R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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184第3章 障害別にみた特徴と雇用上の配慮た、対象者の年齢層や重症度をどのように設定するかにより、統計上の数値は大きく異なります。渡邉他2)…は、2008年(平成20年)に東京都内の病院に対して調査した結果を元に、東京都内の高次脳機能障害者は約5万人、全国では約50万人と推計しています。ただし、これらは高齢者を多く含む数値であり、就労年齢に限ると大幅に少なくなると考えられます。蜂須賀他3)は、2007~2008年(平成19~20年)に福岡県内の病院に対して調査した結果を元に、6~69歳で、「行政的定義」に合致する高次脳機能障害者が、全国で1年間に2,884人新規に発症していると推計しています。なお、この調査では、治療や支援の必要がないほど軽症の人や、生活に全面的な介助が必要な重症の人は調査の対象外としています。⑸ 高次脳機能障害の原因となる疾病や外傷脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血など)は、高次脳機能障害の原因となる疾患として代表的なものです。脳血管障害は一般に高年齢層に多く発症し、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が関係する場合がありますが、若い人や生活習慣病がない人にも発症する場合があります。この他に、脳炎や脳腫瘍、低酸素脳症なども高次脳機能障害を引き起こします。交通事故や転倒・転落事故などによる頭部の外傷も高次脳機能障害の原因になります。高次脳機能障害の原因となる疾病や外傷は、どちらかと言えば、ある日突然降りかかるような性質のものが多いことが特徴です。⑹ 高次脳機能障害の発症からの経過脳血管障害や頭部外傷では、多くの場合、発症・受傷直後が心身の症状が最も重く、生命を維持するための入院治療や緊急手術が必要な場合があります。生命を取り留めた後も、しばらくは意識がぼんやりとして意思疎通が難しく、生活の大半に介助が必要であることが珍しくありません。時間の経過やリハビリテーション治療により、少しずつ心身の機能を取り戻していきます。機能回復が顕著な時期を「回復期」と呼び、一般的には発症から数ヶ月程度までをいうようです。ただし、認知機能については、数年に渡ってゆっくりと回復が続く場合があり4), 5)、回復を長期的な視点で捉えることが必要です。脳の損傷がごく軽微であった場合を除き、発症・受傷前の身体機能や認知機能を完全に取り戻すことは難しい場合が多く、大半の人は後遺症とつきあいながらその後の社会生活を送っていくことになります。苦手になったことを補いながら職業生活を始める/再開するためには、本人の努力だけではなく、周囲の理解に基づく環境の整備と適切な配慮が必要です。⑺ 症状と状態像の多様性脳は非常に多くの神経細胞からなる複雑な臓器であり、脳のどの部分がどの程度の損傷を受けたかにより現れる症状は異なります。また、発症・受傷時の年齢、その人の元々の個性、それまでの社会経験、社会的サポートの状況も状態像に影響を与えます。そのため、高次脳機能障害者は非常に多様であり、支援にあたっては一人ひとりの特徴やニーズを捉える必要があります。メディアなどを通じて紹介される事例や、当事者・家族の体験記などが支援の参考になることはありますが、その内容がすべての高次脳機能障害者にあてはまるとは限らないことには注意が必要です。2 職業上の課題と雇用上の配慮ここでは、高次脳機能障害者において比較的多く見られる症状を取り上げ、症状に関連する職業的課題と、職場における望ましい配慮について述べます。できるだけ典型的な記述を心がけましたが、実際の支援対象者においては、症状が軽微な場合から顕著な場合まで幅があり、ここでの記載にあてはまらない事例もあると思われます。また、一人が複数の症状を併せ持つことは珍しくなく(例えば、記憶障害と注意障害)、そのような場合は、各症状の影響を同時に考慮する必要があります。職場での配慮については、担当する職務内容や職場環境によってもニーズが異なるため、一般的な情報を踏まえた上で個別の状況に応じて柔軟に調整することが望まれます。以下、 ⑴ 認知機能障害、 ⑵ 認知機能障害と心理的反応の両方が関係する状態像、 ⑶ 身体機能及び健康状態に分けて述べます。⑴ 認知機能障害① 記憶障害日々のできごとや新しい情報を覚えることが難しくなります。受傷・発症よりも以前の出来事については思い出せるが、最近のことについては記憶が曖昧、あるいは、まったく思い出せないといった場合があります。毎日繰り返し行う作業の手順や、頻繁に会う人の第3章 第8節

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