事例5 就業支援ネットワークを活用した情報収集によるアセスメントとプランニング 実施機関 障害者就業・生活支援センター 対象者の障害 軽度知的障害 本事例の概要 障害者就業・生活支援センターが知的障害者に対して、地域の就業支援ネットワークを活用しながらアセスメントを進め、就職活動に係るプランニングを行う過程を紹介します。具体的には、アセスメントを進める上で連携が必要な関係機関の選定、関係機関への本人の紹介、関係者間での情報共有等に関するポイントや留意点を紹介します。 参考となるキーワード アセスメントとプランニングに係る就業支援機関のコーディネート 関係機関から支援依頼を受けた際の主訴の確認 関係機関に連携を依頼する際の留意事項 関係機関との伴走型の連携 地域の就業支援機関のアセスメント 複数の関係機関の参加によるケース会議の設定 本事例のキーパーソン 支援対象者Aさん(軽度知的障害のある20代の男性) 主たる支援者障害者就業・生活支援センター(就業支援ワーカー) 関係機関八ローワーク(職業指導員)、就労移行支援事業所(担当支援員)、地域障害者職業センター(障害者職業カウンセラー) 支援経過 1.導入(ハローワークからのAさんの紹介と情報収集) ハローワークの専門援助部門から、電話にて障害者就業・生活支援センター(以下、センターという。)にAさんの支援依頼があった。就業支援ワーカー(以下、ワーカーという。)は、ハローワークがAさんにセンターへの情報伝達の同意を得ていることを確認し、Aさんの基本情報の他、ハローワークにおける相談内容、センターに求める支援内容、センターについてAさんに情報提供している内容について確認したpoint1。 ココがPoint1 本人が就職活動を行う際に就業支援機関とハローワークは効果的に連携を図る必要があります。ハローワークから支援依頼があった際は、ハローワークが求めている支援内容やこれまでの支援経過等からハローワークの主訴を把握し、その上で本人の相談を受け付けることによって、ハローワークと就業支援機関の役割分担を明確にしておくことが重要です。また、ハローワークが本人や保護者に対し、就業支援機関のサービスをどのように説明しているかについても確認し、もし実際と大きく異なる説明がなされている場合は、再度ハローワークから本人や保護者に説明をしてもらい、本人の認識との齟齬を無くすことが必要です。 Aさんの基本情報 Aさんは現在23歳の男性。地域の中学校を卒業後、私立高校に進学。専門学校に入学するが、実技・学科についていけず人間関係も上手くいかなかったため半年で退学。就職活動を開始し正社員求人に30社程応募するが全て不採用。 その後、ハローワークの一般窓口や求人誌を活用し、アルバイト、パートとして5社に勤務するが、いずれも長続きせずに離転職を繰り返していたため、親戚の情報提供により、療育手帳を取得した。 ハローワークでの相談内容 ハローワークにはAさんと母親の二人で来所。来所のきっかけは今後の就職活動に対する相談。ハローワークから希望する条件等の聞き取りを行ったが、Aさん、母親ともにイメージが漠然としている状況。一方で、ハローワークから「一般雇用と障害者雇用の違い」「支援制度」「就労支援機関によるサポート」等について説明を行ったところ、Aさん、母親ともに一般就労での不適応経験があるため、障害者雇用制度を活用したいとの話だった。 ハローワークは、「求人とのマッチングに係る情報が不足している」「就職及び就職後のサポートを受けることが望ましい」との見解をAさん、母親に伝え、就職活動から就職後の定着段階まで様々な相談に応じる場所としてセンターを紹介した。 ワーカーは上記の聞き取りを踏まえ、ハローワークの当面の主訴は、Aさんや家族の仕事に対する希望やイメージの深化、職業適性や職業準備性の把握であることを確認した上で、ハローワークを通してAさん、母親との初回面談日を設定した。 ハローワークから聞き取った内容の整理 基本情報(氏名、年齢、性別、障害状況等) Aさん、23歳男性、親戚に勧められたのがきっかけで、最近療育手帳B2(軽度)を取得 現況 離職後約1年が経過しており、日中は家の中で過ごしている 職歴 5社で就業した経験があるが、長続きせず。職種は様々ですべて一般雇用。 就労に対するAさん(母親)の希望 就職したい(してほしい) 障害者雇用を希望 職種の希望は定まっていない ハローワークにおける相談状況 求職登録済み 障害者雇用、支援制度、就労支援機関に関する情報提供 職業適性などのマッチングに必要な情報が不足している ハローワークがセンターに求めている支援内容 仕事に対する希望やイメージの深化 職業適性、職業準備性の把握 就職後の継続的なサポート 2.センターにおける相談 (1)インテーク(Aさん、家族からの情報収集) Aさん、母親にセンターに来所してもらい面談を実施した。ハローワークから聴取した内容を基に、仕事や支援機関の利用に関するAさんや母親の気持ちを確認した。 Aさんからは、仕事に対する考えについて、将来が心配、家族を安心させたい、仕事は何でもよい、障害者雇用だったら続けられるはず等の話があり、自身のことについては、何が障害なのかよく分からない、得意なことや苦手なことは分からない、どんなサポートが必要なのか分からない等の話があった。 職歴について聞き取りを行ったところ、離職理由についてなぜかよく分からない等、面談中に何度も母親の顔色を窺う様子がみられたため、次回はAさん一人で相談に来ていただくことを提案しpoint2、本日は母親からAさんの生育歴、職歴、生活状況、障害特性、Aさんの就職に係る母親の希望等について聞き取りを行ったpoint3。 ココがPoint2 本人に知的障害がある場合、コミュニケーションの補助者として家族や支援機関に同席してもらうことによって、相談や情報収集がスムーズになると思われます。しかし、1対1の方が話しやすい等、本人の希望に沿った雰囲気作りや環境設定も必要です。この事例では、ワーカーは、本人が母親の前では話しにくそうな雰囲気を察したため、個別面談を提案しました。 ココがPoint3 障害者就業・生活支援センターは本人の職業生活をトータルで支援する役割を担っているため、仕事や生活について幅広く情報収集を行うことが必要です。 母親から聞き取った内容の整理 学校生活の様子(小学校、中学校への通学状況、学習の達成度) 小中学校と成績は下位。友達ができずほとんど一人で過ごしていた。 病気(風邪)以外で休むことはなかった。 小学校高学年時に担任から特別支援学級を勧められたが、日常生活を送る上で特に大きな問題が無かったこと等から、通常学級で様子を見守ることとした。 家族構成(両親との関係、兄弟との関係) 両親と2歳下の弟との4人暮らし。 父親は何事も本人の努力の問題という考え。Aさんにとっては怖い存在。 弟は就業中。一緒に外出するなど関係は良好。 経済状況(家族の就業状況、年金受給の有無) Aさん以外は就業中。 障害年金を申請済み。 通院状況 定期通院、服薬等はなし。 生活状況 離職後は昼まで寝ていることが多い。 給料はAさんが管理。過去に、高額な電化製品を複数購入し、給料日に給料のほとんどを使ってしまうことがあった。 在職時の様子 家族に仕事のことをほとんど話さない。辞めた理由を聞いても合わない人がいたというくらいで詳しいことは分からない。 病気以外で仕事を休むことはなかったが、離職前にはご飯を残す、塞ぎ込む等があった。 障害特性 あまり分からないが、基本的に受け身で何か言われないと動けない。 母親は障害者手帳の取得に抵抗はあったが、仕事がうまくいかないことが続いたので何かサポートが必要と思い取得を決めた。 今後の不安 このまま在宅生活が長引かないようにしたい。 将来一人暮らしをすると言っているが、金銭面や対人面のトラブル等が不安(以前同級生に恐喝されていたことがある)。困った際に家族に相談できない。 センターでは生活面に係る相談に応じる事、必要に応じ地域の生活支援機関をコーディネートできる事を伝えた。 仕事に対する考え 母親としては、以前は正社員を望んだが、今は長く働ければこだわらない。 ワーカーからは、Aさんと母親に就職に向けた支援、就職後の職場定着支援、生活支援についてパンフレットをもとに説明し、登録の希望を確認した。当面はAさんとの信頼関係の構築と情報収集を目的に面談を継続的に実施すること、必要に応じて地域の就業支援機関にも協力をお願いする場合もあることを説明した。Aさん、母親ともにセンターの支援を希望されたため、登録手続きを行った。1週間後にAさんと面談をすることとし本日の面談を終了した。 (2)Aさんとの個別面談(1回目) Aさんから、改めて就職に対する考え方や職歴等について聞き取った。まず母親の前では話しづらい事があるのかを確認するとpoint4、「母親に過去のことを聞かれたくなかったので話しづらかった。」とのこと。理由は父親に知れるのが怖いこと、後ろめたさがあること、どう説明したらいいか分からなかったからとのことであった。 ココがPoint4 将来的に家族のサポートがどれだけ期待できるかによって、支援計画の内容も大きく異なってくるため、早い段階で把握することが必要です。 就職については、焦りはあるが自信がない、何が向いているのか分からない等の不安を話された。前職の離職後にいくつかアルバイトの面接を受けたが不調に終わり、次第に家に閉じこもりがちになっていたが、手帳取得をきっかけに再度就職しなければという気持ちが強くなった様子。なお、Aさん自身は手帳の取得に抵抗感はなかったとのこと。働く動機は、両親に心配をかけたくない(心配をかけると怒られそう)、一人暮らしをしたい等が理由とのこと。職歴の把握については、Aさんの理解力や表現力を考えると、聞き取りだけでは必要な情報を収集、整理するのが難しいこと、また、Aさん自身の振り返りの機会とすることを目的に、職歴の振り返りシート(図1)を活用した。Aさんには、記入できる範囲でかまわない旨を伝え、さらに、Aさんが記入できない項目については、質問方法を変える、具体例を挙げる等、Aさんの理解力を踏まえてサポートした。その結果、抽象的な部分はありながらも以下の情報を整理することができたpoint5。 ココがPoint5 知的障害等により、理解力や表現力等に配慮が必要な方については、本人にとって望ましい相談のペースや言葉遣いを意識してアセスメントをすることが大切です。また、本人では十分に受け答えや説明ができない事項もあると思いますが、その点は改めて家族等から確認することとし、まずは本人の言葉で話してもらうことによって、本人の潜在的なニーズや今後の支援のポイントを探っていく姿勢が重要です。支援者や家族等の周囲の人間が、本人を置き去りにしてしまうアセスメントをしないよう心がけます。 図1職歴の振り返りシート 職歴について情報収集した内容の整理 職務内容及び労働条件等 飲食業(皿洗い、簡単な盛り付け)、スーパー(品出し、カート整理)、製造業(箱詰め、組立作業)、物流業(倉庫内作業、荷受け)、引越し業 アルバイト、パートとして就労、ほぼ週30時間以上の勤務である。 給料は月7万円から12万円 通勤は自転車、バス、電車を利用した経験がある。通勤時間は約1時間の範囲。通勤上の問題は無し。 職務の特徴、人的・物理的環境、勤務状況等 手指の巧緻性を求められる仕事は経験がない。 製造業では、複数名で取り組む仕事から単独で取り組む仕事に配置転換された経験がある。 どの職場でも周囲は忙しかったため、相談できる人がいなかった。また、質問・報告もあまりしていなかった。 欠勤は、全くなかった企業と度々繰り返した企業があった。 母親の認識と異なる。本人は家を出た後に、会社に行かずに1日を過ごしていた。 良かったこと、しんどかったこと、離職に至った理由 数は少ないが、上司や同僚から励ましてもらった時は嬉しかった。 よく仕事でミスをして怒られるのがしんどかった。 すべての職場で何回も同じことを言わすな、スピードが遅い、仕事の覚えが悪い、やる気がない、やり方が間違っている等の注意、叱責を受けた。 契約満了で退職したのは物流業のみ。他の職場では仕事に行くのが嫌で欠勤状態となり退職した。 一番長く続いたのは物流業の仕事(約10か月)。理由は現場担当者が丁寧に教えてくれたり、悩みがないか等を気遣ってくれたため働きやすかった(担当者の異動により不適応となる)。 5社の振り返りについて、一つひとつ記入と聞き取りを行ったところで面談を終了し、次回に振り返りのまとめを行うこととした。 (3)Aさんとの個別面談(2回目) 職歴の振り返りをした内容を踏まえ、ポイントと思われる点について、以下のとおりAさんに確認した。 ほとんどの職場で注意・叱責を受けていることについて 注意・叱責の理由が分からず、注意を受けた際は頭が真っ白になる、黙りこむ等の状態になり、どうしたらいいか分からないまま働いていた。毎日職場で叱責されるようになると、仕事に行けず無断欠勤を続けた。 勤務状況について母親の認識と異なっていることについて 職場を休んでいると家族に心配をかけるので家を出て通勤途中の公園で過ごしていた。 本人は悩みを誰にも相談できなかったことが課題、家族は本人の状況を掴みきれていなかったことが課題であることを共有。 離職の理由について 作業遂行上の問題が発生し、上司からの頻繁な叱責がおき、欠勤という傾向が推察された。 継続勤務について、作業遂行と対人技能が就業継続の課題となっていることをAさんと共有した。 今後の就職活動について これまでは離職後とにかく次の仕事を探していたが(仕事の内容を変えることはAさんなりに工夫していた)、職歴を一緒に振り返った感想として、焦りすぎていた、何も考えずにとにかく就職先を決めていた等の発言があり、同じ失敗を繰り返したくない、次の就職先では長く働き続けたいなど、今後の就職活動に対する慎重な姿勢と不安な気持ちを示されたpoint6。 ココがPoint6 相談当初は気づいていなかった自身の傾向等について、職歴等の振り返りを通じて本人自身が気づいていくことが重要です。そのため、支援者は職歴等の振り返りを通じ本人がどこに困り感を持っているかを捉えながら聞き取りを進めていきます。さらに、支援者は適宜本人に振り返りの感想などを確認し、本人から新たな考え方や気づきに関するコメントがあった場合は、適切にフィードバックしていく事がポイントです。 これまでの面談を通して情報収集した内容の整理point7 強みと思われる点 真面目。就職に対する自発性が高い。 支援者に経過を素直に話してくれる。 通勤上の制限はみられない。 懸念事項 作業遂行上での不適応が続いている。 在宅生活が長引き、生活リズムが乱れている。 質問、報告など職場における対人技能が不足している。 相談する習慣がなく、母・支援者への自発的なSOSの発信が懸念される。 金銭管理が不十分である。 家族の障害理解やサポートに不安がある。 ココがPoint7 アセスメントにおいては、本人や関係者から収集した事実をもとに、支援者が本人の職業生活における課題や課題解決に必要な支援を想定するため、本人が持つ強みと課題を整理していく必要があります。本事例では、ここまで聞き取りによるアセスメントを行っていますが、本人の表現力や理解力に一定の制限があること、家族のサポート体制が手厚いとは言えないことから、情報が側面的であること等を踏まえ、あくまで強みと思われる点と懸念事項として整理をしています。 (4)Aさん及び家族との面談(就労移行支援事業所を活用したアセスメントの勧奨) ワーカーはAさん及び母親との面談を経て、さらにアセスメントが必要な事項について、1実際の作業における遂行力、2集団場面でのコミュニケーション力、3ブランクによる基礎体力や労働習慣への影響、4辛い時等のAさんの意思表示と家族に期待できるサポート体制の4点に整理しpoint8、Aさん、母親と今後についての面談を設定した。Aさんの就職に対する意欲を尊重しつつも、失敗体験をこれ以上積み重ねないよう、上記4点を明確にした上で、Aさんに合った働き方や就職活動のタイミングを検討したい旨を伝達した。また、これらを面談のみで把握することは難しく、実際の作業場面で確認をすることが望ましいため、就労移行支援事業所の利用を提案した。 ココがPoint8 聞き取りによるアセスメントを一通り終えた段階で、支援者が把握できたこと、さらにアセスメントが必要な事項を整理することが重要です。さらにアセスメントが必要な事項について明確にすることで、引き続き自機関のみでアセスメントが可能か、他機関との連携が必要かを判断しやすくなります。 Aさん及び母親は、就労移行支援事業所の利用について、良い訓練の機会になる反面、就職が遠ざかってしまうことを心配されたため、あくまで上記1から4を一緒に確認することが目的であり、一定期間の通所の結果を踏まえて、就職活動を行うか、さらに訓練を継続するか等を相談したい旨を説明し、Aさん、母親も了承した。Aさん、母親の希望も踏まえ、一定期間を3から4か月程度とすることとしたpoint9。 ココがPoint9 他機関を活用してアセスメントを進める際、本人や家族が就職から遠ざかっている、これ以上自機関の支援が受けられないという不安や誤解を抱かないよう、他機関を利用する意味や他機関を利用する期間、他機関の利用中から利用後の自機関の支援の見通し等を丁寧に伝える必要があります。 就労移行支援事業所選びについて、ワーカーはAさんの希望を確認したところ、Aさんからは色々な作業を試したい、体力をつけるために自転車で通所できるところが良いとの意見があった。さらに、ワーカーは1から4を把握するためには、作業種が多く、集団作業の場面の中でもある程度スタッフの個別対応が可能であること、職場でのコミュニケーションに係る講座を行っていること等の条件が望ましいと考え、条件を満たす施設としてB就労移行支援事業所(以下、B事業所という。)の利用を検討することを、Aさん及び母親と共有したpoint10。 ココがPoint10 障害者就業・生活支援センターは、地域の就労移行支援事業所と就業支援ネットワークの重要性を共有した上で、効果的なケースマネジメントを行う必要があります。センターにおいては、地域資源のアセスメントと顔の見えるネットワーク作りを目的に、圏域内に就労移行支援事業所が開所した際には施設訪問を実施し、センターの支援内容と就労移行支援事業所の支援内容(作業や訓練プログラムの内容、利用者の傾向、施設の懸案事項等)について意見交換を行っています。 3.就労移行支援事業所を活用したアセスメント (1)就労移行支援事業所利用に係るコーディネート 1就労移行支援事業所の見学同行 ワーカーからB事業所に電話連絡をし、これまでの支援経過、利用目的等を伝えた上で、施設見学の依頼を行った。特に3から4か月程度を区切りとして、継続利用か就職活動を進めるか等の方向性を相談したい旨を伝え、了承を得たpoint11。 ココがPoint11 他機関にアセスメントに係る連携を依頼する時は、これまでの支援経過や目的を明確に伝え、こちらの要望通りに対応してもらうことが可能かどうかを確認することがポイントです。もし、こちらの要望通りの対応が難しい場合は、要望の内容を変更するか、他の機関に連携依頼をする等の対応が必要です。特に就労移行支援事業所は就職に向けたトレーニングを役割とする施設であるため、連携依頼の連絡の際に、アセスメントとしての利用であること、アセスメントの結果によって継続利用または早期の就職活動支援等の方向性を定めたいこと等のねらいを明確に伝えた上で、対応可能かどうかを確認することが必要です。 後日、Aさんと母親、ワーカーにてB事業所を訪問し、実際の作業場面の見学、作業内容などのプログラム等について説明を受けた。Aさんからは、「どんなことをやっているのかイメージが湧いた。安心して通えそう。」と利用意思が確認できたため、B事業所の利用に向けて手続きを進めていくことになった。 また、この時点でハローワークにセンターでの支援経過と今後の支援の方向性について連絡をし、情報を共有したpoint12。 B事業所について 作業内容箱詰め、ピッキング、喫茶(洗米、盛付、掃除、接客) 講座あいさつ、返事、質問、報告、連絡、相談に係る体験型学習会 ココがPoint12 連携する関係機関が増えることやアセスメントにある程度の時間が生じる等、当初の見込みと進捗に違いが生じた場合は、支援の依頼元に丁寧に進捗を伝える事で、アセスメント後の連携が滞らないようにしておくことがポイントです。 2就労移行支援事業所への情報提供 Aさん及び母親に了解を得た上で、申し送りシート(図2)にセンターでの支援経過及び面談によるアセスメント内容、B事業所に依頼したい事項等を取りまとめ、B事業所に伝達したpoint13。 図2申し送りシート 表1申し送りシートの「3.相談、支援経過」部分 これまで取り組んだ支援内容 計4回の面談を実施(うち2回はAさんとのみ面談) 初回面談では、「直ぐに就職したい」という焦りが強く表れていたが、これまでの就労経験を振り返る中で、慎重に就職活動を進めていく姿勢に変化してきている。 過去の就労経験 勤務した企業すべてで作業遂行に係る叱責を頻繁に受けている(理解力、スピード、正確性等の全般的な事項)。叱責を受けても理由が分からず、また周囲に相談もできず、叱責に耐えられなくなって無断欠勤をし、離職するという傾向がある。 Aさんは、家族に欠勤を隠していたため(父親に知られたくない)、家族も気づいていなかった。ただし、自宅では食欲が無い、夜中に大声を出す等、家族にも分かるストレスサインは出ていた。 最も長く勤務した物流倉庫では、現場担当者が親身にしてくれていた(現場担当者が変わり不適応となった)。 通勤について、1時間程度、電車、バス等の複数の交通機関の利用等があったが問題は無かった。 生活面 引越し業を辞めてから約1年間在宅生活が続き、生活リズムが不規則になっている。 過去に給料の大半を給料日に使ってしまったことがある(高額な電化製品を購入)。 将来一人暮らしをするという希望を持っているが、母親は心配している。 障害(特性)について Aさん、母親ともに「知的障害のために療育手帳を取得した」ということ以外に、Aさんの特徴を考えたことはない。母親曰く「受け身」「常に声かけが必要」とのこと。 面談で把握した強み 真面目。就職に対する自発性が高い。支援者に経過を素直に話してくれる。通勤上の制限はない。 面談で把握した課題 作業遂行上の不適応が続いている。在宅生活が長引き、生活リズムが乱れている。質問、報告等の職場における対人技能が不足している。相談する習慣がない。金銭管理が不十分である。家族の障害理解やサポートは必ずしも十分でない。 今後の支援について 就職活動のタイミングや方法等を検討する上で、下記4点についてさらにアセスメントを進める必要があり、そのためにB事業所の利用をAさんに勧めている。 1実際の作業における遂行力 2集団場面でのコミュニケーション力 3ブランクによる基礎体力や労働習慣への影響 4辛い時等の本人の意思表示と家族に期待できるサポート体制 ココがPoint13 自機関で把握した情報を確実に共有するためには、他機関に対して紙面にて情報を提供することが効果的です。本人の障害特性や経歴なども重要な情報ですが、自機関の支援方針を具体的に記載することが重要です。これによって、他機関も何を求められているのかを具体的に理解することができるようになります。 また、B事業所利用開始日に、Aさんの目標と支援者の役割等について共通認識をもつことを目的としたケース会議(参集範囲Aさん、母親、ワーカー、B事業所担当支援員)をB事業所で実施した。 1実際の作業における遂行力、2集団場面でのコミュニケーション力、3ブランクによる基礎体力や労働習慣への影響、4辛い時等の本人の意思表示と家族に期待できるサポート体制の確認が最大のねらいとなるため、Aさんの目標も関連した内容となるよう調整したpoint14。B事業所からは「できるだけ多くの作業を経験するように調整するが、必要に応じて職場実習の設定も可能である。」との話をいただいた。Aさんの目標や支援員の支援事項は以下のとおり。 ココがPoint14 本事例ではアセスメントを目的として就労移行支援事業所を利用していますが、アセスメントする事項に合わせて本人の達成目標を明確にすることがポイントです。達成目標を明確にすることで、「目標達成ができたかどうか」「目標達成できなかった場合の要因は何か」を支援者間でより具体的に情報共有ができるとともに、本人の気づきも一層促進されます。 本人の目標 1ミスなく作業を行う 2あいさつ、返事、報告、質問を適切に行う 3休まず、遅刻せず通所する 4困った時、悩んだ時に母親やB事業所に相談する 支援員の役割 B事業所上記1から4に向けて作業指導、ビジネスマナー指導、相談を実施 センター月に1度B事業所を訪問し状況観察、適宜情報交換 3か月後にケース会議を行い今後の方向性を再検討する 就労移行支援のためのチェックリスト(以下、チェックリストという。)をケース会議の資料とする (2)就労移行支援事業所からの情報収集 B事業所の利用から3か月後、B事業所においてAさん、ワーカー、B事業所担当支援員にてケース会議を実施したpoint15。ここでは、B事業所が記入したチェックリストを基に、Aさんの目標達成度合いを確認した。なお、チェックリストを作成するに当たっては、ワーカーからも月1回のB事業所訪問で気づいた点などを事前に伝達したpoint16。Aさんには、自分の強みと課題点をイメージできるよう職業準備性ピラミッド(図3)に、アセスメントの結果を記述してもらった(できていることを塗りつぶしてもらう)point17。丸印は就労のセールスポイントとしてハローワークや会社にアピールできそうなこと、それ以外はAさんが引き続き課題として取り組む必要があることとし、Aさんと支援者間で情報共有をした。 ココがPoint15 予定していたアセスメント期間が終了するタイミングでケース会議を実施することにより、収集した情報や今後の方針などを支援者間で情報共有することが重要です。 ココがPoint16 作業場面におけるアセスメントについては就労移行支援事業所が主たる役割を担っていますが、その間障害者就業・生活支援センターが気づいた情報については適宜就労移行支援事業所と共有し、就労移行支援事業所が作成するアセスメント結果や記録に反映してもらうことによって、より深みのある情報収集が可能となります。 ココがPoint17 アセスメントで得た情報を図3のように視覚的に取りまとめることによって、関係機関の共通理解を深めることができます。また、本人に記入を依頼することによって、本人自身の自己理解の促進にも役立ちます。 B事業所を活用して情報収集したこと(前述の1から4に当てはめて整理) 丸印就労のセールスポイントとしてハローワークや会社にアピールできそうなこと 三角印引き続き課題として取り組む必要があること 1実際の作業における遂行力 丸印箱詰め作業は安定して遂行できている 三角印ピッキングは、量が多くなると焦ってミスがあった 三角印喫茶サービスについて、清掃は丁寧だが時間が掛かる、接客は緊張感が高く落ち着きがない、盛付は焦ってしまうことが多い 丸印個別の単純作業ではムラなく安定して遂行できている 三角印段取りを組み立てることは難しい 三角印全体的に作業手順を覚えるまでに時間がかかる 三角印一度失敗をしてしまうとミスが連鎖しやすい 三角印周囲の人が気になってしまい、目の前の作業に集中できないことがある 三角印早く作業をやろうとして、焦ってしまう様子がある 2集団場面でのコミュニケーション力 丸印通所開始時は自分から挨拶をすることはなかったが、講座や日々の指導を通して、今はできるようになっている 丸印慣れた職員、利用者とは自分から意思表示や会話に参加することができている 丸印失敗や間違いを指摘後「すみませんでした」とすぐに謝罪、報告することができる 三角印指示に対して「はい」がパターン化されており、実際には指示を理解していないことがある 3ブランクによる基礎体力や労働習慣への影響 丸印正当な理由のない遅刻、欠席はなし 丸印作業内容に応じて着替えを用意するなど、身だしなみや衛生管理は良好 丸印1日6時間の(立位)作業ができている 丸印作業時間、休憩時間の区別ができる。時計を見て自発的に作業準備ができる 4辛い時等の本人の意思表示と家族に期待できるサポート体制 丸印母親と相談しながら必要なものを購入することができている 通所中には大きく悩みが生じる場面は無かった。支援員とのコミュニケーションは積極的であった。 5その他 丸印少しずつ障害のことを理解し始めている 丸印利用当初に比べ、自信がついたのか作業やコミュニケーションに積極的になっている Aさんの就職に対する考え方やB事業所利用に係る感想等 最初の1か月は緊張したが、徐々に慣れた。他の利用者とも話せるようになった。 講座が分かり易くて、勉強になった。 作業は箱詰め、ピッキング、掃除等がやり易かった(自分のペースでできる)。 早く作業をしないといけない、ミスをしてはいけない、周囲に足並みをそろえないといけない等を考えてしまうが、慣れるにしたがって落ち着いて作業ができるようになった。 最初は疲れたが、今は疲れは溜まっていない。 図3職業準備性ピラミッド 安定した職業生活のための職業準備性」にはさまざまな側面(段階)があります。就労移行支援のためのチェックリストを活用して、あなたの職業準備性のどの側面(段階)がどのような状態かをまず、把握してみましょう。できているもの(チェックリストの1か2に丸がついたもの)は丸に色を塗りましょう。 黒丸にできているものが増えれば増えるほど、働く土台がしっかりしてくるので安定した職業生活につながりやすくなると思われます。 丸の難しいことや課題点はどのような配慮や支援があるとよいかをためしてみたり考えてみるといいですね。 ピラミッドの土台は健康管理、病気の管理、体調管理 黒丸食事(通院している人のみ丸定期的な外来通院、丸服薬管理)、黒丸体調不良時の対処、黒丸自分の障害・症状の理解、丸援助の要請(SOS発信) ピラミッドの土台の上は生活のリズム、日常生活 黒丸起床、黒丸生活リズム、黒丸身だしなみ、黒丸金銭管理、丸社会性(生活の中のルールを守る) その上は対人技能 黒丸あいさつ、黒丸会話、丸言葉づかい、丸協調性、丸共同作業、黒丸非言語的コミュニケーション、丸感情のコントール、黒丸意思表示 その上は基本的労働習慣 黒丸一般就労の意欲、黒丸作業意欲、丸持続力、丸働く場のルールの理解、丸危険への対処、丸作業態度、黒丸質問・報告、黒丸欠勤時の連絡、黒丸出勤状況(安定出勤) ピラミッドの1番上は職業適性 丸就労能力の自覚(作業適性・量)、丸作業速度、丸能率の向上、丸指示理解、丸作業の正確性、丸作業環境の変化への対応 (3)地域障害者職業センターを活用したアセスメントの勧奨 B事業所への通所により得た情報から、ワーカーは、Aさんについて、基礎体力や労働習慣に大きな課題はなく、人とのコミュニケーションが頻繁でない作業種であれば、職場での指導や配慮によって適応できる可能性が高いと判断し、Aさん及びB事業所と今後の進め方について検討した。 Aさん 「B事業所への通所によって自信がついた」「就職に対して焦りではなく前向きな気持ちとしてチャレンジしたい」等の意向 B事業所担当支援員 「もっとB事業所で訓練すれば伸びる部分もあると思うが、マッチングによっては必ずしも訓練は必要でない」「会社からどこまで求められるか分からない」等の見解 B事業所からは職場体験実習の提案があったが、ワーカーは、職歴が複数あるAさんに体験型の実習は必要なく、関係者がAさんに適した作業環境や事業主に依頼する具体的な配慮の内容、ジョブコーチ等による職場内支援の効果等について理解を深めること、具体的な就職活動の方法や就職活動中から就職後までAさんや支援機関が留意すること等を整理することが必要である旨を説明した。そのために、地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)に職業評価を依頼することを提案したpoint18。Aさん及びB事業所からも希望が確認できたため、ワーカーから母親に連絡を入れることとした。 ココがPoint18 関係者間でアセスメントを行った場合は、それぞれが持つ情報を確実に共有した上で、各機関の意見を確認しながら、今後の方針を検討する必要があります。本事例では、基本的な労働習慣、対人技能、生活リズム等に大きな問題は見られず、職場の指導体制等の環境面や支援機関によるサポート体制によって職場適応に大きく影響を受けると判断されたため、Aさんに適した作業環境や事業主に依頼する具体的な配慮の内容、ジョブコーチ等による職場内支援の効果等をより具体的にアセスメントすることが効果的と考え、職業センターの職業評価の利用を提案しました。自機関の持つアセスメント機能のみならず、地域の他機関のアセスメント機能を把握しておくことにより、就業支援ネットワークを活用したアセスメントを効果的に進めることができます。 4.職業センターを活用したアセスメント (1)職業センター利用に係るコーディネート ワーカーは、職業センターに依頼をする前にハローワークに連絡を入れ、B事業所の通所によってアセスメントできた内容と職業センターの職業評価を利用する方針について伝達した。併せて、Aさんの職業準備性は一定整っており、今後は求人選択等のマッチングや就職後の支援体制がポイントになると思われること、したがって職業評価結果を踏まえてAさん、母親、ハローワーク、B事業所、職業センター、センターにてケース会議を設定したいことを伝え、ハローワークの了承を得たpoint19。 ココがPoint19 新たな連携先にアセスメントを依頼する際は、依頼の趣旨やアセスメントされた情報の使用方法、アセスメント結果を踏まえた次の展開等を、事前に既存の連携機関で共有し、齟齬が起きないようにすることが肝要です。事前に共有することによって、アセスメント後の情報共有や具体的な連携活動もスムーズになります。本事例では、具体的なマッチングや就職後の支援体制等を整理するために職業センターの職業評価を依頼しています。また、関係支援機関がスムーズにAさんの就職活動支援に移行できるよう、職業評価後のケース会議についても事前に依頼をしています。 その後、ワーカーから職業センターに電話にて連絡をし、これまでの支援の経過や職業評価で確認したい内容を具体的に伝えた。電話の段階では主に以下の4点を伝えた。 1Aさんの職業準備性は一定整っており今後は求人選択等のマッチングや就職後の支援体制がポイントになると思われること 2職業評価結果を踏まえてAさん、母親、ハローワーク、B事業所、職業センター、センターにてケース会議を設定したいこと 3職業評価時はワーカーが同行したいこと 4作業評価を中心に作業の正確性、スピード、理解力等を確認し、事業主に配慮を依頼する点や支援によってカバーできる点を検討したいこと (2)職業評価を通じた情報収集 職業評価当日はワーカーが同行し、センターが取り組んできた支援経過やAさんの状況等について申し送りシート(表2)及び職業準備性ピラミッド(図3)を提供しながら伝達したpoint20。 ココがPoint20 本事例では、申し送りシートをB事業所に提供した後、新たにアセスメントできた内容があるため、それらをしっかりと反映して職業センターに提供しています。また、ハローワークやB事業所にも提供することで、改めて職業評価を依頼した趣旨等の共通認識を持つ事ができます。さらには、Aさんに作成してもらった職業準備性のピラミッドについても情報提供することで、アセスメントしてきた内容を一層分かりやすく依頼先に伝えることができます。 表2申し送りシートの「3.相談、支援経過」部分 これまで取り組んだ支援内容 センターにて計3回の面談を実施した後、B事業所を紹介し、現在も通所(約4か月が経過)。 B事業所の紹介理由は以下の4点をアセスメントするため。 1実際の作業における遂行力 2集団場面でのコミュニケーション力 3ブランクによる基礎体力や労働習慣への影響 4辛い時等の本人の意思表示と家族に期待できるサポート体制 B事業所では週5日間1日6時間通所しており、箱詰め、ピッキング、喫茶(洗米、清掃、盛付、接客)等の作業に従事、その他挨拶や返事等の体験型講座を受けている。 3か月終了時点で、Aさん、母親、B事業所とケース会議を実施し、職業センターの職業評価を依頼することとなった(ハローワークとも相談済)。 上記2から4については就業を制限する事項はないと判断したが、1について専門的なアセスメントが必要と考えている。 過去の就労経験 すべての企業で作業遂行に係る叱責を頻繁に受けている(理解力、スピード、正確性等全般的な事項)。叱責を受けても理由が分からず、周囲への相談もできず、叱責に耐えられずに無断欠勤をして離職するという傾向がある。 Aさんは家族に欠勤を隠しており(父親に知られたくない)、家族も気づいていなかった。なお、自宅で食欲が無い、夜中に大声を出す等、家族にも分かるストレスサインは出ていた。 最も長く勤務した物流倉庫は現場担当者が親身にしてくれた(現場担当者が変わり不適応となった)。 通勤について、1時間程度、電車、バス等の複数の交通機関の利用等があったが問題は無かった。 生活面 引越し業を辞めてから、1年間のブランクがあったが、B事業所には遅刻・欠勤はなく(体調不良を除き)、生活面の大きな課題はみられなかった。 過去に給料の大半を給料日に使ってしまったことがあるが、B事業所から得た工賃の使用は母親と相談して行っている。 将来一人暮らしをするという希望を持っているが、母親は心配している。 障害(特性)について Aさん、母親ともにB事業所の利用を経て、Aさんの強みと課題に関する理解が深まってきている。 強み 作業に対する意欲や挨拶等、基本的な労働習慣は身についている。教育することで言葉遣いや報告等も実践できていた。通勤上の制限はない。生活リズムや健康管理面で大きな課題はみられない。 課題 作業については単純反復の箱詰め作業以外でミスがみられた。B事業所勤務中は大きなストレスは無かったが、生じた際に家族や支援者に上手く発信できるかは不明。 別紙「職業準備性のピラミッド」を参照 今後の支援について 作業適性以外の部分の状況把握は終了し、就職活動が開始可能と考えている。職業評価を利用することで、作業の正確性、スピード、理解力等を確認し、事業主に配慮を依頼することや支援によってカバーできるとことを整理した上で、具体的な就職活動を進めたい。 職業センターからは、複数のワークサンプルを実施することで、身体的な機能面から作業の理解力等の情報処理面の傾向を整理する旨の提案があった。また、ワーカーもAさんの特性を詳細に把握できるよう職業評価の場面に同席し、行動観察をすることとしたpoint21。 ココがPoint21 本事例では、B事業所にワーカーが定期訪問してAさんの状況を確認しており、職業評価の作業検査場面にもワーカーが同席をしています。これによって、作業や検査の内容、支援者の関わり方等、どのような環境においてアセスメントされたのかを把握することができ、他機関からのアセスメントのフィードバックを理解しやすくなることやフィードバックに対して詳細な確認や質問等を行えるようになります。 実施した作業検査 GATB器具検査、ピッキング、ワッシャーの選別、力ード分類、水道蛇口の組立・分解(一部清掃も実施) 職業センターの利用を通じて情報収集したこと 作業検査の結果から、スピーディーな動作は期待できないため、安定したペースや正確性を伸ばす視点が大切である。 ピッキングでミスはみられたが、指摘をした点を修正することができていた。作業で注意すべきポイントや手順を分かり易く教えることで、習熟できる可能性が高い。カード分類は時間がかかったものの、ポイントを伝えた結果ミスなく遂行できた。 ミスを防ぐためには、スピードへの意識や周囲の刺激を減らすこと、確認行動を作業の工程の中に入れること等が効果的である。 教えられたことに忠実なため、作業途中で変更や追加がある場合は、初めから一連の流れで再度作業指示を行う必要がある。また、指示の内容が人によって変わらないように配慮する必要がある。 清掃作業では段取りや効率を考えることは苦手だが、やり残し等は無く空間判断等の力は備わっている。 迷った時に質問ができず、流されてしまう傾向があることは課題である。 以上から、巧緻性やスピーディーな動作が求められる、周囲を気にしないといけない(又は気になってしまう)等の作業環境を避ければ、ジョブコーチ支援を行いながら、職場の管理体制を整えることで、職場適応を目指すことが可能な旨をAさん、職業センター、センターにて共有した。 Aさんの感想 個室で行ったためか、予想より緊張せず集中して取り組むことができた。 作業中に時間を計測されたため、スピードを気にしてしまった。スピードを気にすると焦ってしまう。 ミスもあったが、一つひとつ分かり易く教えてもらったため、上手く集中することができた。 自分に合っている作業は単純な箱詰めくらいと思っていたが、職業センターから清掃やピッキングもできると言われて嬉しかった。 就職の際は、ジョブコーチ支援を利用したい。 質問をしないといけないと分かっているが、指示のペースについていけない時に上手くできない事がある。 Aさん、職業センター、センターにて、職業評価を受けて肯定的に評価されたところは自信を持って良いこと、質問などの課題は今後も気を付けていく事を共有した。 5.就職活動に向けたプランニング (1)就職活動に向けたケース会議 職業センターの職業評価後にハローワークにてケース会議を実施し(参集範囲Aさん、母親、ハローワーク、職業センター、B事業所、センター)、センターでの相談内容、B事業所での通所状況、職業センターでの職業評価結果等を改めて共有し、今後の就職活動について検討をすることにしたpoint22。 ココがPoint22 アセスメントの結果については、関係者で確実に共有するためにケース会議の設定が効果的ですが、ケース会議の場所やメンバーについても狙いに沿った設定が必要です。本事例ではハローワークからセンターにアセスメントの依頼があったことがAさんに対する支援契機であり、B事業所や職業センターの協力を得ながら一定のアセスメントを終え、具体的な就職活動を開始することが望ましいと考えられたため、ハローワークに関係者を集めたケース会議を設定しました。 Aさんは、これまでの支援を通じて就職活動を開始することを希望しており、母親もB事業所の通所中に大きなトラブルもなかったこと、ここ数か月のAさんの表情が良いこと等から就職活動を応援したいとの意向を示された。センター等の支援者もAさん自身が就職活動を前向きに考えることができていること、基本的な職業準備性は整っていること、作業面や企業内の人間関係についてはジョブコーチ支援を活用すること等の理由から、B事業所への通所を継続しながら、具体的な就職活動を進めていくこととした。 (2)プランニングの策定 ケース会議では今後の就職活動の進め方や就職後のフォローアップ体制等、今後の支援に係るプランニングを検討した。就職活動中と就職後のAさんの行動目標を明確にすること、Aさんの目標や行動計画を支援する者と方法を明確にすることに留意して検討を進めたpoint23。なお、ケース会議は人数も多く、Aさんと母親が内容を十分に理解できない可能性もあることから、後日Aさんと母親にセンターに来所してもらい、ワーカーからプランニングの内容を再度説明する場面を設定したpoint24。プランニングの内容は以下の通り。 ココがPoint23 プランニングでは本人の取り組む目標に加え、支援機関の支援内容を具体的に決定することが必要です。支援内容はいわば支援機関の目標といえ、特に関係機関が複数ある場合は、支援内容にずれが生じないようにするためにも重要なポイントとなります。また、就職活動についてのプランニングの際には、就職後の本人の目標や支援機関の支援内容もできる限り具体的に決めておくことで、急な企業面接等の対応を行ったとしても、採用後の支援機関による支援内容の説明がスムーズに事業主に行える等のメリットがあります。 ココがPoint24 複数の関係者が集まるケース会議では、ケース会議中に活発な意見交換が行われるなど、本人や家族が情報の多さから内容を理解しきれない場合もあります。したがって、別日に個別面談にて改めて内容を説明する機会を設けることで、本人にとって生きた支援計画にすることができます。 プランニングの内容 1.就職活動について Aさんの目標(Aさんが具体的に行うこと) 1引き続きB事業所に通所し、生活リズムの維持、質問や報告の習慣づけに取り組む 2毎週水曜日の午後にハローワークで求職活動を行う 3毎週金曜日の午後にセンターを訪問し、就労アンケート(図4)やプロフィール票(図5)を作成する 各支援者が行う事項 B事業所 引き続き通所時の支援を行う。 「作業は、箱詰め、ピッキング、清掃に重点化する」「コミュニケーションの講座は引き続き受講し、特に作業中の質問について習慣づけを図る」等に留意する。 必要に応じハローワークに同行する。 ハローワーク Aさんの来所時に、求人情報の提供や検索方法の助言等を行う。 週30時間程度で、軽作業、清掃、倉庫内作業、バックヤード等の求人を情報提供する。 センター Aさんの来所時に面談を行い、採用面接に向けた準備を進める。採用面接にはワーカーが同行する。 Aさんと就労アンケートやプロフィール票を作成し、具体的な求人選びや応募企業への情報提供等に活かす。 2.就職後について Aさんの目標(Aさんが具体的に行うこと) 1スピードよりもミスなく正確に作業することを意識する 2分からないことや悩むことはそのままにせず、質問したり相談をする 職場の人に言えなければ支援者に伝える 3職場での状況を時々は母親や父親に話す 各支援者が行う事項 B事業所 Aさんの精神的なケアとして、OB会(レクリエーション)の参加や休日のB事業所の訪問等を受け入れる。 ハローワーク 事業主に対し、トライアル雇用やジョブコーチ支援等の制度の活用を勧奨する。 職業センター ジョブコーチ支援を行う。また事業主が障害者雇用に不慣れな場合は受け入れに係る助言を行う。 センター 定期的に企業訪問を行う。 ジョブコーチ支援終了後は長期的なフォローアップを行う。 就労状況を適宜家庭に連絡する。父親にもAさんが頑張って就労している状況を伝える機会をタイミングよく設定する。 将来的な一人暮らしについては、就労が安定したことを見極めた上で生活支援センターを紹介し、助言が得られる環境をコーディネートする。 図4就労アンケート 図5プロフィール票 6.プランニング後の経過 就職活動を開始して2か月後、ある事業主からハローワークに雇入れの相談があった。事業主はこれまで障害者雇用の経験がなく、雇入れに対して不安を抱えていたため、ハローワーク、職業センター、センターの3者で職場訪問を実施することにし、支援制度の説明や職場環境の見学等を行った。その企業は倉庫内作業を持っており、その中でも格納、ピッキング、荷出し、梱包等の作業は採用する障害者の特性に合わせた配置が可能とのことだった。 ハローワーク、職業センター、センターはAさんにマッチする職場環境と判断し、センターからAさんに連絡をし、企業の職場環境、仕事内容について情報提供を行った。Aさんからは「ぜひやってみたい」との希望を確認できたため、採用面接に臨み、職業センターのジョブコーチ支援を活用しながらトライアル雇用を活用して働くことになった。なお、採用面接時に、事前に作成したプロフィール票を事業主に提出し、必要な配慮を依頼している。 トライアル雇用の初期段階から、職場で起こることについての支援はジョブコーチが中心となり、職場外での支援についてはセンターが行うように役割を分化し、それぞれの支援を共有するようにして取り組んだ。しかし、職場内の支援をジョブコーチだけに任せるのではなく、Aさんの状況把握、支援策の共有、事業主との関係作りを目的にセンターも2週間に1度のペースで職場訪問を行った。 トライアル雇用の中間、終了時点にも企業にてケース会議(参集範囲Aさん、センター、ハローワーク、職業センター)を実施し、Aさん、事業主、支援者で状況や目標・課題の共有を行った。常用雇用に移行し、トライアル雇用から半年後の時点でジョブコーチのフォローアップは終了とし、現在はセンターが定着支援(職場訪問、定期面談など)を実施している。 また、定着支援はセンターが中心となって行っているが、AさんはB事業所のOB会(レクリエーション)に毎回参加しており、仕事の帰りにセンターだけではなくB事業所に訪問することもある。AさんにとってB事業所は就職することを目標として一生懸命取り組んだところであり、仕事で挫けそうな時にB事業所に行けば「働くための工ネルギーが得られる」「就労のモチベーションが維持される」等と話されている。就労して1年半が経過、この間に障害年金の受給も決まり、一人暮らしに向けて地域の生活支援センターを紹介し、Aさんの単身生活に向けた準備を進めているところである。なお、父親を交えたセンターでの相談は実現していないが、就労後1年が経過した時点で、父親からAさんに対して「良く頑張っている」旨の話があり、Aさんも仕事の状況を家庭で話しやすくなっている。