表紙 障害者の職場定着と戦力化 障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例 EMPLOYMENT CASE BOOK  独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons with Disabilities and Job Seekers はじめに  近年、障害者の就労意欲が高まるとともに、人材確保や企業のCSR(企業の社会的責任)への関心の高まりなどを背景として、障害者雇用に積極的に取り組む企業が増えています。  また、令和3年3月からは障害者の法定雇用率が2.3%に引き上げられ、障害者雇用義務の対象となる企業の範囲も広がりました。  こうした中で、障害者雇用があまり進んでいない業種、特に中小企業における取組みを促していくことが、障害者雇用全体を一層推し進めていく鍵となっています。  当機構の「障害者の就業状況等に関する調査研究」(平成29年4月)によれば、就職後3か月未満の離職の具体的な離職理由は「労働条件があわない」、「業務遂行上の課題あり」が多く、3か月以降1年未満での離職の場合は「障害・病気のため」、「人間関係の悪化」が多くなっています。障害者本人の意向・考えを十分に尊重しつつ、障害特性とニーズの丁寧な把握に努め、雇用管理上の配慮や工夫を行うことが職場定着のポイントになると考えられます。  これらを受けて、当機構では、障害者雇用があまり進んでいない業種から主に中小企業の障害者雇用事例を取材・整理し、本事例集として取りまとめました。  さて、本事例集は、平成31年3月に初版を発行して以来、多くの方にご利用いただいているところ、今般、巻末の資料編を最新の情報に改訂し、第二版を発行する運びとなりました。今後とも、本事例集をご覧になったみなさまに、これら取材先企業での、障害者採用後の職場定着や戦力化に向けた努力を少しでも伝えられればと期待しています。  なお、取りまとめに当たっては、学識経験者、障害者雇用実務者、事業主団体の担当者、職業安定行政の担当官から成る制作委員会を設置し、委員の方々から全体構成や各事例の構成等について様々な助言をいただきました。  本事例集の作成および改訂にあたり、ご協力いただいた関係者の方々に改めて厚く感謝申し上げます。 令和4年1月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 目次 本事例集の特長 3 企業トップが語る障害者雇用のメリット 4 社内の理解促進のために企業が取り組んだ内容 5 職場定着のために企業が取り組んだ内容 6 事例編 事例 1 : 株式会社常磐谷沢製作所 8 事例 2 : 株式会社杢目金屋 10 事例 3 : 株式会社呉竹 12 事例 4 : 株式会社サイバーコネクトツー 14 事例 5 : 株式会社ジーマック 16 事例 6 : 三共貨物自動車株式会社 18 事例 7 : 株式会社リソーシズ 20 事例 8 : 南海ゴルフ株式会社 22 事例 9 : 株式会社阪技 24 事例10 : 株式会社エイチケイアール 26 事例11 : 株式会社アクセス 28 事例12 : 学校法人鳥取家政学園 30 事例13 : 株式会社個別指導塾スタンダード 32 事例14 : 株式会社I.S.コンサルティング 34 資料編 まとめ 36 用語解説 42 障害者雇用支援制度の紹介 44 中央障害者雇用情報センターのごあんない 50 障害者雇用に役立つ資料(マニュアル・DVD) 51 障害者雇用に役立つWEBサイト 52 地域障害者職業センターのごあんない 54 施設連絡先一覧 55 ※この事例集では、事業所で用いている一部の表記を除き、障害の表記を法令などで使われている『障害』に統一しました。 本事例集の特長  本事例集は、障害者雇用があまり進んでいない業種の企業が、障害者を雇用するにあたってどのような課題に直面し、その課題をどのように解決していったのかをまとめたものです。  特に、①障害者雇用に対する社内の理解を促進するための取組み、②雇用した障害者が能力を発揮し会社の戦力となるようにするための工夫、③働きやすい環境をつくり職場定着を図るための配慮や体制整備の3点を中心にまとめました。  障害者雇用の経験があまりなかった企業が、試行錯誤や創意工夫により雇用を進めていった過程を掲載していますので、ぜひ参考にしてください。 ※本事例集では、障害者雇用率が全産業平均より低い、または障害者を雇用していない企業の割合が全産業平均より高い産業(日本標準産業分類の中分類レベル)に属する企業のうち、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業の事例を収集しました。 経営者の声 障害者を採用することの経営上のメリットや職場定着にあたって苦労した点、障害者雇用に対する思いや今後のビジョンなどについて、各企業の経営者や経営幹部に率直に語っていただきました。 取組みの詳細 「直面した課題と対応策」で紹介した各企業の取組みについて、より詳細に紹介しています。 直面した課題と対応策 ①社内の理解促進、②採用した障害者の戦力化、③職場定着の3点について、各企業がどのような課題に直面し、それをどうやって解決したかをまとめました。 障害のある社員の声 各企業で働いている障害のある社員のみなさまから、仕事のやりがいや今後の抱負、会社から配慮されていてありがたいと感じていることなどについて伺いました。 企業トップが語る障害者雇用のメリット  障害者を雇用することにはさまざまなメリットがあります。本事例集掲載企業のトップの声をまとめました。  障害者本人が戦力として活躍しているというだけでなく、会社全体の職場環境の改善や業務効率化につながったという声が多く聞かれました。 トップの声 1 障害者が戦力として活躍している ■ 会社にとって、なくてはならない戦力となっている。 ■ 仕事ぶりはゆっくりだが、丁寧なので、間違いが少なく信頼できる。 ■ 勤怠が安定しており、一定の作業量を確実にこなしてくれる。 ■ 地道な作業に真剣に取り組んでくれる。 ■ 人手不足の中、戦力として会社を支えてくれている。 トップの声 2 職場環境の改善につながった ■ 障害者が働きやすくなるように行った環境整備が、障害のない社員の働きやすさにもつながった。 ■ ひたむきな姿勢を周りの社員が応援することで、職場全体の雰囲気が良くなった。 ■ まじめな勤務態度や仕事ぶりがほかの従業員へのよい刺激となっている。 ■ 障害のある社員がいつも笑顔でいるため、職場が明るくなった。 ■ 社員が気配りの心を持つようになった。 ■ 上長のマネジメント能力が向上している。 ■ 障害のない社員の業務負担が減り、働き方改革につながった。 トップの声 3 業務効率化につながった ■ 特定の作業をまかせることによって、ほかの社員が本来業務に専念でき、会社全体としてのパフォーマンスがあがっている。 ■ 雑多だった作業プロセスをシンプルにする検討のきっかけになった。 ■ これまで職人化していた業務について、誰でもその業務ができるよう工夫するようになった。 ■ 自身の仕事のやり方や姿勢を見直すきっかけとなった。 社内の理解促進のために企業が取り組んだ内容 1. 社内説明会の実施 多くの企業が、障害者を雇用する前に社内説明会を開催し、障害者雇用の目的・方針や障害特性に応じた留意事項について説明しています。 取組みの内容 事例番号 全社員に障害者雇用の目的と方針、採用する障害者の障害特性について説明した上で、社員からも直接意見を聴いた。障害特性や配慮すべき事項については、採用する障害者が通所していた障害者支援施設の職員に確認した。 1 以前、地元の障害者支援施設に作業を依頼したときの障害者の働きぶりに感銘を受けたことがあった役員が、直接社員に説明を行い、理解を求めた。 6 雇用前の職場実習のタイミングで関係者全員を対象にした説明会を開催。 障害特性について説明した上で、本人たちに任せられる業務を提案するよう依頼した。 11 社内に障害者の受入れに対する不安の声があったが、社長から全社員に「頑張る人を応援する会社」という企業理念を改めて伝え、理解を得た。 14 職場実習の受入れ 最初は障害者の受入れに現場が不安を持っていたケースでも、まず職場実習として受け入れることにより、理解が進んだ例があります。 取組みの内容 事例番号 障害者の採用について社内に懸念や反対の声があったため、まず職場実習生として受け入れることで社内の理解を得た。実習受入れ後、懸命に働く実習生の姿を見て、社員も採用に賛成するようになった。 6 初めての障害者雇用であったため、採用の前に職場実習を行ったところ、集中力を発揮して作業する能力があることや勤務態度が良好であることがわかり、社内の不安が解消した。 7 特別支援学校から職場実習を受け入れる際には、学校側に会社の業務内容をできる限り伝えるようにしているほか、実習生の得意分野や特徴についてあらかじめ学校からヒアリングした上で実習で行う業務を決めている。 9 初めて障害者を雇用するにあたり、業務への適性を把握するため、就労移行支援事業所の利用者を職場実習生として受入れた。 11 職場定着のために企業が取り組んだ内容 1. 指導担当者の配置 多くの企業で、障害のある社員の指導を行う担当者を社内に配置して、作業指示や身だしなみの指導、健康状態の把握などを行っています。 取組みの内容 事例番号 社内に「障がい者雇用促進室」を設置し、専任の担当者(企業在籍型ジョブコーチ研修受講者)が、障害のある社員をマンツーマンで指導している。本人の隣で作業のやり方を実際に見せながら、スモールステップで指導を行っている。 2 採用後1年間を研修期間として障害者だけを同じ部署に配置し、専門の指導育成担当者を配置。作業の指示や進捗管理のほか、身だしなみのチェックなども行っている。 3 専任の指導担当者を配置し、作業のやり方をていねいに指導しているほか、無理しすぎて体調を崩す前に休憩、早退させるなど、きめ細かな配慮を行っている。 11 2. 健康状態のきめ細かな把握 障害のある社員が長く安定して働けるようにするためには、体調の変化を把握し、必要に応じて休憩や休暇を与えるなどの対応が欠かせません。 健康状態の把握は、職場の同僚や指導担当者による普段の声かけのほか、業務日報や面談を活用して行われています。 取組みの内容 事例番号 指導担当者による普段の声かけで体調面や精神面の変化を把握するよう心がけているほか、障害のある社員本人に「セルフケアシート」を記入させ(睡眠や食事の状況、今日の気分などを記入)、健康状態を確認している。自分の状態を自分で気づくツールとなっている。 2 業務日報をコミュニケーションツールとして活用している。就寝時間、起床時間、健康状態、朝食をとったかを毎日報告させて体調を把握しているほか、担当者から毎日コメントを返している。 11 雇用管理担当者が、雑談を織り交ぜながらこまめに面談を行い、体調の変化や業務負担の状況を把握している。 13 3. 支援機関等との連携 企業で働く障害者を支援する機関としては、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、自治体の就労支援センター、障害者就労移行支援事業所、特別支援学校などがあります。 多くの企業が、支援機関との連携を図り、職場への定期訪問やジョブコーチ支援を依頼しています。 取組みの内容 事例番号 市の就労支援センターに本人と定期面談してもらい、その内容を共有。社内スタッフが気づかない点や困っていることについて別視点からの意見を聞くことで早期発見やサポートに繋がっている。 4 障害のある社員と周囲との間でコミュニケーションがうまくとれなかったため、地域障害者職業センターにジョブコーチ支援を依頼し、障害のある社員それぞれの性格と接し方の留意点を一覧として示してもらった。 5 地域障害者職業センターのジョブコーチに支援を依頼し、作業中に眠気が生じた場合の対処法や、本人とのコミュニケーションの取り方(本人が答えやすい質問の仕方等)など、障害特性を踏まえたアドバイスを受けた。 8 特別支援学校の生徒を職場実習生として受け入れ、適性を把握している。一方、特別支援学校では、採用内定者に対して入社後の作業に即した訓練を行っているほか、就職後も職場定着に向けたフォローを行っている。 10 4. 勤務時間の配慮 障害特性により長時間働くことが難しい場合や、公共交通機関が混雑している時間帯の出勤が難しい場合は、勤務時間の調整が必要となることがあります。 取組みの内容 事例番号 脳出血で倒れた後に復職した職員について、リハビリに通えるよう、勤務時間を午後からに設定している。 12 通常の勤務日数・時間では負担が大きい障害者については、日数や時間を少なくできる限定正社員として採用している。また、疲労や眠気を感じやすい者については、通常1時間である昼休憩を分割し、昼50分、午前・午後に各5分休憩としている。 14 5. スキルとモチベーションの向上 障害のある社員の能力の向上を図り、その能力を正当に評価することは、障害のある社員が力を発揮する場面を広げるだけでなく、モチベーションの向上にもつながります。 取組みの内容 事例番号 個人ごとに業務の進捗状況やスキルの上達状況がわかる「スキルマップシート」を作成し、上達度を見える化することで、やりがいを持てるようにした。 2 障害のあるパート社員の業務遂行能力が向上した場合、障害のない社員と同様、希望に応じて準社員とし、勤務時間もフルタイムに変更している。 5