参考事例 グループワーク、模擬的就労場面の活用等によるアセスメントとプランニング 実施機関 地域障害者職業センター 対象者の障害 発達障害 本事例の概要 模擬的就労場面での作業支援や発達障害者就労支援カリキュラムの体験場面を活用し、長期的かつ詳細なアセスメント等を行いつつ、発達障害者支援センター・ハローワークとの連携により、在職中の発達障害者に対する支援を行った事例です。 参考となるキーワード 模擬的就労場面における行動観察を踏まえたより詳細なアセスメント 職業準備支援(発達障害者就労支援カリキュラム)のグループワークを活用した長期的なアセスメント 作業支援、グループワーク、振り返り相談の連動に基づくアセスメント 本事例のキーパーソン 支援対象者Aさん(発達障害のある女性、30代) 主たる支援者地域障害者職業センター(障害者職業カウンセラー) 関係機関発達障害者支援センター(就労支援担当者)、ハローワーク(就職支援ナビゲーター) 支援経過 1.地域障害者職業センターへの来所経緯 Aさんは、来所の2年前にアスペルガ一症候群の診断を受けた。 現在は食品製造工場の準社員として主に夜勤をしているが、これまで何度も障害をクローズにして働いた結果、離転職している。障害者手帳は所持していないが、アスペルガ一症候群の診断を受けた時から、発達障害者支援センター(以下、発達支援センターという。)に登録し、相談支援を受けている。 地域障害者職業センター(以下、職業センターという。)への来所のきっかけは、発達支援センター就労支援担当者(以下、発達支援センター担当者という。)からの紹介。「自分の適職を知り、転職に向けた相談をしたい。」旨の主訴で、職業センターに電話連絡があった。 2.初回受付及びアセスメント(職業評価)の実施状況 (1)初回相談 障害者職業カウンセラー(以下、カウンセラーという。)は、発達支援センター担当者からの電話連絡を受け、初回面談日を設定するとともに、初回面談の際は発達支援センター担当者にも同行してもらうこととした。また、電話連絡の際はAさんの主訴に加え、発達支援センターが考える支援の方向性や職業センターへの支援依頼内容を確認した。 初回相談では、職業センターのサービス内容を説明し、個人情報に係る取扱等に関する説明と同意を行った上で、Aさんの主訴を確認した。なお、初回相談での主訴は以下のとおり。 以下、初回受付やアセスメント時の留意事項等は事例1を参照のこと。 Aさん 現在は夜勤であるため、日勤の仕事に転職したい。検査等を受けてどんな仕事が向いているか知りたい。 発達支援センター Aさんとは未調整であるが、長く勤めることを考えると、現職・転職いずれであっても障害をオープンにする方が望ましいと考えている。現状では、Aさんからの聞き取りによる情報のみであるため、職業評価を受けてAさんが知りたい適職についてのみだけでなく、職業上の課題も含めた全般の状況について把握したい。 (2)面談状況 Aさんからは、仕事に対する希望や不安、障害状況や通院の状況、生活歴や職歴の情報を聴取した。これらの情報は既に発達支援センターが把握している内容であったため、発達支援センターの補足も交え確認した。把握した情報は以下のとおり。 基本情報 名前Aさん 年齢32歳(生年月日) 連絡先、住所、最寄駅 ハローワーク登録状況 一般窓口の登録はあるが、専門援助部門の登録はない。 障害者手帳の有無 無 診断名 アスペルガ一症候群(2年前に診断) 通院等に係る情報 2年前から通院。現在、月1回丸クリニックに通院。抗うつ剤を服薬。 家族構成 母、弟2人(Aさんは現在一人暮らし) 最終学歴 高等専門学校卒業 支援機関 発達支援センター 職歴 初めて就職した年をX年と表記。 (1)平成X年4月から平成X足す4年5月食品製造工場(オペレーター) (2)平成X足す4年5月から平成X足す6年9月飲食店(厨房、接客) (3)平成X足す6年10月から平成X足す8年11月お菓子販売店(厨房、接客、事務) (この間、短期契約のパートを複数実施) (4)平成X足す10年6月から平成X足す12年3月スーパー(品出し、接客) (5)平成X足す12年5月から現在食品製造工場(ライン作業) 仕事に対する考え方 現在は夜勤の仕事であるため、日勤のフルタイムの仕事を探したい。 職種は検討中だが、お菓子作り等の調理に関わりたい。 希望給与は手取りで月15万円欲しい。 通勤は自動車通勤で30分以内がよい。 世間話などのコミュニケーションが苦手なため、人間関係が複雑でないところがよい。 障害について 上記(4)のスーパー(品出し、接客)で勤務している時、作業ミスや同僚との摩擦等のストレスから丸クリニックに通院。アスペルガ一症候群の診断に至ると同時に服薬を開始。 主治医の意見書には、不安、不注意の症状がある、コミュニケーションにおいて相手の意図を汲みとることが難しい旨の記載あり。 病院で受けたWAIS3の所見では、「言語理解は平均的な能力だが、表現の際に言葉が不足してしまう」「聴覚情報の短期記憶や操作は苦手」「指示に従う力は高くミスも少ない」「視覚情報の理解は得意なため事務処理は安定する。しかしながら、細部への注意、探索は少し時間を要するため、処理量はやや少なくなる。」等の傾向が記載されている。 Aさんは、「抽象的なことが分かりづらい」「数字の読み間違い等の早合点が多い」「判断が求められることへの対応が苦手」の3点を自覚している。また、ストレスを感じると気分が落ち込んでしまう傾向があると話される。 生活歴及び職歴について 学生時代は勉強で困ることは少なかったが、運動や対人関係は苦手で困ることが多かった。 職歴について、短期契約以外の仕事では概ね2年以上継続勤務。いずれの職場でも仕事で大きな支障はなかったが、早合点や不注意によるミスがやや多く、抽象的な問いかけ等が分かりづらい等、作業面で苦慮することも間々あった。離職に至った直接的なきっかけは、職責の変化やコミュニケーション上でのストレスである。 現在の職場の悩みは、夜勤による疲労以外にも雑談や世間話に苦慮していること、頼まれ事や相談事を受けて人間関係の板狭みになること等、対人関係のストレスを挙げている。 Aさんの主訴は、「転職の参考のため検査等を受けたい。」であったが、把握した情報からは、職場における不適応の主な要因は仕事の適性よりも対人関係やストレス対処であった。現在の職場でも対人関係で悩んでいるため、カウンセラーは職場における対人コミュニケーションやストレスの特徴に留意し、対処方法を検討することが重要と考えた。 このため、職業センターでの職業準備支援における発達障害者就労支援カリキュラムの体験利用を通じて、具体的なAさんの特徴を把握した上で、今後の転職も含めた支援のプランを立案することが望ましいと考えた。 また、職務遂行力の状況や注意障害の特徴、疲労状況の把握のためには、1対1での各種検査だけでなく模擬的就労場面における作業支援を活用することが効果的と判断した。 これらの方針をAさんや発達支援センター担当者に伝え、両者から同意を得た。 職業準備支援における発達障害者就労支援カリキュラム 発達障害者を対象とした社会生活技能、作業遂行力等の向上を図るための支援。 発達障害者就労支援カリキュラムにおいては、以下による支援を実施する。 1職業センター内での技能体得講座 発達障害の特性を考慮し、問題解決技能、対人技能、リラクゼーション技能、作業マニュアル作成技能の4技能についてグループワークもしくは個別支援を行い、個々の対象者の職業的課題に係る対処方法を検討する。 2模擬的就労場面における作業支援 上記講座において獲得したスキルついて、模擬的就労場面の作業支援場面において実際に試行し、獲得したスキルの習得及び習得に当たっての課題の確認を行う。 3個別相談 模擬的就労場面における作業支援の結果等を個別相談において振り返りながら、課題解決策の検討や次のステップアップに向けた目標設定を行う。なお、職業準備支援においては、1と2と3を互いに連動させることで効果的な支援が行えるようにカリキュラムを設定している。 カリキュラムの終盤には、個々の状況に応じて事業所での体験実習を実施し、体得した各技能等を実際の企業で試行し、実施結果を確認するとともに各技能の向上を図っている。また、ジョブコーチ支援や求職活動等、次の段階の支援に円滑に移行できるように配慮している。 Aさんからは、職業相談の段階から職業準備支援の体験利用後の正式利用についても検討したいという希望があった。そのためカウンセラーは、Aさんが夜勤であることを踏まえ、正式利用については生活面や健康面に支障が出ないよう慎重に検討する必要があることと、今回の体験利用は今後の支援プランを検討するためであることを説明した。 さらに職業評価終了後の振り返りの際には、障害の開示・非開示に関わらず、今後の就職活動が円滑に進められるようにハローワーク就職支援ナビゲーター(以下、ナビゲーターという。)の同席を提案し、Aさん及び発達支援センター担当者から同意を得た。 次回のアセスメント(職業評価)について 性格傾向を知る検査新版東大式エゴグラムバージョン2(以下、東大式エゴグラムとい う。) 職業適性を知る検査厚生労働省編一般職業適性検査(以下、GATBという。) 3週間の職業準備支援の体験利用について 集団における作業遂行能力を知る、常設の模擬的就労場面に参加 対人対応・ストレス対処における傾向を知る、職業準備支援のうち発達障害者就労支援カリキュラムの講座に参加 次回以降の職業評価はAさんのみが来所。 3.各種検査によるアセスメント結果について 東大式エゴグラムの結果 検査のプロフィール結果からは、「他者を優先する」「遠慮がちである」「人の評価を気にする」等の傾向が標準域より高く、一方で「感情をストレートに表現する」「現実的である」「客観性を重んじる」「周囲を思いやる」等については、全体的に標準域より低い傾向がみられた。 このため、第一印象は対人対応力が高いように思われがちだが、それはあくまで表面的なAさんの特徴であり、内面では自分の感情を過度に抑制する傾向が強かったり、現実に即した客観的な判断が行えないために他者の意向に従ってしまうなど、他者とのコミュニケーションによりストレスを蓄積させている様子が顕著に窺えた。おそらく職場においては人の目を過度に気にするあまり、周囲の板狭みになって悩んでしまう特徴があると推測した。 Aさんにこの結果をフィードバックしたところ、現職でも「職場内で板狭みになってしまう。」等、次第に自分自身がつらくなってしまうとのことであった。そのため、対人対応に係る心構えやコミュニケーションスキルの習得について、検討していきたいと話された。 GATBの結果 検査結果からは、一般的な学習能力や形を細部まで正確に見分ける能力等は問題ないものの、目と手を共応させ迅速に作業する能力、文字や数字を正確に見分ける事務的な処理能力は標準域に比較して低位な傾向が窺えるなど、各下位検査におけるバラつきがみられた。以上の結果は、WAIS3等における主治医の所見とも一致する部分があった。 このため、作業内容自体は概ね理解できていても、実行段階では手間取ってしまいストレスとなることが予想された。また作業面では、書類の細部チェックや素早い書記、データ入力などの事務補助業務は苦手と考えられた。 Aさんにこの結果をフィードバックしたところ、自分の強みを活かすためには事前に図や手順書等を活用して全体を把握することで、より正確に把握できるのではないかとのことであった。一方で、苦手と感じていたチェック作業等については、ミスを軽減するための補完手段を検討する提案をカウンセラーから行い、Aさんも同意した。特に注意面の対処方法を習得したいとのことであった。 4.職業準備支援の体験を通じたアセスメント (1)職業準備支援体験プログラムの設定 以下の通り、常設の模擬的就労場面における作業支援と発達障害者就労支援カリキュラムの講座の体験プログラムのスケジュールを作成し、Aさんに提示した。期間は、週2日3週間の計6日間を職業センターに通所するスケジュールとした。また在職中であることに配慮し、夜勤勤務のシフトと調整の上、過度な負担とならないよう、第1週目は半日、第2から3週目は1日と半日を交互に設定した。 さらに1週間に一度振り返り面談を設定し、体験中の振り返りを行うこととした。 表 体験プログラムのスケジュール 第1週目火曜日AM作業1ピッキング、木曜日PM講座対人技能1 第2週目火曜日AM作業2物品請求書作成、PM講座リラクゼーション技能、木曜日PM講座対人技能2 第3週目火曜日AM作業3製品組立、PM講座対人技能3、木曜日PM講座問題解決技能 対人技能講座 社会生活技能訓練(SST)の手法を援用した技法。発達障害者の障害特性を踏まえた演習等を通じて、上司や同僚に職場でうまく意思を伝えるためのコミュニケーション技法や対人場面での基本的な態度を体得する。 リラクゼーション技能講座 ストレッチ等の体操、漸進的筋弛緩法、呼吸法等の演習を通じて、不安や混乱が生じた時に、心身の過緊張状態を軽減するための技法を体得する。 問題解決技能講座 カウンセリングや演習等を通じて、日常生活及び職業生活において問題となる行動等について、自らがその状況や原因を理解し、適切に対処するための技能を体得する。 体験利用前の面談 Aさんと面談を行い、職業準備支援体験プログラムの説明を行った。 その際、体験プログラムの設定理由と目的について改めて説明をしたところ、Aさんも「ぜひ確認したいポイントです。」と了承し、体験プログラムの利用を開始した。 アセスメントのポイント 模擬的就労場面での作業 これまでの職歴では勘違いや早合点が多く、注意障害の影響が懸念された。そのため、ミスの傾向を把握することを主眼とし、ピッキングや物品請求書作成等、場所の移動が伴う作業や複数の物品・書類に対して注意の集中・移動・配分が求められる作業種を設定した。 また、集団場面における集中力や持続力、疲労度、他者とのコミュニケーション状況を確認するために、特にピッキング作業等は集団でのグループ作業とした。 講座 コミュニケーションスキルに係る把握とAさん自身の気づきを深めるため、対人技能の講座は実施頻度を多くし、3回とした。また、ストレス対処の特徴を把握するためにリラクゼーション技能及び問題解決技能の講座を1回ずつ設定し、可能な範囲で職場で困っている場面等を想像しながら参加するよう助言した。 (2)職業準備支援体験プログラムの実施状況 第1週目 ピッキング作業 当該職業センター独自のピッキング作業であり、他の利用者5から7名と同じ場所で作業を行う。Aさんについては、問題なく作業遂行できることが予想されたため、例えば、ある指定の品物はピッキング後にゴムで束ねる等、新たに詳細なルールを追加した上で実施してもらうこととした。なお、この作業で発生するコミュニケーションは検品担当者への報告等があり、作業時間は概ね1時間半程度である。 ここでのアセスメントのポイントは、作業手順の理解力、複数の作業対象物に対する注意配分力、移動を伴いながらの照合作業の遂行力、定型的な報告スキルの能力とした。また、様々な種類のピッキング作業を多数実施してもらい、頭の中で作業の切り替えを行いながら適切に実施できるかを把握した。 Aさんは、作業開始時は慎重な様子がみられたもののミスなく正確に取り組めていた。また効率を意識した作業ぶりであり、徐々に作業量も増していった。報告についても定型的報告スキルは身についており、特段課題はみられなかった。 対人技能講座1 テーマ会話を遮り、用件を伝える 上記テーマの講座に見学参加。利用者は10名程度。はじめにテーマである会話を遮り、用件を伝えることについて、職場での必要意義や使用する場面、この場面において各自が考える課題を互いに共有した後、ロールプレイを実施した。 ロールプレイでは、発達障害の特性を踏まえ、悪い見本と良い見本を対照的に提示し、利用者間で意見交換した後にロールプレイを行った。この意見交換の際には、それぞれの利用者が、1相手の顔を見る、2都合を伺う、3用件を結論から伝える、4相手の返答に耳を傾ける、5復唱する、6お礼を言う等、細分化して整理することで自身が意識していなかったポイント等についての気づきを促した。また支援者は、ロールプレイを行う際の個々の利用者が意識するポイントを見出せるようにした。 Aさんの講座後の感想は、「自分も相手に話しかけるタイミングに迷うことがあり、特に相手の表情を観察すること、一呼吸置くこと、うまくできなくても気にせずに次回の機会を窺うこと等に関するスキルが参考になった。」と話された。 第1週目の振り返り面談 Aさんからは、ピッキングは過去に経験したスーパーの品出しに類していたため戸惑いなく作業できたと話された。また対人技能講座は、コミュニケーションに不安が大きいため大変参考になったと話された。 カウンセラーからは、Aさんが抱えるコミュニケーションの不安について、どのように参考になったのか具体的に確認したところ、「相手の様子を窺ってしまい、自分の用件を話せないことが多いことが分かった。」と話された。そのためカウンセラーは、Aさんの特徴として、他者の気持ちを窺い過ぎてしまい話せずに留め込んでしまうことがあることを共有した。またAさんの今後について、対人技能のスキル習得だけでなくストレス対処法を習得することの重要性について、カウンセラーは改めて認識した。 第2週目 物品請求書作成 品名力一ドで指示された物品をカタログで調べ、物品請求書を作成する課題。5段階のレベルの計6物品が記載されている請求書を作成する課題であり、作業手順等のワーキングメモリーの維持力、注意力の配分・維持力等の特徴が把握できる。また、この課題は事務作業の適性を把握する際に実施する単独作業の一つである(詳細は事例1参照)。 Aさんに対しては、1時間半程度、課題の内容を変えながら繰り返し実施。指示書通りに作業を進めることができておりペースも安定していたが、計算ミスが2回あった。 Aさんの作業後の感想は、物品をカタログから検索する際は間違えないように注意を払っていたものの、「計算は若干気を抜いてしまった。」と振り返っていた。 リラクゼーション技能講座 テーマ自律訓練法 上記テーマの講座に見学及び体験参加。利用者は10名程度。 リラクゼーション技能講座は、ストレス対処の必要性やストレス対処に係る知識等についての理解を深めた上で、呼吸法や漸進的筋弛緩法等の実施方法を学ぶ構成になっており、当日は、ストレス対処の一技法として自律訓練法を体験した。 Aさんの講座後の感想は、「自律訓練法は短い時間で頭がスッキリするのでよい。ストレスの対処方法についての理解が深まりそうだ。」と振り返っていた。 対人技能講座2 テーマ頼みごとをする 上記テーマの講座に見学参加。利用者は前回同様10名程度。 Aさんの講座後の感想は、「自分で引き受けて仕事を進めてしまいがちなので、相手に頼みごとができると少し楽になれそうだ。」と振り返っていた。 第2週目の振り返り面談 物品請求書作成については、「計算ミスは見直し等により改善できるものの、デスクワークは馴染みがなく気持ちが落ち着かない。」と話された。カウンセラーからは、ミスを防止する対処法を学ぶことも有益であることをフィードバックした。 また、リラクゼーション技能講座や対人技能講座においては、「リラクゼーションにも様々な方法があることを知った。色々な方法を学び、自分に合った対処法を習得したい。」といった感想や、「初めは相手によかれと思って遠慮してしまう。その結果、気づいたら自分に疲れやストレスが溜まり落ち込んでしまう。」「ストレスを溜め込んだ後は、相手に感情的に話してしまう。」と話され、過去の自分を振り返っていた。 カウンセラーからは、リラクゼーション等のストレス対処法を活用しつつ、断る、頼む等の対人技能を有効に活用することがストレス対処の重要なポイントになることをフィードバックした。 第3週目 プラグタップ組立課題 ワークサンプル幕張版の一つであり、指示者のモデリングを見て作業手順を記憶し、ドライバーを使って三叉タップ2個を組み立てる課題。単独作業で1時間程度実施したが、その間カウンセラーは、作業手順の記憶、定型反復作業における集中力及び持続力、遂行上の手際の良さ等をポイントにアセスメントを行った。 Aさんは指示者のモデリング通りに正確かつ手際良く作業を行えており、作業のペースも安定していた。 対人技能講座3 テーマ休憩時間の会話 今回は見学参加ではなく、実際に講座に参加。 Aさんの講座後の感想は、「雑談や世間話が苦手であるため、特にゴーサイン・ノーゴーサインは自分ではなかなか判断が難しいポイントである。自分はどうしても相手の気持ちを推し測り過ぎてノーゴーサインと判断してしまう傾向がある。」と話された。また、他の利用者の発言やロールプレイを見ていると、もう少しゴーサインと捉えてよいのではないかとも感じられるようになり、少し励みにもなったと振り返っていた。 問題解決技能講座 テーマ作業中に別の指示で混乱 上記テーマの講座に体験参加。 問題解決技能講座の流れは、ある問題解決場面で、1問題を明確化し、2解決策を出し合い、3適切な解決策を選定するといった一連の判断経過を細分化して整理して実施する流れとなっている。ポイントは、発達障害の特性に配慮しながらそれぞれの段階で個々がどのように捉え判断する特徴があるかを把握し、併せて対処法を検討することである。なお、詳細は図の問題解決技能講座の流れのとおり。 図問題解決技能講座の流れ オリエンテーション SOCCSS法を援用した問題解決 グループワーク(個別場面) 1問題の明確化(状況の把握S.Situation) 5W1Hその問題はいつ起こったか、その問題はどこで起こったか、関係する人は誰か、何が起きたか、何をしたか、理由は、など 目標の明確化 2ブレインストーミング(選択肢O.Options) できるだけ多く出す。ばかばかしく思えるものもとりあえず出す。人生の大目標を達成しようと思わずに、「今日からできる」解決策の案を出す。 3解決策の決定 (結果予測C.Consequences) (1)効果 その解決策案で、目標を達成できるか (2)現実性 その解決策案は自らの力で実現できるか、リスクはないのか (選択判断C.Choices)  順位をつけて最善策を選び出す。 個別場面 (段取りS.Strategies)  具体的な実行計画を立てる。 (事前施行S.Simulation)  静かな場所で再考する、他の人の意見を聴く、何が起きそうか書き留める、ロールプレイを行うなど。 (事前施行からの検討事項) 4実行 5結果の評価 6解決 Aさんは上記1から3のグループワークに参加をしてもらい、後の振り返り面談にて体験の振り返りを行った。 グループワークでの様子 1問題の明確化における状況 作業現場でよくある課題について、利用者6人が討議。問題の明確化では、ある利用者が話した5W1Hの状況について、Aさんは確認を行っていた。 2ブレインストーミングにおける状況 解決策について、思いつきでもよいのでそれぞれが意見を出し合いホワイトボードに記入するが、Aさんは遠慮して他の利用者に発言を譲ることが多く、意見を出せなかった。 3解決策の決定における状況 それぞれの解決策について、1実際に自分ができるか(現実性)、2目標を達成できるか(効果)の2側面から丸三角バツ印で判断し、ホワイトボードに記載したそれぞれの解決策にチェックを行う。1、2ともに丸印がついたものが解決策となる。 Aさんはこの日の解決策について、ある利用者が解決策として挙げた「指示が複数出ても気にしない。ひとまず、他人の評価よりも作業に集中することが大事。」という解決策に対して1、2ともに丸印をつけ、腑に落ちたようであった。 4受講後の面談 Aさんの講座後の感想は、うまく言葉にできないが、ひとまずのフレーズが対処法として少しヒントになったので参加してよかった。と振り返り、少し晴れた表情を していた。 第3週目の振り返り面談 第3週目のまとめは、第1週から第3週までの最終の振り返り面談として実施。 作業については、物品請求書でミスがあったものの全体的に高い水準で遂行できていたことを共有した。 対人対応やストレス対処については、対人技能講座やリラクゼーション技能講座を通じて、「相手にどう思われるかを考え過ぎてしまうとストレスを溜め込んで落ち込む。その結果として感情的な言い方をしてしまう。」と話され、Aさんは自分の傾向に気づくことができたと振り返った。さらに問題解決技能講座の体験参加を通じて、「誰が良い悪いという考え方ではなく、どうすると仕事が良くなるかという視点が大切ではないか。」「私は丸々と思うという伝え方を心掛けたい。」という振り返りもあった。また、どんな場面でも使える対処法はないものの、ひとまずのフレーズを使って自分に言い聞かせながら、対処法として活用してみたいと振り返った。 以上で第3週目の振り返り面談は終了。また次回1週間後の面談においては、Aさん、発達支援センター担当者、ナビゲーターに対し、アセスメントの結果をフィードバックすることと今後の支援方針を話し合う予定であることを伝達し、了承を得た。 5.職業評価結果のフィードバック カウンセラーは、アセスメントした情報とプランニングの案をまとめ、職業センターでの所内ケース会議により所長、主任カウンセラー等から助言を得た上で、Aさん、発達支援センター担当者、ナビゲー ターとのケース会議に臨んだ。 なお、当日はAさんの特徴に配慮し、分かりやすい説明用資料とAさんの感想が書かれた日誌も準備してケース会議を実施した。 (1)体験状況等について 3週間の職業準備支援の体験利用等、大変お疲れ樣でした。 今回のアセスメントの目的であった、1ストレスに感じる場面の特徴とその対処、2作業をより円滑に行うため、注意を作業に向ける際の対処方法の2点について、アセスメントの状況は下記の通りです。 1心理検査及び体験利用から、Aさんには下記の特徴がありますが、解決に向けたご自身の理解が進みつつある状況です。今後はさらに自分に合う対処方法の検討が必要であり、職業準備支援(発達障害者就労支援カリキュラム)の利用をお勧めします。 コミュニケーションでは、相手の気持ちを窺い過ぎて自分の気持ちを抑えて溜め込む特徴があり、これがストレスの主な要因となっています。 対人技能、問題解決技能、リラクゼーション技能の体験利用の結果、異なる指示を受けた場合や相手の気持ちが気になる場合などは、「ひとまず」で括弧にくくり、自分ができる作業のみに集中するなど、「一つのことに集中するための気持ちの切り替え」を重視しようという考え方に移行しつつあります。 さらにその気持ちの切り替えに加え、対人技能において具体的なコミュニケーションスキルを、問題解決技能において問題解決に向けた方法や気持ちの切り替え方の具体的な方法を、リラクゼーション技能において、職場のみならず自宅でできるストレス対処方法を身につけることが適当と考えられます。 2作業上の注意に関する特徴については、文字や記号の照合等、事務作業では一部戸惑う状況があったものの、ピッキング等実務的な作業では大きな課題はありませんでした。 しかしながら、課題の詳細についてまだ把握できていない可能性もあり、さらに職場のエピソードを聴取させていただくとともに、職業準備支援における作業支援により確認・検討することが必要と思われます。 以上について、Aさんや発達支援センター担当者等から意見を求めたところ、「より詳細な状況を把握できたことが何より安心に繋がった。」等のコメントを得た。さらに下記の支援計画について詳細を提示した。 (2)支援計画の詳細について Aさんの具体的目標 1不注意による抜けやミスを予防する方法を習得する 2自分の気持ちを相手に適切に伝える方法を習得する 3ストレスを感じやすい場面と感じた際の心身の反応を整理し、その上でストレスを予防・軽減するための方法を習得する 支援内容 職業センター 職業準備支援における講座の実施や定期的な個別面談を通じて、上記目標達成を支援するとともに、必要に応じ転職に係る相談についても適宜応じます。 発達支援センター 必要に応じてAさんの特性整理等における協力をお願いします。また、生活面での相談をお願いします。 ハローワーク Aさんに対する職業相談、職業紹介をお願いします。一般求人、障害者求人を問わず、希望条件に合う求人が出た際は、Aさんへの情報提供をお願いします。 Aさんの感想・意見 「職業準備支援を利用して上記目標に取り組み、今の職場や転職先の職場でもうまくやっていけるようにしたい。特に不注意によるミス等、苦手なことを補完する手段を知るとともに、ストレスを溜めないようコミュニケーションを上手に行えるようにしたい。」との感想であった。 発達支援センター担当者の感想・意見 「発達支援センターでの面談を通じてAさんの障害特性の整理は進んでいたが、職業センターでの職業評価を受けた結果、想定していたよりも職務遂行に係るスキルが高いことが分かった。そのため、必ずしもすぐに転職活動やオープン・クローズの選択をする必要はなく、まずは職業センターの職業準備支援を利用して対人技能やストレス対処等のスキル向上を図ることがAさんの今後にとって重要と感じた。」との感想であった。 ナビゲーターの感想・意見 「職業準備支援の利用状況を確認しながら、必要に応じて職業紹介を行いたい。」との感想であった。 6.帰すう(職業準備支援の開始から現在までの状況) 職業準備支援を正式利用し、Aさんは障害特性や対処法等について、ナビゲーションブックにまとめた。終了後は、ナビゲーターと相談しながら障害を開示した就職活動を行い、1社から内定を得た。しかしながら、在職中の職務と比較検討した結果、最終的には内定した会社は辞退した。 現在は、在職中の職場における適応上の課題について定期的に職業センターで相談を行い、職場適応に向けた取組みを行っている。