る社会資源  就業支援に向けた地域ネットワークの形成に加わる可能性のある社会資源は、必ずしも障害者を含めた社会的な援護を要する人々を対象にした施設や機関、あるいは、就業支援を専門とする機関に限らない。なぜなら、就業支援は「働くことを含む地域生活」を確保してそれを支えることが基本だからである。すなわち、仕事に就く直前や直後の時期での支援に加えて、それ以前の働くことに対する多様な職業前訓練、更には、就職後の職場定着への支援、そして職業生活を維持するための様々な生活支援まで包括されることになる。それらを担う社会資源は極めて多様だが、主要な関係者や組織としては次のものがある1)。  第1に、当事者とその周辺での人的資源がある。就業ニーズをもつ本人をネットワークの中核として、保護者や保護者会、同じ障害を抱えた仲間や当事者団体、あるいは近隣の人たちなど、身近な個人的な人間関係から形成されるインフォーマルなネットワークがある。また、市民ボランティアや特定非営利活動法人(NPO)なども当事者と直接関わる人的資源である。  第2に、就業支援を直接的に担う地域の機関がある。ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校の高等部や各種専門校などがそれにあたる。これらに加えて、都道府県レベルで設置されている広域の支援機関として、地域障害者職業センター、障害者職業能力開発校や職業能力開発施設、発達障害者支援センターなどがある。  第3に、生活支援を直接的に担う福祉関係の機関がある。グループホーム、生活寮、生活支援センター、地域活動支援センター、福祉ホームなどである。また、福祉事務所や更生相談所、更に、地域での相談援助活動を支える民生委員(児童委員)や各種の相談員、社会的保全組織としての弁護士、税理士、社会保険労務士などもネットワークの構成員といえる。生活支援と就業支援を一体的に担う施設や機関は、今後の就業支援にあってはますます重要となろう。  第4に、特に障害者の場合には、療育相談や医療分野の専門機関も地域の社会資源として重要である。療育相談機関である保健所、地域保健機関、児童相談所、また、医療機関や施設としての病院、保健所、精神保健福祉センター、リハビリテーションセンター、リハビリテーション技術支援組織などと連携して情報を共有する必要がある。  第5に、就業支援を直接的に担う地域の機関を管轄する行政機関や団体のネットワークである。都道府県レベルでは、厚生労働省の都道府県労働局、都道府県の労働・福祉関係主管部局、教育委員会などが、地域の関係機関のネットワーク化が円滑に進められるように連携を強化することが必要である。また、当事者団体、労働組合、人権擁護機関、成年後見組織などは、行政機関の連携を進めるとともに、自らも行政組織を超えたネットワーク化に取り組むことが必要だろう。  第6として、企業自身の就業支援ネットワークへの参画である。これにより障害者本人の持つ能力を充分に発揮できるような職場環境を作ることが重要となる。就労継続支援A型事業所、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所、企業などが加わった就業支援ネットワークがあれば、障害者雇用の経験が少ない企業に対して、ノウハウを持つ企業が雇用管理ノウハウを提供したり、企業単独でのサポートが難しい場合には、ネットワークにより障害者および企業を支援することができよう。  就業支援ネットワークは、こうした多様な社会資源を取り込むことが望ましいのだが、他方で、支援機関の数や就業支援の質において地域格差が大きいことも指摘されている。そのため、地域の特性や実情に応じた、各機関の強みを充分に活かした効果的な役割分担やネットワークの構成を検討することが重要だろう。 第3項 ネットワークの構築 1)ネットワークを構築するための基本的要件  就業支援のためのネットワークに参加する機関は、第1項で記述した共通認識を土台にして、本人のニーズに即応できる体制を構築することが望ましい。  そのためには、第1に、本人のニーズを明確にしておかなければならない。本人が、ネットワーク参加の機関のどこに相談に来ようと、そのニーズを的確に把握したり、自己のニーズを明確化できるようにすることが必要であろう。第2に、ネットワークの構築と維持は実務担当者個人が主体であることを理解することである。また、専門領域や専門性の尊厳を保ち、特定職種の見方や画一的な視点に陥らないようにすべきである。第3に、自機関の能力と限界を明らかにすることである。得意とする支援サービスを含んだ個々の機関の特徴を、他のネットワーク関係機関に承知してもらうことである。個々の機関が提供できるサービスの特徴が明確になっていると、本人のニーズに応じた関係機関の選択も容易になり、ネットワークの効力も発揮されよう。   2)担当者によるネットワーク構築の手順3)  支援ネットワークを構築してそれを維持することは、障害者の多様なニーズに応えるためである。それゆえ、支援ネットワークの中核は、直接的に本人を支援する人たちを中心としたミクロ/メゾレベルの人的ネットワークであり、その意味で、支援する個々人の主体的な集まりであることが重要になる。そうしたミクロ/メゾレベルの人的ネットワークを作るには、次の4つのステップが必要となる。  第1段階は「意識の共有」である。ネットワークに参加する実務担当者個人は、自分たちは同じ目的でつながった集団に帰属しているという、心情的な共感が必要であろう。相手の組織への関心事や自組織との共通点などを理解して、会食等を通して心の垣根を取り払いながら、お互いに連帯感を高めることも必要だろう。そうした、実際に顔をあわせての意思交換により、ネットワークへの帰属意識の高まりと同時に、メンバーが相互に影響しあうことになる。  第2段階は「目標の共有」である。ネットワークの構成員となった実務担当者は、ネットワークの目標や課題を共有することが必要である。組織が異なると、意識の違いや使用する用語の意味も微妙に異なることが多く、やがては、それが意志疎通に行き違いが起こることになりかねない。したがって、参加する実務担当者は、ネットワークの目標そのものを共通言語とし、ネットワークの役割、存在価値、向かうべき方向性を明確にして、それを共有することが不可欠である。これは、同時に、実務担当者の属する機関において論議が重ねられて納得したものであると、さらに望ましい。そうした、共通の目標や展望こそが、ネットワークの活動を推進していく原動力となる。  第3段階は「情報の共有」である。これは、前の2段階を経た後になって行われるものであり、ネットワークの目標が共有されることによって、その目標の達成に関わりの深い情報が取捨選択され、ネットワークを構成する構成員や機関から提供されることになる。ネットワークの目標が明確であるほど、共有すべき情報、他機関における情報の有用性、自機関が提供できる情報などについての有効な発信や受信が可能となる。  第4段階は「知恵の共有」である。ネットワークを通して得られた情報や知識は、実務担当者たちの自組織の中に確実にフィードバックさせ、浸透させて活用できるようにしなければ意味はない。そこで得られた成果は、自組織の意識変革に結び付いて組織の成長発展の原動力となる。同時に、その過程で得られた成功事例やそのノウハウや技術は、新たな情報としてネットワークに参画している他機関にも提供されねばならない。こうした成功体験や知恵の共有は、ネットワーク内の組織間の新たな関係を生みだし、さらに力動的な関係をもたらしていく。   3)組織・機関によるネットワーク構築の手順  実務担当者が実際にネットワークを形成して支援を進めていくうちに、次第に、支援者の個人的な対応だけでは解決できない問題が出てくる。こうした問題に対処するには、支援者の所属する機関自体が連携するマクロ・ネットワークが不可欠になる。これがあって初めて、ミクロ/メゾ・ネットワークを構成している実務担当者が、ストレスを感じることなく、よりよい支援の在り方を求めていくことができる。こうした、組織のマクロ・ネットワークを構築するには、次の4つのステップが必要となる。  第1段階は「構成機関の理解」である。障害者のニーズに応答するための地域ネットワークを構成するには、構成する機関の存在を知り、その管轄地域や担当する分野と内容について理解しなければならない。また、それぞれの機関の実務担当者の知己を得て、その立場と考え方について理解するとともに、ネットワークの形成による就業支援の重要性について共通認識を促すことが必要である。  第2段階は「共通認識の深化」である。障害者雇用に対する考え方や価値観は、ネットワークを構成する機関によって異なるということを前提に考えて、情報や意識を共有することに努力を傾注することが重要となる。また、他の機関からの説明に対しては、その周辺状況も知ったうえで理解を深化させると同時に、自己の機関の活動や事業の説明に際しても、背景状況を含めて、相手が充分に納得のいくように説明することが必要である。  第3段階は「効果的な活用」である。他の機関の支援内容と現状を理解して、的確な準備を整えて、障害者や企業を確実に引き継ぐ必要がある。また、その機関での支援サービスの経過状況を把握して必要に応じて対応するとともに、サービスに不調な状況が生じた場合には代替の機関の準備を行わなければならない。  第4段階は「相互利用の強化」である。支援サービスについて、お互いに利用しあったり補完のできるような体制を構築することを志向するべきである。それは、担当者の個人的関係から組織間の機能的な連携関係へ移行させることである。相手機関の属する他のネットワークの情報を応用的に活用できたり、情報の効力や責任範囲を理解して情報の提供が許されるような信頼関係を構築することが必要である。   第4項 ネットワークの維持 1)機能不全と修復  上記のように、就業支援ネットワークを重層的に構築するには、実務担当者同士が連携する場合と、その所属する組織同士の連携という2つの構築の手順を併行させることが望ましい。だが他方で、せっかく作り上げたネットワークが機能しなかったり継続しないこともある3)。  その理由として、以下のことがある。@ネットワーク構築の目的が明確になっていないために、機関や実務担当者の間で交わされる情報の質や内容に行き違いを生じ、次第に、期待する情報に出会わなくなってしまう場合がある。Aネットワークに参加する個人や機関の基本的な姿勢として、自組織への有利や不利といった利害関係に固執すると、組織防衛的な発想が前面に出やすくなって、創造的な問題解決の場にならない。B参加する各機関が、ネットワーク構築の前から独自の活動領域を確立していると、その維持に重点が置かれて新規のネットワーク構築に向かおうとしない。  こうした理由のほかにも、例えば、ネットワーク自体が小さい規模であったり、組織のネットワークに対する方針が不明確であったり、専門職に対する理解や認識の低さがあると、構築されたネットワークは維持されなくなってしまう傾向にある。  こうした原因で機能不全に陥ってしまったネットワークに対しては、次のような修復の方法がある。@ネットワークの特徴は、異なる機関がお互いにその活動内容を組み合わせることによって、新しい価値の創造に向かうことである。そのため、お互いの機関の長所を重ね合わせるという積極的な考え方を浸透させることが必要である。A情報交換を重ねることで、個々の機関のネットワークとの関わり方そのものが変わって行く。そのため、ネットワークに参加する機関は、他の機関と関わりの中で絶え間なく変化を遂げ続ける、との理解が必要である。Bネットワークの実際の活動を維持するのは組織に属する個人である。そのため、その人たちのネットワークに対する考え方や価値観が組織の活動に反映されることを見逃してはならない。   2)ネットワーク維持のためのポイント  ネットワークの維持に際しては、参加する異なる専門職の人たちとの協同作業を円滑に進めることが不可欠である。そのためには、以下に示すようなチームを維持するための要件に注意することが必要だろう4)。 @相互の違いを前提とする。職種や機関が異なれば、その考え方や技術は当然異なるということを前提にして協同することが重要である。相手が自分とは異なる発想や価値観を持っているがゆえに、相互理解に向けたコミュニケーションに充分に配慮することが必要である。 A相手の得意技を知る。あらかじめ、異なる職種にある相手の得意な領域や技術を知っておくと、連携する対象として有用であるかどうかの判断がしやすくなる。 B相手の苦手な領域を知る。得意技とは反対に、相手の苦手な側面を知っていると、過剰な期待を抱かないために、無駄な失望や怒りを避けることができる。 C制度や相手機関の限界を知る。それぞれの職種や機関の職務は根拠となる法令で規定されているため、絶対あるいは場合によってはできないことがある。そのため、相手の立場を理解したうえで、押すべきところは押し、期待できない部分は別の手を考えることが必要である。 D相手の勤務状況を知る。それぞれの職種や機関に連絡する際に、業務の遂行上で不適切な時間帯がある。それゆえ、相手の勤務行動をできるだけ知っておき、適切な時間帯に、適切な方法で連絡をとることが重要である。 E連絡の仕方や会合依頼の仕方を知る。職種や機関の事情に応じて、電話・ファックス・メール・面会などの適切な連絡方法を工夫する。また、会議や会合に参加の依頼をする場合も、相手先の状況に応じて、派遣依頼文・費用・報告やお礼方法などを工夫する。 F実質的な連携の有効性を考慮する。連携の相手や会議の構成員を所属機関の肩書きなどから形式的に決めるのではなく、その目的に応じて個別に選定する。 G個人的な要素を考慮する。職種や機関名だけで相手の機能や能力を判断しないことである。専門家の個々人の能力を丁寧に見極めることが重要である。 Hこちらの宣伝を充分に行う。自分たちの機関や専門性に関しての広報活動を、できるだけ多くの機会を捉えて行う。それによって、自分たちの機能や限界に関する情報を踏まえたうえで、相手側も効果的に連携を図ることができる。 I相互の変化を理解する。不充分な連携の背景には、機関や専門職としての制度的な限界やそれぞれの事情がある。それらは、状況の変化、動機づけの増大、コミュニケーションの結果によって変化する可能性があることを理解する。   3)管理者の役割  こうした、ネットワークの機能不全を予防してその維持を図るには、特に、機関の管理者がネットワークを構築することの意義について知っておくことが重要だろう。すなわち、支援ネットワークに自組織の実務担当者を参加させることによって、他の機関やその実務担当者から新しい考え方や見方が導入でき、そのことを通して他の機関との間で支援の連続性が保たれるような活動や事業を見直す契機となり、また、自組織の内部資源に外部資源を組み合わせて情報を再編集することで、自組織内に変革をもたらす契機となる。機関の管理者は、ネットワークを構成する機関と自分の機関とを媒介するつなぎ役の役割を果たすことが必要である。それは単なる連絡役ではなく、ネットワークの目標を自機関の目標に落とし込み、他機関の情報や事例を自機関になじみのある言葉に変換し、自機関内で活用できるようにすることが求められる。   <参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:障害者就業支援にかかるケアマネジメントと支援ネットワークの形成(研究調査報告書通刊 246号).2003 2)厚生労働省:障害者の雇用を支える連携体制の構築・強化について(職業安定局長通知).2013 3)松為信雄・菊池恵美子編集:職業リハビリテーション学(改訂第2版) キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系.協同医書出版社.2006 4)コリガン・野中猛監訳ほか:チームを育てる 精神障害リハビリテーションの技術.金剛出版.2002 コラムG   福祉施策と就業支援   1.障害者自立支援法から障害者総合支援法へ  障害福祉分野では、平成11年の「社会福祉基礎構造改革」を踏まえ、平成15年に支援費制度が導入された。行政がサービスを決定してきた措置制度から、障害者がサービスを選択し、契約によりサービスを利用するという新たな制度へと転換し、平成18年に施行された障害者自立支援法へとつながった。  この障害者自立支援法においては、従来の障害保健福祉施策が抜本的に改革され、施設体系の再編、新サービスの創設が行われたが、就労系障害福祉サービスについては一般就労への移行促進を目的とした就労移行支援事業が創設されるなどにより強化され、障害福祉分野と雇用分野双方で一般就労に向けた支援がなされることとなった。  その後、平成22年から平成23年に開催された「障がい者制度改革推進会議」における様々な論議等を経て、利用者負担の見直し、相談支援の充実等、地域における自立した生活のための支援の充実が図られ、平成25年4月に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行された(平成24年6月20日成立・同年6月27日公布)。 2.障害者総合支援法の概要  障害者総合支援法は、平成23年7月に成立した「改正障害者基本法」の基本的な理念にのっとり、障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活・社会生活を営めるよう、障害福祉サービスに加えて地域生活支援事業による支援を総合的に行い、障害の有無にかかわらず人格と個性を尊重し安心して暮らすことができる地域社会を実現することを目的としている。基本理念においては、社会参加の機会の確保、地域社会における共生及び社会的障壁の除去に資するよう、総合的かつ計画的に支援が行われなければならないことを掲げている。  また、制度の谷間を埋めるべく、障害者の範囲に難病等を加え、「障害程度区分」については、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改めている。 3.障害者総合支援法の改正と平成30年度報酬改定  平成27年4月より、「厚生労働省社会保障審議会障害者部会(障害者部会)」において、障害者総合支援法施行3年後の見直しについて検討された。同年12月にまとめられた報告書において、障害者の就労支援について「工賃・賃金向上や一般就労への移行をさらに促進させるための取組を進めること」、「在職障害者の就業に伴う生活上の支援ニーズに対応するため、就労定着支援を強化すべきこと」などの提言がなされた。平成28年5月に成立、同年6月3日に公布された改正障害者総合支援法においては、障害者が自らの望む地域生活を営むことができるよう、生活と就労に対する支援の一層の充実を図るための見直しがなされ、就労定着支援及び自立生活援助の創設、障害福祉サービス等情報公表制度の創設などが行われた(平成30年4月1日施行)。  また、障害福祉サービス等報酬は3年に一度改定されているが、令和3年度の改定の際は、障害者の重度化・高齢化に伴う利用者のニーズへの対応、相談支援に係る質の向上等のための報酬改定に向けて検討が行われた。また、利用者及び事業所数が急増しているサービスがある状況を受け、サービスの質の向上や制度の持続可能性の確保等の観点を踏まえ、エビデンスに基づくメリハリのある報酬体系への転換が求められた。 4.就労系障害福祉サービスについて   (各サービスの概要は第4章第2節参照)  就労移行支援事業  就労移行支援事業は、就労を希望する障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して支援を行い、一般就労への移行を目指すサービスである。従来、一般就労への移行実績が著しく低い場合は報酬を減算するなどの対応を行ってきたが、前述の障害者部会報告書における、「一般就労への移行実績を踏まえたメリハリを付けた評価を行うべき」との指摘も踏まえて報酬改定にかかる検討を重ね、平成30年度からは、就労移行支援を受けた後就職し、6か月定着した者の割合に応じた基本報酬を設定している。  就労移行支援を終了後、一般就労に移行した者は令和元年度においては13,288名であったが、令和2年度は11,614名となっている。就労移行支援からの移行者は令和元年までは毎年増加していたが、令和2年においては前年より減少している。  就労継続支援A型事業  就労継続支援A型事業は、通常の事業所に雇用されることが困難であるが、適切な支援があれば雇用契約に基づく就労が可能である者に対して就労機会を提供するサービスである。  A型事業所については、収益の上がらない仕事しか提供しない等の不適切な事業運営が把握されていたため、平成29年4月に指定基準等を改正し、「生産活動収入から経費を除いた額が、利用者の賃金総額を上回っていなければならない」等を明示した。さらに、令和3年度の報酬改定では、基本報酬の算定に係る実績について、現行の「1日の平均労働時間」に加え、「生産活動」、「多様な働き方」、「支援力向上」及び「地域連携活動」の5つの観点から成る各評価項目の総合評価をもって実績とする方式(スコア方式)に見直しを図っている。  令和2年度における平均賃金月額は79,625円であり、平成18年度の制度創設以降、減少傾向にあったものが、平成27年度以降は徐々に増加している。  就労継続支援B型事業  就労継続支援B型事業は、雇用契約に基づく就労が困難である障害者に対して、就労や生産活動の機会を提供し、就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を行うサービスであり、障害者が地域で自立した生活を送ることができるように、利用者に支払う工賃水準の向上に努めなければならないとしている。  令和3年度の報酬改定においては、地域における多様な就労支援ニーズに対応する観点から、現行の「平均工賃月額」に応じて評価する報酬体系に加え、「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系を新たに設け、事業所ごとに選択することとしている。  令和2年度の平均工賃月額は15,776円であり、平成21年度以降増加していたが、令和2年度は減少している。  就労定着支援事業  平成30年4月から新たに実施された本サービスは、就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練(以下、「移行支援等」という。)の利用を経て、通常の事業所に新たに雇用され(※)、移行支援等の職場定着の義務・努力義務である6か月を経過した者に対して、就労の継続を図るために、障害者を雇用した事業所、障害福祉サービス事業者、医療機関等との連絡調整、雇用に伴い生じる日常生活又は社会生活を営む上での様々な問題に関する相談等の必要な支援を行うものである。  本サービスは、就職者を送り出した移行支援等の事業所が一体的に運営することを想定しており、それまで支援を行っていた職員がなじみの関係の中で引き続き就労定着支援を行えることが、支援者と利用者双方にとってのメリットになると考えられる。  基本報酬は、事業所の利用者数及び、就労定着率(過去3年間の総利用者のうち就労定着者の割合)に応じて設定し、どのような支援を実施したか等をまとめた「支援レポート」を、本人その他必要な関係者間で月1回共有した場合に算定できるとしている。  ※復職のために移行支援等を利用し、その後復職した障害者についても、復職して以降の就労を継続している期間が6か月に達した者は就労定着支援を利用することが可能 第4章 就業支援に必要な知識  本章においては、支援に当たって知っておくべき事項として、障害特性と職業的課題(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病について)および障害者雇用に関する制度を概説する。  就業支援に当たっては、障害特性に応じた配慮すべき事項や支援のポイント、また様々な制度を理解しておくことは必要であるが、支援対象者の障害種別等に関わらず、支援の基本は、前章までに記述されている就業支援プロセス、考え方である。  このため、本章においては、各障害に関する事項や様々な制度を概括するに留めている。更に理解を深めたい方は、資料(271ページ以降)に掲載する各書を参照いただきたい。 第1節 障害特性と職業的課題 第1項 身体障害 1)身体障害の概要  @ 身体障害とは  「身体障害者」とは、「身体障害者福祉法」における定義では、「同法の別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたもの」である(表1)。また、同法施行規則の身体障害者障害程度等級表においては、身体の機能・形態の障害、あるいは日常生活活動の制限の程度により、障害程度が1〜7等級に区分されている。なお、7級の障害は1つのみでは身体障害者福祉法の対象とならないが、7級の障害が2つ以上重複する場合、または7級の障害が6級以上の障害と重複する場合は、法の対象となる。   表1 身体障害の範囲  A 身体障害の特性  身体障害には様々な種類があり、その特性は、障害部位や障害の現れ方(機能の喪失か制限かなど)、障害の原因(固定的な障害か、進行性の病気や変動性の病気が原因となっているか)、発症時期、知覚障害や痛みなど随伴する障害の有無、補装具の有無などにより異なってくる。第2項において、障害別の特性の概要を説明する。    B 雇用対策上の位置付け  「障害者の雇用の促進等に関する法律」における「身体障害者」とは、表1に掲げる身体障害者と一致し、身体障害者障害程度等級表の1〜6級の障害がある者および7級の障害を2つ以上重複して持つ者をいう。身体障害者であることの確認は、原則として身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳によって行うこととなる。  また、「重度身体障害者」とは身体障害者障害程度等級表の障害等級が1級または2級に該当する者および3級に該当する障害を2つ以上重複することによって2級に相当する障害のある者をいう。   2)職業的課題と支援のポイント  @ 肢体不自由  肢体不自由といっても、障害の原因・部位・程度は様々である。原因には疾病と外傷がある。疾病には、先天的なものと後天的なものがある。外傷には脊髄損傷、頭部外傷、切断、骨折などがある。  障害部位別には、運動機能障害を上肢(手)、下肢(足)、体幹(胴体)に区分けし、障害の現れ方には、欠損による機能喪失(切断等)と、本来の機能の制限や喪失(失調・まひ等)の場合がある。  以下、障害原因による区分の代表的な例として、脳性まひ、脊髄損傷、脳血管障害、頭部外傷、切断などの障害について解説する。     イ.脳性まひ  脳性まひは、乳幼児期以前に生じた脳の病変が原因で、運動障害や姿勢異常が発生したものである。タイプは、主に痙直型とアテトーゼ型に分類される。まひの部位により、四肢まひ、両下肢まひ、右または左半身まひに区分される。 〇痙直型:この型は障害のある部位の筋肉の緊張が強く、運動がぎこちなかったり、速く動かすことができない。 〇アテトーゼ型:自分の意志で手足を動かそうとすると、意志の関わりのない不随意運動が起こり、思いどおりに運動ができないのが特徴である。発声器官が上手くコントロールされないため、言語障害を伴うこともある。  精神的緊張が強まると、脳性まひ特有の症状である不随意運動などが起こりやすくなることがあるため、リラックスできるような環境作りが大切である。     ロ.脊髄損傷  交通事故、スポーツ事故、労働災害などにより脊髄のある部分が圧迫骨折したり、脊髄腫瘍や脊髄炎などの病気のために、脊髄のその部分から下の機能が失われた状態である。頸椎であれば四肢に、腰椎以下であれば両下肢に運動機能や知覚のまひが起こる。脊髄損傷者はまひが出ているところの動きが制限され、医療管理が必要であるが、車いすや自動車などの移動手段が獲得され、作業場や作業機器などの職場環境を車いす使用で対応可能なものにすれば、就業は充分に可能になる。排泄の感覚の障害などにより、尿路感染症や膀胱炎、腎炎などにかかりやすく、定期的な検査が求められることや、知覚まひのため長時間の座位作業により褥瘡ができやすいこと、火傷、切り傷などができやすく治りにくいこと、頸髄損傷者は首から下の発汗機能の障害により体温調節が難しく、部屋の温度調整が必要であることなど、運動機能以外の困難さに配慮が必要である。     ハ.脳血管障害  脳血管障害は、脳の血管の病変(出血や梗塞)によって生じた脳の障害で、病変の起こった反対側の半身に痙性まひが現れる。病型により、脳内出血(脳出血、くも膜下出血)と脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)に区分される。  障害特性としては、運動機能障害(片まひ、失調)や知覚障害(感覚脱失、しびれ、視野障害)に加え、高次脳機能障害(失語、失行、失認、注意障害、記憶障害、病識欠如など)が合併しやすいのが特徴となる。よって、運動機能障害とともに、高次脳機能障害への対応が不可欠となる(高次脳機能障害の項目(191ページ)参照)。     ニ.脳外傷(頭部外傷)  脳外傷では、頭部に強力な外力が加わり、脳の組織が損傷されることにより、後遺症として運動機能障害や精神機能障害が起こる。運動障害は比較的軽傷ですむ場合が多いのに対し、注意障害や記憶障害などの認知機能障害が重度となる場合がある。注意力・集中力の障害、精神的疲労、記憶障害、情緒不安定、欲求不満耐性低下、うつ状態、ひきこもり、抑制低下など、知的・認知的・社会的・情緒的機能へのアプローチが重要となる(高次脳機能障害の項目(191ページ)参照)。   ホ.切断  外傷、疾病など様々な原因で、四肢の一部を失った場合、義肢(人工の手足)などを装着することで、形態的・機能的障害を補うことができる。受傷早期には、心理的ショックが大きい。義肢(義手・義足)を装着し使用訓練を行えば、就業は可能である。    A 視覚障害  視覚障害者の障害の状態、程度は様々である。また、重度の視覚障害者(身体障害者手帳の1・2級)といっても、視力を全く失った人から、矯正した両眼の視力の和が0.04以下の人まで様々となる。視機能が低下して日常生活や就労等に支障をきたす状態はロービジョン(弱視)と呼ばれ、拡大読書器やルーペ等の補助具により、独力で文字の読み書きができる場合がある。歩行については、白杖や盲導犬を用いなければ単独歩行が困難な人から、残された視力を使って単独歩行が可能な人までいる。また、視覚障害者は視力の障害以外に、視野欠損、視野狭窄、色覚異常、眼球運動の異常等を伴っている場合もあり、障害の状態や程度も異なってくる。  視覚障害者の雇用に当たっては、職務内容そのものの他、通勤、コミュニケーションへの考慮が必要となる。  通勤については、全盲者の場合でも、盲学校や視覚障害者リハビリテーション施設で歩行訓練を受け、白杖を使っての安全確実な歩行技能を身につけているので、最初の数回、同行して歩行情報を伝えれば、その後は単独で通勤可能となる。職場内の移動についても、最初に職場内を同僚が一緒に回り、位置や経路を確認しておけば何ら問題はない。ただし、通常利用する通路には物を置かないようにするなどの注意が必要である。  コミュニケーションについては、回覧文書による情報伝達は、要点を口頭で伝えることが必要である。直接対面で伝達できない場合は、ボイスレコーダーを利用する。コンピューターを使い、データとして文書を登録し、Eメール等を活用すれば、合成音声で読み上げさせたり、点字に変換して出力させたり、文字を拡大表示したりができる。また、会議や懇親会などでは、同席者の名前や位置を知らせる配慮が重要である。さらに、物の指示は、指示代名詞(そこ、あれ)でなく、具体的に何がどこにあるかを示す等の配慮が大切である。  B 聴覚・言語障害  聴覚・言語障害者は、小さな音が聞こえないだけの人から、大きな音でもわずかに響きを感じるだけの人(難聴者)、全く聞こえない人(ろう者)まで大きな差がある。また、聴力の損失が生じた年齢、障害原因の性質・程度、受けた教育などの違いによって、聞き取る力だけでなく、話す言葉の明瞭さや、言語能力にも大きな違いがある。個人差はあるが、音声言語の基本的概念を獲得する以前に失聴した人は、言語理解面で困難を伴う。ただし、現在、教育方法や補聴器の進歩によって、失った聴力の程度と言語能力の程度は必ずしも直結しなくなっている。  ろう者はコミュニケーション手段として聴覚を利用できないので、身ぶり、口話(読唇+発語)、手話、筆談等の手段が必要となる。難聴者の場合は、補聴器を用いるなどで、1対1の会話はこなせる場合もあるが、集団場面(集会や会議)や電話での対応には不自由がある。  また、聴覚を利用できないとは、単に聞こえないだけでなく、健常者が普段何気なく取り入れている情報が入らないという「情報障害」が生じているということに留意が必要である。情報障害ゆえに、常識が欠如している、気が利かないと誤解されたり、ちょっとしたコミュニケーションの困難さから疎外感や孤立感を感じるといった心理的側面や職場の人間関係における相互作用に配慮しなければならない。  C 内部障害  内部障害には心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸器機能障害、ぼうこうまたは直腸の機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウィルスによる免疫機能障害、肝臓機能障害の7つの種類がある。身体障害者福祉法による障害等級は1級、3級、4級の3段階(免疫機能障害および肝臓機能障害は、1級、2級、3級、4級の4段階)となっている。判定に際しては、障害原因別に一定の医学的基準が設けられているが、職業能力の点からみると、等級と必ずしも一致しない。例えば、腎臓機能障害の場合、1級の人は腎臓機能をほぼ全廃している最重度となるが、人工透析治療を行うことによって、労働時間や疲労への配慮等により健常者と変わらない状態で働くことができる。  それぞれの内部障害者に共通していることは、体力や運動能力が低下していることである。重い荷物を持つこと、走ること、速く歩くこと、坂道や階段を上がることなど、急激な肉体的負担を伴う行為が制限される。また、風邪をひきやすいとか、自己管理を怠ったり、過労になると体調を崩しやすいといった点があるが、これは本人や周りの人がよく注意し、睡眠時間や食生活などの工夫をするなど、自己管理をきちんとすれば特に問題ない。必要に応じて、本人や主治医、専門医より留意事項等の情報を入手しておくことが大切となる。  D 高次脳機能障害  脳血管障害や脳外傷などの脳損傷により、身体機能障害だけでなく種々の精神機能障害が生じる。精神機能障害は高次脳機能障害とも言われるが、精神機能を司る脳の損傷部位の違いにより高次脳機能障害は、@全般的障害としての意識障害と認知症、A巣症状(脳の限局した一部の破壊等により現れる症状)としての失語症、失行症、失認症等、B一般精神症状としての注意障害、記憶障害、意欲障害に分類される。  就業支援では、@の意識障害や認知症は障害が重度で日常生活にも大きな支障をきたすので困難を伴う。また、Aの巣症状とBの一般精神症状について、重症度が問題となる。程度が重ければ日常生活にも大きな影響を及ぼし、軽度の場合には、日常生活ではさほど支障とならなくても、職業生活遂行上は問題となるので留意が必要となる。就職・復職支援に当たってのポイントや職場でのサポートについては、障害者職業総合センター職業センターが実践を基にとりまとめた実践報告書・支援マニュアルを参照いただきたい(資料273ページ以降参照)。  なお、高次脳機能障害については、身体障害者障害程度等級表に掲げる身体上の障害がある場合はもちろんのこと、失語症による聴覚・言語障害として申請しても身体障害者手帳交付の対象となるが、最近は、身体障害を伴わず注意障害や記憶障害等の高次脳機能障害だけ有する場合に、精神障害者保健福祉手帳を取得するケースが一般的になっている。  障害特性に関しては、〇症状が多様で複雑であり、〇外見からは見えにくく、〇症状が不安定で、〇症状出現が不規則、〇本人にとっても症状が自覚されにくいなどが挙げられる。障害把握の方法としては、〇神経心理学的検査による症状の正確で量的な把握が必要であるとともに、〇机上検査だけでなく、日常生活場面や職業生活場面などの現実場面における行動観察を通じて、どのような場面でどのような問題が生じるかについての質的な把握が必要となる。そうすることによって具体的な対応策の検討が可能となる。  以下、代表的な各症状について説明する。 高次脳機能障害の分類   出典)大川弥生:職リハネットワーク(No.22).1993に基づく。ただし、痴呆は認知症に変更。1)   イ.失語症(左大脳半球の障害による代表的な症状)  脳の器質性の病変により、「聴く」、「話す」、「読む」、「書く」といった言語シンボルの理解と表出に障害をきたした状態を失語症というが、損傷部位や損傷の大きさにより、症状や程度が異なる。一般的には言語中枢は左大脳半球にあり(身体機能障害として右片まひを合併することが多い)、前方が損傷されると主に言語の表出の障害が、後方が損傷されると主に言語の理解の障害が出現する。これは口頭言語(話す、聴く)だけでなく、書字言語(書く、読む)にもあてはまる。また、計算障害も生じる。これらの障害により、職業場面では、対面会話や電話の応対が不可欠な営業職、読み・書き・計算が不可欠な事務職、報告書作成等種々の技術を必要とする技術職などでの就業が困難になる。就職や復職を考えるうえで、失語症は軽度であっても、電話対応や、対人業務、職場内コミュニケーション等での課題が生じる可能性もあるため、職業能力を適切に見極めることが重要である。   ロ.失行症(いずれの半球障害でも出現する症状)  身体部位(手や足)を動かすことができ、何を行うべきか頭でわかっているにも関わらず、目的に応じた動作ができない状態を失行症という。左大脳半球が障害されると、観念失行(歯ブラシや櫛などの日常的な道具の使用障害)や観念運動失行(ジャンケン、手をふるなどの動作の障害)が出現する。右大脳半球が障害されると、着衣失行(衣服をうまく着られない)や構成失行(物を組み立てたり、絵を描くことができない)が出現する。これらの症状は、検査して初めてわかる症状であったり、行動が奇異であったり(歯ブラシを櫛として使う等)するので、周囲の理解を得にくい症状といえる。  これらの症状が重度の場合は日常生活にも支障をきたす。軽度の場合は、日常生活面ではそれほど問題はないが、職業場面では作業手順がわからない、空間配置が上手くいかないなどの問題が生じる可能性があるので、作業遂行の確認が必要である。     ハ.失認症(右半球の障害による代表的な症状としての半側空間無視)  外界の情報を取り入れる感覚様式に対応して、視覚失認、聴覚失認、触覚失認などがあるが、通常、問題とされるのは出現頻度の高い視覚失認である。視覚失認とは視野や視力など、感覚器官自体には問題がなく、感覚刺激の入力は可能であるが、入手した情報の処理過程に問題があるために、視覚的認知に障害が生じる状態である。両側大脳半球の後頭葉が損傷されると、人の顔がわからない、色の区別ができない、文字が読めない等、視覚的に捉えた対象が理解できないという視覚失認が生じ、対人関係や日常生活に支障をきたす。  視覚失認の中で、特に出現頻度の高い症状に視空間認知障害としての半側空間無視がある。これは主に右大脳半球が障害された際に生じる左半側の空間に対する注意・認知の障害である。例えば、食事の際に左側に置いてあるご飯などを食べ残す、洋服の左袖に腕を通さない、左側の髭をそり残す、歩行の際に左側の障害物に気付かずぶつかる、左側の車に気付かない等、日常生活を送るうえでも問題となる。症状が軽度で日常生活ではそれほど問題がない場合であっても、職業場面では、車の運転や事務作業でミスを犯しやすいなどの問題を引き起こすこともあるので、職務内容、周囲の者の協力等職場の環境の配慮が必要である。     ニ.注意障害(脳外傷者に多くみられる症状)  前述した半側空間無視は方向性の注意障害で、空間の半側に偏った注意障害であるのに対し、全般的な注意障害(前頭葉損傷で起こりやすい)が生じることがある。意識ははっきりしているのに、集中が困難で外部刺激の影響を受けやすい、多くの刺激の中から必要な刺激を選択できない、いくつかの刺激に注意を適切に配分できないなどの障害に分けられる。全般性注意障害が軽度の場合は、日常生活にはそれほど支障がないが、高度で複雑な情報処理能力が要求される職業場面では、ミスを犯しやすい、作業に時間がかかる等作業能力の低下により障害が露呈するので、職務内容等の配慮が必要である。  注意機能検査として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が開発した「パソコン版 空間性注意検査・軽度注意検査」があり、簡便に注意障害の客観的・定量的評価ができる。検査結果が即時にフィードバック可能であるため、障害自覚を促すことにも役立つ(資料271ページ以降参照)。     ホ.記憶障害(脳外傷者に多くみられる症状)  記憶とは経験を貯蔵し、必要に応じてそれを取り出す操作である。その過程は記銘・保持・再生に分類される。この過程のどこかに問題がある場合を記憶障害という。記銘障害は、意識障害や注意障害、知能低下でも生じる。記銘は正常だが、保持・再生の段階に問題がある場合を健忘症という。脳外傷者には、遠い過去の出来事は思い出せても、新しく経験したことを覚え込むのが難しいという前向性健忘が多くみられる。新たな学習が困難となることが就業に当たっての大きな課題となるため、メモの活用等により覚えなくても確認できるようにすることが重要である。 記憶の分類 ─内容による分類─<Tulving;1972>     ヘ.遂行機能障害(前頭葉損傷で出現しやすい症状)  遂行機能は実行機能とも呼ばれる。人が自立し、目的にそって自律的に行動する能力と定義され(Lezak;1995)、内容的には、〇目標の設定(自発性や意図を必要とする構想能力)、〇計画の立案(行動を導く枠組みの設定)、〇計画の実行(複雑な一連の行動の系統的な開始・維持・終了)、〇効果的な行動遂行(自分自身の行動を監視し修正する能力)の4つの要素に分類される。遂行機能障害は、脳の損傷部分に着目すれば、活動のプログラム、調整、実行の役割を担っている前頭葉障害との関連が強いといえるが、障害によって起こる行動上の変化に着目すれば、気が散りやすい、行動の修正が困難、社会生活上不適当な振舞いをしがち等、一般精神症状(意欲障害、注意障害、記憶障害)と心理・社会的行動障害(自発性低下、衝動性、脱抑制、抑うつ、不安・興奮・乱暴などの異常行動)の中間に位置するものと考えられる。   ト.その他の精神症状(意欲障害、感情障害、病識欠如など)  脳損傷により、前述の高次脳機能障害の他にも精神的な問題が発生することがある。周囲への無関心・無為・無欲などの発動性の低下、情動体験の平板化・貧困化や抑うつ、焦燥感、固執傾向、過緊張、感情失禁、情緒不安定など精神心理的な症状や感情表出面での障害が見られる場合もある(意欲障害、感情障害)。  また、障害の受容における問題も指摘される。この場合、現在の自分の障害を理解せず、回復に対しての過度の楽観や、自己の能力の過大視といったことが生じる。このような障害受容の困難さや自己認識の乏しさは、対人関係に支障をきたしやすい(病識欠如)。  いずれにしても、課題が生じる原因は障害のみならず、周囲の環境によるものとも考えられるので、まず原因を正確に把握することが支援に向けての一歩となる。   <引用文献> 1)大川弥生:“高次脳機能障害とは”.職リハネットワーク(No.22).1993.P4-7 <参考文献> 〇独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:2019年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト.2019 〇中村隆一監修ほか:入門 リハビリテーション医学(第3版).医歯薬出版.2007 〇高次脳機能障害支援コーディネート研究会監修:高次脳機能障害支援コーディネートマニュアル.中央法規出版.2006 〇中島八十一・寺島彰編集:高次脳機能障害ハンドブック 診断・評価から自立支援まで.医学書院.2006 第2項 知的障害 1)知的障害の概要  @ 知的障害とは  知的障害については「身体障害者福祉法」、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」と異なり、「知的障害者福祉法」に知的障害の定義に関する条文もなく、法令上の定義は明確ではない。また、福祉サービス等の利用の対象者であることを証するものとしての療育手帳に関する条文もなく、療育手帳は都道府県(政令指定都市)独自の施策としてそれぞれの判定基準により発行されている。  知的障害の定義の解説として多く用いられるものに、アメリカ知的・発達障害協会(AAIDD:American Association on Intellectual and Developmental Disabilities)における定義1)がある。 【アメリカ知的・発達障害協会(AAIDD)における定義】  知的障害は、知的機能と適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルによって表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は 18歳までに生じる。この定義を適用するには以下の5つを前提とする。 1.今ある機能の制約は、その人と同年齢の仲間や文化に典型的な地域社会の状況の中で考慮されなければならない。 2.アセスメントが妥当であるためには、コミュニケーション、感覚、運動および行動要因の差はもちろんのこと、文化的、言語的な多様性を考慮しなければならない。 3.個人の中には、制約と強さが共存していることが多い。 4.制約を記述する重要な目的は、必要とされる支援のプロフィールを作り出すことである。 5.長期にわたる適切な個別支援によって、知的障害がある人の生活機能は全般的に改善するであろう。 知的機能とそのアセスメント  知的機能には、推論する、計画する、問題を解決する、抽象的に思考する、複雑な考えを理解する、速やかに学習する、および経験から学ぶことが含まれる。1)  この知的機能は、標準化された評価尺度によって得られた知能指数(IQ)によって表すことが一般的である。そして、「知的機能の明らかな制約」は、使用する知能検査の標準測定誤差と、検査の長所および制約を考慮して、IQ得点が平均より約2標準偏差以上低いことを指す、とされている。1)  代表的な知能検査は、ビネー式(田中・ビネー式知能検査など)とウェクスラー式(WAIS-R成人知能検査、WAIS-V成人知能検査など)である。 適応行動とそのアセスメント  適応行動は、日常生活で人々が学習し、発揮する概念的、社会的および実用的なスキルの集合である。1)  「適応行動の明らかな制約」は、障害のある人とない人を含む一般的な集団に基づいて標準化した尺度によって、(a)適応行動の3つの型(概念的、社会的または実用的)のひとつ、あるいは(b)概念的、社会的および実用的スキルの標準化した尺度による総合得点で、平均より約2標準偏差以上低い能力として、操作的に定義される。なお、得点を解釈する時は、アセスメント法の標準測定誤差を考慮しなければならない、とされている。  また、適応行動は多次元的で、以下を含むとされている。1) 概念的スキル:言語 (読み書き)、金銭、時間および数の概念 社会的スキル:対人的スキル、社会的責任、自尊心、騙されやすさ、無邪気さ (用心深さ)、規則/法律を守る、被害者にならないようにする、および社会的問題を解決する 実用的スキル:日常生活の活動(身の回りの世話)、職業スキル、金銭の使用、安全、ヘルスケア、移動/交通機関、予定/ルーチン、電話の使用  A 雇用対策上の位置付け  「障害者の雇用の促進等に関する法律」における「知的障害者」とは、 原則として、療育手帳を所持している人、あるいは地域障害者職業センターにおける知的障害者判定により知的障害があると判定された人(知的障害者判定に係る判定書を交付)とされる。地域障害者職業センターにおける知的障害者判定は、療育手帳とは別のものであり、障害者雇用に係る各種援助制度においてのみ適用される。  また、療育手帳においては、一般的に障害の程度をA(重度)、B(中軽度)と区分して表し、A判定のある人が重度とされる。しかし、障害者雇用に係る各種援助制度の適用においては、B判定である人についても「重度」として扱われる場合がある(重度知的障害者判定に係る判定書を交付)。B判定の人が障害者雇用に係る各種援助制度上「重度」に該当するかどうかの判定は、地域障害者職業センターにおいて実施されるが、その判定の基準の一つとして、知能検査、職業適性検査および社会生活能力調査の結果が用いられる。 2)職業的課題と支援のポイント  @ 知的障害の職業的課題  知的機能の制限に伴い、職場における作業遂行力やコミュニケーションなどの面で職業的課題が生じる。職場の中での課題としては、次のような事項が挙げられる。しかし、知的障害の特性は一人ひとりによって異なり、また、職業的課題は社会的・環境的条件や支援・配慮の有無・程度との相互関係の中で変わりうるものであることに充分留意しなければならない。 【知的障害の職業的課題】 具体的なことに比べ、抽象的なことを理解する力が弱い。 読み書きや言葉の理解、計算の能力に制限がある。 作業手順を覚えたり、課題の処理に時間がかかる。 一度に複数の指示を出されると指示が抜ける。 空間的な理解・判断が苦手である。 段取りや手順を考えたり、工夫することが難しい。 同じことを場面を変えて応用することが難しい。 過去の経験や知識を組み立てて推理したり、問題解決法を考えることが難しい。 同じ失敗を繰り返すことがある。 周りの状況に気付かず、周囲に配慮することが難しい、あるいは、その幅の広さに制限がある。  A 支援のポイント  就業支援を行う場合、どのような配慮があれば職場において能力を発揮できたり、適応がスムーズになるかという環境調整のアプローチが求められる。上記の知的障害の職業的課題に対して、どのような環境調整をするべきかを、認知障害のある人に対する課題遂行や良好な対人関係の構築のための環境調整のポイントを引用して示す。  知的障害を認知機能(情報処理のプロセス)の制限と捉えると、高次脳機能障害や発達障害など、認知機能の低下やゆがみがある場合(認知障害)に対応する支援技法と共通する部分も多い。知的障害の様相は多様であり、また、環境との相互作用により課題の現れ方が異なることを考慮すると、知的障害に対する特有の支援技法がある訳ではない。そのため、記憶力や注意力の低下に対する補償方法、物事をわかりやすくする構造化の方法など、認知障害に対するアプローチ法を共有し、課題に応じて利用することが有効となる。 【認知障害に対する環境調整において考慮すべきポイント】 入力の制限  → 情報伝達は処理能力の範囲内に納めること。 作業の分割  → 一度に処理できない複雑な作業は簡単な作業へ分割し、処理しやすくすること。 構造化  → 理解しやすい構造化された環境を整備し、混乱や間違いを少なくすること。 手がかり  → 行動をはじめるきっかけとなるように、適切な視覚、聴覚刺激を示すこと。 失敗のない学習  → 失敗経験の少ない学習を行うこと。 ストレス・疲労を減らす  → 十分な時間を取ることを許し、疲れないようにすること。 (渡邉修ほか:"認知障害 ".総合リハビリテーション(Vol.29,No.10). 2001.P910より一部抜粋・加筆・変更2))   イ.入力の制限  処理能力を超える多くの情報が一度に入ると、誰もが適切な行動を行えなくなる。指示が抜ける、周囲に配慮できないなどといった課題は処理能力を超えているために起こることであるが、それは仕事ができない、物わかりが悪いといった偏見の強化や感情のしこりを生む原因ともなる。着実で適切な課題遂行のためには、当初は「入力の制限」を念頭に置いて接することが必要である。次のような配慮や支援を行うことにより、入力の制限を図ることができる。 【入力を制限するための方法】 言葉がけは必要最小限の具体的なものに限定するよう心掛けること。落ち着いた声でゆっくりと話した方が情報量が減る。 目標は段階的に設定すること。 手順は固定し、いつも同じ伝え方をすること。 情報は整理してから提示すること。 口で話して聞かせるよりも、視覚的に目で見せること。 支援者が目立たないようにするなど、支援の進行に従い、立ち位置に留意すること。  小川浩氏はジョブコーチの支援技法を解説した「ジョブコーチ入門」3)の中で、分かりやすい教え方を実践するための考え方と技法を整理して示している。重要なポイントは、「言語指示(言葉で教える)」、「ジェスチャー(身ぶりや指さしでヒントを与える)」、「見本の提示(やってみせる)」、「手添え(手取り・足取り教える)」といった階層別の指示の手段を駆使して仕事を教えること、そして、常に最も介入度の少ない指示・手がかりで教えることによって、最短期間で訓練を終了するよう心掛けることである。さらに、言葉でやり方を教える場合は、必要最小限で具体的指示に限定すること、そして、基本となる手順を固定し、あらかじめポイントを絞って段階的に指導することである。  また、耳で聞くだけでなく、テキストやマニュアルなど視覚的資料があるほうが、情報が確実に伝達されやすい。ポイントが整理されることに加え、一度に部分と全体の関係を確認できたり、また、その場で消えてしまう聴覚的情報と異なり、後から復習が可能ということもある。  多くの知的障害者を雇用するあるビルメンテナンス会社では、入社初日には、図1のようなマニュアルを準備している。図2は、清掃現場に行く前に準備すべき道具の一覧を写真にしてロッカーの扉の裏に貼りつけてい るものである。伝えたい内容をあらかじめ整理し、視覚的資料にしておくことで、明文化されていない多くの情報をコンパクトに、かつ確実に伝えることに役立っている。   図1 マニュアル             図2 準備すべき道具一覧   ロ.作業の分割、構造化、手がかりの提示  支援に当たっては、支援者が作業を熟知し、そのうえで作業のプロセスや内容を分割・整理し、できるだけわかりやすくシンプルなものに構造化して示す工夫が求められる。その際、手がかりの提示を組み合わせるなど、ちょっとした工夫により、職場環境をより分かりやすいものに再構成することが可能である。詳しくは、69〜72ページに記載している3)行動を習得する(課題分析)、4)環境の構造化の考え方、5)さまざまな支援ツールを参照されたい。   ハ.失敗のない学習  認知に障害がある場合は、スムーズな課題遂行のために失敗体験を繰り返さないようにすることが重要である。これは、失敗の試行錯誤から抽象的な一般法則を学ぶことが難しいことに加え、失敗体験が手続き記憶として残り、かえって正しい学習の妨害となってしまうことによる。目標を段階的に設定する、目標を絞る、具体的な到達目標を示す、習得の成果を確認し正しい行動を強化するなどの、失敗体験を繰り返さないための配慮が必要となる。  また、知的障害のある人は、注意された時に状況を充分把握できないた め、何が正しくて何が誤っていたのか分からないまま、「叱られた」という感情面の記憶だけが残り、正しい行動も身につかず自信を失っていくという悪循環に陥ることも多い。どのポイントが正しく、どのポイントが誤りであるかについては具体的に示し、正しい行動は評価し、誤りについてはどうすべきなのか正しい行動を示すことが求められる。 【教示の際の留意点】 認知や注意力との関係で生じるミスを事前に防ぐ工夫を講じること。 〇ミスの批判ではなく、作業の手を止めて、正しいやり方を教えること。 教示はミス発生後直ちに行うこと。 声を荒だてないこと。 最初に戻って修正を行うこと。 上手くできた直後に、そのことを軽く述べること。 「援助なし」でできるまで練習をすること。  障害者雇用の経験が豊富な企業では、朝礼・ミーティングの実施や、作業報告のタイミングのスケジュール化、作業日報の提出などにより、業務の範囲内で可能な限りフィードバックの機会を設け、具体的な評価を伝達するための工夫を行っている。   ニ.ストレスや疲労を減らす  知的機能に制限があり、取りまく環境や文脈の意味や見通しが見えない中で様々な課題に対処することは、周囲が想像する以上にストレスが多くて疲れることかもしれない。ストレスや疲労は課題解決や習熟、職場適応を妨げる原因となる。ストレスや疲労を減らすためには、ゆっくりと学び、ゆっくりと成長するための充分な時間を保障することが望ましい。  したがって、特に新しい環境に入る導入の段階などには、一人ひとりの状況確認や関係者間の調整のうえで、勤務時間や休日などの勤務条件や作業量における負担軽減の配慮を行うべきかどうかの検討をする必要がある。現場で頻繁に実践されている職場実習は、目標を段階的に設定でき、比較的緩やかな環境で職場に慣れる機会となることから、疲労やストレスの軽減を図る試みでもある。  また、ストレスの少ない働きやすい職場とは、社員が自分の職務能力に応じた役割と責任を持ち、「自分は必要とされている」と実感でき、職場の一員として他の職員とのつながりを感じ、帰属意識を持てる職場である。その環境を整えるために、個人目標の設定、朝礼による訓示、連絡帳のやり取り、他部署との交流会の実施など様々な取組みを組み合わせ、意欲の向上やコミュニケーションの促進を図っている企業もある。  一方、身体の不調や人間関係の悩み、余暇の過ごし方などの生活面、健康面、心理面などで生じうるストレスや課題は、本人や企業、職場だけでは解決が難しい場合もある。働きやすい職場環境を整えるためには、支援機関や家庭が協力し、職場外から支える体制があることも重要となる。安心できる職業生活を維持するために、必要に応じてジョブコーチなど人的支援を活用したり、職業生活を支える家庭や地域の関係機関の連携体制を整備しておくことが求められる。  知的障害者は、従前からの製造業での就業に加え、サービス業や卸売・小売業、医療・福祉業など多様な職域で活躍するようになっている。今後も就業の場を地域において更に広げていくためには、本人、そして企業に対するこうした環境調整の支援が必要となる。  なお、知的障害者の中には、発達過程において様々な経験が制約されることなどにより、職業生活を支える日常生活・社会生活面の能力(健康管理、生活リズムの確立、対人技能、移動技能等)や職業生活を維持するために必要な態度や基本的労働習慣(仕事に対する意欲、一定時間労働に耐える体力、規則の遵守など)といった職業準備性に課題が生じる場合がある。知的障害者に対する支援に当たっては、環境調整と併せて、本人の職業準備性の向上等を支援するアプローチも重要である。 <引用文献> 1)AAIDD(米国知的・発達障害協会用語・分類特別委員会)・太田俊己ほか共訳 :知的障害 定義、分類および支援体系(第 11版).日本発達障害福祉連盟.2012.P1,P31,P43-44 2)渡邉修ほか:"認知障害".総合リハビリテーション(Vol.29,No.10).2001.P910 3)小川浩:"仕事を教えるA〜D".重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門.エンパワメント研究所.2001.P64-78 <参考文献> AAIDD(米国知的・発達障害協会用語・分類特別委員会)・太田俊己ほか共訳 :知的障害 定義、分類および支援体系(第11版).日本発達障害福祉連盟.2012 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:2019年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト.2019   第3項 精神障害 1)精神障害の概要  @ 精神障害とは   (1)精神障害の概念  精神障害(または精神疾患)という言葉の概念は、使用する人の立場や状況によって異なった概念での使われ方をする場合があり、このことが精神障害の理解を難しくしている要因の一つともなっている。本書では、精神障害を以下の二つの視点から概念を整理し、「精神障害」という言葉を使用する場合の注意としたい。   イ.医学的見地からの精神障害の概念  主な精神疾患には、統合失調症、躁うつ病、精神作用物質(アルコール、シンナーなど)による精神疾患などがあるが、これら精神科における治療の対象となる疾患(病気)すべてを含む概念として精神障害が使われる。医学的概念では、「精神障害」と「精神疾患」は同等の意味を持つものといえる。   ロ.福祉およびリハビリテーション概念としての精神障害(者)  「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当の制限を受けるもの」(「障害者基本法」第二条)であり、精神障害のために生活能力が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした者のことで、これ らの者が福祉およびリハビリテーションの対象となる。そのため医学的見地からの精神障害(者)の概念よりは狭く、イの医学的概念の「精神障害」であっても、ロの対象者とならない者もいることになる。   (2)精神疾患の病名(分類)  精神障害の理解を難しくしているもう一つの要因に、精神疾患の病名(精神疾患の分類)が、わかりにくいことがある。特に「気分障害」という疾患名のついている従来の「躁うつ病」という疾患は、呼称も概念も従来とは異なっている。現在、精神疾患の診断分類・基準で信頼性と妥当性が高いとして評価されているのは、世界保健機関(World Health Organization:WHO)が整理した「国際疾患分類」(International Classification of Diseases:ICD)とアメリカ精神医学会が作成の「精神疾患の分類と診断の手引き」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)で用いられている操作的診断分類であり、それ以前の診断分類を「伝統的診断分類」として区別している。日本のほとんどの大学病院では、ICDかDSMを診断に用いているが、「伝統的診断分類」が混在して用いている病院も少なからず存在し、そのことが疾患分類を不明確にし、わかりにくいと感じさせる原因の一つとなっている。   イ.伝統的診断分類から操作的診断分類へ  伝統的診断分類によると、精神疾患は病因によって「外因性」、「内因性」、「心因性」に区別されていた。内因とは遺伝的な原因であり、心因とは心理的原因であり、外因とは脳を含む身体の病変か中毒性物質が原因となっているものである。  しかし、統合失調症や躁うつ病に効く薬剤が発見されたことにより、内因性精神障害や心因性精神障害に器質的な基盤がないとは言えなくなったことやうつ病のなかには心因性のものがあるとの提唱などにより、原因(病因)に基づく分類は妥当性がないことが分かってきた。また、英米の精神科医が伝統的診断により同じ患者を評価したところ、躁うつ病と統合失調症に診断結果が分かれ、臨床情報の共有化が図れなかったこと等、伝統的診断では明確な診断基準を示していなかったことによる信頼性および有用度に問題があることが分かり、この問題を解消するために、特定の症状がいくつそろうかによって各々の疾患を診断する操作的診断基準を取り入れた診断分類が作成され、その代表が上記に述べたICDとDSMである。 ※ DSMは、1994年にDSM-W、2000年にその改訂版DSM-W-TRが米国精神医学会から出され、また、2013年5月にDSM-5が出され、その邦訳が2014年6月に出版された。DSM-5では、@従来の操作的診断基準による診断分類(カテゴリー方式)に加え、精神疾患を呈する要素を数量化して分類するディメンション方式〜連続的で明瞭な境界線を持たない臨床的特徴の記述が可能である方式〜を導入しており、さらに診断基準については、A神経発達障害に係る診断基準を新設している。  この項では、従来のDSM-W-TRの基準を主に紹介する。 ※ICDは、2018年に第11版(ICD-11)が公表されているが、令和3年11月時点では、国内適用されていないため、本稿ではICD-10の内容にて記載している。  操作的診断基準の特徴は、@診断のための症状を列記し、診断に必要な症状(エピソード)数を決める、A症状の最低限度の持続期間を決める、B他の疾患との区別を明示する、ということにある。  統合失調症の診断基準を DSM-Wの診断基準から見てみると次のようになる。 (イ)特徴的症状:以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのは、1か月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在:  @ 妄想  A 幻覚  B 解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)  C ひどく解体したまたは緊張病性の行動  D 陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如 注:妄想が奇異なものであったり、幻聴がその者の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声が互いに会話しているものであるときには、基準(イ)の症状を1つ満たすだけでよい。 (ロ)社会的または職業的機能の低下:障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。 (ハ)期間:障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在する。この6か月の期間には、基準(イ)を満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準(イ)にあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:風変わりな信念、異常な知覚体験)で表されることがある。 (ニ)失調感情障害と気分障害の除外:失調感情障害と「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」が以下の理由で除外されていること。  @ 活動期の症状と同時に、大うつ病、躁病、または混合性のエピソードが発症していない。  A 活動期の症状中に気分のエピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、活動期および残遺期の持続期間の合計に比べて短い。 (ホ)物質や一般身体疾患の除外:障害は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。 (ヘ)広汎性発達障害との関係:自閉症障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が少なくとも1か月(または、治療が成功した場合は、より短い)存在する場合にのみ与えられる。  このように DSM-Wでは、活動期の特徴的臨床症状、発病後の社会的または職業的機能の減退、および症状の持続期間によって診断され、気分障害やパーソナリティ障害と鑑別されるものであり、上記(イ)〜(ホ)の項目のどれか一つでも欠けていれば統合失調症の判断はつかない。精神科医(または病因)が異なっても症状の確認さえ一致していれば、上記診断基準に基づき診断結果が異なることはないことになるが、そのためには精神科医による注意深い症状評価と経過観察が必要である。  幻覚・妄想・思考形式の障害・緊張病症状等の陽性症状は、統合失調症でよく見られるが、それに限定されたものではなく、気分障害、物質関連障害や認知症のような器質性疾患でも少なからず見られる。そのため、幻覚や妄想があれば直ぐに統合失調症と限定的にとらえるのではなく、陽性症状の内容の詳細、陽性症状の経過、その他の症状の有無と内容、発症のきっかけ、それまでのパーソナリティなどの多くの情報を聞き取り、診断、予後予測、治療の方針が立てられることに注意を要する。  精神疾患を判断する場合、どのような診断分類によろうと診断名とその特徴とする症状さえ把握できれば、理解できたといえる訳ではない。さらに診断分類に典型的に当てはまる精神疾患の者ばかりではない。むしろ中間的な疾患を持つ者が多く、「特定不能の」という修飾語のつく診断名や複数の診断名を折衷したような診断名(統合失調感情障害)のつく者もいる。的確な治療方針や予後予測、有効な支援策を立てるには、精神疾患を有する者の個人に固有の特徴を評価する必要がある。固有の特徴には、遺伝負因・気質・性格・認知スタイル・対処行動・社会的不利・ストレッサーの存在等の生物学的・心理学的・社会学的要因が含まれている。これら多数の要因を丹念に詳細に確認し、体系立てて記述することが適切で有効な支援策を立てる基礎になり、精神障害を理解することにつながるといえる。  支援の対象者としての精神障害者を理解するには、上記に述べたように単なる診断名とその特徴的な症状を理解するだけでは十分でなく、本人固有の特徴を理解する必要があり、それには本人や主治医からの詳細な聞き取り、診断書等の情報の収集が欠かせない。  A 精神障害の特性  精神障害のうち、統合失調症、気分障害、非定型精神病、中毒精神病、器質精神病、その他の精神疾患(神経症、パニック障害、外傷後ストレス障害)について説明する。   (1)統合失調症    イ.概念  発症危険率は約0.8%で、おおよそ120人に1人弱の人が罹患する疾患である。発生率に対して有病率が高く、慢性に経過する場合が多いといえる。統合失調症の発生率に明らかな男女差は見られない。発症年齢は15〜35歳が大半を占める。発症は男性の方がやや早く、ピークは男性で15〜24歳、女性で25〜34歳、平均発症年齢は男性で21歳、女性で27歳とされる。  統合失調症の症状は、陽性症状と陰性症状に二大別される。陽性症状は、各種の幻覚や妄想、緊張病症状等で、陰性症状は感情の鈍麻・平板化、思考や会話の貧困、自発性減退、社会的ひきこもりなどを含む。急性期(初回エピソードや再発時)は陽性症状が顕著に見られ、慢性期(残遺期)には陰性症状が前景となる。経過は、急性期(活動期)を経て寛解または慢性期(残遺期)を辿る。    ロ.急性期の症状  初回精神病エピソードや再発時の急性期には、以下の特徴的な症状が出現する。しかし、以下の症状が1人の患者に全て見られるわけではない。  主たる症状の内容を簡単に記述する。詳しい内容は、医学書等を参照のこと。 (イ)幻覚  幻覚の中では、幻聴が多く、急性期に最も高頻度に見られる症状の一つである。  ・複数の人が自分を話題として被害的な内容の対話をする(幻聴)  ・考えたことが声になって聞こえる(考想化声)   幻視はまれで、幻嗅や幻味も時に見られる。 (ロ)妄想  関係妄想が特徴的で、周囲の些細な出来事、他人の身振りや言葉などを自己に関係づけるもので、嫌がらせ、当てつけなど被害的にとらえることが多い。 (ハ)自我障害  自分の考えや行動が自分のものであるという意識(能動意識または自己所属性)が障害される。また、自己と外界との境界(自我境界)も障害される。  ・自分の考えたことが筒抜けになっている(考想伝播)  ・自分の意志ではなく考えさせられる、行動させられる、考えを吹き込まれる(考想吹入)  ・考えを抜き取られる(考想奪取) (ニ)思考過程・会話の障害  会話の文脈がまとまらず、次第に主題からそれて、筋が通らなくなる(連合弛緩)。   ・個々の考えに意味関連がなくなり話が支離滅裂になる(滅裂思考) (ホ)意欲・行動の障害  緊張病症候群は、緊張型統合失調症に出現する急性期症状であるが、慢性期にも見られることがある。また、自発性減退(発動性欠乏)は、 程度の差はあっても、ほとんど常に見られる。  ・激しい不穏興奮(緊張病性興奮)  ・呼びかけにも反応がなく、全く動かなくなる(緊張病性昏迷) (へ)感情の障害  初期や再発時には不安、抑うつ、当惑、情動の不安定性がしばしば見られる。また、急性期の陽性症状が軽快したころに抑うつ状態に陥ることがある(精神病後抑うつ)。喜怒哀楽の感情表出が減少し、表情は乏しく、声も単調になる(感情鈍麻、感情の平板化)。 (ト)両価性  同一の対象に対して、愛と憎しみなど、相反する感情が同時に存在する状態。感情だけでなく、意志や知的な面(相反する考えを同時にもつ)にも認められる。 (チ)自閉  外界に比して内的生活が病的に優位となり、現実から離脱してしまうこと。 (リ)疎通性の障害  会話は成立しても、共感性が乏しく、意思が通じにくいという印象を受ける。 (ヌ)病識の障害  急性期にはほとんどの患者に病識がない。症状が改善してくるとともに、病識もある程度出現してくる。    ハ.慢性期の症状  陰性症状が主体となるが、陽性症状も持続している場合がある。 (イ)幻覚や妄想  急性期に比較して、不安や恐怖などの感情反応を伴わない。  誇大妄想は、慢性期に見られることが多い。 (ロ)思考過程の障害  連合弛緩や思考の貧困(会話が少なくなり、内容も乏しくなる)が見られる。 (ハ)自発性減退  慢性期の最も明らかな症状。表情が硬く、ひそめ眉やしかめ顔、独語が見られることがある。 (ニ)感情鈍麻  慢性期によりはっきり現れ、周囲に無関心、冷淡となる。   (2)気分障害  気分障害の概念とその用語は時代とともに変遷し、また診断基準によって異なっている。その結果、各疾患や病相の名称もさまざまな用語が用いられてきた。以下に従来診断で用いられてきた診断名と現在の診断名との対応を示す。 うつ病(従来診断、以下同じ) 「単極型(単極性)うつ病」と同じ意味である。 DSM-W-TRの「大うつ病性障害」、ICD-10の「うつ病性障害」にほぼ対応。 ※「大うつ病」の「大」という言葉は「重症」という意味ではなく、「うつ病に該当するゆううつ症状がたくさん出そろっている」という意味である。 躁うつ病  DSM-W-TRの「双極性障害」、ICD-10の「双極性感情障害」にほぼ対応。 抑うつ神経症  「気分変調症」にほぼ対応。 DSM-W-TRの「気分変調性障害」、ICD-10の「持続性気分障害」に分類。    イ.概念  気分が高まったり、逆にゆううつになったりする気分変動は、それ自体は正常心理であるが、それが病的に出現する場合が「気分障害」である。「病的」の程度や質などにより、気分障害には様々なサブタイプが存在する。 @うつ病性障害(大うつ病性障害、気分変調性障害) A双極性障害(双極T型障害、双極U型障害、気分循環性障害) Bその他(一般身体疾患による気分障害、物質誘発性気分障害)  大うつ病性障害を一生のうち一度でも経験するのは7〜15人に1人であり、双極性障害の頻度は大うつ病性障害の約1割の確率である。気分障害の頻度は時代とともに増加していると考えられる。  頻度の性差について、大うつ病性障害に関して、女性は男性よりも12か月有病率および生涯有病率が約2倍であることが確認されている。双極性障害は大うつ病性障害と異なり、頻度の性差はほとんどない。  気分障害の経過中には、うつ病相、躁病相、混合病相という3つの病相が生じうる。この3つの病相の組み合わせで気分障害の分類がなされており、DSM-W-TRでは、各病相を大うつ病エピソード、躁病エピソード、軽躁病エピソード、混合性エピソードの各気分エピソードに分類し、各エピソード基準に該当するかどうかを判断し、診断の結果、障害名がつけられる。  以下、DSM-W-TRの各気分エピソードの詳しい診断基準については、当該書を参照のこと。    ロ.各気分エピソードの基本症状     (イ)大うつ病エピソードの基本症状  抑うつ的な気分と何事についても興味・関心や楽しさを感じられなくなってしまうことである。以下の@〜Hのうち、@、Aの1つは必ず存在した上で、以下の他の症状と合わせて5つ以上に達し、かつその症状が、2週間以上にわたって、ほぼ毎日続くことが求められる。 @抑うつ気分(ほとんど1日中続く) A興味または喜びの著しい喪失(ほとんど1日中続く) B体重あるいは食欲の変化 C睡眠障害(不眠もしくは過眠) D無価値感あるいは自責感 E自殺念慮(反復して起こる)あるいは自殺企図ないし明確な自殺計画 F疲労感あるいは気力の減退 G思考力や集中の減退あるいは決断困難 H精神運動性の焦燥(イライラ落ち着かない)もしくは抑制(動きが少ない)       (ロ)躁病エピソードの基本症状  気分が高揚する、開放的になる、あるいは怒りっぽくなる状態の程度が異常に強く、さらに持続的なまま1週間以上続くことである。この気分の障害が存続する期間中、以下の項目の3つ以上が継続し、しかも顕著である(この気分の障害が怒りっぽい気分だけの場合、以下の項目の4つ以上が必要)。 @自尊心が過度または誇大的な考え方になる A睡眠に対する欲求が減る B普段より多弁であるか、次々話したいという気持ちが強い C考えが次々と頭に浮かぶ D注意がそれやすい(重要性の低い、関連性のない事柄へ容易に注意が向く) E目標志向性のある活動(社会的、職場または学校内、性的活動のいずれか)が高まるか、精神運動性の焦燥が生じる F困った結果につながる可能性が高い快楽的活動(買い物への浪費、性的無分別、馬鹿げた事業への投資など)に熱中する  上記の症状のために社会活動、人間関係、職業的機能に深刻な支障を起こすほどであるか、自己、他者を傷つけるのを防ぐための入院が必要なレベルであるか、または精神病性の特徴が存在する必要がある。     (ハ)軽躁病エピソードの基本症状  躁病エピソードと基本症状を含む症状項目はまったく一緒であるが、第一に期間が4日でよく、第二に社会的・職業的機能に著しい障害を起こすほどではなく、入院を要しない程度と規定されている。     (ニ)混合性エピソードの基本症状  双極性障害の経過中にうつ病の症状と躁病の症状が入り混じって出現する状態。行動は活発でしゃべり続けているのに、気分は死にたくなってくるほど憂うつだ、というように躁状態とうつ状態の症状が混ざって出てくる状態をいう。DSM-W-TRの診断基準では、最低1週間の期間、躁病エピソードと大うつ病エピソードの基準をともに満たすことが要求されている。    ハ.うつ病性障害     (イ)大うつ病性障害  1回以上の大うつ病エピソードがあることが基本で、精神病性障害や双極性障害でないこと。過去に躁病エピソード、混合性エピソード、軽躁病エピソードが存在しない症状をいう。     (ロ)気分変調性障害  2年間以上の期間、抑うつ気分のある日が多く、しかし抑うつ気分が大うつ病エピソードに至らない症状をいう。    ニ.双極性障害  一生のうち、再発を繰り返す症例が 90%以上を占めるため、再発予防が治療上、重要である。うつ状態の期間の方が躁状態よりも長く、多くの双極性障害の患者が「大うつ病」だと見なされている一因となっている。     (イ)双極T型障害  1回またはそれ以上の回数の躁病または混合性エピソードが存在する症状をいう。     (ロ)双極U型障害  少なくとも1回の大うつ病エピソードと、少なくとも1回の軽躁病エピソードが経過中に生じる症状をいう。     (ハ)気分循環性障害  2年間以上の期間、複数の軽躁病エピソードと大うつ病エピソードには至らない抑うつ症状を示す時期の存する症状をいう。    ホ.一般身体疾患による気分障害と物質誘発性気分障害  気分障害をきたす頻度の高い一般疾患として、内分泌疾患(クッシング病、甲状腺機能低下症)、悪性腫瘍(膵臓癌)、パーキンソン病、脳血管障害、全身性エリテマトーデスなどがある。  気分障害をきたす頻度の高い投薬としては、副腎皮質ステロイドとインターフェロンが挙げられる。   (3)非定型精神病  統合失調症、気分障害、てんかんの特徴のうち、いずれか2つあるいはそれ以上を併せ持つ場合に呼ばれる病名である。ICD-10では既に存在しない病名であるが、ICD-10における統合失調感情障害にほぼ当たるとされる。   (4)中毒精神病(依存症)  依存症は、障害の現れ方により、急性中毒、有害物の使用、依存症候群がある。依存症の特徴のひとつは、その物質をどうしても得たいという渇望である。依存症の場合は、その渇望を満たすために必要な物質の量が、 徐々に増えていくという問題がある。また、その物質を続けて服用・使用しない場合に起こる禁断症状がある。物質の種類による分類は、ICD-10では、アルコール、アヘン類、大麻のほか、鎮静薬または催眠薬、コカイン、カフェイン、幻覚剤、タバコが含まれている。   (5)器質性精神障害  器質性精神障害は、その名のとおり、脳器質の疾患が原因の障害である。代表的なアルツハイマー型の認知症では、脳の変性による痴呆が徐々に進行していく。血管性障害は脳の血管のトラブルによって起こり、急激に、あるいは階段状に進行していくものである。   (6)その他の精神疾患  ここでは、その他の精神疾患で、代表的なものを挙げる。疾患は、個人によって症状も生活上の制限にも大きな差違があるので、対象者ごとに、医療機関との連携を保ちながら、その症状、治療法等について、詳しく把握しておくことが肝要である。    イ.神経症(Neurosis)  神経症は不安を特徴とする一連の疾患である。ICD-10では、「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」とまとめられている。不安の現れ方によっていくつかの類型に分けられる。不安の対象がはっきりしているものを恐怖症という。恐怖症は例えば、高所恐怖症、尖端恐怖症、広場恐怖症、社会恐怖症等がある。  神経症は、特に身体の機能異常や病気もないのに心身に障害が起きるもので、典型的な心因性の精神障害である。直面する環境への不適応が原因で精神的なバランスが崩れることでも起きる場合があり、適応障害とのとらえ方もある。  ある考えにとらわれてしまう強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)もある。強迫性障害は、不快な考えが頭に何度も浮かぶために (強迫思考)、その不安を振り払う目的から同じ行動を繰り返す(強迫行為)のが特徴である。  他に、社会不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)、全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder)等の用語も比較的よくみられる。    ロ.パニック障害(PD:Panic Disorder)  パニック障害は、何らの前触れもなく突然、心臓が激しく鼓動したり、呼吸が苦しくなったり、めまいや身体が震えるなどの症状と激しい不安感(パニック発作)が起こる病気である。パニック発作は、特別な理由もなく起こり、1回で終わることはなく、何度も繰り返すという特徴がある。通常10〜20分で治まるが、当事者にとっては、死の実感を伴うような非常に苦しい体験となる。パニック障害では、発作が何度か繰り返されるうちに、また発作が襲ってくるという強い不安(予期不安)を伴うことが多くなる。    ハ.外傷後ストレス障害      (PTSD:Post-Traumatic Stress Disorder)  外傷後ストレス障害は、戦争や大震災、重大な事故などの大きなストレスに遭遇して、本人の意思とは無関係に、そのことが頭から離れずに、不安が続いて元の生活に戻れない状態をいう。その体験が何度も繰り返し思い出される、悪夢にうなされる、眠れなくなる、他人との疎遠感や孤立感を感じたりする、不安・緊張の強い状態が続く等様々な症状がみられる。  外傷後ストレス障害には、大きく分けて3つの症状がある。フラッシュバック症状は、不安や恐怖を体験した出来事が鮮明によみがえることをいう。回避・まひ症状は、体験した出来事の一部が思い出せない、出来事を思い出すような場所を避ける、以前ほど物事に興味が持てない、強い孤独を感じる、感情がまひしたように喜びや幸せを感じない、等の症状をさす。また、興奮状態の持続、または物事への過敏反応といった症状がみられることもある。眠れない、イライラする、必要以上に警戒心が強まる、ちょっとした物音などにも過敏に反応してしまうなどの症状が現れる。  B 雇用対策上の位置付け  雇用対策上の精神障害者とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」 の第2条第6号において定められ、「精神保健福祉法第45条第2項の規定により、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者」及び「統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)、又はてんかんにかかっている者(前号に掲げる者に該当する者を除く)」とされる。具体的には、精神障害者であることの確認は、精神障害者保健福祉手帳あるいは「主治医の意見書」により行うこととなる。ただし、障害者雇用率制度に適用されるのは精神障害者保健福祉手帳を所持している場合のみであるため、留意が必要である。 2)職業的課題と支援のポイント  @ 精神障害の職業的課題  就業支援の対象となる精神障害者の職業人としての特徴として、一般的には、下記枠内のような点が挙げられる。これを総合すると「多面的な援助を継続的に必要とする人々」とまとめられる。しかし、一人ひとり、状況は大きく違っているので、あくまで一般的な傾向として理解しておくことが肝要である。 疾病と障害の併存  医学的な疾患が固定されず、何年経っても治る可能性も悪くなる可能性も残している人が多い。疾病と障害が併存する、環境からの影響を強く受けて症状が変化する(症状が固定されにくい)、医療機関との連携が欠かせない、という独特の構造がある。 偏見や無理解(未理解)の存在  社会的な偏見や無理解(または未理解)の存在を無視できない。また、そのことが本人や家族の痛手を倍加させている。精神障害者が働くことについての理解も人によってまちまちで不安定である。 告知するか否かの問題  障害を明かすか否かが問題になる人が多い。精神障害について明かすことと伏せることでのそれぞれのメリット、デメリットが具体的に何であるかの検討が必要である。 再発不安と露見恐怖の重荷  働く時に、病気がまた悪くなるのではないかという再発不安と、病気があることを他の人に知られるのではないかという露見恐怖を背負う人が多い。いずれも大変な恐怖・不安となる。それだけでも大きなハンディキャップである。 変化への弱さ  人間関係の変化、立場の変化、生活の変化、仕事の変化等々、変化に対して非常に弱い面がある人が多い。このため、職場への定着が難しく離転職が多くなっている。 易疲労性(疲れやすさ)  きまじめで手を抜けない、常に緊張状態で気が休まらないといった傾向や薬の副作用などから、疲れやすく基礎的体力に課題を持つ人が多い。 作業遂行力の制限  疾患や薬の副作用、緊張の強さなどから、手指の不器用さ、ぎこちなさなどの運動機能の低下、記憶や判断といった認知機能の低下が見られることがある。これにより、作業能率や仕事の理解・判断力に制限が生じる。 社会的未成熟さ  思春期や青年期に発症した場合、職業的な自己理解や社会常識的なマナーやルールを身に付けるうえで経験不足となっていることがある。 対人関係の適応の難しさ  周囲の評価に敏感になる、相手の言っていることを被害的に受け止めがちになる、自分の気持ちを上手く伝えられない、頼まれると断れない、自己懲罰的になるなど、人間関係に関する認知面や対人・コミュニケーションスキル面で難しさを感じる人が多い。 生活基盤の援助が必要  生活基盤に関する適切な援助が必要な人が多い。多くの人々が生活基盤を欠いているか、貧弱であるというハンディキャップを有する。  また、生活管理が難しい人が多い。部分的にできても全体的なまとまりのあるバランスのとれた生活管理が難しい人が多い。  さらに、遊びや生活での楽しみがあまりない人が多い。「何をやっても面白くない」「何もしたくない」というのが本人からの話では多い。  A 支援のポイント  精神障害者に対する就業支援においては、以下に挙げる支援のポイントにあるような条件を整え、職業的課題を軽減・代償するアプローチを行うこととなる。充分なアセスメントとともに、本人や企業の主体性を尊重したうえで、本人、企業、家庭、関係機関を含めた調整の結果により個別の状況に応じて検討を行うことが求められる。また、本人、企業、家族、支援者は一人で課題を抱え込まないことが大切である。支援者は本人や企業、家庭をサポートし、気軽にコミュニケーションと情報共有が図れる体制を保障しながら、支援を進める必要がある。   イ.段階的・柔軟な受入体制の確保  職場適応のためには、仕事への初期の導入が大切である。疲れやすさや環境変化に対する弱さ、緊張のしやすさ、自信喪失などの状況を踏まえると、導入に当たっては弾力的な勤務時間の設定が望ましい。各種の職場実習制度やトライアル雇用等の活用などにより、負担の少ない勤務日数や勤務時間でスタートし、慣れるに従い、相談・調整を行いながら段階的に増やすような条件整備を検討することが重要である。  また、段階的な勤務時間の設定だけでなく、勤務時間帯、休憩の回数や時間、通院やカウンセリングのための時間の確保、残業の取扱いなどについて、本人と企業があらかじめ取決めをしておくことが重要である。仕事に慣れると当然戦力としての期待が高まる。きまじめさや自分の思いを訴えられないことから、対象者本人が無理を重ねる状況に陥ることも多い。いつ残業が発生するかわからないといった曖昧さそのものが不安感とストレスを生む場合もある。本人や企業とあらかじめこれらの項目について話し合い、可能な限りの調整をしておくことが求められる。  なお、複数の精神障害者が働く企業では職場適応が良好であると言われる。グループでワークシェアリングすることにより、一人ひとりの負担を軽減したり、体調の波による勤務の不安定さを補うこともできる。   ロ.多面的で継続的な支援体制の整備、コミュニケーションの確保と情報共有  精神障害者には、医療や住居、職場、金銭面、余暇活動、地域生活などにおいて多面的な支えが必要な人も多い。これらはすべて職場適応に大きく影響することから、職業生活におけるつまずきや問題の発生をあらかじめ想定し、支援者は多面的で継続的な支援体制の整備を検討しておくことが必要となる。また、多面的な職業的課題に対応するためには、支援対象者とのコミュニケーションの確保と本人を中心とした関係者間の情報共有が非常に重要となる。  本人の思いをゆっくりと聞き出し、場面に応じてきめ細かに振返りや打合せを行うなど、個別にコミュニケーションの機会を確保することは、支援を進めるうえで基本となる過程である。職場においては、職場のキーパーソンを確保することが大切である。障害のあるなしに関わらず、職場の中に相談が可能な人がいるかどうかは、職場適応に不可欠ともいえる条件となる。さらに、家庭での相談、病院やデイケアでの相談、職場・家庭から離れた第三者の相談など、職場外にコミュニケーションの機会を設けることも必要である。そうすることで、過度な緊張感や不安感、焦燥感、意欲低下などのメンタル面を始めとした多面的な課題に、様々な立場から対応できる体制を整えることができる。  一方、様々な人が関わる中で、ちょっとした情報の不足や行き違いが、本人や関係者の中に様々な憶測や不信感をもたらし、後々大きなトラブルに発展することも少なくない。支援者は、本人の同意や主体性の尊重を前提に、職場や家庭、医療機関等の連絡・調整や情報共有を意識的に図る必要がある。  具体的には、本人を交えたケース会議などを通じ、職場内外の窓口やキーパーソン、職場や家庭、医療機関、デイケア、就業支援機関などにおける相談体制や相談スケジュール、役割分担、連絡網や情報の流れなどを決めていく必要がある。   ハ.健康管理・通院への配慮  疾病と障害が併存するという障害特性への対応から、健康管理や通院への配慮は不可欠となる。本人の自己管理が重要であるが、あらかじめ確実な通院・服薬が可能な勤務形態を準備することを始めとして、日常的に心身の状況を確認し予防的に対処するなど、職場を含めた周囲の理解と配慮が必要である。健康管理については、本人が作業日誌において疲労のセルフチェックを行うことも一つの方法である(図3)。また、職場、支援者、家庭、医療機関があらかじめ本人の疲労や不調のサインに関する共通認識を持ち、それぞれの立場でサインに気を付け、早めに症状再燃の事前防止のための対応を図れるよう情報共有を行うことが重要となる。 図3 疲労のセルフチェック表の例    ニ.作業遂行力の制限に対する支援  作業遂行力の制限には、疲れやすさや認知機能の低下、抗精神薬の副作用、過度の緊張感・自信喪失といった心理的側面等の様々な要因が絡む。これらには多面的な配慮や支援が必要となるが、職場においては、できるだけ雑多な情報を整理・構造化し、不確実な事柄をできるだけ予測可能にすることが、作業遂行力の向上に寄与する。高い能力があり特別な配慮は必要がないようでも、スケジュール表やマニュアル、視覚的資料の準備、手がかりの提示などの工夫が、精神的な安心感につながることもある。こうした環境調整の基本的な考え方や方法は、201ページで述べている「認知障害に対する環境調整において考慮すべきポイント」と共通のものとなるので、そちらを参照されたい。 <引用・参考文献> 中根允文監修:ICD-10精神科診断ガイドブック.中山書店.2013 American Psychiatric Association(米国精神医学会)・日本精神神経学会監修ほか:DSM-W-TR精神疾患の分類と診断の手引.医学書院.2002 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:精神障害者に対する職業訓練の実践研究報告書.2010 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:リワークプログラムとその支援技法―在職精神障害者の職場復帰支援プログラムの試行について―(実践報告書No.12).2004 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集―ジョブデザイン・サポートプログラムの開発―(実践報告書No.15).2005 エドガー・シャイン著・金井壽宏訳:キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう.白桃書房.2003 エドガー・シャイン著・金井壽宏訳:キャリア・サバイバル 職務と役割の戦略的プランニング.白桃書房.2003 大野裕:心が晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳.創元社.2003 デニス・グリーンバーガー・クリスティーン・A・パデスキー著・大野裕監訳ほか:うつと不安の認知療法練習帳.創元社.2001 金井壽宏編著:会社と個人を元気にする キャリア・カウンセリング.日本経済新聞出版社.2003 菅沼憲治:セルフアサーショントレーニング.東京図書.2008 第4項 発達障害 1)発達障害の概要  @ 発達障害とは  「発達障害」とは、発達障害者支援法における定義では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」である。  発達障害は、医学の診断では、知的障害や脳性まひ等も含め、発達期におこる様々な障害を包括する概念である。しかし、発達障害者支援法では、知的障害者福祉法や身体障害者福祉法では対応できない発達障害を対象としている。したがって、発達障害者支援法が定義する「発達障害」であって知的障害を伴う場合は、両法の対象となる。  発達障害の医学的診断基準としては、アメリカ精神医学会のDSM-W -TR1)や世界保健機構(WHO)の ICD-11があり、診断名毎に症状や特性が示されている。ただし、症状や特性が診断名どおりに明確に区分されず重複することも多い。また、医学用語や教育用語における名称や定義に違いがあることや、専門医の診断体制が整備途上であるほか、成長とともに症状や特性が変化することもあり、診断した専門機関や診断時期によって異なった障害名(診断名)がつけられる場合もある。図4は、それぞれの障害の関係を示したものである。  なお、発達障害は中枢神経系の障害から生ずるとされており、しつけや環境、本人の怠けや性格による問題とは無関係である。脳の損傷部位や損傷時期などは明確ではない。 【参考:発達障害と知的障害】  発達障害とは、知的機能や発達に「遅れ」や「偏り」があることを表す。知的障害は、特に重度である場合は、知的機能や発達の「全般的な遅れ」 を示す。知的機能や発達の「偏り」とは、全般的な遅れとは異なり、認知や行動面の一部の領域に発達の遅れが見られたり、得意不得意の差が大きかったり、情報処理の仕方や物事の感じ方、理解の仕方に一般とは異なる質的なゆがみのあることを示す。  「発達障害」は、知的障害を伴わない場合、伴ったとしても知的障害の程度が軽度な場合、知的障害を伴う場合に分けられる。知的障害を伴う人も多いとされる自閉症などの広汎性発達障害では、知的な障害がない場合(おおむね IQ85以上とされるが、IQ70〜75の知的ボーダー層を含めることもある。)を高機能自閉症、高機能広汎性発達障害などと呼んで区別することがある。なお、「軽度発達障害」という用語が用いられる場合があるが、これは、発達障害の程度を示すものではなく、知的障害のない発達障害を総称するものとして使われている。  A 発達障害の特性  自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害/自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害について説明する。   イ.自閉症  自閉症とは「社会性」「コミュニケーション」「想像力」の3つの領域について発達の偏りがある障害である。これは、自閉症の3つの特徴と言われる。ただし、現れ方や程度は人それぞれとなる。  3つの特徴の他、視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚における過敏・鈍感といった感覚の障害や、靴のひもが結べない、スキップや縄跳びができないなどの不器用さが見られるほか、集中が困難で妨害刺激の影響を受けやすい、多くの刺激の中から必要な刺激を選択できないといった注意障害が特徴として見られる場合がある。  これらの障害は、本人も周囲も気付かないうちにストレスや能率低下の原因となり、職業生活に影響を与えることもある。このため、一人ひとりの障害状況を確認し、不要な感覚刺激を取り除く、苦手な部分をカバーする代償手段を用意するなど、必要に応じて環境調整や配慮が求められる。 【自閉症の3つの特徴】 (1)社会性(社会的相互作用)の障害  他者への関心や関わり方など、社会的関係や対人関係を築き維持する上で困難性がある。 人との関わりに興味を示さない。 人と関わる場合、対人的な距離が適切にとれず、近すぎたり、距離を取りすぎるため、一方的で奇異な印象がある。 集団行動が難しい。 他者の考えや視点、信念、感情のくみ取りや理解、共有が難しい。 その場の空気が読めない。 明文化していないルール、暗黙の了解や常識を直感的に理解することができない。 社会的行動や社会的階層の理解が難しい。 よって、自己中心的、無頓着に見えることがある。 など (2)コミュニケーションの障害  言語の発達に遅れや完全な欠如が見られる場合や、独語やオウム返しなど独特な言語が見られる場合、言語の理解や使用において不自然さや不適切さが見られる場合などがある。 声量の調整などが難しい。常に大声で話すか小声で話す、早口、一本調子で話す、漫画のキャラクターやアナウンサーの口調で話す。 相手の言ったことをそのまま繰り返すオウム返しや、駅のアナウンスやCMの台詞を独りで繰り返す独語が見られる。 同じ質問を繰り返す、特定の話題ばかり話す、必要以上に事細かに話す、話題が急に飛ぶなど一方的に話し、相手に応じた会話のやり取りが難しい。 丁寧すぎる敬語や、逆に馴れ馴れしすぎるなど、場に応じた会話が困難。 表情、身ぶりなどの非言語コミュニケーションの理解や使用が難しく、微妙なボディランゲージやイントネーションから相手の意図が読めない。 言い回しや比喩、たとえ話や冗談がわからない。  あいまいな表現がわからない。他者の発言を字義どおりに受け取る。 話の流れや文脈の理解が難しい。話の切り上げ方がわからない。  間の取り方が分からない。 1対1の状況ならなんとか応答できても、複数の人が含まれると対処できない。 など (3)想像力の障害  行動や興味、思考に広がりがなかったり、反復的で常同的なパターンを示す場合がある。 身体を揺らしたり、手をぱたぱたさせたり、同じ動作を繰り返し行うなど、常同的で反復的な衒奇的運動が見られる。 同じ服を着続ける、同じ物を執拗に収集するなど、遊びや生活習慣に執着や儀式的行動が見られる。 一定の手順にこだわり、場所や時間、手順・道順などを変更できない。  予定の変更を受け入れがたく、手順やパターンが崩れると混乱する。 予期せぬことが起こるとどうしてよいか分からなくなり、パニックになる。規則に厳格過ぎて融通が利かない。臨機応変の対応ができない。 興味、関心の幅が狭い。興味のあることには集中する一方、興味のないことには極端な無関心を示す。 部分や細部へのこだわりがある一方、全体的なパターンをつかんだり、まとめ上げることが苦手。 単純に記憶を積み重ねる学習や正確で論理的なことは得意であるが、応用や抽象的で曖昧なことの理解が苦手。 など   ロ.アスペルガー症候群  知的発達に明らかな遅れがなく、自閉症の3つの特徴のうち言語発達の遅れがあまり見られない場合は、アスペルガー症候群とされる。ただ、言語発達に著しい遅れはなくても、杓子定規的な文法どおりの話し方が見られたり、理屈や事実関係にこだわって話が細かすぎたり、感情表現や言外の意味を読み取ることが難しいなど、言語使用には特徴や障害がある。   ハ.広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)/     自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)  DSM-Wでは「広汎性発達障害(PDD)」として、「自閉性障害」、「アスペルガー障害」、「レット症候群」、「小児崩壊性障害」等が挙げられていたが、2013年5月に改定されたDSM-52)では、 「広汎性発達障害」が「自閉症スペクトラム障害」に変更されている。  従来の、「自閉症スペクトラム」という概念は、自閉症の3つの特徴を持つ人々を、自閉症やアスペルガー症候群などと分類するのではなく、特徴の現れ方や程度により濃淡のある連続体として捉えたもので、障害分類や健常との境目が明確にないという考え方を指していた。今回規定された「自閉症スペクトラム障害」でも、この考え方を踏まえつつも、これまで「広汎性発達障害」に分類されていた、レット症候群は、遺伝子異常であることの判明や、正常な発達後に退行が起こること等の事由により「自閉症スペクトラム障害」の分類から除かれ、自閉性障害、アスペルガー障害、その他の特定不能の広汎性発達障害などの広汎性発達障害の概念を再統合した。また、「自閉症スペクトラム障害」は、@社会コミュニケーション及び対人的相互作用に係る問題、A行動、関心、活動の限局的、反復的な特徴に係る問題(活動や興味の範囲の著しい制限・変化への抵抗等に係る問題)の2基準で定義されており、従来の対人関係障害として「社会性」として表記されていた特徴と、「コミュニケーション」に係る特徴が一つにまとめられており、Aの行動、関心、活動の限局的、反復的な特徴に係る問題については、感覚の過敏性、鈍麻性の特徴、環境の感覚的側面に係る興味が、下位分類に加えられている。  なお、ICD-10においては「広汎性発達障害」として、「小児自閉症〔自閉症〕」や「レット症候群」、「他の小児期崩壊性障害」、「アスペルガー症候群」等が挙げられている。   ニ.学習障害(LD:Learning Disorders、Learning Disabilities)  学習障害は、一般的には、全般的な知的発達の遅れがないにも関わらず、読み書き能力や計算能力などの学習面の能力に限定的な障害やアンバランスさが見られることを指す。しかし、学習障害という用語は、医学用語(Learning Disorders)や教育用語(Learning Disabilities)として、あるいは日常場面で用いられる際には異なった意味で用いられることがある。学校においては、勉強においてつまずきや遅れのある場合を幅広く含むことがあり、医学においては、医学的な診断基準による障害に限定している。  発達障害としての学習障害は、様々な様相を示すことが多く、広汎性発達障害や注意欠陥多動性障害など他の障害や、それらの障害特性と重複する場合もある。学習障害は概念として幅広いことや、発達による変動が大きい児童・生徒が対象になることが多いため、他の障害との重複や境界の判断が難しいとも言われる。  DSM-Wでは、学習障害を「読字障害」「算数障害」「書字表出障害」の3領域の単独の障害、もしくはその重複に限定している。 【DSM-Wにおける診断基準】  「読字障害」「算数障害」「書字表出障害」の3つの障害それぞれについて、その診断基準は、次のとおりとされる。 A.個別施行による標準化検査で測定された能力が、その人の生活年齢、測定された知能、年齢相応の教育の程度に応じて期待されるものより十分に低い。 B.基準Aによるそれぞれの障害が、それぞれの能力を必要とする学業成績や日常の活動を著明に妨害している。 C. 感覚器の欠陥が存在する場合、それぞれの能力の困難は通常それに伴うものより過剰である。   ホ.注意欠陥多動性障害     (ADHD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)  注意欠陥多動性障害(ADHD)は、ケアレスミスが多い、注意散漫といった「不注意」、落ち着きがなく動き回る、じっとしていられないといった「多動性」、せっかち、後先を考えずに突然飛び出してしまうといった「衝動性」を主な特徴とする発達障害である。診断基準としては、主にDSM-WやICD-10が用いられるが、その基準は、客観的な生物学的特徴や医学的検査ではなく、行動観察や面談を通じた情報に基づく状態の臨床的な判断による。ADHDの正確な原因は不明であり、行動をコントロールするための抑制力や集中力、計画力、動機づけなどを司る前頭葉などの中枢神経系に機能不全があるとされている。  ADHDには、不注意の特性が強い「不注意優勢型」、多動や衝動性の特性が強い「多動性─衝動性優勢型」、両方の特性が混合した「混合型」の3つのタイプがある。ただ、成長すると見かけ上の多動性は減少することが多いなど、年齢や発達、環境により特性は変化する。自閉症やアスペルガー症候群などの特性と重複している場合には、自閉症を優先診断する考え方が提唱されているが、実際には重複診断されることも多い。また、幼少時の診断がADHDであっても、成人してから広汎性発達障害と診断名が変更されたり、合併症として診断名が追加される場合もある。 【DSM-Wにおける診断基準】  「不注意」もしくは「多動性─衝動性」の症状のうち、6項目以上が少なくとも6か月以上持続したことがあり、その程度が発達の水準に相応しない不適応的である場合に診断される。 (1)不注意  学業、仕事またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な過ちをおかす。  課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。  直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える。  しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動、または指示を理解できないためではなく)。  課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。  (学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。  課題や活動に必要なもの(例:おもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、または道具)をしばしばなくす。  しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。  しばしば毎日の活動を忘れてしまう。 (2)多動性─衝動性 <多動性>  しばしば手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする。  しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。  しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり、高い所へ上ったりする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかもしれない)。  しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。  しばしば“じっとしていない”、またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する。  しばしばしゃべりすぎる。 <衝動性>  しばしば質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう。  しばしば順番を待つことが困難である。  しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話やゲームに干渉する)。  ただし、以下の場合に対象となることとされる。 ・多動性─衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳以前に存在し、障害を引き起こしていること。 ・これらの症状による障害が2つ以上の状況〔例:学校(または職場)と家庭〕において存在すること。 ・社会的、学業的、または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならないこと。 ・その症状は広汎性発達障害、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安障害、解離性障害、または人格障害)では上手く説明されないこと。 ※発症時期について、DSM-Wでは7歳以前に診断基準が置かれていたが、DSM-5においては、より集団的行動を要求されることの多くなる12歳に発症時期が引き上げられた。また、以前の児童期の行動特性を主体に作成されていることから、児童期には6項目以上該当すれば診断が下されるが、17歳以上の青年、成人の対象者では、5項目で診断基準を満たすものとされている。  上記に示したものが発達障害となるが、これらの一次障害が要因となり、自信や意欲の低下、情緒不安定などの不適応的な反応や行動が二次障害として顕在化する場合がある。認知のアンバランスや、社会性・コミュニケーション上の障害は、目に見えない複雑な仕組みや法則により成り立つ社会や、同調・同質を要求する集団生活、効率性や計画性を追求する課題遂行場面においては、様々な軋轢や失敗の原因となる。しばしば発達障害のある人は、叱責や批判の対象となり、また、行動の特異性から、友達ができない、いじめの対象となるなど社会的に孤立しやすくなる。失敗体験や傷つき体験を積み重ねるうちに、人の批判に過敏となったり、びくびくしたり、自信喪失や劣等感、疎外感、不安感に苦しむ人も多い。否定的な過去の記憶や被害感が鮮明によみがえるフラッシュバックと言われる症状が生じ、嫌な過去からなかなか抜けられない人もいる。  引き起こされる二次障害として、抑うつや強迫性障害、パニック障害、不登校、引きこもり、逸脱行動などがある。全ての人に二次障害が発生するわけではないが、発達障害のある人には、日常生活を普通に営むことにも生きにくさと苦痛があることを充分に理解することが、支援を行ううえで重要である。  B 雇用対策上の位置付け  発達障害者は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に規定する職業リハビリテーションの措置の対象である<同法第2条第1号「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第6号において同じ)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」>。  療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の対象でない発達障害者に適用される制度としては、ハローワークにおけるトライアル雇用や特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)、職場適応援助者(ジョブコーチ)による援助などがある。なお、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の対象となる場合、あるいは、地域障害者職業センターにおける知的障害者判定を受けた場合は、法定雇用率やその他の雇用援助制度の対象となる。  発達障害者であることの確認は、都道府県障害福祉主管課、精神保健福祉センターまたは発達障害者支援センターが紹介する「発達障害に関する専門医」による診断書によることとされる。なお、過去において、児童相談所その他の療育相談等を行う公的機関を利用したことがあり、発達障害者支援法施行(平成17年4月1日)以前に当該機関ないしは当該機関の紹介する医療機関において発達障害が認められるとの指摘を受けたことがある旨の申告があった場合についても、上記診断書による場合に準じて取り扱うこととされている(特定求職者雇用開発助成金〔発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース〕の適用については、医師の診断書または意見書が必要となる。)。 2)発達障害の職業的課題と支援のポイント  @ 発達障害の職業的課題  就職活動や職業生活には、多種多様な情報処理や効率的・効果的な課題遂行能力、社会性やコミュニケーション能力、臨機応変な柔軟性などが求められる。そのため、意欲や能力に関わらず、高等学校や大学を卒業し、就職の段階になって初めて困難さを目の当たりにし、支援の必要性を感じる人や家庭も少なくない。  発達障害の特性から、就職活動や職業生活において課題となる事項に次のようなことがある。 【就職活動における課題】 <自己理解における課題>  障害の自己理解が不十分。  自分の得意なことと不得意なことが整理されていない。  仕事の経験が少ないか偏っており、仕事のイメージがつかめていない。  企業が求める能力や資質が分からない。  向いている仕事が分からない。経験や能力に合わせた仕事の内容や労働条件のマッチングが分からない。  偏った職業選択や理想が高すぎる職業選択が見られる。 <知識やスキルにおける課題>  就職情報の読み方・使い方が分からない。  就職活動の仕方や段取りが分からない。  就職活動における失敗の理由と対処方法が分からない。  面接の受け方や履歴書の書き方など、就職活動の知識やスキルが不十分。  サービス機関や制度を上手く利用できない。 【職業生活の維持における課題】 <職務や作業について>  適切なスピードで作業することが苦手。  スピードは速いが、雑だったり、質を意識することが苦手。  一度に複数のことを指示されると混乱する。  言葉だけの指示では理解できなかったり、覚えられない。  抽象的な指示が理解できない。  指示が理解できなくても返事をすることがある。  仕事の優先順位が分からない。  ひとつの仕事をしながら、同時に別のことをこなすことが難しい。  作業の手順、段取りを自分で考えることが苦手。  指示とは異なる勝手な判断基準で作業をしてしまう。  自分のやり方に固執し、修正を受け入れられない。  仕事の量や時間などの見通しが持てないと不安に感じる。  急な変更等があると混乱する。 <社会性・コミュニケーション>  同僚、上司等、立場の違いに応じた敬語の使い分けなど、場面や立場を考慮した発言ができない。  ストレートに自己主張しすぎて、同僚や上司と衝突する。  人から注意されたとき、謝罪しない、言い訳するなど適切な対応ができない。  暗黙のルールなど、明文化されていないことが分からない。  割り当てられた自分の役割以外は、自分から行おうとしない。  休み時間と作業時間の区別が付きにくい。  分からないとき、困っているときなどに自ら助けを求めないか、求められない。  A 支援のポイント  発達障害とひと言でいっても、様々な障害名(診断名)やそれぞれの症状・特性の違い、その組合せや程度、現れ方、知的障害の有無・程度、二次障害の有無・程度、社会的・環境条件との相互作用などから、一人ひとりの障害像や様相は極めて多様となる。その中で、周囲の人間のみならず本人自身さえ、障害によるつまずきや課題を別の要因によるものと捉える場合も多く、障害が見過ごされ、適切な対応が先送りにされることがある。  したがって、発達障害に対する支援においては、発達障害の認知面・行動面の課題を、環境との関わりの中で個別に具体的に整理していくことが基本的なポイントとなる。  ポイントとなる事項をいくつか列挙する。   イ.本人、家族および支援者の障害に対する理解  支援を始めるに当たってはまず、適切な診断が行われていることが望まれる。また、発達障害としての認知面・行動面の課題を把握するためには、職業評価などのアセスメントが必要となる。これらは、障害の自己理解を進め、本人や家族、支援者が進路の方向性を見立てていくうえでも、就職活動や職場において必要な支援を周囲に具体的に求めていくうえでも、重要な土台となる。本人の状況や意思を尊重することを大前提として、発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなどの専門機関において診断や評価に関する相談を行ったり、地域障害者職業センターにおける職業評価の活用などを通じて、このプロセスを踏むことが望ましい。   ロ.きめ細かく、かつ、整理された、評価結果のフィードバックとその結果に基づく訓練  発達障害者の中には職業に関する経験が少なかったり偏る人も少なくない。そのため、まずは、個別面接、模擬的な職場環境や集団場面での訓練、障害者委託訓練や実習制度を活用した職場体験など様々な機会を設け、自己理解や必要な知識・スキルの基盤を築く必要がある。また、その際には、課題の理解や対処方法の習得が一つひとつ積み重なるよう、ただ訓練や体験を積むだけではなく、進捗状況に応じて生じた具体的な課題に対するきめ細かなフィードバックが重要となる。  さらに、フィードバックに当たっては、様々な場面で生じた課題を目に見える形で整理分類し、体系化して示すことが必要である。発達障害者は、情報をまとめ上げたり、周囲の状況と照らし合わせて適切な選択をすることに困難があり、また、課題が多い場合には何から手を付けてよいのか分からず混乱してしまうことがある。個別の課題に名前を付け、カテゴリーに分け、優先順位に基づきターゲット化し、自分の問題として認識できるようにし、その課題毎にどのように行動することが適切か選択肢を示していかなければならない。  また、相談やフィードバックの方法として、内容のポイントを絞って書いてまとめる、図にする、あらかじめ整理したテキストや振返りのチェックシートを活用する等の工夫も求められる。図5は「指示に従う」という課題とその対処方法を学ぶためのテキストの例である。このような相談のための支援ツールや、職業生活に必要な知識・スキルを身につけるための訓練技法が開発されているので、参考にすることができる。 図5 指示に従う3) 【就職支援ガイドブック…発達障害のあるあなたに…】4) ※参考文献および資料参照  就職活動中の発達障害者向けに作成されたガイドブック。就職活動の手がかりやヒント、自分にあったサービスの利用方法に関する理解の促進を目的としている。就職活動における自分の課題を分析したり、考えをまとめたりする際に利用できる11種類のチェックシートが掲載されている。 【職業リハビリテーションのためのワーク・チャレンジ・プログラム ─教材集─】3)※参考文献および資料参照  発達障害者の職業上の課題への対応を目的として、職場の基本的なルールを明示し、また、誤った理解をしている対象者の背景にある考え方などについて検討するためのワークシートや、学習された知識の行動化を確認するための作業遂行課題等によって構成されている。 【ワークシステム・サポートプログラム】※資料参照  発達障害のある人に対する就職に向けた技能トレーニングの支援技法。グループワークや作業訓練、個別相談を相互に組み合わせた職業的自立のために必要なスキルを身につけるための支援である。グループワークで習得するスキルには、職場対人スキル、問題解決スキル、リラクゼーションスキル、マニュアル作成スキルなどがある。  プログラムの中には、発達障害のある人自身が、思考や行動の特徴、障害特性や職業上の課題、就職希望条件、企業に配慮を依頼すること(職場環境の調整方法等)を取りまとめる「ナビゲーションブック」の作成や活用方法の習得も含まれる。   ハ.職場環境の調整  発達障害者に対する就業支援においては、企業に対し障害特性の理解を求めるとともに、必要な環境調整を実施することが不可欠となる。環境調整や人的な配慮を行うことにより、障害による課題に対する訓練のみに着目するよりも、苦手な部分が無理なく代償されたり、得意な部分を活かし高い能力を発揮できるようになることが多い。発達障害のある人のために明文化されないルールやノウハウを明確化したり、環境の構造化をすることで、職場における曖昧さがなくなり、職場全体の仕事のしやすさが改善するなど、障害者だけでなく、他の従業員のメリットにつながることも少なくない。  英国自閉症協会が企業向けに作成したガイドブック「アスペルガー症候群の人を雇用するために―英国自閉症協会による実践ガイド―」5)では、企業がアスペルガー症候群の人を雇用し、雇用管理において成功するために企業が行うべき配慮や調整を紹介している。また、事業主向けリーフレット「発達障害について理解するために―事業主の方へ―」6)では、職業生活の様々な場面で想定される課題と解決法についてわかりやすく解説されている。シンプルでわかりやすいガイドブックであるので、企業に対して発達障害のガイダンスを行ううえで参考となる。また、厚生労働省による「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」7)では、職場で起こりがちな課題別に、明文化や構造化といった手法に基づく環境設定や指導方法を紹介している。  「アスペルガー症候群の人を雇用するために―英国自閉症協会による実践ガイド―」に示されている雇用管理のノウハウをいくつか紹介する。 【アスペルガー症候群の人を雇用するために 抜粋引用】 <コミュニケーションを成功させるためのヒント> @仮定は避けて  「常識」があると仮定せず、段階毎に作業のプロセスを伝達すること。 A直接的に  間接的に物事を依頼せず、直接的な指示の方が理解が容易である。 B正確に 指示や説明を行う際は、明確かつ具体的に、何が要求されているかを正確に言うこと。 C比喩は避けて  発言を字義通り解釈する特徴があることに注意すること。 D詳細情報を豊富に ある事項を一般化するまでに大量の情報が必要となるために、作業や情報について詳細に書き出すこと。 E敬意を表して  一人の個人、大人として常に尊敬されるべき存在であること。 F書き出すこと 口答指示は書面で補足することが望ましい。 能力に応じて絵や記号を使用すること。 G理解度のチェック 指示内容の復唱や一定期間の指示の補強により、理解度をチェックすること。 <作業設定のためのチェックリスト>  作業設定の際には、管理者は次のことを心がけるべきです。  作業の目的を説明する。  作業工程の各ステップを説明する。  求められている成果または最終製品を示す。  求められている結果の質を伝達する。  完了までの時間枠を設定する。  指示が理解されたかどうか確認する。 <管理者のためのチェックリスト>  アスペルガー症候群の従業員に、仕事で良い実績を上げる最高のチャンスを与えるためには、  行動のルールを明確にすること  構造化された方法で新たな作業を導入すること  書面による指示や視覚化された指示を使うこと  チェックリストと、1日か1週間の予定表を提供すること  職場で変更が行われた場合は、説明を準備すること  最初は密接に指示すること  頻繁かつ即座にフィードバックを与えること  本人とのやり取りにおいて一貫性のある関わりを維持すること <引用文献> 1)米国精神医学会:DSM-W-TR 精神疾患の分類と診断の手引き.医学書院.2002 2)米国精神医学会:Desk Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-5.2013 3)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:職業リハビリテーションのためのワーク・チャレンジ・プログラム(試案)─教材集─(各種教材、ツール、マニュアル等No.23).2008 4)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:就職支援ガイドブック …発達障害のあるあなたに…(各種教材、ツール、マニュアル等No.24).2008 5)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:"第5章成功する管理 ".アスペルガー症候群の人を雇用するために ―英国自閉症協会による実践ガイド―(支援マニュアルNo.3).2008.P43-57 6)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:"発達障害について理解するために―事業主の方へ―".発達障害を理解するために2―就労支援者のためのハンドブックー(支援マニュアル No.7)付属リーフレット.2012 7)厚生労働省:発達障害のある人の雇用管理マニュアル.2006 <参考文献> 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:2019年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト.2019 米国精神医学会:Desk Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-5.2013 日本発達障害学会:"DSM-5導入のもたらす影響".発達障害研究(Vol.35,No.3).2013.P197-203 厚生労働省:発達障害のある人の雇用管理マニュアル.2006 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:発達障害を理解するために ―支援者のためのQ&A―(実践報告書No.14).2005 全国 LD親の会:LD、ADHD、高機能自閉症とは? ─特別な教育的ニーズを持つ子供達─.2004 融道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗 監訳:ICD-10 精神および行動の障害の障害臨床記述と診断のガイドライン(新訂版).医学書院.2005 第5項 難病  従来から、難病を原因とした身体障害者や精神障害者は雇用対策上の障害者として認定されてきたところである。しかし、そのような認定がない場合であっても、難病の特性によって体調が変動することにより、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難となる場合がある。したがって、障害者雇用率制度が適用されない場合でも、無理なく活躍できる仕事内容や職場環境、また本人スキルの向上等を含む、職業リハビリテーションによる難病患者の就業支援が重要となっている。 1)難病による障害とは  平成27年1月の「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」の施行により、国をあげて難病の治療研究を進めるとともに、患者の医療費負担の軽減と、患者が治療を継続しながらも社会参加できるような総合的支援を進めることとされている。  従来、国の難病医療費助成の対象疾患は 56疾患に限定されていたが、一部の重症患者を除き、多くの患者は通院・服薬等の治療を続けながらも特に介護等は必要とせず、日常生活自立が可能な、生産年齢にある難病患者は 40万人を超えていた。平成 27年1月の難病法の施行により新たな医療費助成制度が確立されてから、その対象疾患は順次拡大され、令和3年11月からは338疾患が「指定難病」となり、さらに、安定した最新の治療を受け、日常の自己管理や服薬、通院等を続けながら、就労を含む社会参加が可能な人たちの増加が見込まれる。  従来の障害認定では症状の固定した後遺症や永続する障害のみを認定することが多いが、難病患者では必ずしもそれに該当しない障害状況が見られる。「難病」というと一般的な先入観として重篤な障害を想像しやすいが、障害認定のない難病患者の多くは、むしろ通常は健常者と変わらず生活し、外見からでは難病患者とは分からないことが多い。ただし、体調が崩れやすいことから、就職はできても、その後の治療と仕事の両立に苦労し、就業継続が困難となっていることが多い。  @ 障害認定はないが職業生活上の困難がある難病患者  例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病のような腸が炎症を起こす病気では、従来は炎症部分を切除し、人工肛門をつけたり、チューブや点滴による栄養摂取を必要とする状態になった時点で障害認定されるが、現在では、そこまで悪化する前に服薬等で症状が抑えられるようになっている。しかし、それでも完治には至っていないために、症状の変動があったり、腹痛や下痢を経験しやすかったり、体調管理上の配慮が必要であったりする。  あるいは、進行すれば様々な身体障害の原因となる病気(多発性硬化症、膠原病等)でも、適切な治療や業務上の配慮等によって障害の進行を一定程度予防することが可能である。しかし、そのような配慮は、身体障害の認定対象となるより以前から必要となる。また、障害の進行を遅らせる治療にもかかわらず、多くの患者は疲労感や体の各部の痛みを経験している。また、治療薬の多くは劇薬であり、その副作用による症状も大きい。  その他、HIVを原因としない先天性の免疫機能障害、筋肉の疲れやすさ、ホルモン調整の異常、等々、従来の身体障害認定基準には該当しない様々な「その他の心身の機能の障害」があるために、職業生活上の困難がありながら、障害認定はないという難病患者が存在する。  A 障害認定のある難病患者  身体障害者等として認定されている障害者において、その原因疾患が難病である場合も多い。そのような場合、従来の固定された障害の理解以外に、難病の病気としての特性が職業生活に影響することがある。  視覚障害の原因疾患として網膜色素変性症やベーチェット病があり、働き盛りでの発病や進行性が問題となる。また、パーキンソン病は、症状を一時的に抑える特効薬があり、薬が効いているときには健常者と全く変わらないのに、数時間で薬効が切れると体を動かせなくなるという極端な身体障害が進行することや服薬によって劇的に症状が改善するが、その効果が数時間しか持続しないといった「ON-OFF症状」という特徴があり、職業への影響がある。関節の炎症が原因となって身体障害がある場合では、内臓の疾患の合併や関節等の痛み、疲れやすさ等の症状も仕事に影響しうる。多くの難病は様々な身体障害の原因となるが、脳血管疾患であるもやもや病の場合は精神障害の認定になることも多い。 2)病気や必要な配慮についての職場への開示の困難  企業は難病の治療の現状等の理解が不十分なことが多く、安全配慮上の「病者の就業禁止」規定等により、必要以上に難病患者の雇用に対して慎重になる傾向がある。それに対応して、外見からは病気や障害のことが分かりにくい難病患者は就職面接等であえて病気や必要な配慮についての説明を避ける傾向もある。しかし、病気を隠して就職できても、職場の理解や配慮のない状態での雇用は、難病患者にとってストレスとなりやすく、また、過労等により体調悪化が起こっても早めの通院ができないなど、治療と仕事の両立のための大きな問題となり、体調悪化から入院、退職となる例も多い。  したがって、外見からは分かりにくく、病気を隠せば就職はできるような一見職業上の問題が少ないと思われるような難病患者であっても、就職活動で病気の説明をすれば雇用されず、一方、病気を隠して就職すれば就業継続できず、というジレンマを抱えて長期の就業困難となり、体調悪化や生活困窮の悪循環に陥る危険性が高くなっている。 3)難病患者に対する就業支援  難病の症状の程度は多様であり、障害者雇用率制度の適用となる場合だけでなく、特に、体調変動により健常者と障害者の支援制度の谷間で、治療と仕事の両立の課題を有しながら従来孤立無援となりやすかった、難病患者に対する専門的な就業支援が必要である。具体的には、無理なく能力を発揮できる仕事への丁寧なマッチングや、職場での理解や配慮の確保、疾患自己管理や職場での対処スキルについての就業支援が重要になる。  @ 無理なく能力を発揮できる仕事  難病患者にとって無理のない仕事とは、具体的には、デスクワーク等の身体的負荷が少なく休憩が比較的柔軟にとりやすい仕事、あるいは、パート等の短時間で通院や疲労回復がしやすい仕事など、一般的な仕事が多い。一方で、立ち作業、労務作業、流れ作業等、身体的負荷が大きい仕事や、休憩や通院がしにくい時間拘束力の強い仕事等は続けにくいことが多い。  各人の症状等の特性を踏まえることはもちろん、その一方で、本人の職業能力や興味分野に適した仕事へのマッチングにより、障害者求人にこだわらず、一般求人にも範囲を広げ、難病患者であっても職業人としてアピールできる職業紹介につなげることが重要である。中途障害により、これまでの仕事を続けることが困難になった場合、パソコン等の職業訓練や資格取得によるデスクワーク等への職種転換も効果的な選択肢である。医療と労働の両面からの支援を促進するため、難病患者就職サポーターがハローワークに配置されているので活用されたい。  A 職場の理解と配慮の確保  「難病患者を働かせても安全配慮上の責任は大丈夫か」という企業側の懸念に対して、本人や担当医等に確認していくことが重要である。実際には、無理のない仕事へのマッチングさえできていれば、月1回程度の通院や体調に合わせた業務調整等の配慮があれば健康上も安全上も問題なく雇用が可能なことが多い。就職活動時に、企業の理解を進めるため、トライアル雇用等を活用して本採用前に確認できる機会を設けることも効果的である。身体障害等がある場合は、それぞれの設備改善等が必要である。障害者手帳のない場合についての企業側への助成措置としては、特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)が適用される場合があり、ハローワークと相談することが必要である。  就職後には、本人や、必要に応じて担当医等ともよくコミュニケーションをとって、症状の特性を踏まえながらも、本人が能力を発揮できるような職場での業務調整等を行うことが重要である。一方的な配置転換や業務軽減はかえって、本人の満足度を著しく低下させ離職の原因となりやすい。  また、入院等により休職しても数か月で体調が回復し復職可能な場合が多い。治療の見通しを担当医から確認し、休職と復職の支援により性急な退職を防止することが重要である。要件を満たす場合は、障害者職場復帰支援助成金の活用が可能である。  B 疾患自己管理と職場での対処スキル  治療と仕事を両立した就業継続のためには、本人の日常生活上の疾患の自己管理意識が重要であるとともに、体調変化や入院等による休職のリスクを踏まえた仕事の進め方や、同僚との協力や調整についてのスキルや高い意識が重要となる。地域の保健医療機関と連携して、就労している同病者の経験から学ぶ等の機会をつくる等の支援も重要になると考えられる。 第2節 障害者雇用に関する制度の概要  障害者の雇入れを進め、雇用された障害者が安心して働けるような環境を整えるために、障害者雇用に関係する各種制度が整備されている。就業支援に当たっては、こうした制度を効果的に活用すべきであろう。そのためには、障害者雇用に関する制度の概要や相談窓口の所在等は知っておくよう心がけたいものである。  ここでは、就業支援を行う者が最低限の知識として知っておくべき制度や関係法令のポイントを解説していきたい。各制度について、より詳細を知りたい方は271ページ以降に掲載されている資料などを参照いただきたい。また、各制度は、その効果や障害者雇用の状況などを踏まえて、改正、廃止などの見直しがなされるため、実際に活用する際には、念のため、最新の情報を確認することをお勧めする。 第1項 障害者の雇用の促進等に関する制度の概要  企業等での障害者の雇用を促進し、また、雇用されている障害者の職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」という。)が制定されている。この障害者雇用促進法に定められている制度等のうち、ここでは、「障害者雇用率制度」、「障害者雇用納付金制度」、「雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務」について、概要を説明する。  なお、令和4年12月に障害者雇用促進法の一部改正が盛り込まれた「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が成立した。障害者雇用促進法における「障害者雇用率」及び「障害者納付金制度」に関する主な改正事項は、特に短い労働時間(週所定労働時間10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者に対し、就労機会の拡大のため、実雇用率において算定できるようにすること等である。 (※改正概要をP250に掲載。) 1)障害者雇用率制度  障害者雇用促進法において、事業主は、雇用している労働者に占める対象障害者の数を「法定雇用率」以上としなければならない。この法定雇用率は、事業主の社会連帯の理念に基づいて、労働市場における一般労働者と同じ水準で障害者に雇用機会を保障しようという目的で設定されているものである。なお、同項における「対象障害者」は、身体障害者、知的障害者または精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者に限る。)をいう。  法定雇用率は、平成30年4月以降以下のとおり設定されており、令和3年3月1日から更に0.1%引き上げられた。 事業主区分 法定雇用率 令和3年2月まで 令和3年3月1日以降 民間企業 2.2%  → 2.3% 国、地方公共団体等 2.5%  → 2.6% 都道府県等の教育委員会 2.4%  → 2.5% ※また、短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)は0.5名の雇用とされるが、うち精神障害者で、雇入れから3年以内または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内かつ、令和5年3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した方は、短時間労働者であっても1名雇用しているとみなされる。  例えば、従業員数が 150名の企業であれば、従業員数に 2.3%を乗じると3.45名となり、法定雇用率を達成するためには、3名(1名未満は切り捨てる。)以上の対象障害者の雇用が求められることになる。  なお、法定雇用率は、各事業所単位ではなく企業全体について適用されることとなっているので、例えば店舗を全国展開している企業は、全国の店舗等で雇用している従業員の状況で、障害者雇用率を算定することになる。また、重度身体障害者または重度知的障害者は1名の雇用をもって2名の身体障害者または知的障害者を雇用しているものとみなす(ダブルカウント)措置が設けられている。  また、障害者雇用義務のある事業主は、毎年6月1日時点での障害者の雇用に関する状況をハローワークに報告しなければならない。障害者雇用状況報告、いわゆる「6/1(ロクイチ)報告」といわれるものである。ハローワークは、この報告に基づき、実際に雇用している障害者の数が法定雇用率に達していない企業に対しては、障害者雇入れ計画の作成を命ずるとともに、同計画が適正に実施されるよう勧告するなど段階的な「雇用率達成指導」を行い、障害者の雇用が着実に進むよう努めている。  近年、ハローワークは、雇用率達成指導を強化しており、これに伴い、企業の障害者雇用についての関心も高まっている。6/1(ロクイチ)報告の結果は、例年12月頃に厚生労働省から発表されているので、障害者雇用率の動向にも目を配っておきたい。 2)障害者雇用納付金制度  障害者雇用促進法においては、「障害者雇用納付金制度」も設けられている。これは、障害者の雇用により生じる作業設備や職場環境の改善などの経済的負担を考慮し、障害者の雇用に伴う事業主の経済的な負担のアンバランスを調整し、全体としての障害者雇用の水準を高めることを目的とした制度である。  これにより、法定雇用率の未達成企業(常用労働者100名を超える事業主に限る。)から「障害者雇用納付金」(法定雇用に不足する対象障害者1名当たり月額5万円)が徴収され、法定雇用率達成企業に対して、障害者雇用調整金、報奨金が支給されるほか、各種助成金が支給される。 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主 図1 障害者の生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の概要 出典)厚生労働省職業安定局 3)雇用の分野における障害者の差別の禁止及び合理的配慮の提供義務  障害者雇用促進法においては、事業主に対して、労働者の募集・採用や賃金の決定などの雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由とした障害者でない者との不当な差別的取扱い(障害者差別)を禁止している。また、障害者でない者との均等な機会の確保などを図るために、過重な負担にならない範囲で、障害特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備や援助を行う者の配置などの措置(合理的配慮の提供)を行うことを義務付けているほか、障害者からの苦情を自主的に解決することを努力義務化している。  なお、障害者差別及び合理的配慮の提供に関して、事業主と障害者が紛争となった場合は、紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告による紛争解決に向けた援助を受けることができる。 4)障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)  令和2年度から実施している、障害者の雇用の促進や安定に関する取組などの優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度である。  認定を受けることで、認定マークの利用や、ハローワーク等の周知広報の対象になるなど社会的なメリットを受けられることに加え、既に認定を受けた事業主の取組を地域における障害者雇用のロールモデルとして公表し、他社の参考となるよう厚生労働省から情報発信することを通じ、中小事業主全体で障害者雇用の取組が進展することを目的としている。 第2項 労働関係法令の基礎 1)働く人に適用される労働関係法令  社会には様々な仕事や働き方があるが、企業に雇用されて働く場合は、「労働者」として、労働関係の法令が適用される。  障害者が安心して自立した職業生活を続けるためには、適切な労働条件、労働環境が確保されていることも重要な要素である。ここでは、こうしたことを保障するために整備されている労働関係法令や制度のポイントを説明する。  労働基準法、労働契約法  労働基準法は、労働時間、時間外労働や休憩・休日などの労働条件について、その最低基準を定めた法律で、労働者を使用するすべての事業主(使用者)に適用される。労働契約法は、労働契約の締結、変更、終了など労働契約の基本的なルールを定めたものである。  ここでは、労働基準法、労働契約法の規定のうち、特に重要なものについて、一般的なケースに適用される原則を記載する。法令上は、例外や細部の規定もあるので、詳細は都道府県労働局のホームページなどにより確認いただきたい。また、相談窓口は、原則として労働者が働いている企業を管轄する労働基準監督署である。 ・労働者の概念  労働基準法が適用される労働者とは、@職業の種類を問わず、A事業または事務所に使用され、B賃金を支払われる者をいう(労働基準法第9条)。いわゆるパートやアルバイトなども労働者に含まれる。 ・労働条件の明示  労働者を採用するときには、事業主は、就業の場所、従事する業務、賃金、始業・終業の時刻、休憩時間、休日など主要な労働条件について、書面などで明示しなければならない。 ・解雇  解雇は、労働者の生活に関わる重大な問題であることから、労働基準法などにより、解雇制限などの事項が定められている。  客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないような解雇は、権利を濫用したものとして、無効とされる。  また、解雇をする場合には、少なくとも30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金を払わなければならない。  なお、障害者雇用促進法により、事業主は、障害者である労働者を解雇する場合には、その旨をハローワーク所長に届け出なければならない。 ・賃金の支払い  賃金(給料)の支払いには、次の5原則がある。  賃金は、「@通貨で、A全額を、B毎月1回以上、C一定期日に、D直接労働者に」支払わなければならない。 ・労働時間、休憩  労働時間は、休憩時間を除いて、原則として1日8時間、1週間40時間を超えてはならない。  また、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなければならない。なお、休憩時間については、「@労働時間の途中に与えること、A自由に利用させること、B一斉に与えること」とされている。 ・休日  休日は、少なくとも毎週1日か4週間に4日以上与えなければならない。このように法律で定められた休日を法定休日という。 ・時間外労働、時間外・休日・深夜労働の割増賃金  1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えた労働を法定時間外労働というが、法定時間外労働をさせる場合には、労使で協定を締結し、これを労働基準監督署長に届け出ることが必要である(労働基準法第36条に規定されていることから、この協定は一般に「36(サブロク)協定」といわれる。)。法定休日に労働させる法定休日労働についても、同様である。  また、労働者に法定時間外労働、深夜労働(原則午後 10時から午前5時まで)をさせた場合は2割5分以上、1か月 60時間を超える法定時間外労働をさせた場合は5割以上、法定休日労働をさせた場合は3割5分以上の割増賃金を払わなければならない。  なお、働き方改革により、平成31年4月1日から、法定時間外労働について原則月45時間、年360時間の上限規制が導入された(※中小企業は令和5年4月1日から適用)。 ・年次有給休暇  労働者が6か月以上継続勤務し、その6か月間の出勤率が8割以上の場合には、10労働日の年次有給休暇を与えなければならない。その後は、継続勤務年数1年ごとに、前1年間の出勤率が8割以上の場合に、1労働日(3年6か月以後は2労働日)を加算した有給休暇を総日数が20日になるまで与えなければならない。  なお、働き方改革により、平成31年4月1日から、10日以上の年次有給休暇のある労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要がある。  また、労働契約法については、労働者の労働条件が個別に決定、変更される事案が増加し、それに併せて、個別労働関係紛争が増加していたことが成立の背景にある。以前は、個別労働関係紛争については、民法などにより部分的に規定されているのみで、体系的な成文法が存在していなかったことから、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約の基本的な理念、労働契約に共通する原則、判例法理に沿った労働契約における権利義務規定を定めた労働契約法が平成20年3月から施行されるに至った。  なお、同法は平成24年8月10日に改正され、期間の定めのあるパート、アルバイト、派遣社員などの有期労働契約について、以下3つのルールが整備された。  1点目が、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換できること(平成25年4月1日施行)、2点目が、過去の最高裁判例で確立した、一定の場合には使用者による雇止めを無効とする「雇止め法理」が条文化されたこと(平成24年8月10日施行)、3点目が、同一の使用者と労働契約を締結している有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止する規定が設けられたことである(平成25年4月1日施行)。  最低賃金法  最低賃金法は、労働者を使用する事業主(使用者)が労働者に支払う賃金の最低金額を定めているもので、使用者はこの最低賃金以上の賃金を労働者に支払わなければならない。  最低賃金は、原則として、すべての労働者に適用される。ただし、都道府県労働局長の許可を受けることにより、@精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者、A試の使用期間の者(この場合の期間は14日以内)などについては、最低賃金の減額特例が認められる(最低賃金の適用除外は平成20年7月1日に廃止され、新たに減額特例制度が設けられた)。  パートタイム・有期雇用労働法  「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の略称。働き方改革の目玉の一つとして、従前の「パートタイム労働法」に有期雇用労働者も対象として加わり、同一企業内の正社員と非正規社員の間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されることとなった。令和2年4月1日(中小企業は令和3年4月1日)から施行。  社会保険制度  社会保険制度は、企業に雇用される労働者が、病気やけが、失業、老齢などにより働けなくなったときの生活を保障するための制度である。一般に、企業などでは、健康保険と厚生年金保険を「社会保険」、雇用保険と労働者災害補償保険(労災保険)を「労働保険」というが、ここでは、これらの4つの保険制度について概要を説明する。 ・健康保険  公的医療保険制度は、医療を受けたときに公的機関が医療費の一部負担をするという制度で、職業などにより加入する制度が異なる。企業に雇用される労働者は、健康保険に加入することとなる。健康保険には、主に中小企業が加入する全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)と主に大企業の健康保険組合が運営する組合管掌健康保険がある。保険料の負担は、協会けんぽの場合は企業と労働者の折半であり、組合管掌健康保険は各組合により、労使の負担率は異なっている。 ・厚生年金保険等  公的年金制度には、民間企業に勤務する労働者が加入する厚生年金保険、公務員などが加入する共済組合、自営業者などが加入する国民年金がある。民間企業に勤務する場合には、厚生年金保険に加入することとなる。これにより、本人の老齢や障害、死亡に対して保険給付が行われる。 ・雇用保険  雇用保険は、労働者が失業して新しい仕事を探すときに、再就職活動を支援するための失業等給付を行う制度である。支給期間や支給額は、失業した理由、雇用保険に加入していた期間や年齢などにより異なる。失業等給付に係る保険料は、企業と労働者が折半して負担するものとなっている。  失業等給付を受けるためには、退職するときに、企業から雇用保険被保険者離職票が交付されるので、これを労働者本人が自分の住所を管轄するハローワークに提出して手続きを行う。手続きができる期間が定められているので、解雇、自主退職を問わず、失業することとなった場合には、必要書類を整え、雇用保険の受給が可能かも含めて、早めにハローワークに相談することが望ましい。 ・労働者災害補償保険(労災保険)  労災保険は、労働者が業務上の事由や通勤による病気やけが、死亡した場合に、本人、遺族に対して必要な保険給付を行う制度である。企業で働く労働者は、働いている期間や職業、パート、アルバイトなどの雇用形態に関わらず、原則としてすべて労災保険が適用される。  仕事中にけがをしたときなどに保険給付を受けるためには、企業が所轄の労働基準監督署に給付の申請手続きをすることとなる。なお、保険料は全額企業が負担するものとなっている。なお、業務災害による障害が残存した場合(症状が固定化した)には、障害補償給付、通勤災害による場合には障害給付の制度が設けられており、一定の基準により障害等級に基づき、年金(障害等級1〜7級)又は一時金(障害等級8〜14級)が支給されることとなっている。また、社会復帰促進等事業として障害特別支給金、障害特別年金(一時金)制度が設けられている。 2)就業支援に当たって知っておくべき労働関係法令  就業支援は、仕事に就くことを希望する障害者と障害者を雇い入れることを希望する企業を結び付ける役割を果たすが、このように、求職者(職を求めている人)と求人者(雇い入れる人を求めている企業)の間に立つ者に関係する法令として、「職業安定法」や「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)」がある。これら法令に関して、就業支援に関わりがある事項について、以下に列挙する。  職業安定法 ・求人、求職の申込みを受け、両者の雇用関係の成立をあっせんする行為は「職業紹介」に該当する。 ・職業紹介の際に、手数料や報酬を得る場合は「有料職業紹介事業」となり、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。また、手数料等を一切受けない「無料職業紹介事業」についても、学校や地方自治体等を除いては、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。 ・許可なく職業紹介事業を行うことは、罰則の対象となる。  労働者派遣法 ・自社で雇用している従業員を、他の企業の指揮命令を受けて働かせる行為は「労働者派遣」に該当する。 ・労働者派遣事業を行う場合は、その形態に応じて、厚生労働大臣の許可が必要であり、許可がなく労働者派遣事業を行うことは、罰則の対象となる。 ・労働者派遣契約ではなく請負契約を締結していたとしても、実態が労働者派遣であれば、労働者派遣法が適用される。このようないわゆる「偽装請負」については、職業安定法、労働者派遣法に基づき、都道府県労働局が厳しく企業の指導を行っている。 第3項 障害者雇用に関する各種援助制度 1)障害者に対する援助制度  障害者の雇入れや雇用継続を推進するため、国において、障害者に対する各種援助制度が設けられている。  いずれの制度も、利用する際には、一定の要件を満たさなければならないので、事業主や障害者本人に利用を勧める前に、制度の詳細や要件に合致するかなどをハローワーク等に相談しておくことが望ましい。ここでは、令和4年11月末時点の主な制度を紹介する。  @ 障害者トライアル雇用  障害者を試行的に雇用(トライアル雇用)することにより、障害者の適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進すること等を通じて、障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的とした事業である。  障害者トライアル雇用の期間は、原則として3か月(精神障害者は最大12か月。ただし、助成金の支給対象期間は最大6か月間)で、事業主と対象障害者は、この間有期雇用契約を締結することとなる。障害者トライアル雇用終了後には、トライアル雇用した障害者1名につき月額最大40,000円(最長3か月間、精神障害者については雇入れから3か月間は月額最大80,000円)の助成金が事業主に支給される。  また、「障害者短時間トライアル雇用」が 平成25年度よりスタートし、直ちに週20時間以上勤務することが難しい精神障害者及び発達障害者について、3か月以上12か月以内の期間をかけながら常用雇用への移行を目指してトライアル雇用を行う事業主に対して、障害者1名につき月額最大40,000円(最長12か月間)の助成金が支給される。  令和2年度の実績は、6,759名が障害者トライアル雇用を開始し、障害者トライアル雇用終了者の81.4%がトライアル雇用を実施した企業に常用雇用されており、障害者の就職に効果を上げている。 【問い合わせ先:都道府県労働局、ハローワーク】  A 職場適応訓練  職場や作業への適応を容易にするため、障害者本人の能力に適した作業において一定期間の実地訓練を行い、訓練終了後に訓練を行った企業に引き続き雇用してもらおうという制度である。都道府県知事等が事業主に委託して実施する。  訓練期間は、6か月(中小企業および重度障害者は1年)以内とされている。委託した事業主に対しては、訓練生1名につき月額24,000円(重度障害者の場合は25,000円)の職場適応訓練費が支給され、訓練生に対しては、訓練手当(雇用保険の受給資格者等は雇用保険の失業等給付)が支給される。  また、障害者本人が実際に従事することとなる仕事を体験することにより、就業の自信を与え、企業に対して障害者の技能の程度や職場への適応性の有無を把握させることを目的とした職場実習を行う短期の職場適応訓練もある。職場実習の期間は、原則として2週間(重度障害者は4週間)以内で、事業主には訓練生1名につき日額960円(重度障害者は1,000円)の職場適応訓練費が支給され、訓練生には訓練手当(雇用保険の受給資格者等は雇用保険の失業等給付)が支給される。  職場適応訓練の申込みは、ハローワークが受け付ける。事業主の要件や手続きの詳細等は、ハローワークに相談されたい。 【問い合わせ先:都道府県労働局、ハローワーク】  B 公共職業訓練   イ.職業能力開発校(障害者職業能力開発校・職業能力開発校)  障害者職業能力開発校(全国で19校設置)においては、障害者を対象に、障害特性や訓練科目、訓練方法等に配慮しつつ、就職に必要な技能・ 知識を習得するための職業訓練を行っている。訓練期間は、訓練科目により異なるが、概ね1から2年となっており、訓練科目は各障害者職業能力開発校により異なる。  障害者職業能力開発校のない地域においては、一般の県立職業能力開発校を活用して、知的障害者や発達障害者等を対象とした訓練コースの設置が進められているほか、施設のバリアフリー化により、障害者の受講機会の拡充が図られている。 【問い合わせ先:ハローワーク、障害者職業能力開発校】   ロ.障害者の多様なニーズに対応した委託訓練  障害者を対象とした公共職業訓練として、各都道府県に障害者職業訓練コーディネーターを配置し、企業、民間教育訓練機関等に委託して実施されている。  訓練コースは、@民間教育訓練機関、社会福祉法人、NPO法人等を委託先として、就職の促進に資する知識・技能を習得するための「知識・技能習得訓練コース」、A企業等を委託先として、企業等の現場を活用した就職のための実践能力を習得するための「実践能力習得訓練コース」、B通所が困難な重度障害者等が在宅でIT技能等を習得するための「e-ラーニングコース」、C特別支援学校高等部等に在籍し内定を得られない生徒が在学中から実践的な職業能力の開発向上を目指すための「特別支援学校早期訓練コース」、D在職障害者が雇用継続に資する知識・技能を習得するための「在職者訓練コース」がある。なお、@「知識・技能習得訓練コース」については、座学及び実技による集合訓練及び集合訓練で習得した知識・技能の応用、定着を図るための職場実習を組み合わせて実施することも可能である(障害者向け日本版デュアルシステム)。  訓練期間・訓練時間は、原則3か月、月100時間を標準として、障害の様態に応じて柔軟に設定できる。また、委託先に対しては、職業訓練受講生1名につき原則月額60,000円又は90,000円を上限に委託料が支払われる。 【問い合わせ先:ハローワーク、職業能力開発校(委託訓練拠点校)】 2)企業に対する助成措置等  企業に対しては、経済的負担の軽減等のため、雇い入れた障害者の賃金に対する助成や講じた措置に対する助成措置等が設けられている。受給等のためには、対象となる要件を満たすほか、企業が申請期間内に適正な支給申請を行うことが必要である。支給要件や支給申請手続き等については、厚生労働省ホームページ、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページに詳細が記載されているので、確認いただきたい。また、企業が受給等を希望する場合は、企業自らが担当機関の窓口に早めに相談に行くことが望まれる。ここでは、令和4年11月末時点の主な制度を紹介する。  @ 特定求職者雇用開発助成金   イ.特定就職困難者コース  身体障害者、知的障害者または精神障害者等の就職が特に困難な求職者をハローワーク等の職業紹介により雇い入れた場合に、その賃金の一部に相当する額を一定期間助成する制度である。ハローワークを利用している企業には、比較的広く知られている制度で申請・支給件数も多い。  他の助成金と同様に、受給できる事業主には要件がある。助成期間を6か月ごとの支給対象期に区切り、支給対象期ごとに支給されることとなっており、事業主は支給対象期ごとの申請が必要となる。 【問い合わせ先:都道府県労働局、ハローワーク】   ロ.発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース  発達障害者または難病患者をハローワーク等の職業紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に、助成金を支給するものであり、発達障害者等の雇用を促進し職業生活上の課題を把握することを目的としている。  事業主は、雇い入れた者への配慮事項等を報告する必要がある。また、必要に応じて、雇入れから約6か月後にハローワーク職員等が職場訪問を行うものである。 【問い合わせ先:都道府県労働局、ハローワーク】  A 障害者雇用納付金制度に基づく助成金  障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、事業主等が障害者の雇用に当って、施設・設備の整備等や適切な雇用管理を図るための特別な措置を行わなければ、障害者の新規雇入れや雇用の継続が困難であると認められる場合に、これらの事業主等に対して予算の範囲内で助成金を支給することにより、その一時的な経済的負担を軽減し、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的とするものである。   イ.障害者作業施設設置等助成金  障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用している事業主が、その障害者が障害を克服し、作業を容易に行うことができるよう配慮された作業施設、就労を容易にするために配慮されたトイレ、スロープ等の附帯施設もしくは作業を容易にするために配慮された作業設備の設置または整備を行う場合に、その費用の一部を助成するものである。   ロ.障害者福祉施設設置等助成金  障害者を労働者として継続して雇用している事業主またはその事業主が加入している事業主の団体が、障害者である労働者の福祉の増進を図るため、障害特性による課題に配慮した休憩室、食堂等の福利厚生施設の設置または整備を行う場合に、その費用の一部を助成するものである。   ハ.障害者介助等助成金  障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用している事業主が、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成するものである。   二.職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を実施する事業主または法人に対して助成するものである。   ホ.重度障害者等通勤対策助成金  障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用する事業主または障害者を雇用している事業主を構成員とする事業主の団体が、障害者の障害特性による通勤等の課題を軽減または解消するための措置を行う場合にその費用の一部を助成するものである。   ヘ.重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金  障害者を労働者として多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主で、これらの障害者のために事業施設等の整備等を行い、モデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成するものである。 【問い合わせ先:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構都道府県支部】  B その他の助成措置  その他、地方自治体などが独自の助成措置を講じている場合もあるため、各地方自治体に問い合わせてみるとよい。  C 税制上の優遇措置  障害者を多数雇用する事業所については、租税特別措置法、所得税法、法人税法、地方税法により、税制上の優遇措置が設けられている。要件を満たす事業主は、申告により、機械等の割増償却措置、助成金の非課税措置、事業所税の軽減措置等の優遇措置が受けられる。 【問い合わせ先:税務署、市町村庁等】 第4項 障害者雇用を支援する機関 1)ハローワーク(公共職業安定所)  厚生労働省が設置し、就職を希望する障害者に対する職業相談・職業紹介や就職後の職場定着等の支援、企業に対する障害者雇用の指導・支援、障害者の雇入れに係る助成金の案内、支給等の業務を行っている。  職業相談においては、専門の職員を配置するなどきめ細かな相談を行っている。また、支援に当たっては、公共職業訓練のあっせん、トライアル雇用等の支援策を活用している。  障害者の就業支援に当たって、最も連携が必要となる機関であるので、日頃から、最寄りのハローワークの担当者との情報交換等を心掛けたい。 【ハローワークのサービスの効果的な活用については38ページ参照】  @障害者向けチーム支援  就職を希望する障害者に対し、ハローワークが中心となって、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校等(以下「関係機関」という。)とチームを設置し、障害者一人ひとりの職業準備性、職業能力等に応じて「障害者就労支援計画」を作成するとともに、同計画に基づき、就職に向けた準備から職場定着までの一連の支援を実施している(図1)。 出典)厚生労働省職業安定局 図1 障害者就労に向けたハローワークを中心とした「障害者向けチーム支援」  A企業向けチーム支援  障害者雇用の経験やノウハウが不足していることで障害者雇用に対する不安感があったり、具体的な進め方がわからず障害者雇用に踏み出せなかったりする障害者雇用ゼロ企業等に対し、ハローワークが中心となって、各関係機関と連携し、各企業の状況やニーズ等に応じて、求人ニーズに適合した求職者の開拓等の雇用に向けた準備段階から雇用後の職場定着までの一連の支援をきめ細かく行う「企業向けチーム支援」を実施している(図2(265ページ))。 出典)厚生労働省職業安定局 図2 障害者雇用ゼロ企業等を対象とした「企業向けチーム支援」  B福祉、教育、医療から雇用への移行推進事業  都道府県労働局において、企業と障害者やその保護者、就労支援機関・特別支援学校・大学・医療機関等の教職員等の企業での就労に対する不安感等を払拭させるとともに、企業での就労への理解促進を図るため、地域のニーズを踏まえて、「企業への就労理解の促進」「障害者に対する職場実習の推進」「企業と福祉分野の連携の促進」に関する取組を実施している。 2)障害者職業能力開発校  一般の公共職業能力開発施設での職業訓練が困難な障害者に対して、ハローワークや障害者職業センター等の関係機関と連携しながら、訓練科目、訓練方法等に配慮し、障害の態様等に応じた職業訓練を行っている。  全国19か所(国立13校、都道府県立6校)に設置され、国立13校のうち2校は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に、11校は都道府県に運営が委託されている。 3)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  障害者職業センターの設置および運営、障害者職業能力開発校(2校)の運営の他、障害者雇用納付金関係業務等を行っている。また、職業リハビリテーションサービスの中核的な機関として障害者職業総合センターを設置し、職業リハビリテーションに関する調査・研究、支援技法の開発、医療・福祉等の分野の職員等に対する研修等を実施している。  各都道府県に設置した地域障害者職業センターには、専門の研修を受けた障害者職業カウンセラーを配置し、下記の各種職業リハビリテーションサービスを実施している。  障害者、企業、支援機関に対して幅広い支援を行っており、支援に当たっての連携の他、支援の進め方や支援方法などの助言が必要な場合にも問い合わせるとよい。 【ホームページ参照:https://www.jeed.go.jp/】 【障害者に対するサービス】 職業評価・職業指導 職業準備支援 知的障害者判定・重度知的障害者判定 【障害者・企業双方に対するサービス】 ジョブコーチによる支援 精神障害者総合雇用支援(うつ病等により休職中である精神障害者の職場復帰支援など) 【企業に対するサービス】 障害者雇用の相談・情報提供、事業主支援計画に基づく体系的な支援 【地域の関係機関に対するサービス】 就労移行支援事業所などの関係機関に対する職業リハビリテーションに関する研修(就業支援基礎研修、就業支援実践研修など)、技術的な助言・援助等の実施 【ジョブコーチの養成・研修】 ジョブコーチ養成研修のうち、事業所での実習等を中心とした実技研修の実施 ジョブコーチ養成研修および同支援スキル向上研修の修了者を対象とした、職場適応援助に係る実践ノウハウの取得のためのサポート研修の実施  また、埼玉県にある国立職業リハビリテーションセンター、岡山県にある国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、障害者職業カウンセラーと職業訓練指導員が職業評価、職業指導、職業訓練等の職業リハビリテーションサービスを一体的に提供している。  職業訓練については、全国の広範な地域から、精神障害者、発達障害者等を含む職業訓練上特別な支援を要する障害者を重点的に受け入れ、先導的な職業訓練を実施するとともに、その成果を踏まえ、効果的な指導技法等を全国の障害者職業能力開発校等に広く普及している。 【国立職業リハビリテーションセンター:http://www.nvrcd.ac.jp/】 【国立吉備高原職業リハビリテーションセンター: https://www.kibireha.jeed.go.jp/】 4)障害者就業・生活支援センター  都道府県知事が指定する一般社団法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO)等が運営し、身近な地域で、障害者の就業とこれに伴う日常生活、社会生活上の相談・支援を一体的に実施している。  関係機関と連絡調整しながら、窓口での相談や、職場・家庭への訪問により、就職に向けた準備支援、職場定着に向けた支援などの就業面での支援及び生活習慣の形成や健康管理、金銭管理等の日常生活に関する助言等を行っている。 5)就労移行支援事業所  通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、@生産活動、職場体験等の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、A求職活動に関する支援、Bその適性に応じた職場の開拓、C就職後における職場への定着のために必要な相談等の支援を行う。(標準利用期間:2年※)  ※市町村審査会の個別審査を経て、必要性が認められた場合に限り、最大1年間の更新可能。 6)就労継続支援A型事業所  通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等の支援を行う。生産活動による収益から、利用者への賃金 (最低賃金法の適用を受ける)を支払う必要がある。(利用期間:制限なし) 7)就労継続支援B型事業所  通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援を行う。生産活動による収益から、利用者への工賃(月額平均 3,000円以上)を支払う必要がある。(利用期間:制限なし) 8)就労定着支援事業所  就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練(以下、「移行支援等」という。)の利用を経て、通常の事業所に新たに雇用され※、移行支援等の職場定着の義務・努力義務である6月を経過した者に対して、就労の継続を図るために、障害者を雇用した事業所、障害福祉サービス事業所、医療機関等との連絡調整、障害者が雇用されることに伴い生じる日常生活又は社会生活を営む上での各般の問題に関する相談、指導及び助言その他の必要な支援を行う。(利用期間:3年)  ※復職の場合も要件を満たせば対象となる。 9)発達障害者支援センター  発達障害者支援法に基づき、発達障害児(者)とその家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害児(者)とその家族からの様々な相談に応じ、指導と助言を行っている。 10)難病相談支援センター  地域で生活する難病患者等の療養・日常生活等に関する相談・支援・情報提供、地域交流会等の活動に対する支援、就労支援など、難病患者や家族のニーズに応じた支援を行っている。 11)地方自治体が独自に設置する就業支援機関等  都道府県や市町村など、地方自治体によっては、独自に障害者の就業支援や企業の障害者雇用の取組みへの支援を実施する機関を設置し、各種支援サービスを行っている。 コラムH   障害者雇用と就業支援の歴史    第二次世界大戦前の障害者に対する雇用対策や就業支援は、傷痍軍人に対する施策が中心であった。それ以外では、1923年に文部省令 「公共私立盲学校及び聾唖学校規程」が交付され、盲学校や聾唖学校において職業補導が行われたり、関東大震災後に発足した財団法人同潤会が震災で受障した障害者のために啓成社を設置(1924)し、洋裁等の授産訓練を実施したことなどがあげられるが、ごく一部の取組みに限られていた。  第二次世界大戦後、労働省が厚生省から分離し、職業安定法が制定され、全国に公共職業安定所が設置された。1948年にヘレンケラー女史が来日した際に身体障害者職業更生週間が始まり、現在の障害者雇用支援月間に引き継がれている。また、身体障害者公共職業補導所が開設(1949)され、1952年には、身体障害者の職業更生を推進するための基本対策として「身体障害者職業更生援護対策」が定められた。なお、「更生」とはリハビリテーションを翻訳したものである。  このような中、1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定され、身体障害者雇用率制度が導入された。1976年の同法の抜本改正により、身体障害者雇用は努力義務から法的義務になり、身体障害者雇用納付金制度が導入されたことで、身体障害者雇用は大きく前進した。  1970年代までの障害者に対する就業支援を実施する機関としては、労働行政の分野では、公共職業安定所や身体障害者職業訓練校などに加え、1971年から全国に順次設置された心身障害者職業センター(地域障害者職業センターの前身)がある。一方、厚生行政の分野では、身体障害者福祉法の制定(1949)により、身体障害者更生相談所や身体障害者更生援護施設等が設置された。さらに、精神薄弱者福祉法(現知的障害者福祉法)の制定(1971)により、精神薄弱者更生相談所や精神薄弱者援護施設等が設置されて、これらの施設で就業支援が実践されていた。また、1947年に学校教育法が制定され、これまでの盲学校、聾学校に加え、養護学校が設置されるようになった。これらの学校では職業教育が行われ、専攻科や高等部には新規学卒者に対する職業紹介が特例的に認められ、教育分野での就業支援が行われている。このように、障害者の就業支援は、労働行政、厚生行政、教育行政それぞれの分野で展開されていた。なお、精神障害者については、1950年に「精神衛生法」が制定されたが、就業支援に繋がるような動きはあまり見られなかった。そのような中、東京都精神衛生職親制度(1970年)をはじめとして、事業所に精神障害者の訓練を委託する制度がいくつかの自治体で導入されている。この事業は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に規定されている社会適応訓練に引き継がれたが、同法の改正により、現在は地方自治体の独自事業として実施されているケースがある。  1983年にILOは職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(159号)と勧告(168号)を採択した。同条約は、職業リハビリテーションの目的を、就職だけでなく、その後の雇用継続・向上を図り、社会への統合を実現することであるとし、また、職業リハビリテーションはすべての種類の障害者について適用することとしている。日本政府は、ILO条約の批准を前提に、1987年に身体障害者雇用促進法を、@法律の対象をすべての障害者に拡大(知的障害者を実雇用率に算定:施行1988年)、A雇用促進に加え雇用の安定を図る、B職業リハビリテーションを法律で規定(障害者職業センターや障害者職業カウンセラーの位置づけ)等からなる抜本改正を行い、名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改めている。  その後、同法は、精神障害者に障害者雇用納付金制度の各種助成金の適用(1992)、知的障害者の雇用義務化(1997)、障害者就業・生活支援センター事業及び職場適応援助者(ジョブコーチ)事業の創設(2002)、精神障害者の実雇用率算定(2006)、障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務化(2016)、精神障害者の雇用義務化(2018)等の改正が行われ、対象者の拡大と内容の充実が図られている。また、2005年に障害者自立支援法(現障害者総合支援法)が制定され、就労移行支援事業が創設されたほか、2018年には就労定着支援事業が創設された。なお、この間に、厚生省と労働省の統合により厚生労働省が誕生(2001)し、これまで労働行政と厚生行政に分かれていた、障害者の雇用・就業対策の一本化が進められている。  障害者雇用や就業支援は、ノーマライゼイション、エンパワーメント、リカバリー、ピープルファースト等のさまざまな理念や運動、そして、米国の援助付き雇用、ILOの条約や勧告、国連の障害者の権利条約等の国際的な動向、さらには、企業におけるCSRやコンプライアンス、ダイバーシティへの関心の高まり等、さまざまなことから影響を受け、対象者の拡大と内容の充実を図ろうとしている。また、就業支援の現場では、これらの潮流を受けて、施設から地域へ、専門家主導から当事者主体へ、といったパラダイムの転換と、企業との協働、地域ネットワークによる支援といった視点が求められていると言える。 資料 参考図書・参考資料一覧 参考図書・参考資料一覧 *当機構が作成・発行した資料等については、発行機関の名称を、現在の「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」に統一している。 【就業支援の基本的な考え方】 令和4年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2022    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/guidebook/koshu_text.html "職業リハビリテーション概念の構築に向けて"   松為信雄.職業リハビリテーション(vol.21,No.2).2008.P51-55 職業リハビリテーション学(改訂第2版)キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系   松為信雄・菊池恵美子編集.協同医書出版社.2006 “一般就労”へのアプローチ  身体・知的・精神に障害のある方のための「就労支援プログラム」   就労支援プログラム作成委員会作成.東京都福祉保健局障害者施策推進部施設福祉課.2006 【就業支援のプロセスと手法】 職場復帰支援の実態等に関する調査研究(調査研究報告書No.156)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku156.html はじめての障害者雇用 ―事業主のためのQ&A―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2021    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html 障害の多様化に対応した職業リハビリテーション支援ツールの開発(その2)  ―ワークサンプル幕張版(MWS)新規課題の開発―(調査研究報告書No.145)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku145.html ワークサンプル幕張版(Makuhari Work Sample(MWS))  改訂・新ワークサンプル開発 ご案内(各種教材、ツール、マニュアル等No.59)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai59.html 情報共有シート活用の手引(各種教材、ツール、マニュアル等No.60)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai60.html 地域関係機関・職種の連携による障害者の就職と職場定着の支援(各種教材、ツール、マニュアル等No.61)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai61.html 障害や疾病のある人の就労支援の基礎知識  ―誰もが職業をとおして社会参加できる共生社会に向けて―(各種教材、ツール、マニュアル等 No.52)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2017   https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai52.html 就労支援と精神科医療の情報交換マニュアル(各種教材、ツール、マニュアル等No.55)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2017    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai55.html 精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究(調査研究報告書No.133)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2017    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku133.html 障害の多様化に対応した職業リハビリテーション支援ツールの開発  ―ワークサンプル幕張版(MWS)の既存課題の改訂・新規課題の開発―(調査研究報告書No.130)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2016    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku130.html 障害者の在宅勤務・在宅就業ケーススタディ ―20の多様な働き方―(障害者雇用の事例集)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2009    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/zaitaku_casestudy20.html 就労移行支援のためのチェックリスト(各種教材、ツール、マニュアル等No.20)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2007    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/19_checklist.html 在宅勤務障害者雇用管理マニュアル  ―障害のある人を在宅勤務の形態で雇用する場合に―(障害者職域拡大マニュアル 11)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2006    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/ocp_outline.html 障害者就業支援におけるカウンセリングの技法と障害への配慮(資料シリーズNo.32)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2005    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/shiryou/shiryou32.html 重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門   小川浩著.エンパワメント研究所.2001 重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ実践マニュアル   小川浩・志賀利一・梅永雄二・藤村出著.エンパワメント研究所.2000 【障害特性と職業的課題】 視覚障害 視覚障害者の雇用等の実状及びモデル事例の把握に関する調査研究(調査研究報告書No.149)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku149.html 目が見えなくなってきた従業員の雇用継続のために(企業の人事担当者、管理者の皆さまへ)  (各種教材、ツール、マニュアル等No.62)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2019    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai62.html 視覚障害者のキャリア形成に向けた事業主の支援のあり方に関する研究(調査研究報告書No.127)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2015    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku127.html 障害者雇用マニュアルコミック版1 視覚障害者と働く ―理解と配慮で、ともに働く環境づくり―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2023 発行予定    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic01.html 視覚障害者の職場定着推進マニュアル ―ともに働く職場をめざして―(障害者職域拡大マニュアル12)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2023 発行予定    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/ocp_outline.html 聴覚障害 聴覚障害者の職場定着推進マニュアル(障害者職域拡大マニュアル9)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2022    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/ocp_outline.html 障害者雇用マニュアルコミック版3 聴覚障害者と働く ―ともに働く喜びを感じる職場づくりのために―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2020    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic03.html 高次脳機能障害 高次脳機能障害者の障害理解と職業リハビリテーション支援に関する研究  ―自己理解の適切な捉え方と支援のあり方―(調査研究報告書No.162)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2022発行予定 障害者雇用マニュアルコミック版6 高次脳機能障害者と働く  ―確かな理解と適切な配慮で、ともに働く職場環境づくり―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2020    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic06.html 高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究U(調査研究報告書No.129)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2016    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku129.html 高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究(調査研究報告書No.121)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2014    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku121.html 高次脳機能障害対応マニュアル初回面接から長期支援までのエッセンシャルズ   米本恭三監修・渡邉修・橋本圭司編集.南江堂.2008 Q&A脳外傷 高次脳機能障害を生きる人と家族のために.第2版   NPO法人日本脳外傷友の会編.明石書店.2007 高次脳機能障害マエストロシリーズ4リハビリテーション介入   鈴木孝治・早川裕子・種村留美・種村純編集.医歯薬出版.2006 高次脳機能障害ハンドブック診断・評価から自立支援まで   中島八十一・寺島彰編集.医学書院.2006 高次脳機能障害支援コーディネートマニュアル   高次脳機能障害支援コーディネート研究会監修.中央法規出版.2006 高次脳機能障害者の注意機能検査―パソコン版空間性注意検査・軽度注意検査マニュアル―  (各種教材、ツール、マニュアル等 No.18)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2005    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/16_pc-manual.html 知的障害 障害者雇用マニュアルコミック版2 知的障害者と働く ―理解を深め、ともに働く環境づくり―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2019    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic02.html 知的障害者の職場定着推進マニュアル(障害者職域拡大マニュアル 14)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2015    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/ocp_outline.html 働くあなたの健康管理ハンドブック(各種教材、ツール、マニュアル等 No.10)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2003    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/08_kenkou.html 精神障害 精神障害者雇用管理ガイドブック(各種教材、ツール、マニュアル等No.71)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai71.html 障害者雇用マニュアルコミック版4 精神障害者と働く ―理解と思いやりの職場環境づくり―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2019    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic04.html 精神障害者の雇用に係る企業側の課題とその解決方策に関する研究(調査研究報告書 No.128)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2016    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku128.html 「企業からみた」精神障害者雇用のポイント(各種教材、ツール、マニュアル等 No.51)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2016    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai51.html ともに働く職場へ ―事例から学ぶ 精神障害者雇用のポイント―(動画)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2015    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/h27_dvd01.html リカバリーのための就労支援 ―就労支援者用マニュアル―(各種教材、ツール、マニュアル等No.49)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2015    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai49.html 現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック   相澤欽一著.金剛出版.2007 発達障害 発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究 −精神疾患を併存する者を中心として−  (調査研究報告書No.150)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2020    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku150.html 発達障害特性と精神障害が併存する人の就労支援のポイント(各種教材、ツール、マニュアル等No.65)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2020    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai65.html 障害者雇用マニュアルコミック版5 発達障害者と働く  ―よく知ることから始まるともに働く環境づくり―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2019    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic05.html ともに働く職場へ ―事例から学ぶ 発達障害者雇用のポイントー(動画)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2016    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/h28_dvd01.html 発達障害者就労支援レファレンスブック(課題と対応例)(各種教材、ツール、マニュアル等No.48)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2015    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai48.html 軽度発達障害者のための就労支援プログラムに関する研究  ―ワーク・チャレンジ・プログラム(試案)の開発―(調査研究報告書No.83)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2008    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku83.html 就職支援ガイドブック …発達障害のあるあなたに…(各種教材、ツール、マニュアル等No.24)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2008    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/24_guidebook.html 職業リハビリテーションのためのワーク・チャレンジ・プログラム(試案)  ―教材集―(各種教材、ツール、マニュアル等No.23)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2008    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/23_challenge.html 発達障害のある人の雇用管理マニュアル   厚生労働省・発達障害者雇用促進マニュアル作成委員会編.一般社団法人雇用問題研究会.2006    http://www.koyoerc.or.jp/investigation_research/245.html 就労支援ハンドブック「学習障害」を主訴とする青年のために(各種教材、ツール、マニュアル等 No.14)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター.2004    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/12_learning.html 難病 難病のある人の就労支援活用ガイド(各種教材、ツール、マニュアル等No.68)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai68.html 始まっています!難病のある人の就労支援、治療と仕事の両立支援(各種教材、ツール、マニュアル等No.69)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai69.html 難病のある人の職業リハビリテーション ハンドブック Q&A(各種教材、ツール、マニュアル等No.70)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai70.html 難病のある人の雇用管理マニュアル(各種教材、ツール、マニュアル等No.56)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2018    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai56.html 難病のある人の就労支援のために(各種教材、ツール、マニュアル等No.36)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2016    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/36_nanbyou.html 難病患者の就労支援における医療と労働の連携のために(各種教材、ツール、マニュアル等No.46)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2014    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/46_nanbyou.html 難病就業支援マニュアル(各種教材、ツール、マニュアル等No.25)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2008    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/25_nanbyou.html 【職業・求人情報】 ハローワークインターネットサービス https://www.hellowork.go.jp/   ハローワークに申し込まれた求人の検索サイト 【障害者雇用事例】 啓発誌「働く広場」   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構    https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html 除外率設定業種における障害者雇用事例集−職場での工夫と配慮−(各種教材、ツール、マニュアル等No.72)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター.2021    https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai72.html 障害者の労働安全衛生対策ケースブック   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2021    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html みんな輝く職場へ −事例から学ぶ 合理的配慮の提供−(動画)   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2020    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/gouritekihairyo.html 中高年齢層の障害のある方の雇用継続に取り組んだ職場改善好事例集   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2020    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/R1_kaizen_jirei.html 精神障害、発達障害のある方の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例集   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2019    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/h30_kaizen_jirei.html 障害者の職場定着と戦力化 障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2019    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/employment_casebook.html 身体障害、難病のある方などの雇用促進・職場定着に取り組んだ職場改善好事例集   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2018    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/h29_kaizen_jirei.html 障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2018   https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/amarisusunndeinai.html 中小企業等における精神障害者や発達障害者の職場改善好事例集   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2017    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/h28_kaizen_jirei.html 就職困難性の高い障害者のための職場改善好事例集 ―精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者―   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2016    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/h27_kaizen_jirei.html 支援機関の活用や企業内における専門人材の育成等による精神障害者の職場改善好事例集   独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構.2015    https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/ca_ls/h26_kaizen_jirei.html 【労働関係法令 相談窓口】 各都道府県労働局のホームページ 【障害者職業総合センター職業センターにおける支援技法開発】  https://www.nivr.jeed.go.jp/center/index.html  (*Noの前の「実」は実践報告書の略、「マ」は支援マニュアルの略) 発達障害 実No.39 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援令和3年度 実No.36 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム リラクゼーション技能トレーニングの改良令和2年度 実No.34 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 問題解決技能トレーニングの改良令和元年度 マNo.18 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント平成30年度 実No.31 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 職場対人技能トレーニング(JST)の改良平成29年度 マNo.15 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング平成28年度 マNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用平成27年度 実No.27 発達障害者に対する雇用継続支援の取組み ―在職者のための情報整理シートの開発―平成26年度 マNo.10 発達障害者のためのワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法平成 25年度 マNo.?8? 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング平成24年度 マNo.?7? 発達障害を理解するために2 ―就労支援者のためのハンドブック― 付属リーフレット発達障害について理解するために ―事業主の方へ―平成23年度 マNo.?6? 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)平成22年度 実No.23 発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2) ―注意欠陥多動性障害を有する者への支援―平成21年度 マNo.?4? 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 障害者支援マニュアルU平成20年度 マNo.?3? アスペルガー症候群の人を雇用するために 英国自閉症協会による実践ガイド平成19年度 マNo.?2? 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 障害者支援マニュアルT平成19年度 実No.19 発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例平成18年度 実No.17 発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援技法平成17年度 実No.14 発達障害を理解するために 支援者のための Q&A平成16年度 高次脳機能障害 実No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント令和3年度 実No.38 記憶障害に対する学習カリキュラムの紹介令和2年度 実No.35 アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援令和元年度 実No.32 高次脳機能障害者の復職における職務再設計のための支援平成29年度 実No.30 記憶障害を有する高次脳機能障害者の補完手段習得のための支援平成28年度 マNo.14 高次脳機能障害者のための就労支援 ―医療機関との連携編―平成27年度 実No.28 高次脳機能障害者のための「職業リハビリテーション導入プログラム」の 試行実施状況について  ―3年間の取組をとおして―平成26年度 マNo.11 高次脳機能障害者のための就労支援 ―対象者支援編―平成 25年度 実No.25 高次脳機能障害者に対する職場復帰支援 ―失語症のある高次脳機能障害者への支援―平成23年度 マNo.?5? 高次脳機能障害の方への就労支援 ―職場復帰支援プログラムにおけるグループワーク―平成21年度 実No.21 高次脳機能障害者に対する支援プログラム ―家族支援の視点から―平成19年度 マNo.?1? 高次脳機能障害の方への就労支援平成17年度 実No.18 高次脳機能障害者に対する支援プログラム ―利用者支援、事業主支援の視点から―平成17年度 実No.16 高次脳機能障害者に対する職場復帰支援 ―実践事例編―平成16年度 実No.13 高次脳機能障害を理解するために 事例集平成15年度 実No.11 高次脳機能障害者に対する職場復帰支援 ―職場復帰支援プログラムにおける事業主支援(事前調査)から―平成14年度 実No.?9? 高次脳機能障害者に対する職場復帰支援 ―職場復帰支援プログラムにおける2年間の実践から―平成12年度 実No.?4? 高次脳機能障害者のための効果的な支援方法(構想) ―医学的リハから職場復帰への円滑な支援を中心として―平成10年度 精神障害(職場復帰支援) マNo.21 ジョブデザイン・サポートプログラム ジョブリハーサルの改良令和3年度 実No.37 精神障害者職場再適応支援プログラム ジョブデザイン・サポートプログラムの カリキュラムの再構成―プログラムの具体的内容と支援の実際―令和2年度 マNo.20 ジョブデザイン・サポートプログラム 気分障害等の精神疾患で休職中の方のた めの日常生活基礎力形成支援―心の健康を保つための生活習慣―令和元年度 マNo.19 ジョブデザイン・サポートプログラム  気分障害等の精神疾患で休職中の方の職場復帰支援における事業主との調整平成30年度 マNo.17 ジョブデザイン・サポートプログラム  気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのワーク基礎力形成支援平成29年度 マNo.16 ジョブデザイン・サポートプログラム 気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのジョブリハーサル平成28年度 実No.29 気分障害等の精神疾患で休職中の方の怒りの対処に関する支援 ―アンガ―コントロール支援の技法開発―平成27年度 マNo.12 精神障害者職場再適応支援プログラム 気分障害等の精神疾患で休職中の方の ためのアンガーコントロール支援 ―講習編―平成26年度 実No.26 精神障害者職場再適応支援プログラム リワーク機能を有する医療機関と連携した復職支援平成 25年度 マNo.?9? 精神障害者職場再適応支援プログラム 気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのストレス対処講習平成24年度 実No.24 精神障害者職場再適応支援プログラム SSTを活用した支援の実際平成22年度 実No.22 精神障害者の職場再適応支援プログラム キャリアプラン再構築支援の実際平成20年度 実No.20 精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集(2) ―気分障害者に対する復職支援の実践―平成18年度 実No.15 精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集 ―ジョブデザイン・サポートプログラムの開発―平成16年度 実No.12 リワークプログラムとその支援技法 ―在職精神障害者の職場復帰支援プログラムの試行について―平成15年度 精神障害(就職支援) 実No.?8? 精神障害者の職業リハビリテーションにおける家族教室の実施方法平成12年度 実No.?7? 精神障害者等の職業リハビリテーションにおける体育指導の効果について ―体育指導の実際―平成11年度 実No.?6? 精神障害者等の職業リハビリテーションにおける職業レディネス指導事業の役割 ―職業レディネス指導事業の5年の取り組み―平成10年度 実No.?5? SSTを活用した精神障害者等に対する職業指導(2) ―「仕事と職場のためのモジュール訓練」―平成10年度 実No.?2? SSTを活用した精神障害者等に対する職業指導(1) ―職業レディネス指導事業の実践から―平成9年度 【国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにおける職業訓練技法の開発】  https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/intellectual/q2k4vk000001js9i.html 訓練生個々の特性に応じた職業訓練 職業訓練実践マニュアル訓練生個々の特性に応じた効果的な訓練実施に向けた取組み  ―基礎編―令和3年度 精神障害・発達障害のある人に対する職業訓練 職業訓練実践マニュアル精神障害・発達障害者への職業訓練における導入期の訓練編V  ―導入期の訓練のカリキュラムと具体的な進め方―令和2年度 職業訓練実践マニュアル精神障害・発達障害者への職業訓練における導入期の訓練編U  ―対応法の習得に向けた具体的な取り組み―令和元年度 職業訓練実践マニュアル精神障害・発達障害者への職業訓練における導入期の訓練編T  ―特性に応じた対応と訓練の進め方―平成30年度 身体障害のある人に対する職業訓練 職業訓練実践マニュアル重度視覚障害者編U ―企業との協力による職業訓練等―平成23年度 職業訓練実践マニュアル重度視覚障害者編T ―施設内訓練―平成22年度 上肢に障害を有する者に対する職業訓練の実践研究報告書 ―事務系職種編―平成20年度 上肢に障害を有する者に対する職業訓練の実践研究報告書 ―製造系職種編―平成20年度 視覚障害者に対する効果的な職業訓練を実施するために ―指導・支援者のためのQ&A―平成19年度 発達障害のある人に対する職業訓練 職業訓練実践マニュアル発達障害者編V ―企業との協力による職業訓練等―平成24年度 職業訓練実践マニュアル発達障害者編U ―施設内訓練―平成23年度 職業訓練実践マニュアル発達障害者編T ―知的障害を伴う人の施設内訓練―平成22年度 発達障害者に対する職業訓練の実践研究会報告書  ―本訓練から就職支援・フォローアップ―平成19年度 発達障害者に対する職業訓練の実践研究会報告書 ―入校から導入訓練―平成18年度 高次脳機能障害のある人に対する職業訓練 職業訓練実践マニュアル高次脳機能障害者編U ―企業との協力による職業訓練等―平成29年度 職業訓練実践マニュアル高次脳機能障害者編T ―施設内訓練―平成28年度 高次脳機能障害者に対する職業訓練の実践研究報告書平成21年度 職業的重度障害者に対する職業訓練・指導技法等実践報告書(1)―高次脳機能障害者編―平成15年度 精神障害のある人に対する職業訓練 職業訓練実践マニュアル精神障害者編U ―企業との協力による職業訓練等―平成25年度 職業訓練実践マニュアル精神障害者編T ―施設内訓練―平成24年度 精神障害者に対する職業訓練の実践研究報告書平成21年度 精神障害者に対する職業訓練・指導技法等実践報告書平成18年度 身体障害のある人に対する職業訓練 職業的重度障害者に対する職業訓練・指導技法等実践報告書(2)―職業準備プログラム編―平成15年度 知的障害のある人に対する職業訓練 障害者職域拡大訓練カリキュラム研究会報告書平成17年度 障害者職域拡大訓練カリキュラム研究会(中間報告)平成16年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 ]介護職種における就労支援編平成13年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 \社会生活実務編平成13年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 [導入訓練編 平成13年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 Z介護サービス職種編平成13年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 Y事務・販売職種編平成13年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 X介護職種における職業評価編平成12年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 W在職者OA職種編平成11年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 V電気・電子職種編平成11年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 U流通サービス編平成11年度 知的障害者の職業訓練・指導実践報告 T介護職種編平成11年度 索  引 事項索引 【あ】 IQ→知能指数 ICD207,208 ICD-10208,213,217,229,230 ICD-11208,225 アスペルガー症候群33,225,226,228,229,231,238〜240 アセスメント4〜6,9,11,13,15〜19,22,23,25,26, 29,31,66,75,89,95〜98,102,105, 110,118,146,147,198,199,221,236 アメリカ知的・発達障害協会(AAIDD)198 【い】 意識障害191,192,195 一般就労24,106,146,181,182 易疲労性220 陰性症状208,209,211,212 インテーク2,4,5,9〜12,95 インフォームド・コンセント6,9,10 【う】 うつ病(大うつ病)119,120,207,209,213〜216,219,266 運動機能障害187〜189 【え】 AAIDD→アメリカ知的・発達障害協会 ADHD→注意欠陥多動性障害 SST(Social Skills Training)31,79,107,108,111 LD→学習障害 エンパワメント(エンパワーメント)10,25,150,169,270 【か】 解雇252,256 外傷後ストレス障害210,218 カウンセラー→障害者職業カウンセラー 学習障害(LD)33,225,226,229,230 拡大読書器189 下肢186〜188 課題分析69,203 片まひ188,193 環境調整15,59,60,200,201,205,224,226,238 【き】 記憶障害189,192,195,196 義肢189 器質性精神障害193,209,217 義手・義足189 機能分析68,72 気分障害109,119,207,209,210,213,216,217,232 基本的労働習慣27,97〜99,112,205 キャリア発達141,143,144 【け】 ケース会議6,25,26,63,96,102〜104,114,222 ケースカンファレンス171 ケースマネジメント150,151,169,171 言語障害188 【こ】 高機能自閉症226 公共職業安定所→ハローワーク 公共職業訓練34,41,258,263 高次脳機能障害(者)33,34,62,64,81,120,189,191〜193,197,200 厚生年金保険255 行動観察5,16,22,192,230 広汎性発達障害109,209,225,226,229〜232 合理的配慮118,158,164,247,251,270 高齢・障害・求職者雇用支援機構33,34,45,61,96,195, 260,262,265,266 口話(読唇+発語)190 呼吸器機能障害191 国際障害分類(ICIDH)149 国際生活機能分類(ICF)149 個人情報10,12,13,17,84,95,96,128 コミュニケーション5,8,12,27,36,74,111,115,119,124,129,145, 178,179,190,191,193,198,200,205,220〜222, 226,227,229,232,234,235,239,245 雇用管理35,42,44,45,47,119,120,144,146,162, 167,174,238,239,255,261,262 雇用継続2,4,7,35〜37,89,257,260,270 雇用状況152,153,159,165,248 雇用保険41,62,64,108,256,259 雇用率制度→障害者雇用率制度 コンプライアンス270 【さ】 最低賃金の減額特例255 最低賃金法254,267 作業遂行(力)19,36,59,107,111,113,119,140,194,200,220,224,238 【し】 CSR→社会的責任 視覚障害34,186,189,190,243 色覚異常189 肢体不自由45,121,186,187 失行症191,193,194 失語症191〜193 失認症191,193,194 児童相談所173,233 自閉症33,209,225〜229,231,238,239 自閉症スペクトラム障害226,229 社会資源15,23,27,105,106,140,169,170,172〜174 社会的責任(CSR)42,55,58,152,199 社会的不利149,151,210 社会保険制度255 弱視189 視野障害189 就業支援1〜11,14,15,17,28,31,34,37,38,42,67,77,78,80,82, 84〜87,90〜93,95,96,100〜105,107,109,113,116, 118,120,133,135〜137,139〜141,143,145〜147, 149,151,152,161,169〜174,176,177,181,185,192,200, 219,221,222,238,242,244,247,256,263,266,268〜270 重度障害者258,259 重度障害者多数雇用事業所174 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金262 重度障害者等通勤対策助成金262 重度身体障害者187,248 重度知的障害者199,248,266 就労移行支援(事業)7,19,28,32,96,106,181〜183,267,270 就労移行支援事業所15,25,36,44,46,92,94,96,98, 106,116,145,146,173,263,266,267 就労継続支援(事業)7,15,25,183,267 就労継続支援A型事業(所)62,64,94,174,182,267 就労継続支援B型事業(所)94,106,183,268 就労定着支援(事業)182〜184,270 就労定着支援事業所268 主治医95,96,107,109,110,113,116,191,210,219 手話190 障害者基礎年金85 障害者委託訓練(委託訓練)32,34,44,67,236,259,260 障害者介助等助成金262 障害者雇用3,23,28,35,42〜47,49,54〜56,60,67,83, 102,118,120,133,136,145,146,152,153, 158〜167,174,176,185,199,204, 247〜251,257,263〜266,268〜270 障害者雇用促進法→障害者の雇用の促進等に関する法律 障害者雇用調整金(調整金)249 障害者雇用に関する 優良な中小企業に対する認定制度→もにす認定 障害者雇用納付金44,158,247,249,261,266,269,270 障害者雇用納付金制度に基づく助成金44,261 障害者雇用率42,133,248 障害者雇用率制度(雇用率制度)44,158,219,242,244,247,269 障害者作業施設設置等助成金261 障害者就業・生活支援センター15,25,36,44,85,92,94,95,102, 105,106,108,112〜116, 145,159,173,263,267,270 障害者職業カウンセラー (カウンセラー)102,103,266,267,270 障害者職業センター→地域障害者職業センター 障害者職業総合センター33,118,192,266 障害者職業能力開発校 (職業能力開発校)7,15,25,32,34,173,259,260,264〜267 障害者職場復帰支援助成金245 障害者自立支援法92,106,181,270 障害者総合支援法7,62,64,85,86,92,158,181,182,270 障害者の権利に関する条約158 障害者の雇用の促進等に関する法律 (障害者雇用促進法)118,138,158,187,199,219, 233,247,248,252,269,270 障害者の日常生活及び 社会生活を総合的に支援するための法律247 障害者福祉施設設置等助成金262 障害特性22,24,34〜36,38,43〜47,55〜57,60,74,89,96,119, 144,146,185,186,188,192,223,230,238,251,259,262 障害福祉サービス181〜183,268 障害保健福祉圏域145 小腸機能障害191 情報伝達89,190,201 常用労働者249 職業安定法146,257,269 職業訓練4,6,7,34,41,59,138,245,259,260,263,265,267,269 職業準備支援7,26,32,118,266 職業準備性2,4,6,7,16,27〜35,59,96,107,108, 111,112,116,146,163,167,205,263 職業紹介4,7,23,24,35,38,40,43,118,138,245,257,261,262,269 職業相談4,38〜40,263 職業能力開発6,7,32,141,146 職業評価4,5,59,101〜103,111,113,236,266,267 職業リハビリテーション27,52,59,92,137,138,148, 233,238,242,266,270 職業リハビリテーション計画23〜25,62〜64,102 職場環境7,30,32,35,36,43,59,67,101,103, 108,113,114,116〜119,124,160, 174,188,203,205,236,238,242,249 職場実習4,16,17,19,31,43,56,67,100〜103, 114,115,117,204,221,259,260,265 職場定着4,42,43,47,61,77,105,119,138, 167,183,263〜265,267,268 職場定着支援(担当者)7,96,103,105 職場適応援助者61〜65,100,103,119,145,146,159,233,262,270 職場適応援助者助成金61,66,262 職場適応訓練258,259 職場復帰→復職 職務再設計19 職務選定35,47,48 職務創出47,49〜53 職務分析67,68 助成金24,40,44,55,57,61〜66,102,159, (※〜助成金も含む)233,245,249,258,260〜263,270 ジョブコーチ(支援)4,7,24,26,37,44,47,59〜62,64〜67,74, 75,92,100〜105,118〜120, 159,202,205,233,262,266,270 自立生活モデル149 神経症210,213,217,218 人工透析191 心臓機能障害191 腎臓機能障害191 身体障害(者)34,43,45,46,49,62,64,120,153,162,185〜197, 233,242,243,245,247,248,260,269,270 身体障害者障害程度等級表186,187,192 身体障害者手帳12,186,187,189,192 身体障害者福祉法186,187,191,197,225,269 【す】 遂行機能障害196 睡眠障害214 【せ】 生活支援4,37,77,78,82,84〜87,89〜91, 94,96,104,105,140,141,173,181 精神障害(者)33,34,36,43,45,49,56,62〜66,72,75,85,92, 106〜110,114,116,118〜120,153, 158,162,166,185,206〜224,233,242,244, 247,248,258,260,266,267,269,270 精神障害者雇用トータルサポーター38 精神障害者総合雇用支援266 精神障害者保健福祉手帳12,24,81,112,113,116,162, 192,219,233,248 精神障害の特性107,210 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 (精神保健福祉法)197,219,270 精神保健福祉センター86,173,233,236 脊髄損傷187,188 専門医56,191,225,233 【そ】 躁うつ病(そううつ病)206,207,213,219 【た】 退職95,143,146,244,245,256 ダブルカウント248 【ち】 地域障害者職業センター7,15,19,23〜26,32,36,44,45,61〜65,92, (障害者職業センター)106,108,111,113,114,118〜120 173,199,233,236,263,265,266,269,270 チームアプローチ147 チーム支援100〜102,116,263,264,265 チェックリスト19,20,27,96,97,129,240 知的障害(者)29,33,34,36,43,45,48〜51,62,64,94,119〜121, 123,134,141,153,158,185,197〜206,225,226, 233,235,248,259,260,266,269,270 知的障害者福祉法197,225,269 知能指数(IQ)198 注意欠陥多動性障害(ADHD)33,225,226,230,231 注意障害189,192,195,196,226 中毒精神病(依存症)210,217 聴覚・言語障害190,192 聴覚障害45 調整金→障害者雇用調整金 重複17,123,186,187,225,230,231 【て】 DSM207,208 DSM-W208,209,229〜232 DSM-W-TR208,213〜215,225 DSM-5208,229,232 てんかん94,217,219 【と】 統合失調症56,206〜212,217,219,232 特定求職者雇用開発助成金44,233,245,260 特別支援教育88,89,121,140 特例子会社83,89,106,134,152,159,160,163,174 トライアル雇用4,41,44,67,221,233,245,258,263 【な】 内部障害45,191 ナチュラルサポート60,66,74,146 難聴190 難病62,64,181,185,242〜246,261,268 難病相談支援センター268 難病患者就職サポーター245 【に】 認知症191〜193,209,217 認知障害194,200,201,224 【ね】 ネットワーク25,105,117,141,144,145, 146,169〜180,268,270 【の】 脳外傷189,191,195 脳血管障害187,188,191,216 脳性まひ22,187,188,225 【は】 発達障害(者)33,34,49,62,64,109,118〜120,123,141,166,185, 200,208,209,225〜241,245,258,259,261,267,268 発達障害者支援センター24,44,173,233,236,268 発達障害者支援法225,233,268 パニック障害210,218,233 ハローワーク7,15,19,23〜25,29,34〜36,38〜44 (公共職業安定所)46,92,94,95,100〜104,106〜108,112, 114,115,118,127〜129,173,233,245, 248,249,251,256,258〜261,263〜265,269 半側空間無視194,195 【ひ】 筆談190 非定型精神病210,217 ヒト免疫不全ウィルス(HIV)191,243 【ふ】 フィードバック72,73,102,176,195,204,236,240 フォローアップ4,66,67,76,104,105,146 福祉事務所15,25,86,173 復職(支援)(職場復帰)4,33,75,120,184,192,193,266,268 プランニング2,4〜6,9,11,17,23,29,118,146 【ほ】 ぼうこうまたは直腸の機能(障害)186,191 報奨金249 【ま】 マッチング40,42,49,57,116,118,234,244,245 【め】 面接(採用面接)5,16,17,24,29,35,39〜41,46,98,103,107, 112,114,115,120,129,140,147,234,236,244 メンタルヘルス146 【も】 もにす認定制度→障害者雇用に関する優良な中小企業に対する認定制度247 【や】 雇入れ34,247,248,257,258,261〜263 【ゆ】 優遇措置263 【よ】 陽性症状209〜212 余暇支援78,82〜85 【ら】 ライフステージ132,145,146,169 【り】 療育手帳12,94,95,197,199,233 リワーク4,32,120 【ろ】 ろう者190 労働基準法252,253 労働契約法252,254 労働者災害補償保険(労災保険)255,256 労働者派遣法257 【わ】 ワークサンプル18,19,96 逆引き索引 「こんな時どうしよう…」 シーン1 利用者の履歴書を見たら離転職がたくさん。どんな仕事だったら続けられるのだろう…。   ⇒15ページ「アセスメントのすすめ方」へ シーン2 今度新たに支援する利用者の障害は初めての障害。どうしたらよいだろう…。   ⇒186ページ「障害特性と職業的課題」へ シーン3 働くためにはもう少し準備期間が必要な状況…。どんな準備をどうやって進めたらよいのだろう…。   ⇒27ページ「職業準備性の向上のための支援」へ シーン4 利用者から「何か新たな技術を身に付けて就職したい」との相談を受けたが、障害者に対して技術・技能の訓練をしているところはあるのだろうか…。   ⇒34ページ「コラム@」、259ページ「公共職業訓練」へ シーン5 初めて利用者の採用面接に同行することに…。どんなことに気をつけたらよいのだろう…。   ⇒53ページ「企業に対する支援における留意事項」へ シーン6 職場の中に入り込んで、仕事中の支援をすることに…。どうしたらよいのだろう…。   ⇒59ページ「ジョブコーチ支援」へ シーン7 会社の人から障害者雇用の進め方について相談されたけど、何を支援したらよいのだろう…。   ⇒42ページ「企業へのアプローチの方法」へ シーン8 会社の人から「障害者にやってもらう仕事がない。どんな仕事をしてもらえばいいのか」という相談を受けたが…。   ⇒47ページ「職務選定、職務創出」へ シーン9 利用者がなかなか就職に至らない。他の支援機関ではどんな風に就業支援をしているのだろう…。   ⇒93ページ「就業支援の実際(事例)」へ シーン10 支援すべき内容が多岐に渡りすぎて、自分たちの機関だけでは支援しきれない…。   ⇒169ページ「就業支援と支援ネットワーク」へ シーン11 就業支援の担当者を新たに採用したが、知識や技術を身に付けるための研修などはないだろうか…。   ⇒266ページ「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」、92ページ 「コラムB」へ シーン12 就業支援を始めたが、支援の進め方などについて相談できる機関はないだろうか…。   ⇒92ページ「コラムB」へ 執筆者一覧(50音順・敬称略)※所属等は取材、執筆時点のものである。   相澤 欽一(第1章第3節、コラムH)   障害者職業総合センター研究部門主任研究員* 礒邉 豊司、湯浅 善樹、内田 博之、荒井 一雄(第3章第2節)   中央障害者雇用情報センター障害者雇用支援ネットワークコーディネーター* 岩佐  純(第1章第4節第3項)   東京障害者職業センター多摩支所長* 岡田 雅人(コラムC)   障害者職業総合センター職業リハビリテーション部指導課長補佐* 小澤 信幸(第2章第3節)   東京都立志村学園進路指導主任主幹教諭 北岡 祐子(第2章第2節)   就労移行支援事業所(創)C.A.C所長精神保健福祉士 工藤 玲子(第2章第1節)   障害者就業・生活支援センターみなとセンター長 佐々木 直人(コラム@BDE)   障害者職業総合センター職業リハビリテーション部総括調整室調整係長* 佐藤 伸司(第1章第4節第1項第2項)   栃木障害者職業センター所長* 田谷 勝夫(第4章第1節第1項)   障害者職業総合センター研究部門主任研究員* 中村 正子(第4章第2節、コラムA)   障害者職業総合センター職業リハビリテーション部次長* 野中 由彦(第1章第1節、第4章第1節第3項)   障害者職業総合センター職業センター開発課長* 羽原 洋陽(第4章第1節第2項、第4項)   障害者職業総合センター職業リハビリテーション部総括調整室調整係長* 春名 由一郎(第4章第1節第5項)   障害者職業総合センター研究部門主任研究員* 藤尾 健二(第1章第4節第4項)   千葉障害者就業支援キャリアセンターセンター長 松為 信雄(第3章第1節、第3節、コラムF、さらなる理解のために)   神奈川県立保健福祉大学教授 村山 奈美子(コラムG)   厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課就労支援専門官 山田 文典(第1章第2節)   山梨障害者職業センター所長* *は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の組織である。 障害者職業総合センターに設置した作成委員会において、本書全体の監修を行った。 また、第4章第1節については、障害者職業総合センター研究部門が監修を行った。 作成委員会委員 相澤 欽一 研究部門主任研究員         市川 浩樹 職業リハビリテーション部研修課長補佐         那須 利久 職業リハビリテーション部指導課長補佐         野中 由彦 職業センター開発課長         藤浪 竜哉 職業リハビリテーション部次長 令和5年度版就業支援ハンドブック 2009年3月 初版発行 2010年3月 改訂版発行 2011年3月 新版発行 2012年3月 改訂版発行 2013年3月 改訂版発行 2014年3月 改訂版発行 2015年3月 改訂版発行 2016年3月 改訂版発行 2017年3月 改訂版発行 2018年2月 改訂版発行 2019年2月 改訂版発行 2020年2月 改訂版発行 2021年2月 改訂版発行 2022年2月 改訂版発行 2023年2月 改訂版発行 編著・発行  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構         障害者職業総合センター職業リハビリテーション部        〒261−0014        千葉市美浜区若葉3−1−3        TEL 043-297-9095        FAX 043-297-9056        URL https://www.jeed.go.jp/ 印 刷 所  社会福祉法人東京コロニー 東京都大田福祉工場