第1章アセスメントとプランニングの概要 1.本書で解説するアセスメントの概要 本書においては、障害者の就業支援において何をアセスメントするか(アセスメントの具体的対象)、またそれをどうやってアセスメントするか(アセスメントの具体的手法)、さらには、なぜその対象をその手法でアセスメントするのか(アセスメントの具体的目的)について、各支援事例を通じてわかりやすく解説している。 ここでは、アセスメントの具体的対象、具体的手法、具体的目的について概要を説明する。 アセスメントの具体的対象 障害者に対するアセスメントの対象は大きく「利用者の希望」と「利用者の特性」の2点である。希望については、いつ働きたいか、どのように働きたいか、どのような支援を受けたいか等であるが、特性については、下記4点の側面で体系的に把握、分析することが大切である。 1身体的側面 身体的側面は、主に医学的及び生理的要素に関するものである。(例としては、身長、体重、視力・聴力等、身体的機能の障害状況等) 2精神的側面 精神的側面は、主に知能、性格等に関するものである。(例としては、心理・性格面・行動特性等の特徴、言語能力、数的処理や論理的思考、空間把握等の知的能力、注意の集中・配分、遂行機能を含む認知機能に係る障害状況等) 3社会的側面 社会的側面は、主に社会生活を営むうえで必要と考えられる基本的事項に関するものである。(食事・衣服・入浴等の日常生活能力、公共交通機関の利用等の社会生活能力に係る障害状況等) 4職業的側面 職業的側面は、主に職務遂行能力に関するものであり、職業適性検査、各種器具検査、職業興味検査等によって把握する。(労働意欲、適性、作業能力・技能、職業興味等) 1から4の側面を個別に捉えず、例えば、精神的側面で「数的処理が苦手」とされた場合、社会的側面の「金銭管理」や職業的側面の「正確な作業遂行」にどう影響するか等、繋がりのある側面として把握・分析し、体系的に障害者の特性をイメージすることが重要である。 図1障害者の特性を捉えるための4側面 さらに、アセスメントの具体的対象としては、上記の他に地域の労働市場等、就職する事業所環境、社会資源等、就職を支援する体制を踏まえ、アセスメントすることも重要である。 また、1から4の側面にて障害者の特性を体系的に把握する際や、特性が職業生活にどう影響するかを検討する際に役立つツールとして、安定した職業生活を営むために大切な事項のイメージ図(図2)を紹介する。さらに、これを利用者と共有することによって、安定した職業生活を営む上で対象者が現在どのような状態像にあるのかについて、利用者自身の理解を促進することにも役立つ。 図2安定した職業生活を営むために大切な事項のイメージ ピラミッドの土台、健康管理(食事栄養管理、体調管理、服薬管理) ピラミッドの土台の上、日常生活管理(基本的な生活リズム、金銭管理、余暇の過ごし方、移動能力) その上、対人技能(感情のコントロール、注意されたときの謝罪、苦手な人への挨拶) その上、基本的労働習慣(挨拶・返事、報告・連絡・相談、身だしなみ、規則の順守、一定時間仕事に耐える体力) ピラミッドの1番上、職業適性(職務への適性、職務遂行に必要な知識・技能) アセスメントの具体的手法 利用者の特性を把握するための具体的手法は下記のとおり分類できる。 1面接・調査(利用者や支援者との面接やチェックシート等により把握した情報に基づき、アセスメントを行う) 既に労働、福祉、医療、教育等の関係機関が支援を行っている場合は早期に関係機関からの情報収集を行うことによって、利用者に対し、1から4の手法をどの程度、どのように実施することが効果的かつ負担が少ないかを検討することが必要である。例えば、「既に医療機関で心理検査を行っている方で、その検査結果の提供が受けられる場合はその結果の活用を図り同様のものを実施しない」、「通所施設を利用している方の場合は、施設で把握している課題を踏まえて、詳細な聞き取りや新たな作業場面の設定等を行う」等である。 2検査(職業適性検査、職業興味検査、各種心理検査、ワークサンプル等の検査(テスト)により、アセスメントを行う) 3場面設定(特定の場面を設定しアセスメントを行う) 例えば、「面接・調査において質問が苦手という情報があれば、質問のロールプレイを行う」、「集中力が続かないという情報があれば、一定時間の作業課題を実施する」等である。 4職場実習(1から3で把握された情報を踏まえ、実際の職場で作業を行うことを通してアセスメントを行う) 5行動観察(1から4の手法を行いながら、客観的視点で利用者の行動や発言を注意深く観察し、ありのままに記録する) 例えば、作業場面を設定した場合に、単に作業量等の結果を把握するのではなく、作業ぶり(指示通りに取り組めるか、課題に集中できているか等)を行動観察することによって、「なぜそのような結果になったのか」を把握することが重要である。面接場面においても、聞き取った内容だけでなく、話し方や表情、態度などを観察することによって、利用者の精神的側面などを洞察する。 支援者は、自身が所属する施設に1から5のどの機能があるのかを客観的に捉え、施設の機能やアセスメントスキルについて強みと課題を認識することが、利用者に対する適切なアセスメントの実施や関係機関とのスムーズな連携体制の形成に重要である。 図3アセスメントの手法 アセスメントの具体的目的 利用者の安定した職業生活の実現を支援するためには、支援者が、利用者の特性を課題点のみならず強みとしても捉え、課題改善に向けて何を取り組むか、どのような職場環境であれば力を発揮できるか、どのような支援が効果的か等多面的に分析をする必要がある。したがって、アセスメントは機械的、定型的に行われるのではなく、利用者の何を把握するためにその手法を用いるのか、それを把握することは利用者や支援者に何の意味があるのか等を念頭に置きながら、目的意識をもって進めていかなければならない。 例1面接における質問 前職において辛かったことを聞く 不適応要因となりうる場面や環境を把握し、職業選択に活かす ストレス場面における利用者の状況やその際の対処行動を把握し、利用者のストレス対処スキルの向上に向けた支援の必要性や方法を検討する 例2作業場面における指示 簡易な言語への対応状況を把握する 見本やマニュアル等がない場面での作業手順の理解度を把握したり、就職後に職場で必要とされる配慮や支援ツールの活用等を検討する 分からない場合や戸惑った場合の対処行動を把握し、利用者の対人技能スキルの向上に向けた支援の必要性や方法を検討する ここまでのアセスメントの概要を踏まえ、プランニングとの関連性は以下の図のとおりである。 図4アセスメントとプランニングのイメージ 2.本書で解説するプランニング(支援計画の策定)の概要 本書においては、どのようにプランニングを進めていくか(プランニングのステップ)、どんな内容をプランニングに盛り込むか(プランニングの内容)について、各事例を通じて分かりやすく解説をしている。 ここでは、プランニングのステップ、プランニングの内容について概要を説明する。 プランニングのステップ プランニングは大きく以下のステップを通じて行われる必要がある。 1情報の整理 アセスメントで把握・分析した情報を整理し、それらを基礎として導き出される結論、利用者が安定した職業生活を実現するための課題、今後の支援計画をまとめる。 2ケース会議等での検討 アセスメントを担当した支援者は独自の判断のみでプランニングを行わず、必要に応じてケース会議等において検討を行うとともに、文書にてとりまとめ組織決定を行う。 3利用者に対する説明と同意 支援計画は、原則として利用者に書面で提示し、内容を分かりやすく説明した上で同意を得る。障害等のために利用者単独では理解が困難な場合は家族等の同席を求め、本人および家族等の同意を得る。 適切に同意を得るためには、インテークやアセスメントの段階から利用者と丁寧に双方的なコミュニケーションを取ることが重要である。例えば、利用者が「何のためにアセスメントで組立作業を行ったのか」の理解が十分できていなければ、組立作業の結果を踏まえて今後の方針を説明しても、十分な納得を得られない。利用者が理解しやすい説明ができているかについて、常に注視する必要がある。 4関係機関への連絡 策定された支援計画は、利用者の同意を得た上で関係機関と共有し、関係機関も同じ方向を向いて支援を進める必要がある。 図5プランニングのステップ 情報の整理 ケース会議等での検討 利用者に対する説明と同意 関係機関への連絡 プランニングの内容 支援計画の内容は、アセスメントの結果、支援機関の役割、提供するサービスの内容等により様々であるが、主に以下の項目が必要である。 1現状と支援の方向性 利用者が安定した職業生活を営むために、最も効果的な支援や進むべき方向性等を明示する。 安定した職業生活を営むことが目標であるが、その中で個々の障害者が持つ現状の希望やニーズを踏まえ、当面の方向性を具体的に示すことが肝要である。 2具体的目標 1を進める上で、利用者と支援者の共通目標とその到達レベルを明確にする。 3支援内容 利用者が2を達成するために、支援者が行う支援内容及び支援方法を明確にする。 4支援体制 関係機関に求める協力内容と役割分担を明確にする。 3.アセスメントとプランニングの現況等 アセスメント等の定義や就業支援機関における実施状況は次のとおりである。 就業支援に係るアセスメントについての厳密な定義はない。 vocational assessmentを職業アセスメントと訳し、evaluationを職業評価とあてる場合もある。西川は職業評価に基づいて、職業リハビリテーション計画作成とそのための実行と効果について評価することを「職業リハビリテーション評価」とよんでいるが、より包括的な作業として、職業アセスメントの意味する範囲と重なると考えられる(日本職業リハビリテーション学会.職リハ用語研究検討委員会編集:職業リハビリテーション用語集第2版.2002より)。 地域障害者職業センターでは、アセスメントを職業評価として実施しており、障害者が職業生活における自立を最も効果的に果たすことが出来るよう、各種の方法を通じて障害者の職業能力・適性に関する現状と将来性についての知見と見通しを得て、適切な職業リハビリテーション計画(プランニング)を策定することを目的として、実施している。 地域の就業支援機関におけるアセスメントの状況については、例えば就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターにおいて、当機構が開発したトータルパッケージを利用したアセスメントを実施している施設も見られるが、多くの就労移行支援事業所では既存の作業を通じて、上記のアセスメントを入所に際して行い、プランニングに基づき入所契約を結んでいる。その後の2年間の利用期間の中で、アセスメントとプランニングを繰り返し行い、より詳細に利用者像を把握している。また、アセスメントを行うためのツールとして、当機構が開発した「就労移行支援のためのチェックリスト」を活用している施設もあれば、独自に様式等を作成している施設もある。障害者就業・生活支援センターについては、法人内に就労移行支援事業所がある等、作業場面を確保できる施設もあれば、相談室のみの施設も多いなどアセスメントの実施状況は様々であり、関連してプランニングのタイミングや提示方法も一様ではない。このように、アセスメントやプランニングを行うための環境条件は施設ごとに様々である。それゆえに支援者は、アセスメントとプランニングの概要を理解した上で、支援者自身や自機関の取組状況をモニタリングすることが望まれる。