分析編 障害者雇用に関連し、企業が取り組んだ内容一覧 障害者雇用に取り組むステップ 取組の項目 具体的な内容 事例番号 ステップ.1 障害者雇用の理解を深める 社内会議などでの周知・検討 先進的な取組をしている企業の雇用事例を検証 3 経営方針に盛り込み社内への周知と協力を要請 10 トップの考え方、理念を各施設長会議で発信 13 社員研修の実施 地域障害者職業センター職員を講師に社内研修の実施 1 特別支援学校の見学 7 障害者雇用セミナーへの参加 10 インターンシップ(職場実習)の実施 在学中に職場実習を実施 14 ステップ.2 障害者が担当する職務を選定する 既存の職務から職務を選定 既存の色々な業務を体験、本人に合う仕事を選定 5・8・11 新たに職務を創出 職務の創出・拡大に当って地域障害者職業センターの職務分析を活用、ジョブコーチの協力を得て作業マニュアルを作成 1 緊要度が高まった職務を担当する新部署を立ちあげ、適性に合った職務を設定 6 新設ラインにおいて職務を細分化、単純化 7 障害者雇用経験のある事業所を見学し、全社的に議論し職務を切り出し 10 職務の工程を分類、細分化し、適性に合った職務を設定 15 ステップ.3 受入態勢を整える 施設・設備の改善 ・スロープの設置 ・事務所出入口の引き戸の改修 5 ・障害者用トイレの改修 ・手すりの設置 6 通勤経路、就業時間などの配慮 通勤バスの時刻に合わせた勤務時間の設定 1 体調のすぐれない時は、時短勤務。本人と相談で勤務時間を設定 3 障害特性に応じた職場改善 集中力の持続及び疲労に応じ、休憩の機会を追加(発達障害) 2 ・拡大読書器、読み上げソフトの整備(視覚障害) ・本人の業務遂行を補助する介助者を新たに雇用(視覚障害) 4 勤務時間や勤務日数の調整(精神障害) 5・9・13 集中力の持続に応じた休憩時間の設定(発達障害) 6 ベテラン社員が横についてサポート(知的障害) 8・11 [参考]「はじめての障害者雇用 〜事業主のためのQ&A〜」 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用開発推進部(2021) 障害者雇用に取り組むステップ 取組の項目 具体的な内容 事例番号 受入態勢を整える 障害特性に応じた職場改善 ・挨拶や時間厳守等の生活習慣に係る支援(知的障害) ・買い物や余暇充実の支援等生活面における支援(知的障害) ・貯金管理、保険加入にかかる支援等(知的障害) 11 体調に応じた勤務時間の設定(内部障害) 12 ライン上に可視化した「正常品」と「異常品」を掲示し作業ミスの防止を図る(知的障害) 7 入職前にハローワーク、特別支援学校、支援機関等のチーム支援により作業マニュアルを整備(知的障害) 13・14 ステップ.4 雇用条件を検討する 在宅勤務、短時間勤務、短日数勤務等 就業規則を見直し、@在宅勤務制度、A短時間勤務制度、B時間有給制度、C変形労働時間制、D残業事前申請制度 5 ・採用当初は週3日から4日で開始し、3か月後に週30時間 ・勤務時間を2コースから選択 ・通院日の勤務時間を短縮し、通院以外の日で対応 9・12 ステップ.5 採用活動を行う ハローワークに相談 ハローワーク担当者を対象に職場見学を実施し理解を求める 2 求職者とのマッチングを図るために担当者による職場訪問 2・9 障害者就職面接会に参加 初めての障害者雇用に際して、障害者面接会に参加 9 就労支援機関等に相談 特別支援学校と本人の配慮事項に関する情報共有を図る 13 ステップ.6 職場定着と戦力化に取り組む 就労支援機関等との連携 地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用、マニュアルの作成(改訂) 2 ハローワーク、地域障害者職業センター、特別支援学校との連携 7 支援機関と連携し課題の客観的把握と改善 9・15 ジョブコーチ、特別支援学校担当者と連携し課題改善を図る 14 キャリアアップ・能力開発 職務習得に応じた担当職務及び所属部署の変更 4・10 ・様々な業務を経験しキャリアアップを促す ・フォークリフトの免許取得により職域の拡大を図る 8 新たな職務の設定によりモチベーションの向上を図る 9 定年年齢以降も継続雇用 12 介護補助職から介護職へのステップアップによりモチベーションの向上を図る 14 社内の相談体制の整備 週1回のミーティングで本人の不安を軽減 3 上司等による相談体制を整備 13 職場に障害に関する知識のある専任の介助者・支援者を配置 4・15 初めて障害者雇用に取り組む場合、上記のステップで進めることが一般的ですが、必ずしもこの順番に行わなければならないものではありません。必要に応じて、順番を変え、あるいは同時並行的に行われる場合もあります。詳しくは、ハローワーク等の支援機関に個別にご相談下さい。 分析編 経営者が考える障害者雇用のメリット 事例番号 具体的な内容 1 地域貢献と企業イメージの向上につながっており、職場の雰囲気も明るくなった。 2 人材育成スキルを身につける契機となった。 3 本人の能力が高く、業務に貢献してくれている。気遣い合うことで社内の雰囲気も良くなった。 4 周囲に声をかける社員が増え社内の雰囲気が良くなり、多様な働き方を受入れる社風となった。 5 周囲に気遣い合うようになり優しい仕事ができる。顧客からも優しさを得られることができる。 6 他の者では続かなかった職務に、障害のある社員が継続して取り組み、成果を出している。 7 付加価値のある新規業務に専念してもらい、効率も上がっている。 8 会社業務に大きく貢献してくれており、取引先からも喜ばれている。作業環境も良くなった。 9 障害者雇用に取り組んでから配置した部署の業績が赤字になったことがない。 10 戦力としてチームや会社全体から頼られる存在となり、利益向上にもつながっている。 11 担当業務に習熟し、意欲を持ってまじめに勤務することができる。 12 能力と意欲があって職責を全うできているので、障害の有無に関わらず勤務できる。 13 利用者と積極的に関わり、誠意をもって対応するので、職場の雰囲気が明るくなった。 14 職員全員の人材育成につながり、組織に多様性が生まれたことにより、企業全体の離職率が下がった。 15 障害者雇用に取り組んだことが他のサービスを考える契機となり新しい事業展開につながった。 分析編 事例フォーカス  ここでは、取材を行った者が取材を通じて感じたこと、印象に残ったこと、トピックなどを補足情報としてまとめています。取材対象企業では意識していないことであっても、取材者から見ると優れた取組や企業風土であると気づくことがあります。各事例のページでは伝えきれなかった企業の“熱”や“温度”、“企業風土”などを感じ取っていただければと思います。 事例1 カナツ技建工業株式会社 社長さんの地域を思う気持ちと障害者の社会参加を応援していこうという姿勢に感銘し、きれいな宍道湖と中海で楽しく元気にというメッセージと、イメージキャラクターのカナツレンジャーのインパクトが大。地域貢献を積極的にアピールしていこうという企業の強い思いを感じました。  障害者雇用については、法定雇用率の充足のためという義務感もきっかけとしてはあったのだと思いますが、それにとどまらず、公共性の高い水質検査関連で職務を創り出すというのは、良い取組みだと感じました。現場作業が多く、特有の技能や資格を必要とすることが多い建設業において、障害者雇用は制約があるのかもしれませんが、こうして職務・雇用の創出に取り組み、当事者の方も明るく元気に継続して働いている姿が見られることは、まさに地域を元気にする活動の賜物だと思います。地域と企業が一体となった取組みが重要だとあらためて思いました。(KK) 詳しくはP4・5へ 事例2 神町電子株式会社 同社を訪問した際に、先ず目に入ったのは、同社運営の「さくらんぼの森保育園」でした。代表取締役社長の板垣さんから従業員の方のお子さんだけではなく、隣接する工場に勤務する方のお子さんも受け入れているとお聞きしました。自社の従業員の方に対する福利厚生だけではなく地域社会に根差しながら共に歩む企業経営の一端を直に感じ取ることができました。  係長の吉泉智美さんからは、受入れの際に作成した作業マニュアルを受入れ後の改訂で当初の10項目のものを50項目以上に細分しながら指導を行ったこと、ジョブコーチなどの支援者と支援を行ったことなどをお聞きしました。特に、印象に残ったことは、作業マニュアルの作成が障害のある社員に特化したものではなく「障害のない社員」にとっても共通のツールとして活用できると熱く語られたことでした。  最後に、Aさんからは、「行事に参加することで職場の一員であることを強く感じ、この会社に就職して良かった」との話をお聞きしました。障害の有無にかかわらず社員を気遣う経営姿勢を強く感じながら同社を後にしました。(YY) 詳しくはP6・7へ 事例3 アイ・エイチ・ジェイ株式会社 「情報通信業」、「設立から10年目」、「社員の平均年齢28歳」、「営業を専門にしている会社」、「体育会系」…そんな「元気」で「若い」会社が最も大切にしているのは「コミュニケーション」です。  「先日、会社の飲み会があり、障害のある社員が台風の中にもかかわらず、一度、帰宅してからまた参加してくれたのは本当にうれしかったですね」と代表取締役の高岡和也さんは話しておられました。  指導を担当する小畑課長は、当初、支援機関と連携しながら障害のことをインターネットで調べ勉強していたそうです。本人は緊張しやすく、「コミュニケーション」や「判断」は苦手だけれど、まじめで責任感が強く、実際、能力もあって「パフォーマンスは高い」とのことです。  「配慮はするが、特別扱いはしない」という方針の下、社内の雰囲気が良く変わったのは、障害者雇用を進める上での大きなメリットだと感じます。(TK) 詳しくはP8・9へ 事例4 株式会社SBS情報システム 内野さんの雇用とともにアルバイトで採用した職場介助者の方は、スキルアップにより正社員として全く別の仕事をしているそうです。内野さんのスキルアップも含めて、従業員のもつ力を活かし、社員を育てる社風を感じました。  人事の小泉さんは“その時その時に対応しているだけなので、他の会社の参考にはならないのでは…”と話されましたが、同社の対応には軽やかさと臨機応変さを感じました。視覚障害の障害特性上、拡大読書器の整備や歩行通路の確保などハード面への配慮も重要ですが、必要な時期には専門に介助者を付けるが慣れれば必要な業務の時だけペアを組む、スキルが上がれば職務を替えるなど、ソフト面の対応がごく自然になされている様子が伝わってきました。(NN) 詳しくはP10・11へ 事例5 有限会社奥進システム 同社は経済産業省の「平成26年度ダイバーシティ経営企業100選」に選定されています。働く意欲と能力のある障害者やシングルマザーを積極雇用し、新たなビジネスの機会を得て事業拡大した点が受賞のポイントとのことです。訪問したオフィスは車椅子の従業員のためにバリアフリー化されていて、勤務地や勤務時間に制約のある従業員のためには在宅勤務や短時間勤務制度が柔軟に活用されていることが分かりました。  取材時のオフィス内はとても静かで、代表取締役の奥脇さんによるといつも静かなのだそうです。また、Aさんや浦田さんは「仕事はしんどい」「残業禁止がしんどい時もある」と答えておられました。同社には「苦手なことはやらない」「残業禁止」のルールがありますが、このルールの実現のために“仕事をいかに効率的に行うか”を社員皆さんが取組んでおられる様子が伝わってきました。  多様な働き方をマネージメントしつつ利益を上げる同社の取組は、基本理念である「私たちと、私たちに関わる人たちが、とてもしあわせと思える社会づくりをめざします」を実践していると感じました。(NN) 詳しくはP12・13へ 事例6 株式会社十勝毎日新聞社 取材前に拝見した同社のホームページで流れる映像は、宇宙・ロケット・農業・花火大会・子育て支援と、手がける“地域貢献”の幅の広さに興味を覚えました。また、本業の夕刊紙の発行をはじめ、CATVやラジオFMなどのメディア事業、ホテルやレストランなどの観光事業の中にも、地域社会に深く根差していることが理解できます。  林社長をはじめ取材でお話を伺った方々からは、同社が地域社会の構成員として障害のある人々をとても自然に表現されていること、地域貢献の一つに障害者雇用を位置づけている社風を感じました。  取材に応じてくださったAさんは一般雇用からの再雇用でした。営業職時に顧客とのアポイントを重ねてしまったことや、その後発達障害の診断を受け、精神障害者保健福祉手帳を取得したことなどを穏やかに話されていましたが、当時を振り返ると「苦しかった」とのことです。Aさんは“どう働いていきたいのか“について、ともに考える機会を持ち続けている人事担当者の真摯な対応が、将来を前向きに捉える現在のAさんに繋がっているように思いました。(NN) 詳しくはP14・15へ 事例7 トピー海運株式会社 取材したはじめの率直な印象は、障害者雇用に熱や力が入っていないのかなぁ、というものでした。 障害者雇用と言えば、経営者や人事担当者、現場の責任者が、「かくあるべき」、「こうしたい」という熱い思いを持って進めている、という勝手な先入観があって、かなり戸惑いました。  しかし、それは取材者の認識と経験不足。先代の社長さんや人事担当の方が知的障害者の雇用を進めて約8年が経過し、すっかり定着して、雇用している状態が「当たり前」になっていたのです。人事担当の方の「障害者雇用を意識することはほとんどない」というご発言も納得。  経営者層や人事担当の方は代替わりしても、現場には、当事者の方々が日々の業務に奮闘されている変わらない姿がありました。もちろんご本人たちや現場責任者の方には、ここに至るまでに数多くのご苦労があったものと思いますが、周囲があまり余計な熱や力を入れなくても、障害者雇用が自然な形で継続していくという事例としてうまく伝えられたらいいなと思います。肩の力を抜くことも必要だと感じました。(KK) 詳しくはP16・17へ 事例8 西九州ハートフルサービス株式会社  「選果場」には、野菜や果物の「集荷」、「選別」、「箱詰」、「出荷」など様々な業務があり、障害のある職員と障害のない職員が混在して、きびきびと役割をこなしていました。  この事例は、「障害者雇用に当たって、業務の切り出しはしない」という点に特徴があるのですが、その中身をみると、単に「業務の切り出しをする必要がなかった」のではなく、対象者の強みや長所を見極めながら、一人ひとりを育て、既存業務への適応と職域拡大を図っていくという丁寧なプロセスが詰まっています。 日々の声かけ、家族面談、通院を考慮したシフト、日誌による健康状態の把握、ミーティングや柔軟な配置転換など、様々な配慮を自然に行っています。  このような会社の風土は、現場で培った「人を育てる」豊かな土壌の上に成り立っているのだと思い至ります。障害のある職員の仕事ぶりは、農家・生産者の方々から喜ばれ、とても評判が良いとのことでした。「一度にいくつもの業務をするのは難しいと一般的に言われますが、毎日繰り返すことで、できるようになる人もかなりいます」と主任の田中自子さんは話しておられました。(TK) 詳しくはP18・19へ 事例9 朝日土地建物株式会社  総括マネージャーの北見泰子さんから「雇われる人も不慣れ、雇う人も不慣れ、いわば双方不慣れの中では、最初から上手く行かないのが当然」との話をお聞きし、胸のつかえがおりたとの思いでした。障害者雇用に限らず、「こうあるべきだ」との思いが先行し二の足を踏むことが多いように思います。  しかし、「双方不慣れ」「最初から上手く行かないのが当然」との思いが肩肘を張らずにお互いを知ろうとする思いに繋がることに気付かされました。同社の職場の雰囲気が「自然体」に見えたのは、まさに北見さんのこのことばが背景にあることを感じました。  同社では、障害者雇用を始めて以降、離職率の低下とともに、業績の向上が進んだとお聞きしました。「障害のある社員と障害のない社員がお互いの能力を認め補完しながら業務を担う」ことが業績の向上に繋がっていることを改めて感じました。同社では、マッチングを大切にすることから関係者の職場見学を推奨しているとのことです。不慣れな双方がお互いを知り、自然体で受けいれることの大切さを再認識した取材でした。(YY) 詳しくはP20・21へ 事例10 株式会社古田土経営・税理士法人古田土会計 社会福祉や障害者雇用、経営に対する専務さんのパワフルなお姿とお話には、同行いただいた委員の先生方ともども圧倒されました。御歳を伺ってさらに驚き、長年創業者の社長さんと会社を大きく展開してきたことも頷けます。思いを行動に移すため、経営計画書に盛り込むというのは、逃げ場をなくして覚悟をもって取り組むという真剣さを感じました。  障害者雇用の具体的な取組みについては、経営者の思いに共感し応えてくれるパートナー(実践者)が必要という話も印象的です。そしてその期待に応えて採用とその後の定着指導を確実に遂行している指導者と、不安を抱えながらも着実に成長を遂げていく当事者の方、それぞれが自覚と責任感をもって取り組んでおり、経営者も含め、お互いの信頼感に支えられていると感じました。経営コンサルティングを行っている企業の取組みは、視点やプロセスも明瞭かつ実践的で、他社でも大いに参考となるものと確信します。(KK) 詳しくはP22・23へ 事例11 学校法人村上学園高松高等予備校 障害のある職員が働いている場所は「寮」でした。 ここでは、大学受験を控えた受験生たちが集団生活を営んでいます。寮長は「親代わり」として、礼儀、挨拶、時間厳守など基本的な生活習慣や社会常識を寮生たちに指導しています。それは、障害のある職員に対しても同じです。  約16年前、理事長が九州の障害者支援施設から受け入れたときから、二人の職員は寮長と一緒に「家族」のようにこの寮で生活し、働いています。 寮生たちは朝食後、一斉に予備校に行き、17時までに帰ってきます。その間、寮長と一緒に清掃や草刈りなどの業務を行い、夕方は送迎されて校舎の清掃業務に出かけます。寮母さんが作る寮の食事は、冷凍食品を一切使っていないそうです。220グラムのハンバーグやコロッケも全部手作り。寮長も寮生も障害のある職員も皆、同じものを一緒に食べます。二人とも、「ずっとここで働き続けたい」と話していました。  この寮には、規律ある生活の中に、温かな雰囲気とかけがえのない信頼があります。そして、「家族の中で働いている」という最も大きな安心感が、ここにあります。(TK) 詳しくはP24・25へ 事例12 学校法人九州アカデミー学園 学園長さんは、10年以上もの期間にわたり週3回人工透析を受けながら法人の要職に就かれていますが、それが当然のことのように、淡々と話をしてくださいました。また、もう一方お話を伺った教員の先生も、同様に週3回人工透析を受けているとのことですが、特に透析の翌朝など体調が悪いことがあっても、体力が続く限りは現在の勤務条件を変更せずに長く働き続けたいと語るお姿からは、教育者としての強い責任感と使命感を感じました。  能力と意欲があって、職務を全うさえできれば、障害の有無や年齢は関係ない、というのは理想的な姿・職場であり、どの職場でもそうあってほしいと思いました。  一方で、このお2方が勤務できなくなった場合には、どのように障害者雇用を進めていくのか、あらためて一から考える必要があることも事実だろうと思います。教育業界において障害のある方に職務を切り出したり創り出したりすることが難しいことをあらためて思い知らされました。(KK) 詳しくはP26・27へ 事例13 医療法人清和会 理事長さんが同姓なのでどんな方なのだろうという好奇心もありお伺いしたところ、親しみやすい雰囲気で、子どもの頃に通ったお医者さんを思い出しました。町には高齢者が多くなり、内科の他、整形外科や理学療法科、さらには介護施設を先進的に展開し、地元に根ざした頼られる存在となっています。障害者雇用にも率先して取り組み、現場の責任者に繰り返し理念を発信しながら、具体的な部分は動きやすいように現場を尊重する姿勢には、威厳と風格もあります。  介護の現場で働く当事者の方は、福祉の専門学校を出た後、精神的な辛さを抱えながら働いていますが、配置転換と相談体制の確立によって、「いつでも相談できる安心感」に支えられ、将来的にはケアマネージャーの資格を取得したいという希望を持って前向きに仕事に取り組んでいます。  トップの思いを現場の責任者がきちんと受け止め、試行錯誤しながらも、当事者の方が働きやすい環境が整えられており、組織一体となってしっかりと取り組まれていると感じました。(KK) 詳しくはP28・29へ 事例14 社会福祉法人紀伊松風苑 社会福祉法人紀伊松風苑は、昭和23年に認可された救護施設等をルーツに持ち、障害のある人の「自立」に長年、力を注いできたそうです。  「自分たちで仕事をしていることを感じてもらうことが大切だと考えています。」そう話す総施設長の横山マリコさんは、救護施設での取組として、かつて、百円ショップから商品の袋詰めの仕事を引き受け、皆と一緒にやっていたこともあったそうです。  現在は特別養護老人ホームでの新たな取組として、奨学金を負担してベトナムからの留学生を迎えているとのこと。障害者雇用の経験は外国人の教育に非常に役立っているといいます。マンツーマンの新人教育では、職場全体で課題や情報を共有し、新人の能力を伸ばすための様々な工夫を考えることで、結果的に職場全体の人材育成につながりました。  こういった取組は障害のある職員だけではなく、外国人にもわかりやすい「共通の指導ノウハウ」となったのです。  職場では、知的障害のある職員も精神障害のある職員も一緒に働いており、皆、仲が良いそうです。障害者雇用を進めたことで、組織に多様性がうまれ、「会社全体の離職率が大幅に下がった」とのことです。(TK) 詳しくはP30・31へ 事例15 株式会社美交工業 職務検討の事例として、トイレの個室清掃が苦手で洗面回りはできる従業員に併せて他の社員の職務内容も見直した、というエピソードがありました。一見「わがままではないか」と捉えられがちな職務分担が、同社で可能になっているのは「それぞれができることを担当する」という考え方が浸透したからだとのことです。  社員が一律に同様の職務を担当するのではなく「得意な仕事を頑張り」「苦手な仕事は協力する」という社風づくりには、社内のコミュニケーションの良さが大きく影響していると感じました。  また、いつもの様子と違う社員に気づいて家族に知らせたり医療機関を紹介する、単身者の暮らしぶりを就労支援機関と共有するなどの会社側のきめ細やかな対応は、同社の定着率を高めている要因と思われました。仕組みを作りつつも、「仕組みを臨機応変に機能させる要因は人と人との信頼関係」とコメントされた専務取締役の福田さんのお話が印象的でした。(NN) 詳しくはP32・33へ 分析編 まとめ (事例から見た障害者雇用のポイントとメリット) 1 障害者雇用は、トップの決断、社内の理解、職務の選定がポイント  障害者雇用の経験のない事業主の皆様、特に、障害者雇用に取り組むかどうかを検討されている事業主の皆様にとって、ポイントにしていただきたいのがこの3つです。 @トップの決断 A社内の理解 B職務の選定  企業トップの思いや理念、そして、それを実行する責任者の行動や調整、社内での共通理解、それぞれの役割分担と信頼関係の構築が鍵となります。 さらに、それぞれで重要となるのが、C先入観をやめることです。 @トップの決断  障害者雇用を進めるには、企業トップの決断が最も重要です。トップ自らが社員に対して企業の経営方針として、障害者雇用を進めることを示すことで、社員全体の理解も進んでいきます。 「職員の目が行き届く事業所規模の場合、トップの考え方に左右されますので、理念が大事だと思います。私は、各施設長を集めた会議などで、『障害のある方が働けるように、まずは自分たちの取り組める範囲から協力しよう』と発信しています。言い続けることも必要です。」と事例13では話しています。  事業主には障害者雇用の義務があります。「障害者雇用の促進等に関する法律」では、「障害者雇用率制度」を定めており、すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。  もし、トップが決断しないと、障害者雇用の必要性を理解している採用担当者がコンプライアンス(法令遵守)やCSR (Corporate Social Responsibility)との間で板挟みとなり、困ってしまうことにもつながりかねません。  「必ずやるという意志を表すため、数年前に将来ビジョンとして障害者雇用について経営計画書に記載して取り組みました。」と事例10では話があり、「障害者雇用が成功するコツ」のその1に「社長(トップ)が本気になる」ことを挙げています。  初めて障害者を企業に受け入れる場合は、誰でも大きな不安を感じるものです。トップが動いて初めて会社が変わっていきます。何よりも求められているのは「トップの決断」なのです。 A社内の理解  トップ自らが、社員に対して「企業の経営方針」として障害者雇用を進めることを示すことで、社内の理解が進んでいきます。 「障害者の雇用と定着のためには、経営者のトップダウンだけでなく、周囲の理解も加えた会社全体の理解が重要だと考えます。」と事例7では話しています。  トップがその気になっても、幹部や社員がその気にならないと進めることは困難になります。採用担当者、受入部署の担当者はもとより全社員が関心・理解を持つことで、採用部署や受入部署の担当者といった当事者だけに負担がかかったり孤立化したりすることを防ぐことが肝要です。  事例1では、障害者の採用に当たって、社内報で障害者雇用について解説するとともに、地域障害者職業センターの講師による社内研修を実施しました。  障害者の受入れを打診された場合、「なぜ自分の部署なのか。他の部署でもよいのではないか」「自分ばかりが負担を強いられる」といった意見がでることもあります。  障害者雇用を進めていくためには、受入部署任せにせず、採用部門も必要なサポートをしていく姿勢を示し、障害者雇用のメリットを伝えながら受入部署の不安を解消し、理解を得ていくことが大切です。 B職務の選定  障害者の職務については、一人ひとりの状況に応じて決定することが大切です。  まず、「障害者に向いている仕事」「向いていない仕事」というものはないと考えた方がよいでしょう。各障害の特性により不向きな職種もありますが、障害の種類や程度だけできめるのではなく、一人ひとりの障害状況に加えスキルの習得状況、本人の希望・意欲などから総合して決めていきます。  事例15では、清掃業務における一日の清掃工程をさらに細分化して、障害のある従業員の適性に合った職務設定を行っているそうです。  事例5では、障害のある従業員に対する職務設定は「できることを任せる」方針で行っており、障害特性を確認して職務を検討するのではなく、少しでもできそうであれば試しに取り組ませて検討しているとのことでした。「やってみなければ仕事が合うかどうかの判断はできないこと、そして、職務は探せばあると考えて取り組んでいます。」と事例2では話しています。  また、社員の大半が資格や専門技術を必要とする専門職で、既存の職務から従事する職務を選ぶことが難しい場合は、障害者が従事できる職務を創り出すことを検討していくことになります。  事例10では、どういう職務を障害者向けに切り出すかポイントを明確にして、全社的に議論して決定しているそうです。コピー、シュレッダー、清掃、メール等の仕分け・配送、資料セット・封入などやり方が決まった業務を集約し、新たな職務として再構築していきます。 C先入観をやめる  「障害者雇用では、壁というものは思ったほどないと考えています。障害者雇用を進めたことで障害のある職員の能力だけでなく、既存の職員の能力も確実に伸びています。」と事例14では話しています。  また、事例8では「どの障害でも、一度にいくつもの作業をするのは難しいと言われますが、毎日繰り返すことで、できるようになる人もかなりいます。例えば、原料を供給しながら、箱の減り具合を見たり、空コンテナを片づけに行ったりと、3つぐらいの作業を任せることができる人も多いです。」と現場担当者の方は述べておられました。  事例14の従業員の方は「介護補助職」として、車いすの掃除、シーツ交換、施設清掃等を担当しています。採用当初は対面型の業務を担当するのは難しい状況だったのですが、勤務に慣れていくにつれ、苦手だったコミュニケーションが徐々にできるようになり、約4年後にはフルタイム勤務となりました。将来は「介護職」にキャリアアップすることも期待されています。  地域障害者職業センターやハローワークなど、支援機関を活用した事例も多く見られます。何か課題がある時は、お気軽に近くの支援機関に相談することも重要です。 2 障害者雇用のメリット  メリットとして挙げられたのは、大きく次の3点です。 @会社の貴重な戦力となった  事例8の従業員の方は、当初、「選果業務」を担当していたところ、トラックの運転ができたので、採用2年目以降は「集荷」も担当するようになりました。その後、フォークリフトの免許も取得し、職務の幅がさらに拡がりました。 現在は集荷業務の準責任者を務めるなど、会社の業務に大きく貢献しています。  また、事例3では、従業員の方のことを「緊張しやすいが、まじめで責任感が強く、能力が高い」と現場担当者の方が評していました。その方は、採用当初は1日5時間勤務だったところ、勤務にも慣れ、現在は1日6時間勤務となりました。  事例9では、「精神障害者の方は、能力的にも高い方が多く、職場(人)とのマッチング、同僚の配慮があれば高い能力を発揮できると思います。実際に業績向上に繋がっています。」と話しています。 このように障害のある社員は会社の中で貴重な戦力となっています。 職域の拡大 キャリアアップ 勤務時間の延長 選果業務 選果業務+集荷業務 フォークリフト免許取得 集荷業務の準責任者に就任 A組織全体が良い方向へと変わり、企業全体の離職率が下がった  障害者雇用を進めている企業の多くの経営者が、「障害者雇用は会社全体の大きなメリットになる」と話しています。  事例14の法人では、障害者雇用を進めたことで離職率が大幅に減少しました。  介護職員の離職率は全国で16.7%(平成28年度介護労働実態調査)という状況ですが、同法人では、平成24年度から障害者雇用の取組を本格化した結果、開始後わずかの間に離職率が半減し、離職率は10%を下回っています。  また、同法人では、奨学金を負担して留学生を介護労働の職場に迎えるという取組を行っています。その中で、「障害者雇用の経験が、外国人の職員に対する教育にも非常に役立っています。障害者雇用を進めたことで、組織に多様性が生まれ、組織全体が良い方向へと変わりました。」と総施設長は話しています。  障害のある職員に対する指導方法や工夫は外国人にもわかりやすい共通の指導ノウハウとなり、結果的に職員全体の人材育成につながったとのことです。 B職場の雰囲気や作業環境が良くなり、顧客満足度にもつながっていく  事例8では、「障害者雇用を意識して様々な改善を行った結果、作業環境が良くなった。障害のある職員はまじめで素直なので農家の方々からも喜ばれている。」と話しています。また、事例13では「本人たちも利用者の方々と積極的に関わり、誠意をもって支援してくれるので、職場も明るくなったと感じます」と話しています。  このように障害のある社員の職場定着を図っていく過程では、社内コミュニケーションの改善や業務上の様々な工夫や配慮を行って、社員同士が障害を理解し支え合っていくようになります。  事例15では、「社内の意思疎通をスムースにするための体制作りは会社の雰囲気も良くし、従業員満足度の向上につながりました。これは結果的には顧客満足度にもつながっていると捉えています。」と話しています。 事例からみた障害者雇用のポイント 障害者雇用のステップ Step.1 障害者雇用の理解を深める Step.2 職務の選定 Step.3 受入態勢を整える 初めて障害者雇用を取り組むときに最も重要 Step.4 採用活動 (募集〜採用) Step.5 職場定着 @トップの決断 障害者雇用を進めるには、企業トップの決断が最も重要。 経営者 採用担当者 障害者雇用の促進等に関する法律 CSR コンプライアンス(法令遵守) ダイバーシティ 社員 ・障害者は社員と同じように仕事ができるの? ・私たちが助けないといけなくなるのでは? ・企業は競争社会。厳しい環境で働くのはかわいそう。 ・福祉が支える方がよいのでは? ・なぜ障害者を雇用しなければならないんだろう。 もし、トップが決断しないと、障害者雇用の必要性を理解している採用担当者が板挟みとなって困ってしまうことに! A社内の理解 経営者 企業トップが前向きなメッセージを伝える 採用担当者 障害者雇用の理由を説明企業の立場を説明 サポート姿勢を示す 社員 不安感の払拭 ・障害者雇用を進める理由が理解できた。・今まで持っていた障害者のイメージとは違っていたようだ。・周囲から協力が得られれば安心。トップ自らが社員に対して「企業の経営方針」として障害者雇用を進めることを示すことで、社内の理解が進んでいきます。 B職務の選定 一人ひとりの状況に応じて決定することが大切です。 既存の職務から選ぶことが難しい場合は、職務を創り出すことを検討します。 C先入観をやめる ・会社の貴重な戦力となった。 ・組織全体が良い方向へと変わり、企業全体の離職率が下がった。 ・職場の雰囲気や作業環境が良くなり、顧客満足度にもつながっていく。