7 資料編 (3)合理的配慮の提供について理解を深めるために(セルフチェックシートの活用) 合理的配慮提供のポイントと企業実践事例 ~「障害者雇用制度の改正等に伴う企業意識・行動の変化に関する研究」企業調査結果より~ 2019年3月独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター NIVR マニュアル 58 検索  本研究報告書では、合理的配慮提供のための基本的理解と配慮事例を一覧にしているので、障害特性等を踏まえた合理的配慮について学習することができます。 〇「合理的配慮提供」セルフチェックシートの活用 合理的配慮の提供について理解を深めるために、本研究報告書の中にあるセルフチェックシートを活用してみましょう。 このチェックシートは、企業の皆さまが合理的配慮の提供に当たり、合理的配慮への対応としてどのような認識を持っているか自ら点検(セルフチェック)し、改善に役立てていただくためのものです。 合理的配慮の適切な対応を図るためには、障害者と接する機会のある社員を始め、多くの社員の方々の気づきも大切となります。 企業の障害者雇用担当者、障害者雇用推進者、障害者職業生活相談員または人事・労務管理の担当者等のほか、幅広く社員の皆さまに対して、合理的配慮提供に関する理解を深めるためのツールとしてご活用ください。定期的に確認することにより、合理的配慮の理解促進につながることが期待できます。   ●「合理的配慮提供」セルフチェックシート (P134~P136)   ●「合理的配慮提供」セルフチェックシート(回答・解説) (P137~P140)  ⇒参照(厚生労働省ホームページ)  ・合理的配慮指針   https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf  ・障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第二版】   https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000123072.pdf  ・合理的配慮指針事例集【第四版】   https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001075108.pdf 「合理的配慮提供」セルフチェックシート 【記入のしかた】 各設問を読んで、正しいものには回答欄に「〇」を、間違っているものには「×」を記入してください。確認欄には、「合理的配慮提供」セルフチェックシート(回答・解説)をご一読の上、理解できた項目にチェック(レ点など)を入れてご活用ください。また、理解不十分な項目については、「△」を入れるなどして、自己点検に役立ててください。 20問あります。 実施日     年   月   日 No. 問 題 回答欄 確認欄 1 事業主は、障害者から働く上で支障があると申出があれば、すべて対応しなければならない。 2 合理的配慮は、障害者と事業主が働く環境について互いに話し合い、相互理解の中で企業にとって過重な負担とならない範囲で対応をおこなうものである。 3 合理的配慮の対象者は、障害者雇用率にカウントされる障害者手帳を持っている者であるため、障害者手帳の有無を必ず確認するようにしている。 4 採用面接の際に、障害者手帳は持っていないが、「高次脳機能障害」という診断書の提示があったので、合理的配慮が必要な対象者として、仕事をする上での支障の有無について改めて確認するなど対応した。 5 募集・採用時の合理的配慮は、障害者からの申出の有無に関係なく実施する必要がある。 6 1週間前に採用した「発達障害」のある社員が、機械の騒音により長時間の勤務に支障があると訴えてきた。同じ環境で他の社員も働いていることや、一人だけ配慮するわけにはいかないので、我慢するように伝えた。 7 採用面接を終えて、採用の通知を行ったところ、障害のあることの申出があった。当初、採用面接ではわからなかったので配慮の必要性の有無について確認しなかったが、配置場所のこともあったので職場で困ることなどがないか早めに相談する機会を設けた。 8 採用面接の時に障害のあることは一切話がなかったのに、勤務初日に障害者であることを告げられた。本人曰く、社員募集の仕事内容から支障はないと思っていたが、電話応対が苦手なのにその対応をしなければならないことが分かったので申し出たという。本人には申し訳ないと思うが、当初申出がなかったので、配慮できないことを伝えた。 9 当社では、従来から障害者であることの確認について、厚生労働省の「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」を参考にして、全社員に通知文書で実施している。毎年実施しているため、合理的配慮のことについても併せて情報提供し、障害のある社員を始め社員が知らなかったというようなことがないよう気を配って対応している。 10 採用後健康診断で大腸がんの診断を受けた社員から、手術後、障害者手帳を取得したと申出があった。勤務に支障があるか、何か配慮すべきことがないか相談する機会を設け、その意向を十分に尊重した上で、合理的配慮に係る措置を講じた。 11 職場における支障の有無の確認は、募集・採用時にしっかり行っているし、時間的余裕もないので、あらためて実施することはしていない。 12 年1回、全社員を対象に個別面談を行っているので、障害のある社員については働く上での支障の有無も併せて確認するようにしている。 13 先日、障害のある社員から、合理的配慮の提供義務に関するリーフレット持参で、自身の困りごとについて、申出があった。しかしながら、当社は、40人程度の社員でなんとか運営しているわけで、具体的な説明はできないので、過重な負担ということにして「負担が大きく難しい」と回答して断った。 14 当社は、2階建てのためエレベータが設置されていない職場環境。半年前、50代の社員が脳梗塞により、半身まひとなった。その後、復職して勤務しているものの、階段の昇降に苦労している様子だったので、本人と話合いの場を設けて、体調のことや会社として対応できることがないか確認した。結果、エレベータの設置は無理だったが、階段昇降機を設置することで改善できることがわかり本人に提案し、本人了解の上で早速設置した。 15 合理的配慮に関して、職場において支障の有無を確認するための相談窓口を設置するようになっているため、人事部の課長補佐が窓口担当となった。そこで相談窓口の設置と対応者について周知する必要があるため、管理職が承知していれば良いことなので管理職に対してメールで周知した。 16 当社では、人事部に配属されている企業在籍型ジョブコーチを相談窓口の担当者に任命し、個別面談の機会を設定して働く上での支障の有無について確認し対応している。 17 障害者差別禁止や合理的配慮については、会社が当然行うべきものと認識しており、社員も同様に思っているものと信じている。もし、不利益取扱いに該当するような問題が起こるとしたら、その時に適切に対処するので、特段、周知する必要はないと考える。 18 合理的配慮の提供が施行されたことを契機に、当社の方針として、「差別はしない!合理的配慮は社員みんなの力で実現する!」をスローガンに、障害のある社員が、職場での支障のある旨を申し出た行為により、不利益が生じることがないことを社内規程に盛り込み、全社員に知ってもらうように文書で通知した。 19 合理的配慮を実施するに当たっては、障害者と一緒に働く職場の社員の理解が大切であると考えているため、外部の障害者支援機関の専門家を呼んで、障害のことについて知る機会として社員研修を実施している。 20 当社では、毎年、社員を対象に外部に委託して健康診断を実施している。その結果が送られてくるので、障害のあることがわかる場合がある。会社が全額持ち出しによる健康診断であるため、合理的配慮について確認が必要な対象者として対応したいと思っている。 「合理的配慮提供」セルフチェックシート(回答・解説) この回答・解説については、合理的配慮指針に基づき、踏まえておきたいポイントを整理して作成しています。 解説欄にある[法 番号][指針 番号][Q-番号]は、それぞれ「障害者の雇用の促進等に関する法律」「合理的配慮指針」「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第二版】」に記載されている箇所を示しています。必要に応じて参照してください。 No. 回答 解 説 1 × 合理的配慮指針の中で、合理的配慮については、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべきであること等の基本的考え方があり、合理的配慮に係る措置の実施に当たって事業主が障害者と話し合うこと等の必要な手続きのもと、多くの事業主が対応できると考えられる合理的配慮に係る措置の例や過重な負担の判断要素、障害者からの相談に適切に対応するために必要な相談体制について定められています。[指針第2] ケース1の場合は、障害のある方からの申出については、過重な負担である場合には、その障害者との話合いの下に、意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮を行うことが指針に示されています。[指針第2][Q4-1-4] ケース2の場合は、合理的配慮については話合いにより相互理解の下に進める必要があり、過重な負担については実施できないことを十分に説明の上で実施することが指針に示されています。[指針第2-1][指針第3_1-(2)][指針第3_1-(3)][指針第5][Q4-1-4][Q4-4-1] 2 〇 3 × 「障害者の雇用の促進等に関する法律」の中で、合理的配慮を提供する対象障害者は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています。例えば、難病に起因する障害を有する方や、高次脳機能障害のある方なども、その障害が長期化し、かつ、職業生活に制限を来し又は職業生活を営むことが著しく困難な場合は対象となります。[法第2条][Q1-3-1] ケース3の場合は、「障害者雇用率にカウントされる障害者手帳を持っている者」と限定していますが、障害者手帳を所持していない方々も合理的配慮の対象となる場合があることについて踏まえておく必要があります。[Q1-3-2][Q1-4-1][Q1-4-2] ケース4の場合は、「高次脳機能障害」を有する者で、その障害が長期化し、かつ、職業生活に制限を来し又は職業生活を営むことが著しく困難な場合は対象となります。[Q1-4-1][Q1-4-2] 4 〇 5 × 募集及び採用時における合理的配慮は、「障害者と障害者でない者との均等な機会の確保」の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たっては、障害者からの申出により、その障害者の障害特性に配慮した必要な措置をとることが法的義務となっています。応募する障害者から申出があった場合は、対応すべき配慮の内容について検討を行い、過重な負担とならない範囲で対処することが必要になります。[指針第2-1][指針第3_1-(2)][指針第3_1-(3)][指針第5][Q4-1-4][Q4-4-1] ケース5の場合は、募集・採用時には障害者からの申出が前提となっています。考え方としては、募集・採用時にはどのような障害特性を有する方から応募があるか分からないことや事業主がどのような合理的配慮の提供を行えばよいか不明確な状況にあることが挙げられます。[指針第2-1][指針第3_1-(1)][Q4-2-2] 6 × 採用後における合理的配慮は、「障害者である労働者と障害者でない労働者との均等な待遇の確保」と「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮」の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害特性に配慮した「職務の円滑な遂行に必要な施設の整備」、「援助を行う者の配置」その他の必要な措置を講じることが法的義務となっています。[法第36条の3][指針第4_1-(2)] ケース6の場合は、他の社員と同じ環境であるという価値観で判断され、障害特性に対する配慮に欠けた対応がなされている事例です。発達障害者の中には、音や光、嗅覚など感覚過敏の方がいることがわかっています。このケースの場合は、耳栓やヘッドフォンなどの使用に配慮することも可能という判断もできますので、話合いにより合意形成を図ることが大切です。[指針第2][指針第4_1-(2)] 7 〇 採用後における合理的配慮の提供に関し、事業主は、労働者が障害者であることを雇入れ時までに把握している場合には、雇入れ時までに、その障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認することになっています。[指針第3_2-(1)] ケース7の場合は、面接の段階では応募者本人から申し出はなかったものの、採用通知の段階で障害のあることが把握できたことから、あらためて、職場において支障となる事情を聴くための機会を設定したという事例です。早めに対応している点もポイントになります。[Q4-2-6] 8 × 採用後の合理的配慮の提供に関して、事業主は、労働者が障害者であることを雇入れ時までに把握できなかった場合については、障害者であることを把握した際に、その障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認することになっています。なお、障害者は、事業主からの確認を待たず、当該事業主に対して自ら職場において支障となっている事情を申し出ることも可能となっています。[指針第3_2-(1)] ケース8の場合は、面接当時に障害者であることの申告がなく、勤務初日に障害があること、電話対応に支障があることなどの申出があったにもかかわらず、検討することなく一方的に対応できないことを伝えたという事例です。この場合、上記のとおり、障害者から申出があった時点に把握したことになりますので、対応について検討し話合いの下、その障害者の意向を十分に尊重した上で過重な負担とならない範囲で合理的配慮の対応が必要になります。[指針第3_2-(1)] 9 〇 採用後においては、労働者からの申出の有無に関わらず、事業主が労働者の障害の有無を確認・把握することになっています。[指針第3_2-(1)] ケース9の場合は、毎年ハローワークに報告する障害者雇用状況のために実施している障害者であることの確認時に合わせて合理的配慮に関する情報も提供した上で把握することとし、全ての労働者に周知・確認する対応により注意を払って把握しているものと捉えられます。[指針第2_4][Q1-5-1] 10 〇 採用後の合理的配慮の提供に関して、事業主は、労働者が雇入れ時に障害者でなかった場合については、障害者となったことを把握した際に、当該障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認することになっています。[指針第3_2-(1)] ケース10の場合は、採用後に障害者となった事例です。健康であった社員が不慮の事故等により障害者となる場合もありますので、申出があった場合には速やかに対応することが肝要となります。[Q1-3-2] 11 × 採用後における合理的配慮の提供に関し、事業主は、職場において支障となっている事情の有無を確認した後においても、障害の状態や職場の状況が変化することもあるため、必要に応じて定期的に、当該障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認することになっています。[指針第3_2-(1)] ケース11の場合は、募集・採用時点で合理的配慮に関する職場における支障の有無を確認しているので、その後は不要であると考えている事例です。障害の状況によっては、その程度が変化し、別の配慮が必要となる場合も考えられますので、上記にあるように必要に応じて定期的に確認することが必要になります。[指針第3_2-(1)][Q1-5-1] ケース12の場合は、毎年1回実施している個別面談の機会に合理的配慮に関する職場における支障の有無を確認しているという事例であり、指針で示されている対応を行っている一つの例として挙げられます。[Q4-2-8] 12 〇 13 × 個々の事情を有する障害者と事業主は、合理的配慮の提供に関し、どのような措置を講ずるかについて話合いを行い、事業主は、障害者との話合いを踏まえてその意向を十分に尊重しつつ、具体的にどのような措置を講ずるかを検討し、措置の内容等を伝えることになっています。[指針第3_2-(2)・(3)] なお、障害者が希望する合理的配慮に係る措置が過重な負担であるとき、事業主は、当該障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずることになっています。「過重な負担」に当たるか否かについては、①事業活動への影響の程度②実現困難度③費用・負担の程度④企業の規模⑤企業の財務状況⑥公的支援の有無を総合的に勘案し、個別に決めていくこととされています。[指針第3_2-(3)][指針第5] ケース13の場合は、雇用後の障害者からの合理的配慮の申出に対して、「過重な負担」という文言を安易に用いた事例と言えます。根拠が不十分な場合には、労働者からの申立てにより行政機関から指導や勧告を受けることにもなりかねません。[法第36条の6][指針第5] ケース14の場合は、採用後に脳梗塞により半身まひとなった社員と合理的配慮に関する面談の機会を設定し、話合いの結果、対象障害者との合意形成を図った上で過重な負担にならない範囲での措置として階段昇降機を設置した事例となります。[指針第5][Q4-4-1] 14 〇 15 × 採用後の合理的配慮に関し、相談体制の整備等として、障害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するための相談窓口を定めて、労働者に周知することが求められています。相談窓口としては、①相談に対応する担当者・部署をあらかじめ定めること、②外部の機関に相談への対応を委託することなどが例示されています。[指針第6] ケース15の場合は、管理職のみに限定した周知となっており、全ての労働者に周知されるようにする必要があります。[指針第6][Q4-5-1] ケース16の場合は、上記①の「相談に対応する担当者・部署をあらかじめ定めていること」に該当し、障害者の支援ノウハウを有するジョブコーチを配置することも一方策として挙げられます。[指針第6][Q4-5-1][Q4-5-2] 16 〇 17 × 障害者である労働者が採用後の合理的配慮に関する相談をしたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを禁止することを定めて、就業規則、社内報、パンフレット、社内ホームページなどを通して労働者にその周知・啓発をすることが求められています。[指針第6_4] ケース17の場合は、合理的配慮指針に示されている「障害者である労働者が採用後における合理的配慮に関し相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、当該障害者である労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること」の措置を講じておらず、合理的配慮を実施する環境の整備を怠っている事例になります。[指針第6_4] ケース18の場合は、職場での支障の申出を行った障害者に対して不利益な取扱いをしないことを社内規程に明文化し、その上で、全ての労働者に周知を行っていますので指針第6の4に合致し、「○」と判断されます。[指針第6_4] 18 〇 19 〇 合理的配慮に当たっては、合理的配慮の提供が円滑になされるようにするという観点を踏まえ、障害者も共に働く一人の労働者であるとの認識の下、事業主や同じ職場で働く社員が障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要との考え方が基本となっています。[指針第2_4] ケース19の場合は、社員に対する障害者への適切な対応等に関する知識付与の観点から研修を実施している事例になります。外部の障害者就労支援機関など活用した研修も一つの実施方法として挙げられます。[指針第2_4] 20 × 労働安全衛生法に基づく健康診断又は面接指導において、労働者が障害を持っていることを把握する場合がありますが、この情報は労働者の健康確保を目的として把握するもので、合理的配慮を目的とするものではないので、注意が必要です。このことは、「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」に示されています。[Q1-5-1] ケース20の場合は、社員の健康・労務管理等を行っている立場から、健康診断で知り得た情報を活用し、勝手に合理的配慮が必要な対象者として認識し対応しようとしている事例になりますが、上記のQ&Aを踏まえた対応が必要です。[Q1-5-1]