事例. 11 生活関連サービス業,娯楽業(娯楽業) 株式会社アクセス 神奈川県 【経営者の声】 代表取締役社長 日比野 光守さん  当社の経営理念は「全従業員の人生において、経済及び精神面の豊かさを追求し、志事を通じて、お客様・地域・社会に貢献し、発展する企業となる」です。経営理念にもあるように、以前から障害者雇用は念頭にあったのですが接客業という業種において具体的にどういった業務に当ってもらえばよいか案が浮かばず、一歩を踏み出せずにいました。  以前、経営者団体のつながりで障害者の方々を雇用している企業を見学したところ、想像していた以上に素晴らしい働きぶりだったので当社でも活躍していただけると確信し、雇用に踏み切ることにしました。  取引先金融機関から紹介された就労移行支援事業所から職場実習を経て採用しましたが、たいへんまじめな働きぶりなので体調を崩してしまわないように思いやりをもった指導、監督を心がけています。  雇用するうえで気をつけているのは、障害者だからといって特別扱いせずに、できる限り他の社員と同じように接することです。そうすることによって本人たちも自信がつき、モチベーションが上がります。  今後もさらに障害者雇用を進めていきたいと考えていますが、障害者の方々のために特別な仕事を用意するのではなく、他の社員が行なっている業務を任せられるように能力を伸ばし、自分自身の持つ可能性を信じて自立心を高めてもらいたいと思っています。 直面した課題と対応策 社内の理解促進 会社として初めての障害者雇用であり、受入れにあたって現場の不安を解消する必要があった 業務への適性を把握するため、就労移行支援事業所の利用者を職場実習生として受入れた 職場実習受入れ前に、関係者全員を対象にした説明会を実施し、受入れの方針を伝達(連絡系統は一本化するなど) 従事する職務の選定 誰かの業務を奪うような形にはしたくなかったが、どのような業務が適切なのかわからなかった 支援機関の担当者と打合せを行うと同時に、現場からも担当してもらいたい業務について意見を求め、本人の得意・不得意を踏まえた職務を選定 職場定着のための工夫 業務にまじめに取り組むあまり、体調を崩すおそれがあった 業務日報で健康状態や生活状況を把握 業務マニュアルの中に休憩時間を明記 Point ■ 支援機関からの助言や現場からの意見をふまえて担当職務を設定 ■ 業務日報をコミュニケーションツールとして活用し、健康状態や生活状況を把握 取組みの詳細 【従事する職務の選定】 ・職場実習の段階で、地域障害者職業センターのカウンセラー、ジョブコーチ、就労移行支援事業所の担当者、人事担当者が集まり、本人の得意・不得意をふまえた担当職務について検討した。 ・また、現場からも、「自分でやらなくてもよい仕事」「時間の制約のない仕事」「これまでやりたかったのにできていなかったバックヤードの仕事」がないか意見を求めた。 ・専任の担当者を配置し、作業のやり方をていねいに指導している。最初は店舗清掃業務と備品清掃からスタートしたが、作業スピードが上がって時間に余裕ができたので、トイレ掃除やロッカー拭きの業務を追加した。 【業務日報で健康状態や生活状況を把握】 ・業務日報に就寝・起床時間、健康状態、朝食をとったかどうかを記入させ、健康状態や生活状況を把握している。また、業務終了後には、本日の業務の感想・反省や明日の目標を記入させ、担当者が毎日コメントを返しており、業務日報をコミュニケーションツールとして活用している。 雇用管理 担当者の声  精神障害者は体調管理がむずかしいといわれますが、会社側が体調の波を把握して、具合が悪くなる前に休憩させたり早退させたりするなど、無理させないように気をつければ、十分対応できると思います。 【障害のある社員の声】 Aさん (勤続4年目)  仕事は楽しいです。いまのバックヤードの仕事をできるだけ長く続けていきたいです。 Bさん (勤続4年目)  仕事に慣れるまでは大変でしたが、会社のサポートのおかげで楽しく働けています。  これからはいろいろな仕事にチャレンジしていきたいです。 ● 事業所データ ■ 所在地…………神奈川県川崎市 ■ 従業員数………130名 ■ 事業内容………パチンコホール経営 ● 雇用障害者データ ■ 雇用障害者数…3名 ■ 障害種別………身体障害、知的障害、精神障害 ■ 業務内容………本社経理事務、店舗清掃 ■ 労働条件等……1日6時間、週5日、パートタイム社員 事例. 12 教育,学習支援業(学校教育) 学校法人鳥取家政学園 鳥取敬愛高等学校 鳥取県 【経営者の声】 校長 二階堂 茂夫さん  4年ほど前に教員の一人が脳出血で倒れ、体に麻痺が残りました。最初は教員としての復職を目ざしたのですが、身体の状況からみてむずかしかったため、事務補助職員として引き続き働いていただくことにしました。  職場のバリアフリー化については、たまたま校舎の改築を行うタイミングでしたので、ユニバーサルデザインを最優先した設計を行うことができましたが、従事する職務の設定については、いろいろな試行錯誤が必要でした。  当学園では、これまで障害のある方を雇用した経験がなかったのですが、今回の件を通じて、障害者雇用について強く意識するようになりました。だれもが病気になったり事故にあったりする可能性があるなかで、障害をもったら仕事を辞めなければならない職場ではよくないと思います。  インクルーシブ教育の重要性が叫ばれているところでもあり、引き続き生徒、教員双方にとって過ごしやすい環境を作っていきたいと考えています。 直面した課題と対応策 復職後の職務の選定 復職の際、従事できる職務を改めて選定する必要があった 模擬授業を数回行い、教員としての復職ができるかどうかを判断 当初は事務補助業務に従事してもらっていたが、作業能率が予想以上に高かったことから業務の幅を広げていった 勤務形態の見直し 復職後、無理なく働き続けられるよう、勤務形態を見直す必要があった 本人、家族と話し合った上で、本人の体調やリハビリ通院の状況をふまえた勤務形態を設定 職場環境の整備 麻痺が残り、校舎内の移動がむずかしくなった 控え室を1階にするなどの配慮を行ったほか、校舎改築にあたってユニバーサルデザインを最優先した設計とした Point ■ 試行錯誤の結果、教員としての経験を活かした職務を設定 ■ 復職後の勤務条件について、本人の体調やリハビリ通院の状況をふまえて設定 取組みの詳細 【復職後の職務の選定】 ・脳出血で倒れた後、4カ月の特別休暇と1年6カ月の休職を経て復職した(いったん退職した上で、非常勤職員として再雇用)。教員としての復職ができるかどうかを判断するために模擬授業を数回行ったが、身体の状況から長時間での授業はむずかしいと判断されたため、事務補助の業務を行ってもらうこととした。 ・復職当初は校史資料部での事務補助業務を行ってもらっていたが、復職後の作業能率が想定していた以上に高かったことから、進路指導部での各種入力作業、来客対応、求人票の整理などの業務も追加した。教員としての経験があり、かつ授業を受け持っていないため、特に急な来客への対応(進路指導部には県外の大学関係者からの予約なしでの訪問が多い)に力を発揮している。   【勤務形態の設定】 ・復職後の勤務条件については、本人、家族と話し合ったうえで設定した。週2回リハビリに通っていることや、本人の体調から、1日4時間(午後からの勤務)、週5日勤務とした。   【バリアフリー設備の設置】 ・半身に麻痺が残り、階段での移動が困難となったが、復職当初は校舎にエレベーターがなかった。そこで、控え室を1階にし、入り口から近い場所で働いてもらうなどの配慮を行った。 ・その後、校舎の改築工事のタイミングとなったため、設計段階からユニバーサルデザインを最優先事項にし、校内の移動等、安全面に配慮した設計とした。 【障害のある職員の声】 香川 裕治さん (勤続6年目)  私が発病したのは本校に音楽教諭として就職してから2年経った頃でした。地域包括支援センターや地域障害者職業センターの利用を経て復職に至りました。地域障害者職業センターのジョブコーチには、職場には話しづらい悩みの相談にも乗ってもらいました。  進路指導部の仕事は、生徒の将来とつながっているのでやりがいを感じています。今後は、さらに生徒とかかわれる仕事を見つけていきたいと思っています。         ● 事業所データ ■ 所在地…………鳥取県鳥取市 ■ 従業員数………48名 ■ 事業内容………学校教育業 ● 雇用障害者データ ■ 雇用障害者数…1名 ■ 障害種別………身体障害 ■ 業務内容………校史資料のとりまとめ、進路指導に係る事務補助 ■ 労働条件等……週20時間勤務 事例. 13 教育,学習支援業(その他の教育,学習支援業) 株式会社個別指導塾スタンダード 福岡県 【経営者の声】 人事情報部 部長 田中 沙織さん  当社は個別指導塾を運営しています。事業の拡大に伴い、社員数も増え、法定雇用率を意識することになりました。  どこからスタートしていいかわからなかったため、管轄のハローワークに相談し、障害者雇用を進めることにしました。  身体障害のある人、精神障害のある人を雇用していますが、採用に当たっては丁寧な面接をするよう心がけています。特に、精神障害のある人との面接では、得意なこと、苦手なこと、どういったときに体調を崩しやすいかなど確認しています。  会社と障害のある方双方が、仕事を続けるうえで必要な情報を共有するとともに、障害のある方の得意な面に目を向けて担当職務を決定しています。また、面接を通じて把握した特性を、配置予定の上司や役員などとも共有し、職務のマッチングがうまくいくように心がけています。  障害のある方の担当職務を固定的に考えず、働くことを希望する障害のある方とじっくり面接して、その人の得意分野を理解することにより、適切な職務のマッチングが可能になると思います。 直面した課題と対応策 職場定着のための工夫 精神障害のある人については、病状や障害特性の個人差が大きいため、具体的な配慮事項を把握したうえで配属先を決定する必要があった 採用時の複数回の面接や職場見学を通じて、本人の障害特性や配慮事項を把握したうえで配属先を決定 ジョブコーチに、雇用管理上の留意事項、具体的な対処法について助言を依頼 精神障害のある社員については、過度の集中により疲労が蓄積する傾向があるため、体調管理に留意する必要があった 休憩をきちんと取れるよう時間管理を徹底 メンタルヘルス不調の防止のために、役員・管理職を対象とした研修を行うとともに、障害のある社員へのこまめな面談を実施 Point ■ 採用時に配慮事項を十分確認するとともに、ジョブコーチに助言を依頼 ■ 疲労の蓄積を防ぐために休憩時間の管理を徹底するとともに、こまめな面談を実施 取組みの詳細 【配慮事項の確認と支援機関の活用】 ・精神障害のある方の採用にあたっては、複数回の面接や職場見学を通じて、障害特性や配慮事項を十分把握するよう心がけている。また、配属先の上司には本人の情報を伝え、必要な配慮が得られるようにしている。 ・地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用し、雇用管理上の留意点や、勤務時間の延長が本人の負担にならないかなどについて助言を得た。緊張や疲れやすさを考慮して、入社後1~2か月を短時間勤務としたケースもある。 現場担当者の声  会社にとって、支援機関からのアドバイスが配置や雇用管理上の配慮の参考になりました。障害のある社員にとっても、会社以外で困ったときに相談できる人がいるということが安心感につながっています。 【休憩時間の管理の徹底】 ・過度な集中により疲労が蓄積することを防ぐため、決められた休憩時間はしっかり休むこと、1時間作業をしたら小休憩をはさむことを徹底した。また、定期通院の機会を確保することで安定就労につながっている。 【雇用管理担当者による面談】 ・障害のある社員の体調の変化や業務負担を把握するために、雇用管理担当者がこまめに面談を行っている。「休みの日に何をしていたか」などリラックスして話せる内容を織り交ぜながら、雇用管理担当者と障害のある社員が相談しやすい関係づくりに取り組んでいる。 ・役員・部長以上の管理職社員を対象にメンタルヘルスに関する研修を開催し、メンタル不調の防止、コミュニケーションの重要性を伝えている。 【障害のある社員の声】 馬場 史郎さん(勤続5年目)  経理部門で決算書作成や立替経費の精算業務などを担当しています。  経理の専門性が問われるのでスキルアップや知識の習得が必要です。  会社の勉強会に参加しながら商業簿記2級の資格を取得しました。  おかげで経済分野に興味をもち、継続して勉強したいと考えるようになりました。  今の職場は、定期通院の配慮をしてくれるので働きやすいです。      ● 事業所データ ■ 所在地…………福岡県福岡市 ■ 従業員数………310名 ■ 事業内容………個別指導塾の運営 ● 雇用障害者データ ■ 雇用障害者数…6名 ■ 障害種別………身体障害、精神障害 ■ 業務内容………教室運営業務の補佐、講師、事務 ■ 労働条件等……正社員・フルタイム(変形労働時間制)、短時間正社員・1日6時間×週5日 事例. 14 サービス業(職業紹介・労働者派遣業) 株式会社I.S.コンサルティング 兵庫県 【経営者の声】 代表取締役 今井 真路さん  私は元銀行マンでしたが、高齢者や障害者、不登校児、ニートなど、困難を抱えながら頑張る人を応援したいとの思いで平成18年に当社を設立しました。  障害者を雇用したきっかけは、平成23年の東日本大震災です。被害状況を目の当たりにし、改めて創業時の思いに立ち返って障害者雇用に取り組むこととしました。地元の就労移行支援事業所から、まずは障害者と一緒に働くことを勧められ、発達障害者を職場実習で受け入れることとしました。社内には障害者の受入れに不安の声がありましたが、私から社員に「頑張る人を応援する会社」という当社の理念を改めて伝え、話し合うことで理解が得られました。  一緒に働くなかで障害のある社員の働きぶりが社内で評価され、今では職場に障害のある社員がいることが当たり前のことになっています。これまでに雇用した発達障害をもつ社員は、みな当社の貴重な戦力になっています。  社員から「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」の制定を提案されるなど、会社全体として多様性を大切にする文化も育っています。今後も、関係機関と連携しながら障害者雇用に取り組んでいきたいと考えています。 直面した課題と対応策 社内の理解の促進 障害者を雇用するにあたって、社内に不安の声があった 代表が社員との話し合いを重ねる中で同社の理念(頑張る人を応援する会社)を伝え社員の理解を得た 社内からの提案により「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を制定 従事する職務の選定 障害者を継続的に雇用するためには、社員の戦力化に取り組む必要があった 業務を細分化し、各人が得意なものを担当するようにすることで事業所全体のパフォーマンスを維持 職場定着のための工夫 体力や家庭の状況などによりフルタイムで働くことが難しい社員がいた 勤務日数・労働時間の配慮ができるよう「限定正社員」制度を創設 勤務中に疲労や眠気を感じやすい社員がいた 昼休憩を短縮する代わりに勤務中の小休憩を認め、仕事に集中できるようにした Point ■ 社員の強みと弱みを活かした職務の選定により戦力化を実現 ■ 勤務日数・労働時間を弾力化することで通院等へも配慮 取組みの詳細 【従事する職務の選定】 ・業務を細分化し、各社員の得意・不得意に応じて担当する業務を決定している(例えば、マンガが得意な社員についてはそれを活かせるイベントの企画や案内作りの業務に配置するなど)。 ・一方、不得意な業務についても、段階的に経験させて苦手を克服させる工夫を行っている(例えば、電話対応が苦手な者は、最初は内線だけに対応させ、慣れてきたら外線にもチャレンジさせるなど)。 【勤務日数・労働時間の弾力化】 ・通院の必要性や体力などの問題がある者でも無理なく勤務できるよう、各人の事情に応じて勤務日数・労働時間を少なくできる限定正社員制度を設けている(時間当たりの賃金単価や賞与の取扱いは通常の正社員と同じ)。 ・疲労や眠気を感じやすい社員については、通常は1時間である昼の休憩時間を50分に短縮し、午前・午後に5分ずつ休むことを認め、気分をリフレッシュして仕事に集中できるようにしている。 【会社としての方針の明確化】 ・社員からの提案により、採用、人材育成と社会貢献に関する会社としての方針を「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」として定め、明確化した。 「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」 1.働くことに障壁がある人材を、人財として積極的に採用・育成または、実習の受入れをします 2.従業員同士の相互理解の中から、全従業員の個性を価値に変える経営を目指します 3.当社の取り組みから、それぞれの個性が輝く社会の創造に貢献します 【障害のある社員の声】 前田 高志さん (勤続3年目)  大学卒業後、職業訓練でホームページの作成技術を勉強してから入社しました。Webページの企画や作成編集を担当しています。対面での会話が苦手ですが、チャットの利用や会議内容の個別フィードバック等の配慮があり助かっています。 高田 雅道さん (勤続1年目)  Facebookページと社内共有サイトの管理などを担当しています。また、過去にマンガ家を目指したことがあり、外部団体の広報誌に発達障害に関するマンガを連載しています。最初は疲れを感じることが多かったのですが、仕事にも慣れました。 ● 事業所データ ■ 所在地…………兵庫県神戸市 ■ 従業員数………28名 ■ 事業内容………自動車教習所紹介事業、留学生エージェント紹介事業、職業紹介・労働者派遣事業 ● 雇用障害者データ ■ 雇用障害者数…8名(子会社1名を含めると9名) ■ 障害種別………発達障害 ■ 業務内容………ホームページ作成・管理、経営企画など ■ 労働条件等……正社員