第2章事例から学ぶ障害別のアセスメントとプランニング 事例1 ワークサンプル幕張版(MWS)等を活用したアセスメントとプランニング 実施機関 地域障害者職業センター 対象者の障害 発達障害 本事例の概要 地域障害者職業センターが行う発達障害者に対する職業評価を通じて、インテーク・アセスメント・プランニングのそれぞれの過程における留意点を紹介します。 ここでは特に、それぞれの過程における本人に対しての配慮事項、本人との共通認識を形成するためのコミュニケーション方法等について、発達障害の特性を踏まえながら具体的に紹介します。 参考となるキーワード アセスメントを行うに当たっての目的や意図の明確化 障害に起因する認知特性を踏まえた本人とのコミュニケーション方法 プランニングに向けた合意形成を図るステップ アセスメントとプランニングを通じての自己理解の促進 本事例のキーパーソン 支援対象者Aさん(発達障害のある女性、20代) 主たる支援者地域障害者職業センター(障害者職業カウンセラー) 支援経過 1.インテークの状況 (1)地域障害者職業センターへの来所経緯 Aさんが地域障害者職業センター(以下、職業センターという。)に来所されたpoint1。事前の連絡はなく、ホームページで職業センターの存在を知り、仕事に関する相談をしたいとのことであった。 ココがPoint1 職業センターや他の就業支援機関でも、事前予約を基本としているところが少なくありませんが、発達障害のある方は、その障害特性から相手の気持ちの汲み取りや段取りの組み方等に特徴があるため、予約なく突然来所されることもあります。支援者はそういった状況も鑑み、普段から全職員が自機関について共通の説明ができるようにパンフレット等を整備し、インテークの実施方法を職員間で打ち合わせ、共通対応が行えるように準備しておくことが重要です。 (2)インテークの実施 Aさんの概要 大学卒業後、Aさんは正社員やアルバイトで数社勤務したがいずれも長続きしなかった。27歳の時に広汎性発達障害と診断され、精神障害者保健福祉手帳3級を取得していた。 1主訴の聴取 障害者職業カウンセラー(以下、カウンセラーという。)は、現段階のAさんの主訴を明確にすることをねらいとして相談に応じた。 なお相談に当たっては、職業センターが予約制であること、本日は突然の来所のためスケジュール上相談時間が30分程度になることをあらかじめ説明したpoint2。 ココがPoint2 相談受付は、今後の支援で必須となるラポールの形成を左右する第一過程となります。ゆったりした雰囲気を保ちつつ傾聴するなど、来所経緯や主訴が話しやすいような雰囲気作りに配慮することが大切になります。 本事例のように、突然の来所の場合は支援者に十分な時間がない等の問題があります。対応可能な時間、継続相談を希望する場合の今後の予定(見込み)を伝え、当日の対応に限界があることを事前に本人に提示することで、支援者も慌てずに普段通りの対応が行えます。 相談では、現段階のAさんの主訴を明確に把握するため、1来所の経緯、2職業に関 して現在感じている不安や実際に困っていること、3職業センターが行う支援への期待等を聞き取った。 1来所の経緯については、1年ほど前に広汎性発達障害の診断を受け、精神障害者保健福祉手帳を取得したこと、就職に不安があり相談できるところをインターネットで検索をしたところ職業センターを知ったこと等について、断片的に話された。 なお、この時点で職業センターのサービス概要と個人情報に関する取扱等について説明を行い、同意を得た。また職業センターを今後利用しない場合は、個人情報を記録に残さない旨を説明した。 2職業に関して現在感じている不安や実際に困っていることについては、今まで数社で働いたが仕事が長続きしないこと、1年前に広汎性発達障害の診断を受けスッキリしたが、今後の就職にどう影響するか不安があること、自分に向いている仕事が分からないこと、自信が持てず就職活動への一歩が踏み出せないこと等を話されていたpoint3。 これらの発言からカウンセラーは、広汎性発達障害の診断を受けたことで離転職の要因が少し明確になったことはよいが、障害特性を踏まえた具体的な今後の働き方や求職活動の仕方が分からずに困っているとAさんの状況を捉えた。 3職業センターが行う支援への期待等については、特に上記Aについての相談・支援が受けられることを期待されており、障害特性を踏まえた働き方や就職活動の方向性に関するアドバイスが欲しいこと等でよいかAさんに確認し、了承を得た。 ココがPoint3 主訴の聞き取りは、この段階では断片的にならざるを得ません。主訴を安易に支援者がまとめるのではなく、まず本人が話す事実そのものを把握することが重要であり、その上で支援者の受け取った内容が本人の思いと相違ないかを確認します。つまり、主訴を聴取する段階からプランニングに向けた合意形成がスタートしていると言えます。 2障害受容について 診断が確定した際の気持ちについては、「診断前は、学校や職場で上手くいかないことで自分を責めたり疑っていたが、その理由が分かりスッキリした。」と自然にためらいなく話されていた。このことから、カウンセラーはAさんが広汎性発達障害の診断を前向きに受け止めており、今後の就職に向けた支援が可能な状態にあると推測した。 3インテーク後の支援の方向性について カウンセラーは、主訴の把握と併せてパンフレットを活用しながら職業センターのサービス内容とその流れを一つひとつ説明し、不明点等については補足説明を行った。 今後の具体的なAさんの支援については、職業評価を通じて障害特性が及ぼす職業的課題、適性のある職業領域や職務内容等を具体的に整理した上で、Aさんに合った働き方や就職活動の方向性を検討していくことを提案した。Aさんも「職業評価や個別相談を受けたい。」と話されたためpoint4、次回の来所予約を受け付けるよう所内で調整し、具体的な日程については追って連絡することを伝えたpoint5。Aさんは終始穏やかな表情ではあったが、「実は相談を断られるかもしれないと不安だった。継続相談ができることになってホッとした。」と話されたpoint6。 ココがPoint4 支援者の提案が一方的にならないよう適宜本人の感想を聞くなど、どのように受け止めているかを確認することが大切です。表情等をさりげなく観察することもポイントです。 ココがPoint5 支援開始に当たっては、職員間で情報共有し、他の職員の意見を得た上で決定することが望まれます。例えば、本人の特徴やニーズに応じて担当者を決定したり、場合によっては他の関係機関の利用を検討する等、より良い方策が検討できることもあります。 ココがPoint6 発達障害のある方の場合は、その特性から自分の思いが相手に正確に伝わらなかったり、逆に相手の思いを正確に受け止められなかったりするなど、コミュニケーション上の負の経験を持つ方が多くいます。そのため、受付の段階から支援者の態度に過敏に反応をしてしまう方が多くいます。 例えば、サービス内容のポイントのみを説明したことから支援者に拒否されたと感じる方や、支援者に素直に相談したいと思っていても批判的な言葉を投げかける方等、表現の仕方は様々です。そのため表面的な態度や言葉だけでなく、本人の気持ちを汲み取ることが大切です。 職業センターを継続利用することになったため、相談の終わりに「職業相談票(図1)」に必要事項を記入してもらった。併せて、Aさんに「職歴や日常生活での困り感を記載する振り返りシート(図2)」の記載内容について、精神面を含めて負担がないかを確認したところ、一人でも負担なく記入できそうとのことであったため、次回の相談日までに記入の上で持参するよう依頼し、本日の相談を終了したpoint7。 ココがPoint7 同シート等の調査票を活用し、相談前に必要な情報を収集することでアセスメントを幅広く効率的に行うことができます。しかしながら、障害特性に触れる内容の場合は、本人の精神的負担(例えばフラッシュバック等)に繋がる可能性もあります。このため、本人の特徴や気持ちを踏まえた上での実施が望まれます。 インテーク時に把握した「職業相談票」の項目の記載内容は下記のとおり。 名前Aさん 年齢28歳(生年月日) 連絡先、住所、最寄駅 ハローワーク登録状況 一般窓口の登録はあるが、専門援助部門の登録はない。 障害者手帳の有無 精神障害者保健福祉手帳3級 通院等に係る情報 広汎性発達障害の診断あり。定期通院・服薬はない。 家族構成 父、母、妹(現在一人暮らしであり、両親は県外に在住している。) 学歴中学、高校(普通学校)を卒業後、その後丸大学丸学部を卒業。 デイケア作業所等利用歴は特になし。 職歴 初めて就職した年をX年と表記。 平成X年8月から平成X足す1年6月飲食店 平成X足す3年5月から平成X足す4年9月飲食店 平成X足す4年10月から平成X足す5年8月ビジネスホテル 平成X足す6年6月から平成X足す8年3月営業所事務 図1職業相談票 図2職歴や日常生活での困り感を記載する振り返りシート 2.アセスメントの実施状況 職業センターでのアセスメントについて 職業センターにおけるアセスメントは、第1章アセスメントとプランニングの概要のとおり職業評価と呼ばれ、障害者が職業生活における自立を最も効果的に果たすことができるよう、各種手法を通じて、障害者の職業能力・適性に関する知見と見通しを得て、適切な職業リハビリテーション計画(プランニング)を策定することを目的としています。 職業センターが実施しているアセスメントの各種手法は、1面接・調査、2検査(心理 的・生理的検査)、3ワークサンプル法、4施設内の模擬的就労場面の活用、5職務試行法(事業所での作業遂行により、障害者の職業的諸特性を評価する手法)の5種類に大別できます。なお本事例では、1面接・調査、2検査(心理的・生理的検査)、3ワークサンプル法による職業評価を主に実施しています(なお参考事例では、4施設内の模擬的就労場面の活用を通じたアセスメント例を紹介します)。 本事例でのアセスメントは、合計3日間に分けて実施していますが、障害者個々の状況や各職業センターの実施体制等により実施日数等は異なります。また本事例においては発達障害の特性に考慮し、一つひとつの検査について実施する意味とその結果に係る説明を行うなど、本人とのコミュニケーションに配慮しています。 (1)面接・調査(アセスメント第1日目) 1日目は、「面接・調査」による本人との聞き取りを主に実施。 1アセスメント(職業評価)の目的等の説明 イ.アセスメントの目的と手順について アセスメントの目的等の説明に当たっては、口頭説明に加え、図3により視覚情報も交えた説明を行い、正確に理解できるよう配慮した。 具体的には、最初に働き方に関する希望を明確に把握し、次に現状の働く力をアセスメントにより把握(希望と現状の把握)すること、その上で就職に向けたプランニング(職業リハビリテーション計画)を立案するという流れになることを説明した。Aさんからは、「一連の流れがよく理解できた。」という感想をこの時点で得ることができた。 ロ.アセスメントのスケジュールについて Aさんのアセスメントの実施回数・期間については、1週間ごとに1回ずつ計3から4回程度実施し、その上でアセスメント結果(職業リハビリテーション計画)を提示するスケジュールであることを伝えた。 図3職業評価のイメージ 2面接・調査の具体的内容 イ.本人が抱く働く力に関するイメージについて Aさんに対し、「働く力とはなんだと思いますか」という問いかけを行ったところ、ミスなく仕事ができることや素早く仕事ができることなど、職務遂行に限定した働く力について話された。 そのためカウンセラーは、働く力のイメージ(図4)を提示し、Aさんの話は一番上の仕事の力に当てはまるもので、これからのアセスメントを通じて、健康管理の力、日常生活の力、労働習慣の力も含めた「働く力」を把握していくことを伝えた。 するとAさんは、「コミュニケーションスキルやストレスケアは確かに大切であるため、働く力について具体的に把握したい。」とスムーズに回答するなど、本イメージ図の提示は、Aさんにとっての分かりやすさに繋がったと判断した。そのためアセスメント結果を説明する際には、Aさんの理解をスムーズにするツールとして活用していくこととした。 ロ.就職に向けた希望や考え方について Aさんに対して下記の就職希望に関する聞き取りを行い、回答を得たpoint8。 1勤務時間 1日6時間以上の勤務がしたい。 2給与 手取りで最低月15万円程度は欲しい。 3通勤時間 1時間程度で通勤できるところがよい。 4希望の仕事・適性のある仕事 希望の仕事、向いている仕事は何かよく分からない。 5働く理由 親の仕送りで一人暮らしをしているため、経済的にも自立したい。 6働く時期 すぐに就職したいが、必要があれば訓練の受講も検討したい。 図4働く力のイメージ 安定して働くための力のイメージ ピラミッドの土台は心身の健康管理の力 例)定期通院・服薬、病状認識、身体機能、疲労・ストレスのケア、体調管理、精神耐性 ピラミッドの土台の上は日常生活の力 例)起床就寝、食事栄養、清潔整容、余暇息抜き、金銭管理、移動、交友関係 その上は労働習慣の力 例)ビジネスマナー、言葉遣い、報・連・相、指示応答、意思表示、コミュニケーション、感情統制、環境適応、時間厳守、基礎体力、身だしなみ、安全管理、自発性、真面目さ ピラミッドの1番上は仕事の力 例)意欲、自信、作業速度、集中力、作業理解、持続力、正確性、創意工夫 ココがPoint8 アセスメントというと障害特性や職業的課題に相談の焦点が当たりがちですが、ラポールが形成されていない段階で詳細に把握しようとすると、本人もそれがストレスとなり話しづらくなることがあります。また個々に悩みの質や深さが異なるため、ラポール形成の段階では十二分に配慮する必要があります。 そのため、初期段階では、就職に向けた希望や考え方を丁寧に確認することがポイントであり、その後の面接・調査を円滑に進めることにも繋がります。また、職業に関する希望を最初に把握することは、その希望が現実離れしていないかを把握するとともに、本人の希望に即したアセスメントを行うために、どのようなツールで実施するかをこの時点から検討することにも繋がります。 上記質問4希望の仕事・適性のある仕事の際は、Aさんは自分に向いている仕事のイ メージが持てずに考え込んでいた。そのため、地域の労働市場に比較的多くあり、かつ職業センターの利用者が実際に就職した職種を具体例として記載した図5を提示し、その中から興味のある仕事や遂行できそうな仕事を選んでもらった。 図5仕事の例 オープンで就職した方の仕事の例 事務(補助) 場所 オフィス、福祉施設、倉庫 作業 PCデータ入力、書類の整理、郵便物の仕分け・集配、シュレッダー、名刺作成・整理、電話対応、スキャニング、ラベル貼り 環境整備(清掃・営繕) 場所 福祉・医療施設、オフィス、工場・倉庫、公共施設、小売店店舗 作業 清掃(廊下、階段、外回り、事務所、トイレ、応接室、食堂など)、備品管理、洗車、ゴミ出し、ゴミ分別、電球取り換え 小売店での品出し・バックヤード 場所 スーパー、衣料、家電、百円ショップ、スポーツ用品、本屋 作業 袋出し、補充、前出し、在庫チェック、カート整理、袋詰め スーパーバックヤード部門 場所 青果、生肉、鮮魚 作業 袋詰め、カット、洗浄、シール貼り、ラッピング、品出し・陳列 物流倉庫 場所 食品関係、飲料関係、雑貨関係、衣料関係 作業 ピッキング、荷降ろし、積み荷、梱包、段ボール整理、コンテナ洗浄 調理・飲食関係 場所 レストラン、社内食堂、公共施設、福祉施設 作業 調理、調理補助、食器洗浄、フロア補助 その他 福祉施設等での洗濯作業、工場内組立作業、食品製造工場でのライン作業、各種サービス業種でのバックヤード・補助作業、クリーニング、リサイクル工場(分別・破砕)、園芸など その結果、Aさんは希望の職務内容までは挙げられなかったが、興味のある職務内容や向いていると感じている職務内容として、過去の職務経験を踏まえて下記を挙げていた。 興味のある職務内容 接客自体は興味がある仕事である。しかしながら、交渉や咄嗟のやりとりには不安を感じている。 向いていると感じている職務内容 実際の作業内容がイメージしやすい定型的な業務は向いていると感じている。(事務職であれば、文書整理、書類チェック、パソコンを用いた定型的なデータ入力) 以上の回答については、労働市場やこれまでの勤務経験に照らして大きく隔たっている内容ではなかったため、Aさんの現実検討は確かなものであると判断した。ただ、興味のある仕事は何かを聞き取った際に、接客については悩みながら回答したことから、対人コミュニケーションについての自己肯定感が低く、不安を抱えている様子が窺えた。 ハ.障害の開示・非開示について 障害の開示・非開示については、「上司や同僚に自分の障害を理解してもらえると安心できる。」と話す一方で、「障害を開示すると採用されないのではないか、仮に採用されても受け入れられるか心配。」等の不安も話された。 カウンセラーからは、仕事の例(図5)の資料は、全て障害を開示して就職している方の情報であることを伝えるとともに、障害の開示・非開示については、今後の職業生活を左右する重要な問題であることから、自分のペースで焦らずじっくり決めればよいことを伝えたpoint9。 Aさんは、障害を開示しても就職した例があることを聞き、「開示することに気持ちが少し傾いた。」と話された。 ココがPoint9 障害の開示・非開示は、職歴のある方はもちろん、就業経験のない方も特に悩まれるポイントになります。一般求人で就業可能な職業能力を備えた方であっても、応募する事業所の職務や人的環境は様々であるため、採用後に不適応に陥る可能性もあります。そのため長期的な職場定着を考えると、開示を検討することが現実的な選択となるケースが多いのですが、支援者は開示・非開示のメリット・デメリットを分かりやすく伝えつつ、本人の自己決定を支援する姿勢が求められます。 ニ.就業にあたっての不安事項等について 働く際の不安事項等を聞き取ったところ、「作業についていけるか。」「対人関係が上手くできるか。」との回答があった。逆に「何か自信が持てることはありますか。」と尋ねたところ、「全般的に自信がない。」と回答に詰まった様子で話された。 何に自信が持てないのか曖昧な様子であったため、自分の特徴についてセールスポイントも含めて客観的に振り返ることができるよう、働く力のイメージ(図4)を用いながら相談を進めた。 結果は、次ページの図6のとおり。 Aさんは、ピラミッドのトップにある「仕事の力」に関してはほとんど自信がないと話されていた。しかしながら、「労働習慣の力」「日常生活の力」「心身の健康管理の力」の中にセールスポイントもいくつか含まれる結果となるなど、「もっと×印が多くなると思ったのに意外だった。」とAさんは話された。またカウンセラーからは、その他にもビジネスマナーや身だしなみ等がセールスポイントになると印象を伝えた。 今後は「仕事の力」も含め、Aさんの自己評価とカウンセラーによるアセスメント結果を比較検討しながら進めていくことを伝え、Aさんは了承した。 図6Aさんの自己評価 安定して働くための力のイメージ 丸印は自信がある、特に課題があると思わない。バツ印は苦手、課題があると思う。 ピラミッドの土台の心身の健康管理の力(例)定期通院・服薬、病状認識、丸印身体機能、バツ印疲労・ストレスのケア、体調管理、精神耐性 ピラミッドの土台の上の日常生活の力(例)起床就寝、食事栄養、丸印清潔整容、余暇息抜き、金銭管理、丸印移動、交友関係 その上の労働習慣の力(例)ビジネスマナー、丸印言葉遣い、報・連・相、指示応答、バツ印意思表示、バツ印コミュニケーション、バツ印感情統制、バツ印環境適応、丸印時間厳守、丸印基礎体力、身だしなみ、安全管理、自発性、真面目さ ピラミッドの1番上の仕事の力(例)意欲、バツ印自信、バツ印作業速度、集中力、バツ印作業理解、持続力、バツ印正確性、バツ印創意工夫 ホ.障害の特徴や診断の状況について 次に、Aさんが持参した医療情報に係る書類(手帳申請時の書類の写し)と、「職歴や日常生活での困り感を記載する振り返りシート(図2)」を基に、聞き取りを実施した。 診断の経緯・結果 Aさんは27歳の時、発達障害の可能性を疑い現クリニックを受診し、広汎性発達障害の診断を受けた。その後、主治医の勧めで精神障害者保健福祉手帳3級を取得。現在は通院・服薬の必要はなく、主治医から障害の特徴についてアドバイスを受けたい時のみ受診しているpoint10。 ココがPoint10 発達障害のある方の中には、うつ病等の二次障害がないことから定期通院の必要がない方も多数います。その場合は、主治医とのコンタクトや情報収集が容易でない時もありますが、必要があれば本人の了解を得た上で、主治医やコメディカル等から可能な範囲で医療面に係る情報収集を行うことが適当です。 広汎性発達障害と診断されたことについて、Aさん自身は納得している。これまでのつらい生活歴の原因が分かってスッキリし、むしろ自分の特徴をもっとよく知りたいと考えている。なお、診断結果は両親にも伝えており、母親は受容的である。父親からは特段何も言われていないが、抵抗感はない様子である。障害の開示・非開示の判断については、両親はAさんの意思を尊重するだろうと考えている。 また、診断の際にクリニックでWAIS−Vを実施したが、Aさんは詳細な記録を所持しておらず、「言語理解(一般常識等の社会的な知識やその学習能力)は標準域にあるが、知覚統合(図や地図等の空間把握能力)、作動記憶(ワーキングメモリーと呼ばれている力)の2つが標準に比べてやや低位」との内容のメモのみ所持していた。以上からカウンセラーは、言葉理解には特に問題がないが、地図等による視覚的な情報把握や段取りの組み立て等が苦手なこと、何事も実際に行動に移る際には時間がかかることを予想した。そのため、作業に取り組む際は事前に段取りの組み立ての大枠を提示することや、瞬時の判断が求められる作業よりも繰り返し行う作業の方が安心して取り組めるであろうことを想定した。 職歴や日常生活での困り感を記載する振り返りシートの状況 上記シートの内容を確認し、作業面、対人面、思考・行動面についての特徴を共有した。多くの項目に丸印を付けていたため、Aさんに確認を行い顕著に感じるものについては二重丸印を付けた。結果は以下のとおりであるが、例えば感情のコントロールが難しい等、カウンセラーが面接時に把握した状況と異なる回答については、実際のエピソード等を交えて詳細を聞き取った。 また、今後必要があればカウンセラーが主治医と情報交換を行うことについて了承を得るとともに、次回の通院時には、カウンセラーの名刺を主治医に渡してもらうこととした。 Aさんが捉えている自分の特徴 作業面 指示書は文字だけでは分かりにくいため、写真や図などの視覚情報があった方が最も分かりやすい。次に口頭説明があった方が分かりやすい。 周囲の状況から対応方法を判断したり、言葉で相談しながら同時並行で仕事を進めることは苦手である。 一度作業のコツを掴めば、その後は安定して行える。 分からなくてもハイと言ってしまうことがある。 対人面 表情や態度等から、相手の気持ちを読み取るのが苦手である。 感情のコントロールが難しい(具体的な場面の一例としては、急に予定が変更した時、自分の思いが伝わっていない時、注意された時、落ち込んだ時など)。 職場のフリータイム(休憩時間)での会話が苦手である。 思考・行動面 興味の偏りがある。 環境の変化に適応しにくい。 一度に複数の指示や多くの情報が入ると混乱する。 計算が苦手である。 へ.生活歴及び職歴に係る聞き取り 次に、職業相談票を基に生活歴及び職歴等についての聞き取りを行った。なお、生活歴や職歴等を聴取することは、働く力をある程度客観的に把握する目的があることを事前に説明した。またカウンセラーは、聞き取りに際して失敗体験だけでなく成功体験や楽しかったこと、興味を持っていたこと等を確認しpoint11、Aさんの課題とセールスポイントの両面を把握した。 ココがPoint11 職歴を聞き取る際は、失敗体験だけでなく成功体験を明確に把握することが、職種選びや就職への動機づけに役立ちます。特に複数の職歴がある方の場合は、やりがいを感じた職場や働きやすかった職場などを確認することが重要です。また、これらの把握はややもすると一方的な聴取になりがちですが、本人に合った働き方や職場環境をイメージするための振り返りとして実施することが自己理解を深める上でのポイントにもなります。 学生時代の様子 小中高校時 学童期から運動が好きで、現在も気持ちに余裕がある時はジョギングを行っている。 小中学校時は、比較的優等生でクラス長を務める等活発な面があった。しかしながら高校時は、勉強についていけなかったことや周囲に溶け込めなかったことから人間関係作りも消極的になり、悩むことがあった。 大学時 一人暮らしを始めたが、家事などでは特段困ることはなかった。 大学入学後は、高校時の状況を変えようと単位取得やサークル活動等に積極的に取り組んだが、やはり人間関係においては周囲に溶け込めない感覚があった。また、異性との交際もしていたが何かしっくりこなかった。 大学2年生頃から徐々に塞ぎ込むようになり、最寄りの心療内科を受診。精神安定剤を服薬するようになった。なお、具体的な診断名についての記憶はない。この頃から大学には必要最低限しか登校しなくなり、友人関係はかなり限定的になった。卒業については、一人で旅行するなどしてリフレッシュを行い、何とか卒業した。 心療内科への通院については、定期的には通院しないで時々精神安定剤を処方してもらっていた。しかし徐々に精神的なしんどさも減ってきたため、大学4年生頃から通院も服薬もしなくなった。 力ウンセラーがポイントとしてAさんと共有したこと 人間関係上の大きなトラブルはなかったが、周囲に溶け込めないことに悩むことが多かったこと。 気分転換の方法は、旅行などで環境を変えることだったこと。 好奇心が強く活発なタイプであるが、エネルギー配分がやや苦手であるため、活動量の差が大きくなる場合があること。 今はつらい思い出となっているが、普通にできていたことも多かったこと。等 大学卒業後の状況 就職活動はほとんど行わず、平成X足す4年3月に大学を卒業。卒業後半年程度は、大学4年生から行っていた喫茶店(個人経営)でのアルバイトを続けた。なお、勤務条件は5時間勤務(16時から21時)で調理補助や接客を行っていた。アットホームな雰囲気で馴染みの客も多かったため、接客も楽しく行えていたが、同年9月に正社員の仕事が決まったため円満に辞職した。ちなみに大学1年から2年生の時に大手飲食店でアルバイトをした際は、レジ打ちのミスやオーダーの取り間違いがあるなど、自分の接客対応に不安になることが多々あって辞職した経緯がある。 平成X足す4年10月から平成X足す5年8月まで、ビジネスホテルに正社員として勤務(9時から17時)。職務は主に庶務やフロント補助を行ったが、作業がなかなか覚えられない、同じミスを繰り返す、特定のスタッフとのコミュニケーションが苦手等があり、仕事が怖くなり辞職した。 平成X足す6年6月から平成X足す8年3月まで営業所のパート事務職として勤務(9時から17時)。電話の取り次ぎやデータ入力等を行った。当初はゆとりを持って仕事が行えていたが、社員が相次いで辞職したことから仕事が増加。その結果、ミスや覚えられない仕事が多くなり辞職した。その頃、たまたまインターネットで発達障害のことを知り、自分に該当すると感じたことから現クリニックを受診。広汎性発達障害の診断に至った。 これまでの職歴について、前向きに働けた職場について尋ねると事務と喫茶店を挙げた。理由は、両職場ともにアットホームであり自分を理解してもらえていたこと、仕事も少しずつ覚えることができたことを理由に挙げていた。 カウンセラーがポイントとしてAさんと共有したこと 職種について、仕事としては事務が最も安定していたが接客の方が好きであること。 職場適応について、周囲に自分のことを理解してもらうことで、安心して周囲とコミュニケーションが取れ、仕事にも取り組めること。また、時間に追われず一つひとつ作業を行える環境が大切であること。 ストレス対処について、一人で溜め込んでしまったり回避的な方法になってしまう等、対処法のバリエーションが少なくかつ偏りがあること。 体力面について、1日6時間以上の勤務もさほど負荷にならないと思われること。 事前に支援ツールの記載を依頼したこともあり、相談は比較的円滑に進んだがpoint12、以上の相談に約2時間程度 を要した。終了後に疲労感について確認すると、「色々と話せて良かった。疲労については大丈夫です。」と話されたが、表情からはやや疲れている様子が窺えた。 ココがPoint12 特に発達障害のある方には、これまで示したツールやホワイトボード等を活用し、認知特性に合わせたコミュニケーション方法に配慮しつつ相談を進めることが大切です。本ケースは、言語理解の能力が高いためコミュニケーションが比較的円滑に進んだ事例ですが、発達障害の方の場合は、うまく発言できないことや十分に伝えられないことがある場合がよくあります。また、質問する意図を明らかにするとともに、不明なことは遠慮なく尋ねるように伝えておくことも重要です。本人も安心して回答ができ、情報収集が円滑になる側面があります。 相談では、Aさんには事務、接客、商品管理等幅広い業務経験があること、また作業面のエピソードについては、同じミスを繰り返したり仕事を覚えるのに時間がかかる等があることを把握した。 次回からは、今回の面接・調査の結果を踏まえ、各種検査を通して仕事面における具体的な課題や特徴等を確認したい旨を伝え、Aさんから了承を得た。なお各種検査については、今後の就職先として想定される可能性が高い事務や店舗内作業で求められる能力を把握するための検査を選定することを伝えた。 (2)厚生労働省編一般職業適性検査の実施(アセスメント第2日目) 2日目は、厚生労働省編一般職業適性検査(通称GATB:General Aptitude Test Battery)を実施した。 GATBの概要 検査の趣旨 GATBは、多様な職業分野で仕事をする上で必要とされる9つの能力(適性能)を検出することにより、個人の理解や適性のある職業領域の探索等、望ましい職業選択を行うための情報提供を目的として作成されています。この検査は進路指導用、職業指導用の2種類があり、中学・高校・大学及び職業相談機関等において幅広く活用されています。なお、適性のある職業領域を検討する際には、GATBの結果のみに基づき本人に情報提供するのではなく、後述の他のワークサンプル等の作業検査や個々の障害特性を踏まえながら、適職を検討する際の材料の一つとして慎重に勘案していきます。 職業センターでは、本人の職業能力の大枠を把握するための最初の方法の一つとして活用することが比較的多くあります。 検査の概要 同検査は、指定の用紙を用いて鉛筆で記入し11種類の検査を行う紙筆検査(45から50分)と、4種類の器具検査(12から15分)の2つから構成されています。指先・手腕の器用さを要する検査、計算を正確に行う数理能力を用いる検査、物の位置や大きさを正確に判別する検査等、様々な職業に必要な9つの職業適性能を測定し、その結果により13の職業適性群が検出され、本人の職業適性を把握する一助としています。 説明と練習を実施してやり方を確認した上で、本検査を所定時間行います。 1GATBの実施 カウンセラーは、上記のGATBの概要を簡潔に説明した上で検査を開始し、検査中のAさんの取組みについて詳細に行動観察を行った。 イ.質問等の意思表示や作業スピード等 紙筆検査 何度かみられた行動特性としては、例えば、検査8の1ページ目の回答例を説明し、質問がないか確認をした後に2ページ目の説明を行ったが、Aさんは1ページ目の回答例をじっと見たままでこちらの働きかけに対して反応はなかった。そのためカウンセラーは、「何か分からないことがあったら、説明中であっても質問して下さい。」と再度声かけを行ったところ、ようやくAさんから「同意語と反意語はどちらか一つだけ入っているということでよいですか」と、1ページ目に記載されている内容についての質問がなされた。 カウンセラーは、これらのAさんの行動から、1文字情報の理解に時間を要する可能性、2不明点を整理し言葉にするまでに一定の時間を要する可能性、3指示等を一方的に聞く場面では質問するタイミングを図ることが難しい可能性等を推測したpoint13。 ココがPoint13 本人が普段と違う行動をしたり戸惑う場合などは、その行動の理由について、特定はできなくとも支援者が仮説を立て推測していくことが大切です。また立てた仮説については、聞き取りで確認したり、他の検査等の場面でも把握するなどして推測を続けることにより、本人の特性や職業的な課題を明らかにすることに繋がります。 器具検査 大まかな手腕動作を把握する器具検査では、戸惑うこともなく作業に取り組めており、回数を重ねるごとに作業量も向上した。 指先の巧緻性を把握する器具検査では、手順が乱れや細かい部品を落とすことがあるなど、戸惑う様子がみられた。 2GATBの実施結果の聞き取り GATBの実施結果について、Aさんから感想を聴取したpoint14。 紙筆検査について、Aさんがやりにくかったと話されたのは、「検査6置き方をかえた図形を探し出す検査」「検査9展開図で表された立方体を探し出す検査」等、図形を見比べてその形や陰影、線の太さや長さなどの細かい差異を弁別する能力等が求められる検査(形態知覚)や、平面図から立体形を想像したり考えたりする能力が求められる検査(空間判断力)であった。やり易かったと話されたのは、「検査8同意語・反意語を見つけ出す検査」「検査10文章を完成する検査」等、言語の意味およびそれに関連した概念を理解しそれを有効に使いこなす能力や、言語相互の関係および文章や句の意味を理解する能力が求められる検査(言語能力)であった。 器具検査について、指先の巧緻性が求められる検査において手順の乱れや細かい部品を落とすなどのミスがあったことについて感想を聞くと、「手順の乱れには途中まで気付かず、後で気付いてさらに焦ってしまった。」とのことであった。また部品を落としたことについては、「早くやらないといけないと意識した結果焦ってしまった。」と話されていた。 ココがPoint14 検査後に感想を聞き取ることは、本人の特性を把握しその後の検査バッテリーを組む際にも大変有用です。また、検査中の行動観察の際に感じた疑問や仮説を本人に確認できる機会であるとともに、感想によって交わされる会話を通じて、支援者は本人の課題や長所、自己評価等についてイメージを膨らませていきます。 3検査の終了と次回の予定 次回はGATBの結果をフィードバックすることと、事務作業やOA作業等のワークサンプル幕張版を行うことを確認し、検査を終了したpoint15。 ココがPoint15 検査結果については、当日中にまとめられないことも多くあります。発達障害のある方は、先の見通しがつかないことがストレスになる方も多いため、結果をいつ示すことができるのか具体的に伝えることが大切です。 (3)ワークサンプル幕張版(MWS)によるアセスメント(アセスメント第3日目) 1前回の検査結果のフィードバック カウンセラーは、前回のGATB実施後にAさんの検査結果を採点し、結果記録票(図7)及び職業適性群整理票(図8)を作成した。 図7結果記録票 図8職業適性群整理票 さらに、結果記録票及び職業適性群整理票の情報に、検査時の行動観察やAさんの感想から得た情報を加え、検査結果のフィードバック用資料(図9)を作成した。ちなみに図9は、現段階においてカウンセラーが捉えたPR事項や課題事項等をまとめたものである。 図9フィードバック用資料 厚生労働省編一般職業適性検査 得意分野を把握し、仕事の向き不向きを調べるもの 正確に作業を処理するスピードはB評価からE評価までと得意・不得意の差が顕著です。 各問題の正答率は11問中うち4問が100%、6問が80%以上と比較的安定。展開図(空間認知)のみ70%弱でした。 プロフィール傾向は、1言語能力、書記的知覚、形態知覚、手腕の動作は比較的高く、2空間判断力、指先の器用さは低いです。 言葉の意味の理解力・表現力、文字や平面の形の照合等の視覚的な確認能力は高い。一方で、物の位置関係や奥行きの判断、指先のスピーディな動作は苦手です。 Aさんの検査後の感想と結果はおおむね一致しており、適切に自己理解できていたと思われます。 器具検査ではスピードの意識をした際、手順が抜ける、ミスが発生する等がありました。 検査を通して、タイムリーに質問できない傾向が伺えました。 適性職業群は、販売、個人サービス、事務関係、社会福祉等7領域で挙がっています。 当日は、ワークサンプル幕張版を実施する前に、GATBの結果を上記の結果記録票、職業適性群整理票、フィードバック用資料を用いてフィードバックした。 これまでの結果を踏まえ、ワークサンプル幕張版においては、文字や数字のチェック能力とスピード、作業の段取りや手順の流れを把握する能力、質問・報告等のコミュニケーション能力について、詳しく把握することをAさんに伝えたpoint16。 ココがPoint16 実施する作業課題等の選択に当たっては、把握したい情報を把握できる作業課題であるかどうかについて留意します。また、各作業課題等の特徴や実施目的については、本人へ説明することが必要です。実施目的が共有できると結果のフィードバックもスムーズになり、自己理解を深める一助にもなります。 2ワークサンプル幕張版(MWS)の実施 ワークサンプル幕張版の概要 ワークサンプル幕張版は、1事務作業(物品請求書の作成、作業日報の集計等の事務的作業)、2実務作業(プラグ・タップ組立・ピッキング等、必要に応じ移動等の動作も伴う組立・分解作業)、3パソコンを用いたOA作業(数値入力、文書入力等、パソコンを使用した事務作業)の3種類から構成されており、全体で13種類の課題があります。 簡易版と訓練版に分かれており、作業の疑似体験や職業上の課題を把握するためのアセスメントツールとしてだけでなく、作業遂行力の向上や障害を補う補完手段の獲得のための支援ツールとしても活用が可能です。 作業種の選定に当たっては、Aさんの仕事に対する希望やこれまでに職業評価で把握した状況を踏まえ、事務作業や店舗内での仕分け作業等を想定して選定した。 実施に当たっては、カウンセラーはマニュアルに基づいた指示を出しつつも、Aさんの作業遂行状況を踏まえながら、指示の出し方、介入の仕方、作業結果のフィードバックの仕方を柔軟に検討し、行動観察の目的が果たせるよう心掛けたpoint17。 ココがPoint17 本事例では、Aさんとの相談で把握した希望やセールスポイント等を考慮した上で、ジョブマッチングを意識した検査バッテリーを選択しています。また、検査時の指示の出し方等も数種類のパターンを試行しながらアセスメントを行い、本人がより力を発揮できる指示の出し方等について検討しています。 ワークサンプル幕張版から選定した全ての作業を終え、これまでに実施した面接・調査、GATB、ワークサンプル幕張版の状況を踏まえて翌週に今後のプランニングについて相談することを伝え、アセスメントを終了したpoint18。 ココがPoint18 検査の多くは標準化されているため、本人の特徴を客観的に把握できるメリットがありますが、得られたデータのみによって、本人の特性を判断することはできません。検査の特徴や把握できる範囲や限界を事前に理解することはもちろん、検査中の行動観察、検査後の感想などの聞き取り、他の検査で得られた情報を踏まえ、総合的に本人の特性を推察することが必要です。 アセスメント終了後、作業時間や正答率等のデータ、行動観察から得た情報、さらにAさんの感想も踏まえて、ワークサンプル幕張版フィードバック用資料(図10)をとりまとめた。 図10ワークサンプル幕張版フィードバック用資料 ワークサンプル幕張版 検査項目 正答率 スピード(標準100%) ピッキング 4分の5 106% 物品請求書作成 5分の6 81% PC数値入力 12分の12 93% PC文書入力 10分の10 123% 検索修正 4/5 118% 数値上の結果 作業処理スピードは、物品請求書を除き、概ね標準レベルといえます。 正確さについて、細かい情報への気づきが必要なレベルになるとミスが見られました。 作業ぶりから 文書による指示について、一つ一つ箇条書きになっているものはスムーズでしたが、一文が長く整理されていない場合は理解が出来ず、補足説明が必要でした。実際にやって見せる事が最も分かり易い様子です。 電卓やPC等の操作はスムーズです。PC数値入力、PC文書入力等、見本を転記する作業は安定しています。 ミスの原因は、1詳細な情報に気づくことが出来なかった。2注意の持続が出来なかった(悩んで遂行した後に、うっかり漏れてしまう)。3時間を意識した焦りから、注意が疎かになった等と思われます。一度間違えた後に、再度類似の課題を実施した際は、修正して対応することができました。 大切なポイント 作業の手順、コツ、確認するポイント等を丁寧に教えて頂ければ、習熟が期待できます。 まずは作業の手順などを覚え、ミスなく遂行できるようになった後に、徐々にスピードを伸ばすことがポイントです。 参考ワークサンプル幕張版の実施状況等 イ.ピッキング(実務作業) 選定理由 店舗内作業やバックヤード作業における商品の品出しや在庫管理等の作業を想定。作業場内を随時移動する必要があるなど、注意の配分範囲が広い環境においての作業の照合能力を把握するために選定した。 作業内容 注文書に指定された物品について、4列×30段の棚の中にある計120品目から探し出し、指定された物品及び数または分量を正確に揃える課題。照合しやすい文房具のピッキングから、複雑な記号や数が指定されている薬瓶等のピッキングまで、5段階レベルの難易度が設定されており、移動を伴う照合作業を難易度別に体験できる。 実施状況 注文書をAさんに渡し、「注文書の内容を見て、棚から5つの物品全てを集めてください。」と口頭及びジェスチャーを交えて指示。 5課題(試行)を実施し3試行目まではミスなく行えたが、4試行目でミスが発生した。 作業の目的や手順の理解については、すぐに理解してスムーズに取りかかったものの、4試行目はそれまでの課題より物品の仕様が複雑になっていたこともあり、注意すべきポイントに気づくことができず誤った物品を集めてミスした。 Aさんの感想 検査後にミスの内容を伝えると、「注意すべき箇所に気づかずに見落としていました。」と話された。そのため、注意すべきポイントをあらかじめ口頭で伝え、再度同じ難易度の課題を実施したところ、今度は正確に行えた。 ロ.物品請求書作成(事務作業) 選定理由 簡易事務作業における作業手順の理解、注意の移動・配分を把握するために選定した。 作業内容 品名力一ドで指示された物品をカタログで調べ、物品請求書を作成する作業であり、5段階のレベルの計6物品が記載されている請求書を作成する課題である。カタログで調べる際には、INDEXで検索した上で、該当ページの中から請求番号と同じ物品を正確に検索する段取りをこなすため、作業手順等のワーキングメモリーの維持、注意力の配分・維持等についての特徴が把握できる。また、品名カード、カタログ、物品請求書、電卓等、課題遂行において使用するものが多いため、作業遂行の際に注意が分散してしまう要因となっている。 実施状況 指示書を見て作業するよう伝え、口頭での指示は控えて実施した。ちなみに指示書には作業工程順に番号が振ってあるが、1工程に複数の作業工程が記載されている。 6試行実施し4試行目まではミスなく行えたが、5試行目でミスが発生した。 作業に取り掛かるまでに何度も指示書を読み返し、さらに30秒ほど考え込む様子を見せた後に作業に取り掛かったが、結果的には指示書の手順とは異なる手順で作業を進めていた。その後もふと手を止めては考えるなど戸惑う様子が見られたが、試行錯誤する中で作業手順のイメージが持てた後は、徐々に作業スピードが向上した。 5試行目のミスについては、物品名と記号名はカタログを見て適切に記載していたものの、細部の仕様は、記載の漏れがあった。また、請求書に全ての物品名と単価を記載した上で合計金額を記載するが、その記載箇所を間違えるミスがあった。 なお、Aさんの数字や文字は比較的読みやすい字で書かれており、また電卓の使用も慣れた様子であった。 Aさんの感想 検査後、上記をAさんにフィードバックすると、作業手順や目的等のイメージについては、「指示書を読んだだけでは作業手順を十分理解できなかった。」「作業内容のイメージも持ちづらかった。」と話された。 細部の仕様のミスについては、「そこまで気づかなかった。」と話され、また合計金額の記載箇所のミスについては、「見直そうかと思ったが、時間がかかっていたので見直さなかった。」と話された。 合計金額の記載ミスに係る原因については、時間に対する焦りや請求書への記載が終わったことによる気の緩みの可能性を指摘したところ、Aさんからは、「焦りのためしっかり確認しなかった。」との返答があった。 またカウンセラーからは、指示書の意味がよく分からない状況でも課題を遂行できたことは評価できることを伝えた上で、不明点は質問しようとは考えなかったかを聞くと、「ビジネスホテルで勤務していた際に消耗品の発注等を行ったことがあったため、何となく作業内容のイメージは持てた。しかしながら、自分がどこまで作業を理解できているのかが分からなかったため、質問ができなかった。」との返答であった。 ハ.数値入力(OA作業) 選定理由 パソコンの基本操作スキルやテンキーの入力スピード、入力の正確性等を把握するために選定した。 作業内容 パソコン画面に表示された数値について、その横に表示されているワークシートに数値を入力する作業。6段階のレベルがあり、合計12回数値を入力する。 実施状況 カウンセラーは、指示書を見て工程ごとに一つひとつチェックしながら作業を進めるよう口頭指示を行った。なお、物品請求書の作成の指示書と比較すると、工程ごとに番号が振ってあり、かつ一工程に一つの指示のみが簡潔に記載されているという違いがある。 正答率は、12試行実施し12試行とも正答であった。Aさんは、一つひとつ見直しを行いながら比較的安定して作業に取り組めており、作業途中で迷った様子も特に窺えなかった。 Aさんの感想 全問正解であったことをAさんに伝えると、安心した様子で「ピッキングや物品請求書は間違いがあったため、今回は正解で良かった。」と話された。また、「間違いが出ないよう、見直しながら行ったため時間がかかった。」旨の感想もあったため、間違いなく正確に作業を進めることが大切であることを伝えながら評価し、作業スピードの向上はその後の目標になることを伝えた。 指示書については、「物品請求書の作成よりも手順が明確で分かりやすい。」「一つひとつチェックしながら行えたので、迷わなかった。」等と話していた。しかしながら、「最初は指示書を見ても、何をどこからやるのかイメージができずに不安があった。」等の感想もあった。 ニ.文書入力(OA作業) 選定理由 パソコンの基本操作スキルや文章の入力スピード、入力の正確性等を把握するために選定した。 作業内容 数値入力と同様、パソコン画面に表示された文章について、その画面下の空欄に一言一句同様の文章を入力する課題。5段階のレベルで計10種類の文章を入力する。 実施状況 数値入力と同様に指示書を活用するよう口頭指示を行った。 正答率は、10課題を実施し10課題とも正答であった。なおタイピングスピードは比較的早く、読めない漢字は手書き入力で調べて入力するなど、基本的なパソコン操作は習得していた。また、作業遂行については戸惑う様子もなかった。 Aさんの感想 全問正解であったことと、基本的なパソコン操作は習得できていることをAさんに伝達した。さらに、これまでのワークサンプル幕張版やGATBの実施状況を踏まえ、カウンセラーは、注意を向ける対象がはっきりしていればミスなく遂行することが可能であり、書類のチェックや文書の入力などは向いていると思われることを、この段階でAさんにフィードバックした。Aさんは、「思ったよりもいい結果が出て良かった。自分にもできる作業だと思った。」と話された。 また次の課題である検索修正については、注意を向けるべき対象をAさん自身で探す必要があるため、見落としのミスが生じやすいことを事前に伝達した。なお事前に伝えた意図は、漠然とした作業のポイントをAさんが予め意識した際、どのような対処をするのかを把握することが目的である ホ.検索修正(OA課題) 選定理由 文書入力や数値入力は安定して遂行できたため、検索修正の課題を追加選定し、作業手順の理解力や注意の配分等の能力をさらに把握することとした。 作業内容 指示書に基づきパソコンでデータを検索し、必要に応じてデータの内容(名前、生年月日、住所等の12項目)を修正する作業。5段階のレベルで合計5名の修正を実施する。 指示書を基に修正箇所(指示書とデータが一致していない箇所)を見つけ、適切に修正し入力する必要がある。数値入力や文書入力と同様にパソコン基本操作スキルが求められることに加え、修正箇所に気づくための注意力や照合力が必要である。 なお要修正箇所は、指示書では太文字で区別している等、作業遂行を平易にする配慮がある。 実施状況 数値入力や文書入力と同様、指示書を活用するよう指示を行った。しかしながら作業遂行に当たっては、一部手が止まる場面があったため、口頭指示とパソコン画面への指さし(ポインティング)での補足説明を行った。 なお最初の指示においては、修正箇所は太文字であるというヒントを示さなかったため、Aさんはそのことに気づかず、全ての項目について修正の有無を確認する作業をしていた。そのため、途中で修正箇所は太文字のみであることを伝えたところ、作業遂行はスムーズとなった。 正答率は、5試行実施し4試行の正答であり、1か所は修正すべき項目に気づかなかった結果、ミスが発生した。なおミスの要因としては、該当箇所の項目のひとつであったメールアドレスの修正を非常に注意深く行っていた様子があり、その後に注意力が途切れてしまったためと思われた。併せて、本日の作業課題は休憩なしで1時間半程度実施していたこともあり、疲労による注意力の低下の可能性も想定した。 Aさんの感想 上記のミスをAさんに伝達すると、「完全に見落としていた。」「メールアドレスの修正を終えた時、全て終わったと思った。」との感想があった。また、太文字がヒントであることに気づかなかったことについては、「とにかく見落とさないように全項目をチェックしようと思っていたため、太文字と通常の文字との違いが何か意識しなかった。」と話された。カウンセラーからは、見落とさないように心掛けたことは良かったが、どこを確認するか、何をチェックするか等のポイントについては周囲の助言があった方が望ましいこと、またポイントが明確に理解できれば、正確に作業を遂行することが可能であることをフィードバックした。 また検索修正の課題の内容について、何を実施しているのか全体のイメージが持てたかどうか確認したところ、「間違えている箇所がどこかチェックすることに精一杯で、全体的なことは分からない。」と話された。そのため、作業内容や全体の流れがイメージできれば、その後は適切かつスムーズに対応できるようになると思われる旨を伝達した。 最後に疲労について質問すると、「やや疲れましたが大丈夫です。」と話された。 (4)プランニング(職業リハビリテーション計画の策定)(第4日目) 1アセスメント状況(職業評価結果)のフィードバック イ.フィードバックの準備 カウンセラーは、Aさんへのフィードバックの前にアセスメントの総合的な結果を取りまとめ、所内ケース会議において支援の方向性を多方面から検討し、プランニング(職業リハビリテーション計画の策定)を実施した。 アセスメントの総合的な結果 身体的側面 実施検査等面接等から 評価結果 身体機能及び基礎体力 これまでの職歴や生活歴の聞き取りからは、身体機能や基礎体力に特別な問題はみられない。 精神的側面 実施検査等面接及びチェック表から 評価結果 ストレスの予防・対処 過去のエピソードからは、一時的に頑張り過ぎて逆にストレスになってしまったり、困難場面における対処が、問題解決ではなく逃避に向かう傾向があるなど、ストレスに対する予防や対処が苦手な傾向がある。特に対人関係面のストレスに対する脆弱性は顕著。 「予定と違うことが起きる」「自分の思いと違うことが起きる」「注意されるような口調で話される」等の場面においては、本人は強く落ち込むと話している。 暖かい言葉かけや肯定的なメッセージを受けるなど、周囲に受入れられていると実感できることが精神的な安定に繋がるようである。 知的能力、情報の捉え方・表出方法等 医療機関でのWAIS−3等に係る本人のエピソードや、GATBの検査結果から、全般的な知的能力は標準域にあるものの、それぞれの検査で検出された能力はアンバランスさが窺える。日常生活上の言語理解は問題ないものの、段取りを組み立てる力に課題があるため、指示に対して自分の言葉に置き換え咀嚼する時間が必要である。また、図や表から実際の配置をイメージする空間把握能力、目的や意図を踏まえ全体像をイメージすることが若干苦手なように思料される。 本人とのコミュニケーションの際には、全体の目的や意図、手順等の進め方を円滑にイメージできるよう、図や絵を用いて説明することが有用である。 支援者と一つひとつ整理しながら相談すれば、ある程度客観的かつ現実的な判断が行える。職場においても、本人の良き理解者がいれば、安定して勤務できると思われる。 社会的側面 実施検査等面接等から 評価結果 コミュニケーション 基本的なマナーは身についており、言葉遣いの良さからも、採用面接や接客における定型的な対応等はセールスポイントとして評価される。一方で発言内容を整理して伝える必要がある場合は、考えをまとめるのに時間を要するため、本人の考えを聞く場合には、焦らせることなく時間をかけて聞き取る等の配慮が必要である。 日常生活 現在一人暮らしであるが、日常生活の管理は概ね一人で行えている。また、身だしなみはきちんとしており、清潔感がある。 職業的側面 実施検査等:面接及び下記検査の実施状況から 厚生労働省編一般職業適性検査 ワークサンプル幕張版:ピッキング、物品請求書作成、数値入力・文書入力・検索修正 評価結果 指示理解 見本を示すなど、視覚的に指示する方が作業内容や手順をイメージしやすく、理解がスムーズとなる。また、その後数回の作業体験により、作業手順を正確に理解することができる。 作業指示書について、一工程に一つの指示が記載されている方が理解しやすい。 作業時に考え込む様子が見られたり、手が止まっている際には、作業内容を理解できずに戸惑っていることが多かった。その際は支援者から本人に働きかけを行い、不明点が何かを洗い出し、解決に向けて支援することが現段階では必要である。 作業態度 不明点が生じた際も、質問せず一人で考えてしまう傾向はあるものの、作業態度は常に真面目で一生懸命取り組むため、事業所からは好感を持たれると考えられる。 作業遂行力 厚生労働省編一般職業適性検査からは、言葉の意味の理解力・表現力、平面上の文字や形の照合等の能力は標準域にある。その一方、物の位置関係や奥行きの判断、指先の滑らかな動作を要する作業は苦手な傾向がある。 文字や形の照合等の確認能力は有しているものの、詳細な情報への注意配分や維持が難しく、ミスを引き起こす要因となっている。また、時間を意識した取組み等は苦手である。 本人自身がミスしない具体的な対処方法を見出すことは難しいが、支援者がミスをした後に改善ポイントを提示すると、すぐに修正して対応することができている。 作業スピードを意識して取組めるが、スピードを意識し過ぎると焦りが強くなるなど、適度な加減が苦手となる。そのため、まず指示を的確に理解し、次に作業内容を習得し、最後に作業スピードの向上を促す等、一度に複数のことを伝えるのではなく、一つずつ段階的に伝える方がスムーズである。 ロ.本人との面談によるフィードバック 面談を通じて、Aさんに職業評価において確認した内容をフィードバックした。 フィードバックの進め方については、 1面接にて確認した内容 学生時や就業時における対人面、精神面、作業面での状況 2GATBにて確認した内容 図7から9のとおり 3ワークサンプル幕張版にて確認した内容 図10のとおり 4総合的な結果 アセスメントの総合的な結果 の順で行った。さらに、Aさんが現状の働く力をイメージできるようにするため、以前分かりやすいと話していた働く力のイメージ図を活用した資料(図11)を作成し提供したpoint19。 図11職業評価結果 現状の働く力のイメージ 安定して働くための力のイメージ 丸印は特にPRできる。三角印は要向上。バツ印は要配慮や支援。ハテナ印は今後、要チェック。 ピラミッドの土台の心身の健康管理の力(例)定期通院・服薬、病状認識、身体機能、三角とバツ印疲労・ストレスのケア、体調管理、三角とバツ印精神耐性 ピラミッドの土台の上のハテナ印日常生活の力(例)起床就寝、食事栄養、清潔整容、余暇息抜き、金銭管理、移動、交友関係 その上の労働習慣の力(例)丸印ビジネスマナー(態度)、丸印言葉遣い、報・連・相、指示応答、三角印意思表示、コミュニケーション、三角印感情統制、バツ印環境適応、時間厳守、基礎体力、丸印身だしなみ、安全管理、自発性、丸印真面目さ ピラミッドの1番上の仕事の力(例)三角印意欲、三角印自信、バツ印作業速度、集中力、バツ印作業理解、三角印持続力、正確性、バツ印創意工夫、三角とバツ印自己管理 ココがPoint19 発達障害のある方の場合は、障害特性に起因する状況把握の苦手さや考え方、判断の偏りを支援者が把握しつつ、その特徴に応じたコミュニケーションを図ることが重要になります。視覚的な理解が優位な方においても、文字と図の組み合わせで簡潔に記載することが良い方や文章で詳細に記載することが良い方等、特徴は個々に様々です。また、単に口頭指示で補足するだけではかえって混乱するため、資料を一通り一読した後に、一行一行口頭で補足した方がよい方もいます。そのためアセスメントで把握した情報を踏まえ、個々の特徴に応じた分かりやすいフィードバックを心掛けます。 職業評価結果について、就業に対する考え方等、聞き取った内容に変更がないか、また本人と支援者との認識にずれがないかについて一つひとつ確認した。 職業センターでのアセスメントを通じて、自分の特性について気づいた点を尋ねると、1ストレスの発散ができず溜め込みやすいこと、2相談場面だと焦らず話ができること、3見落としやうっかりミスが多いこと、4慣れないうちは、スピードと正確性の両方を意識することができにくいため、最初は正確性の方を意識して行いたいこと等であったpoint20。 ココがPoint20 支援者とのやりとりを通じて、本人自身がアセスメントやプランニングに主体的に参加できるようにします。そうすることで本人が結果に納得し、かつ自己理解が深められるようになります。 また感想として、「職業評価を受ける前はもっと散々な結果になると思っていたが、自分の得意な点などセールスポイントにも気づけて驚いた。」と話され、カウンセラーからは、Aさんが気づけた上記4つ全てがこれから働く上での留意点になることを伝えた。なお、アセスメントの内容の一部はAさんから聞き取った内容と概ね一致しており、相談を通して丁寧に一つひとつ振り返れば、Aさんは自分自身の状況を適切に把握し、改善に向けた取組みを検討することができる力をもっている旨を伝えた。 なお、以前の聞き取りで確認した内容について、誤りや変更はないとのことだったが、前回のワークサンプル幕張版の検査が終了した後、パソコンのタイピングソフトと表計算の参考書を購入し、自宅で勉強を始めているとのことだった。さらにAさんは、「障害を開示して事務職での就職活動を進めたい。」と話され、その理由を尋ねると、これまでのアセスメントを通してパソコン作業は比較的ミスが少ないことが分かったこと、かつ障害者求人にはパソコン作業を中心とした簡易事務作業の求人があり、就職例もあると分かったためと話された。カウンセラーからは、以前は次の一歩が踏み出せるか不安であると話していたが、現在は自分で今後の方向性を考え、積極的に取り組もうとする点は好感が持てると肯定した上で、今後の具体的な方針を決める相談を行うことを伝えた。 2プランニング(職業リハビリテーション計画の策定) 今後のAさんの就職活動のポイントについて、職業リハビリテーション計画(案)として以下1から6のとおり提案し、検討した。プランニングの共有化を図る大切な点であるため、カウンセラーはポイントをホワイトボードに書き込み、またAさんにはメモを取ってもらいながら、理解度を確認しつつ進めたpoint21。 ココがPoint21 プランニングは、本人のために行うものであることは言うまでもありません。そのため支援者は、アセスメント結果とプランニング案を事前に準備しますが、計画を策定する際には、その計画内容を本人に丁寧に説明するなど、インフォームド・コンセントに留意することが重要です。なお、留意点としては、アセスメントの結果や具体的な支援内容の説明において、本人の障害特性に応じて板書したり視覚的な資料を提示するなど、個々の状況に応じた説明を行いながら、本人との合意形成を図ることになります。 提案1Aさんにマッチした仕事及び職場環境を選定する 以下の条件を参考にしながら仕事の選定について相談する。 複雑なコミュニケーション(交渉、営業等)が求められない作業 定型的なデータや情報等を扱う作業 毎日一定のペースで行える作業 作業手順が定型化されている作業 スケジュールが明確に分かる職場環境 困った時に相談できるキーパーソンがいる職場環境 例 (1)簡易事務作業(事務補助作業) データ入力、書類整理等、マニュアル化された定型作業が多い事務アシスト業務が望ましい。 (2)各種小売店や倉庫のバックヤード等での品出しや仕分け作業 品出し、前出し、補充等の定型作業。照合能力を活かした商品の整理整頓などの作業(作業手順の適切な指導で習熟できる)等について、職場の状況とAさんの意向も踏まえて検討する。 (3)その他 時間に追われる作業や細かい作業、接客(トラブル時の落込みが懸念)を主とする作業は負荷が大きいと思われる。 上記の職務内容を参考にしながら、収入、通勤、勤務時間等の条件面も踏まえて応募の検討を行うことで、働き方に対する認識をより詳細に共有する。 (検討結果)Aさんは提案に同意。今後は事務補助作業を第一希望とし、就職活動を行うことになる。 提案2障害を開示した就職活動について検討する 企業側の配慮や支援機関のサポートを得ることで就職の可能性が高まり、かつ雇用継続しやすくなると思われる。特に、苦手となる作業の段取りを行うことや職場におけるコミュニケーションについての配慮を得ることで、得意な作業に集中でき、結果として作業スピードの向上に繋がると思われる。さらに職場におけるストレスも軽減されることから、安定した職業生活に繋がると思われる。 (検討結果)Aさんは提案に同意。障害を開示して就職活動を行うことになる。 提案3ストレスサインが何かを整理し、自分に合った対処方法を習得する 安定して働くために、調子を崩すきっかけは何かと調子を崩す時のサインは何かについて整理する。併せて整理したストレスサインについて、どのような対処法が効果的であり、かつ自分に合うのかを整理した上で習得を図る。 (検討結果)Aさんは提案に同意。但し自分一人では整理できそうにないため、サポートを職業センターに希望する。 提案4企業に対し、自分の得意・不得意や必要な配慮について説明できるようにする 企業側が受け入れる際の障害に対する不安を軽減し、かつAさんの障害特性を的確に理解してもらうため、自分自身の特徴をまとめて整理し、企業に説明できるようにする。 (検討結果)Aさんは提案に同意。但し自分一人では特徴をまとめられそうにないため、サポートを職業センターに希望する。 提案5就職活動と並行し、就職に向けた準備(パソコンの操作スキルの向上)を進める労働習慣及び生活リズムの維持を図りながら、就職活動と並行して簡易事務作業に従事する際に必要とされるパソコンの操作スキルの向上を図る。 (検討結果)Aさんは提案に同意。Aさんからは、パソコンの操作スキルの向上のため、「先日購入したタイピングソフトや表計算の参考書で勉強することでよいか」と質問があったため、まずはその方法で進めてもらいながら習得状況を定期的にカウンセラーと共有することとした。 提案6生活面のサポートが受けられる他の支援機関に登録をする 生活面の困り事に対する相談も含めた就職後の身近な相談機関として、障害者就業・生活支援センターに登録する。なおAさんは、就職後も継続的に相談できる支援機関を求めているため、登録のみに留まらず、そこのスタッフとの信頼関係を築くようにする。併せて、障害を開示しての就職活動に備え、ハローワークの専門援助部門にも求職登録を行うようにする。 (検討結果)Aさんは提案に同意。障害者就業・生活支援センターへの登録については、「相談できる機関が増えることは有難いが、当面は職業センターでの相談に一本化したい。」と話された。そのため、現段階では職業センターが主体となり就職支援を行うが、他の関係機関への登録が必要となるタイミングが来れば、再度Aさんと相談することを伝えた。 上記の提案3から5については、職業センターの職業準備支援の利用が効果的なことを提案したところ、Aさんは利用を希望した。 支援計画 今後は、障害を開示して就職活動を行い、事務作業や小売店での店舗内作業等を中心に求職活動を行うこととしています。Aさんが就職して働き続けるため、以下の点を目標として職業センターの職業準備支援を利用することが効果的と考えられます。 1疲労やストレスの予防及び対処方法を整理し、習得する。 2企業に対し、自分の得意・不得意、必要な配慮等を説明できるようにする。 3事務作業での就職を想定し、パソコンの操作スキルの向上に努める。 4生活リズムを維持し、いつでも就職できるように整える。 その他、職業準備支援の利用状況を踏まえつつ、障害者就業・生活支援センター及びハローワークの利用登録について必要に応じて支援します。 具体的目標 職業準備支援における目標 1どんな状況でストレスを感じるのか、どうしたらストレスを予防または軽減できるのかについて、具体的に学ぶ。 ポイントは、エネルギー配分は適切か、他者とのコミュニケーションは適切か、息抜きはできているか等になります。 2作業においてミスが発生する場合、スタッフと相談しながら原因と予防策を検討し、自分に合った予防策を実践する。 ポイントは、目で見て確認する時に誤りや抜けがないか、指示を受けた時に映像とし てイメージできているか、分からないときに質問ができているか等になります。 3職業評価の結果や職業準備支援での取組みを踏まえながら、自分の得意不得意を具体的に整理し、理解を深める。特に不得意なことに関しては、自分で行う対処法と周囲に配慮を依頼することを区別できるようにする。 支援内容 Aさんの目標達成に向け、日々の作業支援や講習等の中で適宜アドバイスを行います。 職業準備支援における目標の進捗状況等を振り返るために、定期的な個別面談を行います。 職業準備支援の利用状況に応じて、障害者就業・生活支援センターやハローワークへの登録についてコーディネートを行います。 その他、新たな課題や相談等については随時対応します。 3.帰すう 職業リハビリテーション計画を策定した後、Aさんの目標達成に向けて職業準備支援を12週間実施した。職業準備支援では、疲労のマネジメント方法、ストレスの予防方法と対処方法、自分の得意・不得意の理解について重点的に支援した。また就職活動の際は、自分で企業に対して必要な配慮や支援等を説明できることも目標とした。 職業準備支援におけるアセスメントでは、1余裕を持って翌日の準備を行うことが苦手であり、いつも出勤時間ぎりぎりに慌てて準備をしてしまうこと、2自分から積極的に周囲とコミュニケーションを図ろうと試みるものの、自分の言動が適切だったのかどうか後から不安になること、3対人対応に対する不安を感じている一方で、他者との関わりを求める傾向が強いこと、4簡易事務作業においては、長時間座って黙々と取り組むと集中力が途切れやすく、モチベーションが維持されにくいこと、D簡易な接客対応に興味があり、接客対応の仕事の方がモチベーションを維持しやすいこと等の特徴が把握できた。そのため、応募する求人内容や生活面に係る支援の方針等について、一部見直しを行ったpoint22。 ココがPoint22 アセスメントとプランニングは現時点のものであり、就業支援を進める中で、定期的にモニタリングを行い本人と支援者が協働して再プランニングを行っていく必要があります。 就職活動について、当初は簡易事務作業を想定していたが、上記を踏まえたAさんとの振り返り相談の結果、小売業やサービス業における補助業務に変更して就職活動を行うこととした。 その結果、Aさんは衣料品店のバックヤード及び店舗内補助業務の障害者求人で就職した。ちなみに生活面の課題については、障害者就業・生活支援センターの支援を受けることになり、朝の出勤準備の段取り等、生活面に係る相談・支援を受けている。