4 職場定着のための取組
(1)基本的な取組
Q	採用した障害者の職場定着のためにどのような取組を行えばよいですか?
	
A	仕事や環境に慣れるまでに時間がかかることもあります。日頃から作業習得や職場への適応状況、健康面の把握などを行いながら、本人に対してはすぐに成果を求めるのではなく、長い目で支援をすることが重要です。

●企業が取り組む基本的な支援(職場の支援担当者、人事担当者等)
 〇作業習得のための支援
作業を行う目的を説明し、本人にとってわかりやすい方法で指導を行います。(次ページ「指導上の基本的な留意点(作業の場面以外でも参考になります)」を参照)
 〇職場適応のための支援
作業への取組状況や休憩時の過ごし方、他の社員との協力関係やコミュニケーション、職場のルールへの対応などの状況を確認し、必要に応じて改善するための指導を行います。 
 〇体調面・不安などの把握
体調は安定しているか、作業を行うことに不安はないかなどを確認し、必要があれば、可能な限り作業内容や作業量の調整などを行います。
 〇設備面などの職場環境の調整 
本人にとって利用しやすい、使用しやすい設備になっているかを確認し、必要があれば設備改善を行います。
 ⇒参照:3(7)「設備改善・安全対策」
 〇継続勤務の確認
継続して働くことができているかを確認し、困難がある場合は、継続勤務が可能な勤務時間の調整、休憩時間の取り方などについて調整を行います。
 〇企業による指導・指示命令系統の確認
本人への指導や指示命令系統(指示を出す人、本人からの報告や質問を受ける人など)が常に機能しているかを確認し、より効果的なものとなるように改善を図ります。
 〇定期的なふり返り
前述の内容について、定期的な面談などにより、本人の気持ちを聞いたり、作業日誌や健康チェック表(使用している場合)の内容などを確認しながら、ふり返りを行います。また、本人の感想や希望、目標、企業から伝えたことなどを記録しておくことが大事です。
なお、ふり返りにおいては、以下のことも確認することが大事です。

◆できていることや強みとなること、改善した方がよいところ
(理由をつけてわかりやすく説明すること、安易に他者との比較をしないことが大事)
◆働くことへの悩みや企業に対しての要望
(本人からの要望等に対しては企業としてできる配慮や支援内容を具体的に伝えることが大事)
◆本人の目標設定(当面の目標、長期的な目標)
(企業で働いていくことに見通しをもち、モチベーションを高めていくためにも大事)

●指導上の基本的な留意点(作業の場面以外でも参考になります)
 支援を行う際にさまざまな配慮や工夫をすることは必要ですが、効果があったかどうかは、本人が「わかりやすいと感じる」「これならやれると感じる」ようになっているかどうかで判断することが大事です。
 〇説明する際の留意点
・説明は、わかりやすい表現で長くならないようにする
・大事なポイントは強調する(複数回言う、メモにして示すなど)
・高圧的、感情的な言い方をしない
・説明済みの内容であっても、理解できていない場合は再度丁寧に説明する(「前に言ったでしょ」の一言だけで終わらない)
 〇伝達の工夫
・必要に応じて絵や写真を用いるなど、視覚的にわかりやすい方法で伝える
・作業のイメージが理解できるように、先に仕上がりや完成品などを示した上で伝える、この作業を行った後はどうなるのかを伝える
 〇ほめる、注意する際の留意点
・ほめるときは、漠然とほめるのではなく、実際に伸びたところや改善したところ、取り組み姿勢などを具体的にほめる
・注意するときは、理由を示して説明する、改善すべきところも併せて具体的に説明する
・緊急的な危険回避などで強く注意したときは、あとで落ち着いた雰囲気を作り、理由を示して説明する
 〇コミュニケーションに関する留意点
障害の有無にかかわらず、社内においては「コミュニケーションが得意な人」「コミュニケーションが苦手な人」という声はよく聞かれます。コミュニケーションには、聞こえの特徴などのほかにも「自分から話はできるが人の話が聞けない」「言葉は出にくいが相手の言ったことはしっかり聞いて整理できる」など人それぞれさまざまな特徴があります。
特徴の一部や印象だけで本人のコミュニケーション全体の特徴を判断するのではなく、本人や支援機関からの情報も参考にしながら、それぞれの特徴を活かした仕事の進め方について配慮していくことが大事です。

<コミュニケーションが苦手な場合の要因(課題)と配慮事項の例>
◆聴力が弱い
 →筆談、メール、手話などの手段や集音器などの支援機器を活用する
◆相手の言った話の内容を理解できない
 →説明者がポイントを絞り長くならないように説明する、または用紙に書いて説明する
◆大勢の中で話を聞くことが苦手
 →時間をとり静かな場所で個別に説明する
◆すぐに答えられない、言葉が出ない
 →本人が話せるように時間をとる。紙に書いて表現してもらう。本人が話しやすい落ち着いた場所を設定して説明する

●職場定着のための支援機関との連携
 〇ジョブコーチ支援など支援機関との連携により支援を進めている場合
・職場定着の状況などの情報を共有し、支援機関から助言を得ながら支援を進めます。
・必要に応じてふり返りの場への支援機関の同席を依頼します。
 〇支援機関との連携が行われていない場合
・企業による支援を主体的に行っていたが、支援方法に不安があり、支援機関の助言を得たい場合は、本人の同意を得た上で、支援機関に支援の協力を依頼するとよいでしょう。

●作業習得のための支援の基本(作業手順の段階的な説明)
 作業手順を説明する場合は、「見本を示して、一人でやってもらう」ことが多いと思いますが、以下のように説明者の関わる度合いには段階があります。本人の特徴をふまえながら、本人がわかりやすい方法で行うことが大事です。

作業手順を説明する場合の段階(説明者の関わる度合い)

度合いが低い

〇言語指示
・直接的言語指示:指示する内容を具体的な言葉で表す
・間接的言語指示:「次は何?」「さあ次は?」などと促して、自発的に行動するための間をとる
〇ジェスチャー
・指導者が対象となる物や方向を指差し、行動を想起させる部分的な身振りをするなどの方法でヒントを与える
〇見本の提示
・指導者が先に見本を見せて、そのあとに作業してもらう
・指導者が本人のとなりで同じ仕事のやり方を見せながら同時に行う
〇手添え
・手添え:直接体に触れて動作を教える(触れられることを嫌がる人もいることに留意する)
・シャドーイング:直接体に触れず動作を教える(触れそうで触れない距離感)

度合いが高い

<事例>
 ある工場のA部署で知的障害のある社員がいろいろな部品の組立を行っていた。その都度指示に従いながら上手にできていたため、B部署へ配置転換し、別の種類の部品組立に取り組むこととなった。しかし、B部署では指導をしても本人は対応できなかった。
 A部署の担当者を交えて分析したところ、作業のレベルや環境の変化という原因もあるが、A部署では作業ごとに手添えによる手厚い説明を行っていたものの、B部署では抽象的な言葉だけでの指示であったことが大きな原因の一つであることがわかった。
 改めて本人に合った指示の出し方について社内で共通認識をもち、具体的な言語指示やジェスチャーの指示、見本の提示でも対応できるか、手添えが必要であるかなどについて、本人がどう感じたかを確認しながら、段階を踏んで作業支援を行うこととした。

●労働安全教育に関する支援
 <知的障害者に対する安全教育の例>
 「知的障害者には危険度の高い機器の操作や刃物の使用は事故や怪我につながる」と不安を持つ事業主もいますが、知的障害があるから安全意識や危険回避能力を持っていないわけではありません。適切な安全教育を行うことで安全な行動をとることができます。
 ジョブコーチなど支援機関の協力を得ながら、知的障害者にわかりやすい安全教育の教材(テキスト、マニュアルなど)を作成するとより効果的です。
教育する項目	指導上の要点
整理整頓	・不安全な片付け方や物の置き方をしないことを教える。
	・一般的な物の片付け方を教える。
	・整理整頓の悪さが災害につながることを理解させる。
作業手順	・作業は必ず所定の手順で行うようにする(自分でやり方を変えない、手順を省略しない)。
	・手順を守らないことによる事故の可能性を教える。
	・他の人が正しくないやり方をしても真似しないようにする。
作業服装	・作業着の正しい着方(ファスナー、袖口、ズボンの裾、靴紐、靴の履き方)を教える。
	・服装の乱れが労働災害につながることを理解させる。
不安全行動の
防止	・通行に関すること(作業場所での通行の仕方、入っても良い場所、立入禁止があることの理解)。
	・機械類の危険性を理解させ、むやみに触るなどの行動をしないように意識づける。
荷物の運搬	・重量物を取扱う際に、腰を痛めない持ち上げ方、安全な運び方を体得させる(平地、階段、共同作業など)。
工具の扱い	・ドライバー、スパナ、ハンマーなどの工具について正しい使い方を理解させ、間違った使い方をすると怪我する可能性があることを教える。
安全標識	・基本的な安全標識の意味が理解でき、実際に自分で判断できるようにする。標識の形と意味、文字の意味などを理解させる。
危険予知訓練	・安全について考える習慣を身につけさせる。
指差し呼称	・作業の結果や手順の確認などで指差し呼称を行わせることで安全を意識させる。
指示・報告の重要性	・上司の指示を聞いて行動する(勝手に作業を行わない)、作業中の異常などは上司に報告させる。

「知的障害者の安全意識の養成に関する研究(2000年3月 日本障害者雇用促進協会 障害者職業総合センター)」を一部改変し引用

 労働安全教育は、全社員で取り組むことですが、特に知的障害者などの障害者に対する安全教育は、わかりやすい表現やポイントを絞った表現で伝えることが必要です。
 また、全社員が職場の安全のために行動する姿勢を常に見せることが、障害者の安全教育にとって大事です。

<事例>
 危険な場所のある製造工場において、事業主が「障害者を雇用し、社員が障害者に対して安全教育を行うことにより、社員自身も安全意識を強く持つことにつなげる」という方針を立て、聴覚障害者を採用した。
 採用後は、社員から聴覚障害のある社員に対して、安全面に関することをわかりやすいように伝えたほか、危険が発生したときに伝える方法(身振り、危険発生のカードの提示)などについても確認した。
 その結果、伝えた社員だけではなく、全社員が安全意識や危険発生時の対応に対する意識を今まで以上に持つことができるようになった。また、相手がわかりやすいように伝えるといった社員同士の円滑なコミュニケーションの向上にもつながった。